(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043252
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】ステントデリバリーシステムの製造方法
(51)【国際特許分類】
A61F 2/958 20130101AFI20240322BHJP
【FI】
A61F2/958
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148333
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】松崎 洋平
【テーマコード(参考)】
4C267
【Fターム(参考)】
4C267AA06
4C267AA55
4C267BB02
4C267BB05
4C267BB63
4C267CC09
4C267GG05
4C267GG06
4C267GG07
4C267GG08
4C267GG09
(57)【要約】
【課題】本発明では、ステントプロファイルが小さく、ステントとバルーンの間の保持力が高いステントデリバリーシステムの製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】バルーンを有するバルーンカテーテル、ステントを準備する準備工程と、前記バルーンの外表面または前記ステントの内表面を改質する表面処理工程と、前記ステントに圧縮力を付与し、前記ステントを収縮させ前記バルーンの外表面上に圧着する第1圧着工程と、前記ステントへの圧縮力を解除する解除工程と、前記バルーンを加圧し前記ステントに圧着する第2圧着工程と、を有することを特徴とする。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステントデリバリーシステムの製造方法であって、流体の供給により加圧可能で、径方向に拡張および収縮可能なバルーンを有するバルーンカテーテル、および隙間を有する筒状の形状で、径方向に拡張および収縮可能なステントを準備する準備工程と、前記準備工程後に、前記バルーンの外表面と前記ステントの内表面の間の密着性を向上させるように、前記バルーンの外表面または前記ステントの内表面を改質する表面処理工程と、前記表面処理工程後に、前記ステントの外表面上で径方向内側に向かって圧縮力を付与して前記ステントを収縮させ、前記バルーンの外表面上に圧着する第1圧着工程と、前記第1圧着工程後に、前記ステントへの圧縮力を解除する解除工程と、前記解除工程後に、前記バルーンを加圧し、前記バルーンの外表面を前記ステントの隙間に押し付け、前記ステントに圧着する第2圧着工程と、を有することを特徴とするステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項2】
前記表面処理工程において、前記バルーンの外表面または前記ステントの内表面をプラズマ照射により改質することを特徴とする請求項1に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項3】
前記第1圧着工程において、前記バルーンを加圧しないことを特徴とする請求項1に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項4】
前記第2圧着工程において、前記ステントの径方向外側に規制部材を配置し、前記ステントの拡張を規制することを特徴とする請求項1に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項5】
前記バルーンは、径方向に沿って樹脂が複数層に分かれた多層構造であり、前記樹脂の配向方向が層毎に異なっていることを特徴とする請求項1に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項6】
前記バルーンカテーテルは、軸方向に延び先端および基端を有する外管と、前記外管内で軸方向に延び前記外管の先端よりも先端側にある先端および前記外管の先端よりも基端側にある基端を有する内管と、を有し、前記バルーンの先端は前記内管の先端側と接続し、前記バルーンの基端は前記外管の先端側と接続し、前記内管は先端側である先端内管と基端側である基部内管を有し、前記先端内管の硬度が前記基部内管の硬度より低いことを特徴とする請求項1に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【請求項7】
前記基部内管は径方向に沿って内層と外層に分かれており、前記外層の硬度が前記内層の硬度より低いことを特徴とする請求項6に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントデリバリーシステムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血管等の生体管腔における病変部の治療方法として、カテーテルのような治療器具を経皮的に生体管腔に導入し、体内埋込型の医療器具であるステントを留置する治療方法が知られている。ステントの形状は管状で、その表面に隙間が形成されているため、術者はステントを径方向に収縮または拡張することができる。また、ステント留置後の生体管腔内の再狭窄を予防するため、ステントの表面に免疫抑制剤などの薬剤がコートされた薬剤溶出ステントも知られている。
【0003】
ステントは、収縮された状態でステントデリバリーシステムによって狭窄部や閉塞部などの生体管腔内の病変部まで送達された後、拡張され、生体管腔内に留置される。ステントの拡張方式には、バルーン拡張型と自己拡張型が存在する。このうち、バルーン拡張型のステントは、収縮されてバルーンカテーテルのバルーンに圧着(クリンプ)される。目的の病変部まで送達(デリバリー)した後、術者がバルーンを拡張することにより、ステントは生体管腔内に留置される。自己拡張型のステントは、収縮されてシース内に拘束される。目的の病変部までデリバリーした後、シースによるステントの拘束が解除されることにより、ステントは生体管腔内に留置される。
【0004】
ステントを目的の病変部までデリバリーするにあたり、ステントデリバリーシステムには通過性が求められる。細い病変部または管腔内経路をステントデリバリーシステムが通過するためには、ステントデリバリーシステムの細径化が求められる。通常、病変部に近づくほど管腔内経路は細くなり、病変部の入口は顕著に狭いため、ステントデリバリーシステムの先端側や最先端の細径化は特に重要である。また、蛇行した病変部または管腔内経路を傷つけずにステントデリバリーシステムが通過するためには、ステントデリバリーシステムの先端側が病変部または管腔内経路の形状に追従して通過できること、すなわちステントデリバリーシステムの先端側の柔軟性の向上が求められる。ステントデリバリーシステムの基端側においても、蛇行した病変部や管腔内経路に沿ってステントデリバリーシステムが通過するために柔軟性の向上が求められる。一方、ステントデリバリーシステムの基端側においては、通過中のステントデリバリーシステムの座屈が起きないように伝達性の向上も求められる。従って、ステントデリバリーシステムでは、通過性の向上のため、細径化、先端側の柔軟性の向上、基端側の適度な柔軟性および伝達性の向上が求められる。
【0005】
バルーン拡張型ステントにおいて、ステントデリバリーシステムの外径は、基端側から先端側にわたって一様でない。特に、ステントがクリンプされている領域は、バルーンとステントの厚みの影響により、その周囲と比べてステントデリバリーシステムの外径が大きくなる。このため、ステントデリバリーシステムを細径化するためには、ステントをバルーンカテーテルにクリンプする工程(クリンプ工程)において、クリンプされたステントの外径(ステントプロファイル)を小さくすることが重要である。
【0006】
また、バルーン拡張型ステントのステントデリバリーシステムでは、ステントとバルーンの間の保持力が低い場合、デリバリー中にステントがバルーンから脱落する可能性があるため、クリンプ工程において、ステントとバルーンの間の保持力を高くすることが重要である。
【0007】
特許文献1では、クリンプ工程において、ステントを収縮してバルーンに圧着した後、バルーンに流体を供給してバルーンを加圧し、加圧したバルーンをステントに押し付けることで、ステントとバルーンの間の保持力を向上させる技術が開示されている。
【0008】
特許文献2では、クリンプ工程において、プラズマ処理等の表面改質処理をバルーンの外面およびステントの内面に施した後、ステントを収縮してバルーンに圧着することで、ステントとバルーンの間の保持力を向上させる技術が開示されている。
【0009】
特許文献3では、クリンプ工程において、ステントを収縮してバルーンに圧着する間、バルーンを加圧および加熱することで、バルーンがステントの隙間内に拡張して、ステントをバルーンの外表面内に埋め込み、ステントとバルーンの間の保持力を向上させる技術が開示されている。その後、バルーンの加圧を解除し、再度ステントを収縮してバルーンに圧着し、ステントプロファイルを小さくし、ステントとバルーンの間の保持力を強化する技術が開示されている。
【0010】
特許文献4では、樹脂の配向方向が周方向である層と軸方向である層を重ねた多層構造のバルーンにより、バルーンの周方向および軸方向の破裂強度を向上させる技術が開示されている。これにより、一般に求められる破裂強度を薄型のバルーンで達成し、バルーンカテーテルのバルーン領域の外径を小さくすることを開示している。
【0011】
特許文献5では、バルーンの先端と接合するインナーチューブの硬度が軸方向に変化することで、バルーンカテーテルの柔軟性と伝達性を向上させる技術が開示されている。また、インナーチューブの基端側セグメントの硬度を高くすることで、良好な伝達性を達成しつつ、基端側セグメントを薄肉化して外径を小さくして、バルーンカテーテルの通過性が向上することを開示している。
【0012】
特許文献6では、内管の先端側を基端側より柔軟にすることで、先端側の柔軟性により偏心あるいは蛇行した狭窄部位での通過性を向上させ、基端側の剛性により血管内への挿入作業性を向上させる技術が開示されている。また、先端側の柔軟である範囲が、少なくともバルーン部の先端部との接続部、好ましくは、開口端からバルーン部の長手方向中央付近まで、あるいは開口端からバルーン部の基端部とカテーテル管との接続部付近までの範囲であることを開示している。
【0013】
特許文献7では、内層に剛性の高い耐エタノール性の良好な樹脂を用いたインナーチューブの基端部において、外層に柔軟性のある樹脂を用いることで、インナーチューブの基端部の剛性を低下させる技術が開示されている。また、インナーチューブの先端チップ部の剛性を基端部より低くすることで、インナーチューブの先端部分に柔軟性を付与し、バルーンカテーテルの通過性を向上させる技術が開示されている。
【0014】
特許文献8では、基端シャフト、中間シャフト、先端シャフトを有し、中間シャフトの柔軟性が最も高いバルーンカテーテルにおいて、中間シャフトと基端シャフトとが重なり合うオーバーラップ部において、基端シャフトに中間シャフトが固定された固定部よりも先端側に、中間シャフトと基端シャフトとが固定されず重なり合う非固定部が延在することにより、バルーンカテーテルを軸方向基端側に引っ張った際の先端シャフトの伸びを抑制する技術が開示されている。また、オーバーラップ部を除いた中間シャフトの長さが短くなることで、バルーンカテーテルの伝達性が向上することを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2013-244155
【特許文献2】国際公開2016/002526
【特許文献3】特表2009-539560
【特許文献4】特開2016-209062
【特許文献5】特開2018-078984
【特許文献6】特開平7-265437
【特許文献7】特開2017-063985
【特許文献8】国際公開2014/141440
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明では、ステントプロファイルが小さく、ステントとバルーンの間の保持力が高いステントデリバリーシステムの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記目的を達成するステントデリバリーシステムの製造方法は、流体の供給により加圧可能で、径方向に拡張および収縮可能なバルーンを有するバルーンカテーテル、および隙間を有する筒状の形状で、径方向に拡張および収縮可能なステントを準備する準備工程と、前記準備工程後に、前記バルーンの外表面と前記ステントの内表面の間の密着性を向上させるように、前記バルーンの外表面または前記ステントの内表面を改質する表面処理工程と、前記表面処理工程後に、前記ステントの外表面上で径方向内側に向かって圧縮力を付与して前記ステントを収縮させ、前記バルーンの外表面上に圧着する第1圧着工程と、前記第1圧着工程後に、前記ステントへの圧縮力を解除する解除工程と、前記解除工程後に、前記バルーンを加圧し、前記バルーンの外表面を前記ステントの隙間に押し付け、前記ステントに圧着する第2圧着工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0018】
上記のように構成したステントデリバリーシステムにおいては、第1圧着工程によりステントプロファイルが小さくなり、ステントとバルーンの間に保持力が発生する。そして、第2圧着工程でバルーンの外表面がステントの隙間に押し付けられることにより、ステントとバルーンの間の保持力が向上する。また、表面処理工程により、ステントとバルーンの間の保持力がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本実施形態に係るステントデリバリーシステムの全体図である。
【
図2】本実施形態に係る、バルーンおよびステントが収縮状態にあるステントデリバリーシステムのバルーンとその近傍の位置における軸方向に平行な断面図である。
【
図3】本実施形態に係るステントデリバリーシステムの中間シャフトとその近傍の位置における軸方向に平行な断面図である。
【
図4】本実施形態に係る、バルーンが収縮状態にあるステントデリバリーシステムのバルーンの位置におけるステントを除いた軸方向に垂直な断面図である。
【
図5】本実施形態に係る、バルーンおよびステントが収縮状態にあるステントデリバリーシステムのステントとその近傍の位置における拡大図である。
【
図6】本実施形態に係るステントデリバリーシステムの製造方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。また、ここで示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するために例示するものであって、本発明を限定するものではない。本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者などにより考え得る実施可能な他の形態、実施例および運用技術などは全て本発明の範囲、要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【0021】
本明細書に添付する図面において、ステントデリバリーシステムが延在する方向を軸方向、軸方向に垂直な平面上でバルーンおよびステントが拡張および収縮する方向を径方向、軸方向に垂直な平面上で径方向に垂直な方向を周方向とする。また、図面上の軸方向において、ステントデリバリーシステムが生体内に挿入される側を先端側、術者が操作する側を基端側とする。また、単に先端および基端と称する場合、それぞれ先端側および基端側の端面を指すものとする。
【0022】
本実施形態に係るステントデリバリーシステム10は、
図1~5に示すように、内管20、先端外管30、中間シャフト40、基部外管50、コネクタ60、補強体70、バルーン80、ステント90を有する。
【0023】
内管20は、ステントデリバリーシステム10の先端から中間位置にかけて軸方向に延在している。内管20の先端はステントデリバリーシステム10の先端となっている。内管20のルーメンではガイドワイヤが通過可能となっている。また、
図2に示すように、内管20の先端側では先端造影マーカー23および基部造影マーカー24が配置されている。また、内管20の先端側と基端側では構成する材料が異なっている。内管20の先端側である先端内管21は、内管20の基端側である基部内管22より柔らかい材料で構成されている。
【0024】
先端外管30は、ステントデリバリーシステム10の先端側から中間位置にかけて軸方向に延在している。先端外管30のルーメンには内管20が配置されている。先端外管30の先端は内管20の先端よりも基端側にあり、先端外管30の基端は内管20の基端よりも先端側にある。
【0025】
中間シャフト40は、ステントデリバリーシステム10の中間位置において軸方向に延在している。中間シャフト40の先端は先端外管30の基端と接続し、中間シャフト40の基端は内管20の基端より基端側に位置している。また、
図3に示すように、中間シャフト40の壁面には開口部41が存在し、基部内管22は開口部41を通過しており、開口部41と基部内管22の外周の間に隙間はない。中間シャフト40と基部内管22の間のルーメンは、先端外管30と基部内管22の間のルーメンと連通している。
【0026】
基部外管50は、ステントデリバリーシステム10の中間位置から基端側にかけて軸方向に延在している。基部外管50の先端は中間シャフト40の基端と接続している。基部外管50のルーメンは中間シャフト40のルーメンおよび中間シャフト40と内管20の間のルーメンと連通している。
【0027】
コネクタ60は、ステントデリバリーシステム10の基端側において軸方向に延在している。コネクタ60の先端は基部外管50の基端と接続しており、コネクタ60の基端はステントデリバリーシステム10の基端となっている。コネクタ60のルーメンは基部外管50のルーメンと連通している。コネクタ60の基端は開口しており、ここからルーメン内に流体を供給、またルーメン内から流体を吸引することが可能である。コネクタ60の基端はシリンジやインデフレータ等の流体を供給または吸入可能な器具と接続可能である。
【0028】
補強体70は、中間シャフト40および基部外管50のルーメンにおいて軸方向に延在している。また、
図3に示すように、補強体70の先端は開口部41より先端側にあり、補強体70の基端は基部外管50の先端より基端側で基部外管50と接続している。補強体70は中実部材である。
【0029】
バルーン80はステントデリバリーシステム10の先端側において軸方向に延在している。バルーン80の先端は内管20と接続して、バルーン80の基端は先端外管30に接続している。バルーン80の内部空間は先端外管30と内管20の間のルーメンと連通しており、流体が供給または吸引されることでバルーン80は加圧または減圧され、拡張または収縮する。また、
図4に示すように、収縮状態のバルーン80は、軸方向に垂直な断面上で、バルーン80の延在方向に沿って凸部81、平滑部82、凹部83が交互に配置された構造を有している。平滑部82が内管20に巻き付くような形態となり、凸部81は周方向に向かって凸となっている。拡張状態のバルーン80は周方向に沿って平滑であり、軸方向に垂直な断面においてバルーン80の断面は円形である。
【0030】
ステント90は、
図5に示すように、線状部91と湾曲部92が交互に接続した波状の環状体93が軸方向に複数配置され、先端側から基端側にかけて、隣接する環状体93がリンク部94で接続されることにより形成された、隙間を有する筒状の形状を呈している。収縮状態のステント90は湾曲部92に隣接する線状部91の成す角度(湾曲部92の開き)が小さく、ステント90はバルーン80と接触している。バルーン80を拡張させると、湾曲部92の開きが大きくなることでステント90が拡張する。
【0031】
本実施形態に係るステントデリバリーシステム10の製造方法は、
図6に示すように、準備工程S10およびクリンプ工程S20から構成される。
【0032】
準備工程S10は、バルーンカテーテルを準備するバルーンカテーテル準備工程S11およびステント90を準備するステント製造工程S12から構成される。
【0033】
バルーンカテーテル製造工程S11では、内管20、先端外管30、中間シャフト40、基部外管50、コネクタ60、補強体70、バルーン80の各部材を準備する。続いて、内管20を先端外管30に挿入し、バルーン80の先端と内管20、バルーン80の基端と先端外管30を接続する。続いて、開口部41に内管20の基端を通過させ、先端外管30の基端と中間シャフト40の先端を接続する。続いて、補強体70の基端と基部外管50を接続し、中間シャフト40の基端と基部外管50の先端を接続する。続いて、基部外管50の基端とコネクタ60の先端を接続する。
【0034】
ステント製造工程S12では、素材となる円筒部材を準備し、ステント90の隙間となる部分の輪郭に対しレーザー照射を行い、円筒部材からステント90の隙間となる部分を分離する。続いて、分離した隙間となる部分を円筒部材から除去して、円筒部材をステント90の形状にする。続いて、研磨工程でステント90の表面を研磨する。
【0035】
クリンプ工程S20では、ステント製造工程S12で準備したステント90が、バルーンカテーテル製造工程S11で準備したバルーンカテーテルにクリンプされる。クリンプ工程S20は、表面処理工程S21、第1圧着工程S22、解除工程S23、第2圧着工程S24、加圧解除工程S25から構成される。
【0036】
表面処理工程S21では、バルーン80の外表面にプラズマ処理を行う。プラズマ処理は、チャンバーを有するプラズマ発生装置のチャンバー内にバルーンカテーテルを入れ、バルーンカテーテルにプラズマを照射する。プラズマ処理の具体的な実施法は、例えば特許文献2を参考されたい。
【0037】
第1圧着工程S22では、縮径状態のバルーン80の径方向の外側に、縮径状態のバルーン80よりも大きな内径を有する状態にあるステント90を配置する。ステント90の径方向の外側から内側に向かって圧縮力(外力)を付与し、ステント90がバルーン80にクリンプされる。外力は、例えば特許文献1に記載されるような外力付与機構により付与される。外力付与機構がステント90の外表面に接触し、径方向の内側に向かって移動することでステント90が縮径される。その後、ステント90内表面がバルーン80の外表面に接触し、さらに外力付与機構が径方向の内側に向かって移動することでステント90がバルーン80にクリンプされる。外力付与機構の移動は任意の位置で停止し、一定時間その位置が保持される。ステント90がバルーン80にクリンプされる間、バルーン80は加圧されない。
【0038】
解除工程S23では、第1圧着工程S22で付与した外力を解除する。外力付与機構が径方向の外側に向かって移動することで、外力付与機構がステント90から離れ、ステント90に付与されていた外力が解除される。外力の付与が解除された状態は一定時間維持される。
【0039】
第2圧着工程S24では、バルーン80にクリンプされたステント90の径方向の外側に規制部材を配置した後、バルーン80に流体を供給してバルーン80を加圧および拡張する。バルーン80またはステント90が拡張して規制部材と接触すると、バルーン80およびステント90の拡張は制限される。バルーン80およびステント90の拡張が制限されつつ、バルーン80が加圧された状態が一定時間維持される。
【0040】
加圧解除工程S25では、第2圧着工程S24でバルーン80に供給した流体を吸引し、バルーン80を減圧および収縮する。これによりバルーン80またはステント90が規制部材から受けていた抗力が減少し、規制部材に対してステントデリバリーシステム10を軸方向に動かせるようになる。そして、規制部材をステントデリバリーシステム10から外してクリンプ工程S20が終了する。
【0041】
以下、本実施形態に係るステントデリバリーシステム10の製造方法を構成する各工程を補足する。
【0042】
バルーンカテーテル製造工程S11では、公知のバルーンカテーテルの製造方法を適用してよい。バルーンカテーテルを構成する各部材の接続する順序などは適宜変更可能である。また、例えば、内管20、先端外管30、バルーン80が接続した中間部材を用意し、中間部材に対してクリンプ工程S20を行い、その後、中間部材以外の部材を中間部材に接続してステントデリバリーシステム10を製造してもよい。
【0043】
バルーンカテーテル製造工程S11では、収縮状態のバルーン80が用意される。収縮状態のバルーン80は、軸方向に垂直な断面上で、バルーン80の延在方向に沿って凸部81、平滑部82、凹部83が交互に配置された構造を有している。平滑部82が内管20に巻き付くような形態となり、凸部81は周方向に向かって凸となっている。
【0044】
バルーンカテーテル製造工程S11では、収縮状態から部分的に拡張したバルーン80が用意されてもよい。これにより、第1圧着工程S22において、収縮状態のバルーン80が用意された場合と比較して、バルーン80の外表面がステント90の隙間に押し付けられた状態を形成しやすくなり、ステント90とバルーン80の間の保持力が向上する。収縮状態のバルーン80を部分的に拡張する場合のバルーン80に与える圧力は、軸方向に垂直な断面がおよそ円形になるまでに要する圧力の5~30%程度である。バルーン80の周囲に規制部材を配置し、規制部材の内面を超えてバルーン80が拡張されることを抑制してもよい。規制部材を利用することで、バルーン80が部分的に拡張した状態を安定して形成できる。規制部材は特に限定されないが、例えば円筒形状の樹脂製のシースである。規制部材を利用した場合、収縮状態のバルーン80を部分的に拡張する場合のバルーン80に与える圧力は、規制部材を利用しない場合よりも大きくてもよい。例えば、その圧力は、軸方向に垂直な断面がおよそ円形になるまでに要する圧力の5~300%程度である。仮に、後の工程である第1圧着工程S22でバルーン80を加圧しない場合、バルーンカテーテル製造工程S11で用意するバルーン80が収縮状態である方が部分的に拡張した状態よりも、第1圧着工程S22の後のステントプロファイルが小さくなり得る。他方、第1圧着工程S22でバルーン80を加圧する場合、バルーンカテーテル製造工程S11で用意するバルーン80が収縮状態である場合と部分的に拡張した状態である場合とで、第1圧着工程S22の後のステントプロファイルは同等である。第1圧着工程S22においてバルーン80を加圧しない限りでは、ステントプロファイルを低下させるため、ステントバルーンカテーテル製造工程S11で用意されるバルーン80は、収縮状態であることが望ましい。
【0045】
ステント製造工程S12では、公知のステント90製造方法を適用してよい。
【0046】
表面処理工程S21では、バルーン80の外表面に対し、(a)カルボキシル基、ヒドロキシル基、アミノ基等の極性基の表面への付与、(b)表面に付着している微細な有機汚れの除去、(c)表面への粗さの付与、の全部又は少なくとも一つの効果が生じ、ステント90をクリンプした後のステント90とバルーン80の間の保持力が向上する。表面処理方法としては、プラズマ照射、紫外線照射、コロナ放電等が適用される。このうち、表面処理が容易にできるという点から、プラズマ処理が好ましい。
【0047】
また、表面処理工程S21では、プラズマ処理する際の、プラズマ発生装置のチャンバー内に入れるバルーンカテーテルのバルーン80は平滑部82が内管20に巻き付き、凸部81が周方向に向かって凸となっている状態が好ましい。そのようにすることで、ステント90がクリンプされるバルーン80の表面が確実に表面処理される。ただし、拡張状態にあるバルーン80、収縮状態にあって平滑部82が内管20に巻き付いていないバルーン80、拡張状態と収縮状態の間で部分的に拡張しているバルーン80に対して表面処理を行ってもよい。
【0048】
また、表面処理工程S21では、ステント90に表面処理を施してもよい。ステント90が金属製である場合、ステント90の表面に対し、(d)酸化被膜に水和した水分子の活性化又は結合水の除去、(e)表面に付着している微細な有機汚れのクリーニング、の全部又は少なくとも一つの効果が生じ、ステント90をクリンプした後のステント90とバルーン80の間の保持力がさらに向上する。全体的または部分的に薬剤やポリマー等でコートされているステント90に対しても表面処理を施してよい。また、部分的にコートされているステント90に対して、コートされている領域をマスキング等により除いた表面に対して表面処理を施してよい。ステント90に対する表面処理方法としては、バルーン80に対する表面処理方法と同様に、プラズマ照射、紫外線照射、コロナ放電等が適用される。このうち、表面処理が容易にできるという点から、プラズマ処理が好ましい。
【0049】
第1圧着工程S22では、ステント90が縮径状態のバルーン80にクリンプされる。ステント90がバルーン80にクリンプされる間、バルーン80に流体を供給してバルーン80を加圧してもよい。ただし、ステント90がバルーン80にクリンプされる間、バルーン80を加圧しないことが望ましい。これにより、バルーン80を加圧する場合と比較して、第1圧着工程S22後のステントプロファイルを小さくすることができる。このため、第2圧着工程S24後も、第1圧着工程S22でバルーン80を加圧しない方が、バルーン80を加圧する場合よりも、ステントプロファイルを小さくすることができる。一方、第1圧着工程S22でバルーン80を加圧する場合、バルーン80を加圧しない場合よりもステント90とバルーン80の間の保持力が向上する。ステントデリバリーシステム10として、デリバリー時の通過性よりもステント90とバルーン80の間の保持力を重視する場合、第1圧着工程S22でバルーン80に流体を供給してバルーン80を加圧することが望ましい。
【0050】
また、第1圧着工程S22では、ステント90の縮径量を増加していく途中で外力の付与を停止してもよい。外力の付与を停止している間にステント90と外力付与機構の接触を解除してステント90の位置を調整してもよい。外力を停止する場合、その回数は特に限定されない。ステント90の縮径速度または外力の増加速度は一定でも一定でなくてもよい。ステント90の縮径量または外力が最大に達した後、縮径値または外力を一定時間保持してもよいし、直ちに外力の付与を停止してもよい。外力の大きさや外力を保持する場合の時間は特に限定されない。
【0051】
また、第1圧着工程S22では、内管20のルーメンに芯金を挿入することが望ましい。芯金を挿入することで、内管20の変形を防止できる。
【0052】
解除工程S23では、第1圧着工程S22で付与された外力が解除され、ステント90と外力付与機構の接触が解除される。外力の減少速度は特に限定されない。また、第2圧着工程S24に移行するまでの時間は特に限定されない。
【0053】
第2圧着工程S24では、バルーン80にクリンプされたステント90の径方向の外側に規制部材を配置した後、バルーン80に流体を供給してバルーン80を加圧および拡張する。これにより、バルーン80の外表面がステント90の隙間に押し付けられ、ステント90とバルーン80の間の保持力が向上する。規制部材の形状は特に限定されないが、円筒形状の部材が望ましい。円筒形状とすることで、加圧解除工程S25後のステント90の断面が円形となるため、デリバリー時の通過性が向上する。また、規制部材の素材は特に限定されないが、バルーン80の加圧による規制部材の内径の変化ができるだけ小さく、内面が平滑なものが望ましい。規制部材として、例えば樹脂製のチューブを利用できる。外力付与機構を利用してもよい。
【0054】
第2圧着工程S24でバルーン80に与える圧力は特に限定されない。圧力が高いほどバルーン80の外表面がステント90の隙間に押し付けらやすくなるが、単位圧力上昇に伴うその効果の増加の程度は圧力が高くなるほど減少する。また、規制部材の変形による加圧解除工程S25後のステントプロファイルの増加も起き得る。ステント90またはバルーン80の外表面が規制部材の内面に接触するまでに要する圧力の1~10倍程度が望ましい。
【0055】
また、第2圧着工程S24では必ずしも規制部材を必要としない。規制部材がない場合でも、バルーン80の外表面がステント90の隙間に押し付けられる程度にバルーン80を加圧することにより、ステント90とバルーン80の間の保持力が向上する。ただし、規制部材を利用することが好ましい。規制部材の利用により、ステント90の拡張が制限されるため、ステントプロファイルを小さくできる。また、ステント90またはバルーン80の外表面の一部が規制部材の内面に接触すると、その後のバルーン80の加圧では規制部材に未接触のバルーン80の外表面が、規制部材に接触済のステント90またはバルーン80外表面より拡張しやすくなるため、バルーン80の外表面がステント90の隙間に押し付けられる効果は規制部材を利用することで向上する。
【0056】
また、第2圧着工程S24ではバルーン80の加圧が最大に達した後、バルーン80内の圧力を一定時間維持してもよいし、直ちに圧力を解除してもよい。加圧速度は一定でもよいし、一定でなくてもよい。加圧が最大に達する前に、バルーン80内の圧力を維持または減少する期間を設定してもよい。
【0057】
また、第2圧着工程S24ではバルーン80およびその周囲を加熱してもよい。バルーン80が加熱されることでバルーン80の柔軟性が上がり、バルーン80の外表面がステント90の隙間に押し付けられやすくなり、ステント90とバルーン80の間の保持力がより向上する。加熱する場合の温度はバルーン80の融点よりも低く設定する。ステント90にポリマーや薬剤がコーティングされている場合の加熱温度は、バルーン80の融点、コートポリマーの融点、薬剤の失活が生じる温度の中で最も低い温度よりも低く設定する。加熱方法は限定されない。規制部材の外側から加熱してもよいし、バルーン80の内側から加熱してもよい。規制部材自体に加熱機構があれば規制部材を加熱してもよい。
【0058】
また、第2圧着工程S24では、内管20のルーメンに芯金を挿入することが望ましい。芯金を挿入することで、内管20の変形を防止できる。
【0059】
加圧解除工程S25では、第2圧着工程S24でバルーン80に供給した流体を吸引し、バルーン80を減圧および収縮する。バルーン80を減圧する速度は特に限定されない。
【0060】
以下、本実施形態に係るステントデリバリーシステム10を構成する各部材を補足する。
【0061】
基部内管22の内径はガイドワイヤを挿通できる径であれば特に限定されないが、例えば0.1~2.0mmであり、好ましくは0.2~0.8mmである。基部内管22の外径は特に限定されないが、例えば0.2~2.5mmであり、好ましくは0.4~1.0mmである。基部内管22に肉厚は特に限定されないが、例えば0.01~0.3mmであり、好ましくは0.03~0.15mmである。基部内管22の長さは特に限定されないが、例えば100~1000mmであり、好ましくは200~600mmである。基部内管22の内径または外径は軸方向に沿って一定でもテーパー状でもよい。基部内管22は引き落とし等の二次加工を行ってもよい。基部内管22の外径が小さいほど、ステントプロファイルが減少し、ステントデリバリーシステム10の通過性が向上する。
【0062】
先端内管21の内径は特に限定されないが、内管20のルーメン内でのガイドワイヤの通過性を低下させないため、基部内管22の内径と同程度であることが望ましい。先端内管21の外径は特に限定されないが、基部内管22の外径と同程度であることが望ましい。先端内管21の肉厚は特に限定されないが、基部内管22の肉厚と同程度であることが望ましい。先端内管21の長さは特に限定されないが、例えば1~80mmであり、好ましくは、2~50mmである。先端内管21の外径は軸方向に沿って一定でもテーパー状でもよいが、テーパー状であることが望ましい。先端内管21の基端側の外径は一定で先端側の外径がテーパー状でもよい。先端内管21の外径が小さいほど、ステントプロファイルが減少し、ステントデリバリーシステム10の通過性が向上する。先端内管21の先端はR加工が施されていることが望ましい。先端内管21の基端と基部内管22の先端は、接着や融着などの公知の技術を適用して接続してよい。また、基部内管22を製造した後に先端側の硬度を熱処理、化学的処理、機械研磨等で低下させる等の方法で、先端内管21と基部内管22を一体的に製造してもよい。
【0063】
基部内管22の素材は公知の素材を適用でき、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィン等が適用できる。先端内管21の素材は公知の素材を適用でき、例えばポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の熱可塑性エラストマー等が適用できる。基部内管22および先端内管21は顔料を含んでいてもよい。先端内管21の硬度は特に限定されないが、基端側の硬度より低いことが望ましい。先端内管21の硬度が基部内管22よりも低いことにより、先端内管21の硬度が基部内管22と同等以上の場合と比較して、ステントデリバリーシステム10の先端の柔軟性が向上し、ステントデリバリーシステム10の通過性が向上する。先端内管21の基端の軸方向の位置は特に限定されないが、バルーン80の先端付近、バルーン80の基端付近、またはその間の位置が望ましい。
【0064】
基部内管22は径方向に沿って硬度が異なる多層構造であってもよい。径方向の外側の硬度が径方向の内側の硬度より低い、または径方向の内側の硬度が径方向の外側の硬度より低い基部内管22は、硬度の高い材料で単層の基部内管22より柔軟性が向上し、ステントデリバリーシステム10の通過性が向上する。層数は特に限定されないが、例えば2~3層である。3層以上の場合、中間層の硬度が最も高くてもよい。各層の素材は特に限定されないが、例えば上述した基部内管22や先端内管21の素材を適用できる。先端内管21も同様に硬度が異なる多層構造であってもよい。
【0065】
先端造影マーカー23および基部造影マーカー24の形状は特に限定されないが、円筒状が望ましい。先端造影マーカー23および基部造影マーカー24の内径は基部内管22の外径と同程度である。肉厚は特に限定されないが、例えば0.01~0.2mmである。先端造影マーカー23および基部造影マーカー24の軸方向の長さは特に限定されないが、例えば0.1~10mmである。先端造影マーカー23および基部造影マーカー24の素材は、金、白金、タンタル、イリジウム等の公知のX線不透過素材を適用できる。基部内管22の柔軟性の低下の抑制のため、X線透視時に視認できる限りにおいて、肉厚は小さく、長さは短い方が望ましい。先端造影マーカー23および基部造影マーカー24の軸方向の位置は特に限定されないが、例えばステント90の先端側付近および基端側付近の位置が望ましい。先端造影マーカー23の先端および基端がステント90の先端より先端側または基端側に位置してもよいし、先端造影マーカー23の先端がステント90の先端より先端側かつ、先端造影マーカー23の基端がステント90の先端より基端側に位置してもよい。同様に、基部造影マーカー24の先端および基端がステント90の基端より基端側または先端側に位置してもよいし、基部造影マーカー24の基端がステント90の基端より基端側かつ、基部造影マーカー24の先端がステント90の基端より先端側に位置してもよい。先端造影マーカー23または基部造影マーカー24はどちらか1つのみでもよい。先端造影マーカー23および基部造影マーカー24と基部内管22は、かしめ加工や接着や融着などの公知の技術を適用して接続されてよい。先端造影マーカー23および基部造影マーカー24は内管20の外表面が凹むように、内管20に対して押し込まれていてもよい。先端造影マーカー23または基部造影マーカー24は先端内管21と接続されてもよい。
【0066】
先端外管30の内径は内管20を挿通できる径であれば特に限定されないが、例えば、0.5~2.5mmであり、好ましくは0.6~2.0mmである。先端外管30の外径は特に限定されないが、例えば0.7~3.0mmであり、好ましくは0.9~1.6mmである。先端外管30の肉厚は特に限定されないが、例えば0.01~0.3mmであり、好ましくは0.03~0.15mmである。先端外管30の長さは特に限定されないが、例えば100~1000mmであり、好ましくは200~600mmである。先端外管30の内径または外径は軸方向に沿って一定でもテーパー状でもよい。先端外管30は引き落とし等の二次加工を行ってもよい。先端外管30の外径が小さいほど、ステントデリバリーシステム10の通過性が向上する。
【0067】
先端外管30の素材は公知の素材を適用でき、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィンや、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の熱可塑性エラストマー等が適用できる。先端外管30の素材は、例えば内管20と同じ素材が適用できる。顔料を含んでいてもよい。
【0068】
先端外管30は径方向に沿って硬度が異なる多層構造であってもよい。径方向の外側の硬度が径方向の内側の硬度より低い、または径方向の内側の硬度が径方向の外側の硬度より低い先端外管30は、硬度の高い材料で単層の先端外管30より柔軟性が向上し、ステントデリバリーシステム10の通過性が向上する。層数は特に限定されないが、例えば2~3層である。3層以上の場合、中間層の硬度が最も高くてもよい。各層の素材は特に限定されないが、上述した先端外管30の素材を適用できる。
【0069】
中間シャフト40の内径は、先端から開口部41の領域で基部内管22を挿通できる径であれば特に限定されないが、例えば0.5~2.5mmであり、好ましくは0.6~2.0mmである。中間シャフト40の外径は特に限定されないが、例えば0.7~3.0mmであり、好ましくは0.9~1.6mmである。中間シャフト40の肉厚は特に限定されないが、例えば0.01~0.3mmであり、好ましくは0.03~0.15mmである。中間シャフト40の長さは特に限定されないが、例えば10~200mmであり、好ましくは20~100mmである。中間シャフト40の軸の延在方向はステントデリバリーシステム10の軸方向と略平行であるが、開口部41がある位置とその近傍ではステントデリバリーシステム10の軸方向から傾いていてもよい。
【0070】
中間シャフト40の開口部41の位置は特に限定されないが、例えば中間シャフト40の先端から2~30mmの範囲内に位置する。開口部41の位置における基部内管22の軸の延在方向は、ステントデリバリーシステム10の軸方向に平行でもよいし、ステントデリバリーシステム10の径方向に平行でもよいし、これら2方向の間に相当する傾いた方向でもよい。基部内管22の基端は開口部41より中間シャフト40の外側にあってもよいし、開口部41の位置と同じもしくは部分的に重なる位置にあってもよい。
【0071】
中間シャフト40の先端と先端外管30の基端は、接着や融着などの公知の技術を適用して接続される。両端面同士を接続してもよいし、中間シャフト40のルーメンに先端外管30を挿通して接続してもよいし、先端外管30のルーメンに中間シャフト40を挿通して接続してもよい。中間シャフト40または先端外管30のルーメンに先端外管30または中間シャフト40を挿通して接続する場合、軸方向で両者が重なる位置の全体を接続してもよいし、一部を接続してもよい。両者は、接続部からの流体の漏れがないように接続される。
【0072】
中間シャフト40の素材は公知の素材を適用でき、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィンや、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の熱可塑性エラストマー等が適用できる。中間シャフト40の素材は、例えば内管20または先端外管30と同じ素材が適用できる。顔料を含んでいてもよい。
【0073】
中間シャフト40の開口部41から基端にかかる領域は、内管20が存在しないため剛性が低下している。ルーメン内に補強体70が存在し得るが、中間シャフト40の素材が柔らかい場合、やはり剛性が低下する。この場合、開口部41から先端にかかる領域も剛性が低下する。ステントデリバリーシステム10の中で中間シャフト40の領域の剛性が相対的に低い場合、デリバリー時の伝達性が低下するため、中間シャフト40の長さは短い方が好ましい。
【0074】
基部外管50の内径は、補強体70を挿通できる径であれば特に限定されないが、例えば0.5~2.5mmであり、好ましくは0.6~2.0mmである。基部外管50の外径は特に限定されないが、例えば0.7~3.0mmであり、好ましくは0.9~1.6mmである。基部外管50の肉厚は特に限定されないが、例えば0.01~0.3mmであり、好ましくは0.03~0.15mmである。基部外管50の長さは特に限定されないが、例えば100~2000mmであり、好ましくは500~1500mmである。基部外管50の内径または外径は軸方向に沿って一定でもテーパー状でもよい。基部外管50は引き落とし等の二次加工を行ってもよい。基部外管50の外径が小さいほど、ステントデリバリーシステム10の通過性が向上する。
【0075】
基部外管50の素材は公知の素材を適用でき、例えばステンレスやチタン合金などの金属が適用できる。内管20や先端外管30と同じ素材を適用してもよい。
【0076】
基部外管50の先端と中間シャフト40の基端は、接着や融着などの公知の技術を適用して接続される。両端面同士を接続してもよいし、中間シャフト40のルーメンに基部外管50を挿通して接続してもよいし、基部外管50のルーメンに中間シャフト40を挿通して接続してもよい。中間シャフト40または基部外管50のルーメンに基部外管50または中間シャフト40を挿通して接続する場合、軸方向で両者が重なる位置の全体を接続してもよいし、一部を接続してもよい。両者は、接続部からの流体の漏れがないように接続される。
【0077】
基部外管50の外表面上に、デリバリー時のステントデリバリーシステム10の生体内への挿入長さの目安を目視できる深度マーカーを設けてもよい。深度マーカーは基部外管50と別部材でもよいし、基部外管50の外表面を表面処理することによって設けてもよい。
【0078】
コネクタ60の形状は公知の形状が適用でき、例えば円筒の外表面に平板状の突起を有する形状を有してよい。コネクタ60の内径は特に限定されないが、例えば0.5~2.5mmであり、好ましくは0.6~2.0mmである。コネクタ60の長さは特に限定されないが、例えば10~50mmである。コネクタ60の素材は公知の素材を適用でき、例えばポリカーボネートやアクリル等の樹脂素材が適用される。
【0079】
補強体70の外径は基部外管50のルーメンに挿通可能であれば特に限定されないが、例えば0.05~1.5mmであり、好ましくは0.1~0.5mmである。補強体70の長さは特に限定されないが、例えば50~1500mmである。補強体70の基端は基部外管50の先端より基端側で基部外管50と接続される。補強体70の外表面と基部外管50の内表面が接着や融着などの公知の技術を適用して接続される。基部外管50の基端側または先端側またはその間で接続される。接続箇所の数は1箇所でも複数箇所でもよい。補強体70の先端は、開口部41より先端側に位置することが望ましく、中間シャフト40または先端外管30の範囲内に位置する。補強体70の先端が開口部41より先端側にあることで、剛性の低い中間シャフト40の基端から開口部41にかかる領域の剛性が向上し、ステントデリバリーシステム10の伝達性が向上する。補強体70の先端は、中間シャフト40または先端外管30と接続されないが、接続していてもよい。補強体70の径は軸方向に沿って一定でもよいし、テーパー状でもよい。また、補強体70の全体がテーパー状でもよいし、補強体70の一部がテーパー状でもよい。補強体70がテーパー状の場合、テーパー領域の傾きは一定でも一定でなくてもよい。テーパー領域は複数あってもよい。傾きやその変化率は領域毎に異なっていてもよい。補強体70は中実部材が望ましいが、中空部材であってもよい。
【0080】
バルーン80の外径は特に限定されないが、推奨拡張圧にて拡張した際の外径において、例えば1~10mmであり、好ましくは、1.5~4.0mmである。バルーン80の長さは特に限定されないが、例えば3~100mmであり、好ましくは5~60mmである。バルーン80の肉厚は特に限定されないが、例えば0.01~0.2mmであり、好ましくは0.02~0.05mmである。拡張状態のバルーン80の軸方向の先端側および基端側は末端に向かってテーパー状に縮径している。その傾きは特に限定されない。先端側のテーパー状の領域と基端側のテーパー状の領域の間は、外径が略一定の直線状となっている。収縮状態のバルーン80は、軸方向に垂直な断面上で、バルーン80の延在方向に沿って凸部81、平滑部82、凹部83が交互に配置された構造を有している。平滑部82が内管20に巻き付くような形態となり、凸部81は周方向に向かって凸となっている。凸部81の数は特に限定されないが、例えば2~8であり、好ましくは3~6である。バルーン80の基端と先端外管30の先端側は、接着や融着などの公知の技術を適用して接続される。バルーン80の基端領域内および先端外管30の先端領域内の接続範囲は特に限定されないが、両者は接続部からの流体の漏れがないように接続される。バルーン80の先端側と基部内管22または先端内管21の先端側も同様に接続される。
【0081】
バルーン80の素材は公知の素材を適用でき、例えばポリエチレン、ポリアミド、ポリイミド、ポリオレフィンや、ポリウレタン系、ポリエステル系、ポリアミド系、オレフィン系、スチレン系等の熱可塑性エラストマー等が適用できる。バルーン80は規定する圧力以下において破断しないように設計される。破断強度の低い素材は、肉厚を厚くすることにより規定圧力以下でのバルーン80の破断が防止される。破断強度の高い素材は、破断強度の低い素材よりも肉厚を薄く設計しても規定圧力以下でのバルーン80の破断が防止される。このため、バルーン80の素材として破断強度の高い素材を適用することで、肉厚を薄く設計でき、ステントプロファイルを小さくでき、ステントデリバリーシステム10の通過性が向上する。
【0082】
バルーン80は径方向に沿って多層構造であってもよい。層毎に硬度の異なる素材を適用してもよい。層毎に樹脂の配向方向が異なっていてもよい。樹脂の配向方向が異なる場合、層毎に同種の素材を適用してもよい。一般に、樹脂が配向している場合、配向方向に沿った破断強度が向上するため、層毎に配向方向が異なる場合、各層の配向方向に沿った破断強度が向上する。層毎の配向方向が同一の場合、配向方向以外の破断強度が層毎の配向方向が異なる場合より低下するため、バルーン80が破断しやすくなる。よって、層毎の配向方向が異なる多層バルーン80は、層毎に同素材の配向方向が同一の多層バルーン80よりも肉厚を薄く設計しても規定圧力以下でのバルーン80の破断が防止され得るため、ステントプロファイルを小さくできる。また、層毎に配向方向が異なる多層バルーン80は、少なくとも一部の層より硬度の高い素材から構成される単層バルーン80よりもバルーン80が破断しにくくなる可能性がある。従って、バルーン80は層毎の配向方向が異なる多層バルーン80が望ましい。バルーン80の製造方法として例えば延伸ブロー成形が知られているが、この場合、成形時の軸方向の延伸率、周方向の延伸率、素材、各層の成形のタイミングを調整することで、層毎の配向方向が異なる多層バルーン80が製造できる。
【0083】
多層バルーン80の層数は特に限定されないが、例えば2~3層である。硬度の高さは内層から外層に向かって増加してもよいし、外層から内層に向かって増加してもよい。内層と外層の間の層が最も高い硬度を有していてもよい。
【0084】
ステント90は、バルーン80の拡張により拡張が可能で、隙間を有する筒状の形状であれば特に限定されず、公知の形状、寸法、素材の組み合わせを有するステント90が適用される。ステント90の形状は、例えば、線状部91と湾曲部92が交互に接続した波状の環状体93が軸方向に複数配置され、先端側から基端側にかけて、隣接する環状体93がリンク部94で接続されることにより形成された、隙間を有する筒状の形状である。ステント90の寸法として、例えば収縮状態の内径が0.5~2.0mmであり、拡張状態の内径が1.5~10mmであり、肉厚が0.05~0.2mmであり、軸方向長さが5~100mmである。ステント90の素材は、例えば、ステンレスやCoCr合金などの金属やポリ乳酸などのポリマーである。
【0085】
以上を踏まえ、本発明の内容を改めて以下に記載する。
【0086】
[1]ステントデリバリーシステムの製造方法であって、流体の供給により加圧可能で、径方向に拡張および収縮可能なバルーンを有するバルーンカテーテル、および隙間を有する筒状の形状で、径方向に拡張および収縮可能なステントを準備する準備工程と、前記準備工程後に、前記バルーンの外表面と前記ステントの内表面の間の密着性を向上させるように、前記バルーンの外表面または前記ステントの内表面を改質する表面処理工程と、前記表面処理工程後に、前記ステントの外表面上で径方向内側に向かって圧縮力を付与して前記ステントを収縮させ、前記バルーンの外表面上に圧着する第1圧着工程と、前記第1圧着工程後に、前記ステントへの圧縮力を解除する解除工程と、前記解除工程後に、前記バルーンを加圧し、前記バルーンの外表面を前記ステントの隙間に押し付け、前記ステントに圧着する第2圧着工程と、を有することを特徴とするステントデリバリーシステムの製造方法。
【0087】
[2]前記表面処理工程において、前記バルーンの外表面または前記ステントの内表面をプラズマ照射により改質することを特徴とする上記[1]に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0088】
[3]前記第1圧着工程において、前記バルーンを加圧しないことを特徴とする上記[1]または[2]に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0089】
[4]前記第2圧着工程において、前記ステントの径方向外側に規制部材を配置し、前記ステントの拡張を規制することを特徴とする上記[1]~[3]に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0090】
[5]前記バルーンは、径方向に沿って樹脂が複数層に分かれた多層構造であり、前記樹脂の配向方向が層毎に異なっていることを特徴とする上記[1]~[4]に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0091】
[6]前記バルーンカテーテルは、軸方向に延び先端および基端を有する外管と、前記外管内で軸方向に延び前記外管の先端よりも先端側にある先端および前記外管の先端よりも基端側にある基端を有する内管と、を有し、前記バルーンの先端は前記内管の先端側と接続し、前記バルーンの基端は前記外管の先端側と接続し、前記内管は先端側である先端内管と基端側である基部内管を有し、前記先端内管の硬度が前記基部内管の硬度より低いことを特徴とする上記[1]~[5]に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0092】
[7]前記基部内管は径方向に沿って内層と外層に分かれており、前記外層の硬度が前記内層の硬度より低いことを特徴とする上記[6]に記載のステントデリバリーシステムの製造方法。
【0093】
上記[1]の特徴を有することにより、第1圧着工程によりステントプロファイルが小さくなり、ステントとバルーンの間に保持力が発生する。そして、第2圧着工程でバルーンの外表面がステントの隙間に押し付けられることにより、ステントとバルーンの間の保持力が向上する。また、表面処理工程により、ステントとバルーンの間の保持力がさらに向上する。
【0094】
上記[2]の特徴を有することにより、表面処理工程を容易に行うことができる。
【0095】
上記[3]の特徴を有することにより、バルーンを加圧した場合と比較して、第1圧着工程後のステントプロファイルを小さくすることができる。
【0096】
上記[4]の特徴を有することにより、ステントの拡張が制限されるため、ステントプロファイルを小さくでき、バルーンの外表面がステントの隙間に押し付けられる効果が向上する。
【0097】
上記[5]の特徴を有することにより、各層の配向方向に沿った破断強度が向上するため、バルーンを肉薄にしてステントプロファイルを小さくすることができる。
【0098】
上記[6]の特徴を有することにより、ステントデリバリーシステムの先端の柔軟性が向上し、ステントデリバリーシステムの通過性が向上する。
【0099】
上記[7]の特徴を有することにより、基部内管の柔軟性が向上し、ステントデリバリーシステムの通過性が向上する。
【0100】
以上、本発明に係るステントデリバリーシステムの製造方法を説明したが、本発明は説明した各構成のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により適宜変更することが可能であり、それら変更は本発明の技術的範囲に含まれると判断されるべきである。
【符号の説明】
【0101】
10 ステントデリバリーシステム
20 内管
21 先端内管
22 基部内管
23 先端造影マーカー
24 基部造影マーカー
30 先端外管
40 中間シャフト
41 開口部
50 基部外管
60 コネクタ
70 補強体
80 バルーン
81 凸部
82 平滑部
83 凹部
90 ステント
91 線状部
92 湾曲部
93 環状体
94 リンク部