(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043672
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】締結方法及びボルト
(51)【国際特許分類】
F16B 31/04 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
F16B31/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148792
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】紺野 浩之
(72)【発明者】
【氏名】磨田 謙一
(72)【発明者】
【氏名】尾関 友昭
(72)【発明者】
【氏名】藤村 俊貴
(57)【要約】
【課題】外部装置を必要としない簡易な構造で、ボルトの締結動作を利用して締結時にボルトを加熱する。
【解決手段】ボルトをナットに螺合させる締結方法が提供される。上記ボルトは、中空の軸部、上記軸部の内部に形成される生石灰及び水の収納空間、上記生石灰及び上記水が混合されない状態を保持する仕切り部、並びに上記仕切り部に続いて上記軸部の端部に設けられる破壊機構を備える。締結方法は、上記端部を上記ナットに接触させることによって上記破壊機構を作動させて上記仕切り部を破壊し、上記生石灰と上記水とを混合させて熱を発生させる工程と、上記混合によって発生した熱で上記軸部が軸方向に膨張した状態で上記ボルトを上記ナットに螺合させる工程とを含む。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボルトをナットに螺合させる締結方法であって、
前記ボルトは、中空の軸部、前記軸部の内部に形成される生石灰及び水の収納空間、前記生石灰及び前記水が混合されない状態を保持する仕切り部、並びに前記軸部の端部に設けられる破壊機構を備え、
前記端部を前記ナットに接触させることによって前記破壊機構を作動させて前記仕切り部を破壊し、前記生石灰と前記水とを反応させて熱を発生させる工程と、
前記反応によって発生した熱で前記軸部が軸方向に膨張した状態で前記ボルトを前記ナットに螺合させる工程と
を含む締結方法。
【請求項2】
前記仕切り部は熱可溶性であり、
前記破壊機構は、前記生石灰が充填される第1のケーシング及び前記水が充填される第2のケーシングが前記端部から露出された部分を含み、
前記熱を発生させる工程は、前記端部を前記ナットに接触させることによって前記第1のケーシング及び前記第2のケーシングを破壊し、前記第1のケーシング及び前記第2のケーシングからそれぞれ漏出した前記生石灰及び前記水が前記端部と前記ナットとの接触面上で反応することによって発生した熱で前記仕切り部を溶解させることを含む、請求項1に記載の締結方法。
【請求項3】
前記仕切り部は熱可溶性であり、
前記熱を破壊させる工程は、前記破壊機構を作動させて前記端部付近で前記仕切り部を破壊して前記生石灰と前記水とを反応させて発生した熱で連鎖的に順次、前記仕切り部を溶解させることを含む、請求項1に記載の締結方法。
【請求項4】
前記生石灰及び前記水の反応によって発生した消石灰を前記収納空間から回収する工程をさらに含む、請求項1に記載の締結方法。
【請求項5】
中空の軸部と、
前記軸部に内部に形成される生石灰及び水の収納空間と、
前記生石灰及び水が混合されない状態を保持する仕切り部と、
前記軸部の一方の端部に設けられ、前記端部がナットに接触したときに前記仕切り部を破壊するように構成された破壊機構と
を備えるボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、締結方法及びボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
ボルトを用いた締結機構において、締結時にボルトを加熱膨張させることによって、その後の冷却及び収縮によってボルトに追加の軸力を導入し、強固な締結を可能にする技術が知られている。例えば、特許文献1には、ガストーチで炎を調節してそこに圧縮空気を送入加熱し、加熱気流を増大させて加熱気流管より排出し、加熱気流管より出る加熱気流により中空状又は有底縦孔を有するボルトを加熱する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の例のように外部装置を用いてボルトを加熱する場合、締結の施工時に近傍に外部装置を配置して作動させる必要があり、施工場所に制約が生じるのに加えて工程も煩雑であった。
【0005】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、外部装置を必要としない簡易な構造で、ボルトの締結動作を利用して締結時にボルトを加熱することが可能な締結方法及びボルトを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、ボルトをナットに螺合させる締結方法が提供される。上記ボルトは、中空の軸部、上記軸部の内部に形成される生石灰及び水の収納空間、上記生石灰及び上記水が混合されない状態を保持する仕切り部、並びに上記軸部の端部に設けられる破壊機構を備える。締結方法は、上記端部を上記ナットに接触させることによって上記破壊機構を作動させて上記仕切り部を破壊し、上記生石灰と上記水とを反応させて熱を発生させる工程と、上記反応によって発生した熱で上記軸部が軸方向に膨張した状態で上記ボルトを上記ナットに螺合させる工程とを含む。
【0007】
また、上記課題を解決するために、本開示の別の観点によれば、中空の軸部と、上記軸部に内部に形成される生石灰及び水の収納空間と、上記生石灰及び水が混合されない状態を保持する仕切り部と、上記軸部の一方の端部に設けられ、上記端部がナットに接触したときに上記仕切り部を破壊するように構成された破壊機構とを備えるボルトが提供される。
【発明の効果】
【0008】
以上説明したように本開示によれば、外部装置を必要としない簡易な構造で、ボルトの締結動作を利用して締結時にボルトを加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一実施形態に係る締結方法に用いられるボルトの断面図である。
【
図2】
図1に示されたボルトを用いた締結方法の例を示す図である。
【
図3】
図1に示されたボルトを用いた締結方法の例を示す図である。
【
図4】
図1に示されたボルトを用いた締結方法の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0011】
図1は、本開示の一実施形態に係る締結方法に用いられるボルトの断面図である。図示された例において、ボルト1は、頭部2と、中空の軸部3と、軸部3の内部に形成される収納空間4と、収納空間4に収納されるケーシング51A,51Bとを含む。軸部3の外周部には雄ねじ部31が形成される。ボルト1は例えば鋼などの金属製であるが、熱によって膨張及び収縮する材料であれば金属製には限定されない。
【0012】
ケーシング51Aには生石灰(CaO)が充填され、ケーシング51Bには水(H2O)が充填される。ケーシング51Aとケーシング51Bは収納空間4内で隣接し、間に仕切り部52が形成される。仕切り部52があることによって、締結前のボルト1では生石灰と水とが混合されることはない。ケーシング51A,51Bは例えば一体的に成形され、内容物が漏出しないように収納空間4内に収納された後、少量の接着剤などを用いて固定される。
【0013】
本実施形態において、仕切り部52を含むケーシング51A,51Bは例えば樹脂などの熱可溶性の材料で形成される。また、ケーシング51A,51Bは軸部3の端部に形成される開口32から外部に露出された露出部53A,53Bを有する。露出部53A,53Bは、後述するように軸部3の端部がナットに接触したときに仕切り部52を溶解させるように構成された機構の例である。
【0014】
図2から
図4は、
図1に示されたボルトを用いた締結方法の例を示す図である。
図2に示されるように、締結時にはまず、ボルト1の軸部3を被締結部材6A,6Bに形成された貫通孔61A,61Bに挿通して、軸部3の端部をナット7に接触させる。ここで、上述のようにケーシング51A,51Bの露出部53A,53Bは軸部3の端部から露出されているため、端部がナット7に接触することによって露出部53A,53Bでケーシング51A,51Bが破壊され、充填された生石灰及び水が漏出する。
【0015】
漏出した生石灰及び水が軸部3の端部及びナット7の接触面上で混合されると、以下の式(1)のような反応によって消石灰(Ca(OH)2)になる。この反応は発熱反応であり、反応部位では大きな熱が発生する。
CaO+H2O → Ca(OH)2 ・・・(1)
【0016】
例えば、露出部53A,53Bは、ケーシング51A,51Bの他の部分と同様に熱可溶性であることによって、ナット7に接触したボルト1を回転させたときの周方向の摺動によって発生する摩擦熱で溶解させられてもよい。あるいは、露出部53A,53Bは、ボルト1とナット7との間の接触圧によって破壊されてもよい。なお、本明細書において熱などによる溶解は破壊の一形態であり、例えば露出部53A,53Bが溶解させられることは、ケーシング51A,51Bが破壊される例である。後述する仕切り部52の場合も同様であり、仕切り部52が熱などによって溶解させられることは、仕切り部52が破壊される例である。
【0017】
上述のように本実施形態において仕切り部52を含むケーシング51A,51Bは熱可溶性であるため、露出部53A,53Bから漏出した生石灰及び水の反応によって軸部3の端部とナット7との接触面上で熱が発生すると、その熱で軸部3の端部付近で仕切り部52が溶解する。仕切り部52が溶解するとケーシング51A,51Bに充填された生石灰及び水が混合されて反応し、さらに熱が発生する。例えば仕切り部52の全体を熱可溶性にすることによって、軸部3の端部付近から頭部2に向かって連鎖的に順次、仕切り部52の溶解が進行して生石灰及び水が反応し、熱が発生する。このようにして、生石灰及び水の反応によって発生した熱で軸部3の全体を昇温させることができる。
【0018】
図3に示されるように、生石灰及び水の混合によって発生した熱で軸部3が昇温させられ、軸方向に膨張した状態でボルト1をナット7に螺合させる。より具体的には、軸部3に形成された雄ねじ部31をナット7に形成された雌ねじ部71に螺合させ、所定の締結トルクで締め上げる。これによって被締結部材6A,6Bの締結作業が完了する。その後、
図4に示されるように、軸部3を含むボルト1が常温まで冷却されると軸部3は軸方向に収縮する。既にナット7がボルト1に螺合されて締結トルクによる軸力が導入されているため、軸部3が収縮すると追加の軸力が導入され、被締結部材6A,6Bはより強固に締結される。
【0019】
なお、図示された例のようにボルト1が下向きに配置されていれば、
図4に示されるように生石灰及び水の反応によって生成された消石灰は開口32から落下して収納空間4から排出される。ボルト1が下向きに配置されていない場合や、より確実に消石灰を除去したい場合は、吸引などによって収納空間4から消石灰を回収してもよい。消石灰は安定した物質であるため、特に回収工程を実施せずに、締結後も収納空間4内に消石灰が残留していてもよい。
【0020】
以上で説明したような本開示の一実施形態によれば、外部装置を必要としない簡易な構造で、ボルト1の締結動作を利用して締結時に軸部3を加熱することができる。軸部3が加熱膨張した状態でボルト1をナット7に螺合させて締結を完了することによって、ボルト1が常温に戻った時に追加の軸力を導入して被締結部材6A,6Bをより強固に締結することができる。
【0021】
上記の実施形態では、ボルト1の軸部3の端部に設けられる破壊機構としてケーシング51A,51Bの露出部53A,53Bが例示されたが、本開示の実施形態はこの例に限られない。例えば、軸部3の端部を押し込み可能に構成し、端部が押し込まれたときに内部でケーシング51A,51Bが押圧又は穿孔によって破壊されてもよい。このとき、例えば仕切り部52をケーシング51A,51Bの他の部分よりも薄く形成したり、仕切り部52を含む部分を穿孔したりすることによって、ケーシング51A,51Bの内部で生石灰と水とを混合させることができる。
【0022】
また、上記の実施形態では、収納空間4内で生石灰及び水を保持する手段としてケーシング51A,51Bが例示されたが、本開示の実施形態はこの例に限られない。締結前に生石灰及び水が混合されない状態が保持されるのであればケーシングは必ずしも必要ではなく、例えば収納空間4内に直接的に生石灰及び水が充填されて仕切り壁で隔てられてもよい。この場合、軸部3の端部に設けられる破壊機構は、例えばナット7との接触の衝撃を利用して仕切り壁を破壊してもよい。
【0023】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0024】
1:ボルト、2:頭部、3:軸部、31:雄ねじ部、32:開口、4:収納空間、51A:ケーシング、51B:ケーシング、52:仕切り部、53A:露出部、53B:露出部、6A:被締結部材、6B:被締結部材、61A:貫通孔、61B:貫通孔、7:ナット、71:雌ねじ部