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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043641
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】作業車両
(51)【国際特許分類】
   F16H 59/06 20060101AFI20240326BHJP
   F16H 59/44 20060101ALI20240326BHJP
   F16H 59/70 20060101ALI20240326BHJP
   F16H 61/02 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F16H59/06
F16H59/44
F16H59/70
F16H61/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148736
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100092794
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 正道
(72)【発明者】
【氏名】楫野 豊
(72)【発明者】
【氏名】山之内 亮介
(72)【発明者】
【氏名】石丸 秀司
【テーマコード(参考)】
3J552
【Fターム(参考)】
3J552MA10
3J552NA07
3J552NB01
3J552PA19
3J552PA37
3J552QA13C
3J552QA26C
3J552QA30C
3J552RA02
3J552RA12
3J552RB06
3J552RB07
3J552SB02
3J552SB12
3J552TB13
3J552VA32W
3J552VA37W
3J552VA74W
3J552VB01W
3J552VC01W
3J552VD02W
3J552VD11W
(57)【要約】
【課題】変速操作と走行制御の状態を把握しやすくして安全に走行できる作業車両を提供する。
【解決手段】
変速操作具18,23の操作に基づいて無段変速する無段変速装置41を備えた作業車両において、変速操作具18,23の操作位置を検出し制御装置100に記憶させるメモリスイッチ70を設け、制御装置100には記憶した操作位置よりも速い変速領域に対応する高速側への変速を無効にする高速規制モードSを有し、高速規制モードS時に記憶した操作位置よりも遅い変速領域においては無段変速装置41を操作位置に対応する変速位置に制御するよう構成する。
【選択図】 図6


【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速操作具(18,23)の操作に基づいて無段変速する無段変速装置(41)を備えた作業車両において、変速操作具(18,23)の操作位置を検出し制御装置(100)に記憶させるメモリスイッチ(70)を設け、制御装置(100)には記憶した操作位置よりも速い変速領域に対応する高速側への変速を無効にする高速規制モード(S)を有し、高速規制モード(S)時に記憶した操作位置よりも遅い変速領域においては無段変速装置(41)を操作位置に対応する変速位置に制御するよう構成したことを特徴とする作業車両。
【請求項2】
高速規制モード(S)設定時に、再度メモリスイッチ(70)を操作すると、制御装置(100)はこの時の変速操作具(18,23)の各検出値を入力し記憶を更新するよう構成し、変速操作具(18,23)が最初に設定した検出位置よりも高速位置にあるときは、入力を規制し記憶の更新を受け付けないよう構成した請求項1に記載の作業車両。
【請求項3】
高速規制モード(S)の解除は、解除スイッチ(71)操作によって行う構成とし、この高速規制モード(S)解除時に変速操作具(18,23)の変速位置が高速規制モード(S)で設定記憶された速度よりも高速領域にある場合には、変速操作具(18,23)による変速位置が高速規制モード(S)設定時の変速に戻るまで高速規制を継続するよう構成した請求項1又は請求項2に記載の作業車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用トラクタ等の作業車両に関する。
【背景技術】
【0002】
無段変速装置と、無段変速装置の変速位置を制御するアクチュエータを備えた作業車両において、変速位置を記憶すると、その後別の変速位置に操作されていても、変速位置再現スイッチの操作によりアクチュエータが自動で記憶した位置を再現する作業車両が公知である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-298099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このように構成すると、変速位置の再現が困難な無段変速装置であっても容易に変速位置を再現できて便利であるが、変速操作レバーと実際の変速位置とにズレが生じることになり、運転者が混乱することがあった。
【0005】
本発明は、変速操作と走行制御の状態を把握しやすくして安全に走行できる作業車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決し目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、変速操作具18,23の操作に基づいて無段変速する無段変速装置41を備えた作業車両において、変速操作具18,23の操作位置を検出し制御装置100に記憶させるメモリスイッチ70を設け、制御装置100には記憶した操作位置よりも速い変速領域に対応する高速側への変速を無効にする高速規制モードSを有し、高速規制モードS時に記憶した操作位置よりも遅い変速領域においては無段変速装置41を操作位置に対応する変速位置に制御するよう構成する。
【0007】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、高速規制モードS設定時に、再度メモリスイッチ70を操作すると、制御装置100はこの時の変速操作具18,23の各検出値を入力し記憶を更新するよう構成し、変速操作具18,23が最初に設定した検出位置よりも高速位置にあるときは、入力を規制し記憶の更新を受け付けないよう構成する。
【0008】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、高速規制モードSの解除は、解除スイッチ71操作によって行う構成とし、この高速規制モードS解除時に変速操作具18,23の変速位置が高速規制モードSで設定記憶された速度よりも高速領域にある場合には、変速操作具18,23による変速位置が高速規制モードS設定時の変速に戻るまで高速規制を継続するよう構成する。
【発明の効果】
【0009】
請求項1に記載の発明によれば、低速領域では操作した位置に変速制御され、高速領域では記憶した変速位置に規制されるため、操作位置と記憶した変速位置の再現との関係を把握し易く、安全に走行できる。
【0010】
請求項2に記載の発明によると、請求項1に記載の効果に加え、したがって、記憶を更新することによる思わぬ増速を回避でき、安全走行を行うことができる。
【0011】
請求項3に記載の発明によると、請求項1又は請求項2に記載の効果に加え、高速規制モードSの解除時に変速操作具18,23が高速位置にあっても、思わぬ増速を回避でき、安全走行を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の実施形態に係るトラクタの左側面図である。
図2図1のトラクタの平面図である。
図3】同上トラクタの動力伝達装置の動力伝動線図である。
図4】同上トラクタの静油圧式の無段変速装置の構成および動作状態を示す概要図である。
図5】同上トラクタの制御系の一部の構成を示すブロック図である。
図6】同上トラクタの主変速レバーの操作を示す概要説明図である。
図7】同上トラクタのアームレスト及び操作パネルの平面図である。
図8図7の斜視図である。
図9】本発明の別例の制御系ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
【0014】
図1および図2には、本発明の実施形態に係る作業車両の一例であるトラクタ1が示されている。
【0015】
このトラクタ1は、図示しない支持フレーム等に、エンジン3、動力伝達装置4、左右一対の前輪5および後輪6、操縦席7等の機器が搭載又は設けられた走行車体2を備えている。このうちエンジン3は、開閉可能に設けられたボンネットカバー11で覆われている。動力伝達装置4は、ミッションケース40内に配置される静油圧式の無段変速装置(HST:Hydraulic Static Transmission)41、副変速装置51等により構成されている。
【0016】
また、トラクタ1は、エンジン3の回転動力が動力伝達装置4等を経由して左右の前輪5と左右の後輪6に伝達されて駆動する四輪駆動(4WD)と左右の後輪6に伝達されて駆動する二輪駆動(2WD)との駆動方式が切り替え可能であり、そのいずれかの駆動方式で走行する。この走行車体2の走行速度(車速)は車速センサ92(図5)で検出され、その検出情報が制御装置100に送信される。
【0017】
さらに、トラクタ1は、走行車体2の後部に、ロワリンク29等の取付け部分を介してロータリ耕うん機等の図示しない作業機を装着することにより所望の作業を行うことが可能である。走行車体2の後部には、装着した作業機にエンジン3の回転動力を出力するためのPTO軸59が設けられている。
【0018】
操縦席7は、運転者が座る座席部7aと運転者が乗るときや運転時に足を置くステップ床部7bとを有している。
【0019】
操縦席7の前方には、走行車体2の支持フレームに設けられたハンドルポスト20に支持され前輪5を操舵するステアリングホイール(ハンドル)12が設けられている。ステアリングホイール12の前方には、運転者に対して操縦に関する情報(走行速度、動作状態など)を表示する表示パネル13が設けられている。
【0020】
ハンドルポスト20の上端部でステアリングホイール12の下方の左端部には、前進走行と後進走行のいずれかに切り替える際に操作する前後進切替えレバー14が設けられている。前後進切替えレバー14は、前進位置、中立位置、後進位置の3つの切り替え位置があり、その選択した位置が前後進切替位置センサ93(図5)によって検出されるとともにその検出情報が制御装置100に送信される。
【0021】
また、ハンドルポスト20の上部でステアリングホイール12の下方の他端部には、エンジン3の回転数を変更するアクセルレバー15が設けられている。アクセルレバー15は、アクセル操作具の一例であり、作業走行時に使用される。また、アクセルレバー15は、その操作した位置で手を離してもその位置で保持されるようになっており、その操作量がアクセルレバー位置センサ74(図5)によって検出されるとともにその検出情報が制御装置100に送信される。
【0022】
操縦席7のステップ床部7bには、そのハンドルポスト20よりも右側の部分に、アクセルペダル16、左右のブレーキペダル17L,17R、HSTペダル18、クラッチペダル19等が設けられている。左右のブレーキペダル17L,17Rは連結部材により左右同時に操作される連結状態と、左右それぞれ操作できる非連結状態とを切り替えることができ、連結状態であるか非連結状態であるかを検出するブレーキペダル連結センサ81(図5)を備える。ブレーキペダル連結センサ81が非連結状態を検出しているときにアクセルペダル位置センサ95(図5)の検出値によりアクセルペダル16の操作を検出すると、ランプまたはブザーもしくはその両方により報知して不安全な走行を抑制する。
【0023】
アクセルペダル16は、アクセル操作具の一例であり、その踏み込み量に応じてエンジン回転数、ひいては走行車体2の車速を上昇させる際に操作される踏み込み式ペダルである。このアクセルペダル16は、基本的に路上走行時に使用される。また、アクセルペダル16は、その踏み込み量がアクセルペダル位置センサ95(図5)によって検出されるとともにその検出情報が制御装置100に送信される。
【0024】
HSTペダル18は、変速操作具の一例であり、その踏み込み方向およびその量に応じて上記HSTからなる無段変速装置41から出力する回転動力の回転方向および回転速度(回転数)、ひいては走行車体2の走行方向(前進又は後進)の変更および車速の調整を行う際に操作するシーソー型の踏み込み式ペダルである。このHSTペダル18は、主に作業走行時に使用される。
【0025】
HSTペダル18は、そのペダル全体をほぼ水平の状態に保つようにすることにより停止状態にすることができる停止操作位置と、そのペダル全体を停止操作位置から前方に傾けるよう踏み込むことにより前進時の車速を増減操作することができる前進操作域と、そのペダル全体を停止操作位置から後方に傾けるよう踏み込むことにより後進時の車速を増減操作することができる後進操作域を有している。また、HSTペダル18は、その踏み込み方向および量がHSTペダル位置センサ96(図5)によって検出されるとともにその検出情報が制御装置100に送信される。
【0026】
操縦席7の前進方向に対する左側には、副変速レバー21、PTOクラッチレバー22、主変速レバー23等が設けられている。
【0027】
副変速レバー21は、副変速装置51を伝動させる回転動力の回転速度を例えば低速、中速、高速のいずれかの変速段(車速域)を選択する際に操作するレバーである。この変速段のうち低速および中速は圃場内で作業を行う際に圃場内を走行する場合に適した車速域であり、高速は圃場間等を移動する際に路上走行する場合に適した車速域である。PTOクラッチレバー22は、PTO軸59への駆動伝達の断続を行う際に操作するレバーである。主変速レバー23は、変速操作具の他の例であり、無段変速装置41のトラニオン軸47を操作して変速を行うレバーである。
【0028】
副変速レバー21は、その選択した操作位置が副変速位置センサ94(図5)により検出されるとともにその検出情報が制御装置100に送信される。主変速レバー23は、その選択した操作位置が主変速位置センサ99(図5)により検出されるとともにその検出情報が制御装置100に送信される。
【0029】
操縦席7の前進方向に対する右側には、図2に示されるように、作業機昇降用のポジションレバー24、調整パネル25等が設けられている。
【0030】
ポジションレバー24は、作業機の昇降時における高さを調整する操作レバーである。調整パネル25は、トラクタ1の動作の一部について必要な調整の設定を行うダイヤル、スイッチ等が配置された部分である。
【0031】
動力伝達装置4は、図3に示されるように、まず、エンジン3の出力軸の回転動力が、メインクラッチ31を介してミッションケース40の入力軸32に伝達されて増速ギア33a,33bで増速された後、無段変速装置41の入力軸42に伝達されるよう構成されている。メインクラッチ31は、クラッチペダル19の踏み込み操作の有無によって作動する。
【0032】
無段変速装置41は、上記HSTが適用されており、油圧ポンプ43と油圧モータ44を組み合わせて一体にした装置である。
【0033】
油圧ポンプ43は、可変容量型の油圧ポンプであり、入力軸42を通して入力されるエンジン3の回転動力により作動し、ポンプ内における斜板45の傾斜角度を変えることで油圧モータ44に送る作動油の吐出状態(向きおよび流量(ゼロを含む))を調整する。油圧モータ44は、例えば固定容量型の油圧モータであり、油圧ポンプ43から吐出される作動油の状態に応じてモータ出力軸44aを所定の回転方向および回転速度(回転数)で回転させる。
【0034】
そして、動力伝達装置4では、図3に示されるように、無段変速装置41における油圧モータ44のモータ出力軸44aの回転動力が、副変速装置51を経てから駆動出力軸34を通して出力された後に後輪デフギア装置35を介して左右の後輪6に伝達される。
【0035】
また、動力伝達装置4では、接続ギアを含む駆動切替え装置36が四輪駆動の側に切り替えられると、副変速装置51から駆動出力軸34を通して出力される回転動力が、駆動切替え装置36を経て前輪中継軸37に伝達された後に前輪増速装置38と前輪デフギア装置39を介して左右の前輪5にも伝達される。前輪5は、前輪増速装置38が作動して増速処理されるときだけ後輪6よりも増速した回転動力が伝達されるが、それ以外は後輪6と同じ回転速度の回転動力が伝達される。
【0036】
さらに、動力伝達装置4は、図3に示されるように、無段変速装置41における油圧ポンプ43に入力軸42と同様に回転するポンプ出力軸43aが設けられている。これにより、動力伝達装置4では、そのポンプ出力軸43aの回転動力が、PTO正逆クラッチ56を経てPTO中継軸57へ伝達された後にPTO変速装置58を経てPTO軸59に伝達される。
【0037】
無段変速装置41では、油圧ポンプ43における斜板45が前進出力位置、中立位置、
および後進出力位置のいずれかの位置に切り替えられる。
【0038】
無段変速装置41は、斜板45が前進出力位置に切り替えられると、油圧モータ44が前進させる方向にかつ傾斜角度に応じた回転速度で回転する動力をモータ出力軸44aから出力し、また斜板45が後進出力位置に切り替えられると、油圧モータ44が後進させる方向にかつ傾斜角度に応じた回転速度で回転する動力をモータ出力軸44aから出力する。一方、無段変速装置41は、斜板45が中立位置に切り替えられると、油圧モータ44がモータ出力軸44aを回転させることがなく動力も出力しない。
【0039】
また、無段変速装置41は、図4に示されるように、油圧ポンプ43における斜板45の傾斜角度を調整するよう回動するトラニオン軸47を有している。トラニオン軸47は、軸回動機構60の作動により動くトラニオンアーム48を介して回動させられる。
【0040】
軸回動機構60は、駆動源となる油圧シリンダ機構61と、油圧シリンダ機構61の動力をトラニオンアーム48に伝達させるリンク機構65とを有している。
【0041】
油圧シリンダ機構61は、複動型の油圧シリンダ62と、その油圧シリンダ62を作動させる制御弁63とで構成されている。
【0042】
リンク機構65は、油圧シリンダ機構61における油圧シリンダ62のピストンロッド62aの先端部に一端部が接続されるとともに第1固定軸66aに回動可能に支持された第1揺動アーム67と、トラニオンアーム48の後端部に一端部が接続されるとともに第2固定軸66bに回動可能に支持された第2揺動アーム68と、第1揺動アーム67の他端部と第2揺動アーム68の他端部との間を回動自在に連結する連結アーム69とで構成されている。
【0043】
制御弁63は、図示しないシリンダ用の油圧ポンプから送られる作動油を複動型のシリンダ部62bの一端および他端に所要のタイミングで供給し、これによりピストンロッド62aを伸長又は短縮させる。制御弁63としては、作動油の供給動作を制御する一対のソレノイド63a,63bを備えた電磁式油圧比例弁が適用されており、一方のソレノイド63aを伸長用として作動させ、他方のソレノイド63bを短縮用として作動させるようになっている。図4中の符合64は、制御弁63とシリンダ部62bの一端および他端との間をそれぞれ接続する送油管を示す。
【0044】
この軸回動機構60は、制御弁63の作動油の供給動作により油圧シリンダ機構61のピストンロッド61aを図4に示される中立位置に相当する位置から矢印D1で示す方向に伸長させた場合、その伸長するピストンロッド61aの力がリンク機構62を介してトラニオンアーム48に伝達され、このときのトラニオンアーム48がトラニオン軸47を矢印E1で示す方向に回動させるよう作動する。この場合は、油圧ポンプ43における斜板45が前進出力位置の側に傾斜するよう動かされる。
【0045】
また、軸回動機構60は、制御弁63の作動油の供給動作により油圧シリンダ機構61のピストンロッド61aを中立位置に相当する位置から矢印D2で示す方向に短縮させた場合、その短縮するピストンロッド61aの力がリンク機構62を介してトラニオンアーム48に伝達され、このときのトラニオンアーム48がトラニオン軸47を矢印E2で示す方向に回動させるよう作動する。この場合は、油圧ポンプ43における斜板45が後進出力位置の側に傾斜するよう動かされる。
【0046】
さらに、無段変速装置41は、図4に示されるように、斜板45を回動させるトラニオン軸47とトラニオンアーム48を中立の位置に保持する中立保持機構49が設けられている。
【0047】
中立保持機構49は、トラニオン軸47を支持軸として一体になって回動するとともに中立位置に戻るように構成されたカムプレート49aと、そのカムプレート49aの窪んだ形状からなる周縁カム部に弾性的な付勢を受けて押し付けられるローラ49bを有している。この中立保持機構49に対してトラニオン軸47は、その一端が、カムプレート49aの一部に回動可能に連結された構造になっている。
【0048】
無段変速装置41では、軸回動機構60が作動しないときは、中立保持機構49の作用によりトラニオンアーム48が中立の位置に保持され(図4参照)、これにより斜板45も中立位置に戻されるようになっている。トラニオン軸47については、その回動角度がトラニオンアーム48の一部の動きを確認するトラニオン軸角度センサ97(図6)により検出されており、その検出情報が制御装置100に送信される。
【0049】
無段変速装置41においては、変速操作具、すなわち主変速レバー23の操作量が主変速位置センサ99で検出されるか又はHSTペダル18の踏み込み方向や量がHSTペダル位置センサ96で検出されると、その各センサ99,96の検出値に応じて軸回動機構60における制御弁63のソレノイド63a,63bに供給する駆動用電流値が制御装置100によりそれぞれ制御される。これにより、無段変速装置41では、トラニオンアーム48を介してトラニオン軸47が所要の方向に踏み込み量に応じた所要の角度だけ回動させられる。 この結果、無段変速装置41では、トラニオン軸47の回動に連動して油圧ポンプ43における斜板45の傾斜角度が任意に変更されて油圧ポンプ43から油圧モータ44に吐出される作動油の向きや流量が調整されるので、油圧モータ44からモータ出力軸44aを通して所要の方向に回転してかつ所要の回転速度(回転数)に無段状に変更された回転動力が出力される。
【0050】
前記操作パネル25には、メモリスイッチ70を設ける。このメモリスイッチ70をONすると、このON信号とともにON時の主変速レバー位置センサ99の検出値を制御装置100に送信する。メモリスイッチ70のON信号入力によって制御装置100は高速規制モードSを設定する。
【0051】
高速規制モードSが設定されると、制御装置100のメモリ101は、主変速レバー位置センサ99及びHSTペダル位置センサ96の各検出値を入力し記憶する。そして、高速規制モードS中は、主変速レバー23の移動操作に基づく高速側変速及びHSTペダル18の踏込みによる高速側変速を無効とする。すなわち、変速操作具23,18による記憶操作領域よりも高速領域への変速を無効とする構成である。具体的には、メモリスイッチ70をONしたときの主変速レバー位置センサ99又はHSTペダル位置センサ96の検出値に基づいて、トラニオン軸47の回動角度が調整され、これにより速度が設定される。従って、主変速レバー23を高速側に操作し又はHSTペダル18を高速側に踏み込んでも、トラクタ1はその設定された速度までの車速しか出せないようになる。ここで、メモリスイッチ70をONした時の規制車速の設定方法について、つまり主変速レバー位置センサ99又はHSTペダル位置センサ96の検出値のいずれを採用するかについて、主変速レバー位置センサ99を優先する方法、HSTペダル位置センサ96を優先する方法、各検出値に相当する車速の低い方、あるいは高い方に設定する方法、メモリスイッチ70のON直前に変化のあった検出値を対象として設定する方法、などがある。
【0052】
なお、高速規制モードS設定時、主変速レバー23又はHSTペダル18のいずれかの低速側への操作を検知すると当該操作位置に応じた変速位置に制御する構成としている。
【0053】
したがって、低速領域では操作した位置に変速制御され、高速領域では記憶した変速位置に規制されるため、操作位置と記憶した変速位置の再現との関係を把握し易く、安全に走行できる。
【0054】
高速規制モードS設定時に、再度メモリスイッチ70をONすると、制御装置100は、この時の主変速レバー位置センサ99及びHSTペダル位置センサ96の各検出値を入力し記憶を更新しようとする。ところが主変速レバー23又はHSTペダル18のいずれかが最初に設定した検出位置よりも高速位置にあるときは、入力を規制し更新記憶を受け付けないよう構成している。したがって、記憶を更新することによる思わぬ増速を回避でき、安全走行を行うことができる。
【0055】
高速規制モードSの解除は、メモリスイッチ70近傍に配設する解除スイッチ71による。この解除スイッチ71をONすると、通常の主変速レバー23又はHSTペダル18操作によって車速が変わることとなる。ところで、高速規制モードS解除時、主変速レバー23又はHSTペダル18の位置が高速規制モードSで設定された速度よりも高速領域にある場合、主変速レバー23又はHSTペダル18による変速位置が高速規制モードS設定時の変速位置に戻るまで高速規制を継続するよう構成する。
【0056】
このように構成すると、高速規制モードSの解除時に主変速レバー23又はHSTペダル18が高速位置にあっても、思わぬ増速を回避でき、安全走行を行うことができる。
【0057】
なお、図6は、主変速レバー23の変速状況を示すもので、最大位置(最高速位置)Maxから最低速のクリープ位置Minまでとアクセル変速モードに切り替わるDモードに移行できる構成としている。そして、高速規制モードS設定時、メモリスイッチ70によるメモリ位置Xとすると、図6におけるX~Maxの間の範囲Yにおいては、主変速レバー23操作してもトラニオン軸47はメモリ位置Xから作動せず、したがって理論車速は変化しない。一方、図6におけるX~Minの間の範囲Zにおいては、主変速レバー23操作に応じてトラニオン軸47は連動し、理論車速は変化する。
【0058】
次いで、キャビン内の操縦席7近傍の操作部構成一例に基づき、主変速レバー23とメモリスイッチ70について説明する。図7図8に示すように、操縦席7の一側(図例では右側)に、上下回動可能にアームレスト80を設ける。アームレスト80は、操縦席7側部付近に設けるブラケット部材81Aに横軸芯回りに回動自在に連結されていて、後半部の肘置き部82と前半部の操作系配置部83とに区分される。肘置き部82には上面にクッション材を張設してなる。
【0059】
前半部の操作系配置部83は、操作部を外側操作部83Aと内側操作部83Bに分ける仕切り部83Cを形成する。そして、外側操作部83Aに作業機昇降用のポジションレバー24を前後動操作可能に設け、内側操作部83Bに変速操作具としての主変速レバー23を前後動操作可能に設けている。このうち、ポジションレバー24を前方に傾倒操作すると作業機は降下し、後方に傾倒操作すると作業機は上昇する構成である。主変速レバー24は、前傾側から後傾側に移行する毎に順次低速側に切り替わる構成とし、後傾斜端部にアクセル変速位置を設定する。アクセル変速位置にセットすると、アクセルペダル踏込み量とエンジン回転数の検出による演算で所定変速段に切り替わる構成である。
【0060】
主変速レバー23の後方には車速規制スイッチ86を配置している。このスイッチ86をONすると、検出車速が例えは時速15kmを超えないよう変速段を演算して所定低速側に自動切換えできるよう構成している。
【0061】
運転作業者は、右手操作で仕切り部83Cを探り、作業機Rを昇降操作する場合は、ポジションレバー24を仕切り部83C外側にて探り、変速操作するときは主変速レバー23を仕切り部83C内側にて探るもので、仕切り部83Cの存在によって目視せずとも容易に所定の操作レバーに触って操作することができる。仕切り部83Cの湾曲する頂部形状は、ポジションレバー24及び主変速レバー23の操作部よりも高くなるよう成形されている。
【0062】
次に前記アームレスト80に近い右側フェンダの上部に構成される操作パネル87構成について説明する。フェンダ上面の操作パネル87部は、複数の領域に区分されている。すなわち、前記アームレスト80の外側操作部83Aに接近する第一領域87A,その後方で若干高さの高い上辺から傾斜状に配置の第二領域87B、第二領域87Bの上辺と中間支柱20内壁との間に前部が傾斜凸状87Cpに形成される第三領域87C、第三領域87Cの傾斜凸状87Cpの前方で若干低い第四領域87D等を備える。
【0063】
前記第一領域87Aには、PTOスイッチ88、耕深調整ダイヤル89、エンジン回転数メモリ90、メモリ調整スイッチ91、自動クラッチスイッチ92A等を配設している。なお、PTOスイッチ88は、PTO軸の回転・停止を手動操作し、耕深調整ダイヤル89は自動耕深制御モード実行中における耕耘深さを設定する。エンジン回転数メモリ90はシーソースイッチ形態を採用しており予め設定した2つのエンジン回転速度にワンタッチ操作で変更するもので、旋回時など作業の中断・再開する場合に利用する。メモリ調整スイッチ91もシーソースイッチ形態を採用しエンジン回転数メモリ90の設定エンジン回転速度を任意に増減できる。自動クラッチスイッチ92Aは自動クラッチブレーキ停止機能をONでき、この機能はブレーキペダルを踏むだけで車体の減速・停止を行うことができ、車体停止後ブレーキペダルを開放するだけでそのまま車体を発進させることができるものである。
【0064】
前記第一領域87Aは、前記アームレスト80の肘置き部82と略同等の高さ位置に設けられる。
【0065】
傾斜状の前記第二領域87Bには、電子油圧操作ボックス79を備え、カバー79Cで開閉できる構成としている。電子油圧操作ボックス79には、2WDや4WD等の走行切換スイッチ、後進連動上昇・旋回連動上昇・旋回連動ブレーキ等の作業時設定スイッチ、ポジション・ドラフト選択のオート切換、作業機の絶対水平・機体平行・機体傾斜の水平切換等その他設定スイッチ、を備えている。この第二領域87Bは、第一領域87Aよりもやや高い位置に設定されている。
【0066】
前記第三領域87Cには、2連の外部油圧操作レバー75,75を配置し、その前方の傾斜凸状87Cpの傾斜面に後述自動操舵モードの自動直進制御機能に付随して各種スイッチを配置している。例えば図外サブモニタのホーム画面呼出スイッチ76,画面切替スイッチ77、位置補正スイッチ78を備えている。
【0067】
前記第四領域87Dには、PTO切換スイッチ72、モード切替ダイヤル73、メモリスイッチ70、作業設定呼出スイッチ74Aを備える。このうちPTO切換スイッチ72は、作業機が上昇し始めるとPTO軸回転を自動停止させ所定に下降すると再び回転させるPTO回転自動モードとこれらを実行しない手動モードとに選択設定できる。モード切替ダイヤル73は、前記電子油圧操作ボックス79の各種スイッチと対応し、耕耘作業と道路走行に変更する場合に、駆動状態や各種制御設定をワンタッチで適正な状態に設定することができる。
【0068】
メモリスイッチ70は、前記高速規制モードSを設定する。そして、スイッチ70を長押しする場合と短押しする場合とにそれぞれ機能を付加して、長押しする場合は、主変速レバー23の操作位置すなわち主変速レバー位置センサ99の検出値を記憶する。短押しは高速規制モードSの入り、引き続く短押し操作で当該モードSを解除できるように構成している。このように構成すると、前記独立した解除スイッチ71を省略できる。
【0069】
次いで、主変速レバー23の位置センサ99、前記エンジン回転数メモリ90、前記副変速レバー21の位置センサ94等の組み合わせで適正な作業速度を得る構成について説明する。図9において、制御装置100には、主変速レバー23の主変速レバー位置センサ99、副変速レバー21の副変速レバー位置センサ94、エンジン回転数メモリ90、メモリスイッチ70の各信号を受信し、液晶表示部110に、設定速度、副変速段、エンジン回転数メモリ70選択情報を表示できる画面、設定速度を副変速段ごとに表示する画面に切替わる構成としている。111は副変速段ごとに設定される画面表示を切り替える表示切替スイッチである。エンジン回転数メモリ90には複数のエンジン回転数に設定できるスイッチ(図例ではA,Bの2種)を備え異なる作業に対応させることができるが、前記液晶表示部110には、このエンジン回転数設定と主変速レバー23の主変速位置センサ99の検出値で演算される設定速度が表示される構成である。またその設定速度は、副変速レバーの変速位置ごとに異なるため、副変速レバーセンサ94の検出値に対応して演算され、液晶表示部110には副変速位置と設定速度を対応して表示できる構成としている。
【0070】
前記実施例において、変速装置として静油圧無段変速装置(HST)について説明したが、油圧機械式無段変速機(HMT)等他の無段変速装置としてもよい。
【符号の説明】
【0071】
18 HSTペダル(変速操作具)
23 主変速レバー(変速操作具)
41 無段変速装置
70 メモリスイッチ
71 解除スイッチ
100 制御装置
S 高速規制モード
図1
図2
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図9