IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ MAアルミニウム株式会社の特許一覧

<>
  • 特開-アルミニウム合金箔 図1
  • 特開-アルミニウム合金箔 図2
  • 特開-アルミニウム合金箔 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043236
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】アルミニウム合金箔
(51)【国際特許分類】
   C22C 21/00 20060101AFI20240322BHJP
   C22F 1/04 20060101ALN20240322BHJP
   C22F 1/00 20060101ALN20240322BHJP
【FI】
C22C21/00 M
C22F1/04 A
C22F1/00 622
C22F1/00 682
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 683
C22F1/00 694Z
C22F1/00 694A
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 604
C22F1/00 630K
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148305
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】522160125
【氏名又は名称】MAアルミニウム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091926
【弁理士】
【氏名又は名称】横井 幸喜
(72)【発明者】
【氏名】海老原 佑亮
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 貴史
(72)【発明者】
【氏名】安元 透
(57)【要約】
【課題】箔の伸びを確保しつつ、良好な成形性を有するアルミニウム合金箔を提供する。
【解決手段】Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、Marciniak法を用いたひずみ付与成形試験にて、相当塑性ひずみ0.25以上の高い成形性を有する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、Marciniak法を用いたひずみ付与成形試験にて、相当塑性ひずみ0.25以上であるアルミニウム合金箔。
【請求項2】
方位差15°以上の大傾角粒界で囲まれた結晶粒の平均粒径が15μm以下であり、前記結晶粒に関し、最大結晶粒径/平均結晶粒径≦3.0である請求項1に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項3】
Cu方位密度が30以上であり、Cube方位密度が6以下である請求項1または2に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項4】
前記相当塑性ひずみが、前記ひずみ付与成形試験機で、ひずみ比-0.05~1.0の領域で測定されている請求項1または2に記載のアルミニウム合金箔。
【請求項5】
前記相当塑性ひずみが、前記ひずみ付与成形試験機で、ひずみ比-0.05~1.0の領域で測定されている請求項3に記載のアルミニウム合金箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、成形加工に供することができるアルミニウム合金箔に関する。
【背景技術】
【0002】
圧延性に優れる8000系アルミニウム合金は、医薬品や食品、リチウムイオン電池等の包装材など成形加工用のアルミニウム合金箔として広く用いられている。昨今、小さく薄い材料の加工が求められており、また、難加工形状を含む多岐にわたる形状の製品が存在する。これら厳しい条件での加工においても破断しないための成形性向上が要求されている。
例えば、特許文献1では、成分範囲を規定するとともに、結晶粒の粒径を規定し、さらに、Cube方位の面積率を規定することで成形性を高めるとしている。
また、特許文献2では、(111)面、(100)面、(110)面、および、(311)面のそれぞれを示す各回折強度の比率を規定する成形性を高めるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-115376号公報
【特許文献2】特開2012-052158号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
我々は、成形性の良好な材料の開発に取組んでいる。従来から、成形性を示すパラメータとして伸びが挙げられるが、実際のプレス成形性とは必ずしも一致しない事がある。この理由として変形挙動の違いが挙げられ、薄い材料のプレス成形性を簡便に評価できる手法とそれによって評価される高成形材料が求められている。
鋼板等の成形限界を評価する手法として代表的なものに、平頭ポンチと駆動板を用いるMarciniak法がある。これは張出し試験をベースとした評価法であり、試験片の幅を変化させる事で、様々なひずみ比の変形を付与する事ができる。このMarciniak法を用いる事で、試験片とポンチが直接接触しない無摩擦状態で変形させる事が可能で、材料固有の本質的な変形限界を求める事ができる。
開発を推進していく中で成形性が良好な材料の特徴の1つとして、Marciniak法によるひずみ比が-0.05~1.0の領域での、相当塑性ひずみが高いことが挙げられることを見出した。つまり、成形性が高い箔材料には相当塑性ひずみが高い事が求められると思われる。
「相当塑性ひずみ」については後に詳述するが、ここでは箔などの平面材料を加工する際の加工限界、つまり材料一部に亀裂が発生した時点において、当該部分におけるひずみを単軸引張ひずみに相当する量として換算したものである。
【0005】
本発明は上記課題を背景としてなされたものであり、相当塑性ひずみが高い事を特徴としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明のアルミニウム合金箔のうち、第1の形態は、Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有し、Marciniak法を用いたひずみ付与成形試験にて、相当塑性ひずみ0.25以上の高い成形性を有する事を特徴とする。
他の形態のアルミニウム合金箔の発明は、前記形態の発明において、さらに方位差15°以上の大傾角粒界で囲まれた結晶粒の平均粒径が15μm以下であり、前記結晶粒に関し、最大結晶粒径/平均結晶粒径≦3.0であることを特徴とする。
他の形態のアルミニウム合金箔の発明は、前記形態の発明において、さらにCu方位密度が30以上であり、Cube方位密度が6以下であることを特徴とする。
他の形態の方法の発明は、Marciniak試験を用い、ひずみ比-0.05~1.0の領域で箔の成形性を評価する。
【0007】
以下に、本発明で規定する内容について説明する。
【0008】
Marciniak法を用いたひずみ付与成形試験にて、相当塑性ひずみが0.25以上である。相当塑性ひずみは、ひずみ比によって値が異なるが、ひずみ比-0.05~1.0の間では角筒成形時の成形高さと相関が見られ、0.25以上である事により角筒成形時の良好な成形性が得られる。上記値が0.25未満であると、角筒成形時に成形高さを十分に得ることができない。なお、ひずみ比0.8~1.0の領域での相当塑性ひずみが0.4以上であることが一層望ましい。相当塑性ひずみは、供試材をMarciniak法にてひずみを付与し、スクライブドサークル法やDIC(デジタル画像相関法 Digital Image Correlation)を用いた解析により求める事ができる。
【0009】
Marciniak法は、平頭張出しとして一般に知られており、駆動板を用いることで天面部が無摩擦となる。摩擦、割れがないように、適切な駆動板の選定が必要である。駆動板としては、好適には、フッ素樹脂を用いることができ、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が好適に用いられる。厚さは特に限定されないが、例えば10~200μm厚のものを用いることができる。供試材と駆動板の表裏面には表面潤滑油を塗布することができる。駆動板の形状は特に限定されないが、円形、ISO比例形状(ドッグボーン型)などを用いることができる。
試験前に、供試材に予めスクライブドサークルの図示や、スプレーにてランダムパターンを付与しておき、Marciniak法による塑性変形前後でのひずみの増減を測定することで評価することができる。
【0010】
スクライブドサークル法では、供試材に所定の大きさの円を予め描いておき、変形前後の円を測定し、最大長さと最小長さから面内最大主ひずみ、面内最小主ひずみを求めることができる。
【0011】
DICによる解析方法では、供試材にスプレーなどを用いて速乾性塗料を塗布し、表面にランダムパターンを予め描いておき、それを塑性変形させた際のパターン変化を光学センサで読み取って変形中のひずみ分布を測定する。パターンの変化は例えば連続でカメラにより撮影することができる。DICでは、小さな標点間でのひずみを計測して局所部のひずみを取得することができる。
【0012】
本発明のアルミニウム合金箔は、Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成を有する。
以下に、各成分の限定理由について説明する。
【0013】
Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下
Feは、鋳造時にAl-Fe系金属間化合物として晶出する。これらは焼鈍時に再結晶の核となり再結晶粒を微細化する効果がある。また、圧延時の結晶粒分断の促進にも寄与する。ただし、含有量が過小であると、粗大な金属間化合物の分布密度が低くなり微細化の効果が低く、最終的な結晶粒径分布も不均一となる。一方、含有量が過剰になると、結晶粒微細化の効果が飽和もしくは低下し、さらに鋳造時に生成されるAl-Fe系化合物のサイズが非常に大きくなり、箔の延性と圧延性が低下する。このため、Fe含有量の下限0.8質量%、上限を1.8質量%に定める。同様の理由で、下限を1.0質量%、上限を1.6質量%とするのが望ましい。
【0014】
Si:0.01質量%以上0.15質量%以下
Siは、鋳造時に粗大な金属間化合物を晶出する。粗大な金属間化合物の生成を防ぐため含有量は抑制したい。含有量が過大になると、化合物サイズの粗大化、及び密度の低下を招き、圧延性、伸び特性が低下する懸念がある。一方で、含有量が過小であると、高純度の地金を使用する必要があり、製造コストが大幅に増加する。このため、Si含有量は、下限を0.01質量%、上限を0.15質量%とするのが望ましい。同様の理由で、下限を0.01質量%、上限を0.10質量%とするのが一層望ましい。
【0015】
・方位差15°以上の大傾角粒界に囲まれた結晶粒について、平均粒径が15μm以下、かつ最大粒径/平均粒径≦3.0
相当塑性ひずみの向上(数値が高いほど高成形性材料であることを示す。)には影響因子の一つとして結晶粒径が挙げられ、高い相当塑性ひずみを得るには平均結晶粒径が15μm以下である事が望ましい。また、結晶粒の粒度分布が不均一である場合、局所的な変形を生じ易くなり伸びが低下する事が予想される。そのため、平均結晶粒径を15μm以下とするだけでなく、最大粒径/平均粒径≦3.0とすることも併せることで高い成形性を得ることができる。
【0016】
・Cu方位密度30以上かつCube方位密度6以下
集合組織もまた箔の相当塑性ひずみに影響を及ぼす。塑性加工に伴い生じる材料の表面あれは材料厚みの不均一さととらえることができ、表面あれの発達による材料厚み不均一さの顕在化は相当塑性ひずみの低下に繋がる。表面あれは結晶粒単位の変形、不均一さと関係している。そのため結晶方位が比較的揃っていれば、変形に伴う結晶粒の変形や回転は同様であるが、方位のバラつきが大きければ塑性変形に伴い、各結晶粒の変形や回転に不均一さが生じ、表面あれが発達し材料厚みが不均一となり相当塑性ひずみの低下につながる。そのため、結晶方位は集積していた方が相当塑性ひずみの向上につながる。箔は材料厚さが薄いため、その製造過程で圧延率は比較的高くなり、圧延集合組織が発達しやすい。しかし、同時にCube方位が発達すると、結晶方位のバラつきが大きくなり相当塑性ひずみの向上に対し適さない。そのため、Cube方位密度6以下かつCu方位密度30以上であるのが望ましい。
【0017】
・ひずみ比-0.05~1.0
ひずみ比は、面内最小主ひずみ/面内最大主ひずみで表され、ひずみ比-0.05~1.0の領域にある相当塑性ひずみは、角筒張出し高さとの相関がある。ひずみ比0は平面ひずみ状態を、ひずみ比1.0は等二軸引張状態を示す。ひずみ比が-0.05を下回ると、単軸引張状態に近づき、相当塑性ひずみと角筒張出し高さの相関が小さくなる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、高い成形性を有するアルミニウム合金箔の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態のMarciniak法の例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態のスクライブドサークル法に用いられるパターン例を示す図である。
図3】本発明の実施例における限界成形高さ試験で用いる角型ポンチの平面形状を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明のアルミニウム合金箔の実施形態について説明する。
本実施形態のアルミニウム合金箔の製造では、先ずは所定の組成に調製された鋳塊を溶製する。鋳塊であるスラブは均質化処理を行った後、熱間圧延を行い、さらに冷間圧延を行う。冷間圧延では、所望により1回以上の中間焼鈍を行うことができる。最後の中間焼鈍後の最終冷間圧延では、所定の圧下率で圧延を行って、所定の厚さのアルミニウム合金箔を得る。冷間圧延後のアルミニウム合金箔には最終焼鈍を行って、実施形態の合金箔とする。実施形態のアルミニウム合金箔には、成形加工を行うことができる。以下に、各工程について説明する。
【0021】
・合金組成
アルミニウム合金箔の組成としては、Fe:0.8質量%以上1.8質量%以下、Si:0.01質量%以上0.15質量%以下を含有し、残部がAlと不可避不純物からなる組成が望ましい。
【0022】
・鋳造:スラブ厚さ:600mm以上750mm以下
鋳塊を得るための鋳造は、常法により行うことができるが、スラブ厚さを所定の厚さとするのが望ましい。スラブ厚さは、鋳造時の冷却速度に影響し、鋳造時に生成する晶出物や結晶粒のサイズ, 分布に影響する。また、スラブ厚みが異なると最終箔までの圧延率も変化する。
鋳造後における結晶粒の微細均一化は, 最終焼鈍後の箔の微細均一化に寄与すると考える。また, スラブ厚み変量による圧延率の変化は最終箔における集合組織の発達にも寄与する。これら, 結晶粒サイズや集合組織の集積度合いは相当塑性ひずみに影響を及ぼし、つまりは成形性にも寄与すると考える。このため、スラブ厚さは、600mm以上とするのが望ましい。但し、スラブ厚さが750mmを超えると、鋳造時の冷却速度が低下し、鋳造時に生成する晶出物や結晶粒径の粗大化を引き起こしやすくなる。
【0023】
・均質化処理:480℃~540℃×8時間以上
均質化処理は、鋳塊のミクロ偏析の解消と金属間化合物の分布状態を調整することを目的としており、最終焼鈍後のアルミニウム合金箔において微細均一な結晶粒組織を得るために重要な処理となる。
均質化処理の温度が480℃未満であると、結晶粒微細化が不十分であり、540℃を超えると、結晶粒の粗大化を招く。処理時間が8時間未満であると、均質化が不十分となる。
【0024】
・熱間圧延
:仕上り温度230℃~280℃
均質化処理後の鋳塊を熱間圧延する場合、その仕上がり温度が重要となる。仕上がり温度を適正にして再結晶を抑制する(熱延板をファイバー組織とする)。ただし、仕上がり温度が280℃を超えると熱間圧延後に板の一部で再結晶を生じ、最終製品における理想的な集合組織が得られにくい。またファイバー粒と再結晶粒が混在する不均一な組織は、最終製品における結晶粒組織の不均一さにも寄与し、成形性の低下を招くおそれがある。一方、圧延仕上がり温度が230℃未満で仕上げるには熱間圧延中の温度も極めて低温となるため、板のサイドにクラックが発生し生産性が大幅に低下する懸念がある。このため、熱間圧延の仕上がり温度は上記範囲が望ましい。
【0025】
:圧延率99.0%以上
スラブから熱間圧延仕上がりまでの間の圧延率を99.0%以上として, 鋳造時に生成した晶出物を細かく分断させるのが望ましい。また,圧延率を高くすること熱延後でファイバー組織とさせる。圧延率は、(スラブの板厚mm-熱間圧延仕上がり後の板厚mm)/スラブの板厚mm ×100 (%) で求められる。
【0026】
・冷間圧延
熱間圧延後には、冷間圧延が行われ、その途中に1回以上の中間焼鈍を行うことができる。
・中間焼鈍:300~400℃×3時間以上
冷間圧延により硬化した材料を軟化(圧延性を回復)させる。また、Feの析出を促進し固溶Fe量を低下させる。固溶Fe量を少なくすることで再結晶し易く、成形性に優れた材料を得ることができる。
中間焼鈍の温度が300℃未満では再結晶が完了せず結晶粒組織が不均一になる場合がある、また、中間焼鈍の温度が400℃を超える高温では再結晶粒の粗大化を生じ、最終的な結晶粒サイズも大きくなり成形性が低下する。処理時間が3時間未満の場合でも、再結晶が不完全でありまたFeの析出が不十分となる恐れがある。
【0027】
中間焼鈍にはコイルを炉に投入し一定時間保持するバッチ焼鈍(Batch Ann
ealing)と、連続焼鈍ライン(Continuous Annealing Line、以下CAL焼鈍という)により材料を急加熱・急冷する2種類の方式がある。中間焼鈍を負荷する場合、いずれの方法でも良い。
例えば、バッチ焼鈍では、300~400℃で3時間以上、CAL焼鈍では、昇温速度:100~250℃/秒、加熱温度:420~470℃、保持時間なしまたは保持時間:5秒以下、冷却速度:20~200℃/秒の条件を採用することができる。ただし、本実施形態としては、中間焼鈍の有無、中間焼鈍を行う場合の条件等は特定のものに限定されるものではない。
【0028】
・最終冷間圧延:圧延率 95%以上
結晶粒は冷間圧延の過程でも微細化されるため(Grain Subdivision)、中間焼鈍後から最終厚みまでの最終冷間圧延率が高い程、結晶粒は微細化される。また冷間圧延率が高い程、Cu方位をより発達出来る。そのため、最終冷間圧延率は高い方が望ましく、具体的には最終冷間圧延率を95%以上とすることが望ましい。しかし最終冷間圧延率95%未満とすると、最終焼鈍後の再結晶粒径が粗大・不均一化し局部変形能が悪化し、高延性ひいては高成形性を達成することが難しくなる。
【0029】
・最終冷間圧延後の厚さ
最終冷間圧延によって所望の厚さとすることができる。本実施形態としては特に厚さが限定されるものではないが、例えば10~120μmの厚さのアルミニウム合金箔を示すことができる。
【0030】
・最終焼鈍:250℃~350℃×10時間以上
最終冷間圧延後の箔を完全軟化させるために、最終焼鈍が行われる。箔圧延後の最終焼鈍は例えば、250℃~350℃で実施すればよい。最終焼鈍の温度が低いと軟質化が不十分である。350℃を超えると、箔の変形や経済性の低下などが問題となる。最終焼鈍の時間は、10時間未満では最終焼鈍の効果が不十分である。
【0031】
実施形態のアルミニウム合金箔は、Marciniak法を用いたひずみ付与成形試験にて、相当塑性ひずみ0.25以上の特性を有している。
ひずみ付与成形試験の一例を図1に示す。
ひずみ付与成形試験1は、引き抜きダイ2とブランクホルダ3とフラットポンチ4とを有している。
試験に際しては、引き抜きダイと2ブランクホルダ3と間に、駆動板5と試験対象となるシートメタル6とを重ねて配置し固定し、ひずみを付与する。駆動板5は、予め中央に丸孔5Aを空けておく。
【0032】
当該相当塑性ひずみは、例えばスクライブドサークル法により測定する事ができる。
スクライブドサークル法は、図2に示すように、試験片に所定の大きさのサークルパターン10を付与し、加工前サークル径をL0とする。Marciniak法にて試験片に所定のひずみ比で、き裂が発生するまでひずみを付与する。得られた試験片のき裂を含んだサークルを用いて、サークルの最大長さL1、最小長さL2を測定する。これをもとに下記の数式1を用いて面内最大主ひずみε1、面内最小主ひずみε2をそれぞれ算出する。得られた面内最大主ひずみε1、面内最小主ひずみε2から、体積一定則を用いる事で板厚ひずみε3を算出した後、下記の式を用いて相当塑性ひずみε(ε・バー)を算出する事ができる。
この例では、加工前サークル径L0を5mmとし、加工後の最大長さ(長軸長さ)L1、最小長さ(単軸長さ)L2を測定したのち、面内最小主ひずみε2/面内最大主ひずみε1とする事でひずみ比を算出する。
所定のひずみ比としては-0.05~1.0の範囲を示すことができる。サークルパターンとしては、例えば径2.0~10.0mmの値を用いることができる。
【0033】
【数1】
【0034】
本実施形態では、さらに以下の特性を有しているのが望ましい。
・方位差15°以上の大傾角粒界に囲まれた結晶粒について、平均粒径が15μm以下、かつ最大粒径/平均粒径≦3.0
上記特性は、製造工程においてスラブ厚さや圧延率を適切に制御にすることにより得ることができる。
【0035】
・Cu方位密度30以上かつCube方位密度6以下
上記Cube方位密度、Cu方位密度は、製造工程において、最終冷間圧延率を95%以上にすることにより得ることができる。
【実施例0036】
以下に、本発明の実施例を説明する。
表1に示す組成のアルミニウム合金(残部がAlとその他の不可避不純物)を常法により溶製し、表1に示す厚みのスラブを得た。当該スラブに対して、500℃で8時間以上保持する均質化処理を行った。
均質化処理後のスラブに対し、表1に示す圧下率の熱間圧延によって、6mmの仕上がり厚みで熱間圧延を行った。熱間圧延仕上り温度は238℃~283℃であった。
【0037】
次いで熱間圧延材を冷間圧延した。冷間圧延では、実施例8、実施例10を除いて、板厚が3.2mmになった状態(冷間圧延率46.7%)で、中間焼鈍を行った。中間焼鈍は、360℃×3時間の条件でバッチ炉、あるいはCALで150℃/秒、加熱温度:450℃、保持時間2秒、冷却速度:150℃/秒の条件で行った。その後、仕上がり厚さ40μmになるまで最終冷間圧延を行った。最終冷間圧延の圧下率は98.8%であった。実施例8は、中間焼鈍を行うことなく仕上げ厚さまで圧延した。よって最終冷間圧延率は99.3%であった。実施例10は2.5mmで中間焼鈍をCALで行い、最終冷間圧延率は98.4%であった。
冷間圧延を完了したアルミニウム合金箔に対しては、最終焼鈍を行った。最終焼鈍は300℃×20時間の条件により行った。
【0038】
得られた供試材に対し、以下の項目についてそれぞれ評価を行い、評価結果を表2に示した。
【0039】
相当塑性ひずみの導出
相当塑性ひずみはMarciniak法にて評価した。試験は、万能薄板成形試験器(ERICHSEN社製 モデル142/20)に、金型としてISO規定の基準寸法に対しポンチ径を40mmとしたものを設置する事で、ひずみ付与成形試験機とした。
駆動板の材質としてポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用い、厚さは50μmとした。駆動板の形状は円形とし、中心に径14.3mmの穴を設けた。
試験片には、スクライブドサークル法として、予め図2に示す径5mmのサークルパターン10を付与した。
試験条件として、シワ抑え力は5kN、ポンチ上昇速度の(成形速度)目盛りは2とし、シートメタル6と引き抜きダイ2の間にPTFEを含有した鉱物油を潤滑材として塗布した。フラットポンチ4が駆動する事で、試験片に所定のひずみ比でひずみが付与され、き裂が発生した所で停止した。得られた試験片のき裂を含んだサークルを用いて、サークルの最大長さ、最小長さを測定し、前記数式1を用いて面内最大主ひずみε1、面内最小主ひずみε2、相当塑性ひずみをそれぞれ算出した。
【0040】
ひずみ比
前項より得られた面内最大主ひずみ、面内最小主ひずみより、面内最小主ひずみ/面内最大主ひずみを算出し、これをひずみ比とした。試験ではひずみ比-0.10~0.00となるように幅57mmとした試験片と、ひずみ比0.85~0.98となるように円形の試験片をそれぞれ用いた。
【0041】
結晶粒径
箔表面を電解研磨した後、SEM(Scanning Electron Microscope)-EBSD(Electron Back Scattered Diffraction Pattern)にて結晶方位解析を行い、結晶粒間の方位差が15°以上の結晶粒界をHAGBs(大傾角粒界)と規定し、HAGBsで囲まれた結晶粒の大きさを測定した。倍率×900で視野サイズ90×180μmを3視野測定し、平均結晶粒径、及び大粒径/平均粒径を粒径比として算出した。一つ一つの結晶粒径は円相当径にて算出し、平均結晶粒径の算出にはEBSDのArea法(Average by Area Fraction Method)を用いた。尚、解析にはTSL Solutions社のOIM Analysisを使用した。
結果は、平均結晶粒径、粒径比として表2に示した。
【0042】
結晶方位密度
Cube方位は{001}<100>、Cu方位は{112}<111>を代表方位とした。それぞれの方位密度はX線回折法において、{111}、{200}、{220}の不完全極点図を測定し、その結果を用いて3次元方位分布関数(ODF;Orientation Distribution Function)を計算し、各結晶方位密度の評価を行った。
結果は、Cube方位密度、Cu方位密度として表2に示した。
【0043】
角筒張出し高さ
角筒張出し高さは角筒成形試験にて評価した。試験は万能薄板成形試験器(ERICHSEN社製 モデル142/20)にて行い、厚さ40μmのアルミニウム箔を、図3に示す角型ポンチ(一辺の長さL=37mm、角部の面取り径R=2.0mm)を用いて行った。試験条件として、シワ抑え力は10kN、ポンチの上昇速度(成形速度)の目盛は1とし、そして箔の片面(ポンチが当たる面)に鉱物油を潤滑剤として塗布した。箔に対し装置の下部から上昇するポンチが当たり、箔が成形されるが、3回連続成形した際に割れやピンホールがなく成形できた最大のポンチの上昇高さをその材料の角筒張出し高さ(mm)と規定した。ポンチの高さは0.5mm間隔で変化させた。
測定結果は表2に示した。
【0044】
表2に示すように、本願発明の実施例1~10では、比較例に比して角筒張出し高さが大きく、優れた成形性を有している。それに対し、本発明の組成もしくは相当塑性ひずみの何れか又は両方が範囲外である比較例11~16は、角筒張出し高さが小さく、成形性に劣っている。
【0045】
【表1】
【0046】
【表2】
【符号の説明】
【0047】
1 ひずみ付与成形試験機
2 引き抜きダイ
3 ブランクホルダ
4 フラットポンチ
5 駆動板
5A 丸孔
6 シートメタル
10 サークルパターン
L0 加工前サークル径
L1 最大長さ
L2 最小長さ
ε1 面内最大主ひずみ
ε2 面内最小主ひずみ
ε3 板厚ひずみ
ε 相当塑性ひずみ
図1
図2
図3