(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043129
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】糖尿病性神経障害の検出方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/53 20060101AFI20240322BHJP
C12Q 1/6813 20180101ALI20240322BHJP
C12Q 1/6851 20180101ALI20240322BHJP
C12M 1/34 20060101ALI20240322BHJP
C12N 15/11 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G01N33/53 D
C12Q1/6813 Z
C12Q1/6851 Z
C12M1/34 F
C12M1/34 Z
C12N15/11 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148135
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】弁理士法人アルガ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】細田 弥生
(72)【発明者】
【氏名】杉田 聡
(72)【発明者】
【氏名】峯岸 慶彦
【テーマコード(参考)】
4B029
4B063
【Fターム(参考)】
4B029AA07
4B029AA23
4B029BB15
4B029BB20
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4B063QS03
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4B063QX02
(57)【要約】
【課題】生体試料中のタンパク質を用いて糖尿病性神経障害を検出する方法を提供する。
【解決手段】被験者から採取された生体試料について、LILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、CCN5、FMNL1、SCGN、CXCL14、BACH1、LY6D、CCL24、SPINT2、CDH15、CTSC、CCL13、NOS1、SCARA5、CCL11、ACVRL1、CD276、SUSD2、TMSB10、NT5C3A、TNFRSF6B及びSPINK1から選択されるタンパク質の少なくとも1つの発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者における糖尿病性神経障害の検出方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被験者から採取された生体試料について、LILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、CCN5、FMNL1、SCGN、CXCL14、BACH1、LY6D、CCL24、SPINT2、CDH15、CTSC、CCL13、NOS1、SCARA5、CCL11、ACVRL1、CD276、SUSD2、TMSB10、NT5C3A、TNFRSF6B及びSPINK1から選択されるタンパク質の少なくとも1つの発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者における糖尿病性神経障害の検出方法。
【請求項2】
タンパク質がLILRA2、WNT9A,KRT19及びPXNから選ばれる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
生体試料が血液、血清又は血漿である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
発現レベルの測定が前記タンパク質のタンパク質量の測定である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
発現レベルの測定値を前記タンパク質の参照値と比較し、糖尿病性神経障害の存在若しくは不存在を評価する、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記タンパク質に結合する分子又は前記タンパク質をコードする遺伝子と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する、請求項1~5のいずれか1項記載の方法に用いられる糖尿病性神経障害を検出するための検査用キット。
【請求項7】
LILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、CCN5、FMNL1、SCGN、CXCL14、BACH1、LY6D、CCL24、SPINT2、CDH15、CTSC、CCL13、NOS1、SCARA5、CCL11、ACVRL1、CD276、SUSD2、TMSB10、NT5C3A、TNFRSF6B及びSPINK1から選択されるタンパク質の少なくとも1つからなる、糖尿病性神経障害の検出マーカー。
【請求項8】
タンパク質がLILRA2、WNT9A,KRT19及びPXNから選ばれる、請求項7記載のマーカー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマーカーを用いた糖尿病性神経障害の検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病患者は現在約4億人であり、世界の健康支出の約12%が糖尿病もしくはその合併症であるといわれている。糖尿病の怖さは合併症にあるといわれており、主な合併症の一つに糖尿病性神経障害がある。糖尿病性神経障害は、神経長依存性の四肢末端から左右対称性に進行する神経障害であり、初期は痛みやしびれを呈するが、次第に感覚低下や血流障害が起こり、最悪の場合、壊疽により四肢切断に至り、QOLを著しく低下させる。
【0003】
糖尿病性神経障害は、神経障害が進行するほど、足病変、虚血性脳血管障害、虚血性心疾患の発生頻度が増加することが知られている。また、進行例に関しては治癒が難しい一方、早期症例に関しては改善可能であることが知られている。以上のことから、糖尿病性神経障害は早期発見及び介入が重要である。
【0004】
一方、糖尿病性神経障害の診断には課題がある。すなわち、糖尿病性神経障害の確定診断には神経伝導検査が必要だが、専用の機械が必要、操作に熟練が必要、対象神経の数によっては時間がかかる、電気刺激(痛み/苦痛)を伴うといった課題がある(非特許文献1,2)。また、糖尿病性神経障害患者の半数が自覚症状を伴わないため、気づいたときには壊疽が進行し、脚を切断しなくてはならなくなるような状態が少なくない。
【0005】
以上のことから、簡便かつ確実な神経のモニタリング技術の確立・普及が求められているが、これまでに糖尿病性神経障害を検出できるバイオマーカーは見出されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】臨床神経生理学. 2018, 46: 71-77
【非特許文献2】糖尿病性神経障害の各種スコア. 2013, 糖尿病性神経障害(中山書店); 37-48
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、バイオマーカーを用いて糖尿病性神経障害を検出する方法を提供することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、糖尿病患者のうち、神経障害を発症している患者と発症していない患者から採取した血中のタンパク質の発現レベルが両者の間で有意に異なるタンパク質が存在し、これを指標として糖尿病性神経障害を検出することができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、以下の1)~3)に係るものである。
1)被験者から採取された生体試料について、LILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、CCN5、FMNL1、SCGN、CXCL14、BACH1、LY6D、CCL24、SPINT2、CDH15、CTSC、CCL13、NOS1、SCARA5、CCL11、ACVRL1、CD276、SUSD2、TMSB10、NT5C3A、TNFRSF6B及びSPINK1から選択されるタンパク質の少なくとも1つの発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者における糖尿病性神経障害の検出方法。
2)前記タンパク質に結合する分子又は前記タンパク質をコードする遺伝子と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する、上記1)の方法に用いられる糖尿病性神経障害を検出するための検査用キット。
3)LILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、CCN5、FMNL1、SCGN、CXCL14、BACH1、LY6D、CCL24、SPINT2、CDH15、CTSC、CCL13、NOS1、SCARA5、CCL11、ACVRL1、CD276、SUSD2、TMSB10、NT5C3A、TNFRSF6B及びSPINK1から選択されるタンパク質の少なくとも1つからなる、糖尿病性神経障害の検出マーカー。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡便且つ非侵襲的に、糖尿病性神経障害を、高い精度、感度及び特異度で検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】神経障害を有する糖尿病患者(DPN)と神経障害を有さない糖尿病患者(DM)の血漿プロテオームの比較。
【
図2】29種類の血中タンパク質の糖尿病性神経障害の受動者動作特性曲線(ROC)。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中で引用された全ての特許文献、非特許文献、及びその他の刊行物は、その全体が本明細書中において参考として援用される。
【0013】
本発明において、「核酸」又は「ポリヌクレオチド」と云う用語は、DNA又はRNAを意味する。DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれ、「RNA」には、total RNA、mRNA、rRNA、tRNA、non-coding RNA及び合成のRNAのいずれもが含まれる。
【0014】
本発明において「遺伝子」とは、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNAの他、cDNAを含む1本鎖DNA(正鎖)、当該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、及びこれらの断片を包含するものであって、DNAを構成する塩基の配列情報の中に、何らかの生物学的情報が含まれているものを意味する。
また、当該「遺伝子」は特定の塩基配列で表される「遺伝子」だけではなく、これらの同族体(すなわち、ホモログもしくはオーソログ)、遺伝子多型等の変異体、及び誘導体をコードする核酸が包含される。
【0015】
本発明において、「糖尿病性神経障害」とは、糖尿病発症後に出現する神経障害を指す。「糖尿病性神経障害」は、遠位性対称性の多発神経障害と局所性の単神経障害に分けられるが、本発明の糖尿病性神経障害には、その両者が含まれる。
遠位性対称性の多発神経障害は、感覚・運動神経障害と自律神経障害に分けられ、感覚・運動神経障害では、発症早期から神経伝導検査による神経伝導速度の低下が認められ、下肢末端に、自発痛・しびれ感・錯感覚・感覚鈍麻などの感覚異常や、筋力低下や筋萎縮、バランス機能の低下などの運動機能異常が出現し、症状が上行するとともに上肢末端にも症状が現れる。さらに、眼球運動や顔面の動きも障害される。自律神経障害は、瞳孔機能異常、起立性低血圧、心臓神経の障害(突然死、無痛性心筋梗塞)、発汗異常、消化管の運動障害(便秘、下痢)、膀胱の機能障害、勃起障害など多彩な病態を呈する。
局所性の単神経障害には、脳神経障害(特に外眼筋麻痺)、体幹・四肢の神経障害、糖尿病筋萎縮(腰仙部根神経叢神経障害)などが含まれる。
【0016】
糖尿病性神経障害の診断は、1)下肢感覚異常(痛み、しびれ、感覚鈍麻)、2)両側アキレス腱反射の低下または消失、3)両側内踝の振動覚低下(C128音叉の振動知覚が10秒以内に消失)の項目中、2項目以上該当する場合、又はこの条件項目に満たない場合でも、神経伝導検査において両足共に異常値を示した場合に、神経障害ありとする基準が提唱されている(糖尿病性神経障害を考える会、糖尿病性多発神経障害の簡易診断基準(小改訂版).末梢神経23:109-111, 2012)。
【0017】
本発明において、「糖尿病性神経障害の検出」には、糖尿病患者において、神経障害の存在(神経障害あり)又は不存在(神経障害なし)を明らかにすることを意味する。なお、本発明において、「検出」という用語は、検査、測定、判定、評価又は評価支援という用語で言い換えることもできる。なお、本明細書において「判定」又は「評価」という用語は、医師による判定や評価を含むものではない。
【0018】
後述する実施例に示すように、糖尿病を罹患した男女43名について、上記の診断基準で糖尿病性神経障害の有無を診断し、神経障害を有する糖尿病患者(DPN)と神経障害を有さない糖尿病患者(DM)とに分類し、各群について血漿プロテオーム解析を行い、inflammatory panel(368種)とneurology panel(367種)の計732種類のタンパク質を定量した(2パネル間で3分子重複したため)。その結果、DPNとDMの2群間で血中濃度に有意差を認める以下の29種類のタンパク質が同定された(
図1)。このうち、LILRA2のみがDPNで発現が低下するタンパク質であり、その他はDPNで発現が増加するタンパク質であった。
LILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、CCN5、FMNL1、SCGN、CXCL14、BACH1、LY6D、CCL24、SPINT2、CDH15、CTSC、CCL13、NOS1、SCARA5、CCL11、ACVRL1、CD276、SUSD2、TMSB10、NT5C3A、TNFRSF6B、SPINK1。
したがって、斯かる29種のタンパク質(以下、「標的タンパク質」とも称す)は、糖尿病性神経障害を検出するための、糖尿病性神経障害マーカーとして有用である。
このうち、検出精度の点から、LILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、SPINK1及びCCN5から選ばれる1種以上を用いるのが好ましく、LILRA2、WNT9A,KRT19及びPXNから選ばれる1種以上を用いるのがさらに好ましい。
【0019】
ここで、「LILRA2」とは、ヒト骨髄系細胞の表面に発現するLILRA2(leukocyte immunoglobulin-like receptor A2)を指し、LILRA2遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「11027」として登録されている。
「WNT9A」とは、心臓や子宮内膜をはじめとする臓器に発現する(Wnt family member 9A)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「7483」として登録されている。
「KRT19」とは、上皮細胞の構造的完全性を担う中間フィラメント蛋白質の一種である(keratin 19)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「3880」として登録されている。
「PXN」とは、細胞外マトリックスへの細胞接着に寄与する細胞骨格蛋白質である(paxillin)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「5829」として登録されている。
「PTK7」とは、細胞膜貫通型の蛋白質チロシンキナーゼの一つである(protein tyrosine kinase 7)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「5754」として登録されている。
「RASA1」とは、細胞質中に局在するGTPase活性化蛋白質のGAP1ファミリーの一部である(RAS p21 protein activator 1)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「5921」として登録されている。
「NEFL」とは、軽鎖ニューロフィラメントの(neurofilament light chain)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「
4747」として登録されている。
「IL16」とは、化学誘引物質、T細胞活性化のモジュレーター、及びHIV複製の阻害剤として機能する多面的サイトカインである(interleukin 16)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「3603」として登録されている。
「CCN5」とは、WNT1誘導性シグナル伝達経路を構成するメンバーの一つである(cellular communication network factor 5)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「8839」として登録されている。
「FMNL1」とは、形態形成、サイトカイン症や細胞極性に関与する(formin like 1)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「752」として登録されている。
「SCGN」とは、細胞質中のカルシウム結合蛋白質である(secretagogin, EF-hand calcium binding protein)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「10590」として登録されている。
「CXCL14」とは、免疫調節や炎症に関与するサイトカインである(C-X-C motif chemokine ligand 14)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「9547」として登録されている。
「BACH1」とは、転写因子の一つである(BTB domain and CNC homolog 1)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「571」として登録されている。
「LY6D」とは、リンパ球分化に関与すると推測されている細胞外領域に発現する(lymphocyte antigen 6 family member D)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「8581」として登録されている。
「CCL24」とは、免疫調節及び炎症過程に関与するサイトカインの一つである(C-C motif chemokine ligand 24)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「6369」として登録されている。
「SPINT2」とは、膜貫通型の蛋白質で様々なセリンプロテアーゼに対する阻害活性を有する(serine peptidase inhibitor, Kunitz type 2)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「10653」として登録されている。
「CDH15」とは、カルシウム依存性細胞間接着糖蛋白質の一つである(cadherin 15)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「1013」として登録されている。
「CTSC」とは、ペプチダーゼC1ファミリー及びリソソームシステインプロテイナーゼをコードする(cathepsin C)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「1075」として登録されている。
「CCL13」とは、免疫調節及び炎症過程に関与するサイトカインの一つである(C-C motif chemokine ligand 13)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「6357」として登録されている。
「NOS1」とは、L-アルギニンから一酸化窒素を合成する酵素である(nitric oxide synthase 1)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「4842」として登録されている。
「SCARA5」とは、フェリチン受容体活性を有すると推測されている(scavenger receptor class A member 5)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「286133」として登録されている。
「CCL11」とは、免疫調節及び炎症過程に関与するサイトカインの一つである(C-C motif chemokine ligand 11)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「6356」として登録されている。
「ACVRL1」とは、TGFβリガンドのスーパーファミリーに対する1型細胞表面受容体の一つである(activin A receptor like type 1)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「94」として登録されている。
「CD276」とは、T細胞媒介性免疫応答の調節に関与する(CD276 molecule)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「80381」として登録されている。
「SUSD2」とは、細胞周期や細胞分裂を負に制御する(sushi domain containing 2)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「56241」として登録されている。
「TMSB10」とは、アクチンモノマーの輸送に関与すると考えられている(thymosin beta 10)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「9168」として登録されている。
「NT5C3A」とは、5’-ヌクレオチダーゼの一つである(5’-nucleotidase, cytosolic IIIA)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「51251」として登録されている。
「TNFRSF6B」とは、FasL及びLIGHT媒介性細胞死の調節に関与する(TNF receptor superfamily member 6b)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「8771」として登録されている。
「SPINK1」とは、膵臓腺房細胞から膵液中に分泌されるトリプシン阻害剤である(serine peptidase inhibitor Kazal type 1)を指し、遺伝子(gene)は、Entrez Gene ID「6690」として登録されている。
【0020】
なお、本発明において、上記標的タンパク質には、糖尿病性神経障害を検出するためのバイオマーカーとなり得る限り、当該タンパク質を構成するアミノ酸配列と実質的に同一のアミノ酸配列を有するタンパク質も包含される。ここで、実質的に同一のアミノ酸配列とは、例えば、相同性計算アルゴリズムNCBI BLASTを用い、期待値=10;ギャップを許す;フィルタリング=ON;マッチスコア=1;ミスマッチスコア=-3の条件にて検索をした場合、当該タンパク質を構成するアミノ酸配列と90%以上、好ましくは95%以上、より好ましく98%以上、さらに好ましくは99%以上の同一性があることを意味する。
【0021】
本発明の糖尿病性神経障害の検出方法は、被験者から採取された生体試料について、標的タンパク質の発現レベルを測定する工程を含む。
【0022】
本発明において、生体試料を採取する被験者は、性別や人種など特に限定されないが、神経障害の検出を必要とする糖尿病患者又は神経障害の発症が疑われる糖尿病患者が好ましい。
【0023】
本発明において用いられる生体試料としては、糖尿病性神経障害に応じて本発明の標的タンパク質が発現変化する組織及び生体材料であればよい。具体的には臓器、皮膚、血液、尿、唾液、汗、皮膚表上脂質(SSL)、組織浸出液等の体液、血液から調製された血清、血漿等が挙げられ、好ましくは血液、又は血液から調製された血清若しくは血漿が挙げられる。
【0024】
本発明において、標的タンパク質の発現レベルの測定対象としては、当該タンパク質の他、当該タンパク質をコードするRNA、そのRNAから人工的に合成されたcDNA、そのRNAをエンコードするDNA等の遺伝子が挙げられる。よって、本発明において、標的タンパク質の発現レベルとは、標的タンパク質のタンパク質量や活性、当該タンパク質をコードする遺伝子の発現量を包括的に意味する。
【0025】
発現レベルとしてタンパク質量を測定する場合、プロテインチップ解析、免疫測定法(例えば、各種のエンザイムイムノアッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、酵素結合免疫測定法(ELISA)、二重モノクローナル抗体サンドイッチイムノアッセイ法、モノクローナルポリクローナル抗体サンドイッチアッセイ法、免疫染色法、免疫蛍光法、ウェスタンブロッティング法、ビオチン-アビジン法、免疫沈降法、金コロイド凝集法、イムノクロマト法、ラテックス凝集法(LA)、免疫比濁法(TIA)等)、PEA(Proximity Extension Assay)法、質量分析(例えば、LC-MS/MS、MALDI-TOF/MS)のような方法を用いることができ、対象に応じて適宜選択できる。
例えば、標的タンパク質に対する抗体、相互作用タンパク質、リガンド、ナノ粒子、アプタマー等の標的タンパク質に結合する分子を生体試料と接触させ、当該分子に結合した試料中の標的タンパク質を検出し、そのレベルを測定することによって実施される。
【0026】
例えば、ウェスタンブロット法によれば、一次抗体として標的タンパク質に対する抗体を用いた後、二次抗体として放射性同位元素、蛍光物質又は酵素等で標識した一次抗体に結合する抗体を用いて、その一次抗体を標識し、これら標識物質由来のシグナルを放射線測定器、蛍光検出器等で測定することが行われる。
尚、上記標的タンパク質に対する抗体は、ポリクローナル抗体であっても、モノクローナル抗体であってもよい。これらの抗体は、公知の方法に従って製造することができる。具体的には、ポリクローナル抗体は、常法に従って大腸菌等で発現し精製したタンパク質を用いて、あるいは常法に従って当該タンパク質の部分ポリペプチドを合成して、家兎等の非ヒト動物に免疫し、該免疫動物の血清から常法に従って得ることが可能である。
一方、モノクローナル抗体は、常法に従って大腸菌等で発現し精製したタンパク質又は該タンパク質の部分ポリペプチドをマウス等の非ヒト動物に免疫し、得られた脾臓細胞と骨髄腫細胞とを細胞融合させて調製したハイブリドーマ細胞から得ることができる。また、モノクローナル抗体は、ファージディスプレイを用いて作製してもよい(Griffiths, A.D.; Duncan, A.R., Current Opinion in Biotechnology, Volume 9, Number 1, February 1998 , pp. 102-108(7))。
【0027】
発現レベルとして遺伝子(RNA、cDNA又はDNA)の発現量を測定する場合、これらにハイブリダイズするDNAをプライマーとしたPCR法、リアルタイムRT-PCR法、マルチプレックスPCR、SmartAmp法、LAMP法等に代表される核酸増幅法、これらにハイブリダイズする核酸をプローブとして用いるハイブリダイゼーション法(DNAチップ、DNAマイクロアレイ、ドットブロットハイブリダイゼーション、スロットブロットハイブリダイゼーション、ノーザンブロットハイブリダイゼーション等)、塩基配列を決定する方法(シーケンシング)、又はこれらを組み合わせた方法から選ぶことができる。
【0028】
PCRでは、解析対象である標的タンパク質をコードするDNAを標的としたプライマーペアを用いて標的タンパク質をコードするDNAのみを増幅してもよいし、複数のプライマーペアを用いて、標的タンパク質をコードするDNAを含めた複数のDNAを同時に増幅してもよい。解析対象のDNAのみを増幅する方法としては、RT-PCRが挙げられ、複数のDNAを同時に増幅する方法としては、マルチプレックスPCRが挙げられる。マルチプレックスPCRは、PCR反応系に複数のプライマー対を同時に使用することで、複数の遺伝子領域を同時に増幅する方法である。マルチプレックスPCRは、市販のキット(例えば、Ion AmpliSeqTranscriptome Human Gene Expression Kit;ライフテクノロジーズジャパン株式会社等)を用いて実施することができる。
【0029】
当該PCRで得られた反応産物の精製は、反応産物のサイズ分離によって行われることが好ましい。サイズ分離により、目的のPCR反応産物を、PCR反応液中に含まれるプライマーやその他の不純物から分離することができる。
精製したPCR反応産物に対して、その後の定量解析を行うために必要なさらなる処理を施してもよい。例えば、DNAのシーケンシングのために、精製したPCR反応産物を、適切なバッファー溶液へと調製したり、PCR増幅されたDNAに含まれるPCRプライマー領域を切断したり、増幅されたDNAにアダプター配列をさらに付加したりしてもよい。例えば、精製したPCR反応産物をバッファー溶液へと調製し、増幅DNAに対してPCRプライマー配列の除去及びアダプターライゲーションを行い、得られた反応産物を、必要に応じて増幅して、定量解析のためのライブラリーを調製することができる。
【0030】
ノーザンブロットハイブリダイゼーション法を利用して標的タンパク質をコードする遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、まずプローブDNAを放射性同位元素、蛍光物質等で標識し、次いで、得られた標識DNAを、常法に従ってナイロンメンブレン等にトランスファーした生体試料由来のRNAとハイブリダイズさせる。その後、形成された標識DNAとRNAとの二重鎖を、標識物に由来するシグナルを検出することにより測定する方法が挙げられる。
【0031】
RT-PCR法を用いて標的タンパク質をコードする遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、まず生体試料由来のRNAから常法に従ってcDNAを調製し、これを鋳型として標的タンパク質をコードする遺伝子が増幅できるように調製した一対のプライマー(上記cDNA(-鎖)に結合する正鎖、+鎖に結合する逆鎖)をこれとハイブリダイズさせる。その後、常法に従ってPCR法を行い、得られた増幅二本鎖DNAを検出する。増幅された二本鎖DNAの検出には、予めRI、蛍光物質等で標識しておいたプライマーを用いて上記PCRを行うことによって産生される標識二本鎖DNAを検出する方法等を用いることができる。
【0032】
DNAマイクロアレイを用いて標的タンパク質をコードする遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、支持体に標的タンパク質をコードする遺伝子由来の核酸(cDNA又はDNA)の少なくとも1種を固定化したアレイを用い、mRNAから調製した標識化cDNA又はcRNAをマイクロアレイ上に結合させ、マイクロアレイ上の標識を検出することによって、mRNAの発現量を測定することができる。
前記アレイに固定化される核酸としては、ストリンジェントな条件下に特異的(すなわち、実質的に目的の核酸のみに)にハイブリダイズする核酸であればよく、例えば、標的タンパク質をコードする遺伝子の全配列を有する核酸であってもよく、部分配列からなる核酸であってもよい。ここで、「部分配列」とは、少なくとも15~25塩基からなる核酸が挙げられる。ここでストリンジェントな条件は、通常「1×SSC、0.1%SDS、37℃」程度の洗浄条件を挙げることができ、より厳しいハイブリダイズ条件としては「0.5×SSC、0.1%SDS、42℃」程度、さらに厳しいハイブリダイズ条件としては「0.1×SSC、0.1%SDS、65℃」程度の条件を挙げることができる。ハイブリダイズ条件は、J. Sambrook et al., Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Thrd Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press (2001)等に記載されている。
【0033】
シーケンシングによって標的タンパク質をコードする遺伝子又はそれに由来する核酸の発現量を測定する場合は、例えば、次世代シーケンサー(例えばIon S5/XLシステム、ライフテクノロジーズジャパン株式会社)を用いて解析することが挙げられる。シーケンシングで作成されたリードの数(リードカウント)に基づいて、RNA発現を定量することができる。
【0034】
斯くして、被験者から採取された生体試料中の標的タンパク質の発現レベルが測定され、当該発現レベルに基づいて糖尿病性神経障害が検出される。
検出は、例えば、測定された標的タンパク質の発現レベルを対照レベルと比較することによって行われる。
ここで、「対照レベル」とは、例えば、神経障害を発症していない糖尿病患者(DM)における標的タンパク質の発現レベルが挙げられる。DMの発現レベルは、DM集団から測定した標的タンパク質の発現レベルの統計値(例えば平均値等)であってもよい。
発現レベルの比較は、被験者由来の標的タンパク質の発現レベルが、対照レベルに対して好ましくは91%以下、より好ましくは83%以下、さらに好ましくは77%以下であれば、該標的タンパク質の発現レベルは対照レベルより低いと判断され得、標的タンパク質の発現レベルが、対照レベルに対して好ましくは110%以上、より好ましくは120%以上、さらに好ましくは130%以上であれば、該標的タンパク質の発現レベルは対照レベルより高いと判断され得る。あるいは、被験者由来の標的タンパク質の発現レベルと対照レベルとの差異は、例えば両者が統計学的に有意に異なるか否かによって判断することができる。
標的タンパク質として複数の標的タンパク質を用いる場合には、個々の標的タンパク質の発現レベルを基準値と比較し、一定割合、例えば50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは100%の標的タンパク質の発現レベルが対照レベルと異なるか否かを調べることで、糖尿病性神経障害を検出することができる。
【0035】
また、本発明における糖尿病性神経障害の検出は、標的タンパク質の発現レベルの上昇/減少により行うこともできる。この場合は、被験者由来の標的タンパク質の発現レベルが、標的タンパク質のカットオフ値(参照値)と比較される。
カットオフ値は、種々の統計解析手法により求めることができる。例えば、ROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)解析に基づく値(例えば、Youden’s index、ROC曲線における左上隅座標(0,1)からの距離値等)が例示される。
ROC曲線は、縦軸を陽性患者において陽性の結果がでる確率(真陽性率(TPF:True Position Fraction)、感度)、横軸を陰性患者において陰性の結果がでる確率(特異度)を1から減算した値(偽陽性率(FPF:False Position Fraction))とし、検査結果のどの値を所見ありと判断するかの閾値、つまりカットオフポイント(cutoff point)を媒介変数として変化させてプロットしていくことで作成される。
作成したROC曲線から、どのカットオフポイントをカットオフ値として採用するかは、検査の位置づけ、その他種々の条件より決定すればよい。通常、カットオフポイントを偽陽性率の低い点に採ると、陰性患者で陽性となる者は減るものの、逆に陽性患者を多数除いてしまう結果、感度が低くなる。反対に感度を高めると陰性患者における偽陽性率が高くなる。
一般に感度、特異度をともに高める(1に近づくようする)ために、カットオフ値は、ROC曲線上で点(0,1)に最も近い点を与える値や、「真陽性(感度)」-「偽陽性(1-特異度)」が最大となる値(Youden index)に設定される。
【0036】
例えば、標的タンパク質として、DPNで発現が低下するLILRA2を用いる場合、被験者由来のLILRA2の発現レベルがカットオフ値より低い場合に、当該被験者には糖尿病性神経障害が存在すると判定できる。
【0037】
本発明の糖尿病性神経障害を検出するための検査用キットは、患者から分離した生体試料における標的タンパク質の発現レベルを測定するための検査試薬を含有するものである。具体的には、標的タンパク質に結合する分子(例えば標的タンパク質を認識する抗体等)を含む免疫学的測定等のための試薬、標的タンパク質をコードする遺伝子又はそれに由来する核酸と特異的に結合(ハイブリダイズ)するオリゴヌクレオチド(例えば、PCR用のプライマー)を含む、核酸増幅、ハイブリダイゼーションのための試薬等が挙げられる。当該キットに包含される抗体やオリゴヌクレオチド等は、上述したとおり公知の方法により得ることができる。
また、当該検査用キットには、上記抗体や核酸の他、標識試薬、緩衝液、発色基質、二次抗体、ブロッキング剤や、試験に必要な器具やポジティブコントロールやネガティブコントロールとして使用するコントロール試薬、試料を採取するための用具、採取した試料を保存するための試薬、保存用の容器、試料から標的タンパク質や核酸を抽出・精製するための試薬等を含むことができる。
【0038】
本発明の態様及び好ましい実施態様を以下に示す。
<1>被験者から採取された生体試料について、LILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、CCN5、FMNL1、SCGN、CXCL14、BACH1、LY6D、CCL24、SPINT2、CDH15、CTSC、CCL13、NOS1、SCARA5、CCL11、ACVRL1、CD276、SUSD2、TMSB10、NT5C3A、TNFRSF6B及びSPINK1から選択されるタンパク質の少なくとも1つの発現レベルを測定する工程を含む、当該被験者における糖尿病性神経障害の検出方法。
<2>タンパク質がLILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、SPINK1及びCCN5から選択される、好ましくはLILRA2、WNT9A,KRT19及びPXNから選択される、<1>の方法。
<3>生体試料が血液、血清又は血漿である、<1>又は<2>の方法。
<4>発現レベルの測定が前記タンパク質のタンパク質量の測定である、<1>~<3>のいずれかの方法。
<5>発現レベルの測定値を前記タンパク質の参照値と比較し、糖尿病性神経障害の存在若しくは不存在を評価する、<1>~<4>のいずれかの方法。
<6>前記タンパク質に結合する分子又は前記タンパク質をコードする遺伝子と特異的にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを含有する、<1>~<5>のいずれかの方法に用いられる糖尿病性神経障害を検出するための検査用キット。
<7>LILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、CCN5、FMNL1、SCGN、CXCL14、BACH1、LY6D、CCL24、SPINT2、CDH15、CTSC、CCL13、NOS1、SCARA5、CCL11、ACVRL1、CD276、SUSD2、TMSB10、NT5C3A、TNFRSF6B及びSPINK1から選択されるタンパク質の少なくとも1つからなる、糖尿病性神経障害の検出マーカー。
<8>タンパク質がLILRA2、WNT9A,KRT19、PXN、PTK7、RASA1、NEFL、IL16、SPINK1及びCCN5から選択される、好ましくはLILRA2、WNT9A,KRT19及びPXNから選択される、<7>のマーカー。
【実施例0039】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0040】
(1)方法
1)被験者のリクルート
30~65歳の糖尿病診断歴のある男女80名の中から選抜した。ウェブによる事前アンケートにより糖尿病罹患歴や年齢・性別などの被験者背景をもとに選抜を行い、インフォームドコンセントと試験参加への同意を取得した上で、採血及び糖尿病性神経障害の診断を行った。その際、痛みやしびれを治すために通院あるいは服薬中の方、糖尿病性神経障害の治療薬や鎮痛剤を服薬中の方、以下の疾患に該当する方(一型糖尿病、脊柱狭窄症、ヘルニア、変形性膝関節症、リウマチ、痛風、帯状疱疹、外反母趾)、糖尿病性ケトアシドーシスを合併している方、内分泌系及び代謝系に重篤な疾患を有する方、動脈硬化症、狭心症、不整脈などの心血管関連疾患やうつなどの精神疾患の診断歴がある方、直近1年間に骨折、腱断裂、肉離れなどの運動器に重度の損傷を受けた方、自力で歩くことができない方は試験対象者から除外した。
【0041】
2)糖尿病性神経障害(DPN)及び糖尿病(DM)の診断基準
以下に示す診察項目((1)下肢感覚、(2)アキレス腱反射、(3)振動覚)の検査を行い、3項目中2項目以上が該当する方をDPNとした。また、上記条件に満たない場合でも、神経伝導検査において両足共に異常値を示した場合、DPNとした。上記条件を満たさなかった場合、DMとした(DPN20名、DM13名)。
【0042】
2-i)下肢感覚異常
下肢の痛み、しびれや感覚鈍麻の有無について医師が問診を行った。
【0043】
2-ii)アキレス腱反射
参加者は壁を向いて壁際に設置した椅子の上に膝立ちの姿勢をとってもらった。試験者が、アキレス腱反射検査用ハンマーを用いて、アキレス腱を叩き、足が底屈するか否かを評価した。
【0044】
2-iii)振動覚
試験者は、振動する振動覚検査用音叉(C128)を椅子に座った状態の参加者の内踝に当てた。振動を感じなくなった時点を参加者に申告させ、その時間を計測値とした。両足について測定し、10秒以内に振動覚が消失した場合を振動覚低下と判断した。
【0045】
2-iv)神経伝導検査
参加者に、診察台にうつぶせに寝てもらい、専用のアルコールシート(プレップパッド)でセンサーが当たる部分を拭いた。神経伝導測定装置(HDN‐1000、オムロン)の電極部位に専用ジェルを塗り、電極を踝とアキレス腱の中央に当て、センサー部を腓腹筋の正中線上に当てた。力を抜いた状態でパルス状に微弱電流を流し、神経伝導速度及び振幅を測定した。測定は左右で実施した。年齢と身長を入力し、正常以外の結果が出た場合、異常と判断した。
【0046】
3)検体採取(採血)
参加者は試験参加前日の21時までに夕食を摂取し、試験参加当日の朝食は摂取しない状態で採血を行った。測定会参加日の朝は、低血糖を防ぐため、糖尿病薬は摂取せずに来院いただき、それ以外の薬については制限しなかった。
血液はEDTA-2K 5ml真空採血管に回収後、5回以上転倒混和し、すみやかに氷水で冷却した。1200g×15分、4℃で遠心し、測定まで血漿は-80℃で保存した。
【0047】
4)血漿プロテオーム解析
血漿プロテオーム解析には、オーリンクプロテオミクス株式会社のPEA法を用いた。PEA法とは蛋白質の定量情報を蛋白質に対応する配列を持った塩基配列に置き換えることで、蛋白質をPCRベースで定量する方法であり、微量なサンプルから多くの種類の蛋白質を定量することができる。本試験ではinflammatory panel(368種)とneurology panel(367種)を用い、合計732種類の蛋白質について定量を行った(2つのpanel間で3成分重複している)。
【0048】
(1)結果
1)DPNとDMの血漿プロテオームの比較
DPNとDMの2群間で血中濃度に有意差を認めた29種類のマーカーの血中濃度をボックスプロットで示した(
図1)。統計学的解析にはt検定を用い、有意水準として0.05を用いた。
【0049】
2)29種類の血中マーカーを用いた糖尿病性神経障害の受動者動作特性曲線(ROC)
各血中マーカーの相対値データを用いて、糖尿病性神経障害の有無について二値分類判定を試みた。分類判定の評価には受信者動作特性曲線(ROC)を用い、ROCの曲線下面積(AUC)でモデルの精度を評価した。その結果、候補マーカー29種類(下記表1)について、モデルとしての精度が良好であった(
図2、AUC≧0.7)。
【0050】