(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043383
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】逐次比較型A/Dコンバータ
(51)【国際特許分類】
H03M 1/08 20060101AFI20240322BHJP
H03M 1/46 20060101ALI20240322BHJP
H03M 1/80 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
H03M1/08 A
H03M1/46
H03M1/80
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148551
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】000116024
【氏名又は名称】ローム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100133215
【弁理士】
【氏名又は名称】真家 大樹
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 孝一
【テーマコード(参考)】
5J022
【Fターム(参考)】
5J022AA02
5J022AB03
5J022AB04
5J022AB09
5J022BA02
5J022CF04
5J022CF07
5J022CG01
(57)【要約】
【課題】精度よく信号を変換できる逐次比較型A/Dコンバータを提供する。
【解決手段】逐次比較型A/Dコンバータ1は、デジタル入力に応じたアナログの出力電圧を生成するD/Aコンバータ20と、アナログ入力信号に応じた電圧を、D/Aコンバータ20の出力電圧と比較する比較器4と、デジタル入力をD/Aコンバータ20に入力する制御回路6と、を備える。D/Aコンバータ20は、比較器4に接続された出力線240および出力線240にそれぞれ接続された複数のキャパシタ241~247を含む容量型D/A変換回路24と、出力線240に接続されたアイソレーションキャパシタ260と、電流源30と、を有する。電流源30は、制御回路6によるD/Aコンバータ20へのデジタル入力の入力と同期して、アイソレーションキャパシタ260を介して出力線240に電流信号を出力する。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
デジタル入力に応じたアナログの出力電圧を生成するD/Aコンバータと、
アナログ入力信号に応じた電圧を、前記D/Aコンバータの出力電圧と比較する比較器と、
前記デジタル入力を前記D/Aコンバータに入力する制御回路と、を備え、
前記D/Aコンバータは、前記比較器に接続された出力線および前記出力線にそれぞれ接続された複数のキャパシタを含む容量型D/A変換回路と、前記出力線に接続されたアイソレーションキャパシタと、電流源と、を有し、
前記電流源は、前記制御回路による前記D/Aコンバータへの前記デジタル入力の入力と同期して、前記アイソレーションキャパシタを介して前記出力線に電流信号を出力する、
逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項2】
前記アイソレーションキャパシタは、前記容量型D/A変換回路のスケーリングキャパシタである、
請求項1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項3】
前記逐次比較型A/Dコンバータは、前記アナログ入力信号を(M+N)ビット(ここで、M,Nは正の整数)のデジタル出力信号に変換し、
前記D/Aコンバータは、前記アイソレーションキャパシタを介して前記容量型D/A変換回路に接続された抵抗型D/A変換回路をさらに有し、
前記抵抗型D/A変換回路は、下位側のMビットに対応する信号を前記出力線に出力し、
前記容量型D/A変換回路は、上位側のNビットに対応する信号を前記出力線に出力する、
請求項2に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項4】
前記逐次比較型A/Dコンバータは、前記アナログ入力信号を(M+N)ビット(ここで、M,Nは正の整数)のデジタル出力信号に変換し、
前記D/Aコンバータは、前記容量型D/A変換回路を第1の容量型D/A変換回路とするとき、前記アイソレーションキャパシタを介して前記第1の容量型D/A変換回路に接続された第2の容量型D/A変換回路をさらに有し、
前記第1の容量型D/A変換回路は、上位側のMビットに対応する信号を前記出力線に出力し、
前記第2の容量型D/A変換回路は、下位側のNビットに対応する信号を前記出力線に出力する、
請求項2に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項5】
前記電流源は、前記電流信号の波形を調整できるように構成されている、
請求項1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項6】
前記電流源は、電流を吐き出すソース回路および電流を吸い込むシンク回路を有し、
前記ソース回路は、Pチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)で構成された第1のトランジスタと、Pチャネル型のMOSFETで構成された複数の第2のトランジスタとを有し、
前記シンク回路は、Nチャネル型のMOSFETで構成された第3のトランジスタと、Nチャネル型のMOSFETで構成された複数の第4のトランジスタとを有し、
前記複数の第2のトランジスタのそれぞれは、前記第1のトランジスタとカレントミラー回路を形成し、
前記複数の第4のトランジスタのそれぞれは、前記第3のトランジスタとカレントミラー回路を形成する、
請求項5に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【請求項7】
前記デジタル入力は、前記複数のキャパシタのそれぞれに供給される電圧を制御するための制御信号を含み、
前記電流源は、前記制御信号に応じた波形を有する前記電流信号を出力する、
請求項5に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、逐次比較型A/Dコンバータに関する。
【背景技術】
【0002】
アナログ信号をデジタル信号に変換する逐次比較型ADC(A/Dコンバータ)が知られている。逐次比較型ADCでは、標本化したアナログ入力信号と、DAC(D/Aコンバータ)から出力される信号とを比較器によって逐次比較し、その比較結果に基づいてデジタル信号を出力する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、DACから出力される信号を切り替える際に、DACにおけるスイッチング動作によって過渡応答信号が発生する。逐次比較型ADCの変換速度が速くなると、この過渡応答信号が比較器による信号の比較動作に影響を与える可能性がある。
【0005】
本開示はこうした状況に鑑みてなされたものであり、その例示的な目的の一つは、精度よく信号を変換できる逐次比較型ADCを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示のある態様の逐次比較型A/Dコンバータは、デジタル入力に応じたアナログの出力電圧を生成するD/Aコンバータと、アナログ入力信号に応じた電圧を、D/Aコンバータの出力電圧と比較する比較器と、デジタル入力をD/Aコンバータに入力する制御回路と、を備える。D/Aコンバータは、比較器に接続された出力線および出力線にそれぞれ接続された複数のキャパシタを含む容量型D/A変換回路と、出力線に接続されたアイソレーションキャパシタと、電流源と、を有する。電流源は、制御回路によるD/Aコンバータへのデジタル入力の入力と同期して、アイソレーションキャパシタを介して出力線に電流信号を出力する。
【0007】
なお、以上の構成要素の任意の組合せ、本開示の表現を方法、装置、システムなどの間で変換したものもまた、本開示の態様として有効である。
【発明の効果】
【0008】
本開示によれば、精度よく信号を変換できる逐次比較型ADCを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本開示の一実施形態に係る逐次比較型ADCの構成を示す図である。
【
図2】
図2は、参考例に係るDACの構成を示す回路図である。
【
図3】
図3は、参考例に係るDACを用いた場合の逐次比較型ADCの動作例を示すタイミングチャートである。
【
図4】
図4は、本開示の一実施形態に係るDACを示す回路図である。
【
図5】
図5は、同実施形態に係る電流源の構成を示す回路図である。
【
図6】
図6は、同実施形態に係る電流源が出力する電流信号を説明するためのタイミングチャートである。
【
図7】
図7は、同実施形態に係る逐次比較型ADCの効果を説明するための図である。
【
図8】
図8は、第1変形例に係るDACの構成を示す回路図である。
【
図9】
図9は、第2変形例に係る逐次比較型ADCの構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(概要)
本開示のいくつかの例示的な実施形態の概要を説明する。この概要は、後述する詳細な説明の前置きとして、実施形態の基本的な理解を目的として、1つまたは複数の実施形態のいくつかの概念を簡略化して説明するものであり、発明あるいは開示の広さを限定するものではない。この概要は、考えられるすべての実施形態の包括的な概要ではなく、すべての実施形態の重要な要素を特定することも、一部またはすべての態様の範囲を線引きすることも意図していない。便宜上、「一実施形態」は、本明細書に開示するひとつの実施形態(実施例や変形例)または複数の実施形態(実施例や変形例)を指すものとして用いる場合がある。
【0011】
一実施形態に係る逐次比較型A/Dコンバータは、デジタル入力に応じたアナログの出力電圧を生成するD/Aコンバータと、アナログ入力信号に応じた電圧を、D/Aコンバータの出力電圧と比較する比較器と、デジタル入力をD/Aコンバータに入力する制御回路と、を備える。D/Aコンバータは、比較器に接続された出力線と、出力線にそれぞれ接続された複数のキャパシタを含む容量型D/A変換回路と、出力線に接続されたアイソレーションキャパシタと、電流源と、を有する。電流源は、制御回路によるD/Aコンバータへのデジタル入力の入力と同期して、アイソレーションキャパシタを介して出力線に電流信号を出力する。
【0012】
この構成によれば、DACにおけるスイッチング動作によって発生する過渡応答信号を電流源の電流信号によって打ち消すことができる。これにより、精度よく信号を変換することが可能となる。
【0013】
一実施形態において、アイソレーションキャパシタは、容量型D/A変換回路のスケーリングキャパシタであってよい。この構成により、キャパシタのサイズを大きくしなくとも、逐次比較型A/Dコンバータの分解能を向上させることができる。
【0014】
一実施形態において、逐次比較型A/Dコンバータは、アナログ信号を(M+N)ビット(ここで、M,Nは正の整数)のデジタル信号に変換し、D/Aコンバータは、アイソレーションキャパシタを介して容量型D/A変換回路に接続された抵抗型D/A変換回路をさらに有し、抵抗型D/A変換回路は、下位側のMビットに対応する信号を出力線に出力し、容量型D/A変換回路は、上位側のNビットに対応する信号を出力線に出力してよい。この構成により、逐次比較型A/Dコンバータの分解能を向上させることができる。
【0015】
一実施形態において、逐次比較型A/Dコンバータは、アナログ信号を(M+N)ビット(ここで、M,Nは正の整数)のデジタル信号に変換し、D/Aコンバータは、容量型D/A変換回路を第1の容量型D/A変換回路とするとき、アイソレーションキャパシタを介して第1の容量型D/A変換回路に接続された、第2の容量型D/A変換回路をさらに有し、第1の容量型D/A変換回路は、上位側のMビットに対応する信号を出力線に出力し、第2の容量型D/A変換回路は、下位側のNビットに対応する信号を出力線に出力してよい。この構成により、逐次比較型A/Dコンバータの分解能を向上させることができる。
【0016】
一実施形態において、電流源は、電流信号の波形を調整できるように構成されてよい。この構成により、簡便に所望の波形の電流信号を生成することが可能となる。
【0017】
一実施形態において、電流源は、電流を吐き出すソース回路および電流を吸い込むシンク回路を有してよい。ソース回路は、Pチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)で構成された第1のトランジスタと、Pチャネル型のMOSFETで構成された複数の第2のトランジスタとを有してよい。シンク回路は、Nチャネル型のMOSFETで構成された第3のトランジスタと、Nチャネル型のMOSFETで構成された複数の第4のトランジスタとを有してよい。複数の第2のトランジスタのそれぞれは、第1のトランジスタとカレントミラー回路を形成してよい。複数の第4のトランジスタのそれぞれは、第3のトランジスタとカレントミラー回路を形成してよい。この構成により、簡便に所望の波形の電流信号を生成することが可能となる。
【0018】
一実施形態において、デジタル入力は、複数のキャパシタのそれぞれに供給される電圧を制御するための制御信号を含み、電流源は、制御信号に応じた波形を有する電流信号を出力してよい。この構成により、過渡応答信号を打ち消すためのより適切な電流信号を生成することが可能となる。
【0019】
(実施形態)
以下、好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一または同等の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施形態は、開示および発明を限定するものではなく例示であって、実施形態に記述されるすべての特徴やその組み合わせは、必ずしも開示および発明の本質的なものであるとは限らない。
【0020】
図1は、本開示の一実施形態に係る逐次比較型ADC1の構成を示す図である。本実施形態に係る逐次比較型ADC1は、アナログ入力信号A
INを12ビットのデジタル信号D
OUTに変換する。逐次比較型ADC1は、サンプルホールド回路2、比較器4、逐次比較制御回路6およびDAC20を備える。
【0021】
サンプルホールド回路2は、入力電圧をサンプルホールドする。具体的には、サンプルホールド回路2は、アナログ入力信号AINに基づく電圧をサンプリングし、サンプリングした電圧VSHをホールドし、電圧VSHを比較器4に出力する。
する。
【0022】
DAC20は、デジタル入力SCTに応じたアナログの出力電圧を生成する。具体的には、DAC20は、逐次比較制御回路6から入力されるデジタル入力SCTに応じた出力電圧VDACを比較器4に出力する。
【0023】
比較器4は、アナログ入力信号AINに基づく電圧を、DAC20の出力電圧と比較する。具体的には、比較器4は、サンプルホールド回路2がホールドしている電圧VSHと、DAC20が出力する出力電圧VDACとを比較し、比較結果信号SCRを逐次比較制御回路6に出力する。
【0024】
逐次比較制御回路6は、デジタル入力SCTをDAC20に出力する。具体的には、逐次比較制御回路6は、比較器4の比較結果信号SCRに基づいて、DAC20にデジタル入力SCTを出力することによって、DAC20の動作を制御する。
【0025】
DAC20は、逐次比較制御回路6からのデジタル入力SCTに応じて出力電圧VDACを出力し、比較器4は、サンプルホールド回路2がホールドしている電圧VSHと、出力電圧VDACとを比較し、逐次比較制御回路6に比較結果信号SCRを逐次比較制御回路6に出力する。以下、比較器4は、サンプルホールド回路2がホールドしている電圧VSHと、比較結果信号SCRに基づく新たな出力電圧VDACとを逐次比較する。逐次比較制御回路6は、比較器4による逐次比較の結果に基づいて、デジタル出力信号DOUTを出力する。このようにして、アナログ入力信号AINは、12ビットのデジタル出力信号DOUTに変換される。
【0026】
ここで、本実施形態に係るDAC20の詳細を説明する前に、参考例に係るDAC10でDAC20を置き換えた場合について説明する。
図2は、参考例に係るDAC10の構成を示す回路図である。参考例に係るDAC10は、LSB(Least Significant Bit)側のD/A変換回路であるLSB側回路12、MSB(Most Significant Bit)側のD/A変換回路であるMSB側回路14、スケーリングキャパシタ110を備える。
【0027】
LSB側回路12は、共通線120と、キャパシタ121~125と、セレクタ131~135とを備える。キャパシタ121~125は、下位側の5ビット分に対応する。キャパシタ121~125の容量値は、「C」を基準容量値とする(以下、同様に基準容量値を[C]とする。)と、それぞれ[1C]、[2C]、[4C]、[8C]および[16C]である。すなわち、キャパシタ121~125は、それぞれ、所定の比率で重み付けされた容量値(=2xC(ただし、x=0~4の整数))をもつ。
【0028】
キャパシタ121~125のそれぞれの一端は、共通線120に接続されている。また、キャパシタ121~125の他端には、セレクタ131~135が接続されている。セレクタ131~135は、逐次比較制御回路6からのデジタル入力SCTに基づいて、上側の基準電圧VREFT(第1の基準電圧)または下側の基準電圧VREFB(第2の基準電圧)をキャパシタ121~125の他端に供給するように構成されている。これらの基準電圧は、電源と共通であってよいし、グランドと共通であってよい。なお、以下では、上側の基準電圧VREFTおよび下側の基準電圧VREFBを区別しないとき、これらを単に「基準電圧VREF」ともいう。
【0029】
MSB側回路14は、出力線140と、キャパシタ141~147と、セレクタ151~157とを備える。キャパシタ141~147は、上位側の7ビット分に対応する。キャパシタ141~147の容量値は、それぞれ[1C]、[2C]、[4C]、[8C]、[16C]、[32C]および[64C]である。すなわち、キャパシタ141~147は、それぞれ、所定の比率で重み付けされた容量値(=2yC(ただし、y=0~6の整数))をもつ。
【0030】
キャパシタ141~147のそれぞれの一端は、出力線140に接続されている。また、キャパシタ141~147の他端には、セレクタ151~157が接続されている。セレクタ151~157は、逐次比較制御回路6からのデジタル入力SCTに基づいて、上側の基準電圧VREFTまたは下側の基準電圧VREFBをキャパシタ141~147の他端に供給するように構成されている。
【0031】
スケーリングキャパシタ110は、LSB側回路12とMSB側回路14との間において、LSB側回路12とMSB側回路14とに直列に接続されている。具体的には、スケーリングキャパシタ110の一端は、LSB側回路12の共通線120に接続され、スケーリングキャパシタ110の他端は、MSB側回路14の出力線140に接続されている。スケーリングキャパシタ110をDAC10に設けることにより、MSB側回路14のキャパシタのサイズを大きくしなくとも、逐次比較型ADC1の分解能を向上させることができる。スケーリングキャパシタ110の容量値は、[1C]である。
【0032】
セレクタ131~135および151~157は、逐次比較制御回路6のデジタル入力SCRによって制御される。逐次比較制御回路6は、たとえば最上位ビットの判定時には、最上位ビットに対応するキャパシタ147の他端にVREFTが供給され、他のキャパシタ121~125および141~146の他端にVREFBが供給されるように、セレクタ131~135および151~157を制御してよい。
【0033】
図3は、参考例に係るDAC10を用いた場合の逐次比較型ADCの動作例を示すタイミングチャートである。
図3には、上から順に、ADC動作信号CLK、入力信号サンプルホールド信号(以下、「ホールド信号」ともいう。)、比較確定トリガS
T、比較確定値D
Vおよび出力電圧V
DACが示されている。
【0034】
サンプリング期間T1(時刻t1~t2)では、ホールド信号がハイであり、比較器4による逐次比較動作が停止している。時刻t2において、ホールド信号がローになると、比較器4が逐次比較動作を行うようになる。たとえば、時刻t4において、ADC動作信号CLKが立ち上がり、DAC10のセレクタの状態が最上位ビット(bit11)の判定するための状態に切り替わる。
【0035】
ADC動作信号CLKが立ち上がると同時に、比較確定トリガS
Tが立ち上がり、比較器4が比較動作を行う。その後、ADC動作信号CLKおよび比較確定トリガS
Tのハイとローとの切り替えが順次に行われ、各ビットについて逐次比較動作が行われる。
図3に示す例では、最上位ビットに対応するbit11から最下位ビットに対応するbit0までの12ビットについて、比較動作が行われる。
【0036】
セレクタの状態が切り替わる際に、過渡応答による信号(以下、「過渡応答信号」ともいう。)が発生する。基準電圧VREFの電圧源(図示しない。)からDAC10までの経路は、たとえばIC(Integrated Circuit)配線、ボンディングワイヤ、リードフレームおよびPCB(Printed Circuit Board)などの構成を含む。これらの構成によって、セレクタの状態が切り替わる際に、基準電圧VREFに過渡応答信号が乗る。特に、過渡応答信号の波形は、ボンディングワイヤのインダクタ成分による共振などの影響を受ける。
【0037】
上位側のビットほど、判定の対象となるビットの切り替わり(すなわち、セレクタの状態の切り替わり)において、大きな過渡応答信号が基準電圧V
REFに乗る。
図3に示す例では、時刻t
2においてセレクタの状態が切り替わる際に、時刻t
2~t
3の期間T
2において、過渡応答信号180が基準電圧V
REFに乗る。DAC10の変換速度を上げて、ADC動作信号CLKおよび比較確定トリガS
Tの周期T
4を短くすると、過渡応答信号180が収束してから次の切り替えまでの期間T
3が短くなる。したがって、DAC10の変換速度を速くし過ぎると、過渡応答信号180が収束する前に次のビットの比較動作が開始し、次のビットの比較動作に影響を与える可能性が生じる。
【0038】
過渡応答を抑制するためにWB(ワイヤボンディング)を2重するなどのインピーダンスを低減する方法があるが、程度差はあるものの、その改善には限界がある。根本的にインピーダンスを切るために基準電圧VREFにバッファを挿入し、ACD回路10の直近でドライブすることで過渡応答を改善する方法もある。しかしながら、ACD回路10の高精度および高速化を実現する場合には、バッファに対する性能も高精度および高速化が必要である。しかしながら、高速化による消費電力の背反があり、バッファのオフセットなど精度面においても限界がある。
【0039】
図4は、本開示の一実施形態に係る逐次比較型ADC20を示す図である。本実施形態に係るDAC20は、LSB側回路22、MSB側回路24、スケーリングキャパシタ260(アイソレーションキャパシタ)および電流源30を備える。
【0040】
本実施形態に係るLSB側回路22は、5ビットの分解能をもつ、ラダー型の抵抗型D/A変換回路である。LSB側回路22は、抵抗221~229およびセレクタ231~235を備える。抵抗221~229の抵抗値は、いずれも[R]である。抵抗221~225は、12ビットのうちの下位5ビット分に相当する。本実施形態ではLSB側回路22が5ビット分に対応する信号を出力線240に出力するものとして説明するが、LSB側回路22は、任意のM(M:正の整数)ビットの信号を出力線240に出力するように構成されてよい。
【0041】
抵抗226~229は、この順で直列に接続されている。抵抗221の一端は、抵抗226の一端に接続されており、抵抗222の一端は、抵抗226の他端と抵抗227の一端との間に接続されており、抵抗223の一端は、抵抗227の他端と抵抗228の一端との間に接続されており、抵抗224の一端は、抵抗228の他端と抵抗229の一端との間に接続されており、抵抗225の一端は、抵抗229の他端に接続されている。
【0042】
抵抗221~225の他端には、セレクタ231~235が接続されている。セレクタ231~235は、逐次比較制御回路6からのデジタル入力SCTに基づいて、上側の基準電圧VREFTまたは下側の基準電圧VREFBを抵抗221~225の他端に供給するように構成されている。
【0043】
本実施形態に係るMSB側回路24は、7ビットの分解能をもつ、容量型D/A変換回路である。MSB側回路24は、比較器4に接続された出力線240と、出力線240にそれぞれ接続されたキャパシタ241~247と、セレクタ251~257とを備える。キャパシタ241~247は、12ビットのうちの上位7ビット分に相当する。なお、本実施形態では、MSB側回路24が7ビット分に対応する信号を出力線240に出力するものとして説明するが、MSB側回路24は、任意のN(N:正の整数)ビットの信号を出力線240に出力するように構成されてよい。
【0044】
キャパシタ241~247のそれぞれの一端は、出力線240に接続されている。また、キャパシタ241~247の他端には、セレクタ251~257が接続されている。セレクタ251~257は、逐次比較制御回路6からのデジタル入力SCTに基づいて、上側の基準電圧VREFTまたは下側の基準電圧VREFBをキャパシタ241~247の他端に供給するように構成されている。
【0045】
本実施形態に係るスケーリングキャパシタ260は、MSB側回路24を構成する容量型D/A変換回路のスケーリングキャパシタとして機能する。スケーリングキャパシタ260は、LSB側回路22とMSB側回路24との間において、LSB側回路22およびMSB側回路に直列に接続されている。具体的には、スケーリングキャパシタ260の一端は、LSB側回路22の抵抗229の他端および抵抗225の一端に接続されており、スケーリングキャパシタ260の他端は、MSB側回路24の出力線240に接続されている。
【0046】
デジタル入力SCRは、DAC20のセレクタ231~235および251~257のON-OFFを制御するための制御信号を含む。この制御信号に基づいて、セレクタ231~235および251~257のON-OFFが制御され、抵抗221~225およびキャパシタ241~247に供給される基準電圧が制御される。
【0047】
電流源30は、スケーリングキャパシタ260と、LSB側回路22とを接続する経路262に接続されている。電流源30は、逐次比較制御回路6によるDAC20へのデジタル入力の入力と同期して、スケーリングキャパシタ260を介して出力線240に電流信号を出力する。本実施形態に係る電流源30は、逐次比較制御回路6により入力される制御信号に応じて、スイッチ360を介してスケーリングキャパシタ260に電流信号を出力するように構成されている。出力された電流信号によって、基準電圧VREFに発生した過渡応答信号を打ち消すことが可能となる。
【0048】
電流源30は、制御信号に応じた波形を有する電流信号を出力してよい。これにより、電流源30は、より過渡応答信号を打ち消すのに適した電流信号を出力することが可能となる。
【0049】
たとえば、逐次比較制御回路6のデジタル入力SCTによって、最上位ビットに対応するキャパシタ247がVREFTに接続されており、その下のビットに対応するキャパシタ246がVREFBに接続されているとする。次いで、比較器4による比較結果に基づく新たなデジタル入力SCTによって、キャパシタ247がVREFBに接続され、キャパシタ246がVREFTに接続されるように、セレクタ256,257が切り替わるとする。
【0050】
このとき、供給される基準電圧の切り替えに応じて、上位側のビットに対応するキャパシタほど、大きな容量値を有するため、より大きな振幅および長い継続期間をもつ過渡応答信号を発生させる。このため、上述のようにセレクタ256,257が切り替わると、最上位を含む上位側のビットのキャパシタ246,247に供給される基準電圧が切り替わり、比較的大きな振幅および長い継続期間をもつ過渡応答信号が発生する。一方、MSB側回路24における一番下のビットに対応するキャパシタ241に供給される基準電圧が切り替わる場合には、比較的小さな振幅および短い継続期間をもつ過渡応答信号が発生する。
【0051】
このように、どのビットに供給される基準電圧が切り替わるかに応じて、発生する過渡応答信号の波形が変化する。このため、電流源30は、基準電圧の切り替わりを制御する制御信号の変化に応じて電流信号の波形を変化させることにより、より過渡応答信号に合った電流信号を出力することが可能となる。
【0052】
図5は、本実施形態に係る電流源30の構成を示す回路図である。電流源30は、ソース回路320およびシンク回路340を備える。ソース回路320およびシンク回路340の動作に応じて、電流I
OUTが電流源30からスケーリングキャパシタ260に吐き出されたり、電流I
INがスケーリングキャパシタ260から電流源30に吸い込まれたりする。
【0053】
ソース回路320は、トランジスタ321~325、スイッチ331~334および抵抗330を備える。トランジスタ321~325は、Pチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)でそれぞれ構成されている。トランジスタ322~325(第2のトランジスタ)のそれぞれは、トランジスタ321(第1のトランジスタ)とカレントミラー回路を構成する。
【0054】
トランジスタ321~325のそれぞれのソースには、電源電圧Vddが供給される。トランジスタ321のゲートおよびドレイン、トランジスタ322~325のそれぞれのゲートは、共通に接続されるとともに、抵抗330の一端と接続されている。トランジスタ322~325のドレインは、スイッチ331~334と接続されている。抵抗330の他端は、グランドに接続されている。
【0055】
抵抗330には、その抵抗値に応じた電流が流れる。スイッチ331~334の少なくともいずれかがONになると、ONになったスイッチのそれぞれには、抵抗330に流れる電流I1に等しい大きさの電流が流れる。スイッチ331~334に流れる電流は、ソース回路320からスイッチ360を介して、スケーリングキャパシタ260に流れる。したがって、スイッチ331~334を制御することにより、ソース回路320は、X×I1(X:正の整数)の電流を吐き出すことができる。ソース回路320から吐き出された電流は、スケーリングキャパシタ260を介して、出力線240に電流信号として伝達される。
【0056】
ソース回路320は、トランジスタ341~345、スイッチ351~354および抵抗355を備える。トランジスタ341~345は、Nチャネル型のMOSFETでそれぞれ構成されている。トランジスタ342~345(第4のトランジスタ)のそれぞれは、トランジスタ341(第3のトランジスタ)とカレントミラー回路を形成する。
【0057】
トランジスタ341~345のそれぞれのソースは、共通に接続されるとともに、グランドに接続される。トランジスタ341のゲートおよびドレイン、トランジスタ342~345のそれぞれのゲートは、抵抗355の一端と接続されている。トランジスタ342~345のドレインは、スイッチ351~354と接続されている。抵抗355の他端は、電源電圧VDDに接続されている。
【0058】
トランジスタ341のドレインに接続された抵抗355には、その抵抗値に応じた電流が流れる。スイッチ351~354の少なくともいずれかがONになると、ONになったスイッチのそれぞれには、抵抗355に流れる電流に等しい大きさの電流が流れる。スイッチ351~354に流れる電流は、シンク回路340からスイッチ360を介して、スケーリングキャパシタ260から吸い込まれる。したがって、スイッチ351~354を制御することにより、シンク回路340は、Y×I1(Y:正の整数)の電流を吸い込むことができる。電流がシンク回路340に吸い込まれることに応じて、スケーリングキャパシタ260を介して、出力線240に電流信号が伝達される。
【0059】
以上のように、本実施形態に係る電流源30によれば、ソース回路320およびシンク回路340の動作により、スケーリングキャパシタ110に所望の大きさの電流を吐き出したり、スケーリングキャパシタ110から所望の大きさの電流を吸い込んだりできる。この結果、電流源30は、スケーリングキャパシタ110を介して、出力線140に所望も大きさの電流信号を伝達できる。
【0060】
また、電流信号の波形は、スイッチ331~334および351~354のON-OFFを制御することにより調整され得る。さらに、電流源30が電流信号を出力するタイミングおよび期間は、スイッチ331~334および351~354のON-OFFを切り替えるタイミングおよびその状態を維持する期間を制御することにより調整され得る。
【0061】
なお、本実施形態では、ソース回路320およびシンク回路340とは別のスイッチ360を用いて電流源30による電流信号の出力を制御する例を説明したが、これに限らず、スイッチ360を用いずに、ソース回路320のスイッチ331~334およびシンク回路340のスイッチ351~354のみによって電流信号の出力を制御してもよい。
【0062】
図6は、本実施形態に係る電流源30が出力する電流信号を説明するためのタイミングチャートである。
図6には、上から順に、電流信号、第1スイッチ信号S1、第2スイッチ信号S2、第3スイッチ信号S3および第4スイッチ信号S4が示されている。第1スイッチ信号S1、第2スイッチ信号S2、第3スイッチ信号S3および第4スイッチ信号S4は、それぞれスイッチ331,332,351,342のON-OFFを制御するための信号である。ここでは、スイッチ333,334,353,354は、OFFであるものとして説明する。
【0063】
時刻t10において、第1スイッチ信号S1、第2スイッチ信号S2、第3スイッチ信号S3および第4スイッチ信号S4は、ローであり、スイッチ331,332,351,342は、OFFである。このため、電流源30は、電流信号を生成していない。
【0064】
時刻t11において、第1スイッチ信号S1がハイになると、スイッチ331がONになり、電流源30から電流信号IP1(>0)が出力される。時刻t12において、第2スイッチ信号S2がハイになると、スイッチ332がONになり、電流源30から出力される電流信号がIP1からIP2(>IP1)になる。次いで、時刻t13において第2スイッチ信号S2がローになると、スイッチ332がOFFとなり、電流源30から出力される電流信号がIP2からIP1になる。時刻t14において第1スイッチ信号S1がローになると、スイッチ331がOFFとなり、電流源30から電流信号が出力されなくなる。
【0065】
時刻t15において、第3スイッチ信号S3がハイになると、スイッチ351がONになり、電流源30から電流信号IN1(<0)が出力される。時刻t16において、第4スイッチ信号S4がハイになると、スイッチ352がONになり、電流源30から出力される電流信号がIP3からIP4(<IP3)になる。次いで、時刻t17において第4スイッチ信号S4がローになると、スイッチS352がOFFとなり、電流源30から出力される電流信号がIP4からIP3になる。さらに、時刻t18において第3スイッチ信号S3がローになると、スイッチS351がOFFとなり、電流源30から電流信号が出力されなくなる。以上のように、本実施形態に係る電流源30によれば、スイッチのON-OFFの制御に応じた波形の電流信号を生成できる。
【0066】
図7は、本実施形態に係る逐次比較型ADCの効果を説明するための図である。ここでは、
図7を参照しながら、2種類の電流信号(第1の電流信号および第2の電流信号)について説明する。
図7には、出力線240に発生する過渡応答信号380の波形(実線)および電流源30によって伝達される第1の電流信号384の波形(破線)および第2の電流信号386の波形(実線)が示されており、縦軸は信号の大きさ、横軸は時間を示している。
【0067】
まず、電流源30が第1の電流信号384を出力する例について説明する。電流源30の第1の電流信号384の波形を過渡応答信号380と同様の波形に調整し、過渡応答信号380が出力線240に発生するタイミングで出力線240に第1の電流信号384を伝達することにより、過渡応答信号380を第1の電流信号384で打ち消すことが可能となる。具体的には、セレクタ231~235および251~257が切り替わるタイミングで、電流源30が第1の電流信号384を出力することにより、過渡応答信号380を打ち消すことが可能となる。これにより、比較器4による比較動作に過渡応答信号380が影響を与えることが抑制され、より精度良く比較器4が比較動作を行い、より精度よくアナログ入力信号AINをデジタル出力信号DOUTに変換できる。
【0068】
次に、電流源30が、第1の電流信号384に代えて、第2の電流信号386を出力線240に出力する例を説明する。第2の電流信号386は、過渡応答信号380の最初の山波形382の少なくとも一部を打ち消すように、矩形のパルス信号として生成されてよい。具体的には、第2の電流信号386は、山波形382がピーク383をとる時刻t21を含む期間T21において、山波形382と正負逆の大きさAIを有し、その他の時間において、第2の電流信号386の大きさは0であってよい。
【0069】
電流源30が第2の電流信号386を出力する場合、第1の電流信号384を出力する場合ほど高速な制御が必要とされない。このため、電流源30は、より簡便な制御により、過渡応答信号380の少なくとも一部を打ち消すことができる。また、最初の山波形382は、過渡応答信号380の残りの波形よりも大きいため、山波形382の少なくとも一部を打ち消すことにより、より効果的に過渡応答信号380を打ち消すことが可能となる。
【0070】
このように、本実施形態に係る逐次比較型ADCによれば、スケーリングキャパシタ260(アイソレーションキャパシタ)を介して出力線240に電流信号362を伝達することにより、過渡応答信号380が比較器4による比較動作に影響を与えることを抑制できる。また、スケーリングキャパシタ260によってMSB側回路24と電流源30とが互いに絶縁されている。このため、電流源30が動作する際に、MSB側回路24のキャパシタ241~247に蓄積された電荷が、電流源30による動作の影響を受けることが抑制される。この結果、精度よく比較器4により比較動作を行うことが可能となる。
【0071】
また、上位側のビットに対応するキャパシタに対応するセレクタの状態が切り替わると、過渡応答信号が大きい。そこで、電流源30は、供給される基準電圧を切り替えられるキャパシタの容量値に応じて、電流信号を調節してよい。具体的には、電流源30は、スイッチングされるキャパシタに対応するビットが上位側であるほど、電流信号を大きくしてよい。これにより、電流源30が出力する電流信号の大きさを過渡応答信号の大きさに容易に合わせることが可能となる。この結果、より精度よく過渡応答信号を打ち消すことが可能となる。
【0072】
上述のように、逐次比較型ADCの変換速度を速くすると、過渡応答信号が比較器による比較動作に影響を与えやすくなる。本実施形態によれば、過渡応答信号を抑制できるため、過渡応答信号による比較動作への影響を抑制し、逐次比較型ADCの変換速度を高めることが可能となる。
【0073】
(第1変形例)
第1変形例では、逐次比較型ADCが備えるDACが上記実施形態とは異なる。変形例1の他の構成および動作は、上記実施形態と同様である。なお、上記実施形態および変形例1の各構成は、任意に組み合わせられてもよい。
【0074】
図8は、第1変形例に係るDAC40の構成を示す回路図である。第1変形例40に係るDAC40は、LSB側回路42、MSB側回路44、スケーリングキャパシタ460、アイソレーションキャパシタ464および電流源30を備える。
【0075】
LSB側回路42、MSB側回路44およびスケーリングキャパシタ460の構成は、
図2を参照して説明したLSB側回路12、MSB側回路14およびスケーリングキャパシタ110と実質的に同一の構成を有するため、ここでは詳細を省略する。
【0076】
第1変形例では、電流源30は、アイソレーションキャパシタ464を介して、LSB側回路42の共通線420に接続されている。電流源30は、アイソレーションキャパシタ464およびスケーリングキャパシタ460を介して、MSB側回路44の出力線440に電流信号を伝達する。これにより、出力線440に発生する過渡応答信号を電流信号によって打ち消し、比較器4による比較動作の精度を向上させ、より精度よくアナログ入力信号AINをデジタル出力信号DOUTに変換できる。
【0077】
(第2変形例)
第2変形例に係る逐次比較型ADC50は、差動型であり、アナログ入力信号VIN+,VIN-を12ビットのデジタル出力信号DOUTMに変換する。なお、上記実施形態および変形例1および2の各構成は、任意に組み合わせられてもよい。
【0078】
図9は、第2変形例に係る逐次比較型ADC50の構成を示す図である。第2変形例に係る逐次比較型ADC50は、主として、DAC50、比較器60および逐次比較制御回路62を備える。
【0079】
比較器60は、DAC50から出力された正側の出力電圧VDAC+と負側の出力電圧VDAC-とを比較し、その比較結果信号SCRDを逐次比較制御回路62に出力する。逐次比較制御回路62は、比較結果信号SCRDに基づきDAC50にデジタル入力SCTDを入力する。その後、比較器60は、正側の出力電圧VDAC+と負側の出力電圧VDAC-とを逐次比較し、逐次比較制御回路62は、逐次比較の結果に応じたデジタル出力信号DOUTMを出力する。
【0080】
第2変形例に係るDAC50は、第1電流源30a、第2電流源30b、第1LSB側回路52、第1MSB側回路54、第2LSB側回路56および第2MSB側回路58を備える。
【0081】
第1LSB側回路52は、5ビットの分解能をもつラダー型の抵抗型D/A変換回路である。第1LSB側回路52は、抵抗値が[R]である9つの抵抗を備える。これらの9つの抵抗は、
図4に示した9つの抵抗221~229と同様に接続されている。これらの抵抗のうちの下位5ビットに対応する5つの抵抗のそれぞれには、セレクタ520が接続されている。セレクタ520は、逐次比較制御回路62からのデジタル入力に基づいて、正側のアナログ入力信号V
IN+、上側の基準電圧V
REFTまたは下側の基準電圧V
REFBを抵抗に供給するように構成されている。
【0082】
第1MSB側回路54は、7ビットの分解能をもつ容量型D/A変換回路である。第1MSB側回路54は、上位7ビットに対応する7つのキャパシタを備え、それぞれのキャパシタは、それぞれ[1C]、[2C]、[4C]、[8C]、[16C]、[32C]および[64C]の容量値を有する。これらのキャパシタは、一端が出力線550にそれぞれ接続されており、他端がセレクタ540にそれぞれ接続されている。セレクタ540は、逐次比較制御回路62からのデジタル入力に基づいて、正側のアナログ入力信号VIN+、上側の基準電圧VREFTまたは下側の基準電圧VREFBをキャパシタに供給するように構成されている。
【0083】
第1スケーリングキャパシタ530は、[1C]の容量値を有し、第1LSB側回路52と第1MSB側回路54との間において、第1LSB側回路52および第1MSB側回路54に直列に接続されている。具体的には、第1スケーリングキャパシタ530は、一端が第1LSB側回路52の出力線522に接続されており、他端が第1MSB側回路54の出力線550に接続されている。出力線550は、正側の出力電圧VDAC+を比較器60に出力する。
【0084】
第1電流源30aは、第1スケーリングキャパシタ530を介して第1MSB側回路54の出力線550に電流信号を伝達するように配置されている。具体的には、第1電流源30aは、第1スケーリングキャパシタ530の一端に接続されている。
【0085】
第1電流源30aは、逐次比較制御回路62によるDAC50へのデジタル入力の入力と同期して、第1スケーリングキャパシタ530を介して第1MSB側回路54の出力線550に電流信号を出力する。これにより、DAC50におけるスイッチング動作により出力線550に発生する過渡応答信号を、第1電流源30aの電流信号によって打ち消すことが可能となる。
【0086】
第2LSB側回路56は、抵抗に接続されたセレクタ560が正側のアナログ入力信号VIN+の代わりに負側のアナログ入力信号VIN-を抵抗に供給すること以外は、実質的に第1LSB側回路52と同一の構成を有する。また、第2MSB側回路58は、キャパシタに接続されたセレクタ580が正側のアナログ入力信号VIN+の代わりに負側のアナログ入力信号VIN-を対応するキャパシタに供給すること以外は、実質的に第1MSB側回路54と同一の構成を有する。
【0087】
第2スケーリングキャパシタ570は、[1C]の容量値を有し、第2LSB側回路56と第2MSB側回路58との間において、第2LSB側回路56および第2MSB側回路58に直列に接続されている。具体的には、第2スケーリングキャパシタ570は、一端が第2LSB側回路56の出力線562に接続されており、他端が第2MSB側回路58の出力線590に接続されている。出力線590は、負側の出力電圧VDAC-を比較器60に出力する。
【0088】
第2電流源30bは、第2スケーリングキャパシタ570を介して第2MSB側回路58の出力線590に電流信号を伝達するように配置されている。具体的には、第2電流源30bは、第2スケーリングキャパシタ570の一端に接続されている。
【0089】
第2電流源30bは、逐次比較制御回路62によるDAC50へのデジタル入力SCTDの入力と同期して、第2スケーリングキャパシタ570を介して第2MSB側回路58の出力線590に電流信号を出力する。これにより、DAC50におけるスイッチング動作により出力線590に発生する過渡応答信号を、第2電流源30bの電流信号によって打ち消すことが可能となる。
【0090】
(補足)
本開示に係る実施形態について、具体的な用語を用いて説明したが、この説明は、理解を助けるための例示に過ぎず、本開示あるいは請求の範囲を限定するものではなく、本発明の範囲は、請求の範囲によって規定されるものである。また、実施形態のみでなく、ここでは説明しない実施形態、実施例、変形例も、本発明の範囲に含まれる。
【0091】
(付記)
本明細書に開示される技術は、一側面において以下のように把握できる。
【0092】
(項目1)
デジタル入力に応じたアナログの出力電圧を生成するD/Aコンバータと、
アナログ入力信号に応じた電圧を、前記D/Aコンバータの出力電圧と比較する比較器と、
前記デジタル入力を前記D/Aコンバータに入力する制御回路と、を備え、
前記D/Aコンバータは、前記比較器に接続された出力線および前記出力線にそれぞれ接続された複数のキャパシタを含む容量型D/A変換回路と、前記出力線に接続されたアイソレーションキャパシタと、電流源と、を有し、
前記電流源は、前記制御回路による前記D/Aコンバータへの前記デジタル入力の入力と同期して、前記アイソレーションキャパシタを介して前記出力線に電流信号を出力する、
逐次比較型A/Dコンバータ。
【0093】
(項目2)
前記アイソレーションキャパシタは、前記容量型D/A変換回路のスケーリングキャパシタである、
項目1に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0094】
(項目3)
前記逐次比較型A/Dコンバータは、アナログ信号を(M+N)ビット(ここで、M,Nは正の整数)のデジタル信号に変換し、
前記D/Aコンバータは、前記アイソレーションキャパシタを介して前記容量型D/A変換回路に接続された抵抗型D/A変換回路をさらに有し、
前記抵抗型D/A変換回路は、下位側のMビットに対応する信号を前記出力線に出力し、
前記容量型D/A変換回路は、上位側のNビットに対応する信号を前記出力線に出力する、
項目1または2に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0095】
(項目4)
前記逐次比較型A/Dコンバータは、アナログ信号を(M+N)ビット(ここで、M,Nは正の整数)のデジタル信号に変換し、
前記D/Aコンバータは、前記容量型D/A変換回路を第1の容量型D/A変換回路とするとき、前記アイソレーションキャパシタを介して前記第1の容量型D/A変換回路に接続された、第2の容量型D/A変換回路をさらに有し、
前記第1の容量型D/A変換回路は、上位側のMビットに対応する信号を前記出力線に出力し、
前記第2の容量型D/A変換回路は、下位側のNビットに対応する信号を前記出力線に出力する、
項目1または2に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0096】
(項目5)
前記電流源は、前記電流信号の波形を調整できるように構成されている、
項目1から4のいずれかに記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0097】
(項目6)
前記電流源は、電流を吐き出すソース回路および電流を吸い込むシンク回路を有し、
前記ソース回路は、Pチャネル型のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)で構成された第1のトランジスタと、Pチャネル型のMOSFETで構成された複数の第2のトランジスタとを有し、
前記シンク回路は、Nチャネル型のMOSFETで構成された第3のトランジスタと、Nチャネル型のMOSFETで構成された複数の第4のトランジスタとを有し、
前記複数の第2のトランジスタのそれぞれは、前記第1のトランジスタとカレントミラー回路を形成し、
前記複数の第4のトランジスタのそれぞれは、前記第3のトランジスタとカレントミラー回路を形成する、
項目5に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【0098】
(項目7)
前記デジタル入力は、前記複数のキャパシタのそれぞれに供給される電圧を制御するための制御信号を含み、
前記電流源は、前記制御信号の変化に基づく波形を有する前記電流信号を出力する、
項目5または6に記載の逐次比較型A/Dコンバータ。
【符号の説明】
【0099】
1 逐次比較型ADC、4 比較器、6 逐次比較制御回路、12,22 LSB側回路、14,24 MSB側回路、110,260 スケーリングキャパシタ、121~125,141~147,241~247 キャパシタ、131~135,151~157,231~235,251~257 セレクタ、140,240 出力線、221~229 抵抗、240 出力線、30 電流源、320 ソース回路、340 シンク回路、384 第1の電流信号、386 第2の電流信号。