(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024043742
(43)【公開日】2024-04-02
(54)【発明の名称】床温度予測システムおよびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/04 20230101AFI20240326BHJP
G06Q 50/163 20240101ALI20240326BHJP
G16Y 20/10 20200101ALI20240326BHJP
G16Y 40/20 20200101ALI20240326BHJP
【FI】
G06Q10/04
G06Q50/16 300
G16Y20/10
G16Y40/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022148902
(22)【出願日】2022-09-20
(71)【出願人】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001586
【氏名又は名称】弁理士法人アイミー国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】黒木 洋
【テーマコード(参考)】
5L049
【Fターム(参考)】
5L049AA04
5L049CC29
(57)【要約】
【課題】非空調の建物の土間床の床温度を精度良く予測すること。
【解決手段】床温度予測システムは、非空調の建物(100)に設けられ、土間床(21)の床温度を検知する温度センサ(3)と、温度センサからの信号を受信する情報処理装置(2)とを備え、情報処理装置は、外気温度観測値および外気温度予報値を取得する取得手段と、温度センサにより過去に検知された所定期間分の床温度実測値、および、所定期間分の外気温度観測値の経時変化に基づいて、外気温度予報値の推移から将来の床温度の経時変化を予測する予測手段とを含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
非空調の建物における土間床の床温度を予測するための床温度予測システムであって、
前記建物内に設けられ、前記土間床の床温度を検知する温度センサと、
外気温度観測値および外気温度予報値を取得する取得手段と、
前記温度センサにより過去に検知された所定期間分の床温度実測値、および、前記所定期間分の外気温度観測値の経時変化に基づいて、外気温度予報値の推移から将来の床温度の経時変化を予測する予測手段とを備える、床温度予測システム。
【請求項2】
前記予測手段は、
将来の床温度を目的変数、外気温度予報値を説明変数とする予測式を、前記所定期間分の床温度実測値および外気温度観測値を回帰分析することによって作成し、
作成した前記予測式に時間帯ごとの外気温度予報値を入力することで、床温度の経時変化を算出する、請求項1に記載の床温度予測システム。
【請求項3】
前記予測手段は、説明変数に乗じる係数と切片とにより目的変数を表わす予測式を作成する、請求項2に記載の床温度予測システム。
【請求項4】
前記所定期間は、7日以上28日以下である、請求項1に記載の床温度予測システム。
【請求項5】
前記予測手段は、説明変数に直近の床温度実測値の推移を加えた重回帰分析をすることにより予測式を作成する、請求項2に記載の床温度予測システム。
【請求項6】
前記予測手段は、床温度実測値が不足する時間帯の説明変数に、当該時間帯の床温度予測値を代入することにより予測式を作成する、請求項5に記載の床温度予測システム。
【請求項7】
非空調の建物における土間床の床温度を予測するための床温度予測プログラムであって、
前記建物内に設けられた温度センサから、前記土間床の床温度を取得するステップと、
外気温度観測値および外気温度予報値を取得するステップと、
前記温度センサにより過去に検知された所定期間分の床温度実測値、および、前記所定期間分の外気温度観測値の経時変化に基づいて、外気温度予報値の推移から将来の床温度の経時変化を予測するステップとをコンピュータに実行させる、床温度予測プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非空調の建物のコンクリート製の土間床の結露を防止する技術に関し、特に、土間床の結露を予測するために、土間床の表面温度(床温度)を予測する床温度予測システムおよびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
倉庫などの非空調の建物では、コンクリート製の土間床の結露が問題となっている。土間床の結露は、土間床の表面温度(床温度)が空気の露点温度を下回ることで発生する。外気が低温な状態が続いた後、外気温度と絶対湿度が急激に変化(上昇)する気象条件下で発生することが多く、通常は目視によって結露水が確認された時点で対処を始めるため、対処が後手に回り、収容物が濡れる、錆やカビが発生する、などの被害が発生するリスクがある。
【0003】
前日の段階で結露の発生を予測できると、結露が生じる前に適切な対策をとることができるので土間床の結露を防止することができるが、土間床の結露の発生を事前に予測する技術は存在しない。
【0004】
倉庫内の結露予測という観点では、気象予報データを利用することで、建物内に保管した製品(金属コイル等)の結露を予測する技術が従来から提案されている。特開2001-12784号公報(特許文献1)では、実測値である建物内外の空気温湿度および保管品表面温度のデータと気象予報データから、回帰式を用いて露点温度と製品表面温度を予測する手法が開示されている。回帰式の入力値(説明変数)は同時刻の瞬時値であり、回帰式は1年間に4回程度変更するものとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
倉庫などの建物には、収容物も含めて大きな熱容量があるため、土間床の床温度は、そのときの外気温度だけでなく、過去の外気温度の推移の影響を大きく受ける。そのため、土間床の床温度を予測する場合、特許文献1のように瞬時値のみを入力値とすると、予測精度が低下する懸念がある。したがって、土間床の結露リスクの有無を精度良く予測することができない。
【0007】
また、金属コイルの保管倉庫のように収容物の種類や建物の使用状況が一律の場合には、特許文献1のように年間4回程度変更される回帰式で収容物表面の結露を予測することができるとしても、収容物の種類やシャッターの開閉頻度などの使用状況が一律ではない建物を対象とする場合、年間4回程度変更される回帰式では、適切に土間床の床温度を予測できない。つまり、異なる使用状況時のデータが回帰式に反映されることとなり、予測値が大きく外れる可能性がある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであって、その目的は、非空調の建物の土間床の床温度を精度良く予測することで、土間床の結露を予測可能とするための床温度予測装置およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明のある局面に従う床温度予測システムは、非空調の建物における土間床の床温度を予測するための床温度予測システムであって、建物内に設けられ、土間床の床温度を検知する温度センサと、外気温度観測値および外気温度予報値を取得する取得手段と、温度センサにより過去に検知された所定期間分の床温度実測値、および、所定期間分の外気温度観測値の経時変化に基づいて、外気温度予報値の推移から将来の床温度の経時変化を予測する予測手段とを備える。
【0010】
好ましくは、予測手段は、将来の床温度を目的変数、外気温度予報値を説明変数とする予測式を、所定期間分の床温度実測値および外気温度観測値を回帰分析することによって作成し、作成した予測式に時間帯ごとの外気温度予報値を入力することで、床温度の経時変化を算出する。
【0011】
好ましくは、予測手段は、説明変数に乗じる係数と切片とにより目的変数を表わす予測式を作成する。
【0012】
所定期間は、7日以上28日以下であることが望ましい。なお、所定期間は、建物の使用状況等に応じて変更可能としてもよい。
【0013】
さらに好ましくは、予測手段は、説明変数に直近の床温度実測値の推移を加えた重回帰分析をすることにより予測式を作成する。
【0014】
この場合、予測手段は、床温度実測値が不足する時間帯の説明変数に、当該時間帯の床温度予測値を代入することにより予測式を作成することが望ましい。
【0015】
この発明の他の局面に従う床温度予測プログラムは、非空調の建物における土間床の床温度を予測するためのプログラムであって、建物内に設けられた温度センサから、土間床の床温度を取得するステップと、外気温度観測値および外気温度予報値を取得するステップと、温度センサにより過去に検知された所定期間分の床温度実測値、および、所定期間分の外気温度観測値の経時変化に基づいて、外気温度予報値の推移から将来の床温度の経時変化を予測するステップとをコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、非空調の建物の土間床の床温度を精度良く予測することができる。その結果、土間床の結露リスクの有無を精度良く予測できるので、土間床の結露の発生を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る結露防止システムの概要を示す図である。
【
図2】本発明の実施の形態における機器制御装置の機能構成を示す図である。
【
図3】本発明の実施の形態における結露予測方法およびスケジュール生成方法を示すフローチャートである。
【
図4】本発明の実施の形態における制御スケジュールの構成例を模式的に示す図である。
【
図5】本発明の実施の形態における機器制御方法を示すフローチャートである。
【
図6】本発明の実施の形態における床温度の予測方法を模式的に示す説明図である。
【
図7】本発明の実施の形態において床温度の予測式の切片を設けた場合の予測精度を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施の形態において床温度の予測式に用いる実績データの期間の違いによる比較結果を示すグラフである。
【
図9】本発明の実施の形態において重回帰分析の予測式に用いる説明変数のイメージ図である。
【
図10】本発明の実施の形態において説明変数に直近の床温度の推移を加えた場合の予測精度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0019】
<結露防止システム>
(概要について)
図1は、本実施の形態に係る結露防止システムの概要を示す図である。
図1を参照して、結露防止システム1は、建物100のコンクリート製の土間床101の結露を防止するためのシステムである。建物100は非空調の建物であり、建物100内には屋内の温湿度環境を調整するための空調設備が設けられていない。
【0020】
建物100は、典型的には倉庫であり、様々な種類の物品を内部(屋内空間)に収容している。建物100は、出入口に設けられたシャッター(図示せず)と、換気装置の一種であり、外壁等に設けられた換気扇102と、外壁等に設けられた表示灯103とを備えている。換気扇102は、通常時には常時運転され、外気が建物100内に取り込まれる。表示灯103は、作業者等に異常を知らせる警報器の一種であり、通常時には消灯され、異常時にのみ点灯される。
【0021】
結露防止システム1は主に、換気扇102および表示灯103を含む機器を制御する機器制御装置(制御盤)2と、土間床101の床温度を検知する床温度センサ3とを備えている。機器制御装置2は、メモリおよびプロセッサを有するコンピュータであり、有線または無線により、建物100に設置された床温度センサ3、換気扇102、および表示灯103と接続されている。また、インターネットを介して気象予報会社等の外部機関4と接続されている。
【0022】
機器制御装置2は、メモリに記憶されている結露予測プログラムを実行することにより、土間床101の結露を予測し、その予測結果に応じて、換気扇102および表示灯103を含む機器を制御する。機器制御装置2は、時間帯ごとの床温度の予測値と気象予報値とを用いて、時間帯ごとに結露リスクの有無を予測する。時間帯は、たとえば0時台(0時~1時)、1時台(1時~2時)など、24時間を所定時間単位で分割した時間を表わす。本実施の形態では、時間帯の単位が1時間である例を示すが、時間帯の単位は30分や2時間等であってもよい。
【0023】
機器制御装置2が時間帯ごとに土間床101の結露リスクの有無を予測することで、「結露リスク有り」の時間帯を予見できるので、換気扇102を結露発生前に停止して湿った外気の取り込みを阻止したり、表示灯103を結露発生前に点灯させて結露対策が必要であることを建物100内の作業者等に報知したりすることができる。つまり、土間床101の結露の発生を未然に防ぐことができる。なお、結露予測プログラムは機器制御装置2のメモリに予め格納されていてもよいし、クラウド上に構築されていてもよい。
【0024】
機器制御装置2はまた、土間床101の結露の予測結果を、建物100の管理者や作業者の端末(外部装置)5に通知する処理を行うことも望ましい。
【0025】
(機器制御装置の機能構成について)
図2は、本実施の形態における機器制御装置2の機能構成を示す図である。機器制御装置2は、床温度予測部21と、結露予測部22と、スケジュール生成部23と、機器制御部24と、通知処理部25とを備えている。
【0026】
床温度予測部21は、床温度センサ3から時系列に得られる床温度の実測値と、外部機関4から得られる外気温度の1時間単位の観測値(実測値)および予報値とに基づいて、翌日の1時間ごとの床温度を予測する。このように、床温度の過去の経時変化、および、屋外温度の過去の経時変化に基づいて、床温度の将来の経時変化を事前に(前日に)予測する。床温度予測部21による予測結果は、結露予測部22に出力される。なお、床温度の予測方法の詳細については後述する。
【0027】
結露予測部22は、外部機関4から得られる外気温度および湿度の1時間単位の予報値に基づいて、翌日の露点温度を1時間ごとに予測する。そして、床温度予測部21で予測された床温度と露点温度とを1時間ごとに比較することにより、翌日の1時間ごとの結露リスクの有無を予測する。結露予測部22は、翌日の結露予測だけでなく、翌日を含む複数日(たとえば3日)分の結露予測を行ってもよい。結露予測部22による予測結果、すなわち、直近24時間分の結露リスクの有無はスケジュール生成部23に出力される。
【0028】
スケジュール生成部23は、結露予測部22の予測結果に基づいて、換気扇102および表示灯103を含む機器の翌日の制御スケジュールを生成する。スケジュール生成部23は、「結露リスク有り」の時間帯および当該時間帯よりも所定時間前の時間帯の制御モードを「結露時モード」とする制御スケジュールを生成する。それ以外の時間帯の制御モードは「通常モード」とされる。なお、本実施の形態では、換気扇102および表示灯103の制御に共通の制御スケジュールを生成することとするが、換気扇102用の制御スケジュールと表示灯103用の制御スケジュールとを個別に生成してもよい。スケジュール生成部23により生成された制御スケジュールは、機器制御部24に出力される。
【0029】
機器制御部24は、入力した制御スケジュールに基づいて換気扇102および表示灯103を制御する。これにより、結露予測部22による予測結果において「結露リスク有り」の時間帯がある場合に、当該時間帯よりも前に、換気扇102および表示灯103を結露時モードで作動させることができる。本実施の形態では、通常モードにおいて、換気扇102はON状態、表示灯103はOFF(消灯)状態とされる。結露時モードにおいて、換気扇102はOFF状態、表示灯103はON(点灯)状態とされる。
【0030】
なお、通常モードと結露時モードとで機器のON/OFFを切り替える例に限定されず、換気扇102については運転強度を異ならせてもよいし、表示灯103については発光色を異ならせてもよい。
【0031】
通知処理部25は、結露予測部22の予測結果を、通信インターフェイス(図示せず)を介して端末5に通知する。通知処理部25は、結露予測部22によって結露が予測された場合にのみ、通知処理を行ってもよい。つまり、全時間帯の予測結果が「結露リスク無し」である場合には、端末5への通知処理を行わなくてもよい。
【0032】
床温度予測部21、結露予測部22、スケジュール生成部23、機器制御部24、および通知処理部25の機能は、典型的にはプロセッサがソフトウェアを実現することにより実現される。
【0033】
(結露予測方法およびスケジュール生成方法について)
図3は、本実施の形態の機器制御装置2が実行する結露予測方法およびスケジュール生成方法を示すフローチャートである。
【0034】
機器制御装置2は、一定時間(たとえば1時間)間隔で、床温度センサ3から床温度データを取得するとともに、外部機関4から気象観測データを取得する(ステップS2,S4)。気象観測データは、外部気温および外部湿度の実測データである。床温度、外部気温、および外部湿度の実測データは、時系列でメモリに蓄積される。
【0035】
現在の時刻が予め定めた時刻(たとえば夜中の0時)になると(ステップS6にてYES)、外部機関4から少なくとも直近24時間分の気象予報データを取得する(ステップS8)。気象予報データを必要とする期間(24時間)は、床温度予報値を必要とする期間と同じ期間である。気象予報データは、外部気温および外部湿度の予報値である。
【0036】
続いて、床温度予測部21が床温度の予測処理を実行する(ステップS10)。この処理については後述するが、上記ステップS2,S4,S8で取得した実測データおよび気象予報データに基づいて、直近24時間分の床温度を予測する。
【0037】
床温度が予測されると、結露予測部22が、気象予報データに基づき24時間分の露点温度を予測し、ステップS8での予測結果と比較することにより、1時間単位の時刻別に結露リスクの有無を予測する(ステップS12)。具体的には、予測時の0時台から23時台までの24時間分の結露予測を行う。露点温度が床温度以上である場合に、「結露リスク有り」と判断し、露点温度が床温度未満である場合に、「結露リスク無し」と判断する。なお、露点温度は、外部機関4から得られる外気温度予報値と外気湿度予報値とにより算出可能である。
【0038】
結露予測部22による予測結果の一例が
図4(A)に示されている。
図4(A)に示す例では、8時、10時、12時、16時、18時の時間帯で、「結露リスク有り」と予測されている。
【0039】
このように、「結露リスク有り」の時間帯がある場合(ステップS14にてYES)、通知処理部25は、端末5に結露予測結果を通知する(ステップS16)。端末5への通知は、たとえば電子メールにより行われる。
【0040】
また、「結露リスク有り」の有無に関わらず、スケジュール生成部23が、ステップS12での予測結果に基づいて、制御スケジュールを生成する(ステップS18)。制御スケジュールを生成する際には、
図4(A)に示す予測結果(一次予測結果)を、所定のルールで事前に補正してもよい。たとえば、一次予測結果において結露リスクの有無が1時間ごとに断続的に変わる場合、「結露リスク有り」の時間帯に挟まれた「結露リスク無し」の時間帯については、「結露リスク有り」に置き換える補正を行う。
図4(B)には、補正後の予測結果(二次予測結果)の一例が
図4(B)に示されている。本実施の形態のスケジュール生成部23は、二次予測結果に基づいて制御スケジュールを生成する。
【0041】
ここで、土間床101は熱容量が大きく、即効性が低いため、スケジュール生成部23は、「結露リスク有り」の時間帯だけでなく、その時間帯よりも所定時間(1~3時間)前の時間帯を、結露時モードとする制御スケジュールを生成することが望ましい。同様に、「結露リスク有り」の時間帯から所定時間(1~3時間)後の時間帯を、結露時モードとしてもよい。この場合の制御モードの設定例を
図4(C)に示す。
【0042】
図4(C)では、一例として、最初の「結露リスク有り」の時間帯(8時台)の3時間前から結露時モードとしている。この場合、結露発生が予測される時間の3時間前から、機器制御部24により換気扇102がOFF状態とされる。これにより、湿った外気の取り込みが抑制されるので、土間床101の結露を効果的に防止できる。また、結露発生が予測される時間の3時間前から、機器制御部24により表示灯103が点灯状態とされるので、作業者等に早めの結露対策(たとえばシャッターの閉鎖、収容物の養生、可搬式の送風機の手配などの物理的な対策)を促すことができる。
【0043】
スケジュール生成部23が制御スケジュールを生成すると、ステップS2に戻り、上記処理を繰り返す。
【0044】
(機器制御方法について)
機器制御部24は、スケジュール生成部23が上述の手順で生成した制御スケジュールに基づいて、換気扇102および表示灯103を含む機器を制御する。
【0045】
ここで、本実施の形態における機器制御部24は、リアルタイムでの測定値により、制御スケジュールで定められた機器の制御モードを補正する(換気扇102等の作動状態を補正する)機能を有していることが望ましい。これにより、たとえば気象の急変等によって結露予測部22による「結露リスク無し」の予測が外れた場合にも対応することができる。
【0046】
この場合、結露防止システム1は、外気の露点温度を検知する露点温度センサ6(
図1)をさらに備えており、機器制御装置2と露点温度センサ6とが有線または無線で接続されている。
図2に示すように、機器制御部24は補正部26を含む。
【0047】
補正部26は、現在の時刻が制御スケジュールにおいて通常モードの時間帯である場合に、測定手段としての床温度センサ3および露点温度センサ6からの測定値(実測値)を取得し、リアルタイムでの測定値が結露発生条件を満たしているか否かを判断する。判断の結果、測定値が結露発生条件を満たしている場合に、制御スケジュールで定められた制御モードを通常モードから結露時モードに補正する処理を実行する。つまり、予測段階では「結露リスク無し」であったとしても、実際には結露発生条件を満たすような温湿度環境となれば、実際の温湿度環境を優先して換気扇102および表示灯103を結露時モードで制御するよう補正する。
【0048】
図5は、本実施の形態における機器制御方法を示すフローチャートである。補正部26は、たとえば10分ごとに、スケジュール生成部23が生成した制御スケジュールを読み込む(ステップS22)。制御スケジュールを読み込む時間間隔は、制御スケジュールの単位時間(1時間)よりも短い時間であればよい。
【0049】
図3(B)に示したような制御スケジュールにおいて現在時刻の制御モードが結露時モードである場合、すなわち、結露の予測結果が「結露リスク有り」である場合(ステップS24にて「有」)、予測結果の妥当性を判断することなく、ステップS36に進む。ステップS36では、機器制御部24が、換気扇102および表示灯103を結露時モードで制御するので、換気扇102はOFF状態、表示灯103が点灯状態とされる。
【0050】
ここで、補正部26は、前回の時刻において換気扇102の運転状態がON状態であった場合(ステップS38にて「ON」)、つまり、機器の制御モードが通常モードから結露時モードに切り替わったタイミングにおいて、現在の時刻に所定時間(たとえば30分)加算した時刻を「保持時刻DT」とし(ステップS40)、この処理を終了する。「保持時刻DT」は内部メモリに一時記録される。なお、現在の時刻に加算する時間(所定時間)は、制御スケジュールを確認するタイミング(たとえば10分)よりも長く、かつ、制御スケジュールの単位時間(1時間)よりも短い時間であることが望ましい。
【0051】
制御スケジュール上の制御モードが通常モードである場合、すなわち結露の予測結果が「結露リスク無し」の場合(ステップS24にて「無」)、予測結果の妥当性を判断する。具体的には、補正部26が、現在時刻における床温度および外気露点温度を読み込み(ステップS26)、結露指標ΔTを計算する(ステップS38)。結露指標ΔTは、床温度から屋外露点温度を差し引いた値である。なお、露点温度センサ6から外気露点温度を直接取得する例に限定されず、たとえば、外部機関4から得られる外気温度および外気湿度に基づいて、外気露点温度を算出してもよい。
【0052】
結露指標ΔTが「0」以下である場合(ステップS30にてYES)、屋外露点温度が床温度以上であるため、結露発生条件を満たすと判断する。この場合、上述のステップS36へ進み、機器の制御モードが結露時モードとされる。つまり、補正部26は、制御スケジュールで定められた制御モード(通常モード)に関わらず、換気扇102および表示灯103の制御モードを結露時モードに補正する。これにより、機器制御部24が、換気扇102および表示灯103を結露時モードで制御するので、換気扇102はOFF状態、表示灯103が点灯状態とされる。
【0053】
これに対し、結露指標ΔTが「0」を超える場合(ステップS30にてNO)、屋外露点温度が床温度未満であり、結露発生条件を満たさないと判断する。この場合、基本的には制御スケジュールで定められた制御モード(通常モード)に従う。
【0054】
本実施の形態では、実際の温湿度環境に応じて機器の制御モードが通常モードから結露時モードに変更されるケースがあるため、この時点で「保持時刻DT」を読み込む(ステップS32)。補正部26は、現在の時刻が保持時刻DTを過ぎていることを条件として(ステップS34にてYES)、機器の制御モードを通常モードに確定する(ステップS42)。現在の時刻が保持時刻DTを過ぎていない場合(ステップS34にてNO)、機器の制御モードを結露時モードのままとする(ステップS36)。これにより、換気扇102および表示灯103の頻繁な発停を抑制できるので、これらの機器の損耗を防止することができる。
【0055】
なお、上述のように、理論上では、結露指標ΔT≦0で土間床101の表面に結露が生じるが、結露指標ΔTと比較する閾値(0)は、結露防止システム1を導入した建物100における土間床101の状況や位置に応じて変更してもよい。土間床101の状況とは、土間床101自体の仕上げ状態や、土間床101上の荷物の設置状態などを含む。具体的には、結露指標ΔT≦0であったとしても、コンクリートの仕上げによっては結露水が吸い込まれて顕在化しないこともあるため、このような状況下においては、閾値を0よりも低い数字にしてもよい。逆に、センシングされる床温度を用いて算出される結露指標ΔTが「0」を越えていたとしても、荷物の下部や建物100の隅角部などでは、実際の床温度がセンシング温度よりも低く、結露が発生する場合があ。そのため、このような状況下では、閾値を0よりも大きな値としてもよい。このように、リアルタイムでの測定値に基づく補正に用いる閾値は、現場における実績値を元に決定することが望ましい。
【0056】
また、本実施の形態では、機器制御部24による制御対象の機器が換気扇(換気装置)102および表示灯103を含むこととしたが、少なくともいずれか一方を含んでいればよい。また、建物100に設けられる警報器は表示灯103に限定されず、たとえばブザー等であってもよい。
【0057】
また、本実施の形態では、結露予測部22が翌日(24時間分)の結露リスクを予測することとしたが、翌日を含む複数日(たとえば3日)の結露リスクを予測してもよい。この場合、通知処理部25によって翌々日以降の結露リスクの予測結果が端末5に通知されてもよい。
【0058】
<床温度予測方法>
(概要について)
図6を参照して、本実施の形態の床温度予測部21による床温度予測方法の概要について説明する。
図6は、床温度の予測プロセスを説明するための説明図である。
【0059】
図6(A)を参照して、床温度予測部21は、床温度センサ3によるセンシングデータ(実測値)と、外部機関4から取得した気象データ(外気温度)の観測値を元に予測式を作成し、将来の気象データ予報値(たとえば1時間ごとの外気温度予報値)を予測式に入力することで、将来の床温度の経時変化(たとえば1時間単位での温度変化)を予測する。
【0060】
予測には、最小二乗法による回帰分析を用いる。回帰分析は、実績データを元に説明変数の係数を明らかにし、一つの目的変数を導く一次方程式を作成する分析手法であり、広く一般に用いられるため、機器への実装が容易という利点がある(機械学習のように複雑な処理を行わない)。最小二乗法は多数の実績データを元に、誤差が最も小さくなる係数および切片を導き出す手法であるが、本実施の形態では、後述するように、目的変数の性質上、切片の設定や式作成に用いる実績データの期間に制限を設けている。
図6(B)には、説明変数を複数用いる重回帰分析による予測式の概要を示す。
【0061】
床温度予測部21は、将来の床温度を目的変数、外気温度予報値を説明変数とする予測式を、所定期間分の床温度実測値および外気温度観測値を回帰分析することによって作成し、作成した予測式に時間帯ごとの外気温度予報値を入力することで、床温度の経時変化(時間帯ごとの床温度予測値)を算出する。
【0062】
図6(C)に予測式作成頻度のイメージ図を示す。特許文献1のように倉庫内の製品表面温度を予測する場合は、説明変数を同一時刻の瞬時値とし、かつ長期間(3か月程度)にわたり同一の係数の回帰式を用いることが可能であるが、土間床101の表面温度(床温度)は、同一時刻の外気温度だけでなく、過去の外気温度推移の影響を大きく受ける。また、倉庫(建物100)内の収容物の種類やシャッターの開閉頻度などの、建物100の使用状況は一律ではないことからも、瞬時値を用いた回帰式による予測を行う際、長期間にわたり同一の係数を用いるとことは予測精度の低下につながる可能性が高い。
【0063】
本実施の形態の床温度予測部21は、1日単位で任意の時刻(たとえば夜中の0時)に翌日の床温度を予測するための予測式を作成、更新する。具体的には、予測式を作成する直前までの一定期間(所定期間)で得られた実績データ(床温度と外気温度)を用いて、将来の床温度を目的変数、外気温度を説明変数とした予測式を最小二乗法によって作成する。1日単位で予測式を更新することで、特許文献1のように長期間同一の予測式を用いた場合に比べ、直近の外気条件や建物100の使用状況を反映した精度の高い予測を行うことができる。
【0064】
(予測式の切片設定について)
回帰分析では、目的変数を、説明変数に乗じる係数と切片によって表わす。その際、切片を設けるか否かは、目的変数の性質を鑑みて決定するのが一般的である。本実施の形態では、予測式において切片を必ず設けることとする。つまり、ある時刻(時間帯)における床温度を予測する予測式を『床面温度=A×同時刻の外気温度予報値+B』とする。
【0065】
床温度予測部21は、このような予測式を毎日作成および更新する。予測式に切片を設ける理由は、目的変数である土間床101の床温度は、建物100の熱容量によって、直近の外気温度の変動に大きく影響を受けるからである。
【0066】
図7(a)には、予測式に切片を設けない場合の床温度の予測精度を示し、
図7(b)に、予測式に切片を設けた場合の床温度の予測精度を示している。予測式に切片を設けない場合、予測式によって算出される目的変数は真値と大きな誤差が発生する。切片を設けることで、建物100内の熱容量や直近の気象条件といった影響を切片の数値に反映し、精度を向上することができる。
【0067】
(予測式の作成に用いる実績データの期間について)
統計等に用いられる一般的な回帰分析では、回帰式の作成に用いるデータが多いほど精度が向上することが多い。一方、本実施の形態で対象とする目的変数、すなわち床温度は、上述のように、建物100の熱容量によって直近の気象条件が大きく影響する値である。このため、予測式の作成にあまりに長期間の実績データを用いた場合、気象条件の異なる期間のデータが混在することによって、予測精度が低下する可能性がある。
【0068】
そこで、本実施の形態では、予測式の作成に用いる実績データの期間(所定期間)を、直近の7日(1週間)とする。これにより、曜日ごとに使用状況の違いがある場合にも、平均的な値を予測できる。
【0069】
図8に、予測式に用いる実績データの期間を7日、28日、56日とした場合の予測精度を示す。予測式の係数Aと切片Bを7日間の実績データから導出した予測式の精度が、最も高く、予測式の係数Aと切片Bを56日間の実績データから導出した予測式の精度が、最も低い。7日とした場合の誤差は1~2℃、28日とした場合の誤差は2~3℃、56日とした場合の誤差は3~4℃であった。
【0070】
この比較結果に基づくと、実績データの期間は7日~14日程度とすることが望ましいものの、28日(約1ヶ月)以下であればよい。なお、実績データの期間は、固定でなくてもよく、建物100の使用状況に応じて定めてもよい。また、実績データの期間は、7日の整数倍の日数である例に限定されず、たとえば5日や10日としてもよい。
【0071】
(床温度の直近推移を反映した予測精度向上方法)
前述のように、外気温度を説明変数とする回帰式に切片を設け、予測式の作成に用いる実績データの期間を限定することで、熱容量を考慮した床温度の予測が可能となるが、
図6(A)のイメージ図において破線矢印で示すように、さらに説明変数として直近の床温度実測値の推移(過去の履歴)を加えて重回帰分析を行うこととしてもよい。
【0072】
具体的には、床温度予測部21は、ある時刻(時間帯)における床温度を目的変数とし、同時刻の外気温度と過去24時間の各時刻における床温度を説明変数とした予測式を、最小二乗法を用いた重回帰分析によって求めてもよい。
【0073】
この場合の予測式は、次のような式で表される。
『床温度=A0×(同時刻の外気温度予報値)+A1×(1時間前の床温度)+A2×(2時間前の床温度)+・・・・+A23×(23時間前の床温度)+A24×(24時間前の床温度)+切片B』
上述の予測式によれば、予測式作成時刻から1時間先の時刻においては、入力値として床温度の過去24時間の実績値が存在するが、2時間先以降では実績値が不足する。そこで、
図9に示すように、1時間前の床温度の予測値(目的変数)を入力値(説明変数)として代用することで、2時間先以降の不足分を補うこととする。
【0074】
床温度予測部21は、予測式を24時間分作成し、予測式の作成時刻から24時間先までの各時刻の床温度を算出する。
図10(a)に、同時刻の外気温度のみを説明変数とした場合の予測精度が示され、
図10(b)に、過去24時間の床温度を説明変数に加えた場合の予測精度が示されている。前者では、真値との誤差にバラツキがあり、誤差が2℃近くとなっているケースもある。これに対し、後者の方は、真値との誤差のバラつきが少なく、誤差が略1℃以下となっている。この比較結果から、説明変数に床温度の直近の予測状況を加えた予測方法を予測精度が向上していることが分かる。
【0075】
なお、説明変数とする床温度の直近推移は、1時間ごとの値(予測値)に限定されず、積算値や数時間ごとの値を用いて、予測式作成の演算処理を簡略化してもよい。
【0076】
<変形例>
本実施の形態では、機器制御装置2が、外気温度の過去の実測値(観測値)を外部機関4から取得することとしたが、建物100の外部に外気温度を検知する外気温センサ(図示せず)を設置し、外気温センサからの検出値を外気温度の実測値として取得してもよい。
【0077】
また、本実施の形態では、床温度予測部21が、床温度を予測する度に(つまり、毎日)回帰分析を用いた予測式を作成することとしたが、予測式の作成は、たとえば1週間単位で行ってもよい。また、予測式の代わりに、たとえば回帰分析を用いた機械学習を行ってもよい。あるいは、回帰分析以外の手法により翌日の時間帯(たとえば1時間)ごとの床温度を予測することとしてもよい。
【0078】
また、本実施の形態では、換気扇102等の機器を制御する装置と結露予測を行う装置とが共通の装置で実現されることとしたが、これらは別の装置として実現されてもよい。
【0079】
また、床温度予測部21および結露予測部22を含む結露予測システムを、結露防止システム1から独立して提供してもよい。さらに、床温度予測部21に特化した床温度予測システムを独立して提供することもできる。この場合、床温度予測システムは、非空調の建物100の土間床101の床温度を検知する床温度センサ3と、外気温度観測値および外気温度予報値を取得する取得手段と、床温度センサ3により過去に検知された所定期間分の床温度実測値、および、所定期間分の外気温度観測値の経時変化に基づいて、外気温度予報値の推移から将来の床温度の経時変化を予測する予測手段とを備える。取得手段および予測手段の機能は、プロセッサおよびメモリを含む情報処理装置(たとえば機器制御装置2)により実行される。具体的には、取得手段の機能は、たとえば入出力インターフェイスや通信インターフェイスにより実現され、予測手段の機能は、プロセッサがソフトウェアを実行することで実現される。
【0080】
なお、上述の結露予測プログラムを単体で提供してもよい。また、土間床101の床温度を予測するための床温度予測方法を、個別のプログラム(床温度予測プログラム)として提供してもよい。これらのプログラムは、CD-ROM(Compact Disc-ROM)などの光学媒体や、メモリカードなどのコンピュータ読取り可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体にて記録させて提供することができる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0081】
本発明にかかるプログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定の配列で所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0082】
また、本発明にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本発明にかかるプログラムに含まれ得る。
【0083】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0084】
1 結露防止システム、2 機器制御装置、3 床温度センサ、4 外部機関、5 端末、6 露点温度センサ、21 床温度予測部、22 結露予測部、23 スケジュール生成部、24 機器制御部、25 通知処理部、26 補正部、100 建物、101 土間床、102 換気扇、103 表示灯。