(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043490
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】光学ガラスおよび光学素子
(51)【国際特許分類】
C03C 3/068 20060101AFI20240322BHJP
G02B 1/00 20060101ALI20240322BHJP
【FI】
C03C3/068
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023136378
(22)【出願日】2023-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2022148427
(32)【優先日】2022-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】522503632
【氏名又は名称】豪雅光電科技(威海)有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】茅野 康平
(72)【発明者】
【氏名】桑谷 俊伍
【テーマコード(参考)】
4G062
【Fターム(参考)】
4G062AA04
4G062BB01
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(57)【要約】
【課題】 1.77~1.95の範囲の屈折率ndおよび42~48の範囲のアッベ数νdを有し、Ta2O5の含有量が低減され、原料コストが低減された光学ガラス、および上記光学ガラスからなる光学素子を提供すること。
【解決手段】 質量%表示で、SiO2の含有量が3~13%、B2O3の含有量が13~23%、B2O3の含有量に対するSiO2の含有量の質量比[SiO2/B2O3]が0.30~0.70、La2O3の含有量が50%以下、Gd2O3の含有量が30%以下、Y2O3の含有量が13%以下、La2O3、Gd2O3、およびY2O3の合計含有量[La2O3+Gd2O3+Y2O3]が53~75%、ZrO2の含有量が12%以下、Nb2O5の含有量が7%以下、ZrO2およびNb2O5の合計含有量[ZrO2+Nb2O5]が3.0~12.0%、ZnOの含有量が7.8%以下、TiO2の含有量が7.8%以下、WO3の含有量が7.8%以下、Nb2O5、ZnO、TiO2、およびWO3の合計含有量[Nb2O5+ZnO+TiO2+WO3]が7.8%以下、Ta2O5の含有量が4.9%以下、SiO2、Al2O3、およびB2O3の合計含有量[SiO2+Al2O3+B2O3]が24~32%、屈折率ndが1.77~1.95、アッベ数νdが42~48、比重が4.40~5.20である、光学ガラス。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%表示で、
SiO2の含有量が3~13%、
B2O3の含有量が13~23%、
B2O3の含有量に対するSiO2の含有量の質量比[SiO2/B2O3]が0.30~0.70、
La2O3の含有量が50%以下、
Gd2O3の含有量が30%以下、
Y2O3の含有量が13%以下、
La2O3、Gd2O3、およびY2O3の合計含有量[La2O3+Gd2O3+Y2O3]が53~75%、
ZrO2の含有量が12%以下、
Nb2O5の含有量が7%以下、
ZrO2およびNb2O5の合計含有量[ZrO2+Nb2O5]が3.0~12.0%、
ZnOの含有量が7.8%以下、
TiO2の含有量が7.8%以下、
WO3の含有量が7.8%以下、
Nb2O5、ZnO、TiO2、およびWO3の合計含有量[Nb2O5+ZnO+TiO2+WO3]が7.8%以下、
Ta2O5の含有量が4.9%以下、
SiO2、Al2O3、およびB2O3の合計含有量[SiO2+Al2O3+B2O3]が24~32%、
屈折率ndが1.77~1.95、
アッベ数νdが42~48、
比重が4.40~5.20である、
光学ガラス。
【請求項2】
請求項1に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学ガラスおよび光学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、車載用光学機器、モバイル機器等に搭載される撮像光学系、およびプロジェクタなどの投射光学系等を構成する光学素子材料として、1.77~1.95の範囲の屈折率ndおよび42~48の範囲のアッベ数νdを有する高屈折率・低分散の光学ガラスが使用されている。
【0003】
ガラス成分の中で、希土類酸化物は、分散を大きく高めることなく(アッベ数を大きく下げることなく)屈折率を高めることができるため、高屈折率・低分散の光学ガラスを作製するために有用な成分である。希土類酸化物の中でも特にTa2O5は、ガラスの着色を抑制しながら、ガラスに高屈折率・低分散特性を付与できる成分として知られている。しかしながら、Ta2O5は、ガラス成分の中でも原料が突出して高価な成分である。すなわち、Ta2O5の含有量によってガラスの原料コストが大幅に上昇するため、Ta2O5を含む高屈折率・低分散の光学ガラスにおいては、価格が高額となることが問題となっていた。
【0004】
特許文献1~3には、Ta2O5の含有量を低減した光学ガラスが開示されている。しかしながら、特許文献1、3には、1.77~1.95の範囲の屈折率ndおよび42~48の範囲のアッベ数νdを有する光学ガラスは開示されていない。具体的には、特許文献1の光学ガラスでは、屈折率ndが小さくアッベ数νdが高い。また、特許文献3の光学ガラスでは、屈折率ndが小さすぎる。よって、特許文献1、3では、本発明で所望する光学恒数、すなわち上記範囲の屈折率ndおよびアッベ数νdを有する光学ガラスは提案されていない。そして、特許文献2の光学ガラスでは、Ta2O5の含有量は低減されている一方、Ta2O5と同じ希土類酸化物であるGd2O3の含有量が多くなっている。Gd2O3は、Ta2O5と同様に、非常に高価な成分である。すなわち、特許文献2の光学ガラスでは、ガラスの原料コストの上昇を十分に抑制できていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007-106611号公報
【特許文献2】特開2007-269584号公報
【特許文献3】中国特許公報110835227号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、1.77~1.95の範囲の屈折率ndおよび42~48の範囲のアッベ数νdを有し、Ta2O5の含有量が低減され、原料コストが低減された光学ガラス、および上記光学ガラスからなる光学素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)質量%表示で、
SiO2の含有量が3~13%、
B2O3の含有量が13~23%、
B2O3の含有量に対するSiO2の含有量の質量比[SiO2/B2O3]が0.30~0.70、
La2O3の含有量が50%以下、
Gd2O3の含有量が30%以下、
Y2O3の含有量が13%以下、
La2O3、Gd2O3、およびY2O3の合計含有量[La2O3+Gd2O3+Y2O3]が53~75%、
ZrO2の含有量が12%以下、
Nb2O5の含有量が7%以下、
ZrO2およびNb2O5の合計含有量[ZrO2+Nb2O5]が3.0~12.0%、
ZnOの含有量が7.8%以下、
TiO2の含有量が7.8%以下、
WO3の含有量が7.8%以下、
Nb2O5、ZnO、TiO2、およびWO3の合計含有量[Nb2O5+ZnO+TiO2+WO3]が7.8%以下、
Ta2O5の含有量が4.9%以下、
SiO2、Al2O3、およびB2O3の合計含有量[SiO2+Al2O3+B2O3]が24~32%、
屈折率ndが1.77~1.95、
アッベ数νdが42~48、
比重が4.40~5.20である、
光学ガラス。
【0008】
(2)上記(1)に記載の光学ガラスからなる光学素子。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様によれば、1.77~1.95の範囲の屈折率ndおよび42~48の範囲のアッベ数νdを有し、Ta2O5の含有量が低減され、原料コストが低減された光学ガラスを提供することができる。また、本発明の一態様によれば、上記光学ガラスからなる光学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明および本明細書において、光学ガラスのガラス組成は、特記しない限り、酸化物基準で表示する。ここで「酸化物基準のガラス組成」とは、ガラス原料が熔融時にすべて分解されて光学ガラス中で酸化物として存在するものとして換算することにより得られるガラス組成をいい、各ガラス成分の表記は慣習にならい、SiO2、TiO2などと記載する。ガラス成分の含有量および合計含有量は、特記しない限り質量基準であり、「%」は「質量%」を意味する。
【0011】
ガラス成分の含有量は、公知の方法、例えば、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)等の方法で定量することができる。また、本明細書および本発明において、構成成分の含有量が0%とは、この構成成分を実質的に含まないことを意味し、該成分が不可避的不純物レベルで含まれることを許容する。
【0012】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、SiO2の含有量は3~13%である。SiO2の含有量の下限は、好ましくは3.5%であり、さらには4.0%、4.5%、5.0%の順により好ましい。また、SiO2の含有量の上限は、好ましくは12.5%であり、さらには12.0%、11.5%、11.0%の順により好ましい。
【0014】
SiO2は、ガラスのネットワーク形成成分であり、ガラスの熱的安定性を向上させ、化学的耐久性を改善する働きを有する成分である。SiO2の含有量を上記範囲とすることで、ガラスの熱的安定性が向上し、ガラス製造時の失透を抑制できる。また、化学的耐久性を改善できる。さらに、成形に適した粘度を有する熔融ガラスを調製できる。一方、SiO2の含有量が多すぎると、屈折率ndが低下するおそれがあり、熔融性が低下して原料の熔け残りが生じるおそれがある。さらに、ガラス転移温度Tgが過剰に上昇するおそれもある。また、SiO2の含有量が少なすぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがあり、また、熔融ガラスの粘性が低下して所望の粘度が得られないおそれがある。
【0015】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、B2O3の含有量は13~23%である。B2O3の含有量の下限は、好ましくは13.5%であり、さらには14.0%、14.5%、15.0%の順により好ましい。また、B2O3の含有量の上限は、好ましくは22.5%であり、さらには22.0%、21.5%、21.0%の順により好ましい。
【0016】
B2O3は、ガラスの熱的安定性、熔融性を改善する働きを有する成分である。B2O3の含有量を上記範囲とすることにより、ガラスの熱的安定性が向上し、ガラス製造時の失透を抑制できる。また、熔融性が改善されて、ガラス原料の熔け残りが低減し、均質なガラスを得ることができる。一方、B2O3の含有量が多すぎると、屈折率ndが低下するおそれがある。また、B2O3の含有量が少なすぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがあり、さらに、熔融性が低下して原料の熔け残りが生じるおそれがある。
【0017】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、B2O3の含有量に対するSiO2の含有量の質量比[SiO2/B2O3]は0.30~0.70である。該質量比の下限は、好ましくは0.35であり、さらには0.40、0.43、0.44、0.45、0.46の順により好ましい。また、該質量比の上限は、好ましくは0.69であり、さらには0.68、0.67、0.66の順により好ましい。質量比[SiO2/B2O3]を上記範囲とすることで、ガラスの熱的安定性が改善され、また、成形に適した粘度を有する熔融ガラスを調製できる。
【0018】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、La2O3の含有量は50%以下である。La2O3の含有量の上限は、好ましくは49%であり、さらには48%、47%、46%の順により好ましい。また、La2O3の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには10%、20%、30%、31%、31.5%、32.0%、32.5%の順により好ましい。
【0019】
La2O3は、アッベ数νdを大きく低下させることなく屈折率ndを増加させる働きを有する成分である。La2O3の含有量を上記範囲とすることで、所望の光学恒数を有する光学ガラスが得られる。また、ガラスの熱的安定性が向上し、ガラス製造時の失透を抑制できる。さらに、熔融性が改善されて、ガラス原料の熔け残りを抑制できる。
一方、La2O3の含有量が多すぎると、比重が増大するおそれがあり、またガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。さらに、ガラス転移温度Tgが過剰に上昇するおそれもある。なお、希土類成分の中で、La2O3は、Gd2O3およびYb2O3と比較して、ガラスの比重を増大させにくい成分である。また、La2O3は比較的多く含有させても、ガラスの熱的安定性を維持できる成分でもある。さらに、La2O3は、Yb2O3と同様に近赤外線領域に吸収を有さないため、近赤外線の透過性を維持できる成分でもある。
【0020】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Gd2O3の含有量は30%以下である。Gd2O3の含有量の上限は、好ましくは29.0%であり、さらには28.0%、27.0%、26.0%の順により好ましい。また、Gd2O3の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには1.0%、2.0%、3.0%、8.0%、10.0%、12.0%の順により好ましい。
【0021】
Gd2O3は、アッベ数νdを大きく低下させることなく屈折率ndを増加させる働きを有する成分である。Gd2O3の含有量を上記範囲とすることで、所望の光学恒数を有する光学ガラスが得られる。また、ガラスの熱的安定性が向上し、ガラス製造時の失透を抑制できる。さらに、熔融性が改善されて、ガラス原料の熔け残りを抑制できる。そして、ガラスの着色を抑制できる。一方、Gd2O3は高価な成分であるため、Gd2O3の含有量が多すぎると、原料コストが増大するおそれがある。また、Gd2O3の含有量が多すぎると、ガラスの比重が増大するおそれがある。さらに、Gd2O3はガラスの可視域の短波長側における透過率を低下させる作用を有するため、Gd2O3の含有量が多すぎると、ガラスの可視域の短波長側における透過率が低下するおそれがある。そして、Gd2O3の含有量が多すぎると、ガラス転移温度Tgが上昇するおそれもある。
【0022】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Y2O3の含有量は13%以下である。Y2O3の含有量の上限は、好ましくは12.0%であり、さらには11.0%、10.0%、9.0%の順により好ましい。また、Y2O3の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.5%、1.0%、1.5%、2.0%、3.0%、4.0%、5.0%、6.0%の順により好ましい。
【0023】
Y2O3は、アッベ数νdを大きく低下させることなく屈折率ndを増加させる働きを有する成分である。Y2O3の含有量を上記範囲とすることで、所望の光学恒数を有する光学ガラスが得られる。また、ガラスの熱的安定性が向上し、ガラス製造時の失透を抑制できる。さらに、熔融性が改善されて、ガラス原料の熔け残りを抑制できる。一方、Y2O3の含有量が多すぎると、ガラス転移温度Tgが上昇するおそれがある。また、希土類成分の中で、Y2O3は、比較的多く含有させても、ガラスの熱的安定性を維持できる成分であるが、その含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。
【0024】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、La2O3、Gd2O3、およびY2O3の合計含有量[La2O3+Gd2O3+Y2O3]は53~75%である。該合計含有量の下限は、好ましくは54.0%であり、さらには55.0%、56.0%、56.5%の順により好ましい。また、該合計含有量の上限は、好ましくは74.0%であり、さらには73.0%、72.0%、71.0%の順により好ましい。該合計含有量を上記範囲とすることで、アッベ数νdを大きく低下させることなく屈折率ndを増加させて、所望の光学恒数を有する光学ガラスが得られる。また、ガラスの熱的安定性が向上し、ガラス製造時の失透を抑制できる。
【0025】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZrO2の含有量は12%以下である。ZrO2の含有量の上限は、好ましくは11.5%であり、さらには11.0%、10.5%、10.0%の順により好ましい。また、ZrO2の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.5%、1.0%、1.5%の順により好ましい。
【0026】
ZrO2は、屈折率ndを高めるとともに、ガラスの熱的安定性を改善する機能を有する成分である。ZrO2の含有量を上記範囲とすることで、所望の光学恒数を有し、熱的安定性が改善された、光学ガラスが得られる。一方、ZrO2の含有量が多すぎると、熱的安定性が低下する、比重が増加する、さらにガラス転移温度Tgが上昇するおそれがある。
【0027】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Nb2O5の含有量は7%以下である。Nb2O5の含有量の上限は、好ましくは6.5%であり、さらには6.0%、5.5%、5.0%の順により好ましい。また、Nb2O5の含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.5%、1.0%、1.5%の順により好ましい。Nb2O5の含有量は0%であってもよい。
【0028】
Nb2O5は、屈折率ndを高めるとともに、ガラスの熱的安定性を維持する機能を有する成分である。また、アッベ数νdを調整できる成分でもある。Nb2O5の含有量を上記範囲とすることで、所望の光学恒数を有し、熱的安定性が改善された、光学ガラスが得られる。一方、Nb2O5の含有量が多すぎると、熱的安定性が低下する、比重が増加する、さらにガラス転移温度Tgが上昇するおそれがある。
【0029】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZrO2およびNb2O5の合計含有量[ZrO2+Nb2O5]は3.0~12.0%である。該合計含有量の下限は、好ましくは3.1%であり、さらには3.3%、3.5%、3.6%の順により好ましい。また、該合計含有量の上限は、好ましくは11.5%であり、さらには10.5%、9.3%、9.2%、9.1%の順により好ましい。該合計含有量を上記範囲とすることで、所望の光学恒数を有し、熱的安定性が改善された、光学ガラスが得られる。一方、該合計含有量が多すぎると、アッベ数νdが低下して、所望の光学恒数を有する光学ガラスが得られないおそれがある。
【0030】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZnOの含有量は7.8%以下である。ZnOの含有量の上限は、好ましくは7.5%であり、さらには7.0%、6.5%、6.0%、5.0%、3.0%の順により好ましい。また、ZnOの含有量の下限は0%、0.5%、1.0%、または1.5%であってもよい。ZnOの含有量は0%であってもよい。
【0031】
ZnOは、熔融性を改善し、ガラス転移温度Tgの過剰な上昇を抑制し、光学特性を調整する機能を有する成分である。また、アッベ数νdを調整できる成分でもある。ZnOの含有量を上記範囲とすることで、所望の光学恒数および光学特性を有し、熔融性および熱的安定性の改善された光学ガラスが得られる。一方、ZnOの含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。
【0032】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、TiO2の含有量は7.8%以下である。TiO2の含有量の上限は、好ましくは7.5%であり、さらには7.0%、6.5%、6.0%、5.0%、4.0%の順により好ましい。また、TiO2の含有量の下限は0%であってもよく、TiO2の含有量は0%であることが好ましい。
【0033】
TiO2は、屈折率ndを高めるとともに、ガラスの熱的安定性を維持する機能を有する成分である。TiO2の含有量を上記範囲とすることで、所望の光学恒数を有する光学ガラスが得られる。一方、TiO2の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下するおそれがあり、また、ガラスの着色が増大するおそれがある。
【0034】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、WO3の含有量は7.8%以下である。WO3の含有量の上限は、好ましくは7.5%であり、さらには7.0%、6.5%、6.0%の順により好ましい。また、WO3の含有量の下限は0%であってもよく、WO3の含有量は0%であることが好ましい。
【0035】
WO3は、屈折率ndを高めるとともに、ガラスの熱的安定性を向上させる機能を有する成分である。また、ガラス製造時の結晶化を抑制する機能を有する成分でもある。WO3の含有量を上記範囲とすることで、所望の光学恒数を有する光学ガラスが得られる。一方、WO3の含有量が多すぎると、熱的安定性が低下するおそれがあり、また、比重が増加するおそれがある。さらに、WO3の含有量が多すぎると、分光透過率の短波長側の光吸収端が長波長化するため、紫外線の透過率が低下するおそれがある。
【0036】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Nb2O5、ZnO、TiO2、およびWO3の合計含有量[Nb2O5+ZnO+TiO2+WO3]は7.8%以下である。該合計含有量の上限は、好ましくは7.5%であり、さらには7.0%、6.5%、6.0%の順により好ましい。また、該合計含有量の下限は、好ましくは0%であり、さらには0.5%、1.0%、1.5%の順により好ましい。該合計含有量の含有量は0%であってもよい。該合計含有量を上記範囲とすることで、屈折率ndを高めることができ、所望の光学恒数を有する光学ガラスが得られる。
【0037】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Ta2O5の含有量は4.9%以下である。Ta2O5の含有量の上限は、好ましくは4.0%であり、さらには3.5%、3.0%、2.5%、2.2%、2.1%、2.0%、1.70%、1.65%、1.60%、1.55%、1.50%の順により好ましい。Ta2O5の含有量の上限は、1.50%以降は0.05%刻みで、1.45%、1.40%、1.35%…と設定できる。すなわち、例えば、Ta2O5の含有量の上限は、1.25%、1.00%、0.75%、または0.50%とするができる。また、Ta2O5の含有量の下限は、好ましくは0%である。Ta2O5の含有量は0%であってもよい。
【0038】
Ta2O5は、屈折率ndを高めるとともに、ガラスの熱的安定性を改善する機能を有する成分である。しかしながら、Ta2O5は、突出して高価な成分であるため、Ta2O5の含有量が多すぎると、原料コストが過度に増大するおそれがある。したがって、Ta2O5の含有量を上記範囲とすることで、原料コストが低減された光学ガラスが得られる。また、Ta2O5の含有量が多すぎると、ガラスの熱的安定性が低下する、比重が増大する、ガラスの着色が増大する、さらにガラス転移温度Tgが上昇するおそれがある。本実施形態では、Ta2O5以外のガラス成分について含有量を特定することで、Ta2O5の含有量を低減させても所望の光学恒数を達成できる。また、Ta2O5の含有量を上記範囲とすることで原料コストの低減に寄与できる。
【0039】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、SiO2、Al2O3、およびB2O3の合計含有量[SiO2+Al2O3+B2O3]は24~32%である。該合計含有量の下限は、好ましくは24.5%であり、さらには25.0%、25.5%、25.7%の順により好ましい。また、該合計含有量の上限は、好ましくは31.9%であり、さらには31.8%、31.7%、31.6%、30.0%、28.0%の順により好ましい。SiO2、Al2O3、およびB2O3はいずれもガラスのネットワーク形成成分である。該合計含有量を上記範囲とすることで、ガラスの熱的安定性を改善できる。
【0040】
<屈折率nd>
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、撮像光学系、投射光学系等の光学系を構成する光学素子材料としての有用性、詳しくは、色収差補正、光学系の高機能化などの観点から、屈折率ndは1.77~1.95である。屈折率ndの下限は、好ましくは1.78)であり、さらには1.79、1.80、1.81の順により好ましい。また、屈折率ndの上限は、好ましくは1.93であり、さらには1.91、1.90、1.88の順により好ましい。
【0041】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、屈折率ndは、上述のガラス成分の含有量、比率、および合計含有量を、各ガラス成分の作用効果を考慮しながら調整することにより制御できる。屈折率は、特記しない限り、d線(ヘリウムの波長587.56nm)における屈折率ndをいうものとする。
【0042】
<アッベ数νd>
同様の観点から、本実施形態に係る光学ガラスにおいて、アッベ数νdは42~48である。アッベ数νdの下限は、好ましくは42.5であり、さらには42.7、42.9、43.0の順により好ましい。また、アッベ数νdの上限は、好ましくは47.9であり、さらには47.8、47.7の順により好ましい。
【0043】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、アッベ数νdは、上述のガラス成分の含有量、比率、および合計含有量を、各ガラス成分の作用効果を考慮しながら調整することにより制御できる。アッベ数νdは、特記しない限り、F線(水素の波長486.13nm)、C線(水素の656.27nm)における屈折率をそれぞれnF、nCとしたとき、下記式のとおり定義される。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
【0044】
<比重>
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比重は4.40~5.20である。比重の下限は、好ましくは4.50であり、さらには4.55、4.60、4.65の順により好ましい。また、比重の上限は、好ましくは5.15であり、さらには5.10、5.05、5.00の順により好ましい。
【0045】
例えば、本実施形態に係る光学ガラスを、オートフォーカス機能を有するレンズに用いる場合が想定される。比重が大きすぎると、レンズの質量が増大してフォーカシング時の消費電力が増加し、電池の消耗が早まるおそれがある。一方、比重が小さすぎるとガラスの熱的安定性が低下するおそれがある。したがって、比重を上記範囲とすることで、軽量で、熱的安定性の維持された、光学ガラスが得られる。
【0046】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、比重は、上述のガラス成分の含有量、比率、および合計含有量を、各ガラス成分の作用効果を考慮しながら調整することにより低減できる。
【0047】
本実施形態に係る光学ガラスにおける上記以外のガラス成分の含有量、比率、およびガラス特性について、以下に非制限的な例を示す。
【0048】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、ZrO2、Nb2O5、ZnO、TiO2、およびWO3の合計含有量[ZrO2+Nb2O5+ZnO+TiO2+WO3]の上限は15.0、好ましくは14.5%であり、さらには14.0%、13.5%、13.0%の順により好ましい。また、該合計含有量の下限は、好ましくは3.0%であり、さらには4.0%、5.0%、6.0%の順により好ましい。屈折率ndを高めて、所望の光学恒数を有する光学ガラスを得る観点から、該合計含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0049】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Gd2O3およびY2O3の合計含有量に対するTa2O5、Nb2O5、およびWO3の合計含有量の質量比[(Ta2O5+Nb2O5+WO3)/(Gd2O3+Y2O3)]の上限は0.45、好ましくは0.40であり、さらには0.35、0.30、0.25の順により好ましい。また、該質量比の下限は、好ましくは0であり、さらには0.01、0.02、0.03の順により好ましい。所望の光学恒数を有し、原料コストが低減された光学ガラスを得る観点から、該質量比を上記範囲とすることが好ましい。
【0050】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、SiO2およびB2O3の合計含有量に対するZrO2、Ta2O5、およびNb2O5の合計含有量の質量比[(ZrO2+Ta2O5+Nb2O5)/(SiO2+B2O3)]の上限は0.465、好ましくは0.450であり、さらには0.430、0.410、0.390の順により好ましい。また、該質量比の下限は0.145、好ましくは0.150であり、さらには0.200、0.250、0.300の順により好ましい。所望の光学恒数を有し、また熱的安定性の改善された光学ガラスを得る観点から、該質量比を上記範囲とすることが好ましい。
【0051】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、La2O3の含有量に対するZnOおよびY2O3の合計含有量の質量比[(ZnO+Y2O3)/La2O3]の上限は、好ましくは1.0であり、さらには0.8、0.6、0.4の順により好ましい。また、該質量比の下限は、好ましくは0であり、さらには0.05、0.10、0.15の順により好ましい。所望の光学恒数を有し、また熱的安定性の改善された光学ガラスを得る観点から、該質量比を上記範囲とすることが好ましい。
【0052】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、SiO2、Al2O3、およびB2O3の合計含有量に対するBaO、La2O3、Nb2O5、TiO2、およびZrO2の合計含有量の質量比[(BaO+La2O3+Nb2O5+TiO2+ZrO2)/(SiO2+Al2O3+B2O3)]の上限は2.80、好ましくは2.62であり、さらには2.50、2.30、2.00の順により好ましい。また、該質量比の下限は、好ましくは0.35であり、さらには、0.40、0.50、1.00、1.50の順により好ましい。所望の光学恒数を有し、また熱的安定性の改善された光学ガラスを得る観点から、該質量比を上記範囲とすることが好ましい。
【0053】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、La2O3、Gd2O3、およびY2O3の合計含有量に対するGd2O3の含有量の質量比[Gd2O3/(La2O3+Gd2O3+Y2O3)]の上限は、好ましくは0.40であり、さらには0.38、0.36、0.32の順により好ましい。該質量比の下限は、好ましくは0.20であり、さらには、0.23、0.26、0.29の順により好ましい。熱的安定性の向上された光学ガラスを得る観点から、該質量比を上記範囲とすることが好ましい。
【0054】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、La2O3、Gd2O3、およびY2O3の合計含有量に対するY2O3の含有量の質量比[Y2O3/(La2O3+Gd2O3+Y2O3)]の上限は、好ましくは0.23であり、さらには0.21、0.19、0.17の順により好ましい。該質量比の下限は、好ましくは0.07であり、さらには、0.09、0.11、0.13の順により好ましい。熱的安定性の向上された光学ガラスを得る観点から、該質量比を上記範囲とすることが好ましい。
【0055】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Nb2O5、TiO2、WO3、およびTa2O5合計含有量に対するNb2O5の含有量の質量比[Nb2O5/(Nb2O5+TiO2+WO3+Ta2O5)]の上限は1.00とすることができる。該質量比の下限は、好ましくは0であり、さらには、0.20、0.40、0.60の順により好ましい。所望の光学恒数を有し、また原料コストの低減された光学ガラスを得る観点から、該質量比を上記範囲とすることが好ましい。
【0056】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、La2O3、Gd2O3、およびY2O3の合計含有量に対するNb2O5、TiO2、WO3、およびTa2O5合計含有量の質量比[(Nb2O5+TiO2+WO3+Ta2O5)/(La2O3+Gd2O3+Y2O3)]の上限は、好ましくは0.12であり、さらには0.10、0.08、0.06の順により好ましい。該質量比の下限は、好ましくは0であり、さらには、0.01、0.02、0.03の順により好ましい。所望の光学恒数を有する光学ガラスを得る観点から、該質量比を上記範囲とすることが好ましい。
【0057】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、P2O5の含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、3.0%の順により好ましい。また、P2O5の含有量の下限は、好ましくは0%である。P2O5の含有量は0%であってもよい。P2O5は、屈折率ndを低下させる成分であり、ガラスの熱的安定性を低下させる成分でもある。そのため、P2O5の含有量を上記範囲とすることが好ましい。
【0058】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Al2O3の含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、2.0%の順により好ましい。Al2O3の含有量の下限は、好ましくは0%である。Al2O3の含有量は0%であってもよい。Al2O3は少量であればガラスの熱的安定性および化学的耐久性を改善する働きを有するが、Al2O3の含有量が多すぎると、液相温度LTが上昇し、熱的安定性が悪化する傾向がある。そのため、Al2O3の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0059】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Li2Oの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、1.0%の順により好ましい。Li2Oの含有量の下限は、好ましくは0%である。Li2Oの含有量は0%であってもよい。
【0060】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Na2Oの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、1.0%の順により好ましい。Na2Oの含有量の下限は、好ましくは0%である。Na2Oの含有量は0%であってもよい。
【0061】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、K2Oの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、2.0%の順により好ましい。K2Oの含有量の下限は、好ましくは0%である。K2Oの含有量は0%であってもよい。
【0062】
Li2O、Na2OおよびK2Oは、いずれも液相温度LTを下げ、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有するが、これらの含有量が多くなると、化学的耐久性および耐候性が低下するおそれがある。そのため、Li2O、Na2OおよびK2Oの各含有量は、それぞれ上記範囲であることが好ましい。
【0063】
本実施形態に係るガラスにおいて、Cs2Oの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%の順により好ましい。Cs2Oの含有量の下限は、好ましくは0%である。Cs2Oの含有量は0%であってもよい。
【0064】
Cs2Oは、ガラスの熱的安定性を改善する働きを有する成分である。一方、Cs2Oの含有量が多くなると、化学的耐久性および耐候性が低下するおそれがある。そのため、Cs2Oの含有量は上記範囲であることが好ましい。
【0065】
本実施形態に係るガラスにおいて、Li2O、Na2O、K2OおよびCs2Oの合計含有量[Li2O+Na2O+K2O+Cs2O]の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、2.0%の順により好ましい。また、該合計含有量の下限は、好ましくは0%である。該合計含有量は0%であってもよい。ガラスの化学的耐久性および耐候性の低下を抑制する観点から、該合計含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0066】
本実施形態に係るガラスにおいて、MgOの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、1.0%の順により好ましい。また、MgOの含有量の下限は、好ましくは0%である。MgOの含有量は0%であってもよい。
【0067】
本実施形態に係るガラスにおいて、CaOの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、2.0%の順により好ましい。また、CaOの含有量の下限は、好ましくは0%である。CaOの含有量は0%であってもよい。
【0068】
本実施形態に係るガラスにおいて、SrOの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、3.0%の順により好ましい。また、SrOの含有量の下限は、好ましくは0%である。SrOの含有量は0%であってもよい。
【0069】
本実施形態に係るガラスにおいて、BaOの含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%の順により好ましい。また、BaOの含有量の下限は、好ましくは0%である。BaOの含有量は0%であってもよい。
【0070】
MgO、CaO、SrO、BaOは、いずれもガラスの熱的安定性および耐失透性を改善させる働きを有する成分である。一方、これらの含有量が多すぎると、比重が増加し、高分散性が損なわれ、また、ガラスの熱的安定性および耐失透性が低下するおそれがある。そのため、これらガラス成分の各含有量は、それぞれ上記範囲であることが好ましい。
【0071】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Bi2O3の含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、1.0%の順により好ましい。また、Bi2O3の含有量の下限は、好ましくは0%である。Bi2O3の含有量は0%であってもよい。
【0072】
Bi2O3は、屈折率ndを高めるとともにガラスの熱的安定性を改善する働き有する成分である。一方、Bi2O3の含有量が多すぎると、分光透過率の短波長側の吸収端が短波長化するおそれがある。そのため、Bi2O3の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0073】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Yb2O3の含有量の上限は、好ましくは10.0%であり、さらには、8.0%、6.0%、4.0%、3.0%の順により好ましい。また、Yb2O3の含有量の下限は、好ましくは0%である。Yb2O3の含有量は0%であってもよい。
【0074】
Yb2O3は、アッベ数νdを大きく低下させることなく屈折率ndを増加させる働きを有する成分である。また、ガラスの熱的安定性を向上させ、ガラス製造時の失透を抑制する成分でもある。さらに、熔融性を改善し、ガラス原料の熔け残りを抑制する成分である。そして、近赤外線領域に吸収を有さない成分でもある。一方、Yb2O3の含有量が多すぎると、ガラスの比重が増大し、またガラス転移温度Tgが上昇するおそれがある。そのため、Yb2O3の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0075】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Sc2O3の含有量は、好ましくは2%以下である。また、Sc2O3の含有量の下限は、好ましくは0%である。Sc2O3の含有量は0%でもよい。
【0076】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、HfO2の含有量は、好ましくは2%以下である。また、HfO2の含有量の下限は、好ましくは0%である。HfO2の含有量は0%でもよい。
【0077】
Sc2O3、HfO2は、ガラスの高分散性を高める働きを有するが、高価な成分でもある。そのため、Sc2O3、HfO2の各含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0078】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、Lu2O3の含有量は、好ましくは2%以下である。また、Lu2O3の含有量の下限は、好ましくは0%である。Lu2O3の含有量は0%でもよい。
【0079】
Lu2O3は、ガラスの高分散性を高める働きを有するが、分子量が大きいことから、ガラスの比重を増加させるガラス成分でもある。そのため、Lu2O3の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0080】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、GeO2の含有量は、好ましくは2%以下である。また、GeO2の含有量の下限は、好ましくは0%である。GeO2の含有量は0%でもよい。
【0081】
GeO2は、ガラスの高分散性を高める働きを有するが、一般的に使用されるガラス成分の中で、比較的高価な成分である。そのため、ガラスの原料コストを低減する観点から、GeO2の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0082】
本実施形態に係る光学ガラスは、主として上述のガラス成分、すなわち、必須成分としてSiO2、およびB2O3、任意成分としてLa2O3、Gd2O3、Y2O3、ZrO2、Nb2O5、ZnO、TiO2、WO3、Ta2O5、P2O5、Al2O3、Li2O、Na2O、K2O、Cs2O、MgO、CaO、SrO、BaO、Bi2O3、Yb2O3、Sc2O3、HfO2、Lu2O3、およびGeO2で構成されていることが好ましく、上述のガラス成分の合計含有量は、95%以上が好ましく、98%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましく、99.5%以上が一層好ましい。
【0083】
本実施形態に係る光学ガラスは、基本的に上記ガラス成分により構成されることが好ましいが、本発明の作用効果を妨げない範囲において、その他の成分を含有することも可能である。また、本発明において、不可避的不純物の含有を排除するものではない。
【0084】
(その他の成分)
本実施形態に係る光学ガラスは、上記成分の他に、清澄剤としてSb2O3、SnO2等を少量含有することもできる。なお、本明細書では、清澄剤の含有量は、外割の表示とし、酸化物基準で表示する全てのガラス成分の合計含有量に含まない。
【0085】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、清澄剤以外の全ガラス成分の合計含有量を100質量%としたときのSb2O3の含有量は、好ましくは1質量%以下であり、さらには0.5質量%以下、0.1質量%以下とすることが好ましい。Sb2O3の含有量は0質量%であってもよい。Sb2O3は、清澄剤としての働きの他、Feなどの不純物混入による光線透過率の低下を抑える働きも有するが、Sb2O3の添加量が多くなると、Sb自身の光吸収によってガラスの着色が増大するおそれがある。そのため、Sb2O3の含有量は上記範囲とすることが好ましい。
【0086】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、清澄剤以外の全ガラス成分の合計含有量を100質量%としたときのSnO2の含有量は、好ましくは1質量%以下であり、さらには0.5質量%以下、0.1質量%以下とすることが好ましい。SnO2の含有量は0質量%であってもよい。SnO2は清澄剤としての働きを有するが、SnO2の添加量が多くなると、ガラスの着色が増加するおそれがあり、また、ガラスを加熱、軟化してプレス成形などの再成形をする際に、Snが結晶核生成の起点となってガラスが失透するおそれがある。
【0087】
Pb、As、Cd、Tl、Be、Seは、いずれも毒性を有する。そのため、本実施形態の光学ガラスはこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
【0088】
U、Th、Raはいずれも放射性元素である。そのため、本実施形態の光学ガラスはこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
【0089】
V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Pr,Nd、Pm、Sm、Eu、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Ceは、ガラスの着色を増大させ、蛍光の発生源となり得る。そのため、本実施形態の光学ガラスはこれら元素をガラス成分として含有しないことが好ましい。
【0090】
(ガラス特性)
<着色度λ5、λ70およびλ80>
ガラスの着色抑制に関して、ガラスの光線透過性、詳しくは、短波長側の光吸収端の長波長化が抑制されていることは、着色度λ5、λ70およびλ80の1つ以上によって評価できる。着色度λ5とは、紫外域から可視域にかけて、厚さ10±0.1mmのガラスの分光透過率(表面反射損失を含む)が5%となる波長を表す。λ70は、λ5について記載した方法で測定される分光透過率が70%となる波長を表す。λ80は、λ5について記載した方法で測定される分光透過率が80%となる波長を表す。後述の実施例に示すλ5、λ70およびλ80は、250~700nmの波長域において測定された値である。なお、本発明および本明細書におけるガラスの分光透過率T(%)は、光学研磨された2つの互いに平行な平面を有するガラス試料に対し、かかる平面のうちの一面に垂直に入射する光の強度をIinとし、ガラス試料を透過してもう一方の面から射出した光の強度をIoutとしたとき、
T(%)=Iout/Iin×100
で表される。
【0091】
着色度λ5、λ70およびλ80によれば、分光透過率の短波長側の吸収端を定量的に評価することができる。例えば、接合レンズ作製のためにレンズ同士を紫外線硬化型接着剤により接合する際には、光学素子を通して接着剤に紫外線を照射し接着剤を硬化させる。効率よく紫外線硬化型接着剤を硬化させる観点から、分光透過率の短波長側の吸収端が短い波長域にあることが好ましい。この短波長側の吸収端を定量的に評価する指標として、着色度λ5、λ70およびλ80の1つ以上を用いることができる。
【0092】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、λ5は、好ましくは350nm以下であり、より好ましくは340nm以下であり、さらに好ましくは330nm以下である。また、λ70は、好ましくは390nm以下であり、より好ましくは380nm以下であり、さらに好ましくは370nm以下である。さらに、λ80は、好ましくは480nm以下であり、より好ましくは450nm以下であり、さらに好ましくは420nm以下である。
【0093】
本実施形態に係る光学ガラスにおいて、λ5、λ70、λ80は、上述のガラス成分の含有量、比率、および合計含有量を、各ガラス成分の作用効果を考慮しながら調整することにより低減できる。
【0094】
<ガラス転移温度Tg>
アニール炉や成形型への負担軽減の観点から、本実施形態に係る光学ガラスのガラス転移温度Tgは、好ましくは735℃以下であり、より好ましくは725℃以下であり、さらに好ましくは715℃以下である。一方、機械加工性の観点(詳しくは、切断、切削、研削、研磨等のガラスの機械加工を行う際に破損しにくいという観点)からは、光学ガラスのガラス転移温度Tgは、好ましくは670℃以上であり、より好ましくは680℃以上であり、さらに好ましくは690℃以上である。ガラス転移温度Tgは、後述の方法によって求められる。ガラス転移温度Tgは、上述のガラス成分の含有量、比率、および合計含有量を、各ガラス成分の作用効果を考慮しながら調整することにより制御できる。
【0095】
(光学ガラスの製造)
本実施形態に係る光学ガラスは、上記所定の組成となるようにガラス原料を調合し、調合したガラス原料により公知のガラス製造方法に従って作製すればよい。例えば、複数種の化合物を調合し、十分混合してバッチ原料とし、バッチ原料を石英坩堝や白金坩堝中に入れて粗熔解(ラフメルト)する。粗熔解によって得られた熔融物を急冷、粉砕してカレットを作製する。さらにカレットを白金坩堝中に入れて加熱、再熔融(リメルト)して熔融ガラスとし、熔融ガラスを清澄、均質化した後に成形し、徐冷して光学ガラスを得る。熔融ガラスの成形、徐冷には、公知の方法を適用すればよい。
【0096】
なお、ガラス中に所望のガラス成分を所望の含有量となるように導入することができれば、バッチ原料を調合するときに使用する化合物は特に限定されない。このような化合物として、酸化物、炭酸塩、硝酸塩、水酸化物、フッ化物等が挙げられる。
【0097】
(光学素子等の製造)
本実施形態に係る光学ガラスを使用して光学素子を作製するには、公知の方法を適用すればよい。例えば、上記光学ガラスの製造において、熔融ガラスを鋳型に流し込んで板状に成形し、本発明に係る光学ガラスからなるガラス素材を作製する。得られたガラス素材を適宜、切断、研削、研磨し、プレス成形に適した大きさ、形状のカットピースを作製する。カットピースを加熱、軟化して、公知の方法でプレス成形(リヒートプレス)し、光学素子の形状に近似する光学素子ブランクを作製する。光学素子ブランクをアニールし、公知の方法で研削、研磨して光学素子を作製する。
【0098】
作製した光学素子の光学機能面には使用目的に応じて、反射防止膜、全反射膜などをコーティングしてもよい。
【0099】
本発明の一態様によれば、上記光学ガラスからなる光学素子を提供することができる。光学素子の種類としては、球面レンズ、非球面レンズ等のレンズ、プリズム、回折格子等を例示することができる。レンズの形状としては、両凸レンズ、平凸レンズ、両凹レンズ、平凹レンズ、凸メニスカスレンズ、凹メニスカスレンズ等の諸形状を例示することができる。光学素子は、上記光学ガラスからなるガラス成形体を加工する工程を含む方法により製造することができる。加工としては、切断、切削、粗研削、精研削、研磨等を例示することができる。こうした加工を行う際、上記ガラスを使用することにより、破損を軽減することができ、高品質の光学素子を安定して供給することができる。
【実施例0100】
以下に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。ただし、本発明は実施例に示す態様に限定されるものではない。
【0101】
ガラスの構成成分に対応する酸化物、水酸化物、炭酸塩、および硝酸塩を原材料として準備し、得られる光学ガラスのガラス組成が、表1(1)~(7)に示す各組成となるように上記原材料を秤量、調合して、原材料を十分に混合した。こうして得られた調合原料(バッチ原料)を白金製坩堝に入れ、1400℃に設定された炉内で加熱し2時間熔融し、熔融ガラスを得た。熔融ガラスを攪拌して均質化し、予熱した鋳型に鋳込んだ。鋳込んだガラスを、ガラス転移温度付近まで放冷してから、直ちにアニール炉に入れ、ガラス転移温度程度の温度で約30分保持した後、徐冷速度-30℃/時間で4時間徐冷し、その後炉内で室温まで放冷した。表1(1)~(7)に示す組成を有する光学ガラスサンプルを得た。
【0102】
[ガラス成分組成の確認]
得られた光学ガラスサンプルについて、誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP-AES)で各ガラス成分の含有量を測定し、表1(1)~(7)に示す各組成のとおりであることを確認した。
【0103】
[物性評価]
得られた光学ガラスサンプルについて、屈折率nd、アッベ数νd、ガラス転移温度Tg、比重、および着色度λ5、λ70、λ80を測定した。結果を表2(1)~(7)に示す。
【0104】
(1)屈折率nd、アッベ数νd
得られた光学ガラスサンプルについて、日本光学硝子工業会規格の屈折率測定法により、屈折率ndおよびアッベ数νdを測定した。
【0105】
(2)ガラス転移温度Tg
得られた光学ガラスサンプルを乳鉢で十分粉砕したものを試料とし、Rigaku社製の示差走査熱量分析装置(DSC8270)を使用し、昇温速度を10℃/分にしてガラス転移温度Tgを測定した。
【0106】
(3)比重
アルキメデス法により比重を測定した。
【0107】
(4)着色度λ5、λ70、λ80
互いに対向する2つの光学研磨された平面を有する厚さ10±0.1mmのガラス試料を用い、分光光度計により、波長250~700nmにおける分光透過率T(%)を測定した。Tが5%になる波長(nm)をλ5とし、Tが70%になる波長(nm)をλ70とし、Tが80%になる波長(nm)をλ80とした。
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
(実施例2)
実施例1において作製した各光学ガラスを用いて、公知の方法により、レンズブランクを作製し、レンズブランクを研磨等の公知方法により加工して各種レンズを作製した。
【0123】
作製した光学レンズは、両凸レンズ、両凹レンズ、平凸レンズ、平凹レンズ、凹メニスカスレンズ、凸メニスカスレンズ等の各種レンズである。
【0124】
ガラスが低比重であるため、各レンズとも同等の光学特性、大きさを有するレンズよりも重量が小さく、各種撮像機器、特に省エネ可能という理由等によりオートフォーカス式の撮像機器用として好適であった。同様にして、実施例1で作製した各種光学ガラスを用いてプリズムを作製した。
【0125】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0126】
例えば、上記に例示されたガラス組成に対し、明細書に記載した範囲内で組成を調整することにより、本発明の一態様にかかる光学ガラスを作製することができる。
また、明細書に例示または好ましい範囲として記載した事項の2つ以上を任意に組み合わせることは、もちろん可能である。