(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024004369
(43)【公開日】2024-01-16
(54)【発明の名称】火砕物構成粒子の解析システム及び火砕物構成粒子の解析プログラム
(51)【国際特許分類】
G06T 7/00 20170101AFI20240109BHJP
G06V 20/69 20220101ALI20240109BHJP
G06V 10/764 20220101ALI20240109BHJP
G01N 15/00 20240101ALI20240109BHJP
G01N 33/24 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G06T7/00 350B
G06V20/69
G06V10/764
G01N15/00 A
G01N33/24 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022104002
(22)【出願日】2022-06-28
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和3年8月27日 https://confit.atlas.jp/guide/event/geosocjp128/proceedings/list https://confit.atlas.jp/guide/event-img/geosocjp128/1poster18-20-03/public/pdf?type=in 〔刊行物等〕 一般社団法人日本地質学会第128年学術大会、令和3年9月4日
(71)【出願人】
【識別番号】000173809
【氏名又は名称】一般財団法人電力中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】石毛 康介
(72)【発明者】
【氏名】竹内 晋吾
(72)【発明者】
【氏名】上澤 真平
(72)【発明者】
【氏名】土志田 潔
【テーマコード(参考)】
5L096
【Fターム(参考)】
5L096AA02
5L096AA06
5L096DA01
5L096FA16
5L096FA64
5L096FA77
5L096GA34
5L096HA11
5L096KA04
5L096MA07
(57)【要約】
【課題】光学設計の自由度が高く、粒子の密集や接触、小さな粒子に対しても堅牢で効率的に火砕物構成粒子を解析することができる火砕物構成粒子の解析システム及び解析プログラムを提供する。
【解決手段】火砕物構成粒子を撮像して粒子画像を形成するデジタルカメラ2等と、粒子画像が入力されると火砕物構成粒子を囲む矩形を出力する検出モデル10と、検出モデル10に粒子画像を入力して矩形を取得し、矩形に囲まれた個々の火砕物構成粒子を粒子画像から切り出して個別粒子画像を形成する第1の解析手段11と、個別粒子画像が入力されると火砕物構成粒子のクラスを出力する分類モデル20と、分類モデル20に個別粒子画像を入力してクラスを取得することで火砕物構成粒子を分類する第2の解析手段21と、を備える。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
火砕物構成粒子を撮像して粒子画像を形成する撮像手段と、
前記粒子画像が入力されると前記火砕物構成粒子を囲む矩形を出力する第1の学習済モデルと、
前記第1の学習済モデルに前記粒子画像を入力して前記矩形を取得し、前記矩形に囲まれた個々の火砕物構成粒子を前記粒子画像から切り出して個別粒子画像を形成する第1の解析手段と、
前記個別粒子画像が入力されると前記個別粒子画像に撮像された火砕物構成粒子のクラスを出力する第2の学習済モデルと、
前記第2の学習済モデルに前記個別粒子画像を入力して前記クラスを取得することで火砕物構成粒子を分類する第2の解析手段と、
を備えることを特徴とする火砕物構成粒子の解析システム。
【請求項2】
請求項1に記載の火砕物構成粒子の解析システムであって、
前記粒子画像は、前記火砕物構成粒子の発生源ごとに形成されたものであり、
前記第1の学習済モデルは、発生源が異なっても共通に学習されたものである
ことを特徴とする火砕物構成粒子の解析システム。
【請求項3】
請求項1に記載の火砕物構成粒子の解析システムであって、
前記粒子画像は、前記火砕物構成粒子の発生源ごとに形成されたものであり、
前記第2の学習済モデルは、発生源ごとに学習されたものである
ことを特徴とする火砕物構成粒子の解析システム。
【請求項4】
請求項1に記載の火砕物構成粒子の解析システムであって、
前記粒子画像は、前記火砕物構成粒子の長辺が前記粒子画像の長辺の2.5-8%となるように撮像されている
ことを特徴とする火砕物構成粒子の解析システム。
【請求項5】
請求項1に記載の火砕物構成粒子の解析システムであって、
前記個別粒子画像が入力されると前記火砕物構成粒子の良又は不良の良否判定を出力する第3の学習済モデルを備え、
前記第2の解析手段は、前記第3の学習済モデルに前記個別粒子画像を入力して前記良否判定を取得し、良判定の前記個別粒子画像について前記クラスを取得して火砕物構成粒子を分類し、不良判定の前記個別粒子画像については火砕物構成粒子の分類を行わない
ことを特徴とする火砕物構成粒子の解析システム。
【請求項6】
請求項1に記載の火砕物構成粒子の解析システムであって、
前記粒子画像は、前記火砕物構成粒子の発生源ごとに形成されたものであり、
前記粒子画像に対して付された前記矩形を用いて、前記第1の学習済モデルを学習させる第1の学習手段を備え、
前記第1の学習手段は、異なる発生源の前記粒子画像及び前記矩形を用いて、共通の前記第1の学習済モデルを学習させる
ことを特徴とする火砕物構成粒子の解析システム。
【請求項7】
請求項1に記載の火砕物構成粒子の解析システムであって、
前記粒子画像は、前記火砕物構成粒子の発生源ごとに形成されたものであり、
前記個別粒子画像に対して付された前記クラスを用いて、前記第2の学習済モデルを学習させる第2の学習手段を備え、
前記第2の学習手段は、異なる発生源の前記個別粒子画像及び前記クラスを用いて、異なる発生源ごとの前記第2の学習済モデルを学習させる
ことを特徴とする火砕物構成粒子の解析システム。
【請求項8】
火砕物構成粒子が撮像された粒子画像から個々の火砕物構成粒子が切り出された個別粒子画像を形成する第1の解析手段、及び
前記個別粒子画像を分類する第2の解析手段
としてコンピュータを機能させる火砕物構成粒子の解析プログラムであって、
コンピュータは、
前記粒子画像が入力されると前記火砕物構成粒子を囲む矩形を出力する第1の学習済モデルと、
前記個別粒子画像が入力されると前記個別粒子画像に撮像された火砕物構成粒子のクラスを出力する第2の学習済モデルと、
を備え、
前記第1の解析手段は、前記第1の学習済モデルに前記粒子画像を入力して前記矩形を取得し、前記矩形に囲まれた個々の火砕物構成粒子を前記粒子画像から切り出して個別粒子画像を形成し、
前記第2の解析手段は、前記第2の学習済モデルに前記個別粒子画像を入力して前記クラスを取得することで前記火砕物構成粒子を分類する
ことを特徴とする火砕物構成粒子の解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、火砕物構成粒子を分類する火砕物構成粒子の解析システム及び火砕物構成粒子の解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
火砕物を構成する粒子(以下、火砕物構成粒子)は、噴火様式やマグマの性状などの情報を保持すると考えられており、その構成分率解析や形状解析は地質調査において基本的かつ重要な作業である。しかし、解析における粒子の種別を肉眼で鑑定する作業は判断の標準化が難しく労力がかかるため効率化が求められている。
【0003】
そこで、機械学習による画像処理をベースとした解析の自動化を目指す研究が行われている(例えば、非特許文献1参照)。このような研究の多くは粒子解析装置を用いて、大量の火砕物構成粒子を含む画像から個々の粒子画像を効率的に収集し利用している。しかし、先行研究では粒子の検出時に粒子画像の色情報を失う為、後工程の画像処理において肉眼鑑定と同様の判断を紐付ける事が困難であった。また装置の特性上、粒子の上限サイズに制約があり、火山礫サイズ以上の解析は依然、手作業の置換が難しい。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Shoji, D., Noguchi, R., Otsuki, S. and Hino, H. (2018) Classification of volcanic ash particles using aconvolutional neural network and probability. Scientific Reports.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記事情に鑑み、光学設計の自由度が高く、粒子の密集や接触、小さな粒子に対しても堅牢で効率的に火砕物構成粒子を解析することができる火砕物構成粒子の解析システム及び火砕物構成粒子の解析プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明の一態様は、火砕物構成粒子を撮像して粒子画像を形成する撮像手段と、前記粒子画像が入力されると前記火砕物構成粒子を囲む矩形を出力する第1の学習済モデルと、前記第1の学習済モデルに前記粒子画像を入力して前記矩形を取得し、前記矩形に囲まれた個々の火砕物構成粒子を前記粒子画像から切り出して個別粒子画像を形成する第1の解析手段と、前記個別粒子画像が入力されると前記個別粒子画像に撮像された火砕物構成粒子の分類を出力する第2の学習済モデルと、前記第2の学習済モデルに前記個別粒子画像を入力して前記分類を取得することで火砕物構成粒子を分類する第2の解析手段と、を備えることを特徴とする火砕物構成粒子の解析システムにある。
【0007】
上記目的を達成するための本発明の他の態様は、火砕物構成粒子が撮像された粒子画像から個々の火砕物構成粒子が切り出された個別粒子画像を形成する第1の解析手段、及び前記個別粒子画像を分類する第2の解析手段としてコンピュータを機能させる火砕物構成粒子の解析プログラムであって、コンピュータは、前記粒子画像が入力されると前記火砕物構成粒子を囲む矩形を出力する第1の学習済モデルと、前記個別粒子画像が入力されると前記個別粒子画像に撮像された火砕物構成粒子のクラスを出力する第2の学習済モデルと、を備え、前記第1の解析手段は、前記第1の学習済モデルに前記粒子画像を入力して前記矩形を取得し、前記矩形に囲まれた個々の火砕物構成粒子を前記粒子画像から切り出して個別粒子画像を形成し、前記第2の解析手段は、前記第2の学習済モデルに前記個別粒子画像を入力して前記クラスを取得することで前記火砕物構成粒子を分類することを特徴とする火砕物構成粒子の解析プログラムにある。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学設計の自由度が高く、粒子の密集や接触、小さな粒子に対しても堅牢で効率的に火砕物構成粒子を解析することができる火砕物構成粒子の解析システム及び火砕物構成粒子の解析プログラムが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係る解析システムの概略構成を示す図である。
【
図2】実施形態1に係る解析システム及び解析プログラムの機能を示す図である。
【
図3】実施形態1に係る粒子画像の一例を示す図である。
【
図4】実施形態1に係る矩形の一例を示す図である。
【
図5】実施形態1に係る個別粒子画像と分類を示す図である。
【
図6】実施形態1に係る解析プログラムの学習に関する機能を示す図である。
【
図7】教師データの作成のために粒子画像に付した矩形を示す図である。
【
図8】実施形態2に係る解析システム及び解析プログラムの機能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〈実施形態1〉
火砕物とは、噴火により火口から噴出された溶岩流を除く噴出物の総称である。火砕物は粒径により、火山岩塊、火山礫、火山灰があり、それらをまとめて火砕物構成粒子と称する。火砕物構成粒子は一般に次のような粒径である。火山灰は粒径が2mm未満のものであり、細粒火山灰とも呼ばれるものは粒径が約1/16mm以下である。火山礫は粒径が2mm-64mmのものである。火山岩塊は粒径が64mmより大きい粒子である。ここでは、火山V1又は火山V2の周辺で採取された火砕物構成粒子を分析する場合を例に挙げる。
【0011】
図1は解析システムの概略構成を示す図であり、
図2は解析システム及び解析プログラムの機能を示す図である。
図1に示すように、解析システム1は、ハードウェアとして、デジタルカメラ2、スキャナー3、顕微鏡カメラ4、及びコンピュータ5を備えている。コンピュータ5では解析プログラム6が実行される。本発明の解析システム1及び解析プログラム6は、火砕物構成粒子がどの様な粒径であっても、相当量の火砕物構成粒子が撮像された画像から個別の火砕物構成粒子を検出し、さらに火砕物構成粒子を分類する解析処理を実行する。
【0012】
デジタルカメラ2、スキャナー3、及び顕微鏡カメラ4は、何れも撮像手段の一例であり、火砕物構成粒子を撮像して画像を形成する装置である。現地で採取された火砕物構成粒子は、様々な粒径のものが混在しているが、大半を占めている粒径に合わせて撮像手段を選択する。例えば、粒径が20mm以上の火山礫や火山岩塊が主であるならデジタルカメラ2を用いて撮像する。粒径が0.5mm-20mmの火山灰や火山礫が主であるならスキャナー3で撮像する。粒径が0.5mm未満の火山灰が主であるなら顕微鏡カメラ4で撮像する。
【0013】
撮像手段によって得られた画像を粒子画像と称する。粒子画像は、火山V1又は火山V2ごとに撮像したものである。
図3に粒子画像の一例を示す。粒子画像はカラー画像であり、JPEGやPNGなど様々な形式を採用することができる。粒子画像には、解析対象となる火砕物構成粒子が相当量撮像されている。また、粒子画像は、背景を青色とすることが望ましい。青色を呈する火砕物構成粒子は稀であることから、画像から個別の火砕物構成粒子を検出しやすいからである。
【0014】
粒子画像は、デジタルカメラ2、スキャナー3、顕微鏡カメラ4の何れを用いた場合であっても、火砕物構成粒子の長軸のサイズが粒子画像の辺の2.5-8%程度となるように撮像されたものである。換言すれば、火砕物構成粒子の長軸のサイズが上述したサイズで撮像されるように、デジタルカメラ2等の光学ズーム機能、デジタルズーム機能、又は解像度の設定機能を利用して撮像したり、デジタルカメラ2と火砕物構成粒子の距離を調整して撮像する。また、火砕物構成粒子同士がなるべく接触せず、重ならないように粒子画像を撮像する。
【0015】
火砕物構成粒子の長軸のサイズは、火砕物構成粒子を篩等を用いて整粒すればよい。また、推論に用いられる粒子画像のサイズは特に限定はないが、学習に用いる粒子画像は1024×1024ピクセル程度とすることが好ましい。また、粒子画像は正方形である必要はなく、長方形であってもよい。また、火砕物構成粒子の長軸のサイズが粒子画像の短辺の2.5-8%程度とする。一枚の粒子画像あたりの火砕物構成粒子の密度(個数/枚)は、1-700個程度とすることが好ましい。
【0016】
デジタルカメラ2等の撮像手段からコンピュータ5に粒子画像を記憶させる手段は、特に限定されない。例えば、USBインターフェイス、リムーバブルメディア、無線又は有線LANなどを介して撮像手段からコンピュータ5の記憶装置に粒子画像を記憶させればよい。
【0017】
コンピュータ5は、CPUやGPUなどの処理装置、記憶装置(USBフラッシュドライブ・ソリッドステートドライブ・ハードディスクドライブ等)、入力装置(キーボード・マウス等)、出力装置(ディスプレイ等)、通信手段等を備える一般的な情報処理装置である。コンピュータ5は、撮像手段で撮像された粒子画像を入力データとし、粒子画像に撮像された火砕物構成粒子のそれぞれを検出するとともに分類する。
【0018】
コンピュータ5の記憶装置には、解析プログラム6や検出モデル10及び分類モデル20が記憶されている。解析プログラム6は、コンピュータ5を、第1の解析手段11、第2の解析手段21として機能させる。
【0019】
検出モデル10は、粒子画像が入力されると火砕物構成粒子を囲む矩形を出力するように学習されたモデルである。具体的には、畳み込みニューラルネットワーク(CNNと称されている)をベースとする画像中の物体を検出するアルゴリズムを実装したものであり、教師データを用いて学習させたものである。例えば、「You look only once」(YOLOと称されている)、「Single Shot Multibox Detector」(SSDと称されている)、「Region CNN」(RCNNと称されている)などを検出モデル10として用いることができる。
【0020】
検出モデル10は、火砕物構成粒子の発生源である火山ごとに作成・学習されたものでもよい。または、検出モデル10は、複数の火山に対して共通して作成・学習されたものでもよい。ここでは、火山V1及び火山V2に共通して作成・学習された検出モデル10を用いる場合について説明する。
【0021】
火砕物構成粒子を囲む矩形とは、粒子画像に撮像された個別の火砕物構成粒子を囲い、粒子画像中における火砕物構成粒子の位置及び大きさを特定する情報である。検出モデル10は、後述するアノテーションのルールに基づく矩形を学習している。そのように学習させた検出モデル10に粒子画像を与えて得られた矩形を、粒子画像に重畳させたものを
図4に示す。同図には検出モデル10が出力した矩形がピンク色で表示されている。各矩形は、個々の火砕物構成粒子を囲んでいることが分かる。なお、粒子画像の縁から0.2%以内にある火砕物構成粒子については検出モデル10により検知されても出力から除外している。したがって粒子画像の縁に近い火砕物構成粒子については矩形は表示されていない。
【0022】
第1の解析手段11は、矩形が付されていないテストデータとしての粒子画像を検出モデル10に入力して矩形を取得する推論を行う。そして、第1の解析手段11は、粒子画像から矩形に囲まれた火砕物構成粒子を切り出した画像を形成する。この画像を個別粒子画像と称する。個別粒子画像は、元の粒子画像と同様にカラー画像であり、JPEGやPNGなどのフォーマットである。また個別粒子画像のサイズは、分類モデル20を学習させる際に用いる個別粒子画像のサイズ(以下、所定サイズ)と同じにする。
【0023】
切り出した個別粒子画像が所定サイズからはみ出すようであれば、縮小し、切り出した個別粒子画像が所定サイズより小さいようであれば、拡大する。所定サイズとは異なるアスペクト比による余白が個別粒子画像に生じた場合、アスペクト比の変更もしくは余白を背景色のピクセルでパディング処理を行うことで第1の解析手段11は、
図4に示したピンク色実線の矩形に囲まれた火砕物構成粒子のそれぞれを所定サイズの個別粒子画像として形成する。
【0024】
分類モデル20は、個別粒子画像が入力されると、個別粒子画像に撮像された火砕物構成粒子の分類を出力するように学習されたモデルである。具体的には、CNNをベースとする画像を分類するアルゴリズムを実装したものであり、教師データを用いて学習させたものである。
【0025】
火山ごとの個別粒子画像から火山ごとの分類モデル20を作成してもよいし、複数の火山の個別粒子画像から一つの分類モデル20を作成してもよい。ここでは、前者の分類モデル20、すなわち、火山ごとの個別粒子画像によって学習された火山ごとの分類モデル20(火山V1用、火山V2用の分類モデル20)を用いる場合について説明する。
【0026】
分類とは、離散的な入力値を事前に定義された複数のクラスに分類することを指し、本発明においては、撮像された火砕物から抽出された個別粒子画像に付与されるであろうクラスを推定することを指す。クラスの具体例を
図5に示す。
【0027】
図5(a)は、クラスがスコリア(Scoria)である火砕物構成粒子が撮像された個別粒子画像である。
図5(b)はクラスが軽石である火砕物構成粒子が撮像された個別粒子画像である。
図5(c)は、クラスが岩片である火砕物構成粒子が撮像された個別粒子画像である。なお、3つのクラスは例示であり、スコリア等に限定されないし、クラスの数についても特に限定はない。
【0028】
分類モデル20は、
図5のような個別粒子画像が入力されると、個別粒子画像のそれぞれのクラスを予測し出力するよう学習されている。個別粒子画像はカラー画像であるので、色情報も活用された火砕物構成粒子の分類が実現されている。
【0029】
第2の解析手段21は、火山ごとに学習した複数の分類モデル20から一つを選択する。具体的には、火山V1から得られた火砕物構成粒子の個別粒子画像を入力データとするならば、火山V1用の分類モデル20を選択する。そして、第2の解析手段21は、火山V1用の分類モデル20に個別粒子画像を入力することで、火砕物構成粒子とその分類を取得する推論演算を行う。第2の解析手段21は、推論結果をコンピュータ5の記憶装置に出力し、又は表示装置に表示する。
【0030】
以上に述べたように、本発明の解析システム1及び解析プログラム6によれば、
図2に示したように、多数の火砕物構成粒子が撮像された粒子画像から、個別の火砕物構成粒子が火山V1又は火山V2のスコリア、軽石、岩片のクラスの何れかに属するかを解析することができる。
【0031】
図6を用いて、検出モデル10及び分類モデル20の学習について説明する。
図6に示すように、解析プログラム6は、検出モデル10を学習させるための第1の学習手段12と、分類モデル20を学習させるための第2の学習手段22とを備えている。ここでは、火山V1、火山V2について一つの検出モデル10を作成し学習させ、火山V1、火山V2ごとに分類モデル20を作成し学習させる場合について説明する。
【0032】
第1の学習手段12は、粒子画像と、粒子画像に対して付された矩形を教師データとして用い検出モデル10に学習させる。
【0033】
【0034】
表1の粒子画像Aは火山V1の粒子画像(ファイル)、粒子画像Bは火山V2の粒子画像(ファイル)を表わしている。Xleftは粒子画像における矩形の左上に位置する頂点のX座標であり、Ytopは粒子画像における矩形の左上に位置する頂点のY座標である。Xrightは粒子画像における矩形の右下に位置する頂点のX座標であり、Ybottomは粒子画像における矩形の右下に位置する頂点のY座標である。粒子画像A、粒子画像Bのそれぞれに複数の矩形が付されており、粒子画像A、粒子画像Bとその矩形が教師データとして検出モデル10に用いられる。もちろん、表1の教師データは例示であり、実際には学習精度を高めるべく適切な枚数の粒子画像を用意することが好ましい。なお、教師データは、データ拡張 (データオーギュメンテーション)により増量してもよい。また、座標表記は、Xleft、Ytop、Xright、Ybottomを採用したが、これに限定されない。物体の検出及び分類を行うアルゴリズムに応じて適宜選択すればよい。例えば、Xleft、Ytop、X方向の幅、Y方向の高さからなる座標表記によって矩形を表わしてもよい。
【0035】
通常、画像から物体の検出及び分類を行うYOLOなどのアルゴリズムでは、画像中に含まれる物体を囲む矩形(領域)とともに、分類を教師データとして用いる。本発明においても粒子画像に含まれる火砕物構成粒子を囲む矩形とともにクラスを付与するが、火砕物構成粒子の実際のクラスとは無関係に同一のクラスを付与する。表1の例では何れの矩形についてもクラスは「grain」とされている。
【0036】
上述した粒子画像に付される矩形(教師データ)は、例えば次のように作成する。第1の学習手段12は、まだ矩形が付されていない粒子画像をコンピュータ5の画面に表示する。次に、第1の学習手段12は、マウスの移動、クリックなどの操作に応じて粒子画像に重ねて矩形を描く処理を行う。そして、第1の学習手段12は、描かれた矩形の情報(コンピュータ5の画面における座標)に基づいて、表1に例示したような粒子画像における座標からなる矩形を計算し、教師データとして記憶装置に記憶させる。一般に、データに情報タグ(メタデータ)を付加することをアノテーションと称するが、ここでは粒子画像に矩形を付す操作をアノテーションと称する。
【0037】
ユーザーは、第1の学習手段12により実現される機能を利用することで、粒子画像、及びそれに撮像された火砕物構成粒子を視認しながら、マウス等の入力装置により火砕物構成粒子を囲む矩形を入力して教師データを作成することができる。教師データの矩形の作成、すなわちアノテーションにあたっては
図7及び以下に述べるルールを考慮することが好ましい。
【0038】
図7は、4角の点を結んだ緑色線からなる矩形がアノテーションとして粒子画像上に付与されたものを示している。
図7(a)に表示された赤色線からなる矩形は
図7(b)~
図7(f)のそれぞれに拡大されていることを示している。
・
図7(a):多数の火砕物構成粒子のそれぞれを矩形で囲む。
・
図7(b)-
図7(f):火砕物構成粒子の外形から0-5ピクセル程度の間隔を空けて矩形を作成する。
・
図7(c)白矢印:火砕物構成粒子を囲う矩形の長辺が1%に満たない場合は矩形を作成しない。
・
図7(d):火砕物構成粒子が近接、接触、又は重なっている場合は一つずつ分けて矩形を作成する。
・
図7(e):粒子画像の縁で切られた火砕物構成粒子に対しても矩形を作成する。
・
図7(f):火砕物構成粒子を囲う矩形の長辺が画像全体に対し1%以上でも、短辺が0.5%以下となるものには矩形を作成しない。
【0039】
検出モデル10の学習のさせ方は、YOLOやSSDなど物体の検出及び分類を行う公知のアルゴリズムを用いることができるので、詳細な説明は省略する。何れのアルゴリズムを用いても、表1のような粒子画像、矩形及び同一の分類からなる教師データを用いて学習された検出モデル10は、粒子画像から
図4に例示したような矩形を出力することができる。
【0040】
第2の学習手段22は、個別粒子画像と、個別粒子画像に対して付されたクラスを教師データとして用い分類モデル20に学習させる。分類モデル20は、火山V1、火山V2ごとに作成する。
【0041】
教師データの一例を表2に示す。表2の個別粒子画像X-Zは、火山V1の個別粒子画像(ファイル)を表わしている。クラスは、個別粒子画像に撮像された一粒の火砕物構成粒子のクラスを表わしている。特に例示しないが火山V2に関しても同様である。
【表2】
【0042】
分類モデル20の学習に用いる教師データ、すなわち個別粒子画像に付されるクラスは、例えば次のように作成する。第2の学習手段22は、まだクラスが付されていない個別粒子画像をコンピュータ5の画面に表示する。次に、第2の学習手段22は、ユーザーに、画面に表示した複数のクラスから何れか一つをマウスにより選択させたり、画面に表示した入力欄にキーボードによりクラスを入力させる処理を行う。そして、第2の学習手段22は、個別粒子画像とそのクラスを教師データとして記憶装置に記憶させる。このような処理を火山V1、火山V2ごとに行うことで、火山V1、火山V2ごとの教師データを作成する。なお、教師データは、データ拡張(データオーギュメンテーション)により増量してもよい。
【0043】
ユーザーは、第2の学習手段22により実現される機能を利用することで、個別粒子画像に撮像された火砕物構成粒子を視認しながら、マウスやキーボード等の入力装置により火砕物構成粒子の分類を入力して教師データを作成することができる。
【0044】
分類モデル20の学習のさせ方は、CNNをベースとする公知のアルゴリズムを用いることができるので、詳細な説明は省略する。何れのアルゴリズムを用いても、表2のような個別粒子画像及びクラスからなる教師データを用いて学習された分類モデル20は個別粒子画像に撮像された火砕物構成粒子のクラスを出力することができる。
【0045】
以上に説明したように、解析システム1及び解析プログラム6は、火砕物構成粒子を撮像した粒子画像から個別の火砕物構成粒子を検出し、その火砕物構成粒子が撮像された個別粒子画像を作成し、その個別粒子画像を分類することができる。このように火砕物構成粒子は一粒ごとに分類されるので、地質調査における火砕物構成粒子の構成分率解析や形状解析を効率化することができる。
【0046】
火砕物構成粒子の分類は、従来では肉眼で鑑定することにより実現されていた判断の標準化が難しく、労力がかかるものであった。しかしながら、本発明の解析システム1及び解析プログラム6によれば、火砕物構成粒子を分類は、鑑定作業を学習した検出モデル10及び分類モデル20により実現されるので、作業者の経験や技量に依存する事が無くなり、かつ、分類作業に掛かる労力を大幅に削減することができる。
【0047】
また、解析システム1は、撮像手段としてデジタルカメラ2等、任意の装置を採用することができる。換言すれば、火砕物構成粒子のサイズに合わせてデジタルカメラ2等を採用することができ、光学設計の自由度が高い。以上のことから、粒子の密集や接触、小さな粒子に対しても堅牢で効率的にサイズの異なる火山岩塊、火山礫、火山灰の何れについても解析することができる。さらに、光学設計の自由度が高いので高額かつ大型な解析装置を使用することなく解析システムを構築することができる。
【0048】
一般に、YOLOなどのアルゴリズムは、粒子画像から火砕物構成粒子の検出と分類を同時に行うことも可能である。しかしながらこのようなモデルを用いた場合、新たな発生源(火山)の火砕物構成粒子を分類させようとすると再学習及び教師データの作成に関するコストが増大してしまう。具体的には、新たな火山の火砕物構成粒子に関する分類の付与のみならず、粒子画像に矩形を付与し、モデルを再学習させる必要がある。
【0049】
しかしながら、本発明では、新たな発生源(火山)に対応して新たな分類モデル20を作成及び学習させればよく、検出モデル10を変更したり再学習させる必要はないというメリットがある。
【0050】
本発明の解析システム1及び解析プログラムは、粒子画像が火砕物構成粒子の発生源ごと(火山V1、火山V2)に形成されたものであり、検出モデル10は発生源が異なっても共通に学習されたものである。このような検出モデル10は、学習段階で用いていない火山の火砕物構成粒子の粒子画像であっても十分な精度の矩形を得ることができる。また、学習段階においては、火山ごとに検出モデル10を作成・学習させる必要がなくなり、学習コストを低減することができる。
【0051】
本発明の解析システム1及び解析プログラム6は、分類モデル20は発生源ごとに学習されたものである。これにより、発生源が異なっても共通に学習した分類モデルを用いた場合と比較して、精度よく個別粒子画像を分類することができる。
【0052】
火砕物構成粒子は、μmからcmオーダーにわたる様々なサイズである。仮に同じ縮尺で火砕物構成粒子を撮像して粒子画像とすると、特にμmオーダーの火山灰を検出することが難しくなってしまう。しかしながら、本発明の解析システム1及び解析プログラム6では、粒子画像は、火砕物構成粒子の長辺が前記粒子画像の長辺の2.5-8%となるように撮像されている。様々なサイズの火砕物構成粒子であっても、篩等を用いて粒径分布を2φ程度ずつに分割するような簡易な前処理により、検出モデル10により矩形を検出し、個別の火砕物構成粒子が撮像された個別粒子画像を得ることができる。
【0053】
本発明の解析システム1及び解析プログラム6は、粒子画像が火砕物構成粒子の発生源ごと(火山V1、火山V2)に形成されたものであり、発生源が異なっても共通の検出モデル10を学習させる。学習段階で用いていない火山の火砕物構成粒子の粒子画像であっても十分な精度の矩形を出力する検出モデル10を作成することができる。
【0054】
本発明の解析システム1及び解析プログラム6は、発生源ごとに分類モデル20を学習させる。これにより、発生源が異なっても共通に学習した分類モデルと比較して、精度よく個別粒子画像を分類する分類モデル20を作成することができる。
【0055】
〈実施形態2〉
図8を用いて実施形態2の解析システム1及び解析プログラム6について説明する。実施形態1と同一のものには同一の符号を付し、重複する説明は省略する。実施形態2の解析システム1及び解析プログラム6は良否判定モデル30を備えている。
【0056】
良否判定モデル30は、個別粒子画像が入力されると、火砕物構成粒子の良又は不良の良否判定を出力するように学習されたモデルである。具体的には、CNNをベースとする画像を分類するアルゴリズムを実装したものであり、教師データを用いて学習させたものである。教師データとしては、個別粒子画像と良又は不良の良否判定の組を用いる。このような教師データを用いて公知の方法によって良否判定モデル30を学習させる。
【0057】
火山ごとの個別粒子画像から火山ごとの良否判定モデル30を作成してもよいし、複数の火山の個別粒子画像から一つの良否判定モデル30を作成してもよい。ここでは、後者の良否判定モデル30、すなわち、火山V1及び火山V2に共通して作成・学習された良否判定モデル30を用いる場合について説明する。
【0058】
不良判定は、複数の火砕物構成粒子が接触又は重なって撮像されていたり、大半の領域が撮像されていないなど、一つの火砕物構成粒子が収まっていない個別粒子画像に対して付与される。良判定は、一つの火砕物構成粒子が収まっている個別粒子画像に対して付与される。
【0059】
第2の解析手段21Aは、個別粒子画像を良否判定モデル30に入力して良否判定を取得する。そして、良判定の個別粒子画像を分類モデル20に入力してクラスを取得することで火砕物構成粒子を分類する。一方、第2の解析手段21Aは、不良判定の個別粒子画像については火砕物構成粒子の分類を行わない。
【0060】
以上に説明したように、実施形態2の解析システム1及び解析プログラム6は、個別粒子画像を分類する前に、良否判定モデルを用いて個別粒子画像の良否判定を行う。これにより、一粒の火砕物構成粒子が収まっていないような不良の個別粒子画像が分類されてしまい、分類精度が低下することを回避することができる。第1の解析手段11は検出モデル10を用いて個別粒子画像として作成するものであるが、全ての個別粒子画像に一粒の火砕物構成粒子が収まっているとは限らない。しかしながら、良否判定モデル30によって不良の個別粒子画像は除外されるので、最終的に得られる火砕物構成粒子の分類の精度を向上することができる。
【0061】
なお、分類モデル20が出力するクラスの一つとして、スコリア、軽石などの他に例えば「不良形状」を追加して分類モデル20を学習させてもよい。ただ、不良判定されるような個別粒子画像の数が非常に少ないことから学習させても精度が向上しない虞がある。したがって、分類モデル20には良否判定を行わせずに火砕物構成粒子の分類だけを行わせ、良否判定については分類モデル20とは別に良否判定モデル30に行わせることが好ましい。
【0062】
本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではない。例えば、検出モデル10は、複数の火山(火山V1、火山V2)に共通のものとしたが、複数の火山ごとに異なる検出モデル10を作成・学習させてもよい。分類モデル20は、複数の火山ごとに作成・学習させたが、複数の火山に共通した分類モデル20を作成・学習させてもよい。
【0063】
火砕物構成粒子の発生源として火山V1、火山V2を例に挙げたが、このような例に限定されない。発生源は一箇所でもよく、2箇所以上でもよい。
【0064】
コンピュータは、一台に限定されず複数台であってもよく、各モデルの学習や各モデルに入力データを与えて出力データを得る推論演算を複数台のコンピュータで分散して実行してもよい。また、モデルの学習と推論演算を同一のコンピュータで実行する必要はなく、異なるコンピュータで実行してもよい。
【0065】
また、実施形態1及び実施形態2の撮像手段であるデジタルカメラ2等は、粒子画像を直接的に形成する装置であるが、撮像手段はこれに限定されない。例えばフィルムに撮像するカメラと、カメラで撮影された写真をデジタルデータ化するスキャナ等を撮像手段とすることもできる。
【0066】
なお、実施形態1及び実施形態2で説明した検出モデル10、分類モデル20、良否判定モデル30は、それぞれ請求項の第1の学習済モデル、第2の学習済モデル、第3の学習済モデルの一例である。
【符号の説明】
【0067】
1…解析システム、2…デジタルカメラ、3…スキャナー、4…顕微鏡カメラ、5…コンピュータ、6…解析プログラム、10…検出モデル(第1の学習済モデル)、11…第1の解析手段、12…第1の学習手段、20…分類モデル(第2の学習済モデル)、21、21A…第2の解析手段、22…第2の学習手段、30…良否判定モデル(第3の学習済モデル)