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特開2024-43701ヘッドアップディスプレイ装置およびヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043701
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】ヘッドアップディスプレイ装置およびヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 27/01 20060101AFI20240326BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20240326BHJP
【FI】
G02B27/01
G02B1/111
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148843
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】399020212
【氏名又は名称】東山フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】弁理士法人上野特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】夏目 紗希
【テーマコード(参考)】
2H199
2K009
【Fターム(参考)】
2H199DA03
2H199DA13
2H199DA15
2H199DA42
2H199DA43
2K009AA04
2K009BB24
2K009CC09
2K009CC21
(57)【要約】      (修正有)
【課題】ゴースト現象の発生を高生産性かつ低コストで抑制した、ヘッドアップディスプレイ装置、およびヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材を提供する。
【解決手段】表示光を出射する出射部と、筐体18の出射部から出射された表示光に対して50°以下の角度で傾斜させて設けられたカバー部材12と、を有するヘッドアップディスプレイ装置10であって、カバー部材12は、筐体18の外側から順に、基材フィルムと低屈折率層を有し、低屈折率層の厚みは、理論膜厚d(nm)に対し、d-13nm以上、d+13nm以下である。

は低屈折率層の波長555nmにおける屈折率を表し、nは1.25以上、1.32以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
表示光を出射する出射部と、
前記出射部を内部に収容し、前記出射部から出射された前記表示光を通過させる開口部を有する筐体と、
前記筐体の前記開口部を覆い、前記出射部から出射された前記表示光に対して50°以下の角度で傾斜させて設けられたカバー部材と、を有するヘッドアップディスプレイ装置であって、
前記カバー部材は、前記筐体の外側から順に、基材フィルムと、前記基材フィルム上に形成された低屈折率層と、を有し、
前記低屈折率層の厚みは、下記式(1)により得られた前記低屈折率層の理論膜厚d(nm)に対し、d-13nm以上、d+13nm以下であることを特徴とする、ヘッドアップディスプレイ装置。
【数1】
ここで、nは前記低屈折率層の波長555nmにおける屈折率を表し、nは1.25以上、1.32以下である。
【請求項2】
前記低屈折率層は、バインダー樹脂および中空シリカ粒子を含有し、
前記低屈折率層を形成する組成物の固形分100質量%に対して、
前記バインダー樹脂の含有率は、20質量%以上、50質量%以下であり、
前記中空シリカ粒子の含有率は、50質量%以上、80質量%以下であり、
フッ素化合物およびシリコーン化合物を、1質量%より多く含有しない、請求項1に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項3】
前記基材フィルムが、ポリカーボネート樹脂を主成分として構成される、請求項1または請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項4】
前記基材フィルムの厚みは、100μm以上、1000μm以下である、請求項1または請求項2に記載のヘッドアップディスプレイ装置。
【請求項5】
ヘッドアップディスプレイ装置において、表示光が通過する開口部を覆うカバー部材であって、
基材フィルムと、前記基材フィルム上に形成された低屈折率層と、を有し、
前記低屈折率層の厚みが、下記式(1)により得られた前記低屈折率層の理論膜厚d(nm)に対し、d-13nm以上、d+13nm以下であることを特徴とする、ヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材。
【数2】
ここで、nは前記低屈折率層の波長555nmにおける屈折率を表し、nは1.25以上、1.32以下である。
【請求項6】
前記低屈折率層は、バインダー樹脂および中空シリカ粒子を含有し、
前記低屈折率層を形成する組成物の固形分100質量%に対して、
前記バインダー樹脂の含有率は、20質量%以上、50質量%以下であり、
前記中空シリカ粒子の含有率は、50質量%以上、80質量%以下であり、
フッ素化合物およびシリコーン化合物を、1質量%より多く含有しない、請求項5に記載のヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表示光を出射する開口をカバー部材で覆ったヘッドアップディスプレイ装置、およびヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、車両のインストルメントパネルに設置するヘッドアップディスプレイが普及しつつある。ヘッドアップディスプレイは、液晶表示装置等から出射した表示光をフロントガラスまたは他の投影部材に向けて投影して、運転手の視界内に様々な情報を表示する装置であり、コンバイナー等専用のディスプレイに表示するタイプのものや、フロントウィンドウに走行情報を映すタイプのものなどが開発されている。ヘッドアップディスプレイにより、運転者は前方の視界から目をそらすことなく自動車等の運転に必要な情報を認識することができる。
【0003】
例えば特許文献1に開示されるもののように、表示光を出力する表示器と、表示光を反射する反射板と、表示器および前記反射板を内部に収容する筐体とを有し、表示器から出射された表示光を筐体の開口部を覆うカバー部材を通してフロントウィンドウ等に投影するヘッドアップディスプレイ装置が公知である。この形態において、筐体の開口部を覆うカバー部材は、表示光の投射方向に対して垂直ではなく、角度をもって設けられることが多い。カバー部材が出射光に対して角度をもつ場合、カバー部材を表示光入射側表面(筐体の内側に向いた表面)から透過しようとする表示光が、カバー部材の出射側表面(筐体の外側に向いた表面)と空気との界面で反射し、さらに入射側表面と空気との界面で反射して、フロントウィンドウ等の投影部材に映り込み、二重像が発生する現象(ゴースト現象)が現れることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-174416号公報
【特許文献2】特開2019-089480号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘッドアップディスプレイ装置において、カバー部材における反射を低減することで、ゴースト現象を軽減できる可能性がある。例えば、特許文献2に、目的は異なるものの、ヘッドアップディスプレイ装置のカバー部材に、反射防止膜を設ける形態が開示されている。特許文献2では、反射防止膜は、誘電体多層膜より構成されている。誘電体多層膜、つまり屈折率の異なる薄膜を交互に積層した多層膜よりなる反射防止層を設ければ、垂直に入射した光から角度を持って入射した光まで様々な角度の光に対して反射防止効果を得ることができる。しかしながら、このような多層膜からなる反射防止層は、製造に多数の薄膜を積層する工程が必要となることから、生産性が低いうえ、製造コストの増大をきたすという問題がある。
【0006】
本発明が解決しようとする課題は、ゴースト現象の発生を高生産性かつ低コストで抑制した、ヘッドアップディスプレイ装置、およびヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置は、以下の構成を有する。
[1]本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置は、表示光を出射する出射部と、前記出射部を内部に収容し、前記出射部から出射された前記表示光を通過させる開口部を有する筐体と、前記筐体の前記開口部を覆い、前記出射部から出射された前記表示光に対して50°以下の角度で傾斜させて設けられたカバー部材と、を有するヘッドアップディスプレイ装置であって、前記カバー部材は、前記筐体の外側から順に、基材フィルムと、前記基材フィルム上に形成された低屈折率層と、を有し、前記低屈折率層の厚みは、下記式(1)により得られた前記低屈折率層の理論膜厚d(nm)に対し、d-13nm以上、d+13nm以下である。
【数1】
ここで、nは前記低屈折率層の波長555nmにおける屈折率を表し、nは1.25以上、1.32以下である。
【0008】
[2]上記[1]の態様において、前記低屈折率層は、バインダー樹脂および中空シリカ粒子を含有し、前記低屈折率層を形成する組成物の固形分100質量%に対して、前記バインダー樹脂の含有率は、20質量%以上、50質量%以下であり、前記中空シリカ粒子の含有率は、50質量%以上、80質量%以下であり、フッ素化合物およびシリコーン化合物を、1質量%より多く含有しない構成であるとよい。
【0009】
[3]上記[1]または[2]の態様において、前記基材フィルムは、ポリカーボネート樹脂を主成分として構成されるとよい。
[4]また、上記[1]から[3]のいずれか1つの態様において、前記基材フィルムの厚みは、100μm以上、1000μm以下であるとよい。
【0010】
[5]本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材は、ヘッドアップディスプレイ装置において、表示光が通過する開口部を覆うカバー部材であって、基材フィルムと、前記基材フィルム上に形成された低屈折率層と、を有し、前記低屈折率層の厚みが、下記式(1)により得られた前記低屈折率層の理論膜厚d(nm)に対し、d-13nm以上、d+13nm以下である。
【数2】
ここで、nは前記低屈折率層の波長555nmにおける屈折率を表し、nは1.25以上、1.32以下である。
【0011】
[6]上記[5]の態様において、前記低屈折率層は、バインダー樹脂および中空シリカ粒子を含有し、前記低屈折率層を形成する組成物の固形分100質量%に対して、前記バインダー樹脂の含有率は、20質量%以上、50質量%以下であり、前記中空シリカ粒子の含有率は、50質量%以上、80質量%以下であり、フッ素化合物およびシリコーン化合物を、1質量%より多く含有しない構成であるとよい。
【発明の効果】
【0012】
[1]本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置によれば、表示光を出射する出射部と、前記出射部を内部に収容し、前記出射部から出射された前記表示光を通過させる開口部を有する筐体と、前記筐体の前記開口部を覆い、前記出射部から出射された前記表示光に対して50°以下の角度で傾斜させて設けられたカバー部材と、を有するヘッドアップディスプレイ装置であって、前記カバー部材は、前記筐体の外側から順に、基材フィルムと、前記基材フィルム上に形成された低屈折率層と、を有し、前記低屈折率層の厚みは、下記式(1)により得られた前記低屈折率層の理論膜厚d(nm)に対し、d-13nm以上、d+13nm以下であることから、誘電体多層膜のように、生産性が低く、高コストの材料を用いなくても、多様な角度で入射した光に対して反射防止効果が得られ、ゴースト現象の発生を高生産性かつ低コストで抑制することができる。
【数3】
は低屈折率層の波長555nmにおける屈折率を表し、nは1.25以上、1.32以下である。
【0013】
[2]前記低屈折率層が、バインダー樹脂および中空シリカ粒子を含有し、前記低屈折率層を形成する組成物の固形分100質量%に対して、前記バインダー樹脂の含有率が、20質量%以上、50質量%以下であり、前記中空シリカ粒子の含有率が、50質量%以上、80質量%以下であり、フッ素化合物および/またはシリコーン化合物を、1質量%より多く含有しない場合には、カバー部材は、優れたゴースト抑制効果を有し、また低屈折率層の面上に印刷層を設けた場合において、印刷層が良好な密着性を有するものとなる。
【0014】
[3]前記基材フィルムが、ポリカーボネート樹脂で構成される場合には、カバー部材は耐熱性や耐衝撃性を有する。
[4]前記基材フィルムの厚みが、100μm以上、1000μm以下である場合には、カバー部材は、高強度や高剛性とともに高い耐屈曲性を有し、一方で、表示光とゴースト光との位置のズレ量が小さいものとなる。
【0015】
[5]本発明に係るヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材は、基材フィルムの上に低屈折率層を備え、その低屈折率層が、上記式(1)で表される関係を屈折率との間に有する理論膜厚d(nm)に対して、d-13nm以上、d+13nm以下の範囲の膜厚を有していることで、誘電体多層膜のように、生産性が低く、高コストの材料を用いなくても、多様な角度で入射した光に対して反射防止効果を示す。そのため、本発明に係るカバー部材を、ヘッドアップディスプレイ装置において、表示光が通過する開口部を覆うカバー部材として、表示光に対して50°以下の角度で傾斜させて設ければ、カバー部材での表示光の反射に由来するゴースト現象の発生を、高生産性かつ低コストで抑制することができる。
【0016】
[6]前記低屈折率層が、所定量のバインダー樹脂および中空シリカ粒子を含有する上記の組成を有する場合には、カバー部材が、ヘッドアップディスプレイ装置において、優れたゴースト抑制効果を発揮し、また低屈折率層の面上に印刷層を設けた場合において、印刷層が良好な密着性を有するものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の模式図である。
図2】本発明の一実施形態に係るカバー部材の断面図である。
図3】低屈折率層の屈折率が1.25~1.32の3とおりの場合について、理論膜厚と、視感反射率が1.2%以下となる範囲を示す図である。3群の曲線のうち、中央に太線で示されるものが理論膜厚であり、上方および下方に示されるものが、それぞれ視感反射率が1.2%以下となる範囲の膜厚値の上限および下限を示している。曲線は、屈折率ごとに、同じ線種で表示している。
図4】実施例1,2および比較例1の膜厚とともに(実線にて表示)、低屈折率層の屈折率が1.3である場合について、入射角が30°~50°の範囲で、ゴースト現象を抑制できる範囲を示す図である(点線にて表示;図3より抜粋)。理論膜厚dについても、破線にて表示している。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。以下、特記しないかぎり、各種物性値は、室温、大気中における値とする。
【0019】
<ヘッドアップディスプレイ装置の概略>
図1は、本発明の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置の模式図である。本発明の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置1は、本発明の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材12を備えている。詳細には、図1に示すように、本発明の一実施形態に係るヘッドアップディスプレイ装置10は、表示光を出射する出射部と、出射部をを内部に収容する筐体18と、筐体18の開口部を覆うカバー部材12を有する。ヘッドアップディスプレイ装置10は、自動車等の車両に搭載され、フロントウインドウや専用ディスプレイ等の投影部材に、情報を投影する。ヘッドアップディスプレイ装置10において、出射部は、表示光を投影部材に向かって出射できるものであれば、どのようなものであっても構わないが、以下では、出射部が、表示光を出力する表示器14と、表示光を反射する反射板16とから構成される形態を例として扱う。それら表示器14および反射板16が筐体18に収容されている。
【0020】
(表示器)
表示器14は、表示光を出力する装置であり、好ましくは画像を表示する表示パネルと、表示パネルを照明する光源と、を有する。表示パネルとしては、例えば液晶パネルが挙げられ、制御装置から出力される指令に応じて画像(文字を含む;以下同)を表示する。光源としては、例えば発光ダイオード(LED)、有機発光ダイオード(OLED)、レーザー装置などが挙げられる。光源から発せられた光が表示パネルを透過することにより、表示パネルに表示される画像を含む表示光が表示器14から出射される。
【0021】
(反射板)
反射板16は、表示器14から出射された表示光の光路上に配置され、表示光を反射する。反射板16は、平面鏡であってもよく凹面鏡であってもよいが、凹面鏡であることが好ましい。凹面鏡を用いることにより、投影される画像を拡大して表示することができる。凹面鏡の曲率半径は、目的、投影される画像の大きさなどに応じて設定される。
【0022】
(筐体)
筐体18は、表示器14および反射板16を収容可能な内部空間を有する箱状の部材であり、それらの部材14,16を収容している。筐体18は、開口部を有し、表示器14から出射された表示光が、この開口部を通過して、筐体18の外部に放たれる。筐体18を構成する材料としては、好ましくは太陽光の照射によって昇温し難くかつ成形し易い材料が挙げられる。このような材料の具体例としては、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、フッ素系樹脂、フェノキシ系樹脂が挙げられる。筐体18は、例えば自動車のダッシュボードに組み込まれていてもよいし、自動車と独立した部材として構成されて、自動車に取り付けられてもよい。
【0023】
(カバー部材)
カバー部材12は、筐体18の内部に塵埃が入らないように筐体18の開口部を覆う板状(シート状である場合も含む)の部材である。カバー部材12は可視光透過性を有し、反射板16にて反射された表示光は、カバー部材12を透過して筐体18の外部に放たれ、コンバイナーや車両のフロントウィンドウなどの投影部材に反射して運転者の視界に届く。通常、カバー部材12は、車両の進行方向および/または幅方向に湾曲させた状態で筐体18に固定される。カバー部材12は、出射部から出射された表示光に対して50°以下の角度で傾斜させて、筐体18に設けられている。つまり、カバー部材12と、カバー部材12に入射する表示光とがなす角度θは、カバー部材の12の面に表示光が垂直に入射したときの角度を0°とした場合、0°超50°以下の角度を有している。
【0024】
本実施形態においては、カバー部材12は、湾曲させた状態で筐体18に取り付けられており、角度θが、0°超50°以下の範囲内で連続的に変化しているが、表示光に対するカバー部材12の傾斜角θが0°超50°以下の範囲に収まっていれば(0°<θ≦50°)、このように傾斜角θが連続的に変化する形態に限られるものではない。例えば平面的に保たれたカバー部材12が、表示光に対して傾斜して設けられていてもよい。一般的なヘッドアップディスプレイ装置においては、開口部に取り付けたカバー部材が表示光に対してなす角度が50°以下となるように、筐体が設計されている。フレネルの式によると、入射角50°を超えると光線透過率が急激に低下するが、カバー部材の角度を50°以下としておけば、表示光を高透過率で透過させることができる。
【0025】
図2は、上記ヘッドアップディスプレイ装置10に設けられるカバー部材12の一例を示す断面図である。カバー部材12は、基材フィルム121と、基材フィルム121上に設けられた低屈折率層122とを有する。カバー部材12は、表示光が入射する方向に対して低屈折率層122が表面となるように配置される。即ち筐体18の開口部を、低屈折率層122を内側に向けて覆うようにしてカバー部材12が配置される。カバー部材12は、基材フィルム121と空気との界面123、基材フィルム121と低屈折率層122との界面124、および低屈折率層122と空気との界面125を有している。
【0026】
(基材フィルム)
基材フィルム121は、透明性を有していることが好ましい。基材フィルム121としては、透明高分子フィルム、ガラスフィルムなどが好適に挙げられる。透明性とは、可視光波長領域における全光線透過率が50%以上であることをいい、全光線透過率は、より好ましくは85%以上である。上記全光線透過率は、JIS K7361-1(1997)に準拠して測定することができる。基材フィルム121の厚みは、部材としての強度や剛性などの観点から、100μm以上であることが好ましい。より好ましくは150μm以上、さらに好ましくは250μm以上、特に好ましくは350μm以上である。一方で基材フィルム121の厚みは、耐屈曲性の確保や、表示光とゴースト光との位置のズレ量を小さくするなどの観点から、1000μm以下であることが好ましい。より好ましくは800μm以下、さらに好ましくは600μm以下である。なお、「フィルム」とは、一般に厚さが0.25mm未満のものをいうが、厚さが0.25mm以上のものであってもロール状に巻くことが可能であれば、厚さが0.25mm以上のものであっても「フィルム」に含まれるものとする。
【0027】
基材フィルム121の高分子材料としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂,ポリエチレンナフタレート樹脂などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアクリロニトリル樹脂、ポリプロピレン樹脂,ポリエチレン樹脂,ポリシクロオレフィン樹脂,シクロオレフィンコポリマー樹脂などのポリオレフィン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂,ジアセチルセルロース樹脂などのセルロース系樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリビニルアルコール樹脂などが挙げられる。基材フィルム121の高分子材料は、これらのうちの1種のみで構成されていてもよいし、2種以上の組み合わせで構成されていてもよい。これらのうちでは、光学特性や耐久性などの観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリイミド樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ(メタ)アクリレート樹脂、ポリシクロオレフィン樹脂、シクロオレフィンコポリマー樹脂、トリアセチルセルロース樹脂がより好ましい。これらの中でも、基材フィルム121は、耐熱性や耐衝撃性の観点からポリカーボネート樹脂を主成分として含有することが特に好ましい。
【0028】
基材フィルム121は、上記高分子材料の1種または2種以上を含む層からなる単層で構成されていてもよいし、上記高分子材料の1種または2種以上を含む層と、この層とは異なる高分子材料の1種または2種以上を含む層など、2層以上の層で構成されていてもよい。カバー部材12の構成の簡素性の観点からは、基材フィルム121を単層で構成することが好ましい。
【0029】
(低屈折率層)
本実施形態に係るカバー部材12において、基材フィルム121の面上には、低屈折率層122が設けられている。低屈折率層122は基材フィルム121よりも低い屈折率を有するものであって、カバー部材12の反射を低減し、光線透過率を向上させる機能を有する。さらに、カバー部材12を透過しようとする表示光が、基材フィルム121と空気との界面123で反射し、さらに低屈折率層122と空気との界面125で反射してフロントウィンドウ等に映り込むことで二重像が発生する現象(ゴースト現象)を抑制する機能を有する。
【0030】
(1)低屈折率層の厚み
低屈折率層122の厚みは、下記式(1)により得られた低屈折率層122の理論膜厚d(nm)に対し、d-13nm以上、d+13nm以下である。
【数4】
ここで、nは低屈折率層122の波長555nmにおける屈折率を表し、nは1.25以上、1.32以下である。
【0031】
低屈折率層122の屈折率が1.25以上であると、高強度を与える比較的高屈折率の材料を用いて低屈折率層122を構成できるようになり、低屈折率層122の強度を十分なものとすることができる。例えば、後に例示するように、低屈折率層122を、バインダー樹脂と中空シリカを含有する材料より構成する場合に、低屈折率を与える中空シリカの含有量を抑制し、高強度を与えるバインダー樹脂の含有量を多くすることができる。一方、屈折率が1.32以下であると、カバー部材12のゴースト抑制効果をより優れたものとすることができる。広い角度範囲で高い反射防止性を得るために、屈折率の異なる薄膜を交互に3層以上積層した多層膜にすることも必要ない。上記観点から低屈折率層122の屈折率は、より好ましくは1.27以上、さらに好ましくは1.28以上であり、一方で、1.31以下、さらに好ましくは1.30以下である。なお、低屈折率層122は、上記範囲の屈折率と式(1)によって定まる厚さdを有する単一の層より構成されることが好ましいが、多層膜を構成する場合等、他種の層と積層されて、基材フィルム121の表面に設けられることを妨げるものではない。
【0032】
低屈折率層122の理論膜厚dを規定する式(1)は、以下に示す様に導出される。その導出過程を、ゴースト現象の発生機構とともに説明する。
【0033】
図2に示すように、カバー部材12を透過しようとする表示光は、基材フィルム121と空気との界面123で透過光と反射光に分かれる。その反射光の一部は、再び基材フィルム121と低屈折率層122との界面124で反射され(図中の成分a)、さらに別の一部は、低屈折率層122と空気との界面125で反射される(図中の成分b)。それらの反射光(成分aおよび成分b)が、反射を受けずにカバー部材12を透過した表示光とは異なる位置から出射され、投影部材に投影されることで、投影像が二重あるいはそれ以上の多重にぼやけるゴースト現象が発生する。
【0034】
ここで、基材フィルム121と低屈折率層122との界面124で生じた反射光(成分a)と、低屈折率層122と空気との界面125で生じた反射光(成分b)の波形が逆位相であると、光干渉効果によって反射が軽減される。表示光がカバー部材12に垂直(0°)に入射した場合、低屈折率層122の厚みdが下記式(2)に規定される厚みであるとそれらの反射光が逆位相となり、光干渉効果によって反射光を軽減することができる。
【数5】
【0035】
一方で、表示光がカバー部材12に対して斜めに入射した場合、表示光は下記式(3)で表されるスネルの法則に従って、図2に示すように屈折する。
【数6】
ここで、nは空気の屈折率を表し、1である。θは表示光のカバー部材12に対する入射角を表し、θは入射角θの光について低屈折率層122と空気との界面125における屈折角を表す。
【0036】
さらに角度θで低屈折率層122を通った表示光は、基材フィルム121と低屈折率層122との界面124で、下記式(4)に従って屈折する。
【数7】
ここで、nは基材フィルム121の屈折率を表し、θは入射角θの光について基材フィルム121と低屈折率層122との界面124における屈折角を表す。
【0037】
そして基材フィルム121を通った表示光は、基材フィルム121と空気との界面123で透過光と反射光に分かれ、透過光は、カバー部材12から出射されて、自動車のフロントウィンドウ等の投影部材に投影される。一方、反射光は角度θで再びカバー材12中に戻る。さらに反射光は角度θで低屈折率層122に入射し、低屈折率層122と空気との界面125で反射してカバー部材12から出射して(成分b)、投影部材に投影され、ゴースト光として運転者に視認される。なお、ゴースト光(成分b)は、低屈折率層122の厚みをd(nm)、基材フィルム121の厚みをd(nm)とした場合、基材フィルム121と空気との界面123上では表示光から(2dtanθ+2dtanθ)nmの距離だけ離れた位置に現れる。これにより、表示光(透過光)とゴースト光(反射光)が、投影部材上で、ずれた位置に投影される。
【0038】
そして、基材フィルム121と空気との界面123で生じた反射光が、屈折角θで低屈折率層に入射したときの低屈折率層122内の光路長は、低屈折率層122に垂直入射したときの光路長の(1/cosθ)となる。したがって、表示光の入射方向とカバー部材12がθの角度を有する場合、基材フィルム121と低屈折率層122との界面124で反射した光(成分a)と、低屈折率層122と空気との界面125で反射した光(成分b)とで光の波形を逆位相とすることができる低屈折率層122の理論膜厚dは、下記式(5)で表される。
【数8】
【0039】
式(2)、(3)、および(5)を整理すると、表示光の入射角とカバー部材12とがθの角度を有し、低屈折率層122の屈折率がnであるときの、低屈折率層122の理論膜厚d、つまり低屈折率層122による薄膜干渉で反射光の打ち消しが起こる低屈折率層122の膜厚の計算値は、下記式(6)となる。
【数9】
【0040】
ここで、理論膜厚dを具体的に決定するために、式(6)に代入するλおよびθを決定する必要がある。まず、λに関しては、表示器14から出射される光が単色光である場合には、その単色光の波長を採用すればよい。一方、一般的な自動車用のヘッドアップディスプレイ装置のように、表示光から出射される光が可視光の広い範囲にわたっている場合には、人間の目が光の各波長ごとの明るさを感じる強さを表した比視感度のピークである555nmをλとして採用すればよい。そのλ値にて理論膜厚dを設定すれば、そのλ値における反射率が極小値をとり、人間の目が感じるゴースト現象を効果的に低減することができる。
【0041】
カバー部材12は、θが30°~50°の範囲において反射を抑制できればよい。θが30°未満の場合、ゴースト光と表示光との位置ズレ量が小さいことから、実質的にゴースト現象は問題とならないためである。50°との角度は、カバー部材12の湾曲形状について設定されるθの上限である。
【0042】
図3は、基材フィルム121としての屈折率1.58のポリカーボネートフィルム上に、低屈折率層122を設けた形態において、λが555nmで、低屈折率層122の屈折率nが1.25~1.32の範囲の3とおりの場合について、理論膜厚dと、低屈折率層122の視感反射率が1.2%以下になる範囲を合わせて示している。ここで、上下3群の曲線群のうち、中央に太線で示されるものが理論膜厚dである。一方、上方および下方に表示されている曲線群が、それぞれ視感反射率が1.2%以下となる範囲の膜厚値の上限および下限を示している。つまり、各屈折率について、上方の曲線と下方の曲線で挟まれた領域が、視感反射率が1.2%以下となる範囲に相当する(例として、屈折率1.30、入射角30°の場合について、範囲を両矢印にて表示)。なお、低屈折率層122の視感反射率が1.2%以下になる範囲とは、界面124で生じた反射光(成分a)と界面125で生じた反射光(成分b)とが干渉して成した反射光(成分aと成分bを合成した成分)の視感反射率が1.2%以下になる範囲を意味し、成分aと成分bの位相差に基づいて計算している。後の実施例にも示されるように、視感反射率が1.2%以下であれば、ゴースト光が視認されにくい。
【0043】
図3によれば、低屈折率層122の厚みを、θが50°のときの理論膜厚dに設定しておけば、θが30°~50°の範囲の全域において、視感反射率が1.2%以下となる範囲に収まる。したがって低屈折率層122の厚みが、上記式(6)においてλ=555nm、θ=50°とし、下記式(1)で表される理論膜厚d(nm)である場合に、λおよびθを他の値とする場合と比較して、最も効果的にゴースト現象を抑制することができる。
【数10】
ここで、上記のとおり、低屈折率層122の屈折率nは、波長555nmにおける値であり、1.25以上、1.32以下である。
【0044】
そして、図3において、θが50°のときの理論膜厚dに対して±13nmの範囲の膜厚であれば、おおむね、θが30°~50°の範囲の全域において、視感反射率が1.2%以下となる範囲に収まっている。このことから、低屈折率層122の厚みは、θが50°のときの理論膜厚dに対し、d-13nm以上、d+13nm以下の範囲であれば、ゴースト現象の発生を効果的に抑制することができる。上記観点から低屈折率層122の厚みは、ゴースト現象の抑止をさらに好適にするために、好ましくはd-10nm以上、d+10nm以下、より好ましくはd-8nm以上、d+8nm以下であるとよい。低屈折率層122は、屈折率と厚みを所定の関係に制御するのみで、高いゴースト抑制効果を発揮するものであり、ゴースト抑制効果を高めるために誘電体多層膜のような多層構造を設ける必要もなく、高生産性および低コストで、カバー部材12を得ることができる。
【0045】
(2)低屈折率層の構成材料
低屈折率層122は、波長555nmで1.25以上1.32以下の屈折率を示すものであれば、構成材料を限定されるものではないが、以下に好適な構成材料の例について説明する。低屈折率層122は、中空シリカ粒子、およびバインダー樹脂を含有するものとすることが好ましい。
【0046】
バインダー樹脂としては、低屈折率層122の耐擦傷性向上などの観点から、熱硬化性化合物の硬化物や紫外線硬化性化合物の硬化物などが好ましい。また、低屈折率層122の生産性向上などの観点から、紫外線硬化性化合物の硬化物がより好ましい。
【0047】
紫外線硬化性樹脂としては、紫外線反応性の反応性基を有するモノマー,オリゴマー,プレポリマーなどが挙げられる。紫外線反応性の反応性基としては、アクリロイル基,メタクリロイル基,アリル基,ビニル基等のエチレン性不飽和結合を有するラジカル重合型の反応性基やオキセタニル基などのカチオン重合型の反応性基などが挙げられる。これらのうちでは、アクリロイル基,メタクリロイル基,オキセタニル基がより好ましく、アクリロイル基,メタクリロイル基が特に好ましい。すなわち、紫外線硬化性樹脂が(メタ)アクリレートを含有することが特に好ましい。なお、(メタ)アクリレートとは、アクリレートとメタクリレートを包括する概念を指す。
【0048】
(メタ)アクリレートとしては、ウレタン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、アリール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。(メタ)アクリレートは、単官能(メタ)アクリレートのみで構成されていてもよいし、多官能(メタ)アクリレートで構成されていてもよいし、単官能(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートの組み合わせで構成されていてもよい。(メタ)アクリレートとしては、多官能(メタ)アクリレートを含むことがより好ましい。紫外線硬化性樹脂は、下に列挙するもの等、1種単独の(メタ)アクリレートで構成されていてもよいし、2種以上の(メタ)アクリレートで構成されていてもよい。
【0049】
単官能(メタ)アクリレートとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、アミル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、へキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、1-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-メチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、2-エチル-2-アダマンチル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、1-ナフチルメチル(メタ)アクリレート、2-ナフチルメチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ-2-メチルエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、3-フェノキシ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、4-フェニルフェノキシエチル(メタ)アクリレート、3-(2-フェニルフェニル)-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0050】
多官能(メタ)アクリレートとしては、二官能(メタ)アクリレート、三官能(メタ)アクリレート、四官能(メタ)アクリレート等が挙げられる。より具体的には、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールヘプタ(メタ)アクリレート、トリペンタエリスリトールオクタ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0051】
低屈折率層122におけるバインダー樹脂の含有量は、低屈折率層122の固形分100質量%に対し50質量%以下であることが好ましい。50質量%以下であれば、中空シリカの含有量を十分なものとし、優れたゴースト抑制効果を得ることができる。また、この観点から、低屈折率層122におけるバインダー樹脂の含有量は、低屈折率層122の固形分100質量%に対し、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。一方で、低屈折率層122におけるバインダー樹脂の含有量は、低屈折率層122の固形分100質量%に対し20質量%以上であることが好ましい。低屈折率層122におけるバインダー樹脂の含有量が低屈折率層122の固形分100質量%に対し20質量%以上であると、低屈折率層122の耐擦傷性の低下が抑えられる。また、この観点から、低屈折率層122におけるバインダー樹脂の含有量は、低屈折率層122の固形分100質量%に対し、より好ましくは22質量%以上、さらに好ましくは25質量%以上である。
【0052】
中空シリカ粒子は、低屈折率層122において、屈折率を低く抑え、所定の範囲の屈折率を得やすくする役割を果たす。中空シリカ粒子は、低屈折率層122の平均厚さよりも平均粒子径の小さい粒子であることが好ましい。なお、中空粒子とは、粒子の内部に空洞を有している粒子であり、空洞の割合が体積の5%以上である粒子をいう。中空とは、外殻とその内部の空洞からなるシェル構造のものや、多数の空洞を有する多孔質構造のものなどをいう。中空シリカ粒子は、中空構造であることで、低屈折率層122の屈折率を低くして、光の反射を低減させることができる。中空シリカ粒子の形状は、特に限定されるものではないが、球状、紡錘状、卵状、平板状、立方体状、不定形などが好ましい。これらのうちでは、球状、平板状、立方体状などが特に好ましい。
【0053】
中空シリカ粒子において、空洞の割合は、体積の10%以上であることが好ましい。より好ましくは体積の20%以上、さらに好ましくは体積の30%以上である。すると、屈折率を低くして光の反射を低減しやすい。一方、中空シリカ粒子において、中空シリカ粒子における空洞の割合は、体積の80%以下であることが好ましい。より好ましくは体積の60%以下である。すると、中空シリカ粒子の分散性の低下を抑えることができる。
【0054】
中空シリカ粒子の平均粒子径は、低屈折率層122の平均厚みにもよるが、5nm以上100nm以下であることが好ましい。より好ましくは20nm以上、さらに好ましくは40nm以上であり、一方で、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは70nm以下である。中空シリカ粒子の平均粒子径がこれら好ましい範囲内であると、低屈折率層122よって、優れた反射防止効果およびそれに伴うゴースト抑制効果と、透明性を得ることができる。平均粒子径は、JIS Z8825に従うレーザー回折・散乱法により得られる体積基準の平均算術値である。一次粒子径だけではなく、粒子の凝集体である二次粒子径も、上記の好適な平均粒径の範囲に収まっているとよい。
【0055】
中空シリカ粒子の屈折率は、1.01~1.32の範囲内であることが好ましい。中空シリカ粒子の屈折率は、より好ましくは1.15以上であり、一方で、より好ましくは1.31以下、さらに好ましくは1.30以下である。これらの範囲内であると、優れた反射防止効果およびそれに伴うゴースト抑制効果が得られる。
【0056】
低屈折率層122における中空シリカ粒子の含有量は、低屈折率層122の固形分100質量%に対し50質量%以上であることが好ましい。低屈折率層122における中空シリカ粒子の含有量が低屈折率層122の固形分100質量%に対し50質量%以上であると、優れたゴースト抑制効果を得ることができる。また、この観点から、低屈折率層122における中空シリカ粒子の含有量は、低屈折率層122の固形分100質量%に対し、より好ましくは60質量%以上、さらに好ましくは70質量%以上である。そして、低屈折率層122における中空シリカ粒子の含有量が低屈折率層122の固形分100質量%に対し80質量%以下であることが好ましい。低屈折率層122における中空シリカ粒子の含有量が低屈折率層122の固形分100質量%に対し80質量%以下であると、低屈折率層122が十分な量のバインダー樹脂を含有することで、低屈折率層122の傷付きを抑えることができる。また、この観点から、低屈折率層122における中空シリカ粒子の含有量は、低屈折率層122の固形分100質量%に対し、より好ましくは78質量%以下、さらに好ましくは75質量%以下である。
【0057】
低屈折率層122は、必要に応じて、添加剤などが含まれていてもよい。このような添加剤としては、分散剤、レベリング剤、消泡剤、搖変剤、抗菌剤、難燃剤、スリップ剤、屈折率調整剤などが挙げられる。
【0058】
低屈折率層122は、フッ素化合物およびシリコーン化合物をいずれも実質的に含有しないことが好ましい。実質的に含有しないとは、低屈折率層122の固形分全量に対するフッ素化合物およびシリコーン化合物の合計の含有量が1質量%以下であることを意味し、好ましくは0.1質量%以下、より好ましくは0.01質量%以下、さらに好ましくは0質量%である。低屈折率層122がフッ素化合物およびシリコーン化合物を実質的に含有しないと、表示光を透過させる部分以外の周縁部において低屈折率層122の面上に遮光層などの印刷層を設けた場合、印刷層の低屈折率層122に対する密着性が良好なものとなる。
【0059】
上記のとおり、低屈折率層122は、中空シリカ粒子、およびバインダー樹脂を含む組成物を用いて形成することが好ましく、バインダー樹脂が紫外線反応性の反応性基を有することが特に好ましい。低屈折率層122の形成用組成物は、バインダー樹脂が紫外線反応性の反応性基を有するもの(紫外線硬化性樹脂)を含む場合、光重合開始剤を含むことが好ましい。また、低屈折率層122の形成用組成物には、必要に応じ、溶剤が含まれていてもよい。
【0060】
光重合開始剤としては、アルキルフェノン系、アシルホスフィンオキサイド系、オキシムエステル系などの光重合開始剤が挙げられる。アルキルフェノン系光重合開始剤としては、2,2’-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒロドキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル}-2-メチル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジルメチル-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、2-(ジメチルアミノ)-2-[(4-メチルフェニル)メチル]-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、2-(4-メチルベンジル)-2-(ジメチルアミノ)-1-(4-モルホリノフェニル)-1-ブタノン、N,N-ジメチルアミノアセトフェノンなどが挙げられる。アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤としては、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイドなどが挙げられる。オキシムエステル系光重合開始剤としては、1,2-オクタンジオン、1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-2-(O-ベンゾイルオキシム)、エタノン-1-[9-エチルー6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾールー3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)などが挙げられる。光重合開始剤は、これらの1種単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わせて用いられてもよい。
光重合開始剤の含有量は、低屈折率層122の形成用組成物の固形分全量基準で、0.1~10質量%の範囲とすることが好ましい。より好ましくは1~5質量%の範囲である。
【0061】
低屈折率層122の形成用組成物において用いられる溶剤としては、エチレングリコールモノメチルエーテル(EGM)、プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGM)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルなどのアルコール系溶剤や、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、アセトンなどのケトン系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶剤、N-メチルピロリドン、アセトアミド、ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶剤などが挙げられる。これらは、溶剤として1種単独で用いられてもよいし、2種以上組み合わせて用いられてもよい。
【0062】
ここまで、低屈折率層122のバインダー樹脂が紫外線硬化性樹脂で構成される場合を中心に説明した。しかし、バインダー樹脂は、紫外線硬化性樹脂で構成されていてもよいし、非紫外線硬化性樹脂で構成されていてもよいし、紫外線硬化性樹脂と非紫外線硬化性樹脂の組み合わせで構成されていてもよい。非紫外線硬化性樹脂としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。熱可塑性樹脂としては、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリアミド樹脂などが挙げられる。熱硬化性樹脂としては、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキド樹脂、フェノール樹脂などが挙げられる。
【0063】
(カバー部材の製造方法)
カバー部材12は、基材フィルム121の面上に低屈折率層122を形成するための組成物を塗工し、必要に応じて乾燥後、紫外線等のエネルギー線線照射により硬化させて、基材フィルム121の面上に低屈折率層122を形成することにより製造することができる。この際、基材フィルム121と低屈折率層122の密着性を向上させるために、基材フィルム121の表面には、塗工前に表面処理が施されてもよい。表面処理としては、コロナ処理、プラズマ処理、熱風処理、オゾン処理、紫外線処理などが挙げられる。
【0064】
低屈折率層122を形成する組成物の塗工には、例えば、リバースグラビアコート法,ダイレクトグラビアコート法,ダイコート法,バーコート法,ワイヤーバーコート法,ロールコート法,スピンコート法,ディップコート法,スプレーコート法,ナイフコート法,キスコート法などの各種コーティング法や、インクジェット法、オフセット印刷,スクリーン印刷,フレキソ印刷などの各種印刷法を用いて行うことができる。
乾燥工程は、塗工液に用いた溶剤等を除去できれば特に限定されるものではないが、50~150℃の温度で10秒~180秒程度行うことが好ましい。
【0065】
紫外線照射には、高圧水銀ランプ、無電極(マイクロ波方式)ランプ、キセノンランプ、メタルハライドランプ、その他任意の紫外線照射装置を用いることができる。紫外線照射は、必要に応じて、窒素などの不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。紫外線照射量は、特に限定されるものではないが、50~800mJ/cmが好ましく、100~300mJ/cmがより好ましい。
【0066】
(カバー部材の特性)
カバー部材12において、低屈折率層122の表面における算術平均粗さSaは、良好な耐擦傷性を得る観点から、好ましくは1.0~20nmであるとよい。算術平均粗さSaは、より好ましくは3.0nm以上、さらに好ましくは5.0nm以上であり、一方で、好ましくは15nm以下、さらに好ましくは10nm以下である。
【0067】
低屈折率層122の水接触角は、90°以下であることが好ましい。90°以下であれば、低屈折率層122の面上に設けられる印刷層の密着性を良好なものとすることができる。上記観点からの水接触角は、より好ましくは85°以下、さらに好ましくは82°以下である。水接触角の下限は特に制限されることはなく、低いほど好ましいが、通常は15°以上である。
【0068】
カバー部材12におけるヘイズは、良好な透明性などの観点から、好ましくは2.0以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.0以下である。
【0069】
基材フィルム121は、低屈折率層122に加えて、他の各種機能層を有していてもよい。機能層としては、例えば、ハードコート層、紫外線吸収層、赤外線吸収層、赤外線反射層、耐候性付与層、着色層、偏光層、位相差層などが挙げられる。機能層は、基材フィルム121と低屈折率層122の間に設けてもよいし、基材フィルム121の低屈折率層122と反対側の面上に設けてもよい。なお、低屈折率層122は、表面を他種の層で被覆せず、カバー部材12の入射側表面に露出させておくことが好ましい。
【0070】
基材フィルム121と低屈折率層122の間には、ゴースト抑制効果をより高めるために、高屈折率層を設けてもよいし、設けなくてもよいが、生産性および低コストの観点から、低屈折率層122は、基材フィルム121の面上に高屈折率層を介さずに形成することが好ましい。
【0071】
以上の構成のヘッドアップディスプレイ装置10は、表示光を出射する出射部14,16と、前記出射部14,16を内部に収容し、前記出射部14,16から出射された前記表示光を通過させる開口部を有する筐体18と、前記筐体18の前記開口部を覆い、前記出射部14,16から出射された前記表示光に対して50°以下の角度で傾斜させて設けられたカバー部材12と、を有するヘッドアップディスプレイ装置であって、前記カバー部材12は、前記筐体18の外側から順に、基材フィルム121と、前記基材フィルム121上に形成された低屈折率層122と、を有し、前記低屈折率層122の厚みは、下記式(1)により得られた前記低屈折率層122の理論膜厚d(nm)に対し、d-13nm以上、d+13nm以下であることから、ゴースト現象の発生を高生産性かつ低コストで抑制できる。
【数12】
ここで、nは前記低屈折率層122の波長555nmにおける屈折率を表し、nは1.25以上、1.32以下である。
【実施例0072】
以下、実施例および比較例を用いて本発明を詳細に説明する。以下において、特記しない限り、試料の作製および評価は、室温、大気中にて行っている。
【0073】
<低屈折率層形成用組成物の調製>
全固形分中の質量%で、紫外線硬化性樹脂(アイカ工業製「アイカアイトロンZ-772UH」、変性アクリレート55質量%、重合開始剤3質量%、溶剤:プロピレングリコールモノメチルエーテル、トルエン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン)が26質量%、中空シリカ粒子(日揮触媒化成製「スルーリア4320」、平均粒子径:60nm、溶剤:メチルイソブチルケトン、固形分濃度:20質量%)が74質量%となるように、各成分を配合し、溶剤(PGM)を用いて固形分濃度3.0質量%に調整することにより、低屈折率層形成用組成物を調製した。
【0074】
<低屈折率層の作製>
実施例1,2および比較例1のそれぞれについて、一方面に厚み3.5μmのハードコート処理を施したポリカーボネートフィルム(ウェーブロック・アドバンスト・テクノロジー製「シャインテックPC-11U」、厚み375μm)のハードコートと反対側の面上に、上記低屈折率層形成用組成物を、ワイヤーバーを用いて硬化後の厚みが表1に記載の通りとなるように塗布した。そして、80℃×60秒で乾燥後、無電極(マイクロ波式)ランプを用いて光量150mJ/cmの紫外線を照射して低屈折率層を形成した。
以上により、ヘッドアップディスプレイ装置用カバー部材を作製した。
【0075】
<評価方法>
(1)低屈折率層の物性
(厚みおよび屈折率)
上記で作製した各カバー部材に対して、低屈折率層の厚みおよび屈折率を評価した。評価に際しては、顕微分光膜厚計(大塚電子製「OPTM-F1」)を用いて得られた波長領域380~850nmの反射分光スペクトルと、フレネルの式に基づいて導出される理論スペクトルとを、最小二乗法によりカーブフィッティングすることにより、低屈折率層の厚み、および波長555nmにおける屈折率を算出した。
【0076】
(水接触角)
低屈折率層表面の水接触角を、接触角計(協和界面科学製「DropMaster DMo-502」)を使用し、4μLの純水をカバー部材の低屈折率層面に滴下して、水接触角を測定した。
水接触角が90°以下であれば、表面は十分な印刷性を有すると言える。
【0077】
(2)カバー部材の特性
(視感反射率)
作製した各カバー部材の裏面(低屈折率層とは反対側の面)を#400のサンドペーパーで荒らし、黒色塗料で塗りつぶしたうえで、可変角測定装置を取り付けた紫外可視近赤外分光光度計(島津製作所社製「UV-2600i」)を用いて、低屈折率層表面のP偏光およびS偏光の反射スペクトルを得た。そしてその加算平均値をカバー部材の反射率とした。入射角は5°、30°、および50°とし、上記反射率の測定値に比視感度値を乗じて視感反射率を算出した。
【0078】
(ゴースト現象)
暗室環境下、黒背景上に多数の白色のドットを表示させた液晶ディスプレイの上に、表示光とカバー部材とがなす角度が0°~50°となるように、カバー部材を湾曲させてセットし、カバー部材を通してディスプレイに表示される白色のドット(ドットサイズ:0.18mm×0.18mm)を目視観察した。白色のドット全てにおいてゴースト光が見えないものを、ゴースト現象が観測されない(〇)と評価し、1か所以上ゴースト光が見えるものを、ゴースト現象が観測される(×)と評価した。
【0079】
(印刷性)
カバー部材の低屈折率層面に、2種類のスクリーン印刷インキ(セイコーアドバンス製「HF PID RX01」、および帝国インキ製造製「XIP-HF」)をそれぞれスクリーン印刷法により100×100mmの大きさにベタ印刷し、常温(23℃)で24時間乾燥した。
次いで、印刷面にカッターナイフを用いて1mm間隔の切り傷を縦と横に付けて合計100個の碁盤目状のマス目を作り、そのマス目すべてを覆うように幅24mmのセロハンテープ(ニチバン製)を貼り、急速に剥がした。2種のインキ両方について剥離しないで残ったマスが100個中100個全てであったものを、印刷性が高い(○)と評価した。2種のインキの少なくとも一方について、剥離が起こったマス目が1つでもあったものは、印刷性が低い(×)と評価した。
【0080】
<評価結果>
表1に、実施例1,2および比較例1について、低屈折率層の屈折率、厚みとともに、各評価結果を示す。また図4に、低屈折率層の屈折率が1.30のときのゴースト現象を抑制できる計算上の範囲(点線で囲った範囲;図3から転載)とともに、実施例1,2および比較例1における低屈折率層の厚み(実線の横線にて表示)を表す。
【0081】
【表1】
【0082】
実施例1および実施例2は、低屈折率層の屈折率および厚みが式(1)で表される関係において得られた理論膜厚d(132nm;図4に破線にて表示)に対し、d-13nm以上、d+13nm以下となっている。その結果、各入射角における視感反射率が1.2%以下となり、そのことに対応して、ゴースト現象は観察されなかった。また、低屈折率層において、低屈折率層を形成する組成物の固形分100質量%に対し、バインダー樹脂の含有率が、20質量%以上、50質量%以下、中空シリカ粒子の含有率が、50質量%以上、80質量%以下であり、フッ素化合物およびシリコーン化合物を実質的に含有しないことと対応して、水接触角が90°以下であり、印刷性の評価結果も、「〇」となっており、低屈折率層が印刷適性を有していることが確認された。
【0083】
一方で、比較例1は、低屈折率層の屈折率および厚みが式(1)で表される関係において得られた理論膜厚d(132nm)に対し、d-13nm未満となっている。その結果、入射角50°において視感反射率が1.2%を超えた。このことと対応して、ゴースト現象が観察された。この比較例1と実施例1,2との対比から、カバー部材において、低屈折率層の厚みが、屈折率との関係において式(1)を満たす理論膜厚dに対して、d-13nm以上、d+13nm以上の範囲に収まっていることで、高いゴースト抑制効果が得られることが、明らかになった。
【0084】
以上、本発明の実施例について説明したが、本発明は上記実施形態および実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改変が可能である。
【符号の説明】
【0085】
10 ヘッドアップディスプレイ装置
12 カバー部材
14 表示器
16 反射板
18 筐体
121 基材フィルム
122 低屈折率層
123 基材フィルムと空気との界面
124 基材フィルムと低屈折率層との界面
125 低屈折率層と空気との界面
図1
図2
図3
図4