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特開2024-43735情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
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  • 特開-情報処理装置、情報処理方法及びプログラム 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043735
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】情報処理装置、情報処理方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/00 20230101AFI20240326BHJP
   C02F 1/50 20230101ALI20240326BHJP
【FI】
C02F1/00 V
C02F1/00 B
C02F1/50 510A
C02F1/50 520C
C02F1/50 531P
C02F1/50 540B
C02F1/50 550C
C02F1/50 550L
C02F1/50 560D
C02F1/50 560E
C02F1/50 560Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148892
(22)【出願日】2022-09-20
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 発行日2021年(令和3年)12月31日、令和3年度全国会議(水道研究発表会)講演集、第262~263頁、公益社団法人日本水道協会 〔刊行物等〕 発表日2022年(令和4年)2月1日~2月28日、令和3年度日本水道協会全国会議(オンライン開催)、http://www.jwwa.or.jp/zenkoku/happyou.html
(71)【出願人】
【識別番号】390014074
【氏名又は名称】前澤工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001656
【氏名又は名称】弁理士法人谷川国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】本間 司
(57)【要約】
【課題】日常的に測定し且つ簡単に入手可能な管理指標を用いてハロ酢酸の濃度を予測することができる情報処理装置を提供する。
【解決手段】情報処理装置10はCPU11を備え、上水処理を施す上水処理システム20は膜ろ過槽22及び次亜塩素酸注入部23を備え、膜ろ過槽22を通過し且つ次亜塩素酸注入部23が次亜塩素酸ナトリウムを注入する前の膜ろ過水の水温及び色度が測定されるとともに、一定の条件下で当該膜ろ過水を72時間静置したときのトリクロロ酢酸の濃度が測定され、これらにより、膜ろ過水の水温、色度及びトリクロロ酢酸の濃度が採取され、これらに基づいて重回帰分析が実行され、トリクロロ酢酸の濃度を目的変数とし且つ水温及び色度を説明変数に設定するトリクロロ酢酸の濃度の予測式が導出され、CPU11は測定された膜ろ過水の水温及び色度、並びに、当該予測式に基づいてトリクロロ酢酸の濃度の予測値を算出する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
上水処理が施された処理済水に含まれるハロ酢酸の濃度の予測値を予測する情報処理装置であって、
一の水から予め取得されたハロ酢酸の濃度、並びに、水温及び色度に基づいて関係式を導出する導出手段と、
前記上水処理が施される対象の水の水温及び色度を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出手段と、を備えることを特徴とする情報処理装置。
【請求項2】
前記ハロ酢酸は、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸又はトリクロロ酢酸であることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項3】
前記関係式は、目的変数として前記ハロ酢酸の濃度を設定するとともに、説明変数として前記色度及び前記水温を設定していることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項4】
前記関係式は、前記目的変数及び各前記説明変数に基づく重回帰分析が実行されることによって導出されていることを特徴とする請求項3記載の情報処理装置。
【請求項5】
前記一の水及び前記上水処理が施される対象の水は、前記上水処理を施す上水処理システムに供給された水の濁質を膜によって除去する膜ろ過手段を通過した水であることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項6】
前記色度は、前記上水処理システムに供給される水の色度に基づく色度であることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項7】
前記関係式は、前記上水処理が施される前の水の水温及び色度、並びに、前記上水処理が施された処理済水のハロ酢酸の濃度に基づいて導出されていることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項8】
前記関係式を導出するための水温及び色度のデータは、前記上水処理が施される前の水の残留塩素濃度に基づいて選択されることを特徴とする請求項7記載の情報処理装置。
【請求項9】
前記上水処理が施される対象の水は、消毒剤を添加する前の水であることを特徴とする請求項1記載の情報処理装置。
【請求項10】
上水処理が施された処理済水に含まれるハロ酢酸の濃度の予測値を予測する情報処理方法において、
一の水から予め取得されたハロ酢酸の濃度、並びに、水温及び色度に基づいて関係式を導出する導出ステップと、
前記上水処理が施される対象の水の水温及び色度を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出ステップと、を有することを特徴とする情報処理方法。
【請求項11】
上水処理が施された処理済水に含まれるハロ酢酸の濃度の予測値を予測する情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記情報処理方法は、
一の水から予め取得されたハロ酢酸の濃度、並びに、水温及び色度に基づいて関係式を導出する導出ステップと、
前記上水処理が施される対象の水の水温及び色度を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出ステップと、を有することを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は上水処理に用いられる情報処理装置、情報処理方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、河川水やダム水又は湖沼水、地下水等の原水(以下、単に「原水」という。)を飲料水にするための上水処理が知られ、上水処理は塩素による消毒工程を実行する(例えば、特許文献1参照。)。消毒工程において、消毒副生成物であるクロロ酢酸、ジクロロ酢酸又はトリクロロ酢酸等のハロ酢酸が生成され、いずれも発癌性の恐れがある物質として知られている。ハロ酢酸のような消毒副生成物を水質基準以下に制御するために、例えば、活性炭を用いて消毒副生成物の前駆物質である有機物を除去する方法が知られている(例えば、特許文献2)。
【0003】
ところで、上水処理が施された水に含まれるハロ酢酸が水質基準以下であるか否かは、例えば、ガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)等の高度な分析機器による測定結果に基づいて判別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2020-142184号公報
【特許文献2】特開2002-263668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、ハロ酢酸の測定には、予め分析機器の起動に時間を要することや分析機器による測定自体に一定の時間を要する。また、分析機器が高価であり、浄水場が当該分析機器を所有していない場合がある。この場合、日常的に測定し且つ簡単に入手可能な管理指標を用いてハロ酢酸の濃度を予測したいというニーズがある。
【0006】
本発明の目的は、日常的に測定し且つ簡単に入手可能な管理指標を用いてハロ酢酸の濃度を予測することができる情報処理装置、情報処理方法、及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の情報処理装置は、上水処理が施された処理済水に含まれるハロ酢酸の濃度の予測値を予測する情報処理装置であって、一の水から予め取得されたハロ酢酸の濃度、並びに、水温及び色度に基づいて関係式を導出する導出手段と、前記上水処理が施される対象の水の水温及び色度を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出手段と、を備えることを特徴とする情報処理装置。
【0008】
上記目的を達成するために、本発明の情報処理方法は、上水処理が施された処理済水に含まれるハロ酢酸の濃度の予測値を予測する情報処理方法において、一の水から予め取得されたハロ酢酸の濃度、並びに、水温及び色度に基づいて関係式を導出する導出ステップと、前記上水処理が施される対象の水の水温及び色度を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出ステップと、を有することを特徴とする。
【0009】
上記目的を達成するために、本発明のプログラムは、上水処理が施された処理済水に含まれるハロ酢酸の濃度の予測値を予測する情報処理方法をコンピュータに実行させるプログラムであって、前記情報処理方法は、一の水から予め取得されたハロ酢酸の濃度、並びに、水温及び色度に基づいて関係式を導出する導出ステップと、前記上水処理が施される対象の水の水温及び色度を取得し、前記関係式を用いて前記予測値を算出する算出ステップと、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、日常的に測定し且つ簡単に入手可能な管理指標を用いてハロ酢酸の濃度を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施の形態に係る情報処理装置の構成を概略的に示すブロック図である。
図2図1におけるデータ入力部に入力される水質に関する情報を取得するために用いられる上水処理システムを概略的に示すブロック図である。
図3図2における膜ろ過槽を通過し且つ次亜塩素酸注入部が次亜塩素酸ナトリウムを注入する前の膜ろ過水から採取された情報に基づいて図1の情報処理装置がハロ酢酸の濃度を予測するための予測式を導出する予測式導出処理の手順を示すフローチャートである。
図4図1におけるCPUがトリクロロ酢酸の濃度を予測する予測処理の手順を示すフローチャートである。
図5図3の処理によって導出された予測式に基づくトリクロロ酢酸予測濃度及び図3における膜ろ過水のトリクロロ酢酸の濃度を実測することによって取得されたトリクロロ酢酸実測濃度を比較した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳述する。
【0013】
図1は、本発明の実施の形態に係る情報処理装置10の構成を概略的に示すブロック図である。
【0014】
図1の情報処理装置10は、CPU11(導出手段、算出手段)、RAM12、ROM13、SSD14、及びデータ入力部15を備え、これらは内部バス16を介して互いに接続されている。CPU11は、ROM13又はSSD14に格納されたプログラムをCPU11のワークメモリであるRAM12に展開して実行する。また、水質に関する情報はデータ入力部15から入力されてROM13又はSSD14に格納される。なお、本実施の形態において、データ入力部15から入力された水質に関する情報はSSD14に格納されることを前提とする。CPU11は、SSD14に格納された水質に関する情報を用いて重回帰分析を実行し、目的変数及び説明変数の関係式を導出する。また、CPU11は、導出した関係式に基づいて上水処理が施された処理済水に含まれるハロ酢酸の濃度の予測値を算出する。
【0015】
図2は、図1におけるデータ入力部15に入力される水質に関する情報を取得するために用いられる上水処理システム20を概略的に示すブロック図である。
【0016】
図2の上水処理システム20は、原水から有機物を除去するイオン交換樹脂を有する樹脂処理槽21、原水から濁質を除去する膜(膜ろ過手段)、例えば、精密ろ過膜、限外ろ過膜、ナノろ過膜又は逆浸透膜等を有する膜ろ過槽22、膜ろ過槽22を通過した原水を消毒するとともに、原水に含まれる鉄成分やマンガン成分を塩素によって酸化するために次亜塩素酸ナトリウム(塩素剤)を注入する次亜塩素酸注入部(消毒剤注入部)23、及び塩素による酸化によって生成された鉄成分やマンガン成分の酸化物を砂ろ過によって原水から除去する除マンガン槽(金属除去槽)24を備え、樹脂処理槽21に流入した原水は、膜ろ過槽22、次亜塩素酸注入部23、除マンガン槽24を順次通過する。除マンガン槽24を通過して上水処理が施された処理済水は、通常、24~72時間後に家庭や公共施設等の蛇口である給水末端を使用するユーザに供給される。
【0017】
膜ろ過槽22を通過し且つ次亜塩素酸注入部23が次亜塩素酸ナトリウムを注入する前の原水(以下、「膜ろ過水」という。)の水温及び色度がそれぞれ温度計及び色度計によって測定される。色度は比色法又は透過光測定法による一般的な色度計を用いて測定することができる。また、膜ろ過水に含まれるハロ酢酸の濃度として、クロロ酢酸、ジクロロ酢酸及びトリクロロ酢酸のそれぞれの濃度が測定される。クロロ酢酸、ジクロロ酢酸及びトリクロロ酢酸のそれぞれの濃度は、測定者が次亜塩素酸ナトリウムを採水した膜ろ過水に注入して、所定時間、例えば、72時間経過したときにガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)によって測定される。ここで、所定時間は、最大の想定滞留時間を考慮して、例えば、24~72時間の範囲から設定することができる。膜ろ過水に注入される次亜塩素酸ナトリウムは0.4mg/L~1.8mg/L(Clとして0.2mg/L~0.7mg/L)であり、水温に応じて設定される。8月等の夏期における膜ろ過水の水温は2月等の冬期における膜ろ過水の水温よりも高く、一般的に20℃を超えるが、例えば、膜ろ過水の水温が20℃を超える高水温期には注入する次亜塩素酸ナトリウムの濃度を高めてもよい。次亜塩素酸ナトリウムを注入して72時間経過したときの膜ろ過水中の残留塩素濃度は0.1mg/L~0.2mg/Lである。
【0018】
図3は、図2における膜ろ過槽22を通過し且つ次亜塩素酸注入部23が次亜塩素酸ナトリウムを注入する前の膜ろ過水を採取し、採取した膜ろ過水から取得された情報に基づいて図1の情報処理装置10がハロ酢酸の濃度を予測するための予測式を導出する予測式導出処理の手順を示すフローチャートである。なお、濃度予測の対象のハロ酢酸はトリクロロ酢酸であることを前提として説明する。
【0019】
図3において、まず、採取した膜ろ過水の水温及び色度がそれぞれ温度計及び色度計によって測定される(S31)。次いで、所定量、例えば、0.8mg/Lの次亜塩素酸ナトリウムが膜ろ過水に注入され、次亜塩素酸ナトリウムが注入された膜ろ過水はS31において測定された水温によって72時間静置される(S32)。続いて、72時間静置された水の残留塩素濃度が測定され、残留塩素濃度が0.1mg/L~0.2mg/Lであるか否かが確認される(S33)。S33の確認の結果、残留塩素濃度が0.1mg/L~0.2mg/Lであるとき、72時間静置された水のトリクロロ酢酸の濃度がガスクロマトグラフ質量分析装置(GC-MS)によって測定される(S34)。S33の確認の結果、残留塩素濃度が0.1mg/L~0.2mg/Lの範囲内でないときは、上水処理を施した後の処理済水に設定した残留塩素濃度の基準を満たさない可能性が高いため、予測式を導出するためのデータとして使用しないようS34~S37をスキップして本処理は終了する。このように、予測式を導出するための水温及び色度のデータを、上水処理が施される前の水の残留塩素濃度に基づいて選択することにより、トリクロロ酢酸の生成反応が十分に進行していない試験条件におけるデータは解析に使用されないため、導出された予測式による予測精度の低下を避けることができる。
【0020】
CPU11は、S31において測定された膜ろ過水の水温及び色度、並びに、S34において測定されたトリクロロ酢酸の濃度からなるデータセットを複数有する基本データD1(表1)を作成する(S35)。基本データD1はSSD14に格納されている(図1)。
【0021】
【表1】
【0022】
CPU11はトリクロロ酢酸の濃度を予測する予測式を導出するために、トリクロロ酢酸の濃度を目的変数に設定し且つ水温及び色度を説明変数に設定して重回帰分析を実行する(S36)。重回帰分析は、ある結果を示す数値(目的変数)をその要因となる複数の数値(説明変数)を用いて表す回帰式を算出する統計手法である。説明変数として設定する水温及び色度は実際の測定値であればどのような値を使用してもよいが、通常、水温は10~35℃の範囲であり、色度は0.5~4.0度の範囲である。また、重回帰分析に用いるデータセットの数は特に制限はないが、精度の高い予測式を導出するためには、通常、30~40の範囲から選択することができる。このような重回帰分析を実行することにより、トリクロロ酢酸の濃度を目的変数に設定し且つ水温及び色度を説明変数に設定するトリクロロ酢酸の濃度の予測式(式1)を導出して(S37、導出ステップ)本処理を終了する。
【0023】
トリクロロ酢酸の濃度[mg/L]
=0.00037×水温[℃]+0.0093×色度[度]-0.0092
・・・(式1)
【0024】
図4は、図1におけるCPU11がトリクロロ酢酸の濃度を予測する予測処理(情報処理方法)の手順を示すフローチャートである。
【0025】
図4において、まず、上水処理システムから膜ろ過水が採水され、膜ろ過水の水温及び色度(水質情報)がそれぞれ温度計及び色度計によって測定される(S41)。測定された膜ろ過水の水温及び色度はデータ入力部15から入力されて、例えば、SSD14に格納される(図1)。CPU11は、SSD14に格納された測定された膜ろ過水の水温及び色度、並びに、上記式1に基づいてトリクロロ酢酸の濃度の予測値を算出し(S42、算出ステップ)、本処理は終了する。
【0026】
図4の予測処理により、CPU11が算出したトリクロロ酢酸の濃度が妥当か否かを検証するために、その検証を実施する検証実施者は、S41において水温及び色度が測定された膜ろ過水に所定量、例えば、0.8mg/Lの次亜塩素酸ナトリウムを注入し、次亜塩素酸ナトリウムを注入した膜ろ過水をS41において測定された水温によって72時間静置し、72時間静置した膜ろ過水のトリクロロ酢酸の濃度をガスクロマトグラフ質量分析装置を用いて測定した。次いで、検証実施者が測定したトリクロロ酢酸の濃度の実測値と、図4の予測処理においてCPU11が算出したトリクロロ酢酸の濃度の予測値とを比較したところ、それぞれに高い相関性(決定係数R=0.88)があり、トリクロロ酢酸の濃度の予測値を用いてトリクロロ酢酸の生成について十分な管理が可能であることが確認された(図5)。ハロ酢酸の濃度に影響を与える因子としては、処理対象水のpH及び導電率や、処理対象水中の全有機炭素(TOC)及び塩素剤注入量等も考えられるが、本実施の形態では、膜ろ過水の水温と色度の組合せを選択し、これらをそれぞれ説明変数として設定し重回帰分析を行うことにより、高い相関性で精度よくトリクロロ酢酸の濃度を予測することができた。したがって、膜ろ過水から採取された水温及び色度の関係に基づいて正確にトリクロロ酢酸の濃度を予測できることがわかった。
【0027】
図3の予測式導出処理によれば、膜ろ過水の水温及び色度が測定されるとともに(S31)、次亜塩素酸ナトリウムを注入後、一定の条件下で当該膜ろ過水を72時間静置したときのトリクロロ酢酸の濃度が測定される(S34)。これらにより、膜ろ過水の水温、色度及びトリクロロ酢酸の濃度が採取され、これらに基づいて重回帰分析が実行される。これにより、トリクロロ酢酸の濃度を目的変数とし且つ水温及び色度を説明変数に設定するトリクロロ酢酸の濃度の予測式(式1)が導出される(S36)。また、図4の予測処理によれば、膜ろ過水の水温及び色度が測定され(S41)、CPU11は測定された膜ろ過水の水温及び色度、並びに、上記式1に基づいて、上水処理後のトリクロロ酢酸の濃度の予測値を算出する(S43)。
【0028】
したがって、定期的に膜ろ過水の水温及び色度が測定されるとともに、一定の条件下で当該膜ろ過水を72時間静置したときのトリクロロ酢酸の濃度が測定されることにより、予測式が導出され、膜ろ過水の水温及び色度、並びに、当該予測式に基づいてトリクロロ酢酸の濃度が予測されるので、日常的に測定し且つ簡単に入手可能な管理指標を用いてハロ酢酸の濃度を精度よく予測することができる。そのため、給水末端から供給される水に含まれるトリクロロ酢酸が水質基準以下であるか否かを迅速に把握することができる。これにより、トリクロロ酢酸の濃度が台風等の自然現象によって急速に上昇して水質基準を超過する場合であっても、トリクロロ酢酸の濃度が水質基準を超過することが迅速に把握され、直ちにトリクロロ酢酸の濃度を低下させるための措置、例えば、樹脂処理槽21のイオン交換樹脂を交換する等の措置を講ずることができる。その結果、水質の変化に柔軟に対応でき、より効率的な上水処理の実施が可能となる。
【0029】
なお、図3及び図4の処理について、ハロ酢酸としてトリクロロ酢酸を用いながら説明したが、クロロ酢酸及びジクロロ酢酸や、モノブロモ酢酸、ブロモクロロ酢酸、ジブロモ酢酸、ブロモジクロロ酢酸、ジブロモクロロ酢酸、トリブロモ酢酸等のハロ酢酸類についても同様に予測することができる。また、本実施の形態では、膜ろ過水の色度を用いてトリクロロ酢酸の濃度を予測したが、上水処理システム20に供給される原水の色度に基づく色度を用いてクロロ酢酸、ジクロロ酢酸又はトリクロロ酢酸等の濃度を予測してもよい。ここで、原水の色度に基づく色度は、例えば、原水を孔径1μmのガラス繊維製フィルターによってろ過することによって原水から濁度の影響を排除した水(以下、「濁質除去水」という。)の色度でもよく、さらに濁質除去水にイオン交換樹脂を添加して有機物の影響を除去した水(以下、「有機物除去水」という。)の色度でもよい。
【0030】
また、原水の色度に基づく色度は、予め用意された予測式であって濁質除去水の色度を目的変数とし且つ原水の色度を説明変数とする予測式と、測定された原水の色度とを用いて算出された濁質除去水の色度でもよく、予め用意された予測式であって有機物除去水の色度を目的変数とし且つ濁質除去水の色度を説明変数とし、目的変数である有機物除去水の色度は説明変数である濁質除去水の色度に所定の係数を乗じることによって算出される予測式と、測定され又は算出された濁質除去水の色度とを用いて算出された有機物除去水の色度でもよい。
【0031】
濁質除去水の色度を目的変数とし且つ原水の色度を説明変数とする予測式は、例えば、実測された濁質除去水の色度及び原水の色度を用いて重回帰分析することによって得られる。有機物除去水の色度を目的変数とし且つ濁質除去水の色度を説明変数とする予測式における所定の係数は、例えば、実測され且つ蓄積された濁質除去水の色度に対する有機物除去水の色度であり、イオン交換樹脂によって濁質除去水から有機物が除去された後の有機物除去水の色度の割合を示す。これらにより、原水の色度に基づく色度を用いてもハロ酢酸の濃度をより正確に予測することができる。
【0032】
本発明は、上述の実施の形態の1以上の機能を実現するプログラムをネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、該システム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読み出して実行する処理でも実現可能であり、該プログラムを格納するコンピュータ読み取り可能な記憶媒体も本発明を構成する。また、本発明は、1以上の機能を実現する回路によっても実現可能である。
【0033】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれらの実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0034】
11 CPU
14 SSD
15 データ入力部
20 上水処理システム
図1
図2
図3
図4
図5