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特開2024-42946再生炭素繊維強化プラスチック用熱可塑性樹脂組成物、および再生炭素繊維強化プラスチック
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  • 特開-再生炭素繊維強化プラスチック用熱可塑性樹脂組成物、および再生炭素繊維強化プラスチック 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042946
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】再生炭素繊維強化プラスチック用熱可塑性樹脂組成物、および再生炭素繊維強化プラスチック
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20240322BHJP
   C08K 7/06 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C08L101/00
C08K7/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147875
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】artience株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大川 萌
(72)【発明者】
【氏名】草間 大輔
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克行
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002AA011
4J002AA012
4J002BB121
4J002BB152
4J002BB211
4J002BB212
4J002BG061
4J002BN151
4J002BP012
4J002BP031
4J002CF071
4J002CF092
4J002CG011
4J002CL011
4J002CL031
4J002DA016
4J002FA046
4J002GN00
(57)【要約】      (修正有)
【課題】再生炭素繊維を用いた場合であっても生産性に優れ、引張弾性率だけでなく、耐衝撃性にも優れた再生炭素繊維強化プラスチックを形成可能な再生炭素繊維強化プラスチック用樹脂組成物、およびそれを用いた再生炭素繊維強化プラスチックを提供する。
【解決手段】再生炭素繊維(A)と弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を含有し、弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ(1)~(3)を満たすことを特徴とする、熱可塑性樹脂組成物により解決される。
(1)式[(ドメイン(D)の最大直径×π)/(4×ドメイン(D)の面積)]で求められるドメイン(D)の円形係数の平均値が1.0~2.5である。
(2)ドメイン(D)の平均面積が0.001~0.5μmである。
(3)ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率D:Mが1:99~50:50である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
再生炭素繊維強化プラスチック用熱可塑性樹脂組成物であって、
再生炭素繊維(A)と弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を含有し、
弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ以下の(1)~(3)を満たすことを特徴とする、
熱可塑性樹脂組成物。

(1)ドメイン(D)の最大直径(μm)と面積(μm2)から下記数式(1)により求められるドメイン(D)の円形係数の平均値が1.0~2.5である。
(2)ドメイン(D)の平均面積が0.001~0.5μm2である。
(3)ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率D:Mが1:99~50:50である。

ドメイン(D)の円形係数
=(ドメイン(D)の最大直径×π)/(4×ドメイン(D)の面積)・・・数式(1)
【請求項2】
ドメイン(D)の平均アスペクト比が1.0~2.0であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
ドメイン(D)のドメイン径D90をドメイン径D10で除した値が1.5~25であることを特徴とする請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
熱可塑性樹脂(B)は、酸変性熱可塑性エラストマーを含む、請求項1記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4いずれか1項記載の熱可塑性樹脂組成物から形成されてなる、再生炭素繊維強化プラスチック。
【請求項6】
再生炭素繊維(A)と弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を含有し、
弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ以下の(1)~(3)を満たすことを特徴とする再生炭素繊維強化プラスチック。

(1)ドメイン(D)の最大直径(μm)と面積(μm2)から下記数式(1)により求められるドメイン(D)の円形係数の平均値が1.0~2.5である。
(2)ドメイン(D)の平均面積が0.001~0.5μm2である。
(3)ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率D:Mが1:99~50:50である。

ドメイン(D)の円形係数
=(ドメイン(D)の最大直径×π)/(4×ドメイン(D)の面積)・・・数式(1)
【請求項7】
再生炭素繊維(A)と再生炭素繊維(A)と弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を溶融混錬し、
弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ以下の(1)~(3)を満たす熱可塑性樹脂組成物とする、
再生炭素繊維強化用熱可塑性樹脂組成物の製造方法。

(1)ドメイン(D)の最大直径(μm)と面積(μm2)から下記数式(1)により求められるドメイン(D)の円形係数の平均値が1.0~2.5である。
(2)ドメイン(D)の平均面積が0.001~0.5μm2である。
(3)ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率D:Mが1:99~50:50である。

ドメイン(D)の円形係数
=(ドメイン(D)の最大直径×π)/(4×ドメイン(D)の面積)・・・数式(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、再生炭素繊維強化プラスチック用熱可塑性樹脂組成物と、前記熱可塑性樹脂組成物から形成してなる再生炭素繊維強化プラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維(以下、CFと称することがある)によって強化された炭素繊維強化プラスチック(以下、CFRPと称することがある)は、スポーツ用品、航空機部品などの産業用品に広範な分野に亘って使用されている。これまでガラス繊維複合材料が用いられてきた風力発電の回転羽根は、効率向上および大型化を達成するべく、軽量かつ高強度なCFRPに置き換えられつつある。
【0003】
また、安全性が重視される自動車や航空機の部品においては、CFRPの製造工程において生じる中間製品の端材が多くなる。さらに、CFRPの需要が拡大していることに加え、航空機部品等のCFRPの寿命が約20年とされていることより、CFRP廃材は今後も増加していくことが見込まれる。このため、CFRP廃材等より炭素繊維を回収した再生炭素繊維(以下、r-CFと称することがある)を用いた、再生炭素繊維強化プラスチック(以下、r-CFRPと称することがある)が検討されている。
【0004】
これまで、使用済みのCFRP廃材やCFRPの製造工程で生じる端材(プリプレグ、シートモールディングコンパウンド等)は、破砕後に埋め立て処分されてきたが、r-CFとして再利用するために、r-CFの回収方法が検討されている。
【0005】
例えば、特許文献1には、r-CFの回収方法として、CFPRを鱗片状に破砕した後、実質的に非酸化性雰囲気下にて300~1,000℃の温度範囲で乾留する方法、並びにCFPRを実質的に非酸化性雰囲気下にて300~1,000℃の温度範囲で乾留した後、鱗片状に破砕する方法が開示されている。特許文献2には、CFおよびマトリックス樹脂を含むCFRPからr-CFを得る方法として、CFRPを加熱することによってマトリックス樹脂を熱分解して、樹脂残渣含有率が0.01~30.0質量%である加熱処理物を得、加熱処理物を切断するr-CFの製造方法が開示されている。
【0006】
そして、r-CFを用いたr-CFRPとしては、特許文献3に、樹脂と、繊維長変動係数が20%以上であり、且つ、サイジング剤を含まないr-CFとを用いて得られたr-CFRPが開示されている。また、特許文献4に、r-CFと、ポリオレフィン樹脂と、塩基性基を有する分散剤とを含むr-CFRPが開示されている。このr-CFは平均繊維長を0.05~15.0mmとし、r-CFRP100質量%中、r-CFの配合量が1~50質量%である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平7-118440号公報
【特許文献2】特開2020-075493号公報
【特許文献3】特開2019-163354号公報
【特許文献4】特開2020-176244号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、強化プラスチックに要求される強度としては、ゆっくり力を加えた場合の、そのもの自体の硬さを表す引張弾性率だけでなく、瞬間的に力が加わった時にその力を分散させる力である耐衝撃性の両方が要求される。
しかし、再生炭素繊維強化プラスチックでは、r-CFを樹脂に練りこむことで引張弾性率が向上した強化プラスチックとすることはできるが、r-CFは樹脂との相溶性に乏しく、樹脂に練り込もうとしても押出が安定しないため生産性が悪く、耐衝撃性に問題があり、引張弾性率と耐衝撃性とを両立することはできていないのが現状である。
【0009】
そこで本発明は上記背景に鑑みてなされたものであり、再生炭素繊維を用いた場合であっても生産性に優れ、引張弾性率だけでなく、耐衝撃性にも優れた再生炭素繊維強化プラスチックを形成可能な再生炭素繊維強化プラスチック用樹脂組成物、およびそれを用いた再生炭素繊維強化プラスチックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らが鋭意検討を重ねたところ、以下の態様において、本発明の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
[1]:再生炭素繊維強化プラスチック用熱可塑性樹脂組成物であって、
再生炭素繊維(A)と弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を含有し、
弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ以下の(1)~(3)を満たすことを特徴とする、
熱可塑性樹脂組成物。
(1)ドメイン(D)の最大直径(μm)と面積(μm2)から下記数式(1)により求められるドメイン(D)の円形係数の平均値が1.0~2.5である。
(2)ドメイン(D)の平均面積が0.001~0.5μm2である。
(3)ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率D:Mが1:99~50:50である。
ドメイン(D)の円形係数
=(ドメイン(D)の最大直径×π)/(4×ドメイン(D)の面積)・・・数式(1)
[2]:ドメイン(D)の平均アスペクト比が1.0~2.0であることを特徴とする[1]記載の熱可塑性樹脂組成物。
[3]:ドメイン(D)のドメイン径D90をドメイン径D10で除した値が1.5~25であることを特徴とする[1]または[2]記載の熱可塑性樹脂組成物。
[4]:熱可塑性樹脂(B)は、酸変性熱可塑性エラストマーを含む、[1]~[3]いずれか記載の熱可塑性樹脂組成物。
[5]:[1]~[4]いずれか記載の熱可塑性樹脂組成物から形成されてなる、再生炭素繊維強化プラスチック。
[6]:再生炭素繊維(A)と弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を含有し、
弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ以下の(1)~(3)を満たすことを特徴とする再生炭素繊維強化プラスチック。

(1)ドメイン(D)の最大直径(μm)と面積(μm2)から下記数式(1)により求められるドメイン(D)の円形係数の平均値が1.0~2.5である。
(2)ドメイン(D)の平均面積が0.001~0.5μm2である。
(3)ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率D:Mが1:99~50:50である。

ドメイン(D)の円形係数
=(ドメイン(D)の最大直径×π)/(4×ドメイン(D)の面積)・・・数式(1)
[7]:再生炭素繊維(A)と再生炭素繊維(A)と弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を溶融混錬し、
弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ以下の(1)~(3)を満たす熱可塑性樹脂組成物とする、
再生炭素繊維強化用熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(1)ドメイン(D)の最大直径(μm)と面積(μm2)から下記数式(1)により求められるドメイン(D)の円形係数の平均値が1.0~2.5である。
(2)ドメイン(D)の平均面積が0.001~0.5μm2である。
(3)ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率D:Mが1:99~50:50である。

ドメイン(D)の円形係数
=(ドメイン(D)の最大直径2×π)/(4×ドメイン(D)の面積)・・・数式(1)
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、再生炭素繊維を用いた場合でも、生産性に優れた再生炭素繊維強化プラスチック用熱可塑性樹脂組成物を形成でき、これにより得られた再生炭素繊維強化プラスチックは、引張弾性率および耐衝撃性に優れるものとできる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例、および比較例のr-CFRPの断面のSPM測定の弾性率像例。
図2】実施例8のr-CFRPの断面のSPM測定の弾性率像。
図3】実施例8のr-CFRPの断面のSPM測定の弾性率像を画像処理ソフトにより2値化した解析画像。
図4】実施例8におけるドメイン(D)の最大物体幅と最小物体幅例。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示の熱可塑性樹脂組成物および再生炭素繊維強化プラスチックの一例について説明する。
なお、本発明の趣旨に合致する限り、他の実施形態も本発明の範疇に含まれる。また、本明細書において「~」を用いて特定される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を含む。
本明細書において、再生炭素繊維をr-CF、炭素繊維(即ち、非再生炭素繊維)をCFとして区別し、また、再生炭素繊維強化プラスチックをr-CFRP、炭素繊維強化プラスチック(即ち、非再生炭素繊維強化プラスチック)をCFRPというものとする。
また、「非再生炭素繊維強化プラスチックおよび/または再生炭素繊維強化プラスチック」を、「強化プラスチック」と称することがある。
また、本明細書中に出てくる各種成分は特に注釈しない限り、それぞれ独立に一種単独でも二種以上を併用してもよい。
なお、本明細書において特定する数値は、実施形態または実施例に開示した方法により求められる値である。
【0014】
《熱可塑性樹脂組成物》
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、再生炭素繊維強化プラスチックを形成するために用いられ、再生炭素繊維(A)(以下、r-CF(A)ともいう)と、弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を含有する。
本発明者らが鋭意検討を重ねた結果、弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、以下の(1)~(3)を満たすことにより、熱可塑性樹脂と再生炭素繊維の相溶性が顕著に向上し、熱可塑性樹脂組成物は生産性に優れ、さらに、得られた再生炭素繊維強化プラスチックは、引張弾性率および衝撃耐性を向上できることがわかった。その結果、再生炭素繊維であっても、非再生炭素繊維を用いた場合と同等に強化することが可能となり、これまで金属材料が用いられてきた部品を、軽量性において優れるr-CFRPに置き換えることが期待できる。

(1)ドメイン(D)の最大直径(μm)と面積(μm2)から下記数式(1)により求められるドメイン(D)の円形係数の平均値が1.0~2.5である
(2)ドメイン(D)の平均面積が0.001~0.5μm2である。
(3)ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率D:Mが1:99~50:50である。

ドメイン(D)の円形係数
=(ドメイン(D)の最大直径×π)/(4×ドメイン(D)の面積)・・・数式(1)
【0015】
<ドメイン(D)とマトリックス(M)>
熱可塑性樹脂組成物、再生炭素繊維強化プラスチックはドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を有する。
熱可塑性樹脂組成物における海島構造は、複数の熱可塑性樹脂を用いることにより形成され、熱可塑性樹脂の相溶性や弾性率等の、用いる素材の特性、および樹脂組成物の混錬条件等により制御することができる。
本発明の海島構造は、弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂により形成される。ドメイン(D)は、弾性率の小さい熱可塑性樹脂から形成され、マトリックス(M)は弾性率の大きい熱可塑性樹脂から形成されることが好ましい。
これにより、少なくとも2種の熱可塑性樹脂は、弾性率の違いによってそれぞれ、熱可塑性樹脂由来のドメイン(D)とマトリックス(M)に境界が明確にわかれ、海島構造が観察される。
海島構造は、樹脂組成物および再生炭素繊維強化プラスチックの断面を走査型プローブ顕微鏡(以下、SPMとも省略する)で観察し、検出される弾性率の違いによって特定されるものである。SPMとは、試料表面を微小な探針(カンチレバー)でタッピングしながら走査することによって、表面状態を観察する顕微鏡である。凹凸に代表されるような一般的な表面形状の他、タッピングの際に発生する電圧のピーク値は測定表面の弾性率と対応するため、該電圧ピーク値により表面の弾性率の大小を像として表現することができる。具体的には樹脂組成物および再生炭素繊維強化プラスチックの断面をオックスフォードインストゥルメンツ社のMFP-3Dを用い、カンチレバー:AC-160TS、ダイナミック測定モードで観察する。測定範囲は5μm×5μm範囲とし弾性率像を観察する。
SPMで観察する断面を得る方法として、液体窒素等で凍結させた対象サンプルを割る(凍結割断法)、カミソリのような鋭利な刃物で対象サンプルを切断する(ミクロトーム法)、カッター等で切り出した対象サンプルの断面を研磨紙によって整える、クロスセクションポリッシャー装置によりイオンビームを試料に照射して加工を行う方法(イオンミリング法)があり、種々の方法で断面を得ることができるが、これらの中でもイオンミリング法が最も好ましい。
ドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造は、熱可塑性樹脂組成物の、成形時の流れ方向によって大きく変わるものではなく、樹脂組成物および再生炭素繊維強化プラスチックをどの方向に切り出しても、海島構造の形態は同じである。
【0016】
「ドメイン(D)の円形係数」
ドメイン(D)の最大直径(μm)と面積(μm2)から下記数式(1)により求められるドメイン(D)の円形係数の平均値(以下、円形係数とも省略する)は、1.0~2.5である。
ドメイン(D)の円形係数=(ドメイン(D)の最大直径×π)/(4×ドメイン(D)の面積) ・・・数式(1)
ここで、最大直径は、選択したドメイン(D)の最大長の長さである。
たとえば、実施例8の1つのドメイン(D)を例にすると、図4における最大物体幅(μm)のことである。
【0017】
円形係数とは円らしさを表す指標であり円形係数によりドメイン(D)の形状が円に近いか否かがわかる(数値が小さいほど円に近い)。円形係数の平均値が1.0~2.5であることで、引張弾性率および耐衝撃性が向上するという効果を得られる。円形係数は1.1~2.0が好ましく、1.1~1.5がより好ましい。
円形係数が2.5より大きいと、衝撃を受けた時の力を分散できず耐衝撃性が低下する。
【0018】
「ドメイン(D)の平均面積」
ドメイン(D)の平均面積は0.001~0.5μm2である。0.003~0.3μm2であることがより好ましい。0.001μm2より小さいと、熱可塑性樹脂が、過度に分散され、衝撃を受けた時のクッション性を損ね、耐衝撃性が低下する。0.5μm2よりも大きいと、分散不良により熱可塑性樹脂とr-CFの馴染みが悪くなり、耐衝撃性および引張弾性率が低下する。
ドメイン(D)の平均面積は上記のSPMによる弾性率像をフリーソフトウエア「ImageJ」を用いて二値化処理し、ドメイン(D)およびマトリックス(M)各色のピクセル数から求められる。
【0019】
「ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率」
本発明における海島構造のドメイン(D)とマトリックス(M)の含有量割合はドメイン(D)≦マトリックス(M)である。また、ドメイン(D)とマトリックス(M)の面積比率(D):(M)は1:99~50:50である。引張弾性率の観点から、5:95~40:60が好ましく、5:95~30:70がより好ましい。マトリックス(M)よりもドメイン(D)の含有割合が大きくなると引張弾性率が大きく低下する。
面積比率(D):(M)は、上記のSPMによる弾性率像をフリーソフトウエア「ImageJ」を用いて二値化処理し、ドメイン(D)およびマトリックス(M)各色のピクセル数から求められる。ドメイン(D)の比率は、弾性率の小さい熱可塑性樹脂の含有割合を増やすと上昇する。
【0020】
「ドメイン(D)の平均アスペクト比」
ドメイン(D)の最大物体幅の数平均値(μm)と最小物体幅の数平均値(μm)から下記数式(2)により求められるドメイン(D)の平均アスペクト比は1.0~2.0であることが好ましい。1.0~1.8であることがより好ましく、1.0~1.5がさらに好ましい。
平均アスペクト比=長軸長の数平均値÷短軸長の数平均値・・・数式(2)
平均アスペクト比が2.0以下であることで耐衝撃性がより向上する。
円形係数およびアスペクト比は、SPMによる弾性率像をフリー解析ソフト「ImageJ」を用いて二値化処理し、これを計測して求めることができる。
【0021】
「ドメイン径」
本発明におけるドメイン径とは、樹脂組成物、または再生炭素繊維強化プラスチックの断面の、SPMによる弾性率像をフリー解析ソフト「ImageJ」を用いて二値化処理し、ドメイン(D)の面積より円相当径を求め、その累積体積が10%、50%および90%になる粒子径の値を、それぞれドメイン径D10、D50およびD90としたものである。円相当径は、ドメイン(D)の面積と同じ面積の等価円の直径であり、以下の式で求められる。
円相当径=2√( 面積/π )
ドメイン径D10は、0.005~0.04μmであることが好ましく、0.01~0.03μmがより好ましい。ドメイン径D50は0.01~0.1μmであることが好ましく、0.02~0.08μmがより好ましい。ドメイン径D90は0.05~1.0μmであることが好ましく、0.1~0.5μmがより好ましい。この範囲であることで衝撃性向上に効果がある。ドメイン径を調整する方法としては、樹脂組成物を製造する際の混練度合いを調整することなどが挙げられる。
【0022】
「D90/D10
ドメイン径D90をドメイン径D10で除した値(以下、D90/D10とも省略する)は1.5~25であることが好ましい。2~15であることがより好ましく、5~10がさらに好ましい。
各種ドメイン径を上記の範囲とすることで大小のドメイン(D)が混在した樹脂組成物が形成され、ドメイン径が均一な場合に比べて耐衝撃性をより向上させることができるために好ましい。D90/D10が1.5より小さいとドメイン径が均一ということになり受けた衝撃を分散するのに適さない。ドメインを形成する樹脂とマトリックを形成する樹脂の相溶性が悪いとD90/D10が25より大きくなり、生産性や耐衝撃性が悪い。
【0023】
<再生炭素繊維(A)>
r-CF(再生炭素繊維)は、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)の端材、またはCFRP廃材等を再生処理して回収した炭素繊維である。r-CFの原料となるCFRPは、CF(炭素繊維)およびマトリックス樹脂を含むものであり、成形後の製品のみならず成形前の中間製品(プリプレグ、トウプレグ、シートモールディングコンパウンド、スタンパブルシート、バルクモールディングコンパウンド等)を含む。なお、CFRPの形状、含まれるCFの形態は特に限定されない。CFRPのマトリックス樹脂には、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂等が用いられる。
【0024】
r-CF(A)を含有する熱可塑性樹脂組成物の強度を良好に保つ観点から、r-CF(A)の炭素含有率の下限は80質量%以上であることが好ましい。r-CF(A)の炭素含有率は95.0質量%以下であることが好ましい。なお、本発明の効果に影響を与えない範囲においてr-CF(A)において窒素、ケイ素、ナトリウム、硫黄などの他の元素が含まれていてもよい。
【0025】
r-CF(A)の繊維長は、引張弾性率および耐衝撃性をより高める観点から0.05mm以上であることが好ましい。上限値は特に限定されないが、入手容易性を考慮すると20mm以下が好適である。
【0026】
r-CF(A)の市販品としては、例えば、CARBISO MFシリーズ(平均繊維長0.08~0.1mm)、CARBISO Cシリーズ(平均繊維長3~10mm)が挙げられる。
なお平均繊維長は、下記の方法で求めることができる。
例えば、走査型電子顕微鏡(日本電子(JEOL)社製、JSM-6700M))を用いて加速電圧5kVにて再生炭素繊維を観察し、5万倍の画像(画素数1024×1280)を撮影する。次いで、撮影された画像にて任意の再生炭素繊維20本について、各々の長軸長を測定して、平均繊維長を求めることができる。
【0027】
熱可塑性樹脂組成物の生産性をより高める観点からは、r-CF(A)の嵩密度が0.03~1.0g/cmであることが好ましい。嵩密度がこの範囲にあるr-CF(A)を用いることにより、熱可塑性樹脂組成物の製造にあたって、生産設備にr-CF(A)を供給する際に供給口に繊維が滞留することを効果的に抑制し、生産性を高めることができる。r-CF(A)の嵩密度のより好適な範囲は0.05~1.0g/cmであり、更に好ましい範囲は0.1~1.0g/cmである。粉砕機回転刃の回転数や分級メッシュの目開き等を調整することで、嵩密度0.05~1.0g/cmのr-CF(A)を得ることができる。
なお嵩密度は、測定装置としてスコットボリュームメータ(筒井理化学器機社製)を用い、再生炭素繊維を測定装置上部より直円筒容器に流し入れ、山盛りになったところですり切った一定容積の試料質量を測定し、この質量と容器容積の比から、下記数式(3)に基づいて算出することができる。
嵩密度(g/mL)=(すり切った一定容積の再生炭素繊維の質量(g))÷(容器容積(mL)) ・・・数式(3)
【0028】
r-CF(A)の配合量は、耐衝撃性と生産性を両立する観点から、熱可塑性樹脂組成物100質量%中、10~50質量%が好ましく、15~40質量%であることがより好ましく、更に好ましくは20~40質量%である。
【0029】
<熱可塑性樹脂(B)>
熱可塑性樹脂とは、適当な温度に加熱すると軟化して可塑性をもち、冷却すると固化する樹脂である。
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を含む。熱可塑性樹脂(B)は、特に限定されず、熱可塑性樹脂組成物の樹脂部が、弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、(1)~(3)を満たすことができれば、種々の選択が可能である。
なお、本発明における弾性率は、JIS K7161に準拠して測定した、引張弾性率を指す。
【0030】
熱可塑性樹脂(B)としては、弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂であれば、種々の選択が可能であるが、マトリックス(M)を構成する熱可塑性樹脂の弾性率(E)と、ドメイン(D)を構成する熱可塑性樹脂の弾性率(E)が、
弾性率(E)>弾性率(E
の関係を満たすことが好ましい。
マトリックス(M)を構成する熱可塑性樹脂の弾性率(E)の値は、耐衝撃性の観点から1000МPa~8000МPaであることが好ましく、再生炭素繊維の配向性のしやすさから1000МPa~5000МPaであることがより好ましい。また、ドメイン(D)を構成する熱可塑性樹脂の弾性率(E)の値は、1~1500МPaの範囲にあることが好ましく、1~1000МPaの範囲にあることがより好ましい。
さらに、弾性率(E)と弾性率(E)との差(弾性率(E)-弾性率(E))が500МPa以上であることが好ましく、1000МPa以上であることがより好ましい。
熱可塑性樹脂組成物が含有する熱可塑性樹脂が3種以上の場合には、マトリックス(M)を構成する熱可塑性樹脂とドメイン(D)を構成する熱可塑性樹脂のそれぞれの混合物の弾性率が上記要件を満たすことが好ましい。
【0031】
用いることのできる熱可塑性樹脂としては例えば、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリスチレン樹脂(PS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体樹脂(ABS)などのスチレン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)などのポリオレフィン系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂(PPE)、ポリアセタール樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂等が挙げられる。
これらの熱可塑性樹脂は、酸等により変性された酸変性樹脂であってもよい。
また、これらの熱可塑性樹脂(B)は、熱可塑性エラストマーであってもよく、さらに酸等により変性された酸変性熱可塑性エラストマーであってもよい。
【0032】
なかでも、ポリアミド系樹脂(以下、熱可塑性樹脂(B1)ともいう)、アクリル系樹脂(以下、熱可塑性樹脂(B2)ともいう)、スチレン系以下、樹脂(熱可塑性樹脂(B3)ともいう)、ポリエステル系樹脂(以下、熱可塑性樹脂(B4)ともいう)、ポリカーボネート系樹脂(以下、熱可塑性樹脂(B5)ともいう)、およびポリオレフィン系樹脂(以下、熱可塑性樹脂(B6)ともいう)からなる群より選ばれる少なくともいずれかであることが好ましく、熱可塑性樹脂(B1)または熱可塑性樹脂(B4)であることがコストと機械物性のバランスの観点により好ましい。
ただし、熱可塑性樹脂(B1)、(B2)、(B3)、(B4)、(B5)、および(B6)は、熱可塑性エラストマーである場合を除く。
【0033】
これらの熱可塑性樹脂(B1)、(B2)、(B3)、(B4)、(B5)、または(B6)と、熱可塑性エラストマー(以下、熱可塑性樹脂(b)ともいう)とを組み合わせて用いることが、再生炭素繊維(A)と熱可塑性樹脂(B)との相溶性の観点から好ましい。
また、熱可塑性樹脂(b)は、酸変性熱可塑性エラストマー(以下、熱可塑性樹脂(bx)ともいう)であることが好ましい。
【0034】
また、熱可塑性樹脂(B6)を用いる場合、酸変性されていないポリオレフィン系樹脂と、酸変性ポリオレフィン系樹脂を組み合わせて用いることが好ましい。
【0035】
すなわち好ましい熱可塑性樹脂(B)の組み合わせとして具体的には、例えば、熱可塑性樹脂(B1)と熱可塑性樹脂(b)、熱可塑性樹脂(B2)と熱可塑性樹脂(b)、熱可塑性樹脂(B3)と熱可塑性樹脂(b)、熱可塑性樹脂(B4)と熱可塑性樹脂(b)、熱可塑性樹脂(B5)と熱可塑性樹脂(b)、または熱可塑性樹脂(B6)と熱可塑性樹脂(b)を含むことが好ましく、より好ましくは、熱可塑性樹脂(b)が、熱可塑性樹脂(bx)である場合である。
また、強化プラスチックとしての扱いやすさやコストの観点から、熱可塑性樹脂(B1)と熱可塑性樹脂(bx)、または熱可塑性樹脂(B6)として酸変性していないポリオレフィン系樹脂および酸変性ポリオレフィン系樹脂と、熱可塑性樹脂(B6x)とを含むことが好ましい。
【0036】
熱可塑性樹脂(B)の含有率は、混合物の流動性の観点から、熱可塑性樹脂組成物100質量%中、50~100質量%であることが好ましく、52~95質量%であることがより好ましく、60~90質量であることがさらに好ましい。なお、前記含有率は、少なくとも2種の熱可塑性樹脂の、合計の含有率である。
【0037】
また、酸変性ポリオレフィン系樹脂を用いる場合、酸変性ポリオレフィン系樹脂の含有率は、熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%を基準として、1~40質量%が好ましく、1~30質量%がより好ましく、5~20質量%が更に好ましい。
酸変性ポリオレフィン系樹脂の含有率がこの範囲であると、r-CF(A)と熱可塑性樹脂(B)の界面密着性を向上させることができ、ダイス先端の堆積物の発生をより抑制することができるため、生産性が向上できる。
【0038】
熱可塑性エラストマーを含む場合、熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%を基準として、熱可塑性エラストマーの含有率は3~30質量%が好ましく5~25質量%がより好ましく、7~20質量%が更に好ましい。
なかでも、酸変性熱可塑性エラストマーを含む場合、熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%を基準として、酸変性熱可塑性エラストマーの含有率は3~25質量%が好ましく、5~20質量%がより好ましく、7~15質量%が更に好ましい。
【0039】
酸変性ポリオレフィン系樹脂および熱可塑性エラストマーを含む場合、熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%を基準として、酸変性ポリオレフィン系樹脂および熱可塑性エラストマーの合計の含有率は、高い物性を達成できることから、熱可塑性樹脂(B)の合計100質量%を基準として、3~30質量%であることが好ましく、5~25質量%がより好ましく、7~20質量%が更に好ましい。
【0040】
熱可塑性樹脂(B)は平均MFRが10g/分以上である熱可塑性樹脂であることが好ましく、20g/分以上が更に好ましい。熱可塑性樹脂(B)の平均MFRが10g/分以上であることにより、r-CF(A)と熱可塑性樹脂(B)を混錬した際の溶融粘度が下がり、r-CF(A)の破壊を抑制することができるため高い機械物性を発現することができる。熱可塑性樹脂(B)の平均MFRの上限値は特に限定されないが、入手容易性の観点からは通常200g/分以下である。
【0041】
樹脂のMFRは、JIS K7210-1に準拠して測定し、求めることができる。
【0042】
[熱可塑性樹脂(B1):ポリアミド系樹脂(PA樹脂)]
熱可塑性樹脂(B1)として、ポリアミド系樹脂(PA樹脂)を用いることができる。ただし、熱可塑性樹脂(B1)は、熱可塑性エラストマーである場合は除く。
熱可塑性樹脂(B1)の具体例として、-[NH(CHCO]-、-[NH(CHNHCO(CHCO]-、-[NH(CHNHCO(CHCO]-、-[NH(CH10CO]-、-[NH(CH11CO]-、および-[NH(CHNHCO-D-CO]-(式中Dは炭素数3~4の不飽和炭化水素を示す)からなる群より選ばれた少なくとも一種を構造単位とするポリアミド樹脂が好ましく用いられる。具体例として、6-ナイロン、66-ナイロン、610-ナイロン、11-ナイロン、12-ナイロン、6/66共重合ナイロン、6/610共重合ナイロン、6/11共重合ナイロン、6/12共重合ナイロン、6/66/11共重合ナイロン、6/66/12共重合ナイロン、6/66/11/12共重合ナイロン、6/66/610/11/12共重合ナイロンおよびダイマー酸系ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0043】
前記6-ナイロン樹脂の具体例として、アミランCM1041-LO(東レ社製、MFR:21g/10分)、アミランCM1007(東レ社製、MFR:21g/10分)、ユニチカナイロンA1020LP(ユニチカ社製、MFR:109g/10分)等が挙げられる。
【0044】
前記66-ナイロン樹脂の具体例として、アミランCM3001N(東レ社製、MFR:103g/10分)等が挙げられる。
【0045】
[熱可塑性樹脂(B2):アクリル系樹脂]
熱可塑性樹脂(B2)として、アクリル系樹脂を用いることができる。ただし、熱可塑性樹脂(B2)は、熱可塑性エラストマーである場合は除く。
熱可塑性樹脂(B2)は、(メタ)アクリル系モノマーを重合することによって得ることができる。モノマーとしては、例えば、アルキル基を有する(メタ)アクリル系モノマー、水酸基を有する(メタ)アクリル系モノマー、カルボキシル基を有する(メタ)アクリル系モノマー、グリシジル基を有する(メタ)アクリル系モノマー、酢酸ビニルやプロピオン酸ビニル等のビニルエステル基を有するアクリル系モノマー等が挙げられる。中でも、高い弾性率を達成できることから、メタクリル酸メチルの重合体であるポリメチルメタクリレート(PMMA)樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂(B2)はガラス転移温度が0℃以上のアクリル系樹脂であることが好ましい。
【0046】
アクリル系樹脂(B2)の具体例としてはアクリペットTF-9(三菱ケミカル社製、MFR20g/10分)等が挙げられる。
【0047】
[熱可塑性樹脂(B3):スチレン系樹脂]
熱可塑性樹脂(B3)として、スチレン系樹脂を用いることができる。ただし、熱可塑性樹脂(B3)は、熱可塑性エラストマーである場合は除く。
熱可塑性樹脂(B3)は、スチレン系単量体をモノマーとする樹脂である。スチレン系単量体の単独重合体の他、必要に応じてこれらと共重合可能な他のビニル単量体、またはゴム質重合体等を共重合して得られるスチレン系樹脂を挙げることができる。
熱可塑性樹脂(B3)は、ガラス転移温度が0℃以上のスチレン系樹脂であることが好ましい。
【0048】
スチレン系単量体としては、スチレン、α-メチルスチレン、o-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ビニルキシレン、エチルスチレン、ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、ビニルナフタレン、メトキシスチレン、モノブロムスチレン、ジブロムスチレン、フルオロスチレン、トリブロムスチレン等のスチレン誘導体を挙げることができ、成形性が優れる観点から、特にスチレンが好ましい。
【0049】
スチレン系単量体と共重合可能な、他のビニル単量体としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル化合物、フェニルアクリレート、ベンジルアクリレート等のアクリル酸のアリールエステル、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、ドデシルアクリレート等のアクリル酸のアルキルエステル、フェニルメタクリレート、ベンジルメタクリレート等のメタクリル酸アリールエステル、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート等のメタクリル酸アルキルエステル、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有メタクリル酸エステル、マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸及びその無水物が挙げられる。
【0050】
スチレン系単量体と共重合可能な、ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン・ブタジエンのランダム共重合体及びブロック共重合体、アクリロニトリル・ブタジエン共重合体、アクリル酸アルキルエステルまたはメタクリル酸アルキルエステル及びブタジエンの共重合体、ブタジエン・イソプレン共重合体等のジエン系共重合体、エチレン・プロピレンランダム共重合体及びブロック共重合体、エチレン・ブテンのランダム共重合体及びブロック共重合体等のエチレンとα-オレフィンとの共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体等のエチレンと不飽和カルボン酸エステルとの共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体等のエチレンと脂肪族ビニルとの共重合体、エチレン・プロピレン・ヘキサジエン共重合体等のエチレンとプロピレンと非共役ジエンターポリマー、ポリアクリル酸ブチル等のアクリル系ゴム、及びポリオルガノシロキサンゴム成分とポリアルキル(メタ)アクリレートゴム成分とが分離できないように相互に絡み合った構造を有している複合ゴム等が挙げられる。
【0051】
これらの単量体から構成されるスチレン系樹脂としては、例えば、ポリスチレン、スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(SBS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)、メチルメタクリレート・ブタジエン・スチレン共重合体(MBS樹脂)、メチルメタクリレート・アクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(MABS樹脂)、アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン共重合体(AAS樹脂)、アクリロニトリル・エチレンプロピレン系ゴム・スチレン共重合体(AES樹脂)及びスチレン・IPN型ゴム共重合体等の樹脂、またはこれらの混合物が挙げられる。
【0052】
さらにスチレン系単量体と共重合可能なゴム質重合体として、ポリブタジエンまたはポリイソプレンからなり、その不飽和結合を水添(水素化)した重合体を挙げることもできる。かかる場合の具体例としては、水添スチレン・ブタジエン・スチレン共重合体(水添SBS)、水添スチレン・イソプレン・スチレン共重合体(SEPS)を挙げることができる。
これらの中でも、r-CF(A)との相溶性が良好なことから、アクリロニトリル・スチレン共重合体(AS樹脂)、またはアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)が好ましく、耐衝撃性が良好なことからアクリロニトリル・ブタジエン・スチレン共重合体(ABS樹脂)がさらに好ましい。
【0053】
ABS樹脂の具体例としては、セビアンT-500SF(ダイセルミライズ社製、MFR25g/10分)等が挙げられる。
【0054】
[熱可塑性樹脂(B4):ポリエステル系樹脂]
熱可塑性樹脂(B4)として、ポリエステル系樹脂を用いることができる。ただし、熱可塑性樹脂(B4)は、熱可塑性エラストマーである場合は除く。
熱可塑性樹脂(B4)には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリシクロヘキセレンジメチレンテレフタレート(PCT)、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、液晶ポリエステルなどが例示でき、好適な熱可塑性樹脂(B4)として、例えば、飽和ジカルボン酸と飽和二価アルコールとからなる熱可塑性樹脂が使用できる。
飽和ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレン-1,4-又は2,6-ジカルボン酸、ジフェニルエーテル-4,4’-ジカルボン酸、ジフェニルジカルボン酸類、ジフェノキシエタンジエタンジカルボン酸類等の芳香族ジカルボン酸類、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、デカン-1.10-ジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸等を使用することができる。
【0055】
飽和二価アルコールとしては、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の脂肪族グリコール類、シクロヘキサンジメタノール等の脂環族グリコール、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、その他の芳香族ジオール類等を使用することができる。
【0056】
ポリエステル系樹脂の具体例としては、トレコン1401×06(PBT樹脂、東レ社製、MFR25g/10分)等が挙げられる。
【0057】
[熱可塑性樹脂(B5):ポリカーボネート系樹脂(PC樹脂)]
熱可塑性樹脂(B5)として、ポリカーボネート系樹脂(PC樹脂)を用いることができる。ただし、熱可塑性樹脂(B5)は、熱可塑性エラストマーである場合は除く。
熱可塑性樹脂(B5)としては、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物と、ホスゲン或いは炭酸ジエステル等のカーボネート前駆体とを反応させることにより容易に製造される樹脂を用いることができる。樹脂の製造は、公知の反応、例えば、ホスゲンを用いる場合は界面法により、また炭酸ジエステルを用いる場合は溶融状で反応させるエステル交換法等により得ることができる。
【0058】
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、例えば、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)オクタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)フェニルメタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、1,1-ビス(4-ヒドロキシ-3-t-ブチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-ブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジブロモフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3,5-ジクロロフェニル)プロパン等のビス(ヒドロキシアリール)アルカン類、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)シクロアルカン類4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルエーテル等のジヒドロキシジアリールエーテル類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルフィドのようなジヒドロキシジアリールスルフィド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホキシド等のジヒドロキシジアリールスルホキシド類、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’-ジヒドロキシ-3,3’-ジメチルジフェニルスルホン等のジヒドロキシジアリールスルホン類等が挙げられる。
これらの他にピペラジン、ジピペリジルハイドロキノン、レゾルシン、4,4’-ジヒドロキシジフェニル類を混合して使用してもよい。更に、フロログルシン等の多官能性化合物を併用した分岐を有する芳香族ポリカーボネート樹脂を使用することもできる。
【0059】
芳香族ジヒドロキシ化合物と反応させるカーボネート前駆体としては、例えば、ホスゲン、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等のジアリールカーボネート類、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート類等が挙げられる。
【0060】
PC樹脂の具体例としては、ユーピロンE-2000(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、MFR5g/10分等が挙げられる。
【0061】
[熱可塑性樹脂(B6):ポリオレフィン樹脂]
熱可塑性樹脂(B6)として、ポリオレフィン樹脂を用いることができる。ただし、熱可塑性樹脂(B6)は、熱可塑性エラストマーである場合は除く。
熱可塑性樹脂(B6)としては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素数2~8程度のα-オレフィンの単独重合体やそれらのα-オレフィンと、エチレン、プロピレン、1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-デセン、1-オクタデセン等の炭素数2~18程度の他のα-オレフィン等との(共)重合体等が挙げられる。
【0062】
具体的には、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、高密度ポリエチレン樹脂(HDPE)等のエチレン単独重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-1-ブテン共重合体、エチレン-プロピレン-1-ブテン共重合体、エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、エチレン-1-ヘキセン共重合体、エチレン-1-ヘプテン共重合体、エチレン-1-オクテン共重合体等のエチレン系樹脂等のエチレン系共重合体、プロピレン単独重合体(ホモPP)、プロピレン-エチレンのブロック共重合体(ブロックPP)、プロピレン-エチレンのランダム共重合体(ランダムPP)、プロピレン-エチレン-1-ブテン共重合体、プロピレン-エチレン-4-メチル-1-ペンテン共重合体、プロピレン-エチレン-1-ヘキセン共重合体等のプロピレン系共重合体等のプロピレン系樹脂が挙げられる。これらのポリオレフィン樹脂は一種単独で用いても二種以上を組み合わせて用いてもよい。高い機械物性が達成できることからプロピレン系樹脂が好ましく、中でも荷重たわみ温度を高めることができることからプロピレン単独共重合体(ホモPP)が更に好ましい。
【0063】
ポリオレフィン樹脂の具体例としては、プライムポリプロJ229E(プライムポリマー社製、ランダムPP、MFR50g/10分)、プライムポリプロJ708UG(ブロックPP、MFR45g/10分)、サンアロマーPM900A(サンアロマー社製、ホモPP、MFR30g/10分)等が挙げられる。
【0064】
「熱可塑性樹脂(B6x)」
熱可塑性樹脂(B6x)として、酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることができる。ただし、熱可塑性樹脂(B6x)は、熱可塑性エラストマーである場合は除く。
熱可塑性樹脂(B6x)を用いることにより、r-CF(A)と熱可塑性樹脂(B)の相溶性が向上し、密着性が上がるために好ましい。
また、高い機械物性が達成できることから、熱可塑性樹脂(B6x)は酸変性プロピレン樹脂であることがさらに好ましい。
なかでも、酸変性されていないポリオレフィン樹脂と、酸変性ポリオレフィン樹脂を組み合わせて用いることが強化プラスチックとしての扱いやすさやコストの観点により好ましい。また、相溶性を顕著に高め、耐衝撃性の高い熱可塑性樹脂組成物を製造することができるために好ましい。
【0065】
酸変性ポリオレフィン樹脂は、ポリオレフィン樹脂にグラフト重合等で酸性官能基を導入した熱可塑性樹脂である。酸性官能基としては例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の環状酸無水物などが挙げられる。
また、DSC法での融点が130℃以上の酸変性ポリオレフィン樹脂であることが好ましく、融点が130~200℃であることがより好ましく、135~180℃であることが更に好ましい。融点が上記範囲の酸変性ポリオレフィン樹脂を用いることにより、熱可塑性樹脂(B)の他の成分との融点差が小さくなり熱可塑性樹脂(B)中での酸変性ポリオレフィン樹脂の分散性がより向上する。このため、熱可塑性樹脂(B)とr-CF(A)との密着性がより向上する。
【0066】
本明細書における融点は示差走査熱量測定(DSC)法により測定された値(セイコーインスツルメンツ社製示唆走査熱量計DSC6200により昇温速度10℃/分にて得られた測定値)である。
【0067】
酸変性ポリオレフィン樹脂の具体例として、アドマーQB550(三井化学社製、MFR10g/10分)等が挙げられる。
【0068】
熱可塑性樹脂(B6x)の配合量は、熱可塑性樹脂(B)100質量%を基準として3~80質量%が好ましく、5~75質量%が更に好ましく、10~40質量%がとくに好ましい。熱可塑性樹脂(B)における熱可塑性樹脂(B6x)の配合量が上記範囲内にあることで引張弾性率と耐衝撃性を両立することができるために好ましい。
【0069】
[熱可塑性樹脂(b)]
熱可塑性樹脂(b)として、熱可塑性エラストマーを用いることができる。
なお、本明細書において「熱可塑性エラストマー」とは、適当な温度に加熱すると軟化して可塑性をもち、冷却すると弾性を示し、DSC法にて融点を示さないポリマーである。
r-CF(A)と熱可塑性樹脂(B)の密着性を向上させるために、熱可塑性樹脂(b)を配合することが好ましい。
熱可塑性樹脂(b)は、酸変性熱可塑性エラストマー(熱可塑性樹脂(bx))と酸変性されていない熱可塑性エラストマー(熱可塑性樹脂(by))に分類できる。
r-CF(A)と熱可塑性樹脂の密着性をより高めるために熱可塑性樹脂(bx)を用いることが好ましい。密着性が向上することで、弾性率と衝撃強度を向上することができる。
r-CF(A)と、熱可塑性樹脂(B1)~(B6)のいずれかと熱可塑性樹脂(b)を含むことが、相溶性を顕著に高め、耐衝撃性の高い熱可塑性樹脂組成物を製造することができるために好ましい。
【0070】
「酸変性熱可塑性エラストマー」とは、熱可塑性エラストマーにグラフト重合等で酸性官能基を導入したものをいう。酸変性熱可塑性エラストマーの好適例として、酸変性されたスチレン系エラストマー、酸変性されたオレフィン系エラストマーが例示できる。酸変性とは、例えば、無水コハク酸、無水マレイン酸、無水グルタル酸、無水フタル酸等の環状酸無水物などで共重合体側鎖に環状酸無水物基やカルボン酸基を導入することをいう。
【0071】
前記スチレン系エラストマーとしては、ポリスチレンブロックとポリオレフィン構造のエラストマーブロックにより構成されるブロック共重合体が例示できる。具体例としては、スチレンイソプレンスチレンブロック共重合体(SIS)、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEPS)、スチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体(SBS)、スチレン・エチレン・ブチレン・スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEBS)、スチレン・ブタジエン・イソプレン・スチレンブロック共重合体(SBIS)、スチレン・ブタジエン・イソプレン・スチレンブロック共重合体の水素添加物(SEEPS)等が挙げられる。
【0072】
前記オレフィン系エラストマーとしては、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-ブテン-1共重合体、エチレン-ヘキセン-1共重合体、エチレン-オクテン-1共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-メタクリレート共重合体、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、イソプレンゴム、ニトリルゴム、ポリブテンゴムなどを挙げることができる。
【0073】
ポリエステル系エラストマーとしては、結晶性ポリエステル(ハードセグメント)と、ポリアルキレンエーテルグリコール(ソフトセグメント)の共重合体などが挙げられる。ポリエステル系エラストマー(TPEEまたはTPCと略す場合もある。)ポリエステル系エラストマーは、上記のソフトセグメントの構造によって、ポリエステル-ポリエステル型、ポリエステル-ポリエーテル型の2種類に主に分類されるが、ソフトセグメントの具体構造・種類とハードセグメントの具体構造・種類、とそれらの割合によって様々な特徴を持つポリマーが合成可能である。
ポリエステル系エラストマーは耐熱性、耐油性に優れ、ポリカーボネート系樹脂やスチレン系樹脂との融着性に優れる。
【0074】
ポリエステル系エラストマーの具体例として、ハイトレル3046(東レ・デュポン社製、MFR10g/10分)等が挙げられる。
【0075】
熱可塑性樹脂(bx)の市販品としては、例えば、LIR-403(クラレ社製)などの無水マレイン酸変性イソプレンゴム;LIR-410(クラレ社製)などの変性イソプレンゴム;クライナック110、221、231(ポリサー社製)などのカルボキシ変性ニトリルゴム;日石ポリブテン(新日本石油社製)などの無水マレイン酸変性ポリブテン;ニュクレル(三井デュポンポリケミカル社製)などのエチレンメタクリル酸コポリマー;ユカロン(三菱化学社製)などのエチレンメタクリル酸共重合体;タフマーM(MA8510(三井化学社製))、TX-1215(三井化学社製)などの無水マレイン酸変性エチレン-プロピレンゴム;タフマーM(MH7020(三井化学社製))などの無水マレイン酸変性エチレン-ブテンゴム;、HPRシリーズ(無水マレイン酸変性EEA(三井・デュポンポリケミカル社製))、ボンダイン(無水マレイン酸変性EEA(アトフィナ社製))、タフテック(無水マレイン酸変性SEBS、M1943(旭化成社製))、クレイトン(無水マレイン酸変性SEBS、FG1901X(クレイトンポリマー社製))、タフプレン(無水マレイン酸変性SBS、912(旭化成社製))、セプトン(無水マレイン酸変性SEPS(クラレ社製))、レクスパール(無水マレイン酸変性EEA、ET-182G、224M、234M(日本ポリオレフィン社製))、アウローレン(無水マレイン酸変性EEA、200S、250S(日本製紙ケミカル社製))などの無水マレイン酸変性ポリエチレンなどが挙げられる。
【0076】
熱可塑性樹脂(by)の市販品としては、例えば、ニュクレル(三井デュポンポリケミカル社製)などのエチレンメタクリル酸コポリマー;ユカロン(三菱化学社製)などのエチレンメタクリル酸共重合体;タフマー(三井化学社製)などのα―オレフィンコポリマー;タフテック(旭化成社製)などのSEBS;タフプレン(旭化成社製)などのSBS;セプトン(クラレ社製)などのSEPS;レクスパール(日本ポリオレフィン社製)などのEEAなどが挙げられる。
【0077】
熱可塑性樹脂(b)は、得られるr-CFRPの耐衝撃性を高めることができることからJIS K7111-1に従って測定したシャルピー衝撃強度が20kJ/m以上であることが好ましく、30kJ/m以上であることがより好ましい。熱可塑性樹脂(b)のシャルピー衝撃強度の上限値は特に限定されず、破壊しないものを好適に利用できる。
【0078】
熱可塑性樹脂(b)の平均MFRは、1.0g/10分以上が好ましく、5.0g/10分以上が更に好ましい。熱可塑性樹脂(b)の平均MFRが上記範囲にあることで加工時の溶融粘度が下がり、加工によるr-CF(A)の繊維破壊を抑制することができ、高い物性を発現することができる。
【0079】
熱可塑性樹脂(b)の配合量は、熱可塑性樹脂組成物100質量%中、弾性率と耐衝撃性の両立をより向上させる観点から5~20質量%が好適であり、5~15質量%がより好ましく、更に好ましくは5~10質量%である。
【0080】
熱可塑性樹脂(b)の配合量は、熱可塑性樹脂(B)100質量%中、3~30質量%が好ましく、5~25質量%がより好ましく、7~20質量%が更に好ましい。熱可塑性樹脂(B)中の熱可塑性樹脂(b)の配合量が上記範囲にあることで、耐衝撃性と荷重たわみ温度をより両立できる。
【0081】
<その他成分>
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、必要に応じて、無機フィラー、耐候安定剤、耐光安定剤、老化防止剤、酸化防止剤、軟化剤、分散剤、充填剤、着色剤、滑剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、紫外線吸収剤、ハロゲン系、リン系または金属酸化物等の難燃剤など、従来から樹脂の改質のために配合されているその他成分を配合してもよい。また、アルカリ金属やアルカリ土類金属または亜鉛の金属石けん、ノニオン系界面活性剤、カチオン性界面活性剤、アニオン性界面活性剤、両性界面活性剤を添加してもよい。
【0082】
無機フィラーとしては、シリカ、放熱性フィラー等、タルク、珪酸カルシウム、珪酸カルシウム、ワラストナイト、モンモリロナイト、ハイドロタルサイトが挙げられる。
【0083】
<熱可塑性樹脂組成物の製造方法>
熱可塑性樹脂組成物は、再生炭素繊維(A)と弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を溶融混錬して製造することができる。
具体的には、盾叔母、弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ(1)~(3)を満たす本発明の熱可塑性樹脂組成物は、熱可塑性樹脂(B)が溶融する温度で、配合成分にかかるシェアを制御して混練することで得られる。
例えば、r-CF(A)と、熱可塑性樹脂(B)と、更に必要に応じて各種添加剤や着色剤を加え、ニーダー、ロールミル、スーパーミキサー、ハイスピードミキサー、ボールミル、サンドミル、アトライター、バンバリーミキサーのような回分式混練機、単軸押出機、二軸押出機、ローター型二軸混練機等で混練し、ペレット状、粉体状、顆粒状あるいはビーズ状の樹脂組成物とすることができる。
混練度合いの制御も比較的容易であり、その後の成形加工が容易なことから、二軸押出機にてペレット状とする方法が好適である。
【0084】
弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造の形状は、用いる再生炭素繊維(A)と熱可塑性樹脂(B)の組成および配合量などに加えて、さらに溶融混錬時の条件によって制御することができる。
配合成分にかかるシェアは、混練時の温度条件や吐出量、回転スピード、混練部品の形状等で制御することが可能である。例えば、二軸押出機で製造する場合、吐出量や回転数、混練部のスクリューエレメントを変える、ドメイン(D)を構成する熱可塑性樹脂(B)を二軸押出機の中間部から供給(以下、サイドフィード)する等の制御方法があり、製造現場の仕様や、用いる熱可塑性樹脂(B)を変えることにより、ドメイン(D)の最大直径、面積等を制御することができる。
【0085】
熱可塑性樹脂組成物は、成形時に成形樹脂で希釈して使用するマスターバッチとすることができる。
マスターバッチ100質量%中のr-CF(A)の配合量は、35~70質量%であることが好ましく、40~65質量%がより好ましい。r-CF(A)の配合量を上記範囲とすることで、マスターバッチの生産性と機械物性を高めることができる。マスターバッチにおいて、成形時に希釈する樹脂は、上述した熱可塑性樹脂(B)に例示したものを用いることができる。相溶性に優れることからr-CF(A)の分散に用いた熱可塑性樹脂(B)と同じ樹脂を用いることが好ましい。熱可塑性樹脂組成物は、r-CF(A)の分散性に優れるため、マスターバッチのような高濃度の樹脂組成物とした場合にも安定して成形することができる。
【0086】
また、熱可塑性樹脂(B)にr-CF(A)を必要量配合し、成形樹脂で希釈せずにそのまま成形するコンパウンドとしてもよい。
熱可塑性樹脂組成物をコンパウンドとする場合、コンパウンド100質量%中のr-CF(A)の配合量は10~40質量%が好適であり、15~30質量%がより好ましい。また、r-CF(A)の配合量を上記範囲とし、弾性率の異なる2種以上の樹脂を用いることで、コンパウンドの生産性および、引張弾性率や耐衝撃性といった機械物性を両立することができる。
【0087】
《再生炭素繊維強化プラスチック》
本発明の再生炭素繊維強化プラスチックは、熱可塑性樹脂組成物より形成されてなる。成形方法は特に制限されるものではなく、例えば押出成形、射出成形、ブロー成形等によって製造できる。熱可塑性樹脂組成物は強度に優れ、成形性にも優れるので、複雑な形状を有する自動車部品等の射出再生炭素繊維強化プラスチックによる形成も好適である。
再生炭素繊維強化プラスチックは、弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ(1)~(3)を満たす。
なお、弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ(1)~(3)を満たす熱可塑性樹脂組成物をそのまま用い、希釈樹脂等により希釈して用いない場合には、熱可塑性樹脂組成物の海島構造がそのまま維持され、強化プラスチックとした際のドメイン(D)とマトリックス(M)も(1)~(3)を満たすものとなる。
【0088】
再生炭素繊維強化プラスチックを用いて(1)~(3)を測定する方法は上述した通りであり、再生炭素繊維強化プラスチック中の海島構造は、強化プラスチックの断面および平面において違いはなく、例えば、成形時の樹脂組成物の流動方向と垂直な面の切り出しを行って測定することができる。

(1)ドメイン(D)の最大直径(μm)と面積(μm2)から下記数式(1)により求められるドメイン(D)の円形係数の平均値が1.0~2.5である。
(2)ドメイン(D)の平均面積が0.001~0.3μm2である。
(3)ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率D:Mが1:99~50:50である。

ドメイン(D)の円形係数
=(ドメイン(D)の最大直径×π)/(4×ドメイン(D)の面積)・・・数式(1)
【0089】
再生炭素繊維強化プラスチックは、再生炭素繊維(A)と弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)を含有し、弾性率で特定されるドメイン(D)とマトリックス(M)を有する海島構造を呈し、かつ(1)~(3)を満たす熱可塑性樹脂組成物をそのまま用いて形成することが好ましい。
【実施例0090】
以下、実施例に基づき本発明を更に詳しく説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。また、実施例中の「部」は「質量部」を意味し、「%」は「質量%」を意味するものとする。なお、表中に数値が記載されていない項目は、含有していないことを表す。
【0091】
《測定方法》
各原料の物性測定は以下の方法により行った。
<再生炭素繊維および非再生炭素繊維の嵩密度の測定>
JIS K5101に準拠してr-CF(A)等の嵩密度を測定した。
<熱可塑性樹脂(B)の平均MFRの測定>
JIS K7210-1に準拠して、熱可塑性樹脂(B)等のMFRを測定した。
<熱可塑性樹脂(B)の引張弾性率の測定>
JIS K7161に準拠して、熱可塑性樹脂(B)の引張弾性率を測定した。
<熱可塑性樹脂(B)のシャルピー衝撃強度の測定>
JIS K7111-1に準拠して酸変性熱可塑性エラストマー(b-1)および再生炭素繊維強化プラスチックのシャルピー衝撃強度を測定した。
【0092】
<r-CFの製造>
《製造例1》
航空機端材由来のCFRPを750℃の加熱水蒸気雰囲気下で4時間加熱処理を行った。続いて空気下で、550℃で6時間加熱処理することにより再生炭素繊維塊を得た。得られた再生炭素繊維塊を切断機で破砕後、4~15mmの繊維を回収することにより、製造例1に係る再生炭素繊維(A-1)を得た。嵩密度0.25g/cm3であった。
【0093】
《製造例1》
航空機端材由来CFRPを自動車部品廃材由来のCFRPに変更したこと以外は製造例1と同様の方法により、製造例2に係る再生炭素繊維(A-2)得た。嵩密度0.10g/cm3であった。
【0094】
《原料》
実施例等に用いた原料を以下に示す。
<CF>
・A’-1:三菱ケミカル社製、嵩密度0.53g/cm3の非再生炭素繊維
【0095】
<熱可塑性樹脂(B)>
・B1-1:アミランCM1041-LO(PA-6樹脂、東レ社製)
МFR 20g/10分(230℃、2.16kgf)、
引張弾性率 2500MPa、シャルピー衝撃強度 5.5kJ/m
・B2-2:アクリペットTF-9(PMMA樹脂、三菱ケミカル社製)
МFR 20g/10分(230℃、3.8kgf)、
引張弾性率 3300MPa、シャルピー衝撃強度 1.3kJ/m
・B3-3:セビアンT-500SF(ABS樹脂、ダイセルミライズ社製)
MFR 25g/10分(220℃、10kgf)、
引張弾性率 2000MPa、シャルピー衝撃強度 14kJ/m
・B4-4:トレコン1401×06(PBT樹脂、東レ社製)
MFR 20g/10分(250℃、2.16kgf)、
引張弾性率 2500MPa、シャルピー衝撃強度 4.5kJ/m
・B5-5:ユーピロンE-2000
(PC樹脂、三菱エンジニアリングプラスチックス社製)
MFR 5g/10分(300℃、1.2kgf)、
引張弾性率 2300MPa、シャルピー衝撃強度 8.8kJ/m
・B6-6:J708UG(ブロック-PP樹脂、サンアロマー社製)
MFR 45g/10分(230℃、2.16kgf)、
引張弾性率 1500MPa、シャルピー衝撃強度 5.5kJ/m2
・B6-7:サンアロマーPM900A(ホモPP樹脂、サンアロマー社製)
MFR 2g/10分(230℃、2.16kgf)、
引張弾性率 1300MPa、シャルピー衝撃強度 7.5kJ/m
・B6-8:酸変性ポリプロピレン樹脂、アドマーQB550(三井化学社製、
MFR30g/10分(230℃、2.16kgf)、
引張弾性率 1600MPa))
・B6-9:酸変性ポリプロピレン樹脂、アドマーQB550(三井化学社製、
MFR10g/10分(230℃、2.16kgf)、
引張弾性率 900MPa))
【0096】
[熱可塑性エラストマー(熱可塑性樹脂(b))]
・b-1:酸変性スチレン系エラストマー、タフテックM1943(旭化成ケミカルズ社製、
MFR8.0g/10分(230℃、2.16kgf)、
引張弾性率 <10MPa)
・b-2:酸変性エチレン-プロピレンゴム、タフマーMP0610(三井化学社製、
MFR0.6g/10分(190℃、2.16kgf)、
引張弾性率 100MPa)
・b-3:ポリエステルエラストマー、ハイトレル3046(東レ・デュポン社製、
MFR10g/10分(190℃、2.16kgf)、
引張弾性率 <50MPa)
・b-4:スチレン系エラストマー、タフテックH1221(旭化成ケミカルズ社製、
MFR5g/10分(230℃、2.16kgf)、
引張弾性率 <10MPa)
・b-5:エチレン-プロピレンゴム、タフマーDF640(三井化学社製、
MFR3.6g/10分(190℃、2.16kgf)、
引張弾性率 <50MPa)
【0097】
用いた熱可塑性樹脂(B)の種類と弾性率(引張弾性率)[MPa]を下記にまとめて示す。
【表1】
【0098】
<熱可塑性樹脂組成物の製造>
(実施例1)
r-CF(A)として再生炭素繊維(A-1)を10質量部、熱可塑性樹脂(B)として熱可塑性樹脂(B1-1)を85質量部、熱可塑性樹脂(b-1)を5質量部用い、二軸押出機(日本製鋼所社製)にて280℃、吐出20kg/h、回転数400rpmで押し出し(混錬条件1)、造粒することにより熱可塑性樹脂組成物を得た。
続いて、得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形機(東芝機械社製)にて成形し、縦800mm×横10mm×厚み4mmの多目的試験片を得た。
【0099】
(実施例2~21、比較例1~4)
表2に示す材料と配合量(質量部)、および混錬条件をそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様の方法でそれぞれ熱可塑性樹脂組成物を製造し、続いて多目的試験片を得た。
なお、混錬条件は以下の通りである。
(混錬条件1)
二軸押出機(日本製鋼所社製);280℃、吐出20kg/h、回転数400rpm
(混錬条件2)
弾性率の高い方の樹脂を二軸押出機の根元から供給し、弾性率の低い方の樹脂をサイドから供給した。280℃、吐出20kg/h、回転数400rpm
(混錬条件3)
二軸押出機(日本製鋼所社製);280℃、吐出20kg/h、回転数200rpm
(混錬条件4)
二軸押出機(日本製鋼所社製);220℃、吐出20kg/h、回転数200rpm
(混錬条件5)
二軸押出機(日本製鋼所社製);280℃、吐出20kg/h、回転数1000rpm
(混錬条件6)
二軸押出機(日本製鋼所社製);280℃、吐出20kg/h、回転数50rpm
【0100】
【表2】
【0101】
(参考例1)
非再生炭素繊維として炭素繊維(A’-1)を30質量部、熱可塑性樹脂(B)として熱可塑性樹脂(B1-1)を70質量部用い、二軸押出機(日本製鋼所社製)にて280℃、吐出20kg/h、回転数400rpmで押し出し(混錬条件1)、造粒することにより熱可塑性樹脂組成物を得た。
続いて、得られた熱可塑性樹脂組成物を射出成形機(東芝機械社製)にて成形し、縦800mm×横10mm×厚み4mmの多目的試験片を得た。
【0102】
≪熱可塑性樹脂組成物および強化プラスチックの測定、評価≫
熱可塑性樹脂組成物および強化プラスチックとして多目的試験片を用いて、物性値測定、画像解析、および評価を下記の方法で行った。多目的試験片の海島構造は、用いた熱可塑性樹脂組成物の特性とほぼ同じ結果であったため、表3には、多目的試験片を用いて測定した円形係数、平均面積、ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率D:M、ドメイン(D)の平均アスペクト比ドメイン(D)のドメイン径D90をドメイン径D10で除した値(D90/D10)の結果を示した。
【0103】
<断面の弾性像の作製>
熱可塑性樹脂組成物および多目的試験片を1.0~1.5cm角に切り取り、研磨紙で厚みが200~300μmになるまで削った試料をカミソリで5~8mm角に切り取り、クロスセクションポリッシャー装置(日本電子株式会社製IB-19520CCP)の試料台に設置し、アルゴンイオンビームの加速電圧を5kVに設定して観察用の断面を作製した。
実施例8を例にあげると、SPM測定により得られた弾性率像をRGBカラー画像で取得し(図2)、その画像を画像解析ソフト(ImageJ)に取り込み、白黒8ビット(黒=0、白=255)に画像変換を行い、判別分析法による自動二値化処理を実施し(図3)、ドメイン(D)およびマトリック(M)の各色のピクセル数から平均面積、円相当径、円形係数、アスペクト比を算出し、その平均値とした。
なお、比較例2、および参考例3は海島構造を有していなかった。
【0104】
<ドメイン(D)の円形係数>
SPM測定により得られた熱可塑性樹脂組成物および再生炭素繊維強化プラスチックの断面の弾性率像をRGBカラー画像で取得し(図2)、その画像を画像解析ソフト(ImageJ)に取り込み、白黒8ビット(黒=0、白=255)に画像変換を行い、判別分析法による自動二値化処理を実施し、ドメイン(D)およびマトリック(M)の各色のピクセル数から選択された全てのドメイン(D)の最大直径(μm)と面積(μm)を算出した。最大直径(μm)と面積(μm)から、下記数式(1)により求められるドメイン(D)の円形係数を求め、平均値を出した。ここで、最大直径は、選択したドメイン(D)の最大長の長さである。
ドメイン(D)の円形係数=(ドメイン(D)の最大直径×π)/(4×ドメイン(D)の面積) ・・・数式(1)
【0105】
<ドメイン(D)の平均面積>
<ドメイン(D)とマトリックス(M)との面積比率(D:M)>
SPM測定により得られた熱可塑性組成物および再生炭素繊維強化プラスチックの断面の弾性率像をRGBカラー画像で取得し(図2)、その画像を画像解析ソフト(ImageJ)に取り込み、白黒8ビット(黒=0、白=255)に画像変換を行い、判別分析法による自動二値化処理を実施し、ドメイン(D)およびマトリック(M)の各色のピクセル数からドメイン(D)の平均面積、およびドメイン(D)とマトリックス(M)の面積比率(D:M)を算出した。
【0106】
<ドメイン(D)の平均アスペクト比>
SPM測定により得られた熱可塑性樹脂組成物および再生炭素繊維強化プラスチックの断面の弾性率像をRGBカラー画像で取得し(図2)、その画像を画像解析ソフト(ImageJ)に取り込み、白黒8ビット(黒=0、白=255)に画像変換を行い、判別分析法による自動二値化処理を実施し、ドメイン(D)およびマトリック(M)の各色のピクセル数から、ドメイン(D)の長軸長(最大物体幅)の数平均値(μm)と短軸長(最小物体幅)の数平均値(μm)から下記数式(2)により求めた。
平均アスペクト比=長軸長の数平均値÷短軸長の数平均値・・・数式(2)
【0107】
<ドメイン(D)のD90/D10
SPM測定により得られた樹脂組成物および再生炭素繊維強化プラスチックの断面の弾性率像をRGBカラー画像で取得し(図2)、その画像を画像解析ソフト(ImageJ)に取り込み、白黒8ビット(黒=0、白=255)に画像変換を行い、判別分析法による自動二値化処理を実施し、ドメイン(D)およびマトリック(M)の各色のピクセル数から、全てのドメイン(D)の粒子径分布を求め、その累積体積が10%となる粒子径(D10)、および90%になる粒子径(D90)の値を算出し、D90/D10を求めた。
各実施例等に係る熱可塑性樹脂組成物に対し、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
【0108】
<熱可塑性樹脂組成物の評価>
[生産性(ダイス先端の堆積物)の評価]
各実施例等の熱可塑性樹脂組成物を実施例および比較例の条件にて5kg生産した際に、押出機先端のダイスに発生する堆積物の多寡により、以下の基準により評価した。
[評価基準]
+++:堆積物の重量が1g未満。生産性が特に良好。
++ :堆積物の重量は1g以上3g未満。生産性良好。
+ :堆積物の重量が3g以上5g未満。生産可能。
NG :堆積物の重量が5g以上。生産性不良。
【0109】
<再生炭素繊維強化プラスチックの評価>
各実施例等に係る多目的試験片を用いて、以下の評価を行った。結果を表3に示す。
γ)引張弾性率の評価
得られた各実施例等の多目的試験片を用いてJIS K7161に従い、引張弾性率を測定した。測定値の値が高いほど、強度に優れている。弾性率の評価基準は以下の通りである。
[評価基準]
+++: 10000MPa以上。優れている。
++: 8000MPa以上、10000MPa未満。良好。
+: 5000MPa以上、8000MPa未満。実用可能範囲。
NG: 5000MPa未満。不良。
【0110】
δ)耐衝撃性の評価
得られた各実施例等の多目的試験片を用いてJIS K7111-1に従い、ノッチ付きのシャルピー衝撃強度により耐衝撃性を測定した。評価基準は以下の通りである。
[評価基準]
+++:15kJ/m以上。優れている。
++7kJ/m以上、15kJ/m未満。良好。
+:5kJ/m以上、7kJ/m未満。実用可能範囲。
NG:5kJ/m未満。
自動車部品等の高い強度が求められる用途には、シャルピー衝撃強度が7kJ/m以上であることが好ましい。
【0111】
【表3】
【0112】
以上の結果より、再生炭素繊維を用いた場合でも、弾性率の異なる少なくとも2種の熱可塑性樹脂(B)において、相溶状態が(1)~(3)を満たすような海島構造を有するように製造された熱可塑性樹脂組成物は生産性に優れ、この熱可塑性樹脂組成物より形成された再生炭素繊維強化プラスチックは、引張弾性率だけでなく、耐衝撃性にも優れていた。これにより、再生炭素繊維を用いた場合であっても、参考例に示す、非再生炭素繊維を用いた強化プラスチックと同等の優れた効果を示すことが確認できた。
図1
図2
図3
図4