(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043347
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】エレベータのガイドレール油回収装置及びエレベータ
(51)【国際特許分類】
B66B 7/12 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
B66B7/12 A
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148479
(22)【出願日】2022-09-16
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-09-13
(71)【出願人】
【識別番号】000112705
【氏名又は名称】フジテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114421
【弁理士】
【氏名又は名称】薬丸 誠一
(72)【発明者】
【氏名】横竹 孝浩
【テーマコード(参考)】
3F305
【Fターム(参考)】
3F305EA03
(57)【要約】
【課題】回収容量の制約を受けないエレベータのガイドレール油回収装置及びエレベータを提供する。
【解決手段】ガイドレール油回収装置は、厚み方向に位置する2つのガイド面204,204及び2つのガイド面204,204の幅方向先端縁間に位置する先端面205を備えるガイドレール20の、ガイド面204を伝って垂下する油を回収するものであって、ガイド面204に取り付けられ、上方から垂下してくる油を収集する油収集部50と、廃油容器51と、油収集部50と廃油容器51とを接続するドレン管52とを備える。これによれば、廃油容器51の設置箇所は任意であり、廃油容器51の容量は任意に選択することができ、回収容量の制約を受けることはない。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に位置する2つのガイド面及び2つのガイド面の幅方向先端縁間に位置する先端面を備えるガイドレールの、ガイド面を伝って垂下する油を回収する油回収装置であって、
ガイド面に取り付けられ、上方から垂下してくる油を収集する油収集部と、
廃油容器と、
油収集部と廃油容器とを接続するドレン管とを備える
エレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項2】
油収集部の上方において油収集部が取り付けられる一方のガイド面とは反対側の他方のガイド面及び先端面を横断して一方のガイド面の幅方向先端部に差し掛かるように取り付けられ、2つのガイド面の幅方向に対して傾斜する傾斜部により、他方のガイド面において上方から垂下してくる油を一方のガイド面の幅方向中央部に誘導する油誘導部を備える
請求項1に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項3】
油収集部の上方において一方のガイド面の幅方向基端部に取り付けられ、一方のガイド面の幅方向に対して傾斜する傾斜部により、一方のガイド面の幅方向基端部において上方から垂下してくる油を一方のガイド面の幅方向中央部に誘導する油誘導部を備える
請求項2に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項4】
油収集部は、
上端縁がガイド面を横断してガイド面に接することにより、上方から垂下してくる油を表面側に移行させるブレード部と、
ブレード部の表面側に移行した油を受け入れる凹部と、
凹部の一部に形成され、ドレン管が接続されるとともに、凹部内に受け入れた油をドレン管内に排出可能とする排出口部とを備える
請求項1に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項5】
油収集部は、排出口部から突出してドレン管内に挿入される挿入片部を備える
請求項4に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のガイドレール油回収装置を備える
エレベータ。
【請求項7】
ガイドレール油回収装置の上方においてガイドレールに設けられ、ガイド面を伝って垂下する油から油汚染物を分離するガイドレール油汚染物分離装置を備える
請求項6に記載のエレベータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エレベータのガイドレールに供給された油(潤滑油等)を回収するためのエレベータのガイドレール油回収装置及びエレベータに関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータのかごやカウンターウェイトは、昇降路内に上下方向に配置されるガイドレールに沿って摺動し、昇降路内を昇降する。このため、ガイドレールには、かごやカウンターウェイトのガイドシュー又はローラとの間の摺動を円滑化するため、ガイドレール給油装置により潤滑油が常時又は定期的に供給されるようになっている。
【0003】
しかし、余分な潤滑油は、重力を受けてガイドレールのガイド面を伝って垂下し、ガイドレールの下端からピットの底面に滴下し、底面を汚損することになる。この汚損を防ぐため、従来は、ガイドレールの下端とピットの底面との間に油受け(オイルパン)を設置し、滴下した潤滑油を油受け内に貯留するとともに、エレベータの定期保守点検時等のタイミングで油受け内の潤滑油を回収するようにしている(特許文献1)。あるいは、ガイドレールの下端とピットの底面との間に油吸収シートを設置し、滴下した潤滑油を油吸収シートで吸収するとともに、エレベータの定期保守点検時等のタイミングで油吸収シートを交換するといった方法もある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平11-139720号公報
【特許文献2】実開平1-180474号のマイクロフィルム
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
油受けや油吸収シート(油回収媒体)の容量が大きければ大きいほど、回収作業の頻度を少なくすることが可能となる。しかし、回収媒体を設置するガイドレールの下端とピットの底面との間の間隔はさほど大きくない。また、エレベータの設置現場によっては、回収媒体の設置面積を十分に確保できない場合がある。このような場合、油回収媒体の容量は制約を受けることとなる。
【0006】
そこで、本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、回収容量の制約を受けないエレベータのガイドレール油回収装置及びエレベータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置は、
厚み方向に位置する2つのガイド面及び2つのガイド面の幅方向先端縁間に位置する先端面を備えるガイドレールの、ガイド面を伝って垂下する油を回収する油回収装置であって、
ガイド面に取り付けられ、上方から垂下してくる油を収集する油収集部と、
廃油容器と、
油収集部と廃油容器とを接続するドレン管とを備える
エレベータのガイドレール油回収装置である。
【0008】
ここで、本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置の一態様として、
油収集部の上方において油収集部が取り付けられる一方のガイド面とは反対側の他方のガイド面及び先端面を横断して一方のガイド面の幅方向先端部に差し掛かるように取り付けられ、2つのガイド面の幅方向に対して傾斜する傾斜部により、他方のガイド面において上方から垂下してくる油を一方のガイド面の幅方向中央部に誘導する油誘導部を備える
との構成を採用することができる。
【0009】
また、この場合、
油収集部の上方において一方のガイド面の幅方向基端部に取り付けられ、一方のガイド面の幅方向に対して傾斜する傾斜部により、一方のガイド面の幅方向基端部において上方から垂下してくる油を一方のガイド面の幅方向中央部に誘導する油誘導部を備える
との構成を採用することができる。
【0010】
また、本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置の他態様として、
油収集部は、
上端縁がガイド面を横断してガイド面に接することにより、上方から垂下してくる油を表面側に移行させるブレード部と、
ブレード部の表面側に移行した油を受け入れる凹部と、
凹部の一部に形成され、ドレン管が接続されるとともに、凹部内に受け入れた油をドレン管内に排出可能とする排出口部とを備える
との構成を採用することができる。
【0011】
また、この場合、
油収集部は、排出口部から突出してドレン管内に挿入される挿入片部を備える
との構成を採用することができる。
【0012】
また、本発明に係るエレベータは、
上記のいずれかのガイドレール油回収装置を備える
エレベータである。
【0013】
ここで、本発明に係るエレベータの一態様として、
ガイドレール油回収装置の上方においてガイドレールに設けられ、ガイド面を伝って垂下する油から油汚染物を分離するガイドレール油汚染物分離装置を備える
との構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、廃油容器の設置箇所は任意であり、廃油容器の容量は任意に選択することができ、回収容量の制約を受けることはない。このため、本発明によれば、回収作業の頻度を少なくすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、本実施形態に係るエレベータの斜視図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係るガイドレール油回収装置の周辺の斜視図である。
【
図3】
図3(a)は、ガイドレール油回収装置の要部の斜視図である。
図3(b)は、ガイドレール油回収装置の要部の縦断面図である。
【
図4】
図4は、ガイドレール油回収装置の要部の分解斜視図である。
【
図5】
図5(a)及び(b)は、油回収方法の説明図である。
【
図6】
図6は、本実施形態に係るガイドレール油汚染物分離装置の周辺の斜視図である。
【
図7】
図7は、ガイドレール油汚染物分離装置の斜視図である。
【
図8】
図8(a)は、
図7のA矢視図である。
図8(b)は、
図7のB線における横断面図である。
図8(c)は、
図8(a)のC線における縦断面図である。
【
図9】
図9(a)~(d)は、油汚染物分離方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る一実施形態として、ガイドレール油回収装置を備えるエレベータについて説明する。
【0017】
図1に示すように、エレベータ1は、昇降路2と、かご3と、かご3の駆動機構4とを備える。昇降路2は、階層を有する建物内において上下方向に延びる。かご3は、駆動機構4の駆動により、昇降路2内を昇降し、駆動機構4の駆動停止により、指定された階床に停止する。
【0018】
昇降路2内には、一対のガイドレール20,20及び一対のガイドレール21,21が設けられる。一対のガイドレール20,20は、かご3の両側方において上下方向に延びるように配置される。一対のガイドレール21,21は、後述するカウンターウェイト41の両側方において上下方向に延びるように配置される。昇降路2は、底部付近にピット2Aを備える。ピット2Aの底面は、最下階の乗場25の床面よりも下に位置する。一対のガイドレール20,20及び一対のガイドレール21,21のそれぞれの下端部は、上下方向においてピット2Aの底面と所定の間隔を有するようにしてピット2Aの底面の近傍に配置される。
【0019】
かご3の上下左右の4箇所には、ガイドシュー30,…が取り付けられる。ガイドシュー30,…が一対のガイドレール20,20を摺動することにより、かご3は、一対のガイドレール20,20に案内されて昇降路2内を昇降可能となる。
【0020】
なお、かご3は、上方にガイドレール給油装置(図示しない、以下、略して「給油装置」という)を備える。給油装置には、潤滑油が貯留され、油供給路の先端(フェルト等の塗油部材)がガイドレール20の両面(後述する2つのガイド面204,204)に常時接触することにより、ガイドレール20の両面に潤滑油が常時供給されるようになっている。
【0021】
駆動機構4は、巻上機40と、カウンターウェイト41と、主ロープ42とを備える。巻上機40は、ピット2A内に配置される。カウンターウェイト41は、昇降路2の壁面とかご3との間に形成される空間に配置され、一対のガイドレール21,21に案内されて昇降路2内を昇降可能となる。主ロープ42は、一端が昇降路2内の上部に固定され、巻上機40の駆動シーブ(綱車)を含む適宜のシーブに巻き掛けられ、他端が昇降路2内の上部に固定される。巻上機40の駆動シーブが回転駆動することにより、主ロープ42が走行し、これに伴い、かご3及びカウンターウェイト41が互いに逆方向に昇降路2内を昇降する。
【0022】
図2に示すように、ガイドレール20は、平面視でT字状を有し、基部200と、突出部201とを備える。基部200は、上下方向に延びる帯板状であり、上下方向に所定の間隔を有して配置される複数のブラケット又はクリップ(図示しない)により昇降路2の壁面又は昇降路2の壁面に取り付けられるフレーム等の支持部に取り付けられる。突出部201は、上下方向に延びる帯板状であり、一側部にて基部200の中央部に接続され、基部200から直交方向に突出する。
【0023】
突出部201は、接続部202と、ガイド部203とを備える。接続部202は、基部200とガイド部203とを接続する。接続部202は、ガイド部203よりも幅狭であり、突出部201において括れ部となる。ガイド部203は、2つのガイド面204,204と、先端面205とを備える。2つのガイド面204,204は、ガイド部203の厚み方向に位置する面であり、平行又は先端側が幅狭となるテーパ状に対向する。ガイド面204は、幅方向先端縁204aと、幅方向基端縁204bとを備える。ガイド面204は、かご3のガイドシュー30が摺接し、ガイドシュー30をガイドする面である。なお、かご3がガイドシュー30でなく、ローラを備える場合は、ガイド面204は、ローラが摺接し、ローラをガイドする面となる。先端面205は、2つのガイド面204,204の幅方向先端縁204a,204a間に位置する面であり、平面又は円弧面等の曲面である。
【0024】
エレベータ1は、ガイドレール油回収装置(以下、略して「油回収装置」という)5を備える。油回収装置5は、ガイドレール20における余分な油、すなわち、給油装置によりガイドレール20に供給され、ガイド面204を伝って垂下してガイドレール20の下端部に到達する油を回収する装置である。なお、カウンターウェイト41用のガイドレール21にも油回収装置が設けられるが、ガイドレール21もガイドレール20と同じ構成であるため、装置構成及び油回収方法は同じである。そこで、ガイドレール21の油回収装置については、以下に説明するガイドレール20の油回収装置5についての記載と同様であるとして、記載を省略する。
【0025】
油回収装置5は、油収集部50と、廃油容器51と、ドレン管52とを備える。油収集部50は、ガイド面204に取り付けられ、上方から垂下してくる油を収集する。油収集部50は、廃油容器51(の口部)よりも高い位置に取り付けられる。廃油容器51は、ガイドレール20の周辺においてピット2Aの底面に設置される。廃油容器51は、特に指定はなく、どのような形状、形態、大きさ、容量のものであってもよく、任意に選択することができる。ドレン管52は、油収集部50と廃油容器51とを接続する。ドレン管52は、たとえばゴムホース等の可撓性を有して湾曲可能な管である。油収集部50及び廃油容器51の高さ位置の関係で、ドレン管52は、油収集部50から廃油容器51にかけて次第に高さ位置が低くなるように傾斜する。
【0026】
図3及び
図4に示すように、油収集部50は、ブレード部50aと、凹部50bと、排出口部50cと、挿入片部50dとを備える。ブレード部50aは、上端縁がガイド面204を横断してガイド面204に接することにより、上方から垂下してくる油を表面側に移行させる。凹部50bは、ブレード部50aの表面側に移行した油を受け入れる。排出口部50cは、凹部50bの一部に形成され、ドレン管52が接続されるとともに、凹部50b内に受け入れた油をドレン管52内に排出可能とする。挿入片部50dは、排出口部50cから突出してドレン管52内に挿入される。挿入片部50dの幅は、ドレン管52の内径と同じか、それ以上である。この場合、挿入片部50dは、ドレン管52内に圧入され、ドレン管52の保持手段として機能する。挿入片部50dは、凹部50b内に受け入れた油を上面を伝わせて先端まで誘導し、ドレン管52内に確実に排出する機能も有する。
【0027】
ブレード部50a、凹部50b、排出口部50c及び挿入片部50dは、1枚の金属板を用いて構成される。すなわち、1枚の板は、第1方向に第1領域部分、第2領域部分及び第3領域部分を有し、第3領域部分は、左右の第3の1領域部分と中央部の第3の2領域部分とに分割され、第1領域部分は、第2領域部分に対して谷折りされて後壁部50eとなり、第2領域部分は、底部50fとなり、第3の1領域部分は、先端側が多少切除された状態で第2領域部分に対して谷折りされて前壁部50gとなり、後壁部50eの上側部分がブレード部50aとなり、後壁部50eの下側部分、底部50f及び左右の前壁部50g,50gが凹部50bとなり、左右の前壁部50g,50g間が排出口部50cとなり、第3の2領域部分は、底部50fから下り傾斜となるように曲げられて挿入片部50dとなる。
【0028】
後壁部50eの幅は、ガイド面204の幅と同じか、それ以上である。後壁部50eは、背面に塗布された接着剤又は粘着剤、あるいは、背面に貼着された接着シート又は粘着シートを介して、ガイド面204に着脱可能に取り付けられる。
【0029】
底部50fの左右端縁には、後壁部50e及び前壁部50g間に亘って堰部50hが形成される。堰部50hは、凹部50b内に受け入れた油が横から漏れるのを防止するためのものである。堰部50hは、たとえばコーキング剤やコーティング剤等の樹脂材料を用いて形成される。同様に、後壁部50eがガイド面204に取り付けられた状態で、後壁部50eの左右端縁及びその延長線上には、堰部50iが形成される。
【0030】
油回収装置5は、さらに油誘導部53を備える。油誘導部53は、油収集部50の上方においてガイド面204に取り付けられ、ガイド面204の幅方向に対して傾斜する傾斜部により、上方から垂下してくる油をガイド面204の幅方向中央部に誘導する。油誘導部53は、第1油誘導部54と、第2油誘導部55とを備える。
【0031】
第1油誘導部54は、油収集部50の上方において油収集部50が取り付けられる一方のガイド面204とは反対側の他方のガイド面204及び先端面205を横断して一方のガイド面204の幅方向先端部に差し掛かるように取り付けられ、2つのガイド面204,204の幅方向に対して傾斜する傾斜部により、他方のガイド面204において上方から垂下してくる油、先端面205において上方から垂下してくる油及び一方のガイド面204の幅方向先端部において上方から垂下してくる油を一方のガイド面204の幅方向中央部に誘導する。
【0032】
第2油誘導部55は、油収集部50の上方において一方のガイド面204の幅方向基端部に取り付けられ、一方のガイド面204の幅方向に対して傾斜する傾斜部により、一方のガイド面204の幅方向基端部において上方から垂下してくる油を一方のガイド面204の幅方向中央部に誘導する。
【0033】
油誘導部53(第1油誘導部54、第2油誘導部55)は、所定の幅と所定の厚み(たとえば1.5mm以上、あるいは2mm以上)を有し、油吸収性を有さず、柔軟性を有して折り曲げ自在な帯状部材である。油誘導部53は、たとえば、ゲルテープ、ウレタンテープ、シリコンテープ等の樹脂材料を用いて構成される。油誘導部53は、一面に塗布された接着剤又は粘着剤、あるいは、一面に貼着された接着シート又は粘着シートを介して、ガイド面204に着脱可能に取り付けられる。
【0034】
第1油誘導部54は、他方のガイド面204の幅方向基端縁204bから他方のガイド面204を横断し、さらに先端面205を横断し、一方のガイド面204の幅方向先端部に差し掛かるように、かつ、次第に高さ位置が低くなるように斜めに傾斜して取り付けられる。第2油誘導部55は、一方のガイド面204の幅方向基端縁204bから一方のガイド面204の幅方向基端部に、かつ、次第に高さ位置が低くなるように斜めに傾斜して取り付けられる。これらの場合、ガイド面204の幅方向に対して傾斜する傾斜部とは、第1油誘導部54の上端面54a及び第2油誘導部55の上端面55aである。
【0035】
ここで、油回収装置5による油回収方法について説明する。
図5(a)に示すように、他方のガイド面204において上方から垂下してくる油、先端面205において上方から垂下してくる油及び一方のガイド面204の幅方向先端部において上方から垂下してくる油は、それぞれ、第1油誘導部54の上端面54aに沿って移動し、一方のガイド面204の幅方向中央部に誘導される。また、一方のガイド面204の幅方向基端部において上方から垂下してくる油は、第2油誘導部55の上端面55aに沿って移動し、一方のガイド面204の幅方向中央部に誘導される。これにより、2つのガイド面204,204を伝って垂下する油は、一方のガイド面204の幅方向中央部に集められる。
【0036】
そして、一方のガイド面204の幅方向中央部に集められた油は、ブレード部50aの上端縁からブレード部50aの表面側に移行し、そのまま垂下して凹部50bに受け入れられる。そして、
図5(b)に示すように、凹部50b内に受け入れた油は、排出口部50cから挿入片部50dの上面を伝い、挿入片部50dの先端から滴下し、ドレン管52内に排出される。そして、ドレン管52内の油は、ドレン管52を通って廃油容器51まで運ばれ、廃油容器51内に貯留される。そして、エレベータ1の定期保守点検時等のタイミングで、廃油容器51内に油が十分に貯留されていることが確認できた場合、作業者は、廃油容器51内の油を別の運搬容器に移し替える、あるいは、廃油容器51を新しいものと交換する等して、油を回収する。
【0037】
ところで、油がガイドレール20に供給されてからある程度時間が経てば、油に粉や塵芥等の異物が混入したり、油自体が劣化することにより、スラッジといった固体状又は高粘性の油汚染物が発生する。油汚染物は、油回収装置5における上記した油の流れを遮り、油回収装置5の油回収能力を低下させる原因となる。そこで、
図6に示すように、エレベータ1は、ガイドレール油汚染物分離装置(以下、略して「油汚染物分離装置」という)6を備える。油汚染物分離装置6は、油回収装置5の上方においてガイドレール20に設けられ、ガイド面204,204を伝って垂下する油から油汚染物を分離する装置である。なお、カウンターウェイト41用のガイドレール21にも油汚染物分離装置が設けられるが、ガイドレール21もガイドレール20と同じ構成であるため、装置構成及び油汚染物分離方法は同じである。そこで、ガイドレール21の油汚染物分離装置については、以下に説明するガイドレール20の油汚染物分離装置6についての記載と同様であるとして、記載を省略する。
【0038】
油汚染物分離装置6は、油濾過シート60と、クリップ63とを備える。油濾過シート60は、ガイドレール20の所定の高さにおいて2つのガイド面204,204に面接触するように配置される。油濾過シート60は、1枚の油濾過シート60を半分に折り曲げて2つのガイド面204,204を覆うように(挟み込むように)配置される。この場合、油濾過シート60は、必要に応じて先端面205にも面接触するように配置される。あるいは、2枚の油濾過シート60,60を用いる場合、2枚の油濾過シート60,60は、2つのガイド面204,204を覆うように(挟み込むように)対向配置される。クリップ63は、油濾過シート60が2つのガイド面204,204に面接触した箇所を着脱自在に挟持し、油濾過シート60が2つのガイド面204,204に面接触した状態を維持する。
【0039】
図7及び
図8に示すように、油濾過シート60は、所定の厚み(たとえば2mm以上、あるいは3mm以上、あるいは4mm以上)を有し、ある程度の油吸収性を有しつつ、吸収容量を超えると油を通過させるが、油汚染物を通過させることはない目の細かさの多孔質シートである。油濾過シート60は、たとえば、スポンジ、布、フェルト、不織布等を用いて構成される。
【0040】
油濾過シート60は、第1油濾過シート61と、第2油濾過シート62とを備える。第1油濾過シート61及び第2油濾過シート62は、同じ大きさであり、第2油濾過シート62は、第1油濾過シート61に対し、上方にずれた状態で第1油濾過シート61に重ねられる。これにより、油濾過シート60は、第1油濾過シート61及び第2油濾過シート62の重なり部60aと、第1油濾過シート61の上端面61cから突出する第2油濾過シート62の突出部62cとを備える。重なり部60aは、クリップ63が挟持する箇所となる。突出部62cは、第1油濾過シート61の上端面61cを囲う囲い部として機能する。突出部62cの突出量は、たとえば10mm以上、あるいは20mm以上、あるいは30mm以上である。
【0041】
第1油濾過シート61は、上記多孔質シートのシート本体61aに遮蔽膜61bが積層された積層構造を有する。第2油濾過シート62も、上記多孔質シートのシート本体62aに遮蔽膜62bが積層された積層構造を有する。遮蔽膜61b,62bは、耐火性を有し、油吸収性を有さず、油を透過しない膜である。遮蔽膜61b,62bは、たとえば、アルミ箔、プラスチックフィルム等を用いて構成される。第1油濾過シート61及び第2油濾過シート62は、シート本体61a,62aが内面となり、遮蔽膜61b,62bが外面となるように配置される。
【0042】
ここで、油汚染物分離装置6による油汚染物分離方法について説明する。
図9(a)及び(b)に示すように、2つのガイド面204,204を伝って垂下する油は、第1油濾過シート61の上端面61cに第1接触する。ここで、純粋な油(低粘性の油)は、第1油濾過シート61に浸透していく(第1油濾過シート61に吸収されていく、網点部分)が、油の中の油汚染物は、第1油濾過シート61の濾過作用により第1油濾過シート61に浸透せず、上端面61cで捕捉される(黒の塗潰し部分)。
【0043】
さらに時間が経過すると、
図9(c)に示すように、純粋な油は、第1油濾過シート61全体に浸透し、第1油濾過シート61の吸収容量を超えて第1油濾過シート61の下端面から再び2つのガイド面204,204を伝って垂下し、油回収装置5に向かう。他方、第1油濾過シート61の上端面61cでは、より多くの油汚染物が捕捉されている。
【0044】
そして、
図9(d)に示すように、捕捉される油汚染物の量が増えると、純粋な油は、第2油濾過シート62にも浸透していき、第1油濾過シート61と同様、第2油濾過シート62全体に浸透し、第2油濾過シート62の吸収容量を超えて第2油濾過シート62の下端面から第1油濾過シート61の下端面を経て2つのガイド面204,204を伝って垂下し、油回収装置5に向かう。
【0045】
本実施形態に係るエレベータ1の構成は、以上のとおりである。
【0046】
上述したように、本実施形態に係る油回収装置5によれば、廃油容器51の設置箇所は任意であり、廃油容器51の容量は任意に選択することができ、回収容量の制約を受けることはない。このため、本実施形態に係る油回収装置5によれば、回収作業の頻度を少なくすることが可能となる。
【0047】
また、本実施形態に係る油回収装置5によれば、金属板を曲げ加工した油収集部50、廃油容器51、ドレン管52及びテープ状の油誘導部53という簡単な部品で装置を構成することができる。このため、本実施形態に係る油回収装置5によれば、簡単な構成で安価に製造することができ、ガイドレール20への取り付け及び取り外しを簡単に行うことができる。
【0048】
また、本実施形態に係る油回収装置5によれば、第1油誘導部54を設けることにより、油収集部50は、一方のガイド面204に対してだけ設けられればよい。このため、本実施形態に係る油回収装置5によれば、各ガイド面204に対して油収集部50及びドレン管52を設ける場合と比べ、より簡単な構成で安価に製造することができ、ガイドレール20への取り付け及び取り外しをより簡単に行うことができる。
【0049】
また、本実施形態に係る油回収装置5によれば、第1油誘導部54及び第2油誘導部55を設けることにより、2つのガイド面204,204を伝って垂下してくる油を一方のガイド面204の幅方向中央部、すなわち、油収集部50の幅方向中央部の上方箇所に集めることができる。このため、本実施形態に係る油回収装置5によれば、油収集部50において油をもれなく確実に収集することができる。
【0050】
また、本実施形態に係る油回収装置5によれば、挿入片部50dを設けること、さらには、挿入片部50dを凹部50bの底部50fから下り傾斜となるように設けることにより、挿入片部50dは、凹部50bからドレン管52内へのガイド部として機能する。このため、本実施形態に係る油回収装置5によれば、凹部50b内に受け入れた油がドレン管52内に入らずに排出口部50cから漏れ出るのを防止することができる。
【0051】
また、本実施形態に係る油回収装置5によれば、上流側に油汚染物分離装置6が設けられ、油回収装置5が回収しようとする油は、きれいに濾過された純粋な油(低粘性の油)である。このため、本実施形態に係る油回収装置5によれば、油汚染物が油の流れを遮り、油回収能力が低下するのを防止することができる。
【0052】
また、本実施形態に係る油回収装置5によれば、油汚染物分離装置6に囲い部62cが設けられ、油汚染物の捕捉部(第1油濾過シート61の上端面61c)から油汚染物が脱落するのを防止することができる。このため、本実施形態に係る油回収装置5によれば、脱落した油汚染物が付着し、油汚染物が油の流れを遮り、油回収能力が低下するのを防止することができる。
【0053】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0054】
上記実施形態においては、油収集部50及びドレン管52は、一方のガイド面204に対して設けられ、他方のガイド面204に対しては、第1油誘導部54が設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。油収集部及びドレン管は、各ガイド面に対して設けられる、すなわち、油収集部及びドレン管は、2組設けられるようにしてもよい。この場合、廃油容器は、組ごとに個別に設けられるようにしてもよく、あるいは、2本のドレン管が1つ廃油容器に接続されることにより、1つの廃油容器が共用されるようにしてもよい。
【0055】
また、上記実施形態においては、油誘導部53が設けられる。しかし、油誘導部がなくとも、油収集部が油をもれなく確実に収集することができるのであれば、油誘導部は必須ではない。
【0056】
また、油誘導部が設けられるとしても、油誘導部は、上記の、上端面54a,55aが油の誘導路として用いられる形態だけでなく、その目的において種々の形態を採用することができる。一例として、油誘導部は、ガイド面の直交方向に対して傾斜しかつガイド面の幅方向に対して傾斜するようにガイド面に取り付けられる帯状部材である。別例として、油誘導部は、ガイド面に傾斜して刻設される溝である。
【0057】
また、上記実施形態においては、廃油容器51の容量が大きくなるほど、回収作業の頻度を少なくすることが可能となる。しかし、本発明は、回収作業の頻度を少なくすべく大容積の廃油容器を用いることは必須ではない。回収作業の負担が問題とならないのであれば、廃油容器の容積は大きくなくても構わない。上記した廃油容器の容量を任意に選択することができるとは、このような趣旨である。
【0058】
また、上記実施形態においては、油回収装置5は、ガイドレール20の下端部に設けられる。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。ガイドレールにおけるガイドシュー等の可動体の可動域外であって可動体と干渉しない箇所であれば、任意の箇所に油回収装置を設けることができる。
【0059】
また、上記実施形態においては、油は潤滑油である。しかし、本発明は、これに限定されるものではない。油は潤滑油以外の油であってもよい。
【符号の説明】
【0060】
1…エレベータ、2…昇降路、2A…ピット、20…ガイドレール、200…基部、201…突出部、202…接続部、203…ガイド部、204…ガイド面、204a…幅方向先端縁、204b…幅方向基端縁、205…先端面、21…ガイドレール、25…乗場、3…かご、30…ガイドシュー、4…駆動機構、40…巻上機、41…カウンターウェイト、42…主ロープ、5…ガイドレール油回収装置、50…油収集部、50a…ブレード部、50b…凹部、50c…排出口部、50d…挿入片部、50e…後壁部、50f…底部、50g…前壁部、50h…堰部、50i…堰部、51…廃油容器、52…ドレン管、53…油誘導部、54…第1油誘導部、54a…上端面、55…第2油誘導部、55a…上端面、6…ガイドレール油汚染物分離装置、60…油濾過シート、60a…重なり部、61…第1油濾過シート、61a…シート本体、61b…遮蔽膜、61c…上端面、62…第2油濾過シート、62a…シート本体、62b…遮蔽膜、62c…突出部(囲い部)、63…クリップ(挟持手段)、63a…挟持片、G…ガイドレール20の下端とピット2Aの底面との間隔
【手続補正書】
【提出日】2023-07-26
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み方向に位置する2つのガイド面及び2つのガイド面の幅方向先端縁間に位置する先端面を備えるガイドレールの、ガイド面を伝って垂下する油を回収する油回収装置であって、
ガイド面に取り付けられ、上方から垂下してくる油を収集する油収集部と、
油収集部の上方において油収集部が取り付けられる一方のガイド面とは反対側の他方のガイド面及び先端面を横断して一方のガイド面の幅方向先端部に差し掛かるように取り付けられ、2つのガイド面の幅方向に対して傾斜する傾斜部により、他方のガイド面において上方から垂下してくる油を一方のガイド面の幅方向中央部に誘導する油誘導部と、
廃油容器と、
油収集部と廃油容器とを接続するドレン管とを備える
エレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項2】
油収集部の上方において一方のガイド面の幅方向基端部に取り付けられ、一方のガイド面の幅方向に対して傾斜する傾斜部により、一方のガイド面の幅方向基端部において上方から垂下してくる油を一方のガイド面の幅方向中央部に誘導する油誘導部を備える
請求項1に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項3】
油収集部は、
上端縁がガイド面を横断してガイド面に接することにより、上方から垂下してくる油を表面側に移行させるブレード部と、
ブレード部の表面側に移行した油を受け入れる凹部と、
凹部の一部に形成され、ドレン管が接続されるとともに、凹部内に受け入れた油をドレン管内に排出可能とする排出口部とを備える
請求項1に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項4】
油収集部は、排出口部から突出してドレン管内に挿入される挿入片部を備える
請求項3に記載のエレベータのガイドレール油回収装置。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のガイドレール油回収装置を備える
エレベータ。
【請求項6】
ガイドレール油回収装置よりも上方においてガイドレールに設けられ、ガイド面を伝って垂下する油から油汚染物を分離するガイドレール油汚染物分離装置を備える
請求項5に記載のエレベータ。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0007
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0007】
本発明に係るエレベータのガイドレール油回収装置は、
厚み方向に位置する2つのガイド面及び2つのガイド面の幅方向先端縁間に位置する先端面を備えるガイドレールの、ガイド面を伝って垂下する油を回収する油回収装置であって、
ガイド面に取り付けられ、上方から垂下してくる油を収集する油収集部と、
油収集部の上方において油収集部が取り付けられる一方のガイド面とは反対側の他方のガイド面及び先端面を横断して一方のガイド面の幅方向先端部に差し掛かるように取り付けられ、2つのガイド面の幅方向に対して傾斜する傾斜部により、他方のガイド面において上方から垂下してくる油を一方のガイド面の幅方向中央部に誘導する油誘導部と、
廃油容器と、
油収集部と廃油容器とを接続するドレン管とを備える
エレベータのガイドレール油回収装置である。
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0013】
ここで、本発明に係るエレベータの一態様として、
ガイドレール油回収装置よりも上方においてガイドレールに設けられ、ガイド面を伝って垂下する油から油汚染物を分離するガイドレール油汚染物分離装置を備える
との構成を採用することができる。