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特開2024-42998光吸収剤、組成物、光学部材、及び光吸収剤の製造方法
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  • 特開-光吸収剤、組成物、光学部材、及び光吸収剤の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024042998
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】光吸収剤、組成物、光学部材、及び光吸収剤の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/00 20060101AFI20240322BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240322BHJP
   C08K 5/53 20060101ALI20240322BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C09K3/00 105
C08L101/00
C08K5/53
G02B5/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022147963
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004215
【氏名又は名称】株式会社日本製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】鷲尾 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】山脇 涼
【テーマコード(参考)】
2H148
4J002
【Fターム(参考)】
2H148CA04
2H148CA12
4J002AA011
4J002AB011
4J002BG001
4J002BK001
4J002CD001
4J002CF001
4J002CF061
4J002CF152
4J002CG001
4J002CK021
4J002CM041
4J002CP031
4J002EW046
4J002FD202
4J002FD206
4J002GP01
4J002HA05
(57)【要約】
【課題】樹脂との相溶性に優れた光吸収剤及びその製造方法、当該光吸収剤の分散性に優れた組成物、可視光透過性及び近赤外線遮蔽性に優れた光学部材を提供すること。
【解決手段】下記式(1)で表される化合物と、銅イオンとを含有する、光吸収剤である。
【化1】
ただし、Rは上記式(2)で表される基であり、R10は置換基を有してもよいアルキレン基又はアリーレン基であり、R12は置換基を有していてもよいアルキレン基又はアリーレン基であり、他の符号は明細書に記載のとおりである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される化合物と、銅イオンとを含有する、光吸収剤。
【化1】
ただし、
は、下記式(2)で表される基であり、
は、水酸基、-R、-Ar、-OR、-OAr、-OR-Ar、-OCOR、-OCOAr、-R-N(R、又は-Rであり、
は、置換基を有していてもよいアルキル基であり、
Arは、置換基を有していてもよいアリール基であり、
は、置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
は、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基であり、
【化2】
10は、置換基を有してもよいアルキレン基又はアリーレン基であり、
11は、単結合、又は置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
12は、置換基を有していてもよいアルキレン基、又はアリーレン基であり、但し、R13に結合するR12は単結合であり、
13は、水素原子、又は-R14、-R15OHであり、
14は、置換基を有していてもよいアルキル基であり、
15は、単結合、又は置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
nは、1以上の整数であり、
*は、Pとの結合手であり、
式中に同一符号が複数ある場合、当該複数ある同一符号は、互いに同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
【請求項2】
前記式(2)で表される基の分子量が5,000以下である、請求項1に記載の光吸収剤。
【請求項3】
前記式(1)で表される化合物と、銅イオンのモル比が、1/4~4/1ある、請求項1に記載の光吸収剤。
【請求項4】
前記nが1である、請求項1に記載の光吸収剤。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光吸収剤と、樹脂とを含有する、組成物。
【請求項6】
前記樹脂が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマー、又はこれらの前駆体請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
前記樹脂の重量平均分子量が、100,000以下である、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
更に有機溶剤を含有する、請求項6に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の光吸収剤がマトリクス樹脂中に分散された、光学部材。
【請求項10】
銅イオン源と、下記式(1)で表される化合物と、溶剤とを含む溶液を準備し、
前記溶液中で銅イオンと、下記式(1)で表される化合物とを反応することを含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の光吸収剤の製造方法。
【化3】
ただし、
は、下記式(2)で表される基であり、
は、水酸基、-R、-Ar、-OR、-OAr、-OR-Ar、-OCOR、-OCOAr、-R-N(R、又は-Rであり、
は、置換基を有していてもよいアルキル基であり、
Arは、置換基を有していてもよいアリール基であり、
は、置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
は、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基であり、
【化4】
10は、置換基を有してもよいアルキレン基、又はアリーレン基であり、
11は、単結合、又は置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
12は、置換基を有していてもよいアルキレン基、又はアリーレン基であり、但し、R13に結合するR12は単結合であり、
13は、水素原子、又は-R14、-R15OHであり、
14は、置換基を有していてもよいアルキル基であり、
15は、単結合、又は置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
nは、1以上の整数であり、
*は、Pとの結合手であり、
式中に同一符号が複数ある場合、当該複数ある同一符号は、互いに同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光吸収剤、組成物、光学部材、及び光吸収剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラ等では、CCDやCMOS等の撮像素子が用いられる。これらの撮像素子は近赤外線に対する感度があることから、当該撮像素子の受光面側に近赤外線吸収フィルムを配置して近赤外線を遮蔽することが行われている。
近赤外線吸収フィルムとしては、例えば、樹脂中に近赤外線吸収剤を分散させたフィルムなどが知られている。
【0003】
例えば特許文献1には、特定のホスホン酸化合物と、特定のリン酸エステル化合物と、銅イオンとを含有する近赤外線吸収剤、及び当該近赤外線吸収剤を含有する特定の光学材料が開示されている。
【0004】
また特許文献2には、特定のホスホン酸と銅イオンによって形成された光吸収剤と、アルコキシシランモノマーを含有する、特定の光吸収性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-99038号公報
【特許文献2】国際公開第2019/93076号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
銅イオンとホスホン酸を含む光吸収剤は、相溶性の観点から、使用できる樹脂が限られていた。光吸収剤と樹脂との相溶性が不十分な場合、フィルムの可視光透過率が低下する原因となることがある。
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、樹脂との相溶性に優れた光吸収剤及びその製造方法、当該光吸収剤の分散性に優れた組成物、可視光透過性及び近赤外線遮蔽性に優れた光学部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様にかかる光吸収剤は、下記式(1)で表される化合物と、銅イオンとを含有する。
【化1】
ただし、
は、下記式(2)で表される基であり、
は、水酸基、-R、-Ar、-OR、-OAr、-OR-Ar、-OCOR、-OCOAr、-R-N(R、又は-Rであり、
は、置換基を有していてもよいアルキル基であり、
Arは、置換基を有していてもよいアリール基であり、
は、置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
は、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基であり、
【化2】
10は、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、又はこれらの組み合わせからなる基であり、
11は、単結合、又は置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
12は、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、又はこれらの組み合わせからなる基であり、但し、R13に結合するR12は単結合であり、
13は、水素原子、又は-R14、-R15OHであり、
14は、置換基を有していてもよいアルキル基であり、
15は、単結合、又は置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
nは、1以上の整数であり、
*は、Pとの結合手であり、
式中に同一符号が複数ある場合、当該複数ある同一符号は、互いに同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
【0009】
上記光吸収剤は、前記式(2)で表される基の分子量が5,000以下であってもよい。
【0010】
上記いずれかの光吸収剤は、前記式(1)で表される化合物と、銅イオンのモル比が、1/4~4/1であってもよい。
【0011】
上記いずれかの光吸収剤は、前記nが1であってもよい。
【0012】
本発明の一態様にかかる組成物は、上記いずれかの光吸収剤と、樹脂とを含有する。
【0013】
上記組成物は、前記樹脂が、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、シクロオレフィンポリマー、又はこれらの前駆体を含んでいてもよい。
【0014】
上記いずれかの組成物は、前記樹脂の重量平均分子量が、100,000以下であってもよい。
【0015】
上記いずれかの組成物は、更に有機溶剤を含有してもよい。
【0016】
本発明の一態様にかかる光学部材は、上記いずれかの光吸収剤がマトリクス樹脂中に分散されている。
【0017】
本発明の一態様にかかる光吸収剤の製造方法は、銅イオン源と、前記式(1)で表される化合物と、溶剤とを含む溶液を準備し、前記溶液中で銅イオンと、前記式(1)で表される化合物とを反応することを含む。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、樹脂との相溶性に優れた光吸収剤及びその製造方法、当該光吸収剤の分散性に優れた組成物、可視光透過性及び近赤外線遮蔽性に優れた光学部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】例1の透過率スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本開示の光吸収剤、当該光吸収剤の製造方法、組成物、及び光学部材について順に説明する。
なお、本開示において「式(1)で表される化合物」を「化合物(1)」と記すことがある。また「式(2)で表される基」を「基(2)」と記すことがある。他の化合物等についてもこれに準ずる。
また、数値範囲を示す「~」は特に断りがない限り、その下限値及び上限値を含むものとする。
【0021】
[光吸収剤]
本開示の光吸収剤は、下記式(1)で表される化合物と、銅イオンとを含有することを特徴とする。
【化3】
ただし、
は、下記式(2)で表される基であり、
は、水酸基、-R、-Ar、-OR、-OAr、-OR-Ar、-OCOR、-OCOAr、-R-N(R、又は-Rであり、
は、置換基を有していてもよいアルキル基であり、
Arは、置換基を有していてもよいアリール基であり、
は、置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
は、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基であり、
【化4】
10は、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、又はこれらの組み合わせからなる基であり、
11は、単結合、又は置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
12は、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、又はこれらの組み合わせからなる基であり、但し、R13に結合するR12は単結合であり、
13は、水素原子、又は-R14、-R15OHであり、
14は、置換基を有していてもよいアルキル基であり、
15は、単結合、又は置換基を有していてもよいアルキレン基であり、
nは、1以上の整数であり、
*は、Pとの結合手であり、
式中に同一符号が複数ある場合、当該複数ある同一符号は、互いに同一の基であってもよく、異なる基であってもよい。
【0022】
上記化合物(1)は、リン原子に式(2)で表されるポリエステル構造を含む基が1個又は2個結合した構造を有する。本開示の光吸収剤は、化合物(1)が銅イオンに配位した錯体として存在するものと推定される。そのため、本開示の光吸収剤は銅イオンの外側に基(2)が配置されやすくなる。その結果、本光吸収剤は各種樹脂との相溶性が格段に向上しているものと推定される。
本開示の光吸収剤は少なくとも化合物(1)と銅イオンを含有するものであり、本発明の効果を奏する範囲で更に他の化合物等を含有してもよいものである。以下各成分について説明する。
【0023】
<化合物(1)>
式(1)中のRは基(2)である。
基(2)中のR11は、単結合、又は置換基を有していてもよいアルキレン基である。R11が単結合の場合、O原子と、式(1)のP原子とが結合する。
11がアルキレン基の場合、R11中のC原子と、式(1)のP原子とが結合する。
11のアルキレン基は、樹脂との相溶性や、合成の容易性の点から、炭素数1~12の直鎖アルキレン基が好ましく、炭素数1~6がより好ましく、炭素数1~3が更に好ましい。アルキレン基の具体例としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基などが挙げられる。当該アルキレン基は、水素原子が置換されていてもよい。置換基としては、炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。置換基におけるアルキル基は直鎖であってもよく、分岐を有していてもよい。当該アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基などが挙げられ、水素原子がハロゲン原子、水酸基により置換されていてもよい。
ハロゲン原子としては、F、Cl、Br、Iなどが挙げられる。
【0024】
10及びR12は各々独立に、置換基を有していてもよいアルキレン基、置換基を有していてもよいアリーレン基、又はこれらの組み合わせからなる基である。
置換基を有していてもよいアルキレン基は上記R11におけるものと同様のものが挙げられる。
置換基を有してもよいアリーレン基において、アリーレン基は単環式又は2環式~6環式の多環芳香族炭化水素から、水素原子を2個除いた残基である。アリーレン基は、可視光透過率を向上する点から、単環式又は2環式~3環式の多環芳香族炭化水素が好ましく、更に、フェニレン基、又はナフチレン基がより好ましい。アリーレン基において除かれる水素原子の位置(エステルが結合する位置)は特に限定されない。フェニレン基の場合、オルト位、メタ位、パラ位のいずれであってもよいが原料の入手性や化合物の安定性から、パラ位が好ましい。また、ナフチレン基の場合、化合物の安定姿勢の点から2,6位、1,5位、1,4位、2,3位、又は2,7位が好ましい。
アリーレン基は更に水素原子が置換されていてもよい。置換基としては、炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられ、具体的には、上記R11における置換基と同様である。
また、置換基を有してもよいアルキレン基と置換基を有してもよいアリーレン基の組み合わせからなる基は、例えば、*-アルキレン基-アリーレン基-*、*-アリーレン基-アルキレン基-アリーレン基、*-アルキレン基-アリーレン基-アルキレン基-*などの構造が挙げられ、具体的には下記式(A1)~式(A2)で表される基などが挙げられる。なお、ここでの*はエステルへの結合手である。
【0025】
【化5】
【0026】
10は、樹脂との相溶性を向上する点から、アリーレン基、又は、アルキレン基とアリーレン基の組み合わせからなる基が好ましく、アリーレン基がより好ましい。
12は、基(2)に柔軟性を付与して相溶性を向上する観点から、アルキレン基、又は、アルキレン基とアリーレン基の組み合わせからなる基が好ましく、アルキレン基がより好ましい。
【0027】
13は基(2)の末端を表し、水素原子、又は-R14、-R15OHである。また、前記R14は置換基を有していてもよいアルキル基であり、前記R15は単結合、又は置換基を有していてもよいアルキレン基である。
14のアルキル基は、樹脂との相溶性や、合成の容易性の点から、炭素数1~12の直鎖又は分岐を有するアルキル基が好ましく、炭素数1~6がより好ましく、炭素数1~3が更に好ましい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基などが挙げられる。当該アルキレン基は、水素原子が置換されていてもよい。置換基としては、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられる。
15の置換基を有してもよいアルキレン基は、上記R11におけるものと同様のものが挙げられる。
【0028】
式(2)のnは繰り返し単位数である。nは1以上であればよく、組み合わせる樹脂等に応じて適宜調整すればよい。光吸収剤の赤外線吸収能の観点からは、nは、30以下が好ましく、20以下がより好ましく、15以下が更に好ましい。また樹脂との相溶性の点からは、nが1以上であればよく、nが1の場合でも十分な相溶性が認められる。
【0029】
基(2)の(部分)分子量は、組み合わせる樹脂等に応じて適宜調整すればよい。光吸収剤の赤外線吸収能の観点からは、基(2)の分子量は、5,000以下が好ましく、3,000以下がより好ましく、2,000以下が更に好ましい。一方、樹脂との相溶性の点からは、基(2)の分子量は、150以上が好ましく、200以上がより好ましい。
【0030】
式(1)のRは、水酸基、-R、-Ar、-OR、-OAr、-OR-Ar、-OCOR、-OCOAr、-R-N(R、又は-Rである。また、前記Rは、置換基を有していてもよいアルキル基であり、前記Arは、置換基を有していてもよいアリール基であり、前記Rは、置換基を有していてもよいアルキレン基であり、前記Rは、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基である。
がRの場合、化合物(1)は基(2)を2個有する。なお1分子中の2個の基(2)は同一であっても異なっていてもよい。基(2)の構造は前述のとおりである。
における置換基を有していてもよいアルキル基は、前記R14におけるものと同様のものが挙げられる。
【0031】
Arは置換基を有していてもよいアリール基である。アリール基は単環式又は2環式~6環式の多環芳香族炭化水素から、水素原子を1個除いた残基である。アリール基は、可視光透過率を向上する点から、単環式又は2環式~3環式の多環芳香族炭化水素が好ましく、更に、フェニル基、又はナフチル基がより好ましい。アリール基は更に水素原子が置換されていてもよい。置換基としては、炭素数1~6のアルキル基、ハロゲン原子、水酸基などが挙げられ、具体的には、上記R11における置換基と同様である。
【0032】
の置換基を有してもよいアルキレン基は、上記R11におけるものと同様のものが挙げられる。
は、水素原子、又は置換基を有していてもよいアルキル基である。Rにおける置換基を有していてもよいアルキル基は、前記R14におけるものと同様のものが挙げられる。
【0033】
<銅イオン>
本開示の光吸収剤は銅イオンを含有する。銅イオンは、銅イオンを生じ得る銅化合物(銅イオン源ともいう)から供給されることが好ましい。
銅イオン源としては、解離性のある銅化合物(銅塩)が好ましい。当該銅化合物は、1価の銅イオンを含むものであってもよく、2価の銅イオンを含むものであってもよいが、中でも2価の銅イオンを供給可能な銅塩が好ましい。
銅化合物としては、例えば、酢酸銅、クエン酸銅、グルコン酸銅、無水酢酸銅、無水ギ酸銅、無水ステアリン酸銅、無水安息香酸銅、無水エチルアセト酢酸銅、無水ピロリン酸銅、無水ナフテン酸銅、無水クエン酸銅、銅アセチルアセトナートなどの有機塩、又は前記有機塩の水和物;酸化銅、塩化銅、臭化銅、ヨウ化銅、硫酸銅、硝酸銅、塩基性炭酸銅等の無機塩、又は前記無機塩の水和物などが挙げられる。なお銅イオン源は1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0034】
前記式(1)で表される化合物と、銅イオンのモル比(化合物(1)/銅イオン)は1/4~4/1が好ましく、1/2~2/1がより好ましい。
化合物(1)と銅イオンのモル比が上記下限値以上であれば、銅イオンに化合物(1)が1個以上配位したものが光吸収剤の主な成分となる。そのため、上記下限値以上であれば樹脂との相溶性に優れている。
なお、限定されるものではないが、化合物(1)は、銅イオンに対し単座配位する場合及び2座配位する場合が観察されている。
【0035】
<他の配位子>
本開示の光吸収剤は、本発明の効果を奏する範囲で他の配位子を含有してもよい。他の配位子としては銅イオンに配位しうる公知の化合物を用いることができる。中でも、光吸収剤の赤外線吸収能の観点から、化合物(1)とは異なる他のリン系化合物を含むことが好ましい。当該他のリン系化合物としては、赤外線吸収能の観点からホスホン酸、ホスフィン酸などのリン酸化合物が好ましい。
【0036】
リン酸化合物の具体例としては、エチルホスホン酸、プロピルホスホン酸、ブチルホスホン酸、ペンチルホスホン酸、ヘキシルホスホン酸、ヘプチルホスホン酸、オクチルホスホン酸、ノニルホスホン酸、デシルホスホン酸、ウンデシルホスホン酸、ドデシルホスホン酸、トリデシルホスホン酸、テトラデシルホスホン酸、ペンタデシルホスホン酸、ヘキサデシルホスホン酸、ヘプタデシルホスホン酸、オクタデシルホスホン酸等のアルキルホスホン酸、フェニルホスホン酸、フェノキシホスホン酸、ジメチルフォスフィン酸、ジブチルフォスフィン酸、ジフェニルホスフィン酸、ジフェノキシホスフィン酸、ホスホン酸ジブチル、ホスホン酸ジメチル、エチレンオキサイド変性長鎖アルキルホスホン酸などが挙げられる。ホスホン酸化合物は1種類を単独で又は2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
上記前記式(1)で表される化合物と、上記他の配位子のモル比(化合物(1)/他の配位子)は、相溶性及び赤外線吸収能の点から、15~1が好ましく、10~1がより好ましい。
また、式(1)で表される化合物と、他の配位子を含む配位子の全量と、銅イオンのモル比(配位子/銅イオン)は1~6が好ましい。
【0038】
[光吸収剤の製造方法]
上記光吸収剤の製造方法は特に限定されるものではないが、下記の製造方法により、簡便な方法で、好収率で光吸収剤を得ることができる。即ち、本開示の光吸収剤の製造方法は、銅イオン源と、前記化合物(1)と、溶剤とを含む溶液を準備し、前記溶液中で銅イオンと、前記化合物(1)とを反応することを含むことを特徴とする。
【0039】
本製造方法ではまず、銅イオン源と前記化合物(1)と溶剤を準備する。銅イオン源の具体例は上述のとおりであり、市販品等を用いることができる。
化合物(1)は例えば下記スキーム1に従って合成することができる。
【0040】
【化6】
ただし、R22は化合物(1)のR13に相当する。
【0041】
上記スキーム1では、ジカルボン酸(化合物(11))と、アルコール(化合物(12))を脱水縮合して化合物(21)を合成し(ステップ(i))、次いで、当該当該化合物(21)と、十酸化四リン(五酸化二リン;化合物(13)とを反応させることで、化合物(1)に相当する化合物(2A)が得られる(ステップ(ii))。なお各ステップの反応条件は、公知の脱水縮合反応、及びアルコールと五酸化二リンの反応の反応条件を参照すればよい。
【0042】
また、nが2以上の化合物(1)を合成する場合、上記スキーム1において化合物(12)をジアルコール(化合物(14))に変更すればよい(下記スキーム2参照)。
【0043】
【化7】
ただし、R23は化合物(1)のR12に相当し、末端のR23OHは化合物(1)のR13に相当する。
【0044】
また、溶剤は、前記銅イオン源と前記化合物(1)を溶解又は分散可能な溶剤のなかから適宜選択すればよい。
溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族化合物;メタノールエタノール、プロパノール等のアルコール類、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ等のグリコールエーテル類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル等のエーテル類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸エチル等のエステル類、ヘキサンなどの炭化水素系溶剤が挙げられ、1種単独でも、2種以上を組み合わせた混合溶媒であってもよい。本製造方法では、アルコール類と、上記芳香族化合物との混合溶剤が好ましい。また、γ-ブチロラクトンなどの環状エステル溶媒を添加してもよい。
【0045】
上記の溶剤に、前記銅イオン源と、前記化合物(1)と、必要に応じて他の配位子を加え、加熱することで反応させることができる。反応条件は特に限定されず、例えば40~120℃で、1~24時間程度加熱撹拌することで錯形成される。反応後の溶液は、必要に応じて、加熱等により溶剤を除去してもよく、精製を行ってもよい。以上の方法により、光吸収剤を好適に製造することができる。
【0046】
[組成物]
本開示の組成物は、上記光吸収剤と、樹脂とを含有することを特徴とする。上記光吸収剤を用いることにより当該光吸収剤と樹脂の相溶性に優れ、光吸収剤の分散安定性に優れている。そのため、当該組成物を用いて得られる光学部材は光吸収剤が均一に分散した高品質なものとなる。
【0047】
<樹脂>
組成物中の樹脂は、後述する光学部材においてマトリクス樹脂となるものであり、光学部材の用途等に応じて適宜選択することができる。また、ここでの樹脂は硬化性樹脂などのモノマー成分(マトリクス樹脂前駆体)であってもよい。
本組成物に好適に用いることのできる樹脂としては、例えば、ポリイミド樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、シリコーン樹脂、セルロース樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、シクロオレフィンコポリマー(COP)などが挙げられ、中でも、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、セルロース樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、又はシクロオレフィンポリマーが好ましく、より相溶性に優れる点から、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、セルロース樹脂又はポリイミド樹脂がより好ましく、更に、耐衝撃性の点から、ポリイミド樹脂、又はセルロース樹脂が好ましい。
【0048】
また、樹脂の重量平均分子量は、より相溶性を向上する点から、100,000以下が好ましく、50,000以下がより好ましく、30,000以下が更に好ましい。なお樹脂の重量平均分子量の下限は特に限定されないが、光学部材の機械強度などの点から、通常、1,000以上であり、2,000以上が好ましい。
【0049】
樹脂と光吸収剤との混練を容易とする点などから、本組成物は更に有機溶剤を含有してもよい。有機溶剤は樹脂との親和性の観点から適宜選択すればよい。
例えば、ポリイミド樹脂又はポリイミド前駆体を含む場合は、有機溶剤が、芳香環を有する化合物と、エステル又はカーボネートを有する化合物とを含む混合溶剤を用いることが好ましい。
芳香環を有する化合物としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、アニソール等が挙げられる。また、エステル又はカーボネートを有する化合物としては、酢酸エチル等のエステル系溶剤、ジメチルカーボネートなどのカーボネート系溶剤が挙げられる。なお、ポリイミド前駆体としては、ポリアミド酸などが挙げられる。
【0050】
樹脂中の光吸収剤の含有割合は、得られる光学部材の用途等に応じて適宜調整すればよい。光吸収剤の分散性と、光学部材の赤外線吸収能とを両立する点から、組成物全量に対して、光吸収剤の割合が10~90質量%であることが好ましく、30~80質量%がより好ましい。
【0051】
<他の成分>
本開示の組成物は、本発明の効果を奏する範囲で他の成分を含有してもよい。本組成物に含まれ得る他の成分としては、例えば、酸化防止剤、界面活性剤などが挙げられる。
酸化防止剤は、公知の藻の中から適宜選択して用いることができる。具体例としては、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤等が挙げられる。
また界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性、又は両性の界面活性剤が挙げられる。上記本開示の光吸収剤との相溶性の点からは、リン酸エステル型アニオン界面活性剤が好ましい。
【0052】
上記組成物の調製方法は、樹脂中に光吸収剤が均一に分散可能な方法であればよく、公知の方法の中から適宜選択すればよい。一例として、光吸収剤を有機溶剤中に分散し、当該溶液中にワニス状の樹脂を添加し、各種攪拌装置により均一に攪拌し、必要に応じて溶剤を除去することで、ワニス状の本組成物を得ることができる。
【0053】
[光学部材]
本開示の光学部材は、上記光吸収剤がマトリクス樹脂中に分散されていることを特徴とする成形体である。
本光学部材は、上記光吸収剤とマトリクス樹脂との相溶性が高く、また、均一に分散されているため、ヘイズが抑制され、光学性能に優れていている。
【0054】
マトリクス樹脂は、前記組成物中の樹脂であり、前記組成物中の樹脂が前駆体である場合、本マトリクス樹脂は当該前駆体が反応を経て得られた樹脂を表す。例えば、前記樹脂がポリイミド前駆体の場合は、本マトリクス樹脂はポリイミド樹脂である。
【0055】
本光学部材の形状は、用途等に応じて適宜設計すればよい。例えば、凸レンズ、凹レンズなどのレンズ形状やプリズム形状などであってもよく、プリズムシートやフレネルレンズなど、微細凹凸加工を有するシート形状であってもよく、平坦面からなるフィルム状であってもよい。
【0056】
光学部材の製造方法は、光学部材の形状等に応じて適宜選択すればよい。例えば、レンズやプリズム等の場合は射出成形法などの各種成形法を用いることができる。平坦なフィルム状の光学部材は、例えば、基材上にワニス状の前記組成物を塗布して平坦な塗膜を形成し、乾燥し、必要に応じて硬化反応することで得ることができる。また、微細凹凸加工を有するシート形状は、例えば、前記塗膜に金型等で賦形することで得ることができる。
【0057】
本光学部材は、優れた光学特性を有することから、例えば、CCD、CMOS等の撮像素子の受光面側に配置される近赤外線吸収フィルムとして好適に用いることができる。また、赤外線吸収能及び可視高透過性に優れることから熱線吸収用部材としても好適に使用することができる。また、樹脂としてポリイミド樹脂を用いた光学部材は、機械的強度や耐熱性に優れるため上記の用途により好適に用いることができる。
【実施例0058】
以下に実施例及び比較例を挙げて、本発明について具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0059】
[例1:光吸収剤、組成物及び光学部材の製造]
酢酸銅1水和物(Wako純薬)1.56gを、1プロパノール75g、トルエン75g混合溶剤に溶解させ、常温で撹拌し溶液aを準備した。当該溶液に、下記化合物(a)17.5gを加えて溶解し、次いでγブチロラクトンを8.2g添加し、100℃で3h加熱撹拌を行った後、溶剤の一部を除去し、光吸収剤溶液14.5gを得た。
当該光吸収剤溶液1.8gを、液状ポリイミド樹脂(ソマール社製SPIXAREA VR0161)0.58gへ加えて、常温で30min撹拌し、光吸収剤含有組成物2.38gを得た。
この近赤外吸収剤含有樹脂1.9gをガラス基板へ塗布し、焼成炉にて100℃、24hの加熱を行い、厚さ0.43mmの光学部材(赤外線吸収フィルム)を得た。
【0060】
【化8】
【0061】
[例2~8:光吸収剤、組成物及び光学部材の製造]
例1において、化合物(a)の代わりに、化合物(a)と下記化合物(b)~化合物(h)との混合物(モル比は表1に示す)を各々用いた以外は、例1と同様にして、例2~8の光吸収剤、組成物及び光学部材を得た。
・化合物(b):ブチルホスホン酸(CH(CH-P(=O)(-OH)
・化合物(c):リン酸ジブチル([CH(CHO-]P(=O)(-OH))
・化合物(d):フェニルホスホン酸(Ph-P(=O)(-OH)
・化合物(e):ジフェニルホスフィン酸((Ph-)P(=O)(-OH))
・化合物(f):リン酸フェニル(PhO-P(=O)(-OH)
・化合物(g):リン酸ジフェニル((PhO-)P(=O)(-OH))
・化合物(h):エチルホスホン酸(CHCH-P(=O)(-OH)
【0062】
[例9~16:光吸収剤及び光学部材の製造]
例1において、化合物(a)の代わりに、化合物(b)~化合物(i)を各々用いた以外は、例1と同様にして、例9~16の光吸収剤、組成物及び光学部材を得た。
・化合物(i):(C1531(OCHCHO-P(=O)(-OH)
【0063】
[例17:光吸収剤及び光学部材の製造]
例1において、化合物(a)の代わりに、化合物(h)と化合物(i)との混合物(モル比は表1に示す)を用いた以外は、例1と同様にして、例17の光吸収剤、組成物及び光学部材を得た。
【0064】
[例18~21:光吸収剤及び光学部材の製造]
例1、例4、例11及び例17において、液状ポリイミド樹脂の代わりに、セルロース(EASTMAN社製、CAP-504-0.2)溶液を用いた以外は、例1、例4、例11及び例17と同様にして、例18~21の光吸収剤、組成物及び光学部材を得た。
【0065】
<分光測定>
上記各例で得られた光学部材の分光透過率測定を行った。波長500nm及び波長800nmの透過率を表1に示す。また、図1に例1の透過率スペクトルを示す。
【0066】
【表1】
【0067】
表1に示す通り、例1~例21の光学部材はいずれも波長800nmの光の透過率が低く、近赤外線の遮蔽性が良好であることが示される。一方、例1~8と例9~17とを比較すると、波長800nmの光(可視光)の透過率に差が見られた。式(1)で表される化合物に相当する化合物(a)を含む光吸収剤を用いた例1~8の光学部材では、当該光吸収剤と樹脂との相溶性に優れ、ヘイズが抑制された結果、可視光透過性に優れた光学部材が得られた。一方、式(1)で表される化合物を含まない、例9~17ではヘイズが発生し可視光透過率が低下している。樹脂をセルロースに変更した例18~例21でも同様の結果が得られた。
このように、式(1)で表される化合物と、銅イオンとを含有する、本実施形態の光吸収剤によれば、樹脂との相溶性に優れ、可視光透過性及び近赤外線遮蔽性に優れた光学部材が得られることが示された。
【0068】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
図1