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  • 特開-保護方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004303
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】保護方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 5/00 20230101AFI20240109BHJP
   C02F 1/00 20230101ALI20240109BHJP
【FI】
C02F5/00 610Z
C02F5/00 620B
C02F1/00 U
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103898
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】595011238
【氏名又は名称】クボタ環境エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】葛谷 佳広
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 達也
(72)【発明者】
【氏名】添田 祐二
(72)【発明者】
【氏名】実村 章雄
(57)【要約】
【課題】汎用的な材料を用いて、設備が運用されている現場において適用可能な保護方法を実現する。
【解決手段】本発明に係る保護方法は、スケールが付着しうる環境にある物品の保護方法であって、保護対象とする部分にグリースを塗布することを含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スケールが付着しうる環境にある物品の保護方法であって、保護対象とする部分にグリースを塗布することを含む保護方法。
【請求項2】
前記グリースのJIS K 2220:2013に従って測定されるちょう度が2以上である請求項1に記載の保護方法。
【請求項3】
前記グリースの、JIS K 2220:2013に従い38℃、1時間の条件で測定される水洗耐水度が3.0%以下である請求項1に記載の保護方法。
【請求項4】
前記グリースが石けん系グリースである請求項1に記載の保護方法。
【請求項5】
前記グリースがリチウム石けん系グリースである請求項4に記載の保護方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スケールが付着しうる環境にある物品の保護方法に関する。
【背景技術】
【0002】
焼却灰等の廃棄物の最終処分場から排出される浸出水を処理する浸出水処理設備などの設備では、液体が接触する箇所におけるスケールの形成が問題になる。スケールは、典型的には、カルシウム等の無機塩類化合物が設備表面に析出したものであり、設備表面に強固に付着してその除去が難しい場合がある。
【0003】
この課題に鑑み、スケールの除去を容易にする技術が従来検討されている。たとえば特許第6687776号(特許文献1)では、スケールが生じうる箇所にエポキシ樹脂を含有するコーティングを施す技術が開示されている。また、特開2011-156465号公報(特許文献2)には、スケールが生じうる箇所にフッ素樹脂等からなる付着抑制部材を配置する技術が開示されている。特許文献1および2の技術を適用した場合、これを適用しない場合に比べてスケールの除去が容易になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6687776号
【特許文献2】特開2011-156465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の技術では、保護対象とする部分に特殊なコーティング材を塗布する必要があり、設備の保守に従事する作業員がかかるコーティング材を携行する必要があった。また、特許文献2の技術では、配管等の製造時点においてフッ素樹脂等のライニングを施す必要があり、現に運用されている設備への適用が難しかった。
【0006】
そこで、汎用的な材料を用いて、現に運用されている設備に適用可能な保護方法の実現が求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る保護方法は、スケールが付着しうる環境にある物品の保護方法であって、保護対象とする部分にグリースを塗布することを含むことを特徴とする。
【0008】
本発明者らは、スケールが付着しうる部分にグリースを塗布しておくことで、スケールの除去が容易になることを発見し、本発明を完成した。かかるグリースは、この種の設備において、駆動部の潤滑等のグリース本来の用途に広く供されているものである。すなわち上記の構成によれば、汎用的な材料を用いて、現に運用されている設備に適用可能な保護方法を実現できる。
【0009】
以下、本発明の好適な態様について説明する。ただし、以下に記載する好適な態様例によって、本発明の範囲が限定されるわけではない。
【0010】
本発明に係る保護方法は、一態様として、前記グリースのJIS K 2220に従って測定されるちょう度が2以上であることが好ましい。
【0011】
典型的な保護対象の部分は流水に晒される環境にあり、塗布されたグリースが流失するおそれがあるところ、ちょう度が2以上のグリースを用いると、塗布されたグリースが流失しにくい。そのため、保護効果が維持されやすい。
【0012】
本発明に係る保護方法は、一態様として、前記グリースの、JIS K 2220:2013に従い38℃、1時間の条件で測定される水洗耐水度が3.0%以下であることが好ましい。
【0013】
典型的な保護対象の部分は流水に晒される環境にあり、塗布されたグリースが流水に溶解して失われてしまうおそれがあるところ、38℃、1時間の条件における水洗耐水度が3.0%以下のグリースを用いると、塗布されたグリースが失われにくい。そのため、保護効果が維持されやすい。
【0014】
本発明に係る保護方法は、一態様として、前記グリースが石けん系グリースであることが好ましい。
【0015】
石けん系グリースは、スケールが付着しうる環境にある物品の保守作業に従事する作業者が通常の潤滑用途のために携行していることが多い。そのため、石けん系グリースを用いて本発明に係る保護方法をすると、実施が比較的容易である。
【0016】
本発明に係る保護方法は、一態様として、前記グリースがリチウム石けん系グリースであることが好ましい。
【0017】
リチウム石けん系グリースは耐水性に優れるため、本発明において用いるグリースとして特に好適である。
【0018】
本発明のさらなる特徴と利点は、図面を参照して記述する以下の例示的かつ非限定的な実施形態の説明によってより明確になるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本実施形態に係る保護方法の作用機序を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る保護方法の実施形態について、図面を参照して説明する。以下では、本発明に係る保護方法を、一般廃棄物の最終処分場において、浸出水処理設備に設置されている水槽、配管、機器、および計器などを保護する方法に適用した例について説明する。
【0021】
〔保護対象〕
本実施形態に係る保護方法は、スケールが付着しうる環境にある物品を保護して、当該物品上に蓄積したスケールの剥離を容易にする方法である。本実施形態の適用箇所である浸出水処理設備は、スケールが付着しうる環境の一例である。浸出水処理設備では、浸出水に含まれるカルシウムイオンが炭酸カルシウムとして析出してスケールを形成する。なお、スケールが付着しうる環境の他の例としては、冷却水循環設備、地熱発電設備、製塩設備、食品工場排水処理設備などが例示される。
【0022】
保護対象とする物品(以下、対象物という。)は、浸出水処理設備において浸出水に触れる物品であれば限定されないが、水槽、弁・配管、機器、および計器などが典型的である。機器としてはポンプ(インペラ、ケーシング、シャフト)、撹拌機などが例示され、計器としては水位計、温度計、流量計、pH計などが例示される。また、保護対象とする部分(以下、対象部分という。)は、対象物のうち、浸出水に触れる部分の全部または一部である。
【0023】
対象物および対象部分の材質は特に限定されず、たとえば金属、樹脂、コンクリート等でありうる。
【0024】
〔グリース〕
本発明に係る保護方法において使用するグリースとしては、一般に市販されているグリースを使用しうる。ただし、JIS K 2220:2013に従って測定されるちょう度が2以上であるグリースを用いると、対象部分に浸出水が流通する場合であっても、グリースが流失しにくいため、保護効果が長続きしやすい。また、JIS K 2220:2013に従い38℃、1時間の条件で測定される水洗耐水度が3.0%以下であるグリースを用いることも、グリースの流失を防ぎうる点で好適である。加えて、対象部分が置かれる環境において液化せずかつ固化しないグリースであることが好ましい。
【0025】
好適なグリースとしては、石けん系グリースであるアルミニウム石けんグリース、リチウム石けんグリース、カルシウムコンプレックスグリース、アルミニウムコンプレックスグリース、およびリチウムコンプレックスグリース、ならびに、非石けん系グリースであるポリウレアグリース、ベントナイトグリース、ポリテトラフルオロエチレングリース、およびカーボンブラックグリース、などが例示される。このうち、石けん系グリースは、スケールが付着しうる環境にある物品の保守作業に従事する作業者が通常の潤滑用途のために携行していることが多い。そのため、石けん系グリースを用いて本実施形態に係る保護方法をすると、作業者が新たに携行するべき道具が増えないため、実施が比較的容易である。また、リチウム石けん系グリースを用いると、耐水性に優れるため特に好ましい。
【0026】
〔保護方法〕
本実施形態に係る保護方法は、対象部分にグリースを塗布することを含む。塗布の方法は特に限定されず、手塗り、刷毛塗り、スプレー塗り、および浸漬などの公知の方法を採用しうる。また、グリースの塗布を行う頻度は、特に限定されない。たとえば、対象物について定期的に清掃を行ってスケールを除去する運用がなされている場合は、当該清掃の都度グリースを塗布することが好ましい。
【0027】
対象部分にグリースを塗布した後の対象物は、通常の運転に供される。運転中に、対象部分等にスケールの蓄積が見られるが、本実施形態に係る保護方法による保護を施した対象部分に付着したスケールは、ハンマー等を用いて人力による打撃を加える程度の操作でグリース塗布面を境界にして容易に剥離して除去できる。
【0028】
一般に、機器等にスケールが付着する場合、機器等の表面に対してスケールが強固に固着している。また、スケールは炭酸カルシウムを主成分とする硬質な物質であり、人力程度の力での破壊は一般的に困難である。そのため、スケールを除去しようとする際は、機器表面とスケールとの固着部分を破壊するにしろ、スケール自体を破壊するにしろ、いずれにせよ大きな力を必要とするため、スケールの除去が非常に困難である。
【0029】
一方、本実施形態に係る保護方法による保護を施した対象部分1(図1)では、対象部分1に対して直接にスケール2が付着しているのではなく、グリース3を介してスケール2が付着している。そのため、スケール2に打撃が加えられると、グリース3の層が破壊され、当該グリース3の一部がスケール2と一体に対象部分から離脱する。
【0030】
スケール2に打撃を加えたときにスケール2とグリース3とが一体に離脱する現象について、そのメカニズムは明らかではないが、本発明者らはグリース3のチキソトロピー性が寄与していると考えている。浸出水が流通するなどの通常使用時の環境下では、グリース3の粘度が低下するほどのせん断応力は働いていない。一方、スケール2に打撃が加えられた際には、グリース3の粘度が低下するほどのせん断応力がグリース3に働くと考えられる。この粘度低下によって、グリース3が対象部分への付着を維持できなくなり、これによって、スケール2が打撃を受けたときにスケール2とグリース3とが一体に離脱するのだと考えられる。
【0031】
このように、対象箇所にグリースを塗布して、スケールが付着した後に破壊しやすい部分をあらかじめ設けておくことによって、スケールの除去を容易にしてある。
【0032】
〔その他の実施形態〕
その他の構成に関しても、本明細書において開示された実施形態は全ての点で例示であって、本発明の範囲はそれらによって限定されることはないと理解されるべきである。当業者であれば、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜改変が可能であることを容易に理解できるであろう。したがって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で改変された別の実施形態も、当然、本発明の範囲に含まれる。
【実施例0033】
〔対象物〕
被処理水をpH9~11に調整するとともに炭酸ソーダを添加する反応槽、反応槽を経た被処理水にさらに凝集剤を添加する混和槽、混和槽を経た被処理水にさらにポリマーを添加する凝集槽、凝集槽を経た被処理水に含まれるフロックを沈降分離する凝集沈殿槽、および、凝集沈殿槽においてフロックが除去された被処理水に酸を加えて中和する中和槽、を含む浸出水処理設備において、反応槽に設置されている揚水ポンプのインペラを対象物とした。
【0034】
〔実施例〕
インペラに対し、ちょう度2のリチウム石けんグリースを刷毛塗りにより塗布した。グリース塗布後のインペラを揚水ポンプに組み付けて、揚水ポンプを通常の運転条件で90~180日間の運転に供した後に、揚水ポンプを解体し、インペラに付着したスケールの除去を試みた。当該スケールを、ハンマーで打撃を加えることによって除去できた。
【0035】
〔比較例〕
実施例と同一の浸出水処理設備において、揚水ポンプを、インペラにグリースを塗布することなく通常の運転に供した。90~180日間の運転の後に揚水ポンプを解体し、インペラに付着したスケールの除去を試みたところ、ハンマーで打撃を加えることによってはスケールを除去できなかった。スケールを除去するためには、鏨を用いてスケールを破壊する必要があった。
【0036】
〔結果〕
比較例に比べて、実施例の方が簡単にスケールを除去することができた。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明は、たとえば浸出水処理設備おいて機器等を保護する方法として利用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 対象部分
2 スケール
3 グリース
図1