(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043676
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】筒形防振装置
(51)【国際特許分類】
F16F 1/38 20060101AFI20240326BHJP
F16F 1/387 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
F16F1/38 S
F16F1/387 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148803
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000219602
【氏名又は名称】住友理工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】縄司 睦
【テーマコード(参考)】
3J059
【Fターム(参考)】
3J059AB11
3J059AE04
3J059BA42
3J059BA75
3J059BB01
3J059BC06
3J059BD01
3J059BD05
3J059BD07
3J059BD09
3J059CA01
3J059CA14
3J059CB16
3J059DA15
3J059GA04
(57)【要約】
【課題】樹脂製のアウタ筒部材の装着用孔への圧入によって、長期的に安定した固定力を得ることができる、新規な構造の筒形防振装置を提供する。
【解決手段】インナ軸部材12と合成樹脂製のアウタ筒部材14とが本体ゴム弾性体16で連結された構造を有する筒形防振装置10であって、本体ゴム弾性体16はインナ軸部材12から両側へ延び出してインナ軸部材12とアウタ筒部材14とを径方向に連結する一対のゴム腕34,34を備えており、アウタ筒部材14はゴム腕34の外周側において周方向の分割部28を備えており、分割部28には分割部28の両側を周方向に連結する連結ゴム42が配されており、ゴム腕34の外周端部には、連結ゴム42の内周において軸方向に貫通する空所44が形成されている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インナ軸部材と合成樹脂製のアウタ筒部材とが本体ゴム弾性体で連結された筒形防振装置であって、
前記本体ゴム弾性体は前記インナ軸部材から両側へ延び出して該インナ軸部材と前記アウタ筒部材とを径方向に連結する一対のゴム腕を備えており、
該アウタ筒部材は、該ゴム腕の外周側において周方向の分割部を備えており、
該分割部には、該アウタ筒部材における該分割部の両側を周方向に連結する連結ゴムが配されており、
該ゴム腕の外周端部には、該連結ゴムの内周において軸方向に貫通する空所が形成されている筒形防振装置。
【請求項2】
前記空所の壁内面を構成する前記連結ゴムの内周面は、内周へ向けて開口する凹状断面で軸方向に延びている請求項1に記載の筒形防振装置。
【請求項3】
前記空所の周方向での最大幅寸法が、前記アウタ筒部材の前記分割部の周方向幅寸法よりも大きくされている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【請求項4】
前記アウタ筒部材が一対のアウタ分割体によって構成された分割構造体とされており、
それら一対のアウタ分割体の周方向端部間に一対の前記分割部が形成されており、
該一対の分割部が前記一対のゴム腕の各外周側に設けられている請求項1又は2に記載の筒形防振装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジンマウント等に適用される筒形防振装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車のエンジンマウントやサブフレームマウント、サスペンションブッシュ等として、筒形防振装置が採用されている。筒形防振装置は、例えば、特開平5-126183号公報(特許文献1)等に開示されているように、インナ軸部材とアウタ筒部材が本体ゴム弾性体によって連結された構造を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、従来のアウタ筒部材は金属製であったが、筒形防振装置の軽量化等を目的として、アウタ筒部材の合成樹脂化が検討されている。特許文献1においても、合成樹脂製のアウタ筒部材が例示されている。
【0005】
しかしながら、取付対象の装着用孔に圧入されるアウタ筒部材を合成樹脂製にすると、装着用孔への圧入による応力が持続的に作用することでアウタ筒部材が塑性変形し易く、アウタ筒部材の塑性変形(へたり)によって取付対象に対する固定力が低下するおそれがあった。
【0006】
本発明の解決課題は、樹脂製のアウタ筒部材の装着用孔への圧入によって、長期的に安定した固定力を得ることができる、新規な構造の筒形防振装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0008】
第一の態様は、インナ軸部材と合成樹脂製のアウタ筒部材とが本体ゴム弾性体で連結された筒形防振装置であって、前記本体ゴム弾性体は前記インナ軸部材から両側へ延び出して該インナ軸部材と前記アウタ筒部材とを径方向に連結する一対のゴム腕を備えており、該アウタ筒部材は、該ゴム腕の外周側において周方向の分割部を備えており、該分割部には、該アウタ筒部材における該分割部の両側を周方向に連結する連結ゴムが配されており、該ゴム腕の外周端部には、該連結ゴムの内周において軸方向に貫通する空所が形成されているものである。
【0009】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、アウタ筒部材が装着用孔に圧入される際に、アウタ筒部材の分割部に配された連結ゴムが周方向で圧縮されることによって、アウタ筒部材に作用する応力(圧入反力)を低減しながら、圧入による固定力を連結ゴムの弾性に基づいて比較的に長期にわたって安定して得ることができる。
【0010】
アウタ筒部材の分割部がインナ軸部材とアウタ筒部材を連結するゴム腕の外周側に形成されることにより、アウタ筒部材の装着用孔への圧入時に、ゴム腕がインナ軸部材とアウタ筒部材の間で径方向に圧縮され難く、圧入時の固定力や本体ゴム弾性体のばね特性のばらつきが低減されることから、安定した性能を実現できる。
【0011】
ゴム腕の外周端部を軸方向に貫通する空所が連結ゴムの内周に形成されていることにより、連結ゴムが周方向に圧縮される際に、連結ゴムが空所内への膨出変形を許容される。これにより、連結ゴムの周方向での弾性が有効に発揮されて、目的とする圧入反力を連結ゴムの弾性によって有効に得ることができる。
【0012】
第二の態様は、第一の態様に記載された筒形防振装置において、前記空所の壁内面を構成する前記連結ゴムの内周面は、内周へ向けて開口する凹状断面で軸方向に延びているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、アウタ筒部材の装着用孔への圧入によって連結ゴムが周方向で圧縮される際に、連結ゴムがアウタ筒部材の内周へ向けた変形を生じ難くなって、連結ゴムの周方向での圧縮ばねに基づく圧入反力が有効に発揮される。
【0014】
第三の態様は、第一又は第二の態様に記載された筒形防振装置において、前記空所の周方向での最大幅寸法が、前記アウタ筒部材の前記分割部の周方向幅寸法よりも大きくされているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、アウタ筒部材の分割部に設けられる連結ゴムが、内周側への膨出変形を空所によって周方向の全体にわたって許容されることから、連結ゴムの圧縮ばねに基づく圧入反力を適切に得ることができる。
【0016】
第四の態様は、第一~第三の何れか1つの態様に記載された筒形防振装置において、前記アウタ筒部材が一対のアウタ分割体によって構成された分割構造体とされており、それら一対のアウタ分割体の周方向端部間に一対の前記分割部が形成されており、該一対の分割部が前記一対のゴム腕の各外周側に設けられているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた筒形防振装置によれば、アウタ筒部材を構成する一対のアウタ分割体が相互に接近した状態で、アウタ筒部材が装着用孔に圧入されることにより、一対の分割部にそれぞれ設けられた連結ゴムの圧縮ばねによる抜け抗力が発揮される。それゆえ、アウタ筒部材の変形(アウタ筒部材への作用応力)を更に低減しながら、連結ゴムの弾性に基づく圧入固定力を有効に得ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、筒形防振装置において、合成樹脂製のアウタ筒部材の装着用孔への圧入によって、長期的に安定した固定力を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一の実施形態としての筒形防振装置を示す斜視図
【
図7】
図1に示す筒形防振装置をホルダへの装着状態で示す断面図であって、
図8のVII-VII断面に相当する図
【
図9】本発明の第二の実施形態としての筒形防振装置を示す正面図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
図1~
図6には、本発明の第一の実施形態としての筒形防振装置10が示されている。筒形防振装置10は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16で連結された構造を有している。以下の説明において、原則として、上下方向とは
図2中の上下方向を、左右方向とは
図2中の左右方向を、前後方向とは
図3中の左右方向を、それぞれ言う。
【0022】
インナ軸部材12は、厚肉小径の略円筒形状とされている。インナ軸部材12は、例えば鉄などの金属で形成されている。インナ軸部材12は、軸方向に貫通するボルト挿通孔18を備えており、ボルト挿通孔18に挿通される図示しない取付ボルトによって、図示しないパワーユニット等の取付対象に固定される。
【0023】
アウタ筒部材14は、合成樹脂製とされており、例えばポリアミド等によって形成されている。アウタ筒部材14は、薄肉大径の略円筒形状とされており、全体として円筒状をなす筒状部20と、筒状部20の前端部から外周へ突出する全体として円環板状をなすフランジ部22とを、備えている。
【0024】
本実施形態のアウタ筒部材14は、それぞれ略半円筒形状とされた一対のアウタ分割体24,24が、上下方向で互いに向かい合わせに配されることによって構成された分割構造体とされている。各アウタ分割体24は、筒状部20の半周部分と、フランジ部22の半周部分とを、一体的に備えている。アウタ分割体24は、周方向の両端部が内周側へ突出して径方向で厚肉とされた分割端部26とされており、周方向端面の面積が大きくされている。本実施形態では、分割端部26が各アウタ分割体24の周方向両端部にそれぞれ設けられている。外力が作用していないアウタ筒部材14は、一対のアウタ分割体24,24の対向方向である上下方向の外径寸法が、左右方向の外径寸法よりも大きくされている。
【0025】
そして、アウタ筒部材14における一対のアウタ分割体24,24の周方向両側の端部間には、それぞれ分割部28が形成されている。換言すれば、円筒状のアウタ筒部材14が分割部28,28において周方向に分割されており、それによって各半円筒状とされた一対のアウタ分割体24,24が形成されている。なお、分割部28は、アウタ筒部材14の軸方向全長に亘って連続して直線的に延びている。
【0026】
アウタ筒部材14はインナ軸部材12の外周を囲むように配されており、それらインナ軸部材12とアウタ筒部材14の径方向間に本体ゴム弾性体16が設けられている。本体ゴム弾性体16は、全体として略円筒形状とされて、内周面がインナ軸部材12の外周面に加硫接着されており、外周面がアウタ筒部材14の内周面に加硫接着されている。より詳細には、本体ゴム弾性体16は、インナ軸部材12に固着される内周面が略円筒面とされていると共に、アウタ筒部材14に固着される外周面が略長円筒面とされている。インナ軸部材12とアウタ筒部材14が本体ゴム弾性体16で連結された状態において、インナ軸部材12がアウタ筒部材14に対して軸方向両側へ突出している。
【0027】
本体ゴム弾性体16には、周方向に環状に延びるすぐり溝30が、軸方向の両端面に開口してそれぞれ形成されている。本体ゴム弾性体16には、軸方向に貫通する一対のすぐり孔32,32が形成されている。すぐり孔32は、インナ軸部材12に対して上下方向の両側に形成されており、左右方向に延びて、左右両端がインナ軸部材12よりも左右方向の外側まで達している。すぐり孔32,32は、何れも周方向において半周よりも短い長さとされており、インナ軸部材12の中心に対して上下方向の両側へ外れた位置に形成されている。
【0028】
本体ゴム弾性体16における一対のすぐり孔32,32の上下間には、左右方向に延びてインナ軸部材12とアウタ筒部材14とを左右方向で連結する一対のゴム腕34,34が形成されている。一対のゴム腕34,34は、インナ軸部材12の外周面に固着される内周筒部36と、アウタ筒部材14の内周面に固着される外周筒部38とを、左右方向で相互に連結するように設けられている。これにより、インナ軸部材12の左右両側において、インナ軸部材12とアウタ筒部材14が一対のゴム腕34,34によって左右方向で連結されている。一対のゴム腕34,34は、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の連結方向となる左右方向で直列的に配置されており、連結方向に延びる弾性主軸がインナ軸部材12からアウタ筒部材14に向けて左右方向の両側へ延びている。ゴム腕34の軸方向端面は、すぐり溝30の底面で構成されており、内周筒部36と外周筒部38がゴム腕34の軸方向端面よりも軸方向に突出している。
【0029】
本体ゴム弾性体16における一対のすぐり孔32,32よりも上下外側には、アウタ筒部材14からインナ軸部材12に向けて上下内側へ突出する一対のストッパゴム40,40が形成されており、インナ軸部材12とアウタ筒部材14との上下方向での相対変位量が、ストッパゴム40とインナ軸部材12との当接によって制限される。
【0030】
一対のゴム腕34,34の外周側には、それぞれアウタ筒部材14の分割部28が位置している。そして、各分割部28には、連結ゴム42がそれぞれ配されている。連結ゴム42は、ゴム腕34から外周側へ突出して一体形成されており、外周部分がアウタ筒部材14の分割部28に配されている。連結ゴム42の外周部分は、分割部28の周方向両側の内面を構成する一対のアウタ分割体24,24の周方向端面に固着されており、一対のアウタ分割体24,24の周方向端部は、分割部28,28において連結ゴム42,42で周方向にそれぞれ連結されている。連結ゴム42は、アウタ筒部材14の筒状部20よりも外周へ突出することなく、外周端面が筒状部20の外周面よりも僅かに内周に位置している。本実施形態の連結ゴム42は、分割部28に配された外周部分だけでなく、分割部28の内周側で且つゴム腕34よりも外周側に位置する外周筒部38の一部を含んで構成されている。連結ゴム42は、ゴム腕34よりも軸方向の長さが長くされており、外周筒部38と略同じ軸方向長さとされている。
【0031】
ゴム腕34の外周端部には、軸方向に貫通する空所44が形成されている。空所44は、略一定の断面形状で軸方向に貫通する孔状とされており、連結ゴム42の内周側に形成されている。従って、空所44は、ゴム腕34と連結ゴム42の間に位置している。空所44は、
図6に示すように、周壁内面が、外周へ向けて凹の円弧状湾曲面である内周凹状面46と、内周へ向けて凹の円弧状湾曲面である外周凹状面48と、それら内周凹状面46の開口端と外周凹状面48の開口端とを相互につなぐ接続面50,50とを、含んで構成されている。内周凹状面46の外周へ向けた開口の幅寸法は、外周凹状面48の内周へ向けた開口の幅寸法よりも大きくされており、内周凹状面46の開口端と外周凹状面48の開口端とが略周方向に広がる接続面50,50によって連続している。従って、空所44は、内周部分と外周部分がそれぞれ略半円形状とされており、内周部分が外周部分よりも大径とされている。内周凹状面46と外周凹状面48と接続面50,50は、折れ点や折れ線のない滑らかに連続する一連の湾曲面とされている。本実施形態の内周凹状面46の曲率は、上下方向の両外側部分において上下方向の中央部分よりも小さくされている。空所44の接続面50は、外周筒部38の内周面の一部を構成するが、アウタ分割体24の分割端部26と対応して内周へ僅かに突出している。
【0032】
空所44は、連結ゴム42の内周側に位置しており、外周凹状面48が連結ゴム42に対して周方向で位置合わせされている。従って、連結ゴム42の内周面は、空所44の外周凹状面48で構成されており、内周へ向けて開口する凹状断面で軸方向に延びる凹状湾曲面とされている。空所44は、連結ゴム42側の外周凹状面48の曲率が、ゴム腕34側の内周凹状面46の曲率よりも大きくされていることから、連結ゴム42の内周面がより曲率の大きな凹状湾曲面とされている。なお、連結ゴム42は、ゴム腕34よりも軸方向外方まで突出して設けられていることから、連結ゴム42の内周面を構成する外周凹状面48は、内周凹状面46よりも軸方向外側まで設けられている(
図1,
図4参照)。
【0033】
周方向における空所44の最大幅寸法w1は、周方向における分割部28の幅寸法(連結ゴム42の幅寸法)w2よりも大きくされている。空所44の周方向での最大幅寸法w1は、アウタ筒部材14において当該空所44の外周側に位置せしめられた分割部28の周方向幅寸法w2よりも大きくされている。本実施形態では、空所44が軸方向で略一定の断面形状を有しており、空所44の最大幅寸法w1が軸方向で略一定とされていると共に、分割部28が略一定の幅寸法w2で軸方向に延びていることから、軸方向の何れの位置においても空所44の最大幅寸法w1が分割部28の幅寸法w2よりも大きくされている。なお、本実施形態において、空所44の最大幅寸法w1は、
図6に示すように、内周凹状面46の外周端における幅寸法とされている。
【0034】
連結ゴム42の外周面は、左右方向に対して直交して広がる略平面とされており、外周凹状面48で構成された内周面の曲率が外周面の曲率よりも大きくされている。従って、連結ゴム42の径方向の厚さ寸法は、周方向両端から周方向中央に向けて小さくなっている。
【0035】
かくの如き構造とされた筒形防振装置10は、
図7,
図8に示すように、アウタ筒部材14が車両ボデー等の取付対象に設けられた装着用孔52に圧入される。装着用孔52は、例えば、円筒状のホルダ54の内孔によって構成されており、アウタ筒部材14が圧入されることによって、アウタ筒部材14がホルダ54を備える取付対象に取り付けられる。
【0036】
アウタ筒部材14は、一対のアウタ分割体24,24が治具等によって上下方向で相互に接近させられて最大外径寸法が小さくされた状態で、装着用孔52に圧入される。装着用孔52に圧入される際のアウタ筒部材14は、一対のアウタ分割体24,24の接近変位によって、上下方向の外径寸法が小さくされて、全体として略円筒形状となっており、上下方向の外径寸法と左右方向の外径寸法とが略同じとなっている。
【0037】
一対のアウタ分割体24,24が上下方向で相互に接近する際に、それら一対のアウタ分割体24,24の周方向端部間において、連結ゴム42,42が周方向に圧縮される。これにより、装着用孔52に圧入されたアウタ筒部材14は、圧縮された連結ゴム42,42の弾性に基づいて装着用孔52の壁内面に押し当てられて、アウタ筒部材14の外周面と装着用孔52の壁内面(ホルダ54の内周面)との間に軸方向の抜けに対する抵抗力が作用する。
【0038】
アウタ筒部材14の分割部28,28は、ゴム腕34,34の外周側に位置していることから、分割部28,28において周方向に分割された一対のアウタ分割体24,24が相互に接近しても、一対のゴム腕34,34には、インナ軸部材12とアウタ筒部材14の連結方向(ゴム腕34の延伸方向である左右方向)での圧縮変形が殆ど生じない。それゆえ、ゴム腕34の弾性による圧入固定力のばらつきが防止されると共に、ゴム腕34のばね特性への影響が低減される。
【0039】
アウタ筒部材14を構成する一対のアウタ分割体24,24は、装着用孔52への圧入状態において、圧入前の初期位置から相互に接近変位している一方で、何れも外力(圧入反力)による弾性変形は殆ど生じていない。それゆえ、継続的な外力の作用に起因するアウタ筒部材14の塑性変形(へたり)が抑えられて、金属製よりもへたりが問題になり易い合成樹脂製のアウタ筒部材14であっても、アウタ筒部材14のへたりによる圧入固定力の低下等が問題になり難い。従って、筒形防振装置10によれば、アウタ筒部材14の装着用孔52への圧入による固定力が、より長期的に安定して発揮される。
【0040】
また、アウタ筒部材14の装着用孔52への圧入による固定力は、一対のアウタ分割体24,24の周方向間で圧縮された連結ゴム42,42の弾性に基づいて発揮されることから、連結ゴム42の形状、大きさ、形成材料等によって、装着用孔52に対する圧入固定力を容易に調節設定することができる。連結ゴム42は、ゴム腕34に対して空所44によって隔てられており、本体ゴム弾性体16のばね特性、ひいては筒形防振装置10の防振性能に殆ど影響しないことから、形状や大きさを大きな自由度で設計することができて、圧入固定力を広い調節範囲で精度よく設定することができる。
【0041】
アウタ分割体24の周方向端部が厚肉の分割端部26とされていることにより、連結ゴム42が固着されるアウタ分割体24の周方向端面の面積(径方向の幅寸法)が大きくされている。これにより、連結ゴム42においてアウタ分割体24,24の周方向端面間で圧縮される部分の大きさを確保して、連結ゴム42の弾性による圧入固定力を調節することができる。
【0042】
連結ゴム42の内周側に空所44が形成されていることにより、連結ゴム42が周方向に圧縮される際に、連結ゴム42の内周側への膨出変形が空所44によって許容されている。これにより、連結ゴム42の周方向のばねが著しく硬くなったり、連結ゴム42の内周側への膨出変形がゴム腕34のばね特性に影響するのを防ぐことができる。また、連結ゴム42が内周側への変形を許容されていることにより、連結ゴム42が周方向の圧縮によって外周側へ膨らむように変形し難く、連結ゴム42がアウタ筒部材14の外周面よりも外周へ突出して装着用孔52への圧入の妨げになるのを防ぐことができる。
【0043】
本実施形態では、空所44の周方向幅寸法が連結ゴム42の周方向幅寸法よりも大きくされていることから、連結ゴム42の全体が内周側への変形を許容されている。なお、連結ゴム42は、ゴム腕34よりも軸方向両外側へ突出していることから、軸方向の両端部分が空所44よりも軸方向外側に位置しているが、連結ゴム42の軸方向両端部分の内周にはゴム腕34がなく、連結ゴム42の軸方向両端部分の内周側への変形がすぐり溝30によって許容されている。
【0044】
連結ゴム42の内周面が内周へ開口する凹状湾曲面(外周凹状面48)によって構成されており、空所44及びすぐり溝30によって連結ゴム42の内周側への変形を許容しつつ、連結ゴム42の内周部分のアーチ形状によって内周側への過度な変形を制限している。これにより、連結ゴム42の周方向のばねが適切に調節されており、アウタ筒部材14の装着用孔52に対する圧入固定力を有効に得ることができる。なお、空所44における外周側に凸状の外周凹状面48の大きさは限定されるものでないが、好適には周方向の幅寸法w3が、0.5*w2≦w3≦2*w2とされる。また、
図6から理解されるように、連結ゴム42と外周筒部38との間には、アウタ分割体24の周方向端面の内周側エッジ部(本実施形態では分割端部26の形成部分)と空所44の外周凹状面48との間においてゴム厚が小さくされた狭窄状部が形成されていることから、アウタ筒部材14の装着用孔52への圧入に伴う連結ゴム42の圧縮歪や応力のゴム腕34側への悪影響がより効果的に抑えられ得る。
【0045】
内周凹状面46を備えた空所44がゴム腕34の外周端部に形成されていることによって、ゴム腕34の外周端部が空所44の周方向両側へ二股に分岐した形状とされている。これにより、筒形防振装置10のばね特性が空所44を利用して調製されている。なお、空所44の周方向の最大幅寸法w1は限定されるものでないが、例えば一対のゴム腕34,34による左右方向のばね剛性の確保等に際しては、当該空所44の形成部位におけるゴム腕34の周方向寸法に対して1/3以下とされることが望ましい。また、空所44の径方向の大きさについても、ゴム腕34の径方向寸法に対して1/3以下とされることが望ましい。
【0046】
図9には、本発明の第二の実施形態としての筒形防振装置60が示されている。筒形防振装置60は、インナ軸部材12とアウタ筒部材62が本体ゴム弾性体16によって連結された構造とされている。本実施形態の説明において、第一の実施形態と実質的に同一の部材及び部位には、図中に同一の符号を付して説明を省略する。
【0047】
アウタ筒部材62は、全体としてC字筒状とされており、周方向の一部に分割部28を1つだけ備えている。従って、略円筒形状とされた筒状部20と、略円環板形状とされたフランジ部22は、周方向の一箇所において周方向に分割されている。
【0048】
分割部28は、一方のゴム腕34(
図9中の右方のゴム腕34)の外周側に位置しており、一方のゴム腕34の外周側に連結ゴム42が設けられて、他方のゴム腕34の外周側には連結ゴムがない。また、空所44も一方のゴム腕34の外周端部にだけ形成されている。
【0049】
このようなC字筒状のアウタ筒部材62を備えた筒形防振装置60によっても、前記第一の実施形態と同様の効果を得ることができる。即ち、アウタ筒部材62が図示しない装着用孔(52)に挿入される際に、分割部28に配された連結ゴム42が周方向に圧縮されることから、アウタ筒部材62に作用する応力を低減しつつ、アウタ筒部材62の装着用孔(52)に対する固定力(抜け抗力)を連結ゴム42の弾性によって有効に得ることができる。
【0050】
本実施形態に示すように、アウタ筒部材は必ずしも一対のアウタ分割体からなる分割構造体に限定されず、アウタ筒部材の分割部は、一対のゴム腕の少なくとも一方の外周側に設けられていればよい。
【0051】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、空所44の形状は、前記第一の実施形態の具体的な記載によって限定的に解釈されるものではなく、例えば、単なる円形孔であってもよいし、周方向に所定の長さで延びる孔断面形状などであってもよい。また、空所44の断面形状や大きさは、軸方向で変化していてもよい。
【0052】
周方向における連結ゴム42の幅寸法、換言すれば分割部28の幅寸法は、軸方向において一定である必要はなく、軸方向で変化していてもよい。なお、連結ゴム42の幅寸法と空所44の最大幅寸法との少なくとも一方が軸方向で変化している場合には、軸方向のどの位置で比較しても空所44の最大幅寸法が連結ゴム42の幅寸法よりも大きいことが望ましい。
【符号の説明】
【0053】
10 筒形防振装置(第一の実施形態)
12 インナ軸部材
14 アウタ筒部材
16 本体ゴム弾性体
18 ボルト挿通孔
20 筒状部
22 フランジ部
24 アウタ分割体
26 分割端部
28 分割部
30 すぐり溝
32 すぐり孔
34 ゴム腕
36 内周筒部
38 外周筒部
40 ストッパゴム
42 連結ゴム
44 空所
46 内周凹状面
48 外周凹状面
50 接続面
52 装着用孔
54 ホルダ
60 筒形防振装置(第二の実施形態)
62 アウタ筒部材