(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043317
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】薬物動態推定システム、薬物動態推定方法、および薬物動態推定プログラム
(51)【国際特許分類】
G16C 20/30 20190101AFI20240322BHJP
G16C 20/50 20190101ALI20240322BHJP
【FI】
G16C20/30
G16C20/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148435
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000002934
【氏名又は名称】武田薬品工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513106886
【氏名又は名称】株式会社PKSHA Technology
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】谷口 孝彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 信二
(72)【発明者】
【氏名】日高 中
(72)【発明者】
【氏名】森下 奈央
(72)【発明者】
【氏名】小杉 洋平
(72)【発明者】
【氏名】米森 和子
(72)【発明者】
【氏名】山口 秀輝
(72)【発明者】
【氏名】竹川 洋都
(72)【発明者】
【氏名】葭本 香太郎
(57)【要約】
【課題】薬物動態の推定精度を向上可能にした薬物動態推定システム、薬物動態推定方法、および薬物動態推定プログラムである。
【解決手段】分子構造のグラフデータに畳み込みを適用して薬物動態に関わる分子構造の全体の第1特徴を抽出する第1推論部11と、各フラグメントのグラフデータに畳み込みを適用して薬物動態に関わるフラグメントごとの第2特徴を抽出し、全ての第2特徴を統合する第2推論部と、フラグメントを頂点とした分子構造における結合のグラフデータに畳み込みを適用して薬物動態に関わる結合の全体の第3特徴を抽出する第3推論部31と、第1特徴、第2特徴の統合結果、および第3特徴を結合して分子構造の薬物動態を出力する出力変換部と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象化合物の分子構造が複数のフラグメントとフラグメント間の結合とから構成され、
前記分子構造から薬物動態を推定する薬物動態推定システムであって、
前記分子構造のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記分子構造の全体の第1特徴を抽出する第1推論部と、
前記各フラグメントのグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記フラグメントごとの第2特徴を抽出し、全ての前記第2特徴を統合する第2推論部と、
前記フラグメントを頂点とした前記分子構造における前記結合のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記結合の全体の第3特徴を抽出する第3推論部と、
前記第1特徴、前記第2特徴の統合結果、および前記第3特徴を結合して前記分子構造の前記薬物動態を出力する出力変換部と、を備える
ことを特徴とする薬物動態推定システム。
【請求項2】
前記第2推論部は、全ての前記第2特徴から前記統合結果を出力するゲート付き全結合型ネットワークを備える
請求項1に記載の薬物動態推定システム。
【請求項3】
対象化合物の分子構造が複数のフラグメントとフラグメント間の結合とから構成され、
前記分子構造から薬物動態を推定する薬物動態推定方法であって、
前記分子構造のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記分子構造の全体の第1特徴を抽出することと、
前記各フラグメントのグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記フラグメントごとの第2特徴を抽出し、全ての前記第2特徴を統合することと、
前記フラグメントを頂点とした前記分子構造における前記結合のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記結合の全体の第3特徴を抽出することと、
前記第1特徴、前記第2特徴の統合結果、および前記第3特徴を結合して前記分子構造の前記薬物動態を出力することと、を含む
ことを特徴とする薬物動態推定方法。
【請求項4】
対象化合物の分子構造が複数のフラグメントとフラグメント間の結合とから構成され、
コンピュータに前記分子構造から薬物動態を推定させる薬物動態推定プログラムであって、
前記コンピュータを、
前記分子構造のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記分子構造の全体の第1特徴を抽出する第1推論部と、
前記各フラグメントのグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記フラグメントごとの第2特徴を抽出し、全ての前記第2特徴を統合する第2推論部と、
前記フラグメントを頂点とした前記分子構造における前記結合のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記結合の全体の第3特徴を抽出する第3推論部と、
前記第1特徴、前記第2特徴の統合結果、および前記第3特徴を結合して前記分子構造の前記薬物動態を出力する出力変換部として機能させる
ことを特徴とする薬物動態推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、薬物動態を推定する薬物動態推定システム、薬物動態推定方法、および薬物動態推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
薬物動態は、薬物としての有効性や安全性などに影響を与える対象化合物の各種性質である。薬物動態は、ADMETを含む。ADMETは、細胞毒性、不整脈関連性、細胞膜透過性、代謝安定性を含む。薬物候補の化合物を生成するシステムの一例として、深層学習アーキテクチャーにおけるラベル要素に薬物動態を採用すると共に、薬物候補の化合物に関する情報の生成に薬物動態の制約を与えることが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、薬物候補の化合物が有する薬物動態は、候補化合物そのものの大きさや候補化合物全体における電子分布などの化合物全体構造に由来する一方、候補化合物のなかの特徴的な原子や原子団である官能基などの局所構造などにも由来する。薬物動態を推定する深層学習アーキテクチャーの入力化合物指紋に、候補化合物の分子構造を線形表記した情報を採用するとなれば、化合物全体構造に由来する薬物動態の推定精度を層数の増加によって得られる一方、局所構造に由来する薬物動態の推定精度が得られがたくなる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するための薬物動態推定システムは、対象化合物の分子構造が複数のフラグメントとフラグメント間の結合とから構成され、前記分子構造から薬物動態を推定する薬物動態推定システムである。薬物動態推定システムは、前記分子構造のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記分子構造の全体の第1特徴を抽出する第1推論部と、前記各フラグメントのグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記フラグメントごとの第2特徴を抽出し、全ての前記第2特徴を統合する第2推論部と、前記フラグメントを頂点とした前記分子構造における前記結合のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記結合の全体の第3特徴を抽出する第3推論部と、前記第1特徴、前記第2特徴の統合結果、および前記第3特徴を結合して前記分子構造の前記薬物動態を出力する出力変換部と、を備える。
【0006】
上記課題を解決するための薬物動態推定方法は、対象化合物の分子構造が複数のフラグメントとフラグメント間の結合とから構成され、前記分子構造から薬物動態を推定する薬物動態推定方法である。薬物動態推定方法は、前記分子構造のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記分子構造の全体の第1特徴を抽出することと、前記各フラグメントのグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記フラグメントごとの第2特徴を抽出し、全ての前記第2特徴を統合することと、前記フラグメントを頂点とした前記分子構造における前記結合のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記結合の全体の第3特徴を抽出することと、前記第1特徴、前記第2特徴の統合結果、および前記第3特徴を結合して前記分子構造の前記薬物動態を出力することと、を含む。
【0007】
上記課題を解決するための薬物動態推定プログラムは、対象化合物の分子構造が複数のフラグメントとフラグメント間の結合とから構成され、コンピュータに前記分子構造から薬物動態を推定させる薬物動態推定プログラムである。薬物動態推定プログラムは、前記コンピュータを、前記分子構造のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記分子構造の全体の第1特徴を抽出する第1推論部と、前記各フラグメントのグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記フラグメントごとの第2特徴を抽出し、全ての前記第2特徴を統合する第2推論部と、前記フラグメントを頂点とした前記分子構造における前記結合のグラフデータに畳み込みを適用して前記薬物動態に関わる前記結合の全体の第3特徴を抽出する第3推論部と、前記第1特徴、前記第2特徴の統合結果、および前記第3特徴を結合して前記分子構造の前記薬物動態を出力する出力変換部として機能させる。
【0008】
上記各構成によれば、薬物動態に関わる分子構造の全体の特徴である第1特徴が抽出される。薬物動態に関わるフラグメントごとの特徴である第2特徴の統合結果が得られる。薬物動態に関わる分子構造の全体におけるフラグメント結合の特徴である第3特徴が抽出される。そして、第1特徴、第2特徴の統合結果、および第3特徴の結合によって、対象化合物の薬物動態が出力される。第1特徴は、対象化合物そのものの大きさや対象化合物の全体における電子分布などの化合物全体構造に由来する。第2特徴は、対象化合物を構成する特徴的な官能基などのように、分子構造のなかの局所構造に由来する。第3特徴は、局所構造間の相互作用に由来する。結果として、分子構造の全体に由来する特徴のみならず、局所構造に由来する特徴が薬物動態の推定に加味されるため、薬物動態の推定精度が高まる。
【0009】
上記薬物動態推定装置において、前記第2推論部は、全ての前記第2特徴から前記統合結果を出力するゲート付き回帰型ユニットネットワークを備えてもよい。
上記構成によれば、第2推論部が、フラグメント間の相互作用の加味された統合結果を出力する。このため、分子構造の全体に由来する特徴のみならず、局所構造に由来する特徴、および局所構造間の相互作用が薬物動態の推定に加味されるため、薬物動態の推定精度がさらに高まる。
【発明の効果】
【0010】
本開示の薬物動態推定システム、薬物動態推定方法、および薬物動態推定プログラムによれば、薬物動態の推定精度が高まる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、薬物動態推定システムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、フラグメントの一例を示す分子構造図である。
【
図3】
図3は、フラグメント結合の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、薬物動態推定システム、および薬物動態推定方法の一実施形態を示す。薬物動態推定システム、および薬物動態推定方法は、対象化合物の分子構造から薬物動態を推定する。まず、
図1を参照して薬物動態推定システムの構成を説明する。次に、
図2、
図3を参照して薬物動態推定システムが実行する薬物動態推定方法を説明する。
【0013】
[薬物動態]
薬物動態は、薬物の有効性や安全性に影響を与える性質である。薬物動態は、ADMETでもよい。ADMETは、吸収(absorption)、分布(distribution)、代謝(metabolism)、排泄(excretion)、および毒性(toxicity)である。ADMETは、細胞毒性、不整脈関連性、細胞膜透過性、代謝安定性を含む。
【0014】
(i)吸収は、全血中濃度の推移、血漿中濃度の推移、血清中濃度の推移、吸収率、生物学的利用性(bioavailability)、吸収速度を含む。吸収率、生物学的利用性、吸収速度は、全身循環による作用を期待する対象物質において特に重要な薬物動態である。(ii)分布は、分布容積、血漿蛋白非結合率、血球移行率、臓器分布、組織分布を含む。
【0015】
(iii)代謝は、代謝経路、代謝の割合、代謝に関与する酵素である代謝酵素、代謝に関与する分子種である代謝分子種を含む。(iv)排泄は、対象化合物の尿中排泄の速度、対象化合物による対象化合物の尿中排泄の速度、対象化合物の糞便中排泄の速度、対象化合物による対象化合物の糞便中排泄の速度を含む。排泄は、肝クリアランス依存性であるか、腎クリアランス依存性であるかを含む。
【0016】
[薬物動態推定システム]
薬物動態推定システムは、薬物動態推定システムの実行する各種の処理をソフトウェアによって処理するものを含む。薬物動態推定システムは、各種の処理のうちの少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路などの専用のハードウェアを備えてもよい。薬物動態推定システムは、1つ以上の専用のハードウェア回路、コンピュータプログラムに従って動作する1つ以上のプロセッサ、あるいは、これらの組み合わせを含む回路としても構成される。薬物動態推定システムは、1つのコンピュータから構成されてもよいし、ネットワークを介して接続された複数のコンピュータから構成されてもよい。
【0017】
図1が示すように、薬物動態推定システムは、薬物動態推定装置10と、設計支援部50とを備える。薬物動態推定装置10は、薬物動態推定プログラムを記憶する。薬物動態推定装置10は、薬物動態推定プログラムを実行する。薬物動態推定プログラムは、薬物動態推定装置10に薬物動態推定方法を実行させる。
【0018】
薬物動態推定装置10は、第1推論部11、複数の第2特徴抽出部21、第2特徴統合部22、第3推論部31、結合部41、および出力部42を備える。複数の第2特徴抽出部21、および第2特徴統合部22は、第2推論部を構成する。結合部41、および出力部42は、出力変換部を構成する。
【0019】
[第1推論部11]
第1推論部11は、分子構造データ11aを入力する。分子構造データ11aは、対象化合物の分子構造の全体を示すグラフデータである。グラフデータは、頂点であるノードと、頂点間を接続する辺であるエッジとから構成される。グラフデータは、例えばノード間にエッジが存在しているか否かを示す隣接行列と、ノードが含まれるエッジの数を示す次数行列とを用いて表現される。分子構造データ11aは、対象化合物を構成する全ての原子をノードにする。分子構造データ11aは、対象化合物を構成する全ての原子間結合をエッジにする。グラフデータの表記は、例えばSMILES(simplified molecular input line entry system)記法を用いる。
【0020】
第1推論部11は、対象化合物の分子構造の全体から第1特徴を抽出する。第1特徴は、分子構造の全体における、対象化合物の薬物動態に関わる特徴である。第1推論部11は、第1特徴の抽出に畳み込みを用いる。第1推論部11は、第1特徴を抽出するための第1特徴抽出モデルを備える。第1特徴抽出モデルは、分子構造データ11aを入力可能な、学習済みのグラフニューラルネットワークである。
【0021】
第1推論部11の学習は、薬物動態が既知である化合物の分子構造データ11aと、当該化合物の薬物動態とをラベルとして用いる。第1推論部11の学習は、薬物動態が既知である化合物の分子構造データ11aと、当該化合物の薬物動態との関係に適切となる重み行列を探索する。第1推論部11の学習は、擬似ラベル法を用いてもよい。重み行列は、化合物の分子構造において、各原子の薬物動態に関わる特徴に加味される、当該原子の周辺に位置する他の原子の薬物動態に関わる特徴の重みを示す。
【0022】
第1推論部11は、分子構造データ11aから抽出される第1特徴を、第1特徴行列として結合部41に出力する。薬物動態は、対象化合物の分子構造全体から抽出される下記例の特徴に影響される。第1推論部11の出力する第1特徴は、こうした特徴例を示す。
【0023】
(i)対象化合物の吸収に関わる膜浸透性は、例えば分子構造全体のフレキシビリティ、分子構造全体の大きさや、分子構造全体の水素結合供与体数や、分子構造全体の極性表面積や、分子構造全体の水溶性などに影響される。(ii)対象化合物の分布例である肝臓への取り込みは、例えば分子構造全体の脂溶性の高さや、分子構造全体の極性の高さに影響される。対象化合物の分布例であるリンパ系への移行は、例えば分子構造全体の大きさや、分子構造全体のエマルションの形成度合いに影響される。対象化合物の分布例である脳毛細血管への移行は、例えば分子構造全体の大きさと、分子構造全体の脂溶性とに影響される。(iii)対象化合物の代謝に関わる抱合反応は、例えば分子構造全体の大きさや、分子構造全体の極性表面積などに影響される。(iv)対象化合物の腎排泄に関わる血漿中タンパク質と対象化合物との結合は、例えば分子構造全体の大きさや、分子構造全体の形状などに影響される。対象化合物の胆汁排泄は、例えば分子構造全体の大きさに影響される。
【0024】
[第2推論部]
第2特徴抽出部21は、フラグメントデータ21aを入力する。
図2が示すように、フラグメントデータ21aは、対象化合物を構成するフラグメントのグラフデータである。対象化合物を構成する各フラグメントのグラフデータは、別々の第2特徴抽出部21に入力される。1つのフラグメントデータ21aは、1つのフラグメントを構成する全ての原子をノードにする。1つのフラグメントデータ21aは、1つのフラグメントを構成する全ての原子間結合をエッジにする。
【0025】
対象化合物は、複数のフラグメントと、相互に隣り合うフラグメントの間の結合であるフラグメント結合から構成される。相互に異なるフラグメントは、分子構造において共有する原子を含まない。1つのフラグメントは、分子構造において1つ以上の他のフラグメントと結合する。各フラグメントは、別々の原子団である。原子団は、対象化合物のなかで相互に結合する複数の原子から構成される。原子団は、側鎖と骨格とを含む。骨格は、単環構造でもよいし、複素環構造でもよいし、リンカーを含む多環構造でもよいし、これらの組み合わせでもよい。リンカーは、1つの環構造と他の環構造とを接続する連結鎖である。フラグメントは、例えばCMC(Comprehensive Medicinal Chemistry)データベースに分類される。
【0026】
第2特徴抽出部21は、フラグメントの単独構造の全体から第2特徴を抽出する。第2特徴は、フラグメントの単独構造の全体における、対象化合物の薬物動態に関わる特徴である。第2特徴抽出部21は、第2特徴の抽出に畳み込みを用いる。第2特徴抽出部21は、第2特徴を抽出するための第2特徴抽出モデルを備える。第2特徴抽出モデルは、フラグメントデータ21aを入力可能な、学習済みのグラフニューラルネットワークである。
【0027】
第2特徴抽出部21の学習は、薬物動態が既知である化合物のフラグメントデータ21aと、当該化合物の薬物動態とをラベルとして用いる。第2特徴抽出部21の学習は、薬物動態が既知である化合物のフラグメントデータ21aと、当該化合物の薬物動態との関係に適切となる重み行列を探索する。第2特徴抽出部21の学習は、擬似ラベル法を用いてもよい。重み行列は、フラグメントにおいて、各原子の薬物動態に関わる特徴に加味される、当該原子の周辺に位置する他の原子の薬物動態に関わる特徴の重みを示す。
【0028】
第2特徴抽出部21は、フラグメントデータ21aから抽出される第2特徴を、第2特徴行列として第2特徴統合部22に出力する。第2特徴統合部22は、全ての第2特徴抽出部21の抽出した第2特徴を統合する。第2特徴統合部22は、各第2特徴抽出部21からそれぞれ第2特徴を入力する。第2特徴統合部22は、対象化合物を構成する全てのフラグメントの第2特徴を統合した統合結果を、各第2特徴抽出部21から入力した第2特徴から出力する。統合結果は、全てのフラグメントにおける、対象化合物の薬物動態に関わる特徴である。第2特徴統合部22は、結合部41に統合結果を出力する。
【0029】
第2特徴統合部22は、全ての第2特徴を統合するための全結合モデルを備える。第2特徴統合部22は、全ての第2特徴の統合に全結合モデルを用いる。全結合モデルは、全ての第2特徴を入力可能な、学習済みのゲート付き全結合型ネットワークである。ゲート付き全結合型ネットワークは、フラグメント間の相互作用として、1つの第2特徴に他の第2特徴を伝播し、これによって全ての第2特徴を統合する。
【0030】
対象化合物を構成するフラグメントの数量は、対象化合物ごとに異なり得る。各第2特徴抽出部21の出力である第2特徴の次元の合計もまた、対象物ごとに異なり得る。第2特徴統合部22は、対象化合物ごとに異なり得る第2特徴の合計次元数を一定の次元数に変換する。第2特徴統合部22は、全ての第2特徴の統合結果として、一定の次元数を有した特徴を結合部41に入力する。
【0031】
第2特徴統合部22の学習は、薬物動態が既知である化合物のフラグメントデータ21aと、当該化合物の薬物動態とをラベルとして用いる。第2特徴統合部22の学習は、薬物動態が既知である化合物のフラグメントデータ21aと、当該化合物の薬物動態との関係に適切となる重み行列を探索する。第2特徴統合部22の学習は、擬似ラベル法を用いてもよい。重み行列は、1つのフラグメントの薬物動態に関わる特徴に加味される、他のフラグメントの薬物動態に関わる特徴の重みを示す。
【0032】
薬物動態は、フラグメントの単独構造、およびフラグメント間の相互作用から抽出される下記例の特徴に影響される。第2特徴統合部22の出力する統合結果は、こうした特徴例を示す。
【0033】
(i)対象化合物の吸収に関わる膜浸透性は、例えば対象化合物の局所構造や、局所構造間の相互作用に依拠するような、分子構造のフレキシビリティに影響される。(ii)対象化合物の分布例である肝臓への取り込みは、例えば対象化合物の局所構造による脂溶性の高さや、対象化合物の局所構造による極性の高さに影響される。対象化合物の分布例である脳毛細血管への移行は、例えば受容体を受け入れる対象化合物の局所構造や、局所構造間の相互作用に影響される。対象化合物の分布例である腎分布は、例えば血漿中タンパク質と結合する対象化合物の局所構造に影響される。(iii)対象化合物の代謝に関わる酸化、還元、加水分解は、対象化合物の局所構造や、局所構造間の相互作用に影響される。(iv)対象化合物の腎排泄に関わる血漿中タンパク質と対象化合物との結合は、例えば対象化合物の局所構造に影響される。
【0034】
[第3推論部31]
第3推論部31は、フラグメント結合データ31aを入力する。
図3が示すように、フラグメント結合データ31aは、1つのフラグメントと他のフラグメントとの結合を示すグラフデータである。フラグメント結合データ31aは、対象化合物を構成する各フラグメントをノードにする。フラグメント結合データ31aは、対象化合物を構成する全てのフラグメント間結合をエッジにする。
【0035】
第3推論部31は、対象化合物を構成する全てのフラグメント間結合から第3特徴を抽出する。第3特徴は、対象化合物を構成する全てのフラグメント間結合における、対象化合物の薬物動態に関わる特徴である。第3推論部31は、第3特徴の抽出に畳み込みを用いる。第3推論部31は、第3特徴を抽出するための第3特徴抽出モデルを備える。第3特徴抽出モデルは、フラグメント結合データ31aを入力可能な、学習済みのグラフニューラルネットワークである。
【0036】
第3推論部31の学習は、薬物動態が既知である化合物のフラグメント結合データ31aと、当該化合物の薬物動態とをラベルとして用いる。第3推論部31の学習は、薬物動態が既知である化合物のフラグメント結合データ31aと、当該化合物の薬物動態との関係に適切となる重み行列を探索する。第3推論部31の学習は、擬似ラベル法を用いてもよい。重み行列は、フラグメント間の結合において、各フラグメント結合の薬物動態に関わる特徴に加味される、当該フラグメント間結合の周辺に位置する他のフラグメント間結合の薬物動態に関わる特徴の重みを示す。
【0037】
第3推論部31は、フラグメント結合データ31aから抽出される第3特徴を、第3特徴行列として結合部41に出力する。薬物動態は、対象化合物のフラグメント間結合から抽出される下記例の特徴に影響される。第3推論部31の出力する第3特徴は、こうした特徴例を示す。
【0038】
(i)対象化合物の吸収に関わる膜浸透性は、例えば局所構造間の結合に依拠するような、分子構造のフレキシビリティに影響される。(ii)対象化合物の分布例である肝臓への取り込みは、例えば局所構造の配置や、局所構造間の結合に依拠するような、極性の高さに影響される。対象化合物の分布例である脳毛細血管への移行は、例えば受容体を受け入れる局所構造の数などに影響される。対象化合物の分布例である腎分布は、例えば血漿中タンパク質と結合する局所構造の配置や、局所構造間の結合に影響される。(iii)対象化合物の代謝に関わる酸化、還元、加水分解は、局所構造間の結合や、局所構造の配置に影響される。(iv)対象化合物の腎排泄に関わる血漿中タンパク質と対象化合物との結合は、例えば局所構造間の結合や、局所構造の配置に影響される。
【0039】
結合部41は、第1推論部11の出力である第1特徴、第2推論部の出力である第2特徴の統合結果、および第3推論部31の出力である第3特徴を結合する。結合部41は、第1特徴、第2特徴の統合結果、および第3特徴から、薬物動態の推定結果を生成する。出力部42は、結合部41の推定結果から、設計支援部50に入力可能な薬物動態の推定値を生成する。設計支援部50に入力可能な推定値は、例えば各薬物動態において規格化された測定値と同じ次元である。
【0040】
[設計支援部50]
設計支援部50は、寄与推定部51を備える。寄与推定部51は、分子構造データ11aと、出力部42から出力される薬物動態の推定値と、薬物動態推定装置10の学習済みモデルとを用いる。寄与推定部51は、対象化合物の各原子について、当該原子の特徴量で薬物動態の推定値を微分して得られる勾配ベクトルから、当該原子の薬物動態に対する正負の寄与を算出する。設計支援部50は、対象化合物の分子構造を構成する各原子に、寄与推定部51の出力する原子ごとの寄与を対応づけて表示する。
【0041】
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られる。
(1)薬物動態推定装置10は、第1特徴、第2特徴の統合結果、および第3特徴の結合によって、対象化合物の薬物動態を出力する。第1特徴は、対象化合物そのものの大きさや対象化合物の全体における電子分布などの化合物全体構造に由来する。第2特徴は、対象化合物を構成する特徴的な官能基などのように、分子構造のなかの局所構造に由来する。第3特徴は、局所構造間の相互作用に由来する。結果として、薬物動態推定装置10は、分子構造の全体に由来する特徴のみならず、薬物動態の推定に局所構造に由来する特徴を加味するため、薬物動態の推定精度が高まる。
【0042】
(2)第2特徴統合部22が、フラグメント間の相互作用の加味された統合結果を出力する。このため、分子構造の全体に由来する特徴のみならず、局所構造に由来する特徴、および局所構造間の相互作用が薬物動態の推定に加味されるため、薬物動態の推定精度がさらに高まる。
【0043】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することもできる。
・薬物動態推定システムは、設計支援部50を割愛してもよい。この構成であっても、上記(1)(2)に準じた効果は得られる。
【0044】
・第2特徴統合部22は、ゲート付き全結合型ニューラルネットワークによる処理に代えて、単に全ての第2特徴を平均化する処理を行ってもよい。この構成であっても、上記(1)に準じた効果は得られる。
【符号の説明】
【0045】
10…薬物動態推定装置
11…第1推論部
11a…分子構造データ
21…第2特徴抽出部
21a…フラグメントデータ
22…第2特徴統合部
31…第3推論部
31a…ジャンクションデータ
41…結合部
42…出力部
50…設計支援部
51…寄与推定部