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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042870
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】水性白色インキ及び乾燥皮膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/107 20140101AFI20240322BHJP
   B41M 1/30 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C09D11/107
B41M1/30 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147783
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002820
【氏名又は名称】大日精化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098707
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 利英子
(74)【代理人】
【識別番号】100135987
【弁理士】
【氏名又は名称】菅野 重慶
(74)【代理人】
【識別番号】100168033
【弁理士】
【氏名又は名称】竹山 圭太
(74)【代理人】
【識別番号】100161377
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 薫
(72)【発明者】
【氏名】嶋中 博之
(72)【発明者】
【氏名】釜林 純
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 良城
(72)【発明者】
【氏名】白杉 繭
(72)【発明者】
【氏名】田中 暁史
【テーマコード(参考)】
2H113
4J039
【Fターム(参考)】
2H113AA03
2H113BB07
2H113BB08
2H113BB22
2H113BC01
2H113BC10
2H113DA04
2H113DA25
2H113DA27
2H113DA47
2H113DA49
2H113DA50
2H113DA53
2H113DA57
2H113DA62
2H113EA10
2H113EA19
2H113FA06
2H113FA23
4J039AD01
4J039AD03
4J039AD09
4J039AE04
4J039BA13
4J039BA35
4J039BC08
4J039BC15
4J039BC35
4J039BE01
4J039BE12
4J039BE16
4J039BE22
4J039BE23
4J039CA06
4J039EA18
4J039EA36
4J039EA38
4J039EA43
4J039FA02
4J039GA03
4J039GA09
(57)【要約】
【課題】プラスチックフィルム等の印刷基材に対する密着性が良好であり、耐ブロッキング性、耐水性、及び耐水擦過性に優れており、印刷基材が収縮した場合であっても印刷基材への密着性が維持される、白濃度の高い印刷層である乾燥皮膜を形成することが可能な、環境にも配慮されたラベル印刷用の水性白色インキを提供する。
【解決手段】ラベル印刷に用いられる水性白色インキである。白色顔料及び高分子分散剤を含有し、高分子分散剤が、メタクリル酸に由来する構成単位(i)及び生物材料由来の第1のメタクリレートに由来する構成単位(ii)を含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されたポリマーであり、ポリマーの酸価が、30~250mgKOH/gであり、ポリマー中、構成単位(ii)の含有量が、50質量%以上である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ラベル印刷に用いられる水性白色インキであって、
白色顔料、水、水溶性有機溶媒、樹脂バインダー、及び前記白色顔料を分散させる高分子分散剤を含有し、
前記高分子分散剤が、メタクリル酸に由来する構成単位(i)及び生物材料由来の第1のメタクリレートに由来する構成単位(ii)を含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されたポリマーであり、
前記ポリマーの酸価が、30~250mgKOH/gであり、
前記ポリマー中、前記構成単位(ii)の含有量が、50質量%以上であり、
前記ポリマーの数平均分子量が5,000~20,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.5以下であり、
前記第1のメタクリレートが、テトラヒドロフルフリルメタクリレート及びイソボルニルメタクリレートの少なくともいずれかである水性白色インキ。
【請求項2】
前記ポリマーが、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400~4,000)メタクリレートに由来する構成単位(iii)をさらに含み、
前記ポリマー中、前記構成単位(iii)の含有量が、10~30質量%である請求項1に記載の水性白色インキ。
【請求項3】
前記ポリマーが、生物材料由来の第2のメタクリレートに由来する構成単位(iv)をさらに含み、
前記ポリマー中、前記構成単位(iv)の含有量が、10~30質量%であり、
前記第2のメタクリレートが、ドデシルメタクリレート及びオクタデシルメタアクリレートの少なくともいずれかである請求項2に記載の水性白色インキ。
【請求項4】
前記アルカリが、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールからなる群より選択される少なくとも一種である請求項1~3のいずれか一項に記載の水性白色インキ。
【請求項5】
前記樹脂バインダーが、樹脂からなる樹脂粒子を含有する、アクリル系エマルジョン、スチレン-アクリル系エマルジョン、アクリル-ウレタン系エマルジョン、及びウレタン系水分散液からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂分散液であり、
前記樹脂の酸価が、80mgKOH/g以下であり、
前記樹脂粒子の数平均粒子径が、30~200nmである請求項1~3のいずれか一項に記載の水性白色インキ。
【請求項6】
エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、及びイソシアネート系架橋剤からなる群より選択される少なくとも一種の架橋剤をさらに含有する請求項1~3のいずれか一項に記載の水性白色インキ。
【請求項7】
飲料用ラベルの印刷に用いられる請求項1~3のいずれか一項に記載の水性白色インキ。
【請求項8】
請求項1~3のいずれか一項に記載の水性白色インキの乾燥物である乾燥皮膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ラベル印刷に用いられる水性白色インキ及び乾燥皮膜に関する。
【背景技術】
【0002】
食品包装や、ペットボトル等の飲料ボトル及び日用品等に使用される軟包装用フィルムには、意匠性、内容物表示、デザイン性、内容物保護、及び機能性等の観点から、グラビアインキやフレキソインキで画像や文字が印刷されている。そして、軟包装用フィルム等のプラスチックフィルムに画像を印刷する方法としては、溶剤系のグラビアインキを用いる方法が主流であった(特許文献1)。
【0003】
但し、溶剤系のグラビアインキを用いると、印刷後の乾燥時にインキ中の有機溶剤が環境中に放出されるので、地球温暖化、二酸化炭素の増大、及び環境汚染へのつながりが懸念される。そこで、環境に配慮すべく、水を主な液媒体とする水性インキを用いる印刷方法への置き換わりが進んでいる(特許文献2~4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001-30611号公報
【特許文献2】特開平11-172168号公報
【特許文献3】特許第4151801号公報
【特許文献4】特表2005-518459号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
水性インキの場合、皮膜形成成分であるポリマーや、顔料を分散させるための高分子分散剤を水性媒体中に溶解又は分散させる必要がある。しかし、これらのポリマーや高分子分散剤は親水性が高く、形成される印刷層(乾燥皮膜)のプラスチックフィルム等の印刷基材への密着性や、耐水性及び耐擦過性等の耐久性の面で課題があり、さらなる性能の向上が求められている。
【0006】
また、隠蔽性及び画像の発色性を高めるべく、白色顔料を含有する水性の白色インキが裏刷り用のインキとして使用されている。白色顔料としては、二酸化チタンや二酸化亜鉛等の比重の大きい無機顔料が用いられている。但し、これら白色の無機顔料は比重が大きく、インキ中で沈降してハードケーキを形成しやすい。このため、水性白色インキは、保存安定性、顔料の分散性、ハードケーキの再分散性、及び沈降回復性の面で課題を有しており、形成される画像の光学濃度(白濃度)を高めにくいといった課題もあった。
【0007】
なお、ラベル印刷用のインキは、例えば、飲料ボトル等に用いられるシュリンクラベルを構成するシュリンクフィルムへの印刷に用いられることがある。シュリンクフィルムに対しては、ボトルへの装着適性が求められる。また、シュリンクフィルムに印刷した印刷層(乾燥皮膜)は、シュリンクフィルムの収縮に追従する必要がある。すなわち、シュリンクフィルムの収縮時の熱に耐えるとともに、収縮後であっても脱離せず、密着性や耐摩擦性が低下しにくい印刷層を形成可能な水性インキが求められている。
【0008】
また、近年、地球温暖化防止及び二酸化炭素削減等の観点から、カーボンニュートラルでサスティナブルな材料が求められている。水性白色インキの構成材料についても、生物材料由来の材料を積極的に用いることが求められている。
【0009】
本発明は、このような従来技術の有する問題点に鑑みてなされたものであり、その課題とするところは、プラスチックフィルム等の印刷基材に対する密着性が良好であり、耐ブロッキング性、耐水性、及び耐水擦過性に優れており、印刷基材が収縮した場合であっても印刷基材への密着性が維持される、白濃度の高い印刷層である乾燥皮膜を形成することが可能な、環境にも配慮されたラベル印刷用の水性白色インキを提供することにある。また、本発明の課題とするところは、水性白色インキを用いた乾燥皮膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち、本発明によれば、以下に示す水性白色インキが提供される。
[1]ラベル印刷に用いられる水性白色インキであって、白色顔料、水、水溶性有機溶媒、樹脂バインダー、及び前記白色顔料を分散させる高分子分散剤を含有し、前記高分子分散剤が、メタクリル酸に由来する構成単位(i)及び生物材料由来の第1のメタクリレートに由来する構成単位(ii)を含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されたポリマーであり、前記ポリマーの酸価が、30~250mgKOH/gであり、前記ポリマー中、前記構成単位(ii)の含有量が、50質量%以上であり、前記ポリマーの数平均分子量が5,000~20,000、分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)が2.5以下であり、前記第1のメタクリレートが、テトラヒドロフルフリルメタクリレート及びイソボルニルメタクリレートの少なくともいずれかである水性白色インキ。
[2]前記ポリマーが、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400~4,000)メタクリレートに由来する構成単位(iii)をさらに含み、前記ポリマー中、前記構成単位(iii)の含有量が、10~30質量%である前記[1]に記載の水性白色インキ。
[3]前記ポリマーが、生物材料由来の第2のメタクリレートに由来する構成単位(iv)をさらに含み、前記ポリマー中、前記構成単位(iv)の含有量が、10~30質量%であり、前記第2のメタクリレートが、ドデシルメタクリレート及びオクタデシルメタアクリレートの少なくともいずれかである前記[1]又は[2]に記載の水性白色インキ。
[4]前記アルカリが、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、及び2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールからなる群より選択される少なくとも一種である前記[1]~[3]のいずれかに記載の水性白色インキ。
[5]前記樹脂バインダーが、樹脂からなる樹脂粒子を含有する、アクリル系エマルジョン、スチレン-アクリル系エマルジョン、アクリル-ウレタン系エマルジョン、及びウレタン系水分散液からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂分散液であり、前記樹脂の酸価が、80mgKOH/g以下であり、前記樹脂粒子の数平均粒子径が、30~200nmである前記[1]~[4]のいずれかに記載の水性白色インキ。
[6]エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、及びイソシアネート系架橋剤からなる群より選択される少なくとも一種の架橋剤をさらに含有する前記[1]~[5]のいずれかに記載の水性白色インキ。
[7]飲料用ラベルの印刷に用いられる前記[1]~[6]のいずれかに記載の水性白色インキ。
【0011】
また、本発明によれば、以下に示す乾燥皮膜が提供される。
[8]前記[1]~[7]のいずれかに記載の水性白色インキの乾燥物である乾燥皮膜。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、プラスチックフィルム等の印刷基材に対する密着性が良好であり、耐ブロッキング性、耐水性、及び耐水擦過性に優れており、印刷基材が収縮した場合であっても印刷基材への密着性が維持される、白濃度の高い印刷層である乾燥皮膜を形成することが可能な、環境にも配慮されたラベル印刷用の水性白色インキを提供することができる。また、本発明によれば、水性白色インキを用いた乾燥皮膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<水性白色インキ>
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。本明細書中の各種物性値は、特に断りのない限り、常温(25℃)における値である。本発明の水性白色インキ(以下、単に「白色インキ」又は「インキ」とも記す)の一実施形態は、ラベル印刷に用いられる水性白色インキであり、白色顔料、水、水溶性有機溶媒、樹脂バインダー、及び白色顔料を分散させる高分子分散剤を含有する。
【0014】
(白色顔料)
白色顔料としては、従来公知の白色の顔料を用いることができる。白色顔料としては、二酸化チタン顔料、酸化亜鉛顔料、炭酸カルシウム顔料、塩基性硫酸バリウム顔料、炭酸バリウム、珪藻土、タルク、クレー、アルミナホワイト等を挙げることができる。なかでも、隠蔽性及び白度等の観点から、二酸化チタン顔料が好ましい。また、環境対応の観点から、ホタテや牡蠣等の貝類の未焼成貝殻粉末を用いることもできる。
【0015】
白色顔料は、シリカ処理、アルミナ処理、シリカアルミナ処理、シランカップリング剤処理、有機酸処理、及びポリマー処理等の表面処理が施されていてもよい。表面処理の処理量は、白色顔料の10質量%以下であることが好ましい。白色顔料の数平均粒子径(一次粒子径)は、100~500nmであることが、発色性及び隠蔽性の観点で好ましい。インキ中の白色顔料の含有量は、インキ全質量を基準として、10~60質量%であることが好ましい。
【0016】
(水)
本実施形態のインキは水性インキであり、必須成分として水を含有する。水としては、イオン交換水、蒸留水、及び精製水等を用いることが好ましい。インキ中の水の含有量は、インキ全量を基準として、30~90質量%であることが好ましい。
【0017】
(水溶性有機溶剤)
水溶性有機溶剤は、基材へのレベリング性、造膜性、及び粘度調整等の効果を有する成分である。水溶性有機溶剤としては、アルコール系溶剤、グリコール系溶剤、アミド系溶剤、尿素系溶剤、カーボネート系溶剤、スルホキシド系溶剤、イオン液体、及びグリセリン系溶剤等を用いることができる。なかでも、印刷後の乾燥により容易に揮発する溶剤を用いることが好ましく、沸点が250℃以下の水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
例えば、メタノール、エタノール、及びイソプロパノール等のアルコール系溶剤;プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、及びジエチレングリコールモノブチルエーテル等のグリコール系溶剤を挙げることができる。なかでも、イソプロピルアルコール等の低沸点アルコールが好ましい。
【0018】
高分子分散剤として用いるポリマーを溶液重合で製造する場合、溶液重合の際に用いた水溶性有機溶剤と同じものをインキに用いることが好ましい。インキ中の水溶性有機溶剤の含有量は、インキ全量を基準として、30質量%以下であることが好ましい。
【0019】
(樹脂バインダー)
本実施形態のインキは、皮膜形成成分である樹脂バインダーを含有する。樹脂バインダーとしては、溶解状態の樹脂を含有する樹脂溶液や、樹脂粒子が水性媒体中に乳化又は分散したエマルジョンや水分散体を用いることができる。なかでも、インキの粘度を低減させる観点から、粘度の低いエマルジョンや水分散体を用いることが好ましい。エマルジョンとしては、界面活性剤の存在下でモノマーを乳化重合して得られるポリマーエマルジョン;水溶性ポリマーを保護コロイドとした保護コロイドエマルジョン;カルボン酸基やスルホン酸基が導入されたポリマー鎖を有する、アルカリで中和し、イオン化して自己乳化させて得られる水分散体;等を挙げることができる。
【0020】
樹脂バインダーとしては、スチレン-アクリル系エマルジョン、アクリル系エマルジョン、スチレン-アクリル-メタクリル系エマルジョン、スチレン-メタクリル系エマルジョン、アクリル-メタクリル系エマルジョン、酢酸ビニル系エマルジョン、塩化ビニル系エマルジョン、スチレン-オレフィン系エマルジョン、オレフィン系水分散液、ポリエステル系水分散液、ウレタン系水分散液、及びウレタン-アクリル系エマルジョン等の樹脂分散液を挙げることができる。
【0021】
基材との密着性及び耐摩擦性を向上させる観点から、樹脂バインダーは、アクリル系エマルジョン、スチレン-アクリル系エマルジョン、アクリル-ウレタン系エマルジョン、及びウレタン系水分散液からなる群より選択される少なくとも一種の樹脂分散液であることが好ましい。アクリル系エマルジョンは、例えば、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート等のアクリレートを、界面活性剤の存在下で乳化重合して得られるエマルジョンである。スチレン-アクリル系エマルジョンは、例えば、スチレン、ビニルトルエン等のスチレン系モノマー、及び上記のアクリレートを重合して得られるエマルジョンである。
【0022】
酸価100mgKOH/g以上のスチレン-マレイン酸系共重合体やスチレン-アクリル酸系共重合体をアルカリで中和して得たポリマー水溶液にスチレン系モノマーやアクリレート系モノマーを滴下及び重合して得られるエマルジョンを樹脂バインダーとして用いることもできる。さらに、水酸基を有する(メタ)アクリレートを共重合して得られる、水酸基を有する樹脂が分散したエマルジョンを用いることもできる。
【0023】
ウレタン系水分散液は、例えば、ジイソシアネート成分、ポリオール成分、低分子ジオール、及びカルボキシ基を有するジオール成分を反応させて得たポリウレタンオリゴマーをアルカリで中和しつつ、鎖延長剤で鎖延長して水中に自己乳化させて得ることができる。ジイソシアネート成分としては、イソホロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等を挙げることができる。ポリオール成分としては、ポリヘキサメチレンカーボネートジオール等のポリカーボネートポリオール;ポリテトラメチレングリコール等のポリエーテルポリオール;アジピン酸とジオールの縮合物等のポリエステルポリオール;等を挙げることができる。低分子ジオールとしては、エチレングリコール、ブタンジオール等を挙げることができる。カルボキシ基を有するジオール成分としては、ジメチロールエタン酸、ジメチロールブタン酸等を挙げることができる。
【0024】
樹脂バインダーとして用いる樹脂は、多官能モノマーに由来する構成単位を有する、架橋構造を含むポリマー;アルコキシシリル基やヒドラジン基を有する化合物、及びジアセトンアクリルアミドを共重合成分とする、乾燥することで自己架橋する構造を有するポリマー;であってもよい。また、環境への配慮の観点から、生物材料由来のモノマーに由来する構成単位を有するポリマーを用いることが好ましい。
【0025】
樹脂バインダーとして用いる樹脂分散液は、樹脂からなる樹脂粒子を含有する。動的光散乱法により測定される樹脂分散液中の樹脂粒子の数平均粒子径は、30~200nmであることが好ましく、80~150nmであることがさらに好ましい。樹脂粒子の数平均粒子径が30nm未満であると、インキの粘度が過度に上昇することがある。一方、樹脂粒子の数平均粒子径が200nm超であると、版かぶり等の不具合が印刷時に生じやすくなる場合がある。
【0026】
樹脂粒子を構成する樹脂の酸価は、80mgKOH/g以下であることが好ましく、0~50mgKOH/gであることがさらに好ましい。樹脂の酸価が80mgKOH/g超であると、形成される印刷層(乾燥皮膜)に親水性のカルボキシル基が多く存在することになる。このため、印刷層の耐水性や耐水擦過性がやや低下する場合がある。なお、インキ中の樹脂バインダー(固形分)の含有量は、インキ全量を基準として、3~60質量%であることが好ましく、5~50質量%であることがさらに好ましい。
【0027】
(高分子分散剤)
高分子分散剤は、メタクリル酸に由来する構成単位(i)及び生物材料由来の第1のメタクリレートに由来する構成単位(ii)を含む、カルボキシ基の少なくとも一部がアルカリで中和されたポリマーである。
【0028】
構成単位(i)は、メタクリル酸に由来する構成単位である。すなわち、構成単位(i)は、メタクリル酸に由来するカルボキシ基を有する構成単位である。このカルボキシ基をアルカリで中和することで、ポリマー(高分子分散剤)を水に溶解させることができる。ポリマーの酸価は、30~250mgKOH/g、好ましくは50~150mgKOH/gである。ポリマーの酸価が30mgKOH/g未満であると、アルカリで中和してイオン化しても、水に溶解させることができない場合がある。一方、ポリマーの酸価が250mgKOH/g超であると、親水性が高くなり過ぎてしまい、水に溶解させた際に粘度が過度に高くなるとともに、印刷層(乾燥皮膜)の耐水性が低下する。
【0029】
構成単位(ii)は、生物材料由来の第1のメタクリレートに由来する構成単位である。すなわち、カーボンニュートラルな生物材料由来のモノマーに由来する構成単位を有することで、二酸化炭素削減に貢献することができる。第1のメタクリレートは、テトラヒドロフルフリルメタクリレート及びイソボルニルメタクリレートの少なくともいずれかである。テトラヒドロフルフリルメタクリレートは、テトラヒドロフルフリルアルコールとメタクリル酸のエステル化物である。テトラヒドロフルフリルアルコールは、トウモロコシ等から得られるフラン誘導体を変性して得られるアルコールである。イソボルニルメタクリレートは、イソボルネオールとメタクリル酸とエステル化物である。イソボルネオールは、松脂等から得られるカンフェンから誘導される植物由来の材料である。
【0030】
第1のメタクリレートを用いることで、顔料への吸着性に優れたエステル残基をポリマーに導入することができる。例えば、テトラヒドロフルフリルメタクリレートは、顔料と水素結合等することによって吸着性を発揮しうる環状エーテル基を有する。また、イソボルニルメタクリレートは、疎水性相互作用により顔料に吸着しうる疎水性のイソボルニル基を有する。
【0031】
また、第1のアクリレートのホモポリマーは、ガラス転移温度(Tg)が高い。例えば、テトラヒドロフルフリルメタクリレートのホモポリマーのTgは60℃であり、イソボルニルメタクリレートのホモポリマーのTgは155℃である。Tgの高い構成単位が導入されたポリマーを高分子分散剤として用いることで、耐擦過性及び密着性等が向上した印刷層を形成しうるインクとすることができると考えられる。さらに、第1のアクリレートはいずれも環状構造を有することから、収縮性が良好であると考えられる。ポリマー中、構成単位(ii)の含有量は、50質量%以上、好ましくは60質量%以上である。
【0032】
高分子分散剤として用いるポリマーの数平均分子量(Mn)は、5,000~20,000、好ましくは6,000~15,000である。ポリマー数平均分子量(Mn)が5,000未満であると、白色顔料から脱離しやすく、白色顔料の分散安定性が不十分になる。一方、ポリマーの数平均分子量(Mn)が20,000超であると、白色顔料に吸着しなかった残分によりインキの粘度が過度に高くなるとともに、白色顔料の粒子同士が吸着しやすくなり、分散性が低下する。本明細書におけるポリマーの数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定されるポリスチレン換算の値である。
【0033】
ポリマーの分子量分布(重量平均分子量/数平均分子量)は、2.5以下、好ましくは、2.0以下である。分子量分布(PDI)が2.5超であると、白色顔料の分散安定性が不十分になるとともに、インキの物性が低下する。
【0034】
ポリマーは、その他のモノマーに由来する構成単位をさらに含んでいてもよい。その他のモノマーとしては、スチレン、ビニルトルエン等のビニル系モノマー;(メタ)アクリル酸系モノマー;等を挙げることができる。(メタ)アクリル酸系モノマーとしては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ヘキシル、2-エチルヘキシル、オクチル、デシル、ドデシル、トリデシル、ヘキサデシル、オクタデシル、イソステアリル、ベヘニル、シクロヘキシル、トリメチルシクロヘキシル、t-ブチルシクロヘキシル、ベンジル、メトキシエチル、ブトキシエチル、フェノキシエチル、ノニルフェノキシエチル、イソボルニル、ジシクロペンタニル、ジシクロペンテニル、ジシクロペンテニロキシエチル、グリシジル、2-ヒドロキシエチル、2-ヒドロキシプロピル、4-ヒドロキシブチル、ジメチルアミノエチル、ジエチルアミノエチル、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリエチレングコリールモノメチルエーテル、ポリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ポリイプシロンカプロラクトン、ポリジメチルシロキサン等の置換基を有する単官能(メタ)アクリレートを挙げることができる。
【0035】
ポリマーは、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400~4,000)メタクリレートに由来する構成単位(iii)をさらに含むことが好ましい。この構成単位(iii)をさらに含むポリマーを高分子分散剤として用いることで、インキの塗膜のレベリング性を向上させることができる。ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートとしては、単一分子量のポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートを用いてもよく、分子量が異なる複数種のポリエチレグリコールモノメチルエーテルメタクリレート組み合わせて用いてもよい。例えば、分子量400のポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートと、分子量4,000のポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートを、95/5の質量比率で組み合わせて用いることができる。
【0036】
ポリマー中、構成単位(iii)の含有量は、10~30質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがさらに好ましい。構成単位(iii)の含有量が10質量%未満であると、レベリング性の向上効果が不足する場合がある。一方、構成単位(iii)の含有量が30質量%超であると、ポリマー自体が水に溶解しやすくなり、印刷層の耐水性がやや低下する場合がある。なお、ポリエチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート中のポリエチレングリコール鎖は環境中で分解しやすいので、構成単位(iii)を含むポリマーは環境に配慮した材料である。
【0037】
高分子分散剤として用いるポリマーは、生物材料由来の第2のメタクリレートに由来する構成単位(iv)をさらに含むことが好ましい。第2のメタクリレートは、ドデシルメタクリレート及びオクタデシルメタアクリレートの少なくともいずれかである。ドデシルメタクリレート及びオクタデシルメタクリレートは、いずれも疎水性が強い。このため、第2のメタクリレートに由来する構成単位(iv)をさらに含むポリマーを高分子分散剤として用いることで、耐薬品性及び耐エタノール性が向上した印刷層を形成することができる。
【0038】
また、ドデシルメタクリレート及びオクタデシルメタクリレートは、いずれもホモポリマーのTgが低い。このため、第2のメタクリレートに由来する構成単位(iv)をさらに含ませることで、ポリマーを可塑化し、形成される印刷層の基材への密着性をさらに高めることができる。さらに、ドデシルメタクリレート及びオクタデシルメタクリレートは、いずれも生物材料由来の化合物である。具体的には、ドデシルメタクリレート及びオクタデシルメタクリレートは、パーム油やヤシ油等から得られるドデカノールやオクタデシルアルコールのメタクリル酸エステルであり、環境に配慮した材料である。
【0039】
ポリマー中、構成単位(iv)の含有量は、10~30質量%であることが好ましく、10~20質量%であることがさらに好ましい。構成単位(iv)の含有量が10質量%未満であると、疎水性を向上させる効果が不足する場合がある。一方、構成単位(iv)の含有量が30質量%超であると、アルキル鎖が長いためにポリマー自体がより軟質になり、形成される印刷層の耐擦過性がやや低下する場合がある。
【0040】
高分子分散剤(ポリマー)は、従来公知の重合方法によって製造することができる。例えば、インクに用いる水溶性有機溶剤と同一の水溶性有機溶剤中でモノマーを重合することが、得られた重合物をそのままインキに配合することができるために好ましい。アゾ系開始剤や過酸化物系開始剤を用いるラジカル重合法で製造してもよく、リビングラジカル重合法によって分子量が揃ったポリマーを製造してもよい。また、リビングラジカル重合法で構造を制御してブロック型ポリマーとしてもよい。
【0041】
重合後、メタクリル酸に由来するカルボキシ基をアルカリで中和してポリマーをイオン化し、水に溶解させることができる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物;アンモニア;トリメチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルアミノエタノール、ジエタノールアミン、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール等の有機アミン;を用いることができる。なかでも、揮発しやすいアルカリを用いることが好ましく、アンモニア、ジメチルアミノエタノール、2-アミノ-2-メチル-1-プロパノールを用いることが特に好ましい。揮発しやすいアルカリで中和されたカルボキシ基を有するポリマー(高分子分散剤)を含有するインキが印刷後に乾燥する際、アルカリが揮発することで元のカルボキシ基が生成し、ポリマーが水不溶性となることで、印刷層の耐水性及び耐水擦過性等をさらに向上させることができる。また、生成したカルボキシ基が、任意成分である後述の架橋剤と反応し、形成される印刷層の物性を向上させることができるために好ましい。
【0042】
(その他の成分)
インキには、その他の成分をさらに含有させることができる。なかでも、インクに架橋剤をさらに含有させることで、印刷層の耐久性及び耐擦過性をより向上させることができるために好ましい。架橋剤としては、高分子分散剤(ポリマー)中のカルボキシ基や、樹脂バインダー中のカルボキシ基及び水酸基と反応しうる架橋剤を用いることが好ましい。なかでも、水性インキに配合しうる、エポキシ系架橋剤、アジリジン系架橋剤、カルボジイミド系架橋剤、及びイソシアネート系架橋剤からなる群より選択される少なくとも一種の架橋剤が好ましい。これらの架橋剤は、カルボキシ基や水酸基と反応するエポキシ基、アジリジン基、カルボジイミド基、及びイソシアネート基等の官能基を一種以上、かつ、一分子中に二以上有する。
【0043】
エポキシ系架橋剤の市販品としては、商品名「jER」(三菱化学社製)、商品名「デナコール」(ナガセケムテック社製)等を挙げることができる。アジリジン系架橋剤の市販品としては、商品名「ケミタイト」(日本触媒社製)等を挙げることができる。カルボジイミド系架橋剤の市販品としては、商品名「カルボジライト」(日清紡ケミカル社製)等を挙げることができる。イソシアネート系架橋剤の具体例としては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、これらのアダクト体やビューレット変性体等を挙げることができる。さらには、これらをオキシム等でブロックした構造を有するものを挙げることができる。イソシアネート系架橋剤の市販品としては、商品名「デュラネート」(旭化成社製)等を挙げることができる。
【0044】
インキ中の架橋剤(固形分)の含有量は、インキ全量を基準として、0.1~10質量%であることが好ましく、0.5~5質量%であることがさらに好ましい。
【0045】
架橋剤以外のその他の成分としては、前述の水溶性有機溶剤以外の有機溶剤、レベリング剤、表面張力調整剤、界面活性剤、pH調整剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤、染料、フィラー、ワックス、可塑剤、艶消し剤、消泡剤、沈降防止剤、増粘剤、防カビ剤、抗菌剤、帯電防止剤等の添加剤を挙げることができる。なかでも、乾燥皮膜(印刷層)の基材への密着性及び耐擦過性のさらなる向上の観点から、ワックス成分をインキにさらに含有させることが好ましい。
【0046】
(水性白色インキの製造方法)
本実施形態のインキは、従来公知の方法にしたがって製造することができる。例えば、白色顔料、水、水溶性有機溶媒、樹脂バインダー、及び高分子分散剤を混合することで、目的とするインキを得ることができる。また、水、白色顔料、及び高分子分散剤を配合するとともに、必要に応じて水溶性有機溶剤をさらに配合し、ビーズミル等の分散機を使用して十分に分散させて顔料分散液を得る。得られた顔料分散液を使用し、所定の顔料濃度になるように水や水溶性有機溶剤を添加するとともに、樹脂バインダー及び架橋剤を含むその他の添加剤をさらに添加して混合することによっても、目的とするインキを得ることができる。なお、各種材料を配合して十分混合した後は、フィルターろ過する等してゴミやブツを除去することが好ましい。
【0047】
架橋剤は、インキに予め配合しておいてもよいが、印刷直前にインキに配合することが好ましい。架橋剤を含有するインキを長時間放置しておくと、架橋剤の官能基が水、高分子分散剤や樹脂バインダー中の官能基、水溶性有機溶剤、及びアルカリ等と反応してゲル化したり、架橋基が失われたりして、架橋効果が発揮されにくくなる場合がある。
【0048】
(水性白色インキの物性)
ザーンカップ#4を使用して25℃で測定されるインキの粘度は、5~30秒であることが好ましい。また、25℃におけるインキの表面張力は、20~50mN/mであることが好ましい。
【0049】
(印刷基材)
本実施形態のインキは、ラベル印刷に用いられる水性白色インキである。このため、印刷基材としては、任意の材料で構成されたラベルを用いることができる。ラベルとしては、ポリエチレンテレフタレートやポリ乳酸等のポリエステル系フィルム;ナイロン6等のポリアミド系フィルム;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系フィルム;ポリスチレン系フィルム;ポリイミド系フィルム;ポリカーボネート系フィルム;ポリ塩化ビニル系フィルム;等を挙げることができる。これらのフィルムは、コロナ処理やプラズマ処理等の表面処理が施されていてもよい。また、密着性向上のためのアンカーコート剤層や接着剤層が設けられたフィルムであってもよい。さらに、これらのフィルムは延伸されていてもよい。その他、アルミニウム等の金属蒸着層が設けられたフィルムや、アルミナ、シリカ等の透明蒸着層が設けられたフィルム等を用いることができる。
【0050】
本実施形態のインキは、飲料用のボトルに装着される飲料用ラベルの印刷に用いる水性白色インキとして好適である。本実施形態のインキを用いて形成される乾燥皮膜である印刷層は、耐水性に優れている。このため、ボトルに水滴が付着したり、水をかけてボトルを冷却したりした場合であっても、剥がれにくい印刷層を形成することができる。さらに、飲料用ラベルとしては、PETボトル等の飲料用のシュリンクラベルも好適である。インキを塗工後に熱をかけてフィルムを収縮させた場合であっても、印刷層が乱れにくく、フィルムへの密着性や耐擦過性が低下しにくい。
【0051】
シュリンクラベル用の基材としては、前述の各種フィルムを用いることができる。シュリンクラベルを構成するシュリンクフィルムは、1軸、2軸、又は多軸に配向したフィルムを用いることが好ましい。
【0052】
<乾燥皮膜>
本発明の乾燥皮膜の一実施形態は、前述の水性白色インクの乾燥物である。本実施形態の乾燥皮膜は、前述のインキを各種フィルム等の基材に付与して印刷した後、乾燥して水や水溶性有機溶剤を除去することによって形成される印刷層である。乾燥皮膜の厚さは、0.1~20μmであることが好ましい。乾燥皮膜は、基材への密着性が良好であるとともに、耐擦過性、意匠性、及び隠蔽性に優れており、白濃度も高い。さらに、乾燥皮膜は、生物材料由来の成分を含むために環境に配慮されており、カーボンニュートラルな印刷層である。
【実施例0053】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例、比較例中の「部」及び「%」は、特に断らない限り質量基準である。
【0054】
<高分子分散剤の製造>
(実施合成例1)
イソプロピルアルコール(IPA)50部及びジエチレングリコールモノメチルエーテル(BDG)50部を反応容器に入れ、窒素をバブリングしながら80℃に加温した。別容器に、テトラヒドロフルフリルメタクリレート(THFMA)40部、イソボルニルメタクリレート(IBXMA)40部、メタクリル酸(MAA)20部、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(V-59)(商品名「V-59」、富士フイルム和光純薬社製)3部を入れ、均一に混合してモノマー混合液を調製した。THFMAは、トウモロコシの芯等から得たフルフラールの水素化物であるテトラヒドロフルフリルアルコールと、メタクリル酸との反応物であり、生物材料由来のメタクリレートである。IBXMAは、松脂や松精油から得たα-ピネンを異性化してカンフェンとして得られるボルネオールと、メタクリル酸との反応物であり、生物材料由来のメタクリレートである。調製したモノマー混合液を反応器内に2時間かけて滴下した。80℃で5時間重合し、ポリマーの溶液を得た。
【0055】
サンプリングした一部を150℃の乾燥機で乾燥させて恒量に達した時点の残分から算出した固形分は49.8%であり、ほとんど重合していることを確認した。テトラヒドロフランを展開溶媒とするゲルパーミエーションクロマトブラフィー(GPC)により測定した、ポリマーのポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は14,000、分子量分布(PDI=重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は2.04であった。トルエン/エタノール=1/1の溶液に溶解させ、フェノールフタレイン液を指示薬とし、0.1N水酸化カリウムエタノール溶液で滴定して測定したポリマーの酸価は、130.0mgKOH/gであった。
【0056】
28%アンモニア水14.2部及びイオン交換水85.8部を添加し、カルボキシ基を中和してポリマーを水溶液化して、淡黄色透明液体である高分子分散剤PD-1の溶液を得た。得られた溶液の固形分は39.5%であった。イオン交換水で10倍に希釈して測定した溶液のpHは8.9であった。
【0057】
(実施合成例2~11)
表1に示す種類及び量(単位:部)の各種材料を用いたこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、高分子分散剤PD-2~11の溶液を得た。各種物性等を表1に示す。また、表1中の略号の意味を以下に示す。
・PEGMA:ポリエチレングリコールモノメチルエーテル(分子量400)メタクリレート
・LMA:ラウリルメタクリレート
・StMA:ステアリルメタクリレート
・AMP:2-アミノ-2-メチル-1-プロパノール
・DMAE:N,N-ジメチルアミノエタノール
【0058】
【0059】
(比較合成例1)
メチルメタクリレート(MMA)15部、ブチルメタクリレート(BMA)20部、2-エチルヘキシルメタクリレート(2EHMA)30部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA)20部、MAA15部、及びAIBN3部を用いて重合したこと以外は、前述の実施合成例1と同様にして、高分子分散剤HPD-1の溶液を得た。得られた高分子分散剤(ポリマー)のMnは13,600、PDIは2.01、酸価は97.6mgKOH/gであった。また、得られた溶液のpHは8.6、固形分は40.0%であった。
【0060】
(比較合成例2)
反応容器に、ポリエチレングリコール(EO)ポリプロピレングリコール(PO)ランダム共重合体の片末端メチルエーテル、片末端アミノ基であるモノアミノ化合物(アミン価=27.9mgKOH/g、EO/PO=3/1(モル比))100部、及びポリスチレン/マレイン酸(1/1モル比、Mn2,300)10部を入れ、130℃に加熱して均一化させた後、脱水しながら3時間反応させ、酸価29.0mgKOH/gとなるまで反応を継続した。100℃まで冷却した後、イオン交換水を添加して希釈し、固形分40.0%である高分子分散剤HPD-2の溶液を得た。得られた高分子分散剤(ポリマー)のMnは12,000、PDIは1.85であった。また、得られた溶液のpHは4.6であった。得られた高分子分散剤HPD-2は、ポリスチレン/マレイン酸に、アミド結合、環状イミド結合、及びカルボン酸とアミノ基のイオン結合によりポリアルキレングリコールがグラフトした構造を有するポリマーである。
【0061】
<各種材料の用意>
(バインダー)
以下に示すバインダーを用意した。
・A-1:水性スチレン-アクリルエマルジョン、BASFジャパン社製、商品名「ジョンクリルPDX-7430」、Mw200,000、Tg30℃、最低造膜温度44℃、酸価20mgKOH/g、不揮発分38%
・A-2:水性スチレン-アクリルエマルジョン、BASFジャパン社製、商品名「ジョンクリルPDX-7356」、Mw100,000~200,000、Tg40℃、酸価78mgKOH/g、不揮発分45.5%
・A-3:水性アクリル-ウレタンエマルジョン、大成ファインケミカル社製、商品名「WEM-200U」、Tg27℃、酸価6mgKOH/g、不揮発分38%
・A-4:水性ウレタン樹脂分散液、三井化学社製、商品名「タケラックW-6010」、100%モジュラス14MPa、Tg90℃、数平均粒子径0.06μm、固形分30%)
・A-5:水性アクリルエマルジョン、ダイセルオルネクス社製、商品名「VIACRYL VSC 6254W/40WA」、最低造膜温度53℃、酸価0mgKOH/g、水酸基価60mgKOH/g、数平均粒子径0.11μm
【0062】
(架橋剤)
以下に示す架橋剤を用意した。
・B-1:エポキシ系架橋剤、ナガゼケムテック社製、商品名「デナコールEX-612」、不揮発分100%
・B-2:カルボジイミド系架橋剤、日清紡ケミカル社製、商品名「カルボジライトE-02」、不揮発分40%
・B-3:アジリジン系架橋剤、日本触媒社製、商品名「ケミタイトDZ-22E」、不揮発分30%
・B-4:イソシアネート系架橋剤、旭化成社製、商品名「デュラネートWB40-100」、不揮発分100%
【0063】
(その他の添加剤)
以下に示すその他の添加剤を用意した。
・ワックス:ポリエチレンワックス:BASFジャパン社製、商品名「ジョンクリルワックス26」、体積平均粒子径0.05μm、不揮発分25%、融点130℃
・増粘剤:ウレタン会合型増粘剤、サンノプコ社製、商品名「SNシックナー612」、不揮発分40%
・消泡剤:エボニック社製、商品名「テゴフォーメックス805N」、不揮発分20%
・界面活性剤:エボニック社製、商品名「テゴウェット500」、不揮発部100%
【0064】
<水性フレキソ白色インキの製造>
(実施例1)
酸化チタン(商品名「R-960」、デュポン社製)40部、水7.5部、及び高分子分散剤PD-1の溶液5.1部(固形分として2部)の混合物をビーズミルで混錬分散した。その後、バインダーA-1 31.4部(固形分として12部)、架橋剤B-1 2.4部(但し、固形分として)2.4部、ワックス5部、増粘剤0.08部(但し、固形分として)、消泡剤0.04部(但し、固形分として)、及び界面活性剤0.2部を添加し、デイスパーでよく混合した後、ザーンカップ#4(離合社製)で16秒(25℃)になるように水で希釈して、水性のフレキソインキである白色インキW-1を得た。
【0065】
(実施例2~16、比較例1及び2)
表2に示す種類の材料を用いたこと以外は、前述の実施例1と同様にして、水性のフレキソインキである白色インキW-2~16、HW-1、HW-2を得た。
【0066】
【0067】
<印刷物の製造>
プラスチックフィルム(一軸収縮性PETフィルム、商品名「東洋紡スペースクリーンS7053」、東洋紡社製、厚さ40μm)を用意した。セルボリューム6.0cm/mのアニロックスロールを搭載したフレキソハンドプルーファーをアプリケーターとして使用し、乾燥後の塗工量が1.0g/mとなるように調製した各白色インキをプラスチックフィルムに塗工した。塗工後、25℃で72時間乾燥させて、厚さ約0.85μmの乾燥皮膜である印刷層がプラスチックフィルムの一方の面上に形成された印刷物を得た。
【0068】
<評価>
以下に示す各評価を行った。評価結果を表3に示す。なお、以下に示す評価基準のうち、「◎」、「〇」、及び「△」を合格とし、「×」を不合格とした。
【0069】
(白濃度)
透過濃度計(商品名「361T」、エックスライト社製)を使用し、印刷物(印刷層)の白濃度(光学濃度(OD値))を測定した。なお、任意の3箇所のOD値を測定し、その平均値を採用した。OD値が大きいと、白色度がより高い。OD値が0.185以上である場合を合格とした。
【0070】
(耐ブロッキング性)
印刷層と当接するように、一軸収縮性PETフィルム(商品名「東洋紡スペースクリーンS7053」、東洋紡株式会社製、厚さ40μm)を印刷物上に配置し、4kg/cmの荷重をかけた状態で40℃の恒温槽内に24時間放置した。その後、PETフィルムを印刷物から剥離し、以下に示す評価基準にしたがって耐ブロッキング性を評価した。
◎:剥離抵抗がなく、PETフィルムへの印刷層の転移が認められなかった。
○:ごくわずかに剥離抵抗を感じたが、PETフィルムへの印刷層の転移は認められなかった。
△:若干の剥離抵抗を感じたが、PETフィルムへの印刷層の転移は認められなかった。
×:かなりの剥離抵抗を感じ、PETフィルムへの印刷層の転移が認められた。
【0071】
(耐水性)
水道水を入れた密閉容器に印刷物を浸漬し、40℃で24時間保管する耐水試験を行った。耐水試験後の印刷層の変化を目視にて観察し、以下に示す評価基準にしたがって耐水性を評価した。
○:印刷層が変化していなかった。
△:印刷層が白化しており、フィルムから若干脱離していた。
×:印刷層が白化しており、フィルムから脱離していた。
【0072】
(密着性)
印刷してから、室温で15分間、30分間、1時間、及び3時間経過後の印刷物の印刷層の表面に、幅18mmのセロハンテープ(ニチバン社製)を貼り付けて指で圧着した。その後、圧着したセロハンテープを速やかに剥離した。フィルム上に残った印刷層の状態を目視にて確認し、以下に示す評価基準にしたがって基材に対する印刷層の密着性を評価した。
◎:印刷層が全く剥離していなかった。
○:セロハンテープの接着面積を基準とする、フィルムから剥離した印刷層の面積の割合が、0%超20%未満であった。
△:セロハンテープの接着面積を基準とする、フィルムから剥離した印刷層の面積の割合が、20%以上70%未満であった。
×:セロハンテープの接着面積を基準とする、フィルムから剥離した印刷層の面積の割合が70%以上であった。
【0073】
(耐水擦過性)
印刷物から切り出した試験片の印刷層の表面を、学振型摩擦堅牢度試験機(製品名「AB-301」、テスター産業社製)を使用し、水で濡らした綿布にて荷重200gで50回往復させた。その後、各試験片からの印刷層の剥がれ具合を目視にて確認し、以下の評価基準にしたがって印刷層の耐水擦過性を評価した。
○:印刷層からのインキ剥がれがなかった。
×:印刷層からのインキ剥がれがあった。
【0074】
(収縮後の密着性)
長さ20cmの印刷物を90℃の熱水に30秒間浸漬し、長さ15cmに収縮させた。
収縮後の印刷物の印刷層の表面に幅18mmのセロハンテープ(ニチバン社製)を貼り付けて指で圧着した。その後、圧着したセロハンテープを速やかに剥離した。フィルム上に残った印刷層の状態を目視にて確認し、以下に示す評価基準にしたがって、基材に対する印刷層の密着性(収縮後の密着性)を評価した。
◎:印刷層が全く剥離していなかった。
○:セロハンテープの接着面積を基準とする、フィルムから剥離した印刷層の面積の割合が、0%超20%未満であった。
△:セロハンテープの接着面積を基準とする、フィルムから剥離した印刷層の面積の割合が、20%以上70%未満であった。
×:セロハンテープの接着面積を基準とする、フィルムから剥離した印刷層の面積の割合が70%以上であった。
【0075】
【産業上の利用可能性】
【0076】
本発明の水性白色インキは、耐水性、耐ブロッキング性、及び耐水擦過性等に優れた印刷層(乾燥皮膜)を形成可能であり、プラスチックフィルム等を印刷基材とするラベル印刷用の白色インキとして有用である。また、耐水性及び耐水擦過性に優れた印刷層を形成可能であることから、水分に接触する機会が多い飲料用のラベルに印刷するための白色インキとして有用である。さらに、印刷基材が収縮しても密着性が維持される印刷層を形成可能であることから、飲料用のシュリンクラベルに印刷するための白色インキとして有用である。また、生物材料由来のモノマーを使用可能であることから、環境に配慮されており、購買者の環境意識の向上につながるとともに、地球温暖化防止へ向けた配慮がなされていることから、脱石油製品として有用である。