(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004324
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】ショウガ風味アルコール飲料
(51)【国際特許分類】
C12G 3/04 20190101AFI20240109BHJP
【FI】
C12G3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022103935
(22)【出願日】2022-06-28
(71)【出願人】
【識別番号】307027577
【氏名又は名称】麒麟麦酒株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120031
【弁理士】
【氏名又は名称】宮嶋 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126099
【弁理士】
【氏名又は名称】反町 洋
(72)【発明者】
【氏名】魏 丹丹
(72)【発明者】
【氏名】小川 かおり
(72)【発明者】
【氏名】茶木 香保里
(72)【発明者】
【氏名】増崎 瑠里子
【テーマコード(参考)】
4B115
【Fターム(参考)】
4B115LH01
4B115LH11
4B115LH12
(57)【要約】
【課題】アルコールの辛味が緩和されたショウガ辛味成分含有アルコール飲料の提供。
【解決手段】6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールと、乳酸とを含んでなる、アルコール飲料。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールと、乳酸とを含んでなる、アルコール飲料。
【請求項2】
6-ショウガオールの含有量が0.2ppm以上である、請求項1に記載のアルコール飲料。
【請求項3】
6-ジンゲロールの含有量が1.0ppm以上である、請求項1に記載のアルコール飲料。
【請求項4】
6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含むショウガ抽出物を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルコール飲料。
【請求項5】
乳酸の含有量が1ppm以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルコール飲料。
【請求項6】
乳酸を含む植物発酵産物を含有する、請求項1~3のいずれか一項に記載のアルコール飲料。
【請求項7】
前記植物発酵産物が、乳酸菌による発酵産物である、請求項6に記載のアルコール飲料。
【請求項8】
前記植物発酵産物が、ショウガ、ブドウ果汁、リンゴ果汁およびモモ果汁からなる群から選択される少なくとも一種の植物材料の発酵産物である、請求項6に記載のアルコール飲料。
【請求項9】
前記植物発酵産物のアルコール濃度が、1v/v%未満である、請求項6に記載のアルコール飲料。
【請求項10】
6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含有するアルコール飲料を製造する方法であって、該アルコール飲料の製造過程において、乳酸を添加することを含んでなる、方法。
【請求項11】
6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含有するアルコール飲料におけるアルコールの辛味を緩和する方法であって、該アルコール飲料の製造過程において、乳酸を添加することを含んでなる、方法。
【請求項12】
6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含有するアルコール飲料におけるショウガの辛味を緩和する方法であって、該アルコール飲料の製造過程において、乳酸を添加することを含んでなる、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショウガ風味アルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、乳酸菌飲料にしょうが成分を添加したことを特徴とするしょうが入り乳酸菌飲料が記載されている。この技術によれば、本来の乳酸菌飲料としての味覚と機能を損ねることなく、ノドを酷使しても、ノドの状態を良好に保ことが出来る乳酸菌飲料を提供できることが記載されている。しかしながら、アルコールを含む飲料に関しての具体的な記載はない。
【0003】
特許文献2には、清酒醸造の際に発生する板粕を用いた滋養飲料罐詰の製造において、僅少量のショウガのすり卸し汁と乳酸を用いることが記載されている。この技術では、乳酸はpHを4~5に調整してコクのある酸味を生じさせること等のために用いられている。ここで、飲料のアルコール度数は0.2~0.5体積%であり、いわゆるアルコール飲料(アルコール度数1体積%以上)ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-133746号公報
【特許文献2】特開昭53-056392号公報
【発明の概要】
【0005】
一方で、ショウガ風味のアルコール飲料、特にショウガ抽出物を含有するアルコール飲料には、ショウガの辛味だけでなく、アルコールの辛味に起因する飲みづらさをより顕著に感じるという課題を見出した。
【0006】
本発者らは、ショウガの辛味成分(ショウガオールまたはジンゲロール)を含有するアルコール飲料において、乳酸を含有させることにより、アルコールの辛味が緩和されることを見出した。本発明はこの知見に基づくものである。
【0007】
従って、本発明は、アルコールの辛味が緩和されたショウガ辛味成分含有アルコール飲料を提供する。
【0008】
すなわち、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールと、乳酸とを含んでなる、アルコール飲料。
(2)6-ショウガオールの含有量が0.2ppm以上である、前記(1)に記載のアルコール飲料。
(3)6-ジンゲロールの含有量が1.0ppm以上である、前記(1)または(2)に記載のアルコール飲料。
(4)6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含むショウガ抽出物を含有する、前記(1)~(3)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(5)乳酸の含有量が1ppm以上である、前記(1)~(4)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(6)乳酸を含む植物発酵産物を含有する、前記(1)~(5)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(7)前記植物発酵産物が、乳酸菌による発酵産物である、前記(6)に記載のアルコール飲料。
(8)前記植物発酵産物が、ショウガ、ブドウ果汁、リンゴ果汁およびモモ果汁からなる群から選択される少なくとも一種の植物材料の発酵産物である、前記(6)または(7)に記載のアルコール飲料。
(9)前記植物発酵産物のアルコール濃度が、1v/v%未満である、前記(6)~(8)のいずれかに記載のアルコール飲料。
(10)6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含有するアルコール飲料を製造する方法であって、該アルコール飲料の製造過程において、乳酸を添加することを含んでなる、方法。
(11)6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含有するアルコール飲料におけるアルコールの辛味を緩和する方法であって、該アルコール飲料の製造過程において、乳酸を添加することを含んでなる、方法。
(12)6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含有するアルコール飲料におけるショウガの辛味を緩和する方法であって、該アルコール飲料の製造過程において、乳酸を添加することを含んでなる、方法。
【0009】
本発明によれば、ショウガの辛味成分を含有するアルコール飲料におけるアルコールの辛さが緩和される。また、本発明によれば、ショウガの辛味成分を含有するアルコール飲料におけるショウガの辛さを緩和することも可能である。さらに、本発明によれば、ショウガの辛味成分を含有するアルコール飲料におけるマイルドな味わい(まろやかな味わい)を強化することも可能である。
【発明の具体的説明】
【0010】
本明細書において「アルコール飲料」とは、酒税法上アルコール飲料とみなされる、アルコール度数1度以上の飲料を意味する。
【0011】
本明細書において、「ppm」は「mg/L」と同義であり、「ppb」は「μg/L」と同義である。
【0012】
本発明のアルコール飲料は、6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールと、乳酸とを含んでいる。このような飲料は、飲料中の前記成分の濃度を調整することにより製造することができる。前記成分の濃度調整は、前記成分を添加することにより行ってもよいし、あるいは、前記成分を含有する原料を配合すること、またはその配合量を増減させることによって行ってもよい。
【0013】
本発明のアルコール飲料における6-ショウガオールの含有量は、好ましくは0.2ppm以上、より好ましくは0.5ppm以上とされる。本発明のアルコール飲料における6-ショウガオールの含有量の上限は、乳酸によるアルコールの辛さの緩和効果またはショウガの辛さの緩和効果が見られる限り、特に制限されるものではないが、飲料として好ましい香味を考慮してあえて設定するとすれば、150ppmとすることが好ましく、より好ましくは100ppm、さらに好ましくは50ppm、さらに好ましくは10ppm、とすることができる。
【0014】
本発明のアルコール飲料における6-ジンゲロールの含有量は、好ましくは1.0ppm以上、より好ましくは2.0ppm以上とされる。本発明のアルコール飲料における6-ジンゲロールの含有量の上限は、乳酸によるアルコールの辛さの緩和効果またはショウガの辛さの緩和効果が見られる限り、特に制限されるものではないが、飲料として好ましい香味を考慮してあえて設定するとすれば、1000ppmとすることが好ましく、より好ましくは150ppm、さらに好ましくは100ppm、さらに好ましくは50ppmとすることができる。
【0015】
本発明のアルコール飲料中の6-ショウガオールおよび6-ジンゲロールの濃度は、高速液体クロマトグラフ法(HPLC)によって測定することができる。その際に、より正確な濃度測定のためには、既知の濃度を有する幾つかの対照サンプルの測定値に基づいて作成した検量線を用いることが望ましい。
【0016】
本発明のアルコール飲料における乳酸の含有量は、好ましくは1ppm以上とされ、より好ましくは5ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上、さらに好ましくは50ppm以上、さらに好ましくは100ppm以上とされる。本発明のアルコール飲料においては、乳酸は用量依存的にアルコールの辛さの緩和効果およびショウガの辛さの緩和効果を示すため、乳酸の含有量の上限は特に制限されるものではないが、飲料として好ましい香味を考慮してあえて設定するとすれば、2000ppmとすることが好ましく、より好ましくは1500ppm、さらに好ましくは1000ppmとすることができる。
【0017】
本発明のアルコール飲料中の乳酸の濃度は、キャピラリー電気泳動法によって測定することができる。その際に、より正確な濃度測定のためには、既知の濃度を有する幾つかの対照サンプルの測定値に基づいて作成した検量線を用いることが望ましい。
【0018】
本発明のアルコール飲料は、6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含むショウガ抽出物を含有していてもよい。つまり、本発明のアルコール飲料に含まれる6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールの一部または全部は、アルコール飲料に添加されるショウガ抽出物により供給されるものであってもよい。本明細書において、「ショウガ抽出物」は非発酵の(その製造過程に発酵処理が含まれない)ショウガ抽出物を意味する。
【0019】
本発明におけるショウガ抽出物は、ショウガ(Zingiber officinale)を原料とした、6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含む抽出物であればよく、その具体的な組成や製法等は特に制限されるものではない。ショウガ抽出物は、他の植物エキスの製法と同様の方法によって製造することができ、例えば、ショウガ植物体などの原料の混合、加熱溶解、抽出、遠心分離、濾過、充填等の工程により製造することができる。また、ショウガ抽出物としては、市販のショウガ抽出物を用いてもよい。本発明のアルコール飲料の製造においてショウガ抽出物を使用する場合には、そのショウガ抽出物に含まれる6-ショウガオールおよび6-ジンゲロールの含有量を測定しておき、アルコール飲料中の6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールの含有量が上述の数値範囲に収まるような量で使用することができる。
【0020】
本発明のアルコール飲料は、乳酸を含む植物発酵産物を含有していてもよい。つまり、本発明のアルコール飲料に含まれる乳酸の一部または全部は、アルコール飲料に添加される植物発酵産物により供給されるものであってもよい。
【0021】
本発明における植物発酵産物は、植物を原料とした、乳酸を含む発酵産物であればよく、その具体的な組成や製法等は特に制限されるものではない。本発明における植物発酵産物は、当技術分野において公知の方法に従って製造することができ、例えば、特開2006-8566号公報等の記載に従って製造することができる。具体的には、植物発酵産物は、原料の混合、加熱溶解、抽出、遠心分離、濾過、充填等の工程を含む処理過程において、濾過の前に微生物による発酵および失活の工程を実行することにより製造することができる。発酵処理に用いられる微生物としては、好ましくは乳酸菌および酢酸菌からなる群から選択される少なくとも一種の微生物とされ、より好ましくは乳酸菌とされる。また、植物発酵産物としては、市販の植物発酵産物を用いてもよい。本発明のアルコール飲料の製造において植物発酵産物を使用する場合には、そこに含まれる乳酸の含有量を測定しておき、アルコール飲料中の乳酸の含有量が上述の数値範囲に収まるような量で使用することができる。
【0022】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明のアルコール飲料における、植物発酵産物に由来する乳酸の含有量は、好ましくは0.5ppm以上、より好ましくは1.0ppm以上、さらに好ましくは5ppm以上、さらに好ましくは10ppm以上、さらに好ましくは50ppm以上、さらに好ましくは100ppm以上とされる。本発明のアルコール飲料における乳酸の含有量の上限については、上述した通りである。
【0023】
本発明の好ましい実施態様によれば、本発明における植物発酵産物は、ショウガ、ブドウ果汁、リンゴ果汁およびモモ果汁からなる群から選択される少なくとも一種の植物材料の発酵産物とされ、より好ましくはショウガおよび/またはブドウ果汁の発酵産物とされ、さらに好ましくはショウガの発酵産物とされる。
【0024】
特に、ショウガの発酵産物は、乳酸の供給源であるだけでなく、6-ショウガオールおよび6-ジンゲロールの供給源ともなりうる。従って、本発明のアルコール飲料の製造においてショウガ発酵産物を使用する場合には、そこに含まれる乳酸の含有量だけでなく、6-ショウガオールおよび6-ジンゲロールの含有量も測定しておき、アルコール飲料中の乳酸、6-ショウガオールおよび6-ジンゲロールの含有量が上述の数値範囲に収まるような量で使用することができる。また、6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含有する他の植物発酵産物を使用する場合も同様である。
【0025】
本発明における植物発酵産物のアルコール濃度は、好ましくは1v/v%未満とされる。発酵度合を制御して、アルコール濃度を1v/v%未満とすることにより、本発明の効果をより発揮することができる。
【0026】
本発明のアルコール飲料のアルコール濃度は、特に制限されるものではないが、好ましくは1.0~20.0v/v%、より好ましくは1.0~10.0v/v%、さらに好ましくは3.0~9.0v/v%とすることができる。一つの実施態様によれば、飲料のアルコール濃度は5.0v/v%以上とされ、好ましくは5.0~20.0v/v%、より好ましくは5.0~10.0v/v%、さらに好ましくは5.0~9.0v/v%とされる。
【0027】
本発明は、辛味の抑制を可能とするものであるため、辛味が強く感じられやすい甘さひかえめのアルコール飲料において特に有用である。よって、本発明の好ましい実施態様によれば、本発明のアルコール飲料は甘さが少ないアルコール飲料とされ、例えば、甘味度が5以下、より好ましくは4以下、さらに好ましくは3以下のアルコール飲料とされる。本明細書において「甘味度」とは、ショ糖の甘味を基準とした甘味の度合いであり、ショ糖水溶液におけるショ糖濃度(w/v%)に相当する。例えば、甘味度2は、ショ糖水溶液2w/v%の甘味に相当する。
【0028】
本発明のアルコール飲料は、飲料の製造に用いられる他の成分を含んでもよい。このような他の成分としては、例えば、甘味料(例えば、砂糖、ブドウ糖、果糖、オリゴ糖、異性化液糖、糖アルコール、高甘味度甘味料等)、酸味料(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、リン酸、フィチン酸、イタコン酸、フマル酸、グルコン酸、アスコルビン酸、アジピン酸、酢酸、コハク酸またはそれらの塩類等)、食塩、色素、食品添加剤(例えば、起泡・泡持ち向上剤、苦味料、保存料、酸化防止剤、増粘安定剤、乳化剤、食物繊維、pH調整剤など)、穀物発酵エキス等を適宜添加することができる。
【0029】
本発明のアルコール飲料は、二酸化炭素を圧入したもの、すなわち、炭酸飲料とすることができる。炭酸ガス圧は、好みに応じて適宜調整することができ、例えば、0.01~0.4MPa(20℃におけるガス圧)、好ましくは0.08~0.3MPa(20℃におけるガス圧)の範囲で調整することができる。
【0030】
本発明のアルコール飲料は、pHを、例えば、2.0~6.0、好ましくは2.3~4.5に調整することができる。飲料のpHは市販のpHメーターを使用して容易に測定することができる。
【0031】
本発明のアルコール飲料は、好ましくは容器詰飲料として提供される。本発明のアルコール飲料に使用される容器は、飲料の充填に通常使用される容器であればよく、例えば、金属缶、樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル、カップ)、紙容器、瓶、パウチ容器等が挙げられるが、好ましくは金属缶・樽容器、プラスチック製ボトル(例えば、PETボトル)、または瓶とされる。
【0032】
本発明の一つの実施態様によれば、本発明のアルコール飲料は、6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールならびに乳酸の濃度調整以外は、通常のアルコール飲料の製造方法に従って製造することができる。例えば、まず、タンク中において、アルコールを含有した水溶液に、糖または甘味料、および香料等と共に酸味料を加えて香味を調整する。次いで、香味を整えた水溶液に炭酸ガスを加えて、炭酸ガス含有飲料を製造することができる。本発明のアルコール飲料は、このような製造過程のいずれかの段階で、6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールならびに乳酸の濃度を調整することによって製造することができる。
【0033】
本発明の他の態様によれば、6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含有するアルコール飲料におけるアルコールの辛味を緩和する方法が提供され、該方法は、該アルコール飲料の製造過程において、乳酸を添加することを含んでなる。本発明の好ましい実施態様によれば、6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールの含有量、ならびに乳酸の含有量は、上述の数値範囲に収まるように調整される。
【0034】
本発明の他の態様によれば、6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールを含有するアルコール飲料におけるショウガの辛味を緩和する方法が提供され、該方法は、該アルコール飲料の製造過程において、乳酸を添加することを含んでなる。本発明の好ましい実施態様によれば、6-ショウガオールおよび/または6-ジンゲロールの含有量、ならびに乳酸の含有量は、上述の数値範囲に収まるように調整される。
【実施例0035】
以下の実施例に基づいて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0036】
ショウガ抽出物
ショウガ抽出物としては、ショウガ植物体などの原料の混合、加熱溶解、抽出、遠心分離、濾過の各処理を経て得られた2種類のショウガ抽出物(液体。いずれも市販品。以下「ショウガ抽出物A」および「ショウガ抽出物B」という)を用意した。ショウガ抽出物Aは、1200ppmの6-ショウガオール、6200ppmの6-ジンゲロール、および393ppmの乳酸を含有していた。ショウガ抽出物Bは、690ppmの6-ショウガオール、30ppmの6-ジンゲロール、および80ppmの乳酸を含有していた。
【0037】
植物発酵産物
植物発酵産物としては、ショウガ抽出物を乳酸菌により発酵させ、その後に遠心処理、殺菌および濾過の各処理を経て得られたショウガ発酵産物(液体)を用意した。このショウガ発酵産物のアルコール濃度は1v/v%未満であった。
【0038】
さらに、植物発酵産物として、白ブドウ果汁を乳酸菌によりマロラクティック発酵させ、その後に遠心処理、殺菌および濾過の各処理を経て得られた発酵ブドウ果汁を用意した。この発酵ブドウ果汁のアルコール濃度は1v/v%未満であった。
【0039】
試飲サンプル
以下の実施例において、いずれの試飲サンプルも次の条件を満たすものとした:
・アルコール濃度:6v/v%;
・pH:2.4~3.0;
・炭酸ガス圧:0.18~0.21MPa;
・酸度:0.32%~0.38%;
・甘味度:0;
・6-ショウガオール、6-ジンゲロールおよび乳酸が所定の濃度となるように、2種類のショウガ抽出物、ならびに乳酸または植物発酵産物を添加。
【0040】
官能評価
官能評価は、十分に訓練された6名のパネラーによって行った。評価項目は、「ショウガの辛味緩和効果」、「アルコールの辛味緩和効果」および「マイルドな味わい」(まろやかな味わい)の3項目とした。試飲サンプルの特徴として辛味が口内に蓄積しやすいため、試飲の際には、1つのサンプルを試飲した後、水で口直ししてから次のサンプルの試飲を行った。官能評価は、以下に示す1~5の0.5刻みのスコアで行い、評価結果は、6名のスコアの平均値および標準偏差として示した。
【0041】
(1)「ショウガの辛味緩和効果」および「アルコールの辛味緩和効果」の評価基準:
1:陰性対照と同等;
2:陰性対照と比較して効果を感じる;
3:陰性対照と比較して明らかに効果を感じる;
4:陰性対照と比較して顕著に高い効果を感じる;
5:陰性対照と比較して非常に高い効果を感じる。
【0042】
(2)「マイルドな味わい」(まろやかな味わい)の評価基準:
1:陰性対照と同等;
2:陰性対照と比較してマイルド(まろやか)な味わいを感じる;
3:陰性対照と比較して明らかにマイルド(まろやか)な味わいを感じる;
4:陰性対照と比較して顕著にマイルド(まろやか)な味わいを感じる;
5:陰性対照と比較して非常にマイルド(まろやか)な味わいを感じる。
【0043】
実施例1:ショウガ辛味成分含有アルコール飲料における乳酸の効果の確認
乳酸を添加した、6-ショウガオールおよび6-ジンゲロールを含有する試飲サンプルを用意し、官能評価を行った。結果を、アルコール濃度、6-ショウガオール濃度、6-ジンゲロール濃度および乳酸濃度、ならびに各材料の添加量とともに、以下の表1に示す。
【0044】
【0045】
まず、試験区1および2では、アルコールを含まないサンプルを用いて、乳酸によるショウガの辛味緩和効果を調べている。この試験においては、ショウガ抽出物に由来する微量の乳酸しか含まない試験区1(陰性対照)の評価スコア(ショウガの辛味緩和効果およびマイルドな味わい)を1.0に固定して、試験区2の評価を行った。その結果、陰性対照である試験区1に比べ、試験区2ではショウガの辛味緩和効果およびマイルドな味わい(まろやかな味わい)の両方の項目においてスコアが上昇しており、アルコールを含まない飲料における乳酸の効果が実証された。
【0046】
次に、アルコールを含む飲料における効果を、試験区3~8の試飲サンプルを用いて評価した。この試験においては、乳酸濃度が0.16ppmである試験区3(陰性対照)の全項目の評価スコアを1.0に固定し、乳酸濃度が1000.16ppmである試験区7(陽性対照)の全項目の評価スコアを5.0に固定した。試験区3~7の結果から、全ての評価項目において、乳酸は用量依存的に効果を発揮することが明らかとなった。また、試験区8の結果から、ショウガの辛味成分を大量に含むアルコール飲料においても、乳酸はアルコールの辛味緩和効果を発揮することができ、かつ、マイルドな味わい(まろやかな味わい)を強化できることが明らかとなった。
【0047】
実施例2:ショウガ辛味成分含有アルコール飲料における植物発酵産物の効果の確認
本実施例では、実施例1において確認された乳酸の効果が、乳酸の供給源として植物発酵産物を用いた場合にも見られるか否かを調べた。結果を、アルコール濃度、6-ショウガオール濃度、6-ジンゲロール濃度および乳酸濃度、ならびに各材料の添加量とともに、以下の表2に示す。
【0048】
【0049】
表2に示す官能評価は、上述の試験区3(陰性対照)の全項目の評価スコアを1.0に固定し、試験区7(陽性対照)の全項目の評価スコアを5.0に固定して行った。表2によれば、乳酸の供給源としてショウガ発酵産物を用いた場合にも、全評価項目において表1と同様の効果が得られることが明らかとなった。特に、表1に示す試験区8と表2に示す試験区9の官能評価結果を比較すると、乳酸の供給源としてショウガ発酵産物を用いることにより、ショウガの辛味緩和効果が高くなり、マイルドな味わい(まろやかな味わい)も強化されることが明らかとなった。
【0050】
さらに、試験区9で用いた乳酸とショウガ発酵産物の組み合わせの代わりに、発酵ブドウ果汁を用いた試飲サンプル(アルコール濃度:6v/v%;ジンゲロール濃度:23.29ppm;ショウガオール濃度:5.47ppm)を用いて同様の評価を行った。発酵ブドウ果汁の添加濃度は1v/v%とした。その結果、発酵ブドウ果汁を用いた試飲サンプルにおいても、ショウガ発酵産物を用いた場合と同様の傾向がみられた。