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特開2024-43405とろみ度測定装置及びとろみ度測定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043405
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】とろみ度測定装置及びとろみ度測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 11/10 20060101AFI20240322BHJP
   G01N 11/00 20060101ALI20240322BHJP
   G01N 33/02 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G01N11/10
G01N11/00 C
G01N11/00 Z
G01N33/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148576
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】507148456
【氏名又は名称】学校法人 岩手医科大学
(71)【出願人】
【識別番号】511245488
【氏名又は名称】タッチエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103137
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 滋
(74)【代理人】
【識別番号】100145838
【弁理士】
【氏名又は名称】畑添 隆人
(72)【発明者】
【氏名】黒瀬 雅之
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 桂子
(72)【発明者】
【氏名】森川 和政
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 美保
(72)【発明者】
【氏名】木鋪 大樹
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 俊一
(57)【要約】
【課題】
シンプルな構成でありながら、流体の粘度と極めて強い相関性を持つ特性値を算出することを目的とする。
【解決手段】
面部を有する検出ヘッドを備え、面部に対して垂直方向に直線往復運動可能な攪拌片と、前記攪拌片の前記検出ヘッドから離間した側に位置する6軸力覚センサと、試料のとろみ度を算出するとろみ度算出手段と、からなり、前記6軸力覚センサは、前記攪拌片を、前記検出ヘッドが試料に挿入された状態で直線往復運動させた時に、前記検出ヘッドの前記面部に作用する力を6軸方向に分解して検出し、前記とろみ度算出手段は、6軸方向に分解された各力に対応する説明変数と、各説明変数についての回帰係数と、とろみ度である目的変数と、からなる重回帰式に、前記6軸力覚センサで検出された各力に基づいて得られた説明変数を入力することで、とろみ度を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
面部を有する検出ヘッドを備え、面部に対して垂直方向に直線往復運動可能な攪拌片と、
前記攪拌片の前記検出ヘッドから離間した側に位置する6軸力覚センサと、
試料のとろみ度を算出するとろみ度算出手段と、
からなり、
前記6軸力覚センサは、前記攪拌片を、前記検出ヘッドが試料に挿入された状態で直線往復運動させた時に、前記検出ヘッドの前記面部に作用する力を6軸方向に分解して検出し、
前記とろみ度算出手段は、6軸方向に分解された各力に対応する説明変数と、各説明変数についての回帰係数と、とろみ度である目的変数と、からなる重回帰式に、前記6軸力覚センサで検出された各力に基づいて得られた説明変数を入力することで、とろみ度を算出する、
とろみ度測定装置。
【請求項2】
前記6軸方向に分解された各力は出力波形として得られ、前記出力波形は、検出ヘッドが試料中で第1の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のピーク値と、検出ヘッドが試料中で第2の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のボトム値と、を備えており、
前記説明変数は、前記複数のピーク値の代表値と前記複数のボトム値の代表値の差分である、
請求項1に記載のとろみ度測定装置。
【請求項3】
前記説明変数は、出力波形の最小値と最大値の差分である、
請求項1に記載のとろみ度測定装置。
【請求項4】
前記攪拌片は、垂直姿勢で下端の前記検出ヘッドが試料に挿入された状態で水平方向に往復運動可能であり、
前記検出ヘッドの面部に作用した力が、前記攪拌片の上端を介して前記6軸力覚センサに作用するようになっている、
請求項1に記載のとろみ度測定装置。
【請求項5】
アクチュエータによって水平方向に往復運動可能な可動部を備え、
前記可動部には、前記6軸力覚センサが設けてあり、
前記攪拌片の上端部位が前記6軸力覚センサに固定されており、
前記6軸力覚センサと前記攪拌片は一体で水平方向に往復運動可能である、
請求項4に記載のとろみ度測定装置。
【請求項6】
少なくとも前記検出ヘッドを囲むように周壁要素が設けてあり、
前記周壁要素の下端は、前記検出ヘッドの下端よりも下方に位置しており、
前記検出ヘッドは、前記周壁要素の内部空間で往復運動するようになっている、
請求項4、5いずれか1項に記載のとろみ度測定装置。
【請求項7】
前記周壁要素の内面は対向状の垂直面を備えており、
前記検出ヘッドの左右の側端面は、前記垂直面に近接した状態で往復運動するようになっている、
請求項6に記載のとろみ度測定装置。
【請求項8】
前記とろみ度測定装置は、メモリと、プロセッサと、表示部と、を備えており、
前記メモリには、前記重回帰式と、とろみ度を粘度に変換する変換式と、変換された粘度に基づいてとろみを分類するとろみ分類テーブルと、が格納されており、
前記プロセッサは、前記とろみ度算出手段と、前記粘度と前記とろみ分類テーブルを用いてとろみを分類するとろみ判別手段と、を構成しており、
前記表示部には、少なくとも、とろみ判別結果が表示される、
請求項1に記載のとろみ度測定装置。
【請求項9】
面部を有する検出ヘッドを備えた攪拌片を、面部を試料に挿入した状態で、面部に対して垂直方向に直線往復運動させた時に、前記検出ヘッドの前記面部に作用する力を6軸力覚センサによって6軸方向に分解して検出し、
6軸方向に分解された各力に対応する説明変数と、各説明変数についての回帰係数と、とろみ度である目的変数と、からなる重回帰式に、前記6軸力覚センサで検出された各力に基づいて得られた説明変数を入力することで、試料のとろみ度を算出する、
とろみ度測定方法。
【請求項10】
前記6軸方向に分解された各力は出力波形として得られ、前記出力波形は、検出ヘッドが試料中で第1の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のピーク値と、検出ヘッドが試料中で第2の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のボトム値と、を備えており、
前記説明変数は、前記複数のピーク値の代表値と前記複数のボトム値の代表値の差分である、
請求項9に記載のとろみ度測定方法。
【請求項11】
前記説明変数は、出力波形の最小値と最大値の差分である、
請求項9に記載のとろみ度測定方法。
【請求項12】
前記攪拌片は垂直姿勢で下端の検出ヘッドが試料に挿入され、
少なくとも前記検出ヘッドを囲むように周壁要素が設けてあり、
前記周壁要素の下端は、前記検出ヘッドの下端よりも下方に位置しており、
前記周壁要素の下端を、試料を収容する容器の底面に当接させた状態で、前記検出ヘッドを前記周壁要素の内部空間で水平方向に往復運動させる、
請求項10、11いずれか1項に記載のとろみ度測定方法。
【請求項13】
面部を有する検出ヘッドを備えた攪拌片を、面部を試料に挿入した状態で、面部に対して垂直方向に直線往復運動させた時に、前記検出ヘッドの前記面部に作用する力を6軸力覚センサによって6軸方向に分解して検出し、
6軸方向に分解された各力に対応する説明変数と、各説明変数についての回帰係数と、とろみ度である目的変数と、からなる重回帰式に、前記6軸力覚センサで検出された各力に基づいて得られた説明変数を入力することで、試料のとろみ度を算出し、
算出したとろみ度を粘度に変換し、
変換された粘度を、とろみ分類テーブルに基づいて判別し、判別結果を表示する、
とろみ判別方法。
【請求項14】
前記6軸方向に分解された各力は出力波形として得られ、前記出力波形は、検出ヘッドが試料中で第1の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のピーク値と、検出ヘッドが試料中で第2の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のボトム値と、を備えており、
前記説明変数は、前記複数のピーク値の代表値と前記複数のボトム値の代表値の差分である、
請求項13に記載のとろみ判別方法。
【請求項15】
前記説明変数は、出力波形の最小値と最大値の差分である、
請求項13に記載のとろみ判別方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、とろみ度測定装置及びとろみ度測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
人口の高齢化率の増加は世界的な課題である。高齢者の増加は嚥下障害者の増加を意味する。嚥下障害者のケアの現場では、誤嚥のリスクを軽減するためのとろみ付けが頻繁に行われている。とろみ付けに用いるとろみ剤は、市場で流通しており容易に入手可能であるが、一定の粘度を与えるために必要な用量が商品毎に異なる。現状では、調整したとろみはケチャップ状やポタージュ状などの定性的評価に依存している。また、嚥下障害者のケアの現場は、病院から在宅に移行してきていることも留意する必要がある。
【0003】
日本摂食嚥下リハビリテーション学会が主体となり2013年、2021年に「学会分類2013 (とろみ) 早見表」、「学会分類2021 (とろみ) 早見表」を公表している(非特許文献1)。嚥下障害者のためのとろみについては、薄いとろみ、中間のとろみ、濃いとろみの 3 段階に分けて性状を日本語で表現し、かつ、粘度計で測定した粘度、および、ラインスプレッドテスト(LST)の値等を示している。
【0004】
通常、粘度の測定には回転式粘度計・コーンプレート型(E型)が使用される。この装置の検出精度は極めて高く、且つ測定条件を調整する事で非ニュートン流体の測定も可能である。一方、比較的大型で、測定行為に不慣れな人にとっては操作が煩雑でテクニックを要し、また、高価な装置である。したがって、回転式粘度計を用いた粘度計測は、小規模施設、事業所又は一般家庭への導入は容易でないと考えられる。
【0005】
LST値の測定はラインスプレッドテスト用プラスチック測定板を用いて測定される。金属筒に一定量の測定する流体を入れ、30秒後にこの金属筒を持上げて流体の広がり量を目視で測定する。LST値は、検出精度に問題があり、バラツキも大きい。更に、粘度とLST値の相関性は必ずしも強くなく、あくまでとろみの程度を示す目安値に過ぎない。又、測定行為に不慣れな人にとっては操作が煩雑で使い勝手が悪いという不具合がある。
【0006】
回転式粘度計よりも簡便な構成の装置を用いてとろみを計測しようとするアイデアも提案されているが(特許文献1、2)、測定対象となる液体の制約、基本的な検出精度、再現性の点から介護現場のニーズを満たすには必ずしも十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2021-71398
【特許文献2】特開2019-148588
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】日本摂食嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類 2021 日本摂食嚥下リハビリテーション学会 嚥下調整食委員会 日摂食嚥下リハ会誌 25(2):135-149, 2021
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、シンプルな構成でありながら、流体の粘度と極めて強い相関性を持つ特性値を算出することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明が採用した技術手段は、
面部を有する検出ヘッドを備え、面部に対して垂直方向に直線往復運動可能な攪拌片と、
前記攪拌片の前記検出ヘッドから離間した側に位置する6軸力覚センサと、
試料のとろみ度を算出するとろみ度算出手段と、
からなり、
前記6軸力覚センサは、前記攪拌片を、前記検出ヘッドが試料に挿入された状態で直線往復運動させた時に、前記検出ヘッドの前記面部に作用する力を6軸方向に分解して検出し、
前記とろみ度算出手段は、6軸方向に分解された各力に対応する説明変数と、各説明変数についての回帰係数と、とろみ度である目的変数と、からなる重回帰式に、前記6軸力覚センサで検出された各力に基づいて得られた説明変数を入力することで、とろみ度を算出する、
とろみ度測定装置、である。
【0011】
本発明に係るとろみ度測定装置において、6軸力覚センサは、攪拌片の往路移動時と復路移動時に試料から受ける抗力を6軸方向の力に分解して検出する。
6軸力覚センサによって検出される各力は、
6軸力覚センサの検出面に平行な力:Fx, Fy;
6軸力覚センサの検出面に垂直な力:Fz;
上記の3軸それぞれの回転方向の力 (モーメント):Mx, My, Mz;
である。
【0012】
検出された6軸方向の各力に基づいて得られた説明変数を、予め用意されている重回帰式に入力することで、当該試料のスコアを算出する。このスコアは、試料の粘度と極めて強い相関性を持つ特性値であり、本明細書では、この特性値をとろみ度と称し、粘度の代用特性値として用いる。
1つの態様では、前記6軸方向に分解された各力は出力波形として得られ、前記出力波形は、検出ヘッドが試料中で第1の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のピーク値と、検出ヘッドが試料中で第2の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のボトム値と、を備えており、
前記説明変数は、前記複数のピーク値の代表値と前記複数のボトム値の代表値の差分である。
1つの態様では、前記複数のピーク値の代表値は最大ピーク値であり、前記複数のボトム値の代表値は最小ボトム値であり、すなわち、説明変数は、出力波形の最小値と最大値の差分である。
【0013】
6軸方向の各力に対応して回帰係数が得られているが、とろみ度の算出時に、回帰係数に重み付けを行ってもよい。
重み付けには、一部の回帰係数を0として計算することも含む。例えば、分解して得られた6つの力において、1つないし2つの力の重み付けを0とすることで、実質的に5つの力ないし4つの力について検出された値を用いてとろみ度を算出してもよい。
1つの態様では、試料の種類に応じて、別個の重回帰式を用意しておいてもよい。
例えば、対象試料が複数のグループに分類されており、各グループに応じて重回帰式が用意されていてもよい。
各試料やグループに最適化された重回帰式は、具体的な試料を用いた実験によって取得することができる。
【0014】
1つの態様では、前記検出ヘッドの面部は平面部であり、検出ヘッドは一対の平面部を備えている。
1つの態様では、前記攪拌片は、垂直姿勢で下端の前記検出ヘッドが試料に挿入された状態で水平方向に往復運動可能であり、
前記検出ヘッドの平面部(垂直面)に作用した力が、前記攪拌片の上端を介して前記6軸力覚センサに作用するようになっている。
攪拌片の検出ヘッドの平面部(垂直面)と6軸力覚センサの検出面は平行であり、これらは、往復運動方向(水平方向)に対して直角である。
1つの態様では、検出ヘッドは、方形であり、方形の平面部を備えているが、検出ヘッドの形状は限定されない。後述する実施形態では、検出ヘッドは一対の平面部を備えいるが、検出ヘッドの面部の一方あるいは両方が湾曲面(凹面ないし凸面)であってもよい。より具体的には、検出ヘッドの一対の面部の態様としては、平面・平面、平面・凸状湾曲面、平面・凹状湾曲面、凸状湾曲面・凸状湾曲面、凹状湾曲面・凹状湾曲面、凸状湾曲面・凹状湾曲面を例示することができる。
【0015】
1つの態様では、前記攪拌片の上方部位が6軸力覚センサの検出面に固定されている。
1つの態様では、前記攪拌片は、下端に検出ロッドを備えた下側の第1要素と、上側の第2要素と、から形成されていてもよく、第2要素の下方部位が第1要素の上方部位に固定されており、第2要素の上方部位が6軸力覚センサの検出面に固定されている。第2要素の下方部位と第1要素の上方部位とを着脱可能に連結するようにすれば、検出ヘッドの交換が容易となる。
【0016】
典型的には、前記攪拌片は、アクチュエータによって機械的に往復運動される。
1つの態様では、アクチュエータによって水平方向に往復運動可能な可動部を備え、
前記可動部には、前記6軸力覚センサが設けてあり、
前記攪拌片の上端部位が前記6軸力覚センサに固定されており、
前記6軸力覚センサと前記攪拌片は一体で水平方向に往復運動可能である。
【0017】
1つの態様では、少なくとも前記検出ヘッドを囲むように周壁要素が設けてあり、
前記周壁要素の下端は、前記検出ヘッドの下端よりも下方に位置しており、
前記検出ヘッドは、前記周壁要素の内部空間で往復運動するようになっている。
【0018】
1つの態様では、前記周壁要素の内面は対向状の垂直面を備えており、
前記検出ヘッドの左右の側端面は、前記垂直面に近接した状態で往復運動するようになっている。
1つの態様では、周壁要素は着脱可能であり、交換が容易となっている。
なお、周壁要素の下端に水密部材を周設してもよい。
【0019】
1つの態様では、前記とろみ度測定装置は、メモリと、プロセッサと、表示部と、を備えており、
前記メモリには、前記重回帰式と、とろみ度を粘度に変換する変換式と、変換された粘度に基づいてとろみを分類するとろみ分類テーブルと、が格納されており、
前記プロセッサは、前記とろみ度算出手段と、前記粘度と前記とろみ分類テーブルを用いてとろみを分類するとろみ判別手段と、を構成しており、
前記表示部には、少なくとも、とろみ判別結果(どの分類ないし段階に属するか)が表示される。
1つの態様では、表示部には、とろみ判別結果に加えて、変換された粘度が表示される。
【0020】
本発明が採用した技術手段は、
面部を有する検出ヘッドを備えた攪拌片を、面部を試料に挿入した状態で、面部に対して垂直方向に直線往復運動させた時に、前記検出ヘッドの前記面部に作用する力を6軸力覚センサによって6軸方向に分解して検出し、
6軸方向に分解された各力に対応する説明変数と、各説明変数についての回帰係数と、とろみ度である目的変数と、からなる重回帰式に、前記6軸力覚センサで検出された各力に基づいて得られた説明変数を入力することで、試料のとろみ度を算出する、
とろみ度測定方法、である。
1つの態様では、前記6軸方向に分解された各力は出力波形として得られ、前記出力波形は、検出ヘッドが試料中で第1の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のピーク値と、検出ヘッドが試料中で第2の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のボトム値と、を備えており、
前記説明変数は、前記複数のピーク値の代表値と前記複数のボトム値の代表値の差分である。
1つの態様では、前記複数のピーク値の代表値は最大ピーク値であり、前記複数のボトム値の代表値は最小ボトム値であり、すなわち、説明変数は、出力波形の最小値と最大値の差分である。
1つの態様では、前記検出ヘッドの面部は平面部であり、検出ヘッドは一対の平面部を備えている。
典型的には、前記攪拌片を、アクチュエータによって機械的に往復運動させる。
【0021】
1つの態様では、
前記攪拌片は垂直姿勢で下端の検出ヘッドが試料に挿入され、
少なくとも前記検出ヘッドを囲むように周壁要素が設けてあり、
前記周壁要素の下端は、前記検出ヘッドの下端よりも下方に位置しており、
前記周壁要素の下端を、試料を収容する容器の底面に当接させた状態で、前記検出ヘッドを前記周壁要素の内部空間で水平方向に往復運動させる。
【0022】
本発明が採用した技術手段は、
面部を有する検出ヘッドを備えた攪拌片を、面部を試料に挿入した状態で、面部に対して垂直方向に直線往復運動させた時に、前記検出ヘッドの前記面部に作用する力を6軸力覚センサによって6軸方向に分解して検出し、
6軸方向に分解された各力に対応する説明変数と、各説明変数についての回帰係数と、とろみ度である目的変数と、からなる重回帰式に、前記6軸力覚センサで検出された各力に基づいて得られた説明変数を入力することで、試料のとろみ度を算出し、
算出したとろみ度を粘度に変換し、
変換された粘度を、とろみ分類テーブルに基づいて判別し、判別結果を表示する、
とろみ判別方法、である。
1つの態様では、前記6軸方向に分解された各力は出力波形として得られ、前記出力波形は、検出ヘッドが試料中で第1の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のピーク値と、検出ヘッドが試料中で第2の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のボトム値と、を備えており、
前記説明変数は、前記複数のピーク値の代表値と前記複数のボトム値の代表値の差分である。
1つの態様では、前記複数のピーク値の代表値は最大ピーク値であり、前記複数のボトム値の代表値は最小ボトム値であり、すなわち、説明変数は、出力波形の最小値と最大値の差分である。
1つの態様では、前記検出ヘッドの面部は平面部であり、検出ヘッドは一対の平面部を備えている。
典型的には、前記攪拌片を、アクチュエータによって機械的に往復運動させる。
【発明の効果】
【0023】
本発明は既存の粘度計とは異なる検出原理で、流体の粘度と極めて強い相関性を持つ特性値を算出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本実施形態に係るとろみ度測定装置の概念図である。
図2】本実施形態に係るとろみ度測定装置の全体構成を示す模式図である。
図3】本実施形態に係るとろみ度測定装置本体の上面図、正面図、下面図、側面図である。
図4】本実施形態に係るとろみ度測定装置本体の斜視図である。
図5】本実施形態に係るとろみ度測定装置本体の分解斜視図である。
図6】本実施形態に係る6軸力覚センサと検出ヘッドの組付け部の詳細を示す図である。
図7】本実施形態に係る検出ヘッドと検出部カバーの内面との相対位置を示す図である。
図8】本実施形態に係るとろみ度測定装置の検出原理を示す模式図である。
図9】本位実施形態に係る6軸力覚センサの出力信号を例示するグラフであり、(A)はX軸方向の力Fx、(B)はY軸方向の力Fy、(C)はZ軸方向の力Fzの出力信号を示す。
図10】本実施形態に係る6軸力覚センサの出力信号を例示するグラフであり、(D)はX軸の回転方向の力Mx、(E)はY軸の回転方向の力My、(F)はZ軸の回転方向の力Mzの出力信号を示す。
図11】異なる粘度を用いた同種の試料を用いたとろみ度測定結果を示すグラフであり、(A)はX軸方向の力Fx、(B)はY軸方向の力Fy、(C)はZ軸方向の力Fzにおける粘度と出力値との関係を示している。
図12】異なる粘度を用いた同種の試料を用いたとろみ度測定結果を示すグラフであり、(D)はX軸の回転方向の力Mx、(E)はY軸の回転方向の力My、(F)はZ軸の回転方向の力Mzにおける粘度と出力値との関係を示している。
図13】異なる粘度を用いた同種の試料を用いたとろみ度測定結果を示すグラフであり、(G)は粘度と特性値との関係を示す重回帰式を示している。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[A]とろみ度測定装置
図1を参照しつつ、本実施形態に係るとろみ度測定装置について説明する。本実施形態に係るとろみ度測定装置は、往復運動機構(アクチュエータ)によって直線往復運動可能な攪拌片と、攪拌片を試料中で直線往復運動させた時に、攪拌片に作用する力を検出する6軸力覚センサと、プロセッサと、メモリと、表示部と、を備えている。攪拌片の一端側には、平面部を有する検出ヘッドが一体形成されており、攪拌片は、検出ヘッドの平面部に対して垂直方向に直線往復運動可能である。本実施形態では、とろみ度測定装置は、攪拌片を垂直姿勢とし、下端の検出ヘッドを試料に挿入した状態で(この時、検出ヘッドの平面部は垂直面である)、水平方向に直線往復運動させるようになっている。
【0026】
本実施形態に係るとろみ度測定装置において、6軸力覚センサは、攪拌片の往路移動時と復路移動時に試料から受ける抗力を6軸方向の力に分解して検出する。
6軸力覚センサによって検出され力は、
6軸力覚センサの検出面に平行な力:Fx, Fy;
6軸力覚センサの検出面に垂直な力:Fz;
上記の3軸それぞれの回転方向の力 (モーメント):Mx, My, Mz;
である(図6参照)。
【0027】
本実施形態において、攪拌片は、往復運動機構(アクチュエータ)によって、垂直姿勢で水平方向に往復移動するようになっている。往復移動の頻度を含む測定条件は、プロセッサによって制御されるようになっている。攪拌片をアクチュエータを用いて機械的動作させることで、測定時に、攪拌片の下端の検出ヘッドの移動軌跡、移動量、移動速度、移動回数、インターバル等の測定条件を制御することが可能となる。測定条件を精度よく再現させることによって、測定結果の再現性を向上させることが可能となる。本実施形態では、6軸力覚センサは可動部(図2の直動部位40)に搭載されており、攪拌片と共に往復運動するようになっている。
【0028】
プロセッサは、とろみ度算出手段、とろみ度・粘度変換手段、とろみ判別手段、アクチュエータの制御手段として機能するようになっている。これらの手段は、例示であって、プロセッサの機能はこれらの手段に限定されない。
【0029】
メモリには、とろみ度を算出するための重回帰式、とろみ度を粘度に変換するための変換式、粘度に基づいて試料のとろみを分類するとろみ分類テーブル、アクチュエータの動作の条件設定、計測実行プログラム(図1では図示せず)が含まれている。これらの情報は例示であって、メモリには、その他の情報、例えば、6軸力覚センサで検出された情報を格納してもよい。
【0030】
とろみ度算出手段は、6軸方向に分解された各力に対応する説明変数と、各説明変数についての回帰係数と、とろみ度である目的変数と、からなる重回帰式に、6軸力覚センサで検出された各力に基づいて得られた説明変数を入力することで、試料のとろみ度を算出する。攪拌片が試料から受ける抗力を6軸方向の力に分解して測定することで、粘度と極めて強い相関性を持つ特性値を算出する。
【0031】
本実施形態に係るとろみ度測定装置において、とろみ度と粘度との相関関係が予め取得されており、とろみ度・粘度変換手段によって、計測されたとろみ度が粘度に変換される。とろみ判別手段は、変換された粘度と、とろみ分類テーブルとを対比することで、とろみ判別結果を取得する。とろみ判定結果(得られた粘度が属する分類ないし段階、表1参照)及び粘度が表示部に表示される。
【0032】
重回帰式は、試料の種類に応じて、複数用意してもよい。特性値と粘度との相関性を規定する重回帰式(回帰係数)は、同一条件であっても、試料の種類によって異なり得る。重回帰式は、以下のように用意し得る。例えば、異なる多数の試料の測定結果に基づいて、下記の3種類の態様が採り得る。
a. 汎用的な1つの重回帰式(回帰係数)を設定し、異なる種類の試料(全ての測定試料)に適用する。
この方式では検出精度及び粘度との相関性が低下するおそれがあり、これらの低下が著しい場合は、本方式は採用されない。
b. 測定対象 (測定試料) を大まかに数種類(例えば3種類)に分類し、それぞれに最適な重回帰式(回帰係数)を設定し、測定時にとろみ度計算に用いる重回帰式を選択する。
(1) ニュートン流体
(2) 非ニュートン流体A:水・お湯、お茶、コーヒーにとろみ剤添加したもの
(3) 非ニュートン流体B:みそ汁、スープ、流動食等
c. 測定対象 (測定試料) 毎に最適な重回帰式(回帰係数)を設定する。測定時に、測定対象に応じて重回帰式(回帰係数)を指定する。
【0033】
表示部に表示される事項としては、以下の表示内容を例示することができる。
a. 日本摂食嚥下リハビリテーション学会が作成した「学会分類2021(とろみ) 早見表」に準じた3段階で表示する。
b. 上記の「学会分類2021 (とろみ) 早見表」をベースに5段階で表示する。
【表1】
c. 必要に応じ、上記のa, bに加えて、とろみ度を粘度に換算した値を参考として数値表示する。
【0034】
図2図7を参照しつつ、本実施形態に係るとろみ度測定装置の構成についてさらに詳細に説明する。図2は、本実施形態に係る測定装置の全体構成を示す模式図である。本実施形態に係るとろみ度測定装置は、測定装置本体1と、コンピュータ2と、から構成される。コンピュータ2は、プロセッサ、メモリ、ディスプレイ(表示部)を備えている。図2では、便宜上、測定装置本体1と独立したコンピュータ2を示しているが、コンピュータ2は、測定装置本体1に内蔵されていてもよい(図1参照)。
【0035】
図3は、本実施形態に係る測定装置本体を示す図であり、図4は、同斜視図である。本実施形態に係るとろみ度測定装置本体1の外形は円柱形をしており、本体上部の外形はφ40mm、測定対象の流体に浸漬させる検出部カバー9 の外形はφ30mm、全体の高さは148mmである。これらの寸法は例示であって、本発明の構成を限定するものではない。
【0036】
図2に示すように、とろみ度測定装置本体1は、モーターモジュール3と回転直線運動変換機構部4とを備えた往復運動機構(アクチュエータ)と、検出ヘッド5を備えた攪拌片と、検出ヘッド5が流体(試料)から受ける抗力を検出する6軸力覚センサ6と、有している。6軸力覚センサの検出面60には、連結用部材7の上端部位が固定されており、検出ヘッド連結用部材7の先端(下端)には、流体からの抗力を受ける検出ヘッド5が連結されている。
【0037】
とろみ度測定装置本体1には、検出部カバー9が設けてある。検出部カバー9は、周壁部90と、周壁部90の下端の開口部91と、を備えており、周壁部90内の空間に、検出ヘッド5、検出ヘッド連結用部材7、6軸力覚センサ6が内装されている。とろみ度測定装置本体1の検出部カバー9 の開口部91側を測定対象の流体に浸漬させて測定を行う。
【0038】
回転直線運動変換機構部4は、モーターモジュール3のモータ軸の回転運動を直線往復運動に変換する。回転直線運動変換機構部4は垂下状の直動部位40を備え、直動部位40の垂直面には6軸力覚センサ6が固定されている。直動部位40は、水平方向に往復運動する可動部である。
【0039】
本実施形態に係る測定装置本体の分解斜視図を図4に示す。モーターモジュール3としては、減速ギアボックス付きの小型直流モーターを使用している。モーター軸先端に偏心させた位置にピンを固定した円盤が組付けられている。モーターモジュール3はモーターモジュール支持体30に固定されている。
【0040】
回転直線運動変換機構部4は一般的なスコッチヨーク機構に準じた構造である。
本実施例のストロークは10mmである。回転直線運動変換機構部4は回転直線運動変換機構部支持体41に固定されている。6軸力覚センサ6にはMEMS技術を用いて作製された半導体センサチップと信号処理・演算機能を有するCPUから構成される6軸力覚センサを使用している。
【0041】
6軸力覚センサ6は回転直線運動変換機構部の直動部位40の面部(使用時の姿勢では垂直面)に固定されている。6軸力覚センサの検出面60には検出ヘッド連結用部材7の上端部位が固定されている。検出ヘッド連結用部材7の下側部位には検出ヘッド5が連結されている。直動部位40(可動部)には、6軸力覚センサ6が固定され、6軸力覚センサ6には、検出ヘッドを備えた攪拌片(検出ヘッド連結用部材7、検出ヘッド5)が連結されており、可動部の水平往復運動によって、6軸力覚センサ6及び検出ヘッド5が水平方向に往復運動するようになっている。
【0042】
本実施形態に係る検出ヘッド5は、長尺状の細幅部51の長さ方向一端側に一体形成されており、細幅部51の長さ方向他端側には幅広部が一体形成されており、検出ヘッド5の幅広部52が検出ヘッド連結用部材7に固定されている。本実施形態において、検出ヘッド5と、細幅部51と、幅広部52と、検出ヘッド連結用部材7が一体で攪拌片を構成している。
【0043】
本実施形態では、検出ヘッド5の材料として、一般的なプラスチック材料であるアクリル樹脂を使用している。検出ヘッド5は流体から精度良く抗力を受ける必要があり、硬度及び弾性率が高いエンジニアリングプラスチックや金属材料を採用することが望ましい。本実施形態に係る検出ヘッド5の形状は、正方形平板形状で、寸法は12mm四方である。検出ヘッド5の形状や寸法は限定されないが、検出ヘッドの形状を最適化する事で、非ニュートン流体の検出精度を向上させ得ると考えられる。本実施形態では、検出ヘッド5は一対の平面部50(使用姿勢では垂直面となる)を備えいるが、検出ヘッドの面部の一方あるいは両方が湾曲面(凹面ないし凸面)であってもよい。例えば、検出ヘッドの一方の面部を凹状湾曲面、他方の面部を凸状湾曲面とし、検出ヘッドの往復移動時に、検出ヘッドが第1の方向に移動する時に、検出ヘッドの凹状湾曲面に抗力が作用し、検出ヘッドが第2の方向に移動する時に、検出ヘッドの凸状湾曲面に抗力が作用するようにしてもよい。
【0044】
検出ヘッド連結用部材7の材料に、本実施例では一般的なプラスチック材料であるアクリル樹脂を使用している。検出ヘッド連結用部材7は検出ヘッド5が流体から受けた抗力を精度良く6軸力覚センサ6に伝達する必要があり、硬度及び弾性率が高いエンジニアリングプラスチックや金属材料を採用することが望ましい。
【0045】
6軸力覚センサ6、検出ヘッド5、検出ヘッド連結用部材7の組付け状態を図6に示す。6軸力覚センサの検出面60と検出ヘッド5の平面部50は平行となるように組付けられている。より具体的には、検出ヘッド5の平面部 (流体からの抗力を受ける面)50と6軸力覚センサの検出面60は平行であり、検出ヘッド5の平面部 (流体からの抗力を受ける面)50と6軸力覚センサの検出面60は、検出ヘッド5の往復移動方向に対して直角である。6軸力覚センサ6、検出ヘッド5、検出ヘッド連結用部材7の組立において、本実施形態では、6軸力覚センサを使用し、測定結果の重回帰分析を行うことによって、製造バラツキを吸収することができ、製造が容易となる。
【0046】
図6に、6軸力覚センサ6における6軸方向の定義を示す。
X: X軸方向
Y: Y軸方向
Z: Z軸方向
RX: X軸の回転方向
RY: Y軸の回転方向
RZ: Z軸の回転方向
上述のように、攪拌片の検出ヘッド5の平面部50と6軸力覚センサ6の検出面60は平行であり、これらは、往復移動方向に対して直角である。6軸力覚センサ6によって、検出ヘッド5の往路移動時と復路移動時に、検出ヘッド5の平面部50が流体から受ける抗力を6軸方向の力に分解して検出する。検出ヘッド5の平面部50に作用する力の6軸方向の各力の出力波形が取得される(図9図10参照)。
【0047】
本実施形態に係るとろみ度測定装置において、検出ヘッド5、検出ヘッド連結用部材7、6軸力覚センサ6、回転直線運動変換機構部4及び直動部位40を内装して覆うように円筒状の検出部カバー9が設けてある。検出部カバー9の下端は、検出ヘッド5の下端よりも下方に位置しており、検出ヘッド5は、検出部カバー9の内部空間で往復運動するようになっている。
【0048】
検出部カバー9は検出ヘッド5と共に流体中に浸漬され、検出部カバー9の先端を流体の容器底面に接触させる。検出ヘッドは周囲に設置された筒状の検出部カバー9の内部空間で直動往復運動する。この時、検出ヘッドは円筒又は角筒状構造体及び容器底面には接触しない。検出部カバー9を設けることで、測定時に、流体量、流体の流動経路、検出ヘッドの浸漬深さ、検出ヘッドの浸漬角度等の測定結果に大きな影響を与える条件を一定に保つことができる。検出精度、測定再現性の観点から検出部カバー9を備えることが有利であると考えられる。
【0049】
本実施形態では、検出部カバー9の周壁部90の内面は対向状の垂直面900と、対向状の円弧面901と、からなる。検出ヘッド5は、左右の側端面500が対向状の垂直面900に近接した状態で非接触で、検出部カバー9の垂直面900に平行に往復運動するようになっている(図7参照)。本実施形態では、検出ヘッド5の左右の側端面500が垂直面であり、検出部カバー9の周壁部90の内面の対向状の垂直面900に近接して往復運動するようになっているが、検出ヘッド5の左右の側端面が湾曲面の場合には、検出部カバー9の周壁部90の内面に対向状の湾曲面を形成してもよい。
【0050】
本実施形態において、検出部カバー9の外側は円形で、内側は円形の二面面取り形の筒形状をしている。外形はφ30mm、内形はφ28mm、直線部の二面幅 19mmである。検出部カバー9の形状や寸法は例示であり、本発明を限定するものではない。検出部カバー9は、例えば、円筒状ないし角筒状の構造体である。
【0051】
測定時は、検出部カバー9の開口部91の先端部を検出ヘッド5と共に流体14中に浸漬し、測定対象流体容器15の底面に接触させる。こうすることで、測定時の流体量、流体の流動経路を精度良く制御することができる。検出部カバー9の下端を容器15の底面に当接させた状態で検出ヘッド5を往復運動させることで、準閉塞空間で検出ヘッド5を往復運動させることになり、また、検出部カバー9の下端と検出ヘッド5の下端との距離を設定することで、再現性の高い測定空間を形成することができる。検出部カバー9を、とろみ度測定装置本体1に対して着脱可能としてもよい。検出カバー9の周壁部90の下端に水密部材を周設してもよい。
【0052】
検出ヘッド5の側端面500と検出部カバー9の内面の垂直面900とのクリアランス、最大移動時の検出ヘッド5の平面部50と検出部カバー9の内面の円弧面901とのクリアランス、検出部カバー9の移動方向の検出部カバー9の内面形状等、を最適化することで、非ニュートン流体の検出精度を向上させ得ると考えられる。
【0053】
回転直線運動変換機構部の直動部位40にはストッパ61が設けてある。通常の測定時には、往復運動する検出ヘッド連結用部材7がストッパ61に当接することはない。ストッパ61は、6軸力覚センサの検出面60に固定された検出ヘッド連結用部材7の変位量を規制している。これによって変位量オーバーによる6軸力覚センサ6の破損を防止している。本実施形態に係るとろみ度測定装置本体1において、モーターモジュール支持体30、回転直線運動変換機構部支持体41、トップカバー12、サイドカバー13は筐体部品で、本実施例では一般的なプラスチック材料であるアクリル樹脂を使用している。
【0054】
とろみ度測定装置本体1は、モーターモジュール3と6軸力覚センサ6への電力供給、制御及び計測用PC2と通信を行う制御基板8を備えている。制御基板8は、プリント配線板に電子部品及び外部との接続用コネクタが実装した一般的なプリント配線板アセンブリである。図2に示す態様では、とろみ度測定装置本体1 は信号変換ボード10を介して計測用PC2に接続される。とろみ度測定装置本体の制御、測定データの表示及び保存は外部の計測用PC2で行う。装置本体への電力供給は外部電源11から行う。本実施形態では、6軸力覚センサ6の信号はとろみ度測定装置本体1の外部に設置されている信号変換ボード10を介して計測用PC2に出力される。この計測用PC2には専用アプリがインストールされており、PC上で重回帰分析を含むデータ処理を実施して、とろみ度を算出する。とろみ度はPCのモニター上に数値及びグラフとして表示される。
【0055】
計測用PC2で行っていたセンサ信号の重回帰分析を含むデータ処理をとろみ度測定装置本体1の内部で実施するようにしてもよい(図1参照)。具体的には6軸力覚センサ6に実装されているCPU又は制御基板8に新たに追加するCPUで処理を行う。とろみ度測定装置本体1に表示器を設ける。
【0056】
図8に本実施例の検出原理模式図を示す。図8(A)は、回転直線運動変換機構部の直動部位40が図中右側に最大ストローク移動した状態を示す。この状態から、回転直線運動変換機構部の直動部位40が第1の方向(図中矢印300a方向)に移動する時、検出ヘッド5は第2の方向(図中矢印310a)に流体の粘度に比例した抗力を受ける。その結果、6軸力覚センサ6には第2の方向(図中矢印320a方向)の力が伝達される。
【0057】
図8(B)は、回転直線運動変換機構部の直動部位40が図中左側に最大ストローク移動した状態を示す。この状態から、回転直線運動変換機構部の直動部位40が第2の方向(図中矢印300b方向)に移動する時、検出ヘッド5は第1の方向(図中矢印310b)に流体の粘度に比例した抗力を受ける。その結果、6軸力覚センサ6には第1の方向(図中矢印320b方向)の力が伝達される。
【0058】
検出ヘッド5及び6軸力覚センサ6に実際に印加される力は、下記の6軸方向の力である。
Fx: X軸方向の力、6軸力覚センサの検出面60に平行な力;
Fy: Y軸方向の力、6軸力覚センサの検出面60に平行な力;
Fz: Z軸方向の力、6軸力覚センサの検出面60に垂直な力;
Mx: X軸の回転方向の力、6軸力覚センサの検出面60に対するX軸のモーメント;
My: Y軸の回転方向の力、6軸力覚センサの検出面60に対するY軸のモーメント;
Mz: Z軸の回転方向の力、6軸力覚センサの検出面60に対するZ軸のモーメント。
6軸力覚センサ6によって、検出ヘッド5に作用した力を6軸方向の各力に分解して検出する。流体から受ける抗力を6軸方向の力に分解して測定することで、粘度と強い相関性を持つ特性値を算出する。検出ヘッド5を直線往復運動させることで、検出ヘッド5及び6軸力覚センサ6は往路移動時と復路移動時に6軸方向それぞれに異なった方向の力を受ける。この時、6軸力覚センサ6の6軸方向それぞれの出力に波状の揺れが生じる。より具体的には、検出ヘッド5が所定時間内に所定速度で往復運動することで、検出ヘッド5が流体中で第1の方向に移動した時の抗力に基づいて6軸力覚センサから出力される出力値と、検出ヘッド5が流体中で第2の方向に移動した時の抗力に基づいて6軸力覚センサから出力される出力値と、が交互に現れる出力波形が得られる。この出力波形は、検出ヘッド5が流体中で第1の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のピーク値と、検出ヘッド5が流体中で第2の方向に移動した時に6軸力覚センサによって得られる複数のボトム値と、を備え、ピーク値及びボトム値の数は、往復運動の回数によって決定される。出力波形は、前記複数のピーク値の代表値と前記複数のボトム値の代表値の差分によって特徴付けられ、この差分を説明変数として採用することができる。本実施形態では、最大ピーク値(複数のピーク値の代表値)と最小ボトム値(複数のボトム値の代表値)の差分を出力波形に対応する説明変数とする。すなわち、6軸力覚センサで検出された出力波形の最小値と最大値の差分を求めて、各出力波形に対応する説明変数とする。流体の粘度と特性値の相関性を規定する重回帰式に各力に対応する説明変数を入力することで、試料の特性値を算出する。なお、6つの各力に対応する説明変数のとろみ度への貢献度は必ずしも一律ではなく、また、試料の種類によっても、貢献度は異なり得る。本実施形態では、6軸力覚センサで検出された出力波形の最小値と最大値の差分を求めて、出力波形に対応する説明変数としたが、説明変数はこれに限定されるものではなく、例えば、複数のピーク値(全体あるいは一部)の平均値と複数のボトム値(全体あるいは一部)の平均値との差分を説明変数としてもよい。
【0059】
本実施形態に係るとろみ度測定装置のような簡易的に粘度又は粘度と相関がある特性を測定する装置では、検出精度に加えて、測定再現性が重要である。一般的に流体の粘度測定はバラツキが大きく、再現性向上が技術課題の一つである。本実施形態に係るとろみ度測定装置で得られる特性値は、同じ試料であっても、測定条件によって異なり得る。したがって、再現性を高めるためには、同一条件で測定を行うことが重要である。攪拌片を直線往復運動させるアクチュエータの動作をコンピュータによって制御することで、測定条件を所定条件に固定して測定することができる。また、上述のように、筒状の検出部カバー9は、検出精度、測定再現性を担保する機能を備えている。
【0060】
測定条件を、試料の種類に応じて最適化してもよい。例えば、検出ヘッドの移動軌跡、移動量、移動速度、移動回数、インターバル等の条件の1つないし複数を試料に応じて最適化してもよい。また、測定条件に関して、事前に色々な種類の流体に対して検出ヘッドの形状や、周囲に設置される検出部カバーの形状を最適化してもよい。検出ヘッド、検出部カバーを着脱可能とすることで、測定対象の試料に応じて、最適化された検出ヘッド、検出部カバーを交換するようにしてもよい。
【0061】
摂食嚥下障害者向け用途の簡易的なとろみ度測定装置では、測定対象 (測定試料) の大部分は非ニュートン流体であるが、既存技術(特許文献1、2等)では、非ニュートン流体への対応が課題となっており、流体への制約条件がある。
測定条件を最適化することで、非ニュートン流体の検出精度、再現性を向上させ得る。を更に向上させる事ができる。
【0062】
本実施形態に係るとろみ度測定装置は、モーターとモーター軸の回転運動を直線往復運動に変換する機構部を有し、この機構部の直動部位に固定された6軸力覚センサと、6軸力覚センサの検出面に固着されている連結用部材と、この連結用部材の先端に固定された検出ヘッドからなる。モーターとモーター軸の回転運動を直線往復運動に変換する機構部により直線往復運動をする攪拌片によって測定対象の流体を攪拌させる。その時、攪拌片が流体から受ける抗力を6軸力覚センサで検出し、この抗力を流体の粘度と極めて強い相関性を持つ特性値に演算して出力する。本実施形態に係るとろみ度計測装置は、構成部品が少なく、構造がシンプルであり、ハンディータイプとして成立し得るレベルの小型化、軽量化を実現することができる。更に、小規模施設又は一般家庭で導入が可能なレベルの低価格を実現し得る。本実施形態に係るとろみ度測定装置は、市販又は発表されている粘度計の簡易・廉価版と比べて検出精度も良く、粘度の代用特性として使用し得ると考えられる。
【0063】
[B]実験例
図9図10に、実験例に係る6軸力覚センサの出力信号例を示す。測定試料は水とグリセリンの混合体で、回転式粘度計・B型で測定した粘度は 408mPa・s である。上記の試料を調整後、30min、25℃環境に放置してから測定を行った。検出ヘッド5 の移動量は10mm、移動速度は一往復を1cyとして 3.3Hz である。測定は 60sec 行い、その内 10sec 分をグラフに示した。
【0064】
図9(A)に、Fxの出力を、(B)にFyの出力を、(C)にFzの出力を示す。図10(D)に、Mxの出力を、(E)にMyの出力を、(F)にMzの出力を示す。6軸方向のに分解された各力の出力に波状の揺れが生じている。出力波形の振幅の大きさは異なる。Mx、Fz出力の振幅が大きいことが分かる。
【0065】
6軸力覚センサ6によって分解された6軸方向の各力に対応する出力を説明係数とし、流体の粘度と極めて強い相関性を示す特性値を目的関数とした重回帰分析を行い、この特性値を求める。粘度の異なる複数の試料を準備し、それらを同一条件のもとで測定を行う。それぞれの試料における、6軸方向全ての出力波形の最小値と最大値の差分を求める。この結果より最小二乗法を用いて6軸方向それぞれの回帰係数を求め、下記数式より特性値を求める。
N(Digit)=CFx*Fx + CFy*Fy + CFz*Fz + CMx*Mx + CMy*My + CMz*Mz
ここで、CFx, CFy, CFz, CMx, CMy, CMzは回帰係数である。
【0066】
図11図12に本実施例の6軸力覚センサの出力信号例を示す。4種類の測定試料は共に水とグリセリンの混合体で、回転式粘度計・B型で測定した粘度は171、408、620、948mPa・sである。
【0067】
検出ヘッドを直線往復運動させる事で、検出ヘッドが往路移動時と復路移動時に流体から受ける抗力を6軸方向の力に分解して6軸力覚センサで直接検出する。図11(A)に、Fxの出力を、(B)にFyの出力を、(C)にFZの出力を、示す。図12(D)に、Mxの出力を、(E)にMyの出力を(F)にMzの出力を示す。6軸力覚センサが検出した6軸方向の力を最小二乗法により較正することで流体の粘度と極めて強い相関性を持つ特性値を算出する。図13(G)に算出した特性値を示す。この較正値は流体の粘度と極めて強い相関性を示している事が認められる。したがって、異なる粘度の同一試料を用いて、検出ヘッドに作用した力を6軸方向に分解して検出し、各力の値を用いて重回帰分析を行って重回帰式を取得しておくことで、流体の粘度と極めて強い相関性を持つ特性値を算出することができる。
【0068】
「グリセリン+水混合流体」を用いて検出カバーの有無で測定した。検出カバーが無い状態に比べて、検出カバーが有る状態の方が、センサ出力値が大きくなることがわかった。検出カバーが有る方がS/N比が大きくなり、ロバスト性が向上することを意味する。特に、非ニュートン流体への適用を考えた場合には、検出部カバーを用いることが有利であると考えられる。
【0069】
[B]とろみ度測定方法及びとろみ判別方法
本実施形態に係るとろみ度測定装置を用いたとろみ度測定方法について説明する。対象試料に応じて、所定の測定条件が設定される。所定量の対象試料を所定の容器に収容し、次いで、とろみ度測定装置の検出ヘッド及び検出部カバーの下端側を、垂直姿勢で、容器に収容した試料内に挿入し、検出部カバーの下端を容器の底面に当接させる。この時、検出ヘッドの下端は、容器の底面の上方に位置している。
【0070】
スタートボタン(図示せず)を押すことで、設定された測定条件にしたがって、垂直姿勢の検出ヘッドが、検出部カバー9の内部空間で、水平方向に往復運動する。垂直面である平面部が水平方向に往復運動することで、平面部に作用する力を6軸方向に分解した各力の出力波形を6軸力覚センサで取得する。6軸力覚センサで検出した6軸方向の各力の出力波形に対応する説明変数が算出される。本実施形態では、説明変数は、出力波形の最小値と最大値の差分である。
【0071】
対象試料に応じて、6軸方向の各力に対応する説明変数と、各説明変数についての回帰係数と、とろみ度である目的変数と、からなる重回帰式が選択されている。6軸力覚センサで検出した6軸方向の各力の出力波形に対応する説明変数を重回帰式に入力することで、試料のとろみ度を算出する。
【0072】
算出したとろみ度を粘度に変換し、変換された粘度を、とろみ分類テーブルに基づいて判別する。とろみの判別は、当該とろみの程度が、とろみ分類テーブルのどの分類ないし段階に属するかである。表示部に、判別結果(分類ないし段階)が表示される。表示部には、変換された粘度が参考値として表示される。
【符号の説明】
【0073】
1 とろみ度測定装置本体
2 計測用PC
3 モーターモジュール
30 モーターモジュール支持体
4 回転直線運動変換機構部
40 直動部位
41 回転直線運動変換機構部支持体
5 検出ヘッド
50 平面部
6 6軸力覚センサ
60 検出面
7 検出ヘッド連結用部材
8 制御基板
9 検出部カバー
90 周壁部
91 開口部
900 内面の垂直面
901 内面の円弧面
10 信号変換ボード
11 外部電源
12 トップカバー
13 サイドカバー
14 測定対象流体
15 測定対象流体容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13