(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043263
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】車両用照明装置
(51)【国際特許分類】
B60Q 1/00 20060101AFI20240322BHJP
B60Q 1/18 20060101ALI20240322BHJP
B60Q 1/04 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
B60Q1/00 G
B60Q1/18
B60Q1/04 E
【審査請求】有
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148354
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】田古里 眞嘉
(72)【発明者】
【氏名】槌谷 裕志
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339AA04
3K339AA14
3K339AA22
3K339BA01
3K339BA07
3K339BA21
3K339BA22
3K339BA25
3K339BA30
3K339CA01
3K339CA03
3K339CA14
3K339EA10
3K339GB01
3K339HA01
3K339HA03
3K339KA01
3K339KA06
3K339KA27
3K339LA06
3K339LA07
3K339MA01
3K339MA07
3K339MC06
3K339MC36
3K339MC43
3K339MC48
3K339MC77
3K339MC90
(57)【要約】
【課題】運転者による歩行者の見落としを十分に改善できる車両用照明装置を提供すること。
【解決手段】本発明の車両用照明装置1は、車両2の前方照射領域(ロービーム照射領域19)を照射する前方照射部(ロービームユニット6)と、車両の運転者の右左折動作に応動し、前方照射領域の車幅方向外側の側方照射領域(右側第2コーナリングライト照射領域22)を照射する側方照射部(第2コーナリングライトユニット8)と、上面視で前方照射領域および側方照射領域に部分的に重なる第1の照射領域(右側前方プロジェクターユニット照射領域26)を明領域29と暗領域30が交互に繰り返される明暗混合照射パターン(31)で照射する第1のパターン照射部(前方プロジェクターユニット7)と、を備える。一態様は、側方照射領域より後方の第2の照射領域(28)を明暗混合照射パターンで照射する第2のパターン照射部(10)を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両前方の前方照射領域を照射する前方照射部と、
前記車両の運転者の右左折動作に応動し、前記前方照射領域の車幅方向外側の側方照射領域を照射する側方照射部と、
上面視で前記前方照射領域および前記側方照射領域に部分的に重なる第1の照射領域を明領域と暗領域が交互に繰り返される明暗混合照射パターンで照射する第1のパターン照射部と、を備えた車両用照明装置。
【請求項2】
前記側方照射領域よりも後方の第2の照射領域を前記明暗混合照射パターンで照射する第2のパターン照射部を備えた請求項1に記載の車両用照明装置。
【請求項3】
前記第2のパターン照射部は、前記運転者の右左折動作に応動して点灯する請求項2に記載の車両用照明装置。
【請求項4】
前記第2のパターン照射部は、前記車両の右左折時に前記車両側方の歩行者を検知する検知デバイスの検知出力に基づいて点灯する請求項2に記載の車両用照明装置。
【請求項5】
前記第1のパターン照射部は、前記車両の走行路側方の歩行者を検知する検知デバイスの検知出力に基づいて点灯する請求項1に記載の車両用照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用照明装置の光軸方向を操舵角及び車速に基づいて調整制御する装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1の車両用照明装置では、操舵角及び車速の程度に応じて、光軸方向の変更角度算定に関する条件を変更するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
交差点内の事故が多いことはよく知られており、この種の事故は、歩行者の見落としに起因する場合が少なくない。こうした歩行者の見落としが生じないようにしなくてはならない。特許文献1の技術では、横断歩道付近の視認性向上をはかるべく、種々の条件に応じて車両用照明装置の光軸方向を変更する。しかしながら、光軸方向を変更するための条件を種々工夫するだけでは、歩行者の見落としを防ぐには必ずしも十分に対策できているとはいえない。
【0005】
本発明は、上述のような状況に鑑みてなされたものであり、運転者による歩行者の見落としを十分に改善できる車両用照明装置を提供すること目的とする。また、延いては交通の安全性をより一層改善して持続可能な輸送システムの発展に寄与すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1) 車両(例えば、後述する車両2)前方の前方照射領域(例えば、後述するロービーム照射領域19、ハイビーム照射領域)を照射する前方照射部(例えば、後述するロービームユニット6、ハイビームユニット5)と、前記車両の運転者の右左折動作に応動し、前記前方照射領域の車幅方向外側の側方照射領域(例えば、後述する左側第2コーナリングライト照射領域21、右側第2コーナリングライト照射領域22、左側第1コーナリングライト照射領域23、右側第1コーナリングライト照射領域24)を照射する側方照射部(例えば、後述する第2コーナリングライトユニット8、第1コーナリングライトユニット9)と、上面視で前記前方照射領域および前記側方照射領域に部分的に重なる第1の照射領域(例えば、後述する左側前方プロジェクターユニット照射領域25、右側前方プロジェクターユニット照射領域26)を明領域(例えば、後述する明領域29)と暗領域(例えば、後述する暗領域30)が交互に繰り返される明暗混合照射パターン(例えば、後述する菱形格子パターン31)で照射する第1のパターン照射部(例えば、後述する前方プロジェクターユニット7)と、を備えた車両用照明装置(例えば、後述する車両用照明装置1)。
【0007】
(2) 前記側方照射領域よりも後方の第2の照射領域(例えば、後述する右側の側方プロジェクターユニット照射領域22、左側の側方プロジェクターユニット照射領域25)を前記明暗混合照射パターンで照射する第2のパターン照射部(例えば、後述する側方プロジェクターユニット10)を備えた(1)の車両用照明装置。
【0008】
(3) 前記第2のパターン照射部は、前記運転者の右左折動作(例えば、後述するターンシグナルスイッチ35に関連する操作)に応動して点灯する(2)の車両用照明装置。
【0009】
(4) 前記第2のパターン照射部は、前記車両の右左折時に前記車両側方の歩行者を検知する検知デバイス(例えば、後述する検知デバイス50としてのLiDAR33)の検知出力(例えば、後述するLiDAR33の第2出力)に基づいて点灯する(2)の車両用照明装置。
【0010】
(5) 前記第1のパターン照射部は、前記車両の走行路側方の歩行者を検知する検知デバイス(例えば、後述する検知デバイス50としてのLiDAR33)の検知出力(例えば、後述するLiDAR33の第1出力)に基づいて点灯する(1)の車両用照明装置。
【発明の効果】
【0011】
(1)の車両用照明装置では、前方照射部によって、車両前方の前方照射領域が照射されると共に、運転者の右左折動作に応動して側方照射部によって前方照射領域の車幅方向外側の側方照射領域が照射されるため、車両の進行方向の視野に対して適切に配光される。さらに、第1のパターン照射部によって、上面視で前方照射領域および側方照射領域に部分的に重なる第1の照射領域が明領域と暗領域が交互に繰り返される明暗混合照射パターンで照射される。明暗混合照射パターンの光で照射された物体を見るときのヒトの視覚特性により、路側の部分が含まれる第1の照射領域の歩行者の存在が運転者から容易に認識される。このため、運転者による歩行者の見落としを十分に改善できる。また、延いては交通の安全性をより一層改善して持続可能な輸送システムの発展に寄与することに通じる。
【0012】
(2)の車両用照明装置では、第2のパターン照射部が、側方照射領域よりも後方の第2の照射領域を明暗混合照射パターンの光で照射するため、車両が進路を変更しようとする方向における歩行者の存在を、運転者が確実に認識できる。
【0013】
(3)の車両用照明装置では、第2のパターン照射部が、運転者の右左折動作に応動して側方照射領域よりも後方の第2の照射領域を明暗混合照射パターンの光で照射するため、車両が進路を変更しようとする方向における歩行者の存在を、運転者が確実に認識できる。
【0014】
(4)の車両用照明装置では、第2のパターン照射部が、車両の右左折時に車両側方の歩行者を検知する検知デバイスの検知出力に基づいて点灯するため、車両が進路を変更しようとする方向における歩行者の存在を、運転者が確実に認識できる。
【0015】
(5)の車両用照明装置では、第1のパターン照射部が、車両の走行路側方の歩行者を検知する検知デバイスの検知出力に基づいて点灯するため、第1のパターン照射部からの明暗混合照射パターンの光照光によって、路側の歩行者の存在を、運転者が確実に認識できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の一実施形態としての車両用照明装置を示す構成図である。
【
図2】
図1の車両用照明装置における各灯具の照射領域を示す模式図である。
【
図3】
図1の車両用照明装置による明暗混合照射パターンでの光の照射を示す模式図である。
【
図4】
図1の車両用照明装置の動作の一例を示すタイミング図である。
【
図5】
図1の車両用照明装置による光の照射形態の一例を示す図である。
【
図6】
図5の照射形態に、
図1の車両用照明装置における第1のパターン照射部による光の照射を加えた照射形態を示す図である。
【
図7】
図6の照射形態で光の照射が行われたときの夜間の運転視野を示す図である。
【
図8】
図5の照射形態に、
図1の車両用照明装置における側方照射部による光の照射を加えた照射形態を示す図である。
【
図9】
図7の照射形態で光の照射が行われたときの夜間の運転視野を示す図である。
【
図10】
図8の照射形態に、第2のパターン照射部による光の照射を加えた照射形態を示す図である。
【
図11】
図10の照射形態で光の照射が行われたときの夜間の運転視野を示す図である。
【
図12】車両が交差点に進入しようとする際の
図1の車両用照明装置における側方照射部による光の照射形態を示す図である。
【
図13A】車両が交差点に進入しようとする際に
図1の車両用照明装置における側方照射部が消灯している場合の夜間の運転視野を示す図である。
【
図13B】車両が交差点に進入しようとする際に
図1の車両用照明装置における側方照射部が点灯している場合の夜間の運転視野を示す図である。
【
図14】車両がカーブ路に進入する際の
図1の車両用照明装置における側方照射部による光の照射形態を示す図である。
【
図15A】車両がカーブ路に進入する際に
図1の車両用照明装置における側方照射部が消灯している場合の夜間の運転視野を示す図である。
【
図15B】車両がカーブ路に進入する際に
図1の車両用照明装置における側方照射部が点灯している場合の夜間運転視野を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、以下の説明において、照射パターン配光領域とは或る特定の光の照射域であり、照射パターンとは照射パターン配光領域に対する光の照射形態である。
【0018】
図1は、本発明の実施形態の車両用照明装置1を示す構成図である。
図2は、車両2に設けられた車両用照明装置1における各灯具の照射領域を上面視で示す模式図である。左側ヘッドライトユニット3および右側ヘッドライトユニット4それぞれに、車両2の車幅方向で内側から外側に向かう順に、灯具としての、ハイビームユニット5、ロービームユニット6、前方プロジェクターユニット7、第2コーナリングライトユニット8、第1コーナリングライトユニット9および側方プロジェクターユニット10が配されている。左側ヘッドライトユニット3および右側ヘッドライトユニット4それぞれの各灯具は、灯具制御ECU11の制御下で作動する。本開示では、ロービームユニット6およびハイビームユニット5が前方照射部を構成し、前方プロジェクターユニット7が第1のパターン照射部を構成し、側方プロジェクターユニット10が第2のパターン照射部を構成する。
【0019】
以下の説明では、左側ヘッドライトユニット3における、ハイビームユニット5、ロービームユニット6、前方プロジェクターユニット7、第2コーナリングライトユニット8、第1コーナリングライトユニット9および側方プロジェクターユニット10を、適宜、左側ハイビームユニット5、左側ロービームユニット6、左側前方プロジェクターユニット7、左側第2コーナリングライトユニット8、左側第1コーナリングライトユニット9および左側の側方プロジェクターユニット10と称する。
【0020】
同様に、右側ヘッドライトユニット4における、ハイビームユニット5、ロービームユニット6、前方プロジェクターユニット7、第2コーナリングライトユニット8、第1コーナリングライトユニット9および側方プロジェクターユニット10を、適宜、右側ハイビームユニット5、右側ロービームユニット6、右側前方プロジェクターユニット7、右側第2コーナリングライトユニット8、右側第1コーナリングライトユニット9および右側の側方プロジェクターユニット10と称する。
【0021】
図2では、説明の便宜上、車両2が走行する種々の形態の道路について車両2が向かう進入端側を重ねて描かれている。これらの道路は、車両2からその正面前方に延びた直線路12、緩い左カーブ路13、緩い右カーブ路14、急な左カーブ路15、急な右カーブ路16である。また、車両2の前方の交差点17において直線路12と交差する非優先直線路18も描かれている。
【0022】
左側および右側それぞれのロービームユニット6により、車両2からその正面前方に延びたロービーム照射領域19が照射される。ロービーム照射領域19は、対向車に対する幻惑を抑制するために、上面視で、対向車線側の照射領域部分が自車線側の照射領域部分よりも手前側に後退した左右非対称形状をなす。
【0023】
左側および右側それぞれのハイビームユニット5による図示省略されたハイビーム照射領域が、上面視でロービーム照射領域19の中心線近傍部分に重なるように車両2からその正面前方に延びる。ハイビーム照射領域は、ロービーム照射領域12よりも上方でかつ広がりを絞り込んでより遠方まで延びる。本開示では、ロービーム照射領域12、または、ロービーム照射領域19とハイビーム照射領域とを合せた照射領域を前方照射領域と称する。
【0024】
左側第2コーナリングライトユニット8は、運転者の左折動作に応動して点灯し、前方照射領域であるロービーム照射領域19の車幅方向外側部分の左側に部分的に重なりながら、ロービーム照射領域19のカットオフライン対応部分20と略同距離前方に延びた、左側第2コーナリングライト照射領域21を照射する。
【0025】
右側第2コーナリングライトユニット8は、運転者の右折動作に応動して点灯し、前方照射領域であるロービーム照射領域19の車幅方向外側部分に部分的に重なりながら、ロービーム照射領域19のカットオフライン対応部分20と略同距離前方に延びた、右側第2コーナリングライト照射領域22を照射する。
【0026】
左側第1コーナリングライトユニット9は、運転者の左折動作に応動して点灯し、前方照射領域であるロービーム照射領域19の車幅方向外側部分の左側に部分的に重なって、左側第2コーナリングライト照射領域21の車両2の左前側方部分にも略重なる左側第1コーナリングライト照射領域23を照射する。
【0027】
右側第1コーナリングライトユニット9は、運転者の右折動作に応動して点灯し、前方照射領域であるロービーム照射領域19の車幅方向外側部分の右側に部分的に重なって、右側第2コーナリングライト照射領域22の車両2の右前側方部分にも略重なる右側第1コーナリングライト照射領域24を照射する。
【0028】
本開示では、前方照射領域であるロービーム照射領域19の車幅方向外側である左側第2コーナリングライト照射領域21、左側第1コーナリングライト照射領域23、右側第2コーナリングライト照射領域および右側第1コーナリングライト照射領域24を合せて側方照射領域と総称する。左側および右側の、第2コーナリングライトユニット8、第1コーナリングライトは、側方照射領域を照射する側方照射部を構成する。
【0029】
左側前方プロジェクターユニット7は、上面視で前方照射領域であるロービーム照射領域19および側方照射領域である左側第2コーナリングライト照射領域21に部分的に重なる左側前方プロジェクターユニット照射領域25を照射する。
【0030】
右側前方プロジェクターユニット7は、上面視で前方照射領域であるロービーム照射領域19および側方照射領域である右側第2コーナリングライト照射領域22に部分的に重なる右側前方プロジェクターユニット照射領域26を照射する。
【0031】
本開示において、左側前方プロジェクターユニット照射領域25および右側前方プロジェクターユニット照射領域26を第1の照射領域と総称する。また、左側および右側の前方プロジェクターユニット7を第1のパターン照射部と総称する。後述するように、第1のパターン照射部は、第1の照射領域を明領域と暗領域が交互に繰り返される明暗混合照射パターンで照射する。
【0032】
左側の側方プロジェクターユニット10は、前方照射領域であるロービーム照射領域19よりも後で車両2の前部における左側に向けて相対的に小規模に広がる左側の側方プロジェクターユニット照射領域27を照射する。
【0033】
右側の側方プロジェクターユニット10は、前方照射領域であるロービーム照射領域19よりも後方で車両2の前部における右側に向けて相対的に小規模に広がる右側の側方プロジェクターユニット照射領域28を照射する。
【0034】
本開示において、左側の側方プロジェクターユニット照射領域27および右側の側方プロジェクターユニット照射領域28を第2の照射領域と総称する。また、左側および右側の側方プロジェクターユニット10を、第2のパターン照射部と総称する。後述するように、第2のパターン照射部は、第2の照射領域を明領域と暗領域が交互に繰り返される明暗混合照射パターンで照射する。
【0035】
ハイビームユニット5は、光源である発光素子、リフレクタ、照射領域を規定する遮光板およびレンズを含む。灯具制御ECU11からの制御信号に応じて不図示の電源から電力が供給されて発光素子が発光する。発光素子からの光がリフレクタによって反射される。リフレクタからの反射光が遮光板で規定される上述のハイビーム照射領域(不図示)に向けてレンズから照射される。
【0036】
ロービームユニット6は、光源である発光素子、リフレクタ、照射領域を規定する遮光板およびレンズを含む。灯具制御ECU11からの制御信号に応じて不図示の電源から電力が供給されて発光素子が発光する。発光素子からの光がリフレクタによって反射される。リフレクタからの反射光が遮光板で規定されるロービーム照射領域19に向けてレンズから照射される。
【0037】
左側および右側前方プロジェクターユニット7および左側および右側の側方プロジェクターユニット10は、光源である発光素子、空間光変調器およびレンズを含む。空間光変調器としては、例えば、DMD(Digital Micromirror Device)のように多数の反射素子を独立して変調しつつ光を反射させる形態のものを適用できる。この場合、前方プロジェクターユニット7および側方プロジェクターユニット10は、DMDを用いたDLP(Digital Light Processing:登録商標)方式の構成をとり得る。左側および右側前方プロジェクターユニット7は、レンズから、各対応する左側前方プロジェクターユニット照射領域25および右側前方プロジェクターユニット照射領域26に種々の所定の照射パターンで光を照射することができる。左側および右側の側方プロジェクターユニット10についても同様に、レンズから、各対応する左側の側方プロジェクターユニット照射領域27および右側の側方プロジェクターユニット照射領域28に種々の所定の照射パターンで光を照射することができる。
【0038】
左側および右側プロジェクターユニット7は、その能力上は種々の所定の照射パターンで光を照射することができるが、本開示では、明領域と暗領域が交互に繰り返される明暗混合照射パターンで各対応する左側前方プロジェクターユニット照射領域25および右側前方プロジェクターユニット照射領域26に照射光を照射する。同様に、左側および右側の側方プロジェクターユニット10は、明領域と暗領域が交互に繰り返される明暗混合照射パターンで各対応する左側の側方プロジェクターユニット照射領域27および右側の側方プロジェクターユニット照射領域28に照射光を照射する。
【0039】
図3は、左側および右側プロジェクターユニット7、左側および右側の側方プロジェクターユニット10について、代表的に、右側プロジェクターユニット7から明暗混合照射パターンで右側前方プロジェクターユニット照射領域26に照射光を照射した場合の夜間の運転視野を示す模式図である。
図3における明暗混合照射パターンは、特に、菱形格子の網目模様の明領域29と、この明領域29に囲まれた菱形の暗領域30とによる菱形格子パターン31である。左側プロジェクターユニット7、左側および右側の側方プロジェクターユニット10についても同様に菱形格子パターン31の照射光が照射される。
【0040】
一方、灯具制御ECU11には、カメラ32、LiDAR33、レーダー34、ターンシグナルスイッチ35およびステアリングセンサー36からの各出力が供給される。カメラ32は、車両2のフロントウィンドウの上辺に臨む位置に運転者の運転視野を撮像視野とするように設けられる。車両2の走行中、図示しないライトスイッチが「オート」のポジションにあり、カメラ32またはその他の照度センサーが、車外の照度が所定の規定値より低下した状態に対応する出力を形成すると、灯具制御ECU11によって、車両用照明装置1の動作モードがロービームモードにされる。ロービームモードはロービームユニット6が点灯している動作モードである。また、ハイビームユニット5が点灯している動作モードがハイビームモードである。
【0041】
なお、車両2がハイビームモードで走行中に、カメラ32が対向車や前走車、一定数の街路灯を検知すると、灯具制御ECU11によって、車両用照明装置1の動作モードがロービームモードに切り替えられる。ロービームモード時には、灯具制御ECU11による制御下で、ハイビームユニット5は消灯され、ロービームユニット6が
図2におけるロービーム照射領域19を照射する。
【0042】
LiDAR33とレーダー34は、車両2の周辺の歩行者や構造物その他の物体等の種々の物標を検出する。通常、LiDAR33はレーダー34よりも検出精度に勝るが、悪天候時などにおいてはレーダー34の検出能力が勝るため、両者は相補的に機能するように用いられる。LiDAR33およびレーダー34それぞれの検出出力が灯具制御ECU11に供給される。なお、LiDAR33は、前方視野に関する物標検出出力である第1出力と、側方視野に関する物標検出出力である第2出力との双方の出力を灯具制御ECU11に供給する。
【0043】
ターンシグナルスイッチ35は不図示のターンシグナルレバーに対する操作に応じて所定のスイッチ信号の出力を形成し、この出力が灯具制御ECU11に供給される。ステアリングセンサー36は舵角に対応した舵角検出出力を形成し、この舵角検出出力が灯具制御ECU11に供給される。車両2のパワーモードがオンモードで、不図示のスピードメーターによって検出される車速が所定の速度以下のときに、ロービームユニット6が点灯していると、ターンシグナルスイッチ35またはステアリングセンサー36からの検出出力に応じて、灯具制御ECU11が第1コーナリングライトユニット9および第2コーナリングライトを点灯モードにする。
【0044】
次に、
図4から
図11を参照して、車両2が直線路12を走行している状態から、前方の交差点17で右折する際の、上述した各灯具の動作の一例について説明する。
図4は、左側ヘッドライトユニット3および右側ヘッドライトユニット4における各灯具の動作の一例を示すタイミング図である。
【0045】
図4では、車両2が直線路12を走行する場合の経過時間の起算時点を時刻t0とし、以降、時間の経過順に、時刻t1、t2、t3、t4、t5の如く表記している。ここで時刻t0ではロービームユニット6は消灯している。時刻t1に、上述した点灯条件が充足されてロービームユニット6が点灯し、これ以降、ロービームユニット6の点灯が維持される。時刻t1におけるロービームユニット6の点灯によりロービーム照射領域19が照射される様子が
図5に示されている。
【0046】
車両2が走行を続け、時刻t2で、LiDAR33が右前方視野に歩行者等の物標の存在を検知すると、LiDAR33の第1出力が、物標「無し」の対応値から物標「有り」の対応値に転じる。LiDAR33からこの第1出力を受けた灯具制御ECU11が、右側前方プロジェクターユニット7を点灯させる。これにより、右側前方プロジェクターユニット7が右側前方プロジェクターユニット照射領域26を菱形格子パターン31で照射する。時刻t2でロービームユニット6に加えて右側前方プロジェクターユニット7が点灯した様子が
図6に示されている。また、
図7に、右側前方プロジェクターユニット7が点灯した場合の夜間の運転視野の一例が示されている。右側前方プロジェクターユニット7から直線路12の右前方に照射された菱形格子パターン31の照射光によって、路側37の歩行者38が、照射された物体を見るときのヒトの視覚特性により、運転者から顕著に認識される。このため運転者における歩行者38の見落としが防止される。
【0047】
時刻t3に到ると、車両2と歩行者38との相対移動により、LiDAR33の第1出力が、物標「有り」の対応値から物標「無し」の対応値に復帰する。本例では、時刻t3に到っても、右側前方プロジェクターユニット7は点灯状態を維持する。時刻t4で、ターンシグナルレバーに対し右折操作が行われると、ターンシグナルスイッチ35から右折操作に対応する出力が灯具制御ECU11に供給される。灯具制御ECU11はターンシグナルスイッチ35からのこの出力に応じて、第2コーナリングライトユニット8を点灯させる。図示は省略するが、第2コーナリングライトユニット8の点灯と同時に、第1コーナリングライトユニット9を点灯させるようにしてもよい。一方、本例では、第2コーナリングライトユニット8の点灯と同時に、灯具制御ECU11により、前方プロジェクターユニット7が消灯される。なお、上述の時刻t3以降も、前方プロジェクターユニット7の点灯を維持するようにしてもよい。
【0048】
時刻t4における第2コーナリングライトユニット8の点灯により、左右の第2コーナリングライト照射領域21,22が照射される様子が
図8に示されている。また、
図9に、第2コーナリングライトユニット8が点灯した場合の夜間の運転視野の一例が示されている。第2コーナリングライトユニット8によって、直線路12前方の交差点17における車両2が右折進入しようとしている非優先直線路18側の領域が明るく照射される。このため、運転者は車両2の進入方向の状況を明瞭に視認できる。
【0049】
時刻t5で、LiDAR33が右側方視野に歩行者を検知すると、LiDAR33の第2出力が、物標「無し」の対応値から物標「有り」の対応値に転じる。LiDAR33からこの第2出力を受けた灯具制御ECU11が、右側の側方プロジェクターユニット10を点灯させる。これにより、右側の側方プロジェクターユニット10が右側の側方プロジェクターユニット照射領域28を菱形格子パターン31で照射する。
【0050】
時刻t5における、右側の側方プロジェクターユニット10の点灯により右側の側方プロジェクターユニット照射領域28が照射される様子が
図10に示されている。また、
図11に、右側の側方プロジェクターユニット10が点灯した場合の夜間の運転視野の一例が示されている。右側の側方プロジェクターユニット10による菱形格子パターン31の照射光によって、交差点17を横断する歩行者38の存在が、運転者から顕著に認識される。このため運転者における歩行者38の見落としが防止される。なお、時刻t4で、第2コーナリングライトユニット8の点灯と同時に、第1コーナリングライトユニット9を点灯させる態様をとった場合には、時刻t5で第2コーナリングライトユニット8を消灯させ、歩行者38に対する幻惑を低減させるようにしてもよい。
【0051】
次に、
図12を参照して、左右の第2コーナリングライトユニット8および左右の第1コーナリングライトユニット9の作用について説明する。
図12は、車両2が交差点17に進入しようとする際の
図1の左右の第2コーナリングライトユニット8および左右の第1コーナリングライトユニット9による光の照射形態を示す上面図である。車両2の運転者によるターンシグナルレバーに対する操作によるターンシグナルスイッチ35の出力に応じて、灯具制御ECU11が、左右の第2コーナリングライトユニット8および左右の第1コーナリングライトユニット9を点灯させる。なお、
図12では、夜間走行時に通常の如く点灯しているロービームユニット6の照射領域については図示を省略している。
【0052】
図13Aは、ロービームユニット6が点灯し、第2コーナリングライトユニット8および第1コーナリングライトユニット9が消灯している場合の交差点17近傍における夜間の運転視野を示す図である。
図13Bは、ロービームユニット6が点灯し、第2コーナリングライトユニット8および第1コーナリングライトユニット9も点灯している場合の交差点17近傍における夜間の運転視野を示す図である。
図13Aの場合は、ロービームユニット6により、ロービーム照射領域19が照射されるが、車両2が走行中の直線路12における交差点17の非優先直線路18への進入方向の領域はやや暗い。これに対し、
図13Bの場合は、ロービームユニット6に加えて、第2コーナリングライトユニット8および第1コーナリングライトユニット9が点灯するため、車両2が走行中の直線路12における交差点17の非優先直線路18への進入方向の領域まで明るく照らされる。このため運転者における交差点を横断中の歩行者の見落としが防止される。
【0053】
図14は、車両2が急な右カーブ路16に進入する際の
図1の左右の第2コーナリングライトユニット8および左右の第1コーナリングライトユニット9による光の照射形態を示す上面図である。この場合、車両2の運転者のステアリング操作によるステアリングセンサー36の舵角検出出力に応じて、灯具制御ECU11が、左右の第2コーナリングライトユニット8および左右の第1コーナリングライトユニット9を点灯させる。なお、
図14では、夜間走行時に通常の如く点灯しているロービームユニット6の照射領域については図示を省略している。なお、車両2が急な右カーブ路16に進入することは、カメラ32による撮像出力や、不図示のカーナビゲーションシステムの出力に基づいて灯具制御ECU11が割り出し、この結果に依拠して、左右の第2コーナリングライトユニット8および左右の第1コーナリングライトユニット9を点灯させるようにしてよい。
【0054】
図15Aは、車両2が急な右カーブ路16に進入する際に、ロービームユニット6が点灯し、第2コーナリングライトユニット8および第1コーナリングライトユニット9が消灯している場合の夜間の運転視野を示す図である。
図15Bは車両2が急な右カーブ路16に進入する際に、ロービームユニット6が点灯し、第2コーナリングライトユニット8および第1コーナリングライトユニット9も点灯している場合の夜間の運転視野を示す図である。
図15Aの場合は、ロービームユニット6により、ロービーム照射領域19が照射されるが、車両2前方の急な右カーブ路16における進行方向の領域はやや暗い。これに対し、
図15Bの場合は、ロービームユニット6に加えて、第2コーナリングライトユニット8および第1コーナリングライトユニット9が点灯するため、車両2前方の急な右カーブ路16における進行方向の領域39まで明るく照らされる。このためカーブ路の夜間の運転視野における視認性が向上する。なお、ステアリングセンサー36の舵角検出出力が急な右カーブ路16に対応する場合について説明したが、舵角検出出力が急な左カーブ路15に対応する場合にも、第2コーナリングライトユニット8および第1コーナリングライトユニット9が点灯する。一方、ステアリングセンサー36の舵角検出出力が緩い右カーブ路14や緩い左カーブ路に対応する場合には、第2コーナリングライトユニット8および第1コーナリングライトユニット9は点灯せず、節電がはかられる。
【0055】
本実施形態の車両用照明装置1によれば、以下の効果を奏する。
【0056】
(1)の車両用照明装置1は、車両2前方の前方照射領域であるロービーム照射領域19を照射する前方照射部としてのロービームユニット6と、車両2の運転者の右左折動作であるターンシグナルレバーに対する操作に応動する側方照射部としての、左側および右側の第2コーナリングライトユニット8、ならびに、左側および右側の第1コーナリングライトユニット9を有する。左側および右側の第2コーナリングライトユニット8、ならびに、左側および右側の第1コーナリングライトユニット9は、前方照射領域の車幅方向外側の側方照射領域を照射する。側方照射領域は、左側第2コーナリングライト照射領域21、右側第2コーナリングライト照射領域22、左側第1コーナリングライト照射領域23および右側第1コーナリングライト照射領域24を含む。また、車両用照明装置1は、第1のパターン照射部としての前方プロジェクターユニット7を備える。前方プロジェクターユニット7は、上面視で前方照射領域および側方照射領域に部分的に重なる第1の照射領域である左側前方プロジェクターユニット照射領域25、右側前方プロジェクターユニット照射領域26を照射する。前方プロジェクターユニット7は、第1の照射領域を、明領域29と暗領域30が交互に繰り返される明暗混合照射パターンである菱形格子パターン31で照射する。これにより、車両2の進行方向の視野に対して適切に配光される。さらに、前方プロジェクターユニット7によって、右側前方プロジェクターユニット照射領域26が、菱形格子パターン31で照射される。菱形格子パターン31の光で照射された物体を見るときのヒトの視覚特性により、路側の部分が含まれる第1の照射領域の歩行者の存在が運転者から容易に認識される。このため、運転者による歩行者の見落としを十分に改善できる。車両2が左折するに際しても同様である。
【0057】
(2)の車両用照明装置1では、第2のパターン照射部としての側方プロジェクターユニット10が、側方照射領域よりも後方の第2の照射領域である右側の側方プロジェクターユニット照射領域22、左側の側方プロジェクターユニット照射領域25を、菱形格子パターン31の光で照射する。これにより、車両が進路を変更しようとする方向における歩行者の存在が、菱形格子パターン31の光で照射された物体を見るときのヒトの視覚特性により、運転者において確実に認識できる。
【0058】
(3)の車両用照明装置1では、側方プロジェクターユニット10は、運転者の右左折動作であるターンシグナルレバーに対する操作に応動するターンシグナルスイッチ35の出力により点灯する。このため、車両2が進路を変更しようとする方向における歩行者の存在を、運転者が確実に認識できる。
【0059】
(4)の車両用照明装置1では、側方プロジェクターユニット10は、車両2の右左折時に車両2の側方の歩行者を検知する検知デバイス50としてのLiDAR33の検知出力である第2出力に基づいて点灯する。このため、車両2が進路を変更しようとする方向における歩行者の存在を、運転者が確実に認識できる。
【0060】
(5)の車両用照明装置で1は、前方プロジェクターユニット7は、車両2の走行路側方の歩行者を検知する検知デバイス50としてのLiDAR33の検知出力である第1出力に基づいて点灯する。このため車両2の走行路における路側37の歩行者38の存在を、運転者が確実に認識できる。
【0061】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明はこれに限られない。本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜変更してもよい。上述の実施形態では、前方プロジェクターユニット7は、車両2の走行路側方の歩行者を検知する検知デバイス50としてのLiDAR33の検知出力である第1出力に基づいて点灯する構成を採った。これに替えて、例えば、検知デバイス50として、カメラ32或いはレーダー34を適用し、これらの出力に基づいて前方プロジェクターユニット7を点灯させる構成を採ってもよい。
【符号の説明】
【0062】
1…車両用照明装置
2…車両
3…左側ヘッドライトユニット
4…右側ヘッドライトユニット
5…ハイビームユニット
6…ロービームユニット
7…前方プロジェクターユニット(第1のパターン照射部)
8…第2コーナリングライトユニット
9…第1コーナリングライトユニット
10…側方プロジェクターユニット(第2のパターン照射部)
11…灯具制御ECU
12…直線路
13…緩い左カーブ路
14…緩い右カーブ路
15…急な左カーブ路
16…急な右カーブ路
17…交差点
18…非優先直線路
19…ロービーム照射領域
20…カットオフライン対応部分
21…左側第2コーナリングライト照射領域
22…右側第2コーナリングライト照射領域
23…左側第1コーナリングライト照射領域
24…右側第1コーナリングライト照射領域
25…左側前方プロジェクターユニット照射領域(第1の照射領域)
26…右側前方プロジェクターユニット照射領域(第1の照射領域)
27…左側の側方プロジェクターユニット照射領域(第2の照射領域)
28…右側の側方プロジェクターユニット照射領域(第2の照射領域)
29…明領域
30…暗領域
31…菱形格子パターン
32…カメラ
33…LiDAR
34…レーダー
35…ターンシグナルスイッチ
36…ステアリングセンサー
37…路側
38…歩行者
39…進行方向の領域
50…検知デバイス