(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043610
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】水蒸気検出センサ用感応膜、この感応膜を有する水蒸気検出センサ、並びにこの水蒸気検出センサを備える湿度測定装置及び水分測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 27/04 20060101AFI20240326BHJP
B82Y 15/00 20110101ALI20240326BHJP
B82Y 5/00 20110101ALI20240326BHJP
G01N 5/02 20060101ALN20240326BHJP
【FI】
G01N27/04 B
B82Y15/00
B82Y5/00
G01N5/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148684
(22)【出願日】2022-09-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 2022年第83回応用物理学会秋季学術講演会のウェブサイトで公開された講演予稿集において発表
(71)【出願人】
【識別番号】301023238
【氏名又は名称】国立研究開発法人物質・材料研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100190067
【弁理士】
【氏名又は名称】續 成朗
(72)【発明者】
【氏名】村田 朋大
(72)【発明者】
【氏名】山崎 智彦
(72)【発明者】
【氏名】南 皓輔
(72)【発明者】
【氏名】吉川 元起
(72)【発明者】
【氏名】有賀 克彦
【テーマコード(参考)】
2G060
【Fターム(参考)】
2G060AA01
2G060AB02
2G060AC01
2G060AE19
2G060AF07
2G060BB10
2G060JA02
2G060JA03
2G060KA04
(57)【要約】
【課題】複雑な装置や高価な試薬、煩雑な操作を必要とせずに、簡易かつ高精度に湿度及び/または水分の測定を可能にすること。
【解決手段】本発明の一実施形態に係る水蒸気検出センサ用感応膜は、主としてDNAから構成された膜であって、感応膜材料としてDNA以外の材料を実質的に含有しない。これにより、水蒸気に対して極めて高い検出感度と選択性を示す水蒸気検出センサ用感応膜を提供することができる。感応膜材料としてのDNAは、特定の塩基配列を有することや特定の長さ範囲であることなどは要求されず、また、二本鎖であっても、一本鎖であっても、二本鎖と一本鎖が任意の割合で混合した状態などであってもよいため、本発明の感応膜は、天然由来のDNAを使用して安価に作製することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
主としてDNAから構成された膜であって、感応膜材料としてDNA以外の材料を実質的に含有しない、水蒸気検出センサ用感応膜。
【請求項2】
前記DNAは主として二本鎖DNAであるか、主として一本鎖DNAであるか、または二本鎖DNAと一本鎖DNAの混合物である、請求項1に記載の水蒸気検出センサ用感応膜。
【請求項3】
前記水蒸気検出センサはナノメカニカルセンサを用いたガスセンサである、請求項1または2に記載の水蒸気検出センサ用感応膜。
【請求項4】
前記ナノメカニカルセンサは表面応力センサである、請求項3に記載の水蒸気検出センサ用感応膜。
【請求項5】
主としてDNAから構成された膜であって、感応膜材料としてDNA以外の材料を実質的に含有しない感応膜を有する、水蒸気検出センサ。
【請求項6】
前記DNAは主として二本鎖DNAであるか、主として一本鎖DNAであるか、または二本鎖DNAと一本鎖DNAの混合物である、請求項5に記載の水蒸気検出センサ。
【請求項7】
ナノメカニカルセンサを用いたガスセンサである、請求項5または6に記載の水蒸気検出センサ。
【請求項8】
前記ナノメカニカルセンサは表面応力センサである、請求項7に記載の水蒸気検出センサ。
【請求項9】
請求項5から7のいずれか一項に記載の水蒸気検出センサ、前記水蒸気検出センサに測定対象の環境中のガスを含む試料ガスを供給する手段、及び前記水蒸気検出センサから出力されるシグナルを分析する分析手段を備え、前記環境中の湿度を測定する湿度測定装置。
【請求項10】
請求項5から7のいずれか一項に記載の水蒸気検出センサ、前記水蒸気検出センサに測定対象の試料のガスを含む試料ガスを供給する手段、及び前記水蒸気検出センサから出力されるシグナルを分析する分析手段を備え、前記試料中の水分を測定する水分測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水蒸気検出センサ用感応膜、この感応膜を有する水蒸気検出センサ、並びにこの水蒸気検出センサを備える湿度測定装置及び水分測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境中の湿度を測定する装置(湿度測定装置。湿度計とも呼ばれる。)、あるいは、試料(物質)中の水分を測定する装置(水分測定装置。水分計とも呼ばれる。)が種々開発されている。
【0003】
例えば、湿度計としては現在、電気式湿度計が広く実用されており、この電気式湿度計には、高分子膜湿度センサが使用されている。高分子膜湿度センサは、相対湿度の変化に応じてセンサ素子の高分子膜に含まれる水分量が変化し、これにより誘電率が変化することから相対湿度を測定する。
【0004】
本願発明者らはこれまで、ナノメカニカルセンサに着目して研究開発をおこなってきた。ナノメカニカルセンサは、気相や液相中に存在する測定対象の物質(または物質群)を選択的に吸着・吸収する感応膜(受容体層とも呼ばれる。)を有し、この吸着等によってセンサ中に引き起こされる各種の物理的パラメータの変化から分析を行うセンサである。ナノメカニカルセンサは、小型で簡単な構造であるにもかかわらず比較的高感度であること、また、感応膜を適宜選択することにより広範な測定対象物質に対応することができるという利点を有する。本願発明者らは、ナノメカニカルセンサの中でも、感応膜に測定対象物質が吸着等することによる感応膜の表面応力の変化を検出する表面応力センサに着目し、様々な測定対象物質に対して高い選択性を示す感応膜材料の探索を行ってきた。具体的には、非特許文献1には、膜型表面応力センサ(Membrane-type Surface stress Sensor、MSS)に関し、感応膜材料として酪酸酢酸セルロース(Cellulose Acetate Butyrate、CAB)を用いた場合にMSSが湿度センサとして機能し得ることが開示されている。また、非特許文献2には、感応膜材料として酸化グラフェン(Graphene Oxide、GO)を用いたMSSが、ガス検出において数十ppm程度の湿度(水分量)を検知し得ることが開示されている。なお、MSSの具体的な構造、作製方法、動作、特性等については既によく知られている事項なので本願では具体的に説明しないが、必要に応じて特許文献1を参照されたい。
【0005】
しかしながら、従来の多くの湿度センサは、測定対象のガス中に不可避的に含まれる夾雑ガスの影響を少なからず受けるため、その精度に課題がある。また、そのような夾雑ガスを排除するフィルター等の部材を装置構成に追加することやセンサ素子の応答速度等の理由から、従来の湿度センサは、測定値が安定するまでに長い時間を要する、すなわち、測定時間が長いという課題がある。
【0006】
一方、近年、DNAを機能性材料として利用することに関する研究が盛んに行われており、DNAを用いた化学センサ・バイオセンサは、ナノメカニカルセンサを含めて数多く報告されている。しかしながら、それらの多くは液中測定、すなわち、液相中に存在する物質を測定対象とする液体センサであり、気相中に存在する物質を測定対象とするガスセンサとしての応用例は限られている。後者の例として、非特許文献3には、単層カーボンナノチューブ(SWNT)の表面を一本鎖DNA(ssDNA)で包むようにして作製した材料(DNA functionalized single walled CNT、DFC)を用いて基板上にカーボンナノチューブのネットワークを構築したセンサが、湿度センサとして機能し得ることが開示されている。しかしながら、非特許文献3においては、上述した夾雑ガスに関する検討はなされておらず、上記課題同様、夾雑ガスに起因する精度の低下が懸念される。
【0007】
水分計としては現在、カールフィッシャー水分計が広く実用されている。カールフィッシャー法による水分測定法は、滴定セル内でヨウ化物イオン・二酸化硫黄・アルコールを主成分とする電解液(カールフィッシャー試薬)が、メタノールの存在下で水と特異的に反応することを利用して、試料中の水分を定量するものである。カールフィッシャー試薬を用いた水分測定法の代表的な方法には、滴定量から水分を求める容量滴定法と、電解酸化でヨウ化物イオンからヨウ素を発生させて水分を定量する電量滴定法との2つの方法がある。測定手順については、何れの滴定法においても、測定対象試料を溶解させる溶剤をヨウ素で無水化し、次いでこの無水化された溶剤に測定対象試料を入れ、カールフィッシャー試薬で滴定する工程を経て、水分量を算出する。
【0008】
このように、カールフィッシャー法による水分測定法では、カールフィッシャー試薬による化学反応を用いて滴定することで試料中の微量な水分を測定するという原理であるため、一般的に用いられる電解液中の反応基質であるメタノールやアミン系溶媒には適用できないという課題がある。この課題に対して、種々の電解液が開発・報告されているが、それぞれに得手不得手があり、電解液を都度交換し洗浄等を行わないと測定できないという時間的・労力的な課題もある。加えて、カールフィッシャー法は、高精度で水分測定を行うことができるものの、現場での簡易、迅速、低コストの要求に十分に応えることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】F. Loizeau et al., "Membrane-Type Surface Stress Sensor with Piezoresistive Readout," Procedia Engineering, 47 (2012) 1085-1088.
【非特許文献2】G. Imamura et al., "Graphene Oxide as a Sensing Material for Gas Detection Based on Nanomechanical Sensors in the Static Mode," Chemosensors 2020, 8, 82.
【非特許文献3】A. Paulet al., "Fabrication and Performance of Solution-Based Micropatterned DNA Functionalized Carbon Nanotube Network as Humidity Sensors," in IEEE Transactions on Nanotechnology, vol. 13, no. 2, pp. 335-342, March 2014.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の状況に鑑みてなされたものであり、その目的は、複雑な装置や高価な試薬、煩雑な操作を必要とせずに、簡易かつ高精度に湿度及び/または水分の測定を可能にすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明の特徴は、以下のとおりである。
【0013】
[1] 主としてDNAから構成された膜であって、感応膜材料としてDNA以外の材料を実質的に含有しない、水蒸気検出センサ用感応膜。
[2] 前記DNAは主として二本鎖DNAであるか、主として一本鎖DNAであるか、または二本鎖DNAと一本鎖DNAの混合物である、[1]に記載の水蒸気検出センサ用感応膜。
[3] 前記水蒸気検出センサはナノメカニカルセンサを用いたガスセンサである、[1]または[2]に記載の水蒸気検出センサ用感応膜。
[4] 前記ナノメカニカルセンサは表面応力センサである、[3]に記載の水蒸気検出センサ用感応膜。
[5] 主としてDNAから構成された膜であって、感応膜材料としてDNA以外の材料を実質的に含有しない感応膜を有する、水蒸気検出センサ。
[6] 前記DNAは主として二本鎖DNAであるか、主として一本鎖DNAであるか、または二本鎖DNAと一本鎖DNAの混合物である、[5]に記載の水蒸気検出センサ。
[7] ナノメカニカルセンサを用いたガスセンサである、[5]または[6]に記載の水蒸気検出センサ。
[8] 前記ナノメカニカルセンサは表面応力センサである、[7]に記載の水蒸気検出センサ。
[9] [5]から[7]のいずれかに記載の水蒸気検出センサ、前記水蒸気検出センサに測定対象の環境中のガスを含む試料ガスを供給する手段、及び前記水蒸気検出センサから出力されるシグナルを分析する分析手段を備え、前記環境中の湿度を測定する湿度測定装置。
[10] [5]から[7]のいずれかに記載の水蒸気検出センサ、前記水蒸気検出センサに測定対象の試料のガスを含む試料ガスを供給する手段、及び前記水蒸気検出センサから出力されるシグナルを分析する分析手段を備え、前記試料中の水分を測定する水分測定装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、実質的にDNAのみを感応膜材料として用いて感応膜を構成することで、水蒸気に対して極めて高い検出感度と選択性を示す水蒸気検出センサ用感応膜を提供することができる。感応膜材料としてのDNAは、特定の塩基配列を有することや特定の長さ範囲であることなどは要求されず、また、二本鎖であっても一本鎖であっても二本鎖と一本鎖が任意の割合で混合した状態などであってもよいため、本発明の感応膜は、天然由来のDNAを使用して安価に作製することができる。あるいは、実用上の要求等に応じて、化学的に合成されたDNAを使用して、本発明の感応膜を作製することも可能である。
【0015】
また、本発明によれば、上記水蒸気検出センサ用感応膜を有する水蒸気検出センサを提供することができる。本発明の水蒸気検出センサは、感応膜が主としてDNAから構成され、かつ、感応膜材料としてDNA以外の材料を実質的に含有しないため、所要の感応膜材料を溶媒に溶解した溶液をナノメカニカルセンサ等のセンサに塗布する簡便な手法により作製することができる。
【0016】
また、本発明によれば、上記水蒸気検出センサを備える湿度測定装置及び水分測定装置を提供することができる。本発明の湿度測定装置及び水分測定装置は、本発明の水蒸気検出センサと、当該水蒸気検出センサに試料ガスを供給する手段と、当該水蒸気検出センサから出力されるシグナルを分析する分析手段とを備えることで所望の湿度測定及び/または水分測定を行うことができるので、装置の構成を単純にすることができる。また、本発明の湿度測定装置及び水分測定装置は煩雑な操作を必要としないため、現場での簡易かつ高精度な湿度及び/または水分の測定を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の水蒸気検出センサの一実施形態であるMSSの光学顕微鏡写真を示す図。
【
図2】実施例で作製した水蒸気検出センサ用感応膜について、触針式薄膜段差計を用いて得られたプロファイルを示す図。
【
図3】実施例において水蒸気の検出実験を行った装置の構成を模式的に示す図。
【
図4】実施例の「測定1」について、各種ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図。(a)水、(b)エタノール、(c)アセトン、(d)トルエン、(e)n-ヘキサン。
【
図5】実施例の「測定1」に用いたMSSについて、センサチップの作製日を0日目とした経過日数と、水蒸気を含む試料ガスに対するMSSのシグナル強度の関係をプロットしたグラフを示す図。
【
図6】実施例の「測定2」について、THF中に一定量の水を添加した混合溶媒を試料溶媒として用いて調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図。(a)MSSからのシグナルの時間変化を示す図、(b)各試料溶媒中の水の濃度に対するMSSからのシグナルの最大値をプロットしたグラフを示す図。
【
図7】実施例の「測定2」について、アセトニトリル中に一定量の水を添加した混合溶媒を試料溶媒として用いて調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図。(a)MSSからのシグナルの時間変化を示す図、(b)各試料溶媒中の水の濃度に対するMSSからのシグナルの最大値をプロットしたグラフを示す図。
【
図8】実施例の「測定2」について、アセトン中に一定量の水を添加した混合溶媒を試料溶媒として用いて調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図。(a)MSSからのシグナルの時間変化を示す図、(b)各試料溶媒中の水の濃度に対するMSSからのシグナルの最大値をプロットしたグラフを示す図。
【
図9】(a)
図5(b)、
図6(b)及び
図7(b)に示すグラフを1つにまとめた図、(b)(a)の横軸である水の濃度をmolar ppmで表した場合のグラフを示す図。
【
図10】実施例の「測定2」に用いたMSSについて、(a)センサチップの作製直後の光学顕微鏡写真、並びに、(b)THFと水の混合溶媒を用いた測定、(c)アセトニトリルと水の混合溶媒を用いた測定、及び(d)アセトンと水の混合溶媒を用いた測定に供した後の光学顕微鏡写真を示す図。
【
図11】実施例で作製したMSSについて、(a)センサチップの作製直後、(b)測定1の水(水蒸気)に対する応答特性を測定した後、及び(c)測定2のTHF(THFに対する水の添加量が0ppmの場合)の蒸気に対する応答特性を測定した後の、レーザー顕微鏡による感応膜を含む構造体の高さプロファイルの測定結果を示す図。
【
図12】実施例の「測定3」について、第一のセットの試料溶媒を用いて調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図。(a)MSSからのシグナルの時間変化を示す図、(b)各試料溶媒中の水の濃度に対するMSSのシグナル強度をプロットしたグラフを示す図。
【
図13】実施例の「測定3」について、第二のセットの試料溶媒を用いて調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図。(a)MSSからのシグナルの時間変化を示す図、(b)各試料溶媒中の水の濃度に対するMSSのシグナル強度をプロットしたグラフを示す図。
【
図15】実施例の「測定4」について、相対湿度が10%、20%、40%、60%及び80%である試料ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図。(a)MSSからのシグナルの時間変化を示す図、(b)試料ガスの相対湿度に対する、試料ガスの供給後60秒後のMSSからのシグナルをプロットしたグラフを示す図、(c)試料ガスの相対湿度に対する、試料ガスの供給後2秒後のMSSからのシグナルをプロットしたグラフを示す図。
【
図16】実施例の「測定5」について、水蒸気を含む試料ガスに対するMSSのシグナル強度を基準とし、他の溶媒を用いて測定されたMSSのシグナル強度を、一本鎖DNAの場合と二本鎖DNAの場合とについて比較したグラフを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
以下に記載する構成要件の説明は、本発明の代表的な実施形態に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に制限されるものではない。
【0019】
[水蒸気検出センサ用感応膜]
本発明の一実施形態に係る水蒸気検出センサ用感応膜(以下、単に「本発明の感応膜」とも称する。)は、主としてDNAから構成された膜であって、感応膜材料としてDNA以外の材料を実質的に含有しない。
【0020】
本明細書において、感応膜が「主としてDNAから構成された膜である」とは、感応膜の構成要素の大部分をDNAが占めることを意図する。本発明の感応膜において、DNA以外の構成要素としては、例えば、感応膜が形成される基材(センサ本体)との密着性を改善するバインダ類、感応膜の形成時に不可避的に含まれ得る不純物などが挙げられる。また、本明細書において、感応膜が「感応膜材料としてDNA以外の材料を実質的に含有しない」とは、感応膜の構成要素のうち、測定対象物質(本発明においては水蒸気(気体状態の水))に対する感応性(測定対象物質に応答する性質)を有する材料としてはDNAのみが意図されており、DNA以外の構成要素は、測定対象物質に対する感応性を有しないか、または当該感応性を有していてもDNAが有する感応性との対比においては無視できる程度であること、すなわち、感応膜材料として実質的に機能しないことを意味するものとする。
【0021】
例えば、水蒸気検出センサが表面応力センサである場合、感応膜は、センサ本体上に形成されて(センサ本体に被覆されて)いる。ここで、当該感応膜は、DNAのみから構成されていてもよく、DNA以外の成分を含んで構成されていてもよい。前者の場合には、感応膜の形成時に不可避的に含まれ得る不純物を除き、感応膜の構成要素はDNAであり、かつ、感応膜材料はDNAである。後者の場合には、DNA以外の成分は、センサ本体との密着性を改善するバインダ類などであり、当該成分は、感応膜の構成要素の一部分を占めるに過ぎず、また、感応膜材料として実質的に機能しないことが意図される。
【0022】
なお、表面応力センサなどのナノメカニカルセンサにおいて、センサ本体と感応膜との密着性を改善する目的で、センサ本体表面と感応膜との間に自己組織化膜などの膜状物を介在させる場合がある。そのような場合には、当該膜状物と感応膜とを別個の構造体と区別した上で、感応膜の構成を決定するものとする。一方、そのような別個の構造体としての区別が難しい場合、上記膜状物も含めたときの感応膜の構成要素としてはDNAが大部分を占めるとは言えない可能性があるが、そのような場合には、当該構成要素のうち、測定対象物質に対する感応性を有する材料として意図されている材料を決定した上で、当該材料が主として含まれる部分(範囲)を感応膜とみなすことで、本発明の感応膜の条件を満たすか否かの決定は可能であり得る。
【0023】
ここで、具体的に非特許文献3に記載の材料について言及すると、当該材料(DFC)は、カーボンナノチューブの表面に一本鎖DNAがファンデルワールス力を介して(非共有結合により)固定されたものであり、非特許文献3によれば、DFCはこれまでに、メタノール、トリエチルアミン(TMA)、プロピオン酸(PA)などの化合物に対する分子認識材料としての用途が報告されていることから、DFCは、それ自体が一つの感応膜材料として扱われている。そのため、上述した本発明の感応膜の条件との関係においては、DFCのネットワークで構成された膜状の構造体が感応膜に相当し、当該構造体の構成要素はDFCであり、かつ、感応膜材料はDFCである。従って、当該構造体は、主としてDNAから構成されるものではなく、また、感応膜材料としてDNA以外の材料を実質的に含有しないものでもないと理解することができる。
【0024】
加えて、本発明の水蒸気検出センサ用感応膜において、感応膜材料としてのDNAは、特定の塩基配列を有することや特定の長さ範囲であることは要求されない。つまり、本発明の感応膜は、DNAが特定の塩基配列を有する、及び/または、DNAが特定の長さ範囲内にあることで、当該DNAが水分子に対する特異性を発揮することを意図されたものではない。むしろ、本発明の感応膜は、DNAに対する水分子の物理吸着を利用するものであって、塩基配列や長さがランダムなDNAによって構成されていてよく、また、膜状に形成された状態におけるDNAの配向性も特に問わない。このことは、従来のDNAを用いた化学センサ・バイオセンサにおいて、DNAの塩基配列や長さが特定の条件に設定されたり、DNAが特定の配向性を有するように(必要に応じてアンカー構造を介して)基材(センサ本体)上に固定されたりすることで、所望のセンサ機能が発揮されるようにすることとは異なる、本発明の感応膜の特徴の一つであると理解されるべきである。
【0025】
本発明の水蒸気検出センサ用感応膜の一態様において、感応膜を構成するDNAは、実質的に二本鎖DNAであってもよい。ここで、本発明の感応膜を構成するDNAが「実質的に二本鎖DNAである」とは、当該DNAのすべてが二本鎖構造を取っている状態に限定されず、当該DNAの大半(典型的には80%以上)が二本鎖構造を取っており、一本鎖状態のものが一部含まれている状態も含むことを意図する。ここで、二本鎖DNAには、完全な二本鎖であるものだけでなく、少なくともいずれか一方の末端の数個の塩基が一本鎖となっているものも含まれる。
【0026】
また、本発明の水蒸気検出センサ用感応膜の別の態様において、感応膜を構成するDNAは、実質的に一本鎖DNAであってもよい。ここで、本発明の感応膜を構成するDNAが「実質的に一本鎖DNAである」とは、当該DNAのすべてが一本鎖構造を取っている状態に限定されず、当該DNAの大半(典型的には80%以上)が一本鎖構造を取っており、二本鎖状態のものが一部含まれている状態も含むことを意図する。ここで、一本鎖DNAには、完全な一本鎖であるものだけでなく、少なくともいずれか一方の末端の数個の塩基が二本鎖となっているものも含まれる。
【0027】
言い換えると、本発明の水蒸気検出センサ用感応膜において、感応膜材料としてのDNAは、主として二本鎖DNAであってもよく、主として一本鎖DNAであってもよく、二本鎖と一本鎖が任意の割合で混合した状態(二本鎖DNAと一本鎖DNAの混合物)などであってもよい。つまり、上述のように、感応膜材料としてのDNAは、特定の塩基配列を有することや特定の長さ範囲であることも要求されないので、本発明の感応膜は、天然由来のDNAを使用して安価に作製することができる。あるいは、実用上の要求等に応じて、化学的に合成されたDNAを使用して、本発明の感応膜を作製することも可能である。
【0028】
好ましい実施形態において、上記水蒸気検出センサは、ナノメカニカルセンサを用いたガスセンサである。ここで、ナノメカニカルセンサの好ましい態様としては、表面応力センサが挙げられる。そこで、以下では、ナノメカニカルセンサの代表例として表面応力センサを取り上げて説明し、具体的な表面応力センサの形式としては膜型表面応力センサ(MSS)を例に挙げるが、センサをこれに限定する意図はないことに注意されたい。
【0029】
[水蒸気検出センサ]
本発明の一実施形態に係る水蒸気検出センサは、上述した本発明の水蒸気検出センサ用感応膜を有する。当該感応膜の具体的な特徴等については既に説明した通りであるので、以下ではその説明を省略する。
【0030】
図1は、本発明の水蒸気検出センサ用感応膜を有するMSSの光学顕微鏡写真である。
図1に示される、MSS(センサ素子)を含むMSSチップ(センサチップ)は、シリコン単結晶から切り出される、半導体素子技術分野で使用されるシリコンウエハから形成されたものであり、センサ素子は、中央に示す円形部分(正方形等の他の形状でもよい)がその周囲の枠状部に当該円形部分の上下左右4か所で接続され固定された構造を有している。センサ素子に与えられたガス成分が円形部分(薄膜)の表面に塗布された感応膜に吸着・脱着することでセンサ素子に印加された表面応力がこれら4か所の固定領域(細幅部)に集中し、これら固定領域に設けられているピエゾ抵抗素子の電気抵抗変化がもたらされる。これらのピエゾ抵抗素子は枠状部に設けられた導電領域によって相互接続されてホイートストンブリッジが形成される。このホイートストンブリッジの対向する2つの節点間に電圧を印加し、残りの2つの節点間に現れる電圧をセンサ素子から出力されるシグナルとしてセンサ素子の外部に取り出して所要の解析を行う。このようなセンサ素子の構造や動作については例えば特許文献1に詳述されている。なお、
図1では、感応膜は、センサ素子の円形部分にインクジェット法によって塗布されている。後述する実施例では、インクジェット装置を用いて本発明の水蒸気検出センサ用感応膜を塗布する場合の具体的な条件の一例を示す。もちろん、感応膜の塗布方法及び塗布手段としてはこれに限定されず、ディスペンサーなどの液体定量吐出装置を用いてもよく、また、スプレーコーターを用いるスプレーコーティング法などを採用することも可能である。
【0031】
[水蒸気検出センサの用途]
本発明の水蒸気検出センサ用感応膜は、水蒸気に対して高い選択性を有し、当該感応膜を有する水蒸気検出センサは、水蒸気に対して高感度に応答する。そのため、本発明の水蒸気検出センサは、ガス中の水蒸気を検出する用途に用いるのに好適である。具体的には、本発明の水蒸気検出センサは、湿度測定装置(湿度計)及び水分測定装置(水分計)に好適に使用できる。但し、本発明の水蒸気検出センサの用途は、以下に示すような構成を有する湿度測定装置及び水分測定装置に限定されないことに注意されたい。
【0032】
〔湿度測定装置〕
本発明の一実施形態に係る湿度測定装置は、本発明の水蒸気検出センサ、当該水蒸気検出センサに測定対象の環境中のガスを含む試料ガスを供給する手段、及び当該水蒸気検出センサから出力されるシグナルを分析する分析手段を備え、当該環境中の湿度を測定する。
【0033】
〔水分測定装置〕
本発明の一実施形態に係る水分測定装置は、本発明の水蒸気検出センサ、当該水蒸気検出センサに測定対象の試料のガスを含む試料ガスを供給する手段、及び当該水蒸気検出センサから出力されるシグナルを分析する分析手段を備え、当該試料中の水分を測定する。
【0034】
上記湿度測定装置及び水分測定装置の具体的な構成の一例としては、後述する実施例において
図3を参照して説明する構成を挙げることができる。但し、本発明の湿度測定装置及び水分測定装置の構成はこれに限定されず、また、当業者であれば、例示される装置構成を基に、種々の改変が可能であることを理解する。
【0035】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を限定するものではなく、その理解を助けるためのものであることに留意されたい。
【実施例0036】
本実施例では、
図1に示す光学顕微鏡写真を参照して説明したMSSと同様の構成を有するMSSを用いて、水蒸気検出センサとしての特性を測定し、このMSSが、水蒸気に対して極めて高い検出感度と選択性を示したことを説明する。なお、ここで使用したMSSは、その円形部分(ピエゾ抵抗素子が設けられた細幅部によって周囲の枠状部に固定される、感応膜が塗布される薄膜)の直径が300μmであり、膜厚が約3μmのものを使用した。
【0037】
東京化成工業より入手したデオキシリボ核酸ナトリウム(サケ精巣由来)を水に溶解させ、200μg/mLの溶液とした後、インクジェット法により、MSSチップ(センサチップ)上に塗布し、溶媒を乾燥させて感応膜を作製した。塗布条件の詳細は以下に示す通りである。
・インクジェット装置:LaboJet-500SP(マイクロジェット社製)
・前処理:酸素プラズマ照射(30W、2分間)。処理後1時間以内に上記溶液をセンサチップ上に塗布した。
・滴下速度:3~4s/ショット
・滴下数:100~1000ショット
・センサチップ温度:室温(25℃)
・パルス電圧:30.0V
・パルス幅:100.0μs
【0038】
なお、センサチップ上に塗布した溶液の溶媒は、上記室温条件で乾燥させたことから、当該乾燥処理によってDNAの二本鎖構造が一本鎖構造になる(変性する)ことはほとんど無いと考えられる。
【0039】
図2は、センサチップ上への塗布液の滴下数が500ショットの条件で作製した感応膜について、触針式薄膜段差計(Dektak、Bruker社製)を用いて、MSSの円形部分(本体)とその両側の固定領域(細幅部)を含む範囲を走査して得られたプロファイルである。
図2に示すプロファイルから、得られた感応膜は、MSSの円形部分の周縁部において約1.5μmの厚みを有するすり鉢状の形状であることが確認された。これは、加熱条件下で塗布液の溶媒である水が蒸発する際に生じたコーヒーリング効果によるものであると考えられる。
【0040】
ここで、本発明においては、センサチップ上に形成される感応膜が平坦である必要はない。言い換えると、感応膜の作製時に上述したコーヒーリング効果が生じるのを抑制することを意図して塗布液にDNA以外の添加剤等を添加する必要はない。本発明の感応膜は、その形状が水蒸気に対する検出感度や選択性に影響を及ぼすことはほぼ無く、このことは、本実施例で作製した感応膜を有するMSSが水蒸気に対して極めて高い検出感度と選択性を示すことからも明らかであると言い得る。
【0041】
なお、本実施例において、感応膜の膜厚とは、膜の厚みが最も大きい部分の厚みを指すこととする。すなわち、
図2に示すプロファイルを有する感応膜の膜厚は、約1.5μmであるとする。本実施例では、上記の通り、塗布液の滴下数を100ショット~1000ショットの範囲に設定して感応膜を作製した結果、膜厚がおよそ100nm~10μmの範囲である感応膜が得られた。
【0042】
ここで、塗布液(DNA溶液)の赤外吸収スペクトルの測定結果から、使用したDNAの大半は二本鎖構造を取っており、一本鎖状態のものが一部含まれていると推定された。また、使用したDNAは、上記の通り、サケ精巣由来、つまり天然由来のDNAであるので、その長さは一定の範囲内でバラつきがあるものと理解される。
【0043】
図3は、本実施例において水蒸気の検出実験を行った装置の構成を模式的に示す図である。
図3において、測定対象の試料は、バイアル瓶に収容されている。具体的には、容量10mLのバイアル瓶に所定の試料溶液を2mL入れ、このバイアル瓶にキャリアガスとして乾燥窒素ガスを20sccmの流量で流し込むことにより、当該試料溶液の飽和蒸気であるバイアル瓶のヘッドスペースガスをバイアル瓶から送り出し、これを流量80sccmの乾燥窒素ガスと混合して、合計流量を100sccmとした混合ガスを調製し、これを試料ガスとした。ここで、乾燥窒素ガスは、2本の窒素ガスボンベ(図示せず)にそれぞれ接続された2台のマスフローコントローラー(MFC1、MFC2)により、その流量を制御した。すなわち、上述した試料ガスの供給時には、MFC1からのガス経路(L11)の流量は20sccmに制御され、MFC2からのガス経路(L2)の流量は80sccmに制御され、バイアル瓶のヘッドスペース(容量8mL)を経由して送り出されたガスは、下流側のガス経路(L12)を通ってバルブ部でMFC2からのガス経路(L2)と合流し、流量100sccmの混合ガスが、ガス経路(L31)を通ってセンサチップ(MSSチップ)を備えるセンサ部に供給され、その後、当該混合ガスは、センサ部のガス排出経路(L32)を介して排出される。また、試料ガスを含まない乾燥窒素ガスをパージガスとして供給する際には、MFC2からのガス経路(L2)を介して流量100sccmの乾燥窒素ガスのみをセンサ部に供給した。なお、以下では、一連の測定サイクルにおいて、上記試料ガスを供給する期間を「サンプリング期間」とも称し、上記乾燥窒素ガスのみを供給する期間を「パージ期間」とも称する。
【0044】
センサ部において、センサチップ(MSSチップ)に供給されたガス中の成分に基づいて引き起こされた表面応力の変化は、MSS(センサ素子)からのシグナルとして記録計(データロガー、データレコーダーとも称される。)によって記録され、さらに分析装置(パーソナルコンピュータ等)によって分析される。もちろん、さらに装置外部の機器等との間で情報や指令等の交換を行うためのインターフェースや通信機器も本実施例の装置に含まれ得るが、図示は省略した。
【0045】
このような実験装置を用いて、以下の測定を行った。
【0046】
<測定1:各種ガスに対する応答特性の測定>
測定1では、試料ガスとして、水、エタノール、アセトン、トルエン及びn-ヘキサンの5種類の溶媒の蒸気を使用した。キャリアガス及びパージガスとしては乾燥窒素ガスを用いた。各試料ガスの測定においては、先ずパージガスを30秒間流し、次に試料ガスを60秒間流し、その後、再度パージガスを90秒間流す、という測定シーケンスを設定し、これを1サイクルとして複数回の測定サイクルを繰り返した。また、水以外の4種類の溶媒は、測定にあたり、各溶媒に対して20%(m/v)のモレキュラーシーブ(3A、ナカライテスク社製)による脱水処理(静置法、24時間以上)を行った。
【0047】
なお、測定1で使用したMSSは、センサチップ上への塗布液の滴下数が500ショットの条件で作製した感応膜を有するものであった。また、MSSは、25℃に設定したインキュベータに収容して測定を行った。後述する測定2及び測定3についても同様である。
【0048】
結果を
図4(a)~
図4(e)に示す。なお、
図4(a)~
図4(e)には、上述した複数回の測定サイクルのうちの代表的な1サイクルにおける、MSSからのシグナル(単位はmV)の時間変化(単位は秒)を示した。
【0049】
図4(a)に示されるように、本実施例で作製したMSSは、パージ期間の終了後、水蒸気を含む試料ガスが供給されると(つまり、サンプリング期間の開始直後に)直ちに約40mVのシグナルを示し、その後シグナルは漸減するものの、サンプリング期間全体に渡って約35mV~40mVの間のシグナルを維持していた。加えて、サンプリング期間の終了後、供給されるガスが再びパージガスに切り替わると速やかにシグナルはベースライン(最初のパージ期間でのシグナルを基準としたライン)に復帰した。このように、
図4(a)に示されるシグナル波形から、本実施例で作製したMSSの感応膜に対する、試料ガスに含まれる水蒸気の吸着及び脱着の速度が速いこと、また、当該感応膜に水蒸気が吸着することによって引き起こされる表面応力の変化が高感度に検出されていることが読み取れる。
【0050】
これに対して、
図4(b)~
図4(e)に示されるように、エタノール、アセトン、トルエン及びn-ヘキサンの蒸気を含む試料ガスを供給した場合には、いずれも、パージ期間からサンプリング期間に切り替わったタイミングで、ベースラインからわずかに(約1mV程度)シグナルの増加が見られた程度であった。
【0051】
これらの結果から、本実施例で作製したMSSは、水蒸気に対して極めて高い検出感度と選択性を示すことが確認された。なお、従来提案されているDNAを用いた分子認識手法においては、DNAの二本鎖構造の塩基対間に対象の分子がインターカレートすることを主たる検出原理とするものがあるが、本発明が適用されるナノメカニカルセンサにおいては、仮にそのようなインターカレーションが生じたとしても、当該センサが検知する物理的パラメータの変化には影響を与えないと考えられることから、本実施例で作製したMSSによって検知された表面応力の変化は、専ら感応膜材料であるDNAに対する水分子の物理的な吸着に起因するものであると取り扱ってよいと言える。
【0052】
〔感応膜の安定性の評価〕
図5は、測定1に用いたMSSについて、センサチップの作製日を0日目とした経過日数と、水蒸気を含む試料ガスに対するMSSのシグナル強度の関係をプロットしたグラフを示す図である。ここで、MSSのシグナル強度とは、サンプリング期間において得られたMSSからのシグナルの波形を基に抽出される、MSSの応答特性を示す特徴値を意味する。具体的には、後述する
図12(b)及び
図13(b)に関する説明を参照されたい。
【0053】
図5に示されるように、本実施例で作製したMSSは、センサチップの作製から150日以上経過しても、作製当日(0日目)と同様の性能を維持しており、感応膜の安定性に優れていることが確認された。なお、
図5におけるプロットの数は6つである(つまり、水蒸気を含む試料ガスを用いた測定を行った回数は計6回である)が、これらの、水蒸気を含む試料ガスを用いた測定を行っていない間、センサチップは、大気中に(約25℃の環境下で)保管されていたか、または、別の実験系を用いた測定に供されていた。このことから、本実施例で作製したMSSは、センサチップの作製から長時間経過しても、水蒸気を含む試料ガスを用いた測定に繰り返し供することができる程度に感応膜の安定性を有しており、さらに、大気中で保管されていても測定性能に影響を及ぼすような劣化を生じることなく、かつ複数回の測定に使用できる程度にセンサチップの耐久性にも優れていると言える。
【0054】
<測定2:各種溶媒中の水に対する応答特性の測定>
測定2では、THF、アセトニトリル及びアセトン中に一定量の水を添加した混合溶媒を調製し、これを試料溶媒として用いて調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定を行った。ここで、THFは、凍結脱気処理により予め十分に脱水した状態のものを使用した。また、各試料溶媒の調製にあたっては、予め各溶媒に対して20%(m/v)のモレキュラーシーブ(3A、ナカライテスク社製)による脱水処理(静置法、24時間以上)を行った上で、所定量の水を添加した。各試料ガスの測定においては、先ずパージガスを30秒間流し、次に試料ガスを30秒間流し、その後、再度パージガスを150秒間流す、という測定シーケンスを設定し、これを1サイクルとして複数回の測定サイクルを繰り返した。
【0055】
結果を
図6~
図8に示す。
図6は、THF中に一定量(0ppm~1000ppm)の水を添加した混合溶媒を試料溶媒として用いて調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図であり、
図6(a)は、MSSからのシグナルの時間変化を示す図、
図6(b)は、各試料溶媒中の水の濃度(weight ppm)に対するMSSからのシグナルの最大値をプロットしたグラフを示す図である。
図7及び
図8は、それぞれ、
図6でのTHFがアセトニトリル及びアセトンである点以外は、
図6と同じ条件で作成された図である。
なお、
図6(a)、
図7(a)及び
図8(a)には、上述した複数回の測定サイクルのうちの代表的な1サイクルにおける、MSSからのシグナル(単位はmV)の時間変化(単位は秒)を示した。
【0056】
図6に示されるように、本実施例で作製したMSSは、THF中に含まれる水の量が多いほど、サンプリング期間中に得られるシグナルの最大値が大きく(
図6(a))、当該最大値は、溶媒中の水の濃度(THFと水の混合溶媒の蒸気に含まれる水蒸気の量)とほぼ線形関係にあることが確認された(
図6(b))。
また、これと同様の傾向は、アセトニトリルと水の混合溶媒を用いた場合(
図7(a)及び
図7(b))、及び、アセトンと水の混合溶媒を用いた場合(
図8(a)及び
図8(b))にも確認された。
【0057】
なお、
図6(a)、
図7(a)及び
図8(a)に示す結果からは、測定2では、サンプリング期間から再びパージ期間に切り替わった後、一定時間が経過しても、MSSからのシグナルがベースラインに復帰しておらず、一見すると、感応膜に吸着した水蒸気(水分子)がパージガス(乾燥窒素ガス)によって十分に脱着していないように思われる。しかし、測定1の結果を示した
図4との比較においては、シグナルの値を示す縦軸のスケールが約10分の1以下であるため、シグナルが大きいように見えるものでも実際には比較的小さいシグナルであり得る点に留意すべきである。加えて、測定2では、測定1とは異なり、一定量の水を含む混合溶媒の蒸気中の水分子に対するセンサ応答を測定しているという実験の性質上、感応膜中に存在する分子またはイオンなどと水分子が水和した状態である可能性があり、このことが、MSSからのシグナルをベースラインに復帰させるのにより長いパージ期間を必要としていると理解することもできる。
【0058】
ここで、
図9(a)には、
図6(b)、
図7(b)及び
図8(b)に示すグラフを1つにまとめた図を示した。また、
図9(b)には、
図9(a)の横軸である水の濃度をmolar ppmで表した場合の、MSSのシグナルの最大値との関係を示した。
【0059】
図9(a)及び
図9(b)に示されるグラフからは、測定2で得られた結果が、ラウールの法則(「混合溶液の各成分の蒸気圧はそれぞれの純液体の蒸気圧と混合溶液中のモル分率の積で表される」という法則)と首尾よく一致していることが分かる。但し、アセトン(ケトン)に関しては、ラウールの法則が成り立つ理想溶液(完全溶液)との乖離があり、水の濃度が高くなるほど、すべての成分の活量係数を1とみなすことが難しい実在溶液であるため、THFやアセトニトリルの結果とのずれが生じているものと思われる。
【0060】
〔感応膜の安定性の評価〕
図10(a)は、測定2に用いたMSSについて、センサチップの作製直後の光学顕微鏡写真であり、
図10(b)~
図10(d)は、それぞれ、THFと水の混合溶媒を用いた測定、アセトニトリルと水の混合溶媒を用いた測定、及びアセトンと水の混合溶媒を用いた測定に供した後の光学顕微鏡写真を示す図である。
【0061】
図10(a)~
図10(d)に示されるように、本実施例で作製したMSSは、各種の測定に供した後でも、センサチップは作製直後の外観をほぼそのまま維持しており、感応膜についても、一連の測定を行った後も測定前と同様の状態を維持しており、円形部分(本体)から感応膜が脱離するなどの欠陥は見られなかった。
【0062】
さらに、
図11には、本実施例で作製したMSSについて、レーザー顕微鏡を用いて、MSSの円形部分(本体)とその両側の固定領域(細幅部)を含む範囲を走査して得られた、感応膜を含む構造体の高さプロファイルを示した。なお、測定に使用したレーザー顕微鏡は、3D Surface Profiler(VK-X1000, KEYENCE Corporation)であった。
【0063】
図11(a)~
図11(c)は、それぞれ、センサチップの作製直後、測定1の水(水蒸気)に対する応答特性を測定した後、及び測定2のTHF(THFに対する水の添加量が0ppmの場合)の蒸気に対する応答特性を測定した後の、感応膜の高さプロファイルの測定結果である。これらの測定結果を比較すると、本実施例で作製したMSSは、各種の測定に供した後でも、感応膜の高さプロファイルの変化はほとんど見られず、感応膜を含むセンサチップの安定性に優れていることが分かる。
【0064】
<測定3:水分計としての性能に関する測定>
測定3では、測定2の結果を基に、水分計としての性能を評価することを意図して、より幅広い水分量を有する混合溶媒を試料溶媒として用いて調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定を行った。なお、使用した溶媒はTHFである。各試料ガスの測定においては、先ずパージガスを30秒間流し、次に試料ガスを300秒間流し、その後、再度パージガスを300秒間流す、という測定シーケンスを設定し、これを1サイクルとして複数回の測定サイクルを繰り返した。
【0065】
試料溶媒としては、以下の2セットを準備した。
(第一のセット)
水の添加量を0ppm、10ppm、20ppm、50ppm、100ppm及び200ppmとしたもの。
(第二のセット)
水の添加量を0ppm、200ppm、400ppm、600ppm、1000ppm、2000ppm、3000pm及び4000ppmとしたもの。
【0066】
ここで、上記第一のセット及び第二のセットの試料溶媒は、それぞれ独立に調製した。つまり、第一のセットに含まれる、水の添加量が200ppmである試料溶媒と、第二のセットに含まれる、水の添加量が200ppmである試料溶媒は、水の添加量は同一であるが、それぞれ別個に調製されたものである。また、第一のセット及び第二のセットの試料溶媒の調製にあたっては、凍結脱気処理により予め十分に脱水した状態のTHFに対して20%(m/v)のモレキュラーシーブ(3A、ナカライテスク社製)を用いてさらに脱水処理(静置法、24時間以上)を行った上で、所定量の水を添加した。
【0067】
結果を
図12及び
図13に示す。
図12は、第一のセットの試料溶媒を用いて調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図であり、
図12(a)は、MSSからのシグナルの時間変化を示す図、
図12(b)は、各試料溶媒中の水の濃度に対するMSSのシグナル強度をプロットしたグラフを示す図である。
図13は、第二のセットの試料溶媒を用いて調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図であり、
図13(a)は、MSSからのシグナルの時間変化を示す図、
図13(b)は、各試料溶媒中の水の濃度に対するMSSのシグナル強度をプロットしたグラフを示す図である。
なお、
図12(a)及び
図13(a)には、上述した複数回の測定サイクルのうちの代表的な1サイクルにおける、MSSからのシグナル(単位はmV)の時間変化(単位は秒)を示したが、最初のパージ期間については、サンプリング期間に切り替える前の10秒間のシグナル(ベースライン)を示すのみとした。
また、
図12(b)及び
図13(b)に関し、MSSのシグナル強度とは、サンプリング期間において得られたMSSからのシグナルの波形を基に抽出される、MSSの応答特性を示す特徴値を意味する。具体的には、例えば、
図12(a)に示すような波形を有するシグナルでは、サンプリング期間の後半部分においてシグナルがほぼ一定の値で推移した状態における当該値が特徴値として抽出される。以下では便宜的に当該値を飽和値とも称することとする。また、
図13(a)において「+2000ppm」、「+3000ppm」、「+4000ppm」で示されるような波形を有するシグナルでは、サンプリング期間の前半部分において見られるピークから読み取れる最大値が特徴値として抽出される。
【0068】
図12に示されるように、本実施例で作製したMSSは、THF中に含まれる水の量が0ppm~200ppmの範囲において、水の量が多いほど、シグナル強度(ここでの特徴値は飽和値でもあり、最大値でもある。)が大きく(
図12(a))、これらのシグナル強度は、溶媒中の水の濃度(THFと水の混合溶媒の蒸気に含まれる水蒸気の量)とほぼ線形関係にあることが確認された(
図12(b))。
【0069】
この結果は、本発明の感応膜を用いることで、従来のカールフィッシャー法による水分測定法では測定が困難であった200ppm以下の水分量の測定を高精度に行うことができることを示している。
【0070】
加えて、
図13に示されるように、本実施例で作製したMSSは、THF中に含まれる水の量が0ppm~4000ppmの範囲において、水の量が多いほど、サンプリング期間中に得られるシグナルが大きく(
図13(a))、それらのシグナル強度は、溶媒中の水の濃度(THFと水の混合溶媒の蒸気に含まれる水蒸気の量)と一定の関数関係にあることが確認された(
図13(b))。
【0071】
具体的には、水の量が0ppm~1000ppmの範囲では、0ppm~200ppmの範囲について実験した第一のセットと同様に、MSSからのシグナルは、サンプリング期間の開始直後に鋭い立ち上がりを見せた後に、飽和値に向かって増加する、もしくは飽和値とほぼ同程度の値で推移する挙動を示した。これに対して、水の量が1000ppmを上回る2000ppm~4000ppmの範囲では、MSSからのシグナルは、サンプリング期間の開始直後に鋭い立ち上がりを見せると共に最大値まで上昇した後、緩やかに漸減する挙動を示した。その結果、
図13(b)に示すグラフにおいて、水の量が1000ppmである場合のシグナル強度を一つの境目として見ると、0ppm~1000ppmの範囲と、1000ppm~4000ppmの範囲でのMSSからのシグナル強度の変化は、別々の関数関係として捉えることも可能である。
【0072】
これらの結果は、本発明の感応膜を用いることで、広範な水の含有量を有する試料に適用可能な水分計を作製することができることを示していることに加え、ある試料が一定の基準(例えば、水の含有量が1000ppm以下である、または1000ppm超である)を満たすかどうかを分析することが求められる場合には、予め当該基準となる値を含む範囲で水を含有する試料について予備測定を行っておき、センサからのシグナルの特徴を捉えることができれば、実際の試料について測定を行ったときのセンサからのシグナルの波形の特徴から、当該基準を満たすかどうかの判定を行うことも可能であることを示唆している。
【0073】
さらに、
図14に示されるように、
図12(b)及び
図13(b)に示すグラフを1つにまとめると、それぞれ独立に調製した2種類の試料溶液のセットを用いて得られた結果が、ほぼ同一の関数関係を示していることが確認された。このことは、本実施例で作製したMSSを用いて得られた結果が再現性に優れていることを意味しており、水分計としての用途においても、高精度な測定が可能であることを示している。
【0074】
<測定4:湿度計としての性能に関する測定>
測定4では、湿度計としての性能を評価することを意図して、相対湿度が10%~80%の範囲になるように調製した試料ガスに対するMSSの応答特性の測定を行った。具体的には、
図3を参照して説明した試料ガスの調製において、MFC1からのガス経路(L11)の流量を10sccm、20sccm、40sccm、60sccm及び80sccmの5通りに設定し、MFC2からのガス経路(L2)の流量を90sccm、80sccm、60sccm、40sccm及び20sccmに設定することで、合計流量を100sccmとした混合ガス中の水蒸気の割合が10%、20%、40%、60%及び80%である試料ガスを調製した。各試料ガスの測定においては、先ずパージガスを30秒間流し、次に試料ガスを60秒間流し、その後、再度パージガスを60秒間流す、という測定シーケンスを設定し、これを1サイクルとして複数回の測定サイクルを繰り返した。
【0075】
なお、測定4で使用したMSSは、センサチップ上への塗布液の滴下数が1000ショットの条件で作製した感応膜を有するものであった。また、MSSは、25℃に設定したインキュベータに収容して測定を行った。
【0076】
結果を
図15に示す。
図15は、相対湿度が10%、20%、40%、60%及び80%である試料ガスに対するMSSの応答特性の測定結果を示す図であり、
図15(a)は、MSSからのシグナルの時間変化を示す図、
図15(b)は、試料ガスの相対湿度に対する、試料ガスの供給後60秒後のMSSからのシグナルをプロットしたグラフを示す図、
図15(c)は、試料ガスの相対湿度に対する、試料ガスの供給後2秒後のMSSからのシグナルをプロットしたグラフを示す図である。
なお、
図15(a)には、上述した複数回の測定サイクルのうちの代表的な1サイクルにおける、MSSからのシグナル(単位はmV)の時間変化(単位は秒)を示したが、最初のパージ期間については、サンプリング期間に切り替える前の10秒間のシグナル(ベースライン)を示すのみとした。
【0077】
図15(a)に示されるように、本実施例で作製したMSSは、試料ガスの相対湿度が10%~80%の範囲において、相対湿度が高いほど、サンプリング期間中に得られるシグナルの最大値及び飽和値が大きかった(
図15(a))。なお、ここでいう最大値及び飽和値の意味は、上述した
図12(b)及び
図13(b)と同様である。
【0078】
ここで、試料ガスの相対湿度が10%~40%の範囲では、MSSからのシグナルは、サンプリング期間の開始直後に鋭い立ち上がりを見せた後に、飽和値に向かって増加する、もしくは飽和値とほぼ同程度の値で推移する挙動を示した。これに対して、試料ガスの相対湿度が60%~80%の範囲では、MSSからのシグナルは、サンプリング期間の開始直後に鋭い立ち上がりを見せると共に最大値まで上昇した。その後、相対湿度が60%の試料ガスでは、MSSからのシグナルは、緩やかに漸減する挙動を示し、相対湿度が80%の試料ガスでは、MSSからのシグナルは、ほぼ一定の値を示した。
【0079】
ここで、サンプリング期間の終期である、試料ガスの供給後60秒後のMSSからのシグナルに着目し、これを試料ガスの相対湿度に対してプロットした結果、
図15(b)に示されるように、一定の関数関係を有することが分かった。また、サンプリング期間の初期である、試料ガスの供給後2秒後のMSSからのシグナルに着目し、これを試料ガスの相対湿度に対してプロットした結果、
図15(c)に示されるように、ほぼ線形関係にあることが分かった。
【0080】
これらの結果は、本発明の感応膜を用いることで、実用上想定され得る幅広い湿度範囲に適用可能な湿度計を作製することができることを示している。
【0081】
<測定5:感応膜材料として一本鎖DNAを用いた測定>
測定5では、感応膜材料としてのDNAに関し、二本鎖DNAを用いた場合の測定と、一本鎖DNAを用いた場合の測定とを行い、それらの結果を比較した。ここで、二本鎖DNAとしては、上記測定1~4と同様に、東京化成工業より入手したデオキシリボ核酸ナトリウム(サケ精巣由来)を用い、一本鎖DNAとしては、長さ21merのオリゴヌクレオチド(塩基配列:5’-GAC TAC CTC CTC CAC AGA CTC-3’)を用いた。各々の感応膜材料を用いたMSSの作製法(MSSチップ上へのDNA溶液の塗布条件)は、上記測定1~測定4で用いたMSSと同様であった。また、実験装置の構成も、
図3に模式的に示したのと同様の構成とし、上記測定1で使用した5種類の溶媒(水、エタノール、アセトン、トルエン及びn-ヘキサン)の蒸気に対する応答特性を測定した。
【0082】
図16は、水蒸気を含む試料ガスに対するMSSのシグナル強度を基準とし、他の溶媒を用いて測定されたMSSのシグナル強度(Signal intensity ratio)を、一本鎖DNAの場合と二本鎖DNAの場合とについて比較したグラフを示す図である。なお、ここでいうシグナル強度の意味は、上述した
図12(b)及び
図13(b)と同様である。
【0083】
図16に示されるように、本測定で使用したMSSにおいては、感応膜材料が一本鎖DNAであっても二本鎖DNAであっても、エタノール、アセトン、n-ヘキサンまたはトルエンの蒸気を含む試料ガスに対するMSSのシグナル強度は、水蒸気を含む試料ガスを用いて測定された値に対して0.1倍未満であり、極めて小さいことが分かる。このように、本測定で得られた結果からも、本発明の感応膜を備えるMSSが、水蒸気に対して極めて高い検出感度と選択性を有することが確認された。
本発明によれば、生体由来のDNAや化学的に合成されたDNAを感応膜材料として用いることで、水蒸気に対する極めて高い検出感度と選択性を示す水蒸気検出センサ用感応膜が与えられる。当該感応膜を有する水蒸気検出センサを用いることで、どこでも誰でも簡易に湿度及び/または水分の測定が可能となる。水蒸気検出センサとして表面応力センサ、特に、膜型表面応力センサ(MSS)を用いることで、極めて速い応答速度で湿度及び/または水分の測定が可能である。本発明によれば、従来のように夾雑ガスを排除するフィルター等の部材を装置構成に追加することは不要であるため、現場でリアルタイムに迅速かつ高精度な測定が可能な湿度計として、高い経済的効果が期待できる。また、実験室でのカールフィッシャー法による水分測定法に代わる装置として、現場での簡易測定が可能な水分計としての経済的効果も高いと考えられる。