(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043180
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】輪切り板材の加工方法
(51)【国際特許分類】
B27M 1/00 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
B27M1/00 A
B27M1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148219
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】514186098
【氏名又は名称】今西 知宏
(74)【代理人】
【識別番号】100186358
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 信人
(72)【発明者】
【氏名】今西 知宏
【テーマコード(参考)】
2B250
【Fターム(参考)】
2B250AA17
2B250BA05
2B250CA11
2B250DA01
2B250EA13
2B250FA03
2B250FA13
2B250FA46
2B250HA01
(57)【要約】
【課題】 輪切り板材の木口面に水分が触れても、割れや湾曲を発生させることなく利用できる輪切り板材の加工方法を提供すること。
【解決手段】 輪切り板材1の加工方法であって、輪切り板材1を乾燥して割れ5を発生させる乾燥工程Paと、前記乾燥工程Paの後に、発生した割れ5を所望の形状に切除し、前記切除した切除部7に、前記切除部7の形状と合致する埋め込み材10を接着する補填工程Pbと、前記補填工程Pbの後に、輪切り板材1の木口面2および外周面3に浸透性塗料を塗布する塗布工程Pdと、を備えることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
輪切り板材の加工方法であって、
輪切り板材を乾燥して割れを発生させる乾燥工程と、
前記乾燥工程の後に、発生した割れを所望の形状に切除し、前記切除した切除部に、前記切除部の形状と合致する埋め込み材を接着する補填工程と、
前記補填工程の後に、輪切り板材の木口面および外周面に浸透性塗料を塗布する塗布工程と、を備える輪切り板材の加工方法。
【請求項2】
前記乾燥工程は、乾燥初期に、輪切り板材の外周面から中心に向けて切り込みを入れる切り込み工程を含む、請求項1に記載の輪切り板材の加工方法。
【請求項3】
前記補填工程は、前記埋め込み材を接着した輪切り板材の中心近傍に円形穴を開口し、前記開口した円形穴に、前記円形穴と合致する円形埋め込み材を接着する二次補填工程を含む、請求項1または2に記載の輪切り板材の加工方法。
【請求項4】
前記補填工程の後に、輪切り板材の木口面を研削する研削工程を含む、請求項1または2に記載の輪切り板材の加工方法。
【請求項5】
前記補填工程の後に、輪切り板材の木口面を研削する研削工程を含む、請求項3に記載の輪切り板材の加工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、丸太材から輪切りにされ、上下に木口面を有する輪切り板材の加工方法に関し、とくに、乾燥や含水による割れを防止するための輪切り板材の加工方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
原木は、切り出した直後では、芯側と樹皮側との含水率が相違する。ヒノキや杉などの針葉樹では、樹皮側の辺材が芯側の心材より含水率が高い。
とくに、原木丸太材を輪切りにした輪切り板材1は、そのまま放置したり乾燥したりすると、辺材の方が心材よりも大きく収縮するため、従来の輪切り板材1は、
図7(b)に示すように、外周面3(樹皮側)から割れ5が発生したり、
図7(c)に示すように、平板状態から湾曲してしまう。輪切り板材1は、
図7(a)に示すように、木口面2に美しい年輪模様が現出し、厨房用途の木材として大きな可能性を秘めているが、このような割れ5が発生することから、利用が限られていた。
【0003】
このような割れを防止するために、これまでは、原木を長期にわたって自然乾燥したり、高価な乾燥設備を用いて人工的に乾燥するなどしてきた。しかし、このような従来の方法では生産性が悪く、コストの高いものになる。
しかも、輪切り板材では、切断した木口面が広く、木口面から急速に乾燥が進むため、このように乾燥が一定程度進んだ丸太材を使用しても、割れを十分に防ぐことができなかった。
【0004】
そこで、本発明者は、乾燥による割れを防止する加工技術として、格別の乾燥工程を経ていない丸太材を軸心に対して垂直または角度をなして切断する切断工程と、切断された板材を保湿する保湿工程と、保湿された板材を心材と辺材との境界付近に沿って切断分離する分離工程と、その後、板材を乾燥させる乾燥工程とを備える輪切り板材の製造方法(特許文献1参照)を開発して、好評を得ている。
【0005】
また、乾燥による割れを防止するための従来技術として、木口加工品本体の乾燥前の状態時に、木口加工品本体の外周部から略中心部に至るまで、木口加工品本体の厚さ方向の全長に対して切除部を設け、乾燥収縮した後、この切除部に切除部と同形に形成された挿嵌部材を嵌め込んで、切除部を設ける前の木口加工品本体の形状に形成させた丸太材の木口加工品における割れ防止方法(特許文献2参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6467665号公報
【特許文献2】特開2004-268292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1に記載の輪切り板材の製造方法では、輪切り板材を心材と辺材との境界付近に沿って切断分離するため、輪切り板材は、心材または辺材に分離する必要があり、輪切り板材全体を一枚の板材として利用できないという問題があった。
また、上記特許文献2に記載の木口加工品の割れ防止方法では、木口加工品本体を一体の木口加工品として利用できるものの、木口面に水分が触れると、切除部が閉じる方向に変形しようとするが、切除部を嵌装部材で埋めているため、切除部が閉じる方向に変形できず、木口面の中心に割れが発生するという問題があった。
【0008】
本発明は、上記問題を解決することを課題とし、輪切り板材の木口面に水分が触れても、割れや湾曲を発生させることなく利用できる輪切り板材の加工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するため、輪切り板材の加工方法であって、輪切り板材を乾燥して割れを発生させる乾燥工程と、前記乾燥工程の後に、発生した割れを所望の形状に切除し、前記切除した切除部に、前記切除部の形状と合致する埋め込み材を接着する補填工程と、前記補填工程の後に、輪切り板材の木口面および外周面に浸透性塗料を塗布する塗布工程と、を備える構成を採用する。
【0010】
本発明の輪切り板材の加工方法の実施形態として、前記乾燥工程は、乾燥初期に、輪切り板材の外周面から中心に向けて切り込みを入れる切り込み工程を含む構成、また、前記補填工程は、前記埋め込み材を接着した輪切り板材の中心近傍に円形穴を開口し、前記開口した円形穴に、前記円形穴と合致する円形埋め込み材を接着する二次補填工程を含む構成、また、前記補填工程の後に、輪切り板材の木口面を研削する研削工程を含む構成を採用する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の輪切り板材の加工方法は、上記構成を採用することにより、輪切り板材の木口面に水分が触れても、木口面から板材内部への水分の浸透が抑制されるため、輪切り板材の割れや湾曲を防止することができる。
また、本発明の輪切り板材の加工方法は、輪切り板材の木口面に塗膜を形成しないため、刃当たりを良好にでき、包丁やナイフを使用するまな板やカッティングボードとして利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施例1に係る輪切り板材の加工方法について、前半の加工フローを示す模式図である。
【
図2】本発明の実施例1に係る輪切り板材の加工方法について、後半の加工フローを示す模式図である。
【
図3】本発明の実施例1に係る輪切り板材の加工方法における、各種断面形状を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施例1に係る輪切り板材の加工方法における、試料の輪切り板材を示す模式図で、(a)は割れの周方向幅δを示す平面図、(b)は厚さtを示す側面図、(c)は湾曲量εを示す側面図、(d)は全面浸漬を説明する側面図、(e)は片面浸漬を説明する側面図である。
【
図5】本発明の実施例1に係る輪切り板材の加工方法における、輪切り板材の割れの変化を示す模式図で、(a)は埋め込み材で補填しない輪切り板材の平面図、(b)は埋め込み材で補填した輪切り板材の平面図である。
【
図6】本発明の実施例2に係る輪切り板材の加工方法について、途中の加工フローを示す模式図である。
【
図7】従来の輪切り板材を示す図で、(a)は乾燥前の平面図、(b)は乾燥が進んだ後の割れた輪切り板材の平面図、(c)は湾曲した輪切り板材の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明の輪切り板材の加工方法について、実施例を示した図面を参照して説明する。
【実施例0014】
図1および
図2において、1は図示しない原木の丸太材から所望の厚さに切り出した輪切り板材である。本発明で、輪切り板材1とは、
図4に示す直径d(単位:mm)に対する厚さt(単位:mm)が20%以下のものを意味する。
輪切り板材1は、丸太材を切断した切り口である木口面2を上下に有し、木口面2は、丸太材の軸方向に垂直な方向に限らず、軸方向に角度を持った面も含む。
なお、図面では、輪切り板材1の外周面3は、円形状に記載しているが、
図3の(a)~(d)に示すように、円形状ばかりでなく外周面3の一部または全部を円形状または直線状に切り取った断面形状を呈するものであってもよく、また、
図7(a)に示すように、原木のままの自然樹形断面形状を呈するものであってもよい。
【0015】
本実施例の加工方法について、
図1および
図2に示す模式図によって加工フローを説明する。
最初の乾燥工程Paでは、形状(A)の輪切り板材1をそのまま乾燥し、形状(C)で示すように、割れ5を発生させてもよいし、また、乾燥工程Paの前または初期に、形状(B)で示すように、輪切り板材1に外周面3から年輪の中心O(以下、「中心」という)に向けて、帯鋸等で直線状の切り込み4を入れる切り込み工程Pa1を実施後に、乾燥工程Pa2で乾燥してもよい。
【0016】
前述したように、形状(A)の輪切り板材1は、そのままの状態で放置または乾燥すると、予期しない割れ5が発生することがあり、この割れ5は、1個所とは限らず、
図7(b)に示すように、複数個所に発生することもある。
そこで、本実施例では、乾燥による割れ5の発生を予め設定した1個所に止めるために、乾燥工程Paの初期に、輪切り板材1に対して切り込み工程Pa1を実施することが推奨される。
【0017】
乾燥工程Paで発生した輪切り板材1の割れ5は、輪切り板材1が水分に触れると、水分を吸収して膨張し、割れ5が閉じる方向に変形する。
そこで、割れ5を開いた状態に維持するために、輪切り板材1を乾燥する相対湿度(以下、「湿度」という)は、輪切り板材1から製作される製品を使用する環境で、最も湿度が低くなる条件に基いて設定され、通常は、30%~40%が好ましく、35%程度がより好ましい。
【0018】
次いで、補填工程Pbでは、輪切り板材1は、発生した割れ5を切除した切除部7に、切除部7の形状と合致する埋め込み材10を接着することにより、補填される。
本実施例では、補填工程Pbは、以下で説明するように、切除工程Pb1と一次補填工程Pb2とで構成されている。
最初に、切除工程Pb1では、形状(C)で示す輪切り板材1に発生した割れ5は、例えば、形状(D)で示すように、外周面3から中心Oに向けて一対の切除面6が形成されたV字形など、所望の形状となるように、割れ5に沿った余分な部分を切除し、切除部7が形成される。
なお、切除部7の形状は、形状(D)で示す以外であっても構わない。
【0019】
次に、切除工程Pb1の後、一次補填工程Pb2では、形状(E)で示すように、切除部7の形状と合致するように形成された埋め込み材10は、輪切り板材1の切除部7を埋めるように接着剤で接着される。この際、埋め込み材10は、一対の切除面6と対向する一対の側面11と、側面11の周側をつなぐ底面12とを有し、全体形状が切除部7の径方向寸法および厚さより若干大きく形成されたくさび形をなしている。
【0020】
一次補填工程Pb2では、形状(E)で示す輪切り板材1の切除部7と埋め込み材10との接着強度は、切除部7が開く方向に作用する引張応力に弱く、反対に、切除部7が閉じる方向に作用する圧縮応力に強い。このため、切除部7と埋め込み材10との接着部に働く引張応力を減らすように、切除部7が最も開いた状態(湿度40%以下の乾燥状態)で、その形状に合致した埋め込み材10を接着する必要がある。
【0021】
次いで、補填工程Pb(一次補填工程Pb2)の後、研削工程Pcでは、形状(E)で示す輪切り板材1の埋め込み材10は、埋め込み材10の底面12が輪切り板材1の外周面3と連続するように研削され、埋め込み材10の露出面13が輪切り板材1の木口面2と面一になるように研削されることにより、形状(F)で示すように、埋め込み材10は、輪切り板材1の全面と連続するように研削される。
【0022】
また、埋め込み材10は、一対の側面11を切除部7の径方向寸法よりも十分に長く形成し、埋め込み材10の底面12側を突起部として残し、前記突起部を自由形状に加工することも可能である。
【0023】
次いで、研削工程Pcの後、塗布工程Pdでは、形状(F)で示す輪切り板材1は、木口面2と、外周面3と、埋め込み材10の底面12および露出面13とに浸透性塗料を塗布することにより、形状(G)で示すように、輪切り板材1の全面に塗布面20が形成される。この浸透性塗料は、塗布によって主に、木口面2から輪切り板材1の内部に浸透するが、塗布量が適切であれば、木口面2に塗膜を形成しない。
このように、まな板やカッティングボードとして使用する場合には、包丁やナイフの刃当たりを良好にするために、浸透性塗料の塗布量を抑え、木口面2に塗膜を形成しないように留意する。
【0024】
塗布する浸透性塗料としては、例えば、無機セラミック系木工塗料である「エコアルファコート」(アルファペイント株式会社)、別の無機セラミック系木工塗料である「tatara撥水セラミックHD」および「tatara輪染み・アク止め」(tatara-hanbai 合同会社)、ガラス系木工塗料である「クリスタルインテリア」(玄々化学工業株式会社)、ポリウレタン系木工塗料である「木固めエースNEO」(寿化工株式会社)などが使用できる。
なお、ここで例示した浸透性塗料は、食品衛生法に基く溶出試験の安全基準に適合している。
【0025】
次いで、浸透性塗料による塗布工程Pdだけでは、輪切り板材1に色染みが生じることがあり、この色染みを防止したい場合は、塗膜を形成する塗料を上塗りする上塗り工程Peを追加することにより、輪切り板材1の耐水性を強化する。
上塗り工程Peでは、形状(G)で示す輪切り板材1の全面に塗料を上塗りすることにより、形状(H)で示すように、輪切り板材1は、全面に塗膜面21が形成される。
【0026】
次に、本実施例の使用態様と作用効果について説明する。
本実施例の実験では、
図4に示すように、輪切り板材1として、直径dが260~270mm、厚さtが12~14mmのヒノキ材を用意し、試料とした。
ここで、切除部7の周方向幅をδ、輪切り板材1の全周をL(=πd)、木口面2の両表面積をS((πd*d/4)*2)、輪切り板材1の重量をW、湾曲量をεとする。
【0027】
輪切り板材1に対する浸透性塗料の塗布による効果を確認するため、最初に、湿度変化による影響について調べてみた。
(1)
図5(a)に示す埋め込み材10を補填しない輪切り板材1の切除部7の周方向幅δおよび輪切り板材1の重量Wの変化について、湿度35%(乾燥状態)から70%に加湿した場合を調べてみた。
【0028】
(1-1)輪切り板材1に浸透性塗料を塗布しない場合
切除部7の周方向幅δは、全周Lに対して約0.6%縮小し、重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.1%増加した。
(1-2)輪切り板材1の全面に所定量の浸透性塗料を1回塗布した場合
切除部7の周方向幅δは、全周Lに対して約0.37%縮小し、重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.08%増加した。
以上のことから、
図5(a)に示す輪切り板材1は、湿度が高くなると、切除部7の周方向幅δが矢印方向に狭まり、重量Wが増加するが、浸透性塗料を塗布すると、切除部7の周方向幅δおよび重量Wの変化量は、減少することがわかる。
【0029】
(2)
図5(b)に示すように、輪切り板材1に埋め込み材10を補填すると、湿度が増加しても、切除部7の周方向幅δを縮小できないため、輪切り板材1は、湾曲するので、重量Wおよび湾曲量εの変化について、湿度35%(乾燥状態)から70%に加湿した場合を調べてみた。
【0030】
(2-1)輪切り板材1に浸透性塗料を塗布しない場合
重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.1%増加し、湾曲量εは、0.5mm未満で、ほとんど湾曲しなかった。
(2-2)の輪切り板材1の全面に所定量の浸透性塗料を1回塗布した場合
重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.08%増加するが、湾曲量εは、無視できた。
以上のことから、埋め込み材10を補填した輪切り板材1は、湿度が高くなると、重量Wがわずかに増加するが、浸透性塗料を塗布しなくても、湿度変化に対して湾曲量εは、無視できることがわかる。
【0031】
さらに、輪切り板材1に対する浸透性塗料の塗布による効果を確認するため、水に浸漬したときの影響について調べてみた。
(3)埋め込み材10を補填しない輪切り板材1の切除部7の周方向幅δおよび輪切り板材1の重量Wの変化について、乾燥状態から水に30分間全面浸漬(
図4(d)参照)した場合を調べてみた。
【0032】
(3-1)輪切り板材1に浸透性塗料を塗布しない場合
切除部7の周方向幅δは、全周Lに対して約2.1%縮小し、重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約5%増加した。
(3-2)輪切り板材1の全面に所定量の浸透性塗料を1回塗布した場合
切除部7の周方向幅δは、全周Lに対して約0.37%縮小し、重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.15%増加した。
(3-3)輪切り板材1の全面に所定量の浸透性塗料を2回塗布した場合
切除部7の周方向幅δは、全周Lに対して約0.20%縮小し、重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.05%増加した。
以上のことから、埋め込み材10を補填しない輪切り板材1は、水に30分間全面浸漬すると、切除部7の周方向幅δが狭まり、重量Wが増加するが、浸透性塗料を塗布すると、切除部7の周方向幅δおよび重量Wの変化量は、浸透性塗料の塗布回数(塗布量)に応じて減少することがわかる。
【0033】
(4)輪切り板材1に埋め込み材10を補填すると、水に浸漬しても、切除部7の周方向幅δを縮小できないため、輪切り板材1は、湾曲するので、重量Wおよび湾曲量εの変化について、
図4(d)および(e)に示すように、水に30分間全面浸漬した場合と、水に30分間片面浸漬した場合とを調べてみた。
【0034】
(4-1)輪切り板材1に浸透性塗料を塗布しない場合
水に30分間全面浸漬すると、重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.5%増加し、湾曲量εは、15mmを超えてしまった。
(4-2)輪切り板材1の全面に所定量の浸透性塗料を1回塗布した場合
水に30分間全面浸漬すると、重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.08%増加するが、湾曲量εは、1.5mm以下にすることができた。
(4-3)輪切り板材1の全面に所定量の浸透性塗料を2回塗布した場合
水に30分間全面浸漬すると、重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.03%増加するが、湾曲量εは、0.5mm以下にすることができた。
【0035】
(4-4)輪切り板材1の全面に所定量の浸透性塗料を1回塗布した場合
水に30分間片面浸漬すると、重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.04%しか増加しないが、湾曲量εは、5mmを超えてしまった。
(4-5)輪切り板材1の全面に所定量の浸透性塗料を2回塗布した場合
水に30分間片面浸漬すると、重量Wは、木口面2の両表面積Sに対して約0.02%しか増加せず、湾曲量εは、1.5mm以下にすることができた。
以上のことから、埋め込み材10を補填した輪切り板材1は、水に30分間全面浸漬すると、重量Wが増加し、湾曲量εも増加するが、浸透性塗料を塗布すると、水に30分間全面浸漬しても、重量Wおよび湾曲量εの変化量は、浸透性塗料の塗布回数に応じて減少する。水に30分間片面浸漬すると、重量Wの変化量は、全面浸漬より少ないが、湾曲量εは、全面浸漬より大きくなる。この湾曲量εの変化量は、塗布回数に応じて減少することがわかる。
【0036】
本実施例の輪切り板材1は、まな板やカッティングボードとして使用する場合、刃当たりを良好にするために、浸透性塗料の塗布量を可能な限り少なくすることが好ましいが、塗布回数を少なくすると、輪切り板材1の湾曲量εが増加するので、湾曲量εが1.5mm以下になるように、塗布回数を調整することが望ましい。
この1.5mmの湾曲量εは、一つの目標値であり、使用者により変更してもよい。運用上、輪切り板材1は、変形を抑える目的で、全面を水に濡らしてから使うことを推奨するため、実際には、30分片面浸漬の湾曲量まで変形することはないので、この目標値は、余裕をもった設定となっている。
【0037】
以上のように、本実施例の輪切り板材1の加工方法は、輪切り板材1の木口面2に水分が触れても、木口面2から板材内部への水分の浸透を抑制することにより、輪切り板材1の割れや湾曲を防止できるとともに、輪切り板材1の木口面2に塗膜を形成しないため、包丁やナイフの刃当たりを良好にできる。
第1実施例の補填工程Pbでは、切除部7の形状と合致するように、埋め込み材10を形成することが困難で、とくに、輪切り板材1の中心O付近で、切除部7の切除面6と埋め込み材10の側面11との間に隙間ができ易いという問題があった。
そこで、本実施例では、補填工程Pbとして、一次補填工程Pb2の後に、円形穴開口工程Pb3と円形穴補填工程Pb4とからなる二次補填工程を追加して、問題を解決している。
次に、円形穴開口工程Pb3の後、円形穴補填工程Pb4では、形状(J)で示すように、円形穴15の内径と合致するように形成された円形埋め込み材16は、輪切り板材1の円形穴15を埋めるように接着剤で接着される。
次いで、補填工程Pb(円形穴補填工程Pb4)の後、研削工程Pcでは、形状(J)で示す輪切り板材1の埋め込み材10および円形埋め込み材16は、埋め込み材10の底面12が輪切り板材1の外周面3と連続するように研削され、埋め込み材10の露出面13および円形埋め込み材16の露出面17が輪切り板材1の木口面2と面一になるように研削されることにより、形状(K)で示すように、埋め込み材10および円形埋め込み材16は、輪切り板材1の全面と連続するように研削される。
次いで、第1実施例と同様に、研削工程Pcの後、塗布工程Pdでは、形状(K)で示す輪切り板材1は、木口面2と、外周面3と、埋め込み材10の底面12および露出面13、円形埋め込み材16の露出面17とに浸透性塗料が塗布される。
以上のように、本実施例では、補填工程Pbとして、埋め込み材10を接着した輪切り板材1の中心O近傍に円形穴15を開口する円形穴開口工程Pb3と、開口した円形穴15に、円形穴15と合致する円形埋め込み材16を接着する円形穴補填工程Pb4とからなる二次補填工程を追加することにより、輪切り板材1の補填工程Pbにおける加工精度を簡単に向上させることができるとともに、輪切り板材1の中心O付近の応力集中による割れの発生を緩和することができる。