(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043238
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】低熱膨張合金
(51)【国際特許分類】
C22C 19/07 20060101AFI20240322BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20240322BHJP
C22C 30/00 20060101ALI20240322BHJP
C22F 1/10 20060101ALN20240322BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240322BHJP
C21D 6/00 20060101ALN20240322BHJP
【FI】
C22C19/07 H
C22C38/00 302Z
C22C30/00
C22F1/10 J
C22F1/00 611
C22F1/00 650E
C22F1/00 651B
C22F1/00 694B
C22F1/00 694A
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 692A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 684C
C22F1/00 686A
C21D6/00 101A
C22F1/00 623
C22F1/00 651Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148308
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】591274299
【氏名又は名称】新報国マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】藤井 啓道
(72)【発明者】
【氏名】松村 信吾
(72)【発明者】
【氏名】大野 晴康
(72)【発明者】
【氏名】小奈 浩太郎
(57)【要約】
【課題】室温~800℃近傍において低熱膨張特性を有する合金を得る。
【解決手段】本発明の熱膨張制御合金は、質量%で、Fe:20~60%、Ni:20~35%、及びCr:0~30%を含有し、残部がCo及び不純物である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、
Fe:20~60%、
Ni:20~35%、及び
Cr:0~30%
を含有し、残部がCo及び不純物である
ことを特徴とする低熱膨張合金。
【請求項2】
組織が、オーステナイト相を、面積率で90%以上含有することを特徴とする請求項1に記載の低熱膨張合金。
【請求項3】
Coを20質量%以上含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の低熱膨張合金。
【請求項4】
Niを25質量%超含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の低熱膨張合金。
【請求項5】
Niを25質量%超含有することを特徴とする請求項3に記載の低熱膨張合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は低熱膨張合金に関し、特に400~600℃近傍又は室温~800℃近傍において低熱膨張特性を有し、たとえば、固体酸化物電解質型燃料電池のインターコネクタ、ガス・蒸気タービンの部品、内燃機関の部品、ガラス成形用金型材料、高温環境で用いるヒートシンク用材料に好適な合金に関する。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物電解質型燃料電池は、電解質として安定化ジルコニア等のセラミックスを用いており、近年では700~800℃と言う中高温で運転する用途も開発されている。固体酸化物電解質型燃料電池のインターコネクタは、セルスタックとなすために電気的に直列接続する導電板であるとともに、燃料ガスと酸化ガスを分離するインターコネクタ板であり、電解質、燃料極、空気極の三層を支持し、ガス流路を形成するとともに電流を流す役目を持つ。
【0003】
したがって、インターコネクタには中高温での優れた電気導電性、耐酸化性、電解質との熱膨張差が小さいこと、また低コスト、加工容易性等の特性が求められる。インターコネクタとして好適な合金は、種々開発されている。
【0004】
特許文献1は、特殊な設備・資材を必要とせずに精密装置に用いられる複雑形状部品や大型部品を製造することが可能であり、600℃までの温度で高い強度と低熱膨張性を有する、質量%で、C:0.02~0.06%、Si:0.2~0.6%、Mn:0.3~1.5%、Ni:24.0~29.5%、Co:17.5~25.5%を含有し、Ni当量が40.5~44.5%の範囲であり、かつ、A=30[C]-1.5×[Si]+0.5×([Mn]-55×[S]/32)+[Ni]+0.05×[Co]+0.1で表されるAの値が27.5~29.5の範囲であり、残部がFe及び不可避的不純物からなり、ミクロ組織中のマルテンサイト相の面積率が30~90%である高温用高強度低熱膨張鋳造合金を開示している。
【0005】
特許文献2は、高強度及び低熱膨張係数を有する、ガスタービンエンジン用に設計された合金として、7~9重量%のクロム、21~24重量%のモリブデン、5重量%超のタングステン、最大3重量%の鉄を含み、残部がニッケル及び不純物であり、R=2.66Al+0.19Co+0.84Cr-0.16Cu+0.39Fe+0.60Mn+Mo+0.69Nb+2.16Si+0.47Ta+1.36Ti+1.07V+0.40Wによって定義されるR値が、31.95<R<33.45を満たす合金を開示している。
【0006】
特許文献3は、フェライト系12Cr鋼と同等程度の熱膨張係数を有し、また優れた高温強度と耐食,耐酸化性に加えて良好な熱間加工性を有し、かつ溶接性に優れたγ´析出硬化型の低熱膨張Ni基超合金として、C:≦0.15%,Si:≦1%,Mn:≦1%,Cr:5~20%未満,Mo+1/2(W+Re):5~17%未満,W:≦10%,Al:0.1~2.5%,Ti:0.10~0.95%,Nb+1/2Ta:≦1.5%,B:0.001~0.02%,Zr:0.001~0.2%,Fe:≦4.0%,Al+Ti+Nb+Ta:2.0~6.5%(原子%)残部不可避的不純物及びNiから成る合金を開示している。
【0007】
特許文献4は、700~950℃程度において良好な電気伝導性を有する酸化被膜を形成するとともに、長時間の使用においても良好な耐酸化性、特に耐剥離性を有し、かつ常温での衝撃特性に優れ、電解質との熱膨張差が小さい安価な固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼として、質量%にて、C:0.2%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、Ni:2%以下、Cr:15~30%、Al:1%以下、(Y:0.5%以下、希土類元素:0.2%以下、Zr:1%以下)のグループから選ばれる一種又は二種以上を含み残部は実質的にFeでなり、不可避的不純物としてS:0.015%以下、O:0.010%以下、N:0.050%以下、B:0.0030%以下、かつ(1)式を満足する鋼からなり、硬さが280HV以下、平均フェライト結晶粒度がASTM2以上の細粒である固体酸化物型燃料電池セパレータ用鋼を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開第2017/006659号
【特許文献2】特表2014-501845号公報
【特許文献3】特開2011-231410号公報
【特許文献4】特開2003-173795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の高温環境用低熱膨張合金では、400~600℃で11.0~14.0×10-6/℃程度及び室温~800℃で12.0~14.0×10-6/℃程度の低熱膨張特性を得ることができるが、高温環境で熱膨張係数がより小さい合金は得られていなかった。
【0010】
そこで、本発明では、600~800℃近傍において低熱膨張特性(熱膨張係数の絶対値が小さい)を有する合金を得ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、高温で低熱膨張特性を有する合金について鋭意研究した。その結果、Fe-Co-Ni系合金の成分を制御することで、高温において、低熱膨張特性を有する合金を得られることを見出した。
【0012】
本発明はさらに検討を進めてなされたものであって、その要旨は以下のとおりである。
【0013】
(1)質量%で、Fe:20~60%、Ni:20~35%、及びCr:0~30%を含有し、残部がCo及び不純物であることを特徴とする低熱膨張合金。
【0014】
(2)組織がオーステナイト相を、面積率で90%以上含有することを特徴とする前記(1)の低熱膨張合金。
【0015】
(3)Coを20質量%以上含有することを特徴とする前記(1)又は(2)の低熱膨張合金。
【0016】
(4)Niを25質量%超含有することを特徴とする前記(1)~(3)のいずれかの 低熱膨張合金。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、600~800℃近傍において低熱膨張特性を有する合金を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】実施例で製造した合金の熱膨張曲線の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
はじめに、本発明の低熱膨張合金の化学成分について説明する。
【0021】
本発明の低熱膨張合金は、CoをベースにFe、Niを含有し、さらに必要に応じてCrを含有する合金である。
【0022】
Fe、Ni及びCoを含む合金は、化学成分により体心立方の結晶構造を有するフェライト相又は面心立方の結晶構造を有するオーステナイト相を形成する。化学成分が、フェライト-オーステナイト境界近傍であり、オーステナイト相を主とする合金においては,キュリー温度以下の温度領域で磁歪の低下による体積収縮が生じる。この体積収縮が、自然熱膨張を打ち消すことにより、低熱膨張特性を得ることができる。Co含有量を増加させると、キュリー温度は200~800℃まで変化させることが可能であるため、高温領域において低熱膨張特性を得ることが可能となる。本発明の低熱膨張合金では、オーステナイト相が、面積率で、90%以上であることが好ましく、98%以上がより好ましく、100%であればさらに好ましい。
【0023】
本発明の低熱膨張合金では、Feの含有量を20~60質量%、Niを20~35質量%含有し、残部をCoとする。Coの含有量は5~60質量%であり、20質量%以上であることが好ましい。
【0024】
Niはオーステナイト相を安定化する効果がある。Coはキュリー温度を上昇させる効果がある。Ni及びCoの含有量を上記の範囲に調整することにより、高温環境下における低熱膨張特性の生じる温度範囲を制御することが可能となる。また、Niはオーステナイト相が安定となる化学成分領域を変化させる効果があるため、適切な量を含有させることで、高温環境下における低熱膨張特性を制御することが可能となる。
【0025】
また、NiとCoの含有量(質量%)[Co]、[Ni]を以下の式の範囲に調整することにより、オーステナイト相を98%以上含有する組織を得ることができる。
【0026】
[Co]≧77.5-2.25×[Ni]
【0027】
上記の元素の他、本発明の効果に影響を与えない範囲で不純物を含んでもよい。不純物としては、製造工程において意図的に添加していない元素(不可避不純物)であるC、S、P、Cu、脱酸などの目的で添加するSi、Al、Mnなどが挙げられる。
【0028】
本発明の低熱膨張合金には、上記のCoの一部に代えて、Crを含有させてもよい。Crは高温酸化及び腐食を防止する効果を有する。Crは600~800℃近傍において低熱膨張特性を有する合金を得るために必須の元素ではなく、本発明における含有量の下限は0である。Cr添加の効果は微量の添加でも得られるが、効果的に高温酸化及び腐食を防止するためには、5質量%以上含有させることが好ましく、10質量%以上がより好ましい。Crは熱膨張係数を増加させる元素でもあるので、含有量は30質量%以下とし、20質量%以下であることが好ましい。
【0029】
次に、本発明の低熱膨張合金の製造方法について説明する。
【0030】
本発明の低熱膨張合金は鋳造により得ることができる。鋳造に用いる鋳型や、鋳型への溶鋼の注入装置、注入方法は特に限定されるものではなく、公知の装置、方法を用いればよい。
【0031】
上述した化学成分を有する鋳造ままの合金は、高温で低い熱膨張係数、すなわち、熱膨張係数の絶対値が小さい値となる。
【0032】
鋳造ままの合金に成形を目的として、温度1050~1250℃で熱間鍛造を施してもよい。その際の鍛錬比は3以上が望ましい。熱間鍛造を施した場合でも低熱膨張特性は維持される。また、熱間圧延及び冷間圧延により厚さ0.1~10mmに加工をすることも可能である。その場合でも、低熱膨張特性は維持される。
【0033】
鋳造、鍛造、圧延のままであってもよいが、安定してオーステナイト相を90%以上含むためには、上述の鋳鋼、鍛鋼、又は圧延鋼を温度900~1100℃に加熱し、0.5~5hr保持した後、炉内冷却することが好ましい。冷却速度は遅いほうが規則相の量が増加するため、好ましくは10~100℃/hrとする。
【0034】
また、急冷した合金であっても、温度300~700℃に加熱し一定時間保持すれば規則相は形成する。温度800~1100℃において熱処理を実施した後に、ソルトバスを用いて温度300~700℃において、一定時間、加熱保持することで規則相を形成させることも可能である。
【0035】
より具体的には、本発明の低熱膨張合金は、室温~800℃における平均熱膨張係数が11.0×10-6/℃以下、好ましくは10.5×10-6/℃以下、より好ましくは10.0×10-6/℃以下となる。また、400~600℃における平均熱膨張係数が14.0×10-6/℃以下、好ましくは11.0×10-6/℃以下、より好ましくは10.0×10-6/℃以下となる。
【実施例0036】
(実施例1)
表1に記載の成分を有するように調整した溶湯を鋳型に注湯し、合金を作製した。表1のNo.1~39では、鋳造後の合金に1100℃で熱間鍛造を施し、その後、1100℃で2時間加熱後、100℃/hrで炉冷した。作製した合金から、熱膨張試験片(φ5×20L)を採取し、NETZSCH製熱膨張測定機を用いて、標準試料に石英を用い、示差膨張方式によって、昇温速度5℃/minの条件で室温から1000℃までの熱膨張率を測定し、400℃から600℃及び室温から800℃までの平均熱膨張係数を導出した。得られた結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
本発明によれば、400~600℃近傍及び室温~800℃近傍において低熱膨張特性を有する合金を得ることができる。
【0039】
図1に、実施例で製造した合金の、室温~1000℃までの熱膨張係数の温度依存性の例を示す。発明例の合金は、すべての温度範囲において典型的なオーステナイト系合金であるSUS304よりも低熱膨張であり、キュリー温度以下の温度領域において特に低熱膨張となっていることが確認できた。比較例の55Co-32Fe-13Ni合金では、キュリー温度が750℃と高くなっているが、各温度領域における熱膨張係数は発明例の合金ほど低下していなかった。
【0040】
(実施例2)
表2に記載の成分を有するように調整した溶湯を鋳型に注湯し、合金を作製した。作製した合金から、耐酸化性評価試験片(φ8×25L)を採取した。採取した試験片に対し温度800℃で熱処理を行い、24時間毎に酸化物形成による質量増加を測定した。得られた結果を表2に示す。表2に示すように、本発明の低熱膨張合金は、Crを含有させることにより、高温(800℃)における耐酸化性を向上させることができることが確認できた。
【0041】