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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043147
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】航空エンジン用燃焼器
(51)【国際特許分類】
   F23R 3/28 20060101AFI20240322BHJP
   B05B 7/04 20060101ALI20240322BHJP
   F02C 3/24 20060101ALI20240322BHJP
   F02C 7/00 20060101ALI20240322BHJP
   F02C 7/232 20060101ALI20240322BHJP
   B05B 7/10 20060101ALN20240322BHJP
【FI】
F23R3/28 B
B05B7/04
F02C3/24 A
F02C7/00 F
F02C7/232 B
B05B7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148167
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】514275772
【氏名又は名称】三菱重工航空エンジン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000785
【氏名又は名称】SSIP弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】池田 有空
(72)【発明者】
【氏名】藤本 洋平
【テーマコード(参考)】
4F033
【Fターム(参考)】
4F033QA07
4F033QB02Y
4F033QB03X
4F033QB12Y
4F033QB14X
4F033QD08
4F033QD15
4F033QE09
4F033QF02Y
4F033QF07Y
(57)【要約】
【課題】燃焼用空気の流速が遅い場合において液体燃料の微粒化性能を向上させることができる。
【解決手段】航空エンジン用燃焼器は、軸線に沿って延在する内部空間を画定する筒状の筒状部材と、少なくとも一部が内部空間内に位置するように配置される燃料ノズルであって、筒状部材の内周面に向かって液体燃料を噴出する噴出孔を有する燃料ノズルと、を備え、筒状部材は、内周面の出口端から径方向外側に向かって延在する先端面の周方向の全体が、液体燃料に対して90度より小さい第1接触角を有するように構成されている。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線に沿って延在する内部空間を画定する筒状の筒状部材と、
少なくとも一部が前記内部空間内に位置するように配置される燃料ノズルであって、前記筒状部材の内周面に向かって液体燃料を噴出する噴出孔を有する燃料ノズルと、を備え、
前記筒状部材は、前記内周面の出口端から径方向外側に向かって延在する先端面の周方向の全体が、前記液体燃料に対して90度より小さい第1接触角を有するように構成されている、
航空エンジン用燃焼器。
【請求項2】
前記出口端を含む前記内周面の出口端部は、前記液体燃料に対して90度より小さい第2接触角を有するように構成されている、
請求項1に記載の航空エンジン用燃焼器。
【請求項3】
前記第1接触角は、前記第2接触角よりも小さい、
請求項2に記載の航空エンジン用燃焼器。
【請求項4】
前記内周面の前記出口端を前記径方向外側から囲むとともに、前記軸線が延在する方向において前記内周面の前記出口端を挟んで前記内部空間側とは反対側に位置する第2出口端を含む第2内周面を有する筒状の第2筒状部材をさらに備え、
前記第2筒状部材は、前記第2内周面の前記第2出口端から前記径方向外側に向かって延在する第2先端面の前記周方向の全体が、前記液体燃料に対して90度より小さい第3接触角を有するように構成されている、
請求項1から3の何れか一項に記載の航空エンジン用燃焼器。
【請求項5】
前記第2出口端を含む前記第2内周面の第2出口端部は、前記液体燃料に対して90度より小さい第4接触角を有するように構成されている、
請求項4に記載の航空エンジン用燃焼器。
【請求項6】
前記第3接触角は、前記第1接触角よりも小さい、
請求項4に記載の航空エンジン用燃焼器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、航空エンジン用燃焼器に関する。
【背景技術】
【0002】
航空エンジン用燃焼器(航空機に搭載される航空エンジンの燃焼器)は、燃焼用空気によって液体燃料を微粒化させるように構成されていることがある。例えば、特許文献1には、燃焼用空気及び液体燃料が流通する流路の先端に配置されるリップ部が、交互に配置されている湿潤性の表面と非湿潤性の表面とを含むことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-274065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術では、燃焼用空気の流速が速い場合には、リップ部に形成されている液膜に対して流体力学的な不安定性を十分に付与し、粒径の小さい液滴を形成することができる。しかしながら、燃焼用空気の流速が遅い場合には、リップ部には液膜よりも分厚い液溜まりが形成されやすいため、この液溜まりに流体力学的な不安定性が十分に付与されると粒径の大きい液滴が形成され、液体燃料の微粒化性能を低減させる虞がある。
【0005】
本開示は、上述の課題に鑑みてなされたものであって、燃焼用空気の流速が遅い場合において液体燃料の微粒化性能を向上させることができる航空エンジン用燃焼器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本開示に係る航空エンジン用燃焼器は、軸線に沿って延在する内部空間を画定する筒状の筒状部材と、少なくとも一部が前記内部空間内に位置するように配置される燃料ノズルであって、前記筒状部材の内周面に向かって液体燃料を噴出する噴出孔を有する燃料ノズルと、を備え、前記筒状部材は、前記内周面の出口端から径方向外側に向かって延在する先端面の周方向の全体が、前記液体燃料に対して90度より小さい第1接触角を有するように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本開示の航空エンジン用燃焼器によれば、燃焼用空気の流速が遅い場合において液体燃料の微粒化性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】一実施形態に係る航空エンジン用燃焼器の構成を概略的に示す図である。
図2】一実施形態に係る筒状部材の先端面を軸線方向の一方側から視た図である。
図3図2の先端面の一部を拡大した図である。
図4図1の出口端部の一部を拡大した図である。
図5】一実施形態に係る航空エンジン用燃焼器の作用・効果を説明するための図である。
図6】幾つかの実施形態に航空エンジン用燃焼器1の構成を概略的に示す図である。
図7図6の第2先端面の一部を拡大した図である。
図8図6第2出口端部の一部を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施の形態による航空エンジン用燃焼器について、図面に基づいて説明する。かかる実施の形態は、本開示の一態様を示すものであり、この開示を限定するものではなく、本開示の技術的思想の範囲内で任意に変更可能である。
【0010】
(構成)
本開示に係る航空エンジン用燃焼器1は、航空機に搭載される航空エンジンに設けられており、航空エンジンが備える圧縮器110から供給される圧縮空気G(燃焼用空気)と液体燃料Fとを混合して燃焼させる。図1は、一実施形態に係る航空エンジン用燃焼器1の構成を概略的に示す図である。図1に例示するように、航空エンジン用燃焼器1は、筒状部材2と、燃料ノズル4と、を含む。
【0011】
筒状部材2は、筒形状を有しており、軸線Oに沿って延在する内部空間3を画定する。一実施形態では、図1に例示するように、筒状部材2は、両端が開口しており、一端には圧縮器110から供給された圧縮空気Gを流入させるための内部空間3の入口6が形成されている。筒状部材2の他端には、液体燃料Fと共に圧縮空気Gを燃焼空間100に流出するための内部空間3の出口8が形成されている。
【0012】
以下、軸線Oが延在する方向を軸線方向D1とし、内部空間3の入口6から出口8に向かう方向を軸線方向D1の一方とし、軸線方向D1の一方とは反対の方向を軸線方向D1の他方とする。
【0013】
図1に例示する形態では、筒状部材2は、軸線方向D1の一方側に向かうにつれて内周面10が軸線Oに近接する縮径部12を含んでいる。この縮径部12は、筒状部材2の軸線方向D1の一方側の一端部に形成されており、内部空間3の出口8を形成している。筒状部材2は、縮径部12の内周面10の出口端12aから軸線Oを中心とする径方向外側に向かって延在する先端面20(リップ)を含む。言い換えると、先端面20は、軸線Oから離れるように出口端12aから延在している。先端面20の具体的な構成については後述する。
【0014】
燃料ノズル4は、軸線方向D1に沿って延びている。燃料ノズル4は、軸線方向D1の一方側の先端部16が内部空間3内に位置するように配置されている。燃料ノズル4は、先端部16に形成され、液体燃料Fを噴出する噴出孔14を有している。噴出孔14は、筒状部材2の縮径部12の内周面10に向かって液体燃料Fを噴出するように構成されている。
【0015】
一実施形態では、図1に例示するように、噴出孔14は、筒状部材2の縮径部12よりも軸線方向D1の他方側に位置している。噴出孔14は、縮径部12の内周面10に向いている。言い換えると、噴出孔14を直交する仮想の直線Lは、縮径部12の内周面10を通過する。尚、燃料ノズル4の先端部16には複数の噴出孔14が形成されていてもよい。
【0016】
一実施形態では、図1に例示するように、航空エンジン用燃焼器1は、燃料ノズル4の先端部16の周りに設けられるスワラ18をさらに含んでいる。スワラ18は、噴出孔14よりも軸線方向D1の他方側に位置している。スワラ18は、内部空間3を流通する圧縮空気Gに対して旋回流を与えて、燃焼空間100に渦を形成し、高温の燃焼ガスを再循環させることで、火炎を安定化させる。
【0017】
図2は、一実施形態に係る筒状部材2の先端面20を軸線方向D1の一方側から視た図である。図3は、図2の先端面20の一部を拡大した図である。
【0018】
一実施形態では、図2に例示するように、筒状部材2の先端面20はリング形状を有しており、内部空間3の出口8は円形状を有している。そして、先端面20の軸線Oを中心とする周方向D2の全体が、第1の親油性領域R1を含んでいる。第1の親油性領域R1は、液体燃料Fに対して90度より小さい第1接触角θ1を有するように構成されている。
【0019】
第1の親油性領域R1は、先端面20と内周面10との境界(内周面10の出口端12a)を含んでいる。軸線Oから内周面10の出口端12aまでの距離をd1とし、軸線Oから第1の親油性領域R1の径方向の最も外側の一端12bまでの距離をd2とすると、d2<1.2×d1を満たす。
【0020】
一実施形態では、図3に例示するように、先端面20には、先端面20の表面自由エネルギーを改変する第1親油膜22がコーティングされている。第1親油膜22の形成は、例えば、ガラスコーティングや光触媒酸化チタンコーティングによって実現される。先端面20は、第1親油膜22がコーティングされることで第1の親油性領域R1を含むようになる。
【0021】
図3に例示するように、第1親油膜22に液体燃料Fが付着している状態において、第1親油膜22と液体燃料Fの表面24とが接触する第1のポイントP1を通過する液体燃料Fの表面24の第1接線をL1とする。第1接触角θ1は、第1接線L1と第1親油膜22とによって形成される角度のうち液体燃料Fが存在する側の角度である。そして、この第1接触角θ1は90度より小さい。幾つかの実施形態では、第1接触角θ1は45度以下である。幾つかの実施形態では、第1接触角θ1は10度以下である。
【0022】
一実施形態では、図1に例示するように、出口端12aを含む内周面10の出口端部11(プレフィルマ)が、第2の親油性領域R2を含んでいる。より具体的には、内周面10の出口端部11の周方向D2の全体が、第2の親油性領域R2を含んでいる。第2の親油性領域R2は、液体燃料Fに対して90度より小さい第2接触角θ2を有するように構成されている。
【0023】
第2の親油性領域R2は、内周面10のうち仮想の直線Lが通過する通過点28を含む。この第2の親油性領域R2は、通過点28から内周面10の出口端12aまで連続的に延びている。
【0024】
図4は、図1の出口端部11の一部を拡大した図である。一実施形態では、図4に例示するように、内周面10の出口端部11には、出口端部11の表面自由エネルギーを改変する第2親油膜26がコーティングされている。第2親油膜26の形成は、例えば、ガラスコーティングや光触媒酸化チタンコーティングによって実現される。出口端部11は、第2親油膜26がコーティングされることで第2の親油性領域R2を含むようになる。
【0025】
図4に例示するように、第2親油膜26に液体燃料Fが付着している状態において、第2親油膜26と液体燃料Fの表面24とが接触する第2のポイントP2を通過する液体燃料Fの表面24の第2接線をL2とする。第2接触角θ2は、第2接線L2と第2親油膜26とによって形成される角度のうち液体燃料Fが存在する側の角度である。そして、この第2接触角θ2は90度より小さい。一実施形態では、第2接触角θ2は第1接触角θ1と等しい。
【0026】
(作用・効果)
一実施形態に係る航空エンジン用燃焼器1の作用・効果について説明する。図5は、一実施形態に係る航空エンジン用燃焼器1の作用・効果を説明するための図である。航空エンジン用燃焼器1の運転時には、燃料ノズル4の噴出孔14から噴出された液体燃料Fの一部が、縮径部12の内周面10に衝突して付着する。そして、この液体燃料Fの一部Fは、圧縮空気Gによって内周面10上を軸線方向D1の一方側に移動し、筒状部材2の先端面20まで運ばれる。そして、先端面20にまで運ばれた液体燃料Fの一部は、Rayleigh-Taylor不安定性やPlateau-Rayleigh不安定性のような流体力学的な不安定性が付与されて、微粒化される(粒径の小さい液滴54が形成される)。
【0027】
航空エンジン用燃焼器1のアイドル運転時のように圧縮空気Gの流速が遅い場合には、先端面20における液体燃料Fの慣性力と表面張力との差が小さくなり(低ウェーバ数となり)、液体燃料Fの液溜まり50が形成される。一実施形態によれば、先端面20の周方向D2の全体が第1接触角θ1を有するように構成されているので、先端面20の周方向D2の全体において、液体燃料Fに対する界面張力が大きくなる。このため、先端面20に液溜まり50が保持されやすくなるので、液溜まり50から軸線方向D1の一方側(燃焼空間100側)に延びる液糸52(リガメント)を長くすることが可能になる。液糸52が長くなると、圧縮空気Gの影響を受けやすくなり、且つ上述した流体力学的な不安定性も付与しやすくなるので、液体燃料Fの微粒化が促進される。よって、圧縮空気Gの流速が遅い場合における液体燃料Fの微粒化性能を向上させることができる。
【0028】
一実施形態によれば、出口端部11が第2接触角θ2を有するように構成されているので、出口端部11に付着する液体燃料Fを薄くし、この薄い液体燃料Fの膜から粒径の小さい液滴54を形成することができる。よって、液体燃料Fの微粒化を促進させることができる。
【0029】
尚、一実施形態では、第1接触角θ1は第2接触角θ2と等しいが、本開示はこの形態に限定されない。第1接触角θ1と第2接触角θ2とは互いに異なっていてもよい。幾つかの実施形態では、第1接触角θ1は、第2接触角θ2よりも小さい。このような構成によれば、液体燃料Fは出口端部11よりも先端面20においてエネルギー的に安定となるため、第1接触角θ1と第2接触角θ2が等しい場合と比較して、出口端部11上に生じる液溜まり50は小さく、先端面20に生じる液糸52(リガメント)は長くなり、液体燃料Fの微粒化をより促進させることができる。
【0030】
尚、一実施形態では、先端面20に第1親油膜22をコーティングすることで、先端面20は第1接触角θ1を有していたが、本開示はこの形態に限定されない。不図示であるが、幾つかの実施形態では、先端面20に凹凸を形成することで、先端面20は第1接触角θ1を有する。先端面20の凹凸の形成は、例えば、ショットブラストやレーザ加工によって実現される。
【0031】
尚、一実施形態では、出口端部11に第2親油膜26をコーティングすることで、出口端部11は第2接触角θ2を有していたが、本開示はこの形態に限定されない。不図示であるが、幾つかの実施形態では、出口端部11に凹凸を形成することで、出口端部11は第2接触角θ2を有する。出口端部11の凹凸の形成は、例えば、ショットブラストやレーザ加工によって実現される。
【0032】
不図示であるが、幾つかの実施形態では、航空エンジン用燃焼器1は、筒状部材2を径方向の外側から囲う筒状の外側筒状部材をさらに含む。外側筒状部材は、筒状部材2との間に圧縮空気Gが二次空気として流通する二次空気流路が形成されている。このような航空エンジン用燃焼器1は、液体燃料Fが筒状部材2内で圧縮空気G(一次空気)と混合して燃焼空間100で燃焼してから、外側筒状部材から流出される圧縮空気G(二次空気)と混合して燃焼するように構成されている。
【0033】
図6は、幾つかの実施形態に係る航空エンジン用燃焼器1の構成を概略的に示す図である。図7は、図6の第2先端面46の一部を拡大した図である。幾つかの実施形態では、図6に例示するように、航空エンジン用燃焼器1は、内周面10の出口端12aを径方向外側から囲む筒状の第2筒状部材40をさらに含む。
【0034】
第2筒状部材40は、軸線方向D1において内周面10の出口端12aを挟んで内部空間3側とは反対側に位置する第2出口端42aを含む第2内周面42を有する。つまり、第2出口端42aは、出口端12aよりも燃焼空間100に近接している。第2筒状部材40は、第2内周面42の第2出口端42aから径方向外側に向かって延在する第2先端面46を含む。第2先端面46の周方向D2の全体が、第3の親油性領域R3を含んでいる。第3の親油性領域R3は、液体燃料Fに対して90度より小さい第3接触角θ3を有するように構成されている。第3の親油性領域R3は、第2先端面46と第2内周面42との境界(第2内周面42の第2出口端42a)を含んでいる。
【0035】
図6に例示する形態では、航空エンジン用燃焼器1は、第2筒状部材40と筒状部材2との間に設けられる外側スワラ60をさらに含んでいる。外側スワラ60は、スワラ18よりも軸線方向D1の一方側に位置している。外側スワラ60は、第2筒状部材40と筒状部材2との間を流通する圧縮空気Gに対して旋回流を与える。このため、上述したスワラ18と同様に、燃焼空間100に渦を形成し、高温の燃焼ガスを再循環させることで、火炎を安定化させる。また、外側スワラ60によって形成される旋回流とスワラ18によって形成される旋回流との間で生じるせん断層により液体燃料Fの微粒化が促進される。よって、粒径の小さい液滴54が形成され、圧縮空気Gと液体燃料Fとの混合が促進される。
【0036】
幾つかの実施形態では、図7に例示するように、第2先端面46には、第2先端面46の表面自由エネルギーを改変する第3親油膜48がコーティングされており、この第3親油膜48のコーティングによって第2先端面46は第3の親油性領域R3を含むようになる。
【0037】
図7に例示するように、第3親油膜48に液体燃料Fが付着している状態において、第3親油膜48と液体燃料Fの表面24とが接触する第3のポイントP3を通過する液体燃料Fの表面24の第3接線をL3とする。第3接触角θ3は、第3接線L3と第3親油膜48とによって形成される角度のうち液体燃料Fが存在する側の角度である。そして、この第3接触角θ3は90度より小さい。幾つかの実施形態では、第3接触角θ3は45度以下である。幾つかの実施形態では、第3接触角θ3は10度以下である。
【0038】
図6及び図7に例示して説明した構成によれば、第2先端面46の周方向D2の全体において、液体燃料Fに対する界面張力が大きくなるため、第2先端面46に液溜まり50が保持されやすくなる。このため、第2先端面46における液糸52(リガメント)を長くし、液体燃料Fの微粒化が促進される。よって、圧縮空気Gの流速が遅い場合における液体燃料Fの微粒化性能を向上させることができる。
【0039】
幾つかの実施形態では、第3接触角θ3は、第1接触角θ1よりも小さい。このような構成によれば、第2先端面46が先端面20よりも液糸を長くすることができる。そして、第2先端面46は先端面20よりも燃焼空間100に近接しているので、液体燃料Fを効果的に微粒化することができる。
【0040】
幾つかの実施形態では、図6に例示するように、第2出口端42aを含む第2内周面42の第2出口端部47が、第4の親油性領域R4を含んでいる。この第2出口端部47は、先端面20よりも軸線方向D1の一方側に位置している。この第2出口端部47の周方向D2の全体が、第4の親油性領域R4を含んでいる。第4の親油性領域R4は、液体燃料Fに対して90度より小さい第4接触角θ4を有するように構成されている。
【0041】
図8は、図6の第2出口端部47の一部を拡大した図である。幾つかの実施形態では、図8に例示するように、第2内周面42の第2出口端部47には、第2出口端部47の表面自由エネルギーを改変する第4親油膜49がコーティングされている。第4親油膜49の形成は、例えば、ガラスコーティングや光触媒酸化チタンコーティングによって実現される。第2出口端部47は、第4親油膜49がコーティングされることで第4の親油性領域R4を含むようになる。
【0042】
図8に例示するように、第4親油膜49に液体燃料Fが付着している状態において、第4親油膜49と液体燃料Fの表面24とが接触する第4のポイントP4を通過する液体燃料Fの表面24の第4接線をL4とする。第4接触角θ4は、第4接線L4と第4親油膜49とによって形成される角度のうち液体燃料Fが存在する側の角度である。そして、この第4接触角θ4は90度より小さい。図8に例示する形態では、第4接触角θ4は第3接触角θ3と等しい。
【0043】
図6及び図8に例示して説明した構成によれば、第2出口端部47が第4接触角θ4を有するように構成されているので、第2出口端部47に付着する液体燃料Fを薄くし、この薄い液体燃料Fの膜から粒径の小さい液滴54を形成することができる。よって、液体燃料Fの微粒化を促進させることができる。
【0044】
尚、図8に例示する形態では、第3接触角θ3は第4接触角θ4と等しいが、本開示はこの形態に限定されない。第3接触角θ3と第4接触角θ4とは互いに異なっていてもよい。幾つかの実施形態では、第3接触角θ3は、第4接触角θ4よりも小さい。このような構成によれば、液体燃料Fは第2出口端部47よりも第2先端面46においてエネルギー的に安定となるため、第3接触角θ3と第4接触角θ4が等しい場合と比較して、第2出口端部47上に生じる液溜まり50は小さく、第2先端面46に生じる液糸52(リガメント)は長くなり、液体燃料Fの微粒化をより促進させることができる。
【0045】
不図示であるが、幾つかの実施形態では、第2内周面42には液体燃料Fが排出される燃料ポートが形成されている。燃料ポートは、軸線方向D1において、先端面20と外側スワラ60との間に位置している。燃料ポートから排出された液体燃料の一部は、圧縮空気Gによって第2内周面42上を軸線方向D1の一方側に移動し、第2先端面46まで運ばれる。
【0046】
上記各実施形態に記載の内容は、例えば以下のように把握される。
【0047】
[1]本開示に係る航空エンジン用燃焼器(1)は、
軸線(O)に沿って延在する内部空間(3)を画定する筒状の筒状部材(2)と、
少なくとも一部(16)が前記内部空間内に位置するように配置される燃料ノズルであって、前記筒状部材の内周面(10)に向かって液体燃料(F)を噴出する噴出孔(14)を有する燃料ノズル(4)と、を備え、
前記筒状部材は、前記内周面の出口端(12a)から径方向外側に向かって延在する先端面(20)の周方向(D2)の全体が、前記液体燃料に対して90度より小さい第1接触角(θ1)を有するように構成されている。
【0048】
燃焼用空気の流速が遅い場合には、先端面における液体燃料の慣性力と表面張力との差が小さくなり、液体燃料の液溜まりが形成される。上記[1]に記載の構成によれば、筒状部材の先端面の周方向の全体において、液体燃料に対する界面張力が大きくなる。このため、筒状部材の先端面に形成される液体燃料の液溜まりが保持されやすくなるので、液溜まりから延びる液糸(リガメント)を長くすることが可能になる。液糸が長くなると、燃焼用空気等の影響を受けやすくなるので、液体燃料の微粒化が促進される。よって、燃焼用空気の流速が遅い場合における液体燃料の微粒化性能を向上させることができる。
【0049】
[2]幾つかの実施形態では、上記[1]に記載の構成において、
前記出口端を含む前記内周面の出口端部(11)は、前記液体燃料に対して90度より小さい第2接触角(θ2)を有するように構成されている。
【0050】
上記[2]に記載の構成によれば、出口端部に付着する液体燃料を薄くし、この薄い液体燃料の膜から粒径の小さい液滴を形成することができる。よって、液体燃料の微粒化を促進させることができる。
【0051】
[3]幾つかの実施形態では、上記[2]に記載の構成において、
前記第1接触角は、前記第2接触角よりも小さい。
【0052】
上記[3]に記載の構成によれば、液体燃料は出口端部よりも先端面においてエネルギー的に安定となるため、先端面に生じる液糸を長くすることで液体燃料の微粒化をより促進させることができる。
【0053】
[4]幾つかの実施形態では、上記[1]から[3]の何れか1つに記載の構成において、
前記内周面の前記出口端を前記径方向外側から囲むとともに、前記軸線が延在する方向(D1)において前記内周面の前記出口端を挟んで前記内部空間側とは反対側に位置する第2出口端(42a)を含む第2内周面(42)を有する筒状の第2筒状部材(40)をさらに備え、
前記第2筒状部材は、前記第2内周面の前記第2出口端から前記径方向外側に向かって延在する第2先端面(46)の前記周方向(D2)の全体が、前記液体燃料に対して90度より小さい第3接触角(θ3)を有するように構成されている。
【0054】
上記[4]に記載の構成によれば、第2先端面の周方向の全体においても、液体燃料に対する界面張力を大きくし、第2先端面の液溜まりから延びる液糸を長くすることができる。このため、液糸が燃焼用空気等の影響を受けやすくなるので、液体燃料の微粒化を促進させることができる。
【0055】
[5]幾つかの実施形態では、上記[4]に記載の構成において、
前記第2出口端を含む前記第2内周面の第2出口端部(47)は、前記液体燃料に対して90度より小さい第4接触角(θ4)を有するように構成されている。
【0056】
上記[5]に記載の構成によれば、第2出口端部に付着する液体燃料を薄くし、この薄い液体燃料の膜から粒径の小さい液滴を形成することができる。よって、液体燃料の微粒化を促進させることができる。
【0057】
[6]幾つかの実施形態では、上記[4]又は[5]に記載の構成において、
前記第3接触角は、前記第1接触角よりも小さい。
【0058】
上記[6]に記載の構成によれば、第2先端面が先端面よりも液糸を長くすることができる。そして、第2先端面は先端面よりも液体燃料を燃焼させる燃焼空間に近接するので、液体燃料を効果的に微粒化することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 航空エンジン用燃焼器
2 筒状部材
3 内部空間
4 燃料ノズル
10 内周面
11 出口端部
12a 出口端
14 噴出孔
16 先端部
20 先端面
40 第2筒状部材
42 第2内周面
42a 第2出口端
46 第2先端面
47 第2出口端部
52 液糸
54 液滴
D1 軸線方向
D2 周方向
F 液体燃料
G 圧縮空気
O 軸線
R1 第1の親油性領域
R2 第2の親油性領域
R3 第3の親油性領域
R4 第4の親油性領域

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8