(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043446
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】オークチップ抽出物を含有するノンアルコール飲料
(51)【国際特許分類】
A23L 2/52 20060101AFI20240322BHJP
A23L 2/00 20060101ALI20240322BHJP
A23L 2/56 20060101ALI20240322BHJP
A23L 2/02 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
A23L2/52
A23L2/00 B
A23L2/56
A23L2/00 T
A23L2/02 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】書面
(21)【出願番号】P 2022161947
(22)【出願日】2022-09-16
(71)【出願人】
【識別番号】522393815
【氏名又は名称】池田 幹雄
(71)【出願人】
【識別番号】508275205
【氏名又は名称】古屋 浩
(71)【出願人】
【識別番号】522393826
【氏名又は名称】松田 賢哉
(71)【出願人】
【識別番号】522393620
【氏名又は名称】渡邉 睦
(71)【出願人】
【識別番号】522393837
【氏名又は名称】大類 知樹
(71)【出願人】
【識別番号】522393848
【氏名又は名称】福持 良之助
(72)【発明者】
【氏名】池田 幹雄
(72)【発明者】
【氏名】古屋 浩
(72)【発明者】
【氏名】松田 賢哉
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 睦
(72)【発明者】
【氏名】大類 知樹
(72)【発明者】
【氏名】福持 良之助
【テーマコード(参考)】
4B117
【Fターム(参考)】
4B117LC02
4B117LC14
4B117LE10
4B117LG00
4B117LG05
4B117LG18
4B117LL01
4B117LP01
(57)【要約】
【課題】 オークチップ抽出物を含み、樽香と熟成香を有する付加価値の高いノンアルコール飲料を提供する
【解決手段】樽の製造工程で得られるオークチップと呼ばれるオーク材の切屑や削り屑をアルコール溶液に浸漬し、芳香成分を抽出する。得られたオークチップ抽出物を水や果汁などのノンアルコール飲料に加え、アルコール濃度が1%以下となるように希釈する。このようにして、樽香と熟成香を有する付加価値の高いノンアルコール飲料を製することができる。
また、このノンアルコール飲料は、炭酸ガスを充填して微発泡性とすることにより、さらに付加価値を高めることができる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
オークチップ抽出物を含有するノンアルコール飲料
【請求項2】
微発泡性の請求項1に記載のノンアルコール飲料
【請求項3】
樽香と熟成香が付与された請求項1又は2に記載のノンアルコール飲料
【請求項4】
オークチップをアルコール溶液に浸漬してオークチップ抽出物を得る方法、及びオークチップ抽出物を水に加えてアルコール濃度を1%以下とする工程からなる請求項1又は2に記載のノンアルコール飲料の製造方法
【請求項5】
オークチップをアルコール溶液に浸漬してオークチップ抽出物を得る方法、及びオークチップ抽出物を果汁、濃縮還元果汁又はハーブ抽出液に加えてアルコール濃度を1%以下とする工程からなる請求項1又は2に記載のノンアルコール飲料の製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノンアルコール飲料に関し、特に、オークチップ抽出物を含有するノンアルコール飲料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、健康志向の高まりや価値観の多様化などにより消費者の食生活が変化し、アルコールを飲まない人が増えている。その一方で、ノンアルコールビールに象徴されるように、アルコールを含まない新しい飲料に対する関心とニーズが高まっている。
【0003】
酒類をオーク樽に保存して樽香を付与し、熟成させる方法はウイスキーやワインの醸造においては古くから行われている。しかしこの方法は樽が高価格であるため、低価格のウイスキーやワインを製造する場合には樽熟成を行うことは経済的に困難であった。
【0004】
この問題を解決するため、近年では、樽の製造工程で得られるオークチップと呼ばれるオーク材の切屑や削り屑をワインと接触させることにより、ワインに樽香や熟成感を付与する方法がとられるようになった。この方法はアメリカでは1993年初頭に、当初は使用を禁じていた欧州では2006年に適法となり、日本でも2019年に許可されている。
【0005】
一方、下記特許文献1に例示するように、近年、非アルコール飲料や液体状食品についても、オークチップを浸漬して樽香や熟成感を付与し、高級感を高める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Kleopatra Chira,Pierre-Louis Teissedre,Extraction of oak volatiles and ellagitannins compounds and sensory profile of wine aged with French winewoods subjected to different toasting methods: Behaviour during storage,Food Chemistry,140,168-177(2013)
【非特許文献2】大塚謙一著、「Sake Utsuwa Research」II きた産業(株)出版、2008年発行、p.8~10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記先行技術は、オーチップを非アルコール飲料もしくは液体食品と2週間以上接触処理し、これらの飲料や食品に樽香と熟成感を付与するものであり、樽を用いるよりも短時間で安価に熟成感や重厚感を与えることができると主張している。
【0009】
オークチップから抽出される芳香成分には多くの揮発性化合物がある(非特許文献1)が、例えばバニリンとオークラクトンは樽香の代表的な成分であり、また後者は熟成香の成分としても知られている(非特許文献2)。
【0010】
バニリンは、オーク材の構成成分であるリグニンがエタノリシスと呼ばれるアルコールの作用によって徐々に分解し、ワインなどのアルコール溶液中に溶出される。
一方、オークラクトンはアルコールで抽出されるオーク材の精油成分である。
【0011】
上記のように、樽香や熟成香を有する芳香成分は、アルコールの作用によりオーク材から抽出されるため、アルコールを含まない非アルコール飲料もしくは液体食品と2週間以上接触処理しただけでは、これらの芳香成分を抽出することは困難である。
したがって、樽を用いるよりも短時間で安価に熟成感や重厚感を与えることができるとする先行技術は論理的に無理がある。
【0012】
また、オークチップを非アルコール飲料もしくは液体食品と2週間以上接触処理している間にオークチップに付着しているカビや細菌が増殖し、非アルコール飲料もしくは液状食品を汚染するという食品衛生上の問題も指摘される。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、これらの問題点を解決するため鋭意検討した結果、オークチップをアルコール溶液に一定時間浸漬して芳香成分を抽出し、その後にこの抽出物をノンアルコール飲料に加えてアルコール濃度を1%以下に希釈することにより、樽香と熟成香を有するノンアルコール飲料を得ることが可能であり、また、オークチップをアルコール溶液に浸漬するため、カビや細菌などの微生物の増殖を阻止できることを見出した。
本発明者らは、かかる知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0014】
本発明は以下に関するものであるが、この限りではない。
(1)オークチップ抽出物を含有するノンアルコール飲料
(2)微発泡性の(1)に記載のノンアルコール飲料
(3)樽香と熟成香を有する(1)又は(2)に記載のノンアルコール飲料
(4)ノンアルコール飲料として水、果汁、濃縮還元果汁、ハーブ抽出液である(1)又は(2)に記載のノンアルコール飲料
(5)オークチップをアルコール溶液に浸漬してオークチップ抽出物を得る工程、及びオークチップ抽出物をノンアルコール飲料に加えてアルコール濃度を1%以下に希釈する工程を含む(1)または(2)に記載のノンアルコール飲料の製造法
【発明の効果】
【0015】
本発明は、複雑な樽香と熟成香を有する新しいノンアルコール飲料を提供する。これにより、食の価値観が多様化する中にあって消費者の満足度向上に資することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
オークチップにはフレンチオークとアメリカンオークのほか、オーストラリアやロシア産のチップがあり、本発明にはいずれのチップも使用できるが、フレンチチップまたはアメリカンチップを使用するのが好ましい。
【0017】
オークチップは、原料であるオーク材の乾燥方法や加熱(トースト)条件によって、抽出される芳香成分や非芳香成分に量的、質的な違いがある。トースト温度は150℃~200℃でトースト時間は2時間~3時間である。トースト温度の違いによって、ライト、ミディアム、ヘビーの三種類があり、芳香成分はトースト温度が高くなるほど抽出量が増加する。どのチップを使用するかは、好みによって選ぶことができる。本発明においては特にトースト温度に拘らないが、ミディアムトーストが好ましい。
【0018】
チップのサイズには大中小があり、抽出物の抽出スピードが異なる。小さいチップほど抽出速度は速いが、取り扱い上に難点がある。本発明においてはあらゆるサイズのチップが使用きるが、好ましくは中程度サイズの顆粒状チップである。
【0019】
浸漬するチップの量は特に限定されないが、好ましくは抽出溶媒1リットル(L)当たり100g~1kg、より好ましくは300g~700g、さらにより好ましくは400g~600gである。
【0020】
本発明ではオークチップをアルコール溶液に浸漬して芳香成分を抽出するが、アルコールとしてはエチルアルコールであることが好ましい。エチルアルコールの濃度は特に限定されないが、好ましくは5~60V/V%、より好ましくは10~V/V50%、さらにより好ましくは20~40V/V%である。
【0021】
浸漬時間は特に限定されないが、好ましくは1週間~9カ月、より好ましくは1カ月~6カ月である。
【0022】
オークチップ抽出物を加えるノンアルコール飲料としては、例えば水、果汁、濃縮還元果汁、ハーブ抽出液などである。果汁としては、具体的にはぶどう果汁、桃果汁、柑橘果汁、りんご果汁、洋ナシ果汁からなる群のなかから選ばれる1種類の果汁であることが好ましい。ハーブ抽出液としては、ホップ、ペパーミント、タイム、カモミール、レモングラスからなる群のうち1種類または2種類以上のハーブ抽出液を用いることができるが、これらのハーブに限定されるものではない。
【0023】
上記のとおりにして得られたオークチップ抽出物を含有するノンアルコール飲料は、そのまま通常の製造工程を経て完成品にすることができるが、さらに付加価値を高めるため、炭酸ガスを充填して微発泡性にしてもよい。
炭酸ガスの充填は、例えば有限会社村上商店製造の炭酸ガス充填装置BB-2Nを用いて行うことができるが、これに限定されるものではなく、一般的な炭酸ガス充填装置ならどれでも使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0025】
オークチップ抽出物を含有するノンアルコール飲料の製造と樽香及び熟成香についての評価
【0026】
アルコール濃度が25%の焼酎(宝酒造)4Lにミディアムトーストのフレンチオークチップ(丹羽コルク興行株式会社)2kgを浸漬した。時々攪拌して1カ月室温に放置し、芳香成分を抽出した。得られたオークチップ抽出物を水200Lに加えてアルコール濃度を0.5%以下に希釈し、オークチップ抽出物を含有するノンアルコール飲料を得た。
【0027】
このノンアルコール飲料の樽香と熟成香を評価するため、トレーニングを受けた5人の試験者による官能試験を行った。樽香と熟成香が感じられる程度が強い順に3+、2+、+、-の4段階で評価した。結果は表―1のとおりであった。
【表-1】