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特開2024-43488ワーク品質判定方法及びワーク品質判定システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043488
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】ワーク品質判定方法及びワーク品質判定システム
(51)【国際特許分類】
   G01B 11/30 20060101AFI20240322BHJP
   G01B 11/25 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
G01B11/30 A
G01B11/25 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023123583
(22)【出願日】2023-07-28
(31)【優先権主張番号】202211129372.5
(32)【優先日】2022-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(71)【出願人】
【識別番号】000005326
【氏名又は名称】本田技研工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100160794
【弁理士】
【氏名又は名称】星野 寛明
(72)【発明者】
【氏名】栗田 拓美
(72)【発明者】
【氏名】金井 義男
【テーマコード(参考)】
2F065
【Fターム(参考)】
2F065AA53
2F065BB05
2F065BB25
2F065CC11
2F065FF01
2F065FF61
2F065HH05
2F065JJ03
2F065JJ05
2F065JJ08
2F065JJ26
2F065MM06
2F065QQ01
2F065QQ24
2F065QQ25
(57)【要約】
【課題】ワークの基準形状データを必要とせずに、ワーク表面に歪みが発生しているか否かを自動的に判定可能とすること。
【解決手段】ワーク表面に投影した縞模様に基づいて当該ワークの品質判定を行うワーク品質判定システムにおいて、ワークに投影した投影縞模様を観察する観察角度を設定する観察角度設定部と、設定された観察角度において投影縞模様の縞投影角度を設定する縞投影角度設定部と、設定された縞投影角度における投影縞模様から基準縞模様を作成する基準縞模様作成部と、縞投影角度において投影縞模様と基準縞模様との差分を算出するとともに、差分に基づいて品質判定を行う品質判定部と、を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワーク表面に投影した縞模様に基づいて当該ワークの品質判定を行うワーク品質判定方法において、
前記ワークに投影した投影縞模様を観察する角度を設定する観察角度設定工程と、
設定された前記観察する角度において前記投影縞模様の縞投影角度を設定する縞投影角度設定工程と、
設定された前記縞投影角度における前記投影縞模様から基準縞模様を作成する基準縞模様作成工程と、
前記縞投影角度において前記投影縞模様と前記基準縞模様との差分を算出するとともに、前記差分に基づいて品質判定を行う品質判定工程と、
を含む、ワーク品質判定方法。
【請求項2】
前記縞投影角度は、前記ワークの曲率長手方向を投影基準角度とし、
前記品質判定工程は、前記縞投影角度について前記投影基準角度から複数の角度を変更して前記品質判定を行う、請求項1に記載のワーク品質判定方法。
【請求項3】
前記差分は、前記投影縞模様と前記基準縞模様とが成す角度と振幅である、請求項1又は2に記載のワーク品質判定方法。
【請求項4】
ワーク表面に投影した縞模様に基づいて当該ワークの品質判定を行うワーク品質判定システムにおいて、
前記ワークに投影した投影縞模様を観察する観察角度を設定する観察角度設定部と、
設定された前記観察角度において前記投影縞模様の縞投影角度を設定する縞投影角度設定部と、
設定された前記縞投影角度における前記投影縞模様から基準縞模様を作成する基準縞模様作成部と、
前記縞投影角度において前記投影縞模様と前記基準縞模様との差分を算出するとともに、前記差分に基づいて品質判定を行う品質判定部と、
を含む、ワーク品質判定システム。
【請求項5】
前記縞投影角度は、前記ワークの曲率長手方向を投影基準角度とし、
前記品質判定部は、前記縞投影角度について前記投影基準角度から複数の角度を変更して前記品質判定を行う、請求項4に記載のワーク品質判定システム。
【請求項6】
前記差分は、前記投影縞模様と前記基準縞模様とが成す角度と振幅である、請求項4又は5に記載のワーク品質判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワーク品質判定方法及びワーク品質判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車のボディ等の工業製品は、鋼板に対してプレスや溶接等の加工を行うことで成形される。これらの加工は予め定められた設定値に基づいて行われる。しかし、鋼板の板厚、組成等に応じて、成形される工業製品の形状は僅かずつ異なる。そのため、成形された工業製品の形状を観察し、凹み等の歪みが生じているか否かを判定(品質判定)することが行われている。
【0003】
従来、このような品質判定は、ワーク表面に投影した縞模様(以下、「投影縞模様」と呼ぶことがある。)を観察者が目視確認することによって行われていた。しかしながら、目視確認による判定は、観察者の経験に左右されるため、観察者によって判断結果がばらつくという問題がある。
【0004】
そこで、従来、ワーク表面の品質判定を自動化する方法が提案されている。例えば、特許文献1には、ワークのデザイン設計上の3次元形状データである基準形状データを使用して、基準形状に縞模様を投影して基準縞模様を生成し、その基準縞模様をワーク表面に投影した投影縞模様に対してスライドさせることによって、基準縞模様と投影縞模様との差分を算出し、その差分に基づいて自動的に品質判定を行うことが記載されている。これによれば、観察者の経験に左右されることなく、ワーク表面に発生した歪みを自動検出することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2014-224803号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載の方法では、基準縞模様を生成するために、ワークのデザイン設計上の3次元形状データである基準形状データを必要とする。しかし、実際には、3次元データである基準形状データと成形された工業製品の形状とが完全に一致したワークを成形することは困難であり、基準形状データと比較した結果では、実際の歪みと相関がとれないという課題があった。
【0007】
本発明は、ワークの基準形状データを必要とせずに、ワーク表面に歪みが発生しているか否かを自動的に判定可能なワーク品質判定方法及びワーク品質判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 本開示のワーク品質判定方法は、ワーク(例えば、後述のワークW)表面に投影した縞模様に基づいて当該ワークの品質判定を行うワーク品質判定方法において、前記ワークに投影した投影縞模様(例えば、後述の投影縞模様300)を観察する角度を設定する観察角度設定工程(例えば、後述の観察角度設定部12が実行する工程)と、設定された前記観察する角度において前記投影縞模様の縞投影角度を設定する縞投影角度設定工程(例えば、後述の縞投影角度設定部13が実行する工程)と、設定された前記縞投影角度における前記投影縞模様から基準縞模様(例えば、後述の基準縞模様301)を作成する基準縞模様作成工程(例えば、後述の基準縞模様作成部14が実行する工程)と、前記縞投影角度において前記投影縞模様と前記基準縞模様との差分を算出するとともに、前記差分に基づいて品質判定を行う品質判定工程(例えば、後述の品質判定部15が実行する工程)と、を含む。
【0009】
(2) 上記(1)に記載のワーク品質判定方法において、前記縞投影角度は、前記ワークの曲率長手方向を投影基準角度とし、前記品質判定工程は、前記縞投影角度について前記投影基準角度から複数の角度を変更して前記品質判定を行うことが好ましい。
【0010】
(3) 上記(1)又は(2)に記載のワーク品質判定方法において、前記差分は、前記投影縞模様と前記基準縞模様とが成す角度と振幅であることが好ましい。
【0011】
(4) 本開示のワーク品質判定システムは、ワーク(例えば、後述のワークW)表面に投影した縞模様に基づいて当該ワークの品質判定を行うワーク品質判定システム(例えば、後述のワーク品質判定システム1)において、前記ワークに投影した投影縞模様(例えば、後述の投影縞模様300)を観察する観察角度を設定する観察角度設定部(例えば、後述の観察角度設定部12)と、設定された前記観察角度において前記投影縞模様の縞投影角度を設定する縞投影角度設定部(例えば、後述の縞投影角度設定部13)と、設定された前記縞投影角度における前記投影縞模様から基準縞模様(例えば、後述の基準縞模様301)を作成する基準縞模様作成部(例えば、後述の基準縞模様作成部14)と、前記縞投影角度において前記投影縞模様と前記基準縞模様との差分を算出するとともに、前記差分に基づいて品質判定を行う品質判定部(例えば、後述の品質判定部15)と、を含む。
【0012】
(5) 上記(4)に記載のワーク品質判定システムにおいて、前記縞投影角度は、前記ワークの曲率長手方向を投影基準角度とし、前記品質判定部は、前記縞投影角度について前記投影基準角度から複数の角度を変更して前記品質判定を行うことが好ましい。
【0013】
(6) 上記(4)又は(5)に記載のワーク品質判定システムにおいて、前記差分は、前記投影縞模様と前記基準縞模様とが成す角度と振幅であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
上記(1)に記載のワーク品質判定方法によれば、ワークに投影した投影縞模様から基準縞模様を作成するので、ワークの基準形状データを必要とせずに、ワーク表面に歪みが発生しているか否かを自動的に判定可能である。投影縞模様から基準縞模様を生成するため、実物の見え方を基準にした評価を行うことができる。ワークに投影した投影縞模様の観察角度及び各観察角度において投影縞模様の縞投影角度を設定するため、様々な角度によってワーク表面の定量評価が可能となり、評価結果にバラつきが発生することのない高精度の品質判定を行うことができる。
【0015】
上記(2)に記載のワーク品質判定方法によれば、ワークの曲率長手方向を基準として縞投影角度を設定するため、特に判定対象面が狭い曲面である場合に安定した結果が得られる。これによって、汎用性の高い品質判定方法を提供することができる。
【0016】
上記(3)に記載のワーク品質判定方法によれば、投影縞模様と基準縞模様とが成す角度及び振幅を求めることで差分を算出するので、投影縞模様に対して基準縞模様をスライドさせる等の工程が不要である。そのため、より簡易且つ迅速な品質判定を行うことができる。
【0017】
上記(4)に記載のワーク品質判定システムによれば、ワークに投影した投影縞模様から基準縞模様を作成するので、ワークの基準形状データを必要とせずに、ワーク表面に歪みが発生しているか否かを自動的に判定可能である。投影縞模様から基準縞模様を生成するため、実物の見え方を基準にした評価を行うことができる。ワークに投影した投影縞模様の観察角度及び各観察角度において投影縞模様の縞投影角度を設定するため、様々な角度によってワーク表面の定量評価が可能となり、評価結果にバラつきが発生することのない高精度の品質判定を行うことができる。
【0018】
上記(5)に記載のワーク品質判定システムによれば、ワークの曲率長手方向を基準として縞投影角度を設定するため、特に判定対象面が狭い曲面である場合に安定した結果が得られる。これによって、汎用性の高い品質判定システムを提供することができる。
【0019】
上記(6)に記載のワーク品質判定システムによれば、投影縞模様と基準縞模様とが成す角度及び振幅を求めることで差分を算出するので、投影縞模様に対して基準縞模様をスライドさせる等の煩雑な工程が不要である。そのため、より簡易且つ迅速な品質判定を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】ワーク品質判定システムの機能的構成を示すブロック図である。
図2A】ワーク品質判定システムの構成の一例を示す図である。
図2B】ワーク品質判定システムの構成の他の一例を示す図である。
図3】ワーク品質判定システムの処理の流れの一例を示すフローチャートである。
図4】品質判定対象であるワークの一部を示す斜視図である。
図5】判定対象面に対する観察角度の設定方法を説明する判定対象面の正面図である。
図6】判定対象面に対する観察角度の設定方法を説明する判定対象面の平面図である。
図7】ワークに投影された投影縞模様を示す図である。
図8】ワークの曲率長手方向及び曲率短手方向を説明する図である。
図9】ワークに投影された投影縞模様の縞投影角度を説明する図である。
図10】ワークに投影された投影縞模様から基準縞模様を作成する方法を説明する図である。
図11A】基準縞模様と投影縞模様とが成す角度及び振幅を算出する方法を説明する模式図である。
図11B】基準縞模様と投影縞模様とが成す角度及び振幅を算出する方法を説明する模式図である。
図12】基準縞模様と投影縞模様とが成す角度及び振幅を算出する方法を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本開示のワーク品質判定方法及び当該方法が適用されたワーク品質判定システムについて、図1図12を参照して説明する。まず、図1を参照して、本開示のワーク品質判定システム1の機能を説明する。図1は、ワーク品質判定システム1の機能的構成を示すブロック図である。
【0022】
[ワーク品質判定システム1の機能]
ワーク品質判定システム1は、縞投影部11と、観察角度設定部12と、縞投影角度設定部13と、基準縞模様作成部14と、品質判定部15と、記憶部16と、を含んで構成される。
【0023】
縞投影部11は、ワークWの表面に対して品質判定に用いる縞模様を投影する。具体的には、縞投影部11は、ワークWの表面のうち品質の判定を行う判定対象面を特定し、その判定対象面に縞模様を投影する。
【0024】
観察角度設定部12は、ワークWの表面に投影した縞模様である投影縞模様を観察する角度(以下、「観察角度」と呼ぶことがある。)を設定する。投影縞模様の観察角度は、詳しくは後述するが、視野をワークWの前後及び上下に異ならせた複数の角度に設定される。
【0025】
縞投影角度設定部13は、ワークWの表面に対して投影する縞模様の投影角度を設定する。投影角度は、詳しくは後述するが、投影基準角度に対して投影縞模様を構成する線分の延び方向が成す角度を異ならせた複数の投影角度に設定される。
【0026】
基準縞模様作成部14は、ワークWの判定対象面に投影された投影縞模様をスムージングして、当該投影縞模様から基準縞模様を作成する。ワークWの表面に歪み(凹部及び凸部)が発生している場合、その歪みは投影縞模様の折れとして顕在化する。基準縞模様作成部14は、ワークWの判定対象面に投影された投影縞模様の各線分をスムージングすることによって、投影縞模様に対して折れの無いもしくは折れの少ない基準縞模様を作成する。スムージングは、投影縞模様を構成する線分上の複数の制御点を間引くことで、当該線分から1本のスムーズな曲線を形成することによって得られる。このようなスムージング処理は公知であり、例えば、NURBS(Non-Uniform Rational B-Spline)等の既存の方法を採用することができる。
【0027】
品質判定部15は、観察角度設定部12で設定される投影縞模様の各観察角度及び縞投影角度設定部13で設定される投影縞模様の各投影角度において、投影縞模様と基準縞模様とを比較して差分を算出するとともに、算出した差分に基づいてワークWの判定対象面に歪みが存在するか否かの品質判定を行う。
【0028】
記憶部16は、ワークWの3次元形状データや各処理において生成されたデータ等を記憶する。
【0029】
[ワーク品質判定システム1の構成]
次に、図2A及び図2Bを参照して、ワーク品質判定システム1の具体的な構成について説明する。ワーク品質判定システム1は、少なくとも3次元画像処理が可能なコンピュータ102を含んで構成される。
【0030】
ワーク品質判定システム1の一例を図2Aに示す。図2Aに示すように、ワーク品質判定システム1は、ワークWの表面形状を測定可能な3次元スキャナ101と、コンピュータ102とを含んで構成される。本実施形態におけるワーク品質判定システム1は、品質判定対象であるワークWとして、自動車のボディが使用される場合を示す。しかし、品質判定対象であるワークWは、自動車のボディに限定されず、成形後の表面の品質判定を行うことが求められる任意の工業製品であってよい。
【0031】
3次元スキャナ101は、ワークWの表面形状を測定し、その測定結果である3次元形状データをコンピュータ102に供給する。コンピュータ102には、測定されたワークWの表面形状への縞模様の投影、投影縞模様の観察角度の変更及び投影角度の変更等の3次元画像処理が可能な所定のプログラムがインストールされている。コンピュータ102は、3次元スキャナ101から供給された3次元形状データを用いて、後述するワーク品質判定方法を実行する3次元画像処理を行うことによって、ワークWの品質判定を行う。
【0032】
ワーク品質判定システム1の他の一例を図2Bに示す。図2Bに示すように、ワーク品質判定システム1は、ワークWの表面に縞模様を投影する縞投影装置103と、ワークWに投影された縞模様(投影縞模様)を撮影するカメラ104と、コンピュータ102と、を含んで構成される。
【0033】
縞投影装置103は、縞模様が形成された壁面であり、ワークWの周囲に配置される。縞投影装置103からワークWに向けて光が照射されると、縞投影装置103に形成された縞模様がワークWの表面に投影される。このとき、縞投影装置103は、ワークWの表面に対する投影縞模様の投影角度を異なる複数の角度に設定することができる。カメラ104は、ワークWの表面に投影された投影縞模様を撮影し、撮影した投影縞模様の画像データをコンピュータ102に供給する。このとき、カメラ104は、視野を変更することによってワークWを様々な角度から撮影することができる。これによって、カメラ104は、投影縞模様の観察角度を異なる複数の角度に設定することができる。コンピュータ102は、カメラ104から供給された画像データ(投影縞模様)を用いて、後述するワーク品質判定方法を実行する3次元画像処理を行うことによって、ワークWの品質判定を行う。
【0034】
なお、縞投影装置103は、光源を備えない単なる壁であってもよい。ワークWの周囲に設けられた壁に縞模様が形成されていれば、縞投影装置103からワークWへ光を照射せずとも、ワークWの表面には縞模様が映し出される。
【0035】
図2Aに示す構成のワーク品質判定システム1では、コンピュータ102内のプロセッサ及びメモリが上述の縞投影部11、観察角度設定部12、縞投影角度設定部13、基準縞模様作成部14、品質判定部15及び記憶部16の機能を発揮する。図2Bに示す構成のワーク品質判定システム1では、縞投影装置103が縞投影部11及び縞投影角度設定部13として機能し、カメラ104が観察角度設定部12として機能し、コンピュータ102内のプロセッサ及びメモリが基準縞模様作成部14、品質判定部15及び記憶部16として機能する。
【0036】
[ワーク品質判定システム1の動作]
続いて、図3図12を参照して、ワーク品質判定システム1の動作について説明する。本実施形態に示すワーク品質判定システム1の動作は、図2Aに示す構成により実現されるワーク品質判定システム1の動作を例示する。
【0037】
図3は、ワーク品質判定システム1の処理の流れを示すフローチャートである。図3を参照して、ステップS1において、3次元スキャナ101は、ワークWの表面を測定することでワークWの表面の3次元形状データを取得し、取得した3次元形状データをコンピュータ102に供給する。
【0038】
続いて、ステップS2において、コンピュータ102(縞投影部11)は、3次元スキャナ101から供給された3次元形状データから、品質判定を行う判定対象面(CAD面(CAD:Computer Aided Design))を作成する。ここでは、図4に示すように、自動車のボディの左ドア200を判定対象面としている。図中に示す方向において、Tはボディの前後方向であり、Bはボディの幅方向であり、Hはボディの上下方向である。
【0039】
次に、ステップS3において、コンピュータ102(観察角度設定部12)は、ステップS2で作成した判定対象面に対して、当該判定対象面を定量評価するための投影縞模様の観察角度を設定する(観察角度設定工程)。
【0040】
判定対象面に対する投影縞模様の観察角度の設定方法を、図5及び図6を参照して説明する。図5は、判定対象面である左ドア200の正面図であり、図6は、判定対象面である左ドア200の平面図である。
【0041】
まず、図5に示すように、コンピュータ102(観察角度設定部12)は、判定対象面(左ドア200)の表面において評価しようとする評価箇所Waと、評価箇所Waに含まれる評価点Epの座標値と、を選択する。評価箇所Waの指定方法は、状況に応じて様々な方法を採用することができる。例えば、評価箇所Waは、検査員の官能評価で任意に指定してもよいし、判定対象面(左ドア200)の曲率解析(ガウス曲率)で凹凸をカラーマップ化し、凹凸変化の急激な部分を指定してもよい。また、事前のCAE(Computer Aided Engineering)解析で予め評価箇所Waを定義しておいてもよい。
【0042】
続いて、コンピュータ102(観察角度設定部12)は、まず、図6に示すように、評価点Epを通る水平断面線Xを設定し、その水平断面線Xに対して、判定対象面(左ドア200)の曲率に対する正面D0を定義する。曲率に対する正面D0は、評価箇所Wa上の水平断面線Xにおける評価点Epの接線に垂直な方向である。次に、コンピュータ102(観察角度設定部12)は、その正面D0に対して水平方向に、ボディの前方側の所定角度+θ1及びボディの後方側の所定角度-θ1を設定する。この所定角度は前方側と後方側とで同一角度に設定される。これによって、同一の評価箇所Waに対して前方側と後方側の観察条件を揃えることができ、適切で高精度の品質判定を行うことができる。
【0043】
具体的な角度±θは、評価箇所Waに発生している歪みを顕在化でき、ワークWの使用者(自動車の所有者)の目線から現実的な角度に設定されることが好ましく、本実施形態では±75°に設定されている。しかし、具体的な角度±θはワークWの種類、評価箇所Waの位置等によって異なるものであり、±75°に限定されない。
【0044】
続いて、コンピュータ102(観察角度設定部12)は、図5に示すように、判定対象面(左ドア200)に対する高さ方向の位置を複数異ならせた角度を設定する。具体的には、評価箇所Waの観察者の立ち位置の高さH1の角度、しゃがみ位置の高さH2の角度、及び座り位置の高さH3の角度である。
【0045】
投影縞模様の観察角度は、上記の前後方向の角度(±θ)と高さ方向の角度(高さH1,H2,H3)とを組み合わせることによって設定される。したがって、本実施形態の場合、観察角度は全部で6通り設定可能である。例えば、コンピュータ102(観察角度設定部12)は、初期値を前方(+75°)及び立ち位置の高さH1の角度に設定し、角度変更のタイミング(後述するステップS11)が到来する毎に、残りの5通りの角度の組み合わせ(前方+高さH2、前方+高さH3、後方+高さH1、後方+高さH2、後方+高さH3)に順次変更する。これによって、評価箇所Waに対する歪みが最も顕在化する観察角度を選択することができる。
【0046】
次に、ステップS4において、コンピュータ102(縞投影部11)は、図7に示すように、ステップS2で作成した判定対象面に対して縞模様(投影縞模様300)を投影する。縞模様の投影は、既存の3次元CADソフトウェアにおけるゼブラ表示機能により実現することができる(縞模様投影工程)。
【0047】
続いて、ステップS5において、コンピュータ102(縞投影角度設定部13)は、判定対象面(左ドア200)の曲率から投影縞模様300の縞投影角度を設定する(縞投影角度設定工程)。
【0048】
具体的には、まず、図8に示すように、判定対象面(左ドア200)の曲率長手方向と曲率短手方向において、曲率が最大となる方向である曲率長手方向を決定する。次に、図9に示すように、判定対象面(左ドア200)上の評価箇所Waを通る曲率長手方向に沿う水平断面線Xに対して投影縞模様300の線分が成す角度θ2を投影縞模様300の縞投影角度として設定する。図8に示す本実施形態では、縞投影角度(θ2)の初期値として投影基準角度は155°に設定する。したがって、ステップS5では、コンピュータ102(縞投影部11)は、最初の投影縞模様300の縞投影角度(θ2)として155°を設定する。
【0049】
なお、コンピュータ102(縞投影部11)は、角度変更のタイミング(後述するステップS9)が到来する毎に、投影縞模様300の縞投影角度(θ2)を、投影基準角度(155°)から±方向に所定角度ずつ変更した複数段階に設定することができる。本実施形態では、投影縞模様300の縞投影角度(θ2)を、初期値である投影基準角度(155°)に対して±30°のレンジで±10°ずつ変更することによって、155°、165°、175°、185°、145°、135°、125°の合計7通りに設定するように構成される。
【0050】
続いて、ステップS6において、コンピュータ102(基準縞模様作成部14)は、図10に示すように、判定対象面(左ドア200)の評価箇所Waにおける投影縞模様300をスムージングすることによって、基準縞模様301を作成する(基準縞模様作成工程)。
【0051】
基準縞模様301は、投影縞模様300に対して、ワークW表面の歪みが実質的にキャンセルされた曲線として作成される。基準縞模様301は、実測線である投影縞模様300を使用して作成されるため、コンピュータ102(基準縞模様作成部14)は、ワークWの基準形状データ等の別途の形状データを必要とせずに基準縞模様301を作成可能である。
【0052】
続いて、ステップS7において、コンピュータ102(品質判定部15)は、観察角度及び縞投影角度の初期値における投影縞模様300と基準縞模様301とを比較する。具体的には、コンピュータ102(品質判定部15)は、評価箇所Waにおける投影縞模様300と基準縞模様301との差分である投影縞模様300の歪みを算出する。
【0053】
投影縞模様300の歪みは、評価箇所Waにおいて投影縞模様300と基準縞模様301とが成す角度及び振幅から、以下の式によって求められる。
歪み=角度×振幅
【0054】
投影縞模様300と基準縞模様301とが成す角度は、次のように定義される。まず、図11A及び図11Bに示すように、基準縞模様301上から任意の評価点を選択し、これを基準評価点Aと定義する。次に、基準評価点Aから、基準縞模様301に対して垂直な法線を引き、この法線と投影縞模様300との交点を基準評価点Aに対応する現物評価点Bと定義する。次に、基準評価点Aにおける基準縞模様301の接ベクトルAと、現物評価点Bにおける投影縞模様300の接ベクトルBとを算出し、これらベクトルAとBの成す角度±θ3を、投影縞模様300と基準縞模様301とが成す角度と定義する。
【0055】
コンピュータ102(品質判定部15)は、投影縞模様300と基準縞模様301とが成す角度±θ3を、複数の評価点についてそれぞれ算出する。次に、コンピュータ102(品質判定部15)は、算出した角度±θ3の絶対値が所定の角度以上となる範囲を抽出する。本実施形態では、所定の角度は5°に設定されている。次に、コンピュータ102(品質判定部15)は、図12に示すように、投影縞模様300上において、算出した角度±θ3の絶対値が所定の角度以上となる評価点が連続している範囲を1つのグループに設定する。図12には、グループ1~3が示されている。
【0056】
振幅は、基準評価点Aと、この基準評価点Aに対応する現物評価点Bとの間の法線の長さによって求められる。図11Aに示すように、基準縞模様301に対して投影縞模様300が下方にずれている場合、選択された基準評価点Aと現物評価点Bとの間の法線は「-方向」であると定義する。図11Bに示すように、基準縞模様301に対して投影縞模様300が上方にずれている場合、選択された基準評価点Aと現物評価点Bとの間の法線は「+方向」であると定義する。
【0057】
上記のように、投影縞模様300と基準縞模様301とが成す角度は±方向に変化するため、コンピュータ102(品質判定部15)は、上記グループのそれぞれについて、以下の式によって振幅を算出する。
振幅={(-方向の最大値)+(+方向の最大値)}÷2
【0058】
次に、コンピュータ102(品質判定部15)は、各グループにおいてそれぞれ算出した角度の最大値と振幅の最大値とから、各グループのそれぞれの歪みを上記の式(角度×振幅)によって算出する。算出された歪みの値は、記憶部16に記憶される。
【0059】
コンピュータ102(品質判定部15)は、一つの評価箇所Waにおける歪みの算出を、複数の異なる各観察角度及び複数の異なる各縞投影角度についてそれぞれ実行する。したがって、続いて、ステップS8において、コンピュータ102(品質判定部15)は、投影縞模様300の縞投影角度について、投影基準角度(155°)から±30°のレンジの全ての縞投影角度における投影縞模様300と基準縞模様301との比較が完了したかどうかを判別する。ここでは、縞投影角度は初期値の投影基準角度(155°)に設定されているためステップS8はNOであり、処理はステップS9に移行する。
【0060】
ステップS9において、コンピュータ102(品質判定部15)は、縞投影角度を、初期値である投影基準角度(155°)から、例えば+10°とした角度(165°)に変更する。その後、コンピュータ102(品質判定部15)は、上記のステップS5からステップS8までの処理を繰り返す。投影基準角度(155°)から±30°のレンジで±10°ずつ変更した7通り全ての縞投影角度について、上記のステップS5からステップS7までの処理が完了すると、ステップS8はYESとなり、処理はステップS10に移行する。
【0061】
続いて、ステップS10において、コンピュータ102(品質判定部15)は、判定対象面の評価箇所Waについて、他の観察角度はないかどうか、すなわち、全ての観察角度における投影縞模様300と基準縞模様301との比較が完了したかどうかを判別する。ここでは、観察角度は初期値の前方+75°及び立ち位置の高さH1の角度に設定されているためステップS10はNOであり、処理はステップS11に移行する。
【0062】
ステップS11において、コンピュータ102(品質判定部15)は、観察角度を、初期値である前方+75°及び立ち位置の高さH1の角度から、例えば前方+75°及びしゃがみ位置の高さH2の角度に変更する。その後、コンピュータ102(品質判定部15)は、上記のステップS3からステップS10までの処理を繰り返す。6通り全ての観察角度について、上記のステップS3からステップS8までの処理が完了すると、ステップS10はYESとなり、処理はステップS12に移行する。
【0063】
ステップS12において、コンピュータ102(品質判定部15)は、縞投影角度及び観察角度のそれぞれのレンジ内における比較結果から、判定対象面の評価箇所Waにおける品質判定を行う(品質判定工程)。
【0064】
すなわち、コンピュータ102(品質判定部15)は、縞投影角度及び観察角度のそれぞれのレンジ内においてグルーブ毎に算出した歪みの値を比較し、そのうちの最大の歪みの値を代表値として、ワークWの評価箇所Waの品質の良否を判定する。品質の良否の判断は、代表値とした歪みの値を閾値と比較し、歪みの値が閾値を超える場合に品質不良であると判別することによって行うことができる。
【0065】
ステップS12における品質判定が終了すると、品質判定処理は終了する。
【0066】
以上説明したワーク品質判定システム1によれば、以下のような効果を奏する。
【0067】
ワーク品質判定システム1において、観察角度設定部12は、ワークWに投影した投影縞模様300を観察する観察角度を設定し、縞投影角度設定部13は、設定された観察角度において投影縞模様300の縞投影角度を設定し、基準縞模様作成部14は、設定された縞投影角度における投影縞模様300から基準縞模様301を作成する。そして、品質判定部15は、縞投影角度において投影縞模様300と基準縞模様301との差分を算出するとともに、その差分に基づいて品質判定を行う。この構成によれば、ワークWに投影した投影縞模様300から基準縞模様301を作成するので、ワークWの基準形状データを必要とせずに、ワークW表面に歪みが発生しているか否かを自動的に判定することができる。投影縞模様300から基準縞模様301を生成するため、実物の見え方を基準にした評価を行うことができる。ワークWに投影した投影縞模様300の観察角度及び各観察角度において投影縞模様300の縞投影角度を設定するため、様々な角度によってワークW表面の定量評価が可能となり、評価結果にバラつきが発生することのない高精度の品質判定を行うことができる。
【0068】
上記のワーク品質判定システム1において、縞投影角度は、ワークWの曲率長手方向を投影基準角度とし、品質判定部15は、縞投影角度について投影基準角度から複数の角度を変更して品質判定を行う。この構成によれば、ワークWの曲率長手方向を基準として縞投影角度を設定するため、特に判定対象面が狭い曲面である場合に安定した結果が得られる。これによって、汎用性の高いワーク品質判定システム1を提供することができる。
【0069】
上記のワーク品質判定システム1において、投影縞模様300と基準縞模様301との差分は、投影縞模様300と基準縞模様301とが成す角度と振幅である。この構成によれば、投影縞模様300と基準縞模様301とが成す角度及び振幅を求めることで差分を算出するので、投影縞模様300に対して基準縞模様301をスライドさせる等の煩雑な工程が不要である。そのため、より簡易且つ迅速な品質判定を行うことができる。
【0070】
以上説明したワーク品質判定方法によれば、上記のワーク品質判定システム1と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0071】
1 ワーク品質判定システム
12 観察角度設定部
13 縞投影角度設定部
14 基準縞模様作成部
15 品質判定部
300 投影縞模様
301 基準縞模様
W ワーク
図1
図2A
図2B
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図12