(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043362
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】マイクロプラスチック回収システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/38 20230101AFI20240322BHJP
【FI】
C02F1/38
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148514
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000175272
【氏名又は名称】三浦工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000205535
【氏名又は名称】株式会社 商船三井
(74)【代理人】
【識別番号】100126000
【弁理士】
【氏名又は名称】岩池 満
(74)【代理人】
【識別番号】100145713
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 竜太
(72)【発明者】
【氏名】井手 貴仁
(72)【発明者】
【氏名】福田 航平
(72)【発明者】
【氏名】松木 繁昌
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 敦行
【テーマコード(参考)】
4D037
【Fターム(参考)】
4D037AA05
4D037AA06
4D037AB17
4D037BA28
4D037BB02
4D037CA02
(57)【要約】
【課題】主流の停止が不要なマイクロプラスチック回収システムを提供すること。
【解決手段】本発明の一態様に係るマイクロプラスチック回収システム1は、環境水からマイクロプラスチックを回収するマイクロプラスチック回収システムであって、環境水の主流が流通する環境水ライン10と、前記環境水ライン10に配設され、環境水の主流からマイクロプラスチックの存在量を高めた濃縮水を分離するサイクロン分離器20と、前記サイクロン分離器20から濃縮水を排出する排出ライン30と、前記排出ライン30に配設され、濃縮水からマイクロプラスチックを回収する固形物回収部40と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
環境水からマイクロプラスチックを回収するマイクロプラスチック回収システムであって、
環境水の主流が流通する環境水ラインと、
前記環境水ラインに配設され、環境水の主流からマイクロプラスチックの存在量を高めた濃縮水を分離するサイクロン分離器と、
前記サイクロン分離器から濃縮水を排出する排出ラインと、
前記排出ラインに配設され、濃縮水からマイクロプラスチックを回収する固形物回収部と、
を備える、マイクロプラスチック回収システム。
【請求項2】
前記排出ラインから排出される濃縮水は、遠心分離により分離される重質画分である請求項1に記載のマイクロプラスチック回収システム。
【請求項3】
前記排出ラインは、前記固形物回収部を通過した水を前記環境水ラインの前記サイクロン分離器の下流側に還流させる、請求項1または2に記載のマイクロプラスチック回収システム。
【請求項4】
前記サイクロン分離器から排出される濃縮水の流量は、前記サイクロン分離器に導入される環境水の流量の5%以下である、請求項1または2に記載のマイクロプラスチック回収システム。
【請求項5】
前記環境水ラインまたは前記サイクロン分離器に配設され、環境水の流量または圧力を検知する流通状態検知器をさらに備える、請求項1または2に記載のマイクロプラスチック回収システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロプラスチック回収システムに関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは海洋ごみのかなりの部分を占め、ますます大きな脅威となりつつある。特にマイクロプラスチック等を含む浮遊汚染物質による海洋の汚染に対処することは、喫緊の課題となっている。そこで、船舶においてバラスト水等として利用される環境水からマイクロプラスチック等の浮遊汚染物質を除去するシステムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
船舶では、例えば、主機を冷却する冷却水或いはバラスト水等として、海水などの環境水を船内に取り込み利用している。航海中に船内に取り込まれる環境水は膨大な量になる。この環境水に含まれるマイクロプラスチック等を含む浮遊汚染物質を回収し、海洋、湖沼、河川などの水環境の改善に貢献できる技術が求められている。
【0005】
一般に、浮遊汚染物質の回収はフィルタシステムにより行われるが、フィルタシステムでは、浮遊汚染物質が蓄積することにより徐々に圧力損失が増大する。このため、フィルタを用いるシステムでは、複数のフィルタ系列を用意しフィルタ系列を切替えて連続的にろ過を継続する等の方策をとることもある。
【0006】
一方、船内に取り込まれる環境水は用途ごとに安定した流量を供給することが必要となる。例えば、主機の冷却水の流量変動は、主機の性能や安全性にネガティブな影響を与えるため回避されなくてはならない。このため、圧力損失の発生や流路切替により主機冷却水の流量変動を招くフィルタシステムを適用することは難しい。
【0007】
このため、本発明は、主流の流量への影響を抑制し、安定した流量を確保できるマイクロプラスチック回収システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るマイクロプラスチック回収システムは、環境水からマイクロプラスチックを回収するマイクロプラスチック回収システムであって、環境水の主流が流通する環境水ラインと、前記環境水ラインに配設され、環境水の主流からマイクロプラスチックの存在量を高めた濃縮水を分離するサイクロン分離器と、前記サイクロン分離器から濃縮水を排出する排出ラインと、前記排出ラインに配設され、濃縮水からマイクロプラスチックを回収する固形物回収部と、を備える、マイクロプラスチック回収システム。
【0009】
上述のマイクロプラスチック回収システムにおいて、前記排出ラインから排出される濃縮水は、遠心分離により分離される重質画分であってもよい。
【0010】
上述のマイクロプラスチック回収システムにおいて、前記排出ラインは、前記固形物回収部を通過した水を前記環境水ラインの前記サイクロン分離器の下流側に還流させてもよい。
【0011】
上述のマイクロプラスチック回収システムにおいて、前記サイクロン分離器から排出される濃縮水の流量は、前記サイクロン分離器に導入される環境水の流量の5%以下であってもよい。
【0012】
上述のマイクロプラスチック回収システムは、前記環境水ラインまたは前記サイクロン分離器に配設され、環境水の流量または圧力を検知する流通状態検知器をさらに備えてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、主流の停止が不要なマイクロプラスチック回収システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態に係るマイクロプラスチック回収システムの構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るマイクロプラスチック回収システム1の構成を示す模式図である。
【0016】
マイクロプラスチック回収システム1は、環境水(海水、河川水、湖沼水等)からマイクロプラスチックを回収するシステムであり、各種の需要設備において使用される環境水からマイクロプラスチックを主体とする固形物を分離回収するために用いられる。マイクロプラスチック回収システム1によりマイクロプラスチックが除去される環境水を使用する需要設備としては、典型的には船舶の主機または主機冷却装置等が挙げられる。つまり、環境水は、主機を直接または間接的に冷却するために利用され得る。
【0017】
マイクロプラスチック回収システム1は、環境水の主流が流通する環境水ライン10と、環境水ライン10に配設され、環境水の主流からマイクロプラスチックの存在量を高めた濃縮水を分離するサイクロン分離器20と、サイクロン分離器20から濃縮水を排出する排出ライン30と、排出ライン30の下流側に配設され、濃縮水からマイクロプラスチックを回収する固形物回収部40と、を備える。
【0018】
環境水ライン10は、不図示のポンプ等によって供給される環境水を、サイクロン分離器20を通して需要設備に案内する流路である。環境水ライン10を流通する環境水はマイクロプラスチック回収システム1を通過する環境水の主流である。つまり、マイクロプラスチック回収システム1を通して需要設備に導入される環境水の過半が環境水ライン10を通る。
【0019】
環境水ライン10は、環境水の流通状態を検知する流通状態検知器11を備えてもよい。流通状態検知器11は、環境水の流量または圧力を検知するよう構成され得る。本実施形態の流通状態検知器11は、サイクロン分離器20の前後の差圧を検出する差圧計である。流通状態検知器11が検出する流通状態に基づいて、環境水の流量を減少させるサイクロン分離器20の閉塞等の発生を検知することができる。なお、流通状態検知器11は、サイクロン分離器20に配設されてもよい。
【0020】
サイクロン分離器20は、円筒状のサイクロン本体21に接線方向に環境水を導入し、環境水に含まれるマイクロプラスチックを含む固形物を遠心分離し、固形物濃度を低減した主流を排出し、マイクロプラスチックおよび他の固形物の存在量を高めた濃縮水をサイクロン本体21の下部に分離する。したがって、サイクロン分離器20から排出される濃縮水は、遠心分離により分離される重質画分、つまり相対的に比重や粒径が大きく、分散媒である水(塩水)よりも大きい遠心力が作用する固形物の濃度が上昇した水である。
【0021】
排出ライン30は、サイクロン分離器20のサイクロン本体21の下端からマイクロプラスチックの存在量を高めた濃縮水を排出する。排出ライン30は、サイクロン分離器20からの濃縮水の排出量ひいては濃縮水の固形物濃度を調整するために、調整弁31が設けられてもよい。また、排出ライン30は、固形物回収部40を通過した水、つまり固形物を分離除去した水を環境水ライン10のサイクロン分離器20の下流側に還流させてもよい。本実施形態の排出ライン30は、固形物回収部40を通過した水を昇圧して、固形物を分離除去した水を環境水ライン10に還流できるよう、還流ポンプ32を有する。さらに、本実施形態の排出ライン30は、還流ポンプ32の吸込み側に圧力スイッチ33を有する。圧力スイッチ33は、固形物回収部40における圧力損失が増大したときに還流ポンプ32が吸込み側に生じさせる負圧を検出することで固形物回収部40の閉塞を検知するために用いられ得る。また、本実施形態の排出ライン30は、固形物回収部40の上流側に遮断弁34を有する。
【0022】
サイクロン分離器20で分離される固形物の量は濃縮水の流量によって大きく変動しないが、濃縮水の流量が小さ過ぎると固形物が沈殿して閉塞を起こすおそれがある。排出ライン30によりサイクロン分離器20から排出される濃縮水の流量としては、環境水ライン10の下流側の主流の流量減少を抑制するために、マイクロプラスチックを含む固形物を流動させて排出できる最低限の流量とすることが好ましく、具体的には、サイクロン分離器20に導入される環境水の5%以下が好ましく3%以下がより好ましい。
【0023】
固形物回収部40は、濃縮水からマイクロプラスチックを含む固形物を分離回収する。本実施形態の固形物回収部40は、例えばストレーナ等の濾過装置41を有する。排出ライン30が通過した水を系外排出する場合、固形物回収部40は、例えば濾し網等を配置して適宜マイクロプラスチックを含む固形物を回収可能な排水機構であってもよく、例えば凝集沈殿、気泡による浮上等の方法でマイクロプラスチックを回収可能とするために排出される濃縮水を貯留する水槽を有する構成とされてもよい。
【0024】
固形物回収部40は、濾過装置41の閉塞を検出するために、濾過装置41の差圧を検出する差圧計42を有することが好ましい。差圧計42によって濾過装置41の閉塞が検出された場合、濾過装置41の濾材の洗浄または交換が行われるが、この間、調整弁31と遮断弁34を閉止しサイクロン分離器20から排出ライン30への濃縮水の排出を停止してもよく、濃縮水の流量は相対的に小さく一時的に濃縮水の排出を停止しても安定して環境水を通水できる。需要設備が許容する場合には固形物回収部40をバイパスして環境水ライン10に還流させてもよい。また、固形物回収部40は、通水を停止することなく濾過装置41の濾材の洗浄または交換を可能にするために、並列かつ選択可能に配設される複数の濾過装置41を有してもよい。
【0025】
マイクロプラスチック回収システム1は、船舶の主機冷却水など本来の取水目的を優先させつつ環境水からマイクロプラスチックを回収するシステムであって、環境水の流量への影響を与えないようにマイクロプラスチックを多く含む(濃度を高めた)環境水の重質画分を分離する機構と、少量に絞り込まれた環境水の重質画分からマイクロプラスチックを効率的に回収する機構を含む。マイクロプラスチック回収システム1は、環境水の主流が流通する環境水ライン10に遠心分離により環境水中のマイクロプラスチックを含む固形物を除去するサイクロン分離器20を設け、サイクロン分離器20からマイクロプラスチックの存在量を高めた濃縮水を排出ライン30に排出する構成としたことにより、フィルタシステムの場合に発生するマイクロプラスチック回収に伴う環境水の流量変動を抑制し、環境水ラインの流量を安定化した。このため、船舶の主機の冷却水等からマイクロプラスチックを回収する場合、主機への悪影響を回避してマイクロプラスチックを回収することができる。フィルタ方式では環境水中のマイクロプラスチック等の浮遊固形物の濃度によりフィルタ逆洗あるいはフィルタ交換の間隔は変動し、浮遊固形物の濃度が高い場合の間隔は短く(例えば数時間以内)、浮遊固形物の濃度が低い場合の間隔は長くなる(例えば1週間以内)。サイクロン方式ではこうした運転の中断が無く、航海中の任意の期間中連続して運転することができる。
【0026】
マイクロプラスチック回収システム1は、環境水ラインを流れる比較的比重および粒径が大きいマイクロプラスチックを含む重質画分をサイクロン分離器で濃縮することで、後段の固形物回収部でろ過する水量を低減し効率よくマイクロプラスチックを回収できる。また、固形物回収部の流量は環境水の主流より十分に小さい(5%以下)のため、フィルタ圧損が上昇或いはフィルタ閉塞の場合や、フィルタ交換のために排出ライン30を遮断した場合でも環境水ラインの流量に与える影響は極めて小さく環境水を安定的に流通できる。
【0027】
以上、本発明の各実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限定されることなく、種々の変更および変形が可能である。例として、マイクロプラスチック回収システム1は、需要設備の後段に設けられて環境水の流量を安定的に供給するものであってもよい。
【符号の説明】
【0028】
1 マイクロプラスチック回収システム
10 環境水ライン
11 流通状態検知器
20 サイクロン分離器
21 サイクロン本体
30 排出ライン
31 調整弁
32 還流ポンプ
33 圧力スイッチ
40 固形物回収部
41 濾過装置
42 差圧計