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特開2024-43396熱交換器性能監視システム、及び、熱交換器性能監視方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043396
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】熱交換器性能監視システム、及び、熱交換器性能監視方法
(51)【国際特許分類】
   F28F 27/00 20060101AFI20240322BHJP
   F25B 49/02 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
F28F27/00 511G
F25B49/02 510F
F25B49/02 510Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148566
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】千田 将也
(72)【発明者】
【氏名】村上 洋平
(72)【発明者】
【氏名】新間 大輔
(57)【要約】
【課題】未計測のプロセス値があっても、熱交換器の性能を精度よく評価する。
【解決手段】熱交換器の性能を監視する熱交換器性能監視システム100であって、データベース(保守データベース2)に格納された情報(保守施工履歴情報)に基づいて設計情報を実プラントの状態に則した値に補正して、圧力損失量を算出するエネルギー計算部4と、エネルギー計算部によって算出された圧力損失量に基づいて、熱交換器の性能の計算に用いる参照情報の中の未計測値を推定する未計測値推定部5と、未計測値を含む参照情報に基づいて、熱交換器の性能を計算する性能計算部6と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
データベースに格納された情報に基づいて設計情報を実プラントの状態に則した値に補正して、圧力損失量を算出するエネルギー計算部と、
前記エネルギー計算部によって算出された前記圧力損失量に基づいて、熱交換器の性能の計算に用いる参照情報の中の未計測値を推定する未計測値推定部と、
前記未計測値を含む前記参照情報に基づいて、前記熱交換器の性能を計算する性能計算部と、を備える
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項2】
請求項1に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記エネルギー計算部は、保守データベースに記憶された保守施工履歴情報に基づいて、保守による配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値を推定し、前記設計情報を当該項目の値に補正する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項3】
請求項2に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記エネルギー計算部は、保守による配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値として保守施工後の配管内径を推定する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項4】
請求項3に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記保守データベースは、コーティングの保守施工履歴情報を記憶しており、
前記エネルギー計算部は、前記保守施工履歴情報に基づいて、前記保守施工後の配管内径を推定する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項5】
請求項4に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記保守データベースは、コーティングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、コーティングの被膜厚さを記憶する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項6】
請求項3に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記保守データベースは、ライニングの保守施工履歴情報を記憶しており、
前記エネルギー計算部は、前記保守施工履歴情報に基づいて、前記保守施工後の配管内径を推定する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項7】
請求項6に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記保守データベースは、ライニングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、ライニングの被膜厚さを記憶する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項8】
請求項2に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記エネルギー計算部は、保守による配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値として保守施工後の配管内壁の表面粗さを推定する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項9】
請求項8に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記保守データベースは、コーティングの保守施工履歴情報を記憶しており、
前記エネルギー計算部は、前記保守施工履歴情報に基づいて、前記保守施工後の配管内壁の表面粗さを推定する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項10】
請求項9に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記保守データベースは、コーティングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、コーティング施工壁面の管摩擦係数を記憶する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項11】
請求項8に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記保守データベースは、ライニングの保守施工履歴情報を記憶しており、
前記エネルギー計算部は、前記保守施工履歴情報に基づいて、前記保守施工後の配管内壁の表面粗さを推定する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項12】
請求項11に記載の熱交換器性能監視システムにおいて、
前記保守データベースは、ライニングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、ライニング施工壁面の管摩擦係数を記憶する
ことを特徴とする熱交換器性能監視システム。
【請求項13】
データベースに格納された情報に基づいて設計情報を実プラントの状態に則した値に補正して、圧力損失量を算出するエネルギー計算ステップと、
前記エネルギー計算ステップによって算出された前記圧力損失量に基づいて、熱交換器の性能の計算に用いる参照情報の中の未計測値を推定する未計測値推定ステップと、
前記未計測値を含む前記参照情報に基づいて、前記熱交換器の性能を計算する性能計算ステップと、を含む
ことを特徴とする熱交換器性能監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱交換器性能監視システム、及び、熱交換器性能監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
熱交換器の性能を監視する技術としては、空調用熱交換器コアの評価方法と評価装置および評価プログラムが特許文献1に記載されている。この特許文献1には、「所定の間隔をあけて並設された複数のフィンと、前記複数のフィンに接するように接合されたチューブを備え、前記複数のフィンと前記チューブの間に湿り空気を流通させて前記チューブ内の媒体と前記フィンとの間で熱交換を行う空調用熱交換器コアの性能評価方法であって、前記空調用熱交換器コアの前記フィンに沿って前記湿り空気が流れる場合の圧力損失と平均熱伝達率を求め、前記フィンの温度分布が一様な平均温度を有すると仮定し、フィン効率とフィン根元温度と外気温度から前記フィンの温度分布を求め、前記媒体と前記チューブとの熱伝達が乱流熱伝達率の関係を有すると仮定し、前記フィンを前記湿り空気の流れ方向に沿って複数に分割し、前記湿り空気の分割領域毎に差分法によって前記湿り空気の温度を求め、前記チューブを1本の直管と見立てて前記湿り空気の分割領域と同じ数に分割して前記チューブの分割領域毎に前記媒体の温度を求め、湿り空気の風速×フィン総面積×入出湿り空気温度差×比熱={(媒体の量×比熱×入出水温度差)+フィンとチューブの表面において前記湿り空気中の水が凝縮する際の潜熱}の関係式が成立すると仮定し、この関係式を解いて前記媒体の量を求め、更に空気出口温度と、水出口温度を求めることを特徴とする空調用熱交換器コアの性能評価方法。」と記載されている。
【0003】
また、熱交換器の性能を監視する技術としては、プラント制御装置、プラント監視装置および制御プログラムが特許文献2に記載されている。この特許文献2には、「冷熱や温熱を生成し、この熱の一部を熱負荷に与える熱源生成手段と、生成された熱の一部を媒体などにより移送してこの熱を蓄えて、この熱を熱負荷に与える蓄熱手段とを備えたプラントにおいて、前記プラントで計測されたプロセス信号に補正をかける補正手段と、前記補正手段からの補正プロセス信号および前記プラントで計測されたプロセス信号に基づき推定信号を出力する推定手段と、前記推定手段からの前記推定信号および前記プラントで計測されたプロセス信号に基づき操作信号を出力して制御を行う制御手段とを備えたことを特徴とするプラント制御装置。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-196130号公報
【特許文献2】特開2003-130433号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
熱交換器の性能を評価する際に、性能計算に用いる流量や圧力といったプロセス値が未計測の場合がある。その場合は、設計情報と他の計測データに基づいて未計測のプロセス値を推定し、未計測のプロセス値を用いて熱交換器の性能を評価する。しかしながら、従来の熱交換器の性能を監視する技術は、設計情報と熱交換器が使用されている実プラントの状態との間に相違がある場合に、実プラントの状態からずれた設計情報に基づいて未計測のプロセス値を推定する。そのため、未計測のプロセス値を適切に推定できず、熱交換器の性能を正確に評価できないという課題がある。設計情報と実プラントの状態との間に相違が生じる理由としては、設計情報とは異なる状態で実プラントが建設された場合、経年劣化により建設当初の状態から実プラントの状態が変化した場合、保守の施工によって実プラントの状態が変化した場合等がある。
【0006】
本発明は、前記した課題を解決するためになされたものであり、未計測のプロセス値があっても、熱交換器の性能を精度よく評価する熱交換器性能監視システム、及び、熱交換器性能監視方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するため、本発明は、熱交換器性能監視システムであって、データベースに格納された情報に基づいて設計情報を実プラントの状態に則した値に補正して、圧力損失量を算出するエネルギー計算部と、前記エネルギー計算部によって算出された前記圧力損失量に基づいて、熱交換器の性能の計算に用いる参照情報の中の未計測値を推定する未計測値推定部と、前記未計測値を含む前記参照情報に基づいて、前記熱交換器の性能を計算する性能計算部と、を備える構成とする。
その他の手段は、後記する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、未計測のプロセス値があっても、熱交換器の性能を精度よく評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施形態に係る熱交換器性能監視システムのブロック図である。
図2】実施形態に係る熱交換器性能監視システムのエネルギー計算部の動作を示すフローチャートである。
図3】実施形態に係る熱交換器性能監視システムの未計測値推定部の動作を示すフローチャートである。
図4】実施形態に係る熱交換器性能監視システムの性能計算部の動作を示すフローチャートである。
図5】実施形態に係る熱交換器性能監視システムの効果の説明図である。
図6】実施形態に係る熱交換器性能監視システムを原子力発電プラントのグランド蒸気発生器(熱交換器)の性能監視に用いる場合の説明図である。
図7】実施形態に係る熱交換器性能監視システムを原子力発電プラントのグランド蒸気発生器(熱交換器)の性能監視に用いる場合のエネルギー計算部の動作を示すフローチャートである。
図8】実施形態に係る熱交換器性能監視システムを原子力発電プラントのグランド蒸気発生器(熱交換器)の性能監視に用いる場合の未計測値推定部の動作を示すフローチャートである。
図9】実施形態に係る熱交換器性能監視システムを原子力発電プラントのグランド蒸気発生器(熱交換器)の性能監視に用いる場合の性能計算部の動作を示すフローチャートである。
図10】実施形態に係る熱交換器性能監視システムを原子力発電プラントのグランド蒸気発生器(熱交換器)の性能監視に用いる場合の効果の説明図である。
図11】実施形態に係る熱交換器性能監視システムを原子力発電プラントのグランド蒸気発生器(熱交換器)の性能監視に用いる場合のエネルギー計算部の別の動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」と称する)について詳細に説明する。なお、各図は、本発明を十分に理解できる程度に、概略的に示しているに過ぎない。よって、本発明は、図示例のみに限定されるものではない。また、各図において、共通する構成要素や同様な構成要素については、同一の符号を付し、それらの重複する説明を省略する。
【0011】
<熱交換器性能監視システムの構成>
本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、原子力発電プラントや火力発電プラント、化学プラント等に備え付けられている熱交換器を対象に、保守施工等の影響により、設計情報と実プラントの状態との間に相違が生じている場合であっても、熱交換器の性能を精度よく評価するシステムである。
【0012】
以下、図1を参照して、本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100の構成について説明する。図1は、本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100のブロック図である。
【0013】
図1に示すように、熱交換器性能監視システム100は、運転データベース1(以下、「データベース」を「DB」と称する場合がある)、保守データベース2、設計データベース3、エネルギー計算部4、未計測値推定部5、性能計算部6、表示部7を備えている。
【0014】
運転データベース1は、プラントに搭載された計器によって計測された、熱交換器の性能計算に用いるプロセス値が格納されるデータベースである。プロセス値は、例えば流量や圧力、温度等の情報がある。プロセス値は、リアルタイムで常時計測され、運転データベース1に逐一保存されている。
【0015】
保守データベース2は、保守施工履歴情報が格納されるデータベースである。保守施工履歴情報とは、保守を施工した日時、施工した箇所、保守の種類、保守施工後の状態等の情報がある。
【0016】
設計データベース3は、プラントの配管や機器の設計情報(構造情報を含む)が格納されたデータベースである。設計情報としては、配管の内径や長さ、管摩擦係数等の情報がある。構造情報としては、配管の接続分岐情報等がある。
【0017】
エネルギー計算部4は、各プラント機器のエネルギーを計算する演算手段である。エネルギー計算部4は、保守施工等の影響により設計情報とは相違している実プラントの状態を考慮して、各プラント機器のエネルギーを計算することができる。
未計測値推定部5は、エネルギー保存則に基づいて未計測値を推定する演算手段である。
【0018】
性能計算部6は、計測されたプロセス値と推定したプロセス値を用いて熱交換器の性能を評価(計算)する演算手段である。
表示部7は、熱交換器の性能の計算結果を表示する構成要素である。
【0019】
<熱交換器性能監視システムの動作>
本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、特に、エネルギー計算部4がデータベースに格納された情報(本実施形態では、保守データベース2に格納された保守施工履歴情報)に基づいて設計情報を実プラントの状態に則した値に補正して、圧力損失量を算出すること(図2参照)を大きな特徴にしている。
【0020】
以下、図2から図4を参照して、熱交換器性能監視システム100の動作について説明する。図2から図4は、それぞれ、エネルギー計算部4の動作、未計測値推定部5の動作、性能計算部6の動作を示すフローチャートである。ここでは、保守施工の影響により実プラントの状態が設計情報と相違している場合を想定して説明する。ただし、実プラントの状態が設計情報と相違する場合の要因としては、保守施工以外に、設計情報とは異なる状態で実プラントが建設された場合、経年劣化により建設当初の状態から実プラントの状態が変化した場合等もある。
【0021】
図2に示すように、まず、熱交換器性能監視システム100は、エネルギー計算部4で、保守施工による配管の内側の状態の変化を考慮して、各プラント機器のエネルギーを計算する。その際に、まず、エネルギー計算部4は、保守データベース2から、保守を施工した箇所、保守の種類、保守の施工内容等の保守施工履歴情報を取得する(ステップS105)。
【0022】
次に、エネルギー計算部4は、設計データベース3から、設計情報を取得する(ステップS110)。
【0023】
次に、エネルギー計算部4は、保守施工履歴情報に基づいて、保守の影響によって変化した保守施工後の配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値を推定し、設計情報と相違がある場合には、設計情報を補正する(ステップS115)。
【0024】
次に、エネルギー計算部4は、運転データベース1から各計器で計測したプロセス値等の参照情報を取得する(ステップS120)。
【0025】
次に、エネルギー計算部4は、ステップS110で設計データベース3から取得した設計情報と、ステップS115で補正した設計情報と、ステップS120で取得したプロセス値等の参照情報とに基づいて、各プラント機器における速度水頭(流速水頭)、圧力水頭、位置水頭、圧力損失量を計算する(ステップS125)。この時、ステップS115で補正した設計情報は保守施工による配管の内側の状況の変化を考慮して補正したものになっているため、ステップS125で計算される圧力損失量も保守施工の影響を考慮したものになる。
【0026】
図3に示すように、図2に示すステップS125の後、熱交換器性能監視システム100は、未計測値推定部5で、熱交換器の性能計算に用いる未計測のプロセス値を推定する。その際に、まず、未計測値推定部5は、設計データベース3から、配管の接続分岐情報を取得する(ステップS205)。
【0027】
次に、未計測値推定部5は、エネルギー計算部4から、各プラント機器における速度水頭(流速水頭)、圧力水頭、位置水頭、圧力損失量を取得する(ステップS210)。
【0028】
次に、未計測値推定部5は、配管の分岐接続情報に基づいて、速度水頭、圧力水頭、位置水頭、圧力損失量を用いたエネルギー保存則を立式する(ステップS215)。
【0029】
次に、未計測値推定部5は、前記したエネルギー保存則を求解し、熱交換器の性能計算に用いる未計測のプロセス値を推定する(ステップS220)。
【0030】
図4に示すように、図3に示すステップS220の後、熱交換器性能監視システム100は、性能計算部6で、熱交換器の性能を計算する。その際に、まず、性能計算部6は、運転データベース1から各計器で計測したプロセス値等の参照情報を取得する(ステップS305)。すなわち、性能計算部6は、熱交換器の性能計算に用いるプロセス値の中で既に計測されているものを、運転データベース1から取得する。
【0031】
次に、性能計算部6は、未計測値推定部5から、推定した未計測のプロセス値を取得する(ステップS310)。
【0032】
次に、性能計算部6は、熱交換器の性能を計算するための性能モデルを作成する(ステップS315)。性能指標としては、熱交換器の熱エネルギーの移動量を表す熱交換量[W]や、高温側流体と低温側流体の温度をどれほど変化できるかという温度効率等を設定することができる。
【0033】
次に、性能計算部6は、ステップS315で作成した熱交換器の性能モデルに対し、計測されたプロセス値(計測値)と推定された未計測のプロセス値(推定値)を入力して、熱交換器の性能を計算(推定)する(ステップS320)。
【0034】
この後、熱交換器性能監視システム100は、性能計算部6において計算(推定)した熱交換器の性能を表示部7に表示する。なお、熱交換器性能監視システム100は、性能計算部6において運転状態別の熱交換器の性能を計算し、計算(推定)した運転状態別の熱交換器の性能を表示部7に表示するようにしてもよい。
【0035】
このような熱交換器性能監視システム100は、設計情報と熱交換器が使用されている実プラントの状態との間に相違がある場合であっても、設計情報を実プラントの状態に則した値に補正して、熱交換器の性能を評価(計算)する。つまり、熱交換器性能監視システム100は、未計測のプロセス値を推定する際に用いる設計情報を、保守施工により状態が変化した実プラントの状態に即した値に補正して、熱交換器の性能を評価(計算)する。このような熱交換器性能監視システム100は、未計測のプロセス値があっても、熱交換器の性能を精度よく評価することができる。
【0036】
図5は、熱交換器性能監視システム100の効果の説明図である。図5は、保守施工未考慮の場合の熱交換量の変化を線50とし、保守施工考慮の場合の熱交換量の変化を線51として、熱交換器の性能の変化を時系列に示している。熱交換器性能監視システム100は、図5に示すグラフ画像を表示部7に表示することができる。保守施工考慮の場合の線51は、保守施工未考慮の場合の線50よりも熱交換器の性能を精度よく評価している。図5に示す例では、保守施工未考慮の場合の線50は、現在時刻53において、定格出力運転時の熱交換量の目標値52を下回っている。そのため、プラントの保守員は、保守施工未考慮の場合の線50を見ることで、熱交換器のメンテナンスが必要であると判断する。一方、保守施工考慮の場合の線51は、現在時刻53において、定格出力運転時の熱交換量の目標値52を上回っている。そのため、プラントの保守員は、保守施工考慮の場合の線51を見ることで、熱交換器のメンテナンスが不要であると判断することができる。つまり、プラントの保守員は、保守施工未考慮の場合の線50により熱交換器のメンテナンスが必要であると誤判定される場合であっても、保守施工未考慮の場合の線50により熱交換器のメンテナンスが不要であると判断することができる。したがって、本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100により、熱交換器の性能を精度よく評価でき、熱交換器の保守すべき時期を適切に把握できる。
【0037】
また、本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100により、未計測値推定部5において、未計測のプロセス値を推定することができるため、プロセス値を計測するための新たな計器を搭載することなく、熱交換器の性能を監視することができる。
【0038】
さらに、従来技術では、計器が未搭載のため、一部のプロセス値を計測できずに、熱交換器の性能を監視できなかった既設のプラントにおいて、本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100により、熱交換器の性能を監視することができる。
【0039】
<熱交換器性能監視システムの適用例>
以下、図6を参照して、熱交換器性能監視システム100を原子力発電プラント200に設置されている熱交換器の1つであるグランド蒸気発生器8の性能監視に用いる場合の適用例について説明する。図6は、熱交換器性能監視システム100を原子力発電プラント200のグランド蒸気発生器8(熱交換器)の性能監視に用いる場合の説明図である。
【0040】
図6に示す例では、原子力発電プラント200は、グランド蒸気発生器8(熱交換器)、高圧タービン9、給水加熱器10の3つのプラント機器を備えている。
【0041】
グランド蒸気発生器8(熱交換器)には、高圧タービン9からの主蒸気が流入している。主蒸気は、グランド蒸気発生器8内を通過後、給水加熱器10に流入している。グランド蒸気発生器8には、グランド蒸気発生器流量計11が備え付けられている。また、高圧タービン9には、高圧タービン圧力計12と高圧タービン流量計13が備え付けられている。また、給水加熱器10には、給水加熱器圧力計14と給水加熱器流量計15が備え付けられている。ここでは、熱交換器であるグランド蒸気発生器8の性能の計算を行うために、計器が未搭載であり、かつ、プロセス値が未計測であるグランド蒸気発生器8の圧力を、保守施工を考慮して推定するものとして説明する。
【0042】
原子力発電プラント200では、耐放射線性、汚染除去性、耐熱水性等の機能を有する塗料が、配管やその他にコーティングされる。また、原子力発電プラント200は、冷却水として海水を使用する。この海水を各設備の冷却器に循環させるための配管には、海水に対する防食を目的として配管内面にゴムやポリエチレン(PE)等の高分子材料がライニング(内張り)される。
【0043】
ここでは、保守データベース2がコーティングの保守施工履歴情報を記憶しており、エネルギー計算部4が保守施工履歴情報に基づいて保守施工後の配管内径を推定する場合を想定して説明する。この場合に、保守データベース2は、コーティングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、コーティングの被膜厚さを記憶するとよい。
【0044】
ただし、保守データベース2がライニングの保守施工履歴情報を記憶しており、エネルギー計算部4が保守施工履歴情報に基づいて保守施工後の配管内径を推定するようにしてもよい。この場合に、保守データベース2は、ライニングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、ライニングの被膜厚さを記憶するとよい。
【0045】
以下、図7から図9を参照して、熱交換器性能監視システム100を原子力発電プラント200のグランド蒸気発生器8(熱交換器)に適用した場合の動作について説明する。図7から図9は、それぞれ、熱交換器性能監視システム100を原子力発電プラント200のグランド蒸気発生器8(熱交換器)の性能監視に用いる場合のエネルギー計算部4の動作、未計測値推定部5の動作、性能計算部6の動作を示すフローチャートである。ここでは、保守施工後の配管内径が設計情報から相違しており、保守施工後の配管内径を、保守施工後の配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値として取り扱う場合の動作例について説明する。なお、ここでは、図6のグランド蒸気発生器8(熱交換器)と給水加熱器10を接続する配管に対して、前記したコーティングを施工することで、又は、前記したライニングを施工することで、配管内側の状態として配管内径が設計情報から被膜厚さΔdだけ増加しているものとして説明する。
【0046】
図7に示すように、まず、熱交換器性能監視システム100は、エネルギー計算部4で、保守施工による配管の内側の状態の変化を考慮して、各プラント機器のエネルギーを計算する。その際に、まず、エネルギー計算部4は、保守データベース2から、保守を施工した箇所、保守の種類、保守の施工内容等の保守施工履歴情報を取得する(ステップS605)。
【0047】
次に、エネルギー計算部4は、設計データベース3から、設計情報として、設計時の配管内径d、配管長さL、配管高さh、配管の管摩擦係数λを取得する(ステップS610)。
【0048】
次に、エネルギー計算部4は、保守施工履歴情報と設計時の配管内径dに基づいて、保守の影響によって変化した保守施工後の配管内径daを推定し、設計情報と相違がある場合には、設計情報を補正する(ステップS615)。本実施形態では、ライニング施工によって配管内径が変化したことを考慮するために、エネルギー計算部4は、被膜厚さΔdを用いて、設計時の配管内径dを以下の式(1)の通り補正する。
【数1】

【0049】
次に、エネルギー計算部4は、運転データベース1から各計器で計測したプロセス値等の参照情報を取得する(ステップS620)。本実施形態では、グランド蒸気発生器流量計11で計測している流量G、高圧タービン圧力計12で計測している圧力p、高圧タービン流量計13で計測している流量G、給水加熱器圧力計14で計測している圧力p、給水加熱器流量計15で計測している流量Gを取得する。
【0050】
次に、エネルギー計算部4は、ステップS610で設計データベース3から取得した設計情報(配管長さL、配管高さh、配管の管摩擦係数λ)と、ステップS615で補正した保守施工後の配管内径daと、ステップS620で運転データベース1から取得したプロセス値等の参照情報とを用いて、各プラント機器における速度水頭(流速水頭)、圧力水頭、位置水頭、圧力損失量を計算する(ステップS625)。この時、ステップS615で補正した設計情報である保守施工後の配管内径daは保守施工による配管内径への影響を考慮して補正したものになっているため、ステップS625で計算される圧力損失量も保守施工の影響を考慮したものになる。本実施形態では、エネルギー計算部4は、高圧タービン9の速度水頭Hv1、圧力水頭Hp1、位置水頭Hz1、グランド蒸気発生器8(熱交換器)の速度水頭Hv2、位置水頭Hz2、圧力損失量ΔH12、給水加熱器10の速度水頭Hv3、圧力水頭Hp3、位置水頭Hz3、圧力損失量ΔH23を計算する。各水頭および圧力損失量は以下の式(2)から式(5)の通り求めることができる。なお、式(3)の「ρ」は「流体密度」を表しており、「g」は「重力加速度」を表している(以下同様)。
【数2】


【数3】


【数4】


【数5】

【0051】
ここで、グランド蒸気発生器8(熱交換器)における圧力水頭Hp2は、グランド蒸気発生器8の圧力pが未計測であるため、計算しない。これは、未計測値推定部5において、グランド蒸気発生器8のエネルギーが求まることにより、グランド蒸気発生器8の圧力pが推定されることになる。
【0052】
図8に示すように、図7に示すステップS625の後、熱交換器性能監視システム100は、未計測値推定部5で、熱交換器の性能計算に用いる未計測のプロセス値を推定する。その際に、まず、未計測値推定部5は、設計データベース3から、配管の接続分岐情報を取得する(ステップS705)。本実施形態では、未計測値推定部5は、高圧タービン9からグランド蒸気発生器8に流れる配管、グランド蒸気発生器8から給水加熱器10に流れる配管がある情報を取得する。
【0053】
次に、未計測値推定部5は、エネルギー計算部4から、各プラント機器における速度水頭(流速水頭)、圧力水頭、位置水頭、圧力損失量を取得する(ステップS710)。本実施形態では、未計測値推定部5は、高圧タービン9の速度水頭Hv1、圧力水頭Hp1、位置水頭Hz1、グランド蒸気発生器8(熱交換器)の速度水頭Hv2、位置水頭Hz2、圧力損失量ΔH12、給水加熱器10の速度水頭Hv3、圧力水頭Hp3、位置水頭Hz3、圧力損失量ΔH23を取得する。
【0054】
次に、未計測値推定部5は、配管の分岐接続情報に基づいて、エネルギー保存則を立式する(ステップS715)。エネルギー保存則の立式は、速度水頭、圧力水頭、位置水頭、圧力損失量を用いて各プラント機器のエネルギーを算出する。本実施形態では、未計測値推定部5は、高圧タービンのエネルギーE、グランド蒸気発生器のエネルギーE、給水加熱器のエネルギーEを、以下の式(6)から式(8)の通り算出する。
【数6】


【数7】


【数8】

【0055】
次に、未計測値推定部5は、式(6)から式(8)のエネルギーを用いて、以下の式(9)から式(11)のエネルギー保存則を立式する。
【数9】


【数10】


【数11】

【0056】
次に、未計測値推定部5は、ステップS715で立式したエネルギー保存則をデータリコンシリエーションの制約に組み込む(ステップS720)。データリコンシリエーションは、重み付き最小二乗法によって変数の最良値を推定する技術である。データリコンシリエーションについては、例えば、"Module: Introduction to Data Reconciliation Program for North American Mobility in Higher Education Introducing Process Integration for Environmental Control in Engineering Curricula"(URL:https://vdocuments.net/module-introduction-to-data-reconciliation.html?page=1)(以下、「文献1」と称する)で詳述されている。文献1では、質量保存則を立式しているが、本実施形態では、エネルギー保存則を立式し、立式したエネルギー保存則をデータリコンシリエーションの制約に組み込み、これにより、後記する式(16)と式(17)を導出するものとして説明する。
【0057】
データリコンシリエーションでは、重み付き最小二乗法の目的関数を以下の式(12)として示す。なお、以下の式(12)の「J」は目的関数を表しており、「y(ワイ)」は計測値の変数を表しており、「yの上に記号^を付したもの(ワイハット)」は計測値の真値を表しており、「z(ゼット)」は未計測値お変数を表しており、「zの上に記号^を付したもの(ゼットハット)」は未計測値の真値を表している(以下同様)。また「T」は行列の天地を表しており、「V」は分散共分散行列を表している(以下同様)。
【数12】

【0058】
重み付き最小二乗法を解く際には、以下の式(13)の通り制約条件を課し、その制約下で式(12)の値が最小となるような変数を求解する。ここで、yは計測値の変数、zは未計測値の変数であり、A、Aはそれぞれエネルギー保存則の制約条件を満足するための接続行列である。ここで、エネルギー保存則の制約が式(9)と式(10)と式(11)で表され、以下の式(13)はエネルギー保存則の制約条件を満足するための接続行列を表している。
【数13】

【0059】
本実施形態では、未計測値推定部5は、制約条件として式(9)と式(10)のエネルギー保存則を定め、その制約を満足するようなグランド蒸気発生器のエネルギーEを推定(計算)する。式(13)におけるy、zは、以下の式(14)と式(15)の通りとなる。ここで、以下の式(14)と式(15)のy、zは、式(13)に代入可能になっている。
【数14】


【数15】

【0060】
また、エネルギー保存則の制約条件を満足するための接続行列は、それぞれ以下の式(16)と式(17)の通りである。
【数16】


【数17】

【0061】
ここで、前記した通り、式(12)中の「V」は分散共分散行列を表している。分散共分散行列Vの対角成分には、計測値の不確かさが組み込まれている。本実施形態では、以下の式(18)の通り、図6に示す高圧タービン9および給水加熱器10の各計測値の不確かさを合成したV、Vを対角成分に組み入れる。
【数18】


次に、未計測値推定部5は、エネルギー保存則を制約とした状態推定手法(本実施形態では、データリコンシリエーション)を解いて、熱交換器(グランド蒸気発生器8)の性能計算に用いる未計測のプロセス値を推定する(ステップS725)。本実施形態では、未計測値推定部5は、データリコンシリエーションによってグランド蒸気発生器8のエネルギーEが求まる。このエネルギーEの値を用いることで、以下の式(19)の通り、グランド蒸気発生器8の未計測値である圧力pを推定することができる。
【数19】

【0062】
図9に示すように、図8に示すステップS725の後、熱交換器性能監視システム100は、性能計算部6で、熱交換器(グランド蒸気発生器8)の性能を計算する。その際に、まず、性能計算部6は、運転データベース1から各計器で計測したプロセス値等の参照情報を取得する(ステップS805)。すなわち、性能計算部6は、熱交換器の性能計算に用いるプロセス値の中で既に計測されているものを、運転データベース1から取得する。
【0063】
次に、性能計算部6は、未計測値推定部5から、推定した未計測のプロセス値を取得する(ステップS810)。
【0064】
次に、性能計算部6は、熱交換器の性能を計算するための性能モデルを作成する(ステップS815)。本実施形態では、性能計算部6は、熱交換器であるグランド蒸気発生器8を対象に、性能指標として熱交換量Qを計算する。熱交換量Qは、以下の式(20)の通り定義される。「K」は総括伝熱係数[W/mK]を表しており、「ΔTlm」は対数平均温度差[K]を表しており、「A」は伝熱面積[m]を表している。総括伝熱係数Kや対数平均温度差ΔTlmは、熱交換器の型に応じて適した実験式や理論式により選択される。
【数20】

【0065】
次に、性能計算部6は、ステップS815で作成した熱交換器の性能モデルに対し、計測されたプロセス値(計測値)と推定された未計測のプロセス値(推定値)を入力して、熱交換器の性能を計算(推定)する(ステップS820)。
【0066】
この後、熱交換器性能監視システム100は、性能計算部6において計算(推定)した熱交換器の性能を表示部7に表示する。
【0067】
図10は、熱交換器性能監視システム100を原子力発電プラント200のグランド蒸気発生器8(熱交換器)の性能監視に用いる場合の効果の説明図である。図10は、保守施工考慮の場合の熱交換量の変化を線61とし、定格出力運転時におけるグランド蒸気発生器8(熱交換器)の性能の変化を時系列に示している。熱交換器性能監視システム100は、図10に示すグラフ画像を表示部7に表示することができる。図10に示す例では、保守施工考慮の場合の線61は、現在時刻63において、定格出力運転時の熱交換量の目標値62を上回っている。そのため、プラントの保守員は、保守施工考慮の場合の線61を見ることで、熱交換器のメンテナンスが不要であると判断することができる。このように、熱交換器性能監視システム100は、定格出力運転時におけるグランド蒸気発生器8(熱交換器)の熱交換量を表示部7に表示する。これにより、任意の運転状態におけるグランド蒸気発生器8(熱交換器)の性能監視をリアルタイムで行うことができる。したがって、熱交換器の性能を精度よく評価でき、熱交換器の保守すべき時期を適切に把握できる。
【0068】
<別の動作例>
図7から図9に示す動作例では、保守施工後の配管内径が設計情報から相違しており、保守施工後の配管内径を、保守施工後の配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値として取り扱う場合の動作例となっている。これに対し、ここでは、別の動作例として、保守施工後の配管内壁の表面粗さが設計情報から相違しており、保守施工後の配管内壁の表面粗さを、保守施工後の配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値として取り扱う場合の動作例について説明する。また、ここでは、保守施工後の配管内壁の表面粗さが設計情報から相違することで、プラントの管摩擦係数も初期時から変化しているものとして説明する。
【0069】
別の動作例は、図7から図9に示す動作例と比較すると、エネルギー計算部4が図7に示すステップS610、S615、S625の処理の代わりに、図11に示すステップS610a、S615a、S625aの処理を実行する点で相違する。図11は、熱交換器性能監視システム100を原子力発電プラント200のグランド蒸気発生器8(熱交換器)の性能監視に用いる場合のエネルギー計算部4の別の動作を示すフローチャートである。なお、エネルギー計算部4以外の未計測値推定部5と性能計算部6の動作は、図8図9に示す動作例と同じである。
【0070】
ここでは、保守データベース2がコーティングの保守施工履歴情報を記憶しており、エネルギー計算部4が保守施工履歴情報に基づいて保守施工後の配管内壁の表面粗さと管摩擦係数を推定する場合を想定して説明する。この場合に、保守データベース2は、コーティングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、コーティングの被膜厚さを記憶するとよい。
【0071】
ただし、保守データベース2がライニングの保守施工履歴情報を記憶しており、エネルギー計算部4が保守施工履歴情報に基づいて保守施工後の配管内壁の表面粗さと管摩擦係数を推定するようにしてもよい。この場合に、保守データベース2は、ライニングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、ライニングの被膜厚さを記憶するとよい。
【0072】
図11に示すように、ステップS610aにおいて、エネルギー計算部4は、設計データベース3から、設計情報として、設計時の配管内径d、配管長さL、配管高さh、配管の表面粗さR、配管の管摩擦係数λを取得する。
【0073】
次に、ステップS615aにおいて、エネルギー計算部4は、設計情報と保守施工履歴情報と設計時の配管の表面粗さRと管摩擦係数λに基づいて、保守の影響によって変化した保守施工後の配管の表面粗さRaと管摩擦係数λaを推定し、設計情報と相違がある場合には、設計情報を補正する。この動作について補足すると、まず、エネルギー計算部4は、設計情報と保守施工履歴情報と設計時の配管の表面粗さRに基づいて、保守施工後の配管の表面粗さRaを推定し、設計情報の配管の表面粗さRを保守施工後の配管の表面粗さRaに補正する。設計情報の配管の表面粗さRが保守施工後の配管の表面粗さRaに変化すると、設計時の管摩擦係数λが保守施工後の管摩擦係数λaに変化する。保守施工後の管摩擦係数λaは、保守施工後の配管の表面粗さRaと設計情報と設計時の管摩擦係数λから算出される。そこで、次に、エネルギー計算部4は、推定した保守施工後の配管の表面粗さRaと設計情報と設計時の管摩擦係数λに基づいて、保守施工後の管摩擦係数λaを推定し、設計情報の管摩擦係数λを保守施工後の管摩擦係数λaに補正する。
【0074】
この後、ステップS625aにおいて、エネルギー計算部4は、ステップS610aで設計データベース3から取得した設計情報(設計時の配管内径d、配管長さL、配管高さh、配管の表面粗さR、配管の管摩擦係数λ)と、ステップS615aで補正した保守施工後の配管の表面粗さRaと管摩擦係数λaと、ステップS620で運転データベース1から取得したプロセス値等の参照情報とを用いて、各プラント機器における速度水頭(流速水頭)、圧力水頭、位置水頭、圧力損失量を計算する。
【0075】
<熱交換器性能監視システムの主な特徴>
(1)図1に示すように、本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、エネルギー計算部4と、未計測値推定部5と、性能計算部6と、を備える。エネルギー計算部4は、データベースに格納された情報(本実施形態では、保守データベース2に格納された保守施工履歴情報)に基づいて設計情報を実プラントの状態に則した値に補正して、圧力損失量を算出する。未計測値推定部5は、エネルギー計算部4と、エネルギー計算部4によって算出された圧力損失量に基づいて、熱交換器(グランド蒸気発生器8)の性能の計算に用いる参照情報の中の未計測値を推定する。性能計算部6は、未計測値を含む参照情報に基づいて、熱交換器(グランド蒸気発生器8)の性能を計算する。
【0076】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、実プラントの状態に則した値に補正された設計情報に基づいて未計測値(未計測のプロセス値)を推定する。これにより、未計測値(未計測のプロセス値)を適切に推定できる。そのため、未計測のプロセス値があっても、熱交換器の性能を精度よく評価することができる。
【0077】
(2)図7に示すように、エネルギー計算部4は、保守データベース2に記憶された保守施工履歴情報に基づいて、保守による配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値を推定し、設計情報をその項目の値に補正する構成であるとよい。
【0078】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、設計情報を保守による配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値に補正する。これにより、保守施工後において、未計測のプロセス値があっても、熱交換器の性能を精度よく評価することができる。
【0079】
(3)図7に示すように、エネルギー計算部4は、保守による配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値として保守施工後の配管内径を推定する構成であるとよい。
【0080】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、保守施工後の配管内径が未計測のプロセス値としてあったとしても、熱交換器の性能を精度よく評価することができる。
【0081】
(4)保守データベース2がコーティングの保守施工履歴情報を記憶している場合において、図7に示すように、エネルギー計算部4は、保守施工履歴情報に基づいて、保守施工後の配管内径を推定する構成であるとよい。
【0082】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、コーティングの保守施工後において、未計測のプロセス値としての保守施工後の配管内径を推定することができる。
【0083】
(5)保守データベース2は、コーティングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、コーティングの被膜厚さを記憶するとよい。
【0084】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、コーティングの保守施工履歴情報として保守データベース2に記憶された施工日時、施工配管、コーティングの被膜厚さ等の情報を用いて、保守施工後の配管内径を推定することができる。
【0085】
(6)保守データベース2がライニングの保守施工履歴情報を記憶している場合において、図7に示すように、エネルギー計算部4は、保守施工履歴情報に基づいて、保守施工後の配管内径を推定する構成であるとよい。
【0086】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、ライニングの保守施工後において、未計測のプロセス値としての保守施工後の配管内径を推定することができる。
【0087】
(7)保守データベース2は、ライニングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、ライニングの被膜厚さを記憶するとよい。
【0088】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、ライニングの保守施工履歴情報として保守データベース2に記憶された施工日時、施工配管、ライニングの被膜厚さ等の情報を用いて、保守施工後の配管内径を推定することができる。
【0089】
(8)図11に示すように、エネルギー計算部4は、保守による配管の内側の状態変化に伴って変化した項目の値として保守施工後の配管内壁の表面粗さと管摩擦係数を推定する構成であるとよい。
【0090】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、保守施工後の配管内壁の表面粗さと管摩擦係数が未計測のプロセス値としてあったとしても、熱交換器の性能を精度よく評価することができる。
【0091】
(9)保守データベース2がコーティングの保守施工履歴情報を記憶している場合において、図11に示すように、エネルギー計算部4は、保守施工履歴情報に基づいて、保守施工後の配管内壁の表面粗さと管摩擦係数を推定する構成であるとよい。
【0092】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、コーティングの保守施工後において、未計測のプロセス値としての保守施工後の配管内壁の表面粗さと管摩擦係数を推定することができる。
【0093】
(10)保守データベース2は、コーティングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、コーティング施工壁面の管摩擦係数を記憶するとよい。
【0094】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、コーティングの保守施工履歴情報として保守データベース2に記憶された施工日時、施工配管、コーティングの被膜厚さ等の情報を用いて、保守施工後の配管内壁の表面粗さと管摩擦係数を推定することができる。
【0095】
(11)保守データベース2がライニングの保守施工履歴情報を記憶している場合において、図11に示すように、エネルギー計算部4は、保守施工履歴情報に基づいて、保守施工後の配管内壁の表面粗さと管摩擦係数を推定する構成であるとよい。
【0096】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、ライニングの保守施工後において、未計測のプロセス値としての保守施工後の配管内壁の表面粗さと管摩擦係数を推定することができる。
【0097】
(12)保守データベース2は、ライニングの保守施工履歴情報として、少なくとも施工日時、施工配管、ライニング施工壁面の管摩擦係数を記憶するとよい。
【0098】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視システム100は、ライニングの保守施工履歴情報として保守データベース2に記憶された施工日時、施工配管、ライニングの被膜厚さ等の情報を用いて、保守施工後の配管内壁の表面粗さと管摩擦係数を推定することができる。
【0099】
(13)図2から図4に示すように、本実施形態に係る熱交換器性能監視方法は、エネルギー計算ステップ(図2のステップS125)と、未計測値推定ステップ(図3のステップS220)と、性能計算ステップ(図4のステップS320)と、を含む。エネルギー計算ステップ(図2のステップS125)は、データベースに格納された情報(本実施形態では、保守データベース2に格納された保守施工履歴情報)に基づいて設計情報を実プラントの状態に則した値に補正して、圧力損失量を算出するステップである。未計測値推定ステップ(図3のステップS220)は、エネルギー計算ステップによって算出された圧力損失量に基づいて、熱交換器(グランド蒸気発生器8)の性能の計算に用いる参照情報の中の未計測値を推定するステップである。性能計算ステップ(図4のステップS320)は、未計測値を含む参照情報に基づいて、熱交換器(グランド蒸気発生器8)の性能を計算するステップである。
【0100】
このような本実施形態に係る熱交換器性能監視方法は、実プラントの状態に則した値に補正された設計情報に基づいて未計測値(未計測のプロセス値)を推定する。これにより、未計測値(未計測のプロセス値)を適切に推定できる。そのため、未計測のプロセス値があっても、熱交換器の性能を精度よく評価することができる。
【0101】
本発明は、前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は、本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、実施形態の構成の一部を他の構成に置き換えることが可能であり、また、実施形態の構成に他の構成を加えることも可能である。また、各構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0102】
また、本発明は、プラントに設置されている熱交換器だけでなく、空気調和機に搭載された熱交換器の性能監視や、冷凍サイクルに搭載された熱交換器の性能監視にも適用できる。
【符号の説明】
【0103】
1 運転データベース
2 保守データベース(データベース)
3 設計データベース
4 エネルギー計算部
5 未計測値推定部
6 性能計算部
7 表示部
8 グランド蒸気発生器(熱交換器)
9 高圧タービン
10 給水加熱器
11 グランド蒸気発生器流量計
12 高圧タービン圧力計
13 高圧タービン流量計
14 給水加熱器圧力計
15 給水加熱器流量計
100 熱交換器性能監視システム
200 原子力発電プラント
d 配管内径(設計情報)
da 配管内径(実プラントの状態に則した値)
R 表面粗さ(設計情報)
Ra 表面粗さ(実プラントの状態に則した値)
λ 管摩擦係数(設計情報)
λa 管摩擦係数(実プラントの状態に則した値)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11