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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004295
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】半導体レーザ素子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01S 5/22 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
H01S5/22 610
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103889
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕隆
(72)【発明者】
【氏名】坂井 繁太
(72)【発明者】
【氏名】萩元 将人
【テーマコード(参考)】
5F173
【Fターム(参考)】
5F173AA08
5F173AD04
5F173AH03
5F173AH04
5F173AH08
5F173AH13
5F173AP62
5F173AR07
(57)【要約】
【課題】IFVDや不純物拡散を用いて作製される半導体レーザにおける、結晶品質を改善する。
【解決手段】積層成長層120には、m個(m≧1)のレーザ共振器200が形成される。各レーザ共振器200において、活性層134での混晶化度合いは、P型クラッド層124からP型コンタクト層126間での混晶化度合いよりも大きい。m個のレーザ共振器は、発振波長が異なるn個(2≦n≦m)のレーザ共振器200を含み、n個のレーザ共振器の間で、活性層134での混晶化度合いが異なる。n個のレーザ共振器の間で、P型クラッド層124からP型コンタクト層126間での混晶化度合いは実質的に等しい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面発光型の半導体レーザ素子であって、
N型半導体基板と、
前記N型半導体基板上に形成されるN型クラッド層、活性層、P型クラッド層、P型コンタクト層を含む積層成長層と、
を備え、
前記積層成長層には、m個(m≧1)のレーザ共振器が形成され、
各レーザ共振器において、前記活性層での混晶化度合いが、前記P型クラッド層から前記P型コンタクト層間での混晶化度合いよりも大きいことを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項2】
m≧2であり、前記m個のレーザ共振器は、発振波長が異なるn個(2≦n≦m)のレーザ共振器を含み、
前記n個のレーザ共振器の間で、前記活性層での混晶化度合いが異なり、
前記n個のレーザ共振器の間で、前記P型クラッド層から前記P型コンタクト層間での混晶化度合いが実質的に等しいことを特徴とする請求項1に記載の半導体レーザ素子。
【請求項3】
端面発光型の半導体レーザ素子であって、
N型半導体基板と、
前記N型半導体基板上に形成されるN型クラッド層、活性層、P型クラッド層、P型コンタクト層を含む積層成長層と、
を備え、
前記積層成長層には、複数のレーザ共振器が形成され、
前記複数のレーザ共振器の間で、前記活性層での混晶化度合いが異なり、
前記複数のレーザ共振器の間で、前記P型クラッド層から前記P型コンタクト層間での混晶化度合いが実質的に等しいことを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項4】
端面発光型の半導体レーザ素子であって、
N型半導体基板と、
前記N型半導体基板上に形成されるN型クラッド層、活性層、P型クラッド層、P型コンタクト層を含む積層成長層と、
を備え、
前記積層成長層には、発振波長の異なる複数のレーザ共振器が形成され、
前記複数のレーザ共振器の間で、前記活性層での混晶化度合いが異なり、
前記複数のレーザ共振器の間で、前記P型クラッド層の膜厚、組成比、不純物濃度が実質的に等しいことを特徴とする半導体レーザ素子。
【請求項5】
2つのレーザ共振器の間で、発振波長の差は2nm以上であることを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項6】
前記活性層は、AlGaInP、AlGaAs、InGaAsP、AlGaInAs、AlGaInAsP、GaInNAsからなる群のうちのひとつを含むことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項7】
前記混晶化度合いが異なるとは、TEM像から確認される組成遷移長が0.16nm以上離間していることであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項8】
前記活性層において、発振波長の異なるレーザ共振器に対応する光利得領域のC,Znの不純物濃度は、発振波長の短いレーザ共振器の方が大きいことを特徴とする請求項2から4のいずれかに記載の半導体レーザ素子。
【請求項9】
端面発光型の半導体レーザ素子の製造方法であって、
N型半導体基板上に、少なくともN型クラッド層と活性層を含む第1成長層を形成する第1工程と、
前記第1成長層の上に、誘電体膜を形成し、熱処理を施すことで混晶化を施す第2工程と、
前記誘電体膜を除去し、P型クラッド層を含む第2成長層を、再成長により形成する第3工程と、
を備えることを特徴とする製造方法。
【請求項10】
前記第2工程は、前記誘電体膜の膜厚、膜種、膜構成の少なくともひとつを、複数の領域で異ならしめる工程を含み、
前記複数の領域それぞれに、レーザ共振器を形成する第4工程をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
前記第2工程は、前記第1成長層と前記誘電体膜が接触する割合を、複数の領域で異ならしめる工程を含み、
前記複数の領域それぞれに、レーザ共振器を形成する第4工程をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項12】
前記第2工程は、
前記第1成長層を、複数の領域について異なる深さでエッチングする工程と、
エッチング後の前記第1成長層の上に、前記誘電体膜を形成する工程と、
を含み、
前記複数の領域それぞれに、レーザ共振器を形成する第4工程をさらに備えることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、マルチビーム半導体レーザ素子に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体レーザ(LD)は、小型かつ高効率であることから、ヘッドマウントディスプレイやスマートグラスなど、AR(Augmented Reality)/VR(Virtual Reality)デバイス用の光源として利用される。
【0003】
高出力な端面発光型レーザとして、複数のレーザ共振器(エミッタ)がモノリシックに集積化されるマルチビーム半導体レーザが提案されている。これらの用途においては、光学系の観点から横シングルモード半導体レーザが使用されるが、波長スペクトルが狭く干渉性が高いために、マルチビームの波長が同一であると、ビーム間の干渉により、ファーフィールドパターン(FFP)に好ましくない強度分布(干渉縞)が現れ、ビーム品質が低下するという問題がある。ビーム品質の問題を解決するために、複数チャンネルの発振波長を意図的にシフトさせる必要がある。
【0004】
多波長・多ビームレーザを作製する技術には、IFVD(Impurity Free Vacancy Disordering)が利用できる。この手法では、拡散ソースとなる点欠陥を活性層に導入し、熱処理を施すことで、量子井戸層とガイド層(バリア層)の原子を相互拡散させる(QWI:Quantum Well Intermixing)。これにより、井戸層とガイド層の無秩序化が起こり、井戸層におけるエネルギー準位を制御することができる(特許文献1)。
【0005】
IFVDにおいては、一般的にGaAs層上にSiO膜を形成することで、GaAs層からSiO膜にIII属原子を引き抜き、拡散ソースとなるIII属空孔型の点欠陥を結晶中に生成させる。そして、熱処理を施すことで、これらを活性層まで拡散させ、QWIを促す。波長の異なる半導体レーザをモノリシック化させる場合は、エミッタごとに、結晶に導入させる拡散ソース量を変化させればよい。たとえば非特許文献1では、SiO膜にパターニングを施しており、これによりSiO膜がGaAs層と接触する割合を変えている。このようにすることで、領域ごとに生成される拡散ソース量が変わるため、空間的な発光波長制御が実現できる。
【0006】
IFVDにおける拡散ソースは点欠陥に限られず、たとえばZnなどの不純物を用いても、上記同様にエネルギー準位を変化させることが可能である。たとえば、特許文献2では、P層にCを不純物としてドープし、これにより混晶化の促進をさせることで、端面窓構造における波長制御が実現されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4711623号公報
【特許文献2】特許第5128604号公報
【特許文献3】特開2008-235790号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Boon Siew Ooi et al., IEEE JOURNAL OF QUANTUM ELECTRONICS, VOL. 33, NO. 10, pp. 1784-1793, 1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献3に説明されるように、従来よく用いられるIFVDや不純物拡散では、エピ表面(主にP側コンタクト層)から活性層といった数μmスケールでの拡散が必要となる。複数のエミッタ間で、発光波長に十分な差を付ける場合には、これらの拡散ソースをかなり高密度に導入させる必要がある。しかしながら、拡散ソースである点欠陥や不純物が結晶中に存在すると、これらは欠陥準位や不純物準位を形成し、非輻射再結合中心や光の吸収源となる。特に、半導体レーザにおいては、これらの存在が内部量子効率低減や、内部損失増大といった悪影響を引き起こす直接的な原因となるため、波長制御と結晶品質の両立が難しい。
【0010】
さらに、多波長・多ビームレーザにおいては、エミッタごとに異なる波長のエミッタを作製するために、QWIの度合いを、それぞれのエミッタで変える必要があり、必然的に結晶に取り込まれる拡散ソースの量に差が生じてしまう。従って、エミッタごとに結晶品質の差が生じてしまい、これがエミッタ間の特性ばらつきや、素子信頼性ばらつきの原因となる。
【0011】
IFVDや不純物拡散による波長制御は、シングルビームの半導体レーザにおいて、発振波長を制御するために利用することも可能である。
【0012】
本開示のある態様はかかる課題に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的のひとつは、IFVDや不純物拡散を用いて作製される半導体レーザにおける、結晶品質を改善、および/または、多波長・多ビームの半導体レーザにおけるエミッタごとの素子特性ばらつきの解消にある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本開示のある態様は、端面発光型の半導体レーザ素子であって、N型半導体基板と、N型半導体基板上に形成されるN型クラッド層、活性層、P型クラッド層、P型コンタクト層を含む積層成長層と、を備える。積層成長層には、m個(m≧1)のレーザ共振器が形成され、各レーザ共振器において、活性層での混晶化度合いが、P型クラッド層からP型コンタクト層間での混晶化度合いよりも大きい。
【0014】
本開示の別の態様もまた、端面発光型の半導体レーザ素子に関する。この半導体レーザ素子は、N型半導体基板と、N型半導体基板上に形成されるN型クラッド層、活性層、P型クラッド層、P型コンタクト層を含む積層成長層と、を備える。積層成長層には、複数のレーザ共振器が形成され、複数のレーザ共振器の間で、活性層での混晶化度合いが異なり、複数のレーザ共振器の間で、P型クラッド層からP型コンタクト層間での混晶化度合いが実質的に等しい。
【0015】
本開示のさらに別の態様もまた、半導体レーザ素子である。この半導体レーザ素子は、N型半導体基板と、N型半導体基板上に形成されるN型クラッド層、活性層、P型クラッド層、P型コンタクト層を含む積層成長層と、を備える。積層成長層には、発振波長の異なる複数のレーザ共振器が形成され、複数のレーザ共振器の間で、活性層での混晶化度合いが異なり、複数のレーザ共振器の間で、P型クラッド層からP型コンタクト層間の各層の膜厚、組成比、不純物濃度が実質的に等しい。
【0016】
本開示のさらに別の態様は、端面発光型の半導体レーザ素子の製造方法である。製造方法は、N型半導体基板上に、少なくともN型クラッド層と活性層を含む第1成長層を形成する第1工程と、第1成長層の上に、誘電体膜を形成し、熱処理を施すことで混晶化を施す第2工程と、誘電体膜を除去し、P型クラッド層を含む第2成長層を、再成長により形成する第3工程と、を備える。
【0017】
なお、以上の構成要素を任意に組み合わせたもの、本開示の構成要素や表現を、方法、装置、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0018】
本開示のある態様によれば、IFVDや不純物拡散を用いて作製される半導体レーザにおける、結晶品質を改善でき、および/または、多波長・多ビームの半導体レーザにおけるエミッタごとの素子特性ばらつきを解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係るマルチビーム半導体レーザ素子の断面図である。
図2A】実施形態に係る製造方法を説明する図である。
図2B】実施形態に係る製造方法を説明する図である。
図2C】実施形態に係る製造方法を説明する図である。
図2D】実施形態に係る製造方法を説明する図である。
図2E】実施形態に係る製造方法を説明する図である。
図2F】実施形態に係る製造方法を説明する図である。
図3】実施例1に係る波長制御工程を説明する図である。
図4】実施例2に係る波長制御工程を説明する図である。
図5】実施例3に係る波長制御工程を説明する図である。
図6】実施例5に係る波長制御工程を説明する図である。
図7】実施例6に係る波長制御工程を説明する図である。
図8】実施例7に係る波長制御工程を説明する図である。
図9】検証実験で作成した2個の試料の断面図である。
図10】熱処理後の第1試料の4個の分割試料のPL(フォトルミネッセンス)測定の結果を示す図である。
図11】熱処理後の第2試料の4個の分割試料のPL(フォトルミネッセンス)測定の結果を示す図である。
図12】第1試料および第2試料それぞれの、活性層の断面の高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)像を示す図である。
図13】正規化されたコントラストプロファイルF(y)を示す図である。
図14】第1試料と第2試料のPL測定の結果を示す図である。
図15】理論計算したPL波長差と組成遷移長の関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(実施形態の概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、または、実施形態の基本的な理解を目的としている。同概要は、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。またこの概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、実施形態の欠くべからざる構成要素を限定するものではない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0021】
一実施形態に係る端面発光型の半導体レーザ素子は、N型半導体基板と、N型半導体基板上に形成されるN型クラッド層、活性層、P型クラッド層、P型コンタクト層を含む積層成長層と、を備える。積層成長層には、m個(m≧1)のレーザ共振器(エミッタともいう)が形成され、各レーザ共振器において、活性層での混晶化度合いが、P型クラッド層からP型コンタクト層間での混晶化度合いよりも大きい。
【0022】
一実施形態において、m≧2であってもよい。m個のレーザ共振器は、発振波長が異なるn個(2≦n≦m)のレーザ共振器を含んでもよい。n個のレーザ共振器の間で、活性層での混晶化度合いが異なり、P型クラッド層からP型コンタクト層間での混晶化度合いが実質的に等しくてもよい。
【0023】
活性層についてのみ、混晶化度合いを異ならしめることで、結晶品質を維持しつつ、レーザ共振器ごとの波長をシフトさせることができる。またP型クラッド層からP型コンタクト層間の混晶化度合いが揃っているため、n個のレーザ共振器の特性のばらつきを抑制できる。
【0024】
一実施形態に係る端面発光型の半導体レーザ素子は、N型半導体基板と、N型半導体基板上に形成されるN型クラッド層、活性層、P型クラッド層、P型クラッド層を含む積層成長層と、を備える。積層成長層には、複数のレーザ共振器が形成され、複数のレーザ共振器の間で、活性層での混晶化度合いが異なり、複数のレーザ共振器の間で、P型クラッド層からP型コンタクト層間での混晶化度合いが実質的に等しい。
【0025】
一実施形態に係る端面発光型の半導体レーザ素子は、N型半導体基板と、N型半導体基板上に形成されるN型クラッド層、活性層、P型クラッド層、P型コンタクト層を含む積層成長層と、を備える。積層成長層には、発振波長の異なる複数のレーザ共振器が形成され、複数のレーザ共振器の間で、活性層での混晶化度合いが異なり、複数のレーザ共振器の間で、P型クラッド層からP型コンタクト層間の各層の膜厚、組成比、不純物濃度が実質的に等しい。
【0026】
一実施形態において、2つのレーザ共振器の間で、発振波長の差は2nm以上であってもよい。
【0027】
一実施形態において、活性層は、AlGaInP、AlGaAs、InGaAsP、AlGaInAs、AlGaInAsP、GaInNAsからなる群のうちのひとつを含んでもよい。
【0028】
一実施形態において、混晶化度合いが異なるとは、詳細を後述する組成遷移長によって規定できるが、TEM像から確認される組成遷移長が0.16nm以上離間していることであってもよい。
【0029】
一実施形態において、活性層において、発振波長の異なるレーザ共振器に対応する光利得領域のC,Znの濃度は、発振波長の短いレーザ共振器の方が大きい。
【0030】
一実施形態に係る半導体レーザ素子の製造方法は、N型半導体基板上に、少なくともN型クラッド層と活性層を含む第1成長層を形成する第1工程と、第1成長層の上に、誘電体膜を形成し、熱処理を施すことで混晶化を施す第2工程と、誘電体膜を除去し、P型クラッド層を含む第2成長層を、再成長により形成する第3工程と、を備える。
【0031】
この方法では、P型クラッド層を形成する前に、活性層を含む第1成長層に、IFVDや不純物拡散などのQWI処理を施す。そのため、P型クラッド層には、拡散ソースが直接的に導入されない。これにより、結晶品質を改善できる。
【0032】
一実施形態において、第2工程は、誘電体膜の膜厚、膜種、膜構成の少なくともひとつを、複数の領域で異ならしめる工程を含んでもよい。製造方法は、複数の領域それぞれに、レーザ共振器を形成する第4工程をさらに備えてもよい。これにより、領域ごとに拡散ソースの密度を異ならしめることができ、発振波長を制御できる。
【0033】
一実施形態において、第2工程は、第1成長層と誘電体膜が接触する割合を、複数の領域で異ならしめる工程を含んでもよい。製造方法は、複数の領域それぞれに、レーザ共振器を形成する第4工程をさらに備えてもよい。これにより、領域ごとに拡散ソースの密度を異ならしめることができ、発振波長を制御できる。
【0034】
一実施形態において、第2工程は、第1成長層を、複数の領域について異なる深さでエッチングする工程と、エッチング後の第1成長層の上に、誘電体膜を形成する工程と、を含んでもよい。製造方法は、複数の領域それぞれに、レーザ共振器を形成する第4工程をさらに備えてもよい。これにより、領域ごとに拡散ソースの密度を異ならしめることができ、発振波長を制御できる。
【0035】
(実施形態)
以下、本開示を好適な実施の形態をもとに図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、開示を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示の本質的なものであるとは限らない。
【0036】
図面に記載される各部材の寸法(厚み、長さ、幅など)は、理解の容易化のために適宜、拡大縮小されている場合がある。さらには複数の部材の寸法は、必ずしもそれらの大小関係を表しているとは限らず、図面上で、ある部材Aが、別の部材Bよりも厚く描かれていても、部材Aが部材Bよりも薄いこともあり得る。
【0037】
図1は、実施形態に係る半導体レーザ素子100の断面図である。半導体レーザ素子100は、端面発光型の半導体レーザ素子であり、複数m個(m≧2)のエミッタ102_1~102_3を有するマルチビーム半導体レーザである。本実施形態においてエミッタの個数は3である。
【0038】
半導体レーザ素子100は、N型半導体基板110と、N型半導体基板110上に形成される積層成長層120を備える。本実施の形態において半導体レーザ素子100は赤色レーザであり、N型半導体基板110は、GaAs基板である。
【0039】
積層成長層120は、N型クラッド層122、発光層130、P型クラッド層124、P型コンタクト層126を含み、N型半導体基板110の上に順に積層されている。発光層130は、N型ガイド層(下部ガイド層)132、量子井戸層からなる活性層134、P型ガイド層(上部ガイド層)136を含む。活性層134は、AlGaInP、AlGaAs、InGaAsP、AlGaInAs、AlGaInAsP、GaInNAsからなる群のうちのひとつを含む。
【0040】
半導体レーザ素子100には、チップの面内において第1方向(x方向)に隣接するm個のレーザ共振器200が形成される。各レーザ共振器200は、第1方向(x方向)と直交する第2方向(z方向、紙面奥行き方向)に伸びるストライプ構造を有する。たとえば各レーザ共振器200は、横シングルモードレーザであり、P型コンタクト層126が形成されるリッジ部分のリッジ幅は2μm程度とされる。またビーム間ピッチは30μm程度とすることができる。
【0041】
積層成長層120には、光を閉じ込めるための導波路構造が形成され、この導波路構造の両端の劈開面がミラーとなり、レーザ共振器200をなしている。この例では3個のレーザ共振器200_1~200_3が形成されており、エミッタ102からz方向にビームが放射される。
【0042】
導波路構造は、たとえばリッジ構造を用いることができる。リッジ構造は、P型クラッド層124を部分的に除去することにより形成したものである。リッジ構造を、単にリッジあるいはリッジストライブ構造とも称する。隣接するレーザ共振器200の間には、バンクが形成されてもよい。導波路構造は、埋め込み型のリッジ導波路とすることもできる。
【0043】
あるいは導波路構造は、導波路に沿ってN型半導体基板110に溝を形成し、溝部分におけるN型クラッド層122の厚さが相対的に厚くなっているCSP(Channeled Substrate Planer)構造であってもよい。
【0044】
リッジ構造やCPS構造は、屈折率分布を利用した導波路構造であるが、本開示はそれに限定されず、利得分布を利用した利得導波路構造を利用してもよい。これらの構造は、光閉じ込め構造であるとともに、電流狭窄構造と把握することも可能である。
【0045】
m個のレーザ共振器200のうち、n個(2≦n≦m)は発振波長が異なっている。この例では、m=nであり、3個のレーザ共振器200_1~200_3の発振波長λ~λが異なっている。
【0046】
レーザ共振器200の発振波長の制御のために、発光層130の光利得領域には、IFVDや不純物拡散により、活性層134とN型ガイド層132間、活性層134とP型ガイド層136の混晶化が施される。各エミッタにおけるP型クラッド層124とN型クラッド層122のそれぞれのC,Znの不純物濃度の差は±5%以内であってもよい。
【0047】
3個のレーザ共振器200を比較すると、レーザ共振器200_1、200_2、200_3の順で混晶化度合いが大きく、この順に発振波長が短くなっている(λ1<λ2<λ3)。2つのレーザ共振器200の間の発振波長の差は2nm以上である。
【0048】
また、各レーザ共振器200に着目すると、活性層134での混晶化度合いは、P型クラッド層124からP型コンタクト層126間での混晶化度合いよりも大きい。
【0049】
またn個のレーザ共振器200_1~200_3の間で、P型クラッド層124からP型コンタクト層126間での混晶化度合いは実質的に等しい。言い換えると、n個のレーザ共振器200の間で、P型クラッド層124からP型コンタクト層126間の各層の膜厚、組成比、不純物濃度それぞれが実質的に等しくなっており、P型クラッド層124からP型コンタクト層126間には、IFVDもしくは不純物拡散が施されていない。
【0050】
一例として、複数のレーザ共振器200_1~200_3を比較すると、P型クラッド層124の膜厚の差は±5%以内で均一であってもよい。また、複数のレーザ共振器200_1~200_3を比較すると、P型クラッド層124におけるIn,Ga,Alの組成比の差は、±5%以内であってもよい。また、複数のレーザ共振器200_1~200_3を比較すると、P型クラッド層124からP型コンタクト層126間における不純物C,O,Mg,Zn,Siの濃度の差は、±5%以内であってもよい。
【0051】
以上が半導体レーザ素子100の構成である。
【0052】
続いて半導体レーザ素子100の製造方法を説明する。
【0053】
図2A図2Fは、実施形態に係る製造方法を説明する図である。図2Aに示すように、N型半導体基板110であるGaAs基板上にN型クラッド層122、N型ガイド層132、活性層134、P型ガイド層136およびキャップ層160を有機金属気相成長(MOCVD:Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法によりエピタキシャル成長させる。
【0054】
N型クラッド層122は厚さ約2μmのAl0.5In0.5Pとすることができる。N型ガイド層132およびP型ガイド層136は、導波路を作製するために、N型クラッド層122およびP型クラッド層124より高い屈折率になるように組成を調整する必要がある。本実施形態においては、(AlGa1-x1-yInPにおいてx=0.7、y=0.5とし、厚さは100nmとしてもよい。活性層134は、厚さ約5nmの2層のGa0.5In0.5Pとすることができる。ガイド層は、ガイド層と同様のAl0.35Ga1.5In0.5Pとしてもよい。キャップ層160は厚さ50nmのGaAsを成長させた。図2Aで形成される層を、第1成長層162と称する。
【0055】
続いて図2Bに示すように、第1成長層162の表面に、誘電体膜164を成膜する。図2Bの工程およびそれに続く図2Cの工程を、波長シフト工程、あるいは波長制御工程という。この誘電体膜164はキャップ層160のGaAsからIII族元素であるGaを引き抜き、結晶中にGa空孔を導入する目的で成膜される。なお、キャップ層160と誘電体膜164の組み合わせは、III属原子の引き抜きによるIII属空孔欠陥の生成の観点から好ましくいものを選べばよい。その限りでないが、たとえば、キャップ層160からGaを引き抜くために好適な誘電体膜164の代表的な材料は、SiOである。
【0056】
IFVDにおいては、誘電体膜164によって空孔密度に伴って、活性層134とN型ガイド層132の間、および活性層134とP型ガイド層136の間の混晶化度合いが変化し、これにより波長の変化量が決まる。Ga空孔の量は、以下の条件(i)~(viii)によって制御できる。
(i)誘電体膜164の膜厚
(ii)キャップ層160の膜厚
(iii)ウエハ表面から活性層134までのエピ膜厚
(iv)誘電体膜164の膜種(材料)
(v)誘電体膜164の膜質
(vi)誘電体膜164の構成
(vii)誘電体膜164がキャップ層160に接する割合
(viii)熱拡散処理条件等により制御できる。
【0057】
半導体レーザ素子100は、3個のエミッタ(レーザ共振器)が形成される3個の領域A1~A3に分けられる。領域ごとに、条件(i)~(viii)の少なくともひとつが異なるようなプロセスを施すことで、エミッタごとに、発光層130の混晶化度合いを変えることができる。
【0058】
次に、熱拡散処理によりGa空孔を拡散させ、活性層134とN型ガイド層132の間、活性層134とP型ガイド層136の間の混晶化を施す。本実施形態では、RTA(Rapid Thermal Anneal:高温急速アニール)炉により950℃、4分の熱処理を施してもよい。
【0059】
続いて、図2Cに示すように、熱処理後、フッ酸によるウエットエッチングを施し、ウエハ表面に形成された誘電体膜164を除去し、更に、処理チャンバー内でキャップ層160をイオンミリング等で除去し、発光層130を露出させた。本開示では、拡散ソースを導入した結晶層と活性層134の距離がサブμm程度のスケールであるため、過度な熱処理を加えることなく波長制御することが可能という特徴がある。
【0060】
続いて、図2Dに示すように、MOCVD法による再成長を行い、P型クラッド層124およびP型コンタクト層126を含む第2成長層166を形成する。ここでP型クラッド層124は厚さ2μmのAl0.5In0.5Pとし、P型のためのドーパントとしてMgをドーピングしてもよい。
【0061】
続けて、P型クラッド層124からP型コンタクト層126へと、バンド端を連続的に変化させる目的で、界面層を成膜し、最後にP型コンタクト層126を成膜させた。なお、界面層にはAlInP、GaInP層、AlGaAs層を順に成膜し、AlInPとGaInPにはMgをドーピングし、AlGaAsにはZnをドーピングしてもよい。また、P型コンタクト層126にはZnをドーピングしてもよい。
【0062】
このように本開示においては、全てのエミッタにおけるP型クラッド層124(およびP型コンタクト層126)が同一結晶条件の下で形成されるため、エミッタ間における結晶品質ばらつきを低減させることが可能である。
【0063】
続いて、図2Eに示すように、第2成長層166の多層成長工程の後、従来と同様の方法でリッジ構造168を形成してもよい。たとえばリッジ幅が2μmとなるように、ドライエッチングによりリッジ構造168が形成される。各エミッタのピッチ間隔はたとえば30μmである。なお、エミッタ間には、電流や導波光を遮る機能を持つアイソレーション溝が形成されてもよく、またバンクが形成されてもよい。
【0064】
続いて、図2Fに示すように、絶縁層140を形成し、リッジ上部を開口した後にP電極150を形成し、N型半導体基板110の裏面にN電極152を形成してもよい。さらに、劈開・チップ化を経て、半導体レーザ素子100が完成する。
【0065】
以上の工程により、従来のIFVD技術で作製された多波長・多ビーム半導体レーザに比べ、結晶品質が向上し、またエミッタ間における結晶品質差及び素子特性ばらつきを低減可能な素子を実現することができる。
【0066】
続いて、図2Bに示す波長制御工程について、いくつかの実施例を説明する。
【0067】
(実施例1)
図3は、実施例1に係る波長制御工程を説明する図である。実施例1では、条件(i)、すなわち、第1成長層162上に成膜する誘電体膜164Aの膜厚tを、領域毎に異ならしめることで、第1エミッタ102_1から第3エミッタ102_3の順で波長が短くなる。誘電体膜164Aの材料として、たとえばSiOが用いられ、CVD法及びスパッタ法により、3つの領域A1~A3に、異なる膜厚t~tの誘電体膜164_1,164_2,164_3が形成される。
【0068】
その結果、第1領域A1には、第1膜厚t(たとえば500nm)のSiOが形成され、第2領域A2には、第2膜厚t(たとえば300nm)のSiOが形成され、第3領域A3には、第3膜厚t(たとえば100nm)のSiOが形成される。
【0069】
拡散源となるGaAsのキャップ層160の空孔は、SiOの膜厚tの増加とともに増加する。つまりGaAsであるキャップ層160に導入される空孔欠陥の量は、第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3の順に大きい。その結果、第1領域A1の発振波長λ1が最も短くなり、次いで第2領域A2の発振波長λ2が短く、第3領域A3の発振波長λ3が最も長くなる。
【0070】
(実施例2)
図4は、実施例2に係る波長制御工程を説明する図である。実施例2では、実施例1と同様に、条件(i)、すなわち、第1成長層162上に成膜する誘電体膜164Bの膜厚tを、領域毎に異ならしめることで、第1エミッタ102_1から第3エミッタ102_3の順で波長を短波化させる。誘電体膜164の材料として、SiOが用いられ、CVD法及びスパッタ法により、3つの領域A1~A3のうち2つの領域A1,A2に、異なる膜厚t~tの誘電体膜164_1,164_2が形成される。
【0071】
領域A3において、SiOの膜厚はゼロであり、その代わりに、誘電体膜164_3として、SiNが形成される。
【0072】
図3の構成は、誘電体膜164の材料として、SiOとSiNを用い、CVD法及びスパッタ法によるSiOとSiNの成膜と、ホトリソグラフィ法及びウエットエッチングによる誘電体膜164の除去を繰り返すことで実現できる。
【0073】
その結果、第1領域A1には、誘電体膜164_1として第1膜厚t(たとえば500nm)のSiOが形成され、第2領域A2には、誘電体膜164_2として、第2膜厚t(たとえば100nm)のSiOが形成され、第3領域A3には、誘電体膜164_3として、第3膜厚t(たとえば100nm)のSiNが形成される。
【0074】
GaAsのキャップ層160上に、SiNの単層膜を成膜した場合は、誘電体膜164_3へのGa元素の引き抜きはほとんど起こらない。つまりSiNを形成することで、SiOに比べQWIを抑制することが可能となる。ここで、第3領域A3に、SiNもSiOも形成しない場合、以降の熱処理において再表層のV属原子の脱離が発生する。これに対して、SiOの膜厚が0である領域に、SiNを形成することで、V属原子の脱離を防止することができる。実施例2によれば、GaAsであるキャップ層160に導入される空孔欠陥の量は、第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3の順で大きくなり、λ1<λ2<λ3とすることができる。
【0075】
(実施例3)
図5は、実施例3に係る波長制御工程を説明する図である。実施例3では、条件(iv)、すなわち誘電体膜164Cの膜種(材料)が、領域ごとに異なっている。
【0076】
たとえば、第1領域A1~第3領域A3に形成する誘電体膜164_1~164_3を、それぞれSiO(100nm)、Al(100nm)、SiN(100nm)としてもよい。
【0077】
IFVDにおいては誘電体膜164Cの膜種に依存してIII属原子の引き抜き量を変えることができる。なお、波長制御工程のために用いられる誘電体膜164Cの膜種は本実施例で用いられた材料に限られるものでは無く、たとえばTiO、Ta、ZrO、AlNなどを利用できる。
【0078】
(実施例4)
実施例4では、条件(v)の膜質を領域ごとに異ならしめることで、波長制御を行う。同一材料かつ同一膜厚であっても、成膜方法や成膜条件により、誘電体膜164の膜質を、領域ごとに変えることができる。たとえばCVD(Chemical Vapor Deposition)法やALD(Atomic Layer Deposition)法、スパッタリング法等により、膜応力の異なる同一膜種を、領域A1~A3に形成してもよい。
【0079】
(実施例5)
図6は、実施例5に係る波長制御工程を説明する図である。実施例5では、条件(vi)すなわち誘電体膜164Dの構成が、領域ごとに異なっている。
【0080】
誘電体膜164Dは、IFVDにおけるIII属原子の引き抜き度合いが異なる2以上の材料の膜を積層させた多層構造を有する。ここでは誘電体膜164Dは、キャップ層160に接する下層膜164Lと、上層膜164Uを含む2層構造を有し、領域A1~A3ごとに、2層構造の膜厚の組み合わせが異なっている。下層膜164Lと上層膜164Uの組み合わせとしては、SiNとSiOを用いることができる。
【0081】
たとえば第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3上に形成したSiN/SiOの膜厚は、それぞれ(25nm/125nm)、(50nm/100nm)、(75nm/75nm)である。このような構造では、キャップ層160に接する膜164Lが、これより上に成膜された誘電体膜164UによるIII層原子引き抜きの働きを、抑制できる。また、この度合いは、各誘電体膜164L,164Uそれぞれの膜厚によって制御することができる。
【0082】
(実施例6)
図7は、実施例6に係る波長制御工程を説明する図である。実施例6では、条件(vii)すなわち誘電体膜164Eがキャップ層160に接する割合が、領域A1~A3ごとに異なっている。誘電体膜164Eは、たとえばSiOを用いることができる。
【0083】
たとえば、誘電体膜164Eにパターニングを施し、誘電体膜164Eがキャップ層160と接する面積と、キャップ層160(GaAsの結晶部)が露出する面積の割合を、領域A1~A3ごとに異ならしめてもよい。たとえば、第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3において、誘電体膜164Eとキャップ層160の接する割合は、それぞれ90%、70%、50%としてもよい。
【0084】
誘電体膜164Eとキャップ層160の接する割合が高くなるにしたがい、SiOによるIII属原子の引き抜きの量が大きくなり、結晶部に導入されるIII属空孔の量が増加する。
【0085】
(実施例7)
図8は、実施例7に係る波長制御工程を説明する図である。実施例7は、条件(ii)、すなわちキャップ層160の厚さが、領域ごとに異なっている。
【0086】
実施例7では、第1成長層162の成長終了後に、キャップ層160にエッチングを施し、領域A1~A3ごとにキャップ層160の膜厚h,h,hを変えている。なお、誘電体膜164Fは、全領域A1~A3において同じ膜厚のSiOを形成してもよい。キャップ層160の膜厚は、h<h<hであり、膜厚が大きいほど結晶部に導入されるIII属空孔の量は増加する傾向がある。したがって、キャップ層160Fの膜厚に応じて、QWIの度合いを制御することができる。
【0087】
本実施例においては、GaAsキャップ層160の膜厚が、第1領域A1、第2領域A2、第3領域A3の順に200nm、100nm、50nmとなるように、エッチングを施してもよい。続いて、CVD法により、誘電体膜164Fとして、300nmのSiOを成膜してもよい。
【0088】
(実施例8)
実施例8では、波長制御工程において、IFVDに代えて、不純物拡散法を用いる。たとえば、キャップ層160上に形成する誘電体膜164を、ZnOとSiOの2層膜とし、ZnOの膜厚を、領域ごとに変えてもよい。各領域A1,A2,A3のZnOの膜厚は、300nm、100nm、50nmとし、SiOは50nmとしてもよい。
【0089】
(検証実験1)
実施形態に係る半導体レーザ素子100あるいはその製造方法の効果を検証した実験結果について説明する。図9は、検証実験で作成した2個の試料の断面図である。
【0090】
第1試料S1は、実施形態における波長制御工程における断面構造を模したものである。第2試料S2は、従来技術における波長制御工程における断面構造を模したものである。従来技術では、P型クラッド層およびP型コンタクト層を形成した後に、GaAs層(キャップ層)を形成しており、第2試料S2のAlInP層は、P型クラッド層124およびP型コンタクト層126を模したものである。
【0091】
第1試料S1と第2試料S2は、活性層134から、結晶最表面までの距離が異なっている。第1試料S1は第2試料S2よりも活性層134から最表面層までの距離が小さく、本開示の効果が相対的に大きくなるような構造を有する。
【0092】
これらの試料S1,S2の上に、厚さ500nmのSiOを成膜してもよい。その後、試料1,試料2それぞれを4分割し、950℃の熱処理を、分割試料ごとに、0分、2分、6分、1分と時間を変えて施した。
【0093】
図10は、熱処理後の第1試料S1の4個の分割試料のPL(フォトルミネッセンス)測定の結果を示す図である。図11は、熱処理後の第2試料S2の4個の分割試料のPL(フォトルミネッセンス)測定の結果を示す図である。
【0094】
熱処理後に実施したPL測定の結果を見ると、第1試料S1では熱処理時間増加に伴ってPL波長が有意に変化しているのに対して、第2試料S2では、PL波長に有意な変化はみられないことが分かる。これは、同じ熱処理条件下であっても、第1試料S1でのみ活性層134の混晶化が生じていることを表している。すなわち、従来に比べて結晶に導入する熱的エネルギーを小さくしても、所望の波長差を付けることが可能であること、熱処理に伴うダメージの導入を抑制することが可能であることが、この検証実験によって裏付けられた。
【0095】
(検証実験2)
N型半導体基板110上に、第1成長層162を結晶成長した試料を作成し、その試料を2つに分割し、一方(第2試料)のみに波長制御工程を施し、他方(第1試料)には、波長制御工程は施していない。2つの試料を、高角度環状暗視野走査透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM;High-Angle Annular Dark Field Scanning TEM)により測定した。図12は、第1試料および第2試料のそれぞれの、活性層の断面のHAADF-STEM像を示す図である。
【0096】
図12に示す第1試料では活性層(量子井戸層)とガイド層の界面が急峻であるのに対して、図12に示す第2試料では界面の急峻性が失われ混晶化が生じていることが確認できる。混晶化度合いは、たとえばTEMによる観察で評価することができる。また混晶化度合いは、TEMのコントラストプロファイルを用いて定量的に表すことができる。
【0097】
図13は、正規化されたコントラストプロファイルF(y)を示す図である。具体的には図12の第1試料および第2試料それぞれのTEM像の破線部内をx方向(紙面横方向)で平均したコントラストプロファイルをf(y)、活性層におけるコントラストをCw、ガイド層におけるコントラストをCbとしたときに、正規化されたコントラストプロファイルF(y)は、以下の式で表される。
F(y)=(f(y)-Cb)/(Cw-Cb)
【0098】
ここで、図13の縦軸は正規化されたコントラストの強度を示しており、組成コントラストと表記している。組成コントラストが0.8から0.2に変化する距離を、組成遷移長として定義する。第1試料では、組成遷移長は1.1nm、第2試料では、組成遷移長は2.3nmとなる。
【0099】
図14は、第1試料と第2試料のPL測定の結果を示す図である。第1試料および第2試料の組成遷移長は、1.1nmと2.3nmであり、ピーク波長の差は、11nmとなる。
【0100】
図15は、理論計算したPL波長差と組成遷移長の関係を示す図である。理論計算では、組成遷移長1.1nmと2.3nmとで波長差は13nmであり、図14の実験結果と概ね一致している。
【0101】
これらの検証結果をまとめると、以下の知見が得られる。
【0102】
混晶化度合いは、TEM像から確認される組成遷移長として定量的に評価することができる。本実施形態において、エミッタごとの発振波長の差を2nmとする場合、2つのレーザ共振器における活性層の組成遷移長の差は最小で0.16nm、最大で0.7nmとなる。
【0103】
まとめると、2つのレーザ共振器の間で「混晶化度合いが異なる」とは、活性層の組成遷移長の差が、図15における発振波長差Δλに対して最小となる範囲、つまり同図において線形的に変化している範囲より大きいことをいう。たとえばΔλが2nmでは、組成遷移長は0.16以上となる。
【0104】
(変形例)
上述した実施形態および実施例は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なことが当業者に理解される。以下、こうした変形例について説明する。
【0105】
実施形態では、m=3の場合を説明したが、ビームの個数mは3に限定されず、m=1あるいはm=2であってもよいし、mは4以上であってもよい。m=1、すなわちシングルビームの半導体レーザ素子100においても、QWIによる波長制御を行う場合には、本開示に係る技術は有効である。
【0106】
また実施形態では、発振波長が異なるレーザ共振器の個数nがmと等しい場合、つまり、すべてのレーザ共振器の発振波長が異なる場合を説明したがその限りでない。
【0107】
実施の形態は、本発明の原理、応用を示しているにすぎず、実施の形態には、請求の範囲に規定された本発明の思想を逸脱しない範囲において、多くの変形例や配置の変更が認められる。
【符号の説明】
【0108】
100 半導体レーザ素子
110 N型半導体基板
120 積層成長層
122 N型クラッド層
124 P型クラッド層
126 P型コンタクト層
130 発光層
132 N型ガイド層
134 活性層
136 P型ガイド層
140 絶縁層
150 P電極
152 N電極
160 キャップ層
162 第1成長層
164 誘電体膜
166 第2成長層
168 リッジ構造
200 レーザ共振器
図1
図2A
図2B
図2C
図2D
図2E
図2F
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15