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特開2024-432263Dプリンター用の造形材、3Dプリント造形品及びこれらの製造方法
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  • 特開-3Dプリンター用の造形材、3Dプリント造形品及びこれらの製造方法 図1
  • 特開-3Dプリンター用の造形材、3Dプリント造形品及びこれらの製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043226
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】3Dプリンター用の造形材、3Dプリント造形品及びこれらの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/118 20170101AFI20240322BHJP
   B33Y 70/00 20200101ALI20240322BHJP
   B33Y 80/00 20150101ALI20240322BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240322BHJP
   B29C 64/314 20170101ALI20240322BHJP
【FI】
B29C64/118
B33Y70/00
B33Y80/00
B33Y10/00
B29C64/314
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148291
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】521327471
【氏名又は名称】株式会社 ネクアス
(74)【代理人】
【識別番号】110001380
【氏名又は名称】弁理士法人東京国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】角谷 雅和
(72)【発明者】
【氏名】船谷 和宏
(72)【発明者】
【氏名】山本 登
(72)【発明者】
【氏名】角谷 知洋
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】北出 元博
【テーマコード(参考)】
4F213
【Fターム(参考)】
4F213AA01
4F213AB07
4F213AC01
4F213AC02
4F213AR06
4F213AR12
4F213WA25
4F213WB01
4F213WL02
4F213WL23
4F213WL25
(57)【要約】
【課題】生分解性を有し、低臭気で、透明性・表面処理(平滑化処理、塗装性)性及び造形性に優れた造形品を製造するための、3Dプリンター用の造形材及びその関連技術を提供する。
【解決手段】3Dプリンター用の造形材において、酢酸セルロースが70~80質量%であり、可塑剤が20~30質量%の範囲で配合されている。この3Dプリンター用の造形材の製造方法は、酢酸セルロースの粒状体を撹拌しながら前記可塑剤を連続的に噴霧するか断続的に投入するかして混合体にする工程と、前記混合体を常温で8時間以上静置する工程と、前記混合体を粘性流動する温度に設定し混練する工程と、を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酢酸セルロースが70~80質量%であり、
可塑剤が20~30質量%の範囲で配合されている3Dプリンター用の造形材。
【請求項2】
請求項1に記載の3Dプリンター用の造形材において、
前記酢酸セルロースは、酢化度が50~59%の二酢酸セルロースである3Dプリンター用の造形材。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の3Dプリンター用の造形材において、
前記可塑剤は、グリセリンエステル化合物、ポリエーテルエステル系化合物、アジピン酸エステル化合物から選択される少なくとも一つである3Dプリンター用の造形材。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の3Dプリンター用の造形材において、
ペレット又はフィラメントの形状を有する3Dプリンター用の造形材。
【請求項5】
請求項1又は請求項2に記載の3Dプリンター用の造形材の製造方法であって、
酢酸セルロースの粒状体を撹拌しながら前記可塑剤を連続的に噴霧するか断続的に投入するかして混合体にする工程と、
前記混合体を常温で8時間以上静置する工程と、
前記混合体を粘性流動する温度に設定し混練する工程と、を含む3Dプリンター用の造形材の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は請求項2に記載の3Dプリンター用の造形材で成形された3Dプリント造形品。
【請求項7】
請求項1又は請求項2に記載の3Dプリンター用の造形材を230℃以下に加熱し溶融体にするステップと、
口径が1~6mmの範囲にあるノズルから前記溶融体を吐出させて積層するステップと、を含む3Dプリント造形品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱溶融積層方式の3Dプリンター用の造形材及びこの造形材に関連する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、樹脂などの造形材を、所望の三次元立体形状に造形することができる3Dプリンターが普及しつつある。3Dプリンターは、ラピッドプロトタイピング(3次元造形機)の1種で、PCなどのコンピュータ上で作成した3Dデータに基づき、造形材を吐出し積層させて3Dプリント造形品を造形する。
【0003】
このような3Dプリンターとしては、例えば、熱可塑性樹脂を高温で溶融して積層させていく熱溶融積層方式や、液体状の光硬化性樹脂を印画し紫外線を照射し硬化させて積層していくインクジェット方式等が知られている。
【0004】
上述した熱溶融積層方式で用いられる造形材としては、ABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)、PLA(ポリ乳酸樹脂)等が一般に使用される。また造形材は、このような材質以外に、環状ポリオレフィンを含む樹脂組成物であったり(例えば、特許文献1)、アクリルポリマー組成物であったりする(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016-60147号公報
【特許文献2】特表2022-527497号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したABS樹脂を造形材として製造された造形品は、造形中の熱変形が大きく、臭気が強い等の課題がある。このため、ABS樹脂製の造形品は、そり変形を抑制するために、造形テーブルを加温するなど、そり変形を抑制するための対策が別途必要となる。またPLA樹脂を造形材として製造された造形品は、そり変形が少ない点で優れるが、耐熱性が低いことや塗装性にやや難があるなどの課題がある。
【0007】
さらに、ABS樹脂及びPLA樹脂は、透明性が低いため、透明性が求められる造形品には適用できない課題があった。またABS樹脂及びPLA樹脂は、生分解性を有していないため、環境に放出された場合の負荷が大きい課題があった。
【0008】
透明性が求められる造形品には、上述した環状ポリオレフィンを含む樹脂組成物やアクリルポリマー組成物を造形材として適用することが考えられる。しかし、いずれも生分解性を有していないため、環境に放出された場合の負荷が大きい課題があった。
【0009】
本発明はこのような事情を考慮してなされたもので、生分解性を有し、低臭気で、透明性・表面処理(平滑化処理、塗装性)性及び造形性に優れた造形品を製造するための、3Dプリンター用の造形材及びその関連技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る3Dプリンター用の造形材は、酢酸セルロースが70~80質量%であり、可塑剤が20~30質量%の範囲で配合されることを特徴とする。また、この3Dプリンター用の造形材の製造方法は、酢酸セルロースの粒状体を撹拌しながら前記可塑剤を連続的に噴霧するか断続的に投入するかして混合体にする工程と、前記混合体を常温で8時間以上静置する工程と、前記混合体を粘性流動する温度に設定し混練する工程と、を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、生分解性を有し、低臭気で、透明性・表面処理(平滑化処理、塗装性)性及び造形性に優れた造形品を製造するための、3Dプリンター用の造形材及びその関連技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】機械強度特性を指標として実施形態に係る3Dプリンター用の造形材の効果を確認した比較例1と実施例1-6とを示す表。
図2】官能特性を指標として実施形態に係る3Dプリント造形品の効果を確認した比較例2,3と実施例7,8とを示す表。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る3Dプリンター用の造形材(以下、単に「造形材」という)を説明する。主成分である酢酸セルロースが造形材の全体に占める割合は70~80質量%であり、可塑剤が20~30質量%の範囲で配合されることとし、残部はその他の添加剤が配合されることとした。酢酸セルロースの割合が70質量%未満であると透明性が低下してしまう。さらに、可塑剤の割合が20質量%未満であると、溶融時並びに凝固時の機械的特性が不適切なものとなり、3Dプリント造形品の造形性が低下してしまう。
【0014】
酢酸セルロース樹脂の基本的な機械強度特性は、引張強度;10MPa以上、曲げ弾性率;2.0GPa以上、熱変形温度;50℃以上が推奨される。酢酸セルロース樹脂そのものは結晶性樹脂であるが、可塑剤とコンパウンドすることにより、非晶性樹脂となり透明性がえられる。酢酸セルロース樹脂のガラス転移温度は、70~80℃である。
【0015】
酢酸セルロース樹脂の代表的熱特性は、熱伝導率;4.0~8.0×10-4cal/cmsK、比熱;0.3~0.42cal/gK、熱膨張係数;8~18×10-5-1である。酢酸セルロース樹脂は、熱溶融積層方式の造形材として一般的に用いられるPLA樹脂とほぼ同様の機械強度特性及び熱特性を持つ。
【0016】
熱溶融積層方式では、先に形成された層が、次に積層される層からの熱と圧力により、変形しないことが求められる。この観点から、本発明の造形材は、熱変形温度が比較的高い方が良く、30℃以上であることが好ましい。熱変形温度の上限は50~60℃とするが、特に限定されない。
【0017】
熱溶融積層方式の3Dプリンターにおいては、造形材の形状はペレットもしくはフィラメントである。ペレット形状の造形材は、超小型の押出成形機で加熱し、ノズルから吐出した溶融体で立体造形する。また、フィラメント形状の造形材は、スプールに巻回させた先端を加熱し、ノズルから吐出した溶融体で立体造形する。なおノズルの口径は、1~6mmの範囲にあり、積層スピードが1~5Kg/Hrで成形可能である。
【0018】
造形材の主成分である酢酸セルロースは、酢化度50~59%の二酢酸セルロース(CDA)が好適に使用される。このCDAは、溶媒にいったん溶かしてフィルムなどの造形品を得ることが一般的である。しかし、この一般的な工程は、溶媒の乾燥、溶媒のリサイクル使用などで複雑になる問題があった。
【0019】
そこで本実施形態では、一般的な溶媒法でなくCDAに可塑剤をブレンドするコンパウンド法により製造され、加熱成形加工性を有し一般的な石油樹脂の成形加工設備で成形可能な造形材を採用する。
【0020】
酢酸セルロースは、酢化度が高くなる程、造形品が堅く脆くなる性質を持つ。高分子材料の物性はその結晶性に依存するところが大きく、結晶性の高いものは、一般的に強度は向上するが柔軟さが低下する、換言すると脆くなり低伸度となる。酢酸セルロースは、酢化度が高い程に結晶性が高くなるが、可塑剤を添加することで造形品に柔軟性が付与される。
【0021】
酢酸セルロースは、優れた透明性を持つ反面、樹脂の流動性が悪く、造形品の形状が不安定であり、さらに堅く脆いという欠点を持つ。このために、酢酸セルロース単体では3Dプリンター用の造形材として不向きである。しかし、可塑剤を高充填することにより、これら欠点を補うことができ、3Dプリンター用の造形材の用途として酢酸セルロースが有望であることが見出された。
【0022】
酢酸セルロースをベース樹脂として可塑剤を高充填するコンパウンド法は、次の工程(A)~(C)に従って実行される。すなわち(A)酢酸セルロースの粒状体を撹拌しながら可塑剤を連続的に噴霧するか断続的に投入するかして混合体を生成する。(B)生成した混合体を常温で8時間以上静置する。(C)混合体を粘性流動する温度に設定し混練する。
【0023】
酢酸セルロースの粒状体と可塑剤の混合体を生成する撹拌装置は、リボンブレンダー、タンブラーなどでも可能であるが、好ましくは高速ミキサーが好ましい。この混合体を加熱混練する装置は、加熱ロール、バンバリーミキサーなどのコンパウンド設備でも可能であるが、二軸押出機にて均一混合することが好ましい。設定する混錬温度は、酢酸セルロースの熱分解防止の観点から、230℃以下が好ましい。
【0024】
酢酸セルロースは、重量平均分子量が1×104~100×104、好ましくは5×104~75×104、さらに好ましくは10×104~50×104程度であるが、特に制限されず、用途に応じて選択できる。酢酸セルロースの酢化度は、52~62.5%の範囲から選択できる。好ましい酢化度は、59%以下(例えば、52.0~58.0%)、特に54~56%(例えば、55%)程度である。
【0025】
実施形態に適用される酢酸セルロースには、その他にセルロースエステル(例えば、セルロースプロピオネート、セルロースブチレートなどの有機酸エステル、硝酸セルロース、硫酸セルロース、リン酸セルロースなどの無機酸エステル)などを併用してもよい。
【0026】
可塑剤としては、グリセリンエステル化合物、ポリエーテルエステル系化合物、アジピン酸エステル化合物が好適に使用される。グリセリンエステル化合物としては、トリアセチン、モノグリセライド、アセチル化モノグリセライド、有機酸モノグリセライドなどが挙げられる。アジピン酸エステル化合物としては、アジピン酸ジエステル化合物、アジピン酸ポリエステル化合物が挙げられる。その他エステル化合物としては、セバシン酸エステル化合物、エポキシ系エステル、安息香酸系エステル、トリメリット酸エステル、グリコールエステル化合物、酢酸エステル、二塩基酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、フタル酸エステル化合物、樟脳、クエン酸エステル、ステアリン酸エステル、金属石鹸、ポリオール、ポリアルキレンオキサイド等が挙げられる。これら可塑剤は、単独でも組み合わせて用いることもできる。
【0027】
また、実施形態に係る造形材には、本発明の効果を損なわない範囲において、各種の添加剤が配合される場合がある。具体的には、熱安定化剤(例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系熱安定剤、金属不活性化剤、イオウ系熱安定剤など)、耐候性添加剤(例えば、液状紫外線吸収剤、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤など)、分散剤・滑剤(炭化水素系滑剤、脂肪酸、高級アルコール系滑剤、脂肪酸アミド系、金属石鹸系、エステル系など)、アンチブロッキング剤(シリカなど)、染料および顔料を含む着色剤などが挙げられる。
【0028】
実施形態に係る造形材は、ペレット又はフィラメントの形状を有している。フィラメント形状の造形材の製造方法は、上述したように押出機等で酢酸セルロース及び可塑剤の混合体を溶融混練し、ダイ・ノズルからストランド状に押し出す。そして、このストランド状に押し出された溶融体を、水や空気等の冷却媒体で冷却して紡糸し、必要に応じて、加熱延伸、熱処理、オイル塗布等の処理を行い、巻き取ることでフィラメントにする。フィラメントの断面形状としては、特に制限はなく、例えば、円形、楕円形、三角形、四角形、六角形、星型などが挙げられる。
【0029】
ペレット形状の造形材の製造方法は、上述したようにストランド状に押し出された溶融体を水槽等で冷却した後にペレタイザーでカットする方法(ストランド法)や、ダイ・ノズルから溶融体が押し出された瞬間に回転刃が樹脂をカットする方法(ホットカット法)が挙げられる。
【0030】
実施形態の造形材を用い、熱溶融積層方式で3Dプリント造形品を製造する場合、ノズル温度としては、120~250℃とする、より好ましくは180~220℃とする。ノズル温度が250℃を超える高温にすると、酢酸セルロースが加水分解して、着色したり酢酸臭がしたりするなどの問題が生じる。本発明の造形材は、熱変形が少ないため造形テーブルの加熱は不要となる場合もある。積層ピッチは、通常0.05~0.5mmである。ノズルの径と押出条件の調整で積層ピッチは決定される。
【0031】
酢酸セルロース樹脂は、印刷性、塗装性、染色性などの表面加飾性能を有し、3Dプリント造形品の付加価値を向上させる。
【実施例0032】
次に本実施形態の効果を確認した実施例について比較例とともに説明する。なお、実施例及び比較例において、酢酸セルロース組成物の基本物性は、通常の石油系プラスチックに適用されるJIS規格に準拠して測定した。
【0033】
図1は、機械強度特性を指標として実施形態に係る3Dプリンター用の造形材の効果を確認した比較例と実施例1-6とを示す表である。比較例1、実施例1-2では可塑剤としてトリアセチンを単独で用い、実施例3-6ではトリアセチンとアジピン酸エステルを組み合わせて用いた実施例を示している。
【0034】
また比較例1、実施例1,4は、酢酸セルロースと可塑剤を混合してから静置時間を置かずに混合体を混練機に投入しペレットを製造し、工業規格に準拠して作製した試験片による試験結果である。また実施例2,3,5,6は静置時間が8時間たってから混練機に混合体を投入しペレットを製造し、工業規格に準拠して作製した試験片による試験結果である。
【0035】
なお、図1は、酢酸セルロース組成物の基本物性を左右する複数パラメータを同時に振ってその最適条件を探索する一連の膨大な試験結果から、一部抽出したデータである。図1では、静置時間(8時間)の有無のパラメータと可塑剤(トリアセチン、アジピン酸エステル)の充填量のパラメータとを同時に振った試験結果が示されている。
【0036】
ここで3Dプリント造形品の造形性の優劣に基づき造形材(酢酸セルロース組成物)を比較例と実施例に分類すると、造形材の基本物性の系統的な相違が、可塑剤の配合量に依存することが見出される。さらに、3Dプリント造形品の造形性に高い影響度を持つMFRの試験結果に着目すると、静置時間の条件の有無がこのMFRの試験結果に有意差をもたらしているといえる。
【0037】
(ペレット及び試験片の製造)
使用した酢酸セルロースの粒状体は酢化度55%の市販の製品である。酢酸セルロースの粒状体と可塑剤の混合体の生成は、500rpm/minに設定した高速ミキサーにおいて、酢酸セルロースの粒状体を撹拌しながら可塑剤を噴霧して混合した。さらに120rpm/minに設定した低速ミキサーであるリボンブレンダーを用いて混合体に添加剤(酸化防止剤等)を混合した。そして、実施例2,3,5,6については、混合体をトレーに収容し気密な状態で、常温(25℃)で8時間静置してから混錬機に投入した。比較例、実施例1,4については、混合体を生成してから30分以内に混錬機に投入した。
【0038】
混錬機は、台湾メーカーCKF社製、CK70HT(スクリュー径70mm、L/D=44)を用いた。スクリュー回転数の設定は300~600rpmであり、成形加工温度を200-220℃とした。
【0039】
そして、混錬機から吐出した混練体をペレットに成形し冷却した後に、射出成形機で再加熱し溶融させてから金型に注入して、各種の基本性能(MFR,曲げ弾性率,引張強度,衝撃強度)を試験するための試験片を作成した。図1に示すように、可塑剤を増量することにより、MFRの増加、引張伸度が大幅に向上し、測定された基本物性は、PP、PE、PSなどの汎用石油系プラスチックとほぼ同等の結果が得られた。また得られた試験片は透明である。
【0040】
(フィラメントの製造)
図1に示す組成で成形したペレットを、ステア株式会社製・二軸押出機OMEGA-30を用い、押出温度;C1 140℃、C2-C6 200℃、H 200℃の押出条件で押し出したストランドを、直径1.7mmのフィラメント形状とし造形材とした。
【0041】
(3Dプリント造形)
図2は、官能特性を指標として実施形態に係る3Dプリント造形品の効果を確認した比較例2,3と実施例7,8とを示す表である。実施例7で製造された3Dプリント造形品は、実施例1の組成で製造したフィラメント形状の造形材を、エス・ラボ(株)、MothMachS3DP333にセットし、製品図に従って作製したものである。
【0042】
実施例8で製造された3Dプリント造形品は、実施例5の組成で製造したペレット形状の造形材を、エス.ラボ(株)、MothMachGEM800Sにセットして、製品図に従って作製したものである。なお、実施例7,8は共に、ノズル温度220℃、吐出径0.4mm、積層ピッチ0.1mmとし、造形テーブル加熱は行わなかった。
【0043】
比較例2で製造された3Dプリント造形品は、市販のABS樹脂(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)の3Dプリンター用フィラメント(Raise3D製 Premium ABS)を用いたものである。なお、比較例2の製造条件は、造形テーブルを110℃に加熱し造形品の変形防止に努めた以外は実施例7と同様にしている。
【0044】
比較例3で製造された3Dプリント造形品は、市販のPLA(ポリ乳酸樹脂)の3Dプリンター用フィラメント(Polymaker社製、POLY-MAXPLA、ホワイト)を用いたものである。なお、比較例3の製造条件は、造形テーブルを60℃に加熱し造形品の変形防止に努めた以外は実施例8と同様にしている。
【0045】
(評価)
3Dプリント造形品に関し、臭気が発生しているか否かについて官能評価を行った。比較例2,3については、「激しい異臭」及び「異臭あり」という評価であったが、実施例7,8については共に「わすか」という評価であった。
【0046】
次に3Dプリント造形品の層間密着性について評価した。製造した造形品について、手で層間の剥離を試みたところ、いずれも剥離することはなく全て「良好」という評価であった。次に、3Dプリント造形品の造形性について評価した。比較例2の造形品は全体的に大きく変形しており壁の厚みも不均一であった。比較例3の造形品は、比較例2ほどではないが、容易に認識できる程度の小さな変形が存在する。実施例7,8の造形品は、変形は存在するが、比較例3に比較して格段に微小量であった。
【0047】
次に3Dプリント造形品の透明性について評価した。造形品の反対側に新聞紙を置き文字が判読できるか否かで評価した。比較例2,3については、文字の存在が判らない程度に「不透明」であった。一方で、実施例7,8については、文字が判読できる程度に「透明」であった。
【0048】
以上の通り、本発明の造形材は、一般的なABS樹脂やPLA樹脂を用いる場合と異なり、3Dプリント造形品が不快な臭いを発せず、造形性に優れている。酢酸セルロースおよび可塑剤ともPL認定される予定であり、人体に対する安全性が高く、医療用途、食品用途への応用も可能である。また、歯科材料等に用いることができる。また、酢酸セルロースは、透明性に優れるため、スケルトンを要求される造形品、あるいはレンズなどの光学部材の造形にも有効である。
図1
図2