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特開2024-43527光架橋性化合物、組成物、ハイドロゲル、ハイドロゲルの製造方法及び積層ハイドロゲルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043527
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】光架橋性化合物、組成物、ハイドロゲル、ハイドロゲルの製造方法及び積層ハイドロゲルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/02 20060101AFI20240322BHJP
【FI】
C08G73/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023150506
(22)【出願日】2023-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2022148625
(32)【優先日】2022-09-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】児嶋 大世
【テーマコード(参考)】
4J043
【Fターム(参考)】
4J043PA04
4J043PA08
4J043PC065
4J043QA08
4J043RA05
4J043SA36
4J043SB03
4J043XA03
4J043XA08
4J043XB17
4J043XB27
4J043ZA51
4J043ZB21
4J043ZB51
(57)【要約】
【課題】貯蔵弾性率の大きいハイドロゲルが得られる光架橋性化合物を提供すること。
【解決手段】下記一般式(a)で表される構成単位Aを含み、前記構成単位Aの含有率が1.5モル%以上7.5モル%以下である光架橋性化合物。一般式(a)中、Dは光二量化官能基を表し、Rはエーテル基を有していてもよい炭素数1~15の2価の炭化水素基を表し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。


【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(a)で表される構成単位Aを含み、前記構成単位Aの含有率が1.5モル%以上7.5モル%以下である光架橋性化合物。
【化1】

(一般式(a)中、Dは光二量化官能基を表し、Rはエーテル基を有していてもよい炭素数1~15の2価の炭化水素基を表し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。)
【請求項2】
下記一般式(b)で表される構成単位Bを更に含み、前記構成単位Aと前記構成単位Bの合計含有量を100とした場合において、構成単位Aと構成単位Bの含有量比が、構成単位A:構成単位B=1.5:98.5~7.5:92.5(モル比)を満たす請求項1に記載の光架橋性化合物。
【化2】

(一般式(b)中、Rは炭素数1~12の炭化水素基を表し、R、R、R及びR10は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。)
【請求項3】
下記一般式(1)で表される光架橋性化合物。
【化3】

(一般式(1)中、Xは請求項1に記載の光架橋性化合物由来の基を表し、tは2~6
の整数を表し、Yはアミド基、エステル基、イミノ基及びエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい炭化水素基を表す。)
【請求項4】
前記tが2のとき、前記Yは下記一般式(c)で表され、
*-R11-* 一般式(c)
(一般式(c)中、R11は、炭素数1~18の2価の炭化水素基を表し、*は結合点を表す。)
前記tが3のとき、前記Yは下記一般式(d)で表され、
【化4】

(一般式(d)中、*は結合点を表し、3つのnはそれぞれ独立に1~6の整数を表す。)
前記tが4のとき、前記Yは下記一般式(e)で表され、
【化5】

(一般式(e)中、*は結合点を表す。)
前記tが6のとき、前記Yは下記一般式(f)で表される、請求項3に記載の光架橋性化合物。
【化6】

(一般式(f)中、*は結合点を表す。)
【請求項5】
前記光二量化官能基が、クマリン基もしくはその置換体、又はケイ皮酸基もしくはその置換体である、請求項1に記載の光架橋性化合物。
【請求項6】
前記Rが炭素数7~12のアルキレン基であり、前記Rがエチル基であり、前記tが3又は4である、請求項2又は請求項3に記載の光架橋性化合物。
【請求項7】
前記Rが炭素数1~3のアルキレン基であり、前記Rがエチル基であり、前記tが2である、請求項2又は請求項3に記載の光架橋性化合物。
【請求項8】
前記Rが炭素数7~12のアルキレン基であり、前記Rがメチル基であり、前記tが4である、請求項2又は請求項3に記載の光架橋性化合物。
【請求項9】
数平均分子量が5万~40万である、請求項3に記載の光架橋性化合物。
【請求項10】
請求項1又は請求項3に記載の光架橋性化合物を含む組成物。
【請求項11】
請求項1又は請求項3に記載の光架橋性化合物の架橋体と、溶媒と、を含むハイドロゲル。
【請求項12】
請求項1又は請求項3に記載の光架橋性化合物を含む組成物に300nm以上の波長を有する光を照射することを含むハイドロゲルの製造方法。
【請求項13】
以下の工程(1)、工程(2)及び工程(3)を含む積層ハイドロゲルの製造方法。
工程(1):請求項1又は請求項3に記載の光架橋性化合物を含む組成物に300nm以上の波長を有する光を照射し、ハイドロゲルを準備する工程
工程(2):工程(1)で準備したハイドロゲルに300nm未満の波長を有する光を照射する工程
工程(3):工程(2)で光を照射した後のハイドロゲルの表面に、請求項1又は請求項3に記載の光架橋性化合物を含む組成物を接触させ、300nm以上の波長を有する光を照射する工程
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光架橋性化合物、組成物、ハイドロゲル、ハイドロゲルの製造方法、及び積層ハイドロゲルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、再生医療研究の発展に伴い3次元バイオプリンティングの技術に注目が集まっている。3次元的にゲルを作製する技術が向上し、これに用いる様々なゲル材料についても開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1には、多官能モノマー、水膨潤性の層状鉱物、及び単官能モノマーを含むハイドロゲル前駆体としての第一の液体を付与して成膜する第一の工程と、前記第一の工程で形成された膜を硬化させる第二の工程と、を複数回繰り返すことを特徴とする立体造形物の製造方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、ゼラチンに反応性基が導入されたゼラチン誘導体であって、前記ゼラチンが有するアミノ基がメタクリロイル基と結合しており、前記ゼラチンが有するヒドロキシ基及びカルボキシル基がメタクリロイルグリセリルエステル基と結合している、ゼラチン誘導体が記載されている。
【0005】
非特許文献1には、生体由来の材料であるゼラチンを用いた材料について記述されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第6720476号公報
【特許文献2】特開2019-1774号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Dong JinChoi et al.Journal of Industrial and Engineering Chemistry(2018),67,388-395
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に記載の立体造形物は、十分な強度を持ち、複雑な構造を造形することが可能であるため、医療現場における術前支援に用いる臓器モデルなどに応用されている。しかしながら、重合開始剤をはじめとした多量の添加剤を含むことから、生体への安全性については明らかではないため、身体への埋め込み用途などに応用するのは難しい。
【0009】
特許文献2に記載のゼラチン誘導体は、ゼラチンゲルの強度を向上させる目的でメタクリロイル基を導入し、重合開始剤を加えて架橋させるので、添加剤が加えられることでゼラチンのもつ生体安全性の利点を生かしきることができない。
【0010】
非特許文献1に記載の材料は、生体への安全性は保障されているものの、ゲルの強度が乏しく複雑な構造を造形することは難しい。ゼラチンそのものは一定の弾性率を有する材料であるが、シリンジやインクジェットから吐出するためには低粘性に調製する必要があり、高濃度のゼラチンゲルを調整することができないためである。
【0011】
本発明の一実施形態が解決しようとする課題は、貯蔵弾性率の大きいハイドロゲルが得られる光架橋性化合物を提供することにある。
本発明の他の実施形態が解決しようとする課題は、光架橋性化合物を含む組成物、ハイドロゲル、ハイドロゲルの製造方法、及び積層ハイドロゲルの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は以下の態様を有する。
【0013】
<1> 下記一般式(a)で表される構成単位Aを含み、前記構成単位Aの含有率が1.5モル%以上7.5モル%以下である光架橋性化合物。
【0014】
【化1】
【0015】
一般式(a)中、Dは光二量化官能基を表し、Rはエーテル基を有していてもよい炭素数1~15の2価の炭化水素基を表し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。
【0016】
<2> 下記一般式(b)で表される構成単位Bを更に含み、前記構成単位Aと前記構成単位Bの合計含有量を100とした場合において、構成単位Aと構成単位Bの含有量比が、構成単位A:構成単位B=1.5:98.5~7.5:92.5(モル比)を満たす<1>に記載の光架橋性化合物。
【0017】
【化2】
【0018】
一般式(b)中、Rは炭素数1~12の炭化水素基を表し、R、R、R及びR10は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。
【0019】
<3> 下記一般式(1)で表される光架橋性化合物。
【0020】
【化3】
【0021】
一般式(1)中、Xは<1>又は<2>に記載の光架橋性化合物由来の基を表し、tは2~6の整数を表し、Yはアミド基、エステル基、イミノ基及びエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい炭化水素基を表す。
<4> 前記tが2のとき、前記Yは下記一般式(c)で表され、
*-R11-* 一般式(c)
一般式(c)中、R11は、炭素数1~18の2価の炭化水素基を表し、*は結合点を表す。
前記tが3のとき、前記Yは下記一般式(d)で表され、
【0022】
【化4】
【0023】
一般式(d)中、*は結合点を表し、3つのnはそれぞれ独立に1~6の整数を表す。
前記tが4のとき、前記Yは下記一般式(e)で表され、
【0024】
【化5】
【0025】
一般式(e)中、*は結合点を表す。
前記tが6のとき、前記Yは下記一般式(f)で表される、<3>記載の光架橋性化合物。
【0026】
【化6】
【0027】
一般式(f)中、*は結合点を表す。
【0028】
<5> 前記光二量化官能基が、クマリン基もしくはその置換体、又はケイ皮酸基もしくはその置換体である、<1>~<4>のいずれか1つに記載の光架橋性化合物。
<6> 前記Rが炭素数7~12のアルキレン基であり、前記Rがエチル基であり、前記tが3又は4である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の光架橋性化合物。
【0029】
<7> 前記Rが炭素数1~3のアルキレン基であり、前記Rがエチル基であり、前記tが2である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の光架橋性化合物。
<8> 前記Rが炭素数7~12のアルキレン基であり、前記Rがメチル基であり、前記tが4である、<1>~<5>のいずれか1つに記載の光架橋性化合物。
<9> 数平均分子量が5万~40万である、<1>~<8>のいずれか1項に記載の光架橋性化合物。
【0030】
<10> <1>~<9>のいずれか1つに記載の光架橋性化合物を含む組成物。
<11> <1>~<9>のいずれか1つに記載の光架橋性化合物の架橋体と、溶媒と、を含むハイドロゲル。
<12> <1>~<9>のいずれか1つに記載の光架橋性化合物を含む組成物に300nm以上の波長を有する光を照射することを含むハイドロゲルの製造方法。
【0031】
<13> 以下の工程(1)、工程(2)及び工程(3)を含む積層ハイドロゲルの製造方法。
工程(1):<1>~<9>のいずれか1つに記載の光架橋性化合物を含む組成物に300nm以上の波長を有する光を照射し、ハイドロゲルを準備する工程
工程(2):工程(1)で準備したハイドロゲルに300nm未満の波長を有する光を照射する工程
工程(3):工程(2)で光を照射した後のハイドロゲルの表面に、<1>~<9>のいずれか1つに記載の光架橋性化合物を含む組成物を接触させ、300nm以上の波長を有する光を照射する工程
【発明の効果】
【0032】
本発明の一実施形態によれば、貯蔵弾性率の大きいハイドロゲルが得られる光架橋性化合物を提供することができる。
本発明の他の実施形態によれば、光架橋性化合物を含む組成物、ハイドロゲル、ハイドロゲルの製造方法、及び積層ハイドロゲルの製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本開示において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
本開示において、「工程」との語は、独立した工程だけでなく、他の工程と明確に区別できない場合であっても工程の所期の目的が達成されれば、本用語に含まれる。
本開示中に段階的に記載されている数値範囲において、一つの数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。また、本開示中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。
本明細書における基(原子団)の表記において、置換及び無置換を記していない表記は、置換基を有さないものと共に置換基を有するものをも包含するものである。例えば「アルキル基」とは、置換基を有さないアルキル基(無置換アルキル基)のみならず、置換基を有するアルキル基(置換アルキル基)をも包含するものである。
更に、本開示において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
【0034】
以下、本発明の一例である実施形態について詳細に説明する。
【0035】
[光架橋性化合物]
第一の実施形態に係る光架橋性化合物は、下記一般式(a)で表される構成単位Aを含み、前記構成単位Aの含有率が1.5モル%以上7.5モル%以下である光架橋性化合物である。
【0036】
【化7】
【0037】
一般式(a)中、Dは光二量化官能基を表し、Rはエーテル基を有していてもよい炭素数1~15の2価の炭化水素基を表し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。
【0038】
第二の実施形態に係る光架橋性化合物は、下記一般式(1)で表される光架橋性化合物である。
【0039】
【化8】
【0040】
一般式(1)中、Xは第一の実施形態に係る光架橋性化合物由来の基を表し、tは2~6の整数を表し、Yはアミド基、エステル基、イミノ基及びエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい炭化水素基を表す。
【0041】
[第一の実施形態に係る光架橋性化合物]
第一の実施形態に係る光架橋性化合物は、下記一般式(a)で表される構成単位Aを含み、前記構成単位Aの含有率が1.5モル%以上7.5モル%以下である光架橋性化合物である。
【0042】
【化9】
【0043】
一般式(a)中、Dは光二量化官能基を表し、Rはエーテル基を有していてもよい炭
素数1~15の2価の炭化水素基を表し、R、R、R及びRはそれぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。
【0044】
一般式(a)で表される構成単位Aの含有率は、貯蔵弾性率の大きいハイドロゲルを得られるという点で1.5モル%以上であり、光架橋性化合物が水又はエタノール等の水溶性有機溶媒に溶解し易いという点で7.5モル%以下である。
また、貯蔵弾性率の大きいハイドロゲルが得られ易く、光架橋性化合物が水又はエタノール等の水溶性有機溶媒に溶解し易いという点で、構成単位Aの含有率が3モル%以上7モル%以下であることが好ましく、4モル%以上6.5モル%以下であることがより好ましい。
【0045】
本実施形態に係る光架橋性化合物により高い貯蔵弾性率を示すハイドロゲルが得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。なお、本発明は以下の推測理由によって限定されない。
光架橋性化合物に300nm以上の光を照射することにより、光二量化官能基の部位が速やかに二量化し架橋して、高い貯蔵弾性率を示すハイドロゲルが得られると考えられる。
【0046】
一般式(a)におけるRはエーテル基を有していてもよい炭素数1~15の2価の炭化水素基を表す。
【0047】
本開示において、エーテル基を有していてもよい炭素数1~15の2価の炭化水素基とは、炭素数1~15の2価の炭化水素基において、エーテル基(-O-)を1つ又は複数有しているか、エーテル基を有していない2価の炭化水素基を意味する。
【0048】
がエーテル基を有することにより、側鎖にある光二量化官能基同士の接触機会が増え、架橋反応が進みやすいと考えられる。
【0049】
炭素数1~15の2価の炭化水素基が、エーテル基を複数有している場合は、-CH-O-CH-O-のような炭素原子と酸素原子が交互に結合するパターンや、-(CH-CH-O)-のようなアルキレンエーテル単位の結合が挙げられるが、化学物質として通常安定し得る構造を採りやすい、-(CH-CH-O)-のようなアルキレンエーテル単位の結合が好ましい。
【0050】
更に詳述するため「エーテル基を有していてもよい炭素数6の2価の炭化水素基」を例にとると、斯かる炭化水素基は、エーテル基を鎖中に有する場合、下記式(c-1)や(c-2)のように、1つ又は複数のエーテル基を有することができるが、これらに限定されることはない。
【0051】
【化10】
【0052】
ここで、炭素数1~15の2価の炭化水素基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよく、光二量化官能基の光二量化反応の反応性の観点から、炭素数1以上であり、光架橋性化合物の水又はエタノール等の水溶性有機溶媒への溶解性の観点から15以下である
【0053】
本開示において、炭素数1~15の2価の炭化水素基とは、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基が挙げられる。
アルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、イソプロピレン基、n-ブチレン基、イソブチレン基、sec-ブチレン基、tert-ブチレン基、ペンチレン基、イソペンチレン基、n-ヘキシレン基、n-ヘプチレン基、n-オクチレン基、n-ノニレン基、デシレン基が挙げられる。
【0054】
アルケニレン基としては、例えば、ビニレン基、1-プロペニレン基、1-ブテニレン基、2-ブテニレン基、1-ペンテニレン基、1-ヘキセニレン基、1-ヘプテニレン基、1-オクテニレン基、1-ノネニレン基が挙げられる。
アルキニレン基としては、例えば、1-プロピニレン基、2-プロピニレン基、3-ブチニレン基、1-ペンチニレン基、1-ヘキシニレン基、1-ヘプチニレン基が挙げられる。
【0055】
これら炭素数1~15の2価の炭化水素基の内、炭素数3~10の2価の炭化水素基であることが好ましく、炭素数3~10のアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基であることがより好ましく、炭素数3~10のアルキレン基であることが更に好ましく、炭素数6~10のアルキレン基であることが特に好ましい。
具体的には、Rはプロピレン基、ペンチレン基又はデシレン基であることが好ましく、デシレン基であることが特に好ましい。
【0056】
本開示におけるアルキレン基、アルケニレン基又はアルキニレン基は、特に断りがない限り、アシル基、水酸基、カルボキシ基、アミノ基(-NH)、ニトロ基、ハロゲン原子、炭素数が1~6のアルコキシ基(例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基)からなる群から選択される1以上の置換基で置換されていてもよい。
【0057】
前記アシル基としては、脂肪族アシル基、及び芳香族アシル基(アロイル基)が挙げられる。脂肪族アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、プロピオニル基(プロパノイル基)、ブチリル基(ブタノイル基)、バレリル基(ペンタノイル基)、ヘキサノイル基が挙げられる。芳香族アシル基としては、例えば、ベンゾイル基、トルオイル基が挙げられる。
【0058】
前記ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0059】
本実施形態に係る光架橋性化合物におけるR、R、R及びRは、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であることで、Dで表される光二量化官能基の二量化の反応が進みやすく、水やエタノール水溶液へ溶解しやすい。同様の観点でR、Rがメチル基、R、Rが水素原子、またはR~Rが水素原子であることが好ましく、R~Rが水素原子であることがより好ましい。
【0060】
一般式(a)におけるDは光二量化官能基を表す。
Dで表される光二量化官能基は、光二量化官能基の二量化反応の反応性の観点でクマリン基もしくはその置換体、又はケイ皮酸基もしくはその置換体であることが好ましく、クマリン基又はその置換体であることがより好ましい。
【0061】
Dで表される光二量化官能基がクマリン基の置換体である場合、クマリン基が有する置換基は、例えば、炭素数1~3のアルキル基、トリハロアルキル基、アリール基、アシル
基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、カルボキシ基、カルボニル基、エステル基、アミノ基、モノアルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、ニトロ基、シアノ基、スルホニル基、ハロゲン原子が挙げられ、これらのなかでもアルキル基、ヒドロキシ基、カルボキシ基、ジアミノエステル基が好ましく、アルキル基、ヒドロキシ基がより好ましい。
【0062】
本実施形態に係る光架橋性化合物は、一般式(a)で表される構成単位Aに加えて、アルキレンイミン構造を有する構成単位、またはアルキレンオキシド構造を有する構成単位を有することが好ましい。また、イミンの窒素が置換基を含んでいてもよい。
また、ポリアミノ酸由来の構成単位や多糖類由来の構成単位を有することも好ましい。
これらの中でも、側鎖に官能基を結合させやすいという点から、本実施形態に係る光架橋性化合物は、アルキレンイミン構造を有する構成単位を有する光架橋性化合物であることが好ましい。
【0063】
第一の実施形態に係る光架橋性化合物は、更に下記一般式(b)で表される構成単位Bを含み、前記構成単位Aと前記構成単位Bの合計含有量を100とした場合において、構成単位Aと構成単位Bの含有量比が、構成単位A:構成単位B=1.5:98.5~7.5:92.5(モル比)であることが好ましい。
【0064】
【化11】
【0065】
一般式(b)中、Rは炭素数1~12の炭化水素基を表し、R、R、R及びR10は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表す。
【0066】
本実施形態に係る光架橋性化合物は、構成単位Bを含むことで水又はエタノール等の水溶性有機溶媒に溶解しやすい傾向にある。
【0067】
本実施形態に係る、一般式(a)で表される構成単位Aと、一般式(b)で表される構成単位Bを含む光架橋性化合物において、構成単位Aと構成単位Bは交互に混在していてもよいし、ランダム状に混在してもよいし、ブロック状に混在してもよい。
【0068】
構成単位Aと構成単位Bとの含有量比が、構成単位Aと構成単位Bの合計含有量を100とした場合において、モル比で、(構成単位A:構成単位B)=1.5:98.5以上であることによって、得られるハイドロゲルが高い貯蔵弾性率を示す傾向にあり、7.5:92.5以下であることによって、光架橋性化合物の良好な溶解性が得られる傾向にある。
同様の観点から、構成単位Aと構成単位Bとの含有量比は、3:97~7:93であることが好ましく、4:96~6.5:93.5であることがより好ましい。
【0069】
ここで、Rにおける炭素数1~12の炭化水素は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。炭素数1~12の炭化水素としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基が挙げられる。
アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基
、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1-エチル-n-プロピル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、2-エチル-1,1-ジメチル-n-ブチル基、1,2,3-トリメチル-n-ブチル基、1,5-ジメチル-n-ヘプタン-3-イル基が挙げられる。
アルケニル基としては、例えば、ビニル基、1-プロペニル基、アリル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、1-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、1-ヘプテニル基、1-オクテニル基、1-ノネニル基、4-エチルヘプタン-5-イニル基が挙げられる。
アルキニル基としては、例えば、1-プロピニル基、2-プロピニル基、3-ブチニル基、1-ペンチニル基、1-ヘキシニル基、1-ヘプチニル基が挙げられる。
【0070】
一般式(b)におけるRは、水又はエタノール等の水溶性有機溶媒への溶解性の点から炭素数1~12の炭化水素基である。同様の観点で、Rは、炭素数1~12の飽和炭化水素基であることが好ましく、炭素数1~4の飽和炭化水素基であることがより好ましく、メチル基又はエチル基であることが更に好ましい。
【0071】
本実施形態に係る光架橋性化合物の、R、R、R及びR10は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基を表し、光架橋性化合物の水又はエタノール等の水溶性有機溶媒への溶解性の観点から、水素原子であることが好ましい。
【0072】
第一の実施形態に係る光架橋性化合物の具体例を表1-1に示す。
【0073】
【表1-1】
【0074】
[第二の実施形態に係る光架橋性化合物]
第二の実施形態に係る光架橋性化合物は、下記一般式(1)で表される光架橋性化合物である。
【0075】
【化12】
【0076】
一般式(1)中、Xは第一の実施形態に係る光架橋性化合物由来の基を表し、tは2~6の整数を表し、Yはアミド基、エステル基、イミノ基及びエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよい炭化水素基を表す。
【0077】
なお、Xにおける第一の実施形態に係る光架橋性化合物の詳細については既述の通りであるので、ここでの記載を省略する。
また、光架橋性化合物由来の基とは、第一の実施形態に係る光架橋性化合物のいずれかの水素原子を一つ除いた1価の基である。
【0078】
Yは、アミド基、エステル基、イミノ基及びエーテル基からなる群から選ばれる少なくとも一つを含んでいてもよく、これらの中でも、合成物の安定性の点で、アミド基又はエーテル基を含むことが好ましい。
【0079】
一般式(1)において、tが2の場合、Yは下記一般式(c)で表される基であることが好ましい。
*-R11-* 一般式(c)
一般式(c)中、R11は、炭素数1~18の2価の炭化水素基であり、*は結合点である。
【0080】
一般式(a)で表される構成単位Aの光二量化官能基Dの二量化反応が速やかに進行するという観点で、R11は炭素数1~18の2価の炭化水素基であり、炭素数1~10の2価の飽和炭化水素基としてもよく、炭素数1~5の2価の飽和炭化水素基としてもよい。
【0081】
一般式(1)において、tが3の場合、Yは下記一般式(d)、一般式(d’)又は一般式(d”)で表される基であることが好ましく、重合における反応性の点で、一般式(d)で表される基であることがより好ましい。
【0082】
【化13】
【0083】
一般式(d)中、*は結合点であり、3つのnはそれぞれ独立に1~6である。
【0084】
【化14】
【0085】
一般式(d’)中、*は結合点である。
【0086】
【化15】
【0087】
一般式(d”)中、*は結合点であり、3つのnはそれぞれ独立に1~6である。
【0088】
一般式(1)において、tが4の場合、Yは下記一般式(e)、一般式(e’)又は一般式(e”)で表される基であることが好ましく、重合における反応性の点で、一般式(e)で表される基であることがより好ましい。
【0089】
【化16】
【0090】
一般式(e)中、*は結合点である。
【0091】
【化17】
【0092】
一般式(e’)中、*は結合点である。
【0093】
【化18】
【0094】
一般式(e”)中、*は結合点である。
【0095】
一般式(1)において、tが6のとき、Yが下記式(f)で表される基であることが好ましい。
【0096】
【化19】
【0097】
一般式(f)中、*は結合点である。
【0098】
本実施形態に係る光架橋性化合物において、より高い弾性率のハイドロゲルが得られるという点で、Rが炭素数7~12のアルキレン基であり、Rがエチル基であり、tが3又は4であることが好ましい。
また、この場合に、ゲル化に伴い、3次元的なポリマーネットワークを形成しやすいことから、Yが一般式(d)又は一般式(e)で表されることが好ましい。
【0099】
また、本実施形態に係る光架橋性化合物がエタノールのみならず、水にも溶解しやすいという点で、Rが炭素数1~3のアルキレン基であり、Rがエチル基であり、tが2であることが好ましい。
【0100】
また、本実施形態に係る光架橋性化合物がエタノールのみならず、水にも溶解しやすいという点で、R炭素数7~12のアルキレン基であり、Rがメチル基であり、tが4であることが好ましい。
【0101】
本実施形態に係る光架橋性化合物の数平均分子量は、5万~40万であることが好ましい。所望の弾性率が得られやすいという点から5万以上であることが好ましく、重合しやすさの点から40万以下であることが好ましい。同様の観点で、6万~33万であることがより好ましい。
【0102】
第二の実施形態に係る光架橋性化合物の具体例を表1-2に示す。
【0103】
【表1-2】
【0104】
[組成物]
本開示に係る組成物は、第一の実施形態に係る光架橋性化合物又は第二の実施形態に係る光架橋性化合物を含む。
具体的には、本開示に係る組成物は、第一の実施形態に係る光架橋性化合物又は第二の実施形態に係る光架橋性化合物を溶媒に均一に溶解させたもの又は分散させたものであることが好ましく、均一に溶解させたものであることがより好ましい。
本実施形態に係る組成物が溶媒を含む場合、溶媒としては、光架橋性化合物の溶解性の観点から、水、リン酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝液、細胞培養培地又は水溶性有機溶媒であることが好ましく、水、メタノール又はエタノールであることが好ましく、水又はエタノールであることがより好ましい。
【0105】
本実施形態に係る組成物100質量%中、第一の実施形態に係る光架橋性化合物又は第二の実施形態に係る光架橋性化合物と溶媒との質量比は、所望の貯蔵弾性率が得られ易いという観点で、光架橋性化合物:溶媒=8:92~33:64であることが好ましく、同様の観点で、12:88~28:72であることがより好ましく、16:84~23:77質量%であることが更に好ましい。
【0106】
[ハイドロゲル]
本実施形態に係るハイドロゲルは、第一の実施形態に係る光架橋性化合物又は第二の実施形態に係る光架橋性共重合体の架橋体と、溶媒と、を含む。
ここでの溶媒とは、本実施形態に係る組成物に含まれる溶媒と同義であり、好ましい態様も同様である。
架橋体とは、光架橋性化合物中の一般式(a)における光二量化官能基Dが光照射で互いに反応することによって、化合物間に架橋構造が形成されたものである。
【0107】
[ハイドロゲルの製造方法]
本実施形態に係るハイドロゲルの製造方法は、本実施形態に係る組成物に300nm以上の波長を有する光を照射することを含む。
光架橋性化合物の光二量化官能基の二量化反応が容易に進むという観点で、照射する光の波長は300nm以上であり、同様の観点で、上限は450nm以下であることが好ましく、370nm以下であることがより好ましい
【0108】
また、光照射装置で照射した部分のみがハイドロゲルとなり、所望する形状のハイドロゲルを製造することができるので、レーザー光のように指向性のある光照射装置を用いることが、集光した部分だけをハイドロゲルとすることができる点で好ましい。
【0109】
本実施形態に係るハイドロゲルは、形状保持性能が良好な傾向にある点から、レオメーター測定による貯蔵弾性率が1kPa以上であることが好ましく、7kPa以上であることがより好ましく、10.0kPa以上であることが更に好ましく、15.0以上であることが特に好ましい。
【0110】
ハイドロゲルの貯蔵弾性率は、レオメーター(例えば、Anton Paar社製、製品名「MCR301」)を用い、以下の測定条件にて測定される値である。
なお、歪によらず一定値を示す範囲での値を、貯蔵弾性率とする。
・測定プレート:直径25mmのパラレルプレート
・測定ギャップ(プレート間の距離):試料の厚み
・角周波数:10rad/s
・負荷歪み:0.01~100%
・測定温度:25℃
【0111】
[積層ハイドロゲルの製造方法]
本実施形態に係る積層ハイドロゲルの製造方法は、以下の工程(1)、工程(2)及び工程(3)を含む。
工程(1):既述の本開示の光架橋性化合物を含む組成物に300nm以上の波長を有する光を照射し、ハイドロゲルを準備する工程
工程(2):工程(1)で準備したハイドロゲルに300nm未満の波長を有する光を照射する工程
工程(3):工程(2)で光を照射した後のハイドロゲルの表面に、既述の本開示の光架橋性化合物を含む組成物を接触させ、300nm以上の波長を有する光を照射する工程
【0112】
積層ハイドロゲルとは、ハイドロゲルの全面にハイドロゲルが追加供給されて積み重ねられているもののみならず、ハイドロゲルの少なくとも一部にハイドロゲルが追加供給されて積み重ねられていればよい。
【0113】
本開示に係る積層ハイドロゲルの製造方法では、より大きな形状や複雑な形状を有するハイドロゲルを所望する場合、ハイドロゲルを積層する方法を採用できる。
【0114】
具体的には、例えば、架橋点となるクマリン基のもつ反応可逆性を利用して、部分的に架橋点を開裂させる。そこに更に新しいハイドロゲルを作製するための架橋を促すことでハイドロゲルの網目構造を再構築し、接着させることが可能となると考えられる。
【0115】
本実施形態に係る光架橋性化合物により高い貯蔵弾性率を示すハイドロゲルが得られる詳細なメカニズムは不明であるが、以下のように推測される。なお、本発明は以下の推測理由によって限定されない。
光架橋性化合物に300nm以上の光を照射することにより、光二量化官能基の部位が速やかに二量化し架橋して、高い貯蔵弾性率を示すハイドロゲルが得られると考えられる。
【0116】
得られたハイドロゲルに300nm未満の光を照射することにより、ハイドロゲル表面に存在している光二量化官能基の二量化していた部位を開裂させることができる。ここに、更に光架橋性化合物を付与すると、その光二量化官能基の部位が、ハイドロゲル表面の開裂した状態の部位と接触する。その状態で300nm以上の光を照射すると、接触している光二量化官能基の部位同士が二量化することによって架橋することができる。この架橋は強固であるため、接着性に優れた積層ハイドロゲルを得ることができると考えられる。
【0117】
ハイドロゲルの優れた接着性は、例えば、次のようにして評価することができる。
具体的には、例えば、光架橋性化合物に300nm以上の光を照射することによって、光架橋性化合物のクマリン部位が二量化してハイドロゲルが製造される。得られたハイドロゲルの一部をスライドガラスで覆って波長300nm未満の光を照射すると、露出していた部分の表面に存在する光架橋性化合物のクマリン部位が開裂し、スライドガラスで覆った部分では波長300nm以上の光を遮断するのでクマリン部位の開裂は起こらない。
ここで、ハイドロゲルの露出していた部分の表面及びスライドガラスで覆った部分の表面に、光架橋性化合物を供給し300nm以上の光を照射する。露出していた部分では表面に存するクマリン部位と、新たに供給された光架橋性化合物のクマリン部位とが二量化し架橋して接着する。
このとき、スライドガラスで覆っていた部分のハイドロゲルを構成する光架橋性化合物の二量化したクマリン部位は開裂していないので、新たに供給された光架橋性化合物のク
マリン部位と架橋せず接着しない。この部分を両側から引っ張り、ハイドロゲルの破壊が優先されるか、剥離が優先されるかで、接着性を評価することができる。
【0118】
[積層ハイドロゲルの用途]
本実施形態に係るハイドロゲルは、柔軟性や保水性等に優れているため、医療、化粧品、食品、化学、土木、農業、バイオエンジニアリング、スポーツ関連等の多岐にわたる分野に対して用いることができる。例えば、医療用電極ハイドロゲル、冷却用ゲル、化粧用フェイスマスク、細胞培養培地等として使用することができる。
【実施例0119】
以下、実施例及び比較例を挙げ、本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0120】
次に記載する、実施例1~10、比較例1~5で作製した光架橋性化合物1~15を表2に示す。
【0121】
[実施例1]
<7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの製造>
一般式(a)におけるR=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基である7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンを以下のようにして製造した。
【0122】
乾燥アルゴン雰囲気下、N,N’-ジメチルホルムアミド50mlに、7-ヒドロキシ-4-メチルクマリン6.0g(34.1mmol)、11-ブロモウンデカン酸エチル10.0g(34.1mmol)、及び炭酸カリウム4.7g(34.1mmol)を添加し、100℃で3時間反応させ、生成した結晶を回収した。エタノール50mlに、回収した結晶と6N水酸化ナトリウム17.1ml(102mmol)を添加し、80℃で1時間反応させた。その後、結晶が析出するまで6N硫酸を添加し、7-(10-カルボキシデシル)-4-メチルクマリンを回収した。
【0123】
乾燥アルゴン雰囲気下、ジクロロメタン50mlに、7-(10-カルボキシデシル)-4-メチルクマリン11.8g (34.1mmol)、2-クロロエチルアミン塩酸塩4.0g(34.1mmol)、4-ジメチルアミノピリジン4.2g(34.1mmol)、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩6.5g(34.1mmol)を添加し、室温下で3時間反応させた。反応後に蒸留により溶媒を取り除き、純水で洗浄して副生成物や未反応物を取り除いて、N-(2-クロロエチル)-4-メチルクマリン-7-イルオキデカンアミドを得た。
【0124】
乾燥アルゴン雰囲気下、テトラヒドロフラン50mlに、N-(2-クロロエチル)-4-メチルクマリン-7-イルオキデカンアミド14.4g(34.1mmol)、カリウム-tert-ブトキシド3.8g(34.1mmol)を添加し、70℃で3時間反応させた。H-NMRスペクトル解析により、反応の進行を確認した。反応後に蒸留により溶媒を取り除き、純水で洗浄して副生成物や未反応物などを取り除いて、7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンを得た。
【0125】
<光架橋性化合物1の製造>
一般式(1)におけるR=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物1を以下のようにして製造した。
【0126】
エチルオキサゾリンに、7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンおよびエチレングリコールジトシラートを溶解し、140℃で3時間反応させた後、生成した固形物を回収した。回収した固形物をエタノールに溶解し、水酸化ナトリウムを加えて反応を停止し、これをジエチルエーテルに滴下して固形物を再沈澱させて、光架橋性化合物1を得た。
【0127】
なお、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率が、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=950:50(モル比)になるように、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの使用量を調整した。
【0128】
また、エチレングリコールジトシラート1モルに対して、エチルオキサゾリンおよび7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンを合計で1000モル使用した。
【0129】
H-NMRスペクトル解析により、エチレングリコールジトシラートに由来するピーク(7.1ppm及び7.5ppm付近)に対する、エチル基に由来するピーク(1.0ppm付近)、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピーク(6.2ppm、6.9ppm、及び7.6ppm付近)の積算値から、数平均分子量が10.9万であることを確認した。
【0130】
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は4.8モル%であることが分かった。
【0131】
<光架橋性化合物1の物性評価〉
[溶解性の評価]
光架橋性化合物1を200mg/mlとなるように水、30%エタノール水溶液及び70%エタノール水溶液それぞれに加えた。1時間撹拌後に静置し、沈澱物の有無で溶解性を判断した。目視で沈澱物を確認しなかった場合を「可溶」とし、目視で沈澱物を確認した場合を「不溶」とした。評価結果を表3に示した。
【0132】
[貯蔵弾性率の測定]
光架橋性化合物1を200mg/mlとなるように70%エタノール水溶液に加えて調製した組成物を、直径25mm、厚さ0.5mmの型内に流し込み、波長300nm以上の高圧水銀ランプ(例えば、ウシオ電機社製、製品名「UM-102」)で30分間光を照射して円形のハイドロゲルを作製した。
【0133】
作製したハイドロゲルを水中で1時間撹拌し、ハイドロゲル中のエタノールを水に置換した。得られたハイドロゲルについてレオメーター(例えば、Anton Paar社製、製品名「MCR301」)を用い、以下の測定条件にて貯蔵弾性率(G’)を求めた。
【0134】
なお、歪によらず一定値を示す範囲での値を、測定したハイドロゲルのG’とした。
・測定プレート:直径25mmのパラレルプレート。
・測定ギャップ(プレート間の距離):試料の厚み。
・角周波数:10rad/s。
・負荷歪み:0.01~100%。
・測定温度:25℃
表3に示す通り、光架橋性化合物1は、30%エタノール水溶液、及び70%エタノー
ル水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が12.9kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られた。
【0135】
[実施例2]
エチレングリコールジトシラート1モルに対する、エチルオキサゾリンおよび7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンを合計した量を2000モルに変更した以外は実施例1と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物2を製造した。
【0136】
なお、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率が、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=1900:100(モル比)になるように、エチルオキサゾリンおよび7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの使用量を調整した。
【0137】
H-NMRスペクトル解析により、エチレングリコールジトシラートに由来するピークに対するエチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が24.4万であることを確認した。
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は5.9モル%であることが分かった。
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物2は、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が13.6kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られた。
【0138】
[実施例3]
エチレングリコールジトシラート1モルに対する、エチルオキサゾリンおよび7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンを合計した量を3000モルに変更した以外は実施例1と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物3を製造した。
【0139】
なお、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率が、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=2850:150(モル比)になるように、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの使用量を調整した。
H-NMRスペクトル解析により、エチレングリコールジトシラートに由来するピークに対する、エチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が32.9万であることを確認した。
【0140】
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から、全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は5.4モル%であることが分かった。
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物3は、70%エタノール水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が15.1kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られた。
【0141】
[実施例4]
<7-(オキサゾリン-2-イル)ペンチルオキシ-4-メチルクマリンの製造>
一般式(a)におけるR=ペンチレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基である7-(オキサゾリン-2-イル)ペンチルオキシ-4-メチルクマリンを以下のようにして製造した。
11-ブロモウンデカン酸エチル10.0g(34.1mmol)から6-ブロモヘキサン酸エチル7.6g(34.1mmol)に変更した以外は実施例1と同様にして、7-(オキサゾリン-2-イル)ペンチルオキシ-4-メチルクマリンを得た。
【0142】
<光架橋性化合物4の製造>
一般式(1)におけるR=ペンチレン基に変更した以外は実施例1と同様にして、一般式(1)中、R=ペンチレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物4を製造した。
【0143】
なお、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)ペンチルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率が、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)ペンチルオキシ-4-メチルクマリン=1900:100(モル比)になるように、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)ペンチルオキシ-4-メチルクマリンの使用量を調整した。
【0144】
H-NMRスペクトル解析により、エチレングリコールジトシラートに由来するピークに対する、エチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が23.2万であることを確認した。
【0145】
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は5.7モル%であることが分かった。
【0146】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物4は、水、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が7.4kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られた。
【0147】
[実施例5]
<7-(オキサゾリン-2-イル)プロピルオキシ-4-メチルクマリンの製造>
一般式(a)におけるR=プロピレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基である7-(オキサゾリン-2-イル)プロピルオキシ-4-メチルクマリンを以下のようにして製造した。
11-ブロモウンデカン酸エチル10.0g(34.1mmol)から4-ブロモ酪酸エチル6.7g(34.1mmol)に変更した以外は実施例1と同様にして、7-(オキサゾリン-2-イル)プロピルオキシ-4-メチルクマリンを得た。
【0148】
<光架橋性化合物5の製造>
一般式(1)におけるR=プロピレン基に変更した以外は実施例1と同様にして、一般式(1)中、R=プロピレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物5を製造した。
【0149】
なお、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)プロピルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率が、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)プロ
ピルオキシ-4-メチルクマリン=1900:100(モル比)になるように、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)プロピルオキシ-4-メチルクマリンの使用量を調整した。
【0150】
H-NMRスペクトル解析により、エチレングリコールジトシラートに由来するピークに対する、エチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が21.2万であることを確認した。
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は5.1モル%であることが分かった。
【0151】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物5は、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が8.5kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られた。
【0152】
[実施例6]
エチレングリコールジトシラートから1,3,5-トリ-(4-ヨードブトキシ)ベンゼンに変更したこと、及び重合後の固形物をエタノールに溶解した後、水酸化ナトリウムに代えてベンジルアミンを加えたこと以外は実施例2と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物6を製造した。
【0153】
なお、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率が、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=1900:100(モル比)になるように、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの使用量を調整した。
【0154】
H-NMRスペクトル解析により、ベンジルアミンに由来するピーク(7.3ppm付
近)に対する、エチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が21.7万であることを確認した。
【0155】
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は5.8モル%であることが分かった。
【0156】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物6は、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が18.8kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られた。
【0157】
[実施例7]
エチレングリコールジトシラートから(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)に変更し、(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)1モルに対する、エチルオキサゾリンおよび7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンを合計した量を500モルに変更した以外は実施例1と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-
メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物7を製造した。
【0158】
なお、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率が、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=475:25(モル比)になるように、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの使用量を調整した。
【0159】
H-NMRスペクトル解析により、(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)に由来するピーク(7.1ppm、7.5ppm付近)に対する、エチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が6.7万であることを確認した。
【0160】
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を有する構成単位の含有率は4.3モル%であることが分かった。
【0161】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物7は、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が10.7kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られた。
【0162】
[実施例8]
エチレングリコールジトシラートから(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)に変更した以外は実施例2と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物8を製造した。
【0163】
なお、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率が、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=1900:100(モル比)になるように、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの使用量を調整した。
【0164】
H-NMRスペクトル解析により、(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)に由来するピークに対する、エチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が21.8万であることを確認した。
【0165】
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を有する構成単位の含有率は5.3モル%であることが分かった。
【0166】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物8は、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が19.4kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られた。
【0167】
[実施例9]
(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)1モルに対する、メチルオキサゾリンおよび7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンを合計した量を1000モルに変更し、一般式(1)中のR=メチル基に変更した以外は実施例8と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=メチルである光架橋性化合物9を製造した。
【0168】
なお、メチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率が、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=950:50(モル比)になるように、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの使用量を調整した。
【0169】
H-NMRスペクトル解析により、(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)に由来するピーク(7.1ppm、7.5ppm付近)に対する、メチル基に由来するピーク(2.0ppm付近)、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピーク(6.2ppm、6.9ppm、7.6ppm付近)の積算値から、数平均分子量が9.3万であることを確認した。
【0170】
また、メチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は6.2モル%であることが分かった。
【0171】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物9は、水、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が7.7kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られた。
【0172】
[実施例10]
エチルオキサゾリンに代えてメチルオキサゾリンを使用することで、一般式(1)中のR=メチル基に変更した以外は実施例7と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=メチル基である光架橋性化合物10を製造した。
【0173】
なお、メチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率が、メチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=1900:100(モル比)になるように、メチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの使用量を調整した。
【0174】
H-NMRスペクトル解析により、(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)に由来するピークに対する、メチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が22.4万であることを確認した。
【0175】
また、メチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オ
キシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は5.2モル%であることが分かった。
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物10は、水、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が9.0kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られた。
【0176】
[比較例1]
エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率を、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=1980:20(モル比)に変更した以外は実施例1と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物11を製造した。
【0177】
H-NMRスペクトル解析により、エチレングリコールジトシラートに由来するピークに対する、エチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が19.8万であることを確認した。
【0178】
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は1.1モル%であることが分かった。
【0179】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物11は、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液に可溶であり、貯蔵弾性率が0.1kPaであり、所望の貯蔵弾性率が得られなかった。
【0180】
[比較例2]
エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率を、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=920:80(モル比)に変更した以外は実施例1と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物12を製造した。
【0181】
H-NMRスペクトル解析により、エチレングリコールジトシラートに由来するピークに対する、エチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が13.0万であることを確認した。
【0182】
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は7.9モル%であることが分かった。
【0183】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物12は、水、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液のいずれにも不溶であって、貯蔵弾性率は測定できなかった。
【0184】
[比較例3]
エチレングリコールジトシラート1モルに対する、メチルオキサゾリンおよび7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンを合計した量を200モルに変更し、エチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチ
ルクマリンの配合比率を、エチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=180:20(モル比)に変更した以外は実施例1と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=エチル基である光架橋性化合物13を製造した。
【0185】
H-NMRスペクトル解析により、エチレングリコールジトシラートに由来するピークに対する、エチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が1.7万であることを確認した。
【0186】
また、エチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は9.9モル%であることが分かった。
【0187】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物13は、水、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液のいずれにも不溶であって、貯蔵弾性率は測定できなかった。
【0188】
[比較例4]
メチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率を、メチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=570:130(モル比)に変更し、(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)1モルに対する、メチルオキサゾリンおよび7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンを合計した量を700モルに変更した以外は実施例8と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=メチル基である光架橋性化合物14を製造した。
【0189】
H-NMRスペクトル解析により、(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)に由来するピークに対する、メチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が6.9万であることを確認した。
【0190】
また、メチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は18.1モル%であることが分かった。
【0191】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物14は、水、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液のいずれにも不溶であって、貯蔵弾性率は測定できなかった。
【0192】
[比較例5]
メチルオキサゾリンと7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンの配合比率を、メチルオキサゾリン:7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリン=90:10(モル比)に変更し、(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)1モルに対する、メチルオキサゾリンおよび7-(オキサゾリン-2-イル)デシルオキシ-4-メチルクマリンを合計した量
を400モルに変更した以外は実施例8と同様にして、一般式(1)中、R=デシレン基、D=4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基、R=メチル基である光架橋性化合物15を製造した。
【0193】
H-NMRスペクトル解析により、(エタン-1,2-ジイルビス(アザンジイル)ビス(カルボニル))ビス(2-メチルプロパン-2,1,3-トリイル)テトラキス(4-メチルベンゼンスルホン酸)に由来するピークに対する、メチル基に由来するピーク、及び4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの積算値から、数平均分子量が6.4万であることを確認した。
【0194】
また、メチル基に由来するピークと4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基に由来するピークの比から全繰返し単位中、4-メチル-2-オキソ-2H-クロメン-7-オキシ基を含む構成単位の含有率は11.4モル%であることが分かった。
【0195】
溶解性と貯蔵弾性率を実施例1と同様に測定したところ、表3に示す通り、光架橋性化合物15は、水、30%エタノール水溶液、及び70%エタノール水溶液のいずれにも不溶であり、貯蔵弾性率は測定できなかった。
なお、表中、「-」は、測定不可であることを表す。
【0196】
【表2】
【0197】
【表3】
【0198】
[実施例11]
<積層ハイドロゲルの製造>
実施例9で得られた光架橋性化合物9を用いて、次のようにして積層ハイドロゲルを製造した。
【0199】
光架橋性化合物9が200mg/mlになるように70%エタノール水溶液を加えて光架橋性化合物9を含む組成物を調製した。
この組成物を、幅10mm、長さ30mm、厚さ1mmの型内に流し込み、波長300nm以上の高圧水銀ランプ(例えば、ウシオ電機社製、製品名「UM-102」)の光を30分間照射して、板状のハイドロゲルを作製した。
【0200】
この板状のハイドロゲルに、UVランプ(例えば、アズワン社製、製品名「ハンディーUVランプ SLUV-4」)の短波長の光(波長254nm)を1分間照射した。
波長254nmの光を照射した後の板状のハイドロゲルの上にさらに光架橋性化合物9を含む組成物を配置し、波長300nm以上の光を30分間照射して、積層したハイドロゲルを製造することができた。
【0201】
これにより、次のことが考察される。
光架橋性化合物9に300nm以上の光を照射することにより、クマリン部位が二量化し架橋して、板状のハイドロゲルが形成される。これに300nm未満の光を照射することにより、板状ハイドロゲル表面のクマリン部位が開裂する。ここに追加供給された光架橋性化合物9のクマリン部位が接触し、300nm以上の光を照射することによりクマリン部位同士が二量化して架橋し、積層ハイドロゲルが製造できる、と考えられる。
【0202】
[実施例12]
<積層ハイドロゲルの接着性の評価>
実施例9で得られた光架橋性化合物9を用いて、以下のようにして、積層ハイドロゲルを製造し、積層した部分の接着性を評価した。
【0203】
光架橋性化合物9が200mg/mlになるように70%エタノール水溶液を加えて光架橋性化合物9を含む組成物を調製した。
この組成物を、幅10mm、長さ30mm、厚さ1mmの型内に流し込み、波長300nm以上の高圧水銀ランプ(例えば、ウシオ電機社製、製品名「UM-102」)の光を30分間照射して、板状のハイドロゲルを作製した。
【0204】
この板状のハイドロゲルの半分の長さ15mm分をスライドガラスで覆い、残りの露出している部分にUVランプ(例えば、アズワン社製、製品名「ハンディーUVランプ SLUV-4」)の短波長の光(波長254nm)を所定の時間(10秒間又は1分間)照射した。スライドガラスを取り除き、板状のハイドロゲル全体の上にさらに光架橋性化合物9を含む組成物を供給し、波長300nm以上の光を30分間照射した。
【0205】
このとき、スライドガラスで覆っていた部分は二つの板状ハイドロゲルが接着しない。
接着していない部分を両側から、引張試験機(例えば、島津精機社製、製品名「小型卓上試験機EZ-SX」)のチャックで挟み込み、20mm/minの速さで引張試験を実施した。ハイドロゲルの破壊が優先されるか、剥離が優先されるかで、接着性を評価した。
【0206】
結果として、UVランプを10秒間照射した場合には二つのハイドロゲルの接着部分が剥離したのに対して、1分間照射した場合は接着部分のハイドロゲルが破壊し、1分間照射した場合は、接着性が優れることが分かった。
【0207】
以上より、次のことが考察される。
光架橋性化合物9に300nm以上の光を照射することによって、光架橋性化合物9のクマリン部位が二量化して板状ハイドロゲルが製造される。板状ハイドロゲルの一部をスライドガラスで覆って波長300nm未満の光を照射すると、露出していた部分は光架橋性化合物9のクマリン部位が開裂し、スライドガラスで覆った部分では波長300nm以上の光を遮断するのでクマリン部位の開裂は起こらない。
板状ハイドロゲル全体に光架橋性化合物9を追加供給し300nm以上の光を照射すると、露出していた部分に存するクマリン部位と、新たに供給された組成物中の光架橋性化合物9のクマリン部位とが二量化し架橋して接着する。
このとき、300nm未満の波長の光を1分間照射した場合は、10秒間照射した場合よりも強固に接着する。
以上のように考えられる。