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特開2024-43493マルチチャンババイオチップの基本要素、マルチチャンババイオチップの製造、器官および疾病モデルの確立、ならびに物質試験用のマルチチャンババイオチップの使用法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043493
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】マルチチャンババイオチップの基本要素、マルチチャンババイオチップの製造、器官および疾病モデルの確立、ならびに物質試験用のマルチチャンババイオチップの使用法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/00 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
C12M1/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023138177
(22)【出願日】2023-08-28
(31)【優先権主張番号】10 2022 123 877.6
(32)【優先日】2022-09-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(71)【出願人】
【識別番号】523327606
【氏名又は名称】ダイナミックフォーティツー ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥ ネーダー
(72)【発明者】
【氏名】レナート クヌート
(72)【発明者】
【氏名】ラーシュ マーティン
【テーマコード(参考)】
4B029
【Fターム(参考)】
4B029AA02
4B029AA07
4B029BB01
4B029CC02
4B029DA10
4B029DF05
4B029DG10
4B029FA15
4B029GA08
4B029GB09
4B029HA06
(57)【要約】      (修正有)
【課題】複数の実験用途のために使用できるマルチチャンババイオチップを提供する。
【解決手段】本発明は、上に位置するフレーム4を伴う最下部3を有し、最下部と反対の方向を向く側で開放されたマルチチャンババイオチップの基本要素1に関し、内部空間6はフレームにより囲まれる。さらに、少なくとも1つの第1の垂直部5が存在し、好ましくは第1の垂直部および第2の垂直部7が存在する。垂直部およびフレームにより形成された膜を用いて互いに境界を定められた培養チャンバ14は、チャネルによって接触し、生物学的モデルシステムを生成するように働く。基本要素は、詳細には単一部分として(モノリシックに)形成される。本発明はまた、マルチチャンババイオチップセット、およびマルチチャンババイオチップを製造するための方法、ならびにさらにまたマルチチャンババイオチップの使用法を提供する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単一加工品から(モノリシックに)形成されたマルチチャンババイオチップ(2)の基本要素(1)であって、
-最下部(3)であって、前記最下部(3)の上に位置し前記最下部(3)と反対の方向を向く側で開放されたフレーム(4)を伴い、少なくとも1つの内部空間(6)は、前記フレーム(4)により境界を定められる最下部(3)と、
-前記最下部(3)上の前記内部空間(6)の内側に位置し、第1の支持表面(5,1)および第1の側面(5.2)を伴う第1の表面の周囲に伸展し、高さが前記フレーム(4)の高さよりも低い少なくとも1つの第1の垂直部(5)であって、
下部予備培養チャンバ(8)は、前記第1の側面(5.2)、および前記第1の垂直部(5)により囲まれた表面により囲まれ、
前記第1の支持表面(5.1)と前記フレーム(4)の上側の間の残りの内部空間は、上部予備培養チャンバを形成する
少なくとも1つの第1の垂直部(5)と、
-前記基本要素の外側上で開放され、前記下部予備培養チャンバ(8)を周囲環境に接続する少なくとも1つのチャネル(14)と、
-前記基本要素の外側上で開放され、前記上部予備培養チャンバ(10)を前記周囲環境に接続する少なくとも1つの他のチャネル(14)と
を有する基本要素(1)。
【請求項2】
-第2の表面の周囲で前記内部空間(6)の内側に伸展し、高さが前記フレーム(4)の前記高さよりも低く、前記第1の垂直部(5)の前記高さよりも高い第2の垂直部(7)であって、
中間予備培養チャンバ(9)は、前記第2の垂直部(7)の第2の側面(7.2)、および前記第2の垂直部(7)を囲む表面により囲まれる
第2の垂直部(7)と、
-前記基本要素の外側上で開放され、前記中間予備培養チャンバ(9)を前記周囲環境に接続する少なくとも1つの他のチャネル(14)と
により特徴づけられる、請求項1に記載の基本要素(1)。
【請求項3】
前記基本要素(1)が製作される材料は、射出成形された生体適合性プラスチック、詳細にはポリエチレンテレフタレート(PBT)を備えることを特徴とする、請求項1または2に記載の基本要素(1)。
【請求項4】
前記チャネル(14)の部分は前記最下部(3)の、前記フレーム(4)と反対の方向を向く前記側面内に形成され、それぞれ培養液を供給または放出するために前記チャネル(14)のコネクタ(16)に接続されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項に記載の基本要素(1)。
【請求項5】
前記チャネル(14)の前記部分は、予備チャネル部分(14.1)として完全に、または部分的に形成されることを特徴とする、請求項4に記載の基本要素(1)。
【請求項6】
前記第1の垂直部(5)および任意選択で第2の垂直部(7)を伴う少なくとも1つの他のフレーム(4)は前記最下部(3)上に形成されることを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載の基本要素(1)。
【請求項7】
マルチチャンババイオチップ(2)であって、
-請求項1~6のいずれか一項に記載の基本要素(1)を有し、
-第1の垂直部(5)の上に置かれ、前記第1の垂直部(5)に接続された第1の分離膜(11)を、
前記第1の垂直部(5)および前記第1の分離膜(11)により下部培養チャンバ(8)が提供されて
有し、
-任意選択で、第2の垂直部(7)の上に置かれ、前記第2の垂直部(7)に接続された第2の分離膜(12)を、
前記第1の分離膜(11)および前記第2の分離膜(12)の間に中間培養チャンバ(9)が提供されて
有し、
-前記フレーム(4)の上側(1.1)の上に置かれ、前記フレーム(4)に接続された上部閉鎖膜(13)を、
前記上部閉鎖膜(13)と前記第1の分離膜(11)の間に、または任意選択で前記上部閉鎖膜(13)と前記第2の分離膜(12)の間に上部培養チャンバ(10)が提供されて
有し、
-任意選択で、下部閉鎖膜(15)は、前記最下部(3)の、前記フレーム(4)と反対の方向を向く側面上に置かれ、前記側面に接続されるマルチチャンババイオチップ(2)。
【請求項8】
前記分離膜(11、12)のうち少なくとも一方は微小キャビティ(19)を有することを特徴とする、請求項7に記載のマルチチャンババイオチップ(2)。
【請求項9】
請求項7または8に記載のマルチチャンババイオチップを製造するための方法であって、
-請求項1~6のいずれか一項に記載の基本要素(1)を提供するステップと、
-第1の垂直部(5)の上に第1の分離膜(11)を置き、前記第1の分離膜(11)および前記第1の垂直部(5)を接続し、シールを形成するステップと、
-任意選択で、第2の垂直部(7)の上に第2の分離膜(12)を置き、前記第2の分離膜(12)および前記第2の垂直部(7)を接続し、シールを形成するステップと、
-フレーム(4)の上に上部閉鎖膜(13)を置き、前記上部閉鎖膜(13)および前記フレーム(4)を接続し、シールを形成するステップと、
-任意選択で、最下部(3)の、前記フレームと反対方向を向く側面の上に下部閉鎖膜(15)を置き、前記最下部(3)および前記下部閉鎖膜(15)を接続し、シールを形成するステップと
を備える方法。
【請求項10】
密封された接続は、誘導され制御された高エネルギー放射の束を用いて達成されることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
請求項7に記載のマルチチャンババイオチップ(2)用のセットであって、
-請求項1~7のいずれか一項に記載の基本要素(1)と、
-第1の垂直部(5)の上に置き下部培養チャンバ(8)を閉鎖するのに役立つ少なくとも1つの第1の分離膜(11)と、
-任意選択で、第2の垂直部(7)の上に置き中間培養チャンバ(9)を閉鎖するのに役立つ少なくとも1つの第2の分離膜(12)と、
-フレーム(4)の上に置き上部培養チャンバ(10)を閉鎖するのに役立つ上部閉鎖膜(13)と
を包含するセット。
【請求項12】
最下部(3)の、前記フレームと反対の方向を向く側面の上に置くためにある追加閉鎖膜(15)により特徴づけられる、請求項11に記載のセット。
【請求項13】
細胞を培養するための方法であって、
-請求項7または8に記載のマルチチャンババイオチップ(2)を選択し提供するステップと、
-既存の培養チャンバ(8、9、10)の中に培養液(18)および細胞(26、28、29、30、31)を導入するステップと
を備える方法。
【請求項14】
前記培養チャンバ(8、9、10)のうち少なくとも1つの中にヒドロゲルを導入することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
分離膜(11、12)のうち少なくとも一方の微小キャビティ(19)の中で球状体(26)および/または類器官(26)をコロニー形成することにより、前記培養チャンバ(8、9、10)のうち少なくとも1つの中で前記球状体(26)および/または前記類器官(26)を作り出す、および/または培養することを特徴とする、請求項13または14に記載の方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一連の革新的用途のためにマルチチャンババイオチップを製造するために使用できる基本要素に関する。
【背景技術】
【0002】
この用途の観点から、バイオチップは、反応チャンバ内で人工的にではあるができるだけ現実に近く生物学的構造および/または状況/環境条件が再現されるという点で、たとえば実験のセットアップで器官または組織などの生物システムをシミュレートするように働く。たとえば、バイオチップは、上下に配列されたいくつかの構成要素から形成でき、少なくとも1つの培養チャンバを、しかしより多くの場合2つの培養チャンバを形成するように協働する。これらの培養チャンバは、選択された性質の膜を用いて互いに分離でき、1つの培養液またはいくつかの培養液で満たされる。任意選択で、制御された条件下で生物システムまたは特定の状況/環境をシミュレートするために、たとえば栄養分、活性物質、および合成材料だけではなくエアロゾル、細胞、微生物、および/または球状体などのさまざまな物質を、目標設定された手法で培養液の中に導入できる。
【0003】
そのようなバイオチップを設計するための1つの実行可能な手段は、Raasch、M.、et al.による刊行物(Raasch、M.、et al.「An integrative microfluidically supported in vitro model of an endothelial barrier combined with cortical spheroids simulates effects of neuroinflammation in neocortex development(皮質性球状体と結合した内皮バリアの統合的微小流体支援インビトロモデルが新皮質発達での神経炎症の影響をシミュレートする)」、2016年、Biomicrofluidics 10;doi 10.1063/1.4955184(非特許文献1))から公知である。予備培養チャンバをそれぞれ形成する2つの基本要素は、それぞれ1つの分離膜と結合され、その後、粘着接合により一緒に連結され、次いで閉鎖フィルムで密封され、粘着剤または接続物質で部分的に密封される。上下に配列され2つの分離膜により分離された3つの培養チャンバの充填は、2つの基本要素内に同様に形成されたチャネルを介して行われる。このようにして、少なくとも2つの培養チャンバは、狭い空間内に作成でき、実験室条件の下で、すなわち、たとえば使用する生物学的構造および組成、温度、ならびに任意選択で培養液の流れを監視しながら動作させて調べることができる。細胞培養恒温器内でそのような一般的なバイオチップを使用することにより、たとえば制御された温度および組成で周囲大気での動作がさらに可能になる。
【0004】
培養チャンバ内部での過程の検出は、たとえばバイオチップの透明窓を通して光学的分析を用いて(たとえば、透過光顕微鏡分析、生細胞撮像を用いて)行うことができる。さらに、生物学的構造のバリア/シール/透磁率を推定するために、もしくは生物学構造上での輸送過程を評価するために、ならび/または生物学的構造の表面および/もしくは内側でのタンパク質の反応を分析するために、チャネルを介して分離膜を通して物質を導入できる。さらに、生物学的構造、および(潜在的に前述の物質が豊富な)培養液などの導入された物質は光学分析、分子生物学的分析、および化学分析のために除去できる。
【0005】
しかしながら、上記で記述するようなバイオチップは、いくつかの異なる要素から層の形で構築されなければならず、各層は、対応する隣接要素に密に接続されなければならず、それに加えて、培養チャンバの所望の寸法の要件、およびその結果決定される流れおよび生理学的条件は、確実に満たされなければならない。これは詳細には、基本要素を高い正確さおよび寸法精度で製造しなければならず、その結果製造費用は高いことを意味する。
【0006】
本発明者らの実験では、基本要素を接着することによりバイオチップの変形を引き起こす応力が導入され、粘着作用は、バイオチップを漏出性にしバイオチップの機能を失わせる劣化過程を受けることをさらに見いだした。それに加えて、基本要素の接合前に分離膜を導入しなければならないことは不利である。これは、たとえば粘着剤により膜が汚染するリスクに関連する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Raasch、M.、et al.「An integrative microfluidically supported in vitro model of an endothelial barrier combined with cortical spheroids simulates effects of neuroinflammation in neocortex development(皮質性球状体と結合した内皮バリアの統合的微小流体支援インビトロモデルが新皮質発達での神経炎症の影響をシミュレートする)」、2016年、Biomicrofluidics 10;doi 10.1063/1.4955184
【非特許文献2】Auner et al.「Chemical PDMS binding kinetics and implications for bioavailability in microfluidic devices(化学的PDMS結合動力学および微小流体機器での生物学的利用率に関する意味)」、2019年、Lab Chip 19:864-874
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、従来技術から公知の不利益を低減または解決し、複数の実験用途のために使用できるマルチチャンババイオチップを提供することが可能な選択肢を提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、独立請求項だけではなく従属請求項の主題によっても達成される。有利な発展形態は、従属請求項の主題である。
【0010】
本発明の目的は、上に位置する少なくとも1つのフレームを伴う最下部を有し、少なくとも最下部と反対の方向を向く側で開放されたマルチチャンババイオチップの基本要素を用いて達成される。この場合、内部空間をフレームが取り囲む。フレームは、内部空間を取り囲む階段状部分として設計できる。より製造しやすいので有利な選択肢では、フレームはまた、詳細には内部空間の高さに対応するそれ相応に大きな厚さを有する基本要素の平坦な、詳細には長方形の鋳造物を用いて作成できる。いくつかの内部空間の範囲を定めるいくつかのフレームを最下部の上に置くことができる。あるいは、基本要素の平坦な鋳造物の変形形態では、いくつかの内部空間はまた、平坦な鋳造物により取り囲むことができる。
【0011】
さらに、各内部空間の範囲内で最下部に固定され第1の表面の周囲に伸展する、高さがフレームの高さよりも低い少なくとも1つの第1の垂直部が形成される。第1の垂直部はこの場合、自立するように設計できる、またはフレーム内の階段状部分として設計できる。垂直部は、内部空間の方を向く第1の側面、および最下部に対向する第1の支持表面を有する。第1の支持表面は、第1の分離膜を支持するように設計される。下部予備培養チャンバ(第1のチャンバ)は、第1の垂直部の第1の側面、および第1の垂直部により取り囲まれた表面により取り囲まれる。第1の支持表面とフレームの上側の間の残りの内部空間は、上部予備培養チャンバ(第2のチャンバ)を形成する。第1の垂直部により取り囲まれた表面は多角形、好ましくは四角形、特に長方形にすることができるが、さらにまた円形にすることもできる。有利には、垂直部の支持表面は、最下部に対して一様な高さで囲まれた部位の周囲に伸展する。下部予備培養チャンバおよび上部予備培養チャンバは、それぞれ基本要素の外側で開放された少なくとも1つの別個のチャネルにより周囲環境に接続される。
【0012】
本発明による基本要素の他の実施形態では、下部予備培養チャンバおよび/または上部予備培養チャンバは、少なくとも2つの分離チャネルにより周囲環境に接続される。マルチチャンババイオチップを組み立てた状態では、チャネルは、有利には培養チャネルの中への培養液の供給/培養チャネルの外への培養液の放出を可能にする。
【0013】
たとえば、およそ1mmのサイズの球状体を培養できるようするために、1mmよりも大きな、たとえば1.1mmまたは1.2mmの明確な高さまたは直径を有する構造を伴う少なくとも1つの培養チャンバおよび関連するチャネルを設計する。
【0014】
本発明による基本要素は、単一加工品から(モノリシックに)形成され、好ましくは顕微鏡スライドの形式(76mm×26mm±3mm)を有する。モノリシック設計により、接続前に通路(チャネル、内部空間、培養チャンバなど)を整列させ接着する必要がある2つ以上の基本要素を互いに接続する必要がないので、従来技術による解決手段よりも容易な取扱いが可能になる。それに加えて、基本要素は、モノリシック構成ではより安定しており、基本要素の最初の形状を保持し(応力に関係する本体の曲がりがまったくない)粘着点で漏れることがなく、したがって、取扱いおよび使用する際により実用的である。詳細には、より高い流量の供給培養液(灌流速度)を漏れが発生することなく達成できる。これは、そのような場合インビボの灌流速度と調和する灌流速度を可能な最長期間にわたり維持しなければならないので、詳細には器官モデルを確立する際に有利である。結果として接着点を省略することによりさらにまた有利には、従来技術で絶対に必要な、生物学的構造と不利に相互作用する可能性がある粘着剤を省略できるという結果を招く。それに加えて、本発明による基本要素の寸法精度の要件は、いくつかの要素からなるバイオチップの要件よりも低い可能性がある。
【0015】
基本要素のさらに有利な実施形態では、内部空間の範囲内で最下部に位置し第2の表面の周囲に伸展する第2の垂直部が形成される。第2の垂直部の高さはフレームの高さよりも低いが、第1の垂直部の高さよりも高い。第2の垂直部はまた自立するように設計でき、またはフレーム内の階段状部分として設計でき、本明細書で以後第2の支持表面と呼ぶ、最下部に対向して存在する支持表面を有する。第2の支持表面は、第2の分離膜を支持するように設計される。第1の支持表面と第2の支持表面の間で、第2の垂直部は、内部空間の方を向く第2の側面を形成する。第2の垂直部により取り囲まれた第2の表面、および第2の側面は、中間予備培養チャンバ(第3のチャンバ)を画定する。第2の垂直部により取り囲まれた表面は多角形、好ましくは四角形、特に長方形にすることができるが、さらにまた円形にすることもできる。好ましくは、第2の垂直部を囲む表面の幾何形状は、第1の垂直部が取り囲む表面の幾何形状に対応する。中間予備培養チャンバはまた、少なくとも1つのチャネルにより基本要素の外側に接続される。
【0016】
以下でさらに説明するように、上下に配列された3つ以上の培養チャンバを有するマルチチャンババイオチップは、有利には基本要素のそのような実施形態を用いて製造できる。
【0017】
有利には、基本要素が製造される材料は、射出成形生体適合性プラスチックを備える。そのようなプラスチックの例はポリウレタン(PU)、ポリイミド、スチレン(SEBS)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、および環状ポリオレフィン(COPおよびCOC)などのポリエステルである。材料選択に対応する手法では、基本要素は、対応する射出成形または鋳込みツールを使用して射出成形または鋳込み過程で単一部分として製造される。
【0018】
バイオチップはまた多くの場合、従来技術でポリジメチルシロキサン(PDMS)から製造される。しかしながら、前述のプラスチックとは対照的に、細胞培養など、生物学的構造に適するためにPDMSを活性化しなければならないので、複雑な細胞、器官、および疾病のモデルのためにPDMSを用いたチップを使用することは複雑である。できるだけ少ないバイオチップを用いて詳細に調べる生物学的構造および培養液のシステムに影響を及ぼすために、バイオチップの材料は、理想的には不活性であるべきである。しかしながら、しばしば使用される材料PDMSは、たとえばいくつかの化合物と高い接合形成能力を有することが公知である(Auner et al.「Chemical PDMS binding kinetics and implications for bioavailability in microfluidic devices(化学的PDMS結合動力学および微小流体機器での生物学的利用率に関する意味)」、2019年、Lab Chip 19:864-874(非特許文献2))。この接合形成能力は、PDMSから作られたバイオチップを用いて行われた実験(たとえば、物質試験)に推定困難な影響を及ぼす可能性がある。たとえば、1.8よりも大きなlogP、および小さな水素供与体カウントを有する物質はPDMS上で強く吸収され、それにより、活性物質試験および得られるデータの解釈がかなりより困難になる。たとえば、プロピコナゾールという物質は、3.72のlogP、および0の水素供与体カウントを有する。プロピコナゾールは非常に疎水性でありPDMSに不可逆的に結合するので、PDMSチップ内で24時間後、培地内で開始濃度30%未満でしか検出できない(Auner et al.、2019年(非特許文献2))。この問題は、排他的ではないが小分子の古典的活性物質群に関係がある。多くの医薬品活性物質はこの群の薬に属し、その結果、PDMSを用いるバイオチップは試験システムとして適さない。それに加えて、単一加工品だけから作られたマルチチャンババイオチップのための一体形の基本要素は、この物質を用いる場合、必要な分離膜を2つの個々の成分の間だけでしか固定できないので、PDMSを用いて製造できない。
【0019】
したがって、本発明による基本要素の有利な実施形態では、基本要素はポリブチレンテレフタレート(PBT)から製造される。
【0020】
PBTは通常、高い機械負荷を受ける、および/または熱い培養液と繰り返し接触するようになる製品を製造するために使用されるポリマーである。PBTの典型的使用法は、たとえば滑り軸受、弁部品、ねじ、コーヒーマシンまたはヘアドライヤなどの家庭電化製品用部品、パルスオキシメータ用コネクタ、電気外科器具用先端部、および呼吸マスク用クリップなどの医療機器用部品である。適切なPBT開始ポリマーの製造は、GMPに準拠した手法でさえ実現できる。PBTは、その好ましい冷却および工程の挙動が原因で、射出成形に非常に適している。
【0021】
細胞培養チャンバで使用するのが珍しいこの材料は、使用する培養液の一連の成分と比較して試験で非常に低い接合形成能力を示し、その結果、マルチチャンババイオチップ、詳細には(予備)培養チャンバの材料がそのような細胞培養チャンバで行われる試験に及ぼす影響は、有利に低減できる。たとえば、本発明者らは、プロピコナゾールおよびトログリタゾンを用いる活性物質吸収に関する試験で、PBTが最大3.72のlogPまでの物質の活性物質試験に非常に適していることを見いだした(プロピコナゾールのlogP:3.72;トログリタゾンのlogP:3.60)。24時間の培養期間後、プロピコナゾールまたはトログリタゾンの開始濃度の少なくとも80%は培地で検出可能である。
【0022】
他の実施形態では、本発明による基本要素は、チャネルの部分が、最下部の、フレームと反対の方向を向く側面内、および/または基本要素の、最下部に対向する側面内に形成されるように設計できる。好ましくは、1つまたは複数の側面内のチャネル部分は、円周のチャネル境界垂直部が形成されることが原因で完全に、または部分的に予備のチャネル部分として形成できる。これらのチャネル境界垂直部は、基本要素内に、基本要素に隣接して、または基本要素から外に突出して作成される。チャネル境界垂直部は、チャネル空間の境界を定め、かつその結果、チャネル壁の役割を果たす、内側を向く側面を有する。(閉鎖)膜またはチャネルカバーを支持するために提供された支持表面は、チャネル境界垂直部の上側(端面)上に伸びる。
【0023】
チャネルは、それぞれ培養液を供給または除去するためにコネクタ(たとえば標準的ルアー(Luer)形式)に接続される。これらのコネクタは、有利には最下部に対向して形成される。
【0024】
たとえば培養チャンバのうち少なくとも1つで工程の視覚的検出を可能にする窓は、最下部に存在する可能性がある。
【0025】
本発明によるマルチチャンババイオチップを得るために、本発明による基本要素を提供する。この基本要素は、マルチチャンババイオチップの基礎の役割を果たし、有利には効率的製造とそれぞれの要件への柔軟な適応の両方を可能にする。
【0026】
完全に組み立てられすぐ使用できるマルチチャンババイオチップの場合、第1の分離膜は、第1の垂直部の第1の支持表面の上に置かれ、第1の垂直部の第1の支持表面に接続される。下部培養チャンバは、第1の垂直部および第1の分離膜により提供される。基本要素の実施形態に応じて、第2の分離膜は、任意選択で第2の垂直部の第2の支持表面の上に置かれ、第2の垂直部に接続される。この場合、第1の分離膜と第2の分離膜の間に中間培養チャンバが提供される。閉鎖膜はフレームの上に置かれ、フレームに接続される。この閉鎖膜は、基本要素の設計に応じて第1の分離膜と閉鎖膜の間に、または第2の分離膜と閉鎖膜の間に提供される上部培養チャンバの境界を定める。
【0027】
任意選択で、最下部の、フレームと反対の方向を向く側面上に位置し側面に接続される追加閉鎖膜が提供される。
【0028】
使用される分離膜は好ましくは、分離膜の材料、厚さ、および製造に応じて、事前に指定された程度に固定して一体化でき、かつガス、流体、粒子、および/またはより複雑な分子に対して透過性であるだけではなく不透過性でもある(半透性の)可能性があるフィルムである。好ましいが限定しない分離膜用材料は、ポリエチレンテレフタレートまたはポリカーボネートである。膜は好ましくは0.4μm~8μmの間のサイズを有する細孔を有し、5μmから50μmの間の、好ましくは10μm~20μmの間の、特に好ましくは12μmの厚さを有する。分離膜は、培養チャンバのうち少なくとも1つの中で工程の光学的検出の改善を可能にするために、少なくとも1つの選択された波長範囲に対して少なくとも半透明、好ましくは透明である可能性がある。(場合によっては接合フィルムと呼ばれることもある)閉鎖膜はまた、好ましくは柔軟な手法で一体化でき、それに応じてある種の物質クラスを遮断する、または(半)透過性になるように選択できる。閉鎖膜は、培養チャンバのうち少なくとも1つの中で工程の光学的検出を可能にするために、少なくとも1つの選択された波長範囲に対して透明である可能性がある。いくつかの実施形態では、閉鎖膜は、透明な閉鎖フィルムとして、たとえばポリカーボネートフィルムまたはポリエチレンテレフタレートフィルムとして設計できる。ガラスまたはポリスチレンまたはCOC/COPもまた、閉鎖膜を作ることができる、想定される材料である。閉鎖膜(または閉鎖フィルム)はまた、任意選択で既存のチャネル境界垂直部を越えて伸展し既存のチャネル境界垂直部の支持表面上に載り気密および液密の手法で支持表面に接続されるので、チャネルカバーとして機能できる。
【0029】
マルチチャンババイオチップの特定の実施形態では、分離膜のうち少なくとも1つは、さらにまた(微小)キャビティと呼ばれるくぼみを有する可能性がある。細胞、細胞複合体、球状体、および/または類器官は、これらの(微小)キャビティ内でコロニー形成および/または培養できる。
【0030】
この場合、用途の例は、静的細胞培養と比較して最大4日までの期間にわたる、球状体および類器官の培養の改善/拡大である。
【0031】
微小キャビティを用いるマルチチャンババイオチップの設計では、球状体および類器官は、(ヒドロ)ゲルの中にさらに埋め込むことなく、通常は個々の形態または混合形態で細胞外基質のタンパク質から構成される素通り画分を伴う(微小流体)細胞培養条件下で、固定化された手法で培養できる。微小キャビティの直径は500μm~1,500μmの間、好ましくは800μmである可能性がある。ゲルを用いない培養により、培養期間中に良好な光学的分析ができるようになる。それに加えて、ゲルを用いない培養により、損なわれていない細胞組織、詳細には組織切片、蛍光免疫染色、フローサイトメトリー、ELISAに基づくアッセイ、またはDNA/RNA分析およびウエスタンブロット分析用の組織溶解など、他の分析のためにバイオチップから得られる球状体および類器官のより穏やかで非破壊的な回復が可能になる。
【0032】
球状体および類器官の、ゲルを用いない固定化培養により、異なる分離膜上で(間接血管新生)、または同じ(微小)キャビティ分離膜もしくは平坦な分離膜上で(直接血管新生)、血管組織配列を用いた(血管新生)より容易な共培養がさらに可能になる。それに加えて、免疫細胞を伴う、固定化され血管新生化された球状体および類器官を培地内で直接洗い落とすことが可能である。球状体および類器官の、ゲルを用いない培養により、免疫細胞が球状体および類器官の中に移動することがかなり容易になる。
【0033】
素通り画分および/またはゲルを用いない細胞培養条件下での培養により、詳細には球状体に関して同等の静的細胞培養条件下よりも、とりわけ改善された栄養分および酸素の条件が原因で、さまざまな生物学的構造をよりよく維持できるようになる。これにより、試験目的のためにより長い時間そのような生物学的構造の機能を維持することが可能になる。
【0034】
ユーザが使用可能性を広範に選ぶことができるようにするために、上記で記述するような基本要素を備える、本発明によるマルチチャンババイオチップのためのセットを提供できる。さらに、少なくとも1つの第1の分離膜は、第1の垂直部の上に置き下部培養チャンバを閉鎖するのに役立つそのようなセットの中に存在する。任意選択で、少なくとも1つの第2の分離膜は、セットの中に含まれる基本要素が第2の垂直部を有する場合に第2の垂直部の上に置き中間培養チャンバを閉鎖するのに役立つセットの中に含まれる。それに加えて、閉鎖膜は、フレームの上に置き、上部培養チャンバとして残りの内部空間を閉鎖するのに役立つセットの中に含まれる。
【0035】
それに加えて、最下部の、フレームと反対の方向を向く側面の上に置くためにある追加閉鎖膜を含むことができる。
【0036】
本発明によるセットは、たとえば、ユーザに直接提供できる、またはたとえばユーザに代わって、およびユーザの仕様に従って、セットの構成要素の組立を遂行するサービスプロバイダに与えることができる。
【0037】
有利には、そのようなセットを提供することはまた、生物学的材料、たとえばより大きな器官または細胞塊または組織片または多細胞生物、たとえばそれらのサイズが原因で、存在するチャネルによりチャンバの中に流すことができない寄生虫の導入を可能にする。そのような材料は、たとえば粘着性の方法を用いて分離膜または閉鎖膜を用いてその後閉鎖される、依然として開放された予備培養チャンバの中に無菌環境で直接適用できる。
【0038】
マルチチャンババイオチップは、基本要素を提供して第1の垂直部の上に分離膜を置くことにより製造される。このマルチチャンババイオチップは第1の垂直部に接続され、シールを形成する。必要に応じて、上記でさらに記述するように、第1の分離膜を適用する前に、下部予備培養チャンバの中に生物学的材料を導入できる。
【0039】
この記述の観点から、密封された接続は、詳細には液密で気密な平坦な接続または直線状の接続が作成され、その結果、膜により境界を定められた培養チャンバまたは膜により境界を定められたチャネルは、ある種の静的または動的な作動圧力の下で培養液の流れに信頼できるように耐えることを意味すると理解される。
【0040】
接続は、排他的ではないが有利には、製造された連結する継ぎ目または接続表面に沿って誘導され制御された高エネルギー放射の誘導ビームにより作られる。高エネルギー放射は、詳細には接続すべき材料に調和した波長および強度のレーザ放射である。
【0041】
第1の分離膜が第1の垂直部に付着すると、第2の分離膜は、任意選択で第2の垂直部の上に置かれ、第2の垂直部に接続され、シールを形成する。任意選択で、第2の分離膜を適用する前に、この場合も中間予備培養チャンバの中に生物学的材料を導入できる。それに対応して、閉鎖膜はフレームの上に置かれ、閉鎖膜およびフレームは接続され、シールを形成する。任意選択で、追加閉鎖膜は最下部の、フレームと反対の方向を向く側面の上に置かれ、側面に接続し、シールを形成する。
【0042】
各予備培養チャンバ、およびその結果得られる培養チャンバの各々に、少なくとも1つのチャネルが接触するので、マルチチャンババイオチップの培養チャンバの各々の中に培養液を供給および/または放出できる。
【0043】
本発明によるマルチチャンババイオチップの上述の複数の特有の実施形態は、有利にはそのようなマルチチャンババイオチップの使用可能性をかなり多く許容する。意図する使用法のすべては、少なくとも以下のステップを備える。第一に、本発明によるマルチチャンババイオチップを選択し提供する。選択は、たとえば既存の培養チャンバの数に関して、および/または1つまたは複数の分離膜の選択の余地および/または組合せに関して行うことができる。使用中、望ましくない相互作用および汚染を回避するために、マルチチャンババイオチップをその後無菌化できる。高められた純度条件下で無菌構成要素からなる組立体もまた無菌化と同等である。その後たとえば培養液、細胞、微生物、球状体および/もしくは類器官および/もしくは細胞塊および/もしくは組織片、または多細胞器官を既存の培養チャンバの中に導入できる。
【0044】
マルチチャンババイオチップの使用法の特有の実施形態では、またはその実施形態の提供された構成の1つでは、好ましくはたとえばコラーゲン、フィブロネクチン、ラミニンなどのような細胞外基質の成分から構成されるヒドロゲルを培養チャンバのうち少なくとも1つに導入できる。
【0045】
本発明によるマルチチャンババイオチップを使用して、たとえば膜のうち1つの(微小)キャビティの中に球状体および/または類器官をコロニー形成することにより、マルチチャンババイオチップの培養チャンバのうち少なくとも1つの中に球状体および/または類器官を発生させる、および/または培養することができる。
【0046】
本発明によるマルチチャンババイオチップはまた、さまざまな物質、活性物質、ナノ材料、微生物、媒介物、抗体などを伴う既存の細胞、細胞培養、類器官、または球状体を試験するために使用できる。
【0047】
本発明による基本要素に基づく本発明の構造が原因で、本発明はユーザにとって使用しやすい。マルチチャンババイオチップの組立体はかなり簡略化され、従来技術と比較して著しくエラーを起こしにくい。さらに、基本要素の一体設計が原因で、効率的製造、ならびに広範な分離膜および/または閉鎖膜と汎用的に組み合わせることが可能である。たとえば膜を接続してシールを形成するレーザ接合法を使用することにより、接着剤または他の粘着剤を省くことが可能である。
【0048】
本発明によるマルチチャンババイオチップは、たとえば特有の実施形態に応じて活性物質試験、または器官もしくは類器官のモデルならびに疾病および感染のモデルの確立および特性解析のために使用できる。活性物質試験については、たとえば物質投与に対する培養細胞の免疫応答を調べることが考えられる。この場合、さまざまな可能性があり、たとえば試験すべき細胞が成長するチャンバの中に物質を入れることができる。次いでたとえば細胞の顕微鏡観察により、または細胞から培養液の中に放出された、たとえばメッセンジャー物質、マーカなどのための細胞培地を調べることにより、細胞に対する物質の影響を決定できる。あるいは、たとえば、試験すべき細胞に対向して配置されたこのチャンバ内で成長する細胞が、物質の効果をたとえば弱める、または強める(勾配形成)可能性があるその他のチャンバの、試験すべき細胞内の物質の効果に及ぼす影響を調べるために、試験すべき細胞に対向するチャンバに物質をさらにまた追加できる。さらに、免疫細胞集団ありおよびなしの球状体および類器官を洗い落とす/灌流することができる。免疫細胞は、球状体または類器官を伴うチャンバの中に洗い落とす/灌流することができる、または好ましくは隣接するチャンバのうち1つの中で血管構造を介して流す/灌流することができる。それに加えて、免疫細胞は、血管構造および/または球状体/類器官の中に恒久的に一体化できる。それに加えて、球状体または類器官は、内皮細胞だけ、または限定することなく周皮細胞および平滑筋細胞と組み合わせた内皮細胞など、血管細胞を導入することにより血管新生化できる。たとえば、血管が横切る細胞を刺激するために、中間培養チャンバの上壁および下壁は、内皮細胞と単体で、または入口チャネルを通して導入された周皮細胞および平滑筋細胞と組み合わせて整列できるのに対し、器官特有の上皮細胞は、下部培養チャンバおよび上部培養チャンバの中に導入される。しかしながら、他の実施形態では、内皮細胞はまた、所与の入口チャネルにより単体で、または周皮細胞および平滑筋細胞と組み合わせて、上部チャンバまたは下部チャンバの上壁または下壁の上に導入でき、中間チャンバでは、内皮細胞は、層状の細胞の層の形で、または球状体および類器官の形で一体化できる。
【0049】
本発明について代表的実施形態および図を参照して以下でより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0050】
図1】本発明による基本要素の代表的実施形態の概略の透視図である。
図2】本発明による基本要素の最下部内のチャネルの代表的実施形態の概略図である。
図3】マルチチャンババイオチップを提供するための、本発明によるセットの代表的実施形態の概略図である(分解図)。
図4】3つの培養チャンバを伴う、本発明によるマルチチャンババイオチップを通る横断面図、およびマルチチャンババイオチップを動作させるための装置の略図である。
図5】本発明によるマルチチャンババイオチップの可能な使用法を示す。
【発明を実施するための形態】
【0051】
以下では、2つの内部空間6が、基本要素1の最下部3上のフレーム4の長方形の平坦な鋳造物によりそれぞれ境界を定められた代表的実施形態によって本発明について記述する。以下でより詳細に説明するように、内部空間6は(予備)マルチチャンバキャビティ2.1をそれぞれ形成するような方法で階段状に分割される。その結果、図1図2、および図3の基本要素によりマルチチャンババイオチップ2を提供できる、または2つのマルチチャンバキャビティ2.1を有するマルチチャンババイオチップ2が提供される(両方のマルチチャンバキャビティ2.1は、完全なマルチチャンババイオチップを機能的に形成する)。図の明瞭性を改善するために、図1図2図3で両方の既存のマルチチャンバキャビティ2.1を使用して、単一マルチチャンバキャビティ2.1の要素、または1つのマルチチャンバキャビティ2.1だけを伴うマルチチャンババイオチップ2の要素を示す。この場合、記述は1つのマルチチャンバキャビティ2.1だけに関係する。
【0052】
本発明による基本要素1は、生体適合性材料から、および詳細には生体適合性射出成形プラスチックから単一部分として形成される(図1)。最下部3から始めて(図2も参照されたい)最下部と反対の方向を向く側で開放されたフレーム4が形成される。フレーム4は平坦であり、内部空間6を囲む。
【0053】
内部空間6の内部では、第1の表面の周囲に伸展する第1の垂直部5が,フレーム4の材料の中に存在する階段状部分の形で作られる。第1の垂直部5の高さは、フレーム4の高さよりも低い。垂直部5は、内部空間6の方を向く第1の側面5.2、および最下部3に対向する第1の支持表面5.1を有する。第1の支持表面5.1は、第1の分離膜11を支持するように設計される(図3図4を参照されたい)。下部予備培養チャンバ8は、第1の側面5.2、および第1の垂直部5により囲まれた表面により境界を定められる。図1図3の代表的実施形態では、第1の垂直部5により囲まれた表面は長方形である。
【0054】
それに加えて、最下部3上の内部空間6の内側に置かれ第2の表面を取り囲む第2の垂直部7が提供され、第2の垂直部7は、基本要素1の材料から作られた階段状部分として同様に設計される(図1)。第2の垂直部7により囲まれた第2の表面は、第1の垂直部5により囲まれた第1の表面よりも大きく、同じく長方形である。第2の垂直部7の高さは、フレーム4の高さよりも低いが、第1の垂直部5の高さよりも高い。第2の支持表面7.1は第2の垂直部7の上に形成される。第2の支持表面7.1は、第2の分離膜12を支持するように設計される(図3を参照されたい)。第1の垂直部5の第1の支持表面5.1と第2の垂直部7の第2の支持表面7.1の間の部分で、第2の垂直部7は、内部空間6の方を向く第2の側面7.2を形成する。中間予備培養チャンバ9は、第2の垂直部7により取り囲まれた第2の表面、および第2の側面7.2により境界を定められる。第2の支持表面7.1と基本要素1の上側1.1の間の残りの内部空間6は、上部予備培養チャンバ10を形成する。上側1.1は、基本要素1の、最下部3に対向する側面により形成される。
【0055】
マルチチャンババイオチップ2が組み立てられた状態で予備培養チャンバ8、9、10から得られる培養チャンバ8、9、および10に培養液18を供給できるために(図4を参照されたい)、培養チャンバ8、9、および10と基本要素1の上側1.1の間に2つのチャネル14を形成する。図1では、チャネル14は、丸い通路10.1、16.1として、および長方形の横断面を有する通路9.1として見ることができる。チャネル14は、培養チャンバ8、9、および10から、コネクタ16への分配が行われる最下部3の方向に通じている(図1図3図4を参照されたい)。
【0056】
図示する代表的実施形態では、コネクタ16は、基本要素1の上側1.1に位置する。代表的実施形態では、コネクタ16の各々は、培養チャンバ8、9、10の各々を通して培養液18を供給および放出するように構成される。したがって、動作の準備ができているマルチチャンババイオチップ2の培養チャンバ8、9、10の各々は、その他の培養チャンバ8、9、10とは無関係に培養液18が通過できるようにする。詳細には、各培養液18は、対応する培養チャンバ8、9、10用に個々に選択でき、個々の制御可能な体積流により、対応する培養チャンバ8、9、10に適用できる。
【0057】
マルチチャンババイオチップ2の動作中に少なくとも下部培養チャンバ8で工程の光学的検出を可能にするために、最下部3内に窓17が形成される(図4)。窓17の表面は、第1の垂直部5により囲まれた表面と一致する。
【0058】
チャネル14の代表的進路、および対応するコネクタ16へのチャネル14の接続を、最下部3の、外側を指し示す側面の描写と共に図2に示す。下部培養チャンバ8を通して培養液18を供給および放出するために、互いに対角線上に対向して配列された2つの供給開口部8.1を通して下部培養チャンバ8の中に通じている2つの下部チャネル14.2が存在する。中間培養チャンバ9に他の培養液18を供給するために、第1の垂直部5と第2の垂直部7の間に配列された対向する長方形の供給通路9.1のような部分の中に形成された2つの中間チャネル14.3が提供される(図1も参照のこと)。上部培養チャンバ10は、2つの上部チャネル14.4がそれぞれ最も外側の丸い供給通路10.1を介して上部培養チャンバ10に接触するという点で、2つの上部チャネル14.4により他の培養液18を供給される。
【0059】
丸い横断面を伴う各事例に示すコネクタ通路16.1はこの場合、コネクタ16に至るそれぞれの接続を作り出す。
【0060】
図2の代表的実施形態では、一方では供給開口部8.1と供給通路9.1、10.1の間のチャネル14の部分14.1は、他方では予備チャネル部分14.1として形作られた関連するコネクタ通路16.1として存在する。予備チャネル部分14.1は、基本要素1の中に組み込まれたくぼみにより形成される。代表的実施形態では、くぼみは長方形の横断面を有する溝の形で配列される。当然のことながら、半円形の横断面など、他の横断面を有する他のタイプのくぼみもまた可能である。くぼみは、コネクタ通路16.1および供給通路9.1、10.1を、または下部培養チャンバ8の場合には2つの関連するコネクタ通路16.1および2つの対角線上に対向する供給通路8.1を有する窓17を、それぞれ囲む内部チャネル壁14.5を有する。チャネル壁14.5は、側面と同一平面をなし、最下部3のフレーム4と反対の方向を指す。チャネルカバーを適用することにより、予備チャネル部分14.1を閉鎖することができ、その結果、これらのチャネル部分の14.1の機能状態を作り出すことができる。図3および図4の代表的実施形態では、下部閉鎖膜15は、最下部3の、フレーム4と反対の方向を指す側面に適用され、継ぎ目の手法で、チャネル壁14.5に沿って、最下部3に液密の手法で接続される。接続は、好ましくは作り出される接続継ぎ目に沿ってレーザ溶接を用いて行われ、さらにまた、たとえば接着または溶剤溶接により達成できる。閉鎖膜15の液密接続が原因で、予備チャネル部分14.1はその機能状態を達成する。
【0061】
図3では、例としてマルチチャンババイオチップ2のためのセットを示し、例示はまた、マルチチャンババイオチップ2の代表的実施形態の構成要素の分解図と見なすことができる。本発明による基本要素1は中心的要素として存在する。第1の可撓性のある分離膜11は、第1の垂直部5の第1の支持表面5.1の上に置くために提供される。第1の分離膜11は、そこに付着する場合、下部培養チャンバ8を閉鎖する。第1の分離膜11には、たとえば球状体または類器官を導入できる、および/またはそこで培養できる、たとえば微小キャビティ19を具備する(図5を参照されたい)。第2の可撓性のある分離膜12は、第2の垂直部7の第2の支持表面7.1の上に置くのに役立ち、中間培養チャンバ9を閉鎖する。さらにまた提供される透明な閉鎖膜13はフレーム4の上に置くことができ、その膜は、組み立てられた状態で、第2の分離膜12と閉鎖膜13の間で残りの内部空間6を上部培養チャンバ10として閉鎖するように働く。
【0062】
さらにまた最下部3の中に形成されたチャネル部分14.1だけではなく窓17も閉鎖するために、上記ですでに説明したように、最下部3の上に適用され対応するチャネル部分14.1および窓17を密封する追加の透明な閉鎖膜15が存在する。
【0063】
下部培養チャンバ8、中間培養チャンバ9、および上部培養チャンバ10を伴う、本発明によるマルチチャンババイオチップ2を側面断面図で図4に示す。図4の描画平面は図3の線a-aに対応し、明瞭にするために図3のマルチチャンババイオチップの左半分だけを図4に示す。
【0064】
マルチチャンババイオチップ2の基本要素1のモノリシック構造は、図4で明瞭に見ることができる。最下部3から始めて最下部3と反対の方向を向く側で開放された平坦なフレーム4が形成される。フレーム4の内部では、第1の表面の周囲に伸展する第1の垂直部5は,フレーム4の材料の中に存在する階段状部分の形で作られる。第1の垂直部5の高さは、フレーム4の高さよりも低い。第1の垂直部5は、第1の側面5.2、および最下部3に対向する第1の支持表面5.1を有する。第1の垂直部5を囲む表面の領域内に、最下部は窓17を有する。さらに、最下部3の上に置かれ第2の表面を取り囲み、基本要素1の材料から作られた階段状部分として同様に設計された第2の垂直部7が存在する。第2の垂直部7の高さは、フレーム4の高さよりも低いが、第1の垂直部5の高さよりも高い。第2の支持表面7.1は、第2の垂直部7の上に形成される。第1の垂直部5の第1の支持表面5.1と第2の垂直部7の第2の支持表面7.1の間で、第2の垂直部7は、内部空間6の方を向く第2の側面7.2を形成する。
【0065】
いずれの場合も液密の手法で、第1の分離膜11は第1の支持表面5.1に適用され、第2の分離膜12は第2の支持表面7.1に適用される。第1の分離膜11は、微小キャビティ19を有する。最下部3の、フレーム4と反対の方向を向く側面上には、いずれの場合も液密の手法で、下部閉鎖膜15が適用され、上部閉鎖膜13はフレームの上側に適用される。下部培養チャンバ8は、第1の側面5.2、第1の分離膜11、および下部閉鎖膜15により境界を定められる。中間培養チャンバ9は、第2の側面7.2、第1の分離膜11、および第2の分離膜12により境界を定められ、上部培養チャンバ10は、残りのフレーム4、第2の分離膜12、および上部閉鎖膜13により境界を定められる。
【0066】
膜11、12、13、および15の機能は、明瞭に見ることができ、互いに、または周囲環境から、培養チャンバ8、9、および10の範囲を定めるためでもあり、培養チャンバ8、9、および10の間で分子および/または細胞の交換に関して所望の選択肢を提供するためでもある。
【0067】
図3および図4の例では、マルチチャンババイオチップ2は3つのチャンバを有する。下部チャンバ8は、およそ42mm2の使用可能な底面積、0.5mmの高さ、ならびに入口およそ放出のチャネル14の体積を含む60mm3の体積を有する。供給開口部8.1の領域では、入口および放出のチャネル14は、およそ0.5mmの直径を有する。中間チャンバ9は、160mm2の使用可能な底面積、1.1mmの高さ、ならびに入口および放出のチャネル14の体積を含むちょうど200mm3の体積を有する。入口および放出のチャネル14は、供給通路9.1の領域内で長方形であり、幅が2mmである。上部チャンバ10は、216mm2の使用可能な底面積、0.7mmの高さ、ならびに入口および放出のチャネル14の体積を含むほぼ150mm3の体積を有する。入口および放出のチャネル14は、供給通路10.1の領域内で0.8mmの直径を有する。言及するすべての単一寸法仕様は変動する可能性があり、たとえば±0.5mmの変動があり、その結果、表面および体積のサイズが変化する可能性がある。
【0068】
(矢印により示す)さまざまな培養液18は、関連するチャネル14に沿って対応する培養チャンバ8、9、10の中に、および再度そこから外に流れることができ、培養チャンバ8、9、10の中への培養液18の供給は、互いに無関係に行うことができる(図4)。下部培養チャンバ8の例を使用して接続原理を図4に示し、いずれの場合も、供給管路23および放出管路24が配列された関連コネクタ16は、供給開口部8.1を介して下部培養チャンバ8の中に通じており、下部チャンバ8に培養液18を供給する下部チャネル14.2に接続される。下部チャネル14.2は、一部は描画平面に対してずれて伸展し、したがって、部分的に破線で描かれている。
【0069】
類似の手法で、中間培養チャンバ9には中間チャネル14.3を介して培養液18を供給でき、上部培養チャンバ10には上部チャネル14.4を介して培養液18を供給できる。マルチチャンババイオチップ2はたとえば、窓17の方を向くレンズ21を有し監視でき任意選択で検出でき記憶できマルチチャンババイオチップ2の工程によって評価できる、読取機器または顕微鏡などの機器を用いて動作させることができる。この目的のために、所望の手法でマルチチャンババイオチップ2を照明するために光源22もまた存在する可能性がある。それに加えて、供給管路23および放出管路24に接続されたポンプ25を配列でき、供給管路23および放出管路24は次に、対応するコネクタ16に付着する。ポンプ25および任意選択で光源22はたとえば、制御された手法で培養チャンバ8、9、10の灌流を行うことができ光学的に監視できるようにコントローラ20を用いて制御できる。たとえばコンピュータにより実現されたコントローラ20はまた任意選択で、制御コマンドの生成に加えて、光学的に検出されたデータを記憶および/または評価できる。たとえば、コントローラ20を用いて、光学的に検出されたデータの関数として、個々の培養チャンバ8、9、10に関するポンプ流量を制御可能である。
【0070】
本発明は、有利には複雑な生物学的モデルの構築を可能にする。たとえば、一体化された血管および免疫細胞の循環を伴う球状体26および/または類器官26の微小流体培養を実現できる。
【0071】
その結果、膵癌(PDAC、pancreatic ductal adenocarcinoma、膵管腺癌)を研究するためのモデルを作成できる(図5)。この目的のために、下部閉鎖膜15と第1の分離膜11の間に0.5mmの明確な高さを有する下部培養チャンバ8が提供される。第1の分離膜11は多孔性であり、中間培養チャンバ9の方を向く第1の分離膜11の側面上に微小キャビティ19を具備し、そのキャビティ内で、球状体26をコロニー形成し培養できる。中間培養チャンバ9は1.1mmの明瞭な高さを有し、その結果、球状体26は、最大およそ1mmのサイズまで非破壊的手法で導入できる。チャネル14はまた、それに対応して大きくなるように特定の寸法に作られる。
【0072】
図5の代表的実施形態では、第2の分離膜12は、多孔性PETフィルムとして設計され、中間培養チャンバ9を覆う。マクロファージ29を伴う、微小血管の膵臓内皮細胞28から構成される細胞層27は、上部培養チャンバ10内に形成される。明瞭性を改善するために、細胞層27は、第2の分離膜12から距離を置いて示されている。実際は、細胞層27は、第2の分離膜12の上に付着して成長する。第2の分離膜12を通して、灌流された単球30およびT細胞31は、たとえば中間培養チャンバ9の中に進むことができる。
【0073】
上部培養チャンバ10は、第2の分離膜12と閉鎖膜13の間に0.7mmの明確な高さを有する。
【符号の説明】
【0074】
1 基本要素
1.1 上側
2 マルチチャンババイオチップ
2.1 マルチチャンバキャビティ
3 最下部
4 フレーム
5 第1の垂直部
5.1 第1の支持表面(第1の端面)
5.2 第1の側面
6 内部空間
7 第2の垂直部
7.1 第2の支持表面(第1の端面)
7.2 第2の側面
8 下部(予備)培養チャンバ
8.1 供給開口部
9 中間(予備)培養チャンバ
9.1 供給通路
10 上部(予備)培養チャンバ
10.1 供給通路
11 第1の分離膜
12 第2の分離膜
13 上部閉鎖膜(または上部接合フィルム)
14 チャネル
14.1 予備チャネル部分
14.2 下部チャネル
14.3 中間チャネル
14.4 上部チャネル
14.5 チャネル壁
15 追加(下部)閉鎖膜(または下部接合フィルム)
16 コネクタ
16.1 コネクタ通路
17 窓
18 培養液
19 微小キャビティ
20 コントローラ
21 レンズ
22 光源
23 入口
24 放出
25 ポンプ
26 球状体/類器官
27 細胞層
28 (膵臓)内皮細胞
29 マクロファージ
30 単球
31 T細胞
図1
図2
図3
図4
図5
【外国語明細書】