(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043673
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】運転支援装置、車両及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240326BHJP
【FI】
G08G1/16 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148793
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】110000419
【氏名又は名称】弁理士法人太田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 結
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181AA05
5H181AA21
5H181BB13
5H181CC03
5H181CC04
5H181CC11
5H181CC12
5H181CC14
5H181FF05
5H181FF33
5H181LL01
5H181LL02
5H181LL04
5H181LL07
5H181LL08
5H181LL15
(57)【要約】
【課題】検出した死角領域の時間変化に応じて、死角領域の外から死角領域に進入した移動体と自車両との衝突のリスクを精度よく推定可能な運転支援装置を提供する。
【解決手段】運転支援装置は、車両の周囲環境の情報に基づいて、死角形成物により形成される車両から見た死角領域を検出し、車両の周囲環境の情報に基づいて、死角領域の外から死角領域に進入した移動体を検出し、移動体の移動方向及び移動速度と、死角領域の時間変化と、に基づいて、車両と移動体との衝突のリスクを推定する。
【選択図】
図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の運転を支援する運転支援装置において、
一つ又は複数のプロセッサと、前記一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を備え、
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記車両の周囲環境の情報に基づいて、死角形成物により形成される前記車両から見た死角領域を検出する死角領域検出処理と、
前記車両の周囲環境の情報に基づいて、前記死角領域の外から前記死角領域に進入した移動体を検出する移動体検出処理と、
前記移動体の移動方向及び移動速度と、前記死角領域の時間変化と、に基づいて、前記車両と前記移動体との衝突のリスクを推定する衝突リスク推定処理と、
を実行する、運転支援装置。
【請求項2】
前記一つ又は複数のプロセッサは、前記衝突リスク推定処理において、
前記死角領域に進入した前記移動体の移動方向及び移動速度と、前記死角領域の時間変化と、に基づいて、前記死角領域内での前記移動体の進路及び速度を推定し、前記移動体が前記車両の軌道上へ侵入する侵入位置及び侵入速度を予測して前記衝突のリスクを推定する、
請求項1に記載の運転支援装置。
【請求項3】
前記一つ又は複数のプロセッサは、前記衝突リスク推定処理において、
前記死角領域の時間変化に基づいて前記死角領域のうちの前記移動体が存在し得る範囲を特定するとともに、前記死角領域に進入した前記移動体の移動方向及び移動速度と、前記移動体が存在し得る範囲と、に基づいて、前記死角領域内での前記移動体の進路及び速度を推定し、前記侵入位置及び前記侵入速度を予測する、請求項2に記載の運転支援装置。
【請求項4】
請求項1に記載の運転支援装置を搭載した車両。
【請求項5】
車両の運転を支援する運転支援装置に適用されるコンピュータプログラムであって、
一つ又は複数のプロセッサに、
前記車両の周囲環境の情報に基づいて、死角形成物により形成される前記車両から見た死角領域を検出する死角領域検出処理と、
前記車両の周囲環境の情報に基づいて、前記死角領域の外から前記死角領域に進入した移動体を検出する移動体検出処理と、
前記移動体の移動方向及び移動速度と、前記死角領域の時間変化と、に基づいて、前記車両と前記移動体との衝突のリスクを推定する衝突リスク推定処理と、
を実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、運転支援装置、車両及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、主として交通事故の削減及び運転負荷の軽減を目的として、自動緊急ブレーキ(AEB:Autonomous Emergency Brake)や先行車追従走行(ACC:Adoptive Cruise Control)等の運転支援機能や自動運転機能が搭載された車両が実用化されている。例えば車両に設けられた車外撮影カメラやLiDAR(Light Detection and Ranging)、レーダセンサ等の種々のセンサにより検出された情報に基づいて車両の周囲に存在する障害物を検知し、車両と障害物との衝突を回避するよう車両の運転を支援する装置が知られている。しかしながら、交通事故のなかには、死角領域からの急な飛び出しなど、あらかじめ事故を想定して減速等の予備行動を取っていない限り回避が困難な事象が存在する。
【0003】
これに対して、例えば特許文献1には、死角領域からの急な飛び出し等、車両で検出できない潜在リスクが車両の走行予定経路上に発生することを考慮して、当該潜在リスクを予見的に回避する技術が開示されている。具体的に、特許文献1には、車両の進行方向における車両から見た死角領域を検出した後に運転者の制動操作又は操舵操作が検出されたとき、あるいは所定の時間が経過したときに自動的な減速制御を開始する運転支援装置が開示されている。また、特許文献1には、死角領域が検出されたときに死角領域からの歩行者又は自転車の飛び出しのリスクがあることを運転者に提示することも記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、自車両から視認されていた移動体が死角領域に進入した状況を考える。この場合、視認されていた状況での移動体の移動方向及び移動速度を計算することにより、移動体が死角領域から出てくる時刻や位置を推定することができる。このとき、自車両から見た死角領域は、自車両の進行とともに減少する。このため、死角領域から移動体が現れるまでの間、自車両の進行に合わせて変化する死角領域に応じて移動体の移動方向や移動速度を推定することで、自車両の軌道上への移動体の侵入位置及び侵入速度の予測精度を高めることができると考えられる。
【0006】
本開示は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本開示の目的とするところは、死角領域の外から死角領域に進入した移動体の移動方向及び移動速度と、検出した死角領域の時間変化に応じて、死角領域の外から死角領域に進入した移動体と自車両との衝突のリスクを精度よく推定可能な運転支援装置、車両及びコンピュータプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本開示のある観点によれば、
車両の運転を支援する運転支援装置において、
一つ又は複数のプロセッサと、一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を備え、
一つ又は複数のプロセッサは、
車両の周囲環境の情報に基づいて、死角形成物により形成される車両から見た死角領域を検出する死角領域検出処理と、
車両の周囲環境の情報に基づいて、死角領域の外から死角領域に進入した移動体を検出する移動体検出処理と、
移動体の移動方向及び移動速度と、死角領域の時間変化と、に基づいて、車両と移動体との衝突のリスクを推定する衝突リスク推定処理と、
を実行する運転支援装置が提供される。
【0008】
また、上記課題を解決するために本開示の別の観点によれば、上記の運転支援装置を搭載した車両が提供される。
【0009】
また、上記課題を解決するために本開示の別の観点によれば、
車両の運転を支援する運転支援装置に適用されるコンピュータプログラムであって、
一つ又は複数のプロセッサに、
車両の周囲環境の情報に基づいて、死角形成物により形成される車両から見た死角領域を検出する死角領域検出処理と、
車両の周囲環境の情報に基づいて、死角領域の外から死角領域に進入した移動体を検出する移動体検出処理と、
移動体の移動方向及び移動速度と、死角領域の時間変化と、に基づいて、車両と移動体との衝突のリスクを推定する衝突リスク推定処理と、
を実行させるコンピュータプログラムが提供される。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように本開示によれば、死角領域の外から死角領域に進入した移動体の移動方向及び移動速度と、検出した死角領域の時間変化に応じて、死角領域の外から死角領域に進入した移動体と自車両との衝突のリスクを精度よく推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本開示の一実施形態に係る運転支援装置を備えた車両の構成例を示す模式図である。
【
図2】同実施形態に係る運転支援装置の構成例を示すブロック図である。
【
図3】同実施形態に係る運転支援装置による制御処理のメインルーチンを示すフローチャートである。
【
図4】同実施形態に係る運転支援装置による制御処理のメインルーチンを示すフローチャートである。
【
図5】同実施形態に係る運転支援装置による累積死角領域算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図6】累積死角領域内で移動体が存在し得る範囲を示す説明図である。
【
図7】同実施形態に係る運転支援装置による潜在リスク算出処理の一例を示すフローチャートである。
【
図8】第1の事例における死角領域内での移動体の進路及び速度の予測パターンを示す説明図である。
【
図9】第2の事例における死角領域内での移動体の進路及び速度の予測パターンを示す説明図である。
【
図10】第3の事例における死角領域内での移動体の進路及び速度の予測パターンを示す説明図である。
【
図11】同実施形態に係る運転支援装置による顕在リスク算出処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本開示の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0013】
<1.本開示の実施の形態の特徴>
(1-1)本開示の実施の形態は、車両の運転を支援する運転支援装置において、
一つ又は複数のプロセッサと、前記一つ又は複数のプロセッサと通信可能に接続された一つ又は複数のメモリと、を備え、
前記一つ又は複数のプロセッサは、
前記車両の周囲環境の情報に基づいて、死角形成物により形成される前記車両から見た死角領域を検出する死角領域検出処理と、
前記車両の周囲環境の情報に基づいて、前記死角領域の外から前記死角領域に進入した移動体を検出する移動体検出処理と、
前記移動体の移動方向及び移動速度と、前記死角領域の時間変化と、に基づいて、前記車両と前記移動体との衝突のリスクを推定する衝突リスク推定処理と、
を実行する、構成を有している。
【0014】
なお、本開示の実施の形態は、上記の各処理を実行する車両に搭載された運転支援装置、上記の各処理を実行するためのコンピュータプログラム、当該コンピュータプログラムを記録した記録媒体、又は、上記の各処理を実行する運転支援方法によっても実現可能である。
【0015】
上記構成により、本開示の運転支援装置等は、死角領域の外から死角領域に進入した移動体の移動方向及び移動速度と、死角領域の時間変化とに基づいて、死角領域から自車両の軌道上へ移動体が侵入し得る侵入位置及び侵入速度を限定して推定することができる。したがって、本開示の運転支援装置等によれば、死角領域から飛び出し得る移動体と自車両との衝突リスクの予測精度を高めることができる。
【0016】
なお、「死角形成物」とは、自車両から見た視野を遮る物体であり、例えば他車両、建造物、樹木、生け垣等のあらゆる立体物が該当し得る。
【0017】
「死角領域」とは、自車両から見た視野が死角形成物により遮られた領域をいう。また、「死角解消領域」とは、死角形成物が検知されたときに特定された死角領域のうち、以降の時間の経過に伴って視野に入ってくる領域をいう。また、「累積死角領域」とは、死角形成物が検知されたときに特定された死角領域のうち、死角解消領域が除かれ、継続して死角領域として維持される領域をいう。
【0018】
「移動体」とは、例えば他車両、自転車、自動二輪車、歩行者等の移動するあらゆる物体が該当し得る。
【0019】
「衝突のリスク」とは、自車両が移動体に衝突する可能性をいう。「衝突のリスク」は、単に衝突する可能性の有無で示されてもよく、例えば数値やレベル等で示されてもよい。数値やレベル等で示される場合、「衝突のリスク」が高いほど、自車両が移動体に衝突する可能性が高いことを示す。
【0020】
また、「衝突のリスク」のうち「顕在リスク」とは、自車両から検出されている移動体及び静止物等の障害物と自車両との衝突のリスクをいい、「潜在リスク」とは、死角領域から飛び出し得る移動体と自車両との衝突のリスクをいう。
【0021】
(1-2)また、本開示の実施の形態において、
前記一つ又は複数のプロセッサは、前記衝突リスク推定処理において、
前記死角領域に進入した前記移動体の移動方向及び移動速度と、前記死角領域の時間変化と、に基づいて、前記死角領域内での前記移動体の進路及び速度を推定し、前記移動体が前記車両の軌道上へ侵入する侵入位置及び侵入速度を予測して前記衝突のリスクを推定してもよい。
【0022】
この構成により、死角領域に進入した時刻での移動体の移動方向及び移動速度に対して、死角領域の時間変化に応じて移動体の進路及び速度の推定範囲が限定されるため、死角領域から飛び出し得る移動体の侵入位置及び侵入速度の予測精度を高めることができる。
【0023】
「移動体の侵入位置及び侵入速度」とは、移動体が死角領域から飛び出して自車両の走行軌道と重なる位置、及び、そのときの移動体の速度をいう。
【0024】
(1-3)また、本開示の実施の形態において、
前記一つ又は複数のプロセッサは、前記衝突リスク推定処理において、
前記死角領域の時間変化に基づいて前記死角領域のうちの前記移動体が存在し得る範囲を特定するとともに、前記死角領域に進入した前記移動体の移動方向及び移動速度と、前記移動体が存在し得る範囲と、に基づいて、前記死角領域内での前記移動体の進路及び速度を推定し、前記侵入位置及び前記侵入速度を予測してもよい。
【0025】
この構成により、死角領域の時間変化に応じて、現実性の低い移動体の進路又は速度の候補が除かれて、移動体の進路及び速度が推定されるため、死角領域から飛び出し得る移動体の車両の軌道上への侵入位置及び侵入速度の予測精度を高めることができる。
【0026】
<2.本開示の実施の形態の詳細>
(2-1.車両の全体構成)
まず、本開示の一実施形態に係る運転支援装置を備えた車両の全体構成の一例を説明する。
【0027】
図1は、運転支援装置を備えた車両1の構成例を示す模式図である。
車両1は、車両の駆動トルクを生成する駆動力源9から出力される駆動トルクを左前輪3LF、右前輪3RF、左後輪3LR及び右後輪3RR(以下、特に区別を要しない場合には「車輪3」と総称する)に伝達する四輪駆動車として構成されている。駆動力源9は、ガソリンエンジンやディーゼルエンジン等の内燃機関であってもよく、駆動用モータであってもよく、内燃機関及び駆動用モータをともに備えていてもよい。
【0028】
なお、車両1は、例えば前輪駆動用モータ及び後輪駆動用モータの二つの駆動用モータを備えた電気自動車であってもよく、それぞれの車輪3に対応する駆動用モータを備えた電気自動車であってもよい。また、車両1が電気自動車やハイブリッド電気自動車の場合、車両1には、駆動用モータへ供給される電力を蓄積する二次電池や、バッテリに充電される電力を発電するモータや燃料電池等の発電機が搭載される。
【0029】
車両1は、車両1の運転制御に用いられる機器として、駆動力源9、電動ステアリング装置15及びブレーキ装置17LF,17RF,17LR,17RR(以下、特に区別を要しない場合には「ブレーキ装置17」と総称する)を備えている。駆動力源9は、図示しない変速機や前輪差動機構7F及び後輪差動機構7Rを介して前輪駆動軸5F及び後輪駆動軸5Rに伝達される駆動トルクを出力する。駆動力源9や変速機の駆動は、一つ又は複数の電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)を含んで構成された車両制御部41により制御される。
【0030】
前輪駆動軸5Fには電動ステアリング装置15が設けられている。電動ステアリング装置15は図示しない電動モータやギヤ機構を含み、車両制御部41により制御されることによって左前輪3LF及び右前輪3RFの操舵角を調節する。車両制御部41は、手動運転中には、ドライバによるステアリングホイール13の操舵角に基づいて電動ステアリング装置15を制御する。また、車両制御部41は、自動運転中には、設定される走行軌道に基づいて電動ステアリング装置15を制御する。
【0031】
ブレーキ装置17LF,17RF,17LR,17RRは、それぞれ前後左右の駆動輪3LF,3RF,3LR,3RRに制動力を付与する。ブレーキ装置17は、例えば油圧式のブレーキ装置として構成され、それぞれのブレーキ装置17に供給する油圧が車両制御部41により制御されることで所定の制動力を発生させる。車両1が電気自動車あるいはハイブリッド電気自動車の場合、ブレーキ装置17は、駆動用モータによる回生ブレーキと併用される。
【0032】
車両制御部41は、車両1の駆動トルクを出力する駆動力源9、ステアリングホイール又は操舵輪の操舵角を制御する電動ステアリング装置15、車両1の制動力を制御するブレーキ装置17の駆動を制御する一つ又は複数の電子制御装置を含む。車両制御部41は、駆動力源9から出力された出力を変速して車輪3へ伝達する変速機の駆動を制御する機能を備えていてもよい。車両制御部41は、運転支援装置50から送信される情報を取得可能に構成され、車両1の自動運転制御を実行可能に構成されている。
【0033】
また、車両1は、前方撮影カメラ31LF,31RF、車両状態センサ35、GNSS(Global Navigation Satellite System)センサ37及びHMI(Human Machine Interface)43を備えている。
【0034】
前方撮影カメラ31LF,31RFは、車両1の周囲環境の情報を取得するための周囲環境センサを構成する。前方撮影カメラ31LF,31RFは、車両1の前方を撮影し、画像データを生成する。前方撮影カメラ31LF,31RFは、CCD(Charged Coupled Devices)又はCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等の撮像素子を備え、生成した画像データを運転支援装置50へ送信する。
図1に示した車両1では、前方撮影カメラ31LF,31RFは、左右一対のカメラを含むステレオカメラとして構成されているが、それぞれステレオカメラあるいは単眼カメラのいずれであってもよい。
【0035】
車両1は、前方撮影カメラ31LF,31RF以外に、例えば車両1の後部に設けられて車両1の後方を撮影する及び後方撮影カメラ又はサイドミラーに設けられて左後方又は右後方を撮影するカメラを備えていてもよい。この他、車両1は、周囲環境の情報を取得するための周囲環境センサとして、LiDAR(Light Detection And Ranging)、ミリ波レーダ等のレーダセンサ、超音波センサのうちのいずれか一つ又は複数のセンサを備えていてもよい。
【0036】
車両状態センサ35は、車両1の操作状態及び挙動を検出する少なくとも一つのセンサからなる。車両状態センサ35は、例えば舵角センサ、アクセルポジションセンサ、ブレーキストロークセンサ、ブレーキ圧センサ又はエンジン回転数センサのうちの少なくとも一つを含み、ステアリングホイールあるいは操舵輪の操舵角、アクセル開度、ブレーキ操作量又はエンジン回転数等の車両1の操作状態を検出する。また、車両状態センサ35は、例えば車速センサ、加速度センサ、角速度センサのうちの少なくとも一つを含み、車速、前後加速度、横加速度、ヨーレート等の車両の挙動を検出する。車両状態センサ35は、検出した情報を含むセンサ信号を運転支援装置50へ送信する。
【0037】
GNSSセンサ37は、GPS衛星等の測位衛星からの衛星信号を受信する。GNSSセンサ37は、受信した衛星信号に含まれる車両1の地図データ上の位置情報を運転支援装置50へ送信する。なお、GNSSセンサ37の代わりに、車両1の位置を特定する他の衛星システムからの衛星信号を受信するアンテナが備えられていてもよい。
【0038】
HMI43は、運転支援装置50により駆動され、画像表示や音声出力等の手段により、ドライバに対して種々の情報を提示する。HMI43は、例えばインストルメントパネル内に設けられた表示装置及び車両に設けられたスピーカを含む。表示装置は、ナビゲーションシステムの表示装置であってもよい。また、HMI43は、自車両1の周囲の風景に重畳させてフロントウィンドウ上へ表示を行うHUD(ヘッドアップディスプレイ)を含んでもよい。
【0039】
(2-2.運転支援装置)
続いて、本実施形態に係る運転支援装置50を具体的に説明する。
【0040】
(2-2-1.構成例)
運転支援装置50は、一つ又は複数のCPU(Central Processing Unit)等のプロセッサがコンピュータプログラムを実行することで車両の運転を支援する装置として機能する。当該コンピュータプログラムは、運転支援装置50が実行すべき後述する動作をプロセッサに実行させるためのコンピュータプログラムである。プロセッサにより実行されるコンピュータプログラムは、運転支援装置50に備えられた記憶部(メモリ)53として機能する記録媒体に記録されていてもよく、運転支援装置50に内蔵された記録媒体又は運転支援装置50に外付け可能な任意の記録媒体に記録されていてもよい。
【0041】
コンピュータプログラムを記録する記録媒体としては、ハードディスク、フロッピーディスク及び磁気テープ等の磁気媒体、CD-ROM、DVD、及びBlu-ray(登録商標)等の光記録媒体、フロプティカルディスク等の磁気光媒体、RAM及びROM等の記憶素子、並びにUSBメモリ及びSSD等のフラッシュメモリ、その他のプログラムを格納可能な媒体であってよい。
【0042】
図2は、本実施形態に係る運転支援装置50の構成例を示すブロック図である。
運転支援装置50には、専用線又はCAN(Controller Area Network)やLIN(Local Inter Net)等の通信手段を介して、周囲環境センサ31、車両状態センサ35及びGNSSセンサ37が接続されている。また、運転支援装置50には、車両制御部41及びHMI43が接続されている。なお、運転支援装置50は、車両1に搭載された電子制御装置に限られるものではなく、スマートホンやウェアラブル機器等の端末装置であってもよい。
【0043】
運転支援装置50は、処理部51、記憶部53及び累積死角領域データベース55を備えている。処理部51は、CPU等の一つ又は複数のプロセッサや種々の周辺部品を備えて構成される。処理部51の一部又は全部は、ファームウェア等の更新可能なもので構成されてもよく、また、CPU等からの指令によって実行されるプログラムモジュール等であってもよい。
【0044】
記憶部53は、RAM又はROM等の記憶素子により構成される。ただし、記憶部53の種類や数は特に限定されない。記憶部53は、処理部51により実行されるコンピュータプログラムや、演算処理に用いられる種々のパラメータ、検出データ、演算結果等の情報を記憶する。累積死角領域データベース55は、RAM又はROM等の記憶素子、あるいは、HDDやCD、DVD、SSD、USBフラッシュ、ストレージ装置等の記憶媒体により構成され、処理部51により算出された累積死角領域の情報を記憶するデータベースである。
【0045】
(2-2-2.機能構成)
続いて、運転支援装置50の処理部51の機能構成を説明する。処理部51は、周囲環境検出部61、死角領域検出部63、移動体検出部65、衝突リスク推定部67、運転条件設定部69及び通知制御部71を備えている。これらの各部は、CPU等の一つ又は複数のプロセッサによるコンピュータプログラムの実行により実現される機能である。ただし、周囲環境検出部61、死角領域検出部63、移動体検出部65、衝突リスク推定部67、運転条件設定部69及び通知制御部71の一部又は全部が、アナログ回路を用いて構成されていてもよい。
【0046】
(周囲環境検出部)
周囲環境検出部61は、所定のサンプリング周期で周囲環境センサ31から送信される検出データに基づいて自車両1の周囲環境を検出する処理(周囲環境検出処理)を実行する。具体的に、周囲環境検出部61は、前方撮影カメラ31LF,31RFから送信される画像データを画像処理することにより、物体検知の技術を用いて自車両1の周囲に存在する周囲車両や自転車、建造物、人物その他の物体を検出する。また、周囲環境検出部61は、自車両1から見た周囲車両や自転車等の位置、自車両1から周囲車両や自転車等までの距離、及び自車両1に対する周囲車両や自転車等の相対速度を算出する。
【0047】
(死角領域検出部)
死角領域検出部63は、周囲環境検出部61により検出された自車両1の周囲環境の情報に基づいて、死角形成物により形成される自車両1から見た死角領域を検出する処理(死角領域検出処理)を実行する。特に、死角領域検出部63は、自車両1から見た死角領域を検出するとともに、所定時刻に検出した死角領域が自車両1の進行に伴って変化する、死角領域の時間変化を演算する。ある時刻において自車両1から見た死角領域が存在する場合、自車両1の進行に伴って死角領域の一部が徐々に視野に入ってくるため、当初特定された死角領域の面積は自車両1の進行に伴って徐々に減少する。死角領域検出部63は、自車両1の前方に死角形成物が検知されたときに当該死角形成物によって生じる死角領域を特定するとともに、以降の時間の経過に伴って視野に入ってくる領域(死角解消領域)を除き、継続して死角領域として維持される領域(累積死角領域)を算出する。
【0048】
例えば死角領域検出部63は、周囲環境検出部61による検出結果に基づいて、死角形成物となり得る立体物を検出する。死角形成物は、代表的には駐停車中の車両、側壁や生垣等の建造物が例示されるが、これらの立体物に限られない。また、死角領域検出部63は、GNSSセンサ37を介して取得される自車両1の地図データ上の位置の情報及び進行方向前方の道路情報を用いて死角形成物あるいは死角領域を検出してもよい。
【0049】
死角領域検出部63は、自車両1あるいは死角形成物の上方から見た俯瞰的2次元の死角領域の時間変化を演算してもよく、自車両1から見た2次元の死角領域の時間変化を演算してもよい。自車両1あるいは死角形成物の上方から見た俯瞰的2次元の死角領域は、自車両1から見た横方向及び奥行き方向で定義され、自車両1から見た2次元の死角領域は、自車両1から見た横方向及び高さ方向で定義される。本実施形態では、死角領域検出部63は、自車両1から見た横方向及び奥行き方向で定義される累積死角領域、及び、自車両1から見た横方向及び高さ方向で定義される累積死角領域を演算する。
【0050】
算出された累積死角領域は、自車両1が死角形成物の脇を通過するまでの間、累積死角領域データベース55に逐次保存される。これにより、所定のサンプリング周期ごとに時間の経過に伴う累積死角領域の変化を追跡することができる。
【0051】
(移動体検出部)
移動体検出部65は、周囲環境検出部61により検出された自車両1の周囲環境の情報に基づいて、死角領域検出部63により検出された死角領域の外から当該死角領域に進入した移動体を検出する処理(移動体検出処理)を実行する。具体的に、移動体検出部65は、検出された物体のうち、ゼロを超える速度を有する物体を移動体として特定する。移動体検出部65は、それぞれの移動体について、所定のサンプリング周期ごとの位置の変化に基づいて、当該移動体の移動方向及び移動速度を演算する。また、移動体検出部65は、特定した移動体が、死角領域と重なって検出されなくなった場合、当該移動体が最後に検出されていたときの移動体の移動方向及び移動速度を記録する。
【0052】
(衝突リスク推定部)
衝突リスク推定部67は、移動体検出部65により特定された移動体の移動方向及び移動速度と、死角領域検出部63により演算された死角領域の時間変化とに基づいて、自車両1と移動体との衝突のリスクを推定する処理(衝突リスク推定処理)を実行する。移動体検出部65により移動体が検出されている場合、衝突リスク推定部67は、移動体の移動方向及び移動速度と、自車両1の移動方向及び移動速度とに基づいて、自車両1と移動体との衝突のリスク(顕在リスク)を推定する。具体的に、衝突リスク推定部67は、自車両1と移動体とが同時刻に所定の距離内に位置する場合に、自車両1と移動体とが衝突する可能性があると判定し、当該距離が近いほど推定される衝突のリスクを高くする。
【0053】
移動体検出部65により移動体が検出されている場合、衝突リスク推定部67は、移動体が検出されなくなるまでの間、自車両1と移動体との衝突のリスク(顕在リスク)の推定を繰り返す。衝突リスク推定部67は、検出されている移動体ごとに顕在リスクを推定する。
【0054】
また、衝突リスク推定部67は、検出されていた移動体が死角領域に進入した場合、当該移動体が最後に検出されていたときの移動体の移動方向及び移動速度と、死角領域の時間変化と、自車両1の移動方向及び移動速度とに基づいて、自車両1と移動体との衝突のリスク(潜在リスク)を推定する。具体的に、衝突リスク推定部67は、死角領域の外から死角領域に進入した移動体の移動方向及び移動速度と、死角領域の時間変化とに基づいて、死角領域内での移動体の進路及び速度を推定し、移動体が死角領域から飛び出して自車両1の軌道上へ侵入する侵入位置及び侵入速度を予測する。自車両1の進行に伴って累積死角領域の面積が小さくなる中で依然として自車両1の周囲環境センサ31によって死角領域内に進入した移動体が検出されない場合、当該移動体は死角領域内に留まっていることを示す。この場合、累積死角領域の面積が小さくなるにつれて、累積死角領域内で移動体が存在し得る範囲は徐々に限定される。また、当該累積死角領域内での移動体の進路及び速度は徐々に限定される。
【0055】
例えば移動体が自転車である場合、累積死角領域のうち当該自転車及び自転車に乗る人(以下、「自転車」という場合、自転車及び自転車に乗る人をいうものとする)のサイズ以上の高さ及び幅を有する領域にのみ自転車は存在し得る。したがって、累積死角領域のうち自転車の高さよりも低い領域や、自転車の幅よりも狭い領域には自転車が存在する可能性は低いため、累積死角領域のうち自転車が存在し得る位置は限られる。また、移動体の加減速可能範囲あるいは旋回可能範囲には限界があるため、移動体の移動方向及び移動速度からも当該移動体の移動範囲は限られる。このため、衝突リスク推定部67は、所定のサンプリング周期ごとに、累積死角領域内での移動体が存在し得る範囲を仮定するとともに、累積死角領域内での移動体の進路及び速度を少なくとも一つ設定する。
【0056】
衝突リスク推定部67は、所定のサンプリング周期ごとに、移動体について少なくとも一つ設定した進路及び速度と、自車両1の移動方向及び移動速度とに基づいて、自車両1の軌道上への移動体の侵入位置及び侵入速度を少なくとも一つ予測し、自車両1と移動体との衝突のリスク(潜在リスク)を推定する。具体的に、衝突リスク推定部67は、自車両1と移動体とが同時刻に所定の距離内に位置する場合に、自車両1と移動体とが衝突する可能性があると判定し、当該距離が近いほど推定される衝突のリスクを高くする。その際、移動体が死角領域に進入したときの進入位置を起点として死角領域内での移動体の進路及び速度を推定することにより、死角領域内での移動体の進路及び速度の推定精度が高められる。したがって、自車両1の軌道上への移動体の侵入位置及び侵入速度の予測精度を高めることができる。
【0057】
また、衝突リスク推定部67は、死角領域に進入した移動体の種類に基づいて潜在リスクを推定してもよい。四輪自動車、自動二輪車、自転車又は歩行者等の移動体の種類によって、累積死角領域における移動体が存在し得る範囲や、加減速可能範囲又は旋回可能範囲が異なり得る。このため、衝突リスク推定部67は、移動体の種類に基づいて潜在リスクを推定することにより、死角領域内での移動体の進路及び速度の推定精度が高められ、自車両1の軌道上への移動体の侵入位置及び侵入速度の予測精度を高めることができる。その結果、死角領域から飛び出し得る移動体と自車両1との衝突のリスクの推定精度を高めることができる。なお、移動体の種類は、車両や自動二輪車、自転車、歩行者等の物体の種類そのものを示す情報であってもよく、大きさ又は速度等を所定のクラスに分けた属性の情報であってもよい。
【0058】
衝突リスク推定部67は、所定時刻に死角領域へ進入した移動体が死角領域から飛び出してこない場合、自車両1が死角形成物の脇を通過するまでの間、死角領域内での移動体の進路及び速度の推定と、自車両1と移動体との衝突のリスク(潜在リスク)の推定とを繰り返す。衝突リスク推定部67は、検出された移動体ごとに潜在リスクを推定する。また、所定時刻に移動体が死角領域へ進入した後、移動体検出部65により、死角領域から飛び出した移動体が検出された場合、衝突リスク推定部67は、検出された移動体の移動方向及び移動速度と、自車両1の移動方向及び移動速度とに基づいて、自車両1と移動体との衝突のリスクを推定する。
【0059】
(運転条件設定部)
運転条件設定部69は、基本的に、自車両1の進行方向前方に存在する障害物との衝突を回避するように自車両1の運転条件を設定する。この場合、障害物は、移動体だけでなく静止物も含む。例えば運転条件設定部69は、自車両1の自動運転中において、自車両と障害物との衝突を回避可能な走行軌道を設定するとともに、当該走行軌道に沿って自車両1を走行させるための目標操舵角を設定する。例えば運転条件設定部69は、自車両1が障害物に衝突する可能性を示す指標であるリスクポテンシャルを用いて自車両1の走行軌道を設定する。この場合、障害物との距離が近いほど衝突のリスクが高くなるようにリスクポテンシャルが設定され、運転条件設定部69は、衝突のリスクがより小さくなる軌道上を自車両1が走行するように走行軌道を設定する。また、車速が小さいほど衝突のリスクが小さくなるようにリスクポテンシャルが設定される場合、運転条件設定部69は、走行軌道及び車速を設定することにより、衝突のリスクを低下させてもよい。
【0060】
本実施形態では、運転条件設定部69は、死角領域に進入した移動体が死角領域から飛び出して自車両1に衝突する潜在リスクをリスクポテンシャルに反映させ、衝突のリスクがより小さくなる軌道上を自車両1が走行するように運転条件を設定する。具体的に、運転条件設定部69は、衝突リスク推定部67により推定された潜在リスクに基づいて、死角領域に進入した移動体が自車両1と衝突する可能性があると判定される場合に、自車両1と死角形成物との距離が拡大するように走行軌道を設定する。また、運転条件設定部69は、走行軌道の変更のみでは衝突のリスクを十分に低下させることができない場合、走行軌道を変更するとともに、あるいは走行軌道を変更することに代えて、自車両1を減速させることで衝突のリスクを小さくしてもよい。
【0061】
運転条件設定部69は、設定した走行軌道及び車速に基づいて目標操舵角及び目標加減速度を設定し、当該目標操舵角及び目標加減速度の情報を車両制御部41へ送信する。車両制御部41は、取得した目標操舵角及び目標加減速度の情報に基づいて自車両1の走行を制御する。これにより、検出されている障害物との衝突のリスク(顕在リスク)を低下させるだけでなく、死角領域に進入した移動体との衝突のリスク(潜在リスク)を低下させて、自車両1を走行させることができる。このとき、運転条件設定部69は、あらかじめ設定された操舵角速度の上限値又は加減速度の上限値を超えないように目標操舵角及び目標加減速度を設定してもよい。これにより、急操舵や急減速が発生しないように自車両1の走行が制御され、自車両1の乗員の違和感を低減することができる。
【0062】
(通知制御部)
通知制御部71は、HMI43の駆動を制御することにより自車両1の乗員に対して通知を行う。特に、通知制御部71は、自車両1が死角領域に進入した移動体と衝突する潜在リスクの存在を自車両1の乗員に通知する。通知制御部71は、警告音や音声を出力したり、画像表示やテキスト表示を行うことによって、衝突のリスクの存在を通知する。通知の内容は特に限定されるものではなく、一定の警告音や音声を出力したり、画像表示やテキスト表示を行ったりしてもよく、あるいは、自車両1の軌道上への移動体の侵入位置又は侵入速度等を通知してもよい。
【0063】
(2-3.運転支援装置の動作)
続いて、本実施形態に係る運転支援装置の動作の一例をフローチャートに沿って説明する。
【0064】
図3~
図4は、運転支援装置50の動作の一例を示すフローチャートである。
まず、運転支援装置50を含むシステムが起動されると(ステップS11)、処理部51の周囲環境検出部61は、周囲環境センサ31から送信される検出データを取得し、当該検出データに基づいて周囲環境検出処理を実行する(ステップS13)。本実施形態において、周囲環境検出部61は、周囲環境センサ31から送信される検出データに基づいて、少なくとも自車両1の進行方向前方に存在する他車両や人物、建造物、交通標識、白線等を検出する。また、周囲環境検出部61は、検出した物体の位置や速度、自車両1から物体までの距離を算出する。
【0065】
次いで、処理部51の移動体検出部65は、検出された周囲環境の情報に基づき、自車両1の進行方向前方にゼロを超える速度を持つ移動体が存在するか否かを判定する(ステップS15)。自車両1の進行方向前方に移動体が存在しない場合(S15/No)、処理部51は、検出されている障害物との衝突のリスク(顕在リスク)を演算する処理(ステップS25)へと移行する。
【0066】
一方、自車両1の進行方向前方に移動体が存在している場合(S15/Yes)、処理部51の死角領域検出部63は、自車両1の進行方向前方に、自車両1から見て死角領域を生じさせ得る死角形成物が存在するか否かを判定する(ステップS17)。例えば死角領域検出部63は、周囲環境検出部61により検出されたそれぞれの物体のサイズや位置、自車両1に対するそれぞれの物体の相対速度を算出し、自車両1から見て死角領域を生じさせ得る立体物の有無を判定する。例えば死角領域検出部63は、立体物の横幅、高さ及び奥行きがそれぞれあらかじめ設定された寸法以上であり、当該物体が自車両1の走行予定の軌道からあらかじめ設定された距離以内に存在し、かつ、相対速度があらかじめ設定された速度閾値以下の場合に、当該立体物が死角形成物に該当するものと判定する。
【0067】
死角を生じさせ得る死角形成物が存在しない場合(S17/No)、処理部51は、検出されている障害物との衝突のリスク(顕在リスク)を演算する処理(ステップS25)へと移行する。一方、死角を生じさせ得る死角形成物が存在している場合(S17/Yes)、移動体検出部65は、検出されていた移動体が死角領域に進入したか否かを判定する(ステップS19)。例えば移動体検出部65は、前回のサンプリング周期で検出されていた移動体が検出されなくなり、当該移動体の移動方向及び移動速度と死角領域の位置とに基づいて移動体が死角領域と重なったと判定される場合に、当該移動体が死角領域に進入したと判定する。
【0068】
検出されていた移動体が死角領域に進入したと判定されない場合(S19/No)、処理部51は、検出されている障害物との衝突のリスク(顕在リスク)を演算する処理(ステップS25)へと移行する。一方、検出されていた移動体が死角領域に進入したと判定された場合(S19/Yes)、死角領域検出部63は、累積死角領域を算出する処理(累積死角領域算出処理)を実行する(ステップS21)。
【0069】
図5は、累積死角領域算出処理を示すフローチャートである。
まず、死角領域検出部63は、死角形成物と判定された立体物のサイズ、位置及び相対速度の情報を取得する(ステップS41)。次いで、死角領域検出部63は、死角形成物のサイズ、及び、死角形成物と自車両1との位置関係に基づいて、自車両1から見た死角形成物による現在の死角領域x(t)を算出する(ステップS43)。例えば死角領域検出部63は、自車両1に設けられた前方撮影カメラ31LF,31RFの設置位置と、自車両1から見た死角形成物の輪郭上の複数点とを通る複数の直線群により囲まれる領域のうち、自車両1から見て死角形成物の奥側に位置する領域を特定する。特定される死角領域x(t)は、自車両1から見た横方向、高さ方向及び奥行き方向の領域として求められる。
【0070】
なお、死角領域検出部63は、死角形成物が検出された後、自車両1が当該死角形成物の脇を通過するまで、所定の処理サイクルで死角領域x(t)の算出を繰り返す。
【0071】
次いで、死角領域検出部63は、算出した現在の死角領域x(t)を、累積死角領域データベース55に保存されている前回までの累積死角領域X(t-Δt)と比較する(ステップS45)。死角領域検出部63は、前回までの累積死角領域X(t-Δt)のうち、現在の死角領域(t)と重複しない死角解消領域yを特定する。
【0072】
次いで、死角領域検出部63は、累積死角領域X(t)を更新して今回の処理サイクルでの累積死角領域X(t)を算出する(ステップS47)。これにより、自車両1によって死角形成物が検出されたときに特定された死角領域x(t)のうち、自車両1の進行に伴って自車両1の視野に入った死角解消領域yが除かれて、継続して死角領域として維持される累積死角領域X(t)が算出される。
【0073】
次いで、死角領域検出部63は、算出された累積死角領域X(t)を累積死角領域データベース55に保存する(ステップS49)。これにより、次回以降累積死角領域X(t)を算出する際に、それまでの累積死角領域X(t-Δt)を参照することができる。なお、死角領域xを生じさせる死角形成物が存在すると判定された後の初回の死角領域算出処理時においては、算出された死角領域x(t)が累積死角領域X(t)として保存される。
【0074】
ここで、
図6を参照して、累積死角領域Xを算出する方法について詳しく説明する。
図6は、累積死角領域X内で移動体が存在し得る範囲を説明するための図である。
図6は、死角形成物が駐車車両91であり、移動体が自転車である例を示す。
図6には、俯瞰的2次元の死角領域x(t),x(t+Δt),x(t+Δ2t)と、自車両1から見た2次元の死角領域x(t),x(t+Δt),x(t+Δ2t)とが示されている。
【0075】
時刻tにおいて、死角領域検出部63は、自車両1の進行方向前方に検出された駐車車両91により形成される死角領域x(t)を特定する。死角領域検出部63は、駐車車両91を検知したときに特定された死角領域x(t)を累積死角領域X(t)とする。自車両1の進行に伴って、それぞれの時刻t+Δt,t+2Δtにおける死角領域x(t+Δt),x(t+2Δt)は変化する。このため、それぞれの時刻t+Δt,t+2Δtにおいては、時刻tに検知された死角領域x(t)のうちの一部の領域が徐々に自車両1から見た視野に入り、時間の経過に伴って死角解消領域yが次第に拡大する。
【0076】
死角領域検出部63は、それぞれの時刻t+Δt,t+2Δtにおいて、それ以前の時刻t,t+Δtまでに検知された死角領域x(t),x(t+Δt))と重複する死角領域を累積死角領域X(t+Δt),X(t+2Δt)とする。つまり、時刻t+Δtにおける累積死角領域X(t+Δt)は、時刻tにおける累積死角領域X(t)と時刻t+Δtにおける死角領域x(t+Δt)とが重なる領域であり、時刻t+2Δtにおける累積死角領域X(t+2Δt)は、時刻t+Δtにおける累積死角領域X(t+Δt)と時刻t+2Δtにおける死角領域x(t+2Δt)とが重なる領域である。時刻t+2Δtにおける累積死角領域X(t+2Δt)は、時刻tにおける死角領域x(t)と時刻t+Δtにおける死角領域x(t+Δt)と時刻t+2Δtにおける死角領域x(t+2Δt)とが重なる領域と言うこともできる。
【0077】
死角領域検出部63は、自車両1が死角形成物の脇を通過するか、又は、死角領域から飛び出し得る移動体と自車両1との衝突のリスク(潜在リスク)が存在しなくなるまでの間、所定の処理サイクルで累積死角領域算出処理を繰り返し実行する。
【0078】
図3に戻り、ステップS21において死角領域検出部63による累積死角領域X(t)の算出処理が実行された後、処理部51の衝突リスク推定部67は、自車両1と、死角領域x(t)に進入した移動体との衝突のリスク(潜在リスク)を算出する処理を実行する(ステップS23)。
【0079】
図7は、潜在リスク算出処理を示すフローチャートである。
まず、衝突リスク推定部67は、ステップS21において算出された累積死角領域X(t)のうち、死角領域x(t)に進入した移動体が存在し得る範囲を設定する(ステップS51)。具体的に、衝突リスク推定部67は、検出されていた移動体の大きさと累積死角領域X(t)の大きさに基づいて、当該移動体が存在し得る範囲を特定する。例えば衝突リスク推定部67は、俯瞰的2次元に見た累積死角領域X(t)の面積及び形状、並びに、自車両1から見た死角形成物の高さ方向の要素を含む累積死角領域X(t)の面積及び形状に基づいて、累積死角領域X(t)のうち移動体の幅及び高さを超える範囲を特定する。
【0080】
上記した
図6を参照すると、俯瞰的2次元の累積死角領域X(t),X(t+Δt),X(t+Δ2t)のみを考えた場合、時刻t,t+Δtにおいては累積死角領域X(t),X(t+Δt)内に移動体(自転車93)が存在し得る範囲を設定することができる。一方、時刻t+Δ2tにおいては累積死角領域X(t+Δ2t)の面積が小さく、移動体(自転車93)が存在し得る範囲を設定することができない。さらに、俯瞰的2次元の累積死角領域X(t),X(t+Δt),X(t+Δ2t)だけでなく自車両1から見た2次元の累積死角領域X(t),X(t+Δt),X(t+Δ2t)を考慮した場合、移動体(自転車93)が存在し得る範囲はより限定される。具体的に、自車両1の進行に伴って駐車車両91のボンネットの上方の空間も徐々に視野に入ってくる。このため、俯瞰的2次元の時刻t+Δtにおいて、俯瞰的2次元の累積死角領域X(t+Δt)上では自転車93が存在し得る範囲であっても、実際に自転車93が存在し得る範囲は限定される。
【0081】
図7に戻り、次いで、衝突リスク推定部67は、累積死角領域X(t)での移動体の進路及び速度を推定する(ステップS53)。例えば衝突リスク推定部67は、死角領域x(t)へ移動体が進入したときの移動体の移動方向及び移動速度と、移動体の種類に応じた旋回可能範囲及び加減速可能範囲とに基づいて、ステップS51で設定した移動体が存在し得る範囲内における移動体の存在位置を少なくとも一つ設定する。衝突リスク推定部67は、時間の経過に伴って累積死角領域X(t)の面積及び形状が変化する中で、各時刻で算出される累積死角領域X(t)に存在し得る移動体の位置を結ぶことによって、それぞれの移動体の進路を設定することができる。設定する進路は、移動体が自車両1の軌道上へ侵入可能な向きの進路のみであってよい。衝突リスク推定部67は、死角領域x(t)に進入したすべての移動体についてそれぞれ一つ以上の進路を設定する。累積死角領域X(t)の面積あるいは幅が小さくなるほど、設定可能な進路の長さは短くなる。
【0082】
また、衝突リスク推定部67は、前回の処理サイクルで設定した移動体の存在位置から今回の処理サイクルで設定した移動体の存在位置までの距離を、処理サイクルの時間間隔で割ることによって得られる速度を移動体の速度として設定する。なお、衝突リスク推定部67は、前回の処理サイクルで設定した速度と今回の処理サイクルで設定した速度との差を処理サイクルの時間間隔で割ることにより、移動体の加減速度を推定してもよい。
【0083】
ここで、
図8~10を参照して、死角領域内での移動体の進路及び速度を推定する方法について詳しく説明する。
【0084】
図8は、第1の事例を示す説明図であり、自車両1が駐車車両91の脇を通過する走行シーンを示す。
図8には、俯瞰的2次元の死角領域及び累積死角領域のみが示されている。
【0085】
時刻tにおいて、周囲環境検出部61により、自車両1の進行方向前方に、移動体としての自転車93と、死角形成物としての駐車車両91とが検出されたとする。移動体検出部65は、自転車93の移動方向及び移動速度を算出して記憶する。死角領域検出部63は、駐車車両91によって生じる自車両1から見た死角領域x(t)を特定するとともに、駐車車両91を検知したときに特定された死角領域x(t)を累積死角領域X(t)とする。
【0086】
自車両1の進行に伴って、それぞれの時刻t+Δt,t+2Δtにおける死角領域x(t+Δt),x(t+2Δt)は変化する。このため、それぞれの時刻t+Δt,t+2Δtにおいては、時刻tに検知された死角領域x(t)のうちの一部の領域は徐々に自車両1から見た視野に入り、時間の経過に伴って死角解消領域yが次第に拡大する。死角領域検出部63は、それぞれの時刻t+Δt,t+2Δtにおいて、それ以前の時刻t,t+Δtまでに検知された死角領域x(t),x(t+Δt))と重複する死角領域を累積死角領域X(t+Δt),X(t+2Δt)とする。
【0087】
時刻t+Δtにおいて、移動体検出部65が、自転車93が死角領域x(t+Δt)に進入したことを検出すると、衝突リスク推定部67は、死角領域x(t+Δt)内での自転車93の進路及び速度を推定する。自車両1と自転車93との衝突のリスクを予測する演算であるため、実際には、自車両1の軌道側に位置する累積死角領域X(t+Δt)内での自転車93の進路及び速度を推定することとなる。具体的に、衝突リスク推定部67は、累積死角領域X(t+Δt)のうち、自転車93が存在し得る範囲を設定するとともに、時刻tにおける自転車93の移動方向及び移動速度と、あらかじめ設定された自転車93の加減速可能範囲及び旋回可能範囲とに基づいて、自転車93の進路及び速度を推定する。
図8に示した例では、時刻t+Δtにおいて、自転車93の進路及び速度が3パターン設定されているが、設定する進路及び速度のパターンの数は特に限定されない。
【0088】
さらに、時刻t+Δ2tにおいて、衝突リスク推定部67は、死角領域x(t+Δ2t)内での自転車93の進路及び速度を推定する。この場合においても、自車両1と自転車93との衝突のリスクを予測する演算であるため、実際には、自車両1の軌道側に位置する累積死角領域X(t+Δ2t)内での自転車93の進路及び速度を推定することとなる。自車両1と自転車93との衝突のリスクを予測する演算であるため、実際には、自車両1の軌道側に位置する累積死角領域X(t+Δt)内での自転車93の進路及び速度を推定することとなる。具体的に、衝突リスク推定部67は、累積死角領域X(t+Δ2t)のうち、自転車93が存在し得る範囲を設定するとともに、時刻t+Δtにおいて設定した自転車93の移動方向(進路)及び移動速度(速度)と、あらかじめ設定された自転車93の加減速可能範囲及び旋回可能範囲とに基づいて、自転車93の進路及び速度を推定する。
【0089】
図8に示した例では、時刻t+Δ2tにおいて、累積死角領域X(t+Δ2t)のうちの自転車93が存在し得る範囲は狭く、時刻t+Δtにおいて設定した自転車93の進路及び速度のパターンのうちの2つは想定できないことから、1つの進路及び速度のみが推定される。つまり、想定できない2つのパターンで自転車93が移動した場合、自転車93は死角領域x(t+Δ2t)から飛び出して自車両1から見た視野に入ることとなるため、進路及び速度を予測する必要がなくなる。したがって、時刻t+Δ2tでは、死角領域x(t)に進入した自転車93の進路及び速度の推定精度を高めることができる。
【0090】
図9は、第2の事例を示す説明図であり、自車両1が駐車車両91の脇を通過する走行シーンを示す。
図9には、俯瞰的2次元の死角領域及び累積死角領域のみが示されている。第2の事例は、第1の事例とは移動体(自転車93)の移動方向が異なる例を示す。
【0091】
第2の事例においても、それぞれの時刻t,t+Δt,t+2Δtにおいて、第1の事例と同様に死角領域x(t),x(t+Δt),x(t+2Δt)及び累積死角領域X(t),X(t+Δt),X(t+2Δt)が特定される。また、時刻t+Δtにおいて、移動体検出部65が、自転車93が死角領域x(t+Δt)に進入したことを検出すると、衝突リスク推定部67は、死角領域x(t+Δt)内での自転車93の進路及び速度を推定する。
図9に示した例では、時刻t+Δtにおいて、自転車93の進路及び速度が3パターン設定されているが、設定する進路及び速度のパターンの数は特に限定されない。
【0092】
時刻t+Δ2tにおいて、衝突リスク推定部67は、死角領域x(t+Δ2t)内での自転車93の進路及び速度を推定する。
図9に示した例では、時刻t+Δ2tにおいて、累積死角領域X(t+Δ2t)のうちの自転車93が存在し得る範囲は狭く、かつ、時刻t+Δtにおいて設定した自転車93の進路及び速度と、あらかじめ設定された自転車93の加減速可能範囲及び旋回可能範囲とを考慮すると、時刻t+Δtにおいて設定したパターンで自転車93が移動したと想定することができない。このため、衝突リスク推定部67は、時刻t+Δ2tにおいて、自転車93は累積死角領域X(t+Δ2t)内で停止したと推定する。
【0093】
図10は、第3の事例を示す説明図であり、片側三車線の道路の左車線を走行する自車両1が、中央車線を走行する第1他車両94を追い越して中央車線へ車線変更する走行シーンを示す。
図10には、俯瞰的2次元の死角領域及び累積死角領域のみが示されている。
【0094】
時刻tにおいて、周囲環境検出部61により、自車両1の進行方向前方に、移動体としての第2他車両95と、死角形成物としての第1他車両94とが検出されたとする。移動体検出部65は、第2他車両95の移動方向及び移動速度を算出して記憶する。第2他車両95は、自車両1よりも遅く、かつ、第1他車両94よりも速い速度で走行しているものとする。死角領域検出部63は、第1他車両94によって生じる自車両1から見た死角領域x(t)を特定するとともに、第1他車両94を検知したときに特定された死角領域x(t)を累積死角領域X(t)とする。
【0095】
自車両1の進行に伴って、それぞれの時刻t+Δt,t+2Δtにおける死角領域x(t+Δt),x(t+2Δt)は変化する。このため、それぞれの時刻t+Δt,t+2Δtにおいては、時刻tに検知された死角領域x(t)のうちの一部の領域は徐々に自車両1から見た視野に入り、時間の経過に伴って死角解消領域yが次第に拡大する。死角領域検出部63は、それぞれの時刻t+Δt,t+2Δtにおいて、それ以前の時刻t,t+Δtまでに検知された死角領域x(t),x(t+Δt))と重複する死角領域を累積死角領域X(t+Δt),X(t+2Δt)とする。
【0096】
時刻t+Δtにおいて、移動体検出部65が、第2他車両95が死角領域x(t+Δt)に進入したことを検出すると、衝突リスク推定部67は、死角領域x(t+Δt)内での第2他車両95の進路及び速度を推定する。自車両1が第1他車両94を追い越した後の衝突のリスクを予測する演算であるため、実際には、第1他車両94の前方側に位置する累積死角領域X(t+Δt)内での第2他車両95の進路及び速度を推定することとなる。具体的に、衝突リスク推定部67は、累積死角領域X(t+Δt)のうち、第2他車両95が存在し得る範囲を設定するとともに、時刻tにおける第2他車両95の移動方向及び移動速度と、あらかじめ設定された第2他車両(四輪自動車)95の加減速可能範囲及び旋回可能範囲とに基づいて、第2他車両95の進路及び速度を推定する。
図10に示した例では、時刻t+Δtにおいて、第2他車両95は時刻tにおける移動方向及び移動速度を維持するものとして進路及び速度が設定されているが、設定する進路及び速度のパターンの数は特に限定されない。
【0097】
さらに、時刻t+Δ2tにおいて、衝突リスク推定部67は、死角領域x(t+Δ2t)内での第2他車両95の進路及び速度を推定する。この場合においても、自車両1が第1他車両94を追い越した後の衝突のリスクを予測する演算であるため、実際には、第1他車両94の前方側に位置する累積死角領域X(t+Δt)内での第2他車両95の進路及び速度を推定することとなる。具体的に、衝突リスク推定部67は、累積死角領域X(t+Δ2t)のうち、第2他車両95が存在し得る範囲を設定するとともに、時刻t+Δtにおいて設定した第2他車両95の移動方向(進路)及び移動速度(速度)と、あらかじめ設定された第2他車両(四輪自動車)95の加減速可能範囲及び旋回可能範囲とに基づいて、第2他車両95の進路及び速度を推定する。
【0098】
図10に示した例では、時刻t+Δ2tにおいて、自車両1から第2他車両95が検出されておらず、時刻t+Δtにおいて設定した第2他車両95の進路及び速度を想定できない状況となっている。このため、衝突リスク推定部67は、時刻t+Δ2tでは、第2他車両95が減速したものとして進路及び速度を推定する。この場合、自車両1及び第1他車両94の速度に対して、第2他車両95の車速が相対的に遅いことが明らかであることから、第2他車両95が第1他車両94の前方へ車線変更してくる可能性は低いと判断される。したがって、時刻t+Δ2tでは、死角領域x(t)に進入した第2他車両95が第1他車両94の前方へ進路変更する可能性がなくなったことを推定することができる。
【0099】
図7に戻り、死角領域内での移動体の進路及び速度を推定した後、衝突リスク推定部67は、自車両1の移動方向及び移動速度の情報を取得する(ステップS55)。自車両1の移動方向は、例えばGNSSセンサ37により検出される自車両1の位置情報の時間変化に基づいて演算により求められてもよく、車両制御部41を介してナビゲーションシステムから取得されてもよい。自車両1の移動速度は、例えば車速センサにより検出される車速の情報を車両制御部41を介して取得してもよい。なお、自車両1の移動方向及び移動速度の情報を取得する方法は、上記の例に限られない。
【0100】
次いで、衝突リスク推定部67は、累積死角領域X(t)内での移動体の進路及び速度と、自車両1の移動方向及び移動速度とに基づいて、自車両1と移動体との衝突のリスク(潜在リスク)を予測する(ステップS57)。具体的に、衝突リスク推定部67は、ステップS53で推定された移動体の進路及び速度と、ステップS55で取得した自車両1の移動方向とに基づいて、自車両1の軌道上への移動体の侵入位置及び侵入速度を少なくとも一つ予測する。衝突リスク推定部67は、推定された移動体の進路及び速度が維持されたまま移動体が死角領域から飛び出して自車両1の軌道上へ侵入してくると仮定して、自車両1の軌道上への移動体の侵入位置及び侵入速度を予測する。
【0101】
また、衝突リスク推定部67は、ステップS53で推定された移動体の進路及び速度と、ステップS55で取得した自車両1の移動方向及び移動速度とに基づいて、自車両1と移動体とが同時刻に所定の距離内に位置するおそれがあるかを演算する。衝突リスク推定部67は、自車両1と移動体とが同時刻に所定の距離内に位置する場合に、自車両1と移動体とが衝突する可能性があると判定し、当該距離が近いほど予測される潜在リスクを高くする。
【0102】
図3に戻り、ステップS23において潜在リスクが算出された後、さらに衝突リスク推定部67は、自車両1と、周囲環境センサ31により検出されている障害物との衝突のリスク(顕在リスク)を算出する処理を実行する(ステップS25)。
【0103】
図11は、顕在リスク算出処理を示すフローチャートである。
まず、衝突リスク推定部67は、ステップS13の周囲環境検出処理において検出された障害物の位置、及び、自車両1から障害物までの距離の情報を取得する(ステップS61)。障害物は、例えば走行中の他車両、自転車、歩行者等、ゼロ以上の速度を持つ移動体を含む。また、障害物は、例えば停車中の他車両、縁石、交通標識、建造物又はガードレール等、速度がゼロである静止物を含む。また、障害物として、白線等の道路あるいは走行車線の境界線の情報を併せて取得してもよい。
【0104】
次いで、衝突リスク推定部67は、ステップS61で取得した障害物のうちの移動体について、進路及び速度を推定する(ステップS63)。例えば衝突リスク推定部67は、検出されている移動体の位置の時間変化に基づいて、移動体の進路及び速度を推定する。
【0105】
次いで、衝突リスク推定部67は、ステップS55と同様に、自車両1の移動方向及び移動速度の情報を取得する(ステップS65)。
【0106】
次いで、衝突リスク推定部67は、自車両1と、検出されている障害物との衝突のリスク(顕在リスク)を予測する(ステップS67)。具体的に、衝突リスク推定部67は、静止している障害物の位置と、自車両1の移動方向とに基づいて、自車両1と静止している障害物とが所定の距離内に位置するおそれがあるかを演算する。衝突リスク推定部67は、自車両1と静止している障害物とがある時刻において所定の距離内に位置する場合に、自車両1と障害物とが衝突する可能性があると判定し、当該距離が近いほど予測される顕在リスクを高くする。
【0107】
また、衝突リスク推定部67は、ステップS63で推定された移動体の進路及び速度と、ステップS65で取得した自車両1の移動方向とに基づいて、自車両1の軌道上への移動体の侵入位置及び侵入速度を少なくとも一つ予測する。また、衝突リスク推定部67は、ステップS63で推定された移動体の進路及び速度と、ステップS65で取得した自車両1の移動方向及び移動速度とに基づいて、自車両1と移動体とが同時刻に所定の距離内に位置するおそれがあるかを演算する。衝突リスク推定部67は、自車両1と移動体とが同時刻に所定の距離内に位置する場合に、自車両1と移動体とが衝突する可能性があると判定し、当該距離が近いほど予測される顕在リスクを高くする。
【0108】
図3のステップS25において顕在リスクが算出された後、運転条件設定部69は、ステップS23で算出された潜在リスク及びステップS25で算出された顕在リスクに基づいて、自車両1の衝突の可能性があるか否かを判定する(ステップS27)。例えば運転条件設定部69は、潜在リスク又は顕在リスクの少なくともいずれか一方があらかじめ設定されたリスク値以上になっているか否かを判定してもよい。
【0109】
潜在リスク対象物が自車両1に衝突する可能性があると判定された場合(S27/Yes)、通知制御部71による、自車両1が障害物と衝突する可能性があることを自車両1の乗員に通知する処理(通知処理)、あるいは、運転条件設定部69による、自車両1と障害物との衝突を回避する処理(回避処理)の少なくともいずれか一方を実行する(ステップS29)。特に、通知制御部71は、自車両1が、死角領域から飛び出し得る移動体と衝突する可能性があることを通知する。また、運転条件設定部69は、周囲環境センサ31により検出されている障害物だけでなく、死角領域から飛び出し得る移動体との衝突を回避可能な運転条件を設定する。
【0110】
例えば通知制御部71は、警告音や音声を出力したり、画像表示やテキスト表示を行うことによって、潜在リスクあるいは顕在リスクの存在を通知する。通知の内容は特に限定されるものではなく、一定の警告音や音声を出力したり、画像表示やテキスト表示を行ったりしてもよく、あるいは、死角領域から自車両1の進行方向前方に侵入する移動体の侵入位置又は侵入速度等を通知してもよい。
【0111】
また、運転条件設定部69は、自車両1と障害物あるいは死角形成物との距離が拡大するように走行軌道を設定することにより、自車両1の衝突を回避する。自車両1と障害物あるいは死角形成物との距離が拡大するほど、自車両1の衝突のリスクを小さくすることができる。また、運転条件設定部69は、走行軌道の変更のみでは障害物あるいは死角領域から飛び出し得る移動体との衝突を回避することができない場合、走行軌道を変更するとともに、あるいは走行軌道を変更することに代えて、自車両1を減速させることで自車両1の衝突を回避してもよい。運転条件設定部69は、設定した走行軌道及び車速に基づいて目標操舵角及び目標加減速度を設定し、当該目標操舵角及び目標加減速度の情報を車両制御部41へ送信する。車両制御部41は、取得した目標操舵角及び目標加減速度の情報に基づいて、自車両1の走行を制御する。
【0112】
ステップS29において通知処理又は回避処理が実行された後、死角領域検出部63は、検出されていた死角領域が解消されたか否かを判定する(ステップS31)。例えば死角領域検出部63は、累積死角領域が存在しなくなったときに、検出されていた死角領域が解消されたと判定してもよい。あるいは、死角領域検出部63は、死角領域を生じさせていた死角形成物の脇を自車両1が通過したときに、検出されていた死角領域が解消されたと判定してもよい。死角領域検出部63は、検出された死角形成物の地図データ上の位置を記憶し、自車両1が当該位置を通過した場合に、自車両1が死角形成物の脇を通過したと判定してもよい。
【0113】
死角領域が解消されたと判定されない場合(S31/No)、処理部51は、ステップS13に戻って、上述した各ステップの処理を繰り返す。一方、死角領域が解消されたと判定された場合(S31/Yes)、運転条件設定部69は、死角形成物の脇を通過後の制御へ移行する(ステップS33)。例えば運転条件設定部69は、自車両1と死角形成物との距離を拡大させていた走行軌道を道路中心等の基準位置に戻したり、自車両1を加速させて基準車速へ戻したりする処理を開始する。
【0114】
一方、上記のステップS27において、自車両1の衝突の可能性があると判定されなかった場合(S27/No)、運転条件設定部69は、自車両1が死角形成物の脇を通過したか否かにかかわらず、死角形成物の脇を通過後の処理へ移行する(ステップS33)。これにより、死角形成物の脇を通過する前であっても、自車両1と、死角領域から飛び出す移動体との衝突の可能性がない場合に、速やかに走行軌道あるいは車速を元に戻すことができ、自車両1の乗員が感じる煩わしさを低減することができる。
【0115】
ステップS33において死角形成物の脇を通過後の処理へ移行した後、処理部51は、運転支援装置50を含む自車両1のシステムが停止したか否かを判定する(ステップS35)。システムが停止していない場合(S35/No)、ステップS13に戻って、上述した各ステップの処理を繰り返す。一方、システムが停止した場合(S33/Yes)、処理部51は、運転支援装置50の動作を停止する。
【0116】
このように、本実施形態に係る運転支援装置50は、自車両1の進行方向前方に死角領域を生じさせる死角形成物を検知した所定の時刻に死角領域xを特定し、以降の自車両1の進行に伴う死角領域xの時間変化を示す累積死角領域Xを算出する。また、運転支援装置50は、死角領域xに進入した移動体が検出された場合、死角領域xの外から死角領域xに進入した移動体の移動方向及び移動速度と、累積死角領域Xの変化に基づいて、累積死角領域X内での移動体の進路及び速度を推定し、移動体が死角領域xから飛び出して自車両1と衝突する潜在リスクを推定する。これにより、検出されていた移動体が死角領域xに進入した場合であっても、死角領域xから飛び出す移動体と自車両1との衝突が回避されるように、自車両1の走行軌道の変更あるいは減速動作を行うことができる。
【0117】
以上、添付図面を参照しながら本開示の好適な実施形態について詳細に説明したが、本開示はかかる例に限定されない。本開示の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本開示の技術的範囲に属するものと了解される。
【0118】
例えば、上記の実施の形態において、
一つ又は複数のプロセッサは、衝突リスク推定処理において、さらに移動体の種類に基づいて、衝突のリスクを推定してもよい。
この構成により、移動体の種類に応じて異なる大きさあるいは想定速度を考慮して、死角領域内での移動体の進路及び移動速度が予測されるため、死角領域から飛び出し得る移動体の車両の軌道上への侵入位置及び侵入速度の予測精度を高めることができる。
【0119】
また、上記の実施の形態において、
一つ又は複数のプロセッサは、衝突リスク推定処理において、さらに移動体が死角領域に進入した時の進入位置に基づいて、前記衝突のリスクを推定してもよい。
この構成により、移動体が死角領域に進入したときの位置からの軌跡を予測することができるため、死角領域から飛び出し得る移動体の車両の軌道上への侵入位置及び侵入速度の予測精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0120】
1:車両(自車両)、31:周囲環境センサ、37:GNSSセンサ、41:車両制御部、50:運転支援装置、51:処理部、53:記憶部、55:累積死角領域データベース、61:周囲環境検出部、63:死角領域検出部、65:移動体検出部、67:衝突リスク推定部、69:運転条件設定部、71:通知制御部、91:駐車車両、93:自転車、94:第1他車両、95:第2他車両