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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043257
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】回転同期装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 63/30 20060101AFI20240322BHJP
   F16D 23/06 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
F16H63/30
F16D23/06 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148341
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110002066
【氏名又は名称】弁理士法人筒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 龍介
【テーマコード(参考)】
3J056
3J067
【Fターム(参考)】
3J056AA02
3J056AA11
3J056BB15
3J056GA05
3J056GA12
3J067AA01
3J067AB02
3J067AC05
3J067BA18
3J067DA52
3J067DB04
3J067DB27
3J067EA05
3J067EA31
3J067FA82
3J067FB02
3J067GA01
(57)【要約】
【課題】スリーブの回転とギアの回転との同期精度を高める。
【解決手段】回転同期装置は、シンクロハブと、変速ギアと、シンクロスリーブと、シンクロリングと、シフトフォークとを有する。シンクロハブは回転軸に設けられる。変速ギアは回転軸に回転可能に設けられる。シンクロスリーブは締結位置と解放位置とに移動する。シンクロリングはシンクロスリーブにより変速ギアに押し付けられる。シフトフォークは爪部を備え締結方向と解放方向とに移動する。シンクロスリーブには第1環状壁と第2環状壁とが形成されている。爪部には第1凹部と、第2凹部と、連通流路とが形成されている。シフトフォークは第1可動部と第2可動部と作動流体とを備える。シフトフォークが締結方向に移動されることにより、第1可動部が第1移動量で押し込まれると、第2可動部は第1移動量よりも大きい第2移動量で押し出されて第2環状壁に接触する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機に設けられる回転同期装置であって、
回転軸に設けられ、外スプライン歯を備えるシンクロハブと、
前記回転軸に回転可能に設けられ、ドグ歯を備える変速ギアと、
前記外スプライン歯に移動可能に噛み合う内スプライン歯を備え、前記内スプライン歯と前記ドグ歯とを噛み合わせる締結位置と、前記内スプライン歯と前記ドグ歯との噛み合いを解除する解放位置と、に移動するシンクロスリーブと、
前記シンクロスリーブと前記変速ギアとの間に設けられ、前記締結位置に向かう前記シンクロスリーブによって前記変速ギアに押し付けられるシンクロリングと、
前記シンクロスリーブの外周溝に収容される爪部を備え、前記シンクロスリーブを前記締結位置に移動させる締結方向と、前記シンクロスリーブを前記解放位置に移動させる解放方向と、に移動するシフトフォークと、
を有し、
前記外周溝には、互いに対向する第1環状壁と第2環状壁とが形成されており、
前記爪部には、前記第1環状壁に対向する第1表面に開口する第1凹部と、前記第2環状壁に対向する第2表面に開口する第2凹部と、前記第1凹部と前記第2凹部とを互いに接続する連通流路と、が形成されており、
前記シフトフォークは、前記第1凹部に摺動可能に取り付けられて前記第1表面から突出する第1可動部と、前記第2凹部に摺動可能に取り付けられて前記第2表面から突出する第2可動部と、前記連通流路に封入される作動流体と、を備え、
前記シフトフォークが前記締結方向に移動されることにより、前記第1環状壁によって前記第1可動部が第1移動量で押し込まれると、前記第2可動部は前記第1移動量よりも大きい第2移動量で押し出されて前記第2環状壁に接触する、
回転同期装置。
【請求項2】
請求項1に記載の回転同期装置において、
前記シフトフォークが前記解放方向に移動されることにより、前記第2環状壁によって前記第2可動部が第3移動量で押し込まれると、前記第1可動部は前記第3移動量よりも小さい第4移動量で押し出され且つ前記第1環状壁から離れている、
回転同期装置。
【請求項3】
請求項1に記載の回転同期装置において、
前記第1可動部は、1又は複数の第1ピストンを備え、
前記第2可動部は、1又は複数の第2ピストンを備え、
前記第1ピストンの第1総受圧面積は、前記第2ピストンの第2総受圧面積よりも大きい、
回転同期装置。
【請求項4】
請求項1に記載の回転同期装置において、
前記爪部には、前記第2表面に開口する第3凹部と、前記第1表面に開口する第4凹部と、前記第3凹部と前記第4凹部とを互いに接続する接続流路と、が形成されており、
前記シフトフォークは、前記第3凹部に摺動可能に取り付けられて前記第2表面から突出する第3可動部と、前記第4凹部に摺動可能に取り付けられて前記第1表面から突出する第4可動部と、前記接続流路に封入される作動流体と、を備え、
前記シフトフォークが前記締結方向に移動されることにより、前記第2環状壁によって前記第3可動部が第5移動量で押し込まれると、前記第4可動部は前記第5移動量よりも大きい第6移動量で押し出されて前記第2環状壁に接触する、
回転同期装置。
【請求項5】
請求項4に記載の回転同期装置において、
前記シフトフォークが前記解放方向に移動されることにより、前記第1環状壁によって前記第4可動部が第7移動量で押し込まれると、前記第3可動部は前記第7移動量よりも小さい第8移動量で押し出され且つ前記第1環状壁から離れている、
回転同期装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機に設けられる回転同期装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に示されたシフトフォークは、シフト操作レバーが変速操作されることによってクラッチハブスリーブに摺接される。シフトフォークには、シフトシャフトの軸心方向に突出する第1突部及び第2突部が形成されている。第2突部の厚みは、第1突部の厚みより薄い。
【0003】
特許文献2、3、4、5には、ピストンを用いて部材の変位を行う機構が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008-32166号公報
【特許文献2】特開2003-106234号公報
【特許文献3】特開平08-284905号公報
【特許文献4】実開平02-28320号公報
【特許文献5】特開平07-314187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成のように、シフトフォークの移動に伴ってスリーブが移動されることで、ギアの切り替えが行われる変速装置では、シフトフォークとスリーブとの間に隙間が存在する。このため、シフトフォークの移動時においてスリーブの姿勢が安定しない可能性がある。そして、姿勢が安定していないスリーブがシンクロリングと接触した場合、スリーブとギアとの噛み合いのタイミングが所定のタイミングに対してずれることで、スリーブの回転とギアの回転との同期精度が低下する可能性がある。
【0006】
本発明の目的は、スリーブの回転とギアの回転との同期精度を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態の回転同期装置は、変速機に設けられる回転同期装置であって、回転軸に設けられ、外スプライン歯を備えるシンクロハブと、前記回転軸に回転可能に設けられ、ドグ歯を備える変速ギアと、前記外スプライン歯に移動可能に噛み合う内スプライン歯を備え、前記内スプライン歯と前記ドグ歯とを噛み合わせる締結位置と、前記内スプライン歯と前記ドグ歯との噛み合いを解除する解放位置と、に移動するシンクロスリーブと、前記シンクロスリーブと前記変速ギアとの間に設けられ、前記締結位置に向かう前記シンクロスリーブによって前記変速ギアに押し付けられるシンクロリングと、前記シンクロスリーブの外周溝に収容される爪部を備え、前記シンクロスリーブを前記締結位置に移動させる締結方向と、前記シンクロスリーブを前記解放位置に移動させる解放方向と、に移動するシフトフォークと、を有し、前記外周溝には、互いに対向する第1環状壁と第2環状壁とが形成されており、前記爪部には、前記第1環状壁に対向する第1表面に開口する第1凹部と、前記第2環状壁に対向する第2表面に開口する第2凹部と、前記第1凹部と前記第2凹部とを互いに接続する連通流路と、が形成されており、前記シフトフォークは、前記第1凹部に摺動可能に取り付けられて前記第1表面から突出する第1可動部と、前記第2凹部に摺動可能に取り付けられて前記第2表面から突出する第2可動部と、前記連通流路に封入される作動流体と、を備え、前記シフトフォークが前記締結方向に移動されることにより、前記第1環状壁によって前記第1可動部が第1移動量で押し込まれると、前記第2可動部は前記第1移動量よりも大きい第2移動量で押し出されて前記第2環状壁に接触する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、対象となる変速ギアの回転を回転軸の回転に同期させる場合、シフトフォークが締結位置に向けて移動される。第1可動部は、第1環状壁との接触により反力を受けることで、第1移動量で押し込まれる。このとき、第2可動部は、作動流体から力を受けることで、第1移動量よりも大きい第2移動量で押し出されて第2環状壁に接触する。
【0009】
このように、シフトフォークの移動時において、シフトフォークとシンクロスリーブとの隙間が第1可動部及び第2可動部の移動によって埋まることで、シンクロスリーブの姿勢が矯正される。そして、姿勢が矯正されたシンクロスリーブがシンクロリングと接触することで、シンクロリングが変速ギアの所定の位置に押し付けられる。これにより、シンクロスリーブの一部と変速ギアの一部とが噛み合い易くなるので、シンクロスリーブの回転とギアの回転との同期精度を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態としてのシンクロ機構を搭載している車両を示す図である。
図2図1の車両の一部の構成を示す図である。
図3図1の車両に搭載されているシンクロ機構の図である。
図4図2のシンクロ機構の各構成を示す図(図3の4-4線断面図)である。
図5図2のシンクロ機構においてシフトフォークが第1方向に移動した場合の第1可動部、第2可動部、第3可動部及び第4可動部の移動状態を模式的に示す図である。
図6図2のシンクロ機構においてシフトフォークが第1方向に移動する状態を示す図である。
図7図3のスリーブを第1速の従動歯車側のシンクロリングまで移動させた状態を示す図である。
図8図3のスリーブを第1速の従動歯車まで移動させた状態を示す図である。
図9図4のシンクロ機構においてシフトフォークが第2方向に移動する状態を示す図である。
図10図9のシンクロ機構においてシフトフォークが第2方向に移動した場合の第1可動部、第2可動部、第3可動部及び第4可動部の移動状態を模式的に示す図である。
図11図9のスリーブを第2速の従動歯車まで移動させた状態を示す図である。
図12】本発明に対する比較例においてスリーブの回転と従動歯車の回転との同期精度が低下している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の一の実施形態を図面に基づいて説明する。図1に示すように、車両10にはパワートレイン12が搭載されている。パワートレイン12は、エンジン14と、エンジン14に連結されるトランスミッション20とを有している。トランスミッション20は、車両10の速度を変更する変速機の一例である。トランスミッション20は、シンクロ機構40を含んで構成されている。シンクロ機構40の詳細については、後述する。パワートレイン12は、一例として、前輪駆動用のパワートレインとして構成されているが、これに限られることはなく、後輪駆動用や全輪駆動用のパワートレインであっても良い。
【0012】
図2に示すように、トランスミッション20は、入力軸22と、これに平行となる出力軸24とを備えている。入力軸22には、入力クラッチ15を介してエンジン14が連結されている。出力軸24には、デファレンシャル機構16を介して前輪18(図1)が連結されている。入力軸22には、駆動歯車25a、26aが固定されている。また、入力軸22には、駆動歯車27a、28a、29a、31aが回転自在に設けられている。出力軸24には、従動歯車44、46が回転自在に設けられている。また、出力軸24には、従動歯車27b、28b、29b、31bが固定されている。
【0013】
駆動歯車25aと従動歯車44とによって第1速の変速歯車列25が構成されている。駆動歯車26aと従動歯車46とによって第2速の変速歯車列26が構成されている。駆動歯車27aと従動歯車27bとによって第3速の変速歯車列27が構成されている。駆動歯車28aと従動歯車28bとによって第4速の変速歯車列28が構成されている。駆動歯車29aと従動歯車29bとによって第5速の変速歯車列29が構成されている。駆動歯車31aと従動歯車31bとによって第6速の変速歯車列31が構成されている。
【0014】
トランスミッション20には、入力軸22及び出力軸24に対して平行となるアイドラ軸38が設けられている。アイドラ軸38には、後退用の伝達歯車39a、39bが回転自在に設けられている。伝達歯車39aは、駆動歯車25aに噛み合っている。このように、トランスミッション20には、駆動歯車25a、伝達歯車39a、39b、従動歯車41からなる後退用の変速歯車列37が設けられている。なお、後退のための切替機構についての説明は省略する。
【0015】
出力軸24の一部には、一例として、1つのシンクロ機構40が設けられている。入力軸22には、一例として、2つのシンクロ機構80、90が設けられている。シンクロ機構40を用いることにより、第1速の変速歯車列25又は第2速の変速歯車列26を動力伝達状態に切り替えることが可能となる。また、シンクロ機構80を用いることにより、第3速の変速歯車列27又は第4速の変速歯車列28を動力伝達状態に切り替えることが可能となる。さらに、シンクロ機構90を用いることにより、第5速の変速歯車列29又は第6速の変速歯車列31を動力伝達状態に切り替えることが可能となる。なお、シンクロ機構40、80、90の各構成は、一例として、各部材の大きさを除いて同様の構成とされている。このため、以下はシンクロ機構40について説明し、シンクロ機構80、90の具体的な説明は省略する。
【0016】
図3に示すように、出力軸24は、回転軸の一例である。図3には、出力軸24の中心線Cが示されている。出力軸24には、中心線Cを中心とするハブ42が固定されている。中心線Cが延びる方向を出力軸24の軸方向とする。軸方向のうちハブ42から従動歯車44に向かう方向を第1方向として、矢印Aで示す。また、軸方向のうちハブ42から従動歯車46に向かう方向を第2方向として、矢印Bで示す。つまり、第1方向及び第2方向は、軸方向の一例である。第1方向と第2方向は、不図示の同一直線上において互いに逆向きの方向となっている。出力軸24の一部の外周面には、複数のスプライン部24aが設けられている。出力軸24におけるハブ42に対する第1方向の部位には、ベアリング33が設けられている。出力軸24におけるハブ42に対する第2方向の部位には、ベアリング35が設けられている。なお、矢印Dで示される方向は、出力軸24の径方向である。
【0017】
〔シンクロ機構〕
シンクロ機構40は、一例として、ハブ42と、従動歯車44、46と、スリーブ48と、シンクロリング52、54と、シフトフォーク56と、第1駆動ユニット60と、第2駆動ユニット70とを有する。シンクロ機構40は、スリーブ48の回転と、従動歯車44、46の回転とを同期させる回転同期装置の一例である。
【0018】
〔ハブ〕
ハブ42は、シンクロハブの一例である。ハブ42は、出力軸24に設けられている。ハブ42は、第1方向又は第2方向から見て円環状の部材である。ハブ42の内周部分には、複数のスプライン部42aが設けられている。ハブ42は、複数のスプライン部42aと、出力軸24の複数のスプライン部24aとが係合することで、出力軸24に固定されている。また、ハブ42は、複数の外スプライン歯42bを備える。複数の外スプライン歯42bは、ハブ42の外周部分において、周方向に間隔をあけて形成されている。
【0019】
複数の外スプライン歯42bの間には、シンクロキー43(図7)が設けられている。シンクロキー43は、後述するスリーブ48が第1方向又は第2方向へ移動する際に、スリーブ48の移動方向へ移動する。シンクロキー43は、後述するシンクロリング52を従動歯車44へ押圧可能に設けられている。さらに、シンクロキー43は、後述するシンクロリング54を従動歯車46へ押圧可能に設けられている。
【0020】
〔従動歯車〕
従動歯車44は、変速ギアの一例である。従動歯車44は、ベアリング33を介して出力軸24に回転可能に設けられている。換言すると、従動歯車44は、出力軸24に回転自在に支持されている。従動歯車44は、第1方向においてハブ42と隣り合う位置にある。従動歯車44は、複数の第1歯部44aと、複数の第2歯部44bと、コーン部44dとを備える。第1歯部44aは、駆動歯車25a(図2)の不図示の歯部と噛み合っている。
【0021】
第2歯部44bは、ドグ歯の一例である。第2歯部44bは、第1歯部44aよりも第2方向に位置している。複数の第2歯部44bは、従動歯車44の周方向に間隔をあけて並んでいる。第2歯部44bの第2方向の端部には、第2方向に向けて凸形状となるように斜面44c(図7)が形成されている。コーン部44dは、第2歯部44bよりも第2方向に位置している。また、コーン部44dは、第2方向に向けて外径が連続的に小さくなる円錐台状の部位である。コーン部44dは、斜面44eを有する。
【0022】
従動歯車46は、変速ギアの一例である。従動歯車46は、ベアリング35を介して出力軸24に回転可能に設けられている。換言すると、従動歯車46は、出力軸24に回転自在に支持されている。従動歯車46は、第2方向においてハブ42と隣り合う位置にある。従動歯車46は、複数の第1歯部46aと、複数の第2歯部46bと、コーン部46dとを備える。第1歯部46aは、駆動歯車26a(図2)の不図示の歯部と噛み合っている。
【0023】
第2歯部46bは、ドグ歯の一例である。第2歯部46bは、第1歯部46aよりも第1方向に位置している。複数の第2歯部46bは、従動歯車46の周方向に間隔をあけて並んでいる。第2歯部46bの第1方向の端部には、第1方向に向けて凸形状となるように斜面46c(図11)が形成されている。コーン部46dは、第2歯部46bよりも第1方向に位置している。また、コーン部46dは、第1方向に向けて外径が連続的に小さくなる円錐台状の部位である。コーン部46dは、斜面46eを有する。
【0024】
〔スリーブ〕
スリーブ48は、シンクロスリーブの一例である。スリーブ48は、一例として、基部48aと、壁部48b及び壁部48cとを備える。基部48aは、中心線Cを中心とする円環状に形成されている。基部48aは、ハブ42の周方向に沿って延びている。基部48aの第1方向の幅は、外スプライン歯42bの第1方向の幅よりも広い。また、基部48aの内周部は、複数の内スプライン歯48dを備えている。複数の内スプライン歯48dは、基部48aの周方向に間隔をあけて並んでいる。また、複数の内スプライン歯48dは、中心線Cに向けて突出している部位であり、軸方向に延びている。複数の内スプライン歯48dは、複数の外スプライン歯42bに、軸方向に移動可能に噛み合う。このように、スリーブ48は、出力軸24に対して軸方向(第1方向及び第2方向)に移動自在に設けられている。なお、径方向から平面視した場合、第1方向及び第2方向と交差する方向を交差方向とする。交差方向は、矢印K(図4)で示されている。スリーブ48の周方向は、交差方向の一例である。交差方向は、第1方向及び第2方向とほぼ直交している。
【0025】
スリーブ48が第1方向及び第2方向のいずれにも移動していないときのスリーブ48の位置を中立位置とする。また、内スプライン歯48dと第2歯部44b又は第2歯部46bとを噛み合わせるときの位置を締結位置とする。さらに、内スプライン歯48dと第2歯部44b、46bとの噛み合いを解除する位置を解放位置とする。中立位置は、解放位置に含まれる。つまり、スリーブ48は、締結位置と解放位置とに移動する。なお、スリーブ48を中立位置に移動させた場合、シンクロ機構40は、動力を伝達しない動力切断状態に切り替えられる。
【0026】
壁部48bは、基部48aの第1方向の端部から径方向の外側に突出されている。壁部48bは、径方向に所定の高さを有する。また、壁部48bの第2方向の端部には、第1対向面48eが形成されている。第1対向面48eは、第1環状壁の一例である。第1対向面48eは、中心線Cを中心とする円環状の面である。また、第1対向面48eは、第1方向及び第2方向と交差する。さらに、第1対向面48eは、ほぼ平坦な面である。
【0027】
壁部48cは、基部48aの第2方向の端部から径方向の外側に突出されている。壁部48cは、径方向において、壁部48bの高さとほぼ同等の高さを有する。また、壁部48cの第1方向の端部には、第2対向面48fが形成されている。第2対向面48fは、第2環状壁の一例である。第2対向面48fは、中心線Cを中心とする円環状の面である。また、第2対向面48fは、第1方向及び第2方向と交差する。さらに、第2対向面48fは、ほぼ平坦な面である。
【0028】
第1対向面48eと第2対向面48fは、第1方向及び第2方向に所定の間隔X1(図5)をあけて対向する。換言すると、壁部48bと壁部48cは、第1方向及び第2方向に対向する。基部48a、壁部48b及び壁部48cによって外周溝49が形成されている。外周溝49には、互いに対向する第1対向面48eと第2対向面48fとが形成されている。
【0029】
〔シンクロリング〕
シンクロリング52は、スリーブ48と従動歯車44との間に設けられている。また、シンクロリング52は、第1方向及び第2方向に移動自在に設けられている。シンクロリング52は、締結位置に向かうスリーブ48によって従動歯車44に押し付けられる。シンクロリング52は、中心線Cを中心とする円環状の部材である。シンクロリング52は、一例として、内周面52aと、外周面52bと、複数の突出部52cとを有する。内周面52aは、第2方向に向けて円の半径が連続的に小さくなる面である。内周面52aに対する内側には、コーン部44dが挿入されている。また、内周面52aは、シンクロリング52が第1方向に移動された場合、斜面44eと接触する。
【0030】
複数の突出部52cは、外周面52bの第1方向の端部から径方向の外側へ突出されている。複数の突出部52cは、外周面52bの周方向に間隔をあけて設けられている。複数の突出部52cは、第2歯部44bと軸方向に並ぶことが可能な位置にある。複数の突出部52cは、それぞれ、軸方向と交差する斜め方向に延びるチャンファ面52d(図7)を有する。
【0031】
シンクロリング54は、スリーブ48と従動歯車46との間に設けられている。また、シンクロリング54は、第1方向及び第2方向に移動自在に設けられている。シンクロリング54は、締結位置に向かうスリーブ48によって従動歯車46に押し付けられる。シンクロリング54は、中心線Cを中心とする円環状の部材である。シンクロリング54は、一例として、内周面54aと、外周面54bと、複数の突出部54cとを有する。内周面54aは、第2方向に向けて円の半径が連続的に小さくなる面である。内周面54aに対する内側には、コーン部46dが挿入されている。また、内周面54aは、シンクロリング54が第1方向に移動された場合、斜面46eと接触する位置にある。
【0032】
複数の突出部54cは、外周面54bの第1方向の端部から径方向の外側へそれぞれ突出されている。複数の突出部54cは、外周面54bの周方向に間隔をあけて設けられている。複数の突出部54cは、第2歯部46bと軸方向に並ぶことが可能な位置にある。複数の突出部54cは、それぞれ、軸方向と交差する斜め方向に延びるチャンファ面54d(図11)を有する。
【0033】
従動歯車44及びシンクロリング52は、スリーブ48に対する第1方向に配置されている。従動歯車46及びシンクロリング52は、スリーブ48に対する第2方向に配置されている。つまり、シンクロ機構40において、従動歯車44、46及びシンクロリング52、52は、スリーブ48に対する第1方向及び第2方向の両側に配置されている。
【0034】
〔シフトフォーク〕
図4に示すように、シフトフォーク56は、一例として、本体部57と、不図示のアーム部と、爪部58と、第1可動部61と、第2可動部63と、第3可動部71と、第4可動部73と、油Qとを備える。本体部57は、中心線C(図3)を中心とする円弧状に形成された部位である。また、本体部57は、周方向から見てT字状の断面を有する。アーム部は、本体部57の一部から径方向の外側へ延びる部位である。アーム部には、不図示のシフトロッドが取り付けられている。シフトロッドは、第1方向及び第2方向へ移動自在に設けられている。また、シフトロッドは、リンク機構部21(図2)を介してシフトレバー51(図2)に連結されている。
【0035】
爪部58は、本体部57から軸方向の外側へ向けて突出された部位であり、且つシフトフォーク56の一部である。爪部58の第1方向及び第2方向における大きさは、間隔X1(図5)の大きさより小さい。つまり、爪部58と壁部48bとの間、爪部58と壁部48cとの間には、軸方向の隙間gがある。爪部58は、外周溝49に収容される。
【0036】
シフトフォーク56は、シフトレバー51(図2)の操作に基づいて第1方向又は第2方向に移動されることで、スリーブ48を第1方向又は第2方向に移動させることが可能に設けられている。スリーブ48を締結位置に移動させる場合のシフトフォーク56の移動方向を締結方向とする。また、スリーブ48を解放位置に移動させる場合のシフトフォーク56の移動方向を解放方向とする。スリーブ48と従動歯車44とを同期させる場合、第1方向が締結方向となり、第2方向が解放方向となる。スリーブ48と従動歯車46とを同期させる場合、第2方向が締結方向となり、第1方向が解放方向となる。
【0037】
爪部58には、後述する第1駆動ユニット60及び第2駆動ユニット70が動作可能に収容されている。爪部58には、一例として、表面58aと、第1凹部58bと、第4凹部58c、58dと、連通流路66と、表面58eと、第3凹部58fと、第2凹部58g、58hと、接続流路76とが形成されている。
【0038】
表面58aは、爪部58における第1方向の端面である。表面58aは、第1表面の一例である。表面58aは、第1対向面48eに対向する。第1凹部58bは、表面58aにおいて第1方向に開口する。第4凹部58cは、表面58aにおいて第1方向に開口する。第4凹部58cは、径方向の外側から平面視した場合、交差方向において第1凹部58bに対してずれた位置に形成されている。第4凹部58dは、表面58aにおいて第1方向に開口する。第4凹部58dは、交差方向において第1凹部58bに対して第4凹部58c側とは反対側の位置に形成されている。
【0039】
表面58eは、爪部58における第2方向の端面である。表面58eは、第2表面の一例である。表面58eは、第2対向面48fに対向する。第3凹部58fは、表面58eにおいて第2方向に開口する。第2凹部58gは、表面58eにおいて第2方向に開口する。第2凹部58gは、径方向の外側から平面視した場合、交差方向において第3凹部58fに対してずれた位置に形成されている。第2凹部58hは、表面58eにおいて第2方向に開口する。第2凹部58hは、交差方向において第3凹部58fに対して第2凹部58g側とは反対側の位置に形成されている。
【0040】
連通流路66は、第1凹部58bと第2凹部58g、58hとを互いに接続する。接続流路76は、第3凹部58fと第4凹部58c、58dとを互いに接続する。連通流路66及び接続流路76には、それぞれ油Qが封入されている。油Qは、作動流体の一例である。作動流体は、非圧縮性流体で構成される。なお、非圧縮性流体とは、圧力や温度が変更された場合、それ自体の密度の変化が無い流体、又はそれ自体の密度の変化が無視できる程度に小さい流体を意味する。
【0041】
〔第1可動部〕
第1可動部61は、一例として、1つの第1ピストン62を備える。第1ピストン62は、第1凹部58bに摺動可能に取り付けられている。第1ピストン62は、表面58aから第1方向に突出されている。第1ピストン62は、第1対向面48eと対向する第1接触面62aを有する。第1接触面62aは、径方向に沿った平面状に形成されている。第1接触面62aは、第1対向面48eとの接触において反力を受ける。第1ピストン62の第2方向の端部には、第1伝達部68が設けられている。
【0042】
第1伝達部68は、第1凹部58bを含む連通流路66の端部に挿入されている。第1伝達部68の第2方向の端部には、第1伝達面68aが形成されている。第1伝達面68aは、油Qへ力を伝達可能で且つ油Qから力を受けることが可能な面である。第1伝達面68aの面積を面積S1(図5)とする。なお、第1可動部61において、第1伝達面68aの面積を合計したものを第1総受圧面積SA(図5)とする。本実施形態では、SA=S1である。
【0043】
〔第2可動部〕
第2可動部63は、一例として、2つの第2ピストン64を備える。第2ピストン64は、第2凹部58g、58hにそれぞれ1つずつ摺動可能に取り付けられている。2つの第2ピストン64は、表面58eから第2方向に突出されている。第2ピストン64は、第2対向面48fと対向する第2接触面64aを有する。第2接触面64aは、径方向に沿った平面状に形成されている。第2接触面64aは、第2対向面48fとの接触において反力を受ける。第2ピストン64は、第2対向面48fと接触するまで移動可能である。第2ピストン64の第1方向の端部には、第2伝達部69が設けられている。
【0044】
第2ピストン64は、第1ピストン62に対して交差方向にずれた位置にある。具体的には、第1ピストン62を第2方向に投影して見た場合、2つの第2ピストン64は、第1ピストン62に対して交差方向にずれた位置にあり、且つ第1ピストン62に対して交差方向の両側に位置している。
【0045】
2つの第2伝達部69は、連通流路66の分岐された端部にそれぞれ挿入されている。第2伝達部69の第1方向の端部には、第2伝達面69aが形成されている。第2伝達面69aは、油Qから力を受けることが可能で且つ油Qへ力を伝達可能な面である。第2伝達面69aの面積を面積S2(図5)とする。なお、第2可動部63において、2つの第2伝達面69aの面積S2を合計したものを第2総受圧面積SB(図5)とする。つまり、SB=2×S2である。なお、第1総受圧面積SAは、第2総受圧面積SBよりも大きい。
【0046】
〔第3可動部〕
第3可動部71は、一例として、1つの第3ピストン72を備える。第3ピストン72は、第3凹部58fに摺動可能に取り付けられている。第3ピストン72は、表面58eから第2方向に突出されている。第3ピストン72は、第2対向面48fと対向する第3接触面72aを有する。第3接触面72aは、径方向に沿った平面状に形成されている。第3接触面72aは、第2対向面48fとの接触において反力を受ける。第3ピストン72の第1方向の端部には、第3伝達部78が設けられている。
【0047】
第3伝達部78は、第3凹部58fを含む接続流路76の端部に挿入されている。第3伝達部78の第1方向の端部には、第3伝達面78aが形成されている。第3伝達面78aは、油Qへ力を伝達可能で且つ油Qから力を受けることが可能な面である。第3伝達面78aの面積を面積S3(図5)とする。なお、第3可動部71において、第3伝達面78aの面積を合計したものを第3総受圧面積SC(図5)とする。本実施形態では、SC=S3である。
【0048】
〔第4可動部〕
第4可動部73は、一例として、2つの第4ピストン74を備える。第4ピストン74は、第4凹部58c、58dにそれぞれ1つずつ摺動可能に取り付けられている。2つの第4ピストン74は、表面58aから第1方向に突出されている。第4ピストン74は、第1対向面48eと対向する第4接触面74aを有する。第4接触面74aは、径方向に沿った平面状に形成されている。第4接触面74aは、第1対向面48eとの接触において反力を受ける。第4ピストン74は、第2対向面48fと接触するまで移動可能である。第4ピストン74の第2方向の端部には、第4伝達部79が設けられている。
【0049】
2つの第4伝達部79は、接続流路76の分岐された端部にそれぞれ挿入されている。第4伝達部79の第2方向の端部には、第4伝達面79aが形成されている。第4伝達面79aは、油Qから力を受けることが可能で且つ油Qへ力を伝達可能な面である。第4伝達面79aの面積を面積S4(図5)とする。なお、第4可動部73において、2つの第4伝達面79aの面積を合計したものを第4総受圧面積SD(図5)とする。つまり、SD=2×S4である。第4総受圧面積SDは、第3総受圧面積SCより小さい。
【0050】
第1駆動ユニット60は、第1可動部61と、第2可動部63と、連通流路66と、油Qとを有する。第2駆動ユニット70は、第3可動部71と、第4可動部73と、接続流路76と、油Qとを有する。このように、爪部58は、第1駆動ユニット60及び第2駆動ユニット70を備えている。第1駆動ユニット60及び第2駆動ユニット70は、第1方向及び第2方向において、互いに向かい合うように位置している。また、第1駆動ユニット60及び第2駆動ユニット70は、爪部58の中心線を表す線CBをそれぞれ第1方向及び第2方向に跨いで位置している。
【0051】
本実施形態では、一例として、第1可動部61及び第4可動部73が押し込まれる前の時点において、第1接触面62aと第4接触面74aとが交差方向に揃っている。さらに、第2可動部63及び第3可動部71が押し込まれる前の時点において、第2接触面64aと第3接触面72aとが交差方向に揃っている。なお、第1可動部61及び第4可動部73が押し込まれる前の時点において、第1接触面62aと第4接触面74aとが交差方向に揃っていなくてもよい。第2可動部63及び第3可動部71が押し込まれる前の時点において、第2接触面64aと第3接触面72aとが交差方向に揃っていなくてもよい。
【0052】
図5に示すように、第1駆動ユニット60は、第1ピストン62が第2方向に押し込まれた場合に2つの第2ピストン64を第2方向に移動させる。なお、図5図10に示された一点鎖線M1、M2は、スリーブ48が中立位置にあるときの第1接触面62a、第2接触面64a、第3接触面72a及び第4接触面74aの位置を表している。
【0053】
図10に示すように、第2駆動ユニット70は、第3ピストン72が第1方向に押し込まれた場合に2つの第4ピストン74を第1方向に移動させる。このように、第1駆動ユニット60と第2駆動ユニット70は、互いに異なる方向に第2ピストン64の移動量、第4ピストン74の移動量を増加可能に構成されている。
【0054】
図5に示すように、第1接触面62aが第1対向面48eと接触した場合、第1ピストン62は、第1対向面48eから反力を受けることで第2方向に押し込まれる。つまり、第1ピストン62は、第2方向に移動する。このときの第1ピストン62の移動量を第1移動量d1とする。第1移動量d1は、一例として、第2方向に向けて第1ピストン62が移動した距離で表されている。なお、第1ピストン62が第1対向面48eから反力を受ける時点は、スリーブ48が第1方向に移動を開始した時点、スリーブ48が第1方向に移動している途中の時点、スリーブ48の第1方向の移動が終了した時点を含んでいる。第1移動量d1は、スリーブ48がシンクロリング52(図3)に接触した時点において最大となる。
【0055】
第1ピストン62が第2方向に押し込まれた場合、油Q(図4)を介して、2つの第2ピストン64に力が伝達される。このときのそれぞれの第2ピストン64の移動量を第2移動量d2とする。第2移動量d2は、一例として、第2方向に向けて第2ピストン64が移動した距離で表されている。ここで、第2総受圧面積SBは、第1総受圧面積SAより小さい。このため、第1対向面48eによって第1ピストン62が第1移動量d1で押し込まれた場合、2つの第2ピストン64は、第1移動量d1よりも大きい第2移動量d2で押し出されて、第2対向面48fに接触するようになっている。
【0056】
一方、第4ピストン74は、第1対向面48eと接触し且つ第2方向に押し込まれる。このときの第4ピストン74の移動量を第7移動量d7とする。d7=d1である。また、このときの第3ピストン72の第2方向の移動量を第8移動量d8とする。ここで、第3ピストン72は、第7移動量d7よりも小さい第8移動量d8で第2方向に押し出され且つ第2対向面48fから離れているようになっている。これは、第4総受圧面積SDが第3総受圧面積SCより小さいことによる。
【0057】
図10に示すように、第3接触面72aが第2対向面48fと接触した場合、第3ピストン72は、第2対向面48fから反力を受けることで第1方向に押し込まれる。つまり、第3ピストン72は、第1方向に移動する。このときの第3ピストン72の移動量を第5移動量d5とする。第5移動量d5は、一例として、第1方向に向けて第3ピストン72が移動した距離で表されている。なお、第3ピストン72が第2対向面48fから反力を受ける時点は、スリーブ48が第2方向に移動を開始した時点、スリーブ48が第2方向に移動している途中の時点、スリーブ48の第2方向の移動が終了した時点を含んでいる。第5移動量d5は、スリーブ48がシンクロリング54(図3)に接触した時点において最大となる。
【0058】
第3ピストン72が第1方向に押し込まれた場合、油Q(図4)を介して、2つの第4ピストン74に力が伝達される。このときのそれぞれの第4ピストン74の移動量を第6移動量d6とする。第6移動量d6は、一例として、第1方向に向けて第4ピストン74が移動した距離で表されている。ここで、第4総受圧面積SDは、第3総受圧面積SCより小さい。このため、第2対向面48fによって第3ピストン72が第5移動量d5で押し込まれた場合、2つの第4ピストン74は、第5移動量d5よりも大きい第6移動量d6で押し出されて、第1対向面48eに接触するようになっている。
【0059】
一方、第2ピストン64は、第2対向面48fと接触し且つ第1方向に押し込まれる。このときの第2ピストン64の移動量を第3移動量d3とする。d3=d5である。また、このときの第1ピストン62の第1方向の移動量を第4移動量d4とする。ここで、第1ピストン62は、第3移動量d3よりも小さい第4移動量d4で第1方向に押し出され且つ第1対向面48eから離れているようになっている。これは、第2総受圧面積SBが第1総受圧面積SAより小さいことによる。
【0060】
〔本実施形態の作用及び効果〕
シンクロ機構40の作用及び効果の概略について説明する。図3から図5までに示すように、シンクロ機構40によれば、変速の対象となる従動歯車44の回転を出力軸24の回転に同期させる場合、シフトフォーク56が締結位置に向けて移動される。第1可動部61は、壁部48bの第1対向面48eとの接触により反力を受けることで、第2方向に第1移動量d1で押し込まれる。このとき、第2可動部63は、油Qから力を受けることで、第1移動量d1よりも大きい第2移動量d2で押し出されて壁部48cの第2対向面48fに接触する。
【0061】
このように、シフトフォーク56の移動時において、シフトフォーク56とスリーブ48との隙間gが第1可動部61及び第2可動部63の移動によって埋まることで、スリーブ48の姿勢が矯正される。そして、姿勢が矯正されたスリーブ48がシンクロリング52と接触することで、シンクロリング52が従動歯車44の所定の位置に押し付けられる。これにより、スリーブ48の一部と従動歯車44の一部とが噛み合い易くなるので、スリーブ48の回転と従動歯車44の回転との同期精度を高めることができる。なお、スリーブ48の姿勢の矯正とは、軸方向又は径方向に対するスリーブ48の傾きを小さくすることを意味する。
【0062】
図10に示すように、シフトフォーク56が、第1駆動ユニット60における解放方向としての第2方向に移動された場合、第2可動部63が壁部48cの第2対向面48fと接触することで、第2可動部63が第1方向に第3移動量d3で押し込まれる。このとき、第1可動部61は、第3移動量d3よりも小さい第4移動量d4で第1方向に押し出され且つ壁部48bの第1対向面48eから離れている。換言すると、第2駆動ユニット70が動作することで第4可動部73が第1対向面48eと接触しているとき、第1可動部61は、第1対向面48eと接触しない。これにより、スリーブ48の姿勢を矯正すると共に、スリーブ48に対して第1ピストン62による摺動抵抗が増加するのを抑制することができる。
【0063】
以下、シンクロ機構40の作用について具体的に説明する。図4に示すように、シフトフォーク56が移動される前の状態において、シフトフォーク56と壁部48b、48cとの間には隙間gが存在する。この状態において、シフトレバー51(図2)が運転手によって操作されることで、シンクロ機構40における第1速への切り替え動作が開始される。
【0064】
図3に示すように、シンクロ機構40において、変速の対象となる従動歯車44の回転を出力軸24及びスリーブ48の回転に同期させる場合、シフトフォーク56が第1方向に移動される。シフトフォーク56が第1方向に移動した場合、シフトフォーク56と壁部48bとの隙間gが徐々に小さくなり、シフトフォーク56と壁部48cとの隙間gが徐々に大きくなる。そして、第1ピストン62が壁部48bと接触する。
【0065】
図5に示すように、第1ピストン62は、壁部48bとの接触により押し込まれることで、第2方向に第1移動量d1だけ移動する。このとき、油Q(図4)の油圧が作用することで、第1伝達部68から第2伝達部69へ力が伝達される。これにより、第2移動量d2が第1移動量d1に比べて増加するように、第2ピストン64が第2方向に移動される。そして、第2ピストン64は、壁部48cと接触する。このように、シフトフォーク56と壁部48b及び壁部48cとの隙間gが埋まる。なお、第1伝達部68における油Qの移動量が、第2伝達部69における油Qの移動量と等しくなることに基づいて、第2移動量d2が第1移動量d1よりも増加することが分かる。
【0066】
一方、第2駆動ユニット70では、第4ピストン74が壁部48bとの接触により第2方向に押し込まれることで、第2方向に第7移動量d7だけ移動する。このとき、油Q(図4)の油圧が作用することで、第4伝達部79から第3伝達部78へ力が伝達される。第3ピストン72は、第7移動量d7よりも小さい第8移動量d8で第2方向に押し出され且つ第2対向面48fから離れている。なお、第4伝達部79における油Qの移動量が、第3伝達部78における油Qの移動量と等しくなることに基づいて、第8移動量d8が第7移動量d7よりも減少することが分かる。
【0067】
このように、第1駆動ユニット60がシフトフォーク56と壁部48b及び壁部48cとの隙間gを埋めているとき、第2駆動ユニット70では、第3ピストン72と壁部48cとの間に隙間gが形成されることになる。つまり、第2ピストン64が壁部48cと接触するものの、第3ピストン72が壁部48cと接触しないことで、スリーブ48に対して第3ピストン72による摺動抵抗が増加するのを抑制することができる。
【0068】
図6に示すように、シフトフォーク56の第1方向の移動時において、シフトフォーク56とスリーブ48との隙間g(図3)が、第1駆動ユニット60の動作によって埋まることで、スリーブ48の姿勢が矯正される。
【0069】
図7に示すように、姿勢が矯正されたスリーブ48がシンクロリング52と接触することで、シンクロリング52が適切な姿勢で従動歯車44に押し付けられる。なお、図7では、スリーブ48の回転とシンクロリング52の回転とが同期する直前の状態として、シンクロキー43がシンクロリング52を第1方向に押圧する状態が示されている。この状態において、内スプライン歯48dの第1方向の端部は、チャンファ面52dと接触している。
【0070】
図8に示すように、シンクロリング52が適切な姿勢で従動歯車44に押し付けられていることで、内スプライン歯48dは、第2歯部44bに到達すると共に第2歯部44bと噛み合う。これにより、従動歯車44の回転が出力軸24の回転に同期するようになり、第1速への切り替えが完了する。このように、スリーブ48の姿勢が矯正されることで、内スプライン歯48dと第2歯部44bとが噛み合い易くなるので、スリーブ48の回転と従動歯車44の回転との同期精度を高めることができる。
【0071】
次に、第2速の従動歯車46の回転を出力軸24の回転に同期させる場合について説明する。図9に示すように、シフトフォーク56が第2方向に移動される。ここで、図10に示すように、第3ピストン72は、壁部48cとの接触により押し込まれることで、第1方向に第5移動量d5だけ移動する。このとき、油圧が作用することで、第3伝達部78から第4伝達部79へ力が伝達される。これにより、第6移動量d6が第5移動量d5に比べて増加するように、第4ピストン74が第1方向に移動される。そして、第4ピストン74は、壁部48bと接触する。このように、シフトフォーク56と壁部48b及び壁部48cとの隙間gが埋まる。つまり、スリーブ48の姿勢が矯正される。なお、第3伝達部78における油Q(図9)の移動量が、第4伝達部79における油Qの移動量と等しくなることに基づいて、第6移動量d6が第5移動量d5よりも増加することが分かる。
【0072】
一方、第1駆動ユニット60では、第2ピストン64が壁部48cとの接触により押し込まれることで、第1方向に第3移動量d3だけ移動する。このとき、油圧が作用することで、第2伝達部69から第1伝達部68へ力が伝達される。なお、第2伝達部69における油Qの移動量が、第1伝達部68における油Qの移動量と等しくなることに基づいて、第4移動量d4が第3移動量d3よりも減少することが分かる。このように、第2駆動ユニット70がシフトフォーク56と壁部48b及び壁部48cとの隙間gを埋めているとき、第1駆動ユニット60では、第1ピストン62と壁部48bとの間に隙間gが形成されることになる。第1ピストン62が壁部48bと接触しないことで、スリーブ48に対して第1ピストン62による摺動抵抗が増加するのを抑制することができる。
【0073】
図11に示すように、姿勢が矯正されたスリーブ48がシンクロリング54と接触することで、シンクロリング52が適切な姿勢で従動歯車46に押し付けられる。そして、内スプライン歯48dが第2歯部46bに到達することで、内スプライン歯48dが第2歯部46bと噛み合う。これにより、従動歯車46の回転が出力軸24の回転に同期するようになり、第2速への切り替えが完了する。このように、スリーブ48の姿勢が矯正されることで、内スプライン歯48dと第2歯部46bとが噛み合い易くなるので、スリーブ48の回転と従動歯車46の回転との同期精度を高めることができる。
【0074】
図4に示すように、シンクロ機構40において、第1ピストン62を第2方向に投影したと仮定した場合、第2ピストン64が第1ピストン62に対して交差方向にずれた位置にある。また、第3ピストン72を第1方向に投影した場合、第4ピストン74が第3ピストン72に対して交差方向にずれた位置にある。これにより、第1ピストン62と第2ピストン64、第3ピストン72と第4ピストン74が、それぞれ第1方向及び第2方向に並ぶ構成と比べて、シフトフォーク56の大型化を抑制できる。さらに、シフトフォーク56における連通流路66及び接続流路76の設置場所を確保し易くなる。
【0075】
シンクロ機構40において、第1方向又は第2方向に投影して見た場合、第2ピストン64が第1ピストン62に対して交差方向の両側にある。同様に、第4ピストン74が第3ピストン72に対して交差方向の両側にある。このため、2つの第2ピストン64、2つの第4ピストン74が交差方向の一方側に偏在する構成に比べて、スリーブ48の周方向の一部にシフトフォーク56からの押付力が集中しにくくなる。これにより、軸方向又は径方向に対するスリーブ48の傾きを抑制することができる。
【0076】
また、シンクロ機構40によれば、シフトフォーク56が第1方向に操作された場合、第1駆動ユニット60が第2方向に第2移動量d2を増加させる。また、シフトフォーク56が第2方向に操作された場合、第2駆動ユニット70が第1方向に第6移動量d6を増加させる。これにより、シフトフォーク56の第1方向及び第2方向のいずれの移動においても、シフトフォーク56とスリーブ48との隙間gを埋めることができる。
【0077】
〔本実施形態の変形例〕
本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることはいうまでもない。前述の説明では、シフトレバー51の手動操作によって変速が行われる構成となっていたが、センサー等を用いた車両10の自動制御運転において、アクチュエータを用いてシフトフォーク56が移動される構成であってもよい。また、作動流体の一例として、他の液体を用いてもよい。入力軸22が回転軸の一例であってもよい。
【0078】
変速のための切替動作が第1方向のみで行われる構成では、シンクロ機構40において、第2駆動ユニット70を取り除いた構成としてよい。また、変速のための切替動作が第2方向のみで行われる構成では、シンクロ機構40において、第1駆動ユニット60を取り除いた構成としてよい。なお、第1方向及び第2方向の両方の切替動作を行う構成であっても、回転の同期精度を高める必要がある方に対してのみ、第1駆動ユニット60又は第2駆動ユニット70を用いてもよい。
【0079】
第1ピストン62、第2ピストン64、第3ピストン72及び第4ピストン74は、それぞれ同じ材料で構成されてもよく、あるいは、それぞれ異なる材料で構成されてもよい。また、第1ピストン62、第2ピストン64、第3ピストン72及び第4ピストン74の材質は、金属製、樹脂製のいずれであってもよい。さらに、第1ピストン62、第2ピストン64、第3ピストン72及び第4ピストン74は、金属製の部材の表面に樹脂層が設けられたものであってもよい。
【0080】
シンクロ機構40において、第1ピストン62、第3ピストン72は、1つに限らず、それぞれ複数あってもよい。第2ピストン64、第4ピストン74は、それぞれ1つであってもよく、あるいは、それぞれ3つ以上の複数あってもよい。第1接触面62aの面積と第2接触面64aの面積とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。第3接触面72aの面積と第4接触面74aの面積とは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0081】
シンクロ機構40において、第2ピストン64は、第1ピストン62に対して交差方向にずれた位置になくてもよい。換言すると、第1ピストン62を第2方向に投影した場合、第1ピストン62の一部と第2ピストン64の一部とが重なっていてもよい。第4ピストン74は、第3ピストン72に対して交差方向にずれた位置になくてもよい。換言すると、第3ピストン72を第1方向に投影した場合、第3ピストン72の一部と第4ピストン74の一部とが重なっていてもよい。
【0082】
第1駆動ユニット60と第2駆動ユニット70は、第1方向又は第2方向に投影して見た場合、全体が交差方向にずれていてもよく、また、一部が交差方向に重なっていてもよい。また、複数の第2ピストン64は、第1ピストン62に対して交差方向の一方側に位置してもよい。複数の第4ピストン74は、第3ピストン72に対して交差方向の一方側に位置してもよい。面積S1と面積S3は、同じ大きさのものに限らず、異なる大きさであってもよい。同様に、面積S2と面積S4は、同じ大きさのものに限らず、異なる大きさであってもよい。
【0083】
〔比較例〕
以下、参考として、本実施形態に対する比較例のトランスミッション200について、図面に基づいて説明する。図12に示すように、トランスミッション200は、駆動軸202と、ハブ204と、スリーブ206と、フォーク208と、ギア210と、シンクロナイザーリング212と、を有する。図12には、駆動軸202の中心線CAが示されている。ハブ204は駆動軸202に固定されている。スリーブ206は、ハブ204に対して第1方向に移動可能に設けられている。
【0084】
フォーク208は、スリーブ206を第1方向に移動させる。ギア210は、駆動軸202に対して相対的な回転が可能となるように、駆動軸202に設けられている。シンクロナイザーリング212は、スリーブ206の移動に伴ってギア210に押し付けられることで、ギア210の回転と駆動軸202の回転とを同期させる。
【0085】
比較例のトランスミッション200において、スリーブ206とフォーク208との間には、第1方向の隙間gがある。フォーク208が第1方向に移動された場合、フォーク208とスリーブ206とが接触する。このとき、隙間gが存在していることで、フォーク208の移動時においてスリーブ206の姿勢が安定しない可能性がある。そして、姿勢が安定していないスリーブ206がシンクロナイザーリング212と接触した場合、スリーブ206とギア210との噛み合いのタイミングが所定のタイミングに対してずれることで、スリーブ206の回転とギア210の回転との同期精度が低下する可能性がある。なお、図12では、各部材の姿勢を明確に示すために、スリーブ206及びシンクロナイザーリング212の傾きの度合いが誇張して示されている。
【符号の説明】
【0086】
10 車両
20 トランスミッション(変速機の一例)
24 出力軸(回転軸の一例)
40 シンクロ機構(回転同期装置の一例)
42 ハブ(シンクロハブの一例)
42b 外スプライン歯
44 従動歯車(変速ギアの一例)
44b 第2歯部(ドグ歯の一例)
46 従動歯車(変速ギアの一例)
46b 第2歯部(ドグ歯の一例)
48 スリーブ(シンクロスリーブの一例)
48d 内スプライン歯
48e 第1対向面(第1環状壁の一例)
48f 第2対向面(第1環状壁の一例)
49 外周溝
52 シンクロリング
54 シンクロリング
56 シフトフォーク
58 爪部
58a 表面(第1表面の一例)
58b 第1凹部
58c 第4凹部
58d 第4凹部
58e 表面(第2表面の一例)
58f 第3凹部
58g 第2凹部
58h 第2凹部
61 第1可動部
62 第1ピストン
63 第2可動部
64 第2ピストン
66 連通流路
71 第3可動部
73 第4可動部
76 接続流路
d1 第1移動量
d2 第2移動量
d3 第3移動量
d4 第4移動量
d5 第5移動量
d6 第6移動量
d7 第7移動量
d8 第8移動量
Q 油(作動流体の一例)
SA 第1総受圧面積
SB 第2総受圧面積
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12