(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043640
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/00 20230101AFI20240326BHJP
C02F 1/50 20230101ALI20240326BHJP
G05B 23/02 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
C02F1/00 B
C02F1/00 V
C02F1/50 520C
C02F1/50 531P
C02F1/50 560Z
C02F1/50 550H
C02F1/50 550L
G05B23/02 R
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148735
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂下 寛悟
(72)【発明者】
【氏名】太田 直輝
【テーマコード(参考)】
3C223
【Fターム(参考)】
3C223AA06
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF12
3C223FF24
3C223FF42
3C223GG01
3C223HH03
3C223HH08
(57)【要約】
【課題】上水処理が施された水に含まれる総トリハロメタンが水質基準以下であるか否かを迅速に判別することができる情報処理装置を提供する。
【解決手段】情報処理装置10はCPU11を備え、上水処理を施す上水処理システム20は採水部26を備え、CPU11は、採水部26から採水された水の水質情報として、総トリハロメタン濃度、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、これらの濃度を測定する際の水温、及び水を静置した時間(静置時間)に基づいて重回帰分析を実行し、総トリハロメタン濃度を目的変数とし且つ溶解性全有機炭素濃度に対する臭化物イオン濃度、水温及び静置時間を説明変数とする総トリハロメタン濃度の予測式を導出し、新たに採水された水の水質情報として、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、これらの濃度を測定する際の水温、及び処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間及び上記予測式に基づいて総トリハロメタン濃度の予測値を算出する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上水処理が施された処理済水に含まれる総トリハロメタン濃度の予測値を予測する情報処理装置であって、
一の水から予め取得された総トリハロメタン濃度、並びに、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び前記処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間に相当する時間に基づいて関係式を導出する導出手段と、
前記上水処理が施される対象の水の臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出手段と、を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記関係式は、目的変数として前記総トリハロメタン濃度を設定するとともに、説明変数として前記溶解性全有機炭素濃度に対する前記臭化物イオン濃度、前記水温及び前記供給時間に相当する時間を設定していることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記関係式は、前記目的変数の対数値及び各前記説明変数の対数値に基づく重回帰分析が実行されることによって導出されていることを特徴とする請求項2記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記一の水及び前記上水処理が施される対象の水は、前記上水処理を施す上水処理システムに供給された水の濁質を凝集させて沈殿除去する手段を通過した水であることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記関係式は、前記上水処理が施される前の水の臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び前記供給時間に相当する時間、並びに、前記上水処理が施された処理済水の総トリハロメタンの濃度に基づいて導出されていることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記上水処理が施される対象の水は、消毒剤を添加する前の水であることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項7】
上水処理が施された処理済水に含まれる総トリハロメタン濃度の予測値を予測する情報処理方法において、
一の水から予め取得された総トリハロメタン濃度、並びに、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び前記処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間に相当する時間に基づいて関係式を導出する導出ステップと、
前記上水処理が施される対象の水の臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出ステップと、を有することを特徴とする情報処理方法。
【請求項8】
上水処理が施された処理済水に含まれる総トリハロメタン濃度の予測値を予測する情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記情報処理方法は、
一の水から予め取得された総トリハロメタン濃度、並びに、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び前記処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間に相当する時間に基づいて関係式を導出する導出ステップと、
前記上水処理が施される対象の水の臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出ステップと、を有することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上水処理に用いられる情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、河川水やダム水又は湖沼水等の原水(以下、単に「原水」という。)を飲料水にするための上水処理が知られ、上水処理は塩素による消毒工程を実行する(例えば、特許文献1参照。)。消毒工程において、消毒副生成物であるクロロホルム、ジブロモクロロメタン、ブロモジクロロメタン及びトリブロモメタン(ブロモホルム)(以下、これらを総称して「総トリハロメタン」という。)が生成され、いずれも発癌性の恐れがある物質として知られている。総トリハロメタンを水質基準値以下に制御するために、例えば、イオン交換樹脂によって有機物を原水から除去する樹脂処理、凝集剤を用いて原水に含まれる濁質を除去する凝集沈殿処理、次亜塩素酸ナトリウムを注入して原水を消毒する中塩素処理及び砂ろ過を用いて原水をろ過する砂ろ過処理が順次実行される上水処理において、次亜塩素酸ナトリウム及び硫酸アンモニウムを添加する結合塩素処理がさらに実行される。
【0003】
ところで、上水処理が施された水に含まれる総トリハロメタンが水質基準以下であるか否かは、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)等の高度な分析機器による測定結果に基づいて判別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、総トリハロメタンの測定には、予め分析機器の起動に時間を要することや分析機器による測定自体に一定の時間を要する。また、上水処理を実行する浄水場に分析機器が設置されていないため、他の浄水場や外部の分析機関に水質分析を依頼している場合があり、この場合、水質分析の対象である水を他の浄水場や外部の分析機関に輸送する時間をさらに要する。したがって、上水処理が施された水に含まれる総トリハロメタンが水質基準以下であるか否かを迅速に判別することができないという問題がある。
【0006】
本発明の目的は、上水処理が施された水に含まれる総トリハロメタンが水質基準以下であるか否かを迅速に判別することができる情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の情報処理装置は、上水処理が施された処理済水に含まれる総トリハロメタン濃度の予測値を予測する情報処理装置であって、一の水から予め取得された総トリハロメタン濃度、並びに、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び前記処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間に相当する時間に基づいて関係式を導出する導出手段と、前記上水処理が施される対象の水の臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の情報処理方法は、上水処理が施された処理済水に含まれる総トリハロメタン濃度の予測値を予測する情報処理方法において、一の水から予め取得された総トリハロメタン濃度、並びに、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び前記処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間に相当する時間に基づいて関係式を導出する導出ステップと、前記上水処理が施される対象の水の臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出ステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のプログラムは、上水処理が施された処理済水に含まれる総トリハロメタン濃度の予測値を予測する情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記情報処理方法は、一の水から予め取得された総トリハロメタン濃度、並びに、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び前記処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間に相当する時間に基づいて関係式を導出する導出ステップと、前記上水処理が施される対象の水の臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、上水処理が施された水に含まれる総トリハロメタンが水質基準以下であるか否かを迅速に判別することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施の形態に係る情報処理装置の構成を概略的に示すブロック図である。
【
図2】
図1におけるデータ入力部に入力される水質に関する情報を取得するために用いられる上水処理システムを概略的に示すブロック図である。
【
図3】
図2における採水部から採取された水の水質に基づいて
図1の情報処理装置が総トリハロメタン濃度を予測するための予測式を導出する予測式導出処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】
図1におけるCPUが総トリハロメタン濃度を予測する予測処理の手順を示すフローチャートである。
【
図5】
図3の処理によって導出された予測式に基づく総トリハロメタン予測濃度及び
図2における採水部から採水した水の実測された総トリハロメタン濃度を比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る情報処理装置10の構成を概略的に示すブロック図である。
【0014】
図1の情報処理装置10は、CPU11(導出手段、算出手段)、RAM12、ROM13、SSD14、及びデータ入力部15を備え、これらは内部バス16を介して互いに接続されている。CPU11は、ROM13又はSSD14に格納されたプログラムをCPU11のワークメモリであるRAM12に展開して実行する。また、水質に関する情報はデータ入力部15から入力されてROM13又はSSD14に格納される。なお、本実施の形態において、データ入力部15から入力された水質に関する情報はSSD14に格納されることを前提とする。CPU11は、SSD14に格納された水質に関する情報を用いて重回帰分析を実行し、目的変数及び説明変数の関係式を導出する。また、CPU11は、導出した関係式に基づいて上水処理が施された処理済水に含まれる総トリハロメタン濃度の予測値を算出する。
【0015】
図2は、
図1におけるデータ入力部15に入力される水質に関する情報を取得するために用いられる上水処理システム20を概略的に示すブロック図である。
【0016】
図2の上水処理システム20は、原水から有機物を除去するイオン交換樹脂を有する樹脂処理槽21、ポリ塩化アルミニウム等の凝集剤を用いて原水に含まれる濁質を凝集して沈殿除去する凝集沈殿槽22、次亜塩素酸ナトリウム(塩素剤)を注入して原水を消毒する中塩素注入部23、ろ材に砂を用いて原水をろ過する砂ろ過槽24、並びに、次亜塩素酸ナトリウム及び硫酸アンモニウムを添加する結合塩素処理部25を備え、樹脂処理槽21に流入した原水は、凝集沈殿槽22、中塩素注入部(消毒剤注入部)23、砂ろ過槽24及び結合塩素処理部25を順次通過する。総トリハロメタンは次亜塩素酸ナトリウムに由来する遊離残留塩素と有機物が反応することにより生成するが、中塩素注入部23は樹脂処理槽21及び凝集沈殿槽22の後段に設置し、原水に含まれる有機物を除去した後に次亜塩素酸ナトリウムを注入して総トリハロメタンの生成を抑制する。結合塩素処理部25は、遊離残留塩素を硫酸アンモニウムと反応させて反応力の弱い結合残留塩素(クロラミン)を形成させ、総トリハロメタンの形成を抑制する。本発明において、上水処理とは、消毒剤(塩素剤)による消毒工程を含む処理である。上水処理が施された水(以下、「処理済水」という。)は、通常、家庭や公共施設等の蛇口である給水末端を使用するユーザに供給されるまで24~72時間要する。また、上水処理システム20は採水部26を凝集沈殿槽22及び中塩素注入部23の間に有し、凝集沈殿槽22を通過して中塩素注入部23に到達する前の水は採水部26から採取される。
【0017】
図3は、
図2における採水部26から採取された水の水質に基づいて
図1の情報処理装置10が総トリハロメタン濃度を予測するための予測式を導出する予測式導出処理の手順を示すフローチャートである。
【0018】
まず、採水部26から水を採取し、後述する溶解性全有機炭素(DOC)及び臭化物イオンの濃度を測定するための水(A)と、次亜塩素酸ナトリウムを添加して静置するための水(B)に分ける。次亜塩素酸ナトリウムを添加して静置するための水(B)は、例えば、孔径1μmのガラス繊維製フィルターを用いてろ過される。ここで実施するろ過は、孔径1μmのろ紙に捕捉される不溶解性の懸濁物質を除去することができる程度のろ過であればよい。次いで、次亜塩素酸ナトリウム3.6mg/L~15.3mg/L(Cl2として1.4mg/L~6.0mg/L)がろ過された水に添加される。続いて、次亜塩素酸ナトリウムが添加された水は25℃、30℃又は35℃の雰囲気において24時間、48時間又は72時間静置される。次亜塩素酸ナトリウムが添加された水を静置する時間は処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間に相当する。このとき、水を静置する雰囲気の温度は25℃、30℃及び35℃のいずれの温度を選択してもよく、また、水を静置する時間は24時間、48時間及び72時間のいずれを選択してもよいが、精度の良い予測式を導出するためには選択する温度又は時間が偏らないように選択するのがよい。また、24時間、48時間又は72時間静置された水の温度は各時間の経過後、水を静置した雰囲気の温度に一致し、処理済水がユーザに供給されるときの水温に相当するような温度を設定することもできる。
【0019】
その後、静置された水及び採水部26から採水された水(A)の水質が測定される。具体的に、静置された水の総トリハロメタン、並びに、採水部26から採水された水(A)の溶解性全有機炭素(DOC)及び臭化物イオンのそれぞれの濃度が測定される(S31、水質情報取得ステップ)。溶解性全有機炭素(DOC)は、水中に存在し水に溶解する有機物の総量を、その有機物中に含まれる炭素量で示すものである。総トリハロメタン濃度はガスクロマトグラフ質量分析装置によって測定され、溶解性全有機炭素濃度は全有機炭素計(TOC計)によって測定され、臭化物イオン濃度はイオンクロマトグラフやイオン電極法に基づくポータブル水質計によって測定され、いずれの濃度も一般的な市販の測定機器により測定することができる。
【0020】
CPU11は、採水部26から採取された水毎に測定された総トリハロメタン濃度、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水を一定時間静置した後の水温、及び水を静置した時間(静置時間)からなるセットデータを複数有する基本データD1(表1)を作成する(S32)。基本データD1に含めるデータセットの数は特に制限はないが、精度の高い予測式を導出するためには、少なくとも50以上必要であり、本実施の形態では99を使用した。基本データD1はSSD14に格納されている(
図1)。
【0021】
【0022】
CPU11は総トリハロメタン濃度を予測する予測式を導出するために、測定された総トリハロメタン濃度、溶解性全有機炭素濃度に対する臭化物イオン濃度、水温及び静置した時間(静置時間)の各々の常用対数値を算出して基本データD2(表2)を作成し、基本データD2をSSD14に格納する(S33)。
【0023】
【0024】
CPU11は、総トリハロメタン濃度の常用対数値、溶解性全有機炭素濃度に対する臭化物イオン濃度の常用対数値、水温の常用対数値及び静置時間の常用対数値を用いて重回帰分析を実行する(S34)。重回帰分析は、ある結果を示す数値(目的変数)をその要因となる複数の数値(説明変数)を用いて表す回帰式を算出する統計手法である。続いて、CPU11は、総トリハロメタン濃度の常用対数値、溶解性全有機炭素濃度に対する臭化物イオン濃度の常用対数値、水温の常用対数値及び静置時間の常用対数値によって構成される関係式を真数によって構成される関係式に変換する。これにより、総トリハロメタン濃度を目的変数に設定し且つ溶解性全有機炭素濃度に対する臭化物イオン濃度、水温及び静置時間を説明変数に設定する総トリハロメタン濃度の予測式(式1)を導出して(S35、導出ステップ)本処理を終了する。
【0025】
総トリハロメタン濃度[mg/L]={(臭化物イオン濃度[mg/L]/溶解性全有機炭素濃度[mg/L])0.554}×水温[℃]1.68×静置時間[h]0.358×10-3.90 ・・・(式1)
【0026】
図4は、
図1におけるCPU11が総トリハロメタン濃度を予測する予測処理(情報処理方法)の手順を示すフローチャートである。
【0027】
図4において、凝集沈殿槽22を通過した水(上水処理が施される対象の水)が採水部26から採水され、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度及び水温が測定される。臭化物イオン濃度はイオンクロマトグラフやイオン電極法に基づくポータブル水質計によって測定され、溶解性全有機炭素濃度は全有機炭素計によって測定され、水温は温度計によって測定され、いずれの濃度も一般的な市販の測定機器により測定することができる。溶解性全有機炭素濃度は他の水質、例えば、特定の溶解性有機物の濃度との相関関係が認められる場合がある。この場合、溶解性全有機炭素濃度は紫外可視分光光度計等を用いて測定された特定の溶解性有機物の濃度を用い、その相関関係に基づいて算出してもよい。
【0028】
また、上水処理が施された処理済水がユーザに供給されるまで24~72時間要する。測定された臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度及び水温の水質に関する情報はデータ入力部15から入力されて、例えば、SSD14に格納される(S41)。CPU11は、SSD14に格納された臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温、及び処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間、並びに、上記式1に基づいて総トリハロメタン濃度の予測値を算出し(S42、算出ステップ)、本処理は終了する。なお、式1における静置時間には処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間が用いられる。
【0029】
図4の予測処理により、CPU11が算出した総トリハロメタンの濃度が妥当か否かを検証するために、その検証を実施する検証実施者は、採水部26から採水された水について臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度及び水温を取得し(S41)、次いで、孔径1μmのガラス繊維製フィルターを用いてろ過処理を行う。その後、次亜塩素酸ナトリウム3.6mg/L~15.3mg/L(Cl
2として1.4mg/L~6.0mg/L)を注入し、25℃、30℃又は35℃の雰囲気において24時間、48時間又は72時間静置した水の総トリハロメタン濃度をガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて測定した。次いで、検証実施者が測定した総トリハロメタン濃度の実測値と、S41で取得した水質に関する情報及び処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間及び式1に基づいて取得される総トリハロメタン予測濃度(予測値)とを比較したところ、それぞれに高い相関性(決定係数R
2=0.99)があることが確認された(
図5)。総トリハロメタンの濃度に影響を与える因子としては、処理対象水への次亜塩素酸ナトリウム注入率、処理対象水のpH等も考えられるが、本実施の形態では、溶解性全有機炭素濃度に対する臭化物イオン濃度、水温及び供給時間に相当する時間の組合せを選択し、これらをそれぞれ説明変数として設定し重回帰分析を行うことにより、高い相関性で精度よく総トリハロメタンの濃度を予測することができた。したがって、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、水温及び静置時間との関係に基づいて正確に総トリハロメタン濃度を予測できることがわかった。
【0030】
図3の予測式導出処理によれば、採水部26から採水された水に基づく水質情報として、総トリハロメタン濃度、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、これらの濃度を測定する際の水温、及び水を静置した時間(静置時間)が取得され(S31)、これらに基づいて重回帰分析が実行される(S34)。これにより、総トリハロメタン濃度を目的変数とし且つ溶解性全有機炭素濃度に対する臭化物イオン濃度、水温及び静置時間を説明変数とする総トリハロメタン濃度の予測式(式1)が導出される(S35)。また、
図4の予測処理によれば、採水部26から採水された水に基づく水質情報として、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、これらの濃度を測定する際の水温、及び処理済水がユーザに供給されるまでの供給時間が取得され(S41)、これらの情報及びS35で導出された予測式に基づいて総トリハロメタン濃度の予測値が算出される(S42)。
【0031】
したがって、定期的に総トリハロメタン濃度、臭化物イオン濃度、溶解性全有機炭素濃度、これらの濃度を測定する際の水温、及び水を静置した時間(静置時間)の情報を取得すれば予測式が導出されるので、上水処理が施された水に含まれる総トリハロメタンが水質基準以下であるか否かを迅速に且つ精度よく判別することができる。そのため、総トリハロメタン濃度が台風等の自然現象によって急速に上昇して水質基準を超過した場合であっても、総トリハロメタン濃度が水質基準を超過したことが迅速に判別され、直ちに総トリハロメタン濃度を低下させるために凝集剤を注入する措置を講ずることができる。その結果、水質の変化に柔軟に対応でき、より効率的な上水処理の実施が可能となる。また、総トリハロメタン濃度の予測式(式1)を構成する各パラメータの挙動に応じた総トリハロメタン濃度の挙動が予め把握されるので、総トリハロメタン濃度が上昇する状況を事前に学習し、当該状況を察知した際に実施すべき必要な対策を準備することができる。
【0032】
本発明は、上述の実施の形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、該システム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能であり、該プログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体も本発明を構成する。また、本発明は、1以上の機能を実現する回路によっても実現可能である。
【0033】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0034】
11 CPU
14 SSD
15 データ入力部
20 上水処理システム
26 採水部