(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043535
(43)【公開日】2024-03-29
(54)【発明の名称】中空構造体及び中空構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
F28D 20/00 20060101AFI20240322BHJP
H01G 11/78 20130101ALI20240322BHJP
H01M 50/102 20210101ALN20240322BHJP
F28D 20/02 20060101ALN20240322BHJP
【FI】
F28D20/00 Z
F28D20/00 G
H01G11/78
H01M50/102
F28D20/02 Z
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023198172
(22)【出願日】2023-11-22
(62)【分割の表示】P 2022124980の分割
【原出願日】2022-08-04
(71)【出願人】
【識別番号】390014306
【氏名又は名称】防衛装備庁長官
(74)【代理人】
【識別番号】100067323
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 教光
(74)【代理人】
【識別番号】100124268
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 典行
(72)【発明者】
【氏名】大越 昌幸
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 楓
(57)【要約】
【課題】蓄エネルギー機能を備えた水中で使用可能な蓄エネルギー装置等を製造するために利用できる中空構造体とその製造方法を提供する。
【解決手段】基体4の表面に間隔をおいて配置された複数の微小球10に電磁波を照射して微小球が固定された隆起部11を形成した後、微小体に電磁波を照射して隆起部に連続する中空部13を微小体を覆って形成し、微小体を除去すれば中空構造体15が得られる。中空構造体15の中空部13に複数種類の薬を内包させ、これを服用した患者の体内の所望の患部で所望の量の薬を放出させるように構成すれば、ドラッグデリバリーシステムに応用できる。蓄エネルギー素子5として電気二重層キャパシタ5d(
図14)にも利用可能である。
【選択図】
図15
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の一部が隆起することにより形成された隆起部と、
前記隆起部に連続して形成された中空部と、
を有することを特徴とする中空構造体。
【請求項2】
基体の表面に間隔をおいて配置された複数の微小体に電磁波を照射し、前記微小体の下方にある前記基体に前記微小体が固定された隆起部を形成する工程と、
前記微小体に電磁波を照射し、前記隆起部に連続する前記中空部を前記微小体を覆って形成する工程と、
前記中空部を残して前記微小体を除去する工程と、
を有することを特徴とする中空構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空構造体及び中空構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
あらゆるものがネットにつながるIoT (Internet of Things)の時代を迎え、データを得るための電子デバイスであるセンサを至る所に取り付ける必要性が生じている。センサを動作させるためには電源が必要であるが、小さなセンサを個々にコンセントに接続し、又は定期的な交換が必要な電池を各センサごとに設けることは、センサ数が膨大であることを考慮すると現実的とは言えない。そこで、本願発明者は、多数の小さなセンサに電力を供給するために、蓄エネルギー素子を利用するという発想を得た。蓄エネルギー素子とは、種々の形態で蓄積したエネルギーを必要に応じて電気に変換して供給する素子であって、例えば電気を貯える蓄電素子や、熱を貯える蓄熱素子が知られている。しかしながら、小型の蓄エネルギー装置を水中で使用するために必要な構造や製造方法に関する有用な技術を具体的に提示している例を本願発明者は知らない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
そこで、本願発明者は、蓄エネルギー素子を利用して水中の電子デバイス(例えばセンサ等)に安定的に電力を供給する手段・方法について多角的に検討した。その結果、本願発明者は、環境発電法、例えば海水のような電気伝導性を有する環境中の液体を利用した発電法によって電力を取り出すとともに、その電力を蓄エネルギー素子によって蓄電することは種々の用途において有用であり、有望な技術的課題であると考えるに至った。しかしながら、そのような技術で実用性があるものは知られていないため、その後、さらに鋭意、研究を進めてきた。
【0004】
本発明は、以上説明した本願発明者の知見と研究に基づいてなされたものであり、例えば、蓄電や蓄熱などの蓄エネルギー機能を備えた水中で使用可能な蓄エネルギー装置や、これを用いることで水中において使用可能な電子装置等を製造するために利用できる中空構造体及び中空構造体の製造方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1に記載された中空構造体は、
基体の一部が隆起することにより形成された隆起部と、
前記隆起部に連続して形成された中空部と、
を有することを特徴としている。
【0006】
請求項2に記載された中空構造体の製造方法は、
基体の表面に間隔をおいて配置された複数の微小体に電磁波を照射し、前記微小体の下方にある前記基体に前記微小体が固定された隆起部を形成する工程と、
前記微小体に電磁波を照射し、前記隆起部に連続する前記中空部を前記微小体を覆って形成する工程と、
前記中空部を残して前記微小体を除去する工程と、
を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載された中空構造体によれば、中空部は隆起部によって基体の表面に確実に保持されており、その内部に、用途または目的に応じた構造を作り込むことができ、また必要な物質等を収納する安定した容器として使用することができる。
【0008】
請求項2に記載された中空構造体の製造方法によれば、用途または目的に応じたサイズの微小体及び適当なエネルギーの電磁波を用いることにより、必要かつ均一なサイズで多数の中空構造体を整然と並べて基体の表面に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】分図(a)は第1実施形態の電子装置の正面図であり、分図(b)は同平面図である。
【
図2】分図(a)は第2実施形態の電子装置の正面図であり、分図(b)は同平面図である。
【
図3】分図(a)は第3実施形態の電子装置の正面図であり、分図(b)は同平面図である。
【
図5】第5実施形態の電気二重層キャパシタの製造工程における微小球整列工程を示す正面図である。
【
図6】第5実施形態の電気二重層キャパシタの製造工程におけるプレエッチング工程を示す正面図である。
【
図7】第5実施形態の電気二重層キャパシタの製造工程におけるプレレーザー照射工程を示す正面図である。
【
図8】第5実施形態の電気二重層キャパシタの製造工程における電極形成工程を示す正面図である。
【
図9】第5実施形態の電気二重層キャパシタの製造工程における中空部形成工程を示す正面図である。
【
図10】第5実施形態の電気二重層キャパシタの製造工程における微小球除去工程を示す正面図である。
【
図11】第5実施形態の電気二重層キャパシタの製造工程における電解液充填工程を示す正面図である。
【
図12】第5実施形態の電気二重層キャパシタの製造工程における電解液充填工程の他の例を示す正面図である。
【
図13】第5実施形態の電気二重層キャパシタの製造工程における接続部形成工程を示す正面図である。
【
図14】第5実施形態の電気二重層キャパシタを有する電子装置の水中での使用状態を示す正面図である。
【
図15】中空構造体の電子顕微鏡写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を
図1~
図15参照して説明する。
図1は、本願発明の基本構造を備えた第1実施形態の電子装置1を模式的に示す図である。この電子装置1の基本構造は複数の実施形態に共通している。すなわち、この電子装置1は、蓄エネルギー装置2と電子素子3を備えている。そして、蓄エネルギー装置2は、基体4と、基体の表面に設けられた蓄エネルギー素子5から構成されており、電子素子3は、基体4の内部に設けられていて、蓄エネルギー素子5に接続されている。
図1に示すように、この電子装置1は、電気伝導性を有する液体Lに浸漬して使用することができる。図中、液体Lの部分は薄墨(グレー着色)で示している。
【0011】
基体4は、絶縁性があり、その内部に設けられ電子素子3が外部と電波によって通信できるような材料で電波透過性の材料で構成された矩形板である。基体4の上面の一部には、撥水加工された楕円形状の領域である撥水性表面6があるので、基体4を液体L中に沈めれば、この撥水性表面6の上方には球または回転楕円体を2分割したような形状の気泡である気体領域Aが生成される。蓄エネルギー素子5は、撥水性表面6に取り付けられており、電子装置1を水中に沈めても、蓄エネルギー素子5は気体領域Aの内側にあるので水に濡れることはない。
【0012】
基体4を構成する絶縁性の材料としては、例えばSi-O-Si結合を含む固体化合物であるシリコーンゴムを用いることができる。シリコーンゴムからなる基体4の上面の一部に撥水性表面6を形成するためには、多数のシリカガラス製の微小球を基体4の表面に並べ、これにレーザー光線を照射し、レーザー光線の集中により基体4の表面を変形させる方法が採用できる。この方法は、微小球のレンズ効果によってレーザー光線のエネルギーを基体4の表面の多数の点に集中させ、各点においてシリコーンゴムの主鎖構造の光開裂を誘起し、低分子量のシリコーンを微小球に沿って堆積させることにより、多数の隆起部と中空部からなる微細構造を形成する光化学的な方法である。
【0013】
なお、このような光化学的な方法は、前述したシリコーンゴム以外の高分子材料にも同様に適用できる。また、光化学的な方法以外の方法で基体4の表面に微細構造を作ることができるのであれば、基体4の材料は高分子材料に限定されない。例えば、3Dプリンタ(レーザーアディティブマニュファクチャリング)を用い、金属の基体4の表面に同様の微細構造を作ることもできる。
【0014】
前述した光化学的な方法で加工したシリコーンゴムの基体4を水中に入れたところ、微細構造が形成された撥水性表面6のみに、厚さ約0.5~5mmの気体(空気)領域Aが形成されることが見出された。すなわち、基体4を液体L中に浸漬すれば気体領域Aの生成が確実に行なわれることが分かった。なお、表面工学においては、一般的に接触角が150度以上の場合に「超撥水」の用語を使用しているため、本発明で必要な気体領域Aを生成するための撥水性は超撥水性を含み、さらに超撥水性には入らない一定の範囲をも包含するものとなる。
【0015】
なお、前述した光化学的な方法は、基体4の上面の一部に撥水性表面6を形成する方法であると同時に、後に詳述するように、基体4の表面に形成する蓄エネルギー素子5の一種である電気二重層キャパシタの製造工程の一部ともなりうる。従って、前述した光化学的な方法の詳細は、電気二重層キャパシタを有する第5実施形態の蓄エネルギー装置及び電子装置の説明において、
図5~
図15を参照して詳述する。なお、前述した微細構造を形成する光化学的な方法は、撥水性表面6の形成方法の一例を示すものであって、その他の方法、手段または構造によって基体4の表面に撥水性表面6を設けてもよい。
【0016】
蓄エネルギー素子5としては、蓄電素子と蓄熱素子が使用できる。蓄電素子としては、化学電池、電気二重層キャパシタが使用できる。蓄熱素子としては、潜熱蓄熱素子、化学蓄熱素子、熱電蓄熱素子、温度差蓄熱素子、光化学蓄熱素子、顕熱蓄熱素子などが使用できる。なお蓄熱素子は、熱電変換素子と組み合わせることにより、電力を供給することができる。畜エネルギー素子のサイズは、基体4の表面に形成される気体領域Aのサイズ以内に収めることができればよいが、典型的には5×5×5(mm3 )程度を想定している。
【0017】
基体4の内部に設けられた電子素子3は、電子装置1の外部の状態を検知するセンサと、センサによって検知された情報を外部に送信する通信手段を有している。この電子素子3によれば、センサによって環境中の情報を検知し、これを直ちに通信手段により送信できるので、当該情報を遠隔地で取得することができる。ただし、環境中に配置された電子装置1を回収することが前提であるなら、電子素子3としては一定の記憶機能を備えたセンサのみであっても情報の収集に不都合はい。
【0018】
第1実施形態の電子装置1によれば、水中に配置した場合に基体4の撥水性表面6に気体領域Aが形成されるので、蓄エネルギー素子5が濡れて不具合が生じることはなく、センサ等の電子素子3を安定的に作動させることができる。また、蓄エネルギー素子5として、蓄電素子群と蓄熱素子群の中から目的や用途等に応じて適当な素子を選択することができる。
【0019】
図2は、第2実施形態の電子装置1aを模式的に示す図である。第1実施形態と同一の構成部分には
図1と同一の符号を付して第1実施形態の説明を援用する。この電子装置1aは、蓄エネルギー装置2aと電子素子3を備えている。蓄エネルギー装置2aは、基体4と、基体4の表面に設けられた環境発電素子としての太陽電池7と、基体4の表面に設けられて太陽電池7に接続された蓄エネルギー素子としての蓄電素子5aを有している。電子素子3は、基体4の内部に設けられて蓄エネルギー素子5aに接続されている。
図2に示すように、この電子装置1aは、電気伝導性を有する液体Lに浸漬して使用することができる。
【0020】
第2実施形態の電子装置1aによれば、水中に配置した場合であっても、太陽光が届く限りにおいて、太陽電池7が電力を発生させ、また太陽電池7が発生させた電力は蓄電素子5aに蓄えることができるので、電子素子3に対する電力の供給が安定する。
【0021】
図3は、第3実施形態の電子装置1bを模式的に示す図である。第1実施形態と同一の構成部分には
図1と同一の符号を付して第1実施形態の説明を援用する。この電子装置1bは、蓄エネルギー装置2bと電子素子3を備えている。蓄エネルギー装置2bは、基体4と、基体4の表面に設けられた環境発電素子8と、基体4の表面に設けられて環境発電素子8に接続された蓄エネルギー素子としての蓄電素子5bを有している。電子素子3は、基体4の内部に設けられて蓄電素子5bに接続されている。
図3に示すように、この電子装置1bは、電気伝導性を有する液体Lに浸漬して使用することができる。
【0022】
環境発電素子8は、
図3(b)に示すように、気体領域Aと液体Lの両方に跨がるように配置された種類の異なる第1電極8aと第2電極8bを備えている。種類が異なる金属としては、例えばアルミニウムと銅を採用することができる。具体的には、基体4の上面に、細線状のアルミニウムおよび銅を、撥水性表面6の内と外に跨がって設置する。この環境発電素子8を、濃度3wt%のNaCl水溶液に浸漬すると、撥水性表面6には気体領域Aが形成された。ここで細線状のアルミニウムおよび銅は、NaCl水溶液と気体領域Aの両方に跨るように配置されているため、気体領域A内のアルミニウムの一端部と銅の一端部の両端間には約800mVの電圧が電気化学的に生じた。気体領域A内のアルミニウムの一端部と、銅の一端部との間に設けた蓄電素子5bには電力が蓄えられ、蓄電素子5bに接続された電子素子3には電力が供給され、電子素子3を作動、機能させることができる。
【0023】
電極を構成する2つの種類が異なる金属とは、各金属に固有の物性値である電極電位が異なるとの意味である。電極電位は、一般に水素の標準電極電位からの±の差分を示すV値で表される。例えば海水に浸漬した場合の電極電位の値については測定結果が得られており、これは概ねイオン化傾向に一致する。
【0024】
第3実施形態の電子装置1によれば、液体Lと気体領域Aの間では2つの金属間に電位差が生じるため、太陽電池7では電力が生成できないような液体L中(水中)の環境下であっても電力を得ることができ、しかも蓄電素子5bによって蓄電することもできるため、第2実施形態の電子装置1aに較べて電力の供給が一層安定している。
【0025】
図4は、第4実施形態の電子装置1cを模式的に示す図である。第1実施形態と同一の構成部分には
図1と同一の符号を付して第1実施形態の説明を援用する。この電子装置1cは、蓄エネルギー装置2cと電子素子3を備えている。蓄エネルギー装置2cは、基体4と、基体4の表面に設けられた蓄熱素子5cと、蓄熱素子5cの表面に取り付けられた電磁波吸収体9を有している。電子素子3は、基体4の内部に設けられて蓄熱素子5cに接続されている。なお、図示はしないが、蓄熱素子5cは熱電変換素子を含んでいる。この電子装置1cにおいて、蓄熱素子5cに熱を供給する場合には、電磁波吸収体9に電磁波(レーザーを含む)Eを照射してエネルギーを吸収させ、これを蓄熱素子5cにおいて蓄積する。蓄熱素子5cに蓄積された熱は、熱電変換素子を介して電子素子3に電気として供給される。
図4に示すように、この電子装置1は、電気伝導性を有する液体Lに浸漬して使用することができる。
【0026】
第4実施形態の電子装置1cによれば、太陽電池7では電力が生成できないような環境下であっても、適当な強度の電磁波Eを、エネルギーを供給したい電子装置1cを選択して照射することによってエネルギーを蓄積させ、その電子素子3に電力を供給できる。
【0027】
図5~
図15の模式図を参照して、第5実施形態の電子装置1dと、その製造方法を説明する。
この電子装置1dは、第1実施形態で説明した微細構造を製造する光化学的な方法、すなわち基体4の表面に微細構造である中空構造体15を製造して撥水性表面6を形成する工程を一部に含んでおり、これによって形成した撥水性表面6の中空構造体15の少なくとも一部を、蓄エネルギー素子である電気二重層キャパシタ5dの構造としても利用するものである。
【0028】
なお、電気二重層キャパシタは、通常のコンデンサとバッテリ(二次電池)の中間的な性格を持つ特殊タイプのコンデンサである。バッテリが化学反応によって電荷を蓄えるのに対し、電気二重層キャパシタは、電解液に浸した電極の表面にイオンを吸着させ、電気二重層(Electric Double Layer) を形成することで電荷を蓄える。このため、バッテリでは数時間を要する充電も、電気二重層キャパシタでは数秒で完了する。また、充電回数が有限であるバッテリと異なり、電気二重層キャパシタでは原理的に無制限である。
【0029】
1.微小球整列工程
図5に示すように、シリコーンゴム(厚さ2mm)からなる基体4の表面に、直径2.5μmのシリカガラス製の微小体である微小球10を単層で整列させる。この状態では、各微小球10は互いに接触した状態にある。このような構造を得るためには、直径2.5μmのシリカガラス製の微小体である微小球10をエタノールに分散させ、これを基体4の表面に滴下して自然乾燥させ、一部多層となった微小球10を任意の手段、例えば薬包紙で軽く擦る等の物理的手段で除去することにより、基体4上に微小球10を単層で整列させればよい。
【0030】
2.プレエッチングによる微小球の溶解工程
図6に示すように、単層整列させた微小球10と微小球10に隙間を設けるため、微小球10の表面を一様に除去して微小球10の直径を小さくする操作を行なう。その手法は任意であるが、例えば、微小球10を単層整列させた試料を、濃度46~48%のHF水溶液が入った密閉容器内の上部に固定し、
図6中下向きの矢印で示すように、HFガスの暴露によって微小球10の表面を化学的に溶かし、直径が約2μmになるまで化学エッチングする方法が採用できる。
【0031】
3.プレレーザー照射による隆起部形成工程(微小球の接合工程)
図7中に下向きの矢印で示すように、波長193nmのArFエキシマレーザーを、単一パルスのフルエンス30mJ/cm2 、パルス繰り返し周波数1Hz、ショット数100(照射時間100s)で照射する。各微小球10の真下の基体4にレーザーが集光され、基体4のシリコーンゴムを構成する主鎖構造(Si-O-Si結合)が光化学的に開裂される。その結果、基体4のレーザー光が集光された部分は低分子量化され、体積膨張が起こり、隆起部11が形成され始める。その際、基体4と微小球10は弱く接合される。このため、この後の工程でレーザー照射した際に微小球10が動いて隆起部11から外れてしまうことはない。なお、この工程でレーザーは10mm×10mmの正方形状の範囲に一様に照射している。微小球10と微小球10の隙間では、レーザーは集光されないため、この部分で基体4が何らかの損傷を受けることはない。
【0032】
4.真空蒸着による電極形成工程
図8に示すように、試料を真空蒸着装置に入れ、各微小球10の表面のうち、隣接する微小球10と対向する両側面部の各位置に、図中下向きの矢印で示すように金属蒸着を行い、金属薄膜の電極12を形成する。具体的には、微小球10の上方に、作成しようとする電極12のパターンが形成された適当な大きさの細かいメッシュマスクを置き、各微小球10の前記各位置に、隣接する電極12と電極12が導通しないように、それぞれ電極12を形成する。
【0033】
5.レーザー照射による中空部形成工程
図9中に下向きの矢印で示すように、波長193nmのArFエキシマレーザーを、単一パルスのフルエンス30~40mJ/cm2 、パルス繰り返し周波数1Hz、ショット数1800(照射時間30min)で照射する。本工程により、隆起部11はさらに成長して高さが最も大きくなり、隆起部11の構造の内部にある低分子量のシリコーンは、レーザー照射によりさらに低分子量化して微小球10の表面に沿って堆積していき、微小球10の外形に沿ったカプセル状の中空部13が形成される。
【0034】
6.エッチングによる微小球の除去(溶解)工程
図10に示すように、レーザー照射後の試料を、濃度46~48%のHF水溶液が入った密閉容器内の上部に固定し、図中下向きの矢印で示すように、HFガスの暴露により微小球10のみを化学エッチングにより除去する。本工程により、隆起部11に支えられたカプセル状の中空部13と、中空部13の内面の両側部に電極12が密着して残存した中空構造体15が得られる。なお、本工程において、大気圧下でHF水溶液を使用した場合には微小球10の除去は困難であったが、前述の通り、HFガスの化学エッチングによれば微小球10を除去することができた。従って、微小球10は、大気圧下で水が入り込めるようなサイズではないが、ガスが通過できる程度の孔を有する多孔質であると考えられる。このように、微小球10のエッチングにはガスを利用することが好ましい。ガスであれば、中空部13の多孔質の孔から内部に入り込んで微小球10を溶解することができるからである。また、このHFガス暴露の際、中空部13同士が並んで接近している部分では、内側に電極12があるため、中空部13の側面部同士がより接近し、接触する場合もあるため、中空部13の膜厚がその部分だけ薄くなると考えられる。したがって、このHFガス暴露の際、微小球10の除去と同時に、中空部13の側面部に化学エッチングにより微小な穴があき、外から電極12が見える状態になると考えられる。
【0035】
なお、中空部13がシリコーンゴムから構成されていることはX線光電子分光分析より確認された。また、
図9に示すように中空部13に微小球10が内包されているか、あるいは
図10に示すように化学エッチングにより微小球10が中空部13から除去されているか、については、X線光電子分光分析によるSi2pピークのピーク位置により明確に区別できる。すなわち、微小球10が内包されている場合には、103.5eV(シリカのピーク位置)および102.0eV(シリコーンのピーク位置)の両方のピークが認められ、微小球10が除去されて中空部13内が空洞のときには、102.0eVのみのピークが検出される。
【0036】
7.電解液充填工程
図11に示すように、シリコーンゴムの基体4の表面に電解液(イオン液体)16を滴下し、真空チャンバー内で30min、真空状態を維持し、中空構造体15の中空部13内に電解液16を浸透させ、充填する。前述した通り、中空部13は多孔質であるため、真空下であれば電解液16はその孔から浸透し、充填されるものと考えられる。
【0037】
なお、
図12中に上向きの矢印で示すように、ArFエキシマレーザー照射後、シリコーンゴムの裏面から波長520nmのフェムト秒レーザーを、出力300~350mW、パルス繰り返し周波数20kHz、照射時間5~10sで照射すると、中空部13の天頂部に、多孔質の孔よりは大きいマイクロサイズの孔が生じるため、電解液16はその孔を経てより容易に内部に浸透することができる。なお、この
図12の例の場合には、中空部13の天頂部に大きめの孔が形成されるため、電解液16に替えて固体の電解質を充填してもよい。なお、この工程でレーザーは10mm×10mmの正方形状の範囲に一様に照射している。微小球10と微小球10の隙間では、レーザーは集光されないため、この部分で基体4が何らかの損傷を受けることはない。
【0038】
8.接続部(微小導線)形成工程
図13に示すように、レーザー3Dプリンタ(レーザーアディティブマニュファクチャリング)の技術を用いて、隣接する2つの中空部13,13において、対向する2つの側面の間隙に金属粉末を供給しながらレーザーで溶融させることで、隣接する2つの中空部13,13の対向する電極12,12を導通させる接続部17を形成する。これで電気二重層キャパシタ5dの構造が完成する。なお、エッチングによる微小球10の除去(溶解)工程(
図10参照)の後、接続部17の形成工程(
図13参照)を行い、その後で、電解液16の充填工程(
図11参照)を行なってもよい。
【0039】
次に、以上の工程で形成された電気二重層キャパシタ5dを有する第5実施形態の電子装置1dについて、
図14を参照して説明する。
図14に示す電子装置1dは、蓄エネルギー装置2dと図示しない電子素子3を備えている。蓄エネルギー装置2dは、基体4と、基体4の表面に設けられた環境発電素子8と、基体4の表面に設けられて環境発電素子8に接続された蓄エネルギー素子としての電気二重層キャパシタ5dを有している。環境発電素子8の構成は、
図3に示した第3実施形態と同様である。図示しない電子素子3は、基体4の内部に設けられて電気二重層キャパシタ5dに接続されている。この電子装置1dは、電気二重層キャパシタ5dが形成された部分が、微細構造の撥水性表面6となっており、電気伝導性を有する液体Lに浸漬した場合、電気二重層キャパシタ5dを収容する気体領域Aが基体4上に形成されるので、電気二重層キャパシタ5dを液体Lで濡らすことなく使用することができる。
【0040】
第5実施形態の電子装置1dによれば、海水を代表とする電気伝導性を有する液体L中での環境発電ができるため、組み込まれた電子素子3(センサ及び通信素子)は、外部からの電源の供給や電池がなくても、液体L存在下において、安定して長期間にわたってリアルタイムで情報収集を行い、収集した情報を送信することができる。また気体領域Aにある電気二重層キャパシタ5dにも蓄エネルギーができる。このような電子装置1dは、IoTデバイスとして非常に有用である。さらに、この電子装置1dにおいて電気二重層キャパシタ5dを実現した中空構造体(微細隆起構造)は、次の実施形態6において説明するように、広く電気電子工学分野におけるデバイス作製の基礎技術に適用可能であるため、その用途はあらゆる分野に敷衍することが可能である。
【0041】
次に、第6実施形態の中空構造体15について説明する。
第6実施形態は、第5実施形態の基体4の表面に形成された中空構造体15の微細構造と、これを製造する第5実施形態の方法を、他の用途に応用する例である。以下、第5実施形態の
図5~
図7、
図9及び
図10と、これらの図に関する明細書の記載を援用し、さらに
図15を参照して第6実施形態を説明する。
【0042】
図5~
図7の工程は第5実施形態と同じである。
図7の工程の次に、第5実施形態では製造した電極12を製造することなく、
図9に示す工程を行なう。すなわち、波長193nmのArFエキシマレーザーを、第5実施形態と同一の条件で照射する。本工程により、隆起部11はさらに成長して高さが最も大きくなり、隆起部11の構造の内部にある低分子量のシリコーンゴムは、レーザー照射によりさらに低分子量化して微小球10の表面に沿って堆積していき、微小球10の外形に沿ったカプセル状の中空部13が形成される。
【0043】
図10に示すように、レーザー照射後の試料を、濃度46~48%のHF水溶液が入った密閉容器内の上部に固定し、HFガスの暴露により微小球10のみを化学エッチングにより除去する。本工程により、隆起部11と、これに支えられたカプセル状の中空部13を有する中空構造体15が得られる。
図9及び
図10には電極12が示されているが、これは第5実施形態の構造の場合であり、第6実施形態の中空構造体15は、
図9及び
図10から電極12を除外した構造となる。
【0044】
図15は、第6実施形態の中空構造体15の電子顕微鏡写真を示す。撮影機材は、Phenomworld 社の Proであり、撮影条件は、電子線の加速電圧10kV、倍率は20000倍である。図の写真中に、3μmの縮尺を表すスケールを表示する。この写真から理解されるように、基体4の表面に、基体4の一部が隆起した直径約1.5μm、高さ約1μmの隆起部11と、隆起部11に連続して形成された直径約2μmの中空部13とを有する中空構造体15が、概ね一様なサイズで、約2.5μmの間隔で並んで形成されている。この写真は、第5及び第6実施形態の製造工程の説明に用いた図では、
図10に相当する。但し、中空部13の内面に電極12は形成されていない。
【0045】
第6実施形態の中空構造体15は、例えば「ドラッグデリバリーシステム」に好適に応用することができる。例えば、これら中空構造体15の中空部13に薬を内包させ、これを服用した患者の体内を中空構造体15が移動し、所望の場所(患部)で所望の量の薬を放出させるように構成する。例えば、各中空部13には、それぞれA薬、B薬、C薬、D薬など、種類の異なる薬を内包させておき、ある患部ではA薬とC薬を放出し、次の患部ではB薬とC薬を放出し、さらに次の患部ではB薬とD薬を放出し、各患部の病状に応じた薬効が得られるようにする。そのためには、第5実施形態で中空部13の内部に電極12を作り込んだ技術や、レーザー3Dプリンタの技術を用いて、それぞれの中空部13に小さなポンプを設け、各ポンプが必要なタイミングで作動して必要な薬を対象となる患部に供給するように構成すればよい。
【0046】
第6実施形態の中空構造体15を用いて潜熱蓄熱素子を構成することもできる。前記中空構造体15の中空部13に、パラフィン等の潜熱蓄熱材を封入すれば、固体のパラフィンが液体Lになるときに吸熱し、液体Lのパラフィンが固体になるときに放熱するマイクロカプセル状の潜熱蓄熱素子が得られる。このようなマイクロカプセル状の潜熱蓄熱素子を、ベッドのマットレス等の繊維製品にプリントして定着させれば、使用時の快適性が増大し、また建築材へ混入すれば省エネハウスの材料として使用できる。その他、種々の樹脂材料に混入することで多様な業種における省エネ材料として使用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1,1a,1b,1c,1d…電子装置
2,2a,2b,2c,2d…蓄エネルギー装置
3…電子素子
4…基体
5…蓄エネルギー素子
5a,5b…蓄エネルギー素子としての蓄電素子
5c…蓄エネルギー素子としての蓄熱素子
5d…蓄エネルギー素子としての電気二重層キャパシタ
6…撥水性表面
7…環境発電素子としての太陽電池
8…環境発電素子
9…電磁波吸収体
10…微小体としての微小球
11…隆起部
12…電極
13…中空部
15…中空構造体
16…電解液
17…接続部
A…気体領域
L…液体
E…電磁波