(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043043
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】リニアガイド装置
(51)【国際特許分類】
F16C 29/06 20060101AFI20240322BHJP
F16C 33/66 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
F16C29/06
F16C33/66 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148015
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】大部 竹之介
【テーマコード(参考)】
3J104
3J701
【Fターム(参考)】
3J104AA03
3J104AA23
3J104AA36
3J104AA65
3J104AA69
3J104AA74
3J104AA76
3J104BA24
3J104BA32
3J104CA24
3J104DA05
3J104EA01
3J701AA02
3J701AA44
3J701AA54
3J701AA64
3J701BA77
3J701BA79
3J701CA08
3J701CA14
3J701CA15
3J701FA32
3J701GA31
3J701XB03
3J701XB14
3J701XB26
(57)【要約】
【課題】スライダの内部の転動体に対してより長期にわたり安定して潤滑剤を自動的に供給可能なリニアガイド装置を提供する。
【解決手段】リニアガイド装置10は、軸方向に延びる案内レール1と、案内レール1に組み付けられ、転動体戻し路23(24)を有するスライダと、転動体転動溝13(3)、負荷転動体転動溝18(19)、湾曲路及び転動体戻し路23(24)により構成される転動体循環路内を循環転動する複数の転動体Bと、を備える。軸方向における所定の範囲において、転動体戻し路23,24の周囲は、潤滑剤供給部材25によって形成され、所定の範囲の少なくとも一部は、軸方向に垂直な断面における潤滑剤供給部材25の占める面積が転動体戻し路23,24が占める面積よりも大きい。
【選択図】
図2A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外面に転動体転動溝を有して軸方向に延びる案内レールと、
前記案内レールに組み付けられ、前記転動体転動溝に対向する負荷転動体転動溝及び該負荷転動体転動溝の両端部に湾曲路を介して連結された転動体戻し路を有するスライダと、
前記転動体転動溝、前記負荷転動体転動溝、前記湾曲路及び前記転動体戻し路により構成される転動体循環路内を循環転動する複数の転動体と、を備え、
前記軸方向における所定の範囲において、前記転動体戻し路の周囲は、前記転動体戻し路内に潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給部材によって形成され、
前記所定の範囲の少なくとも一部は、前記軸方向に垂直な断面における前記潤滑剤供給部材の占める面積が前記転動体戻し路が占める面積よりも大きい、
リニアガイド装置。
【請求項2】
前記軸方向における前記所定の範囲の長さは、前記転動体の直径の2倍以上である、
請求項1に記載のリニアガイド装置。
【請求項3】
前記所定の範囲において、前記潤滑剤供給部材の体積は、前記転動体戻し路の容積よりも大きい、
請求項1又は請求項2に記載のリニアガイド装置。
【請求項4】
前記潤滑剤供給部材の全体積は、前記転動体戻し路の全容積の1倍以上である、
請求項1又は請求項2に記載のリニアガイド装置。
【請求項5】
前記潤滑剤供給部材は、前記スライダの本体に着脱自在である、
請求項1又は請求項2に記載のリニアガイド装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リニアガイド装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的に使用されるリニアガイド装置としては、例えば
図11に示すように、外面に転動体転動溝3を有して軸方向Lに延びる案内レール1と、その案内レール1を跨いで組み付けられたスライダ302を備えたものが知られている。スライダ302はスライダ本体302Aとその両端部に取り付けられたエンドキャップ2Bとからなる。スライダ本体302Aは両側の袖部4の内側面に案内レール1の転動体転動溝3に対向する負荷転動体転動溝が形成されるとともに、袖部4の肉厚部を軸方向Lに貫通する転動体戻し路を有している。エンドキャップ2Bは、スライダ本体302Aの負荷転動体転動溝とこれに平行な転動体戻し路とを連通させる湾曲路を有しており、それらの負荷転動体転動溝と転動体戻し路と両端の湾曲路とで転動体の転動体循環路が形成されている。その転動体の転動体循環路内には転動体である複数の転動体が装填されている。また、スライダ302の負荷転動体転動溝内の転動体は保持器で保持して脱落しないようにしてある。
【0003】
案内レール1に組み付けたスライダ302は、対向する転動体転動溝3と負荷転動体転動溝内の転動体の転動を介して案内レール1に沿って滑らかに移動する。スライダ302の移動中、転動体は、転動体循環路内を無限循環する。また、スライダ302の内部には、グリースニップル7からグリースや潤滑油が充填されて、転動する転動体の潤滑が行われる。なお、
図12に示すように、スライダ302には、防塵のために軸方向Lの両端にサイドシール5、下面にアンダーシール6が装着されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述のような、潤滑剤として潤滑油またはグリースをそのまま用いた潤滑方式のリニアガイド装置は、特に高温環境で使用されるような場合に、スライダ内に充填されているそれら潤滑剤が流動して外部に流出してしまうため消耗が早く、短期間のうちに潤滑剤の補給を繰り返さなければならないという問題点があった。
【0006】
この問題点を解決するため、特許文献1に記載のリニアガイド装置では、潤滑剤含有ポリマ部材を用いることで、潤滑剤を転動体へ自動的かつ長期的に供給可能なように構成している。具体的には、例えば、本願明細書の
図9に示すように、スライダ本体102Aの転動体戻し路23,24を通常より大径にするとともに、転動体戻し路23,24のそれぞれの内部に潤滑剤含有ポリマ部材からなる転動体循環チューブ50を挿入し、転動体が転動体循環チューブ50内を転動する際に転動体へ潤滑材を供給可能にしている。また、特許文献1には、別例として、転動体戻し路の一部を潤滑剤含有ポリマ部材で置き換えた形態も記載されている。具体的には、本願明細書の
図10の(c)に示すように、転動体戻し路23,24の内壁の一部を軸方向Lに沿って切開し、その切開した部分に、
図10の(a)及び(b)に示すような円弧状溝51aを有する循環路部分形成部材51を嵌合した形態が記載されている。
図10の(c)では、スライダ本体202Aの転動体戻し路23,24の内壁の半分程度が潤滑剤含有ポリマ部材からなる循環路部分形成部材51で置き換えられている。
【0007】
しかしながら、特許文献1に記載のリニアガイド装置には、潤滑剤の長期的な供給という点で更なる検討の余地があった。例えば、本願明細書の
図9の例では、軸方向Lに垂直な断面をみた場合に潤滑剤含有ポリマ部材(転動体循環チューブ50)の厚みが薄いため、より長期的な供給を可能にするだけの十分な量の潤滑剤を潤滑剤含有ポリマ部材に含有させることが難しい。同様に、本願明細書の10(c)の例においても、潤滑剤含有ポリマ部材(循環路部分形成部材51)は転動体戻し路23,24の内壁の半分程度を構成するのみであり、より長期的な供給を可能にするだけの十分な量の潤滑剤を潤滑剤含有ポリマ部材に含有させることが難しい。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものである。すなわち、本発明は、スライダの内部の転動体に対してより長期にわたり安定して潤滑剤を自動的に供給可能なリニアガイド装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一実施形態に係るリニアガイド装置は、
外面に転動体転動溝を有して軸方向に延びる案内レールと、
前記案内レールに組み付けられ、前記転動体転動溝に対向する負荷転動体転動溝及び該負荷転動体転動溝の両端部に湾曲路を介して連結された転動体戻し路を有するスライダと、
前記転動体転動溝、前記負荷転動体転動溝、前記湾曲路及び前記転動体戻し路により構成される転動体循環路内を循環転動する複数の転動体と、を備え、
前記軸方向における所定の範囲において、前記転動体戻し路の周囲は、前記転動体戻し路内に潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給部材によって形成され、
前記所定の範囲の少なくとも一部は、前記軸方向に垂直な断面における前記潤滑剤供給部材の占める面積が前記転動体戻し路が占める面積よりも大きい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、スライダの内部の転動体に対してより長期にわたり安定して潤滑剤を自動的に供給可能なリニアガイド装置を提供することができる。具体的には、軸方向に垂直な断面における潤滑剤供給部材の占める面積(以下、「潤滑剤面積」とも称する)が転動体戻し路が占める面積(以下、「戻し路面積」とも称する)よりも大きい箇所では、転動体戻し路に対して十分な量の潤滑剤を含有することが可能になるため、より長期にわたって安定して潤滑剤を供給可能になる。また、潤滑剤面積が戻し路面積よりも大きいということは、その断面における潤滑剤供給部材の端部等では、
図9や
図10の(c)の場合と比べて、転動体戻し路までの距離が遠くなっているといえる。転動体戻し路までの距離が遠い部分に当初含まれていた潤滑剤は、通常、転動体戻し路の近傍に当初含まれていた潤滑剤よりも時間をかけて転動体戻し路へと移動していくため、転動体戻し路までの距離が遠い部分があることにより、より長期にわたって潤滑剤を供給可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るリニアガイド装置の正面図である。
【
図2A】
図2Aは、
図1のリニアガイド装置からエンドキャップを取り外した図である。
【
図3】
図3は、リターンガイドを除去したエンドキャップの背面図である。
【
図5】
図5は、リターンガイドを装着したエンドキャップの斜視図である。
【
図6】
図6は、
図1のVI-VI線矢視で示す部分断面図である。
【
図9】
図9は、従来のスライダ本体の一例を示す斜視図である。
【
図10】
図10(a)は従来例の循環路部分形成部材の内面側斜視図であり、
図10(b)は同部材の外面側斜視図であり、
図10(c)は従来のスライダ本体の別例を示す斜視図である。
【
図11】従来のリニアガイド装置の一例を示す全体斜視図である。
【
図12】
図11のリニアガイド装置の下面側を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るリニアガイド装置について図面を参照しながら説明する。なお、以下において既に説明された部材と同一の参照番号を有する部材については、その説明を適宜省略する。また、本図面に示された各部材の寸法は、説明の便宜上のものであって、実際の各部材の寸法とは異なる場合がある。
【0013】
まず、本実施形態に係るリニアガイド装置の全体の構造について説明する。
図1及び
図2Aに示すように、本実施形態に係るリニアガイド装置10は、案内レール1と、スライダ2と、複数の転動体Bと、を備える。案内レール1は、外面に転動体転動溝3,13を有し、軸方向L(
図2B等参照)に沿って延びている。
図1における軸方向Lは、
図1の紙面奥方向と紙面手前方向を含む方向である。
【0014】
スライダ2は、案内レール1に組み付けられている。具体的には、角形の案内レール1上に横断面形状がほぼコ字形のスライダ2が軸方向Lに沿って相対移動可能に跨架されている。スライダ2のスライダ本体2Aの軸方向Lの両端部には、エンドキャップ2Bが着脱可能に固着されている。案内レール1の上面1aと両側面1bが交叉する稜線部には、断面ほぼ1/4円弧形状の凹溝が転動体転動溝13として軸方向Lに沿って長く形成されている。また、案内レール1の両側面1bの中間位置には、断面ほぼ半円形の転動体転動溝3が軸方向Lに沿って長く形成されている。転動体転動溝3の溝底には、転動体Bの脱落を防ぐ後述の保持器41の逃げ溝16が軸方向Lに沿って形成されている。
【0015】
スライダ本体2Aの両側の袖部4の内側のコーナ部には、案内レール1の転動体転動溝13に対向する断面ほぼ半円形の負荷転動体転動溝18が形成されている。また、両側の袖部4の内側の中央部には、案内レール1の転動体転動溝3に対向する断面ほぼ半円形の負荷転動体転動溝19が形成されている。案内レール1の転動体転動溝13とスライダ2の負荷転動体転動溝18によって負荷転動体転動路21が構成され、案内レール1の転動体転動溝3とスライダ2の負荷転動体転動溝19によって負荷転動体転動路22が構成される。
【0016】
スライダ本体2Aには、負荷転動体転動溝18に平行になるよう軸方向Lに沿って設けられた断面円形の貫通孔である転動体戻し路23が形成されている。同様に、スライダ本体2Aには、転動体戻し路23の下側において、転動体転動溝3に平行になるよう軸方向Lに沿って設けられた断面円形の貫通孔である転動体戻し路24が形成されている。
【0017】
負荷転動体転動路21の軸方向Lにおける両端部が後述の湾曲路38を介して転動体戻し路23の軸方向Lにおける両端部と連結されることで、1つの転動体循環路が構成される。同様に、負荷転動体転動路22の軸方向Lにおける両端部が後述の湾曲路38を介して転動体戻し路24の軸方向Lにおける両端部と連結されることで、1つの転動体循環路が構成される。よって、本実施形態では、4つの転動体循環路が形成されることになる。各転動体循環路内には、複数の転動体Bが充填されている。複数の転動体Bは、転動体循環路内を循環転動する。転動体Bには、例えば、ボールやローラ(ころ)を用いることができる。
【0018】
軸方向Lにおける所定の範囲において、転動体戻し路23,24の周囲は、転動体戻し路23,24内に潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給部材25によって形成される。潤滑材供給部材は、その内部に潤滑剤を含有し、転動体戻し路23,24内に潤滑剤を供給可能なものであれば特に制限はされない。潤滑剤供給部材25の一例としては、潤滑剤含有ポリマ部材が挙げられる。
【0019】
潤滑剤含有ポリマ部材としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレン、ポリメチルペンテン等のポリα-オレフィン系ポリマから選んだ1以上のポリマに、潤滑剤としてポリα-オレフィン油のようなパラフィン系炭化水素油、ナフテン系炭化水素油、鉱油、ジアルキルジフェニルエーテル油のようなエーテル油、フタル酸エステル・トリメリット酸エステルのようなエステル油等の何れかを混合して加熱溶融した後、所定の型に注入して加圧しながら冷却固化させて成形したものを用いることができる。潤滑剤含有ポリマ部材には、酸化防止剤、錆止め剤、摩耗防止剤、あわ消し剤、極圧剤等の各種の添加剤が添加されていてもよい。
【0020】
上述の各ポリマの重量平均分子量は、特に限定されないが、例えば、1×103~5×106の範囲であってもよい。また、重量平均分子量1×103~1×106という比較的低分子量のものを単独で用いてもよいし、1×106~5×106という比較的高分子量のものを単独で用いてもよいし、低分子量のポリマと高分子量のポリマを混合して用いてもよい。
【0021】
また、潤滑剤含有ポリマ部材の機械的強度を向上させるため、上述のポリα-オレフィン系ポリマに、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂を添加してもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアミドイミド、ポリスチレン、ABS樹脂等を使用することができる。熱硬化性樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド樹脂、エポキシ樹脂等を使用することができる。これらの樹脂は、単独で用いてもよいし、2以上を混合して用いてもよい。また、ポリα-オレフィン系ポリマとそれ以外の樹脂とをより均一な状態で分散させるために、必要に応じて適当な相溶化剤を添加してもよい。
【0022】
また、潤滑剤供給部材25は、ゴムや合成樹脂等の多孔質体、繊維交絡体などで形成され、潤滑剤が含浸されたものでもよい。合成樹脂としては、上述のほかに、ポリウレタン等を用いてもよい。繊維交絡体としては、羊毛フェルト、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維などを用いることができる。
【0023】
潤滑剤供給部材25における潤滑剤の含有量は、特に制限はされないが、長期間の使用の観点からは多い方が好ましく、例えば、70質量%以上であることが好ましい。また、潤滑剤の含有量の上限は、潤滑剤供給部材25の強度を考慮して、85質量%以下であることが好ましい。
【0024】
本実施形態では、上記所定の範囲において、転動体戻し路23,24の内壁も潤滑剤供給部材25によって形成されているが、転動体戻し路23,24の内壁は、他の部材によって形成されてもよい。転動体戻し路23,24の内壁は、例えば、耐久性を向上させるという観点から、ステンレス等の金属を用いてもよい。なお、上記所定の範囲において転動体戻し路23,24の内壁を潤滑剤供給部材25以外の部材で形成する場合、潤滑剤供給部材25からしみ出る潤滑剤が転動体戻し路23,24内へ供給されるよう、内壁に多数の小孔を設けることが好ましい。
【0025】
図2Aに示すように、上記所定の範囲の少なくとも一部は、軸方向Lに垂直な断面における潤滑剤供給部材25の占める面積(潤滑剤面積)が転動体戻し路23及び24が占める面積(戻し路面積)よりも大きくなっている。潤滑剤を供給可能な期間をさらに長くするという観点から、潤滑剤面積は、例えば、戻し路面積の1.2倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、2倍以上がさらに好ましい。また、潤滑剤の含有量を増やす等の観点から、上記所定の範囲の全範囲において、潤滑剤面積が戻し路面積よりも大きくなっていることが好ましい。同様に、潤滑剤の含有量を増やす等の観点から、上記所定の範囲において、潤滑剤供給部材25の体積は、転動体戻し路23,24の容積よりも大きいことが好ましい。同様に、潤滑剤の含有量を増やす等の観点から、潤滑剤供給部材25の全体積は、転動体戻し路23,24の全容積の1倍以上が好ましく、1.5倍以上がより好ましく、2倍以上がさらに好ましい。
【0026】
図2Bに示すように、本実施形態では、上記所定の範囲は、軸方向Lの中央部である。軸方向Lにおける上記所定の範囲の長さD1は、潤滑剤の含有量を増やす等の観点から、例えば、転動体Bの直径の2倍以上が好ましく、3倍以上がより好ましく、5倍以上がさらに好ましい。同様に、潤滑剤の含有量を増やす等の観点から、潤滑剤供給部材25の高さ方向の長さD2は、例えば、転動体Bの直径の3倍以上が好ましく、4倍以上がより好ましく、4.5倍以上がさらに好ましい。同様に、潤滑剤の含有量を増やす等の観点から、
図2Cに示す潤滑剤供給部材25の幅方向の長さD3は、例えば、転動体Bの直径の1.5倍以上が好ましく、1.8倍以上がより好ましく、2倍以上がさらに好ましい。
【0027】
潤滑剤供給部材25は、スライダ本体2Aに着脱自在であることが好ましい。また、着脱時の作業性を向上させるため、潤滑剤供給部材25は、スライダ本体2Aの袖部4に面する位置に取り付けられることが好ましい。
【0028】
図1及び
図3に示すエンドキャップ2Bは、例えば、合成樹脂材の射出成形品で、断面ほぼコ字状に形成されている。エンドキャップ2Bのスライダ本体2Aとの接合面(裏面)には、
図3に示すように、両袖分部に斜めに傾斜した半円状の上凹部31と下凹部32が上下に形成されるとともに、各半円状の凹部31,32の中心部を横断して半円柱状の凹溝33が設けてある。その半円柱状の凹溝33には、
図4及び
図5に示す半円筒状のリターンガイド35が嵌合される。リターンガイド35の外径面の中央部には、転動体Bの案内面となる断面円弧状の凹溝36が半円状に形成される。リターンガイド35の内径側の凹部37は潤滑剤通路であり、その凹部37から外径側の凹溝36に抜ける貫通孔37Aが給油孔として形成されている。
【0029】
リターンガイド35は、例えば、合成樹脂材の射出成形品である。このようなリターンガイド35を半円状の凹部31,32に組み込むことにより、エンドキャップ2Bの裏面に断面円形の半ドーナツ状の湾曲路38が上下二段に形成される。エンドキャップ2Bをスライダ本体2Aに取り付けることで、湾曲路38を介して、スライダ本体2Aの負荷転動体転動溝18と転動体戻し路23とが連通する(
図6参照)。下段の負荷転動体転動溝19と転動体戻し路24も同様に連通している。
【0030】
なお、エンドキャップ2Bにおいて、転動体Bを案内する湾曲路38の内側端部には半円状に突出させた転動体掬いあげ突部39Aが形成され、その鋭角の先端が案内レール1の転動体転動溝3(13)の溝底に近接している。下段の転動体掬いあげ突部39Aには、後述する保持器41の取付溝41aと取付穴41bとが設けてある。また、エンドキャップ2Bの表側のグリースニップル7から注入された潤滑剤は、エンドキャップ2B裏面の給油溝49を通りリターンガイド35の内径側の凹部37から貫通孔37Aを経て、湾曲路38内へ送り込まれる。さらに、エンドキャップ2B裏面の給油溝49の下方には、後述する保持器45の取付け穴45aが形成してある。
【0031】
スライダ2の上段の負荷転動体転動溝18及び下段の負荷転動体転動溝19にそれぞれ装填された転動体Bは、スライダ2を案内レール1に組み付けない状態では脱落してしまう。これを防止するために保持器が用いられている。保持器は、例えば、合成樹脂を射出成形したものである。下段の負荷転動体転動溝19内の転動体脱落防止用の保持器41は、
図7に示すように断面角形状の保持器で、その長手方向の両端側は転動体Bを滑らかに案内するため弓なりに湾曲され、末端には取付部42が形成されている。保持器41の装着は、エンドキャップ2Bの転動体掬いあげ突部39Aに形成された保持器の取付穴41bに取付部42を差し込んで行われる。スライダ2を案内レール1に組みつけた状態では、保持器41は案内レールの保持器逃げ溝16内に収容され、案内レール1とは干渉しない。
【0032】
上段の負荷転動体転動溝18内の転動体脱落防止用の保持器45は、
図8に示すようにほぼ長方形の枠形状である。保持器45は、枠46の長手方向の外側縁にほぼ1/4円弧状の転動体保持面47が形成され、前後端には係止突部48が設けられている。保持器45の装着は、エンドキャップ2Bの裏面の取付け穴45aに係止突部48を差し込んでおこなわれる。これにより、保持器45はエンドキャップ2Bに支持されて、案内レール上面1aとこれに向き合うスライダ本体2Aの内面との間の空間に収容され、転動体Bを転動体保持面47と負荷転動体転動溝18の溝面とで挟持して保持する。
【0033】
以上、本発明に係る一実施形態について詳述したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良等が可能である。例えば、上述の実施形態では、グリースニップル7からもグリースや潤滑剤を供給できるようにしていたが、グリースニップル7及びこれに関する部材を設けなくともよい。また、リニアガイド装置10は、上述の4条列のものではなく、他の条列数のものでもよい。また、保持器41及び45の少なくとも一方を備えていなくてもよい。
【0034】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外面に転動体転動溝を有して軸方向に延びる案内レールと、
前記案内レールに組み付けられ、前記転動体転動溝に対向する負荷転動体転動溝及び該負荷転動体転動溝の両端部に湾曲路を介して連結された転動体戻し路を有するスライダと、
前記転動体転動溝、前記負荷転動体転動溝、前記湾曲路及び前記転動体戻し路により構成される転動体循環路内を循環転動する複数の転動体と、を備え、
前記軸方向における所定の範囲において、前記転動体戻し路の周囲は、前記転動体戻し路内に潤滑剤を供給可能な潤滑剤供給部材によって形成され、
前記所定の範囲の少なくとも一部は、前記軸方向に垂直な断面における前記潤滑剤供給部材の占める面積が前記転動体戻し路が占める面積よりも大きい、
リニアガイド装置。
このリニアガイド装置によれば、スライダの内部の転動体に対してより長期にわたり安定して潤滑剤を自動的に供給可能なリニアガイド装置を提供することができる。具体的には、軸方向に垂直な断面における潤滑剤供給部材の占める面積(潤滑剤面積)が転動体戻し路が占める面積(戻し路面積)よりも大きい箇所では、転動体戻し路に対して十分な量の潤滑剤を含有することが可能になるため、より長期にわたって安定して潤滑剤を供給可能になる。また、潤滑剤面積が戻し路面積よりも大きいということは、その断面における潤滑剤供給部材の端部等では、
図9や
図10の(c)の場合と比べて、転動体戻し路までの距離が遠くなっているといえる。転動体戻し路までの距離が遠い部分に当初含まれていた潤滑剤は、通常、転動体戻し路の近傍に当初含まれていた潤滑剤よりも時間をかけて転動体戻し路へと移動していくため、転動体戻し路までの距離が遠い部分があることにより、より長期にわたって潤滑剤を供給可能になる。
【0035】
(2) 前記軸方向における前記所定の範囲の長さは、前記転動体の直径の2倍以上である、上記(1)に記載のリニアガイド装置。
このリニアガイド装置によれば、転動体戻し路における潤滑材供給部材から潤滑剤が供給される範囲を広くすることができ、潤滑剤をより安定的に供給することが可能になる。また、潤滑剤供給部材の体積を十分に確保し易くなり、結果として、より長期にわたって潤滑剤を供給し易くなる。
【0036】
(3) 前記所定の範囲において、前記潤滑剤供給部材の体積は、前記転動体戻し路の容積よりも大きい、上記(1)又は(2)に記載のリニアガイド装置。
このリニアガイド装置によれば、潤滑剤供給部材に十分な量の潤滑剤を含有することが容易になり、結果として、より長期にわたって潤滑剤を供給し易くなる。
【0037】
(4) 前記潤滑剤供給部材の全体積は、前記転動体戻し路の全容積の1倍以上である、上記(1)から(3)のいずれかに記載のリニアガイド装置。
このリニアガイド装置によれば、潤滑剤供給部材に十分な量の潤滑剤を含有することが容易になり、結果として、より長期にわたって潤滑剤を供給し易くなる。
【0038】
(5) 前記潤滑剤供給部材は、前記スライダの本体に着脱自在である、
上記(1)から(4)のいずれかに記載のリニアガイド装置。
このリニアガイド装置によれば、潤滑剤供給部材内の潤滑剤がなくなった場合に潤滑剤供給部材だけを交換することができ、結果として、スライダ等を一式取り換えるよりも低コストで、半永久的な潤滑剤の安定供給を実現しうる。
【符号の説明】
【0039】
1:案内レール、 2:スライダ、 2A:スライダ本体、 3,13:転動体転動溝、 10:リニアガイド装置、 18,19:負荷転動体転動溝、 23,24:転動体戻し路、 25:潤滑剤供給部材、 38:湾曲路、 B:転動体、 L:軸方向