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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043075
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】溶接後熱処理方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 31/00 20060101AFI20240322BHJP
   B23K 9/23 20060101ALI20240322BHJP
   C21D 9/50 20060101ALI20240322BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240322BHJP
   C22C 38/44 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
B23K31/00 B
B23K31/00 F
B23K9/23 B
C21D9/50 101B
C22C38/00 302Z
C22C38/44
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148061
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】井上 亮
(72)【発明者】
【氏名】藤原 亮太
【テーマコード(参考)】
4E001
4K042
【Fターム(参考)】
4E001AA03
4E001CA03
4K042AA24
4K042BA01
4K042BA02
4K042BA03
4K042BA05
4K042BA08
4K042BA10
4K042BA11
4K042CA07
4K042CA08
4K042CA10
4K042CA16
4K042DA01
4K042DA02
4K042DA06
4K042DC02
4K042DC03
4K042DD05
4K042DE02
4K042DE03
4K042DE04
4K042EA01
(57)【要約】
【課題】SCS6系マルテンサイトステンレス鋳鋼からなる成形部材の溶接部において水素脆化を抑制する為に硬度を抑えつつ強度を確保すること。
【解決手段】JIS G 5121 SCS6系のマルテンサイト系ステンレス鋳鋼からなる成形部材の溶接後熱処理方法であって、熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20h以上25.1h以下とする。
【選択図】図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS G 5121 SCS6系のマルテンサイト系ステンレス鋳鋼からなる成形部材の溶接後熱処理方法であって、
熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20h以上25.1h以下とする、溶接後熱処理方法。
【請求項2】
前記成形部材は、JIS G 5121 SCS6のマルテンサイト系ステンレス鋳鋼からなり、
熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20hとする、請求項1に記載の溶接後熱処理方法。
【請求項3】
熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20hに設定し、
JIS G 5121 SCS6系すべてのマルテンサイト系ステンレス鋳鋼からなる成形部材の溶接後熱処理を行う、請求項1に記載の溶接後熱処理方法。
【請求項4】
溶接熱影響部のビッカース硬度HVが350未満となる熱処理温度Tおよび熱処理保持時間tとする、請求項1に記載の溶接後熱処理方法。
【請求項5】
前記成形部材は、筒状の接続部を有し、
溶接後熱処理の際に、前記接続部の歪みを防止する支持冶具を用いる、請求項1に記載の溶接後熱処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接後熱処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、マルテンサイト系ステンレス鋼材溶接部の形成方法について記載されている。この形成方法は、マルテンサイト系ステンレス鋼材に溶接を施して溶接部を形成するに当り、溶接後に、溶接部に、下記(1)式で定義されるP1が15500以上、下記(2)式で定義されるP2が0以下を満足し、かつ溶接後熱処理保持時間tが60~1000sの範囲内である溶接後熱処理を施すことを特徴とする耐粒界応力腐食割れ性および耐水素脆化性に優れた溶接熱影響部を有する。
P1=(T+273)(20+log(t/3600))・・・(1)
P2=20logt+T-(A1+120)・・・(2)
T:溶接後熱処理温度(℃)
t:溶接後熱処理保持時問(s)
A1:100体積%マルテンサイト組織としたのち加熱し20秒間保持したときに1体積%以上オーステナイト相が形成される下限温度(℃)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007-321181号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで、例えば、一般ポンプおよび原子力ポンプの主要材質として、SCS6系をベースとした材料であるマルテンサイト系ステンレス鋳鋼が使用されている。近年、ポンプの高出力化、コンパクト化の要望が増加しており、強度面での信頼性を確保するため特に高強度なSCS6XQT2(JIS G5121)を採用する場合がある。また、上記材質は、鋳造品であることから鋳物欠陥の発生は避けられず、製品形状が仕上がった状態において溶接補修が必要となる可能性がある。この場合、溶接補修を実施するにあたっては、高硬度(350HV以上)材特有の水素脆化発生リスクを抑えるため、厳格な硬度管理に配慮した溶接手法の適用が求められる。
【0005】
本開示は、上述した課題を解決するものであり、SCS6系マルテンサイトステンレス鋳鋼からなる成形部材の溶接部において、水素脆化を抑制する為に硬度を抑えつつ強度を確保することのできる溶接後熱処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の目的を達成するために、本開示の一態様に係る溶接後熱処理方法は、JIS G 5121 SCS6系のマルテンサイト系ステンレス鋳鋼からなる成形部材の溶接後熱処理方法であって、熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20h以上25.1h以下とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示は、SCS6系マルテンサイトステンレス鋳鋼からなる成形部材の溶接部において水素脆化を抑制する為に硬度を抑えつつ強度を確保できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、実施形態の溶接後熱処理方法の適用例の成形部材の説明図である。
図2図2は、成形部材をなすマルテンサイト系ステンレス鋳鋼の化学成分を示す図表である。
図3図3は、成形部材をなすマルテンサイト系ステンレス鋳鋼の機械的性質および熱処理温度を示す図表である。
図4図4は、実施形態の溶接後熱処理方法のフローチャートである。
図5図5は、支持冶具を示す概略図である。
図6図6は、SCS6XQT2の熱処理結果を示す図表である。
図7図7は、SCS6の熱処理結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本開示に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの開示が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能かつ容易なもの、あるいは実質的に同一のものが含まれる。
【0010】
図1は、実施形態の溶接後熱処理方法の適用例の成形部材の説明図である。
【0011】
実施形態の溶接後熱処理方法では、成形部材Wについて熱処理が実施される。かかる成形部材Wは、図1に例示する給水ポンプ101において、本体ケーシング101Aに接続される吸込ケーシング101Bや吐出ケーシング101Cである。給水ポンプ101は、複数の筒状の部品が組み込まれてなる本体ケーシング101Aの内部に羽根車およびディフューザが配置され、当該本体ケーシング101Aの軸方向の両側に吸込ケーシング101Bおよび吐出ケーシング101Cがそれぞれ接続される。吸込ケーシング101Bは、外部に向けて吸込口101Baが形成され、本体ケーシング101Aと接続される円筒状の接続部101Bbが設けられる。吐出ケーシング101Cは、外部に向けて吐出口101Caが形成され、本体ケーシング101Aと接続される円筒状の接続部101Cbが設けられる。吸込ケーシング101Bおよび吐出ケーシング101Cは、羽根車の回転軸101Dが貫通し、外側に軸受を有するシール部101Eが取り付けられる。従って、給水ポンプ101は、回転軸101Dが回転駆動されると、吸込ケーシング101Bの吸込口101Baから吸い込まれた水が本体ケーシング101Aの内部を介して吐出ケーシング101Cの吐出口101Caから吐出され、給水を行う。
【0012】
このように例示した吸込ケーシング101Bや吐出ケーシング101Cとして構成される成形部材Wは、JIS G5121 SCS6系(以下SCS6系と言う)をベースとした材料であるマルテンサイト系ステンレス鋳鋼が主要材質として使用される。具体的に、SCS6系のマルテンサイト系ステンレス鋳鋼は、JIS G5121 SCS6(以下SCS6と言う)や、より高硬度のJIS G5121 SCS6XQT2(以下SCS6XQT2と言う)を含む。
【0013】
ここで、SCS6系であるSCS6XQT2やSCS6は、比重7.75を基準として、図2に示す化学成分を含み、図3に示す熱処理条件により生成され図3に示す機械的性質を有する。従って、SCS6系であるSCS6XQT2やSCS6は、図2に示す化学成分、熱処理条件、機械的性質によって特定される。
【0014】
吸込ケーシング101Bや吐出ケーシング101Cは、鋳造品であることから鋳物欠陥の発生は避けられず、製品形状が仕上がった状態において溶接補修が必要となる可能性がある。溶接補修を実施するにあたって、高硬度(350HV以上)材特有の水素脆化発生リスクを抑えるため、補修溶接後に熱処理を施す。
【0015】
図4に示すように、実施形態の溶接後熱処理方法は、ステップS1において、支持冶具10(図5参照)を成形部材Wに取り付け、ステップS2,S3において、熱処理温度T(℃)および熱処理保持時間t(h)を設定して、ステップS4において、熱処理を実施する。
【0016】
支持冶具10は、成形部材Wの溶接後熱処理における歪みを防止するためのものである。支持冶具10は、図5に示すように、補修溶接箇所が吸込ケーシング101Bや吐出ケーシング101Cにおいて筒状で比較的薄肉の接続部101Bb,101Cbである場合、筒内から内側への接続部101Bb,101Cbの歪みを抑えるように構成される。支持冶具10は、支持環10Aと、支持棒10Bと、を含む。支持環10Aは、接続部101Bb,101Cbの内側に配置される大きさのリング状に形成される。支持棒10Bは、支持環10Aの外側に向けて複数(実施形態では8つ)が等間隔で放射状に配置される。支持棒10Bは、支持環10Aに基端が固定される管状の鞘部10Baと、鞘部10Baの環状の先端に固定されるナット10Bbと、ナット10Bbに捩じ込まれて鞘部10Baに内装され放射方向に移動可能に設けられるボルト10Bcと、を有する。支持棒10Bは、ボルト10Bcを回転させることで、鞘部10Baおよびナット10Bbに対するボルト10Bcの捩じ込み位置が変化し、ボルト10Bcの頭部が接続部101Bb,101Cbの内面に当接または離隔する。従って、支持冶具10は、各支持棒10Bのボルト10Bcの頭部を接続部101Bb,101Cbの内面に当接させ、接続部101Bb,101Cbが内側に歪みを生じないように成形部材Wに取り付けられる。
【0017】
溶接後熱処理では、当該処理後において、引張強さ(MPa)、耐力(MPa)、ブリネル硬さ(HB)がJIS G5121における規定値を満足する必要がある。なお、材種(例えば、SCS6XQT2)によってはJIS上での硬さ指定はない。
【0018】
成形部材WがSCS6XQT2からなる場合、図6に示す熱処理結果から、熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを10.2h以上28.2h以下に設定する。
【0019】
一方、成形部材WがSCS6からなる場合、図7に示す熱処理結果から、熱処理温度Tは540℃、熱処理保持時間tを7.1hに設定する。または、成形部材WがSCS6からなる場合、図7に示す熱処理結果から、熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20h以上25.1h以下に設定する。
【0020】
従って、これらSCS6XQT2およびSCS6を含むSCS6系からなる成形部材Wの場合、熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20h以上25.1h以下に設定する。この結果、実施形態の溶接後熱処理方法は、SCS6系の溶接部において水素脆化を抑制する為に硬度を抑えつつ強度を確保できる。
【0021】
ここで、図6および図7に示す熱処理結果から、SCS6XQT2およびSCS6を含むSCS6系において、共に同じになるように熱処理温度T、熱処理保持時間tを設定することで、SCS6系において同じ設定で溶接後熱処理が行える。従って、実施形態の溶接後熱処理方法では、SCS6XQT2およびSCS6のそれぞれにおいて、図6および図7に示す熱処理結果から、熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20hに設定することが好ましく、設定を容易にして汎用性を得ることができる。このため、実施形態の溶接後熱処理方法では、SCS6XQT2からなる成形部材W、およびSCS6からなる成形部材Wであっても、熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20hに設定する。即ち、SCS6からなる成形部材Wに対し、熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20hに設定することで、SCS6XQT2からなる成形部材Wに対しても溶接後熱処理を実施できる。この結果、実施形態の溶接後熱処理方法は、SCS6系のすべてに対し、溶接部において水素脆化を抑制する為に硬度を抑えつつ強度を確保できる。
【0022】
また、実施形態の溶接後熱処理方法では、ビッカース硬度HVが350未満となる熱処理温度Tおよび熱処理保持時間tとすることが好ましい。図6および図7に示す熱処理結果から、溶接熱影響部HAZ(Heat Affected Zone)のビッカース硬度HVが350未満となるように、熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20h以上25.1h以下に設定する。この結果、実施形態の溶接後熱処理方法は、SCS6系の溶接部において水素脆化を抑制する為に硬度を抑えつつ強度を確保できる。
【0023】
また、実施形態の溶接後熱処理方法では、成形部材Wは、筒状の接続部101Bb,101Cbを有し、溶接後熱処理の際に、接続部101Bb,101Cbの歪みを防止する支持冶具10を用いる。この溶接後熱処理方法によれば、支持冶具10を用いることで、溶接による歪みの発生を抑制できる。
【0024】
本開示は以下の発明を包含する。
[発明1]
JIS G 5121 SCS6系のマルテンサイト系ステンレス鋳鋼からなる成形部材の溶接後熱処理方法であって、
熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20h以上25.1h以下とする、溶接後熱処理方法。
[発明2]
前記成形部材は、JIS G 5121 SCS6のマルテンサイト系ステンレス鋳鋼からなり、
熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20hとする、発明1に記載の溶接後熱処理方法。
[発明3]
熱処理温度Tを525℃、熱処理保持時間tを20hに設定し、
JIS G 5121 SCS6系すべてのマルテンサイト系ステンレス鋳鋼からなる成形部材の溶接後熱処理を行う、発明1に記載の溶接後熱処理方法。
[発明4]
溶接熱影響部のビッカース硬度HVが350未満となる熱処理温度Tおよび熱処理保持時間tとする、発明1から3のいずれか1つに記載の溶接後熱処理方法。
[発明5]
前記成形部材は、筒状の接続部を有し、
溶接後熱処理の際に、前記接続部の歪みを防止する支持冶具を用いる、発明1から4のいずれか1つに記載の溶接後熱処理方法。
【符号の説明】
【0025】
10 支持冶具
101Bb 接続部
101Cb 接続部
W 成形部材(101B 吸込ケーシング、101C 吐出ケーシング)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7