IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ネオ・モルガン研究所の特許一覧

<>
  • 特開-積層体、袋状体及び培養バッグ 図1
  • 特開-積層体、袋状体及び培養バッグ 図2
  • 特開-積層体、袋状体及び培養バッグ 図3A
  • 特開-積層体、袋状体及び培養バッグ 図3B
  • 特開-積層体、袋状体及び培養バッグ 図3C
  • 特開-積層体、袋状体及び培養バッグ 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043730
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】積層体、袋状体及び培養バッグ
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/36 20060101AFI20240326BHJP
   B32B 27/20 20060101ALI20240326BHJP
   C08J 7/054 20200101ALI20240326BHJP
   C12M 1/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
B32B27/36
B32B27/20 Z
C08J7/054 CFD
C12M1/00 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148885
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】503116693
【氏名又は名称】株式会社ちとせ研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100214639
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 圭亮
(72)【発明者】
【氏名】横内 陽
(72)【発明者】
【氏名】星野 孝仁
(72)【発明者】
【氏名】青▲柳▼ 裕之
【テーマコード(参考)】
4B029
4F006
4F100
【Fターム(参考)】
4B029AA08
4B029BB04
4B029CC01
4B029GB09
4F006AA35
4F006AB24
4F006AB76
4F006BA10
4F006CA06
4F100AA20B
4F100AK01B
4F100AK25B
4F100AK25C
4F100AK42A
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100BA10A
4F100BA10B
4F100CA18B
4F100CB00C
4F100DE01B
4F100EH46
4F100EJ08
4F100EJ37A
4F100EJ54
4F100EJ55
4F100GB16
4F100JL06
4F100JN01
4F100YY00B
4F100YY00C
(57)【要約】
【課題】培養バッグ、特に微細藻類を培養するための培養バッグ、の基材に適した新たな積層体を提供する。
【解決手段】本発明の積層体10は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む延伸フィルム1と、延伸フィルム1を被覆する被覆層2と、を備える。被覆層2の表面に2μLの水滴を滴下して測定した水の接触角が130°以上である。本発明の袋状体及び培養バッグは、上記の積層体10を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む延伸フィルムと、
前記延伸フィルムを被覆する被覆層と、
を備え、
前記被覆層の表面に2μLの水滴を滴下して測定した水の接触角が130°以上である、積層体。
【請求項2】
前記被覆層は、マトリクスと前記マトリクスに分散した粒子とを含む、請求項1に記載の積層体。
【請求項3】
前記粒子がシリカを含む、請求項2に記載の積層体。
【請求項4】
前記マトリクスが(メタ)アクリル樹脂を含む、請求項2に記載の積層体。
【請求項5】
前記被覆層における前記粒子の含有率が50wt%以上である、請求項2に記載の積層体。
【請求項6】
前記被覆層は、界面活性剤をさらに含む、請求項2に記載の積層体。
【請求項7】
前記延伸フィルムと前記被覆層との間に配置された接着層をさらに備えた、請求項1に記載の積層体。
【請求項8】
前記接着層が(メタ)アクリル樹脂を含む、請求項7に記載の積層体。
【請求項9】
前記接着層における前記(メタ)アクリル樹脂の含有率が50wt%以上である、請求項8に記載の積層体。
【請求項10】
培養バッグに用いられる、請求項1に記載の積層体。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体を備えた、袋状体。
【請求項12】
前記積層体において、前記被覆層は、前記延伸フィルムよりも内側に位置する、請求項11に記載の袋状体。
【請求項13】
2つの前記積層体を備え、
2つの前記積層体は、互いに重ね合わされ、袋状の構造を有するように接合されている、請求項11に記載の袋状体。
【請求項14】
請求項1~10のいずれか1項に記載の積層体を備えた、培養バッグ。
【請求項15】
気体を内部に供給するための開口部を有する、請求項14に記載の培養バッグ。
【請求項16】
微細藻類を培養するために用いられる、請求項14に記載の培養バッグ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体、袋状体及び培養バッグに関する。
【背景技術】
【0002】
微細藻類は、食料や燃料などに利用することができ、その利用価値が高い。微細藻類は、容易に培養できるだけでなく、その培養過程で二酸化炭素を大量に吸収できる利点もある。
【0003】
微細藻類の培養方法としては、屋外に開放された培養槽を利用する開放系での培養方式や、タンクなどの密閉容器を利用する閉鎖系での培養方式が挙げられる。開放系での培養方式は、コンタミネーションリスクが高いことや微細藻類のバイオマス生産性が限定的となるなどのデメリットがある。閉鎖系の培養方式は、外部からの物質混入や生物侵入で培養液が汚染されるコンタミネーションのリスクを低減できる利点がある。
【0004】
閉鎖系の培養方式では、密閉容器として、樹脂製のフィルムを含む培養バッグ、ガラス管やガラスプレートで構成された培養容器などが利用される。培養バッグとしては、例えば、2つの包装材(基材)が互いに重ね合わされ、袋状の構造を有するように接合された袋状体が用いられる。この袋状体では、通常、2つの包装材がヒートシールにより接合されている。
【0005】
上記の袋状体を用いた培養方式によれば、その厚さ方向が水平方向と一致するように袋状体を配置することによって、袋状体の設置面積を抑制しつつ、微細藻類を効率的に培養することができる。一例として、特許文献1は、梁などに吊るされた袋状体を備えた培養装置を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】中国実用新案第207483706号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
培養バッグ、特に微細藻類を培養するための培養バッグ、の基材に適した新たな積層体が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、透光性や耐久性の観点から、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む延伸フィルムが微細藻類を培養するための培養バッグの基材に適していることを新たに見出した。しかし、本発明者らの検討によると、延伸フィルムを基材とした培養バッグで微細藻類を培養すると、微細藻類が基材に付着し、バイオフィルムを形成する傾向がある。バイオフィルムに藻類がさらに付着すると、基材の透光性が低下し、微細藻類の光合成が阻害される。本発明者らは、これらの知見に基づいて検討を進め、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明は、
ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む延伸フィルムと、
前記延伸フィルムを被覆する被覆層と、
を備え、
前記被覆層の表面に2μLの水滴を滴下して測定した水の接触角が130°以上である、積層体を提供する。
【0010】
さらに本発明は、
上記の積層体を備えた、袋状体を提供する。
【0011】
さらに本発明は、
上記の積層体を備えた、培養バッグを提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、培養バッグ、特に微細藻類を培養するための培養バッグ、の基材に適した新たな積層体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の一実施形態にかかる積層体を模式的に示す断面図である。
図2】本発明の変形例にかかる積層体を模式的に示す断面図である。
図3A】引裂強度の測定試験に用いられる3方袋を構成する試験片の平面図である。
図3B】引裂強度の測定試験に用いられる3方袋の斜視図である。
図3C】引裂強度の測定試験を説明するための図である。
図4】本発明の袋状体(培養バッグ)を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1態様にかかる積層体は、
ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む延伸フィルムと、
前記延伸フィルムを被覆する被覆層と、
を備え、
前記被覆層の表面に2μLの水滴を滴下して測定した水の接触角が130°以上である。
【0015】
本発明の第2態様において、例えば、第1態様にかかる積層体では、前記被覆層は、マトリクスと前記マトリクスに分散した粒子とを含む。
【0016】
本発明の第3態様において、例えば、第2態様にかかる積層体では、前記粒子がシリカを含む。
【0017】
本発明の第4態様において、例えば、第2又は第3態様にかかる積層体では、前記マトリクスが(メタ)アクリル樹脂を含む。
【0018】
本発明の第5態様において、例えば、第2~第4態様のいずれか1つにかかる積層体では、前記被覆層における前記粒子の含有率が50wt%以上である。
【0019】
本発明の第6態様において、例えば、第2~第5態様のいずれか1つにかかる積層体では、前記被覆層は、界面活性剤をさらに含む。
【0020】
本発明の第7態様において、例えば、第1~第6態様のいずれか1つにかかる積層体は、前記延伸フィルムと前記被覆層との間に配置された接着層をさらに備える。
【0021】
本発明の第8態様において、例えば、第7態様にかかる積層体では、前記接着層が(メタ)アクリル樹脂を含む。
【0022】
本発明の第9態様において、例えば、第8態様にかかる積層体では、前記接着層における前記(メタ)アクリル樹脂の含有率が50wt%以上である。
【0023】
本発明の第10態様において、例えば、第1~第9態様のいずれか1つにかかる積層体は、培養バッグに用いられる。
【0024】
本発明の第11態様にかかる袋状体は、
第1~第10態様のいずれか1つにかかる積層体を備える。
【0025】
本発明の第12態様において、例えば、第11態様にかかる袋状体では、前記積層体において、前記被覆層は、前記延伸フィルムよりも内側に位置する。
【0026】
本発明の第13態様において、例えば、第11又は第12態様にかかる袋状体は、2つの前記積層体を備え、2つの前記積層体は、互いに重ね合わされ、袋状の構造を有するように接合されている。
【0027】
本発明の第14態様にかかる培養バッグは、
第1~第10態様のいずれか1つにかかる積層体を備える。
【0028】
本発明の第15態様において、例えば、第14態様にかかる培養バッグは、気体を内部に供給するための開口部を有する。
【0029】
本発明の第16態様において、例えば、第14又は第15態様にかかる培養バッグは、微細藻類を培養するために用いられる。
【0030】
以下、本発明の詳細を説明するが、以下の説明は、本発明を特定の実施形態に制限する趣旨ではない。
【0031】
<積層体の実施形態>
図1に示すように、本実施形態の積層体10は、延伸フィルム1及び被覆層2を備えている。延伸フィルム1は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む。延伸フィルム1は、互いに対向する表面1a及び1bを有しており、表面1aが積層体10の外部に露出している。表面1a及び1bは、延伸フィルム1の主面(最も大きい面積を有する面)である。
【0032】
被覆層2は、延伸フィルム1の表面1bを被覆している。被覆層2は、延伸フィルム1の表面1b全体を被覆していることが好ましい。ただし、被覆層2は、延伸フィルム1の表面1bを部分的に被覆していてもよい。被覆層2は、典型的には、積層体10の外部に露出している。
【0033】
積層体10は、接着層3をさらに備えていてもよい。接着層3は、延伸フィルム1及び被覆層2の間に配置され、延伸フィルム1及び被覆層2のそれぞれと直接接している。積層体10が接着層3を備えている場合、被覆層2は、接着層3を介して、延伸フィルム1の表面1bを被覆している。なお、積層体10において、延伸フィルム1と被覆層2とが実用上十分な強度で接合できる場合、積層体10は、接着層3を備えていなくてもよい。
【0034】
本実施形態では、被覆層2の表面に2μLの水滴を滴下して測定した水の接触角Aが130°以上である。なお、水の接触角Aは、市販の接触角計(例えば、協和界面科学社製のDMo-501)を用いて測定することができる。被覆層2の表面に滴下する水滴の温
度は、例えば22℃である。
【0035】
微細藻類を培養する場合、培養バッグの内部には、通常、水を含む培養液が導入される。本発明者らの検討によると、水の接触角Aが130°以上である被覆層2は、その表面が疎水性であり、水を含む培養液をはじくことができる。被覆層2の表面が培養液をはじくことによって、微細藻類が被覆層2の表面に付着することを抑制できる。被覆層2において、水の接触角Aは、好ましくは135°以上であり、さらには140°以上であってもよく、150°以上であってもよい。接触角Aの上限値は、特に限定されず、例えば170°である。
【0036】
[延伸フィルム]
延伸フィルム1は、樹脂組成物を溶融成形することにより得られた原フィルムについて、延伸を行うことによって作製されたフィルムであり、1軸延伸フィルムであってもよく、2軸延伸フィルムであってもよい。延伸フィルム1は、光の透過性が優れる観点から、2軸延伸フィルムであることが好ましい。延伸には、例えば、ロール延伸法、テンター延伸法などの公知の延伸法を利用することができる。延伸方向は、典型的には、原フィルムのMD方向(溶融成形方向)及び/又はTD方向(原フィルムの面内における溶融成形方向に垂直な方向)である。2軸延伸においては、逐次2軸延伸であってもよく、同時2軸延伸であってもよい。
【0037】
延伸フィルム1の延伸倍率は、特に限定されず、延伸方向(MD方向及び/又はTD方向)について、例えば1.1倍以上であり、好ましくは2.0倍以上であり、5.0倍以上であってもよい。
【0038】
上述のとおり、延伸フィルム1は、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む。ただし、場合によっては、延伸フィルム1は、ポリエチレンテレフタレート樹脂以外の他の樹脂をさらに含んでいてもよい。他の樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート樹脂以外のポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂などが挙げられる。
【0039】
ポリエチレンテレフタレート樹脂に含まれるポリマーP1は、典型的には、エチレングリコールに由来する構成単位U1と、テレフタル酸に由来する構成単位U2とを有する。ポリマーP1において、構成単位U1の含有率と構成単位U2の含有率との合計値は、例えば50モル%以上であり、70モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、さらには99モル%以上であってもよい。ポリマーP1は、実質的に構成単位U1及びU2のみから構成されていてもよい。ただし、ポリマーP1は、構成単位U1及びU2以外の他の構成単位を含んでいてもよい。
【0040】
延伸フィルム1は、例えば、ポリエチレンテレフタレート樹脂を主成分として含む。「主成分」とは、延伸フィルム1に重量比で最も多く含まれた成分を意味する。延伸フィルム1は、実質的にポリエチレンテレフタレート樹脂のみから構成されていてもよい。ただし、延伸フィルム1は、ポリエチレンテレフタレート樹脂以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤などが挙げられる。
【0041】
延伸フィルム1の厚さは、強度の観点から、例えば1μm以上であり、10μm以上、20μm以上、25μm以上、30μm以上、さらには40μm以上であってもよい。延伸フィルム1の厚さは、透光性の観点から、例えば1000μm以下であり、500μm以下、300μm以下、さらには100μm以下であってもよい。
【0042】
延伸フィルム1の融点は、特に限定されず、例えば150℃~300℃である。本明細書において、フィルムの融点は、次の方法によって測定することができる。まず、フィルムの一部を切り出し、試験片とする。試験片について、示差走査熱量測定(DSC)を行う。DSCでは、一定の昇温速度、例えば10℃/分、で試験片を昇温する。結晶融解に基づく吸熱ピークのピーク温度を測定し、フィルムの融点として特定する。
【0043】
延伸フィルム1の屈折率は、特に限定されず、例えば1.4~3.0である。延伸フィルム1の屈折率は、典型的には1.6程度である。本明細書において、「屈折率」は、温度25℃で波長550nmの光を用いて、JIS K0062:1992の規定に準拠して測定された値を意味する。
【0044】
[被覆層]
被覆層2は、例えば、マトリクス5と、マトリクス5に分散した粒子6とを含む。粒子6は、マトリクス5内に埋め込まれている。粒子6の一部は、被覆層2の表面から露出していてもよい。なお、図1に示した形態では、全ての粒子6が互いに離間している。ただし、粒子6は、部分的に凝集していてもよい。マトリクス5及び粒子6を含む被覆層2は、延伸フィルム1や接着層3との接着性を確保しつつ、水の接触角Aを増加させることに適している。
【0045】
マトリクス5は、例えば樹脂を含む。マトリクス5に含まれる樹脂としては、UV硬化型樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。樹脂の具体例としては、(メタ)アクリル樹脂、ポリエステルウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂などが挙げられる。マトリクス5は、(メタ)アクリル樹脂を含むことが好ましい。
【0046】
(メタ)アクリル樹脂に含まれるポリマーP2は、典型的には、(メタ)アクリレートに由来する構成単位U3を有する。本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレート及び/又はメタクリレートを意味する。(メタ)アクリレートは、多官能(メタ)アクリレートであることが好ましい。多官能(メタ)アクリレートとしては、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
【0047】
マトリクス5は、例えば、上述した樹脂を主成分として含む。マトリクス5は、実質的に樹脂のみから構成されていてもよい。マトリクス5では、単一の樹脂が用いられてもよく、複数種類の樹脂が組み合わされていてもよい。
【0048】
被覆層2におけるマトリクス5の含有率は、例えば50wt%以下であり、40wt%以下、30wt%以下、20wt%以下、さらには10wt%以下であってもよい。マトリクス5の含有率の下限値は、特に限定されない。
【0049】
粒子6は、無機材料を含んでいてもよく、有機材料を含んでいてもよい。粒子6は、無機材料としてシリカを含むことが好ましい。粒子6は、疎水性の修飾基(例えばアルキル基)によって修飾された表面を有していてもよい。この修飾基によって修飾された表面を有する粒子6は、被覆層2の表面を疎水性に調整することに適している。粒子6の表面を修飾基によって修飾する方法は、特に限定されず、例えば、粒子6の表面に存在するヒドロキシル基と、公知のシランカップリング剤とを反応させることによって粒子6の表面を修飾することができる。
【0050】
粒子6の平均粒径は、特に限定されず、例えば1μm以下であり、500nm以下、1
00nm以下、50nm以下、さらには20nm以下であってもよい。粒子6の平均粒径の下限値は、例えば1nmである。粒子6の平均粒径は、例えば、次の方法によって特定することができる。まず、被覆層2の断面を透過電子顕微鏡で観察する。得られた電子顕微鏡像において、特定の粒子6の面積を画像処理によって算出する。算出された面積と同じ面積を有する円の直径をその特定の粒子6の粒径(粒子の直径)とみなす。任意の個数(少なくとも50個)の粒子6の粒径をそれぞれ算出し、算出値の平均値を粒子6の平均粒径とみなす。粒子6の形状は、特に限定されず、球状であってもよく、楕円体状であってもよく、鱗片状であってもよく、繊維状であってもよい。
【0051】
被覆層2における粒子6の含有率は、例えば50wt%以上であり、60wt%以上、70wt%以上、80wt%以上、さらには90wt%以上であってもよい。粒子6の含有率が高ければ高いほど、被覆層2の表面を疎水性に調整しやすい傾向がある。粒子6の含有率の上限値は、特に限定されない。
【0052】
被覆層2は、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。界面活性剤によれば、被覆層2の作製時に粒子6が凝集することを抑制でき、これにより、積層体10の透光性が低下することを抑制できる。界面活性剤は、例えば、非イオン界面活性剤であってもよい。
【0053】
被覆層2における界面活性剤の含有率は、例えば5wt%以下であり、1wt%以下、0.5wt%以下、さらには0.1wt%以下であってもよい。
【0054】
なお、被覆層2は、上述したものに限定されない。被覆層2は、水の接触角Aが130°以上であるフィルムであってもよい。積層体10は、延伸フィルム1に、水の接触角Aが130°以上であるフィルム(被覆層2)が貼り合わされたものであってもよい。
【0055】
被覆層2の厚さは、例えば30μm以下であり、20μm以下、10μm以下、5μm以下、さらには3μm以下であってもよい。被覆層2の厚さの下限値は、特に限定されず、例えば0.1μmである。
【0056】
[接着層]
接着層3は、延伸フィルム1及び被覆層2を接合できる限り、特に限定されない。接着層3は、例えば樹脂を含む。樹脂としては、被覆層2について上述したものが挙げられる。接着層3は、(メタ)アクリル樹脂を含むことが好ましい。
【0057】
接着層3における樹脂(例えば(メタ)アクリル樹脂)の含有率は、例えば45wt%以上であり、50wt%以上、60wt%以上、70wt%以上、80wt%以上、さらには90wt%以上であってもよい。接着層3における樹脂の含有率が高ければ高いほど、延伸フィルム1及び被覆層2を十分に接合できる傾向がある。樹脂の含有率の上限値は、特に限定されず、例えば99wt%である。
【0058】
接着層3は、上記の樹脂を含むマトリクス7と、マトリクス7に分散した粒子8とを含んでいてもよい。粒子8は、マトリクス7内に埋め込まれている。図1に示した形態では、全ての粒子8が互いに離間している。ただし、粒子8は、部分的に凝集していてもよい。粒子8としては、被覆層2について上述したものが挙げられる。粒子8は、無機材料としてシリカを含むことが好ましい。
【0059】
接着層3における粒子8の含有率は、例えば50wt%以下であり、40wt%以下、30wt%以下、20wt%以下、さらには10wt%以下であってもよい。粒子8の含有率の下限値は、特に限定されず、例えば1wt%である。
【0060】
接着層3は、界面活性剤をさらに含んでいてもよい。界面活性剤によれば、接着層3の作製時に粒子8が凝集することを抑制でき、これにより、積層体10の透光性が低下することを抑制できる。界面活性剤は、例えば、非イオン界面活性剤であってもよい。
【0061】
接着層3における界面活性剤の含有率は、例えば5wt%以下であり、1wt%以下、0.5wt%以下、さらには0.1wt%以下であってもよい。
【0062】
接着層3の組成は、各成分の含有率が異なることを除き、被覆層2の組成と同じであってもよい。接着層3の接着性の観点から、接着層3における粒子8の含有率は、被覆層2における粒子6の含有率よりも低いことが好ましい。
【0063】
接着層3の厚さは、例えば30μm以下であり、20μm以下、10μm以下、5μm以下、さらには3μm以下であってもよい。接着層3の厚さの下限値は、特に限定されず、例えば0.1μmである。
【0064】
[積層体の製造方法]
積層体10は、例えば、次の方法によって作製することができる。まず、接着層3の材料を含む塗布液を調製する。塗布液は、例えば、モノマー群、重合開始剤(光重合開始剤)及び粒子8を含む。次に、延伸フィルム1の上に塗布液を塗布し、塗布膜を作製する。塗布液の塗布方法は、特に限定されず、ワイヤーバーコート法、スピンコート法などを利用できる。なお、塗布液を塗布する前に、延伸フィルム1について、予めコロナ処理を行ってもよい。コロナ処理は、例えば、放電量200(W・min/m2)の条件で行うこ
とができる。
【0065】
次に、塗布膜に含まれるモノマー群の重合反応を行い、塗布膜を硬化させることにより、接着層3を形成する。モノマー群の重合反応は、例えば、塗布膜に、光(紫外線)を照射する、及び/又は、熱を加えることによって行う。塗布膜に紫外線を照射する場合、その積算光量は、例えば0.1J/cm2以上である。
【0066】
次に、被覆層2の材料を含む塗布液を調製する。塗布液は、例えば、モノマー群、重合開始剤(光重合開始剤)及び粒子6を含む。次に、接着層3の上に塗布液を塗布し、塗布膜を作製する。塗布液の塗布方法は、上述したものを利用できる。次に、塗布膜に含まれるモノマー群の重合反応を行い、塗布膜を硬化させることにより、被覆層2を形成する。モノマー群の重合反応は、例えば、塗布膜に、光(紫外線)を照射する、及び/又は、熱を加えることによって行う。塗布膜に紫外線を照射する場合、その積算光量は、例えば0.1J/cm2以上である。
【0067】
[積層体の特性]
本実施形態の積層体10は、延伸フィルム1を備えることによって、透光性及び耐久性に優れている傾向がある。積層体10について、430~460nmの波長域における平均透過率T1は、例えば45%以上であり、50%以上、さらには60%以上であってもよい。平均透過率T1が高ければ高いほど、積層体10を備えた袋状体は、微細藻類の光合成を促進できる傾向がある。平均透過率T1の上限値は、特に限定されず、例えば99%である。
【0068】
さらに、積層体10について、640~670nmの波長域における平均透過率T2は、例えば65%以上であり、70%以上、さらには75%以上であってもよい。平均透過率T2が高ければ高いほど、積層体10を備えた袋状体は、微細藻類の光合成を促進できる傾向がある。平均透過率T2の上限値は、特に限定されず、例えば99%である。
【0069】
平均透過率T1及びT2は、次の方法によって特定することができる。まず、積層体10から、縦5cm×横5cmのサイズを有する試験片を切り出す。この試験片を市販の分光光度計にセットし、測定波長250nm~1000nmにて透過率を測定する。分光光度計としては、例えば、日立ハイテクサイエンス社製の紫外可視近赤外分光光度計UH4150を用いることができる。透過率の測定は、積層体10の延伸フィルム1側の表面から入射光を入射させ、入射角度0°、積分球角度180°の条件で行う。得られた測定結果に基づいて、430~460nmの波長域における平均透過率T1と、640~670nmの波長域における平均透過率T2とをそれぞれ算出することができる。
【0070】
[積層体の用途]
本実施形態の積層体10は、培養バッグの用途、特に、微細藻類などの微生物を培養するための培養バッグの用途に適している。ただし、本実施形態の積層体10は、培養バッグ以外の用途、例えば食品などの包装容器の用途にも利用されうる。
【0071】
<積層体の変形例>
図2に示すとおり、変形例にかかる積層体20は、保護層4をさらに備えている。以上を除き、積層体20の構成は、上述の積層体10の構成と同じである。したがって、上述の積層体10と変形例の積層体20とで共通する要素には同じ参照符号を付し、それらの説明を省略することがある。
【0072】
保護層4は、延伸フィルム1に対して、被覆層2とは反対側に位置する。すなわち、積層体20では、保護層4、延伸フィルム1、接着層3及び被覆層2がこの順番で並んでいる。保護層4は、延伸フィルム1の表面1aを被覆することにより、延伸フィルム1を保護している。保護層4は、延伸フィルム1の表面1a全体を被覆していてもよく、延伸フィルム1の表面1aを部分的に被覆していてもよい。特に、保護層4は、延伸フィルム1の表面1aのうち、ヒートシールが施される部分(例えば、表面1aの周縁部)を被覆していることが好ましい。保護層4は、例えば、延伸フィルム1の表面1aと直接接している。
【0073】
保護層4は、例えば樹脂を含む。保護層4に含まれる樹脂としては、熱可塑性樹脂やUV硬化型樹脂、熱硬化型樹脂などが挙げられる。樹脂の具体例としては、ポリエステルウレタン樹脂、ウレタンアクリレート樹脂などが挙げられる。保護層4は、ポリエステルウレタン樹脂を含むことが好ましい。
【0074】
ポリエステルウレタン樹脂に含まれるポリマーP3は、典型的には、ポリエステルポリオールに由来する構成単位U4と、イソシアネート化合物に由来する構成単位U5とを有する。
【0075】
ポリエステルポリオールは、末端に水酸基を有するポリエステルであり、例えば、カルボン酸当量に対してアルコール当量が過剰である条件下で、多塩基酸又はその誘導体と、多価アルコールとを反応させることにより合成することができる。多塩基酸は、二塩基酸であることが好ましく、多価アルコールは、ジオールであることが好ましい。
【0076】
二塩基酸及びその誘導体としては、オルトフタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;ヘキサヒドロフタル酸、テトラヒドロフタル酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、オクタデカンジカルボン酸等の脂肪族ジカルボン酸;これらのジカルボン酸の酸無水物、低級アルコールエステル等が挙げられる。
【0077】
ジオールとしては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジオール、ビスフェノールA、ビスフェノールF、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールF等が挙げられる。
【0078】
イソシアネート化合物は、2つのイソシアネート基を有するジイソシアネートであることが好ましい。ジイソシアネートは、芳香族ジイソシアネートであってもよく、脂肪族ジイソシアネートであってもよい。芳香族ジイソシアネートとしては、1,5-ナフタレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、4,4’-ジフェニルジメチルメタンジイソシアネート、テトラメチルジフェニルメタンジイソシアネート、1,3-フェニレンジイソシアネート、1,4-フェニレンジイソシアネート、2-クロロ-1,4-フェニルジイソシアネート、2,4-トリレンジイソシアネート、2,6-トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、4,4’-ジフェニルエーテルジイソシアネート、4,4’-ジフェニルスルホキシドジイソシアネート、4,4’-ジフェニルスルホンジイソシアネート、4,4’-ビフェニルジイソシアネート等が挙げられる。脂肪族ジイソシアネートとしては、ブタン-1,4-ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン-1,4-ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン-4,4’-ジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等が挙げられる。
【0079】
他のイソシアネート化合物としては、ポリイソシアネートの多量体(2量体、3量体、5量体など)、ポリメリックMDI、トリメチロールプロパンなどの多価アルコールと反応させたウレタン変性体、ビウレット変性体、アロファネート変性体、ウレア変性体等が挙げられる。
【0080】
ポリマーP3において、構成単位U4の含有率と構成単位U5の含有率との合計値は、例えば50モル%以上であり、70モル%以上、90モル%以上、95モル%以上、さらには99モル%以上であってもよい。ポリマーP3は、実質的に構成単位U4及びU5のみから構成されていてもよい。ただし、ポリマーP3は、構成単位U4及びU5以外の他の構成単位を含んでいてもよい。
【0081】
保護層4は、例えば、上述した樹脂を主成分として含む。保護層4は、実質的に樹脂のみから構成されていてもよい。ただし、保護層4は、樹脂以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。他の成分としては、延伸フィルム1について上述したものが挙げられる。
【0082】
保護層4の厚さは、ヒートシールを行ったときの引裂強度を改善する観点から、例えば0.1μm以上であり、0.5μm以上、1μm以上、3μm以上、さらには5μm以上であってもよい。保護層4の厚さは、透光性の観点から、例えば30μm以下であり、20μm以下、さらには10μm以下であってもよい。
【0083】
保護層4の屈折率は、1より大きく、かつ延伸フィルム1の屈折率よりも小さいことが好ましい。この場合、積層体20の保護層4側の表面から入射した入射光の散乱が抑制され、積層体20の透光性が向上する傾向がある。保護層4の屈折率は、1より大きく、かつ1.6未満であることが特に好ましい。この保護層4は、ポリエチレンテレフタレート
樹脂から構成された延伸フィルム1との組み合わせにより、積層体20の透光性を向上させることに適している。
【0084】
保護層4は、下記試験1により測定される破断強度(MPa)と破断伸度(%)との積が2500MPa・%以上であることが好ましい。この保護層4は、ヒートシールによる延伸フィルム1の劣化を抑制することに適している。延伸フィルム1の劣化を抑制することによって、ヒートシールを行ったときの積層体20の引裂強度を改善できる傾向がある。
試験1:保護層4の材料で構成され、かつ、縦100mm×横100mm×厚さ2mmのサイズを有する平板を打ち抜き、ダンベル状3号形の試験片を作製する。試験片を引張試験機にセットし、初期のチャック間距離70mm、引張速度500mm/分の条件で引張試験を行い、試験片が破断したときの強度(破断強度)及び伸度(破断伸度)を測定する。
【0085】
試験1において、保護層4の材料で構成された平板の作製方法は特に限定されない。一例として、保護層4に含まれる樹脂が熱可塑性樹脂である場合、次の方法によって平板を作製できる。まず、保護層4を形成するための樹脂組成物を準備する。樹脂組成物について、必要に応じて、減圧雰囲気下で乾燥処理を行う。乾燥処理は、100℃以上の温度で8時間以上行ってもよい。樹脂組成物に対して射出成形を行うことによって平板を得ることができる。射出成形は、市販の射出成形機(例えば、山城精機社製のmodel-SAV)を用いて、例えば、シリンダー温度を樹脂の融解温度Tm+20℃に設定し、金型温度を30℃に設定して行うことができる。
【0086】
保護層4に含まれる樹脂がUV硬化型樹脂である場合、例えば、次の方法によって平板を作製できる。まず、保護層4の材料を含む塗布液を準備する。アプリケーターなどを用いて、塗布液を基材(例えばガラス板)に塗布する。大気下で、得られた塗布膜に紫外線を照射して、塗布膜を硬化させることによって平板を得ることができる。紫外線の光源としては、例えば、3.5kWのメタルハライドランプ(例えば、オーク社製のSMX-3500/F-OS)を用いることができる。紫外線の積算光量は、例えば、1J/cm2
以上である。
【0087】
試験1において、試験片の形状(ダンベル状3号形)は、例えば、JIS K6251:2017に定められている。引張試験機としては、後述する試験2のものを用いることができる。
【0088】
保護層4において、破断強度(MPa)と破断伸度(%)との積は、好ましくは3000MPa・%以上であり、5000MPa・%以上、8000MPa・%以上、10000MPa・%以上、13000MPa・%以上、15000MPa・%以上、さらには18000MPa・%以上であってもよい。破断強度(MPa)と破断伸度(%)との積の上限値は、特に限定されず、例えば100000MPa・%である。
【0089】
保護層4の破断強度は、例えば10MPa以上であり、20MPa以上、30MPa以上、さらには40MPa以上であってもよい。保護層4の破断強度が大きければ大きいほど、保護層4の強度が大きく、積層体20が裂けにくい傾向がある。保護層4の破断強度の上限値は、特に限定されず、例えば100MPaである。
【0090】
保護層4の破断伸度は、例えば50%以上であり、100%以上、200%以上、300%以上、400%以上、さらには500%以上である。保護層4の破断伸度が高ければ高いほど、保護層4の柔軟性が高く、積層体20が裂けにくい傾向がある。保護層4の破断伸度の上限値は、特に限定されず、例えば1000%である。保護層4は、破断強度が
30MPa以上であり、かつ破断伸度が300%以上であることが好ましい。
【0091】
[積層体の製造方法]
積層体20は、例えば、上記の積層体10を作製し、さらに、延伸フィルム1の上に保護層4を形成することによって作製することができる。保護層4は、例えば、次の方法によって作製できる。まず、保護層4の材料を含む塗布液を準備する。塗布液の溶媒は、典型的には、有機溶媒である。次に、延伸フィルム1の上に塗布液を塗布し、塗布膜を作製する。塗布液の塗布方法は、特に限定されず、ワイヤーバーコート法、スピンコート法などを利用できる。次に、塗布膜を乾燥させることによって、保護層4を形成することができる。塗布膜の乾燥は、例えば、加熱条件下で行うことができる。塗布膜の加熱温度は、特に限定されず、例えば塗布液の溶媒の沸点以上である。塗布膜の加熱時間は、特に限定されず、例えば1分以上である。保護層4に含まれる樹脂がUV硬化型樹脂である場合、塗布膜に対して紫外線を照射することにより、塗布膜を硬化させてもよい。
【0092】
[積層体の特性]
積層体20は、ヒートシールを行ったときの引裂強度が高い傾向がある。積層体20について、ヒートシールを行ったときの引裂強度は、下記試験2により測定される引裂強度によって評価することができる。
試験2:積層体20から、長辺150mm×短辺100mmの矩形の試験片を2つ切り出す。被覆層2同士が接触するように2つの試験片を互いに重ね合わせ、2つの試験片のそれぞれの短辺部に囲まれた開口部が形成されるように3方をヒートシールし、3方袋を作製する。開口部を囲んでいる短辺部を引張試験機にセットする。荷重速度(荷重の増加速度)5N/minの条件で、2つの試験片を互いに引き離す方向に引張試験を行い、3方袋が裂けたときの荷重を引裂強度として特定する。
【0093】
以下では、試験2の詳細について説明する。試験2では、まず、積層体20から、図3Aに示す試験片35及び36を切り出す。各試験片は、長辺150mm×短辺100mmの矩形である。試験片35が短辺部35aを有し、試験片36が短辺部36aを有する。一例として、試験片35及び36のそれぞれについて、短辺方向が延伸フィルム1のMD方向(原フィルムの溶融成形方向)と一致し、長辺方向が延伸フィルム1のTD方向(原フィルムの面内における溶融成形方向に垂直な方向)と一致している。
【0094】
次に、被覆層2同士が接触するように2つの試験片35及び36を互いに重ね合わせ、3方をヒートシールし、図3Bに示す3方袋30を作製する。3方袋30は、2つの試験片35及び36のそれぞれの短辺部35a及び36aに囲まれた開口部31が形成されるように作製する。ヒートシールの条件は、後述する引張試験において、ヒートシールを行った部分での剥がれが生じず、さらに、発泡や焦げが生じない限り特に限定されない。一例として、ヒートシールは、延伸フィルム1の融点以上の温度で0.7秒以上行うことが好ましい。ヒートシールの冷却時間は、例えば、1.4秒以上である。シール幅は、例えば5mmである。ヒートシールは、市販のヒートシーラー(例えば、富士インパルス社製のインパルスシーラー P-300-5)を用いて行うことができる。
【0095】
次に、図3Cに示す引張試験機40に3方袋30をセットする。引張試験機40としては、例えば、島津製作所製の引張圧縮試験機AGS-50NXを用いることができる。例えば、引張試験機40の下部チャック41に、試験片36の短辺部36aの中央部分を固定する。上部チャック42に、試験片35の短辺部35aの中央部分を固定する。これにより、3方袋30について、開口部31を囲んでいる短辺部35a及び36aを引張試験機40にセットすることができる。
【0096】
次に、上部チャック42を上方に移動させることによって、3方袋30に対して、2つ
の試験片35及び36を互いに引き離す方向に引張試験を行う。引張試験を行うと、通常、ヒートシールを行った部分の近傍で3方袋30が裂ける。3方袋30が裂けたときの荷重(引張荷重)を引裂強度として特定することができる。引張試験の測定条件の詳細は、以下のとおりである。
・測定条件
試験モード:シングル
試験種類:引張
荷重速度:5N/min
【0097】
試験2で測定された引裂強度が10.5N以上、特に18N以上である積層体20は、ヒートシールを行ったときの引裂強度が改善されていると言える。引裂強度は、好ましくは12N以上であり、15N以上、16N以上、17N以上、18N以上、20N以上、30N以上、さらには40N以上であってもよい。引裂強度の上限値は、特に限定されず、例えば50Nである。
【0098】
<袋状体の実施形態>
図4に示すとおり、本実施形態の袋状体100は、上述の積層体10を備えている。積層体10に代えて、図2を参照して説明した積層体20も使用可能である。積層体10は、袋状体100の内部と外部とを隔てる隔壁として機能する。袋状体100において、積層体10に含まれる被覆層2は、例えば、延伸フィルム1よりも内側に位置し、後述する内容物55と接触している。
【0099】
袋状体100は、典型的には、2つの積層体10A及び10Bを備えている。積層体10Aと積層体10Bは、互いに同じであってもよく、異なっていてもよい。袋状体100では、2つの積層体10A及び10Bが互いに重ね合わされ、袋状の構造を有するように接合されている。これにより、袋状体100には、積層体10A及び10Bに囲まれた収容部50が形成されている。積層体10A及び10Bは、所望の内部容量の収容部50が形成されるように、撓んだ形状で互いに接合されていてもよい。一例として、袋状体100では、収容部50の周囲において、積層体10Aの被覆層2と、積層体10Bの被覆層2とが互いに接合されている。2つの積層体10A及び10Bは、ヒートシールにより接合されていることが好ましい。ただし、2つの積層体10A及び10Bは、接着剤を介して接合されていてもよい。
【0100】
袋状体100は、収容部50に収容された内容物55をさらに備えていてもよい。内容物55は、袋状体100の用途によって適宜選択することができる。一例として、袋状体100が微細藻類を培養するための培養バッグである場合、内容物55は、例えば、微細藻類及び培養液を含んでいる。上述のとおり、内容物55が微細藻類を含んでいる場合であっても、積層体10の被覆層2によれば、微細藻類の付着を抑制することができる。これにより、積層体10の透光性が低下することを抑制できる。なお、内容物55は、微細藻類以外の他の微生物や、各種の細胞を含んでいてもよい。内容物55は、食品などを含んでいてもよい。
【0101】
微細藻類としては、特に限定されず、例えば、緑色植物門、不等毛植物門などに属するものが挙げられる。緑色植物門に属する藻類としては、緑藻綱、トレボキシア藻綱、プラシノ藻綱、アオサ藻綱、車軸藻綱などに属する藻類が挙げられる。
【0102】
緑藻綱に属する藻類としては、ネオクロリス・オレオアバンダンス等のネオクロリス属藻類、ナノクロリス・エスピー等のナノクロリス属藻類、クラミドモナス・レインハルディ等のクラミドモナス属藻類、セネデスムス属藻類、デスモデスムス属藻類などが挙げられる。トレボキシア藻綱に属する藻類としては、例えば、クロレラ・ケッサレリ等のクロ
レラ属藻類などが挙げられる。
【0103】
不等毛植物門に属する藻類としては、黄金色藻綱、ディクチオカ藻綱、ペラゴ藻綱、ラフィド藻綱、珪藻綱、褐藻綱、黄緑藻綱、真正眼点藻綱などに属する藻類が挙げられる。珪藻綱に属する藻類としては、例えば、タラシオシラ・スードナナ等のタラシオシラ属藻類などが挙げられる。
【0104】
培養液としては、公知のものを利用することができる。培養液は、例えば、水とともに、炭素源、窒素源、リン源などの培地成分をさらに含む。
【0105】
袋状体100は、例えば、気体を内部に供給するための開口部(気体供給口)をさらに有する。開口部を通じて、培養に必要な気体を袋状体100の内部に送ることができる。培養に必要な気体は、典型的には二酸化炭素である。この気体は、酸素や窒素などをさらに含んでいてもよい。この気体は、空気であってもよい。
【0106】
袋状体100は、内容物55を内部に供給するための開口部(図示せず)をさらに有していてもよい。袋状体100では、気体を内部に供給するための開口部を通じて、内容物55が内部に送られてもよい。
【0107】
袋状体100の容積は、袋状体100の用途に応じて適宜選択できる。一例として、袋状体100が微細藻類を培養するための培養バッグである場合、袋状体100の容積は、0.000001~100m3であってもよく、0.1~100m3であってもよく、1~100m3であってもよい。
【0108】
袋状体100は、典型的には、培養バッグである。言い換えると、培養バッグとしての袋状体100が上記の積層体10(又は20)を備えている。培養バッグとしての袋状体100は、微細藻類などの微生物や、各種の細胞などを培養するために用いられ、特に、微細藻類を培養するために用いられることが好ましい。培養バッグとしての袋状体100には、微細藻類の培養を促進させるために、太陽光や、他の光源からの光が照射されてもよい。袋状体100は、その設置面積を抑制しつつ、微細藻類を効率的に培養するために、袋状体100の厚さ方向が水平方向と一致するように配置されてもよい。
【0109】
なお、袋状体100は、培養バッグ以外の用途、例えば食品などの包装容器の用途にも利用されうる。
【実施例0110】
以下に、実施例及び比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0111】
(実施例1)
[積層体の作製]
まず、多官能アクリレート(大阪有機化学工業製、ビスコート#300)及び光重合開始剤(IGM Resins B.V.社製、Omnirad 907)を混合し、混合物を得た。次に、シリカ粒子(Evonik社製、AEROSIL RY200S)及びアセトンを混合し、超音波分散装置(Hielscher社
製、UP200S)による分散処理を行うことによって、シリカ粒子を1wt%の濃度で含む分散液を得た。次に、この分散液を混合物に添加して攪拌を行った。この塗布液において、多官能アクリレートの含有率が81.0wt%であり、光重合開始剤の含有率が9.0wt%であり、シリカ粒子の含有率が10.0wt%であった。
【0112】
次に、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む2軸延伸フィルム(東レ社製のリサイク
ルPETフィルム QZ55、厚さ50μm)を準備した。2軸延伸フィルムについては、放電量200(W・min/m2)の条件でコロナ処理を行った。この2軸延伸フィル
ムの上に、調製した塗布液を滴下し、スピンコーター(アクティブ社製)を用いて塗布膜(厚さ約1μm)を作製した。この塗布膜に紫外線を照射し、塗布膜を硬化させた。これにより、接着層が形成された。なお、紫外線の照射は、クォークテクノロジー社製のUV照射装置を用いて、積算光量0.35J/cm2の条件で行った。
【0113】
次に、接着層と同じ材料を用いて、同様の方法により、被覆層の材料を含む塗布液を調製した。この塗布液において、多官能アクリレートの含有率が18.0wt%であり、光重合開始剤の含有率が2.0wt%であり、シリカ粒子の含有率が80.0wt%であった。
【0114】
次に、上記の接着層の上に、調製した塗布液を滴下し、スピンコーター(アクティブ社製)を用いて塗布膜(厚さ約1μm)を作製した。この塗布膜に紫外線を照射し、塗布膜を硬化させた。これにより、被覆層が形成され、実施例1の積層体が得られた。なお、紫外線の照射は、クォークテクノロジー社製のUV照射装置を用いて、積算光量0.35J/cm2の条件で行った。
【0115】
[水の接触角]
実施例1の積層体において、被覆層の表面に2μLの水滴(温度22℃)を滴下して、水の接触角を測定した。測定には、協和界面科学社製の接触角計DMo-501を用いた。
【0116】
[防藻評価]
まず、実施例1の積層体を縦6cm×横3cmに切り出し、試験片とした。被覆層が外部に露出するように、この試験片をガラス板に張り付けた。次に、両面テープを用いて、ガラス板をアクリル樹脂製の容器の内壁に固定した。この容器に、藻類を含む懸濁液を投入し、試験片の被覆層と懸濁液とを接触させた。藻類としては、渦鞭毛藻類に分類されるものを用いた。次に、容器に、LEDライトからの光を照射した。詳細には、光の照射を16時間行ったあとに、光の照射を8時間停止する操作を7日間繰り返して行った。このとき、容器内の温度は室温に調整した。
【0117】
次に、容器から試験片を取り出して、付着した藻を純水ですすぎ流した。試験片については、真空オーブンを用いて乾燥させた。その後、藻類の付着状態を目視で確認し、以下の基準で評価を行った。
(評価基準)
〇:藻がほとんど付着していない。
×:藻の付着が確認された。
【0118】
[平均透過率の測定]
実施例1の積層体について、上述した方法によって、430~460nmの波長域における平均透過率T1と、640~670nmの波長域における平均透過率T2を測定した。透過率の測定は、日立ハイテクサイエンス社製の紫外可視近赤外分光光度計UH4150を利用した。
【0119】
(実施例2)
被覆層の材料を含む塗布液における各成分の含有率を変更したことを除き、実施例1と同じ方法によって、実施例2の積層体を得た。実施例2では、被覆層の材料を含む塗布液において、多官能アクリレートの含有率が45.0wt%であり、光重合開始剤の含有率が5.0wt%であり、シリカ粒子の含有率が50.0wt%であった。
【0120】
さらに、実施例2の積層体について、実施例1と同じ方法によって、水の接触角、防藻評価、及び平均透過率の測定を行った。
【0121】
(比較例1)
被覆層の材料を含む塗布液における各成分の含有率を変更したことを除き、実施例1と同じ方法によって、比較例1の積層体を得た。比較例1では、被覆層の材料を含む塗布液において、多官能アクリレートの含有率が72.0wt%であり、光重合開始剤の含有率が8.0wt%であり、シリカ粒子の含有率が20.0wt%であった。
【0122】
さらに、比較例1の積層体について、実施例1と同じ方法によって、水の接触角、防藻評価、及び平均透過率の測定を行った。
【0123】
(比較例2)
[積層体の作製]
まず、多官能アクリレート(大阪有機化学工業製、ビスコート#300)及び光重合開始剤(IGM Resins B.V.社製、Omnirad 907)を混合し、混合物を得た。次に、シリカ粒子(Evonik社製、AEROSIL 130)及びアセトンを混合し、超音波分散装置(Hielscher社製、UP200S)による分散処理を行うことによって、シリカ粒子を1wt%の濃度で含む分散液を得た。次に、この分散液を混合物に添加して攪拌を行った。この塗布液において、多官能アクリレートの含有率が81.0wt%であり、光重合開始剤の含有率が9.0wt%であり、シリカ粒子の含有率が10.0wt%であった。
【0124】
次に、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む2軸延伸フィルム(東レ社製のリサイクルPETフィルム QZ55、厚さ50μm)を準備した。2軸延伸フィルムについては、放電量200(W・min/m2)の条件でコロナ処理を行った。この2軸延伸フィル
ムの上に、調製した塗布液を滴下し、スピンコーター(アクティブ社製)を用いて塗布膜(厚さ約1μm)を作製した。この塗布膜に紫外線を照射し、塗布膜を硬化させた。これにより、接着層が形成された。なお、紫外線の照射は、クォークテクノロジー社製のUV照射装置を用いて、積算光量0.35J/cm2の条件で行った。
【0125】
次に、接着層と同じ材料を用いて、同様の方法により、被覆層の材料を含む塗布液を調製した。この塗布液において、多官能アクリレートの含有率が9.0wt%であり、光重合開始剤の含有率が1.0wt%であり、シリカ粒子の含有率が90.0wt%であった。
【0126】
次に、上記の接着層の上に、調製した塗布液を滴下し、スピンコーター(アクティブ社製)を用いて塗布膜(厚さ約1μm)を作製した。この塗布膜に紫外線を照射し、塗布膜を硬化させた。これにより、被覆層が形成され、比較例2の積層体が得られた。なお、紫外線の照射は、クォークテクノロジー社製のUV照射装置を用いて、積算光量0.35J/cm2の条件で行った。
【0127】
比較例2の積層体について、実施例1と同じ方法によって、水の接触角、防藻評価、及び平均透過率の測定を行った。
【0128】
(比較例3)
比較例3では、ポリエチレンテレフタレート樹脂を含む2軸延伸フィルム(東レ社製のリサイクルPETフィルム QZ55、厚さ50μm)を準備した。さらに、この2軸延伸フィルムについて、実施例1と同じ方法によって、水の接触角、防藻評価、及び平均透過率の測定を行った。なお、比較例3では、2軸延伸フィルムの表面に水滴を滴下して、
水の接触角を測定した。
【0129】
【表1】
【0130】
表1からわかるとおり、水の接触角が130°以上である被覆層を備えた実施例の積層体は、防藻評価が〇であり、比較例と比べて、藻の付着が抑制されていた。この結果から、実施例の積層体は、比較例と比べて、培養バッグ、特に微細藻類を培養するための培養バッグ、の基材に適していると言える。
【産業上の利用可能性】
【0131】
本実施形態の積層体は、培養バッグ、特に微細藻類を培養するための培養バッグ、の基材に適している。
【符号の説明】
【0132】
1 延伸フィルム
2 被覆層
3 接着層
10、20 積層体
100 袋状体
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4