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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042975
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】溶接継手の応力拡大係数推定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 3/00 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
G01N3/00 Q
【審査請求】未請求
【請求項の数】1
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147928
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中山 英介
(72)【発明者】
【氏名】古迫 誠司
(72)【発明者】
【氏名】上田 秀樹
【テーマコード(参考)】
2G061
【Fターム(参考)】
2G061AA01
2G061AB01
2G061BA03
2G061CA02
2G061CB01
2G061CB07
2G061CB19
2G061DA11
2G061EB10
2G061EC02
(57)【要約】
【課題】溶接継手が有するスポット溶接部の外縁に沿って存在するき裂の応力拡大係数を簡便に且つ精度良く推定可能な、溶接継手の応力拡大係数推定方法を提供する。
【解決手段】本発明は、き裂の長さを一定の値とし、き裂の深さaを変更した溶接継手の複数の解析モデルを用いて、それぞれ有限要素解析を実行することで、き裂の深さaとき裂の応力拡大係数Kとの第1関係を算出するステップST1と、き裂の深さaと形状係数Fとの第2関係を算出するステップST2と、き裂の深さaと補正形状係数F’との第3関係を算出するステップST3と、対象溶接継手が有するき裂の深さa’に対応する補正形状係数F’を算出するステップST4と、対象溶接継手が有するき裂の深さa’に対応する形状係数Fを算出するステップST5と、対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを推定するステップST6と、を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有限要素解析を用いて、重ね合わせた複数の鋼板と、前記複数の鋼板を接合する略円形のスポット溶接部と、を備えた溶接継手が有する、前記スポット溶接部の外縁に沿って存在するき裂の応力拡大係数を推定する、溶接継手の応力拡大係数推定方法であって、
前記き裂の長さを一定の値とし、前記き裂の深さaを変更した前記溶接継手の複数の解析モデルを用いて、それぞれ有限要素解析を実行することで、前記き裂の深さaと、前記き裂の応力拡大係数Kとの関係である第1関係を算出する第1関係算出ステップと、
前記第1関係に基づき、前記き裂の深さaと、以下の式(1)で表される形状係数Fとの関係である第2関係を算出する第2関係算出ステップと、
前記鋼板の板厚方向に平行な平面であり、且つ、前記き裂に対して作用する外力に垂直な平面である投影面に前記スポット溶接部を投影した場合の、前記投影面における前記スポット溶接部の前記き裂を除いた部分の面積の平方根をtとし、前記投影面における前記スポット溶接部の面積の平方根をtとして、前記第2関係に基づき、前記き裂の深さaと、以下の式(2)で表される補正形状係数F’との関係である第3関係を算出する第3関係算出ステップと、
応力拡大係数の推定対象とする前記溶接継手であって、前記き裂の長さ及び深さが任意の値である対象溶接継手について、前記対象溶接継手が有する前記き裂の深さa’と、前記第3関係とに基づき、前記き裂の深さa’に対応する前記補正形状係数F’を算出する補正形状係数算出ステップと、
前記対象溶接継手が有する前記き裂の長さ及び深さa’から算出される前記t及び前記tと、前記き裂の深さa’に対応する前記補正形状係数F’とを用いて、以下の式(3)によって、前記き裂の深さa’に対応する前記形状係数Fを算出する形状係数算出ステップと、
前記き裂の深さa’と、前記き裂の深さa’に対応する前記形状係数Fとを用いて、以下の式(4)によって、前記対象溶接継手が有する前記き裂の応力拡大係数Kを推定する応力拡大係数推定ステップと、を有する、
ことを特徴とする溶接継手の応力拡大係数推定方法。
F=K/(σ・(π・a)1/2) ・・・(1)
F’=((t/(t)・F ・・・(2)
F=F’/((t/(t) ・・・(3)
K=F・σ・(π・a’)1/2 ・・・(4)
上記の式(1)及び式(4)において、σは前記溶接継手に作用する公称応力を意味し、πは円周率を意味する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有限要素解析を用いて、溶接継手が有するスポット溶接部の外縁に沿って存在するき裂の応力拡大係数を簡便に且つ精度良く推定可能な、溶接継手の応力拡大係数推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野では、低燃費化のための車体の軽量化と、衝突安全性向上のための車体の高強度化が求められている。これらの要求を両立させるには、車体の材料として、高強度鋼板を適用することが有効である。また、防錆性を高める観点から、高強度鋼板の中でも、耐食性に優れる亜鉛系めっき鋼板が使用されている。
【0003】
自動車の車体の組み立てには、主として、重ね合わせた複数の鋼板を接合して溶接継手を形成するスポット溶接が用いられているが、亜鉛系めっき鋼板にスポット溶接を行うと、スポット溶接部に割れが発生することがある。この割れは、いわゆる液体金属脆性(Liquid Metal Embrittlement、以下では「LME」と略記する)に起因するといわれており、溶接過程における温度上昇や引張応力の発生によって、溶融した亜鉛系めっき金属が鋼板の結晶粒界に侵入して、粒界強度を低下させることが原因であると考えられている。
このLMEに起因した割れ(LME割れ)が著しい場合には、スポット溶接部の静的な強度が低下する場合がある。このため、LME割れを抑制することを目的として、例えば、鋼板やめっきの成分組成や組織を制御する技術や、特許文献1に記載のように、溶接条件を制御する技術などが提案されている。
しかしながら、従来、LME割れが疲労強度に及ぼす影響は明らかではない。このため、疲労強度の観点では、LME割れを抑制する技術開発に限らず、疲労強度に対するLME割れの影響を適正に評価できる方法が望まれている。
【0004】
一般に、割れが疲労強度に及ぼす影響を評価するには、割れをき裂とみなして算出した応力拡大係数が用いられることが多い。応力拡大係数は、き裂の先端近傍における変形場に基づいて、き裂の進展の駆動力を表現する破壊力学パラメータである。
例えば、非特許文献1に記載のように、力学条件が単純な場合については、き裂の応力拡大係数を正確に評価できる理論解が得られている。しかしながら、スポット溶接部に発生するLME割れは、鋼板の板厚方向から見て略円形のスポット溶接部の外縁に沿った円弧面状の3次元形状を有することや、スポット溶接部が存在する自動車部品の部位によって力学条件が異なることから、その応力拡大係数を表現できる理論解が存在しない。非特許文献2には、き裂が3次元形状を有する場合の応力拡大係数の理論解が提案されているものの、特定の力学条件に対する理論解であって、複雑であり且つ汎用性に欠けるものである。
このような場合には、応力拡大係数を算出するために、有限要素解析を用いるのが通例であるが、3次元の解析モデルを作成して解析を実行するには、膨大な時間と労力とを要する。
このため、種々のき裂の長さや深さなど、種々の力学条件に対して、き裂の応力拡大係数を簡便に且つ精度良く推定可能な方法が望まれている。
【0005】
なお、非特許文献3には、き裂の開口変位の解析結果に基づき応力拡大係数を算出する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-11253号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Y.Murakami et al.,“STRESS INTENSITY FACTORS HANDBOOK”,Volume 1,Pergamon Press,1987,p.11
【非特許文献2】J. C. Newman, Jr. and I. S. Raju,“STRESS-INTENSITY FACTOR EQUATIONS FOR CRACKS IN THREE-DIMENSIONAL FINITE BODIES SUBJECTED TO TENSION AND BENDING LOADS”,NASA TM-85793,1984
【非特許文献3】中井善一・久保司郎,“機械工学基礎課程 破壊力学”,朝倉書店,2014,p.64-66
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記のような従来技術の課題を解決するべくなされたものであり、有限要素解析を用いて、溶接継手が有するスポット溶接部の外縁に沿って存在するき裂の応力拡大係数を簡便に且つ精度良く推定可能な、溶接継手の応力拡大係数推定方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明者らは、鋭意検討した結果、図1(a)に示すように、スポット溶接部の外縁に沿って存在するき裂の長さ(鋼板の板厚方向から見た場合のき裂の周方向の寸法)と深さ(鋼板の板厚方向についてのき裂の寸法)とに応じて、有限要素解析によって算出されるき裂の応力拡大係数は異なる値を示すものの、き裂の長さを一定の値にした場合における、き裂の深さとき裂の応力拡大係数との関係は、き裂の長さに関わらず類似している(き裂の深さの変化に応じたき裂の応力拡大係数の変化の傾向が、き裂の長さに関わらず類似している)ことに着眼した。図1(a)に示す例では、き裂の長さが「大」の場合におけるき裂の深さとき裂の応力拡大係数との関係、き裂の長さが「中」の場合におけるき裂の深さとき裂の応力拡大係数との関係、及び、き裂の長さが「小」の場合におけるき裂の深さとき裂の応力拡大係数との関係は、いずれも上に凸状の関係になっており、き裂の深さの変化に応じたき裂の応力拡大係数の変化の傾向が、き裂の長さ(「大」、「中」、「小」)に関わらず類似していることに着眼した。
ここで、応力拡大係数をK、形状係数をF、溶接継手に作用する公称応力をσ、き裂の深さをa、円周率をπとすると、これらの関係は、以下の式(1)で表されることが知られている。形状係数Fは、き裂の先端近傍の変形状態を表す項である。
F=K/(σ・(π・a)1/2) ・・・(1)
【0010】
そして、本発明者らは、上記の式(1)の形状係数Fが、図1(b)に示すように、き裂の長さとき裂の深さaとに応じて異なる値を示すものの、き裂の長さを一定の値にした場合における、き裂の深さaと形状係数Fとの関係も、き裂の長さに関わらず類似している(き裂の深さaの変化に応じた形状係数Fの変化の傾向が、き裂の長さに関わらず類似している)ことを見出した。図1(b)に示す例では、き裂の長さが「大」の場合におけるき裂の深さaと形状係数Fとの関係、き裂の長さが「中」の場合におけるき裂の深さaと形状係数Fとの関係、及び、き裂の長さが「小」の場合におけるき裂の深さaと形状係数Fとの関係は、形状係数Fがき裂の深さaに対して単調減少する関係になっており、き裂の深さaの変化に応じた形状係数Fの変化の傾向が、き裂の長さ(「大」、「中」、「小」)に関わらず類似していることを見出した。
【0011】
そこで、これらの関係をき裂の長さに関わらずに統一的に整理できないか、本発明者らは更に鋭意検討した結果、後述のように、「等価仮想板厚」の考え方を用いることで、これらの関係をき裂の長さに関わらずに統一的に整理できることが分かった。具体的には、「等価仮想板厚」の考え方を用いて、形状係数Fを補正形状係数F’に補正することで、図1(c)に示すように、き裂の深さaとこの補正形状係数F’との関係は、き裂の長さに関わらず略同一の関係になることを見出した。
このため、き裂の長さをある一定の値として、き裂の深さaを変更した溶接継手の複数の解析モデルを作成して、それぞれ有限要素解析を実行することで、き裂の深さaとき裂の応力拡大係数Kとの関係(例えば、図1(a)に示すき裂の長さが「大」の場合についてのき裂の深さaと形状係数Fとの関係)、ひいては、き裂の深さaと補正形状係数F’との関係(例えば、図1(c)に示すき裂の長さが「大」の場合についてのき裂の深さaと補正形状係数F’との関係)を算出しておけば、上記の一定の値と異なるき裂の長さについては、解析モデルを作成して有限要素解析を実行する必要のないことが分かった。すなわち、異なるき裂の長さ(例えば、き裂の長さが「中」、「小」)については、あるき裂の深さa’に対応する補正形状係数F’を、前述のき裂の深さaと補正形状係数F’との関係を用いて算出し、算出した補正形状係数F’から、き裂の深さa’に対応する形状係数Fを逆算し、逆算した形状係数Fとき裂の深さa’とを式(1)に代入することで、有限要素解析を実行しなくても、深さa’のき裂の応力拡大係数Kを精度良く推定できることが分かった。
【0012】
本発明は、上記本発明者らの知見に基づき完成したものである。
すなわち、前記課題を解決するため、本発明は、有限要素解析を用いて、重ね合わせた複数の鋼板と、前記複数の鋼板を接合する略円形のスポット溶接部と、を備えた溶接継手が有する、前記スポット溶接部の外縁に沿って存在するき裂の応力拡大係数を推定する、溶接継手の応力拡大係数推定方法であって、前記き裂の長さを一定の値とし、前記き裂の深さaを変更した前記溶接継手の複数の解析モデルを用いて、それぞれ有限要素解析を実行することで、前記き裂の深さaと、前記き裂の応力拡大係数Kとの関係である第1関係を算出する第1関係算出ステップと、前記第1関係に基づき、前記き裂の深さaと、以下の式(1)で表される形状係数Fとの関係である第2関係を算出する第2関係算出ステップと、前記鋼板の板厚方向に平行な平面であり、且つ、前記き裂に対して作用する外力に垂直な平面である投影面に前記スポット溶接部を投影した場合の、前記投影面における前記スポット溶接部の前記き裂を除いた部分の面積の平方根をtとし、前記投影面における前記スポット溶接部の面積の平方根をtとして、前記第2関係に基づき、前記き裂の深さaと、以下の式(2)で表される補正形状係数F’との関係である第3関係を算出する第3関係算出ステップと、応力拡大係数の推定対象とする前記溶接継手であって、前記き裂の長さ及び深さが任意の値である対象溶接継手について、前記対象溶接継手が有する前記き裂の深さa’と、前記第3関係とに基づき、前記き裂の深さa’に対応する前記補正形状係数F’を算出する補正形状係数算出ステップと、前記対象溶接継手が有する前記き裂の長さ及び深さa’から算出される前記t及び前記tと、前記き裂の深さa’に対応する前記補正形状係数F’とを用いて、以下の式(3)によって、前記き裂の深さa’に対応する前記形状係数Fを算出する形状係数算出ステップと、前記き裂の深さa’と、前記き裂の深さa’に対応する前記形状係数Fとを用いて、以下の式(4)によって、前記対象溶接継手が有する前記き裂の応力拡大係数Kを推定する応力拡大係数推定ステップと、を有する、ことを特徴とする溶接継手の応力拡大係数推定方法を提供する。
F=K/(σ・(π・a)1/2) ・・・(1)
F’=((t/(t)・F ・・・(2)
F=F’/((t/(t) ・・・(3)
K=F・σ・(π・a’)1/2 ・・・(4)
上記の式(1)及び式(4)において、σは前記溶接継手に作用する公称応力を意味し、πは円周率を意味する。
【0013】
本発明において、「き裂の長さ」とは、鋼板の板厚方向から見た場合のき裂の周方向の寸法を意味する。また、「き裂の深さ」とは、鋼板の板厚方向についてのき裂の寸法を意味する。さらに、「前記投影面における前記スポット溶接部の面積」とは、スポット溶接部にき裂が無い場合の投影面におけるスポット溶接部の面積を意味する。
本発明によれば、第1関係算出ステップにおいて、有限要素解析を実行することで、き裂の深さaと、き裂の応力拡大係数Kとの関係である第1関係を算出する。具体的には、き裂の長さを一定の値とし、き裂の深さaを変更した溶接継手の複数の解析モデルを用いて、それぞれ有限要素解析を実行することで、第1関係を算出する。この第1関係は、前述の本発明者らの知見で述べたように、き裂の長さに関わらず類似したものとなる。すなわち、き裂の長さを変更したとしても、第1関係は類似したものとなる。
次に、第2関係算出ステップにおいて、第1関係に基づき、き裂の深さaと、式(1)で表される形状係数Fとの関係である第2関係を算出する。この第2関係も、前述の本発明者らの知見で述べたように、き裂の長さに関わらず類似したものとなる。すなわち、き裂の長さを変更したとしても、第2関係は類似したものとなる。
次に、第3関係算出ステップにおいて、第2関係に基づき、き裂の深さaと、式(2)で表される補正形状係数F’との関係である第3関係を算出する。具体的には後述するが、この式(2)で表される補正形状係数F’を算出する際に、「等価仮想板厚」の考え方を用いている。この第3関係は、前述の本発明者らの知見で述べたように、き裂の長さに関わらず略同一の関係になる。
以上に述べた第1関係算出ステップ~第3関係算出ステップは、き裂の応力拡大係数の推定対象とする溶接継手とは別に予め実行しておき、算出された第3関係を記憶しておけばよい。
【0014】
次に、本発明によれば、補正形状係数算出ステップにおいて、応力拡大係数の推定対象とする溶接継手であって、き裂の長さ及び深さが任意の値である対象溶接継手について、対象溶接継手が有するき裂の深さa’と、第3関係とに基づき、き裂の深さa’に対応する補正形状係数F’を算出する。この補正形状係数F’は、対象溶接継手が有するき裂の長さに関わらず、き裂の長さa’のみに依存する値となる。
次に、形状係数算出ステップにおいて、補正形状係数算出ステップで算出した補正形状係数F’から、き裂の深さa’に対応する形状係数Fを逆算する。具体的には、対象溶接継手が有するき裂の長さ及び深さa’から算出されるt及びtと、き裂の深さa’に対応する補正形状係数F’とを用いて、式(3)によって、き裂の深さa’に対応する形状係数Fを算出する。この形状係数Fは、対象溶接継手が有するき裂の長さにも依存する値となる。
最後に、応力拡大係数推定ステップにおいて、形状係数算出ステップで逆算した形状係数Fとき裂の深さa’とを式(1)に代入することで、深さa’のき裂の応力拡大係数Kを推定する。具体的には、き裂の深さa’と、き裂の深さa’に対応する形状係数Fとを用いて、式(1)を変形することで得られる式(4)によって、対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを推定する。
【0015】
本発明によれば、第3関係がき裂の長さに関わらず略同一の関係になることを利用して、対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを推定するため、第3関係を精度良く算出しておけば、対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを精度良く推定可能である。また、本発明によれば、有限要素解析を実行するのは、第1関係算出ステップだけであり、第2関係算出ステップ、第3関係算出ステップ、補正形状係数算出ステップ、形状係数算出ステップ及び応力拡大係数推定ステップでは、有限要素解析を実行する必要がない。すなわち、対象溶接継手の解析モデルを作成する必要がない。このため、対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを簡便に推定可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、溶接継手が有するスポット溶接部の外縁に沿って存在するき裂の応力拡大係数を簡便に且つ精度良く推定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明者らの得た知見を模式的に説明する説明図である。
図2】本発明の一実施形態に係る溶接継手の応力拡大係数推定方法の概略手順を示すフロー図である。
図3図1に示す第1関係算出ステップST1~補正形状係数算出ステップST4を模式的に説明する説明図である。
図4】「等価仮想板厚」を説明する説明図である。
図5】本発明の実施例で用いた有限要素解析を実行する溶接継手の解析モデルを示す図である。
図6】本発明の実施例で算出した、き裂の深さaと、き裂の応力拡大係数K、形状係数F及び補正形状係数F’との関係を示す図である。
図7】本発明の実施例で推定した対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kの推定精度を評価した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
図2は、本発明の一実施形態に係る溶接継手の応力拡大係数推定方法(以下、適宜、単に「応力拡大係数推定方法」という)の概略手順を示すフロー図である。図3は、図2に示す第1関係算出ステップST1~補正形状係数算出ステップST4を模式的に説明する説明図である。
本実施形態に係る応力拡大係数推定方法は、有限要素解析を用いて、重ね合わせた複数の鋼板と、複数の鋼板を接合する略円形のスポット溶接部と、を備えた溶接継手が有する、スポット溶接部の外縁に沿って存在するき裂の応力拡大係数を推定する方法である。図2に示すように、本実施形態に係る応力拡大係数推定方法は、第1関係算出ステップST1と、第2関係算出ステップST2と、第3関係算出ステップST3と、補正形状係数算出ステップST4と、形状係数算出ステップST5と、応力拡大係数推定ステップST6と、を有する。
以下、各ステップST1~ST6について順に説明する。
【0019】
<第1関係算出ステップST1>
第1関係算出ステップST1では、図3(a)に示すように、き裂の長さを一定の値(き裂の長さ=L)とし、き裂の深さaを変更した溶接継手の複数の解析モデル(例えば、後述の図5に示すような解析モデル)を用いて、それぞれ有限要素解析を実行することで、き裂の深さaと、き裂の応力拡大係数Kとの関係である第1関係を算出する。
本実施形態では、き裂の応力拡大係数Kとして、開口形(モードI)の応力拡大係数を算出するが、必ずしもこれに限るものではなく、有限要素解析における荷重負荷(き裂に対して作用する外力)の条件に応じて、面内せん断形(モードII)や面外せん断形(モードIII)の応力拡大係数を算出することも可能である。
【0020】
き裂の応力拡大係数Kを算出する方法としては、例えば、き裂の開口変位を用いる方法が挙げられる。き裂の開口変位を用いて応力拡大係数Kを算出する際には、まず、有限要素解析を実行することで、解析モデルにおいてき裂面を構成する節点の変位uを算出し、この変位uを2倍した値であるき裂の開口変位2uを算出する。具体的には、き裂の先端からの距離r毎に、き裂の開口変位2uを算出する。そして、き裂の先端からの距離rの平方根と、き裂の開口変位2uとの関係を直線で近似し、近似した直線の勾配2u/r1/2に基づき、き裂の応力拡大係数Kを算出する。具体的には、例えば、以下の式(5)に基づき、き裂の応力拡大係数Kを算出する。
K={E/4(1-ν)}・(2π/r)1/2・u ・・・(5)
上記の式(5)において、Eはき裂が存在する溶接継手(溶接継手を構成する鋼板)のヤング率であり、νは溶接継手(溶接継手を構成する鋼板)のポアソン比であり、πは円周率である。
なお、上記の式(5)は、非特許文献3に記載の式(4.8)及び式(4.16)から導き出すことのできる公知の式である。
【0021】
き裂の深さaとき裂の応力拡大係数Kとの第1関係としては、例えば、変更した各き裂の深さaの各解析モデルを用いて算出したき裂の応力拡大係数Kに対して、最小二乗法等の近似計算を行うことで算出される、多項式関数等の関数を用いることができる。また、変更した各き裂の深さaの各解析モデルを用いて算出したき裂の応力拡大係数Kを結ぶ折れ線を第1関係とすることも可能である。さらに、解析モデルの数(深さaを変更した有限要素解析の数)が多い場合には、き裂の深さaとき裂の応力拡大係数Kとを対応付けたテーブルを第1関係とすることも可能である。
【0022】
<第2関係算出ステップST2>
第2関係算出ステップST2では、き裂の深さaとき裂の応力拡大係数Kとの第1関係に基づき、図3(b)に示すように、き裂の深さaと、以下の式(1)で表される形状係数Fとの関係である第2関係を算出する。
F=K/(σ・(π・a)1/2) ・・・(1)
上記の式(1)において、σは溶接継手に作用する公称応力を意味し、πは円周率を意味する。
前述のように、第1関係として多項式関数等の関数を用いる場合には、第2関係も多項式関数等の関数で表されることになる。同様に、第1関係として折れ線を用いた場合には、第2関係も折れ線で表され、第1関係としてテーブルを用いた場合には、第2関係もテーブルで表されることになる。
【0023】
<第3関係算出ステップST3>
第3関係算出ステップST3では、き裂の深さaと形状係数Fとの第2関係に基づき、図3(c)に示すように、き裂の深さaと、補正形状係数F’との関係である第3関係を算出する。
ここで、補正形状係数F’を算出するに際して、本発明者らが着想した「等価仮想板厚」の考え方を用いる。以下、この「等価仮想板厚」について説明する。
【0024】
前述の図1(b)に示すように、き裂の深さaと形状係数Fとの関係(第2関係)がき裂の長さ毎に異なるのは、き裂の先端近傍の変形状態がき裂の長さ毎に異なるためであり、これはき裂の面積による剛性の差に起因する、と本発明者らは考えた。そして、鋼板がスポット溶接された溶接継手の変形は曲げモードが主体となるため、本発明者らは、板の曲げ剛性Dに着目することにした。
板の弾性変形論に基づくと、板の曲げ剛性Dは、以下の式(6)で表される。
D=E・t/12(1-ν) ・・・(6)
上記の式(6)において、Eは板のヤング率であり、tは板厚であり、νは板のポアソン比である。
上記の式(6)から分かるように、曲げ剛性Dは、板厚tの三乗に比例する。また、板の曲げ応力は、曲げ剛性Dに反比例すると考えられる。したがって、き裂が無い場合を基準にして考えると、き裂が存在する場合には、き裂の長さに応じて見掛け上の板厚tが小さくなり、曲げ剛性Dが小さくなるため、曲げ応力は大きくなると考えられる。このため、き裂の深さaと、前述の式(1)で表される形状係数Fとの関係が、き裂の長さ毎に異なる値を示すのだと考えられる。
【0025】
本発明者らは、上記の考えに基づき、形状係数Fを以下の式(7)で表される補正形状係数F’に補正することを考えた。
F’=(D/D)・F=(D/D)・K/(σ・(π・a)1/2) ・・・(7)
上記の式(7)において、Dはき裂が無い場合の曲げ剛性Dであり、Dはき裂が存在する場合の曲げ剛性Dである。
前述の式(6)に示したように、曲げ剛性D及びDはそれぞれ板厚tの三乗に比例すると考えられるが、式(7)に示す補正形状係数F’を算出する上で、板厚tとしてどのような値を用いるのかが問題となる。曲げ剛性Dを考える上で、単純に、残存板厚(=き裂が無い場合の板厚-き裂の深さa)を用いると、き裂の長さの影響が考慮されないからである。そこで、本発明者らは、き裂が無い場合も含めて、「等価仮想板厚」の考え方を着想した。
【0026】
図4は、「等価仮想板厚」を説明する説明図である。
図4(a)に示すように、「等価仮想板厚」を考える際には、スポット溶接部を、鋼板の板厚方向(図4(a)の紙面に直交する方向)に平行な平面であり、且つ、き裂に対して作用する外力に垂直な平面である投影面に投影することを考える。具体的には、複数の鋼板を接合するスポット溶接部のうち、1枚の鋼板に対応する部分(1枚の鋼板の板厚に相当する部分)を投影面に投影する。
図4(b)は、投影面に投影されたスポット溶接部を示しており、左から順に、き裂が無い場合、き裂の長さが「大」の場合、き裂の長さが「中」の場合、き裂の長さが「小」の場合である。図4(b)において、ハッチング部分が投影面におけるスポット溶接部の接合領域であり、白塗り部分が投影面におけるき裂に対応する領域である。
本発明者らは、図4(b)に示すハッチング部分(接合領域)の面積を求め、その平方根を「等価仮想板厚」として算出することを考えた。図4(b)に示すように、き裂の深さaが同一であっても、き裂の長さが異なれば、ハッチング部分の面積も異なるため、上記のようにして算出される「等価仮想板厚」には、き裂の長さの影響が考慮されていることになる。そして、本発明者らは、前述の式(6)の板厚tとして「等価仮想板厚」を用い、式(7)によって、補正形状係数F’を算出することを考えた。その結果、き裂の深さaとこの補正形状係数F’との関係は、前述の図1(c)に示すように、き裂の長さに関わらず略同一の関係になることが分かった。
【0027】
第3関係算出ステップST3では、以上に説明した「等価仮想板厚」の考え方を用いて、前述のように、き裂の深さaと補正形状係数F’との第3関係を算出する。
具体的には、第3関係算出ステップST3では、溶接継手を構成する鋼板の板厚方向に平行な平面であり、且つ、き裂に対して作用する外力に垂直な平面である投影面にスポット溶接部を投影した場合の、投影面におけるスポット溶接部のき裂を除いた部分の面積(例えば、図4(b)のき裂の長さ「大」、「中」、「小」の場合のハッチング部分の面積)の平方根を等価仮想板厚tとし、投影面におけるスポット溶接部の面積(例えば、図4(b)のき裂無しの場合のハッチング部分の面積)の平方根を等価仮想板厚tとして、第2関係に基づき、き裂の深さaと、以下の式(2)で表される補正形状係数F’との第3関係を算出する。
F’=((t/(t)・F ・・・(2)
上記の式(2)は、前述の式(7)におけるD/Dを、前述の式(6)に基づき、(t/(tに置き換えることで得られる式である。
投影面におけるスポット溶接部のき裂を除いた部分の面積、ひいては、等価仮想板厚tは、スポット溶接部の直径、鋼板の板厚、き裂の長さ、き裂の深さaを用いて算出可能である。また、投影面におけるスポット溶接部の面積、ひいては、等価仮想板厚tは、スポット溶接部の直径、鋼板の板厚を用いて算出可能である。
【0028】
なお、以上に説明した第1関係算出ステップST1~第3関係算出ステップST3は、き裂の応力拡大係数の推定対象とする溶接継手とは別に予め実行しておき、算出された第3関係を記憶しておけばよい。
【0029】
<補正形状係数算出ステップST4>
補正形状係数算出ステップST4では、応力拡大係数の推定対象とする溶接継手であって、き裂の長さ及び深さが任意の値である対象溶接継手について、図3(c)に示すように、対象溶接継手が有するき裂の深さa’と、第3関係とに基づき、き裂の深さa’に対応する補正形状係数F’を算出する。この補正形状係数F’は、対象溶接継手が有するき裂の長さに関わらず、き裂の長さa’のみに依存する値となる。
【0030】
<形状係数算出ステップST5>
形状係数算出ステップST5では、補正形状係数算出ステップST4で算出した補正形状係数F’から、き裂の深さa’に対応する形状係数Fを逆算する。具体的には、形状係数算出ステップST5では、対象溶接継手が有するき裂の長さ及び深さa’から算出されるt及びtと、き裂の深さa’に対応する補正形状係数F’とを用いて、以下の式(3)によって、き裂の深さa’に対応する形状係数Fを算出する。
F=F’/((t/(t) ・・・(3)
上記の式(3)は、前述の式(2)を変形することで得られる式である。
この形状係数Fは、対象溶接継手が有するき裂の長さにも依存する値となる。
【0031】
<応力拡大係数推定ステップST6>
応力拡大係数推定ステップST6では、形状係数算出ステップST5で逆算した形状係数Fとき裂の深さa’とを前述の式(1)に代入することで、深さa’のき裂の応力拡大係数Kを推定する。具体的には、き裂の深さa’と、き裂の深さa’に対応する形状係数Fとを用いて、式(1)を変形することで得られる以下の式(4)によって、対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを推定する。
K=F・σ・(π・a’)1/2 ・・・(4)
上記の式(4)において、σは前記溶接継手に作用する公称応力を意味し、πは円周率を意味する。
【0032】
以上に説明した本実施形態に係る応力拡大係数推定方法によれば、第3関係(き裂の深さaと補正形状係数F’との関係)がき裂の長さに関わらず略同一の関係になることを利用して、対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを推定するため、第3関係を精度良く算出しておけば、対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを精度良く推定可能である。また、本実施形態に係る応力拡大係数推定方法によれば、有限要素解析を実行するのは、第1関係算出ステップST1だけであり、第2関係算出ステップST2、第3関係算出ステップST3、補正形状係数算出ステップST4、形状係数算出ステップST5及び応力拡大係数推定ステップST6では、有限要素解析を実行する必要がない。すなわち、対象溶接継手の解析モデルを作成する必要がない。このため、対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを簡便に推定可能である。
【0033】
以下、本発明に係る応力拡大係数推定方法の実施例について説明することで、本発明の特徴をより一層明らかにする。
【0034】
図5は、本実施例で用いた有限要素解析を実行する溶接継手の解析モデルを示す図である。図5(a)は、解析モデルの外形を示す斜視図である。図5(b)は、解析モデルの要素分割及び境界条件を示す斜視図である。図5(c)は、解析モデルのスポット溶接部の近傍を拡大した正面図である。図5(d)は、図5(c)のA-A矢視断面図である。
図5に示す解析モデルは、正面視L字状に曲げた2枚の鋼板のフランジ部を重ね合わせてスポット溶接することで形成される溶接継手の解析モデルであり、対称性を考慮して、溶接継手の1/2のみをモデル化している(実際の溶接継手には、図5(a)や図5(b)に示す解析モデルの手前にも同じ構造が存在する)。図5(c)及び図5(d)に示す点Cは、スポット溶接部の中心である。
鋼板の板厚はいずれも1.6mmとし、鋼板のヤング率は206GPa、ポアソン比は0.3とした。
スポット溶接部の直径(ナゲット径)は6mmとし、スポット溶接部の外縁に沿って、一方の鋼板の内面(他方の鋼板に対向する面)から板厚方向に延びるき裂を導入した。具体的には、図5(a)~図5(c)に示す右側の鋼板の内面(図5(a)~図5(c)に示す左側の鋼板に対向する面)から板厚方向に延びるき裂を導入した。き裂の深さ(板厚方向の寸法)は、0.2mm、0.5mm、0.8mm、1.0mm及び1.2mmの5種類とした(図5(c)に示す例では0.8mm)。き裂の長さ(板厚方向から見た場合の周方向の寸法)は、図5(d)に示す中心角θで表現して、θ=90°、45°、22.5°の3種類とした(図5(d)に示す例では90°)。図5に示す解析モデルは1/2モデルであるため、実際のき裂の長さは、θ=90°の場合、スポット溶接部の外縁の1/2周に相当する。同様に、θ=45°、22.5°の場合、それぞれスポット溶接部の1/4周、1/8周に相当する。したがって、以降では、き裂の長さをそれぞれ1/2周、1/4周、1/8周と表現する。
【0035】
以上の解析モデルにおいて、図5(b)に示すように、左側の鋼板の一端を固定し、他方の鋼板の一端に面内方向(図5(a)に示す太線矢印方向)の500Nの荷重を負荷すると共に、荷重の作用位置では板厚方向の変形を拘束する(面内方向の変形だけを許容する)条件で、有限要素解析を実行した。これにより、き裂毎に応力拡大係数K(モードI)を算出した。
また、算出した応力拡大係数Kと、式(1)とに基づき、き裂毎に形状係数Fを算出した。なお、式(1)に示す公称応力σは、いずれのき裂が存在する解析モデルであっても一定値であるとみなして良いことから、本実施例では、簡単にするために省略した(すなわち、σ=1とした)。
さらに、算出した形状係数Fと、式(3)とに基づき、き裂毎に補正形状係数F’を算出した。
【0036】
図6は、本実施例で算出した、き裂の深さaと、き裂の応力拡大係数K、形状係数F及び補正形状係数F’との関係を示す図である。図6(a)は、き裂の深さaと、き裂の応力拡大係数Kとの関係を示す図である。図6(b)は、き裂の深さaと、形状係数Fとの関係を示す図である。図6(c)は、き裂の深さaと、補正形状係数F’との関係を示す図である。
図6(a)に示すように、き裂の長さと深さaとに応じて、き裂の応力拡大係数Kは異なる値を示すものの、き裂の長さを一定の値にした場合における、き裂の深さとき裂の応力拡大係数との関係は、き裂の長さに関わらず類似していることが分かる。
また、図6(b)に示すように、き裂の長さと深さaとに応じて、形状係数Fは異なる値を示すものの、き裂の長さを一定の値にした場合における、き裂の深さaと形状係数Fとの関係も、き裂の長さに関わらず類似していることが分かる。
これに対し、図6(c)に示すように、き裂の深さaと補正形状係数F’との関係は、き裂の長さに関わらず略同一の関係になることが分かる。
【0037】
そして、本実施例では、き裂の長さが1/2周の場合に得られた、き裂の深さaとき裂の応力拡大係数Kとの関係を第1関係とし、き裂の長さが1/4周、1/8周の場合を対象溶接継手として、対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを推定した。この場合、き裂の長さが1/2周の場合に得られた、き裂の深さaと形状係数Fとの関係が第2関係となり、き裂の長さが1/2周の場合に得られた、き裂の深さaと補正形状係数F’との関係が第3関係となる。対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kを推定する際には、第3関係を3次多項式で近似した。
図7は、本実施例で推定した対象溶接継手が有するき裂の応力拡大係数Kの推定精度を評価した結果を示す。図7の横軸は、対象溶接継手の解析モデルを用いて有限要素解析を実行することで算出したき裂の応力拡大係数Kを示す。すなわち、図6(a)の1/4周、1/8周について得られた応力拡大係数Kの値である。図7の縦軸は、本実施例で推定したき裂の応力拡大係数Kである。図7に示す破線は、縦軸の値と横軸の値とが一致する直線である。
図7に示すように、応力拡大係数Kの推定値は、解析値と良く一致している。推定誤差は、最大で10数%程度であり、実用上、十分な推定精度を有しているといえる。
以上のように、本発明に係る応力拡大係数推定方法によれば、対象溶接継手については解析モデルを作成して有限要素解析を実行する必要がなく、対象溶接継手に存在するき裂の応力拡大係数を簡便に且つ精度良く推定可能である。
【符号の説明】
【0038】
a、a’・・・き裂の深さ
F・・・形状係数
F’・・・補正形状係数
K・・・応力拡大係数
ST1・・・第1関係算出ステップ
ST2・・・第2関係算出ステップ
ST3・・・第3関係算出ステップ
ST4・・・補正形状係数算出ステップ
ST5・・・形状係数算出ステップ
ST6・・・応力拡大係数推定ステップ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7