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特開2024-43589アンジオテンシンII拮抗剤としてのアジルサルタンジシクロヘキシルアミン、及びこれを有効成分とする心血管疾患の治療又は予防用薬学的組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043589
(43)【公開日】2024-04-01
(54)【発明の名称】アンジオテンシンII拮抗剤としてのアジルサルタンジシクロヘキシルアミン、及びこれを有効成分とする心血管疾患の治療又は予防用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   C07D 413/10 20060101AFI20240325BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20240325BHJP
   A61P 9/12 20060101ALI20240325BHJP
   A61K 31/4245 20060101ALI20240325BHJP
【FI】
C07D413/10
A61P9/00
A61P9/12
A61K31/4245
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023151595
(22)【出願日】2023-09-19
(31)【優先権主張番号】10-2022-0117573
(32)【優先日】2022-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(71)【出願人】
【識別番号】518204006
【氏名又は名称】デボン エルエス カンパニー,リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】パク,ウン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ダ ヒ
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,ヘ イム
(72)【発明者】
【氏名】パク,ジン オ
【テーマコード(参考)】
4C063
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB06
4C063CC58
4C063DD26
4C063EE01
4C086AA01
4C086AA02
4C086AA03
4C086BC71
4C086GA14
4C086MA01
4C086MA04
4C086NA02
4C086NA03
4C086ZA36
4C086ZA42
(57)【要約】      (修正有)
【課題】薬動学的にアジルサルタンメドキソミルカリウム塩と同等又はそれ以上の効果を奏する、心血管系疾患の予防及び/又は治療のための有効成分を提供する。
【解決手段】アンジオテンシンII拮抗剤としての下記化学式1で表されるアジルサルタンジシクロヘキシルアミン化合物、及びこれを有効成分として含む心血管疾患の治療又は予防用薬学的組成物に関する。本発明は、溶解性、安定性が高いので、薬剤学的に優れた物性的特性を有する。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンジオテンシンII拮抗剤としての下記化学式1で表されるアジルサルタンジシクロヘキシルアミン化合物。
【化1】
【請求項2】
請求項1に記載の化学式1で表されるアジルサルタンジシクロヘキシルアミンを有効成分として含む、心血管疾患の治療又は予防用薬学的組成物。
【請求項3】
前記心血管疾患の治療又は予防は、高血圧の治療又は予防であることを特徴とする、請求項2に記載の心血管疾患の治療又は予防用薬学的組成物。
【請求項4】
ラウリル硫酸ナトリウム及びラブラフィルを含まないことを特徴とする、請求項2に記載の心血管疾患の治療又は予防用薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アンジオテンシンII拮抗剤としてのアジルサルタンジシクロヘキシルアミン、及びこれを有効成分とする心血管疾患の治療又は予防用薬学的組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
高血圧治療剤は、血管拡張剤と交感神経抑制剤に分けられ、血管拡張剤の一種であるARB系列の治療剤が全高血圧治療剤処方液の中で70%以上と圧倒的に市場を占有している傾向にあるが、その中でも、アジルサルタンメドキソミルは、同一のメカニズムの薬物に比べて高いトラフ/ピーク比を有しており、24時間血圧調節に有利であるという利点を有しているため、最近注目を集めている。
【0003】
アジルサルタンメドキソミルは、下記に示したような構造のカンデサルタンの化学構造を変更した物質であって、AT1受容体に強力に結合し、ゆっくりと解離するという薬理学的特性を有する物質である。
【0004】
【化1】
【0005】
すなわち、アンジオテンシンIIとAT1受容体との結合を抑制させることによって、血管収縮及びアルドステロンの分泌作用を抑制して、血圧を下げる役割をする。
【0006】
アジルサルタンメドキソミルは、アジルサルタンの非常に低い溶解度及び生体利用率の問題を解決するための一種のプロドラッグ(prodrug)であって、服用後に体内でアジルサルタンとして作用し、薬理的有効成分はアジルサルタンであることが知られている(非特許文献1参照)。
【0007】
アジルサルタンメドキソミルの商業的に広く活用される塩の形態はカリウム塩であり、Takeda(日本)社の黒板孝信(KUROITA TAKANOBU)などによって米国特許第7157584号明細書(特許文献1)にそのアンジオテンシンII受容体拮抗剤の活性が開示されている。これは、ヒトの高血圧治療剤であって、20mg、40mg、及び80mgのフィルムコーティング錠で商品名「イダービ錠TM」として市販されている。
【0008】
一方、アジルサルタンジシクロヘキシルアミンに対しては、韓国登録特許第10-2220011号公報(特許文献2)においてアジルサルタンメドキソミルを合成するための中間体化合物として公知されている。韓国登録特許第10-2220011号公報では、ワンポット(One-Pot)反応の核心中間体としてアジルサルタンジシクロヘキシルアミンを合成し、有機溶媒の代わりに、環境に優しい溶媒としてイオン性液体及び共晶溶媒を使用して、50℃未満でも反応が可能なように反応性を増加させて類縁物質の生成を減少させ、高純度、高収率及び競争力のあるアジルサルタンメドキソミルを生産する。
【0009】
しかし、韓国登録特許第10-2220011号公報で明らかにしていることは、アジルサルタンメドキソミルの合成過程で必要な核心中間体化合物としてのアジルサルタンジシクロヘキシルアミンだけであり、これの薬理的及び薬動学的有用性などについて知られていない。
【0010】
併せて、非特許文献1、及び特許文献1~2の内容の全部は、本発明の内容と相反しない範囲内で、本発明の明細書の内容として引用・合体される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第7157584号明細書
【特許文献2】韓国登録特許第10-2220011号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】“Azilsartan: Current Evidence and Perspectives in Management of Hypertension”, Hindawi International Journal of Hypertension Volume 2019, Article ID 1824621, 8pages.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
薬剤学的製剤から有効成分の溶解が遅すぎる場合、有効成分の血液濃度は効果的なレベルに到達することができず、期待される効果を十分に奏することができないため、有効成分の溶解特性が極めて重要である。
【0014】
また、有効成分が時間の経過に伴って容易に分解又は変性される場合、薬剤学的製剤は効果及び安定性に問題が発生するため、有効成分の保管安定性も非常に重要である。
【0015】
そのため、本発明は、溶解性、安定性など薬剤学的に優れた物性的特性を有するだけでなく、これと同時に、薬動学的にアジルサルタンメドキソミルカリウム塩と同等又はそれ以上の効果を有する新規なアジルサルタン塩化合物を提供しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、上述した従来技術の問題点を解決するために案出されたものであって、
アンジオテンシンII拮抗剤としての下記化学式2で表されるアジルサルタンジシクロヘキシルアミン化合物を提供する:
【0017】
【化2】
【0018】
また、本発明の化学式2で表されるアジルサルタンジシクロヘキシルアミンを有効成分として含む心血管疾患の治療又は予防用薬学的組成物を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明は、溶解性、安定性が高いので、薬剤学的に優れた物性的特性を有するだけでなく、薬動学的にアジルサルタンメドキソミルカリウム塩と同等又はそれ以上の効果を奏するので、心血管系疾患の予防及び/又は治療に有効成分として有用に使用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明のラット薬動学試験の結果を示したグラフである。
図2】本発明の貯蔵安定性試験の結果を示したグラフである(X軸は、時間であって、単位は週(week)であり、Y軸は、類縁物質であって、%単位である)。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0022】
本発明の一態様は、
アンジオテンシンII拮抗剤としての下記化学式3で表されるアジルサルタンジシクロヘキシルアミン化合物である:
【0023】
【化3】
【0024】
特許文献2(韓国登録特許第10-2220011号公報)に開示されたように、アジルサルタンジシクロヘキシルアミンは、アジルサルタンメドキソミルを合成するための核心中間体化合物としては知られているが、アンジオテンシンII拮抗剤としての薬理・薬動学的内容について知られていない。そこで、本発明者らは、アジルサルタンジシクロヘキシルアミンが中間体化合物として有用であるだけでなく、それ自体でアジルサルタンに比べて安定性が高く、薬理的効果に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。アジルサルタンジシクロヘキシルアミンの安定性及び薬理的特性などについては、後述する実施例を通じて理解できるであろう。
【0025】
また、特許文献2(韓国登録特許第10-2220011号公報)に開示されたように、アジルサルタンジシクロヘキシルアミンの合成及び製造方法は知られているので、これについての具体的な内容は、公知の内容を参照して理解することができ、これについての説明は省略する。
【0026】
また、本発明の他の態様は、前記化学式2で表されるアジルサルタンジシクロヘキシルアミンを有効成分として含む心血管疾患の治療又は予防用薬学的組成物である。
【0027】
本発明の組成物は、投与のために前記有効成分以外に、追加で薬剤学的に許容可能な担体を1種以上含んで製造することができる。
【0028】
薬学的に許容可能な担体は、食塩水、滅菌水、リンゲル液、緩衝食塩水、デキストロース溶液、マルトデキストリン溶液、グリセロール、エタノール、またはこれらの成分のうち1成分以上を混合して用いることができ、必要に応じて、抗酸化剤、緩衝剤、静菌剤などの他の通常の添加剤を添加することができる。
【0029】
また、希釈剤、分散剤、界面活性剤、結合剤、または潤滑剤を付加的に添加して、水溶液、懸濁液、乳濁液のような注射用剤形、丸薬、カプセル剤、顆粒、または錠剤に製剤化することができる。
【0030】
本発明の組成物は、目的とする方法によって経口投与、または非経口投与(例えば、静脈内、皮下、腹腔内、または局所に適用)することができ、投与量は、患者の体重、性別、年齢、健康状態、食餌、投与時間、投与方法、排泄率及び疾患の程度に応じて、その範囲が多様である。経口投与のための液体服用形態は、水のような当業界で一般に用いられる不活性希釈剤を含む薬物学的に受容可能なエマルジョン、溶液、懸濁液、シロップ及びエリキシルを含むことができる。そのような組成物は、湿潤剤、エマルジョン及び懸濁剤のようなアジュバント、および甘味料、香料及びこれと類似のものを含むことができる。
【0031】
本発明のアジルサルタンジシクロヘキシルアミンの投与されなければならない有効成分の1日投与量は、単一の投与量となるか、または1日にわたって投与される何回かのさらに小さい服用量に分けられた効果的な量となることもできる。通常、治療又は予防の目的の1日の全服用量は、好ましくは0.5~500mgであってもよく、より好ましくは約1mg~100mg、さらに好ましくは10mg~80mg、より一層好ましくは20mg~80mgであってもよく、1日1回または数回に分けて投与することができる。
【0032】
また、本発明の組成物は、単独で、またはホルモン治療、他の高血圧薬物製剤治療、糖尿病(例えば、DPP-IV、SGLT2などの薬物-A Glyflozines)及び高脂血症治療剤(例えば、アトルバスタチン、ロスバスタチン、ピタバスタチンなどのスタチン類)、並びに生物学的反応調節剤を使用する薬剤と2剤又は3剤複合剤にして使用することができる。
【0033】
特に、心血管疾患を治療するために使用される化合物は、ACE阻害剤、HMG-CoA還元阻害剤、β-アドレナリン遮断剤、カルシウムチャネル遮断剤、利尿剤、アスピリンのような抗血栓剤、ニトロ化ACE阻害剤、ニトロ化HMG-CoA還元阻害剤、ニトロ化β-アドレナリン遮断剤、ニトロ化アスピリン及びニトロ化利尿剤で構成された群から選択される1種以上の薬物と併用して投与されてもよい。
【0034】
前記心血管疾患は、心不全、心筋梗塞症、虚血性脳卒中、動脈硬化症、眼球及び肺高血圧症、高血圧症、糖尿病性腎症、末梢血管疾患、左心室機能障害及び肥厚、肝線維症、門脈高血圧症などを非制限的に例示することができる。
【0035】
以下、本発明について実施例を挙げてより詳細に説明する。但し、以下の実施例は、発明の詳細な説明のためのものに過ぎず、これによって権利範囲を制限しようとする意図ではないことを明らかにしておく。
【0036】
実施例
1.溶解度の評価
アジルサルタン無塩(azilsartan free base)、アジルサルタンメドキソミルカリウム塩(azilsartan medoxomil potassium)、及びアジルサルタンジシクロヘキシルアミン塩(azilsartan dicyclohexylamine)の3つの主成分のpHによる溶解度の評価を行った。
【0037】
結果は、下記の表1の通りであった。
【0038】
【表1】
【0039】
試験の結果、3つの主成分のpHによる溶解度は、酸性条件であるpH1.2、pH4.0でAZ<AZDの順に高く示され、pH6.8ではAZMk<AZ<AZD、水ではAZ<AZMk<AZDの順に高く示される結果を示した。
【0040】
アジルサルタンの3つの主成分は、pHが溶解度に及ぼす影響が異なる中で、特に高いpHでアジルサルタンジシクロヘキシルアミン塩の溶解度が高いことが示された。
【0041】
2.ラット薬動学試験(Rat Pharmacokinetics)
(1)試験方法(Pharmacokinetics-design)
*動物:ラット(雄、8週齢)
-投与:経口投与(投与前16時間絶食)
-採血方法:頸静脈採血
-採血ポイント:0.082、0.25、0.5、1、2、4、8、24hr
【0042】
【表2】
【0043】
(2)薬動学(Pharmacokinetics)の結果
結果は、下記の表3の通りであった。
【0044】
【表3】
【0045】
前記表3から確認できるように、Cmax及びAUCは、それぞれAZ<AZMk<AZDの順に高く示され、これによって、生体利用率もこのような順に高く示された。参考に、AZと比較した相対生体利用率は、AZMKが約1.3であり、AZDが約1.7で、AZDがAZMKに比べても約30%生体利用率が高いことが確認された。
【0046】
これによって、アジルサルタンの生体利用率は、生体透過程度の要因よりは、溶解度によって薬物露出が変わると予想され、また、アジルサルタン自体が薬理的効果が現れる有効成分であるという点を考慮すると、アジルサルタンの生体利用率が高いAZDが、薬理的効果も優れることを確認できる。
【0047】
併せて、当該前臨床試験で特別に毒性や異常徴候は観察されなかった。
【0048】
3.安定性試験
室温(RT)及び65℃(60%RH)で、アジルサルタン(AZ)及びアジルサルタンジシクロヘキシルアミン(AZD)を対象として、2週間貯蔵安定性試験を施行した。
【0049】
結果は図2の通りであり、図2で確認できるように、アジルサルタンジシクロヘキシルアミン(AZD)は、室温でアジルサルタンに比べて高い安定性を示すだけでなく、高温では相対的にさらに大きい安定性を示したところ、非常に安定性が高い物質であることが確認できた。
【0050】
4.賦形剤の配合適合性試験
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
【表6】
【0054】
代表的に使用される可溶化剤の配合適合性の試験結果、アジルサルタン無塩(free base)は、ポリビニルピロリドン、Eudragit(登録商標)E PO、ラブラフィルを除いた賦形剤と配合状態で適した結果を示し、アジルサルタンジシクロヘキシルアミンは、ラウリル硫酸ナトリウム及びラブラフィルを除いた賦形剤と配合状態で適した結果を示すので、剤形の設計及び賦形剤の選定を考慮する際に優先的に選択可能な賦形剤を選別できる資料として活用できると思われる。
図1
図2