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特開2024-43518MEMS加速度計システム、およびアビオニクスシステム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043518
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】MEMS加速度計システム、およびアビオニクスシステム
(51)【国際特許分類】
   G01P 15/13 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
G01P15/13 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023149714
(22)【出願日】2023-09-15
(31)【優先権主張番号】17/947,002
(32)【優先日】2022-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.JAVA
(71)【出願人】
【識別番号】516344443
【氏名又は名称】シモンズ・プレシジョン・プロダクツ・インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100140361
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 幸二
(72)【発明者】
【氏名】リチャード エー.ハル
(72)【発明者】
【氏名】ヴァシレイオス サコウリディス
(57)【要約】
【課題】 改良されたMEMS加速度計システムを提供する。
【解決手段】 MEMS加速度計システムは、入力加速度に応答して初期位置から移動するように構成されたプルーフマスを有するプルーフマス装置と、プルーフマス装置に動作可能に接続され、プルーフマスの動き及び/または位置に相関するトランスデューサ信号を出力するトランスデューサと、プルーフマス装置に動作可能に接続され、プルーフマスを駆動するように構成されたドライバと、ドライバを制御するコントローラとを含んでよい。コントローラは、トランスデューサ信号を受信し、初期位置に向かってプルーフマスを駆動するためにドライバに駆動信号を出力するように、トランスデューサに動作可能に接続されている。システムは、駆動信号を受信するためにコントローラに接続されたオブザーバモジュールを含んでよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
MEMS加速度計システムであって、
入力加速度に応じて初期位置から移動するように構成されたプルーフマスを有するプルーフマスデバイスと、
前記プルーフマスの動き及び/または位置に相関するトランスデューサ信号を出力するために、前記プルーフマス装置に動作可能に接続されたトランスデューサと、
前記プルーフマス装置に動作可能に接続され、前記プルーフマスを駆動するように構成されたドライバと、
前記ドライバを制御するために前記ドライバに動作可能に接続されているコントローラであって、前記コントローラは、前記トランスデューサ信号を受信し、初期位置に向かって前記プルーフマスを駆動するために前記ドライバに駆動信号を出力するように前記トランスデューサに動作可能に接続されている、前記コントローラと、
前記駆動信号を受信するために前記コントローラに動作可能に接続されているオブザーバモジュールであって、前記オブザーバモジュールは前記トランスデューサ信号を受信するために前記トランスデューサに動作可能に接続され、前記オブザーバモジュールは、前記トランスデューサ信号と、決定論的モデルに基づく前記駆動信号とに基づき、前記入力加速度を決定論的に推定するように構成され、前記オブザーバモジュールは、推定された入力加速度信号を出力するように構成されている、前記オブザーバモジュールと、
を含む、MEMS加速度計システム。
【請求項2】
前記オブザーバモジュールは、前記推定された入力加速度信号が前記ドライバまたは前記プルーフマスの前記位置を制御するために使用されないように、前記コントローラの入力部に接続されない、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記オブザーバモジュールは温度センサから温度信号を受信するように構成され、
前記オブザーバモジュールは、さらに、前記温度読値に基づいて前記入力加速度を推定するように構成されている、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記オブザーバモジュールは、変位計算モジュール、駆動加速度計算モジュール及びオブザーバダイナミクスモジュールを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記変位計算モジュールは、前記トランスデューサ信号及び前記温度信号を受信し、計算された変位信号を出力するように構成されている、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
前記駆動加速度計算モジュールは、前記ドライバ信号、前記温度信号、前記計算された変位信号及び基準信号を受信し、前記プルーフマスを前記初期位置まで駆動するのに必要な復元加速度を推定する計算された復元加速度信号を出力するように構成されている、請求項5に記載のシステム。
【請求項7】
前記オブザーバダイナミクスモジュールは、前記駆動加速度計算モジュール及び前記変位計算モジュールに動作可能に接続されており、
前記オブザーバダイナミクスモジュールは、前記計算された復元加速度信号及び計算された変位信号に基づいて、前記推定された入力加速度を計算するように構成されている、請求項6に記載のシステム。
【請求項8】
前記オブザーバモジュールは、前記オブザーバダイナミクスモジュールに動作可能に接続されたローパスフィルタを含み、前記推定入力加速度信号を受信して、前記推定入力加速度信号からノイズをフィルタリングし、フィルタリングされた推定入力加速度信号を出力する、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
前記オブザーバモジュールは、前記プルーフマス変位
【数1】

前記プルーフマス速度
【数2】

及び前記入力加速度
【数3】

の推定値を、以下、
【数4】

の関係に従って生成するように構成され、
式中、K、K及びLはオブザーバ利得であり、
12、a21、a22は、以下、
【数6】

の関係で示されているような総印加加速度からプルーフマス変位までのプルーフマス2次線形動的モデルにおける一定のパラメータであり、
式中、w及びwは、全般的な外乱及び/または不確実性(例えば、測定雑音)において未知であることを表す、
請求項8に記載のシステム。
【請求項10】
前記フィルタリングされた入力加速度信号を受信し、必要に応じて前記データを使用、記録、送信、または表示するために、前記ローパスフィルタに動作可能に接続されたデバイスまたはシステムをさらに含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
アビオニクスシステムであって、
MEMS加速度計システムを含み、前記MEMS加速度計システムは、
入力加速度に応じて初期位置から移動するように構成されたプルーフマスを有するプルーフマスデバイスと、
前記プルーフマスの動き及び/または位置に相関するトランスデューサ信号を出力するために、前記プルーフマス装置に動作可能に接続されたトランスデューサと、
前記プルーフマス装置に動作可能に接続され、前記プルーフマスを駆動するように構成されたドライバと、
前記ドライバを制御するために前記ドライバに動作可能に接続されているコントローラであって、前記コントローラは、前記トランスデューサ信号を受信し、初期位置に向かって前記プルーフマスを駆動するために前記ドライバに駆動信号を出力するように前記トランスデューサに動作可能に接続されている、前記コントローラと、
前記駆動信号を受信するために前記コントローラに動作可能に接続されているオブザーバモジュールであって、前記オブザーバモジュールは前記トランスデューサ信号を受信するために前記トランスデューサに動作可能に接続され、前記オブザーバモジュールは、前記トランスデューサ信号と、決定論的モデルに基づく前記駆動信号とに基づき、前記入力加速度を決定論的に推定するように構成され、前記オブザーバモジュールは、推定された入力加速度信号を出力するように構成されている、前記オブザーバモジュールと、
を含む、アビオニクスシステム。
【請求項12】
前記オブザーバモジュールは、前記推定された入力加速度信号が前記ドライバまたは前記プルーフマスの前記位置を制御するために使用されないように、前記コントローラの入力部に接続されない、請求項11に記載のアビオニクスシステム。
【請求項13】
前記オブザーバモジュールは温度センサから温度信号を受信するように構成され、
前記オブザーバモジュールは、前記温度読値に基づいて前記入力加速度を推定するように構成されている、請求項12に記載のアビオニクスシステム。
【請求項14】
前記オブザーバモジュールは、変位計算モジュール、駆動加速度計算モジュール及びオブザーバダイナミクスモジュールを含む、請求項13に記載のアビオニクスシステム。
【請求項15】
前記変位計算モジュールは、前記トランスデューサ信号及び前記温度信号を受信し、計算された変位信号を出力するように構成されている、請求項14に記載のアビオニクスシステム。
【請求項16】
前記駆動加速度計算モジュールは、前記ドライバ信号、前記温度信号、前記計算された変位信号及び基準信号を受信し、前記プルーフマスを前記初期位置まで駆動するのに必要な復元加速度を推定する計算された復元加速度信号を出力するように構成されている、請求項15に記載のアビオニクスシステム。
【請求項17】
前記オブザーバダイナミクスモジュールは、前記駆動加速度計算モジュール及び前記変位計算モジュールに動作可能に接続されており、
前記オブザーバダイナミクスモジュールは、前記計算された復元加速度信号及び計算された変位信号に基づいて、前記推定された入力加速度を計算するように構成されている、請求項16に記載のアビオニクスシステム。
【請求項18】
前記オブザーバモジュールは、前記オブザーバダイナミクスモジュールに動作可能に接続されたローパスフィルタを含み、前記推定入力加速度信号を受信して、前記推定入力加速度信号からノイズをフィルタリングし、フィルタリングされた推定入力加速度信号を出力する、請求項17に記載のアビオニクスシステム。
【請求項19】
前記オブザーバモジュールは、前記プルーフマス変位
【数1】

前記プルーフマス速度
【数2】

及び前記入力加速度
【数3】

の推定値を、以下
【数4】

の関係に従って生成するように構成され、
式中、K、K及びLはオブザーバ利得であり、
12、a21、a22は、以下、
【数6】

の関係で示されているような総印加加速度からプルーフマス変位までのプルーフマス2次線形動的モデルにおける一定のパラメータであり、
式中、w及びwは、全般的な外乱及び/または不確実性(例えば、測定雑音)において未知であることを表す、
請求項18に記載のアビオニクスシステム。
【請求項20】
前記フィルタリングされた入力加速度信号を受信し、必要に応じて前記データを使用、記録、送信、または表示するために、前記ローパスフィルタに動作可能に接続されたデバイスまたはシステムをさらに含む、請求項19に記載のアビオニクスシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、MEMS加速度計システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のMEMS加速度計では、外部から加えられる特定の加速度(以下では入力加速度)によってプルーフマスが変位し、形成されるキャパシタプレートの距離、ひいては全体的な容量が変化する。上記の容量変化は、変位トランスデューサ(例えば、ピックオフトランスデューサ)によって電圧に変換され、次いで、この変位トランスデューサを制御システムによって使用して、プルーフマスを所望のゼロ位置にバランスさせるために、適切な電気力(及び加速度)を印加するように駆動力トランスデューサを励起することができる。加速度計デバイスの目的は、入力加速度を検出し、必要に応じて別のシステムによって使用される、記録される、送信されるまたは表示されるいずれかの可能性がある入力加速度の正確な推定値を出力することである。
【0003】
検出される入力加速度信号は、システムが定常状態に静止している場合に、コントローラの出力から推定可能である。これは、デバイスに作用する特定の加速度を推定するためにMEMS加速度計で使用される標準的な履歴手法である。コントローラは、ピックオフトランスデューサによって検出されるプルーフマス(質量ばねダンパシステム)の変位に基づいて動作し、プルーフマスをその中心(ゼロ変位)位置に復元及び維持する、力増幅器への駆動指令信号を生成するように設計されている。プルーフマスがゼロ定常状態位置で安定化される場合、力増幅器によってプルーフマスに作用する加速度は、システムに作用する特定の加速度と正確に釣り合うので、入力加速度の良好な推定値である。しかし、プルーフマスがゼロ定常状態位置で安定していない場合、コントローラの出力は、入力加速度の良好な推定値ではなく、例えば、加速度の推定値の誤りが作成される。
【0004】
さらに、著しい温度変化が生じるケース/用途では、MEMS成形キャパシタプレート材料は変形することができ、したがって全体的な容量が変化し、その結果、推定される加速度においてバイアス誤差に起因する付加的な温度が生じる。従来のMEMS方法及びMEMSシステムは、このような温度効果に不都合であり、温度関連のバイアス加速度推定誤差を解くことができない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の方法及びシステムは一般的に、その意図した目的を満たすと考えられてきた。しかし、当該技術分野では、MEMS加速度計システムを改良する必要が依然としてある。本開示は、この必要性に対する解決策を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
MEMS加速度計システムは、入力加速度に応答して初期位置から移動するように構成されたプルーフマスを有するプルーフマス装置と、プルーフマス装置に動作可能に接続され、プルーフマスの動き及び/または位置に相関するトランスデューサ信号を出力するトランスデューサと、プルーフマス装置に動作可能に接続され、プルーフマスを駆動するように構成されたドライバと、ドライバを制御するコントローラとを含んでよい。コントローラは、トランスデューサ信号を受信し、初期位置に向かってプルーフマスを駆動するためにドライバに駆動信号を出力するように、トランスデューサに動作可能に接続されている。システムは、駆動信号を受信するためにコントローラに接続されたオブザーバモジュールを含んでよい。オブザーバモジュールは、トランスデューサ信号を受信するために、トランスデューサに動作可能に接続されてよい。オブザーバモジュールは、トランスデューサ信号及び決定論的モデルに基づく駆動信号に基づいて、入力加速度を決定論的に推定するように構成されてよい。オブザーバモジュールは、任意の他の装置によって必要に応じて使用される推定入力加速度信号を出力するように構成可能である。
【0007】
オブザーバモジュールは、推定入力加速度信号がドライバまたはプルーフマスの位置を制御するために使用されないように、コントローラの入力部に接続されなくてもよい。オブザーバモジュールは、温度センサから温度信号を受信するように構成可能である。特定の実施形態では、オブザーバモジュールは温度読値にさらに基づいて入力加速度を推定するように構成することができる。
【0008】
オブザーバモジュールは、変位計算モジュール、駆動加速度計算モジュール及びオブザーバダイナミクスモジュールを含むことができる。変位計算モジュールは、トランスデューサ信号及び温度信号を受信し、計算された変位信号を出力するように構成することができる。駆動加速度計算モジュールは、ドライバ信号、温度信号、計算された変位信号及び基準信号を受信し、プルーフマスを初期位置に駆動するのに必要な復元加速度を推定する計算された復元加速度信号を出力するように構成され得る。
【0009】
オブザーバダイナミクスモジュールは、駆動加速度計算モジュール及び変位計算モジュールに動作可能に接続され得る。オブザーバダイナミクスモジュールは、計算された復元加速度信号及び計算された変位信号に基づいて、推定入力加速度を計算するように構成可能である。
【0010】
オブザーバモジュールは、オブザーバダイナミクスモジュールに動作可能に接続されたローパスフィルタを含み、推定入力加速度信号を受信して、推定入力加速度信号からノイズをフィルタリングし、フィルタリングされた推定入力加速度信号を出力することができる。オブザーバモジュールは、プルーフマス変位
【0011】
【数1】
【0012】
プルーフマス速度
【0013】
【数2】
【0014】
及び入力加速度
【0015】
【数3】
【0016】
の推定値を以下、
【0017】
【数4】
【0018】
の関係に従って生成するように構成可能であり、式中、tは時間を表し、K、K及びLオブザーバ利得であり、
【0019】
【数5】
【0020】
は人工的なオブザーバ状態であり、a12、a21、a22は、以下、
【0021】
【数6】
【0022】
の関係式に示されるように、総印加加速度からプルーフマス変位までのプルーフマス2次線形動的モデルにおける一定のパラメータであり、式中、w及びwは、全般的な外乱及び/または不確実性(例えば、測定雑音)において未知であることを表す。
【0023】
特定の実施形態では、このシステムは、ローパスフィルタに動作可能に接続されたデバイスまたはシステムを含んでいて、フィルタリングされた入力加速度信号を受信し、必要に応じてデータを使用、記録、送信または表示することができる。本明細書に開示される任意の適切なモジュールまたは他の構成要素は、例えば上述のように、任意の適切な計算ハードウェア及び/またはソフトウェアとして具現化することができ、及び/またはそれらを含んでよい。
【0024】
本開示の少なくとも1つの態様によれば、アビオニクスシステムは、MEMS加速度計システムを含むことができる。MEMS加速度計システムは、例えば上述のように、本明細書に開示される任意の適切な加速度計システムであり得る。
【0025】
本開示の実施形態のこれらの特徴及び他の特徴は、図面と併せて以下の詳細説明から、当業者にはより容易に明らかになる。
【0026】
本開示が属する技術分野の当業者が、不要な実験をすることなく本開示のデバイス及び方法の作り方及び使い方を容易に理解できるように、本開示の実施形態が、特定の図を参照して本明細書に詳しく後述される。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】本開示による、MEMS加速度計システムの実施形態の概略図である。
図2図1の加速度計コントローラシステムの一部の概略図である(例えば、当該部分は従来のシステムの全体であってよい)。
図3】バイアスされた加速度推定値における偏移の結果の一例を示す、図2の加速度計コントローラシステムの概略図である。
図4】ロバストなオブザーバモジュールが追加された図1のシステムの概略図である。
図5図4のシステムのロバストなオブザーバモジュールの実施形態の概略的な機能図である。
図6図5の実施形態の概略図である。
図7】本開示による特定の観察者利得のための設計メトリックの一実施形態の概略図である。
図8】過渡加速応答の比較を示す図である。
図9】A、B、C、及びDは、バイアスなし及びノイズなしと仮定した場合の加速度推定応答の4つの比較図を示す。
図10】A、B、C、D、E、及びFは、熱変動及び非線形電子ランダムノイズに起因するバイアスを仮定した加速度推定応答の6つの比較表を示す。
図11】A、B、C、及びDは、複数のシステム動作エンベロープ及びシステム熱条件における加速度推定応答の4つの比較図を示した図を示す。
図12】A、B、C、及びDは、付加的に70%の減少を有するオブザーバ利得Lを示す4つの比較図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、各図面を参照する。これらの図面では、同様の参照番号が、主題の開示の類似の構造的特徴または態様を識別する。限定ではなく、説明及び例示の目的で、本開示に従うシステムの実施形態の概略図が図1に示され、参照符号100によって一般的に指定される。本開示のその他の実施形態及び/または態様が図2~12に示されている。
【0029】
図1~6を参照すると、MEMS加速度計システム100は、入力加速度に応じて初期位置から移動するように構成されたプルーフマス101aを有するプルーフマスデバイス101を含むことができる。プルーフマスデバイス101は、(例えば金属の櫛形部材を有し、その一部がプルーフマス101aに接続されて他のデジット部分に対して移動する)櫛形容量装置であってよい。
【0030】
システム100は、プルーフマス101aの動き及び/または位置に相関するトランスデューサ信号を出力するためにプルーフマス101に動作可能に接続されたトランスデューサ103(例えば、ピックオフトランスデューサ)を含んでよい。トランスデューサ信号は、容量の指標とすることができ、したがって、例えば、プルーフマスの位置と相関させることができる。
【0031】
システム100は、プルーフマス101に動作可能に接続され、プルーフマス101aを駆動するように構成されたドライバ105(例えば駆動力トランスデューサ)を含んでよい。ドライバ105は、例えば、プルーフマス101aを初期位置に向かって電気機械的に駆動し戻すように構成されていてもよい。
【0032】
システム100は、ドライバ105を制御するためにドライバ105に動作可能に接続されたコントローラ111を含んでよい。コントローラ111は、トランスデューサ103に動作可能に接続され、トランスデューサ信号を受信し、駆動信号をドライバ105に出力してプルーフマス101aを初期位置に向かって駆動することができる。
【0033】
システム100は、駆動信号を受信するためにコントローラ111に接続されたオブザーバモジュール113を含んでよい。オブザーバモジュール113は、トランスデューサ信号を受信するために、トランスデューサ103に動作可能に接続されてよい。オブザーバモジュール113を、トランスデューサ信号及び決定論的モデルに基づく駆動信号に基づいて、入力加速度を決定論的に推定するように構成してよい。オブザーバモジュール113は、推定入力加速度信号を出力するように構成してよい。
【0034】
ドライバ105またはプルーフマス105aの位置を制御するために推定入力加速度信号が使用されないように、オブザーバモジュール113をコントローラ111の入力部に接続していなくてもよい。オブザーバモジュール113は、温度センサ(図示せず)から温度信号(例えば図示されているような信号T、例えば電子機器基板温度読値)を受信するように構成可能である。特定の実施形態では、オブザーバモジュール113は温度読値にさらに基づいて入力加速度を推定するように構成してよい。
【0035】
特定の実施形態では、オブザーバモジュール113は、変位計算モジュール115、駆動加速度計算モジュール117及びオブザーバダイナミクスモジュール119を含んでよい。変位計算モジュール115は、トランスデューサ信号及び温度信号を受信し、計算された変位信号を出力するように構成してよい。図示されているように、変位計算モジュール115は、VDemod_lsb(例えば、トランスデューサ信号)、基準電圧(Vref、例えば、固定パラメータ)及び温度信号(T、例えば、基板の温度の直接的な読み取り)を受信してよい。さらに、変位計算モジュール115は、プルーフマス(x1cal_t)の計算された変位を計算及び出力してよい。このモジュール115は、他の較正目的、健康監視または任意の他の適切な目的のために使用され得る副産物として、小さなギャップ計算(de_t、例えば温度誘起変形の関数であり得る)を出力してもよい。
【0036】
駆動加速度計算モジュール117は、ドライバ信号、温度信号、計算された変位信号及び基準信号を受信し、プルーフマス101aを初期位置まで駆動するのに必要な復元加速度を推定する計算された復元加速度信号を出力するように構成されてよい。駆動加速度計算モジュール117は、コントローラ信号(VDPWM_1)、Vref、T、及びx1cal_1(例えば、変位計算器から)を受信してよい。さらに、このモジュール117は、計算された加速度ad_cal_tを計算して、質量をゼロに戻し(例えば復元加速度)、オブザーバダイナミクスモジュール113に出力してよい。変位計算モジュール117は、(MEMSデバイス構造に基づく)数学的モデルを使用して、入力電圧を距離読み取りに変換してよい。
【0037】
オブザーバダイナミクスモジュール119は、駆動加速度計算モジュール117及び変位計算モジュール115に動作可能に接続されてよい。オブザーバダイナミクスモジュール119は、計算された復元加速度信号及び計算された変位信号に基づき、推定入力加速度を計算するように構成されてよい。オブザーバダイナミクスモジュール119は、d_cal_t、x1cal_1を使用してよく(ain_t)での推定加速度を計算してよい。特定の実施形態では、オブザーバダイナミクスモジュール119は、プルーフマスの振動速度及びプルーフマスの位置などの他の物理的パラメータであるx1t及びx2tを出力することもできる。
【0038】
オブザーバモジュール113は、推定入力加速度信号を受信して、推定入力加速度信号からノイズをフィルタリングし、フィルタリングされた推定入力加速度信号を出力するように、オブザーバダイナミクスモジュール119に動作可能に接続されたローパスフィルタ121を含んでよい。オブザーバモジュール113は、プルーフマス変位
【0039】
【数1】
【0040】
プルーフマス速度
【0041】
【数2】
【0042】
及び入力加速度
【0043】
【数3】
【0044】
の推定値を以下、
【0045】
【数4】
【0046】
の関係に従って生成するように構成してよく、式中、tは時間を表し、k1、k2及びLオブザーバ利得であり、
【0047】
【数5】
【0048】
は人工的なオブザーバ状態であり、a12、a21、a22は、以下、
【0049】
【数6】
【0050】
の関係式に示されるように、総印加加速度からプルーフマス変位までのプルーフマス2次線形動的モデルにおける一定のパラメータであり、式中、w及びwは、全般的な外乱及び/または不確実性(例えば、測定雑音)において未知であることを表す。
【0051】
特定の実施形態では、システム100は、ローパスフィルタ121に動作可能に接続されたデバイスまたはシステム123を含み、フィルタリングされた入力加速度信号を受信し、必要に応じてデータを使用、記録、送信または表示してよい。例えば前記のように、本明細書に開示される任意の適切なモジュールまたは他の構成要素は、任意の適切な計算ハードウェア及び/またはソフトウェアとして具現化することができ、及び/またはそれらを含んでよい。本明細書に開示される任意の信号は、アナログ(例えば、図示されているような電圧信号)もしくはデジタル信号またはそれらの任意の組み合わせでありうる。
【0052】
本開示の少なくとも1つの態様によれば、アビオニクスシステムは、MEMS加速度計システムを含んでよい。MEMS加速度計システムは、例えば前記システム100のように、本明細書に開示される任意の適切な加速度計システムであってよい。
【0053】
MEMSなどの特定のセンサシステムでは、システムはプルーフマスを元の位置に戻すように駆動する必要があるか、またはプルーフマスがストッパにぶつかるのでデバイスがもはや機能しない場合がある。特定のシステムでは、コントローラは質量がどこにあるかを計算し、次に、質量を電気機械的にそのゼロ/初期位置に戻すために必要なエネルギーを計算する。トランスデューサ出力にはノイズ等が含まれうるため、コントローラ出力は加速度のより良好な読み取りとなり得る。両方の過渡状態が存在し、したがって従来のシステムでは定常状態にバイアスが存在する。
【0054】
実施形態は、MEMS加速度計のためのロバストなオブザーバ設計を含んでよい。複数の実施形態は、マイクロ電気機械システム(MEMS)加速度計の性能を改善するための新規のオブザーバシステムの設計実装に関する。提案されたオブザーバは、新しいデバイス上のスタンドアローン型システムとして動作する、またはレガシーMEMS加速度計製品の補完機能として含めてよい。提案されたオブザーバは、ハードウェアにおいて、アナログ電子機器を介して、または組み込まれたソフトウェア制御型デバイスとして実現可能である。提案されたオブザーバは、そのパラメータを適切に設定及び調整することにより、MEMS加速度計デバイスの動作を戦術的なグレード以降に向かって改善してよい。提案されたオブザーバシステムのアーキテクチャ及び設計は、決定論的数式によって閉じた解析形式で記述及び実装してよい。
【0055】
単軸超高精度(VHP)MEMS-A加速度計容量デバイスの一般的なアーキテクチャを図1に示す。図1のシステムの場合、外部から印加される入力加速度によってプルーフマスが変位し、形成されたコンデンサプレートの距離が変化するので、全体的な容量が変化する。上記の容量変化は、変位トランスデューサ(例えば、ピックオフトランスデューサ)によって電圧に変換され、次いで、この変位トランスデューサを制御システムによって使用して、プルーフマスを所望のゼロ位置にバランスさせるために、適切な電気力(及び加速度など)を印加するように駆動力トランスデューサを励起することができる。
【0056】
図2に示したシステムの部分では、システムが定常状態に静止している場合に、センシングされる入力加速度信号をコントローラの出力によって推定してよい。コントローラは、ピックオフトランスデューサによって検出されるプルーフマス(質量ばねダンパシステム)の変位に基づいて動作し、プルーフマスをその中心(ゼロ変位)位置に復元及び維持する、力増幅器への駆動指令信号を生成するように設計してよい。プルーフマスがゼロ定常状態位置で安定化される場合、力増幅器によってプルーフマスに作用する加速度は、システムに作用する特定の加速度と正確に釣り合うので、入力加速度の良好な推定値である。しかしながら、プルーフマスがゼロ定常状態位置で安定化されていない場合には、コントローラの出力は入力加速度の良好な推定値ではなく、バイアス加速度問題を示す図3に示されているように、加速度の推定値における誤差が作成されることに留意されたい。さらに、著しい温度変化が生じるケース/用途では、MEMS成形キャパシタプレート材料は変形しうるので、全体的な容量が変化し、その結果、推定される加速度においてバイアス誤差に起因する付加的な温度が生じる。従来のMEMSコントローラは、このような温度効果に不向きであり、温度関連のバイアス加速度推定誤差を解くことができない。
【0057】
したがって、図3に示されているこのタイプの制御スキーマは、レガシーシステムと称することができ、そのようなコントローラは、入力加速度の最適なオブザーバではない。実際には、オブザーバに対する入力加速度が外乱としてシステムに入るので、加速度計デバイスの実際の目標は、システムの外乱を観察することである。従来のコントローラの解決手段は、定常状態にあるときのみ観察目標を満たし、実際には、コントローラループ利得の設計は、プルーフマスの性能応答と外乱排除との間の通常のトレードオフに従わなければならない。しかしながら、実施形態は、閉ループのプルーフマスフィードバック制御ループから独立して入力加速度外乱を観察するように特別に設計されたシステムにロバストなオブザーバ(RO)を利用する。この構成では、ROの利得を、コントローラの利得から独立して設計することができ、オブザーバでの高い利得が、閉ループのプルーフマスシステムを不安定にしない。これにより、ROは、システムに作用する入力加速度をより正確に追跡して推定値を提供し、プルーフマスの過渡運動及び定常状態における推定バイアスを低減し、システムノイズの除去を改善することができる。ROを備えたMEMS加速度計の全体的なブロック図が図4に示されている。
【0058】
ロバストなオブザーバ(RO)は、閉ループ制御システムを作動または妨害しない意味では、MEMS加速度計回路に対する付加的で受動的な動的コンポーネントであってよい。特定の実施形態では、MEMSセンサは、入力として1)ピックオフトランスデューサからのDemod lsbを受け取り、2)ループフィルタ(コントローラ)からのフィルタリングされていないデジタルPWM信号を受け取り、3)トランスデューサの電圧基準を受け取り、4)MEMS-A利用可能な温度センサからの温度信号を受け取る。これは、プルーフマスの小さいギャップ、2)プルーフマス変位、3)プルーフマス速度、及び4)外部入力加速度の推定値を出力することができる。RO構成要素の入力/出力ブロック図を図5に示す。
【0059】
MEMS加速度計へのロバストなオブザーバ付加部は、図6に示しかつ以下に説明する4つの構成要素を含んでよい。
【0060】
(変位計算モジュール)
特定の実施形態では、この成分は、Demod lsb、基準電圧及び温度によって駆動可能であり、プルーフマスの小さいギャップ及び変位を以下のように計算する。特定の実施形態では、温度の関数として事前に較正された加速度バイアスモデルを使用して、プルーフマスの小さなギャップd(T)を温度Tの関数として計算する。特定の実施形態では、コード実装をより簡単にし、かつオンラインのリアルタイムの計算負荷を低減するために、d(T)を較正された加速度バイアス温度モデルからオフラインで事前に計算してよい。特定の実施形態において、上記d(T)、ピックオフトランスデューサの非線形モデル、復調器及びADCの利得を使用して、プルーフマス変位は
【0061】
【数7】
【0062】
として計算される。
【0063】
(駆動加速度計算モジュール)
特定の実施形態では、この構成要素は、MEMS-A閉ループコントローラ(ループフィルタ)、基準電圧及び変位計算器によって評価された計算されたプルーフマス変位(上記Aを参照)からのデジタルPWMによって駆動される。特定の実施形態では、これは、駆動力変換器の非線形モデルから生成される駆動加速度を計算する。
【0064】
(オブザーバ動的モジュール)
特定の実施形態では、この構成要素は、計算されたプルーフマス変位及び駆動加速度によって駆動され、以下に示されているように、プルーフマス変位
【0065】
【数1】
【0066】
プルーフマス速度
【0067】
【数2】
【0068】
及び外部入力加速度
【0069】
【数3】
【0070】
の推定値を生成する動的オブザーバを実装する。
【0071】
【数4】
【0072】
、K及びLは、適切な方法によって設計されたオブザーバ利得である。a12、a21、a22は、以下に示されているように、プルーフマスの2次の線形動的モデルにおける、全印加加速度からプルーフマス変位までの一定のパラメータである。
【0073】
【数6】
【0074】
式中、w及びwは、全般的な外乱及び/または不確実性(例えば、測定雑音)において未知であることを表す。
【0075】
(ローパスフィルタ(LPF))
特定の実施形態では、この構成要素は、オブザーバの入力加速度推定値
【0076】
【数3】
【0077】
から望ましくない高次高調波成分及びノイズをフィルタリングするために使用される適切なローパスフィルタである。LPFのセットアップの例は、4次バターワースローパスフィルタである。
【0078】
(ロバストなオブザーバ設計)
オブザーバの設計は、利得K、K及びLを決定し、LPF利得を連続的な時間領域で設定することを含む。設計がリアルタイム(オンライン)コードで実施される場合、オブザーバ及びLPFの方程式は、それに応じて、予め定められたサンプリング期間の下で、サンプリングデータにそれぞれ変換される。
【0079】
(K、Kの設計)
特定の実施形態では、K、Kは、変位
【0080】
【数1】
【0081】
速度
【0082】
【数2】
【0083】
及び内部状態
【0084】
【数5】
【0085】
の推定に対して、測定ノイズ(たとえばw)、付加状態の不確実性/外乱(たとえばw)及び初期推定の不確実性
【0086】
【数8】
【0087】
の影響を最小限にするようにオフラインで決定される。特定の実施形態では、このことは、図7の設計メトリックを用いて定式化されているように、測定ノイズ、付加状態の不確実性、外乱及び推定誤差に対する初期推定の不確実性からの伝達関数のエネルギー利得を最小化することによって、効果的に達成される。
【0088】
図7の設計メトリックにおいて、Q及びRは、それぞれ付加状態の不確実性/外乱及び測定ノイズに対するペナルティ重みを表すユーザー設計パラメータである。Qは、2×2の正の半正定行列であり、Rは正のスカラーである。特定の実施形態では、通常の設定は、実質的に大きいq>0、及び実質的に小さいRの
【0089】
【数9】
【0090】
を選択することである。
Q及びRに基づき、Pは、行列の代数的リカティ方程式(ARE)の正の半定値解
【0091】
【数10】
【0092】
から決定され、
式中、プルーフマス動的モデル(オブザーバ動的モジュールを参照)からのa12、a21、a22
【0093】
【数11】
【0094】
【数12】
【0095】
及び通常はγ=1、である。上記のように
【0096】
【数13】
【0097】
を計算後、利得K、Kは以下のように導かれる。
【0098】
【数14】
【0099】
上記の設計変数は、プルーフマスの線形の二次動的モデルに関連する。
【0100】
(Lの設計)
特定の実施形態では、Lは、実質的に高い正の値でユーザーによって調整される。Lは、帯域幅(応答速度)と高周波高調波の増幅(不所望な高調波冗長発振及び/またはノイズ)との間のトレードオフである。高いL値の結果として、オブザーバ出力の高周波高調波成分が犠牲に対して高帯域幅(高速ダイナミックレスポンス)の高利得オブザーバとなり、逆も成立する。
【0101】
(LPFの設計)
【0102】
【数15】
【0103】
特定の実施形態では、ユーザーは、前記フィルタをオフラインで設計し、次いで、前記のフィルタ係数の値をオンラインコードに設定してよい。
【0104】
(シミュレーション性能結果)
図8図12は、レガシー設計のMEMの加速度計の性能と比較した、ロバストなオブザーバ(RO)のシミュレートされた性能を示す。これらの図では、データは、実際の技術的データまたは予測された技術的データのあらゆる暴露を回避しながら、レガシー設計に関するROの相対的な改善を示すように正規化されている。
【0105】
図8は、ノイズ及び温度バイアスを伴わない、方形波加速度入力に対する加速度推定値の過渡応答を示す。両方の推定値は、ピックオフトランスデューサの読み取りに固有の遅延の影響を受けるが、RO推定値は、最小限のオーバーシュートで、より正確であり、従来の設計の約半分の時間で定常状態に達する。
【0106】
以下の図9図12に示す説明では、ROは単一のPIフィードバックコントローラと共に動作し、この単一のPIフィードバックコントローラが、MEMS加速度計におけるレガシーのフィルタコントローラに置き換わる。この構成は、レガシーコントローラの複雑さを低減するために選択されており、かつ一般にROはいかなるフィードバックコントローラとも一緒にも動作することができるので、決して制限を課すことはない。さらに、ROは、応答時間の若干の低下を伴ってノイズ除去の増加が提供されるように再調整された。このアーキテクチャの主要な利点は、ロバストなオブザーバが、閉ループ耐性質量コントローラの安定性マージンに影響を与えることなく、所望の出力性能帯域幅対外乱排除を達成するように独立して調整できることである。
【0107】
図9A、9B、9C及び9Dは、加速度推定応答についてのROとレガシーとの比較を示す。ROは、レガシーに代わる単純なPIコントローラで動作する。図9A、9B、9C及び9Dは、電子ノイズ及び温度バイアスのない一定の加速度入力に対する加速度推定値の過渡状態応答及び定常状態応答を示す。両方の推定値は、ピックオフトランスデューサの読み取りに固有の遅延の影響を受けるが、RO推定値は、最小のオーバーシュートで、より正確である。さらに、ROの平均定常状態誤差は、レガシーのそれよりも大幅に小さい。定常状態では、ROは明らかに、周波数スペクトル全体にわたって振幅振動を減少させる。このRO能力も同様に、図9A図9B図9C及び図9Dに示されている周波数応答パワースペクトルによって検証され、ROがレガシーシステムよりも、定常状態での定常状態振動を明らかに緩和していることが示されている。
【0108】
図10A、10B、10C、10D、10E及び10Fは、加速度推定応答について、ROとレガシーとの比較を示す。ROは、レガシーに代わる単純なPIコントローラで動作する。図10A、10B、10C、10D、10E及び10Fは、図10A、10B、10C、10D、10E及び10Fのグラフの最後の列において示したような、一定の加速度入力に対する加速度推定値の過渡応答及び定常状態応答を、先行ではあるが、温度変動に起因する加速度バイアスの存在下で示したものである。さらに、ピックオフトランスデューサのオペアンプ出力における非線形ランダムハードウェア電子ノイズの存在が考慮される。このノイズによって、公称オペアンプ出力の±20%に不確定性が加わる。前記のとおり、両方の推定値は、ピックオフトランスデューサの読み取りに固有の遅延の影響を受ける。過渡応答は、ノイズなしに類似しており、バイアスなしで、RO推定値がより正確になり、レガシー設計と比較してオーバーシュートが最小限である。この場合に電子ノイズによっても影響を受ける定常状態振動に関しては、電力スペクトルグラフによって示されているように、ROによってより良好に緩和される。顕著な改善は、安定状態時間プロットに示されているような加速度バイアスの緩和である。この場合、レガシーとは対照的に、ROによって生じる最小推定誤差が明らかに加速度バイアス推定値となる。これは、温度バイアスモデルの診断に適しており、したがって時間の経過による温度変化に対するモデルベースの適応が可能であるというROの特徴に起因する。
【0109】
図11A、11B、11C及び11Dは、複数のシステムの動作範囲およびシステムの熱条件における加速度推定応答のROとレガシーの比較を示す。ROは、レガシーに代わる単純なPIコントローラで動作する。図11A、11B、11C及び11Dは、ピックオフトランスデューサの読みに内在する電子ノイズ及び遅延の存在下で、複数の変化する加速度入力レベルに対する加速度推定値の応答を示す。さらに、図11A、11B、11C及び11Dにおけるグラフの最後の行に示されているように、熱変動及びバイアスがシステムに存在する。この場合の過渡応答は、RO推定がより正確であり、かつレガシー設計と比較して最小限のオーバーシュートを伴う、これまでの全ての場合と同様である。この場合に電子ノイズによっても影響を受ける定常状態振動に関しては、電力スペクトルグラフによって示されているように、ROによってより良好に緩和される。このテスト事例の顕著な改善は、図11に示されているように加速レベルのいくつかの変化で発生する極めて大きなオーバーシュート(スパイク)に起因する、レガシーシステムの性能の劣化である。しかし、RO設計は、そのような振動を補償し、可変の動作エンベロープ及び領域にわたってその動的特性を維持する。さらに、ROは、従来のケースのように加速度推定値に偏りが生じるレガシーとは対照的に、最小推定誤差を生じる。
【0110】
図12A、12B、12C及び12Dは、ロバスト性(定常状態ノイズ緩和)のためのトレードオフ帯域幅(高速応答)に対する70%低減チューニングであるオブザーバ利得Lを示す。ROは、レガシーに代わる単純なPIコントローラで動作する。図12A、12B、12C及び12Dは、電子ノイズ及びピックオフトランスデューサの読み取りに固有の遅延が存在している場合の、一定の加速度入力に対する加速度の応答を示す。この試験では熱変動及びバイアスは考慮されない。なぜならば、ここでの意図は、安定状態精度対動的速度応答のトレーディングのための設計のフレキシビリティ、ひいては様々な仕様等級に応じて装置の精度を向上させる能力を実証することにあるからである。図12A図12B図12C及び図12Dには、レガシーと、先行事例のようなROの公称設計及び戻されたRO設計が示され、単一の出力利得Lが公称設定から70%だけ低減されている。図12A図12B図12C及び図12Dのプロットから、定常状態の振動及びノイズを、実質的により小さい定常状態の誤差をもたらすが、より遅いが振動しない一時的なシステムの応答を犠牲にするまでにさらに低減できることは明らかである。明らかに、本明細書で説明されるように、提案された発明は、同じMEMSデバイスを異なるグレード仕様に変換する能力を提供し、例えば、同じデバイスは、非常に高性能(VHP)または軍事戦略グレードとして動作することができ、その逆も可能である。
【0111】
まとめると、上記のテストケースから明らかなように、本開示の実施形態により、過去のシステムに対する定常状態での振動の低減、システム動作エンベロープ及びシステムの熱条件のリアルタイム変化に対するロバスト性の向上、温度変動によるバイアス誤差の低減、ノイズの減衰の改善、ならびに異なるMEMS加速度計等級の仕様での動作に対して同じデバイスを調整するためのフレキシビリティを改善する。
【0112】
実施形態は、MEMS加速度計(MEMS-A)プルーフマス位置変換電圧信号、動的ループフィルタ(コントローラ)出力電圧信号及びMEMS-A温度センサ信号からのリアルタイム入力信号を処理し、結果としてデバイスの現在の加速度の測定値を生成する線形サブシステム及び非線形サブシステムからなる混合微分代数決定論的アーキテクチャを含んでよい。実施形態は、ハードウェア電子機器において、またはシステム組み込みソフトウェアコードとして実装してよく、さまざまな固定のサンプリングレートで機能するように設計してよい。実施形態は、種々のMEMS-A動作(加速度パターン及び振幅)ならびに環境条件(温度変化)に対してロバストであってよい。実施形態は、MEMS-Aデバイスへの外部の特定の加速度入力を追跡してよい。実施形態は、熱変動によるMEMS-Aプルーフマス材料に起因する幾何学的な変形に起因するバイアス誤差を最小化することができ、VHPの性能及び精度の達成を助けることができる。実施形態は、動的(一時的)MEMS-Aシステム応答を改善することができる。実施形態は、定常状態のパフォーマンスにおけるシステムの冗長振動を最小化することができる。実施形態は、一般的な(すなわち、任意の確率的な)信号雑音の影響を最小限に抑えることができる。実施形態は、異なるMEMS加速度計等級の仕様で同じデバイスに設定するように調整可能な柔軟性を有することができる。実施形態は、定常状態応答を改善することができる。これに加え、実施形態は、オブザーバシステム設計のシミュレータ及びそのリアルタイム実装における自動化された設計及び検証と、オブザーバの数学的モデル及びアルゴリズムを適切に調整するためのMEMS-Aデバイスごとの固有の較正プロセスとを含んでよい。
【0113】
複数の実施形態は、マイクロ電気機械システム(MEMS)加速度計の性能を改善するための新規のオブザーバシステムの設計実装に関する。MEMS加速度計を改良して、最終的にはナビゲーショングレードの性能を戦術的に達成したいという顧客の強い要求がある。
【0114】
実施形態は、任意の適切な機能を実行するための任意の適切なコンピュータハードウェア及び/またはソフトウェアモジュール(複数可)を含んでよい(例えば、本明細書に開示されるように)。
【0115】
当業者には理解されるように、本開示の態様は、システム、方法、またはコンピュータプログラム製品として具体化され得る。したがって、本開示の態様は、完全なハードウェア実施形態、完全なソフトウェア実施形態(ファームウェア、常駐ソフトウェア、マイクロコードなどを含む)、またはソフトウェア態様とハードウェア態様を組み合わせた実施形態の形態を取ってよく、これらのすべての可能な形態は、本明細書にて「回路」、「モジュール」、または「システム」と称することができる。「回路」、「モジュール」、または「システム」は、「回路」、「モジュール」、または「システム」の開示される機能を共に実行し得る1つ以上の別個の物理ハードウェア構成要素及び/またはソフトウェア構成要素の1つ以上の部分を含み得、あるいは「回路」、「モジュール」、または「システム」は、(例えばハードウェア及び/またはソフトウェアの)単一の自己完結型ユニットであり得る。さらに、本開示の態様は、コンピュータ可読プログラムコードが組み込まれた1つ以上のコンピュータ可読媒体(複数可)に具現化されたコンピュータプログラム製品の形態を取ってよい。
【0116】
1つ以上のコンピュータ可読媒体(複数可)の任意の組み合わせを利用してよい。コンピュータ可読媒体は、コンピュータ可読信号媒体またはコンピュータ可読記憶媒体であってよい。コンピュータ可読記憶媒体は、例えば、限定されないが、電子、磁気、光、電磁気、赤外線、もしくは半導体のシステム、装置、もしくはデバイス、または任意の前述の好適な組み合わせであってよい。コンピュータ可読記憶媒体のより多くの具体例は、1つ以上の通信回線を有する電気的接続、ポータブルコンピュータディスケット、ハードディスク、ランダムアクセスメモリ(RAM)、読み取り専用メモリ(ROM)、電気的消去可能PROM(EEPROMまたはフラッシュメモリ)、光ファイバ、コンパクトディスク読み取り専用メモリ(CD-ROM)、フィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)、光学記憶デバイス、磁気記憶デバイス、または上記の任意の好適な組み合わせを含む。本文書の文脈において、コンピュータ可読記憶媒体は、命令実行システム、装置、もしくはデバイスによる使用のために、またはそれらと接続してプログラムを含むまたは記憶することができる任意の有形媒体であってよい。
【0117】
コンピュータ可読信号媒体は、例えば、ベースバンドでまたは搬送波の一部として、本明細書で実施されるコンピュータ可読プログラムコードを有する伝搬データ信号を含んでよい。係る伝搬信号は、電磁、光学、またはその任意の組み合わせを含むが、これに限定されるものではない様々な形のいずれかをとることができる。コンピュータ可読信号媒体は、コンピュータ可読記憶媒体ではなく、命令実行システム、装置、もしくはデバイスによる使用のために、またはそれらと接続してプログラムを通信、伝搬、またはトランスポートできる任意のコンピュータ可読媒体であってよい。
【0118】
コンピュータ可読記憶媒体で実施されるプログラムコードは、無線、有線、光ファイバケーブル、RF等、または上記の任意の適切な組み合わせを含むが、これに限定されるものではない任意の適切な媒体を使用し、送信されてよい。
【0119】
本発明の態様のための動作を実行するためのコンピュータプログラムコードは、例えばJava、Smalltalk、C++、HDL、VHDL等のオブジェクト指向プログラミング言語、及び例えば「C」プログラミング言語または類似するプログラミング言語等の従来の手続きプログラミング言語を含んだ1つ以上のプログラミング言語の任意の組み合わせで作成されてよい。プログラムコードは、ユーザーのコンピュータ上で完全に、ユーザーのコンピュータ上で部分的に、スタンドアロンソフトウェアパッケージとして、ユーザーのコンピュータ上で部分的に、及びリモートコンピュータ上で部分的にまたはリモートコンピュータもしくはサーバ上で完全に実行してよい。後者の状況では、リモートコンピュータは、ローカルエリアネットワーク(LAN)もしくは広域ネットワーク(WAN)を含んだ任意の種類のネットワークを通してユーザーのコンピュータに接続されてよい、または接続は(例えば、インターネットサービスプロバイダを使用し、インターネットを介して)外部コンピュータに行われてよい。
【0120】
本開示の態様は、本方法の実施形態に従った方法、装置(システム)、及びコンピュータプログラム製品のフローチャート図及び/またはブロック図を参照して上記に説明されている。フローチャート図及び/またはブロック図の各ブロック、及びフローチャート図及び/またはブロック図のブロックの組み合わせは、コンピュータプログラム命令によって実施できることが理解される。これらのコンピュータプログラム命令は、汎用コンピュータのプロセッサ、専用コンピュータ、または機械を製造するための他のプログラム可能データ処理装置に提供され得、これにより、コンピュータまたは他のプログラム可能データ処理装置のプロセッサを介して実行される命令は、ブロックまたは複数のブロックのフローチャート及び/またはブロック図に指定される機能/行為を実施するための手段を作成する。
【0121】
また、これらのコンピュータプログラム命令は、コンピュータ、他のプログラム可能データ処理装置、または他のデバイスに特定の方法で機能するように命令できるコンピュータ可読媒体に記憶されてもよく、これによりコンピュータ可読媒体に記憶される命令は、ブロックまたは複数のブロックのフローチャート及び/またはブロック図に指定される機能/行為を実施する命令を含んだ、製造品を製造する。
【0122】
コンピュータプログラム命令はまた、コンピュータ、他のプログラム可能データ処理装置、または他のデバイスにロードされ、コンピュータ、他のプログラム可能装置、または他のデバイスで一連の動作ステップを実行させて、コンピュータ実施プロセスを引き起こすことができ、よって、コンピュータ、または他のプログラム可能装置で実行される命令により、本明細書で特定される機能/行為を実施するプロセスが提供される。
【0123】
本明細書に開示される任意の数値は、正確な値であり得、または範囲内の値であり得ることが当業者には理解される。さらに、本開示で使用される近似を表すいずれの用語も(例えば「約」、「ほぼ」、「およそ」)、範囲内の記載された値を意味し得る。例えば、特定の実施形態では、範囲は、(例えば既知の許容限界または誤差範囲に関して)当業者により認識されるように、(プラスまたはマイナス)20%以内、または10%以内、または5%以内、または2%以内、または任意の他の適切なパーセンテージもしくは数値以内であり得る。
【0124】
本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用される冠詞「a」、「an」、及び「the」は、文脈上明らかに別段の指示がない限り、冠詞の文法的対象の1つまたは複数(すなわち少なくとも1つ)を指すように、本明細書では使用される。例として、「要素(an element)」とは、1つの要素または複数の要素を意味する。
【0125】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される「及び/または」という語句は、「及び/または」で結合された要素のうちの「いずれかまたは両方」を意味する、すなわち、いくつかの事例では共同して存在し、他の事例では選言的に存在する要素を意味すると、理解されるべきである。「及び/または」と共に列挙された複数の要素は、同じ手法で、すなわち、このように結合された要素の「1つ以上」と解釈されるべきである。「及び/または」節により具体的に特定される要素以外の他の要素は、具体的に特定される要素と関連するか否かにかかわらず、任意で存在してもよい。よって、非限定的な例として、「A及び/またはB」への言及は、「備える(comprising)」などの非制限型言語と併せて使用される場合、一実施形態ではAのみ(任意でB以外の要素を含む)、別の実施形態ではBのみ(任意でA以外の要素を含む)、さらに別の実施形態ではAとBの両方(任意で他の要素を含む)などを、指し得る。
【0126】
本明細書及び特許請求の範囲で使用される用語「または」は、上記で定義された「及び/または」と同じ意味を有すると、理解されるべきである。例えば、「または」または「及び/または」は、リスト内の項目を区切る場合、包括的であるように解釈されるべきであり、すなわち、複数の要素または要素のリストのうちの少なくとも1つを含むが、2つ以上も含み、任意で追加の非リスト項目も含む。逆に明確に示された用語、例えば「のうちの1つのみ」または「ちょうど1つ」または特許請求の範囲において使用される場合、「からなる」は、要素の数またはリストのちょうど1つの要素の包含を指す。一般に、本明細書で使用される用語「または」は、「~のいずれか」、「~のうちの1つ」、「~のうちの1つのみ」、または「~のうちの厳密に1つだけ」などの排他的な用語が後に続く場合、排他的な選択肢(すなわち「一方または他方であるが両方ではない」)を示すものとしてのみ、解釈されるものとする。
【0127】
本開示に照らして当業者には理解されるように、本明細書では、開示される任意の実施形態及び/またはその任意の適切な部分(複数可)の任意の適切な組み合わせ(複数可)が企図される。
【0128】
上記で説明され、図面で示されたように、本開示の実施形態は、それらが属する技術分野の向上をもたらす。主題の開示は実施形態の参照を含み、当業者は、主題の開示の範囲から逸脱せずにこの実施形態に対する変更及び/または修正がなされ得ることを容易に理解することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【外国語明細書】