(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043042
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】ボールねじ
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
F16H25/22 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148014
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡 渓太郎
【テーマコード(参考)】
3J062
【Fターム(参考)】
3J062AB22
3J062AC07
3J062BA16
3J062CD06
3J062CD54
(57)【要約】
【課題】高速化に対応でき、耐久性を高めることができるボールねじを提供する。
【解決手段】ボールねじは、外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、内周ねじ溝が形成されたナットと、対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、前記ボールを前記転動路の一端から他端に戻すリターンチューブと、を有し、前記リターンチューブは、前記転動路に向かって突出し、前記転動路から前記ボールを掬い上げるタングを有し、前記タングは、前記タングの付け根から先端に向かうにつれて漸次幅狭となる形状を有する。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周ねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、
前記ボールを前記転動路の一端から他端に戻すリターンチューブと、を有し、
前記リターンチューブは、前記転動路に向かって突出し、前記転動路から前記ボールを掬い上げるタングを有し、
前記タングは、前記タングの付け根から先端に向かうにつれて漸次幅狭となる形状を有する、
ことを特徴とするボールねじ。
【請求項2】
前記タングの付け根に、所定の曲率半径を持つ円弧状部が形成されている、
ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項3】
前記リターンチューブの端部は、前記ナットに形成された貫通孔に挿入されており、前記端部の中心線を挟んで両側で前記貫通孔に接する、
ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項4】
前記リターンチューブの端部と前記貫通孔の内周との間には、前記タングが形成される円周方向の位相において、前記端部と前記貫通孔の接点に対して前記ナットの中心側に隙間が形成される、
ことを特徴とする請求項3に記載のボールねじ。
【請求項5】
前記タングと前記貫通孔の内周との隙間に、緩衝材が配置される、
ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項6】
前記タングの長さを前記ボールの直径の70%以上とするか、または前記タングの最大肉厚を前記ボールの直径の25%以内とする、
ことを特徴とする請求項1に記載のボールねじ。
【請求項7】
前記リターンチューブの端部は、個別に製造された複数の部品を接合することによって形成される、
た、ことを特徴とする請求項1~6のいずれか一項に記載のボールねじ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじに関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじは、内周面に雌ねじ溝が形成されたナットと、外周面に雄ねじ溝が形成されたねじ軸と、ナットの雌ねじ溝とねじ軸の雄ねじ溝で形成される軌道の間に配置されたボールと、ボールを軌道の終点から始点に戻すボール戻し経路とを備え、前記軌道内をボールが転動することで前記ナットがねじ軸に対して相対移動する装置である。ボールねじのボール戻し経路としては、組み立てが容易である等の利点からリターンチューブ方式を採用することがある。
【0003】
特許文献1には、リターンチューブ方式のボールねじの一例が開示されている。このボールねじにおいては、循環部品としてのリターンチューブの先端部が、チューブ軸線に垂直なベースラインに沿った端面と、ベースラインから舌状に突出するタングとからなり、タングは軌道内に突き出ており、軌道からリターンチューブ内へとボールを掬い上げるように機能する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、ボールねじの高速化に向けての要請は、ボールねじを使用する機械のサイクルタイム短縮のため常に市場から行われているが、ボールねじの高速化を実現するためには、ねじ軸の許容回転数を高める必要がある。しかしながら、ねじ軸の許容回転数を高めることにより、ボールは軌道に沿って高速で転動することとなる。
【0006】
特許文献1のボールねじにおいて、高速で転動してきたボールは、軌道から掬い上げられる際にタングに衝突する。その際に、タングの根元には大きな応力が付与されるとともに、循環するボールは順次タングに当たるため、タングには繰り返し荷重が付与されることとなる。
【0007】
一般的に、ねじ軸の許容回転数は、循環部品のボール衝突による疲労強度によって決まるとされている。疲労強度は、一般的には繰返し応力の大きさと荷重繰返し数によって決定される。したがって、タングに生じる応力をいかにして低減させるかが、ボールねじの高速化への課題となっている。
【0008】
かかる課題に対して、高速化に対応させるためタングをねじ溝の接線方向に向けてボールの掬い上げを行うことで、タングに加わるボールの衝撃を低減するように工夫されたボールねじが開発されている。しかしながら、肉厚のあるタングを、完全に接線方向に一致させることは困難であり、使用回転数の増大につれてタングに付与されるボールの衝撃も増大するため、タングの応力をより低減することが望まれている。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであって、高速化に対応でき、耐久性を高めることができるボールねじを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明のボールねじは、
外周ねじ溝が形成されたねじ軸と、
内周ねじ溝が形成されたナットと、
対向する前記外周ねじ溝と前記内周ねじ溝とにより形成される転動路内に収容される複数のボールと、
前記ボールを前記転動路の一端から他端に戻すリターンチューブと、を有し、
前記リターンチューブは、前記転動路に向かって突出し、前記転動路から前記ボールを掬い上げるタングを有し、
前記タングは、前記タングの付け根から先端に向かうにつれて漸次幅狭となる形状を有する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高速化に対応でき、耐久性を高めることができるボールねじを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、第1の実施形態にかかるボールねじの構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、第1の実施形態にかかるボールねじの一部を示す軸線方向に沿った部分断面図である。
【
図3】
図3は、
図2のA-A線に沿う断面図であるが、一部のみ図示する。
【
図4】
図4(a)、(b)は、異なる方向から見たリターンチューブの端部を示す図である。
【
図5】
図5は、縦軸にタング先端の剛性比(ボール直径に対するタング長さの割合が60%を基準とする)をとり、横軸にボール直径に対するタング長さの割合をとって示すグラフである。
【
図6】
図6(a)、(b)は、変形例にかかるリターンチューブの端部を示す
図4(a)、(b)と同様な図である。
【
図7】
図7(a)~(c)は、第2の実施形態にかかるボールねじのリターンチューブの端部を示す図である。
【
図8】
図8は、変形例1にかかるリターンチューブを含むボールねじを示す
図3と同様な断面図である。
【
図9】
図9は、変形例2にかかるボールねじを示す
図8と同様な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明に係るボールねじの実施形態について図面を参照して説明する。
【0014】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態にかかるボールねじの構成を示す斜視図であり、
図2は、第1の実施形態にかかるボールねじの一部を示す軸線方向に沿った部分断面図であり、
図3は、
図2のA-A線に沿う断面図であるが、矢印Aの方向に見た断面図を2次元座標系に見立てて第1象限に相当する部分のみを図示し、またセパレータは省略している。
【0015】
図1、2に示すように、本実施形態のボールねじ1は、螺旋状に連続するねじ溝(外周ねじ溝)10aが外周面に形成されたねじ軸10と、螺旋状に連続するねじ溝(内周ねじ溝)20aが内周面に形成された筒状のナット20とを備えている。
【0016】
ねじ軸10は、軸線方向に沿ってナット20に挿通されており、ねじ軸10のねじ溝10aとナット20のねじ溝20aとが対向して、両ねじ溝10a,20a間の空間により螺旋状の転動路40が形成されている。この転動路40内には、複数のボール(転動体)30が転動自在に装填されており、このボール30を介してナット20がねじ軸10に対して相対回転可能に結合されている。本実施形態では、隣接するボール30の間にセパレータ31を配設してボール30同士の接触を抑制しているが、セパレータは無くてもよい。セパレータについては、例えば特開2002-206617号公報に記載されている。
【0017】
ナット20の外面の一部は平坦に削られていて、この軸方向に平行な平面21上に、略U字状に屈曲した3本のリターンチューブ50が固定されている。このリターンチューブ50の内側が、転動路40の一端から他端へとボール30を戻す戻し路を形成する。ナット20には、この平面21に開口し、ナット20のねじ溝20aと連通する貫通孔22が、リターンチューブ50ごとに2つ設けられていて、各リターンチューブ50の端部51がこの両貫通孔22に平面21側から挿入され、
図2に示すように、ねじ溝10aのリード角に沿って傾いて配置されている。各リターンチューブ50の中央部52が、平面21上に配されて、留め具60により固定されている。本実施形態では、1つのナット20に3本のリターンチューブ50を取り付けているが、2本以下、または4本以上のリターンチューブを取り付けてもよい。
【0018】
リターンチューブ50は、金属製であって、中央部52と、その両端にそれぞれ接続された端部51が製造時から一体化された構造を持つが、中央部52と端部51とを別個に製造したのち、これらを接合してリターンチューブ50としてよい。
【0019】
図3において、リターンチューブ50の端部51は、円周方向の一部の位相に形成されて、転動路内に舌状に突出するタング51bと、タング51bの付け根に形成された一対の円弧状部51cとを有する。本実施形態においては、タング51bに対向する側であって一対の円弧状部51cの間に、略半円状の端縁51aが形成されており、端縁51aは端部51の中心線に直交する。円弧状部51cと略半円状の端縁51aとは角部を形成するように交差しているが、円弧状部51cと半円状の端縁51aの交差部を滑らかな円弧状に形成してもよい。タング51bの内側面(端縁51aに対向する面)は、リターンチューブ50の内周と同じ曲率半径で湾曲し、また先端に向かうにつれて薄肉となる形状を有する。円弧状部51cからタング51bの先端に至る輪郭線は、滑らかな曲線を描いている。
【0020】
端部51の外周面が貫通孔22の内周面に全周にわたって嵌合するとともに、端縁51aが貫通孔22内に形成された段部22aに当接するようにして、端部51が貫通孔22に設置される。これによりナット20に対するリターンチューブ50の位置決めを行える。
【0021】
図4(a)は、中央部52から切断した端部51を、タング51bの中心線上の任意の点の法線方向に沿って見た図であり、
図4(b)は、端部51を
図4(a)とは異なる方向から見た図である。
【0022】
タング51bの長さLは、ボール30の外径の70%以上であると好ましい。また、
図4(a)に示すように、タング51bは付け根から先端P3に向かうにつれて漸次幅狭となる形状を有し、すなわちタング51bの中心線を挟む両側面は、平行となる部位を有しない。タング51bの先端P3からL/2の距離において、タング51bの幅は、リターンチューブ50の外径Dの1/2~2/3の範囲にあると好ましい。また円弧状部51cの内縁における曲率半径Rは、リターンチューブ50の外径Dの1/10~3/10であると好ましい。少なくともタング51bの硬度は、HRC30以上であると好ましい。
【0023】
図3を参照して、ボール30は転動路40内を移動しつつ、ねじ軸10の回りを複数回転動して転動路40の終点(リターンチューブ50と転動路40との交点)に至り、リターンチューブ50の一方の端部(開口部)からタング51bを介してリターンチューブ50内に掬い上げられる。
【0024】
より具体的に、ねじ軸10のねじ溝10aに沿って転動してきたボール30は、貫通孔22の位置でタング51bによって掬い上げられる。また、リターンチューブ50を通過したボール30は、反対側のタング51bより転動路内に戻される。
【0025】
ここで、ボールねじ1が高速で使用される場合、高速で転動してきたボール30がタング51bに衝突して発生するエネルギーも増大する。仮にタング51bの剛性が高すぎた場合、タング51bが受ける局所的応力も高くなり、さらに応力集中によってタング51bの付け根に亀裂などが生じる恐れもある。また、ボール30は間欠的にタング51bに衝突するため、いわゆる繰り返し荷重がタング51bに付与されることとなり、これによりタング51bに疲労破壊(たとえば剥離等)を生じるおそれがある。
【0026】
そこで、本実施形態においては、タング51bを付け根から先端P3に向かうにつれて漸次幅狭となる形状とすることにより、タング51bの剛性を制御しつつ低下させ、すなわち撓みやすくすることで応力緩和を図っている。また、付け根に向かうほど、タング51bの強度が高まるため、ボール30の衝接時における付け根の応力集中を緩和できる。
【0027】
応力集中を避けるために、タング51bの先端P3から付け根(円弧状部51c)に向かって、徐々に断面二次モーメントを大きくすることが望ましく、すなわち急激に断面二次モーメントが大きくなる箇所や、断面二次モーメントが等しい箇所(タングの肉厚及び幅が等しい箇所)を持たないようにするとよい。そのためタング51bは先端から扇状に広がる形状とし、両側面が平行となる部位を持たないようにする。
【0028】
図4(a)において、タング51bの先端P3と、先端P3から等距離にある両側面の任意の2点P4,P5とを通過する仮想平面上にて、点P4,P5の接線L4,L5のなす角を開き角θとすると、開き角θは、タング51bの中心線に沿う先端P3から2点P4,P5までの距離xが増大するにつれて漸次減少する。ただし、開き角θは、タング51bの中心線に沿って先端P3から(2L/3)~Lの距離の範囲で、変曲点を起点として漸次増大することが望ましい。
【0029】
ここで、ボール30の衝撃力とタング51bの剛性との関係について考察する。タング51bを、リターンチューブ50の中心線から離れる方向に撓むことができる片持ち梁としてモデル化し、そのばね定数をK、ボール30が衝突するタング51b先端のたわみ量をσとすると、片持ち梁に蓄積されるエネルギーUは以下の式(1)で表せる。
U=(K・σ2)/2 (1)
【0030】
一方、ボール30の運動エネルギーWは、タング51bに衝突する際の速度をv、その質量をmとして、以下の式(2)で表せる。
W=(m・v2)/2 (2)
【0031】
タング51bが最大に撓んだ時、タング51bを撓ませる方向におけるボール30の速度が0m/sとなるとすると、U=Wが成立する。さらにσを衝突時の最大荷重Pmaxで表すと、σ=K・Pmaxである。以上の関係から、以下の式(3)が成立する。
Pmax=v√(mK) (3)
【0032】
式(3)から、タング51bに加わる最大荷重Pmaxは、タング51bのたわみ剛性Kの(1/2)乗に比例することがわかる。この結果からボール衝撃力を緩和するためには、タング51bの剛性をある程度小さくすることが効果的であることがわかる。
【0033】
ここで、タング51bのたわみ剛性を小さくするために、以下の2つの手法を提案する。
【0034】
(第1の手法)
タング51bの長さLをボール30の直径の70%以上とする。
通常、タング51bはねじ軸10のねじ溝10a(深さがボール30の直径の約40~45%)に向かって挿入される構造であるため、その長さは、ねじ溝10aの深さよりも多少長く、一般的にはボール30の直径の50~60%程度とすることが多い。たわみ剛性は、タング51bが長いほど小さくなるため衝突力も小さくできる。
【0035】
本発明者は、衝撃力が20%低減されることを目標としてタング51bをどれだけ伸ばせばよいか検討した。
図5に、ボール30の直径の60%の長さLを持つタング51bの剛性を1として、長さLをより長くした場合に、どれだけの剛性低下が生じるかを計算した結果を示す。
【0036】
衝撃により、従来のタング51bに蓄積されるエネルギーを100%として、それから20%下げて蓄積されるエネルギーを80%とするためには、式(1)よりタング51bの剛性を80%の2乗である64%に低下させる必要がある。そのためには
図5のグラフより、タング51bの長さLをボール30の直径の70%以上とするとよく、さらにはボール30の直径の75%以上とすると、タング51bの剛性が50%以上低下して、蓄積されるエネルギーは30%低下するため、より好ましい。
【0037】
(第2の手法)
タング51bの最大肉厚をボール30の直径の25%以内とする。
タング51bの肉厚を薄くすることで撓み方向の剛性を低下させることができる。一方で、タング51bの肉厚が薄くなりすぎると、強度が低くなりすぎて衝撃力に耐えられなくなるため、可能な範囲で薄くすることが望ましく、例えばボール30の直径の10%以上とするとよい。またタング51bの肉厚はできるだけ均一として、局所的に肉厚が増える部分を作らないことが望ましい。
【0038】
リターンチューブ50が金属製である場合は、タング51bの剛性が高くなりやすいため、本実施形態をより好適に適用できる。リターンチューブ50を金属製とすると、樹脂製である場合と比較して、高温下、特に80℃以上での使用が可能になる。
【0039】
また、ボール30の直径が大きくなると、それに応じて衝撃力も大きくなる。高荷重を受けるボールねじ1に使用されるボール30の直径が12.7mm以上、かつねじ軸10の直径が63mm以上で、本実施形態をより好適に適用できる。
【0040】
さらに強度を上げるため、リターンチューブ50の素材を、比較的耐久性が高いSUS630、SUS631として、タング51bの硬度をHRC30以上とすることが望ましい。
【0041】
(変形例)
図6は、変形例にかかるリターンチューブの端部51Aを示す
図4と同様な図である。本変形例においては、第1の実施形態に対して円弧状部51Acの曲率半径をより小さくしている。それ以外の構成は、第1の実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0042】
第1の実施形態及び変形例においては、リターンチューブの端部が製造時から一体化されているが、チューブ素材を3次元的に折り曲げてリターンチューブを形成することが困難な場合もある。以下の第2の実施形態によれば、かかる課題を克服できる。
【0043】
(第2の実施形態)
図7(a)は、第2の実施形態にかかるボールねじのリターンチューブが半割とされた一方の第1半割リターンチューブ50B1を示す図である。
図7(b)は、第1半割リターンチューブ50B1の端部51B1を示す図であり、視認する方向を変えて示している。
図7(c)は、第1半割リターンチューブ50B1と、リターンチューブの半割の他方である第2半割リターンチューブ50B2とが接合された端部51Bを示す図である。第2の実施形態では、リターンチューブを半割として形成すること、および端部51B以外の構成は、第1の実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0044】
第2の実施形態において、
図7(c)に示すように、それぞれ別個に形成された第1半割リターンチューブ50B1と第2半割リターンチューブ50B2とを、合わせ面FPにて接合することにより、リターンチューブが形成される。このように、第1半割リターンチューブ50B1と第2半割リターンチューブ50B2とをそれぞれ形成することで、たわみ剛性を下げることができ、ボール衝突による衝撃力をより小さくできる。ただし、第1半割リターンチューブ50B1及び第2半割リターンチューブは、中央部及び両端側をさらに分割して形成してもよい。
【0045】
本実施形態において、リターンチューブが半割とされることで、第1半割リターンチューブ50B1の端部51B1に形成されたタング51Bbは、任意の形状に精度よく設定できるなど、製造上の制限が少なくなる。また、応力集中を回避するための円弧状部もタング51Bbの付け根に設ける必要はない。よって、本変形例2においては、
図7(c)に示すように、タング51Bbの付け根は、第2半割リターンチューブ50B2の端縁51Baにつながるように接合している。ただし、上述した実施形態のように円弧状部を形成してもよい。なお、個別に製造された3つ以上の部品を接合して、端部51Bを形成するようにしてもよい。
【0046】
(変形例1)
図8は、変形例1にかかるリターンチューブを含むボールねじを示す
図3と同様な断面図である。リターンチューブの端部51C以外の構成は、第2の実施形態と同様であるため、重複説明を省略する。
【0047】
本変形例のリターンチューブも、別個に製造されて接合される第1半割リターンチューブ50C1と、第2半割リターンチューブ50C2とを接合してなり、端部51Cは、第1半割リターンチューブ50C1の端部51C1と第2半割リターンチューブ50C2の端部51C2とからなる。第1半割リターンチューブ50C1の端部51C1は、
図7に示す第1半割リターンチューブ50B1の端部51B1とほぼ同様の形状を有し、タング51Cbを備える。一方、第2半割リターンチューブ50C2の端部51C2は、第2半割リターンチューブ50B2の端部51B2に対して、タング51Cbと対向する側に形成された上半部51Caが、肉厚化された隆起部51Cdを有する。隆起部51Cdの外表面は、貫通孔22の内周形状と略一致した形状を有する。これにより第1半割リターンチューブ50C1の端部51C1が貫通孔22の内周面と接する接点(中央部に近い側)P1に対し、端部51Cの中心線を挟んで対向する側にて、隆起部51Cdは貫通孔22の内周面と面接触する。このため、端部51Cを貫通孔22に設置したときに、リターンチューブ50Cの保持性が向上する。
【0048】
また、隆起部51Cdとは反対側の端部51Cの外周面(タング51Cbの付け根側)は、貫通孔22に対して接点P1で接するが、接点P1よりもナット20の中心側では接していない。すなわち、第1半割リターンチューブ50C1の端部51C1と貫通孔22の内周面との間には、タング51Cbが形成される円周方向の位相において、接点P1よりもナットの中心側に隙間CLが形成されており、この隙間CLによりタング51Cbの撓みを許容している。
【0049】
(変形例2)
図9は、変形例2にかかるボールねじを示す
図8と同様な断面図である。本変形例においては、変形例1と同様なリターンチューブ50Cを採用しており、リターンチューブ50Cの端部51C(タング51Cbの付け根側を含む)と貫通孔22との間の隙間CLに緩衝材55を、接着剤等を用いて固定配置している点が異なる。それ以外の構成は、変形例1と同様であるため、重複説明を省略する。緩衝材55は、タング51Cbの付け根と貫通孔22の内周面との間に配置すればよい。
【0050】
緩衝材55を隙間CLに配置することで、タング51Cbの撓み性を確保しつつ、タング51Cbにボール30が衝突したときの衝撃力を緩和できる。緩衝材55の素材としては、ゴムや樹脂、ばねなどの軟弾性材を用いることができる。
【0051】
本発明は、上述の実施形態に限定されない。本発明の範囲内において、上述の実施形態の任意の構成要素の変形が可能である。また、上述の実施形態において任意の構成要素の追加または省略が可能である。
【符号の説明】
【0052】
10 ねじ軸
20 ナット
30 ボール
31 セパレータ
50,50C リターンチューブ
51,51A,51B,51C 端部
51Ca 上半部
51b,51Ab,51Bb,51Cb タング
51c,51Ac 円弧状部
52 中央部
55 緩衝材
60 留め具