(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043039
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】射出成形用金型
(51)【国際特許分類】
B29C 33/10 20060101AFI20240322BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
B29C33/10
B29C45/26
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148011
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】312003595
【氏名又は名称】タカハタプレシジョン株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】511234655
【氏名又は名称】株式会社リプス・ワークス
(71)【出願人】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100162341
【弁理士】
【氏名又は名称】瀬崎 幸典
(72)【発明者】
【氏名】高橋 咲貴子
(72)【発明者】
【氏名】松江 朋彦
(72)【発明者】
【氏名】小俣 恵一
(72)【発明者】
【氏名】岡部 康幸
(72)【発明者】
【氏名】本間 敬之
(72)【発明者】
【氏名】國本 雅宏
【テーマコード(参考)】
4F202
【Fターム(参考)】
4F202CA11
4F202CB01
4F202CP05
4F202CP10
(57)【要約】
【課題】エアベント溝内のデポジットの堆積を抑制するとともに堆積したデポジットの除去を容易にする。
【解決手段】固定型と可動型とをパーティング面で当接させて形成されたキャビティ内に溶融樹脂材料を射出して成形する金型であって、固定型と可動型の少なくとも一方のパーティング面に、表面エネルギーを低下させるテクスチャが形成されキャビティの端部に第1の溝深さで連通してキャビティ内のガスを流通させる第1エアベント溝と、一端が第1エアベント溝に第1の溝深さよりも深い第2の溝深さで連通し、他端が金型外に連通する第2エアベント溝と、を備えた。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と可動型とをパーティング面で当接させて形成されたキャビティ内に溶融樹脂材料を射出して成形する金型であって、
前記固定型と前記可動型の少なくとも一方のパーティング面に、表面エネルギーを低下させるテクスチャが形成され前記キャビティの端部に第1の溝深さで連通して前記キャビティ内のガスを流通させる第1エアベント溝と、一端が前記第1エアベント溝に前記第1の溝深さよりも深い第2の溝深さで連通し、他端が前記金型外に連通する第2エアベント溝と、を備えた、
ことを特徴とする射出成形用金型。
【請求項2】
前記テクスチャは、前記第1エアベント溝の溝底に形成された複数のディンプルからなるディンプル群から構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項3】
前記ディンプルは、ディンプル深さが前記第1の溝深さと同一である、
ことを特徴とする請求項2に記載の射出成形用金型。
【請求項4】
前記ディンプル群は、複数のディンプルが格子角度30度~75度で配置されて形成されている、
ことを特徴とする請求項3に記載の射出成形用金型。
【請求項5】
前記テクスチャは、前記第1エアベント溝の溝底に形成されたナノ周期構造の溝から構成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項6】
前記テクスチャは、超短パルスレーザを照射して前記第1エアベント溝の溝底の材料を除去することで形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載の射出成形用金型。
【請求項7】
前記第1エアベント溝は、溝幅が1.0mm以上2.0mm以下、第1の溝深さが0.003mm~0.01mmである、
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の射出成形用金型。
【請求項8】
前記溶融樹脂材料が、熱可塑性の結晶性樹脂である、
ことを特徴とする請求項1ないし6のいずれか1項に記載の射出成形用金型。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形用金型に関する。
【背景技術】
【0002】
光ディスク基板製造用射出成形金型において、金型キャビティ面に装着されたニッケル製のスタンパー端部と金型キャビティブロックの間で形成されるガスベントのランド部分、および/または、このランド部分に対応するスタンパー部分に、フッ素系樹脂の被覆膜が形成され、フッ素系樹脂の被覆膜の厚さが5~10μmの範囲とされ、被覆膜形成後のガスベントのガス抜き用クリアランスが隙間5~15μmの範囲とされてなる光ディスク基板製造用射出成形金型が知られている(特許文献1)。
【0003】
金属粉末と熱可塑性高分子材料を含むバインダーとの混和物を用いて、一対の面を有し、一対の面の一方の面に開口部を有し、一対の面の他方の面まで0.1mm以上隔てた位置に尖端部を有するテーパ構造の少なくとも一つの溝を有する、成形体を成形する成形工程と、成形体に脱バインダー及び焼結を施して焼結体を得る熱処理工程と、焼結体の他方の面を尖端部が露出するまで研磨する研磨工程を有するガスベント部材の製造方法も知られている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-34121号公報
【特許文献2】特開2020-66224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、エアベント溝内のデポジットの堆積を抑制するとともに堆積したデポジットの除去を容易にする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の射出成形用金型は、
固定型と可動型とをパーティング面で当接させて形成されたキャビティ内に溶融樹脂材料を射出して成形する金型であって、
前記固定型と前記可動型の少なくとも一方のパーティング面に、表面エネルギーを低下させるテクスチャが形成され前記キャビティの端部に第1の溝深さで連通して前記キャビティ内のガスを流通させる第1エアベント溝と、一端が前記第1エアベント溝に前記第1の溝深さよりも深い第2の溝深さで連通し、他端が前記金型外に連通する第2エアベント溝と、を備えた、
ことを特徴とする。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の射出成形用金型において、
前記テクスチャは、前記第1エアベント溝の溝底に形成された複数のディンプルからなるディンプル群から構成されている、
ことを特徴とする。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の射出成形用金型において、
前記ディンプルは、ディンプル深さが前記第1の溝深さと同一である、
ことを特徴とする。
【0009】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の射出成形用金型において、
前記ディンプル群は、複数のディンプルが格子角度30度~75度で配置されて形成されている、
ことを特徴とする。
【0010】
請求項5に記載の発明は、請求項1に記載の射出成形用金型において、
前記テクスチャは、前記第1エアベント溝の溝底に形成されたナノ周期構造の溝から構成されている、
ことを特徴とする。
【0011】
請求項6に記載の発明は、請求項1に記載の射出成形用金型において、
前記テクスチャは、超短パルスレーザを照射して前記第1エアベント溝の溝底の材料を除去することで形成されている、
ことを特徴とする。
【0012】
請求項7に記載の発明は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の射出成形用金型において、
前記第1エアベント溝は、溝幅が1.0mm以上2.0mm以下、第1の溝深さが0.003mm~0.01mmである、
ことを特徴とする。
【0013】
請求項8に記載の発明は、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の射出成形用金型において、
前記溶融樹脂材料が、熱可塑性の結晶性樹脂である、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、エアベント溝内のデポジットの堆積を抑制するとともに堆積したデポジットの除去を容易にすることができる。
【0015】
請求項2に記載の発明によれば、溝底の断面積を部分的に変化させることでガスの流れを変化させてデポジットを捕捉することができる。
【0016】
請求項3に記載の発明によれば、デポジットをディンプル内に捕捉し、第1エアベント溝のデポジットによる詰まりを抑制することができる。
【0017】
請求項4に記載の発明によれば、デポジットをディンプル内に効率よく捕捉し、第1エアベント溝のデポジットによる詰まりを抑制することができる。
【0018】
請求項5に記載の発明によれば、溝底の断面積を部分的に変化させることでガスの流れを変化させてデポジットを捕捉することができる。
【0019】
請求項6に記載の発明によれば、エアベント溝内にテクスチャを形成することができる。
【0020】
請求項7に記載の発明によれば、バリの発生を抑制しながらガスを第1エアベント溝から第2エアベント溝へ導くことができる。
【0021】
請求項8に記載の発明によれば、バリの発生しやすい樹脂材料を使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本実施形態に係る射出成形用金型の概略断面模式図である。
【
図2】(a)は本実施形態に係る射出成形用金型の固定側をパーティング面側に視点をおいて示す平面模式図、(b)はエアベント溝を示す部分断面模式図である。
【
図3】第1エアベント溝側に視点をおいて示すエアベント入れ子の斜視図である。
【
図4】(a)は第1エアベント溝のディンプル群を示す平面模式図、(b)は断面模式図である。
【
図5】(a)は第1エアベント溝の変形例に係るテクスチャを示す平面模式図、(b)は変形例に係るテクスチャを説明する部分拡大模式図である。
【
図6】(a)は第1エアベント溝におけるガスの流通を説明する図、(b)はエアベント溝におけるガスの流通を説明する図である。
【
図7】実施例1に係る第1エアベント溝を示す平面模式図である。
【
図8】実施例2に係る第1エアベント溝を示す平面模式図である。
【
図9】実施例に係る成形品の例をランナとともに示す斜視図である。
【
図10】2000回成形後の実施例1に係る第1エアベント溝の溝底の表面状態を示す図である。
【
図11】2000回成形後の実施例2に係る第1エアベント溝の溝底の表面状態を示す図である。
【
図12】テクスチャが形成されていない比較例のエアベント溝の2000回成形後の表面状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
次に図面を参照しながら、本発明の実施形態の具体例を説明するが、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
尚、以下の図面を使用した説明において、図面は模式的なものであり、各寸法の比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【0024】
(1)射出成形用金型の全体構成
図1は本実施形態に係る射出成形用金型1の概略断面模式図である。
以下、図面を参照しながら、射出成形用金型1の全体構成について説明する。
【0025】
図1に示すように、射出成形用金型1は、当接面(以降、パーティング面PLと記す)で合わさった固定側型10と可動側型20とからなり、固定側型10と可動側型20との間に樹脂が充填されるキャビティCが形成されている。
【0026】
固定側型10は、固定側取付板11と、入れ子収納部が形成された固定側型板12と、キャビティCの一部を構成するキャビティ面及びパーティング面Pの一部が形成された固定側入れ子13と、一端に第1エアベント溝41が形成されたエアベント入れ子14からなる。
【0027】
固定側取付板11、固定側入れ子13及びエアベント入れ子14が配設された固定側型板12は順に接合され、固定側取付板11には樹脂が供給されるロケートリング15が設けられている。
固定側取付板11には、ロケートリング15に連通し溶融樹脂が最初に流入するスプルー16が形成されたスプルーブッシュ17が設けられている。また、固定側入れ子13にはスプルー16から注入される溶融樹脂をキャビティCに向かって流通させるランナ18の一面側を形成するランナ溝が形成されている。ランナ溝の先端には、キャビティC内に溶融樹脂を充填するゲート19が形成されている。
【0028】
可動側型20は、可動側取付板21と、スペーサブロック22を介して可動側取付板21に取付けられ可動側型20の移動方向に移動可能なストリッパプレート23と、ストリッパプレート23に接合される可動側型板24からなる。可動側型板24の固定側型10側には、固定側入れ子13のキャビティ面に望むコア25を有する可動側入れ子26が取付けられている。
【0029】
可動側入れ子26のパーティング面PLには、第1エアベント溝41の一端に連通し、キャビティC内で発生するガスを金型外に排気する第2エアベント溝42と、キャビティCを囲うように形成され第2エアベント溝42と連通する環状エアベント溝50が形成されている。環状エアベント溝50は、可動側入れ子26から可動側型板24を貫通して外部に繋がるガス逃がし孔60に連通している。ガス逃がし孔60には真空ポンプM(不図示)が接続され、エアベント溝40から環状エアベント溝50に集まるガスを吸引しながら金型外に排出する。
【0030】
可動側型20にはエジェクタ機構30が設けられている。エジェクタ機構30は、可動側取付板21とストリッパプレート23との間に架設されたエジェクタガイドピン31及びサポートピン32に沿って移動可能な一対のエジェクタプレート33と、エジェクタプレート33に設けられエジェクタプレート33と同動する複数のエジェクタピン34から構成されている。
【0031】
エジェクタプレート33は常時は不図示の付勢手段によって後退位置に位置させられ、型開放時に駆動手段(不図示)によって進出させられて、エジェクタピン34をコア25から突出させて、キャビティC内の成形品を突き出してコア25から製品を離間させるようになっている。
【0032】
(2)エアベント構造とガスの排出
図2(a)は本実施形態に係る射出成形用金型1の固定側をパーティング面PL側に視点をおいて示す平面模式図、(b)はエアベント溝を示す部分断面模式図、
図3は第1エアベント溝41側に視点をおいて示すエアベント入れ子14の斜視図、
図4(a)は第1エアベント溝41のディンプル群を示す平面模式図、(b)は断面模式図である。
以下、図面を参照しながら射出成形用金型1におけるエアベント溝40の構成とガスの排出について説明する。
【0033】
(2.1)エアベント溝
本実施形態に係る射出成形用金型1には、キャビティC内で発生するガスを金型外へ排出するためのエアベント構造が設けられている。エアベント構造は、
図2に模式的に示すように、キャビティCの端部に連通し、キャビティC内からバリとなる樹脂の流出を抑制しながらキャビティC内で発生するガスをキャビティC外に流通させるエアベント溝40と、キャビティCを囲うように形成され、複数のエアベント溝40(
図2においては、1つのエアベント溝40のみを示している)と連通する環状エアベント溝50と、環状エアベント溝50と連通して環状エアベント溝50内を流通するガスを金型外へ導くガス逃がし孔60(
図1 参照)からなる。
【0034】
エアベント溝40は、
図2(b)に示すように、キャビティCの端部に連通する第1エアベント溝41と、一端がこの第1エアベント溝41に連通し、他端がキャビティCを囲うように環状に形成され環状エアベント溝50に連通する第2エアベント溝42から構成されている。
【0035】
第1エアベント溝41は、
図3(a)に示すように、エアベント入れ子14の一端がパーティング面PLに向かう面に第1の溝深さD1、溝幅W1で連通する溝として形成されている。具体的には、溝幅W1が1mm~20mm、溝深さD1が0.003~0.01mm、溝長さ(ランド長)L1が1mm~3mmの凹溝として形成されている。特に溝深さD1は、キャビティC内からバリとなる樹脂の流出を抑制しながらキャビティC内で発生するガスを流通させる深さに形成される。特に、樹脂材料が結晶性樹脂、例えばPPS(ポリフェニレンスルファイド)である場合、金型温度も130°Cないし150°Cと高く、溶融樹脂の粘性が低いため、溶融樹脂のはみ出しが発生しやすく、溝深さD1は、0.003~0.007mmが好ましく、0.003~0.005mmがより好ましい。
【0036】
第1エアベント溝41の溝底41aには、
図3(b)に示すように、表面エネルギーを低下させるテクスチャが形成されている。テクスチャは、
図4に示すように、複数のディンプルDPからなるディンプル群として形成されている。ディンプルDPは、直径dが0.005~0.02mm、深さt1が0.003~0.01mmで、各ディンプルDPが、ガスの流通方向(
図4中 矢印R 参照)に対して格子角度30度~75度で配列してディンプル群を形成している。
【0037】
このようなディンプルDPは、例えば、所定のパルス幅を有するフェムト秒レーザパルスをレーザアブレーション閾値近傍のフルエンスで照射して、ディンプルDP部の材料を除去することで形成することができる。レーザ光の走査にはガルバノスキャナやポリゴンスキャナを用いてもよい。ディンプルDP部の材料を除去する方法としては、ディンプルDP近傍の径を持つ集光スポットを用いる方法、ディンプルDPよりも小さい径を持つ集光スポットによりディンプルDP内をレーザ走査する方法、回折光学素子や空間光位相変調器を用いてディンプルDP近傍の径を持つ複数の円形集光スポットを形成しディンプルDPを除去する方法などが挙げられる。
【0038】
このようなマイクロテクスチャを形成することで、材料表面の接触角度を大きくして、親水性から撥水性状態へ変化することが知られている。本実施形態においては、第1エアベント溝41の溝底41aに、複数のディンプルDPからなるディンプル群を形成することで、溶融樹脂から発生した揮発成分やガス成分が液状化したデポジットの付着を抑制するとともに、付着した液状あるいは冷却されて凝縮したデポジットが、第1エアベント溝41を流通するガス流によって剥離されやすくなっている。
【0039】
また、ディンプルDPは、
図4(b)に示すように、第1エアベント溝41内におけるガス流の流通方向と交差する方向の断面において、エアベントの断面積を部分的に変化させることで、第1エアベント溝41内におけるガス流の流れを変化させることができる。これにより、デポジットをディンプルDP内に捕捉することができる。
【0040】
「変形例」
図5(a)は第1エアベント溝41の変形例に係るテクスチャを示す平面模式図、(b)は変形例に係るテクスチャを説明する部分拡大模式図である。
変形例に係る第1エアベント溝41Aの溝底41aには、表面エネルギーを低下させるテクスチャが形成されている。テクスチャは、
図5(a)に示すように、ナノ周期構造の溝から構成されている。具体的には、
図5(b)に模式的に示すように、溝底41aの全体に、第1エアベント溝41におけるガスの流通方向に沿って、幅wが0.0005mm~0.02mm、深さt2が0.005~0.05mmの縦溝GRが溝底41Aaの幅方向にナノピッチpで繰り返すように形成されている。
【0041】
このような縦溝GRは、例えば、所定のパルス幅を有するフェムト秒レーザパルスをレーザアブレーション閾値近傍のフルエンスで照射して、入射光の偏向方向と垂直の方向にディンプルDP部の材料を除去することで形成することができる。
【0042】
ナノ周期構造の縦溝GRは、第1エアベント溝41A内におけるガス流の流通方向と交差する方向の断面において、エアベントの断面積を部分的に増加させ、第1エアベント溝41A内におけるガス流の流れを変化させることができる。これにより、デポジットをナノ周期構造の縦溝GR内に捕捉することができる。
【0043】
第2エアベント溝42は、
図2(b)に示すように、一端が第1エアベント溝41に第1の溝深さD1よりも深い第2の溝深さD2で連通し、他端が環状エアベント溝50に連通するガス排出路として形成されている。具体的には、第2エアベント溝42は、溝幅W2(不図示)が1mm~20mm、溝深さD2が第1エアベント溝41の溝深さD1よりも深い1mm~2mmの凹溝として、可動側入れ子26のパーティング面PLに、第1エアベント溝41と対向して形成されている。
【0044】
第2エアベント溝42は、溶融樹脂の流出を抑制するように浅い第1溝深さD1で形成された第1エアベント溝41のガスの流通方向における下流端で第1溝深さD1よりも深い第2溝深さD2で連通して、排出されるガス量を増加させている。また、第2エアベント溝42のガスの流通方向における下流端は、環状エアベント溝50に連通して、ガス逃がし孔60を介してキャビティC内で発生するガスを金型外へ排出する。
【0045】
(2.2)ガスの排出
図6(a)は第1エアベント溝41におけるガスの流通を説明する図、(b)はエアベント溝40におけるガスの流通を説明する図である。
ゲート19(
図1 参照)からキャビティC内に溶融樹脂が充填されると、キャビティCの空気及び溶融樹脂から発生した揮発成分やガス成分(以下、単にガスと記す)は、
図6中の矢印R1で示すように、第1エアベント溝41に流入する。
この第1エアベント溝41に流入するガスの一部は、
図6(a)に矢印R2で模式的に示すように、第1エアベント溝41の溝底41aに形成されたディンプルDPの窪みに沿って流通する。このとき、ガスはディンプルDPの窪みで滞留しやすく液状化あるいは冷却されて凝縮し捕捉されやすくなる。このようなディンプルDPは、例えば格子角度60度でディンプル群として形成されているために、第1エアベント溝41を流通するガスは、ディンプル群で揮発成分やガス成分がデポジットとして捕捉され、空気が第2エアベント溝42内へ流入する。
【0046】
第2エアベント溝42に流入した空気は、第2エアベント溝42内を環状エアベント溝50の連通部に向かって流通する(
図6(b)中 矢印R3参照)。
環状エアベント溝50にはガス逃がし孔60(
図1 参照)が連通し、第2エアベント溝42から環状エアベント溝50に流入した空気は、ガス逃がし孔60から真空ポンプMで吸引されながら金型外へ排出される。
【0047】
このように、本実施形態に係る射出成形用金型1によれば、キャビティCに連通する第1エアベント溝41の溝底41aに形成された表面エネルギーを低下させるテクスチャで揮発成分やガス成をデポジットとして捕捉することができる。
第1エアベント溝41の溝底41aは、テクスチャによって撥水性が高くなり、捕捉されたデポジットは流通するガス流によって剥離されやすく、第1エアベント溝41内へのデポジットの堆積が抑制される。すなわち、デポジット付着位置が、溝底41aに形成されたディンプルDPの窪みとなり、小さい溝深さ(溝深さD1が0.003~0.01mm)で形成された第1エアベント溝41が完全に閉塞してしまうことがない。
【0048】
「実施例」
図7は実施例1に係る第1エアベント溝41を示す平面模式図、
図8は実施例2に係る第1エアベント溝41を示す平面模式図、
図9は実施例に係る成形品の例をランナとともに示す斜視図、
図10は2000回成形後の実施例1に係る第1エアベント溝41の表面状態を示す図、
図11は2000回成形後の実施例2に係る第1エアベント溝41の溝底41aの表面状態を示す図、
図12はテクスチャが形成されていない比較例の第1エアベント溝410の2000回成形後の表面状態を示す図である。
【0049】
(実施例1)
エアベント入れ子14の一面にディンプル群が形成された第1エアベント溝41を形成し、
図1に示す射出成形用金型1に組み込んだ。第1エアベント溝41は、
図7に示すように、溝幅W1が1.5mm、溝深さD1が0.003mm、溝長さ(ランド長)L1が1.3mmの凹溝として形成し、溝底41aには直径dが0.011mm、深さt1が0.003mmの各ディンプルDPを、ガスの流通方向に対して格子角度60度で配列したディンプル群からなるテクスチャ(
図7において金属顕微鏡による×1000の画像で示す)を形成した。
【0050】
(実施例2)
エアベント入れ子14の一面にナノ周期構造の溝から構成されたテクスチャが形成された第1エアベント溝41を形成し、
図1に示す射出成形用金型1に組み込んだ。第1エアベント溝41は、
図8に示すように、溝幅W1が1.5mm、溝深さD1が0.003mm、溝長さ(ランド長)L1が1.3mmの凹溝として形成し、溝底41aには幅wが0.0005mm~0.02mm、深さt2が0.005~0.05mmの縦溝GRが溝底41aの幅方向にナノピッチpで繰り返すテクスチャ(
図8において金属顕微鏡による×1000の画像で示す)を形成した。
【0051】
そして、
図9に示すように、ゲート19をサイドゲートとして、第1エアベント溝41は、ゲート19の反対側でゲート19に向かい合った位置に配置し、樹脂材料としてPPS(ポリフェニレンスルファイド)を用いて、縦横それぞれ25mm、高さ15mm、肉厚2mmの箱形状の成形品を射出成形した。
【0052】
このような射出成形用金型1を用いて、2000回の射出成形を行って、第1エアベント溝41の溝底41aへのデポジットの付着を観察した。
図10に2000回の射出成形を行った後の実施例1に係る第1エアベント溝41を金属顕微鏡を用いて400倍で撮像した画像を示す。
これによれば、デポジットが付着しやすい第1エアベント溝41のガス流通方向における上流側(
図10中 A)においてもデポジットの付着、堆積は認められなかった。また、第2エアベント溝42に対向する下流部(
図10中 B)においてもデポジットの付着は認められなかった。
【0053】
同様に、
図11に2000回の射出成形を行った後の実施例2に係る第1エアベント溝41を金属顕微鏡を用いて400倍で撮像した画像を示す。
これによれば、デポジットが付着しやすい第1エアベント溝41のガス流通方向における上流側(
図11中 A)において僅かなデポジットの付着、堆積が認められたが、後述する比較例に比べて、デポジットの付着、堆積は少ない結果となった。また、第2エアベント溝42に対向する中央部及び下流部(
図11中 B)においてはデポジットの付着は認められなかった。
【0054】
一方、溝幅W1が1.5mm、溝深さD1が0.003mm、溝長さ(ランド長)L1が1.3mmの凹溝として形成した比較例の第1エアベント溝410においては、
図12に示すように、第1エアベント溝410のガス流通方向における上流側(
図12中 A)において、デポジットの付着、堆積が認められた。尚、第2エアベント溝42に対向する下流部(
図12中 B)においてはデポジットの付着は認められなかった。
【0055】
本実施形態においては、第2エアベント溝42は、溝幅W2が1mm~20mm、溝深さD2が第1エアベント溝41の溝深さD1よりも深い1mm~2mmの凹溝として、可動側入れ子26のパーティング面PLに、第1エアベント溝41と対向して形成されている構成として説明したが、第2エアベント溝42は、エアベント入れ子14に、第1エアベント溝41に続いて第1エアベント溝41の溝深さD1よりも深い第2の溝深さD2で連通するように形成してもよい。
【符号の説明】
【0056】
1・・・射出成形用金型
10・・・固定側型
11・・・固定側取付板、12・・・固定側型板、13・・・固定側入れ子、14・・・エアベント入れ子、15・・・ロケートリング
20・・・可動側型、24・・・可動側型板、25・・・コア、26・・・可動側入れ子
30・・・エジェクタ機構
40・・・エアベント溝
41、410・・・第1エアベント溝、42・・・第2エアベント溝
50・・・環状エアベント溝
60・・・ガス逃がし孔
PL・・・パーティング面
C・・・キャビティ