(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043291
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】液体製剤
(51)【国際特許分類】
A61K 38/08 20190101AFI20240322BHJP
A61K 38/12 20060101ALI20240322BHJP
A61P 5/02 20060101ALI20240322BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240322BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20240322BHJP
A61K 47/22 20060101ALI20240322BHJP
A61K 51/08 20060101ALI20240322BHJP
A61K 31/555 20060101ALI20240322BHJP
C07K 4/00 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
A61K38/08
A61K38/12
A61P5/02
A61P43/00 125
A61K9/08
A61K47/22
A61K51/08
A61K31/555
C07K4/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148397
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】破入 正行
(72)【発明者】
【氏名】胡 寛
(72)【発明者】
【氏名】橋本 裕輝
(72)【発明者】
【氏名】河村 和紀
(72)【発明者】
【氏名】張 明栄
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C085
4C086
4H045
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076CC30
4C076DD59
4C084AA02
4C084AA03
4C084AA12
4C084BA01
4C084BA09
4C084BA17
4C084BA26
4C084BA32
4C084CA59
4C084DB11
4C084MA05
4C084MA17
4C084NA10
4C084NA14
4C084ZC041
4C084ZC711
4C085HH03
4C085JJ02
4C085KA09
4C085KA29
4C085KB07
4C085KB11
4C085KB12
4C085KB17
4C085KB18
4C085KB19
4C085KB20
4C085KB82
4C085LL15
4C086AA01
4C086BC58
4C086HA28
4C086MA02
4C086MA05
4C086MA17
4C086NA10
4C086ZC03
4H045AA10
4H045AA30
4H045BA14
4H045BA15
4H045BA32
4H045EA20
4H045FA10
(57)【要約】 (修正有)
【課題】ポリスルフィド結合を有する医薬品の実現。
【解決手段】式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物、及び少なくとも1種のアスコルビン酸塩を含む液体製剤とする。
(R
1~R
5:H、アミノ酸側鎖。R
6:アミノ基を有さないアミノ酸側鎖など。R
7:m=0の場合はQに結合する単結合、m≠0の場合はH。L:*-NR
11-R
8-C(=O)-*(R
8:置換/非置換アルキレンなど。R
11:Qに結合する単結合など。*:結合手)。Q:キレート構造。M:放射性/非放射性金属核種。n:1~4。m:0~10)
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1)下記式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物、及び、
(2)アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸アルミニウム、アスコルビン酸カリウム及びアスコルビン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のアスコルビン酸塩、
を含む、液体製剤。
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子、又はアミノ酸の側鎖を表し、R
6はアミノ基を有さないアミノ酸残基、水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基、又は水素原子を表し、R
7はm=0の場合、Qに結合する単結合を表し、m≠0の場合、水素原子を表し、Lは下記式:
*-NR
11-R
8-C(=O)-*
(式中、R
8は置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換の酸素原子を含むアルキレン基、又は置換若しくは無置換の硫黄原子を含むアルキレン基を表し、R
11はQに結合する単結合、又は水素原子を表し、*はそれぞれ前記式(III)においてLと隣接するQ及びNR
7(R
7は水素原子を表す。)との結合手を表す。)
で表される2価の基を表し、Qは放射性又は非放射性核種が配位し得るキレート構造を表し、Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表し、nは1~4の整数を表し、mは0~10の整数を表す。)
【請求項2】
前記Qは、M(Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表す。)に配位し得るカルボキシ基又は窒素原子を有する、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項3】
前記Qは、M(Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表す。)に配位し得る配位座が単結合又はアルキレン基を介して結合している窒素原子を有する、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項4】
前記Qは、ヘテロ原子を環構成原子に含む炭化水素環及び/又はヘテロ原子を主鎖に含む鎖状炭化水素基を有し、M(Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表す。)に配位し得る配位座が単結合又はアルキレン基を介して前記ヘテロ原子の少なくとも1つに結合している、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項5】
前記Mは、Cu、Ga、Lu、Ac、In、Zr、Y、Sc、Ti、F、Cl、Br、I、及びAtからなる群より選択される少なくとも1つであり、これらの核種は放射性又は非放射性である、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項6】
前記Lは、下記式(L’):
【化2】
(式中、R
11はQに結合する単結合、又は水素原子を表し、R
12及びR
14はそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアルキレン基、又は単結合を表し、p個のR
13はそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアルキレン基を表し、p個のZはそれぞれ独立に酸素原子、又は硫黄原子を表し、pは0~10の整数を表す。但し、R
12、R
13及びR
14の合計炭素原子数は1以上である。)
で表される2価の基である、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項7】
前記R1、R2、R3、R4及びR5はそれぞれ独立にアミノ酸の側鎖であり、前記R1が由来するアミノ酸はD型であり、前記R2が由来するアミノ酸はL型であり、前記R3が由来するアミノ酸はD型であり、前記R4が由来するアミノ酸はL型であり、前記R5が由来するアミノ酸はL型であり、トリスルフィドメチレン基(*-CH2-S-S-S-)の*で表される結合手が直接結合する式(III)の炭素原子(即ち、-C*H(NH-**)(C(=O)NHCH(R2)-**)(**は独立して、その先の基の省略を表す。)におけるC*)の置換基の立体配置はL型であり、前記R6はアミノ基を有さないアミノ酸残基、又は水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基であり、-C(=O)NH-R6が直接結合する炭素原子(α-炭素原子)の置換基の立体配置はL型である、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項8】
前記式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物の濃度が、10pg/mL以上100μg/mL以下である、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項9】
前記アスコルビン酸塩の濃度が1.92mg/mL以上19.2mg/mL以下である、請求項8に記載の液体製剤。
【請求項10】
pHが4.5以上7.5以下である、請求項1に記載の液体製剤。
【請求項11】
ソマトスタチン受容体(SSTR)を発現している細胞を伴う疾患の診断及び/又は治療用である、請求項1~10のいずれか1項に記載の液体製剤。
【請求項12】
下記式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物を含む液体において、
アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸アルミニウム、アスコルビン酸カリウム及びアスコルビン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のアスコルビン酸塩を含有させる工程を含む、液体中の式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物の安定性を向上させる方法。
【化3】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子、又はアミノ酸の側鎖を表し、R
6はアミノ基を有さないアミノ酸残基、水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基、又は水素原子を表し、R
7はm=0の場合、Qに結合する単結合を表し、m≠0の場合、水素原子を表し、Lは下記式:
*-NR
11-R
8-C(=O)-*
(式中、R
8は置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換の酸素原子を含むアルキレン基、又は置換若しくは無置換の硫黄原子を含むアルキレン基を表し、R
11はQに結合する単結合、又は水素原子を表し、*はそれぞれ前記式(III)においてLと隣接するQ及びNR
7(R
7は水素原子を表す。)との結合手を表す。)
で表される2価の基を表し、Qは放射性又は非放射性核種が配位し得るキレート構造を表し、Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表し、nは1~4の整数を表し、mは0~10の整数を表す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化合物及び少なくとも1種のアスコルビン酸塩を含む液体製剤に関する。また、本発明は、液体中の上記特定の化合物の安定性を向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリスルフィド結合を有する化合物群は近年「活性硫黄分子」として注目されている。例えば、非特許文献1に開示されているように、生体内の活性酸素種又は酸化ストレスに密接に関わるレドックスやシグナル伝達において、当該化合物群は重要な役割を担っていることが徐々に明らかにされつつある。
【0003】
また、非特許文献2に開示されているように、有機合成又は製造分野においては様々なポリスルフィド結合を有する化合物の合成が可能である。また、非特許文献3に開示されているように、特にチオール基を含むペプチドの環化反応において環構造の大きさを簡単に調節することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】活性硫黄研究の新世界、居原秀、本橋ほづみ、赤池孝章、生化学、2019、91、pp388-398
【非特許文献2】Rhodium-Catalyzed Synthesis of Organosulfur Compounds Involving S-S Bond Cleavage of Disulfides and Sulfur, Arisawa, M., Yamaguchi, M., Molecules 2020, 25, pp 3595-3630
【非特許文献3】Synthesis and Pharmacology of Novel Analogues of Oxytocin and Deaminooxytocin: Directed Methods for the Construction of Disulfide and Trisulfide Bridges in Peptides, Chen, L, Zouikova, I, Slaninova, J., Barany,G., J. Med. Chem, 1997, 40, pp 864-876
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、ポリスルフィド結合を有する医薬品の応用も検討されているが、臨床研究までには至っていなく、当該医薬品の研究開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、ポリスルフィド結合を有する医薬品を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは鋭意検討した結果、トリスルフィド(-S-S-S-)構造を有する化合物について、腫瘍への集積が高くなることを見出した。また、トリスルフィド構造を有する化合物は、肝臓などにおける非特異的集積が低く、全身からの排出が早くなることを見出した。その結果、トリスルフィド構造を有する化合物は、従来のジスルフィド(-S-S-)構造を有する放射性化合物に比べ、がん診断感度と治療効果が高く、安全性も高くなることを見出した。
【0008】
さらに、本発明者らは、上記トリスルフィド構造を有する化合物を含む液体製剤に少なくとも1種のアスコルビン酸塩を添加することによって、当該化合物が室温でも安定であり、放射性薬剤にも適応可能であることを見出して、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明の一態様に係る液体製剤は、
(1)下記式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物、及び、
(2)アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸アルミニウム、アスコルビン酸カリウム及びアスコルビン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のアスコルビン酸塩、
を含む、液体製剤である。
【化1】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子、又はアミノ酸の側鎖を表し、R
6はアミノ基を有さないアミノ酸残基、水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基、又は水素原子を表し、R
7はm=0の場合、Qに結合する単結合を表し、m≠0の場合、水素原子を表し、Lは下記式:
*-NR
11-R
8-C(=O)-*
(式中、R
8は置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換の酸素原子を含むアルキレン基、又は置換若しくは無置換の硫黄原子を含むアルキレン基を表し、R
11はQに結合する単結合、又は水素原子を表し、*はそれぞれ前記式(III)においてLと隣接するQ及びNR
7(R
7は水素原子を表す。)との結合手を表す。)
で表される2価の基を表し、Qは放射性又は非放射性核種が配位し得るキレート構造を表し、Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表し、nは1~4の整数を表し、mは0~10の整数を表す。)
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、ポリスルフィド結合を有する医薬品を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】アスコルビン酸ナトリウム非存在下のHPLCチャートを示す図である。
【
図3】アスコルビン酸ナトリウム存在下のHPLCチャートを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔液体製剤〕
本発明の一態様に係る液体製剤は、
(1)下記式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物(以下、これらをまとめて、本化合物(III)と示す場合がある)、及び、
(2)少なくとも1種のアスコルビン酸塩、を含む。
【化2】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子、又はアミノ酸の側鎖を表し、R
6はアミノ基を有さないアミノ酸残基、水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基、又は水素原子を表し、R
7はm=0の場合、Qに結合する単結合を表し、m≠0の場合、水素原子を表し、Lは下記式:
*-NR
11-R
8-C(=O)-*
(式中、R
8は置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換の酸素原子を含むアルキレン基、又は置換若しくは無置換の硫黄原子を含むアルキレン基を表し、R
11はQに結合する単結合、又は水素原子を表し、*はそれぞれ前記式(III)においてLと隣接するQ及びNR
7(R
7は水素原子を表す。)との結合手を表す。)
で表される2価の基を表し、Qは放射性又は非放射性核種が配位し得るキレート構造を表し、Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表し、nは1~4の整数を表し、mは0~10の整数を表す。)
【0013】
本発明の一態様に係る液体製剤として、注射剤及び点滴等などが挙げられる。
【0014】
(本化合物(III))
式(III)において、R2、R3、R4及びR5は、好ましくは、それぞれ独立にアミノ酸の側鎖を表し、より好ましくは、それぞれ独立にアミノ酸の側鎖を表し、且つ、R1が由来するアミノ酸はD型であり、R2が由来するアミノ酸はL型であり、R3が由来するアミノ酸はD型であり、R4が由来するアミノ酸はL型であり、R5が由来するアミノ酸はL型であり、トリスルフィドメチレン基(*-CH2-S-S-S-)の*で表される結合手が直接結合する式(III)の炭素原子(即ち、-C*H(NH-**)(C(=O)NHCH(R2)-**)(**は独立して、その先の基の省略を表す。)におけるC*)の置換基の立体配置は、好ましくは、L型である。式(III)において、R6は、好ましくは、アミノ基を有さないアミノ酸残基、又は水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは、アミノ基を有さないアミノ酸残基、又は水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基を表し、且つ、-C(=O)NH-R6が直接結合する炭素原子(α-炭素原子)の置換基の立体配置はL型であり、また、上記R6において上記式における該R6に隣接するNに直接結合する炭素原子(α-炭素原子)の置換基の立体配置はL型である。
【0015】
式(III)において、R1、R2、R3、R4及びR5の「アミノ酸の側鎖」としては、好ましくは、α-アミノ酸の側鎖である。本明細書において、「アミノ酸の側鎖」とは、アミノ酸(α-アミノ酸)を一般式RC(COOH)NH2で表す場合におけるRで表される基をいう。
【0016】
式(III)において、R1、R2、R3、R4及びR5がそれぞれ独立にアミノ酸の側鎖である場合、好ましくは、R1がフェニルアラニン(Phe)の側鎖(ベンジル基;-CH2C6H5)、R2がチロシン(Tyr)の側鎖(p-ヒドロキシフェニルメチル基)、R3がトリプトファン(Trp)の側鎖(インドリルメチル基)、R4がリシン(Lys)の側鎖(4-アミノ-n-ブチル基;-(CH2)4NH2)、及びR5がスレオニン(Thr)の側鎖(1-ヒドロキシエチル基;-CH(OH)CH3)である。
【0017】
式(III)において、R6の「アミノ基を有さないアミノ酸残基」としては、好ましくは、アミノ基を有さないα-アミノ酸残基であり、より好ましくは、アミノ酸(α-アミノ酸)を一般式RC(COOH)NH2で表す場合における-C(COOH)Rで表される基であり、更に好ましくは、スレオニン(Thr)残基(1-カルボキシ-2-ヒドロキシブチル基;-C(COOH)CH(OH)CH3)である。当該スレオニン残基は、既存のSSTR親和性薬剤であるDOTATATEにおいて上記R6に相当する基でもある。
【0018】
式(III)において、R6の「水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基」としては、好ましくは、水酸基を2個有する炭素原子数1~6のアルキル基であり、より好ましくは、水酸基を2個有する炭素原子数2~6のアルキル基であり、更に好ましくは、水酸基を2個有する炭素原子数3~5のアルキル基であり、更により好ましくは、水酸基を2個有する炭素原子数4のアルキル基であり、特に好ましくは-C(CH2OH)CH(OH)CH3である。当該-C(CH2OH)CH(OH)CH3は、既存のSSTR親和性薬剤であるDOTATOC、DOTANOCにおいて上記R6に相当する基でもある。
【0019】
式(III)において、R6は、好ましくは、アミノ基を有さないアミノ酸残基、又は水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基であり、それぞれの基の好ましい態様は上記のとおりである。R6は、より好ましくは、スレオニン(Thr)残基、又は-C(CH2OH)CH(OH)CH3であり、更に好ましくは、スレオニン(Thr)残基、又は-C(CH2OH)CH(OH)CH3であって、これらの基が隣接するNに直接結合する炭素原子(α-炭素原子)の置換基の立体配置はL型である基であり、更により好ましくは、スレオニン(Thr)残基であって、上記α-炭素原子の置換基の立体配置がL型である基である。
【0020】
式(III)において、Lは下記式で表される2価の基を表す:
*-NR11-R8-C(=O)-*
式中、R8は置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換の酸素原子を含むアルキレン基、又は置換若しくは無置換の硫黄原子を含むアルキレン基を表し、R11はQに結合する単結合、又は水素原子を表し、*はそれぞれ前記式(II)、及び式(IIa)においてLと隣接するQ及びNR7(R7は水素原子を表す。)との結合手を表す。
【0021】
上記Lを表す式におけるR8の定義におけるアルキレン基、酸素原子を含むアルキレン基、及び硫黄原子を含むアルキレン基の各炭素原子としては、好ましくは、1~50であり、より好ましくは、1~40であり、更に好ましくは、1~30であり、更により好ましくは、1~20であり、特に好ましくは、1~10であり、特により好ましくは、1~5である。当該アルキレン基は直鎖又は分岐状であってよいが、好ましくは直鎖状である。
【0022】
上記Lを表す式におけるR8としての酸素原子を含むアルキレン基、及び硫黄原子を含むアルキレン基としては、好ましくは、-(R13-Z)-(Zは酸素原子、又は硫黄原子を表す。)で表される繰り返し単位を含む。
【0023】
上記Lは、好ましくは、下記式(L’)で表される2価の基である:
【化3】
式中、R
11はQに結合する単結合、又は水素原子を表し、R
12及びR
14はそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアルキレン基、又は単結合を表し、p個のR
13はそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアルキレン基を表し、p個のZはそれぞれ独立に酸素原子、又は硫黄原子を表し、pは0~10の整数を表す。但し、R
12、R
13及びR
14の合計炭素原子数は1以上である。
【0024】
本明細書において、「置換若しくは無置換の」とは、置換基を有していてもよいし置換基を有していなくてもよいことを意味する。
【0025】
上記R8は、好ましくは、無置換のアルキレン基、無置換の酸素原子を含むアルキレン基、又は無置換の硫黄原子を含むアルキレン基である。上記式(L’)におけるR12、R13及びR14は、好ましくは、無置換のアルキレン基である。
【0026】
上記-(R13-Z)-は、好ましくは、-[(CH2)qZ]-(qは1~4の整数を表す。)で表される基である。
【0027】
上記式(L’)における-R12-(R13-Z)p-R14-は、好ましくは、下記式で表される基である:
-(CH2)r1-[(CH2)qZ]p-(CH2)r2-
式中、qは1~4の整数を表し、pは1~10の整数を表し、r1及びr2はそれぞれ独立に0~10の整数を表し、p個のZはそれぞれ独立に酸素原子、又は硫黄原子を表す。但し、r1+r2+p>1である。
【0028】
qとしては、好ましくは、2~4の整数であり、より好ましくは、2~3の整数である。pとしては、好ましくは、1~5の整数であり、より好ましくは、1~2の整数である。r1及びr2としては、好ましくは、0~5の整数であり、より好ましくは、0~2の整数であり、更に好ましくは、r1が0であり、r2が0~2の整数である。Zとしては、好ましくは、酸素原子である。
【0029】
Lとしては、例えば、下記基などが挙げられる。
【化4】
【0030】
式(III)において、mは0~10の整数を表し、好ましくは、0~5の整数であり、より好ましくは、0~2の整数であり、更に好ましくは、0である。
【0031】
式(III)において、nは1~4の整数を表し、好ましくは、1~3の整数であり、より好ましくは、1~2の整数であり、更に好ましくは、1である。
【0032】
式(III)において、Qは、放射性又は非放射性核種が配位し得るキレート構造を表し、好ましくは、下記Q1~Q3からなる群より選択される少なくとも1つの化学構造を有するキレート構造である。
Q1:M(Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表す。)に配位し得るカルボキシ基又は窒素原子を有する。
Q2:M(Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表す。)に配位し得る配位座が単結合又はアルキレン基を介して結合している窒素原子を有する。
Q3:ヘテロ原子を環構成原子に含む炭化水素環及び/又はヘテロ原子を主鎖に含む鎖状炭化水素基を有し、M(Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表す。)に配位し得る配位座が単結合又はアルキレン基を介して上記ヘテロ原子の少なくとも1つに結合している。
【0033】
式(III)におけるQとしての上記Q1においてMに配位し得るカルボキシ基又は窒素原子の数、並びに、Q2及びQ3においてMに配位し得る配位座の数としては、例えば、1~5であり、好ましくは、2~4であり、より好ましくは、3~4であり、更に好ましくは、3である。
【0034】
上記Q1としては、好ましくは、上記Mに配位し得るカルボキシ基を有するキレート構造であり、該カルボキシ基の数としては上記好ましい配位座の数が好ましい。
【0035】
上記Q2としては、好ましくは、上記Mに配位し得る配位座がアルキレン基を介して結合している窒素原子を有し、より好ましくは、上記Mに配位し得る配位座が炭素原子数1~2のアルキレン基を介して結合している窒素原子を有するキレート構造である。
【0036】
上記Q3としては、好ましくは、ヘテロ原子を環構成原子に含む炭化水素環を有し、上記Mに配位し得る配位座がアルキレン基を介して上記ヘテロ原子の少なくとも1つに結合しているキレート構造である。より好ましくは、3~4個のヘテロ原子を環構成原子に含む炭素原子数6~8の炭化水素環を有し、上記Mに配位し得る配位座が炭素原子数1~2のアルキレン基を介して上記ヘテロ原子の少なくとも1つに結合しているキレート構造である。本明細書において、「ヘテロ原子」とは、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子をいう。上記Q3におけるヘテロ原子としては、好ましくは、酸素原子である。
【0037】
Qとしては、例えば、下記構造が挙げられる。
【化5】
【0038】
Qとしては、既存のSSTR親和性薬剤であるDOTATOC、DOTATATE、及びDOTANOCにおいて共通するキレート構造である上記DOTAが特に好ましい。
【0039】
式(III)は、例えば、好ましい立体配置としては、下記式(IIIa)で表すことができる。
【化6】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、Q、L、M、m、及びnは、これらの定義及び好ましい態様を含め、式(III)と同じである。)
【0040】
式(III)及び式(IIIa)において、Mは、放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表す。放射性若しくは非放射性の金属核種(放射性同位体金属核種)としては、例えば、放射性若しくは非放射性のCu、Ga、Lu、Ac、In、Zr、Y、Sc、Tiなどが挙げられ、好ましくは、放射性若しくは非放射性のCu、Ga、Lu、Ac、Sc、Tiであり、より好ましくは、放射性のCu、Ga、Lu、Ac、Sc、Tiであり、更に好ましくは、64Cu、68Ga、177Lu、225Ac、44Scである。放射性若しくは非放射性のハロゲン核種としては、放射性のF、Cl、Br、I、At若しくは非放射性のF、Cl、Br、Iが挙げられ、好ましくは、放射性のF、Cl、Br、I、Atであり、より好ましくは、放射性のF、Atであり、更に好ましくは、18F、211Atである。Mとしては、好ましくは、放射性若しくは非放射性の金属核種であり、より好ましくは、放射性の金属核種であり、更に好ましくは、放射性のCu、Ga、Lu、Acであり、更に好ましくは、64Cu、68Ga、177Lu、225Ac、44Scである。
【0041】
本明細書において、「医薬として許容し得る塩」とは、動物生体、特に哺乳動物に対して有害でない塩を指す。医薬として許容し得る塩は、無機酸若しくは無機塩基、又は有機酸若しくは有機塩基を含む、無毒性の酸又は塩基を用いて形成することができる。医薬として許容し得る塩は、酸付加塩及び塩基付加塩を包含する。
【0042】
酸性の塩としては、たとえば、ナトリウム、カリウム、及びリチウムなどのアルカリ金属との塩;カルシウム及びマグネシウムなどのアルカリ土類金属との塩;アルミニウム及び亜鉛などの金属塩;アンモニウム塩;並びにトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ピリジン、N,N-ジメチルアニリン、N-メチルピペリジン、N-メチルモルホリン、ジエチルアミン、ジエタノールアミン、エチレンジアミン、ジシクロヘキシルアミン、プロカイン、クロロプロカイン、ジベンジルアミン、N-ベンジル-β-フェネチルアミン、1-エフェナミン及びN,N'-ジベンジルエチレンジアミン、メグルミン(N-メチルグルカミン)などの含窒素有機塩基との塩;などが挙げられる。
【0043】
塩基性の塩としては、たとえば、塩酸、臭化水素酸、硝酸及び硫酸などの鉱酸との塩;ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、トリクロロ酢酸及びトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩;並びにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸及びナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩;などが挙げられる。
【0044】
本明細書において、「溶媒和物」とは、本発明の一態様に係る化合物に対する1つ又は複数の溶媒分子の会合により形成される含溶媒化合物を意味する。溶媒和物は、例えば、一溶媒和物、二溶媒和物、三溶媒和物、及び四溶媒和物を含む。また、溶媒和物は、水和物を含む。
【0045】
本明細書において、「化合物、又はその医薬として許容し得る塩」は、異性体が存在する場合、本発明の一態様は、それらすべての異性体を包含し、また、水和物、溶媒和物及びすべての結晶形を包含するものである。異性体の例として、光学異性体、幾何異性体及び互変異性体などが挙げられる。
【0046】
(アスコルビン酸塩)
本発明の一態様に係る液体製剤(以下、「本液体製剤」と示す場合がある)に含まれるアスコルビン酸塩は、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸アルミニウム、アスコルビン酸カリウム及びアスコルビン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のアスコルビン酸塩である。
【0047】
少なくとも1種のアスコルビン酸塩が本液体製剤に含まれることによって、本化合物(III)は、室温において安定に存在する。本明細書において、「本化合物(III)が安定に存在する」とは、本化合物(III)のポリスルフィド結合の切断または開裂による本化合物(III)の分解が抑制される又は分解し難いことを示す。また、本明細書において、室温は1℃以上30℃以下を示す。
【0048】
本液体製剤は室温で一定期間(例えば、200時間以下、150時間以下、100時間以下、など)安定であるので、本液体製剤の調製後に直ちに使用する必要がない。調製した本液体製剤の輸送(特に、室温での輸送)が可能である。
【0049】
本液体製剤中の本化合物(III)の安定性がより高くなる点で、アスコルビン酸塩は、アスコルビン酸ナトリウム又はアスコルビン酸カリウムが好ましく、アスコルビン酸ナトリウムがより好ましい。
【0050】
本液体製剤中の本化合物(III)の安定性がより高くなる点で、本液体製剤中の本化合物(III)の濃度の下限は、10pg/mL以上が好ましく、40pg/mL以上がより好ましく、49.4pg/mL以上がさらに好ましい。また、本液体製剤中の本化合物(III)の濃度の上限は、100μg/mL以下が好ましく、50μg/mL以下がより好ましく、33.4μg/mLがさらに好ましい。
【0051】
本液体製剤中の本化合物(III)の安定性がより高くなる点で、本液体製剤中のアスコルビン酸塩の濃度の下限は、1.92mg/mL以上が好ましく、3mg/mL以上がより好ましく、10mg/mL以上がさらに好ましい。また、本液体製剤中のアスコルビン酸塩の濃度の上限は、19.2mg/mL以下が好ましく、18mg/mL以下がより好ましく、17mg/mL以下がさらに好ましい。
【0052】
本液体製剤中の本化合物(III)の安定性がより高くなる点で、本液体製剤のpHの下限は4.5以上が好ましく、5.0以上がより好ましく、5.3以上がさらに好ましい。また、本液体製剤のpHの上限は7.5以下が好ましく、6.0以下がより好ましく、5.5以下がさらに好ましい。
【0053】
本液体製剤に使用される溶媒の例として、酢酸緩衝液、クエン酸緩衝液、などの緩衝液及び水などがあげられる。緩衝液としては酢酸緩衝液が好ましい。緩衝液の濃度は、例えば、100mmol/L以上200mmol/L以下であってよい。
【0054】
(その他の成分)
本液体製剤には、本化合物(III)およびアスコルビン酸塩の他に、本発明の目的に反しない範囲で、その他の成分が含まれていてもよい。その他の成分の例として、希釈剤、防腐剤、pH調整剤、溶解補助剤などが挙げられる。
【0055】
本液体製剤の一態様では、本化合物(III)、アスコルビン酸塩、及び溶媒のみから構成される。
【0056】
容器に収容された本液体製剤も本発明の一態様に含まれる。容器の例として、パウチ容器などの輸液用容器、バイアル、アンプル、プレフィルドシリンジなどのシリンジなどが挙げられる。
【0057】
〔液体製剤の用途〕
本液体製剤は、ソマトスタチン受容体(SSTR)を発現している細胞(特に、高発現している細胞)を伴う疾患の診断及び/又は治療用に好ましく用いることができる。また、がん(腫瘍)の診断及び/又は治療用に好ましく用いることができ、なかでも、SSTRが発現しているがん(腫瘍)の診断及び/又は治療用に好ましく用いることができる。
【0058】
SSTRを発現している細胞(特に、高発現している細胞)を伴う疾患の例として、動脈硬化、がん(腫瘍)、炎症などが挙げられる。対象者へ本液体製剤を投与して、SSTRを発現している細胞を伴う疾患の診断及び/又は治療を行う方法も、本発明の一態様に含まれる。
【0059】
SSTRが発現しているがん(腫瘍)の代表例は、担がん、大腸がん、肝臓がん、神経内分泌腫瘍(NET)である。本液体製剤により診断及び/又は治療される対象のNETは、NETが発症した組織(発生器官、原発部位)により限定されない。NETは、食道・胃・十二指腸・小腸・虫垂・直腸などの消化管、膵臓、肺、脳下垂体、子宮、胆嚢など全身の様々な組織で発生する。対象のNETとして、消化管内分泌腫瘍、膵神経内分泌腫瘍、肺神経内分泌腫瘍など、種々のNETが例示される。
【0060】
本液体製剤を用いてがん(腫瘍)の診断及び/又は治療を行う対象はヒトである。治療目的であれば、腫瘍を有する患者が対象であり、検査又は診断目的であれば、健常者、がんの疑いのある者、腫瘍を有する者、腫瘍を治療中又は治療後の患者を包含する。
【0061】
Mが放射性の金属核種又はハロゲン核種である場合、腫瘍への放射能集積を高めることができる。当該放射能により、腫瘍を治療することができることから、当該化合物を治療目的で利用することができる。また、当該放射能を検出することで腫瘍を診断することができることから、当該化合物を診断目的で利用することができる。このように、Mが放射性核種である化合物は、腫瘍の診断及び治療の両方に好適に利用することができる。
【0062】
Mが非放射性の金属核種又はハロゲン核種である化合物は、核磁気共鳴画像法(MRI)により、腫瘍に蓄積した化合物を検出可能である。これにより、当該化合物を腫瘍の診断に利用することができる。
【0063】
以上より、本液体製剤は、腫瘍の診断目的又は腫瘍の治療目的のいずれか一方のみを目的としてもよいし、腫瘍の診断及び治療の両方を目的としてもよい。
【0064】
本発明の一態様には、本液体製剤を用いたがん(腫瘍)の診断方法及び/又は治療方法が含まれる。当該がん(腫瘍)の診断方法及び/又は治療方法は、対象者へ本液体製剤を投与することを含む。
【0065】
投与経路は特に限定されず、非経口投与、静脈内投与、又は腹腔内投与など、一般的な液体製剤の投与経路から選択すればよい。
【0066】
がん(腫瘍)の診断方法について説明する。本液体製剤を用いたがん(腫瘍)の診断方法は、がん(腫瘍)に蓄積した化合物を検出することをさらに含む。化合物を検出する方法は特に限定されないが、Mが放射性核種である場合は、当該放射性核種から放出される放射線を検出する放射線検出器を用いて検出することが好ましい。例えば、当該放射線検出器としてポジトロン断層撮影(PET)が例示される。Mが非放射性の金属核種又はハロゲン核種である場合は、上述のとおり、MRIを用いて検出することができる。
【0067】
本液体製剤を用いたがん(腫瘍)の診断方法に用いる場合、対象者への投与量は、がん(腫瘍)に蓄積した化合物を検出する検出方法などに応じて適宜設定すればよい。
【0068】
がん(腫瘍)に蓄積した化合物を検出した結果は、画像として出力することが好ましい。換言すると、本発明の一態様には、本液体製剤を用いたがん(腫瘍)のイメージング方法(画像化方法)が含まれる。また、本発明の一態様には、本液体製剤を用いたがん(腫瘍)のイメージング剤(画像化剤)が含まれる。
【0069】
がん(腫瘍)の治療方法について説明する。がん(腫瘍)の治療方法には、本液体製剤であって、Mが放射性の金属核種又はハロゲン核種である化合物を利用することが好ましい。当該化合物を治療に用いた場合に腫瘍の治療効果が発揮される放射能濃度となる量の化合物を対象者に投与する。一般的に、充分ながん(腫瘍)の治療効果を発揮するためには、がん(腫瘍)の診断に用いる場合よりも高濃度の放射能濃度となるよう、投与量を設定することが好ましい。
【0070】
本液体製剤において、本化合物(III)の1回用量の下限は、対象者の体重1kg当たり100pg以上が好ましく、200pg以上がより好ましく、247pg以上がさらに好ましい。また、本化合物(III)の1回用量の上限は、167μg以下が好ましく、16.7μg以下がより好ましく、5μg以下がさらに好ましい。
【0071】
〔本化合物(III)の製造方法〕
例えば、本化合物(III)は、以下の工程によって製造することができる:
(1)下記式(IV)で表される化合物、又はその塩若しくは溶媒和物(以下、これらをまとめて「本化合物(IV)」と示す場合がある)が有する2つの-SR
p基から-S-S-S-結合を形成するトリスルフィド化工程によって、下記式(II)で表される化合物、又はその塩若しくは溶媒和物(以下、これらをまとめて「本化合物(II)」と示す場合がある)を製造する工程;
(2)本化合物(II)にM(Mは式(III)に記載されたMと同じ。)又は該Mを含む化合物を作用させる配位工程(本明細書において、放射性核種であるMについて「標識工程」ともいう。)を含む方法により、製造することができる。
【化7】
【化8】
(式(II)及び(IV)中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、Q、L、m、及びnは、これらの定義及び好ましい態様を含め、式(III)と同じである。)
【0072】
(工程(1))
<本化合物(IV)>
式(IV)において、樹脂としては、例えば、ペプチドの固相合成法に用いることができる樹脂が挙げられる。当該樹脂として好ましくは、2-クロロトリチルクロリド樹脂(CTC樹脂)、4-メチルベンズヒドリルアミン塩酸塩樹脂(MBHA樹脂)、4-アルコキシベンジルアルコール樹脂(Wang樹脂)である。式(IV)において、樹脂の置換度は、好ましくは、0.4~0.5mmol/gである。
【0073】
本化合物(IV)は、固相合成法を用い、アミノ酸及び樹脂から製造することができる。固相合成法は、当業者に周知の方法によって行うことができる。固相合成法として、例えば、Fmoc基(9-フルオレニルメチルオキシカルボニル基)又はBoc基(tert-ブトキシカルボニル基)をアミノ基の保護基として使用する固相合成法などが挙げられる。
【0074】
本化合物(IV)(但し、Rpは保護基を表す。本明細書において、「キレート鎖状ペプチド樹脂」ともいう。)は、固相合成法を用い、アミノ酸と樹脂とから合成することができる。
【0075】
式(IV)におけるRpが水素原子である化合物は、上記キレート鎖状ペプチド樹脂におけるRp(即ち、保護基)を除去すること(脱保護)により、得られる。-SHの保護基を除去する方法としては、特に限定されないが、トリフルオロ酢酸(TFA)、トリイソプロピルシラン(TIS)、及びジクロロメタン(DCM)の混合溶液でキレート鎖状ペプチド樹脂を繰り返して洗浄し、溶液の色が無色から黄色を経て無色に戻ることで、-SHの保護基を除去したとみなすことができる。上記混合溶液は、好ましくは、TFA:TIS:DCMの体積比が2~4:4~6:90~94の混合溶液である。
【0076】
<トリスルフィド化工程>
本化合物(II)の製造におけるトリスルフィド化工程は、好ましくは、上記式(IV)で表される化合物が有する2つの-SRp基(但し、Rpは水素原子を表す。)を硫黄源化合物と環化反応させることによりトリスルフィド化することを含む。具体的には、上記式(IV)で表される化合物が有する2つの-SRp基(但し、Rpは保護基を表す。)を脱保護して-SH基にし、硫黄源化合物と環化反応させることによりトリスルフィド化することを含むのが好ましい。
【0077】
上記式(IV)で表される化合物が有する2つの-SRp基の脱保護(即ち、Rp=保護基からRp=水素原子への変化)については上述の方法で行うことができる。-SRp基の脱保護と、式(IV)における樹脂の除去と、トリスルフィド化を行う順序は、適切に行うことができれば特に限定されない。例えば、下記方法1と方法2とが挙げられ、方法1が好ましい。
方法1:
式(IV)における樹脂を結合した状態で脱保護し、トリスルフィド化したのち、樹脂を除去する方法
方法2:
式(IV)における樹脂を除去して脱保護し、トリスルフィド化する方法
【0078】
以下に、方法1、方法2それぞれの一例を、式(IV)で表される化合物の製造方法を含めて示す。
[方法1]
工程1A:固相合成法を用い、アミノ酸と樹脂とから式(IV)で表される化合物(キレート鎖状ペプチド樹脂)を製造する。
【0079】
工程1B:上記工程1Aで得られる式(IV)で表される化合物(Rpは-SHの保護基を表す。)が有する-SHの保護基を除去(脱保護)し、式(IV)で表される化合物(R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、Rp、Q、L、m、及びnは上記のとおりであり、Rpは-SHを表す。)で表される化合物、即ち、-SH基を2つ有するキレート鎖状ペプチド樹脂を得る。
【0080】
工程1C:上記工程1Bで得られる式(IV)で表される化合物(R
pは-SHを表す。)が有する-SHと硫黄源化合物とで環化反応を行い、下記式(V)で表される化合物(キレート環状ペプチド樹脂)を得る。
【化9】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、Q、L、m、及びnは、これらの定義及び好ましい態様を含め、式(IV)と同じである。)
【0081】
工程1D:上記式(V)に示すトリスルフィド結合を有するキレート環状ペプチド樹脂を収縮処理した後、樹脂から環状ペプチドを外す。濾過により、樹脂を取り除いた後、濾液から式(II)で表される化合物(キレート環状ペプチド又は前駆体)を得る。
【0082】
[方法2]
工程2A:固相合成法を用い、アミノ酸と樹脂とから式(IV)で表される化合物(キレート鎖状ペプチド樹脂)を製造する。
【0083】
工程2B:上記工程1Aで得られる式(IV)で表される化合物(R
pは-SHの保護基を表す。)が有するポリペプチド樹脂を収縮処理する。その後、濾過により樹脂を除去し、エーテルにより沈殿させ、沈殿を集め、下記式(VI)で表される化合物、即ち、-SH基を2つ有する化合物(キレート鎖状ペプチド)を得る。
【化10】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、R
7、Q、L、m、及びnは、これらの定義及び好ましい態様を含め、式(IV)と同じである。)
【0084】
工程2C:上記式(VI)で表される化合物が有する2つの-SH基と硫黄源化合物とで環化反応を行い、式(II)で表される化合物(キレート環状ペプチド又は前駆体)を得る。
【0085】
以下は、上記方法1及び方法2を含め、トリスルフィド化を中心に、式(IV)で表される化合物の好ましい製造方法に共通する。
【0086】
<硫黄源化合物>
トリスルフィド化に用いる硫黄源化合物としては、好ましくは下記化合物である。
【化11】
【0087】
上記硫黄源化合物は、以下のように合成することができる。無水条件下、インドール-1,3-ジオンと一塩化硫黄(sulfur monochloride;S2Cl2)とをN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)中18~22時間反応させる。反応時間は、好ましくは、室温であり、使用される2つの原料試薬、即ち、インドール-1,3-ジオン:一塩化硫黄のモル比は、好ましくは、1.5~2.5:1である。
【0088】
<トリスルフィド化>
式(IV)(但し、Rpは水素原子を表す。)で表される化合物が有する2つの-SH基と硫黄源化合物との環化反応は、好ましくは以下のように行う。硫黄源化合物を溶媒に溶解し、式(IV)(但し、Rpは水素原子を表す。)で表される化合物を加え、窒素又は不活性ガスで環化反応を行う。その後、この反応を3回繰り返し、毎回の反応時間は1~5時間である。使用する溶媒は、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロロメタン(DCM)、アセトニトリル、メタノールの混合溶媒又は単独溶媒である。当該反応は、好ましくは、アセトニトリル水溶液中1~5時間行い、特に上述の工程2Cにおける環化反応はアセトニトリル水溶液中1~5時間行うのが好ましい。
【0089】
硫黄源化合物は、式(IV)(但し、Rpは水素原子を表す。)で表される化合物が有する-SH基1モルに対し、2~3モルのモル比で使用することが好ましい。
【0090】
<樹脂除去>
使用する樹脂に対する収縮処理(除去)溶媒は、好ましくは、メタノールである。
【0091】
使用する除去溶媒は、また、好ましくは、TFAとTISとH2Oとの混合溶液、TFAとエチレンジアミン(EDT)とフェノール(PhOH)とH2Oとの混合溶液、TFAとEDTとTISとPhOHとのH2Oの混合溶液である。
【0092】
TFAとTISとH2Oの混合溶液を使用する場合、体積比(TFA:TIS:H2O)は、好ましくは、94~96:2~3:2~3である。TFAとEDTとPhOHとH2Oの混合溶液を使用する場合、体積比(TFA:EDT:PhOH:H2O)は、好ましくは、92~98:4~6:2~4:2~13である。TFAとEDTとTISとPhOHとH2Oの混合溶液を使用する場合、体積比(TFA:EDT:TIS:PhOH:H2O)は、好ましくは、76~84:4~6:4~6:4~6:4~6である。
【0093】
樹脂からポリペプチドを離すため、樹脂除去時間は、好ましくは、1~3時間である。
【0094】
<精製>
合成された本化合物(II)(キレート環状ペプチド又は前駆体)を精製する(例えば、上述の工程1Dにおける濾液から目的物を精製する)方法は、好ましくは、以下のとおりである。濾液にエーテルで沈殿させ、沈殿を集める。さらに、アセトニトリルで沈殿を溶解し、RP-HPLCで精製を行い、トリスルフィドを有するキレート環状ペプチド化合物を得る。
【0095】
(工程(2))
工程(2)では、本化合物(II)にM(Mは式(III)に記載されたMと同じ。)又は該Mを含む化合物を作用させる配位工程(本明細書において、放射性核種であるMについて「標識工程」ともいう。)を含む方法により、本化合物(III)を製造することができる。
【0096】
M(Mは式(III)に記載されたMと同じ。)又は該Mを含む化合物としては、Mが放射性若しくは非放射性の金属核種である場合、例えば、塩化金属などが挙げられ、好ましくは、MXClx(MXはx価の金属を表す。)で表される塩化金属であり、Mが放射性若しくは非放射性のハロゲン核種である場合、例えば、ハロゲン化銅などが挙げられ、好ましくは、64CuCl2である。上記M又は該Mを含む化合物は、例えば、サイクロトロンより製造されたものなどが挙げられる。
【0097】
本化合物(II)に上記M又は該Mを含む化合物を作用させる方法としては、特に限定されない。例えば、本化合物(II)の溶液(例えば、酢酸ナトリウム溶液)と、上記M又は該Mを含む化合物を10~20mCi含む溶液(例えば、酢酸ナトリウム溶液)とを混合し、10~90℃(例えば室温)において、1分間~2時間かけて反応させる方法などが挙げられる。本化合物(II)の製造方法としては、上述のとおりである。
【0098】
本化合物(II)~(IV)の構造を特定する方法として、質量分析法、核磁気共鳴法(NMR)などによる分析による特定が挙げられる。
【0099】
〔本化合物(III)の安定性を向上させる方法〕
本化合物(III)を含む液体において、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸アルミニウム、アスコルビン酸カリウム及びアスコルビン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のアスコルビン酸塩を含有させる工程を含む、本化合物(III)の安定性を向上させる方法も本発明の一態様に含まれる。液体に使用される溶媒は、上記液体製剤に使用される溶媒と同様の溶媒を使用することができる。上記アスコルビン酸塩を含有させる工程において、上記アスコルビン酸塩を含む溶媒に本化合物(III)を添加してもよいし、本化合物(III)を含む溶媒に上記アスコルビン酸塩を添加してもよい。または、上記アスコルビン酸塩、本化合物(III)及び溶媒を混合することによって、本化合物(III)を含む液体に上記アスコルビン酸塩を含有させてもよい。
【0100】
本化合物(III)を含む液体にアスコルビン酸塩が含まれることによって、室温でも本化合物(III)の分解が抑制される又は分解し難く、本化合物(III)の安定性を向上させることができる。したがって、本化合物(III)の安定性を向上させる方法は、本化合物(III)の分析方法の改良(例えば、高感度質量分析による本化合物(III)の直接検出)などにも応用できる。
【0101】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る液体製剤は、(1)下記式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物、及び、
(2)アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸アルミニウム、アスコルビン酸カリウム及びアスコルビン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のアスコルビン酸塩、を含む。
【化12】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子、又はアミノ酸の側鎖を表し、R
6はアミノ基を有さないアミノ酸残基、水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基、又は水素原子を表し、R
7はm=0の場合、Qに結合する単結合を表し、m≠0の場合、水素原子を表し、Lは下記式:
*-NR
11-R
8-C(=O)-*
(式中、R
8は置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換の酸素原子を含むアルキレン基、又は置換若しくは無置換の硫黄原子を含むアルキレン基を表し、R
11はQに結合する単結合、又は水素原子を表し、*はそれぞれ前記式(III)においてLと隣接するQ及びNR
7(R
7は水素原子を表す。)との結合手を表す。)
で表される2価の基を表し、Qは放射性又は非放射性核種が配位し得るキレート構造を表し、Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表し、nは1~4の整数を表し、mは0~10の整数を表す。)
【0102】
本発明の態様2に係る液体製剤は、上記態様1において、上記Qは、M(Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表す。)に配位し得るカルボキシ基又は窒素原子を有する。
【0103】
本発明の態様3に係る液体製剤は、上記態様1又は2において、上記Qは、M(Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表す。)に配位し得る配位座が単結合又はアルキレン基を介して結合している窒素原子を有する。
【0104】
本発明の態様4に係る液体製剤は、上記態様1~3のいずれかにおいて、上記Qは、ヘテロ原子を環構成原子に含む炭化水素環及び/又はヘテロ原子を主鎖に含む鎖状炭化水素基を有し、M(Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表す。)に配位し得る配位座が単結合又はアルキレン基を介して上記ヘテロ原子の少なくとも1つに結合している。
【0105】
本発明の態様5に係る液体製剤は、上記態様1~4のいずれかにおいて、上記Mは、Cu、Ga、Lu、Ac、In、Zr、Y、Sc、Ti、F、Cl、Br、I、及びAtからなる群より選択される少なくとも1つであり、これらの核種は放射性又は非放射性である。
【0106】
本発明の態様6に係る液体製剤は、上記態様1~5のいずれかにおいて、上記Lは、下記式(L’):
【化13】
(式中、R
11はQに結合する単結合、又は水素原子を表し、R
12及びR
14はそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアルキレン基、又は単結合を表し、p個のR
13はそれぞれ独立に置換若しくは無置換のアルキレン基を表し、p個のZはそれぞれ独立に酸素原子、又は硫黄原子を表し、pは0~10の整数を表す。但し、R
12、R
13及びR
14の合計炭素原子数は1以上である。)
で表される2価の基である。
【0107】
本発明の態様7に係る液体製剤は、上記態様1~6のいずれかにおいて、上記R1、R2、R3、R4及びR5はそれぞれ独立にアミノ酸の側鎖であり、上記R1が由来するアミノ酸はD型であり、上記R2が由来するアミノ酸はL型であり、上記R3が由来するアミノ酸はD型であり、上記R4が由来するアミノ酸はL型であり、上記R5が由来するアミノ酸はL型であり、トリスルフィドメチレン基(*-CH2-S-S-S-)の*で表される結合手が直接結合する式(III)の炭素原子(即ち、-C*H(NH-**)(C(=O)NHCH(R2)-**)(**は独立して、その先の基の省略を表す。)におけるC*)の置換基の立体配置はL型であり、上記R6はアミノ基を有さないアミノ酸残基、又は水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基であり、-C(=O)NH-R6が直接結合する炭素原子(α-炭素原子)の置換基の立体配置はL型である。
【0108】
本発明の態様8に係る液体製剤は、上記態様1~7のいずれかにおいて、上記式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物の濃度が、10ng/mL以上100μg/mL以下である。
【0109】
本発明の態様9に係る液体製剤は、上記態様1~8のいずれかにおいて、上記アスコルビン酸塩の濃度が1.92mg/mL以上19.2mg/mL以下である。
【0110】
本発明の態様10に係る液体製剤は、上記態様1~9のいずれかにおいて、pHが4.5以上7.5以下である。
【0111】
本発明の態様11に係る液体製剤は、上記態様1~10のいずれかにおいて、ソマトスタチン受容体(SSTR)を発現している細胞を伴う疾患の診断及び/又は治療用である。
【0112】
本発明の態様12に係る方法は、下記式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物を含む液体において、アスコルビン酸ナトリウム、アスコルビン酸マグネシウム、アスコルビン酸アルミニウム、アスコルビン酸カリウム及びアスコルビン酸カルシウムからなる群から選択される少なくとも1種のアスコルビン酸塩を含有させる工程を含む、液体中の式(III)で表される化合物、又はその医薬として許容し得る塩若しくは溶媒和物の安定性を向上させる方法である。
【化14】
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4及びR
5はそれぞれ独立に水素原子、又はアミノ酸の側鎖を表し、R
6はアミノ基を有さないアミノ酸残基、水酸基を有する炭素原子数1~6のアルキル基、又は水素原子を表し、R
7はm=0の場合、Qに結合する単結合を表し、m≠0の場合、水素原子を表し、Lは下記式:
*-NR
11-R
8-C(=O)-*
(式中、R
8は置換若しくは無置換のアルキレン基、置換若しくは無置換の酸素原子を含むアルキレン基、又は置換若しくは無置換の硫黄原子を含むアルキレン基を表し、R
11はQに結合する単結合、又は水素原子を表し、*はそれぞれ前記式(III)においてLと隣接するQ及びNR
7(R
7は水素原子を表す。)との結合手を表す。)
で表される2価の基を表し、Qは放射性又は非放射性核種が配位し得るキレート構造を表し、Mは放射性若しくは非放射性の金属核種、又は放射性若しくは非放射性のハロゲン核種を表し、nは1~4の整数を表し、mは0~10の整数を表す。)
【0113】
以下に実施例を示し、本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。もちろん、本発明の以下の実施例に限定されるものではなく、細部については様々な態様が可能であることはいうまでもない。さらに、本発明は上述した実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、それぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例0114】
〔実施例1〕ポリスルフィド結合を有する銅錯体環状ペプチドの安定性試験
ポリスルフィド結合を有する銅錯体環状ペプチド(以下、「実施例1の銅錯体環状ペプチド」と示す場合がある)は外注して製造した。実施例1の銅錯体環状ペプチドの構造を以下に示す。
【化15】
【0115】
200mM酢酸緩衝液はナカライテスク株式会社から購入した。添加剤としてアスコルビン酸及びチロシンはFUJIフィルム和光試薬株式会社から購入した。アスコルビン酸ナトリウムは関東化学株式会社から購入した。希釈水は注射用水を使用し、大塚製薬工場から購入した。
【0116】
実施例1の銅錯体環状ペプチドは100ppm(100μg/mL)溶液を10μL、200mmol/L酢酸緩衝液190μL、安定化剤含有又は非含有注射用水100μL、注射用水700μLの計1mLで調製した。安定化剤含有注射用水の調製は、アスコルビン酸169mg(95μmol)を1mL注射用水で溶解した。チロシンは0.96mgを注射用水0.3mLで溶解した。また、アスコルビン酸ナトリウムは192mg(96μmol)と19.2mg(9.6μmol)それぞれを1mL注射用水で溶解した。実施例1の銅錯体環状ペプチドの測定はHPLCを使用し、室温にて調製直後、24時間後、48時間後、144時間後を測定した。結果を
図1に示す。
【0117】
図1に示すように、安定化剤無の場合、24時間後までは面積値はほぼ変化がないが48時間後は18%減少し144時間後では実施例1の銅錯体環状ペプチドが検出されないことを確認した。アスコルビン酸は液体製剤の酸化防止剤としてよく用いられるが、24時間後24%面積値が減少した。この結果から、ポリスルフィド結合をもつ化合物ではアスコルビン酸は安定化剤として作用しないことが確認された。チロシンはポリスルフィド結合をもつ化合物の安定性に寄与することが近年明らかとなっているが、測定の結果15%面積値が減少した。アスコルビン酸ナトリウムを用いた場合、アスコルビン酸と同様のモル量で6日間、実施例1の銅錯体環状ペプチドが安定であることを示した。またアスコルビン酸ナトリウムの量が1/10の場合でも48時間後までは安定であることも明らかとなった。
【0118】
〔実施例2〕ポリスルフィド結合を有する放射性銅錯体環状ペプチドの製造及び安定性試験
放射性銅の製造はOhya, T., et al, Nucl. Med. Bio, 2016, 43, pp 685-691を参考にして調製した。20mLガラスバイアル中の放射性銅(銅-64)(放射能量780MBq)を含む200mmol/L酢酸緩衝液(pH5)2mLに、5μgの標識前駆体ペプチド溶液(200mmol/L酢酸緩衝液、pH5)500μLを加えた。そして、アルミキャップをしてから混合して室温で5分間静置した。安定化剤を含まない場合、シリンジにて200mmol/L酢酸緩衝液0.5mLと注射用水12mLを加えた後振り混ぜた後、GVフィルターを通じて回収した。安定化剤を含む場合、シリンジにて200mmol/L酢酸緩衝液0.5mL、アスコルビン酸ナトリウム288mg(1.45mmol)を含む注射用水5mLと注射用水7mLを加えた。そして、振り混ぜた後、GVフィルターを通じて回収した。放射性薬剤(ポリスルフィド結合を有する放射性銅錯体環状ペプチド)の放射化学的純度はHPLCを用いて測定を行った。安定化剤を含まない放射性薬剤のHPLCの測定結果を
図2、安定化剤を含む放射性薬剤のHPLCの測定結果を
図3に示す。実施例2で製造した放射性銅錯体環状ペプチドの構造を以下に示す。
【化16】
【0119】
図2に示すように、安定化剤を含まない放射性薬剤は24時間後分解が生じた。一方、
図3に示すように、安定化剤を含む場合24時間後でも放射性薬剤の分解が生じなかった。この結果から、放射性薬剤にもアスコルビン酸ナトリウムが安定化剤として適応可能であることを確認した。
【0120】
〔実施例3〕放射能量が高いポリスルフィド結合を有する放射性銅錯体環状ペプチドの安定性試験
銅-64の放射能量を780MBqから5550MBqに変更し、アスコルビン酸ナトリウムを256mg(1.29mmol)使用した以外は、実施例2と同様に、放射性薬剤(ポリスルフィド結合を有する放射性銅錯体環状ペプチド)を合成した。放射性薬剤の放射化学的純度はHPLCを用いて測定を行った。結果を
図4に示す。
【0121】
図4に示すように、22時間後でも放射性薬剤の分解は生じなかった。
【0122】
〔実施例4〕ポリスルフィド結合を有する放射性銅錯体環状ペプチドの無菌製造及び3ロット試験
100μgの標識前駆体環状ペプチドを用いて実施例2と同様の手順で、放射性薬剤剤(ポリスルフィド結合を有する放射性銅錯体環状ペプチド)を合成した。無菌環境はGVフィルターを通じて無菌アイソレーター内に放射性薬剤を注入し、品質検査用と保管用薬剤を分注した後、製品バイアルに放射性薬剤を封入した。これらの作業を別日に3回行い3ロット試験とした。その結果を表1と表2に示す。
【0123】
【0124】
【0125】
表1及び2に示すように、実施例4で製造した注射剤の製造及び品質検査で規格値に適合したことを確認した。
【0126】
〔実施例5〕ポリスルフィド結合を有する放射性銅錯体環状ペプチド注射剤の推定被ばく線量試験
実施例4で製造した注射剤を用いて推定被ばく線量試験を行った。使用したマウスは平均体重37.46g、雄雌ddy、8週齢で各28匹を用いた。注射剤(1.38MBq/0.1mL)を尾静脈から注射し、5,15,30,60,180,360,1440分後屠殺して各臓器の放射能量を測定した。この結果を基にOLINDA/EXMソフトウェアを用いて被ばく線量を算出した。その結果を表3に示す。表3中の数値の単位は、μSv/MBqである。
【0127】
【0128】
ポリスルフィド結合を有する放射性銅錯体環状ペプチド注射剤の推定被ばく線量は約5mSVであり、一般的な放射性薬剤である18F-FDG(8.4mSV;444MBq)とほぼ差異がないことを確認した。
【0129】
〔実施例6〕ポリスルフィド結合を有する銅錯体環状ペプチド及びその前駆体の毒性試験
ポリスルフィド結合を有する銅錯体環状ペプチド及びその前駆体であるポリスルフィド結合を有する環状ペプチドを雌雄のラットに単回静脈内投与する拡張型単回投与毒性試験を実施した。ポリスルフィド結合を有する銅錯体環状ペプチドは実施例1の銅錯体環状ペプチドを使用した。実施例1の銅錯体環状ペプチドの前駆体(標識前駆体)の構造を以下に示す。
【化17】
【0130】
被験者に対する実施例1の銅錯体環状ペプチドとしての投与量を1人1回あたり17.8ng~12μgとした。成人の標準体重を72kgとすると体重あたりの投与量は247pg/kg~167ng/kgとなり、これを基準に毒性試験での実施例1の銅錯体環状ペプチドの投与量を設定した。
【0131】
また、被験薬中には有効成分である実施例1の銅錯体環状ペプチドよりも多く標識前駆体が含まれることから、毒性試験では、有効成分である実施例1の銅錯体環状ペプチドとあわせて標識前駆体を評価した。被験薬に仕込み量としての標識前駆体全量が含まれる場合の安全性を確認する目的で、標識前駆体として1人1回あたり80μg、体重あたり1.11μg/kgを基準に毒性試験での標識前駆体の投与量を設定した。
【0132】
上記より、高用量は基準の1000倍量となるように、実施例1の銅錯体環状ペプチドを167μg/kg、標識前駆体を1110μg/kgに設定した。低用量は基準の100倍量となるように、実施例1の銅錯体環状ペプチドを16.7μg/kg、標識前駆体を111μg/kgに設定した。
【0133】
試験液は高用量群液を調製し、低用量群液は高用量群液を媒体で希釈して調製した。高用量群液(33.4/222μg/mL:実施例1の銅錯体環状ペプチド/標識前駆体)の割合で調製を行い、10倍希釈したものを低用量群液とした。使用した媒体はアスコルビン酸ナトリウム19.2mg/mLを含む40mmol/L酢酸緩衝液を用いた。
【0134】
検査項目として、一般状態の観察、体重測定、血液学検査、凝固系検査、血液化学検査、病理学検査、器官重量測定及び病理組織学検査を行った。データ採取に使用したシステムはMiTOX-BOZOシステム(Version 7.6.1、三井E&Sシステム技研株式会社)及びPATHOS5システム(Pathology Operating Systems Ltd.)であり、統計解析はSAS Release 9.1.3(SAS Institute Inc.)を使用した。
【0135】
死亡は認められず、一般状態、体重、血液学検査、凝固系検査、血液化学検査及び剖検においても実施例1の銅錯体環状ペプチド及び標識前駆体に関連する変化は見られなかった。
【0136】
投与翌日の剖検時に、雄の高用量167/1110μg/kgで精巣重量の高値が見られた。しかし、軽微な重量増加であり、同様の変化は投与14日後の剖検時には見られなかったことから、毒性学的意義の乏しい変化と考えられた。
【0137】
実施例6の条件下におけるポリスルフィド結合を有する実施例1の銅錯体環状ペプチド及び標識前駆体の無毒性量(NOAEL)は、雌雄ともに167/1110μg/kgと結論した。
【0138】
〔実施例のまとめ〕
ポリスルフィド結合を有する化合物群は結晶及び無定形固体で窒素気流下又は4℃以下においては安定に存在することが知られている。一方、溶液(特に注射剤)の主成分としてポリスルフィド結合を有する化合物群を用いたときは、当該化合物群は著しく不安定である。
【0139】
液体中でポリスルフィド結合を有する化合物群が不安定である理由として、以下の理由が考えられる:
(1)水溶液中のヒドロオキシアニオンがポリスルフィド結合に求核反応を行い、当該結合を切断する;
(2)溶液中の溶存酸素により酸化しスルホキシドに変化する;
(3)ポリスルフィド結合を有する放射性医薬品への適応を考えた場合、放射性元素が崩壊する際に生じるエネルギーで水分子がヒドロオキシラジカルになり、ポリスルフィド結合を開裂する。
【0140】
本実施例では、意外にも、アスコルビン酸ナトリウムなどのアスコルビン酸塩を液体製剤に添加することによって、ポリスルフィド結合を有する化合物群を室温でも安定に存在することが明らかになった。この条件は放射性薬剤にも適応可能であり、GMP施設で製造後、室温で輸送することが可能であることを見出した。
【0141】
また、ポリスルフィド結合を有する化合物群を含む溶液にアスコルビン酸ナトリウムなどのアスコルビン酸塩を添加することによって、当該化合物群の分析方法の改良(例えば、高感度質量分析によるポリスルフィド結合を有する化合物群の直接検出)などにも応用できることを見出した。