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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043307
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】白血球の精度管理物質
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/49 20060101AFI20240322BHJP
   G01N 21/27 20060101ALI20240322BHJP
   G01N 33/493 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G01N33/49 Z
G01N21/27 E
G01N33/493 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148424
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥村 和子
(72)【発明者】
【氏名】中尾 淳史
(72)【発明者】
【氏名】工藤 和樹
【テーマコード(参考)】
2G045
2G059
【Fターム(参考)】
2G045AA20
2G045CA11
2G045JA05
2G059AA05
2G059BB04
2G059BB09
2G059BB13
2G059DD20
2G059EE01
2G059EE13
2G059FF01
2G059FF03
2G059KK04
2G059MM05
(57)【要約】
【課題】容易に入手可能な原料を用いて安全に調製することができる、保存安定性に優れた、検体中の有形成分の分析に使用することができる白血球の精度管理物質を提供する。
【解決手段】精度管理物質は、顕微鏡で観察した際の形態が白血球の形態に類似する人工粒子を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
顕微鏡で観察した際の形態が白血球の形態に類似する人工粒子を含む、検体中の白血球の検出精度を管理するための精度管理物質。
【請求項2】
尿中有形成分分析装置において使用するための、請求項1に記載の精度管理物質。
【請求項3】
前記人工粒子の形態が球状である、請求項1に記載の精度管理物質。
【請求項4】
前記人工粒子の群の平均粒子径が5~10μmである、請求項1に記載の精度管理物質。
【請求項5】
前記人工粒子の素材がセルロースである、請求項1に記載の精度管理物質。
【請求項6】
前記人工粒子を顕微鏡で観察した際の色調が、白血球を顕微鏡で観察した際の色調に類似する、請求項1に記載の精度管理物質。
【請求項7】
前記人工粒子の構造が無孔質である、請求項1に記載の精度管理物質。
【請求項8】
前記人工粒子が、平均粒子径5~10μmの無孔質球状セルロースである、請求項1に記載の精度管理物質。
【請求項9】
前記人工粒子が、ビスコパール(登録商標) D-5、CELLULOBEADS(登録商標) D-5、ビスコパール(登録商標) D-10及びCELLULOBEADS(登録商標) D-10のうち少なくとも一つに含まれる人工粒子である、請求項1に記載の精度管理物質。
【請求項10】
検体中の白血球の形態に類似する粒子を計数することにより前記検体中の前記粒子濃度を算出する分析装置の算出精度の管理方法であって、
前記分析装置を用いて請求項1~9のいずれか一項に記載の精度管理物質中の前記粒子濃度を算出する工程、
前記粒子濃度の算出値と基準値を比較する工程、及び
前記粒子濃度の算出値と前記基準値との比較に基づき前記算出精度を判定する工程を含む、
管理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体中の有形成分の分析における精度管理に用いられる、精度管理物質に関する。特に、白血球項目で利用される精度管理物質に関する。
【背景技術】
【0002】
患者から採取した尿等の検体に含まれる有形成分を顕微鏡で観察し、観察された有形成分の中から白血球を判別して計数することにより、患者の病気を判断する検査が行われている。例えば、尿に含まれる有形成分の種類を判別し、各有形成分の濃度を測定する尿沈渣検査において、白血球数が基準値よりも多ければ尿路感染症等が疑われる。顕微鏡を用いた有形成分の検査は、検査技師が検体を直接観察して有形成分を計数する鏡検法や、顕微鏡に搭載された自動分析装置を用いて有形成分の種類を判別し、有形成分を計数する方法等により行われる。いずれの方法で検体中の白血球を計数する場合でも、有形成分の形態に基づいて白血球を正しく検出/判別するためには、精度管理(精度コントロールとも言う)が必要である。
【0003】
非特許文献1には、精度管理で用いることを目的とした精度管理物質として、ヒト由来の血液から分離した赤血球及び白血球をグルタルアルデヒドで固定化したものを含む、尿沈査用コントロール尿が開示されている。
【0004】
特許文献1には、尿中非扁平上皮細胞の形態を示す物質として癌細胞を含み、尿中の異常な円柱の形態を示す物質として藻細胞を含み、尿中の酵母細胞の形態を示す物質として酵母細胞を含み、尿中の粘液の形態を示す物質として卵白を含む、精度管理物質が開示されている。白血球の形態を模した物質としては、ハイブリドーマ細胞(マウス脾臓細胞と骨髄腫細胞(p653細胞)とのハイブリダイゼーション)が利用されている。すなわち、特許文献1は顕微鏡で尿検体を観察した際に、尿検体中の尿沈殿物と形態が似た他の物質を利用し、精度管理物質中の成分の形態と該尿検体中の成分の形態とを比較することにより、精度管理を行なうことを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2020-531852号公報
【特許文献2】特開2019-66461号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】今井宣子ら,「尿沈査用コントロール尿の試作と運用」,衛生検査,39巻,第1号,1990年,p.55―61
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び非特許文献1で開示されるような白血球を含む精度管理物質を調製する際に、倫理上の理由から白血球の入手が難しいことが課題となっていた。また、生体由来成分は不安定かつ感染性を有するため、取り扱いには一定の技能を要することも課題となっていた。特に、白血球は採取から精度管理物質の調製までの許容時間が短く、保存安定性に懸念があった。
【0008】
かかる状況に鑑みて、本発明は、容易に入手可能な原料を用いて安全に調製することができる、保存安定性に優れた、検体中の有形成分の分析に使用することができる白血球の
精度管理物質を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、顕微鏡で観察した際に、特定の人工粒子の形態と検体中の白血球の形態が類似することを見出し、該人工粒子は検体中の有形成分の分析において白血球の精度管理物質として好適に使用できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りである。
[1]顕微鏡で観察した際の形態が白血球の形態に類似する人工粒子を含む、検体中の白血球の検出精度を管理するための精度管理物質。
[2]尿中有形成分分析装置において使用するための、[1]に記載の精度管理物質。
[3]前記人工粒子の形態が球状である、[1]又は[2]に記載の精度管理物質。
[4]前記人工粒子の群の平均粒子径が5~10μmである、[1]~[3]のいずれかに記載の精度管理物質。
[5]前記人工粒子の素材がセルロースである、[1]~[4]のいずれかに記載の精度管理物質。
[6]前記人工粒子を顕微鏡で観察した際の色調が、白血球を顕微鏡で観察した際の色調に類似する、[1]~[5]のいずれかに記載の精度管理物質。
[7]前記人工粒子の構造が無孔質である、[1]~[6]のいずれかに記載の精度管理物質。
[8]前記人工粒子が、平均粒子径5~10μmの無孔質球状セルロースである、[1]~[7]のいずれかに記載の精度管理物質。
[9]前記人工粒子が、ビスコパール(登録商標) D-5、CELLULOBEADS(登録商標) D-5、ビスコパール(登録商標) D-10及びCELLULOBEADS(登録商標) D-10のうち少なくとも一つに含まれる人工粒子である、[1]~[8]のいずれかに記載の精度管理物質。
[10]検体中の白血球の形態に類似する粒子を計数することにより前記検体中の前記粒子濃度を算出する分析装置の算出精度の管理方法であって、
前記分析装置を用いて[1]~[9]のいずれかに記載の精度管理物質中の前記粒子濃度を算出する工程、
前記粒子濃度の算出値と基準値を比較する工程、及び
前記粒子濃度の算出値と前記基準値との比較に基づき前記算出精度を判定する工程を含む、
管理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の精度管理物質に含まれる人工粒子は保存安定性が高いため、本発明の精度管理物質により、検体中に存在し得る白血球を分析する際に精度管理を好ましく行なうことができる。また、本発明の白血球の精度管理物質は、倫理上の問題がなく安全に調製することができるため、製造現場における操作性や臨床現場における利便性の向上等が期待できる。さらに、市販品の人工粒子を用いることにより、同じ品質の精度管理物質を大量に取得することができる。人工粒子は、工業生産品であることから倫理上の問題がなく入手・使用することができ、保存安定性に優れており、感染性を有しないことから安全に使用することができる点で好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】尿沈渣分析装置により撮像された、試料1に含まれるビスコパール(登録商標) D-10の形態を示す画像(写真)である。
図2】尿沈渣分析装置により撮像された、参考試料に含まれる固定化白血球の形態を示す画像(写真)である。
図3】生物顕微鏡による観察から得られた、試料1に含まれるビスコパール(登録商標) D-10の形態を示す画像(写真)である。
図4】生物顕微鏡による観察から得られた、参考試料に含まれる固定化白血球の形態を示す画像(写真)である。固定化白血球は図中の矢印において示されている。
図5】尿沈渣分析装置により撮像された、試料2に含まれるビスコパール(登録商標) D-5の形態を示す画像(写真)である。
図6】尿沈渣分析装置により撮像された、試料3に含まれるKCX-5000の形態を示す画像(写真)である。
図7】生物顕微鏡による観察から得られた、試料3に含まれるKCX-5000の形態を示す画像(写真)である。
図8】尿沈渣分析装置により撮像された、試料4に含まれるMX-1000の形態を示す画像(写真)である。
図9】尿沈渣分析装置により撮像された、試料5に含まれるテクポリマー(登録商標) BIO EF-Cの形態を示す画像(写真)である。
図10】尿沈渣分析装置により撮像された、試料6に含まれるニッカリコ(登録商標) AS-100SGの形態を示す画像(写真)である。
図11】尿沈渣分析装置により撮像された、試料7に含まれるテクポリマー(登録商標) BIO EF-Bの形態を示す画像(写真)である。
図12】尿沈渣分析装置により撮像された、試料8に含まれるNH-RAS06の形態を示す画像(写真)である。
図13】尿沈渣分析装置により撮像された、試料9に含まれるTwinone SS-1000の形態を示す画像(写真)である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
<精度管理物質>
本発明の一実施形態は、顕微鏡による有形成分分析において使用するための、顕微鏡で観察した際の形態が白血球の形態に類似する人工粒子を含む、精度管理物質である。本明細書において、顕微鏡は好ましくは光学顕微鏡である。
【0014】
本実施形態の精度管理物質は、好ましくは尿中有形成分分析装置、特に顕微鏡による尿沈渣分析装置において使用するための精度管理物質であり、検体中の白血球の検出精度を管理するための精度管理物質である。本実施形態の精度管理物質は、好ましくは、検査者が検体中の白血球を顕微鏡で観察して検体中の白血球を計数するために用いる精度管理物質でもあり、検体中の白血球の検出精度を管理するための精度管理物質でもある。
【0015】
精度管理物質は、顕微鏡による尿沈渣分析装置の白血球項目の精度管理に使用される精度管理物質を含む。精度管理物質は、顕微鏡で観察した際の形態が白血球の形態に類似する人工粒子を含む。換言すれば、精度管理物質は、白血球を顕微鏡で観察して得られる像と類似する像が人工粒子を顕微鏡で観察して得られる当該人工粒子を含む。
【0016】
精度管理物質は、検体中の白血球の形態を示す粒子を計数し、計数値に基づき検体中の白血球濃度を算出する際の算出精度の管理に使用される精度管理物質を含む。検体中の白血球の形態を示す粒子の計数は、検査者が検体中の粒子を顕微鏡で観察して計数することや、顕微鏡とカメラを備える分析装置に顕微鏡を介してカメラで検体中の粒子を撮像させることで検体中の粒子が写る画像を取得させ、取得させた画像に写る粒子のうち白血球の形態を示す粒子を自動的に計数させることを含む。所定量の検体に含まれる粒子の計数値に基づき検体中の粒子濃度を算出してもよいし、顕微鏡の所定の視野範囲内に観察される粒子数と検体中の粒子濃度との相関関係を予め取得しておき、顕微鏡の所定の視野範囲内に観察される粒子を計数し、該計数値と当該相関関係から検体中の粒子濃度を算出してもよい。
【0017】
精度管理物質に含まれる人工粒子の群は、顕微鏡で観察した際の形態が白血球の形態に類似する人工粒子を含むことが好ましい。顕微鏡で観察した際に白血球の形態に類似する人工粒子の形態としては、球状、略球状、ゴルフボール状、ラズベリー状、多面体状等が挙げられ、これらのうち球状が好ましい。
【0018】
精度管理物質に含まれる人工粒子の群の平均粒子径は、2~20μmとすることができ、5~10μmが好ましい。ここで人工粒子の粒子径は、人工粒子の形態が球状でない場合、外接球の直径で定義する。
【0019】
精度管理物質に含まれる人工粒子としては、人工的に製造された無機粒子及び有機粒子が挙げられ、これらのうち有機粒子が好ましい。有機粒子の素材としては、天然ポリマー、半合成ポリマー、合成ポリマー等が挙げられ、これらのうち天然ポリマーが好ましい。天然ポリマーとしては、セルロース、デンプン、タンパク質、天然ゴム等が挙げられ、これらのうちセルロースが好ましい。
より具体的には、木材パルプ由来の無孔質球状セルロース粒子であり白血球の形態に類似する粒子を含むビスコパール(登録商標)(レンゴー社製)又はCELLULOBEADS(登録商標)(大東化成工業社製)を精度管理物質として使用することが好ましく、その中でも、平均粒子径5μmのビスコパール(登録商標) D-5、平均粒子径5μmのCELLULOBEADS(登録商標) D-5、平均粒子径10μmのビスコパール(登録商標) D-10、及び平均粒子径10μmのCELLULOBEADS(登録商標) D-10がより好ましい。なお、ビスコパール(登録商標) D-5はCELLULOBEADS(登録商標) D-5の別名であり、ビスコパール(登録商標) D-10はCELLULOBEADS D-10の別名である。
【0020】
その他、無機粒子の素材としては、金属、金属の酸化物、窒化物、フッ化物、硫化物、ホウ化物、及びそれらの複合化合物、並びに、ハイドロキシアパタイト等が挙げられる。
【0021】
半合成ポリマーとしては、セルロース誘導体(例えば、酢酸セルロース、キサントゲン酸セルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等が挙げられる。)、デンプン誘導体(例えば、酸化デンプン、デキストリン等が挙げられる。)等が挙げられる。合成ポリマーとしては、シリコーン系ポリマー(例えば、ポリメチルシルセスキオキサン、(ジメチコン/ビニルジメチコン)クロスポリマー等が挙げられる。)、ア
クリル系ポリマー(例えば、ポリメチルメタクリレート等が挙げられる。)、スチレン系ポリマー(例えば、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。)等が挙げられる。
【0022】
精度管理物質に含まれる人工粒子を顕微鏡で観察した際の色調は、白血球を顕微鏡で観察した際の色調に類似することが好ましい。
【0023】
精度管理物質に含まれる人工粒子の構造としては、無孔質及び多孔質が挙げられ、これらのうち無孔質が好ましい。
【0024】
本実施形態の精度管理物質は、本発明の効果を損なわない限りにおいて水性溶媒を含んでもよい。水性溶媒としては、水、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等が挙げられる。
【0025】
本実施形態の精度管理物質は、本発明の効果を損なわない限りにおいて追加の成分をさらに含んでもよい。追加の成分としては、例えば、界面活性剤、イオン性物質、水溶性ポリマー等が挙げられる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(例えば、Tween(登録商標)20の名称で市販されているものが挙げ
られる。)等が挙げられる。
【0026】
白血球としては、多形核顆粒球、単球、リンパ球等が挙げられる。
【0027】
<算出精度の管理方法>
本発明の他の実施形態は、検体中の白血球の形態に類似する粒子を計数することにより前記検体中の前記粒子濃度を算出する分析装置の算出精度の管理方法であって、前記分析装置を用いて<精度管理物質>の項に記載の精度管理物質中の前記粒子濃度を算出する工程、前記粒子濃度の算出値と基準値を比較する工程、及び前記粒子濃度の算出値と前記基準値との比較に基づき前記算出精度を判定する工程を含む、管理方法である。
【0028】
分析装置は、例えば、顕微鏡と、検体中の粒子を撮像するカメラとを備え、顕微鏡を介してカメラで検体中の粒子を撮像することで検体中の粒子が写る画像を取得し、取得した画像に写る、分析装置に予め記憶させた白血球の粒子の形態との類似度が所定の値以上を示す粒子(類似粒子)を白血球として計数し、計数値に基づき検体中の類似粒子の濃度を白血球濃度として算出する分析装置である。検体中の白血球濃度を算出する分析装置としては顕微鏡による尿沈渣分析装置が挙げられ、顕微鏡による尿沈渣分析装置としては、例えば、AUTION EYE(登録商標) AI-4510(アークレイ社製)が挙げられる。
【0029】
検体は、白血球を含む可能性があるものであれば特に限定されない。検体としては、尿、血液等が挙げられ、これらのうち尿が好ましい。
【0030】
精度管理物質を前記分析装置を用いて分析すると、精度管理物質に含まれる、顕微鏡で観察した際の形態が白血球の形態と類似する人工粒子は類似粒子(白血球)として計数され、精度管理物質に含まれる人工粒子の濃度が類似粒子の濃度(白血球の濃度)として算出される。算出された人工粒子の濃度の算出値と基準値を比較し、例えば、該人工粒子の濃度の算出値と該基準値の差に基づき前記分析装置の算出精度を判定してもよい。この場合、該差が所定値未満であれば、該算出精度が良好であると判定できる。一方、該差が所定値以上であれば、該算出精度は不良であると判定できる。また、基準値に対する人工粒子の濃度の算出値の割合に基づき算出精度を判定してもよい。この場合、該割合が所定値未満であれば、該算出精度は良好と判定できる。一方、該割合が所定値以上であれば、該算出精度は不良と判定できる。所定値は、分析装置に求める精度に応じて適宜設定できる。
【0031】
基準値は、例えば、複数の分析装置で同じ精度管理物質を測定して得られる複数の類似粒子濃度の算出値を平均した値、鏡検法により精度管理物質を測定して得られる類似粒子濃度の算出値、品質管理された分析装置で精度管理物質を測定して得た類似粒子の濃度の算出値(白血球の濃度の算出値)等とすることができる。また、前記分析装置で精度管理物質を予め複数回分析することにより算出された類似粒子の濃度(白血球の濃度)の平均値とすることもできる。
【0032】
<検体中の白血球の検出方法>
本発明の他の実施形態は、被検者由来の検体中の白血球の存在の検出方法であって、精度管理物質中の人工粒子の形態を決定するために、尿中有形成分分析装置を用いて上述の<精度管理物質>の項で記載した精度管理物質を分析する工程、尿中有形成分分析装置を用いて被検者由来の有形成分を含む検体を分析する工程、前記精度管理物質中の人工粒子の形態と前記検体中の前記有形成分の形態とを比較する工程、及び前記検体中の前記有形成分の形態が、前記精度管理物質中の人工粒子の形態と一致することにより、前記検体中において白血球が存在することを決定する工程を含む、検出方法である。
【0033】
被検者とは、検体中の有形成分の検査を受ける者のことであり、疾患を有している者であってもよく、疾患を疑われている者であってもよく、健常者であってもよい。被検者は、ヒトであることが好ましい。
【0034】
検体は、白血球を含む可能性があるものであれば特に限定されない。検体としては、尿、血液等が挙げられ、これらのうち尿が好ましい。
【0035】
検体中の白血球の形態が、前記精度管理物質中の人工粒子の形態と一致することに関しては、使用する尿中有形成分分析装置によって自動で判別することができる。例えば、特許文献2に記載される無染色かつ流体中での画像解析に基づく尿中有形成分分析装置を用いた場合は、有形成分の種別を判別する装置が精度管理物質中の人工粒子の画像から特徴量(例えば、色調、形態、粒子径等)を抽出し、その特徴量を白血球の特徴量として予め尿中有形成分分析装置に記憶させておく。検体中の有形成分を自動判別する際は、検体中の有形成分の画像から特徴量を抽出し、予め尿中有形成分分析装置に記憶させた白血球の特徴量とのパターンマッチングによって両者の形態が一致するか(両者の形態間の類似度が一定以上であるか)を判定し、両者が一致すると判定された場合には検体中に白血球が存在することを示すものである。
【0036】
さらに尿中有形成分分析装置は、検出された白血球を計数してもよい。
【0037】
尿中有形成分分析装置は、顕微鏡による尿沈渣分析装置を含む。顕微鏡による尿沈渣分析装置としては、例えば、AUTION EYE(登録商標) AI-4510が挙げられる。
【0038】
被検者由来の検体における白血球の存在が検出されることにより、又は被検者由来の検体における白血球の計数結果により、例えば、尿路感染症といった疾患の存在を疑うことができ、必要に応じてそれらの疾患の治療方針(薬剤の投与等)を決定することができる。
【実施例0039】
実施例は、開示する目的のために記載されており、本発明の範囲を制限する意図はない。
【0040】
<実施例1>
室温下で、PBS(pH7.4)(27575-31、ナカライテスク社製)(1倍濃度)に終濃度0.01%のポリオキシエチレン(20)ソルビタンモノラウレート(Tween(登録商標)20;富士フイルム和光純薬社製)を添加し、攪拌した。前記溶液に、平均粒子径が10μmの球状セルロース粒子 ビスコパール(登録商標) D-10(レンゴー社製)(終濃度5.0×10-4mg/mL)を添加した後、十分に転倒混和することにより、試料1を調製した。また、非特許文献1に記載の方法により、固定化白血球を含むプール尿(参考試料)を調製した。
【0041】
尿沈渣分析装置 AUTION EYE(登録商標) AI-4510(アークレイ社製)を用いて、試料1に含まれるビスコパール(登録商標) D-10及び参考試料に含まれる粒子を撮像し、試料1中のビスコパール(登録商標) D-10及び参考試料中の固定化白血球の画像を得た。ビスコパール(登録商標) D-10及び固定化白血球の画像を観察することにより、試料1に含まれるビスコパール(登録商標) D-10と参考試料に含まれる固定化白血球の形態及び粒子径が類似するか確認した。試料1に含まれるビスコパール(登録商標) D-10の画像(写真)を図1に、参考試料に含まれる固定
化白血球の画像(写真)を図2に示す。図1及び図2の画像から、ビスコパール(登録商標) D-10と固定化白血球の形態はいずれも球状であり、両者の粒子径は10μm程度であり、ビスコパール(登録商標) D-10と固定化白血球の細胞質の様態は酷似していた。また、ビスコパール(登録商標) D-10に含まれる粒子は、尿沈渣分析装置に白血球と自動判別された。
【0042】
生物顕微鏡 BX-2700TL(レイマー社製)を用いて、HPFモード(400倍)にて試料1に含まれるビスコパール(登録商標) D-10と参考試料に含まれる固定化白血球を観察し、両者の形態及び粒子径が類似するか確認した。試料1に含まれるビスコパール(登録商標) D-10の画像(写真)を図3に、参考試料に含まれる固定化白血球の画像(写真)を図4に示す。図3及び図4の画像から判るように、生物顕微鏡による観察においても、ビスコパール(登録商標) D-10と固定化白血球の形態、粒子径及び様態は酷似していた。
【0043】
<実施例2>
実施例1におけるビスコパール(登録商標) D-10を、平均粒子径が5μmの球状セルロース粒子 ビスコパール(登録商標) D-5(レンゴー社製)(終濃度5.0×10-4mg/mL)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、試料2を調製した。
【0044】
AUTION EYE(登録商標) AI-4510を用いて、実施例1と同様の方法で試料2に含まれるビスコパール(登録商標) D-5に含まれる粒子を撮像し、ビスコパール(登録商標) D-5を評価した。試料2に含まれるビスコパール(登録商標) D-5の画像(写真)を図5に示す。図5の画像から判るように、ビスコパール(登録商標) D-10と平均粒子径が異なるビスコパール(登録商標) D-5の場合でも、固定化白血球と形態、粒子径及び様態が酷似していた。また、ビスコパール(登録商標) D-10に含まれる粒子は、尿沈渣分析装置に白血球と自動判別された。
【0045】
<比較例1>
実施例1におけるビスコパール(登録商標) D-10を、平均粒子径が11μmのセルロース粒子 KCX-5000(大日精化工業社製)(終濃度5.0×10-4mg/mL)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、試料3を調製した。
【0046】
AUTION EYE(登録商標) AI-4510を用いて、実施例1と同様の方法で試料3に含まれるKCX-5000を撮像し、KCX-5000を評価した。試料3に含まれるKCX-5000の画像(写真)を図6に示す。図6の画像から判るように、KCX-5000の球内に模様が観察されたが、固定化白血球の様態とは異なっており、KCX-5000と固定化白血球は類似していなかった。
【0047】
BX-2700TLを用いて、HPFモード(400倍)にて試料3に含まれるKCX-5000を観察した。試料3に含まれるKCX-5000の画像(写真)を図7に示す。図7の画像では、図6の画像で観察されたKCX-5000球内の様態は確認できなかった。
【0048】
<比較例2>
実施例1におけるビスコパール(登録商標) D-10を、平均粒子径が10μmの架橋アクリル単分散粒子 MX-1000(綜研化学社製)(終濃度8.0×10-1mg/mL)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、試料4を調製した。
【0049】
AUTION EYE(登録商標) AI-4510を用いて、実施例1と同様の方法
で試料4に含まれるMX-1000を撮像し、MX-1000を評価した。試料4に含まれるMX-1000の画像(写真)を図8に示す。図8の画像から判るように、MX-1000は、球状の形態を有しているが、白抜けや輪郭が強調された画像が多いため固定化白血球の細胞質の様態は確認できず、固定化白血球とは類似していなかった。
【0050】
<比較例3>
実施例1におけるビスコパール(登録商標) D-10を、平均粒子径が8.15μmの架橋ポリマー微粒子 テクポリマー(登録商標) BIO EF-C(積水化成品工業社製)(終濃度5.0×10-4mg/mL)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、試料5を調製した。
【0051】
AUTION EYE(登録商標) AI-4510を用いて、実施例1と同様の方法で試料5に含まれるテクポリマー(登録商標) BIO EF-Cを撮像し、テクポリマー(登録商標) BIO EF-Cを評価した。試料5に含まれるテクポリマー(登録商標) BIO EF-Cの画像(写真)を図9に示す。図9の画像から判るように、テクポリマー(登録商標) BIO EF-Cは、球状の形態を有しているが、粒子径が不均一であり、固定化白血球の細胞質の様態も確認できなかったため、固定化白血球とは類似していなかった。
【0052】
<比較例4>
実施例1におけるビスコパール(登録商標) D-10を、平均粒子径が17μmのデンプン粒子 ニッカリコ(登録商標) AS-100SG(ニッカ社製)(終濃度5.0×10-4mg/mL)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、試料6を調製した。
【0053】
AUTION EYE(登録商標) AI-4510を用いて、実施例1と同様の方法で試料6に含まれるニッカリコ(登録商標) AS-100SGを撮像し、ニッカリコ(登録商標) AS-100SGを評価した。試料6に含まれるニッカリコ(登録商標) AS-100SGの画像(写真)を図10に示す。図10の画像から判るように、ニッカリコ(登録商標) AS-100SGは、いびつな球状の形態を有しており、固定化白血球の細胞質の様態も確認できなかったため、固定化白血球とは類似していなかった。
【0054】
<比較例5>
実施例1におけるビスコパール(登録商標) D-10を、平均粒子径が10μmのポリマー微粒子 テクポリマー(登録商標) BIO EF-B(積水化成品工業社製)(終濃度5.0×10-4mg/mL)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、試料7を調製した。
【0055】
AUTION EYE(登録商標) AI-4510を用いて、実施例1と同様の方法で試料7に含まれるテクポリマー(登録商標) BIO EF-Bを撮像し、テクポリマー(登録商標) BIO EF-Bを評価した。試料7に含まれるテクポリマー(登録商標) BIO EF-Bの画像(写真)を図11に示す。図11の画像から判るように、テクポリマー(登録商標) BIO EF-Bは、いびつな形態を有しており、全体的に黒色に写っているため固定化白血球の細胞質の様態も確認できず、固定化白血球とは類似していなかった。
【0056】
<比較例6>
実施例1におけるビスコパール(登録商標) D-10を、平均粒子径が6μmのアルミナ微粒子内包型ラズベリー状シリコーンパウダー NH-RAS06(日興リカ社製)(終濃度1.0×10-4mg/mL)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行うこ
とにより、試料8を調製した。
【0057】
AUTION EYE(登録商標) AI-4510を用いて、実施例1と同様の方法で試料8に含まれるNH-RAS06を撮像し、NH-RAS06を評価した。試料8に含まれるNH-RAS06の画像(写真)を図12に示す。図12の画像から判るように、NH-RAS06は、球状の形態を有しているが、粒子径が小さく、固定化白血球の細胞質の様態も確認できなかったため、固定化白血球とは類似していなかった。
【0058】
<比較例7>
実施例1におけるビスコパール(登録商標) D-10を、平均粒子径が2~5μmのゴルフボール状の両親媒性シリコーンビーズ Twinone SS-1000(CQV社製)(終濃度1.0×10-4mg/mL)に変更した以外は実施例1と同様の操作を行うことにより、試料9を調製した。
【0059】
AUTION EYE(登録商標) AI-4510を用いて、実施例1と同様の方法で試料9に含まれるTwinone SS-1000を撮像し、Twinone SS-1000を評価した。試料9に含まれるTwinone SS-1000の画像(写真)を図13に示す。図13の画像から判るように、Twinone SS-1000は、球状の形態を有しているが、粒子径が小さく、固定化白血球の細胞質の様態も確認できなかったため、固定化白血球とは類似していなかった。
図1
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図13