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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042882
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】医療用支持固定装置
(51)【国際特許分類】
   A61G 13/12 20060101AFI20240322BHJP
   A61N 5/10 20060101ALI20240322BHJP
   A61G 13/00 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
A61G13/12 B
A61N5/10 T
A61G13/00 P
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147801
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】591189812
【氏名又は名称】エンジニアリングシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】左治木 修
(72)【発明者】
【氏名】村上 幸三
(72)【発明者】
【氏名】宮浦 和徳
【テーマコード(参考)】
4C082
4C341
【Fターム(参考)】
4C082AC09
4C082AE01
4C082AL01
4C082AL03
4C341MM20
4C341MN11
(57)【要約】
【課題】 人体の所定部位を支持固定するチルト角及び/又はヨー角を任意ではなくて複数個の所定チルト角及び/又はヨー角のいずれかに選択的に設定することができる、構成が比較的簡潔であり安価に製造することができる医療用支持固定装置を提供する。
【解決手段】 医療用支持固定装置は、基台、人体の所定部位を支持固定する支持固定具、及び基台の前部と支持固定具の前部との間に選択的に介在される少なくとも1個のチルト角設定部材から構成されている。チルト角設定部材は、幅方向に延在する底壁部と底壁部から上方に突出し且つ底壁の該下面に対して前方に向かって上方に傾斜する上面を有する支持壁部とを含む。
【選択図】 図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基台、人体の所定部位を支持固定する支持固定具、及び該基台の前部と該支持固定具の前部との間に選択的に介在される少なくとも1個のチルト角設定部材から構成されており、
該チルト角設定部材は、幅方向に延在する底壁部と該底壁部から上方に突出し且つ該底壁の該下面に対して前方に向かって上方に傾斜する上面を有する支持壁部とを含む、
ことを特徴とする医療用支持固定装置。
【請求項2】
該基台の前部と該支持固定具の前部との間に選択的に介在される少なくとも2個のチルト角設定部材を備え、
該チルト角設定部材の該支持壁部の上方への突出長さ及び該支持壁部の該上面の傾斜角度は該チルト角設定部材毎に夫々相違し、
該基台の該前部と該支持固定具の該前部とに介在される該チルト角設定部材を変更することによって、該支持固定具のチルト角が変更される、
請求項1記載の医療用支持固定装置。
【請求項3】
該チルト角設定部材は幅方向に間隔をおいて配設された2個の支持壁部を含む、請求項1又は2記載の医療用支持固定装置。
【請求項4】
該基台の該前部にはねじ穴が形成されており、該チルト角設定部材の該底壁部には貫通孔が形成されており、該貫通孔を通して締結ねじを該ねじ穴に螺着することによって該基台に該チルト角設定部材が固定される、請求項1又は2記載の医療用支持固定装置。
【請求項5】
該支持固定具の下面の前部には幅方向に延在し且つ平坦な底面を有する凹部が形成されており、該チルト角設定部材の該支持部材の上端部を該凹部内に挿入することによって該チルト角設定部材に対して該支持固定具が位置付けられる、請求項1又は2記載の医療用支持固定装置。
【請求項6】
該基台の前部には幅方向に間隔をおいて配設された少なくとも2対のピン挿入孔が形成されており、該2対のピン挿入孔の一方のピン挿入孔対を結ぶ直線と該2対のピン挿入孔の他方のピン挿入孔対を結ぶ直線とは所定角度をなして交差し、
該チルト角設定部材の該底壁部の下面には1対のピン受入孔が形成されており、
該2対のピン挿入孔の一方のピン挿入孔対にピンを挿入し、該チルト角設定部材の該1対の該ピン受入孔に該ピンを挿入すると、該基台に対して該支持固定具が第一のヨー角をなして位置付けられ、該2対のピン挿入孔の他方のピン挿入孔対にピンを挿入し、該チルト角設定部材の該1対の該ピン受入孔に該ピンを挿入すると、該基台に対して該支持固定具が第二のヨー角をなして位置付けられる、
請求項1又は2記載の医療用支持固定装置。
【請求項7】
該基台の前部には幅方向に間隔をおいて配設された3対のピン挿入孔が形成されており、
該3対のピン挿入孔の内の第一のピン挿入孔対を結ぶ直線は該基台の長手方向中心線に対して直交し、該3対のピン挿入孔の内の第二のピン挿入孔対を結ぶ直線は該第一のピン挿入孔対を結ぶ直線に対して時計方向に角度αをなして傾斜し、該3対のピン挿入孔の内の第三のピン挿入孔対を結ぶ直線は該第一のピン挿入孔対を結ぶ直線に対して反時計方向に角度αをなして傾斜する、請求項6記載の医療用支持固定装置。
【請求項8】
基台、人体の所定部位を支持固定する支持固定具、及び該基台の前部と該支持固定具の前部との間に介在される少なくとも1個のチルト角設定部材から構成されており、
該チルト角設定部材は、幅方向に延在する底壁部と該底壁部から上方に突出し且つ該底壁の該下面に対して後方に向かって上方に傾斜する上面を有する支持壁部とを含み、
該基台の前部には幅方向に間隔をおいて配設された少なくとも2対のピン挿入孔が形成されており、該2対のピン挿入孔の一方のピン挿入孔対を結ぶ直線と該2対のピン挿入孔の他方のピン挿入孔対を結ぶ直線とは所定角度をなして交差し、
該チルト角設定部材の該底壁部の下面には1対のピン受入孔が形成されており、
該2対のピン挿入孔の一方のピン挿入孔対にピンを挿入し、該チルト角設定部材の該1対の該ピン受入孔に該ピンを挿入すると、該基台に対して該支持固定具が第一のヨー角をなして位置付けられ、該2対のピン挿入孔の他方のピン挿入孔対にピンを挿入し、該チルト角設定部材の該1対の該ピン受入孔に該ピンを挿入すると、該基台に対して該支持固定具が第二のヨー角をなして位置付けられる、
ことを特徴とする医療用支持固定装置。
【請求項9】
該基台の前部には幅方向に間隔をおいて配設された3対のピン挿入孔が形成されており、該3対のピン挿入孔の内の第一のピン挿入孔対を結ぶ直線は該基台の長手方向中心線に対して直交し、該3対のピン挿入孔の内の第二のピン挿入孔対を結ぶ直線は該第一のピン挿入孔対を結ぶ直線に対して時計方向に角度αをなして傾斜し、該3対のピン挿入孔の内の第三のピン挿入孔対を結ぶ直線は該第一のピン挿入孔対を結ぶ直線に対して反時計方向に角度αをなして傾斜する、請求項8記載の医療用支持固定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体の所定部位、例えば頭部、を支持し固定するために使用される医療用支持固定装置、更に詳しくは平坦な表面を有する基台、人体の所定部位を支持固定する支持固定具、及び基台の前部との間に介在されるチルト角設定部材から構成された医療用支持固定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、基台、基台に対して垂直に延在する回転中心軸線を中心として回転自在に基台上に装着されたヨー角微調整板、ヨー角微調整板の幅方向に延在する旋回中心軸線を中心として旋回自在にヨー角微調整板上に装着されたチルト角微調整板、基台とヨー角微調整板との間に介在されたヨー角微調整機構、及びヨー角微調整板とチルト角微調整板との間に介在されたチルト角微調整機構を含む医療用支持固定装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2019-41781号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者が先に提案した上記特許文献1に開示されている上記のとおりの医療用支持固定装置は、ヨー角及びチルト角を任意に調整することができる有用な医療用支持固定装置であるが、基台に対するヨー角微調整板の装着様式及びヨー角微調整板に対するチルト角微調整板の装着様式が比較的複雑であり、そしてまたヨー角微調整機構の構成及びチルト角微調整機構の構成も比較的複雑であり、製作コストが比較的高価である。
【0005】
一方、医療現場においては、チルト角を任意ではなくて複数個(例えば3個)の特定チルト角に選択的に設定することができる、及び/又はヨー角を任意ではなくて複数個(例えば3個)の特定ヨー角に選択的に設定することができる医療用支持固定装置が要望されている。更に詳述すると、例えば脳内に発生した腫瘍にX線の如き放射線を照射して腫瘍を壊滅する場合、多数の方向から腫瘍に向けて放射線を照射し、腫瘍には所要強度の放射線が照射されるが、腫瘍までに放射線が通過する正常細胞には微弱な放射線しか作用しないようにすることが重要である。かような場合に、特定チルト角及び/又は特定ヨー角で支持固定した頭部に多数の方向から腫瘍に向けて放射線を照射し、次いで異なったチルト角及び/又はヨー角で頭部を支持固定して再び多数の方向から腫瘍に向けて放射線を照射し、更に必要に応じて異なったチルト角及び/又はヨー角で頭部を支持固定して再び多数の方向から腫瘍に向けて放射線を照射すると、頭部を支持固定するチルト角及び/又はヨー角が変更される度に腫瘍に至る放射線の通過経路が変更され、従って腫瘍に照射される合計放射線量に対する放射線が通過する正常細胞に照射される放射線量を極めて微弱なものにすることができる。
【0006】
本発明は上記事実に鑑みてなされたものであり、その主たる技術的課題は、人体の所定部位を支持固定するチルト角及び/又はヨー角を任意ではなくて複数個の所定チルト角及び/又はヨー角のいずれかに選択的に設定することができる、構成が比較的簡潔であり安価に製造することができる、新規且つ改良された医療用支持固定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する医療用支持固定装置として、
基台、人体の所定部位を支持固定する支持固定具、及び該基台の前部と該支持固定具の前部との間に選択的に介在される少なくとも1個のチルト角設定部材から構成されており、
該チルト角設定部材は、幅方向に延在する底壁部と該底壁部から上方に突出し且つ該底壁の該下面に対して前方に向かって上方に傾斜する上面を有する支持壁部とを含む、
ことを特徴とする医療用支持固定装置が提供される。
【0008】
好ましくは、該基台の前部と該支持固定具の前部との間に選択的に介在される少なくとも2個のチルト角設定部材を備え、該チルト角設定部材の該支持壁部の上方への突出長さ及び該支持壁部の該上面の傾斜角度は該チルト角設定部材毎に夫々相違し、該基台の該前部と該支持固定具の該前部とに介在される該チルト角設定部材を変更することによって、該支持固定具のチルト角が変更される。該チルト角設定部材は幅方向に間隔をおいて配設された2個の支持壁部を含むのが好都合である。望ましくは、該基台の該前部にはねじ穴が形成されており、該チルト角設定部材の該底壁部には貫通孔が形成されており、該貫通孔を通して締結ねじを該ねじ穴に螺着することによって該基台に該チルト角設定部材が固定される。該支持固定具の下面の前部には幅方向に延在し且つ平坦な底面を有する凹部が形成されており、該チルト角設定部材の該支持部材の上端部を該凹部内に挿入することによって該チルト角設定部材に対して該支持固定具が位置付けられるのが好ましい。該基台の前部には幅方向に間隔をおいて配設された少なくとも2対のピン挿入孔が形成されており、該2対のピン挿入孔の一方のピン挿入孔対を結ぶ直線と該2対のピン挿入孔の他方のピン挿入孔対を結ぶ直線とは所定角度をなして交差し、該チルト角設定部材の該底壁部の下面には1対のピン受入孔が形成されており、該2対のピン挿入孔の一方のピン挿入孔対にピンを挿入し、該チルト角設定部材の該1対の該ピン受入孔に該ピンを挿入すると、該基台に対して該支持固定具が第一のヨー角をなして位置付けられ、該2対のピン挿入孔の他方のピン挿入孔対にピンを挿入し、該チルト角設定部材の該1対の該ピン受入孔に該ピンを挿入すると、該基台に対して該支持固定具が第二のヨー角をなして位置付けられるのが好適である。該基台の前部には幅方向に間隔をおいて配設された3対のピン挿入孔が形成されており、該3対のピン挿入孔の内の第一のピン挿入孔対を結ぶ直線は該基台の長手方向中心線に対して直交し、該3対のピン挿入孔の内の第二のピン挿入孔対を結ぶ直線は該第一のピン挿入孔対を結ぶ直線に対して時計方向に角度αをなして傾斜し、該3対のピン挿入孔の内の第三のピン挿入孔対を結ぶ直線は該第一のピン挿入孔対を結ぶ直線に対して反時計方向に角度αをなして傾斜するのが好ましい。
【0009】
本発明の他の局面によれば、上記主たる技術的課題を達成する医療用支持固定装置として、
基台、人体の所定部位を支持固定する支持固定具、及び該基台の前部と該支持固定具の前部との間に介在される少なくとも1個のチルト角設定部材から構成されており、
該チルト角設定部材は、幅方向に延在する底壁部と該底壁部から上方に突出し且つ該底壁の該下面に対して後方に向かって上方に傾斜する上面を有する支持壁部とを含み、
該基台の前部には幅方向に間隔をおいて配設された少なくとも2対のピン挿入孔が形成されており、該2対のピン挿入孔の一方のピン挿入孔対を結ぶ直線と該2対のピン挿入孔の他方のピン挿入孔対を結ぶ直線とは所定角度をなして交差し、
該チルト角設定部材の該底壁部の下面には1対のピン受入孔が形成されており、
該2対のピン挿入孔の一方のピン挿入孔対にピンを挿入し、該チルト角設定部材の該1対の該ピン受入孔に該ピンを挿入すると、該基台に対して該支持固定具が第一のヨー角をなして位置付けられ、該2対のピン挿入孔の他方のピン挿入孔対にピンを挿入し、該チルト角設定部材の該1対の該ピン受入孔に該ピンを挿入すると、該基台に対して該支持固定具が第二のヨー角をなして位置付けられる、
ことを特徴とする医療用支持固定装置が提供される。
【0010】
好ましくは、該基台の前部には幅方向に間隔をおいて配設された3対のピン挿入孔が形成されており、該3対のピン挿入孔の内の第一のピン挿入孔対を結ぶ直線は該基台の長手方向中心線に対して直交し、該3対のピン挿入孔の内の第二のピン挿入孔対を結ぶ直線は該第一のピン挿入孔対を結ぶ直線に対して時計方向に角度αをなして傾斜し、該3対のピン挿入孔の内の第三のピン挿入孔対を結ぶ直線は該第一のピン挿入孔対を結ぶ直線に対して反時計方向に角度αをなして傾斜する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の医療用支持固定装置は、人体の所定部位を支持固定するチルト角及び/又はヨー角を任意ではなくて複数個の所定チルト角及び/又はヨー角のいずれかに選択的に設定することができると共に、構成が比較的簡潔であり安価に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態における基台を示す斜面図。
図2図1に示す基台の平面図。
図3】本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態における支持固定具を示す斜面図。
図4】本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態における3個のチルト角設定部材を示す斜面図。
図5】本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態において、基台上に特定のチルト角設定部材を配設した状態を示す斜面図。
図6】本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態において、基台と支持固定具との間に特定のチルト角設定部材を介在した状態を示す斜面図。
図7】本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態において、基台と支持固定具との間に3個のチルト角設定装置の各々を選択的に介在した状態を示す簡略側面図。
図8】本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態において、基台に対するチルト角設定部材の配設状態を変更してヨー角を変更する様式を示す平面図。
図9】本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態において、支持固定具のチルト角を変更することによって放射線照射経路が変更されることを説明するための簡略図。
図10】本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態において、支持固定具のヨー角を変更することによって放射線照射経路が変更されることを説明するための簡略図。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態を図示している添付図面を参照して、更に詳述する。
【0014】
本発明に従って構成された医療用支持固定装置は、図1及び図2に示す基台2、図3に示す支持固定具4と共に、図4に図示する少なくとも1個(図示の場合は3個)のチルト角設定部材6A、6B及び6Cから構成されている。
【0015】
図1及び図2を参照して説明すると、図示の基台2は適宜の合成樹脂から形成することができる矩形状の平板から形成されている。基台2の前部下面には片縁から他縁まで連続して延在する溝8が形成されている。溝8の横断面は矩形状であり、底面は平坦な面である。また、基台2の前部には幅方向に間隔をおいて一対の貫通孔10が形成されている。貫通孔10は溝8が形成されている領域に位置し、貫通孔10は溝8の底面に開口している。基台2に配設されている溝8及び貫通孔10は放射線照射機の寝台上(図示していない)に基台を位置付けるのに利用される。更に付言すると、寝台上を幅方向に延在する横断面形状が矩形である突条に溝8を嵌合し、突条に幅方向に間隔をおいて配設された一対のピンに貫通孔10を嵌合することによって、寝台の所定位置に基台2が位置付けられる。
【0016】
基台2の前部上面には少なくとも2対のピン挿入孔が形成されていることが重要であり、図示の実施形態においては3対のピン挿入孔12A、12B及び12Cが形成されている。ピン挿入孔12A、12B及び12Cの各々は同一の内径を有する貫通孔又は盲孔でよい。第一の対をなすピン挿入孔12Aを結ぶ直線14Aは基台2の長手方向軸線15に対して直交し、第二の対をなすピン挿入孔12Bを結ぶ直線14Bは上記直線14Aに対して時計方向に角度αをなして傾斜し、第三の対をなすピン挿入孔12Cを結ぶ直線14Cは反時計方向に角度αをなして傾斜する。図示の実施形態においては、上記角度αは5度である。3対のピン挿入孔12A、12B及び12Cのいずれかには、後に更に言及する如く、選択的に一対のピン16が挿入される。図1においては第一の対をなすピン挿入孔12Aにピン16が挿入されている。ピン16各々はピン挿入孔12A、12B及び12Cの内径に対応した外径を有する下部とピン挿入孔12A、12B及び12Cの内径よりも大きい外径を有する上部とを有し、ピン16の各々の下部が3対のピン挿入孔12A、12B及び12Cのいずれかに挿入され、ピン16の上部は基台2の表面から上方に突出する。図示の実施形態においては、更に基台2の前部の幅方向中央部には幅方向に間隔をおいて3個のねじ穴18A、18B及び18Cが形成されている。
【0017】
図3を参照して説明を続けると、図示の支持固定具4は矩形状の平板である本体20を含んでいる。適宜の合成樹脂から形成することができる本体20の前部裏面には、片側縁から他側縁まで連続して延在する溝22が形成されている。溝22の横断面形状は矩形であり、底面は平坦な面である。本体20の前部には幅方向に間隔をおいて一対の貫通孔24が形成されている。かかる貫通孔24は溝22が形成されている領域に配置されており、貫通孔24は溝22の底面に開口している。本体20の上面中央部には、人体の頭部が載置される頭部支持片26が固定されており、更にこの頭部支持片26の両側及び前側には、頭部支持片26上に位置付けられた頭部を固定するための固定手段(図示していない)を装着するための機構28A、28B及び28Cが配設されている。かような支持固定具4自体は周知の形態であり、本発明に従って構成された医療用支持固定装置における新規な特徴をなすものではなく、それ故に明細書においては支持固定具4自体の詳細な説明は省略する。
【0018】
図4を参照して説明を続けると、本発明に従って構成された医療用支持固定装置は、少なくとも1個のチルト角設定部材、図示の場合は3個のチルト角設定部材6A、6B及び6C、を含んでいることが重要である。3個のチルト角設定部材6A、6B及び6Cの各々は、幅方向に水平に延在する底壁部30A、30B及び30Cと、かかる底壁部30A、30B及び30Cの両側端部上面の各々から上方に突出する支持壁部32A、32B及び32Cと有する。支持壁部32A、32B及び32Cの各々は接着剤の如き適宜の連結手段によって底壁部30A、30B及び30Cの各々の上面に連結されている。所望ならば、底壁部30A、30B及び30Cの各々と2個の支持壁部32A、32B及び32Cの各々とを一体に形成することもできる。底壁部30A、30B及び30Cの各々の幅方向中央部には貫通孔34A、34B及び34Cが形成されている。底壁部30A、30B及び30Cの各々の下面には幅方向に間隔おいて2個のピン受入孔36A、36B及び36Cが形成されている。ピン受入孔36A、36B及び36Cは盲穴でよい。図示の実施形態においては、更に、チルト角設定部材6B及び6Cの各々の2個の支持壁部32B及び32C間に補強片38B及び38Cが、支持壁部32B及び32Cを通して補強片に締結ねじ40B及び40Cを螺着することによって固定されている。底壁部30A、30B及び30C、支持壁部32A、32B及び32C並びに補強片38B及び38Cは適宜の合成樹脂から形成することができる。
【0019】
チルト角設定部材6Aの支持壁部32A、チルト角設定部材6Bの支持壁部32B及びチルト角設定部材6Cの支持壁部32Cの上方への突出長さは夫々異なっている。支持壁部32Aの突出長さは比較的小さく、支持壁部32Bの突出長さは中間であり、支持壁部32Cの突出長さは比較的大きい。更に、支持壁部32A、32B及び32Cの上面は前方に向かって上方に傾斜されているが、傾斜角は夫々異なっている。支持壁部32Aの上面の傾斜角βAは比較的小さく、図示の実施形態においては水平に延在する底壁部30Aに対して5度であり、支持壁部32Bの傾斜角βBは中間であり、図示の実施形態においては水平に延在する底壁部30Bに対して10度であり、支持壁部32Cの上面の傾斜角βCは比較的大きく、図示の実施形態においては水平に延在する底壁部30Cに対して15度である(図7も参照されたい)。支持壁部30A、30B及び30Cの各々の上面には上方に突出するピン42A、42B及び42Cが接着剤の如き適宜の連結手段によって連結されている。
【0020】
図示の実施形態においては、底壁部30A、30B及び30Cの各々に2個の支持壁部32A、32B及び32Cを配設しているが、所望ならば、底壁部30A、30B及び30Cの各々の幅方向中央部上に幅方向寸法が比較的大きい1個の支持壁部30A、30B及び30Cを配設することもでき、或いは幅方向に間隔おいて3個又はそれ以上の支持壁部を底壁部30A、30B及び30Cの各々に配設することもできる。
【0021】
次に、上述したとおりの医療用支持固定装置の使用様式について説明する。人体の頭部に放射線を照射する際には、放射線照射機(図示していない)の水平に延在する寝台上面の所定位置に基台2を載置する。そして、例えばチルト角を15度に設定しヨー角を0度に設定する場合には、基台2の上面に形成されている一対のピン挿入孔12Aにピン16を挿入する。そして、図5に示す如く、チルト角設定部材6Cを基台2上に載置する。この際には、チルト角設定部材6Cの底壁部30Cの下面に形成されている2個のピン受入孔36Cにピン16を挿入し、基台2に対してチルト角設定部材6Cを所要とおりに位置付ける。次いで、チルト角設定部材6Cの底壁部30Cに形成されている貫通孔34Cを通して基台2に形成されている3個のねじ穴18A、18B及び18Cの内の中央に位置する18Aに締結ねじ44を螺着し、基台2にチルト角設定部材6Cを固定する。しかる後に、基台2と支持固定具4との間にチルト角設定部材6Cを介在させて支持固定具4を装着する。この際には、図6に示す如く、支持固定具4の前部下面に形成された溝22内にチルト角設定部材6Cの支持壁部32Cの上端部を係合すると共に、支持固定具4の前部に形成されている貫通孔24にチルト角設定部材6Cの支持壁部32Cに固定されているピン42Cを挿通する。かくして、図6に示すとおり、支持固定具4がチルト角15度及びヨー角0度で基台2上に装着される。放射線を照射すべき患者の頭部46は、図6に二点鎖線で示すとおり、支持固定具4上に位置付けられ、そして固定手段(図示していない)によって支持固定具4に固定される。
【0022】
図5及び図6と共に図7を参照して説明を続けると、チルト角を5度に設定する場合には基台2上にチルト角設定部材6Aを載置し、基台2と支持固定具4との間にチルト角設定部材6Aを介在させて支持固定具4を装着する。チルト角を10度に設定する場合には基台2上にチルト角設定部材6Bを載置し、基台2と支持固定具4との間にチルト角設定部材6Bを介在させて支持固定具4を装着する。基台2に対するチルト角設定部材6C及び6Bの装着様式及びチルト角設定部材6C及び6Bに対する支持固定具4の装着様式は、上述したとおりの基台2に対するチルト角設定部材6Aの装着様式及びチルト角設定部材6Aに対する支持固定具4の装着様式と実質上同一である。チルト角設定部材6A、6B及び6Cのいずれをも介在せしめることなく基台2に直接的に支持固定具4を装着した場合にはチルト角は0度となる。
【0023】
次に、主として図2と共に図8を参照してヨー角の選択的設定について説明すると、上述したとおり基台2の上面に形成されている一対のピン挿入孔12Aにピン16を挿入し、チルト角設定部材6A、6B又は6Cの底壁部30A、30B又は30Cの下面に形成されている盲穴36A、36B又は36Cにピン16を挿入してチルト角設定部材6A、6B又は6Cを基台2上に装着すると、基台2に対するチルト角設定部材6A、6B又は6C(及び支持固定具4)のヨー角は0度である。基台2に対するチルト角設定部材6A、6B又は6C(及び支持固定具4)のヨー角を+5度、即ち基台2の長手方向中心軸線16に対して時計方向に5度傾斜した状態、に設定する場合には、基台2の上面に形成されている一対のピン挿入孔12Bにピン16を挿入し、チルト角設定部材6A、6B又は6Cの底壁部30A、30B又は30Cの下面に形成されているピン受入孔36A、36B又は36Cにピン16を挿入してチルト角設定部材6A、6B又は6Cを基台2上に装着する。この場合、チルト角設定部材6A、6B又は6Cの底壁部30A、30B又は30Cに形成されている貫通孔34A、34B又は34Cを通して基台2に形成されているねじ穴18Bに締結ねじ44を螺着する。基台2に対するチルト角設定部材6A、6B又は6C(及び支持固定具4)のヨー角を-5度、即ち基台2の長手方向中心軸線16に対して反時計方向に5度傾斜した状態、に設定する場合には、基台2の上面に形成されている一対のピン挿入孔12Cにピン16を挿入し、チルト角設定部材6A、6B又は6Cの底壁部30A、30B又は30Cの下面に形成されているピン受入孔36A、36B又は36Cにピン16を挿入してチルト角設定部材6A、6B又は6Cを基台2上に装着する。この場合、チルト角設定部材6A、6B又は6Cの底壁部30A、30B又は30Cに形成されている貫通孔34A、34B又は34Cを通して基台2に形成されているねじ穴18Cに締結ねじ44を螺着する。
【0024】
放射線照射機の代表例であるリニアックと称される放射線照射機によれば、周方向の等角度間隔おいた複数個の照射経路を通して患者の頭部46における1個の脳腫瘍48に放射線が投射される。図9には、チルト角が0度、5度、10度及び15度の場合における周方向に間隔をおいた8個の放射経路が図示されている。図9を参照すれば、チルト角を0度、5度、10度及び15度に次々に変更して1個の脳腫瘍48に放射線照射すれば、32個(4×8)の放射経路を通して1個の脳腫瘍48に放射線が照射され、1個の脳腫瘍48に対する放射線量に対して、正常細胞を通過する放射線量を微細なものにすることができることが明確に理解される。図10には、ヨー角が0度及び+5度の場合における周方向に間隔をおいた8個の放射経路が図示されている。図10を参照すれば、ヨー角を0度と+5度の2個に変更して1個の脳腫瘍48に放射線を照射すれば、16個(2×8)放射経路を通して1個の脳腫瘍48に放射線が照射され、1個の脳腫瘍48に対する放射線量に対して、正常細胞を通過する放射線量を微細なものにすることができることが明確に理解される。
【0025】
以上、本発明に従って構成された医療用支持固定装置の好適実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲から逸脱することなく種々の修正乃至変形が可能であることは多言を要しない。例えば、図示の実施形態においては、複数個のチルト角を選択的に設定することができると共に、複数個のヨー角を選択的に設定できるが、所望ならば、複数個のチルト角を選択的に設定できるがヨー角は単一である形態(例えば基台2には一対のピン挿入孔12Aは形成されているがピン挿入孔12B及び12Cは形成されていない形態)、或いは複数個のヨー角を選択的に設定することができるがチルト角は単一である形態(例えばチルト角設定部材6Aを含むがチルト角設定部材6B及び6Cは含まない形態)の医療用支持固定装置も可能である。
【符号の説明】
【0026】
2:基台
4:支持固定具
6A、6B及び6C:チルト角設定部材
12A、12B及び12C:ピン挿入孔
16:ピン
18A、18B及び18C:ねじ穴
20:支持固定具の本体
30A、30B及び30C:チルト角設定部材の底壁部
32A、32B及び32C:チルト角設定部材の支持壁部
34A、34B及び34C:貫通孔
36A、36B及び36C:ピン受入孔
44:締結ねじ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10