(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043734
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】油入変圧器の劣化診断方法
(51)【国際特許分類】
H01F 27/00 20060101AFI20240326BHJP
H01F 41/00 20060101ALI20240326BHJP
【FI】
H01F27/00 B
H01F41/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148891
(22)【出願日】2022-09-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 1:2022年3月1日 令和4年電気学会全国大会論文集(URL:https://gakkai-web.net/p/iee/ippan/mod2.php) 2:2022年6月3日 第42回絶縁油分科会研究発表会要旨集
(71)【出願人】
【識別番号】000005234
【氏名又は名称】富士電機株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】596094577
【氏名又は名称】ユカインダストリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】千葉 公一郎
(72)【発明者】
【氏名】中嶋 恵一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 文人
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 元崇
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 学
(72)【発明者】
【氏名】後藤 隆行
(72)【発明者】
【氏名】小西 義則
【テーマコード(参考)】
5E059
【Fターム(参考)】
5E059BB15
(57)【要約】
【課題】絶縁紙の種類によらず油入変圧器の劣化を好適に診断すること。
【解決手段】油入変圧器の劣化診断方法は、絶縁油および絶縁紙を備える油入変圧器の劣化度合を診断する劣化診断方法であって、前記絶縁油中に含まれる2以上の劣化指標成分の定量を行う定量工程と、前記定量工程で得られた前記2以上の劣化指標成分の総量に基づいて前記油入変圧器の劣化度合を診断する診断工程と、を含み、前記2以上の劣化指標成分は、フルフラール、5-メチルフルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール、2-アセチルフラン、および2-フルフリルアルコールのフラン5種のうちのいずれか2以上である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁油および絶縁紙を備える油入変圧器の劣化度合を診断する劣化診断方法であって、
前記絶縁油中に含まれる2以上の劣化指標成分の定量を行う定量工程と、
前記定量工程で得られた前記2以上の劣化指標成分の総量に基づいて前記油入変圧器の劣化度合を診断する診断工程と、を含み、
前記2以上の劣化指標成分は、フルフラール、5-メチルフルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール、2-アセチルフラン、および2-フルフリルアルコールのフラン5種のうちのいずれか2以上である、
ことを特徴とする油入変圧器の劣化診断方法。
【請求項2】
前記診断工程では、前記フラン5種の総量に基づいて前記油入変圧器の劣化度合を診断する、
請求項1に記載の油入変圧器の劣化診断方法。
【請求項3】
前記定量工程では、前記フルフラール、前記5-メチルフルフラール、または前記2-アセチルフランでは、高感度SPME-ガスクロマトグラフ質量分析法により定量される、
請求項1に記載の油入変圧器の劣化診断方法。
【請求項4】
前記定量工程では、前記5-ヒドロキシメチルフルフラール、または前記2-フルフリルアルコールは、トリメチルシリル誘導体化-ガスクロマトグラフ質量分析法により定量される、
請求項1に記載の油入変圧器の劣化診断方法。
【請求項5】
前記高感度SPME-ガスクロマトグラフ質量分析法の定量下限値は、0.005[mg/kg]である、
請求項3に記載の油入変圧器の劣化診断方法。
【請求項6】
前記トリメチルシリル誘導体化-ガスクロマトグラフ質量分析法の定量下限値は、0.001~0.005[mg/kg]である、
請求項4に記載の油入変圧器の劣化診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、油入変圧器の劣化診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
絶縁油を備える油入変圧器が知られている。油入変圧器は、一般的に、鉄心と絶縁紙で被覆された巻線とが絶縁油に浸漬された構成である。絶縁紙は、一般的にセルロースを含む。かかる絶縁紙は交換が難しいため、油入変圧器の寿命は、絶縁紙の劣化度合に依存すると言われている。
【0003】
絶縁紙の劣化度合は、例えば、絶縁紙の引張強度と相関のあるセルロースの平均重合度で診断される。平均重合度は、例えば、間接法により推定される。間接法は、絶縁油に溶存した絶縁紙の劣化生成物の生成量から間接的に平均重合度を推定する方法である。かかる間接法によれば、油入変圧器を停止することなく、かつ、劣化度合を簡便に診断することができる。当該診断方法の例として、特許文献1および非特許文献1に油入変圧器の余寿命診断を行う方法が開示される。
【0004】
特許文献1に記載の油入変圧器の余寿命診断を行う方法では、セルロースの分解生成物であるフルフラール(2-フランカルボキシアルデヒド)量から余寿命診断が行われる。また、非特許文献1に記載の油入り変圧器の余寿命診断を行う方法では、セルロースの分解生成物であるフルフラール量の他、CO2+CO量、あるいはアセトン量などから余寿命診断が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】電気協同研究 第54巻 第5号(その1)「油入変圧器の保守管理」電力用変圧器保守管理専門委員会著、社団法人電気協同研究会 平成11年2月発行、P157~
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
近年、絶縁紙にはアミン系化合物を含む耐熱性の絶縁紙が用いられている。従来のフルフラールを用いた方法では、耐熱性の絶縁紙の劣化度合を評価することが難しい。アミン系の化合物とフルフラールが反応し、絶縁油中からフルフラールが減少してしまう場合があるためだと考えられる。このため、近年、国内外で耐熱性の絶縁紙の劣化方法の探索に関する研究が精力的に行われているが、決定的な方法が見つかっていない。それゆえ、クラフト紙を備える油入変圧器の劣化だけでなく、アミン系化合物を含む耐熱性の絶縁紙を備える油入変圧器の劣化を診断することが可能な診断方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本開示の好適な態様に係る油入変圧器の劣化診断方法は、絶縁油および絶縁紙を備える油入変圧器の劣化度合を診断する劣化診断方法であって、前記絶縁油中に含まれる2以上の劣化指標成分の定量を行う定量工程と、前記定量工程で得られた前記2以上の劣化指標成分の総量に基づいて前記油入変圧器の劣化度合を診断する診断工程と、を含み、前記2以上の劣化指標成分は、フルフラール、5-メチルフルフラール、5-ヒドロキシメチルフルフラール、2-アセチルフラン、および2-フルフリルアルコールのフラン5種のうちのいずれか2以上である。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、絶縁紙がクラフト紙およびアミン系化合物を含む耐熱性の絶縁紙のいずれであっても油入変圧器の劣化を診断することが可能な診断方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本実施形態の油入変圧器の劣化診断方法のフロー図である。
【
図2】フラン5種の総量と平均重合度との関係を示す図である。
【
図3】2FALおよび2FOLの総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
【
図4】5MEFおよび5HMFの総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
【
図5】5MEFおよび2ACFの総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
【
図6】2FAL、5MEFおよび5HMFの総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
【
図7】2FAL、5MEFおよび2FOLの総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
【
図8】2FAL、2ACFおよび2FOLの総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
【
図9】2FAL、5MEF、5HMFおよび2FOLの総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
【
図10】2FAL、5MEF、2ACFおよび2FOLの総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
【
図11】5MEF、5HMF、2ACFおよび2FOLの総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面を参照しながら本開示に係る好適な実施形態を説明する。なお、本開示の範囲は、以下の説明において特に本開示を限定する旨の記載がない限り、これらの形態に限られない。
【0012】
本実施形態の油入変圧器の劣化診断方法は、油入変圧器の劣化度合を診断する方法である。診断対象となる油入変圧器は、絶縁油および絶縁紙を備える。一般的には、油入変圧器は、鉄心と絶縁紙で被覆された巻線とが絶縁油に浸漬された構成である。
【0013】
絶縁油としては、特に限定されず、鉱油、アルキルベンゼン等の電気絶縁油、および植物油が挙げられる。
【0014】
絶縁紙は、セルロースを含む。絶縁紙の具体例としては、クラフト紙、およびアミン系化合物を含む耐熱性の絶縁紙が挙げられる。アミン系化合物とは、アミンを含む化合物である。例えば、アミン化合物としては、芳香族アミンが挙げられる。
【0015】
油入変圧器の劣化度合を診断することで、油入変圧器の寿命を評価することができる。油入変圧器の寿命は一般的に絶縁紙の劣化度合に依存する。具体的には、油入変圧器の寿命は、絶縁紙の引張強度が60%以下になったときとされる。絶縁紙の引張強度は、絶縁紙に含まれるセルロースの平均重合度で評価される。例えば、新品のクラフト紙の場合の平均重合度は、約1000とされる。絶縁紙が劣化するとセルロースが分解され、平均重合度が低下する。
【0016】
日本電機工業会規格JEM1463-1993には、変圧器用絶縁紙の平均重合度評価基準が示される。かかる基準では、平均重合度450は、変圧器が絶縁紙の劣化によって、その信頼度が低下し、更新が必要であると判断される寿命レベルであるとされる。したがって、例えば、新品のクラフト紙の場合の平均重合度が約1000である場合、平均重合度残率が45%になると、寿命レベルであるとされる。
【0017】
図1は、本実施形態の油入変圧器の劣化診断方法のフロー図である。
図1に示すように、油入変圧器の劣化診断方法は、定量工程S1と、診断工程S2とを含む。
【0018】
図1に示す定量工程S1では、絶縁油中に含まれる2以上の劣化指標成分の定量を行う。劣化指標成分は、フルフラール(2FAL)、5-メチルフルフラール(5MEF)、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5HMF)、2-アセチルフラン(2ACF)、および2-フルフリルアルコール(2FOL)のフラン5種のうちのいずれか2以上である。フルフラールは、2-フランカルボキシアルデヒドとも呼ばれ、下記(1)で表される。5-メチルフルフラールは下記(2)で表される。5-ヒドロキシメチルフルフラールは下記(3)で表される。2-アセチルフランは下記(4)で表される。2-フルフリルアルコールは、2-フラノメタノールとも呼ばれ、下記(5)で表される。
【0019】
【0020】
フラン5種は、セルロースの分解の過程で生成される。具体的には、絶縁紙に含まれるセルロースは、油入変圧器の運転中に温度等の影響を受けて劣化していく。油入変圧器が長期間高温で運転されることで経年的に劣化されると、セルロースが分解していく。セルロースは分解されると、平均重合度が低下し、絶縁紙の引張強度が低下する。このセルロースの分解の過程で、フラン5種が生成される。
【0021】
かかるフラン5種のうちのいずれか2以上を定量し、次の診断工程S2で定量結果の総量を用いることで、絶縁紙の種類等によらず油入変圧器の劣化を好適に診断することができる。
【0022】
劣化指標成分の定量方法は、当該成分の定量ができれば特に限定されないが、例えば、以下の方法が挙げられる。まず、油入変圧器から絶縁油を採取する。次に、絶縁油中の2以上の劣化指標成分の定量を行う。
【0023】
劣化指標成分の定量では、成分ごとに最適な分析手法が採用される。具体的には、フルフラール、5-メチルフルフラール、または2-アセチルフランは、高感度タイプの高感度SPME(固相マイクロ抽出)-ガスクロマトグラフ質量分析法(GCMS)により定量される。前処理としての高感度SPMEにより劣化指標成分の抽出を行い、ガスクロマトグラフ質量分析法により定性および定量を行う。前処理として高感度SPMEを採用することで、微量な成分を検出することが可能になる。
【0024】
石油学会規格JPI法で示される試験方法では、フルフラールの定量下限値は、0.05[mg/kg]とされ、フルフラール以外の4つの劣化指標成分の定量下限値は、1.0[mg/kg]とされる。これに対し、高感度SPME-GCMSを用いることで、フルフラール、5-メチルフルフラール、および2-アセチルフランが低濃度であっても一貫性高く定量することができる。
【0025】
具体的には、高感度SPME-ガスクロマトグラフ質量分析法の定量下限値は、0.005[mg/kg]である。このため、高感度SPME-ガスクロマトグラフ質量分析法を用いることで、フルフラール、5-メチルフルフラール、および2-アセチルフランが低濃度であっても一貫性高く定量することができる。
【0026】
また、5-ヒドロキシメチルフルフラール、および2-フルフリルアルコールは、トリメチルシリル誘導体化-ガスクロマトグラフ質量分析法により定量される。前処理としてのトリメチルシリル誘導体化を行った後、ガスクロマトグラフ質量分析法により定性および定量を行う。前処理としてトリメチルシリル誘導体化を採用することで、微量な成分を検出することが可能になる。
【0027】
前述のように、石油学会規格JPI法で示される試験方法では、5-ヒドロキシメチルフルフラール、および2-フルフリルアルコールの各定量下限値は、1.0[mg/kg]とされる。これに対し、トリメチルシリル誘導体化-ガスクロマトグラフ質量分析法を用いることで、5-ヒドロキシメチルフルフラール、および2-フルフリルアルコールが低濃度であっても定量することができる。
【0028】
トリメチルシリル誘導体化-ガスクロマトグラフ質量分析法の定量下限値は、0.001~0.005[mg/kg]である。このため、トリメチルシリル誘導体化-ガスクロマトグラフ質量分析法を用いることで、5-ヒドロキシメチルフルフラール、および2-フルフリルアルコールが低濃度であっても定量することができる。
【0029】
また、アミン系化合物を含む耐熱性の絶縁紙が用いられる場合、アミン系化合物と、フルフラール、5-メチルフルフラールおよび5-ヒドロキシメチルフルフラールの各成分とが反応する。このため、当該各成分が絶縁油中で減少してしまう可能性がある。しかし、前述のように、フルフラール、および5-メチルフルフラールに対しては、高感度SPME-ガスクロマトグラフ質量分析法を用い、5-ヒドロキシメチルフルフラールに対してはトリメチルシリル誘導体化-ガスクロマトグラフィー分析法を用いることで、低濃度であっても定量することができる。
【0030】
なお、フルフラール、5-メチルフルフラール、および2-アセチルフランは、高感度SPME-ガスクロマトグラフ質量分析法以外の方法で定量されてもよい。また、5-ヒドロキシメチルフルフラール、および2-フルフリルアルコールは、トリメチルシリル誘導体化-ガスクロマトグラフ質量分析法以外の方法で定量されてもよい。
【0031】
図1に示す診断工程S2では、定量工程S1で得られた2以上の劣化指標成分の総量に基づいて油入変圧器の劣化度合を診断する。
【0032】
劣化指標成分の診断方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法が挙げられる。まず、定量工程S1で得られた2以上の劣化指標成分の総量を求める。次に、当該総量に基づいて、絶縁紙の劣化度合を診断する。そして、絶縁紙の劣化度合から油入変圧器の劣化度合を診断する。
【0033】
絶縁紙の劣化度合の診断では、例えば、2以上の劣化指標成分の総量と平均重合度との関係から、絶縁紙の劣化度合を診断する。
【0034】
図2は、フラン5種の総量と平均重合度との関係を示す図である。
図2の縦軸は、紙1g当たりから生成したフラン5種の総量[mg/g]を示し、横軸は、平均重合度(DP)を示す。
図2に示す曲線は、定量用の検量線である。前述のように、例えば新品のクラフト紙の場合の平均重合度は、約1000とされる。平均重合度が小さいほど絶縁紙が劣化している。
図2から分かるように、フラン5種の総量が多いほど平均重合度が小さく、よって、フラン5種の総量が多いほど絶縁紙が劣化している。
【0035】
前述のように、日本電機工業会規格JEM1463-1993では、平均重合度450は寿命レベルであると診断される。したがって、
図2の検量線を参照すると、フラン5種の総量が約0.01[mg/g]を超える場合、平均重合度が450未満である推定される。それゆえ、この場合、絶縁紙の劣化度合が寿命レベルであると診断される。よって、この場合、油入変圧器が寿命レベルであると診断される。また。フラン5種の総量から平均重合度を評価することで、あとどのくらいで油入変圧器が寿命レベルに達するかを推測することができる。
【0036】
なお、フラン5種の総量と平均重合度との関係は、絶縁紙の種類、および絶縁油の種類によって異なる。このため、絶縁紙の種類、および絶縁油の種類に応じた検量線を用いることで、油入変圧器の劣化度合を高精度に診断することができる。
【0037】
また、前述の説明では、2以上の劣化指標成分の総量と平均重合度との関係から絶縁紙の劣化度合を診断したが、2以上の劣化指標成分の総量のみから絶縁紙の劣化度合を診断してもよい。また、2以上の劣化指標成分の総量と平均重合度残率(DP残率)との関係から絶縁紙の劣化度合を診断してもよい。例えば、初期の平均重合度が1000である場合、
図2に示す例では、平均重合度残率(DP残率)が45%であると、油入変圧器が寿命レベルであると診断される。
【0038】
前述のように、油入変圧器の劣化診断方法は、定量工程S1と診断工程S2とを含む。定量工程S1では、絶縁油中に含まれる2以上の劣化指標成分の定量を行う。診断工程S2では、定量工程S1で得られた2以上の劣化指標成分の総量に基づいて油入変圧器の劣化度合を診断する。そして、2以上の劣化指標成分は、フラン5種のうちのいずれか2以上である。
【0039】
フラン5種のうちのいずれか2以上の劣化指標成分の総量を用いて劣化度合を診断することで、絶縁紙がクラフト紙およびアミン系化合物を含む耐熱性の絶縁紙のいずれであっても油入変圧器の劣化を診断することができる。フラン5種は、セルロースの分解の過程で生成される分解生成物である。フラン5種は、油入変圧器の温度、絶縁油の種類、および油入変圧器の運転期間等の条件によって生成比率が異なる。また、耐熱性の絶縁紙の場合、アミン系の化合物とフルフラールが反応し、絶縁油中からフルフラールが減少してしまう場合がある。5-メチルフルフラールおよび5-ヒドロキシメチルフルフラールについても同様に、アミン系の化合物と反応し、減少してしまう場合がある。
【0040】
このようなことから、1つの劣化指標成分を用いて劣化度合を診断すると、絶縁紙の種類および診断時期によっては、絶縁紙の劣化度合を診断することが難しい。これに対し、2以上の劣化指標成分の総量を用いることで、絶縁紙の種類および診断時期によらず、絶縁紙の劣化度合を診断することができる。よって、油入変圧器の劣化度合を診断することができる。
【0041】
特に、診断工程S2では、フラン5種の総量に基づいて油入変圧器の劣化度合を診断することが好ましい。フラン5種の総量を用いることで、クラフト紙およびアミン系化合物を含む耐熱性の絶縁紙のいずれであっても高精度な検量線を作成することができる。よって、絶縁紙の種類によらず、絶縁紙の劣化度合を特に高精度に診断することができる。
【0042】
フラン5種の総量を用いることが油入変圧器の劣化度合を最も高精度に診断することができる。しかし、2以上の劣化指標成分を用いた場合であっても、1つの劣化指標成分を用いる場合に比べ、クラフト紙およびアミン系化合物を含む耐熱性の絶縁紙のいずれであっても絶縁紙の劣化度合を高精度に診断することができる。
【0043】
図3~
図10には、2以上4以下の劣化指標成分の総量と平均重合度との関係の例が示される。
図3は、フルフラール(2FAL)および2-フルフリルアルコール(2FOL)の総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
図4は、5-メチルフルフラール(5MEF)および5-ヒドロキシメチルフルフラール(5HMF)の総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
図5は、5-メチルフルフラール(5MEF)および2-アセチルフラン(2ACF)の総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
図3、4および5のそれぞれに示す2つの劣化指標成分の総量と平均重合度残率との関係に基づいて検量線を作成し、その検量線を基にして絶縁紙の劣化度合を診断することができる。なお、他の2つの劣化指標成分の組み合わせについても同様である。
【0044】
図6は、フルフラール(2FAL)、5-メチルフルフラール(5MEF)および5-ヒドロキシメチルフルフラール(5HMF)の総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
図7は、フルフラール(2FAL)、5-メチルフルフラール(5MEF)および2-フルフリルアルコール(2FOL)の総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
図8は、フルフラール(2FAL)、2-アセチルフラン(2ACF)および2-フルフリルアルコール(2FOL)の総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
図6、7および8のそれぞれに示す3つの劣化指標成分の総量と平均重合度残率との関係に基づいて検量線を作成し、その検量線を基にして絶縁紙の劣化度合を診断することができる。なお、他の3つの劣化指標成分の組み合わせについても同様である。
【0045】
図9は、フルフラール(2FAL)、5-メチルフルフラール(5MEF)、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5HMF)および2-フルフリルアルコール(2FOL)の総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
図10は、フルフラール(2FAL)、5-メチルフルフラール(5MEF)、2-アセチルフラン(2ACF)および2-フルフリルアルコール(2FOL)の総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
図11は、5-メチルフルフラール(5MEF)、5-ヒドロキシメチルフルフラール(5HMF)、2-アセチルフラン(2ACF)および2-フルフリルアルコール(2FOL)の総量と平均重合度残率との関係を示す図である。
図9、10および11のそれぞれに示す4つの劣化指標成分の総量と平均重合度残率との関係に基づいて検量線を作成し、その検量線を基にして絶縁紙の劣化度合を診断することができる。なお、他の4つの劣化指標成分の組み合わせについても同様である。
【0046】
また、定量工程S1で定量する劣化指標成分と、検量線の作成に用いる劣化指標成分とは等しい。例えば、検量線は、以下の加速劣化試験により作成される。
【0047】
まず、絶縁紙を乾燥処理した後、絶縁紙をガラス製のアルミシールバイアルに入れ、窒素雰囲気中で銅触媒と脱気および窒素置換した絶縁油とを充填し、密閉する。次に、アルミシールバイアルを例えば100℃以上120℃以下に設定された恒温槽内に置き、所定期間加熱処理を行う。100℃以上120℃以下であることで、120℃を超える温度で加熱処理を行う場合に比べ、劣化指標成分としてのセルロースの分解生成物の2次反応を抑制することができる。よって、高精度な検量線を作成することができる。
【0048】
加熱処理が終了したら、絶縁紙を取り出し平均重合度を測定する。また、定量工程S1で説明した方法で絶縁油の2以上の劣化指標成分を定量し、2以上の劣化指標成分の総量を求める。その後、横軸を平均重合度または平均重合度残率とし、縦軸を2以上の劣化指標成分の総量とし、測定結果をプロットする。そして、複数のプロットの最小二乗法により近似曲線を求める。当該曲線を検量線とする。以上の方法で、簡単かつ高精度に検量線を作成することができる。
【0049】
以上、本発明について図示の実施形態に基づいて説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。また、本発明の各部の構成は、前述した実施形態の同様の機能を発揮する任意の構成のものに置換することができ、また、任意の構成を付加することもできる。
【符号の説明】
【0050】
S1…定量工程、S2…診断工程。