(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043557
(43)【公開日】2024-04-01
(54)【発明の名称】CO2ガス選択透過ユニットおよびCO2回収装置
(51)【国際特許分類】
B01D 71/70 20060101AFI20240325BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20240325BHJP
B01D 53/18 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
B01D71/70 500
B01D53/22
B01D53/18 110
【審査請求】有
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148660
(22)【出願日】2022-09-19
(71)【出願人】
【識別番号】722004931
【氏名又は名称】山本 三郎
(72)【発明者】
【氏名】山本 三郎
【テーマコード(参考)】
4D006
4D020
【Fターム(参考)】
4D006GA41
4D006HA28
4D006HA41
4D006JB09
4D006KB19
4D006KE12R
4D006KE15R
4D006MA02
4D006MA03
4D006MA31
4D006MB04
4D006MC65
4D006PA05
4D006PB17
4D006PB19
4D006PB64
4D006PC73
4D020AA03
4D020BA01
4D020BA08
4D020BA16
4D020BA19
4D020BB03
4D020BC01
4D020CB01
4D020DA03
4D020DB08
(57)【要約】 (修正有)
【課題】大気中および排気ガス中のCO2を削減するための低コストで低消費電力である装置を提供する。
【解決手段】新たに発見したCO2とPDMSの相互作用によりCO2ガス透過度が増大する現象を利用することにより、取り扱いが容易な50~100ミクロンの厚さのPDMSシートの使用が可能となった。本発明はCO2ガス分離膜として厚いPDMSシートを使ったCO2ガス選択透過ユニットの構造とその応用装置に関するものである。CO2排出削減を低コストで実現し地球温暖化対策に貢献するのが目的である。
【選択図】
図5-1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
50ミクロン~100ミクロンの厚さのポリジメチルシロキサン(PDMS)系高分子シートを炭酸ガス(CO2)選択分離透過膜として使用したCO2ガス選択透過ユニット。
【請求項2】
CO2透過量増大のために、50ミクロン~100ミクロンの厚さのポリジメチルシロキサン(PDMS)系高分子シートを1軸または2軸方向に引張り延伸することにより薄層化および大面積化した後、元の形状に戻るのを防止するためにシートの周辺部を枠で固定したCO2ガス選択透過ユニット。
【請求項3】
1、2の高分子シートの支持板として開口率40%以上のパンチングメタルまたはメッシュメタルを使用したCO2ガス選択透過ユニット。
【請求項4】
請求項1,2、3のCO2選択透過ユニットの表面に接する気体がCO2濃度500ppm以上の汚染された空気であり、裏面へ選択的に透過してくるCO2ガスを室外に排出する室内CO2清浄機。
【請求項5】
請求項1,2、3のCO2ガス選択透過ユニットの表面に接する気体がCO2濃度500ppm以上、1気圧以上の汚染された空気であり、裏面へ選択的に透過してくるCO2を1気圧以下の交換可能な容器に導入することを特長とするCO2ガス回収装置。
【請求項6】
請求項1,2、3のCO2ガス選択透過ユニットを円筒状にして連結することにより排気管内に設置できるようにしたCO2ガス回収管。
【請求項7】
請求項1,2、3のCO2ガス選択透過ユニットを透過してくるCO2をPH7以上のアルカリ溶液の容器内に吸収蓄積するCO2ガス回収装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかを採用することによりCO2ガス排出量を減少させることができる火力発電所、鉄鋼所などの施設、および輸送用の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地球温暖化の原因となっている温室効果ガスであるCO2ガス排出量を低減する様々な対策の中の分離膜法において、CO2選択分離シートを利用したCO2選択透過ユニットおよびCO2回収装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
大気中のCO2ガス回収装置の低コスト化のために、選択分離膜としての各種高分子シートが各所で開発が進行中である。中でもポリジメチルシロキサン(以後PDMSと記す)系高分子は有望な材料である。一般的にはダウ・コーニング社のシリコンゴム封止材(商標名SYLGARD 184)を原料としてスピンコート法によって薄膜が製造されている。PDMS膜へのCO2ガスの透過の原理として、CO2分子の拡散が考えられている。従って、厚さを出来る限り薄くする必要があると考えられおり、50ミクロン以上の厚いPDMS膜はCO2選択分離膜としての候補から除外されている。CO2選択分離膜の指標はCO2の透過度、およびCO2とN2の透過度の比すなわち選択比である。現状では膜厚1ミクロンの時、透過度は4000GPU程度、選択比は膜厚に依存せず10~12程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】仲川勤, Vol.14, No.155, 107-114 高分子学会, 高分子シートの気体透過性
【非特許文献2】Shigenori Fujikawa, et al. Chem. Lett. 2019, 48, 1351-1354
【非特許文献3】津山高専紀要 第40号(1998)47-53
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献2によれば、PDMS膜の厚さ1ミクロンおよび10ミクロンの時、CO2の透過度はそれぞれ4000GPU、400GPU程度である。すなわち厚さが10倍になると、透過度は1/10になる。従って、厚みを1ミクロンの50倍の50ミクロンにするとCO2の透過度は1/50の80GPU程度が予想されるため実用的でなく、CO2の透過膜の候補として厚さ50ミクロン以上のPDMS膜は対象外とされてきた。これは、高分子膜中のガスの透過原理がガス分子の拡散とされているからである。ここで1GPUとは透過してくる標準状態における単位面積、単位時間、単位差圧でのガスの体積のことであり、換算係数7.5×10-12を掛けたものである。非特許文献2ではCO2ガスの透過度を大きくするために、0.1ミクロン以下の極薄膜にすればCO2の透過度が10000GPU以上となることが記載されている。しかしながら、0.1ミクロン以下の面積が大きい極薄膜を多孔質支持体の上に貼り付ける複雑な工程が必要であり、ほこりや不純物の混入による欠陥によりガスが局部的に漏れる問題が発生する。従って、1ミクロン以下の欠陥のない大面積PDMS極薄膜を利用することは、歩留まり、コスト上困難である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明ではPDMSシートの厚さ50~100ミクロンにおいて、差圧20kPa以上でCO2ガスの透過度1000~500GPUが得られた。この値は非特許文献2に記載されているPDMS膜0.8~4ミクロンの場合に相当する。50~100ミクロン の厚さのPDMSシートはスピンコート法で製造が容易であり、欠陥のない大面積のPDMSシート製品が化学・生化学分野、マイクロ流体デバイスなどの用途として販売されており安価である。1例としてCSTEC社のPDMSシートがある。本発明ではこのPDMSシートを使用した。
【0007】
PDMSシートのガス透過度(単位GPU)は2室構造チャンバーを用いた密閉ガス圧力センサ法により測定した。単位GPUとは標準状態(STP)で単位面積(1m2)、単位時間(1秒)、単位差圧(1Pa)に換算した透過ガスの体積(m3)に換算係数7.5×10-12を掛けたものである。差圧とはガス供給室とガス透過室の圧力センサの圧力差のことである。ガスの透過部の形状は直径1cmの円とした。またPDMSシートは差圧によって湾曲するので、ステンレス支持体として直径300ミクロンの孔が400ミクロンピッチで開いた商品名Support Screen KS-25を使用して湾曲を防いだ。50ミクロン厚PDMSシートのガス透過度を測定したところ、供給室と透過室の圧力センサ差圧が20kPa以上の時500~1000GPUであったが、20kPa以下で急激に増加し差圧0.5kPaの時50000GPU以上となった。透過室がCO2分圧の小さい気体の場合、例えば空気、N2ガスの場合に、圧力センサ差圧が小さくてもCO2分圧差が大きいことから起こる現象である。膜厚150ミクロンと200ミクロンのPDMSシートのCO2透過度を測定したところ、差圧20kPa以上の時200GPU以下と小さかったので本発明からは除外した。
【0008】
PDMS膜厚を50~100ミクロンとしてもCO2透過度が予測値よりも5~10倍大きい理由を説明するために、本発明者が製作したCO2ガス透過中のリアルタイム測定できるラマン分光装置を使用して実験を行った。その結果、PDMSフィルム直上ではCO2ガスのラマンバンド(ピーク波数1288cm-1、1392cm-1が観測されるが、CO2透過中のPDMS内部では新しいラマンバンドのピーク波数1280cm-1、1384cm-1が厚さ方向に均一に発生することを発見した。
【0009】
これらの新しいバンドピークはCO2分子のラマン散乱波数よりも8cm―1だけ低波数(高エネルギー、短波長)側である。この新しいラマンバンドについては文献等に報告例がない。本発明者はこの新しいラマンバンドはPDMSとCO2との相互作用によって発生すると考えている。この新しいラマンピークはCO2のエネルギー準位よりも高い新しいエネルギー準位が発生したことを示しており、この準位を介してCO2がトンネル効果に似た現象により透過するという仮定が考えられる。この相互作用が発生する高分子膜として、ポリジメチルシロキサン(PDMS)のほかに、ポリカーボネート系、アクリル系があることを実験により分かったが、CO2ガスの透過度はポリジメチルシロキサン(PDMS)が最も大きかった。このようにして、高分子との相互作用を引き起こすガスは厚い高分子膜においても透過しやすく、高分子との相互作用を引き起こさないガス(N2ガス、O2ガス等)は透過しにくいという現象を利用することによって、CO2ガスと他の空気中成分ガスとを分離することができる。
【0010】
また、薄いPDMSシートは引っ張って伸ばしても破断しないという特徴がある。本発明のCO2選択透過ユニットに用いるPDMSシートを1軸または2軸方向に引っ張った後、元の形状に戻らないように周辺部を固定することにより元の厚さよりも薄く、元の面積よりも広くして大型のCO2選択透過ユニットとして使用することができる。厚さが薄いほどCO2の透過度は増加し、汚染空気と接する面積が大きいほどCO2透過量は大きくなる。
【0011】
さらに、本発明のCO2選択透過ユニットを複数個並列にパイプで連結することにより、汚染空気と接する面積を増やしCO2透過量を増加させることができる、また、直列に連結することにより、CO2以外のガス成分透過を指数関数的に減少させることができ、結果的に高純度のCO2ガスとして回収することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明のCO2選択透過ユニットは空気中に放出されるCO2ガスの排気または回収するための装置に適用することができ。家庭用から産業用まで適用範囲は広い。
【0013】
第1の応用は、室内でガスヒータや石油ヒータ等の暖房機から発生するCO2ガスを室外に放出して室内空気をクリーンに保つための室内CO2清浄機である。家庭用暖房機からは3000ppm~10000ppmのCO2ガスが発生し、人間の健康に悪影響を及ぼすので使用に当たっては約1時間毎に室内の空気を入れ替えることが推奨されている。しかしながら、屋外が寒い時や風が強い時などに窓を開けることを行わない家庭が多い。本発明のPDMSシートのCO2ガスの選択透過性を適用したCO2清浄機は、室内換気なしでCO2濃度を低減することができる
【0014】
第2の応用は、本発明のCO2選択透過ユニットを用いたCO2清浄機から排気されるCO2ガスをボンベ等の容器に導き密閉する装置である。空容器は低圧の減圧状態にしておきCO2ガスで充満して1気圧に近くなった時、あるいは定期的に入口を閉めて新しい容器と交換する。使用済みのCO2充満容器は業者を通してガス会社が引き取る。
【0015】
第3の応用は、CO2清浄機や工場や車から排出されるガスを本発明のCO2選択透過ユニットを通過したあとpH7以上の弱アルカリ溶液を満たした容器内でバブリングにより吸収させる装置である。この容器は業者が引き取ったあとN2ガスを吹き込むことによりCO2ガスに戻すことができる。このpH7以上の弱アルカリ溶液によるCO2回収方法は非特許文献3に記載されている。
【0016】
第4の応用は、工場や車から排出されるガスを本発明のCO2選択透過ユニットを通過したあと回収したCO2ガスをCO2分解反応装置に導き、メタン、水素、エタノール等に変換して燃料として回収する方法である。特許文献1にはCO2ガスからメタノールを製造する方法が記載されている。分解反応装置の課題は消費電力の低減である。
【0017】
以上述べたように家庭、工場、車などから排出されるCO2ガスの低減に効果がある。現在の排気CO2の回収方法の主流は吸収法と呼ばれるもので液体や固体との化学反応、吸収、吸着を利用したものであり複雑な装置が必要でありコストがかかるものが多い。本発明は低コストが期待されている分離膜法と呼ばれるもの1つであり、低コスト、低消費電力であるので世界的に普及する可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1-1】CO2ガス選択透過ユニットの第1の実施例の縦断面図である。
【
図1-2】CO2ガス選択透過ユニットの第1の実施例の平面図である。
【
図1-3】密閉箱内の空気中CO2濃度の減少実験データである。
【
図2-1】CO2ガス選択透過ユニットの第2の実施例の縦断面図である。
【
図2-2】CO2ガス選択透過ユニットの第2の実施例の平面図である。
【
図3】CO2ガス選択透過ユニットの第3の実施例の縦断面図である。
【
図4】CO2ガス選択透過ユニットを円筒状にした第4の実施例の横断面図である。
【
図5-1】試作したCO2清浄機の縦断面図である。
【
図5-2】室内空気中CO2濃度の減少実験データである。
【
図6】CO2選択透過ユニットを用いた弱アルカリ溶液CO2吸収装置である。
【発明を実施するための形態】
【実施例0019】
発明の実施の形態を実施例にもとづき図面を参照して説明する。
図1-1、
図1-2は第1の実施例のCO2選択透過ユニットのそれぞれ縦断面図、平面図である。面積15cm×10cmの厚さ50~100ミクロンのPDMSシート1は丸穴パンチングメタル2を支持体として密着させた。丸穴は直径5mm、ピッチ6.5mmの60°チドリパターンとした。PDMSシートの周囲はCO2が外部に漏れないように幅1cmの金属枠6によってシールした後固定した。従ってPDMSシートの面積は13cm×8cm=101cm
2である。これにパンチングメタルの開孔率54%を掛けるとCO2透過有効面積は約54cm
2である。CO2回収箱3はステンレス製で15cm×10cm×3cmの大きさの直方体とした。側面には6mmφチューブ4用のコネクタを取り付け、複数のCO2選択透過ユニットを連結できるようにした。両側のチューブ4には開閉バルブ5取り付けた。CO2回収箱3の1側面にはデジタル式圧力センサ7を取り付けた。
【0020】
図1-3は第1の実施例の厚さ50ミクロンのPDMSシートを用いたCO2選択透過ユニットによるCO2濃度低減の実証実験結果を示す。体積0.2m
2の空気密閉箱内部にCO2選択透過ユニットおよびCO2濃度計を設置し、箱内のCO2濃度が10000ppm以下になるように微量のCO2ガスを圧力調整弁によって導入した。CO2選択透過ユニットのCO2回収箱3内を減圧に保つ減圧モードと、密閉箱外部の空気と置換する大気置換モードの2種類の実験を行った。減圧モードでは2つの開閉バルブ5の一方を閉じ、他方を密閉箱の外に設置した吸引ポンプと連結した。大気置換モードでは入口の開閉バルブを開けたまま、吸引ポンプを作動させてCO2回収箱3内の気体が常に外部の空気と置換されるようにした。大気を導入したCO2回収箱内のCO2濃度は440ppm程度と小さいので分圧差により密閉箱内のCO2はPDMS膜を透過する。計算によると、CO2の分圧差は密閉箱内のCO2濃度が6000ppmの時1400kPa,4000ppmの時900kPa、2000ppmの時400kPa、1000ppmの時150kPaである。一方、減圧モードの場合はCO2回収箱内のCO2濃度は440ppmよりも小さくなるので分圧差も大きくなる。
図3中の8は大気置換モード(0kPa)の場合の密閉箱内CO2濃度の時間変化のグラフである。9は減圧モード(-70kPa)の場合の密閉箱内CO2濃度の時間変化のグラフである。グラフの直線部分の傾きは大気置換モードの場合-200ppm/分、減圧モードの場合-300ppm/分であった。両者とも大気中のCO2濃度440ppmに近づくにつれてCO2減少速度は小さくなった。